説明

電機子

【課題】全体のモータ効率が低下しないように、スロットの配置巻線に発生する渦電流損を低減させること。
【解決手段】ティース17bに巻回されてスロット17a内に径方向に配置される複数の巻線16−1〜16−6の内、回転子15に最も近い1層目の巻線16−1の断面形状、即ち回転軸11と直交方向の断面形状を五角形とし、この五角形の1つの頂点が回転子15に最も近い状態で且つ五角形の平行な2辺がスロット17aの内壁に沿って配置されるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステータコアのスロットに巻装されたコイルに発生する渦電流損を低減することができる電機子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、回転電機の電機子として例えば特許文献1に記載のものが有る。この電機子は、複数のスロットを有するコアと、スロットに巻装されるコイルとを備え、磁界を発生させる界磁としての回転子に対向配置され、当該回転子とともに回転電機を構成する。コイルをなす線状導体が、スロットの深さ方向に複数本並ぶように整列配置され、少なくともスロット内の深さ方向で回転子に最も近接した位置に配置される線状導体を近接導体とするとともに、近接導体よりも回転子から離間した位置に配置される角線による線状導体を離間導体としたときに、近接導体が離間導体を構成する材料よりも抵抗率の大きい材料であるアルミ(アルミニュウム)で構成されている。このように近接導体をアルミ線とすることにより、アルミは銅よりも抵抗率が大きいので渦電流損を低減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−183741号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記の特許文献1の電機子において、スロット内の複数のコイルのうち回転子に最も近接した近接導体をアルミ線とし、他のコイルである離間導体を銅線としているので、図9(a)に示すように銅線の渦電流損を1とすると、アルミ線の渦電流損は(b)に示すように1/1.6と低減する。しかし、アルミは抵抗率が銅の1.6倍あるので、(a)から(b)に示すように抵抗損が1.6倍と増加する。言い換えれば、アルミ線では銅線よりも渦電流損が減少するが、この減少割合以上に抵抗損が増加するので、渦電流損と抵抗損とを含めた全体のモータ効率が低下するという問題がある。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、全体のモータ効率が低下しないように、スロットの配置巻線に発生する渦電流損を低減させることができる電機子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するためになされた請求項1に記載の発明は、回転軸に固定されて回転する回転子の周囲に一定間隙を介して配設される円環状を成し、この円環状の周方向に所定間隔で配置された複数のスロットを有するコアと、前記スロット内にて前記円環状の径方向に複数の線状導体を整列配置しつつ前記スロット間のティースに巻装してなる巻線とを有し、前記回転子と共に回転電機を構成する電機子において、前記スロット内に配置された複数の線状導体の内、前記回転子に最も近接する第1層目の線状導体を除く第2層目以降の線状導体は、断面形状が長方形状を成し、前記第1層目の線状導体は、断面形状が前記長方形状における回転子側角部の少なくとも一方を切り欠いた形状を成すことを特徴とする。
【0007】
この構成によれば、巻線の高い占積率を確保すると共に、巻線全体の断面積減少による抵抗損の増加を抑制しつつ、渦電流損を低減することができる。すなわち、巻線において第1層目の線状導体の断面形状を長方形状(断面長方形状)とした場合、回転子側の両角部のうち、回転方向(トルク方向)の前方側の角部付近の磁束密度が高くなるため、この領域に導体が存在することによって大きな渦電流損が発生する。これに対し、本構成では、第1層目の線状導体の断面形状が長方形状における回転子側角部の少なくとも一方を切り欠いた形状を成しており、磁束密度の高い領域に導体が存在しないので、巻線全体の断面積減少による抵抗損の増加を抑制しつつ、渦電流損を低減することが可能となる。従って、渦電流損と抵抗損とを含めた全体のモータ効率を向上させることが出来る。
