説明

電極組立体とその製法及びそれを使用する放電管

【課題】放電ガスの漏洩を抑制し且つ高融点金属を含む金属焼結体の電極と高融点金属の導入線とを高い機械的強度で溶着する。
【解決手段】金属焼結体により構成される電極(1)と、電極(1)の底部(1a)に接合される導入線(2)と、電極(1)と導入線(2)との接合部の周囲に設けられて電極(1)と導入線(2)とを接合する隅肉部(3)とを電極組立体(4)に備える。電極(1)は、金属焼結体の基材中に分散する高融点のタングステン粒子(W)と、タングステン粒子(W)の担持材としてタングステン粒子(W)に密着し且つタングステン粒子(W)より低融点のニッケル(Ni)とを含む。導入線(2)は、タングステン粒子(W)と同一の金属から成る。隅肉部(3)は、電極(1)内のニッケル(Ni)と同一の金属から成る基材中に電極(1)のタングステン粒子(W)と同一の金属から成るタングステン粒子(W)を分散した金属組織構造を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼結電極の底部に導入線を溶接した電極組立体及びその製法並びにその電極組立体を有する放電管に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、冷陰極蛍光放電管(CCFL)等の放電管では、点灯中の放電により電極が発熱する。電極と一体化された導入線に密着するガラス管の発熱による熱衝撃に対して放電管の耐久性を強化するためには、ガラス管の線膨張率(線膨張係数)を小さくしなければならず、導入線を線膨張率の小さい金属で構成する必要がある。また、放電管内でスパッタリングが生ずると、電極と導入線との電極組立体を構成する金属の劣化現象又はガラス管の黒化現象が発生して、放電管の発光輝度が低下する問題が生ずるため、放電管内でスパッタリングを生じ難い金属で電極組立体を形成することが望ましい。このため、耐スパッタ性、線膨張率、化学的安定性及び製造価格を考慮して、例えばタングステン(W)又はモリブデン(Mo)で構成される電極組立体とすることが望ましい。しかしながら、高融点金属であるタングステン(W)又はモリブデン(Mo)から成る電極及び導入線を電極の底面で溶接にて接合して電極組立体を構成することは極めて困難である。そこで、例えば下記特許文献1には、タングステン(W)又はモリブデン(Mo)等の高融点金属で共に形成された電極と導入線との間にニッケル(Ni)等の低融点金属を挟み、電極の底面で溶接にて接合する電極組立体が開示されている。
【0003】
この電極組立体では、カップ形状に形成する電極により、ホロー効果を発生させて電極での電圧降下を抑制できるが、絞り加工が困難なタングステン(W)及びモリブデン(Mo)を容易にはカップ形状に形成できない難点があった。このため、例えば下記特許文献2には、ニッケル(Ni)又は電子放出部材を含むタングステン(W)又はモリブデン(Mo)等の高融点金属をサブミクロンサイズの粉粒体とし、その粉粒体を分散担持する熱可塑性を有する二液性バインダ樹脂に混合して加熱溶融混練し、混練物を金型に注入して電極と導入線基部とを一体形状に成形した後、二液性バインダ樹脂を脱脂して連通孔を有する多孔質構造とし、更にそれを焼結させて電極と導入線基部とを一体化した電極が開示されている。また、特許文献2は、導入線基部に溶接される導入線先端部として、低融点金属であるニッケル(Ni)製の導入線を示す。
【0004】
【特許文献1】特開2005−327559公報
【特許文献2】特開2005−71972公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2の電極を形成する際に、ニッケル(Ni)又は電子放出部材を含み且つタングステン(W)又はモリブデン(Mo)等の高融点金属を主材とする粉粒体をカップ状電極部と導入線基部との一体形状に焼結し、ガラス管の封止時に、ガラスビーズが導入線基部の周囲を包囲して導入線基部に溶着するが、導入線基部の表面粗さを平滑化できないため、導入線基部とガラスビーズとを十分な接着強度で密着できず、導入線基部とガラスビーズとの間に連通孔を生ずる。導入線基部とガラスビーズとの間に連通孔が生ずると、ガラス管内に気密が良好な閉鎖空間を形成することができず、ガラス管内に充填された放電用ガスが連通孔を介して放電管の外部に流出したり、放電管の外部の大気が連通孔を介して放電管の閉鎖空間内に流入する欠点があった。
