説明

電極板および集塵装置

【課題】十分高い機械的強度が得られ、表面抵抗率を自在に制御することができ、また、油が付着してもスパークをなくすと同時に高い集塵性能を得られる集塵部の電極板および集塵装置を提供する。
【解決手段】電気集塵装置の集塵部に使用する、一定間隔を開けて電極板を積層し、積層した前記電極板ごとに交互に異なる電圧を印加する電極板において、絶縁性基板の上にポリアルキレンオキシドを架橋した10の7〜12乗Ω/□オーダーの表面抵抗率を有する半導電膜を設けることにより、高強度でかつ油が付着してもスパークをなくすと同時に高い集塵性能が得られる集塵部の電極板が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気清浄の分野において空気中の粒子状浮遊物質を除去する集塵装置およびそれに用いる電極板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
空気中に存在する粒子状浮遊物質、すなわち粉塵は喘息などの疾病の原因として知られており従来から除去の対象となる物質であったが、近年の研究において粒子径2.5マイクロメートル以下の粉塵(いわゆるPM2.5)が肺ガンなどの疾病を誘起する可能性があるとの報告があり、捕集技術の更なる向上が求められている。その中で電気集塵技術を用いた集塵装置は粒子径がマイクロメートル以下の小粒径の粉塵を捕集することに優れており、また低圧損な特性を持つことから注目を集め、更なる性能向上が求められている。
【0003】
従来、この種の集塵装置として、放電によって粉塵を帯電する帯電部を上流側に設け、電極板を積層し、交互に異なる電圧を印加して電場を形成して帯電した粉塵を捕集する集塵部を下流側に設けたものが知られている。この構成を応用した集塵装置の例が特許文献1に示されている。以下、その集塵装置について図9を参照しながら説明する。図9に示すように、帯電部101は線状の帯電部放電電極102と帯電部対向電極板103とからなり、また、帯電部101の下流側には電極板A105と電極板B106とを一定の間隔を開けて交互に積層した集塵部104を設けている。通常、帯電部101においては放電電極102と対向電極板103との間で後述するコロナ放電を起こすことを目的に放電電極102に4〜15kVの正負どちらかの電圧が、また、対向電極板103に0kVの電圧が高圧電源107によって印加される。また、集塵部104においては電極板A105および電極板B106の間に電場を設けることを目的に電極板A105に2〜10kVの正負どちらかの電圧が、また、電極板B106には0kVの電圧が高圧電源107によって印加される。
【0004】
上記構成において、帯電部101では放電電極102と対向電極板103との間で不平等な電場が作られ、この時線状の形状を有する放電電極102近傍には非常に強い電場が作られる。そのため空気中に僅かに含まれる荷電粒子が加速されて空気分子と衝突を起こし、空気分子から電子が分離する。分離した電子もまた加速されて空気分子と衝突を起こし、空気分子から電子が分離する。電子との衝突によって空気分子から電子が分離する現象を電離と呼ぶ。また、電離を繰り返すことによって多数の電子が空気分子から分離する現象を電子なだれと呼ぶが、この電子なだれによって電子が分離したプラス極性の空気イオン(正イオン)や、分離した電子と空気分子とが結合してマイナス極性を有する空気イオン(負イオン)が作られる。そして放電電極102と異なる極性の空気イオンは放電電極102に電荷を吸収されて空気分子に戻り、逆に同じ極性の空気イオンは電場によって放電電極102から反発する方向の力を受け、対向電極板103の方向へと拡散移動する。このように電離や電子なだれを起こすことで放電電極102近傍の空気を空気イオンにする放電現象をコロナ放電というが、コロナ放電によって放電電極102と同じ極性の空気イオンが作られて拡散移動し、帯電部101を通過する粉塵に付着することで粉塵が帯電する。
