説明

電極板製造装置

【課題】電極活物質の脱離を低減する。
【解決手段】本発明の電極板製造装置は、電極活物質が塗工された電極板の原板を支持可能な原板支持部と、第1の押圧部と、枠形状の抜き刃と、原板支持部に対向配置され、第1の押圧部と抜き刃とが固定された支持基板と、支持基板を原板支持部に向かって進退可能に駆動する駆動部とを有し、第1の押圧部は抜き刃の枠形状の内側であって且つ電極活物質を切断する抜き刃から所定の間隔を空けて配置され、駆動部により支持基板が原板支持部に向かって進出した際に、第1の押圧部が原板を押圧するとともに、抜き刃が原板を枠形状に沿って切断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極板製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、各種電気装置の電力源として電池セルが用いられている。繰返し充放電することが可能な電池セルである二次電池は、電力源の他に発電装置等の電力バッファとして用いられることもある。電池セルの構成例としては、正極板と負極板とがセパレータを介してそれぞれ複数積層された状態の積層型、1つの正極板と1つの負極板がセパレータを介して巻かれた状態の巻回型の2つが挙げられる。いずれの型も、電極板(正極板または負極板)には、集電体の表面に電極活物質が塗工されている。
このうち、積層型の電極板の製造方法の一例としては、特許文献1に開示されている方法が挙げられる。
【0003】
特許文献1では、集電体の表面に電極活物質を塗布して原板を形成した後に、抜き型(トムソン型)を用いて原板を型抜きすることにより略矩形の電極板を製造している。抜き型は、支持基板に帯状の抜き刃(トムソン刃)を垂直に固定し、抜き刃を覆いつつ弾性材料からなる押さえ部材を取付けたものである。略矩形の電極板を型抜きする場合には、抜き刃も同様の形状となっている。抜き型を原板に押し付けていない状態では、抜き刃が押さえ部材に埋まっており、押さえ部材の内部に抜き刃があるようには見えない。
支持台に支持されている原板に抜き型を押し付けると、押さえ部材が圧縮変形して、抜き刃が押さえ部材よりも支持基板から突出するようになる。原板が、押さえ部材の押圧力により支持台に向かって押圧されるとともに、抜き刃により切断され、この結果、電極板が形成される。
特許文献1では、抜き刃の形状が片刃であると、電極板の切断面の負荷をかけないので、バリや電極活物質のクラックが生じるおそれはほとんどないとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−100288号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の技術を用いても、電極板の周縁部で電極活物質が集電材から剥離・欠落、すなわち脱離することがある。従って、製造歩留まりが芳しくないという問題があった。
【0006】
本発明は、上述の事情に鑑み成されたものであって、電極板の型抜きの際に電極活物質の脱離を極力防止し、製造歩留まりを向上させる電極板製造装置を提供することを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明では、前記目的を達成するために以下の手段を採用している。
本発明の電極板製造装置は、電極活物質が塗工された電極板の原板を支持可能な原板支持部と、第1の押圧部と、枠形状の抜き刃と、前記原板支持部に対向配置され、前記第1の押圧部と前記抜き刃とが固定された支持基板と、前記支持基板を前記原板支持部に向かって進退可能に駆動する駆動部とを有し、前記第1の押圧部は前記抜き刃の前記枠形状の内側であって且つ前記電極活物質を切断する抜き刃から所定の間隔を空けて配置され、前記駆動部により前記支持基板が前記原板支持部に向かって進出した際に、前記第1の押圧部が前記原板を押圧するとともに、前記抜き刃が前記原板を前記枠形状に沿って切断することを特徴とする。
【0008】