【0006】
そこで、本発明は、放電管内の放電ガスの流出や放電管外部の大気の流入を抑制でき、且つ高融点金属を含む金属焼結体により構成される電極と高融点金属により構成される導入線とを高い機械的強度で溶着できる電極組立体とその製法を提供することを目的とする。また、本発明は、熱衝撃に強く且つ電極組立体の電極の劣化又はバルブ(12)の黒化現象による発光輝度の低下を抑制できると共に、放電ガスの流出や外気の流入による寿命低下を抑制できる放電管を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による電極組立体(4)は、低融点の第1の金属から成る第1の基材と、第1の基材に密着する高融点の第2の金属から成る多数の硬質粒子とを含む金属焼結体で構成される電極(1)と、電極(1)に接合される端面(2b)を形成する端部(2a)を有し且つ高融点の第3の金属から成る導入線(2)と、導入線(2)の端部(2a)の端面(2b)の周囲で端部(2a)の外周部(2c)と電極(1)とを環状に接合する隅肉部(3)とを備えている。電極(1)内の第1の金属は、硬質粒子に密着し且つ第2の金属より低い硬度を有し、隅肉部(3)は、第2の金属より融点の低い第4の金属から成る第2の基材と、第1の基材から拡散されて第2の基材の少なくとも一部内に保持される硬質粒子とを含む。電極(1)は、高融点の硬質粒子を含み、電極(1)内の第1の金属は、硬質粒子に密着するので、電極(2)の耐スパッタ性が向上し、電極組立体(4)の動作寿命を延長することができる。また、低融点の第1の金属により電極(1)を所望の形状に形成することができる。更に、導入線(2)の端部(2a)の端面(2b)を電極(1)に接合する上、隅肉部(3)により電極(1)と導入線(2)との接合部を拡張し、電極(1)と導入線(2)との接着面積を増大して密着性を向上するため、電極(1)と導入線(2)とを高い機械的強度で溶着することができる。隅肉部(3)は、硬質粒子の第2の金属より融点の低い第2の基材の少なくとも一部内に硬質粒子が保持されるので、電極(1)と隅肉部(3)との界面での熱衝撃又は振動衝撃を緩和し、電極(1)と導入線(2)とを高い機械的強度で溶接した電極組立体(4)を得ることができる。また、更に、導入線(2)は高融点の金属から成り且つ平滑な表面を有するため、ガラスビーズを導入線(2)の基部の周囲に溶着してガラス管(バルブ)を封止する際に、導入線(2)の基部とガラスビーズとが十分な接着強度で密着する。このため、導入線(2)の基部とガラスビーズとの間に生ずる連通孔を抑制して、放電ガスの流出や外気の流入を抑制することができる。
【0008】
本発明による電極組立体(4)の製法は、低融点の粉末状の第1の金属と第1の金属より高融点の第2の金属から成る硬質粒子とを混合して、粉末混合体を形成する工程と、粉末混合体をカップ状に焼結して、第1の金属から成る第1の基材に密着する多数の硬質粒子を有する金属焼結体の電極(1)を形成する工程と、第1の金属の融点以上の温度にて、高融点の第3の金属から成る導入線(2)の一端(2a)を電極(1)に溶接する工程とを含む。溶接工程により、第2の金属より低融点の第4の金属から成る第2の基材から成る隅肉部(3)を電極(1)と導入線(2)との接合部の周囲に形成すると共に、電極(1)に含まれる硬質粒子を第2の基材中に拡散する工程とを含む。本製法では、ガラスビーズを導入線(2)の基部の周囲に溶着してガラス管(バルブ)を封止する際に、平滑な表面を有する高融点の金属から成る導入線(2)の基部とガラスビーズとを十分な接着強度で密着できるため、導入線(2)の基部とガラスビーズとの間に生ずる連通孔を抑制して、放電ガスの流出や外気の流入を抑制することができる。更に、高融点の第2の金属から成る硬質粒子及び第2の金属から成る硬質粒子より低融点の粉末状の第1の金属を混合してカップ状に焼結した電極(1)と、第2の金属から成る硬質粒子と同一又は異なる高融点の金属から成る導入線(2)とを溶接する際に、電極(1)と導入線(2)との接合部に第1の金属の融点以上の温度となる熱エネルギを付与して加熱すると、熱エネルギを付与された電極(1)の第1の金属は溶融し、電極(1)の第2の金属から成る硬質粒子を担持できなくなる。その結果、比較的低融点の金属から成る隅肉部(3)の基材中に電極(1)の第2の金属から成る硬質粒子が拡散するため、電極(1)と隅肉部(3)との界面での熱衝撃又は振動衝撃を緩和して、信頼性の高い電極組立体(4)を得ることができる。また、電極(1)と導入線(2)との接合部の周囲に隅肉部(3)を形成し、隅肉部(3)が電極(1)と導入線(2)との接合部を拡張して接着面積を増大させるため、電極(1)と導入線(2)とを高い機械的強度で溶着することができる。
