説明

電気、電子部品用熱可塑性樹脂組成物および有接点電気部品

【課題】 コネクタ等の有接点電気部品、特に負荷電圧の高い有接点電気部品用樹脂として、耐絶縁破壊性、寸法精度、成形品表面外観の改善された、優れた熱可塑性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】 以下の特徴(A)〜(D)を有する、電気、電子部品用熱可塑性樹脂組成物。
(A)引っ張り強度が30MPa以上。
(B)絶縁破壊電圧が25MV/m以上。
(C)体積固有抵抗値が1×1013Ω・m以上。
(D)弾性率が2000MPa以上。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コネクタやリレー部品等の、電気接点(金属等の良導体)を有する部品、いわゆる有接点電気部品用の成形体に適した、電気、電子部品用熱可塑性樹脂組成物と、これを用いた有接点電気部品等の電気、電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
電気、電子部品、自動車部品その他の機械部品等に幅広く用いられている代表的な樹脂として、ポリブチレンテレフタレート(以下、「PBT」と略記することがある。)やポリエチレンテレフタレート(以下、「PET」と略記することがある。)が知られている。これらの樹脂、いわゆる熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂は、機械的強度、耐薬品性及び電気絶縁性等の電気的特性等に優れているので、コネクタやリレー部品等の有接点電気部品、つまり電気接点(金属等の良導体)と樹脂等の部品成形体との接触部分を有し、電気接点からの電気的負荷や熱などの影響がある部品に用いられている。
【0003】
但しこの様な芳香族ポリエステル樹脂は、例えばポリアミド6やポリアミド66等の、他の樹脂に比べ耐絶縁破壊性が低いという課題があり、より負荷電圧が高い用途分野への使用に制限があった。また最近では電気・電子機器の小型化に伴って、使用する部品自体の薄肉化が一段と進み、樹脂成形品の耐絶縁破壊性のさらなる向上が望まれている。
【0004】
これを受けて、様々な芳香族ポリエステル樹脂の改善方法が提案されている。例えば電気、電子部品用樹脂として、脂環式ポリエステルとポリカーボネート樹脂との混合物が提案されている(特許文献1参照)。
【0005】
また例えば高い耐熱性、高い耐熱性、流動性、機械物性、耐溶剤性等を有する芳香族ポリエステル樹脂と、絶縁性に優れたポリオレフィン樹脂との混合物からなる樹脂等が使用されてきた。また一般的に、ポリエステル樹脂とポリオレフィン樹脂とは相溶性が低い為に、エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体やエチレン-無水マレイン酸共重合体等の相溶化剤を併用して、部品成形用の樹脂に要求される絶縁性、高強度、高弾性率等を満たす改善がなされてきた(例えば特許文献2参照)。
【0006】
【特許文献1】特開2003−113252号公報
【特許文献2】特開平4−202447号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したような、ポリエステル樹脂とポリオレフィン樹脂の相溶性を上げる為の相溶化剤は一般的に高い反応性官能基を有し、これによって反応性官能基とポリエステルが反応しポリエステルとポリオレフィンのブロック共重合体が形成されることで両方の樹脂の相溶性を向上させている。しかしこの様な相溶化の機構によって、反応性官能基がポリエステルと過剰に反応して形成される凝集物、いわゆる「ぶつ」が樹脂中に生じてしまい黒点異物の発生、機械的特性の低下という問題が生じていた。また、過剰な反応により分子量が増大し流動性が低下するという問題もあった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題に鑑みて、本発明者らが有接点電気部品等の電気、電子部品用の熱可塑性樹脂組成物について鋭意検討した。その結果、特定の二種のポリエステル樹脂、具体的には特定の芳香族ポリエステル樹脂と、脂環式ポリエステルとを混練して得られるポリエステル樹脂組成物が、特定の海島構造、具体的には芳香族ポリエステル樹脂を連続相とし、極めて微分散された脂環式ポリエステルを分散相とするものであることを見出した。
【0009】