第1の押圧部が、電極活物質を切断する抜き刃から所定の間隔を空けて配置されているので、当該間隔に存在する原板は第1の押圧部により押圧されていない。このため、当該間隔における原板の変形が許容される。一方、第1の押圧部が電極板となる原板部分を押圧して固定するので、抜き刃による原板の切断時に上記所定の間隔があるにもかかわらず位置ずれがなく切断、すなわち精度よく型抜きが可能となる。よって、集電体から電極活物質が脱離することが防止されるとともに、精度よく電極板を製造することが可能となる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の電極板製造装置によれば、電極板の周縁部における電極活物質の脱離を防止し、製造歩留まりを向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】電池セルの構成例を模式的に示す斜視図である。
【図2】(a)は電極板を示す平面図、(b)は(a)のA−A’線断面図である。
【図3】電池セルの製造方法を概略して示すフローチャートである。
【図4】電極板製造装置の概略構成を示す斜視図である。
【図5】駆動系を下方から、原板支持部を透かして見た斜視図である。
【図6】(a)は電極板製造装置の上面図、(b)は電極板製造装置の側面図である。
【図7】(a)は抜き型の平面図、(b)は(a)のB−B’線断面図である。
【図8】(a)〜(c)は、原板が型抜される過程を示す断面図である。
【図9】型抜工程で切断部に働く力を示す説明図である。
【図10】(a)は変形例1の抜き型を示す平面図、(b)は変形例2の抜き刃を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施形態を説明する。説明に用いる図面において、特徴的な部分を分かりやすく示すために、図面中の構造の寸法や縮尺を実際の構造に対して異ならせている場合がある。実施形態で説明する要素の全てが本発明に必須であるとは限らない。実施形態において同様の構成要素については、同じ符号を付して図示し、その詳細な説明を省略する場合がある。本発明に係る電極板製造装置の説明に先立ち、まず、電池セルの構成例および電池セルの製造方法の一例について説明する。
【0012】
図1は、電池セルの構成例を示す分解斜視図、図2(a)は電極板の一例を示す平面図、図2(b)は図2(a)のA−A’線矢視断面図である。
【0013】
図1に示すように電池セル1は、内部に電解液を貯留する電池容器10を備える。電池セル1は、例えばリチウムイオン二次電池である。本実施形態の電極製造装置は、電極板を型抜きして製造する電池セルであればいずれのものに適用できるので、電池容器の形状や材質に限定されない。また、電池の種類にも限定されず、例えば一次電池にも適用可能である。
本例の電池容器10は、アルミニウム製の中空容器であり、外形が図1中のXYZ軸に沿う略角柱状(略直方体状)である。電池容器10は、開口部を有する容器本体11と、この開口部を塞いで容器本体11に接合された蓋12とを有している。容器本体11の開口部と蓋12は、互いに密閉することができる形状になっている。
【0014】
蓋12には、電極端子13、14が設けられている。電極端子13が正極端子であり、電極端子14が負極端子である。電池容器10の内部に、複数の電極板15、16および複数のセパレータ17が収容されている。電極板15が正極板であり、電極板16が負極板である。複数の電極板15、16は、正極板と負極板とが交互に並ぶように繰り返し配置されている。なお、正極板である電極板15の電極活物質は、例えば三元系材料LiNixCoyMnzO2 (x+y+z=1)であり、負極板である電極板16の電極活物質は、例えばカーボン材料(人造黒鉛など)である。
【0015】
セパレータ17は、一対の電極板15、16に挟まれて配置されており、電極板15、16が互いに直接接触しないようになっている。セパレータ17は、多孔質の絶縁材料からなり、リチウムイオン等の電解成分を通すようになっている。実際には、複数の正極板、複数の負極板および複数のセパレータが積層されて積層体が構成されている。電池セル1は、電池容器10に前記積層体が収容された構造になっている。電解液は、電池容器10の内部で電極板15、16と接触するように貯留される。
【0016】
図2(a)にXZ平面に配置した電極板15を示す。電極板15は、母部150および電極タブ151を有している。母部150の平面形状は、例えば矩形の角部を丸めた略矩形状である。電極タブ151は、母部150の一辺を基端として母部150の外側に突出するように形成されている。電極タブ151が突出する方向は、例えば、前記基端を有する一辺(以下、タブ設置辺という)に略直交し、かつ母部150の主面に沿う方向であるZ方向である。電極タブ151は、タブ設置辺の片方に偏らせて形成されている。複数の電極板15の電極タブ151が一括して、電極端子13と電気的に接続されている。
