説明

電気かみそりの網刃処理方法及びそれによって処理された電気かみそりの網刃

【課題】振動式電気かみそりの外刃として用いる網刃の内部応力を軽減して摩擦低減皮膜の応力割れを防ぐとともに、内刃に密着するエリアの拡大を図る。
【解決手段】振動式電気かみそり1の外刃として用いられる網刃30は、表面に硬質のポリ四フッ化エチレンで摩擦低減皮膜34が形成されており、樋形状に湾曲した状態で刃枠20に取り付けられる。網刃30は、雌治具41と雄治具42からなる熱処理治具40にセットされ、刃枠20に取り付けられるときの湾曲状態に保持された状態で炉に入れられて加熱され、所定時間維持される。この過程で網刃30の内部応力が軽減される。所定時間経過後、熱処理治具40を炉から出し、液体に浸漬する。これによって網刃30は急冷され、焼き入れ効果が生じる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電気かみそりの網刃を処理する方法及びそれによって処理された電気かみそりの網刃に関する。
【背景技術】
【0002】
電気かみそりには回転式と振動式の二方式がある。回転式電気かみそりでは肌に当たる外刃と回転する内刃の間で髭を切断し、振動式電気かみそりでは肌に当たる外刃と振動する内刃の間で髭を切断する。振動式電気かみそりでは、髭を誘い込む小孔を多数備えた平板状の網刃をプレス成型や電鋳法で形成し、この網刃を樋形状に湾曲させて刃枠に取り付け、外刃とすることが多い。
【0003】
振動式電気かみそりの外刃を構成する網刃の例を特許文献1、2に見ることができる。いずれの文献にも、電鋳法により形成した網刃が開示されている。また、特許文献1には、肌との滑りを良くし、汚れ及び微粉末が付着しにくくするため、網刃の表面にフッ素樹脂と金属の複合メッキ層を形成する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭62−117584号公報(国際特許分類:B26B19/04)
【特許文献2】特開2004−242966号公報(国際特許分類:B26B19/00、B26B19/16、C25D1/10)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記網刃は、製造時点では概ね平板状である。この網刃を樋形状に湾曲させると、網刃の肉厚の内部に応力が発生する。すなわち中立線を境にして外側では引張応力が発生し、内側では圧縮応力が発生する。網刃表面に形成した摩擦低減皮膜にも引張応力が発生する。摩擦低減皮膜が網刃母材よりも硬質のフッ素樹脂からなる場合など、内部に引張応力が存在する状態で肌に押し当てて加圧状態で使用していると、繰り返し加圧により摩擦低減被膜に応力割れが発生することがあった。
【0006】
また、樋形状に湾曲させた平板状の網刃は、引張応力と圧縮応力を旧に復そうとする復元性向で平板状に戻ろうとする。このため、内刃と密着するエリアを拡大することには困難が伴い、シェービング時に肌から圧力を受けて内刃形状そのままに形状が追随する追随性にも影響が生じていた。
【0007】
また、最近の振動式電気かみそりは3枚刃、4枚刃など刃の数を多くする傾向にあり、個々の網刃の湾曲の曲率半径が小さくなってきていることも、上記問題を深刻化させていた。
【0008】
本発明は上記の点に鑑みなされたものであり、振動式電気かみそりの外刃として用いる網刃の内部応力を軽減して摩擦低減被膜の応力割れを防ぐとともに、内刃に密着するエリアの拡大を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明に係る電気かみそりの網刃処理方法は、表面に摩擦低減皮膜が形成された網刃を、刃枠に取り付けられるときの湾曲状態に保持した状態で加熱し、所定時間維持した後、急冷することを特徴としている。
【0010】
この構成によると、網刃の内部応力が軽減されることから、摩擦低減皮膜の応力割れを防ぐことができる。また、網刃が湾曲状態から平板状態に戻ろうとする性向を抑え、内刃に密着するエリアを拡大することができる。
【0011】
また本発明は、上記構成の電気かみそりの網刃処理方法において、処理の間、前記網刃は雌雄の治具に挟み込まれて湾曲状態に保持されることを特徴としている。
【0012】
この構成によると、目的とする応力軽減効果を、処理される網刃の全てに、確実に生じさせることができる。
【0013】
また本発明は、上記構成の電気かみそりの網刃処理方法で処理された電気かみそりの網刃であることを特徴としている。
【0014】
この構成によると、摩擦低減被膜の応力割れのない、内刃との密着性の良い網刃を内刃に組み合わせることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によると、電気かみそりの網刃を、湾曲状態で使用しても内部応力の少ないものとすることができ、摩擦低減皮膜の応力割れの懸念をなくすことができる。また、内刃との密着エリアが拡大し、剃り心地の良さを高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】振動式電気かみそりの正面図である。
【図2】外刃の刃枠と、それに湾曲状態で取り付けられる網刃の斜視図である。
【図3】網刃の平面図である。
【図4】網刃の部分拡大断面図である。
【図5】網刃湾曲部の拡大断面図である。
【図6】網刃及びその熱処理治具の斜視図である。
【図7】網刃を熱処理治具にセットした状態の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1に示す電気かみそり1は振動型電気かみそりであって、ケース10の上部に外刃と内刃からなる刃部11を有する。ケース10の正面には、内刃を駆動するモータをON/OFFさせる開閉スイッチのスライドつまみ12が配置されている。刃部11は3枚刃の構成であり、外刃と内刃の組み合わせが3組、互いに平行に配置されている。
【0018】