【0009】
本発明による電極組立体(4)を使用する放電管(11)は、電極組立体(4)の電極(1)をバルブ(12)の閉鎖空間(13)内に配置し、且つ電極(1)に接合される導入線(2)の埋設部(2d)をバルブ(12)の各端部(12a)に融着し、且つ埋設部(2d)に隣接する導出部(2e)をバルブ(12)の外部に導出させて、閉鎖空間(13)を形成するバルブ(12)の各端部に電極組立体(4)を固定する。耐スパッタ性の高い高融点の第2の金属から成る硬質粒子を含む電極組立体(4)を使用するので、電極組立体(4)の電極(1)の劣化又はバルブ(12)の黒化現象による発光輝度の低下を抑制できる放電管(11)を得ることができる。また、導入線(2)の埋設部(2d)をバルブ(12)の各端部(12a)に融着する際に、導入線(2)の埋設部(2d)とバルブ(12)の各端部(12a)とを十分な接着強度で密着できるため、導入線(2)の埋設部(2d)とバルブ(12)の各端部(12a)との間に連通孔が生じて発生する放電ガスの流出や外気の流入を抑制して、放電管(11)の寿命低下を抑制することができる。更に、電極組立体(4)の隅肉部(3)は、第2の金属から成る硬質粒子よりも低融点の金属から成る基材中に電極(1)の第2の金属から成る硬質粒子を含むため、電極(1)と隅肉部(3)との界面での熱衝撃又は振動衝撃が緩和される。これにより、点灯中の電極組立体(4)の発熱による熱衝撃や振動衝撃に強い放電管(11)を得ることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ガラスビーズを導入線の基部の周囲に溶着してガラス管(バルブ)を封止する際に、導入線の基部とガラスビーズとの間に連通孔を発生させずに、導入線の基部にガラスビーズを十分な接着強度で固着でき且つ密着して、ガラス管内部からの放電ガスの流出やガラス管外部からの大気の流入を阻止することができる。また、電極と導入線との接合部の周囲に形成した隅肉部により、電極と導入線との接着面積を増大して、高い機械的強度で電極と導入線とを溶着することができる。更に、電極の第2の金属から成る硬質粒子が隅肉部内に拡散して、均質化するので、電極と隅肉部との界面での熱衝撃や振動衝撃を緩和して、使用寿命を延長し且つ信頼性の高い電極組立体を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明による電極組立体とその製法の実施の形態を図1〜図7について説明する。また、本発明による電極組立体を使用する放電管の実施の形態を図8について説明する。
【0012】
本実施の形態の電極組立体(4)は、図2に示すように、金属焼結体により構成され且つU字断面形状を有するカップ状の電極(1)と、電極(1)の底部(1a)に一方の端部(2a)の端面(2b)が接合される導入線(2)と、電極(1)と導入線(2)との接合部の周囲に設けられて電極(1)と導入線(2)の端部(2a)の外周部(2c)とを環状に接合する隅肉部(3)とを備える。図5に示すように、カップ形状の電極(1)は、金属焼結体の基材(マトリックス)中に分散される高融点(融点:約3400℃)で線膨張係数が2.6×10-6/℃と比較的小さい第2の金属から成る硬質粒子としてのタングステン粒子(W)と、タングステン粒子(W)の担持材(バインダ)としてタングステン粒子(W)に密着し、タングステン粒子(W)より低融点で線膨張係数が大きい第1の金属としてのニッケル(Ni)とを含む。因みに、ニッケル(Ni)の線膨張係数は6.6×10-6/℃であり、融点は1450℃である。導入線(2)は、電極(1)内のタングステン粒子(W)と同一成分、即ち第3の金属として高融点のタングステン(W)から成る。導入線(2)のタングステン(W)の純度は、99重量%又はこれ以上である。
【0013】