【0005】
帯電した粉塵は送風の流れにそって集塵部104に導入される。ここで放電電極102と同極性となるように電極板A105に電圧を印加する場合、帯電した粉塵は電極板A105と電極板B106の間で作られる電場の力を受けて主に電極板106に付着して取り除かれ、清浄な空気が集塵部104の後方から吹出される。
【0006】
ここで特許文献1は、体積抵抗率が10の10〜13乗Ω・cmのオーダーとなる吸湿性樹脂からなる電極板A105で集塵部を構成することを特徴としている。すなわち電気を僅かに通す半導電性の吸湿性樹脂で電極板Aを構成することによって、電極板A105と電極板B106の間に電場を設けると同時に火花を伴う短絡(以下スパーク)を防止する集塵部104が可能になることを提示している。
【0007】
このように電極板A105を半導電性の材料で構成することで集塵しながらスパークを防止することが可能となるが、電極板を半導電性にすることに応用できる他の手段として例えば特許文献2に記載されるような方法がある。すなわち酸化亜鉛と酸化アルミニウムとの固溶体、酸化スズと酸化アンチモンとの固溶体もしくは酸化インジウムと酸化スズの固溶体のうち少なくとも一つの導電性粒子を樹脂の中に分散して含有させる方法である。例えば熱可塑性ウレタン樹脂の中に酸化スズと酸化アンチモンとの固溶体で被覆した酸化チタンを21〜25容積%含有させることによって10の6〜9乗Ω・cmオーダーの体積抵抗率を有する半導電性組成物が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3516725号公報
【特許文献2】特開平5−88510号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載される電極板は全体を吸湿性樹脂で構成しているため、十分な機械的強度を得ることが難しいという課題がある。また、電気抵抗値を低い値に制御することが難しく、電気抵抗値を下げて高い集塵性能を得ることが難しいという課題がある。
【0010】
一方、特許文献2に記載される電極板の半導電化の技術においては、導電性材料の含有率を変えることで電気抵抗値を自在に制御することが可能である。しかしながら導電性粒子どうしの接触によって導電性が発現する仕組みであるため、バインダ成分の樹脂などが油の付着などによって変質すると導電性材料どうしの距離が変化することで電気抵抗値が変化し、その結果高い集塵性能が得られなくなったりスパークが発生したりすることが起こりうるという課題がある。
【0011】
本発明はこのような従来の課題を解決するものであり、十分高い機械的強度が得られ、表面抵抗率を自在に制御することができ、また、油が付着してもスパークをなくすと同時に高い集塵性能を得ることが可能な集塵部の電極板を提供し、また、スパークをなくすと同時に高い集塵性能を得ることが可能な集塵装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の電極板は上記目的を達成するために、電気集塵装置の集塵部に使用する、一定間隔を開けて電極板を積層し、積層ごとに交互に異なる電圧を印加する電極板において、絶縁性基板の上にポリアルキレンオキシドを架橋した半導電膜を設けることを特徴とするものである。
【0013】
また、本発明の集塵装置は前記電極板を積層して積層ごとに交互に異なる電圧を印加する集塵部を備えることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の集塵部の電極板は、十分高い機械的強度が得られ、表面抵抗率を自在に制御することができ、また、油が付着してもスパークをなくすと同時に高い集塵性能を得るという効果が得られる。
【0015】