そしてこの海島構造を有するポリエステル樹脂組成物が、特定以上の(A)引っ張り強度、(B)絶縁破壊電圧、(C)体積固有抵抗値、及び(D)弾性率という四つの優れた特性を同時に満たす樹脂組成物となること、またこの四つの特性を満たす樹脂が、電気、電子部品用樹脂として優れた効果を奏することを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
即ち本発明の要旨は、以下の特徴(A)〜(D)を有する、電気、電子部品用熱可塑性樹脂組成物に関する。
(A)引っ張り強度が30MPa以上。
(B)絶縁破壊電圧が25MV/m以上。
(C)体積固有抵抗値が1×1013Ω・m以上。
(D)弾性率が2000MPa以上。
【発明の効果】
【0011】
本発明の電気、電子部品用熱可塑性樹脂組成物を用いることによって、コネクタ等の有接点電気部品、特に負荷電圧の高い有接点電気部品として、耐絶縁破壊性に優れ、且つ寸法精度、成形品表面外観の改善された、優れた成形品(電気、電子部品)を提供することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の電気、電子部品用熱可塑性樹脂組成物は、以下の特徴(A)〜(D)を有する。
(A)引っ張り強度が30MPa以上。
(B)絶縁破壊電圧が25MV/m以上。
(C)体積固有抵抗値が1×1013Ω・m以上。
(D)弾性率が2000MPa以上。
【0013】
本発明の熱可塑性樹脂組成物における(A)引っ張り強度は30MPa以上であればよく、中でも35MPa以上、特に38MPa以上であることが好ましい。あまり高すぎても靭性が低下する場合があるので、その上限は一般的に300MPa以下、中でも250MPa以下、特に200MPa以下であることが好ましい。
【0014】
本発明の熱可塑性樹脂組成物における(B)絶縁破壊電圧は25MV/m以上であればよく、中でも26MV/m以上、特に27MV/m以上であることが好ましい。あまり高すぎても帯電防止性が低下する場合があるので、その上限は一般的に50MV/m以下、中でも45MV/m以下、特に40MV/m以下であることが好ましい。本発明の熱可塑性樹脂組成物における(C)体積固有抵抗値は1×1013Ω・m以上であればよく、中でも3×1013Ω・m以上、特に1×1014Ω・m以上であることが好ましい。あまり高すぎても帯電防止性が低下する場合があるので、その上限は一般的に1×1018Ω・m以下、中でも1×1017Ω・m以下、特に1×1016Ω・m以下であることが好ましい。
【0015】
本発明の熱可塑性樹脂組成物における(D)弾性率は2000MPa以上であればよく、中でも2100MPa以上、特に2200MPa以上であることが好ましい。あまり高すぎても靭性が低下する場合があるので、その上限は一般的に20000MPa以下、中でも16000MPa以下、特に12000MPa以下であることが好ましい。
【0016】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、上述した四つの物性値を満足すればよく、樹脂組成や該祖生物中における各成分の分散状態、構造等に特に制限はない。中でも、上述の四つの特性がバランスよく発現する為には、少なくとも二種類の樹脂を含む海島構造を有し、該海島構造における分散相の平均粒径が1μm以下であることが好ましい。
【0017】
ここで海島構造における分散相の平均粒径は、透過型電子顕微鏡にて観察した結果から、解析ソフト、例えばMedia Cybernetics社製 Image−Pro Plus Ver.4.5.1等を用いて求めればよい。
【0018】
この分散相の平均粒径は1μm以下でればよいが、あまりに小さすぎても弾性率が低下するという場合があり、またこの様な微分散状態の海島構造の樹脂組成物を製造することが困難となるので、分散相の平均粒径は、一般的には0.001μm以上、中でも0.01μm以上であることが好ましい。
【0019】
本発明の熱可塑性樹脂組成物においては、この様な海島構造における樹脂組成は任意だが、中でも、連続相が主として芳香族ポリエステル樹脂からなり、分散相が主として脂環式ポリエステル樹脂からなることが好ましい。以下、本発明を、連続相が主として芳香族ポリエステル樹脂からなり、分散相が主として脂環式ポリエステル樹脂からなる海島構造の熱可塑性樹脂組成物を例にして説明する。
【0020】
本発明に用いる芳香族ポリエステル樹脂としては、その酸成分がテレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸の少なくとも1種よりなり、ジオール成分がエチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール等のごとき脂肪族ジオールの少なくとも1種よりなる芳香族ポリエステルを主成分とする。これらの中で結晶化速度の速いポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート等が成形性の点で好ましい。