本実施の形態の電極組立体(4)では、電極(1)と導入線(2)とを溶接する際に形成される隅肉部(3)は、電極(1)及び導入線(2)との接合性及び密着性に優れ、且つ隅肉部(3)の断面は、導入線(2)の他方の端部側から一方の端部(電極(1)との接合部側)へと拡径するテーパ状に形成される。隅肉部(3)の基材中に含まれる第4の金属としてのニッケル(Ni)は、金属焼結体の基材中に分散するニッケル(Ni)及びタングステン粒子(W)、導入線(2)を構成するタングステン(W)の何れとも濡れ性、親和性又は相互拡散性に優れる。また、隅肉部(3)は、電極(1)と導入線(2)との接合面積を増大するので、電極(1)と導入線(2)とを高い機械的強度で溶着することができる。また、隅肉部(3)の基材中には、電極(1)中のタングステン粒子(W)、更にニッケル(Ni)と同一の金属が分散するので、電極(1)と隅肉部(3)との界面での熱衝撃又は振動衝撃に強い電極組立体(4)を得ることができる。つまり、使用寿命が長く且つ信頼性の高い電極組立体(4)を得ることができる。更に、電極(1)に含まれる低融点のニッケル(Ni)により結合される高融点のタングステン粒子(W)は高い耐スパッタ性を電極(1)に付与し、ニッケル(Ni)は、タングステン粒子(W)間を強固且つ密接に接合するので、使用寿命が長く且つ信頼性の高い電極(1)を得ることができる。なお、本実施の形態の電極組立体(4)を得る際に、図1に示すように、電極(1)と導入線(2)との間に接合材(5)として低融点金属(例えばニッケル(Ni))を介在させて溶接した場合は、接合材(5)の低融点金属を含む基材中に電極(1)中のニッケル(Ni)及びタングステン粒子(W)の一部が拡散した金属組織構造を有する隅肉部(3)となる。
【0014】
図2に示す電極組立体(4)を製造する際に、まず、高融点で線膨張係数が比較的小さく且つ0.2〜数μm程度の平均粒径を有するサブミクロン又はミクロンサイズのタングステン粒子(W)と、タングステン(W)より低融点で線膨張係数の大きい金属である粉末状のニッケル(Ni)とを複数の結着樹脂に配合して混練し、タングステン粒子(W)及び粉末状のニッケル(Ni)の混合物を結着樹脂内に十分に分散させる。一方、射出成形装置の樹脂成形部に搭載された成形金型内には、カップ形状のキャビティ(空所)を1個又は複数個形成し、加熱シリンダにて計量されたタングステン粒子(W)及びニッケル(Ni)粒子を含み、前記の工程で結着樹脂に配合して混練された混練物が成形金型のキャビティ内に充填される。成形金型のキャビティ内に充填された混練物を冷却及び固化させて、カップ形状の電極の成形体(グリーン体)が形成される。その後、成形金型からカップ形状の電極の成形体を取り出して、少なくとも1つの結着樹脂の脱脂を行うと、残留する結着樹脂及び当該樹脂に担持されたタングステン粒子(W)及びニッケル(Ni)粒子を含む成形体は、溶出した結着樹脂の一方の抜けた跡が全体的に微細な連通孔として残留して多孔質構造に形成される。多孔質の成形体は、焼結工程で発生する収縮量を見込んで最終的な形状よりも大きい。
【0015】
次に、多孔質の成形体を加圧焼結炉に投入し、成形体に残留する結着樹脂を更に脱脂させる。成形体に残留する結着樹脂を更に脱脂する際に、加圧焼結炉内の温度を成形体に含まれるニッケル(Ni)の融点:1455℃以上で且つ成形体に含まれるタングステン粒子(W)の再結晶温度1150〜1350℃(例えば1300℃)以上であって、成形体に含まれるタングステン粒子(W)の融点3422℃以下の温度、例えば1500℃で加熱して、ニッケル(Ni)を溶解させ、更にタングステン粒子(W)を再結晶化によって棒状に成長させ、加圧しながらタングステン粒子(W)間をニッケル(Ni)により焼結し密着させることにより、図1に示すカップ形状を有する電極(1)が形成される。本実施の形態では、融点より低い温度でタングステン粒子(W)を稠密一体化させて電極を焼結するので、得られる電極(1)を「焼結電極」という。実際には、焼結炉内の成形体を加圧下で加熱できるヒップ炉を使用して焼結することが好ましい。焼結電極(1)は、図5に示すように、タングステン粒子(W)間の微細な間隙がニッケル(Ni)により緊密に閉塞される。焼結電極(1)内でのニッケル(Ni)の作用は、スローリーク防止の他、他の金属との濡れ性及び拡散性が良好で、タングステン(W)単体に比べて、ニッケル(Ni)の存在により異なる金属との溶接が容易になる利点がある。焼結が完了すると、所望の寸法(例えば、外径が2mm程度)のカップ形状の焼結電極(1)が得られる。焼結電極(1)に含まれるニッケル(Ni)の割合は、重量百分率で0.5〜10.0%、更に好ましくは0.5〜5.0%、残部はタングステン(W)であることが望ましい。
【0016】