【0008】
請求項2に記載の発明は、前記第1層目の線状導体の断面形状における前記回転子に対向する辺は、当該回転子に作用するトルク方向の後方側から前方側に向かって前記回転子からの距離が漸増する斜め形状となっていることを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、高い磁束密度が発生するトルク方向の前方側において回転子からの距離が漸増するように斜めに切り欠かれた断面形状とされているので、渦電流損を効果的に低減することができると共に、断面長方形状の回転子側の辺を当該回転子に向かって斜め状態に成形すればよいので作製が容易であるという利点がある。
【0010】
請求項3に記載の発明は、前記第1層目の線状導体の断面形状は、前記長方形状における回転子側の両角部を切り欠いた形状を成すことを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、第1層目の線状導体の断面長方形状が、回転子側の両角部を切り欠いた形状となっているので、回転子が時計回り、半時計回りの双方向において渦電流損を低減することが出来る。
【0012】
請求項4に記載の発明は、前記第1層目の線状導体の断面形状は、前記回転子からの距離が、前記回転子に対向する1つの頂点において最短となる五角形を成すことを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、第1層目の線状導体の断面形状が五角形であり、この五角形の1つの頂点が前記回転子に最も近接するように配置されているので、前述の回転子側の両角部を切り欠いた形状と同様に、回転子が時計回り、半時計回りの双方向において渦電流損を低減することが出来る。
【0014】
請求項5に記載の発明は、前記第1層目の線状導体の断面形状は、前記長方形状における前記回転子に対向する部分を、前記回転子側へ凸をなす半円状としたものであることを特徴とする。
【0015】
この構成によれば、第1層目の線状導体の断面形状が、長方形状における回転子側が当該回転子側へ凸をなす半円状となっているので、前述の回転子側の両角部を切り欠いた形状と同様に、回転子が時計回り、半時計回りの双方向において渦電流損を低減することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態に係る電機子を有する回転電機の構造を示す回転軸方向の断面図である。
【図2】(a)電機子のコアを軸方向と直交する径方向に切断した際の角型巻線の一部断面図、(b)(a)の破線枠で囲んだ1スロットの部分を表す図である。
【図3】(a)従来の電機子の1層目の巻線の断面形状図、(b)(a)に示す巻線に発生する磁束密度及び渦電流損を示す図である。
【図4】(a)本実施形態の電機子の1層目の五角形の巻線の断面形状図、(b)(a)に示す巻線に発生する磁束密度及び渦電流損を示す図である。
【図5】本実施形態の電機子の巻線による渦電流損の低減量と抵抗損の増加量を示す図である。
【図6】(a)本実施形態の電機子の1層目の台形状の巻線の断面形状図、(b)(a)に示す巻線に発生する磁束密度及び渦電流損を示す図である。
【図7】(a)本実施形態の電機子の1層目の1辺傾斜四角形の巻線の断面形状図、(b)(a)に示す巻線に発生する磁束密度及び渦電流損を示す図である。
【図8】(a)本実施形態の電機子の1層目の1辺半円型四角形の巻線の断面形状図、(b)(a)に示す巻線に発生する磁束密度及び渦電流損を示す図である。
【図9】従来の電機子の巻線による渦電流損の低減量と抵抗損の増加量を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照して説明する。但し、本明細書中の全図において相互に対応する部分には同一符号を付し、重複部分においては後述での説明を適時省略する。
【0018】
図1は本実施形態に係る回転電機の構成を示す回転軸方向の断面図である。図1に示す回転電機10は、例えばハイブリッド車両や電気自動車等の車両に搭載されて使用されるものであって、電機子コア17(単に、コア17ともいう)及び電機子巻線16(単に、巻線16ともいう)を有する電機子18と、回転子コア12及びエンドプレート14を有し界磁として働く回転子15と、電機子18及び回転子15を収容し、締結ボルト(図示せず)よって連結、固定されたフロントハウジング10a及びリアハウジング10b等を含んで構成されている。