【0017】
図2(b)に図2(a)で示した電極板15のA−A’線矢視断面図を示す。電極板15は、集電材152および電極活物質153を有している。集電体152は、例えばアルミニウムや銅などからなり、厚みが数十μm程度(例えば、20μm程度)のシート状の導体箔などである。電極活物質153は、電解液の種類に応じた形成材料からなり、集電体152の両面に塗工されている。電極活物質153の厚みは、数十μm〜数百μm程度(例えば、100μm程度)である。
【0018】
電極板15は、電極活物質153が塗工されている母部150と、電極活物質153が塗工されていない電極タブ151とを有している。電極タブ151は、後述のように、集電体152が型抜きされたものである。
【0019】
電極板16は、上述のように電極活物質の形成材料が異なり、また、母部の寸法が電極板15よりも大きく形成されるが、構造や形状については電極板15と同様である。図1に示したように電極板16の電極タブ161は、電極板15の電極タブ151と重ならないように配置されている。複数の電極板16の電極タブ161を一括して、電極端子14と電気的に接続している。
【0020】
図3は、電池セルの製造方法の一例を概略して示すフローチャートである。
電池セル1を製造するには、ステップS1で正極用と負極用のシート状の集電体の各々の両面にそれぞれの電極に対応した電極活物質を塗工する。次いでステップS2で、塗工済みの電極活物質をロールプレス等して集電体に圧着し、その後、電極活物質を乾燥させる。これにより、ステップS3で正極用と負極用の電極板の原板がそれぞれ完成となる。
【0021】
そして、ステップS4で各々の原板からそれぞれの電極板を型抜すること等により、正極および負極となる電極板を完成させる。このステップで、本実施形態の電極板製造装置を用いる。
次いで、ステップS5で、正極板と負極板とをセパレータを介して積層することにより、積層体を形成する。
さらに、ステップS6で、電池容器の内部に積層体を収容して封止する。この際、正極板を正極端子と電気的に接続し、また負極板を負極端子と接続する。そして、容器本体に蓋を溶接等により接合する。
次いで、ステップS7で、電池容器の内部に電解液を注入した後に注入孔を封止して、電池セルが得られる。
【0022】
では、これより、図4、図5及び図6を用いて、電極板の型抜きを行う電極板製造装置の実施形態につき説明する。図4は、電極板製造装置の一実施形態について概略構成を示す斜視図、図5は、駆動系を下方から、原板支持部を透かして見た分解斜視図である。図6は、電極板製造装置の上面図および側面図である。図4以降の図に記載のXYZ軸は、図1、図2に記載のXYZ軸とは関係がない。
【0023】
図4に示すように、原板支持部20の上面20aの上に樹脂性の保護シート90が配置され、この保護シート90の上に正極用または負極用の原板91が配置される。保護シート90は搬送ローラー21及び22により、また原板91は搬送ローラー23及び24により搬送される。保護シート90と原板91は同一速度且つステップ動作となるよう互いに同期して搬送される。これら搬送ローラー21乃至24の駆動は駆動部31の動作と同期するよう制御部30により制御される。
図4、図5に示すように、駆動系3は、駆動部31、駆動部31の同一面にそれぞれの一端が配置され且つ駆動部31により上下運動を行う支柱34、35と、支柱34、35の他端に接続され且つ支持基板36を保持する保持部32と、支持基板36の面のうち原板支持部20の上面20aと向き合う面に固定された抜き型33とから構成される。
抜き型33には、抜き刃37及び押圧手段39が配されている。
上記上下運動は、制御部30により制御される。
【0024】
電極板製造装置2は、概略すると以下のように動作する。
制御部30は、所定の送り幅で原板91及び保護シート90を搬送した後に搬送ローラー21乃至24を停止させる。すなわち、制御部30は搬送ローラー21乃至24を間欠動作させる。
【0025】