次に、図1に示すように、カップ形状の電極(1)に含まれるタングステン粒子(W)の融点より低い融点を有するニッケル(Ni)から成り、外径が1.7mmで厚さが0.05mmの接合材(5)をタングステン(W)粉末を粉末冶金し研磨して成る外径が0.8mmの導入線(2)の一端(2a)と電極(1)の底部(1a)との間に配置する。その後、例えば、図6に示すように、導入線(2)の埋設部(2d)にガラスビーズ(14)を挿入し、埋設部(2d)に隣接する導出部(2e)に溶接用電源(21)の陰極に接続された固定電極(22)を接続し、電極(1)の筒部(1b)内に溶接用電源(21)の陽極に接続された可動電極(23)を挿入して、導入線(2)側に可動電極(23)を加圧しながら可動電極(23)の先端部(23a)を電極(1)のカップ内壁の底部(1a)に当接させ、電極(1)の底部(1a)、接合材(5)及び導入線(2)に1200アンペア以上の溶接電流を4ミリ秒の期間流して抵抗溶接を行い、カップ形状の電極(1)の底部(1a)に導入線(2)を固着する。別法として、図7に示すように、高出力レーザ装置(31)の集光レンズ(32)から出力される1キロワットのレーザ光(33)を電極(1)のカップ内壁の底部(1a)に34ミリ秒の期間照射し、0.7秒後更に1キロワットのレーザ光(33)を34ミリ秒の期間電極(1)のカップ内壁の底部(1a)に照射してレーザ溶接を行い、カップ形状の電極(1)の底部(1a)に導入線(2)を固着する。溶接電流又はレーザ光出力等の諸条件は、電極(1)の底部(1a)の厚さや金属の状態により適宜決定される。また、電極(1)の底部(1a)の導入線(2)との接合面の溶接温度は、接合材(5)を構成するニッケル(Ni)の融点以上且つ電極(1)に含まれるニッケル(Ni)の溶融温度以上で、且つ導入線(2)を構成するタングステン(W)の融点以下に設定される。従って、電極(1)と導入線(2)との間に介在するタングステン粒子(W)の大半は合金化しないが、一部合金化することもある。このように、大きな溶接電流を流すか又は高出力のレーザ光や電子を照射して、電極(1)と導入線(2)との接合部を含む領域のみに熱エネルギを付与すると、加熱された電極(1)の領域では、電極(1)を構成する金属焼結体の基材中に分散する高融点のタングステン粒子(W)間に挟まれた低融点のニッケル(Ni)が溶融する。その結果、金属焼結体の基材中に分散するタングステン粒子(W)間の結合が緩くなり、溶融したニッケル(Ni)はタングステン粒子(W)間の担持材として機能しなくなる。
【0017】
このとき、電極(1)と導入線(2)とに互いに押圧力が加わって、接合材(5)を押し潰す力により、溶融した接合材(5)中のニッケル(Ni)が電極(1)内に侵入し、逆に電極(1)に含まれる担持されないタングステン粒子(W)は、溶融した接合材(5)中のニッケル(Ni)内又は電極(1)中の溶融したニッケル(Ni)内の何れか一方又は双方に拡散して、拡散した一部が電極(1)の外側に溢れ出る。電極(1)の外側に溢れ出たニッケル(Ni)内に分散するタングステン粒子(W)の一部は、導入線(2)を這い上がるか又は電極(1)の底部(1a)から導入線(2)の外側面に亘って包囲する領域を埋めるように電極(1)と導入線(2)とを接合する。その結果、図2に示すように、比較的低融点の金属であるニッケル(Ni)から成る基材中に、電極(1)のタングステン粒子(W)の一部が分散する金属組織構造を有するテーパ状の隅肉部(3)が導入線(2)の一端(2a)側の周囲に形成される。即ち、隅肉部(3)は、電極(1)に含まれるニッケル(Ni)と同一の金属から成る基材中に、電極(1)中のタングステン粒子(W)を分散させた金属組織構造を有し、電極(1)と導入線(2)との接着面積を増大しながら、電極(1)と導入線(2)との接合部の周囲に形成されて、電極(1)と導入線(2)の一端(2a)とを接合する。このように、ニッケル(Ni)を含むタングステン粒子(W)の焼結体から成る電極(1)と高融点の硬質金属であるタングステン製の導入線(2)とが強固且つ密接に接合された電極組立体(4)が得られる。
【0018】