【0021】
また本発明に用いる芳香族ポリエステル樹脂としては上述のポリエステルの一部を共重合成分で置換したものでもよく、かかる共重合成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸;メチルテレフタル酸、メチルイソフタル酸等のアルキル置換フタル酸類;2,6−ナフタリンジカルボン酸、2,7−ナフタリンジカルボン酸、1,5−ナフタリンジカルボン酸等のナフタリンジカルボン酸類;4,4‘−ジフェニルジカルボン酸、3,4’−ジフェニルジカルボン酸等のジフェニルジカルボン酸類;4,4‘―ジフェノキシエタンジカルボン酸等のジフェノキシエタンジカルボン酸類などの芳香族ジカルボン酸、コハク酸、アジピン酸、セバチン酸、アゼライン酸、デカンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸類などの脂肪族または脂環族ジカルボン酸;1,4−シクロヘキサンジメタノールなどの脂環族ジオール;ハイドロキノン、レゾルシン等のジヒドロキシベンゼン類;2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)-スルホン等のビスフェノール類、エチレングリコール等のグリコール類とビスフェノール類から得られるエーテルジオールなどの芳香族ジオール;ε−オキシカプロン酸、ヒドロキシ安息香酸、ヒドロキシエトキシ安息香酸等のオキシカルボン酸等が挙げられる。
【0022】
更に、本発明に用いる芳香族ポリエステル樹脂は、上述した芳香族ポリエステル樹脂に分岐成分としてトリメシン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸の様な多官能のエステル形成能を有する酸や、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等の多官能のエステル形成能を有するアルコールを1モル%以下、好ましくは0.5モル%以下、さらに好ましくは0.3モル%以下を共重合させたものであってもよい。
【0023】
本発明に用いる芳香族ポリエステル樹脂の固有粘度は、その用途に応じて適宜選択して決定すればよいが、一般的には0.5dl/g以上、更には0.6dl/g以上であることが好ましく、その上限は1.5dl/g以下、更には1.3dl/g以下であることが好ましい。固有粘度が小さすぎると、本発明の熱可塑性樹脂組成物として十分な特性が得られず、また大きすぎても熔融粘度が高く、流動性が低下し成形性が損なわれる場合がある。ここで固有粘度とは、30℃でのフェノール/テトラクロルエタン(重量比1/1)混合溶媒中での測定値である。
【0024】
また、本発明に用いる芳香族ポリエステル樹脂の末端カルボキシル基濃度は、80μeq/g以下、更に好ましくは30μeq/gが好ましい。末端カルボキシル基濃度が大きすぎると、本発明の熱可塑性樹脂組成物の機械強度が低下する場合がある。
【0025】
上述の芳香族ポリエステルは通常の製造方法、例えば熔融重縮合反応またはこれと固相重合反応とを組み合わせた方法等によって製造できる。例えば、ポリブチレンテレフタレートの製造例について説明すると、テレフタル酸又はそのエステル形成性誘導体(例えばジメチルエステル、モノメチルエステル等の低級アルキルエステル)とテトラメチレングリコール又はそのエステル形成性誘導体とを触媒の存在下、加熱反応せしめ、次いで得られるテレフタル酸のグリコールエステルを触媒の存在下、所定の重合度まで重合する方法によって製造すればよい。
【0026】
本発明に用いる脂環式ポリエステル樹脂は、従来公知の任意のものを使用できる。中でも、主として1,4−シクロヘキサンジカルボン酸を含むジカルボン酸成分と、主として1,4−シクロヘキサンジアルカノール類を含むグリコール成分とからなるポリエステル樹脂であることが好ましい。具体的には、ジカルボン酸成分の30モル%以上、中でも50モル%以上が1,4−シクロヘキサンジカルボン酸であり、グリコール成分の30モル%以上、中でも50モル%以上が1,4−シクロヘキサンジアルカノール類である脂環式ポリエステル樹脂であることが好ましい。
【0027】