搬送ローラー21乃至24を停止させた後に、制御部30が駆動部31を制御し、駆動部31が保持部32を上下方向に移動させる(すなわち、進退可能に駆動する)。まず、保持部32を原板支持部20の上面20aに向かって下方に移動させることで、抜き型33が上面20aに搬送された原板91に押し当てられる。すると、抜き刃37、38が原板91を貫通して切断し、抜き刃37、38に囲まれる部分が、それぞれ電極板として原板91から型抜される。次に、保持部32を上方に移動させることで抜き型33が原板91から離れ、上方に退避する。そして、制御部30が上記間欠動作を行うように搬送ローラー21〜24を制御して、保護シート90および原板91を所定の送り幅でY方向へ送る。これにより、型抜された部分の原板91は電極板を回収する装置(図示せず)により回収され、型抜されていない部分の原板91はY方向へ送られる。電極板型抜装置2は、上記の動作を繰り返して、原板91を繰返し型抜する。
なお、保持部32を下方に移動させた際、抜き刃37、38は原板91を貫通するものの、保護シート90を貫通することはないように設計されているので、抜き刃37、38が原板支持部20に当たって刃が欠けるなどの損傷は生じない。
【0026】
図6(b)に示すように、原板91の搬送用である搬送ローラー23、24は、搬送ローラー21、22よりも下方(-Z方向)に配置されている。各搬送ローラーのこのような配置により原板91に張力を発生させ、原板91にしわが寄ることを防止できるので、適切に電極板の型抜きを行うことができる。
【0027】
図6(a)に示すように、原板91には電極活物質が塗工されている形成領域92と、電極活物質が塗工されていない非形成領域93とが設けられている。非形成領域93は、原板91の幅方向(X方向)の両端部に形成されている。
抜き型33は2つの抜き刃37、38を備え、いずれも同形状のものである。原板91の一端の非形成領域93から1つの電極板の電極タブを型抜きし、他端の非形成領域93からもう1つの電極板の電極タブを型抜きし、合計2つの電極板を同時に型抜きできるように抜き刃37、38が配置されている。具体的には、抜き刃37、38は、形成領域92のX方向の中心から搬送方向であるY方向に引いた仮想の線に対して線対称に設けられている。
【0028】
以下、抜き刃37および押圧手段39について詳しく説明する。抜き刃38と押圧手段39との関係については、抜き刃37と押圧手段39との関係と同様である。
【0029】
図7(a)は支持基板の対向面を平面視した抜き型33の平面図、図7(b)は図7(a)のB−B’線矢視断面図である。図7(a)、図7(b)に示すように、支持基板36の面であって抜き刃37と押圧手段39が配置且つ固定される配置面36aを平面視したときの抜き刃37の形状(以下、平面形状という)は、閉じた形状(枠形状)になっており、電極板の輪郭と概ね一致している。抜き刃37は片刃であり、刃先が設けられた帯状体(板状体)が、上記枠形状になるように折り曲げられたものである。刃先が配置面36aに略垂直になるように、抜き刃37が支持基板36に埋め込まれている。帯状体の板厚は、例えば0.5mm〜2.0mm程度である。
詳しくは、抜き刃37の内周面(一方の面)371は、配置面36aと略垂直(配置面36aの法線方向となす角度が略0°)になっており、内周面371の先端が刃先373になっている。抜き刃37の外周面(他方の面)372は、刃先373に向かう部分が配置面36aの法線方向から30°程度の角度をなして傾斜している。
【0030】
図7(a)、(b)に示すように、押圧手段39は、原板91を型抜するときに原板91を原板支持部20の上面20aに向けて押圧する部材である。押圧手段39は、第1の押圧部391および第2の押圧部392を有している。配置面36aを平面視したときの抜き刃37に対して、第1の押圧部391は上記枠形状の内側、すなわち内周面371の内側(一方の面側)に設けられており、第2の押圧部392は外周面372の外側(他方の面側)に設けられている。
第1の押圧部391および第2の押圧部392は、例えばゴムやスポンジ等の弾性体からなる。ここでは、第1の押圧部391および第2の押圧部392が、同じ材質からなる。押圧手段39としては、押圧面を有する部材がバネ等により原板支持部に向けて付勢されているものであってもよい。
【0031】