【0019】
電機子18は、円環状に形成されて周方向に配列された複数のスロット(図示せず)を有するコア17と、コア17のスロットに巻装され電力変換用のインバータ(図示せず)に接続された三相の巻線16とを有する。巻線16は例えば銅線である。この電機子18は、フロントハウジング10a及びリアハウジング10b間で挟持されることにより固定されており、回転子15の外周側に径方向に所定の隙間を介して配置されている。
【0020】
回転子15は、フロントハウジング10a及びリアハウジング10bに軸受け10cを介して回転自在に支承された回転軸11と一体になって回転するもので、回転軸11の外周面に嵌合固定され、電機子18の内周側に径方向に所定の隙間を介して対向するよう配置された回転子コア12と、回転子コア12の内部にそれぞれ円周方向に所定間隔を空けて配置された複数の永久磁石13と、回転軸11の外周面に嵌合固定されて回転子コア12の回転軸方向両端面に当接した状態に配設された円環状の一対のエンドプレート14,14とを有する。一対のエンドプレート14,14は、例えばアルミやSUSなどの非磁性体により形成されている。
【0021】
ここで、図2(a)に電機子18のコア17を回転軸11方向と直交するコア17の径方向に切断した際の巻線16の断面の一部を表す。電機子18は、図2(a)に示すように、コア17に周方向に所定間隔で形成された複数のスロット17aを備え、このスロット17a間のティース17bに巻線16が巻かれ、この巻線16がスロット17a内に径方向(スロット奥方向ともいう)に配列されている。このスロット17a内に配列された部分を線状導体とする。
【0022】
各巻線16は、図2(a)の破線枠で囲んだ部分を表す図2(b)に示すように、スロット17aに、回転子15に最も近い1層目の巻線16−1が配置され、更にスロット奥方向に向かって2層目の巻線16−2、3層目の巻線16−3、4層目の巻線16−4、5層目の巻線16−5、6層目の巻線16−6と順に配置されている。
【0023】
1層目の巻線16−1は、断面形状が五角形を成し、2層目〜6層目までの各巻線16−2〜16−6は従来通り長方形を成す。更に詳細には、1層目の巻線16−1の五角形は、1つの角部が回転子15に最も近い状態で且つ五角形の平行な2辺がスロット17aの内壁に沿って配置されている。その平行な2辺の各々の長さ(径方向長)L1は、他の長方形の巻線16−2〜16−6の径方向長L2よりも短くなっている。但し、1層目の巻線16−1の1つの頂点から径方向の後端までの長さは、径方向長L2と同じ長さである。
【0024】
つまり、1層目の巻線16−1は、電機子18を周方向に流れる磁束(第1磁束とも称す)φ1に交差する辺の長さL1が、他の巻線16−2〜16−6の同じ辺の長さL2よりも短くなっており、これによって第1磁束φ1が直交する面の面積が、他の巻線16−2〜16−6の面積よりも小さくなっている。
【0025】
このように、回転子15に対向する1層目の巻線16−1の径方向長L1が短い場合、言い換えれば、第1磁束φ1が直交する面の面積が小さい場合、この径方向長L1の面を通過する第1磁束φ1の数が減少するので、その第1磁束φ1の通過に応じて発生する渦電流が減少する。これによって渦電流損i1が低減することになる。
【0026】
更に、1層目の巻線16−1の場合、上記のように配置された五角形であるため、次に説明するように長方形の場合よりも渦電流損が減少する。まず図3(a)に示すように、従来構成として1層目の巻線16−1aが他の巻線16−2〜16−6と同様に長方形であるとする。この場合に回転子15が矢印Tで示す方向に回転し、この回転方向と同方向にロータトルク(回転子トルク)Tが発生しているとする。この場合、矢印φ2で示す第2磁束が、回転子15から、巻線16−1aにおける回転子15との対向面を通って径方向面から周方向に抜ける経路で流れる。
【0027】
この第2磁束φ2によって1層目の巻線16−1aには、図3(b)に曲線B2で示す磁束密度が発生する。図3(b)は横軸に1層目の巻線16−1aにおけるロータトルクTの発生方向側の左端位置P1と、この左端との対向端である右端位置P3と、左端位置P1及び右端位置P3の中間点である中間位置P2とを示す。また、縦軸に磁束密度Bを示す。
【0028】