また、本発明の集塵装置は、前記電極板を用いて集塵部を構成することでスパークをなくすと同時に高い集塵性能を得るという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施の形態の電極板の断面を示す構成図
【図2】同実施例Aの電極板の半導電膜内部を示す構成図
【図3】同実施例Bの電極板の半導電膜内部を示す構成図
【図4】同実施例Cの電極板の半導電膜内部を示す構成図
【図5】同実施例Dの電極板の半導電膜内部を示す構成図
【図6】同集塵部を示す構成図
【図7】同帯電部を示す構成図
【図8】同集塵効率測定における試験装置示す構成図
【図9】特許文献1に記載された従来の集塵装置を示す構成図
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の請求項1に記載の電極板は、電気集塵装置の集塵部に使用する、一定間隔を開けて電極板を積層し、積層ごとに交互に異なる電圧を印加する電極板において、絶縁性基板の上にポリアルキレンオキシドを架橋した10の7〜12乗Ω/□オーダーの表面抵抗率を有する半導電膜を設けることを特徴とするものである。表面抵抗率とは面方向に一定の電圧を印加した際に流れる電流から求められる電気抵抗値のことである。この表面抵抗率が10の7乗Ω/□以下ではスパークが発生する確率が大幅に上昇し、また、10の13乗Ω/□以上では面に電圧を印加した際にそれだけの表面電位を得るための時間が3分以上と非常に長くかかることがわかっており、表面抵抗率を10の7〜12乗Ω/□オーダーとすることでスパークなくし、かつ高い集塵性能を得るための電場を形成することが可能となる。
【0018】
ポリアルキレンオキシドは高分子の一種で主鎖にエーテル結合を有する高分子樹脂である。例としてポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどが挙げられる。ポリアルキレンオキシドはエーテル結合を有しており、酸素原子と炭素原子とが単結合して繰り返し配列される構造となっているため、酸素原子と炭素原子との電気陰性度の違いにより分極を生じている。そのため炭素原子を挟んだ2個の酸素原子がプラスの電荷を、また、酸素原子を挟んだ2個の炭素原子がマイナスの電荷をトラップする。その時に電場が存在するとトラップされた電荷が電場に沿って移動し、わずかに電気が流れる。
【0019】
このような原理でポリアルキレンオキシドは電荷をわずかに移動させる性質、いわゆる半導電性を有する。ポリアルキレンオキシドを架橋剤で架橋させ、分子量がさらに大きな樹脂にすることで、表面抵抗率が10の7〜12乗Ω/□オーダーの表面抵抗率を有し、かつ、簡単にはがれたり溶媒に溶けたりしない強固な半導電膜を得ることができる。絶縁性を有する樹脂やセラミックからなる絶縁性基板の上にこの半導電膜を設けることで、高い機械的強度を有する電極板を形成することができる。ちなみにわずかに電気を流して電場を形成するには表面に半導電性を与えるだけでよく、電極板全体に半導電性を与える必要はないため、高強度の絶縁性基板を支持体として用い、その表面に半導電膜を設けることで電極板に高い強度を持たせながら電場を形成することが可能である。
【0020】
この半導電膜に電圧を印加するとその電圧に相当する電荷が半導電膜の表面に供給される。したがって一定の間隔を開けてこの電極板を向かい合わせ、それぞれに異なる電圧を印加すると電場が形成される。しかしながら電荷が供給された半導電膜は半導電性であるため、異なる電圧が印加された電極板どうしが接触してもスパークを起こさない。
【0021】
半導電膜を有する電極板を得るための具体的な方法は請求項2に記載するように、前記ポリアルキレンオキシドと架橋剤とを混合したインキを絶縁性基板に塗布して固化させるという方法が挙げられる。溶剤に溶かした液状のポリアルキレンオキシドと、同じく溶剤に溶かした液状の架橋剤溶剤とを混合してインキを作成し、インキが架橋反応を起こして硬化する前に絶縁性基板に塗布する。そして加熱して架橋反応を促進させるなどして硬化させて絶縁性基板の上に半導電膜を有する電極板を得ることができる。ここで架橋剤の例としてはキシリレンジイソシアネートやトリレンジイソシアネートなどのイソシアネート系のものが挙げられる。イソシアネート系の架橋剤は架橋反応にある程度時間がかかり、短時間による急激な架橋反応が起こらないものが多いためインキの使用可能時間が長くできるというメリットを有する。