第1の押圧部391の表面391aおよび第2の押圧部392の表面392aが刃先373よりも突出するように、第1の押圧部391および第2の押圧部392の配置面36aの法線方向(図7(b)の−Z方向)の寸法(厚み)が設定されている。ここでは、表面391aと表面392aとがZ方向で同一の位置にある。
【0032】
第1の押圧部391は、その側面391bが上記枠形状の抜き刃の内周面371から離れるように、間隔dが設けられている。図7(a)に示すように、上記枠形状の抜き刃のいずれの内周面371からも間隔dだけ離れているので、第1の押圧部391は電極板の形状を縮小した形状と略同一となる。
もちろん、後述のようにこの間隔dは原板91に塗工された電極活物質153の脱離を防止するためのものである。従って、金属である集電体152のみで形成される電極タブ151部分はそもそも当該脱離が生じえないので、上記枠形状の抜き刃のうち電極タブ151を形成すべく集電体152を切断する抜き刃の内周面と第1の押圧部391との間には間隔を設けず、電極活物質153を切断する抜き刃の内周面371と第1の押圧部391との間にだけ間隔dを設ける構成としてもよい。
間隔dは、原板91の形成材料や板厚に応じて設定されるが、ここでは約5mmとしている。
【0033】
第2の押圧部392は、その側面392bが外周面372に当接するように、設けられている。側面392bが外周面372に当接していれば、型抜の過程において、抜き刃37の近傍で原板91を押圧することができ、原板91と抜き刃37との位置ずれを効果的に回避することができる。
【0034】
次に、図8及び図9を用いて原板91が抜き型33により型抜される過程について説明する。図8(a)〜(c)は、型抜の過程における原板および抜き刃を拡大して示す断面図、図9は型抜の過程で切断部に働く力を示す説明図である。
【0035】
原板91を型抜するには、上述のように、制御部30が支持基板36を下方に移動させ、図8(a)に示すように第1の押圧部の表面391aおよび第2の押圧部の表面392aを、原板91の表面のうち保護シート90に接している表面とは異なる表面である電極活物質153に接触させる。この段階で刃先373は、原板91の一方の表層に位置する電極活物質153に接触していない。
【0036】
制御部30が支持基板36をさらに下方に移動させると、図8(b)に示すように、第1の押圧部391および第2の押圧部392が原板支持部20に向かって押圧されて圧縮変形し、刃先373が原板91に接触する。第1の押圧部391および第2の押圧部392の押圧力により、原板91が原板支持部20に向かって押圧される。これにより、原板91と抜き刃37との相対位置が規制され、刃先373を原板91の所定の位置Pに接触させることができる。
【0037】
制御部30が支持基板36をさらに下方に移動させると、図8(c)に示すように、刃先373が原板91を貫通して原板91が切断される。抜き刃37で囲まれる内側の部分の原板91が電極板として型抜される。その後、制御部30が支持基板36を上方に移動させると、第1の押圧部391による上記型抜きされた電極板に対する押圧力および第2の押圧部392による上記型抜きされた電極板以外の他の原板91の部分に対する押圧力を作用させたまま抜き刃37が原板91等から離れるので、型抜された電極板が抜き刃37に同伴して移動することが回避される。
【0038】
ところで、抜き刃37の内側の切断部91aと、抜き刃37の外側の切断部91bは、原板91に侵入した部分の抜き刃37の板厚の分だけ、互いに離れる方向に押し広げられる。
図9に示すように、第2の押圧部392に当接している部分の原板91は、第2の押圧部392の押圧力F2で押圧されて位置が規制される。切断部91bは、抜き刃37の外側に向かう圧縮力F4を外周面372から受けて、原板91の表面に沿う方向に圧縮される。
しかしながら、切断部91bは、第2の押圧部392に当接している部分の位置が外周面372の直下、すなわち刃先373に近接した位置で規制されていることにより、原板91の表面に沿う方向で変形可能な範囲が限定される。切断部91bの歪が緩和されにくいので、切断部91bに圧縮力F4が集中的に作用する。すると、集電体152と電極活物質153とで材質が異なり機械特性が異なるので、集電体152と電極活物質153とが互いに追従して変形することができなくなり、集電体152と電極活物質153との界面(以下、単に界面という)に沿う方向にせん断力が作用する。界面のせん断力は、集電材911と電極活物質912、913とにずれを生じさせる力であるので、電極活物質153が集電体152から脱離しやすくなる。ただし、切断部91bは、抜き刃37の外側の部分であり、電極板にならない部分であるので、切断部91bに電極活物質の脱離を生じたとしても不都合を生じることはない。