この回転子15と従来の巻線16−1aとの関係においては、ロータトルクTが図面に向かって反時計回り方向に発生しており、この場合に上記のように回転子15から巻線16−1a側へ第2磁束φ2が発生している。この場合、曲線B2で示す磁束密度は、巻線16−1aの左端位置P1が最も高く、右端位置P3へ向かうに従って徐々に減少する状態となる。また、磁束密度B2は、図3(a)に示す巻線16−1aの左端位置P1における回転子15に最も近い位置からP2y,P3yで示すように半径外周方向に遠ざかるに従っても、図3(b)に同符号P2y,P3yで示すように減少する。従って、磁束密度B2に比例して渦電流が流れ、この渦電流に応じた渦電流損i2aとなる。
【0029】
つまり、巻線16−1aのロータトルクT方向の角部に多くの渦電流が流れ、図3(a)に破線領域i2aDで示すように角部の渦電流損密度が高くなる。
【0030】
一方、本実施形態の1層目の巻線16−1の場合、図4(a)に示すように五角形であるため、従来の長方形の巻線16−1aと比較すると、五角形は、回転子15側に最も近い頂点ppから斜め両側にスロット奥方向に傾斜する2つの傾斜線で切断(長方形の両角部分が切断)された形状となっている。
【0031】
つまり、五角形の巻線16−1では、その切断された三角形k1,k2の部分がない。このため、図4(b)に示すように、巻線16−1の左端位置P1から右端位置P3まで第2磁束φ2による磁束密度B2が発生しても、巻線16−1の左端位置P1から略中間位置P2と、略中間位置P2から右端位置P3までは、渦電流が流れる金属(本例では銅)が無いので、この金属が無い部分には渦電流損は発生しない。図4(a)に破線領域i2−1Dで渦電流損密度を示すように回転子15に最も近い先端部分にしか渦電流損i2−1が発生しない。
【0032】
従って、第2磁束φ2によっては、中間位置P2に存在する頂点ppの極狭い金属領域でしか渦電流損i2−1が発生しないので、従来の長方形の巻線16−1aと比較すると、第2磁束φ2による渦電流損i2−1の発生が大幅に減少する。
【0033】
このように本実施形態の電機子18によれば、ティース17bに巻回されてスロット17a内に径方向に配置される複数の巻線16−1〜16−6の内、回転子15に最も近い1層目の巻線16−1の断面形状、即ち回転軸11と直交方向の断面形状を五角形とし、この五角形の1つの角部の先端が回転子15に最も近い状態で且つ五角形の平行な2辺がスロット17aの内壁に沿って配置されるようにした。
【0034】
この構成によれば、一層目の巻線16−1の高い占積率を確保すると共に、巻線全体の断面積減少による抵抗損の増加を抑制しつつ、渦電流損を低減することができる。即ち、第1層目の巻線16−1の断面形状を長方形状とした場合、回転子15側の両角部のうち、ロータトルクT方向の前方側の角部付近の磁束密度が高くなるため、この領域に導体が存在することによって大きな渦電流損が発生する。これに対し、本実施形態構成では、第1層目の巻線16−1の断面形状が長方形状における回転子15側角部の少なくとも一方を切り欠いた形状を成しており、磁束密度の高い領域に導体が存在しないので、巻線16−1全体の断面積減少による抵抗損の増加を抑制しつつ、渦電流損を低減することが可能となる。従って、渦電流損と抵抗損とを含めた全体のモータ効率を向上させることが出来る。
【0035】
更に詳細に説明すると、一層目の五角形の巻線16−1は、従来の長方形の巻線16−1aと比較すると、五角形の回転子15側に最も近い頂点ppから斜め両側にスロット17a奥方向に切断された三角形部分を、回転子15の対向側に有する。
【0036】
従って、五角形の巻線16−1の対向辺の径方向長L1が、他の長方形の巻線16−2〜16−6の径方向長L2よりも短くなるので、電機子18に周方向に流れる第1磁束φ1が交差する面の面積が小さくなる。これによって、その径方向長L1の面を通過する第1磁束φ1の数が減少するので、この第1磁束φ1に応じて巻線16−1を流れる渦電流が低減し、これに応じた渦電流損i1を低減することができる。
【0037】
また、五角形の巻線16−1における回転子15への対向側の三角形部分に、回転子15から第2磁束φ2が流れ込んで電機子18の周方向に抜けた場合、その第2磁束φ2による磁束密度B2が発生しても、この発生部分には三角形部分の両側の何も無い部分で、渦電流が流れる金属が無いので、渦電流損が発生しない。従って、第2磁束φ2によっては、三角形部分の頂点付近に存在する極狭い金属領域でしか渦電流損i2が発生しないので、従来の長方形の巻線16−1aと比較すると、第2磁束φ2による渦電流損i2の発生を大幅に減少させることができる。