外刃は、図2に示す刃枠20に、樋形状に湾曲された網刃30を組み合わせて構成される。図3に示すように、網刃30の中央領域には、髭を誘い込む小孔31が多数形成されるとともに、長手方向の2辺には、刃枠20の側面に互いに間隔を置いて設けられた複数の突起21に係合する複数の係合穴32が形成されている。小孔31の縁の部分は、図4に示すように鋭いエッジ33となっている。
【0019】
網刃30は電鋳法またはプレス成型で形成される。プレス成型で形成した網刃30は平板状であるし、電鋳法で形成した網刃30も、大直径のドラムの表面に電鋳されるため、ドラムから取り外した状態ではほぼ平板状である。
【0020】
網刃30の表面には摩擦低減皮膜34が形成される。摩擦低減皮膜34は、硬質のポリ四フッ化エチレン(PTFE)を素材として、特許文献1に開示されたものと同様のメッキ法で形成することができる。
【0021】
網刃30を湾曲させると、その肉厚の内部に引張応力が作用する領域と圧縮応力が作用する領域が生まれる。図5に仮想的に示す中立線35の半径方向外側には引張応力が作用し、中立線35の半径方向内側には圧縮応力が作用する。摩擦低減被膜34にも引張応力が作用する。このような応力を存在させたまま肌に押し当てて使用すると、繰り返し加圧により摩擦低減皮膜34に応力割れが発生する可能性があるので、応力軽減の手立てをとる。本発明では、以下に説明する網刃30の熱処理がその手立てということになる。
【0022】
網刃30の熱処理のため、図6に示す熱処理治具40を用いる。熱処理治具40は雌治具41と雄治具42の組み合わせより構成される。雌治具41と雄治具42は、いずれもある程度の熱に耐えられる金属、例えば鋼鉄からなる。雌治具41は断面U字形の樋の形状をしており、その湾曲部の曲率半径は、網刃30を湾曲させて刃枠20に取り付ける際の網刃30外面の曲率半径に一致している。雌治具41には、網刃30に形成された複数の係合穴32の内、網刃30が湾曲せしめられたことにより互いを透かし見ることができる位置に来た係合穴32同士の組み合わせ2組に対応する位置に、ピン43を通すピン通し穴44が形成されている。
【0023】
雄治具42は雌治具30からはみ出す長さの円筒状の棒であり、雌治具30に入る部分は断面半円形にカットされ、その半円形断面部45に、把手形状の板ばね46が固定されている。半円形断面部45の曲率半径は、網刃30を湾曲させて刃枠20に取り付ける際の網刃30内面の曲率半径に一致している。
【0024】
網刃30を熱処理する際は、雌治具41の中に網刃30を入れた後、雄治具42を上から押し込む。そして雌治具41の一方の側から2本のピン43を挿入する。ピン43は、ピン通し穴44から網刃30の一辺側の係合穴32を通り、板ばね46を圧迫しつつ板ばね46の上面をかすめた後、網刃30の他辺側の係合穴32とそれに対応するピン通し穴44を通って雌治具41の外に抜ける。ピン43で板ばね46が圧迫されることにより、雄治具42は雌治具41の底に網刃30をぴったりと押し付ける。雌治具41と雄治具42に挟まれて、網刃30は刃枠20に取り付けられるときの湾曲状態に保持されることになる。このように熱処理治具30に網刃30をセットした状態を図7に示す。
【0025】
上記のように網刃30をセットした熱処理治具40を図示しない炉に入れて加熱し、所定時間維持する。加熱する温度としては、例えば200℃、維持する時間としては、例えば10分間といった値を選択することができる。
【0026】
所定時間経過後、熱処理治具40を炉から引き出して液体―例えば水―に浸漬し、網刃30を急冷する。これにより、網刃30に焼き入れ効果が生じる。
【0027】
手でさわれる程度まで熱処理治具40の温度が下がったら、それを液体から引き上げ、ピン43を抜いて雄治具42と雌治具41を分離する。そして網刃30を取り出す。
【0028】
上記のように熱処理された網刃30は、その肉厚内に生じていた応力が、引張方向のものも圧縮方向のものも、軽減されている。摩擦低減被膜34の内部の引張応力も軽減されている。このため、刃枠20に取り付けて使用を開始しても、摩擦低減皮膜34に応力割れが生じにくい。また、内刃に密着するエリアも拡大しているから、剃り心地の良さが高まる。網刃30に焼き入れ効果が生じていることも、切断の切れ味向上に貢献する。
【0029】
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明の範囲はこれに限定されるものではなく、発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加えて実施することができる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は、振動式電気かみそりの網刃に広く利用可能である。
【符号の説明】
【0031】
1 電気かみそり
10 ケース
11 刃部
20 刃枠
30 網刃
31 小孔
34 摩擦低減皮膜
40 熱処理治具
41 雌治具
42 雄治具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に摩擦低減皮膜が形成された網刃を、刃枠に取り付けられるときの湾曲状態に保持した状態で加熱し、所定時間維持した後、急冷することを特徴とする電気かみそりの網刃処理方法。
【請求項2】
処理の間、前記網刃は雌雄の治具に挟み込まれて湾曲状態に保持されることを特徴とする請求項1に記載の電気かみそりの網刃処理方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の電気かみそりの網刃処理方法で処理されたことを特徴とする電気かみそりの網刃。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−240171(P2010−240171A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−92534(P2009−92534)
【出願日】平成21年4月7日(2009.4.7)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【出願人】(000214892)三洋電機コンシューマエレクトロニクス株式会社 (1,582)
【Fターム(参考)】