本実施の形態の電極組立体(4)を製造する際に、タングステン粒子(W)と粉末状のニッケル(Ni)に樹脂製接着剤を構成する結着樹脂を配合して作成した流動性の混合物を成形金型のキャビティ内に充填して、カップ形状の成形体を射出成形により容易に成形しても良い。また、電極(1)と導入線(2)とを溶接する際に、電極(1)に接合材(5)と導入線(2)との接触部に熱エネルギを付与して加熱すると、電極(1)内のニッケル(Ni)に接合材(5)中のニッケル(Ni)が溶融し且つ混じり合って、その混合物の一部が電極(1)の外側に流出して、導入線(2)から盛り上がる隅肉部(3)が形成され、隅肉部(3)のニッケル(Ni)により、電極(1)と導入線(2)とを容易且つ強固に接合することができる。このとき、電極(1)内のタングステン粒子(W)のうち、粒子間のニッケル(Ni)の溶融により結合が緩くなったタングステン粒子(W)が上記の混合物と共に隅肉部(3)内に拡散して、タングステン粒子(W)の電極(1)から溶接部に亘る線膨張率の差を特許文献1に示す高融点金属から成る電極と導入線との間に低融点金属を挟む場合に比較して緩和して、信頼性の高い電極組立体(4)を得ることができる。
【0019】
電極組立体(4)を製造する際に、図1の接合材(5)を電極(1)の底部(1a)と導入線(2)の一端(2a)との間に配置せず、図3に示すように、タングステン粒子(W)及びニッケル(Ni)を含む焼結体により構成されるカップ形状の電極(1)の底部(1a)とタングステン製の導入線(2)の一端(2a)とを直接突き合わせて電極(1)と導入線(2)を溶接して、図4に示す電極組立体(4)を形成してもよい。この場合、接合材(5)を設けないため、図4に示すように、隅肉部(3)の体積が小さくなるので、図2に示す場合と比較して接合面積は小さくなる。
【0020】
別法として、電極組立体(4)を製造する際に、結着樹脂を使用せずに、タングステン粒子(W)と粉末状のニッケル(Ni)とを混合して粉末混合体を形成し、タングステン粒子(W)及びニッケル(Ni)粉末の粉末混合物を加圧焼結炉内に装入して加圧して圧密化しながら、600℃以上、例えば700℃程度の温度に加熱してカップ状に焼結して電極(1)を形成してもよい。この場合、タングステン粒子(W)及びニッケル(Ni)粒子と結着樹脂とを混練する工程と、成形体から結着樹脂を除去する工程とを省略でき、短時間で焼結電極(1)を形成できる。
【0021】
上記の実施の形態では、電極(1)と導入線(2)とを溶接する際に、電極(1)の底部(1a)の導入線(2)と接触する領域の近傍のニッケル(Ni)が溶融して、同一領域内のタングステン粒子(W)間の結合が緩くなる。この結果、粒子間の結合が緩くなったタングステン粒子(W)が、接合材(5)中のニッケル(Ni)又は電極(1)中の溶融したニッケル(Ni)の何れか一方又は双方と共に、電極(1)の外側に流れ出すので、電極(1)の底部(1a)の導入線(2)と接触する領域の近傍のタングステン粒子(W)の密度が電極(1)の他の領域に比較して若干低下するか又はタングステン粒子(W)が若干減少するため、電極(1)の底部(1a)の導入線(2)及び隅肉部(3)に接合する部分の厚さが底部(1a)の他の部分より若干薄くなる。そこで、溶接前の電極(1)の底部(1a)の導入線(2)及び隅肉部(3)に接合する部分の厚さを底部(1a)の他の部分の厚さよりも厚くしてもよい。また、タングステン粒子(W)を含むニッケル(Ni)製の接合材(5)等の線膨張係数の大きい金属粒子を含む低融点金属を電極(1)と導入線(2)との間に介在させてもよい。また、電極(1)及び接合材(5)に含まれる低融点金属は、互いに異なる金属材料を使用してもよい。また、電極(1)の高融点金属粒子(第2の金属から成る硬質粒子)及び導入線(2)を構成する高融点金属は、互いに異なる金属材料を使用してもよい。また、電極(1)に含まれる高融点の硬質金属粒子及び導入線(2)を構成する高融点金属として融点が2000℃以上の金属、更に望ましくは、融点が2000℃以上で且つ線膨張係数の小さい金属として例えばタングステン(W)やモリブデン(Mo)を利用できる。また、電極(1)に含まれる粒子間金属及び接合材(5)を構成する低融点金属としては、融点が2000℃以下の金属、例えば鉄(Fe)、白金(Pt)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、又はこれらの金属の少なくとも1つを含む合金等から選択すればよい。因みに、モリブデン(Mo)の融点は2620℃であり、線膨張係数は3.7×10-6/℃である。また、鉄(Fe)の融点は1540℃で線膨張係数は5.6×10-6/℃であり、白金(Pt)の融点は1770℃で線膨張係数は6.6×10-6/℃であり、コバルト(Co)の融点は1490℃で線膨張係数は6.8×10-6/℃である。また、電極(1)内にスカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ニオブ(Nb)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、ガドリニウム(Gd)又はトリウム(Th)等の化合物から成る電子放出性材料を含んでもよい。また、電極(1)は複雑な形状でもよいが、ホロー効果により電極(1)での電圧降下を低減できるカップ形状が好ましい。