更に、本発明に用いる脂環式ポリエステル樹脂としては、中でも、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸のトランス異性体含有率が70モル%以上、中でも80モル%以上であることが好ましい。トランス異性体の比率が低すぎると、融点が低下し、耐熱性が低下するために本発明の効果が不十分となる場合がある。また本発明に用いる脂環式ポリエステル樹脂においては、1,4−シクロヘキサンジアルカノール類のトランス異性体含有率が50モル%以上、中でも60モル%以上であることが好ましい。トランス異性体の比率が低すぎると、融点が低下し、耐熱性が低下するために本発明の効果が不十分となる場合がある。
【0028】
1,4−シクロヘキサンジアルカノール類としては、アルカノール部分が炭素数1以上10以下、中でも1以上5以下のものが好ましい。具体的には例えば、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジエタノール、1,4−シクロヘキサンジプロパノール、1,4−シクロヘキサンジブタノール類が挙げられる。中でも1,4−シクロヘキサンジメタノールが好ましい。
尚、グリコール成分としては、1,4−シクロヘキサンジアルカノール類以外のグリコール成分として、例えば炭素数2以上10以下、好ましくは2以上5以下のアルキレングリコールの縮合物であるポリ(オキシアルキレン)グリコール等を含んでいてもよい。この様なグリコール成分としては、具体的にはエチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコールおよびポリ(オキシアルキレン)グリコール等が挙げられる。
【0029】
この様な、1,4−シクロヘキサンジアルカノール類以外のグリコール成分の分子量は任意であり、適宜選択して決定すればよい。例えばポリオキシアルキレングリコール類の場合には耐熱性および結晶性を損なわずして優れた機械的性質を与える為に、一般的に分子量は300以上、好ましくは500以上、特に好ましくは700以上であり、通常は3000以下、好ましくは2000以下、特に好ましくは1500以下である。またこの様なポリオキシアルキレングリコール類の含有量についても、適宜選択して決定すればよいが、一般的にはグリコール成分において10モル%以下、中でも7モル%以下とすることが好ましい。この様なポリ(オキシアルキレン)グリコールが1,4−シクロヘキシルジアルカノール類に比べて多すぎると、耐熱性が低下し過ぎる場合がある。
【0030】
本発明に用いる脂環式ポリエステル樹脂は、従来公知の方法(例えば、米国特許公報第2891930号公報や、同2901466号公報等)によって重合することが出来る。
【0031】
本発明に用いる脂環式ポリエステル樹脂の固有粘度は、その用途に応じて適宜選択して決定すればよいが、一般的には0.5dl/g以上、更には0.6dl/g以上であることが好ましく、その上限は1.5dl/g以下、更には1.2dl/g以下であることが好ましい。固有粘度が小さすぎると、十分な機械的特性が得られない場合があり、また大きすぎても溶融粘度が高く、流動性が低下し成形性が損なわれる場合がある。ここで固有粘度とは、30℃でのフェノール/テトラクロルエタン(重量比1/1)混合溶媒中での測定値である。
【0032】
本発明の電気、電子部品用熱可塑性樹脂組成物において、例えば芳香族ポリエステル樹脂と脂環式ポリエステル樹脂とを含むポリエステル系樹脂組成物においては、脂環式ポリエステル樹脂の含有量は適宜選択して決定すればよい。脂環式ポリエステル樹脂の割合が少な過ぎると、本発明の熱可塑性樹脂組成物において耐絶縁破壊性の改善効果が低下する場合があり、逆に多すぎても芳香族ポリエステル樹脂との相溶性が低下し、強度が低下する場合がある。よって脂環式ポリエステル樹脂の配合量は、芳香族ポリエステル100重量部に対して2重量部以上、中でも5重量部以上、特に10重量部以上配合することが好ましく、その上限は通常、60重量部以下、中でも50重量部以下、更には40重量部以下、特に30重量部以下であることが好ましい。
【0033】
本発明の電気、電子部品用熱可塑性樹脂組成物は、その用途に応じて、従来公知の各種無機、有機充填剤、難燃剤、難燃助剤等を含有していてもよい。
【0034】
例えば無機充填剤としては、繊維状、板状、粒状物などの一般的に樹脂組成物において使用されるものが挙げられる。具体的にはガラス繊維、鉱物繊維、セラミックスウイスカー、ワラストナイト、カーボン繊維等の繊維状物;ガラスフレーク、マイカ、タルクなどの板状物;シリカ、アルミナ、ガラスビーズ、カーボンブラック、炭酸カルシュウム等の粒状物などが挙げられる。これらは、その用途に応じて適宜選択して決定すればよいが、一般的には、機械的強度や剛性向上に際しては繊維状物、特にガラス繊維を使用すればよく、また成形品の異方性および反り等の低減に際しては板状物、特にマイカを使用すればよい。