【0022】
ここで、前記ポリアルキレンオキシドが常温で液状であると、溶剤に溶かして液状化する必要がないためより簡単にインキを作成することができる。常温で液状のポリアルキレンオキシドとしては平均分子量が600以下のポリエチレングリコールなどがある。
【0023】
また、前記ポリアルキレンオキシドが塩類を含むことを特徴とするものである。塩化ナトリウム、塩化リチウム、または次亜塩素酸リチウムなどの電解質となる塩類を溶解させるなどの方法でポリアルキレンオキシドに含ませることで、ポリアルキレンオキシドにナトリウムイオンやリチウムイオン、塩化物イオンや次亜塩素酸イオンなどの電解質を与える。これによってポリアルキレンオキシドの有する電荷が増え、結果として低い領域にまで表面抵抗率を制御することが可能となる。例えばポリアルキレンオキシド単体では10の10乗Ω/□オーダー以下の表面抵抗率にすることが難しいが、塩類を含ませることで10の7〜10乗Ω/□オーダーの表面抵抗率を得ることが可能となる。
【0024】
また、半導電膜の強度を向上させるためにOH基を有し、分子量が10000〜100000の樹脂を溶媒に溶かしたものを前記インキ中に含むことを特徴とするものである。600程度の比較的分子量の小さいポリアルキレンオキシドを架橋させた場合、架橋剤の量によっては分子量が十分に大きくならずに強固な膜が形成されないことがある。それを補うために混合する架橋剤の量を増やした場合、導電性の小さい架橋剤の割合が増えるため表面抵抗率が十分に下がらなくなる。OH基を有し、10000〜100000といった比較的分子量の大きい樹脂を膜中の架橋のネットワークに組み込むことで架橋を形成する一分子の規模を大きくし、より強固な膜にすることができる。OH基を有し、10000〜100000の分子量を有する樹脂としてはアクリルポリオール樹脂、塩化ビニル・酢酸ビニル共重合樹脂、ポリエステル樹脂などがある。塩化ビニル・酢酸ビニル共重合樹脂、ポリエステル樹脂は製造の際の未重合反応部分にOH基が残る。これらの樹脂とポリアルキレンオキシドとが架橋剤によって直線的に架橋する、もしくはこれらの樹脂にポリアルキレンオキシドがぶら下がるように架橋することによって架橋のネットワークを形成する樹脂と樹脂の架橋単位を大きくすることができ、膜を強固にすることができる。
【0025】
また、十分に低い表面抵抗率を得るために金属酸化物からなる導電性粒子を前記インキ中に含むことを特徴とするものである。金属酸化物からなる導電性粒子として例えば請求項7および8に記載するようにアンチモンをドープした酸化スズ(以下ATO)粒子、もしくはATO粒子を添着した酸化チタン(以下TiO)粒子がある。ATO粒子は酸化スズと酸化アンチモンの固溶体であり、単位結晶中に電子が一つ余る。この電子が結晶中を移動することで導電性を得ている。移動できる電子が単位結晶中に一つであるため、樹脂と複合させた場合に含有率を変えることでその複合物の電気抵抗の値を制御することが容易である。例えば金属やカーボン粒子などは移動可能な電子が多いため電気抵抗の値を制御することが難しく、例えばある一定の含有率以上になると導電性が急に上がってしまう。
【0026】