【0038】
このように第1磁束φ1及び第2磁束φ2による渦電流損i1及びi2を低減することができるので、図5(a)に示すように従来の銅線による断面長方形の巻線16−1aに発生していた渦電流損i3が(b)にi4で示すようにΔi低減する。また、上記の通り長方形から当該長方形の両角部分を削った五角形へとすることで断面積が小さくなり、その分、抵抗率が高くなるので、(a)に示す巻線16−1の抵抗損r3が(b)にr4で示すようにΔr増加する。この場合、五角形の巻線16−1の渦電流損i4の減少分Δiが、抵抗損の増加分Δrよりも大きくなる。
【0039】
従って、従来では、1層目の巻線16−1aがアルミ線でその渦電流損が減少していたが、この減少割合以上に抵抗損が増加するので、渦電流損と抵抗損とを含めた全体のモータ効率が低下していた。しかし、本実施形態の五角形の巻線16−1では、渦電流損i4の減少分Δiを、抵抗損の増加分Δrよりも大きくすることができるので、渦電流損i4と抵抗損r4とを含めた全体のモータ効率を向上させることが出来る。言い換えれば、全体のモータ効率が低下しないように、スロット17aの1層目の巻線16−1に発生する渦電流損i4を低減させることが出来る。
【0040】
この他、図6(a)に符号16−1bで示すように1層目の巻線の回転軸11との直交断面形状を台形状としても良い。この台形状は、従来の長方形の巻線16−1aと比較すると、回転子15側への対向辺の中心ppから左端位置P1が、その中心ppから斜め先端側にスロット奥方向に傾斜する1つの傾斜線で切断(長方形の1つの角部分が切断)された形状となっている。
【0041】
この台形状の巻線16−1bでは、その切断された三角形k1の部分がない。このため、図6(b)に示すように、巻線16−1bの左端位置P1から右端位置P3まで第2磁束φ2による磁束密度B2が発生しても、巻線16−1の左端位置P1から略中間位置P2までは渦電流が流れる金属が無いので、渦電流損は発生しない。従って、第2磁束φ2によっては、略中間位置P2から右端位置P3までしか渦電流損i2−2が発生しない。このため、従来の長方形の巻線16−1aと比較すると、第2磁束φ2による渦電流損i2−2の発生が減少する。この台形状の巻線16−1bでも、上記同様に渦電流損の減少分を、抵抗損の増加分よりも大きくすることができるので、渦電流損と抵抗損とを含めた全体のモータ効率を向上させることが出来る。
【0042】
また、図7(a)に符号16−1cで示すように1層目の巻線の回転軸11との直交断面形状を回転子15への対向辺が傾斜する四角形(これを1辺傾斜四角形という)としても良い。この1辺傾斜四角形は、従来の長方形の巻線16−1aと比較すると、回転子15側への対向辺の右端位置P3から左端位置P1へ向かってスロット奥方向へ傾斜する1つの傾斜線で切断(長方形の一辺が斜めに切断)された形状となっている。
【0043】
この1辺傾斜四角形の巻線16−1cでは、その右端位置P3から左端位置P1まで傾斜して切断された三角形k3の部分がない。このため、図7(b)に示すように、巻線16−1cの左端位置P1から右端位置P3まで第2磁束φ2による磁束密度B2が発生しても、巻線16−1の左端位置P1から、中間位置P2を右端位置P3側へ所定距離過ぎた位置までは渦電流が流れる金属が無いので、渦電流損を効果的に低減することができる。
【0044】
つまり、第2磁束φ2によっては、中間位置P2を右端位置P3側へ所定距離過ぎた位置までしか渦電流損i2−3が発生しない。このため、従来の長方形の巻線16−1aと比較すると、第2磁束φ2による渦電流損i2−3の発生が減少する。この台形状の巻線16−1cでも、渦電流損の減少分を、抵抗損の増加分よりも大きくすることができるので、渦電流損と抵抗損とを含めた全体のモータ効率を向上させることが出来る。なお、1辺傾斜四角形の巻線16−1cは、その右端位置P3から左端位置P1まで傾斜した直線形状とすればよいので、製作が容易となる。
【0045】