【0039】
一方、電極板になる部分である切断部91aは、切断部91bと異なり、次に説明するように電極活物質153の脱離を生じにくくなっている。第1の押圧部391に当接している部分の原板91は、切断部91bと同様に第1の押圧部391の押圧力F1で押圧されて位置が規制される。また、切断部91aは、抜き刃37の内側に向かう圧縮力F3を内周面371から受けて、内周面371の法線方向に圧縮される。
切断部91aは、上記間隔dがあることにより、第1の押圧部391に押圧される部分と内周面371に接触する部分との間に、押圧されていない部分を有している。刃先373の侵入による切断面の変位が、切断部91a、91bで等しいとすると、切断部91aの方が変位可能な範囲が広いので、曲げ変形しやすい。切断部91aが内周面371と接触する部分における界面の接線Lは、切断部91aの曲げ変形(たわみ角)が大きくなるほど、内周面371の法線方向に対して傾斜する。
圧縮力F3は、接線Lに平行な分力F5と、接線Lに垂直な分力F6とに分解することができる。分力F5は、集電体152と電極活物質153とをずれさせるせん断力である。分力F6は、内周面371と接触する部分において、集電体152と電極活物質153とを互いに接近させる力である。すなわち、分力F6は、集電体152と電極活物質153とを、互いに密着させるように作用する。
【0040】
原板91の主面に沿う方向に対する接線Lの傾きが大きくなるほど、分力F5に対する分力F6の比率が大きくなる。すなわち、接線Lの傾きを大きくするほど、分力F6が大きくなる。換言すると、接線Lの傾きを所定の値以上にすることにより、分力F5に起因して密着力を減少させる効果に対し、分力F6に起因して密着力を増加させる効果を卓越させることができる。本実施形態では、このような観点で間隔dが設定されており、型抜の過程で集電体152と電極活物質153との密着性が低下することが回避されている。ここでは、間隔dは約5mmとしており、上記電極板の材料において良好な結果が得られている。
【0041】
なお、間隔dをいかなる値に設定すれば、接線Lの傾きが所望の値になるかについては、各種数値シミュレーションや、系統的な実験等により求めることができる。例えば、簡易なモデルで間隔dを評価する方法として、以下の方法がある。原板が切断されない上限のせん断力である切断強度は、原板の機械特性や抜き刃の種類により定まる。原板と同じ材質の片持ち梁に対して、自由端に前記切断強度の力を作用させたときの片持ち梁のたわみ角は、片持ち梁の長さにより定まる。原板の変形を片持ち梁の変形と同様であると仮定すると、上述の接線Lの傾きがたわみ角に対応し、間隔dが片持ち梁の長さに対応するので、間隔dと接線Lとの関係を求めることができる。
【0042】
本願発明者は、抜き刃の内周面および外周面の双方に押圧手段を当接させた比較用の抜き型(特許文献1記載の抜き型と同様)を作製し、本発明に係る電極板型抜装置2を用いる場合と電極活物質の脱離のしにくさについて比較した。その結果、電極板型抜装置2による電極板は、比較例よりも電極活物質が剥離しにくいことが確認された。また、間隔dについては、1mm以上に設定するとよく、2mm以上にすると電極活物質の脱離を防止する効果が高められるという結果が得られた。また、型抜の過程における原板と抜き刃との位置ずれを防止する観点では、間隔dを10mm以下にするとよく、5mm以下にすると位置ずれを防止する効果が高められるという結果が得られた。このように、間隔dとしては、1mm以上10mm以下にするとよく、2mm以上5mm以下にするとさらによい。
【0043】
なお、本発明の技術範囲は上述の実施形態に限定されるものではない。本発明の主旨を逸脱しない範囲内で多様な変形が可能である。例えば、本発明の電極板型抜装置は、正極板の型抜、負極板の型抜のいずれにも用いることが可能である。抜き型については、下記の変形例1、変形例2のような変形も可能である。
【0044】