また、ATO粒子どうしが接触しさえすれば導電性が得られることを利用して、ATO粒子を添着したTiO粒子を用いることができる。中心粒子径20nmのATO粒子を中心径200nmのTiO粒子に添着した粒子どうしが接触することでも導電性を得ることができ、高価なATO粒子の量を減らすことができる。ここで、ATO粒子どうしがポリアルキレンオキシドを介して接触することになり、ATO粒子どうしが電気をわずかに通すポリアルキレンオキシドによって電気的に接続されることになる。したがって油が付着して樹脂が膨張したまま戻らなくなり、ATO粒子どうしの距離が大きくなることがあったとしても介在するポリアルキレンオキシドのおかげで電気抵抗が大きくならず一定の値を維持し、電場を形成しつづけることができる。
【0027】
また、前記インキをスクリーン印刷法で前記絶縁性基板に印刷することを特徴とするものである。ポリエステルの糸やステンレスの糸で編まれたメッシュ板に乳化剤を塗布して固まらせ、任意のパターン形状が描かれたフィルムを重ねて紫外線を当てる。そして紫外線が当たった形状の部分を溶解剤で溶かすことでスクリーン製板を作成する。スクリーン製板を絶縁性基板に当て、インキをスクリーン製板の上に乗せ、スキージを用いてインキを押し出すことで絶縁性基板の上にインキを印刷するという方法がスクリーン印刷法である。スクリーン印刷法を用いれば絶縁性基板にインキを均一な厚さで印刷でき、また、任意のパターン形状で高精細な印刷を行うことができる。
【0028】
また、前記絶縁性基板が樹脂材料にガラス繊維およびマイカを充填して押出し成型後に加熱プレスを施した樹脂板であることを特徴とするものである。後述するとおり、空間を開けて電極板を積層して集塵装置の集塵部を形成するため、電極板は大きく撓んだりせず、また、初めから大きな反りがないことが必要とされる。すなわち電極板自体が高い強度および平面性を有することが必要となる。樹脂材料にガラス短繊維およびマイカを充填して押出し成型した後に加熱積層プレスして結晶化することで高い強度と高い平面性を有する樹脂板が得られ、樹脂板を電極板に用いることで電極板の撓みや反りを抑制することが可能となる。
【0029】
また、本発明の請求項10に記載の集塵装置は、一定間隔を開けて請求項1乃至10いずれかに記載の前記電極板を積層し、積層ごとに交互に異なる電圧を印加する集塵部を備えることを特徴とするものである。一定間隔を開けて10の7〜12乗Ω/□オーダーの表面抵抗率を有する電極板を積層し、積層ごとに交互に異なる電圧を印加することで、電場を形成しながらスパークが起こらない集塵部を構成するいことができる。上流側の帯電部で帯電させた粉塵を下流側の集塵部に導入することで粉塵を捕集することができる。
【0030】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。ちなみにこれら実施の形態は一例を示すものであり、本発明はこれら実施の形態に限定されるものではない。
【0031】
(実施の形態)
絶縁性基板2の上に半導電膜3を設けた電極板1の断面図を図1に示す。絶縁性基板2はポリエチレンテレフタレート樹脂、ガラス繊維、マイカを混合して作成したペレットを溶融しながら押し出してシート状にしたものを加熱加圧プレスして結晶化した複合化シートであり、通常の樹脂板に比べて強度および平面性の高いものとなっている。また、構成する材料全てが絶縁性を有しているため絶縁性基板として高い絶縁性を有している。絶縁性基板2の表側および裏側の表面には半導電膜3が設けられている。この半導電膜3は図2に示すようにポリアルキレンオキシド4とキシリレンジイソシアネートなどのイソシアネート基を有する架橋剤5との架橋反応によって得ている。すなわち架橋されたポリアルキレンオキシド6の形で得ている。また、図3に示すように樹脂の架橋ネットワークを補強する平均分子量30,000のアクリルポリオール樹脂7を添加することで半導電膜3の強度を高めることができる。また、図4に示すように導電性を有するATO添着TiO粒子8を添加し混合することで表面抵抗率を自在に制御することができる。ここで、インキを作成して印刷することで、以下に示す数種類の半導電膜3を有する電極板1を作成し、表面抵抗率および水溶性油に対する溶解度を評価した。