【0022】
図1〜図5に示す電極組立体(4)は、例えば図8に示す冷陰極蛍光放電管(CCFL)等の放電管(11)に適用することができる。本実施の形態の放電管(11)は、図8に示すように、放電用ガスを収容する閉鎖空間(13)を形成するガラス製のバルブ(12)と、バルブ(12)の内壁面に被着された図示しない蛍光膜とを備え、図1〜図5に示す電極組立体(4)の電極(1)をバルブ(12)の閉鎖空間(13)内に配置し且つガラスビーズ(14)を介して電極(1)に接合される導入線(2)の埋設部(2d)をバルブ(12)の各端部(12a)に融着し且つ埋設部(2d)に隣接する導出部(2e)をバルブ(12)の外部に導出させて、バルブ(12)の各端部(12a)の各々に電極組立体(4)を固定し、一対の電極組立体(4)間に電圧を印加することにより、電極(1)間で放電させて閉鎖空間(13)内に充填した放電用ガスを介して発光させる。
【0023】
本実施の形態の放電管(11)では、線膨張係数の小さいタングステン粒子(W)を含む電極組立体(4)を使用するので、電極組立体(4)の電極(1)の劣化又はバルブ(12)の黒化現象による発光輝度の低下を抑制できる。また、導入線(2)の埋設部(2d)をバルブ(12)の各端部(12a)に融着する際に、導入線(2)の埋設部(2d)とバルブ(12)の各端部(12a)とを十分な接着強度で密着できるので、導入線(2)の埋設部(2d)とバルブ(12)の各端部(12a)との間に連通孔が生じて発生するバルブ(12)内の放電ガスの流出やバルブ(12)外部の大気の流入を抑制して、放電管(11)の寿命低下を抑制することができる。更に、電極組立体(4)の隅肉部(3)は、タングステン粒子(W)よりも低融点の金属であるニッケル(Ni)から成る基材中に電極(1)のタングステン粒子(W)の一部を含むので、電極(1)と隅肉部(3)との界面での熱衝撃が緩和され、高い機械的強度で溶接される。これにより、点灯中の電極組立体(4)の発熱による熱衝撃や振動衝撃に強い放電管(11)を得ることが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明は、硬質粒子と粒子間金属を含む焼結体により構成される電極の製造及びその電極を使用する放電管に良好に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明による電極組立体の構成の一実施の形態を示す断面図
【図2】図1の構成で溶接した後の電極組立体を示す断面図
【図3】本発明による電極組立体の構成の他の実施の形態を示す断面図
【図4】図3の構成で溶接した後の電極組立体を示す断面図
【図5】焼結電極の微細構造を示す断面図
【図6】図1に示す電極組立体を抵抗溶接する際の構成図
【図7】図1に示す電極組立体をレーザ溶接する際の構成図
【図8】本発明による電極組立体を使用した放電管の断面図
【符号の説明】
【0026】
(1)・・電極、 (1a)・・底部、 (1b)・・筒部、 (2)・・導入線、 (2a)・・端部、 (2b)・・端面、 (2c)・・外周部、 (2d)・・埋設部、 (2e)・・導出部、 (3)・・隅肉部、 (4)・・電極組立体、 (5)・・接合材、 (11)・・放電管、 (12)・・バルブ、 (13)・・閉鎖空間、 (14)・・ガラスビーズ、 (21)・・溶接用電源、 (22)・・固定電極、 (23)・・可動電極、 (23a)・・先端部、 (31)・・高出力レーザ装置、 (32)・・集光レンズ、 (33)・・レーザ光、 (W)・・タングステン粒子(第2の金属から成る硬質粒子)、 (Ni)・・ニッケル(第1の金属)、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