また粒状物は成形時の流動性も加味された全体的なバランスのもとで最適なものを選択すればよい。ガラス繊維は、一般に樹脂強化用に使用されるものであれば、任意のものを使用でき、例えば長繊維タイプ(ロービング)や短繊維タイプ(チョップドストランド)などが挙げられる。この様な繊維における繊維径は6μm以上15μm以下が一般的である。またガラス繊維は集束剤(例えば、ポリ酢酸ビニル、ポリエステル等)やカップリング剤(例えば、シラン化合物、ボロン化合物)等や、その他の表面処理剤等で処理されていてもよい。中でも強度の点から、アミノシラン化合物とノボラックエポキシ化合物で表面処理されたものが好ましい。
【0035】
更に、特に耐絶縁破壊性の向上を目的とした場合には、マイカやガラスフレークなどの板状物の配合は、絶縁距離の増大につながり、耐絶縁破壊電圧が向上するので好ましく、強度の向上等も含めた全体のバランスからは、ガラス繊維との併用が好ましい。この際、ガラス繊維と板状充填剤との比率は1/2〜10/1であることが好ましい。
【0036】
本発明において無機充填材の含有量(配合量)は、含有量が多いと本発明の電気、電子部品用熱可塑性樹脂組成物の機械的性質が低下する場合がある。よって芳香族ポリエステル樹脂と脂環式ポリエステル樹脂の合計量を100重量部とした際に、0.01重量部以上、中でも1重量部以上、特に5重量部以上であることが好ましく、その上限は100重量部以下、好ましくは80重量部以下である。例えば機械的強度の改善を目的とする際には5重量部以上が好ましく、また結晶化促進を目的とする場合には0.01重量部以上1重量部以下とすることが好ましい。
【0037】
難燃剤としては、従来公知の任意のものを、適宜選択して用いることが出来る。中でも好ましいものとしては、臭素化ビスフェノールA系ポリカーボネート類や、臭素化ビスフェノールA系エポキシ樹脂類、臭素化された置換基を有するビニル系ポリマー(例えば、ペンタブロモベンジルポリアクリレート)などの臭素系難燃剤、及び赤燐や燐酸系難燃剤等が挙げられる。
【0038】
難燃剤の含有量は、多すぎると機械的強度が低下する場合があるので、本発明の電気、電子部品用熱可塑性樹脂組成物中においては、2重量%以上30重量%以下である。
また難燃効果を助長する目的で難燃助剤を配合することができる。難燃助剤としては、Sb及び/又はxNaO・Sb・yHO(x=0〜1、y=0〜4)であることが好ましい。難燃助剤の粒径は特に限定されないが、0.02〜5μmであることが好ましい。難燃助剤としては、エポキシ化合物、シラン化合物、イソシアネート化合物、チタネート化合物等で表面処理されたものを用いることができる。難燃助剤の配合量が多すぎると樹脂や配合剤の分解を促進し、成形品の特性が低下する場合がある。よって芳香族ポリエステル樹脂と脂環式ポリエステル樹脂の合計量を100重量部とした際に、3重量部以上、中でも5重量部以上、特に8重量部以上であることが好ましく、その上限は40重量部以下、好ましくは30重量部以下である。また難燃剤に対する含有量は、一般的に0〜15重量%であるが、効果的に難燃性を付与するためには難燃剤に対して20重量%以上70重量%以下であることが好ましい。
【0039】
本発明の電気、電子部品用熱可塑性樹脂組成物には、上述した添加剤の他に、更に核剤(例えば、タルク、安息香酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム)、滑剤(例えばパラフィンワックス、ポリエチレンワックス、ステアリン酸およびそのエステルまたは塩、シリコンオイル)、酸化防止剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、顔料、耐衝撃性改良剤等の改質剤、エポキシ化合物などの耐加水分解性改良剤等、従来公知の任意のものを含有させてもよい。
【0040】
本発明の電気、電子部品用熱可塑性樹脂組成物の製造方法は特に制限はなく、例えば上述したような、芳香族ポリエステル樹脂と脂環式ポリエステル樹脂とを用いる場合には、これらの樹脂と、更に必要に応じて、無機充填剤等を、ペレット、粉末、細片状態などで、ブレンダーなどを用いて均一混合した後、バンバリーミキサ、加熱ロールや単軸または多軸押出機等を用いて溶融混練すればよい。中でも溶融混練時の温度を230℃以上、360℃以下、290℃以下の温度にて行うことで、分散相が微分散した、具体的には分散相の粒径が1μm以下の海島構造となるので好ましい。特に、まず芳香族ポリエステルに対して脂環式ポリエステル樹脂を多い状態として、具体的には樹脂組成物全体に対して60重量%以上が脂環式ポリエステルとしたものを予め混練しておき、後に芳香族ポリエステルを添加して、所望の配合比に調節して混練する方法とすることが好ましい。