電極板1を作成するにあたり絶縁性基板2は前述の複合化シートを用いた。また、インキに用いるポリアルキレンオキシド4としては平均分子量600の液状のポリエチレングリコールを用いた。また、架橋剤溶液としてはメチロールキシリレンジイソシアネートを約70%含有する酢酸エチル溶液を用い、インキ作成の際に最後に混合した。また、半導電膜3の架橋条件は、ポリアルキレンオキシド4およびその他の添加物を添加したものに架橋剤5を混合してから30分静置した後に印刷し、100℃で20分間加熱するという方法に統一した。また、絶縁性基板2の上に半導電膜3を設ける方法としてスクリーン印刷法を用い、1インチあたり250個の孔を有するスクリーン製版を用いて絶縁性基板2の表面に半導電膜3の元となるインキを印刷した。架橋後の半導電膜3の厚さは5〜10μmであった。
【0032】
<実施例A>
ポリアルキレンオキシド4を10g、架橋剤5溶液を10g混合したインキを作成し、絶縁性基板2に印刷して架橋させた半導電膜3を得ることで電極板1を作成した。実施例Aの半導電膜3内部の構成を図2に示す。図2に示すように長い分子鎖を有するポリアルキレンオキシド4が架橋剤5によって架橋されて高分子化されており、架橋が形成する樹脂のネットワーク規模が大きくなっている。
【0033】
<実施例B>
ポリアルキレンオキシド4を10gおよび平均分子量約30,000のアクリルポリオール樹脂7を40%配合したシクロヘキサノン溶液2gを混合し、その後架橋剤5溶液10gを混合してインキを作成した。作成したインキを絶縁性基板2に印刷して架橋させた半導電膜3を得ることで電極板1を作成した。実施例Bの半導電膜3内部の構成を図3に示す。図3に示すように平均分子量600のポリアルキレンオキシド4および平均分子量約30,000のアクリルポリオール樹脂7が架橋剤5によって架橋されて高分子化されており、架橋が形成する樹脂のネットワーク規模がより大きいものとなっている。
【0034】
<実施例C>
ポリアルキレンオキシド4を10gおよびアクリルポリオール樹脂7を40%配合のシクロヘキサノン溶液2gを混合し、その後ATO添着TiO粒子8を10g混合した。その後架橋剤5溶液10gを混合してインキを作成した。作成したインキを絶縁性基板2に印刷して架橋させた半導電膜3を得ることで電極板1を作成した。実施例Cの半導電膜3内部の構成を図4に示す。図4に示すように平均分子量600のポリアルキレンオキシド4および平均分子量約30,000のアクリルポリオール樹脂7が架橋剤5によって架橋されて高分子化されており、架橋が形成する樹脂のネットワーク規模がより大きいものとなっている。その中に導電性を有するATO添着TiO粒子8が均一に分散しており、ATO添着TiO粒子8どうしの間にポリアルキレンオキシド4が存在している。
【0035】
<実施例D>
次亜塩素酸リチウムを10重量%溶解させたポリアルキレンオキシド4を10g、およびアクリルポリオール樹脂7を40%配合のシクロヘキサノン溶液2gを混合し、その後架橋剤5溶液10gを混合してインキを作成した。作成したインキを絶縁性基板2に印刷して架橋させた半導電膜3を得ることで電極板1を作成した。実施例Cの半導電膜3内部の構成を図5に示す。図5に示すように平均分子量600のポリアルキレンオキシド4および平均分子量約30,000のアクリルポリオール樹脂7が架橋剤5によって架橋されて高分子化されており、架橋が形成する樹脂のネットワーク規模がより大きいものとなっている。ポリアルキレンオキシドの中にはリチウムイオン9および次亜塩素酸イオン10が存在しており、ポリアルキレンオキシドを伝わって移動する電荷として機能している。したがってポリアルキレンオキシドの導電性が上がり、半導電膜3の表面抵抗率をさらに下げることができる。
【0036】
<比較例E>
ポリアルキレンオキシド4を10gおよび架橋剤5溶液5gを混合したインキを作成した。作成したインキを絶縁性基板2に印刷して架橋させた半導電膜3を得ることで電極板1を作成した。