図10(a)に示す変形例1の抜き型33Bは、押圧手段39Bの第2の押圧部392Bが抜き刃37の外周面372から離間して設けられている点で、上記実施形態と異なっている。このような抜き型33Bを用いても、電極板における電極活物質の脱離を防止する効果が得られる。第2の押圧部392Bを抜き刃37から離間させて設ける場合には、型抜の過程で原板と抜き刃37との位置ずれを減らす観点で、抜き刃37と第1の押圧部391との間隔よりも、抜き刃37と第2の押圧部392Bとの間隔を狭くすることが好ましい。
【0045】
図10(b)に示す変形例2の抜き刃37Cは、両刃により構成されている点で、上記実施形態と異なっている。抜き刃37Cの内周面371Cおよび外周面372Cは、いずれも、刃先373Cに向かう部分が支持基板36の主面の法線方向に対して傾斜している。このような抜き刃37Cを用いても上記間隔dを適宜設定することで電極活物質の脱離を防止する効果が得られる。
【符号の説明】
【0046】
1・・・電池セル、2・・・電極板製造装置、3・・・駆動系、10・・・電池容器、
11・・・容器本体、12・・・蓋、13、14・・・電極端子、
15、16・・・電極板、17・・・セパレータ、20・・・原板支持部、
20a・・・上面、21〜24・・・搬送ローラー、30・・・制御部、
31・・・駆動部、32・・・保持部、33、33B・・・抜き型、
34、35・・・支柱、36・・・支持基板(基板)、36a・・・配置面、
37、37C、38・・・抜き刃、39、39B・・・押圧手段、
90・・・保護シート、91・・・原板、91a、91b・・・切断部、
92・・・形成領域、93・・・非形成領域、150・・・母部、
151・・・電極タブ、152・・・集電体、153・・・電極活物質、
161・・・電極タブ、
371、371C・・・内周面(一方の面)、
372、372C・・・外周面(他方の面)、373、373C・・・刃先、
391・・・第1の押圧部(押圧手段)、391a・・・第1の押圧部の表面、
391b・・・第1の押圧部の側面、392、392B・・・第2の押圧部(押圧手段)、392a・・・第2の押圧部の表面、392b・・・第2の押圧部の側面、
911・・・集電体、912、913・・・電極活物質、d・・・間隔、
F1、F2・・・押圧力、F3、F4・・・圧縮力、F5、F6・・・分力、
L・・・接線、P・・・所定の位置、S1〜S7・・・ステップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極活物質が塗工された電極板の原板を支持可能な原板支持部と、
第1の押圧部と、
枠形状の抜き刃と、
前記原板支持部に対向配置され、前記第1の押圧部と前記抜き刃とが固定された支持基板と、
前記支持基板を前記原板支持部に向かって進退可能に駆動する駆動部とを有し、
前記第1の押圧部は前記抜き刃の前記枠形状の内側であって且つ前記電極活物質を切断する抜き刃から所定の間隔を空けて配置され、
前記駆動部により前記支持基板が前記原板支持部に向かって進出した際に、前記第1の押圧部が前記原板を押圧するとともに、前記抜き刃が前記原板を前記枠形状に沿って切断することを特徴とする電極板製造装置。
【請求項2】
前記支持基板に固定されるとともに、前記枠形状の外側に配置される第2の押圧部をさらに有し、
前記駆動部により前記支持基板が前記原板支持部に向かって進出した際に、前記第1の押圧部とともに前記第2の押圧部が前記原板を押圧することを特徴とする請求項1に記載の電極板製造装置。
【請求項3】
制御部と、
前記原板支持部を介して前記原板を搬送する搬送ローラーとをさらに有し、
前記制御部は前記搬送ローラーを間欠動作させ、前記搬送ローラーを停止させた際に前記切断が行われることを特徴とする請求項2に記載の電極板製造装置。
【請求項4】
前記抜き刃は片刃のトムソン刃であることを特徴とする請求項1、請求項2または請求項3に記載の電極板製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−204614(P2011−204614A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−73170(P2010−73170)
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】