【0041】
本発明の電気、電子部品用熱可塑性樹脂組成物は、通常の成形方法、例えば射出成形、押出成形、圧縮成形、中空成形などで、種々の電気、電子部品を形成することが出来る。具体的には、電機・電子機器分野、自動車分野、機械分野等に用いる樹脂成形品が得られる。中でもコネクタやリレー等の、有接点電気部品とした際に、本発明の効果が著しく発現する。このような樹脂成形品の製造方法としては、特に流動性の良さから、射出成形による製造方法が好ましい。射出成形に際しては樹脂温度を240℃以上280℃以下にコントロールして行うことが好ましい。
【実施例】
【0042】
以下に実施例を示し、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。尚、以下の実施例、比較例における「部」は、重量部を意味する。
また本発明の熱可塑性樹脂組成物における海島構造中の分散相直径の測定や物性評価は、以下の方法にて行った。
【0043】
<分散相直径測定方法>
[超薄切片]:試料ペレット中央部のストランド方向に直交する面より切片を切り出した。この切片より、試料冷却装置(クライオユニット)を装着したウルトラミクロトーム(Leica社、 Ultracut UCT)で、ダイヤモンドナイフを用いて超薄切片を作成した。設定した切削条件は、試料室温度−105℃、試料厚さ100nmである。
【0044】
[染色]:超薄切片を銅製のグリッド上に積載した後、四酸化ルテニウムで染色した。これによりポリブチレンテレフタレートは灰色の海、ポリアルキレングリコールを含む成分は暗色の島として観察された。
【0045】
[電子顕微鏡写真撮影条件]:染色された超薄切片を透過型電子顕微鏡(日本電子1200EXII型)、加速電圧100kVで観察した。観察時の倍率設定は5000倍とし、フジフィルム製電子顕微鏡用フィルムFG(寸法:5.9×8.2cm)に画像を記録した。記録された画像の範囲は概ね120×160μmである。
【0046】
[画像処理]:TEM観察により得られたネガフィルムを、フィルムスキャナー(ミノルタ製:Dimage Scan Multi F−3000型)でデジタル化した。デジタル化は564dpiで行い、概ね1240×1800ピクセルのモノクロ画像ファイルが得られた。得られたモノクロ画像は、Adobe社製 Photoshop Ver.7.0を用いコントラストを調整した後、Media Cybernetics社製 Image−Pro Plus Ver.4.5.1を用いて、島部分の直径を計測した。ここで直径とは、島部分の外周の2点を結び、かつ重心を通る径を2度刻みに測定した平均値である。
【0047】
<評価方法>
絶縁破壊電圧:
射出成形機(東芝IS150)を用い、シリンダー温度270℃、金型温度80℃の条件で射出成形して得た100mmφ×1mmtの円盤状成形品(乾燥状態)に対してIEC602431の方法に準じて測定した。単位はMV/mで、数値が大きいほど耐絶縁破壊性が良好であることを示す。
【0048】
体積固有抵抗:
射出成形機(東芝IS150)を用い、シリンダー温度270℃、金型温度80℃の条件で射出成形して得た100mmφ×3mmtの円盤状成形品を水中に24時間保持後、23℃、65%湿度下で1週間調湿した成形品に対して、IEC93に準じて測定した。単位はΩ・mで数値が大きいほど絶縁性が良好であることを示す。
【0049】
反り量:
射出成型機(住友重機械(株)製:型式SG−75 MIII)を使用し、シリンダー温度260℃で、金型温度80℃にて直径100mm、厚さ1.6mmの円板を成形した。ゲートは円周上の1点ゲートである。円板の片端を平板に固定し、反対側が平板から浮き上がった距離を測定し反り量とした。単位はmmで、数値が大きいほど反り量が大きいことを示す。
【0050】
成形品表面外観:
射出成形機(東芝IS150)を用い、シリンダー温度270℃、金型温度90℃の条件で射出成形して、100mmφ×3mmtの円盤状成形品の表面外観を目視にて観察し、蛍光灯の像が極めてくっきりと写るものを◎、くっきりと写るものを○、少し揺らいで写るものを△、揺らいで写るものを×として評価した。
【0051】
引張強度:
射出成型機(住友重機械(株)製:型式SG−75 MIII)を使用し、シリンダー温度250℃で、金型温度80℃にて成形したISO試験片をISO527に準拠して測定した。
【0052】
弾性率:
ISO179に準拠し測定した。
【0053】
<実施例及び比較例の各樹脂組成物に用いた原料>
PBT−1:
芳香族ポリエステル樹脂(ポリブチレンテレフタレート)。融点225℃、固有粘度0.85dl/g、末端カルボキシルキ濃度15μeq/g。三菱エンジニアリングプラスチックス社製。
PBT−2:
芳香族ポリエステル樹脂(ポリブチレンテレフタレート)。融点225℃、固有粘度0.85dl/g、末端カルボキシルキ濃度35μeq/g。三菱エンジニアリングプラスチックス社製。
PET:
芳香族ポリエステル樹脂(ポリエチレンテレフタレート)。融点260℃、固有粘度0.65dl/g、末端カルボキシルキ濃度52μeq/g。三菱化学社製、商品名ノバペックスGS385。
PA6:
ポリアミド6。三菱エンジニアリングプラスチックス社製、商品名ノバミッド1010。
GF:
日本電気硝子社製ガラス繊維、商品名T−187。繊維径13μm、チョップドストランド長3mm。
マイカ:
山口雲母社製、商品名A−21。マイクロトラック法による平均粒子径23μm。
【0054】
<脂環式ポリエステル樹脂の製造例>
<製造例1>
攪拌機、還流冷却器、加熱装置、圧力計、温度計および減圧装置を装備したステンレス製反応器に、トランス−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸(95モル%のトランス異性体を含む。)101.5重量部、1,4−シクロヘキサンジメタノール(トランス体が68モル%、シス体は32モル%。)87.5重量部、およびテトラ−n−ブチルチタネートの6重量%ブタノール溶液0.005重量部を仕込み、反応機内を窒素ガスで置換した。反応機内に窒素ガスを流しながら、200℃に昇温して、エステル化反応を1時間行った。その後250℃に昇温しつつ、反応機内を減圧にしながら重縮合反応させた。反応器内圧力を0.1KPa、温度を250℃に維持して、2.2時間の重縮合反応を完了して得られた脂環式ポリエステル樹脂をストランド状として水中に抜き出した後、切断して樹脂ペレットとした。以下、この樹脂をPCCと略称する。PCCは融点225℃、固有粘度0.75dl/gである。
【0055】
<製造例2>
製造例1で使用した反応器に、トランス−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸79.9重量部、1,4−シクロヘキサンジメタノール(トランス体対シス体の比率が、モル比で約7対3のもの)63重量部、数平均分子量1000のポリ(オキシテトラメチレン)グリコール41.4重量部、無水トリメリット酸0.24重量部、フェノール系酸化防止剤(チバスペシャリティケミカル社製商品名イルガノックス1010)0.32重量部およびテトラ−n−ブチルチタネートの6重量%ブタノール溶液0.01重量部を仕込み、反応機内に窒素ガスを流しながら200℃に昇温し、エステル化反応を1時間行った。その後、250℃に昇温しつつ、反応機内を減圧にしながら重縮合反応させた。反応器内圧力を0.1KPa、温度を250℃に維持して、2.4時間の重縮合反応を完了して得られた脂環式ポリエステル樹脂をストランド状として水中に抜き出した後、切断して樹脂ペレットとした。以下、この樹脂をPCCPと略称する。PCCPはポリ(オキシテトラメチレン)グリコールの含有量が2.5モル%、融点が215℃、固有粘度0.75dl/gである。
【0056】
<実施例1〜8、比較例1〜6>
実施例および比較例の樹脂組成物を次のようにして得た。二軸押出機(日本製鋼所製、TEX30XCT、L/D=42、バレル数12)を用いて、シリンダー温度260℃、スクリュー回転数400rpmの条件にて、表−1に示す割合にて成分(A)および(B)をタンブラーミキサーにて均一に混合した後、バレル1よりフィードし溶融混合させて組成物を作成した。得られた組成物に対して次の評価を行った。結果を表−1に示す。
【0057】
また無機充填剤を配合したものについては、表−2に示す割合にて、成分(A)および(B)をタンブラーミキサーにて均一に混合した後、バレル1よりフィードし溶融混合させた後、バレル5より成分(C)をフィードして溶融混合させて組成物を作成した。結果を表−2に示す。
【0058】
【表1】

【0059】
【表2】

【0060】