【0037】
<比較例F>
アクリルポリオール樹脂7を40%配合したシクロヘキサノン溶液10gにATO添着TiO粒子8を12g添加して混合した。その後架橋剤5溶液1.8gを混合してインキを作成した。作成したインキを絶縁性基板2に印刷して架橋させた半導電膜3を得ることで電極板1を作成した。
【0038】
試作で得たそれぞれの電極板1の表面抵抗率および水溶性油塗布試験後の表面抵抗率および半導電膜3の重量変化率の結果を表1に示す。ここで表面抵抗率は25℃60%の環境における値を示した。また、水溶性油塗布試験とは、水溶性油を塗布して80℃の環境で10分間放置後に水溶性油を水で洗い流すことであり、水溶性油に対する耐久性を加速的に評価する試験となっている。また、半導電膜3の重量変化率とは「半導電膜3の重量変化/半導電膜3の元の重量」で計算される重量変化率のことある。ちなみに水溶性油は鉱物油約40%、合成エステル約30%、潤滑剤などの添加剤約10%、エーテル系界面活性剤約5%で構成される水に可溶の油で、樹脂を溶解させる性質を有する。
【0039】
【表1】

【0040】
表1からわかるように、実施例A、B、C、Dの電極板1はすべて表面抵抗率の常用対数であるLog(表面抵抗率)が7以上13未満となっており、すなわち所望の値である10の7〜12乗Ω/□オーダーの表面抵抗率を有している。また、水溶性油塗布試験後も表面抵抗率は10の7〜12乗Ω/□オーダーを保っており、また、重量も大幅に変化していない。また、実施例CおよびDの電極板では10の9乗Ω/□オーダーの表面抵抗率が得られており、ATO添着TiO粒子8および次亜塩素酸リチウムによって得られるリチウムイオン9および次亜塩素酸イオン10の添加による導電性の向上効果が確認できた。
【0041】
比較例Eの電極板1は半導電膜3が水溶性油塗布試験によって47%の重量変化を起こしており、大幅に重量が減っている。これは水溶性油によって溶解していることを示しており、架橋剤5の量が足りないと架橋によって形成される樹脂のネットワーク規模が小さいために膜が溶解することを指し示している。また、比較例Fの電極板1ではLog(表面抵抗率)=8.5であり、また水溶性油による膜の溶解は起こらない。しかしながら水溶性油塗布試験によって表面抵抗率が大きく上昇している。これは水溶性油を塗布して加熱することで水溶性油が半導電膜3中の樹脂のネットワークに入り込んで樹脂を膨張もしくは溶解させ、ATO添着TiO粒子8どうしの距離を大きくする、もしくはATO添着TiO粒子8どうしの間に隙間を作ってしまっていることを意味している。実施例Cのようにわずかに電気を流すポリアルキレンオキシド4によってATO添着TiO粒子8どうしを電気的に接続することで表面抵抗率を自在に制御すると同時に水溶性油が付着しても電場を形成し高い集塵性能を得ることが可能となることがわかった。
【0042】
次に、図6に示すように、実施例Cの電極板1を電極板A12および電極板B13として交互に積層し、電極板A12に高電圧を、電極板B13に0kVの電圧を印加する集塵部11を作成した。図6に示すような高電圧が印加される放電電極15および0kVが印加される対向電極板16からなる帯電部14を集塵部11の上流側に設置して集塵装置を形成し、この集塵装置の集塵効率を測定した。その際図8に示すように集塵装置内に通風方向17の示すように空気を流すために、集塵装置の下流側に送風機18が設けられている。また、高圧電源19によって帯電部14および集塵部11に高電圧が印加される。集塵効率は大気中に含まれる粒子径0.3μm以上の粉塵個数濃度を集塵装置の上流側および下流側で測定し、以下の式で算出した。
集塵効率=(1−出口側の粉塵個数濃度/上流側の粉塵個数濃度)×100%