また、図8(a)に符号16−1dで示すように1層目の巻線の回転軸11との直交断面形状を回転子15への対向辺が凸状を成す半円形となった1辺半円型四角形としても良い。この1辺半円型四角形の半円形部分は、その半円状の頂点ppが回転子15に最も近い配置となっている。この1辺半円型四角形の巻線16−1dは、従来の長方形の巻線16−1aと比較すると、頂点ppから左右両側に湾曲状にスロット奥方向に傾斜する湾曲線で切断(長方形の角部分が湾曲状に切断)k4,k5された形状となっている。
【0046】
この1辺半円型四角形の巻線16−1dでは、その切断された概略三角形部分k4,k5がない。このため、図8(b)に示すように、巻線16−1bの左端位置P1から右端位置P3まで第2磁束φ2による磁束密度B2が発生しても、巻線16−1dの左端位置P1から略中間位置P2と、略中間位置P2から右端位置P3までは渦電流が流れる金属が無いので、渦電流損は発生しない。従って、第2磁束φ2によっては、中間位置P2付近にしか渦電流損i2−4が発生しない。このため、従来の長方形の巻線16−1aと比較すると、第2磁束φ2による渦電流損i2−4の発生が減少する。この台形状の巻線16−1dでも、渦電流損の減少分を、抵抗損の増加分よりも大きくすることができるので、渦電流損と抵抗損とを含めた全体のモータ効率を向上させることが出来る。
【0047】
以上の説明では、1層目の巻線16−1,16−1b,16−1c又は16−1dの回転軸11との直交断面が、五角形、台形状、1辺傾斜四角形又は1辺半円型四角形であることを説明したが、1層目の巻線16−1,16−1b,16−1c又は16−1dにおける回転子15との対向辺側が、第2磁束φ2による渦電流が流れない形状、言い換えれば渦電流が流れる金属部分が少ない形状を有していれば、上述と同様の効果を得ることが出来る。
【符号の説明】
【0048】
10 回転電機
11 回転軸
12 積層鋼板
13 永久磁石
14 エンドプレート
15 回転子
16 巻線
16−1,16−1a,16−1b,16−1c,16−1d 1層目の巻線
16−2 2層目の巻線
16−3 3層目の巻線
16−4 4層目の巻線
16−5 5層目の巻線
16−6 6層目の巻線
17 コア
17a スロット
17b ティース
18 電機子
T ロータトルク
φ1,φ2 磁束
B2 磁束密度
i2,i2−1,i2−2,i2−3,i2−4 渦電流損

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸に固定されて回転する回転子の周囲に一定間隙を介して配設される円環状を成し、この円環状の周方向に所定間隔で配置された複数のスロットを有するコアと、前記スロット内にて前記円環状の径方向に複数の線状導体を整列配置しつつ前記スロット間のティースに巻装してなる巻線とを有し、前記回転子と共に回転電機を構成する電機子において、
前記スロット内に配置された複数の線状導体の内、前記回転子に最も近接する第1層目の線状導体を除く第2層目以降の線状導体は、断面形状が長方形状を成し、
前記第1層目の線状導体は、断面形状が前記長方形状における回転子側角部の少なくとも一方を切り欠いた形状を成すことを特徴とする電機子。
【請求項2】
前記第1層目の線状導体の断面形状における前記回転子に対向する辺は、当該回転子に作用するトルク方向の後方側から前方側に向かって前記回転子からの距離が漸増する斜め形状となっていることを特徴とする請求項1に記載の電機子。
【請求項3】
前記第1層目の線状導体の断面形状は、前記長方形状における回転子側の両角部を切り欠いた形状を成すことを特徴とする請求項1に記載の電機子。
【請求項4】
前記第1層目の線状導体の断面形状は、前記回転子からの距離が、前記回転子に対向する1つの頂点において最短となる五角形を成すことを特徴とする請求項3に記載の電機子。
【請求項5】
前記第1層目の線状導体の断面形状は、前記長方形状における前記回転子に対向する部分を、前記回転子側へ凸をなす半円状としたものであることを特徴とする請求項3に記載の電機子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−253958(P2012−253958A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−126064(P2011−126064)
【出願日】平成23年6月6日(2011.6.6)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】