表1および表2の結果から明らかな通り、比較例3と比較例1〜2の比較において、PBTまたはPETは、ポリアミド6に比べ絶縁破壊電圧が劣っているが、電気絶縁抵抗においては優れている。一方、PBTやPETなどの芳香族ポリエステルに脂環式ポリエステルを配合した実施例1〜4に示した本発明の熱可塑性樹脂組成物を比較例1〜3の樹脂組成物(PBT、PET、PA6単独。)と比べると、絶縁破壊電圧がPA6と同等でありながら、同時に絶縁抵抗にも優れており、優れた電気的性質を所有していることは明白である。そしてこの様な樹脂を用いた有接点電気部品が優れた効果を奏することも明白である。
【0061】
無機充填剤を配合した本発明の熱可塑性樹脂組成物(実施例5〜8)においても、高い絶縁破壊電圧、電気抵抗を示しており、優れた電気的性質を有しているのみならず、反りや成形品外観も比較例4〜5に比べて改善されていることが判る。そしてこの様な樹脂を用いた有接点電気部品が優れた効果を奏することも明白である。
【0062】
以上の様に、実施例に示した本発明の熱可塑性樹脂組成物は、電気的性質および寸法の異方性、成形品外観改善に顕著な効果が認められる。そしてこの様な樹脂を用いた有接点電気部品が優れた効果を奏することも明白である。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の熱可塑性樹脂組成物によって、耐絶縁破壊性、寸法精度、成形品表面外観に優れた電気、電子部品用の樹脂成形品が得られる。これによってコネクタ、リレー、スイッチなどの有接点電気部品に代表される電気電子部品や、ディストリビューターなどの自動車電装部品、電動工具機械部品等、広範な電気、電子部品を提供することが出来る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の特徴(A)〜(D)を有する、電気、電子部品用熱可塑性樹脂組成物。
(A)引っ張り強度が30MPa以上。
(B)絶縁破壊電圧が25MV/m以上。
(C)体積固有抵抗値が1×1013Ω・m以上。
(D)弾性率が2000MPa以上。
【請求項2】
二種の樹脂からなる海島構造を有し、該海島構造における分散相の平均粒径が1μm以下であることを特徴とする請求項1記載の電気、電子部品用熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
連続相が主として芳香族ポリエステル樹脂からなり、分散相が主として脂環式ポリエステル樹脂からなることを特徴とする請求項2記載の電気、電子部品用熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
芳香族ポリエステル樹脂における末端カルボキシ基含有量が30μeq/g以下であることを特徴とする請求項3記載の電気、電子部品用熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
脂環式ポリエステル樹脂が、主として1,4−シクロヘキサンジカルボン酸を含むジカルボン酸成分と、主として1,4−シクロヘキサンジアルカノール類を含むグリコール成分とからなるポリエステル樹脂であることを特徴とする請求項3または4記載の電気、電子部品用熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
1,4−シクロヘキサンジカルボン酸のトランス異性体含有率が70モル%以上であることを特徴とする請求項5記載の電気、電子部品用熱可塑性樹脂組成物。
【請求項7】
1,4−シクロヘキサンジアルカノール類のトランス異性体含有率が50モル%以上であることを特徴とする請求項5または6記載の電気、電子部品用熱可塑性樹脂組成物。
【請求項8】
グリコール成分として、更に分子量500以上2000以下のポリオキシアルキレングリコール類を10モル%以下含有することを特徴とする請求項5乃至7のいずれかに記載の電気、電子部品用熱可塑性樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物を含む有接点電気部品。

【公開番号】特開2006−306991(P2006−306991A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−130852(P2005−130852)
【出願日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【出願人】(594137579)三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社 (609)
【Fターム(参考)】