集塵部11の電極板A12および電極板B13との間隔は5mm、通風方向17における集塵部11の電極板A12および電極板B13の寸法は250mm、帯電部14および集塵部11に印加した電圧は−5.2kV、その時帯電部14に流れる放電電流は150μA、開口面積に対する風速は3m/s、以上が集塵装置および集塵効率の測定それぞれに与えた条件である。以上の条件で測定した結果、90%の集塵効率を得た。また、7日間連続したが集塵部11におけるスパークは一度も発生しなかった。また、集塵部11の電極板A12および電極板B13をアルミニウム製の金属板に変えて同様の集塵装置を組み立てて試験したところ、91%の集塵効率を得たものの、数時間運転した後に集塵部11でスパークが発生した。このように本発明の電極板1を用いて作成した集塵部11を備えた集塵装置はスパークをなくすと同時に高い集塵効率を得ることができることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明にかかる電極板および集塵装置は、強度が高く、また、油が付着しても高い集塵性能を得ると同時に集塵部のスパークをなくすことを可能とするものであるので、高い集塵性能と安全性、および簡単な構造であることが同時に求められる集塵装置、例えば工場のオイルミスト集塵機や家庭用空気清浄機、または給気型換気扇などに搭載する集塵デバイスとして有用である。
【符号の説明】
【0044】
1 電極板
2 絶縁性基板
3 半導電膜
4 ポリアルキレンオキシド
5 架橋剤
6 架橋されたポリアルキレンオキシド
7 アクリルポリオール樹脂
8 ATO添着TiO粒子
9 リチウムイオン
10 次亜塩素酸イオン
11 集塵部
12 電極板A
13 電極板B
14 帯電部
15 放電電極
16 対向電極板
17 通風方向
18 送風機
19 高圧電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気集塵装置の集塵部に使用する、一定間隔を開けて電極板を積層し、積層した前記電極板ごとに交互に異なる電圧を印加する電極板において、絶縁性基板の上にポリアルキレンオキシドを架橋した10の7〜12乗Ω/□オーダーの表面抵抗率を有する半導電膜を設けることを特徴とする電極板。
【請求項2】
前記ポリアルキレンオキシドと架橋剤とを混合したインキを前記絶縁性基板に塗布して固化させることで半導電膜を得ることを特徴とする請求項1記載の電極板。
【請求項3】
前記ポリアルキレンオキシドが常温で液状であることを特徴とする請求項1または2記載の電極板。
【請求項4】
前記ポリアルキレンオキシドが塩類を含むことを特徴とする請求項1または3記載の電極板。
【請求項5】
OH基を有し、分子量が10000〜100000の樹脂を溶媒に溶かしたものを前記インキ中に含むことを特徴とする請求項1乃至4いずれかに記載の電極板。
【請求項6】
金属酸化物からなる導電性粒子を前記インキ中に含むことを特徴とする請求項1乃至5いずれかに記載の電極板。
【請求項7】
前記導電性粒子がアンチモンをドープした酸化スズであることを特徴とする請求項6記載の電極板。
【請求項8】
前記導電性粒子がアンチモンをドープした酸化スズを添着した酸化チタンであることを特徴とする請求項6記載の電極板。
【請求項9】
前記インキをスクリーン印刷法で前記絶縁性基板に印刷することを特徴とする請求項1乃至8いずれかに記載の電極板。
【請求項10】
前記絶縁性基板が樹脂材料にガラス繊維およびマイカを充填して押出し成型後に加熱プレスを施した樹脂板であることを特徴とする請求項1乃至9いずれかに記載の電極板。
【請求項11】
一定間隔を開けて請求項1乃至10いずれかに記載の前記電極板を積層し、積層ごとに交互に異なる電圧を印加する集塵部を備えることを特徴とする電気集塵装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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