低融点の第1の金属から成る第1の基材と、該第1の基材に密着する高融点の第2の金属から成る多数の硬質粒子とを含む金属焼結体で構成される電極と、
前記電極に接合される端面を形成する端部を有し且つ高融点の第3の金属から成る導入線と、
前記導入線の端部の端面の周囲で前記端部の外周部と前記電極とを環状に接合する隅肉部とを備え、
前記電極内の第1の金属は、前記硬質粒子に密着し且つ前記第2の金属より低い硬度を有し、
前記隅肉部は、前記第2の金属より融点の低い第4の金属から成る第2の基材と、前記第1の基材から拡散されて前記第2の基材の少なくとも一部内に保持される前記硬質粒子とを含むことを特徴とする電極組立体。
【請求項2】
金属焼結体により構成される電極と、該電極の底部に接合される導入線とを備え、
前記電極に接合される前記導入線の周囲に設けられる隅肉部は、前記電極の底部と導入線との接合部を環状に拡張し、
前記電極は、前記金属焼結体の第1の基材を構成する第1の金属と、該第1の金属に密着する第2の金属から成る硬質粒子とを含み、
前記第1の金属は、低融点で且つ線膨張係数が大きく、前記第2の金属は、高融点で且つ線膨張係数が小さく、
前記導入線は、高融点の第3の金属から成り、
前記隅肉部は、前記第2の金属より融点の低い第4の金属から成る第2の基材と、前記第1の基材から拡散されて該第2の基材の少なくとも一部内に分散される前記硬質粒子とを含む金属組織構造を有することを特徴とする電極組立体。
【請求項3】
前記第2の金属及び前記第3の金属は、タングステン及びモリブデンから成る群から選択され、
前記第1の金属及び前記第4の金属は、ニッケルである請求項1又は2に記載の電極組立体。
【請求項4】
低融点の粉末状の第1の金属と該第1の金属より高融点の第2の金属から成る硬質粒子とを混合して、粉末混合体を形成する工程と、
該粉末混合体をカップ状に焼結して、前記第1の金属から成る第1の基材に密着する多数の硬質粒子を有する金属焼結体の電極を形成する工程と、
前記第1の金属の融点以上の温度にて、高融点の第3の金属から成る導入線の一端を前記電極に溶接する工程とを含み、
前記溶接工程により、前記第2の金属より低融点の第4の金属から成る第2の基材から成る隅肉部を前記電極と前記導入線との接合部の周囲に形成すると共に、前記電極に含まれる前記硬質粒子を前記第2の基材中に拡散する工程とを含むことを特徴とする電極組立体の製法。
【請求項5】
低融点の粉末状の第1の金属と該第1の金属より高融点の第2の金属から成る硬質粒子とを混合して、粉末混合体を形成する工程と、
該粉末混合体をカップ状に焼結して、前記第1の金属から成る第1の基材に密着する多数の前記硬質粒子を有する金属焼結体で構成される電極を形成する工程と、
前記第1の金属の融点以上の温度にて、高融点の第3の金属から成る導入線の一端を前記電極に溶接する工程とを含み、
前記溶接工程により、前記電極中に包含される前記硬質粒子の一部を前記電極から第2の基材中に拡散させた隅肉部を、前記電極と前記導入線との接合部の周囲に形成することを特徴とする電極組立体の製法。
【請求項6】
前記電極と前記導入線との間に前記第1の金属から成る接合材を配置する工程と、
前記接合材を介して前記電極と前記導入線とを溶着する工程を含む請求項4又は5に記載の電極組立体の製法。
【請求項7】
前記第2の金属及び前記第3の金属は、タングステン及びモリブデンから成る群から選択され、
前記第1の金属及び前記隅肉部を構成する金属は、ニッケルである請求項4〜6の何れか1項に記載の電極組立体の製法。
【請求項8】
請求項1〜3の何れかに記載の電極組立体又は請求項4〜7の何れかにより製造される電極組立体の電極をバルブの閉鎖空間内に配置し、且つ前記電極に接合される導入線の埋設部を前記バルブの各端部に融着し、且つ前記埋設部に隣接する導出部を前記バルブの外部に導出させて、前記閉鎖空間を形成する前記バルブの各端部に前記電極組立体を固定したことを特徴とする放電管。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−16211(P2009−16211A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−177570(P2007−177570)
【出願日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【出願人】(000106276)サンケン電気株式会社 (982)
【Fターム(参考)】