説明

電気かみそり

【課題】長毛やくせ毛を効率的に切断することができる電気かみそりを提供する。
【解決手段】網刃体46の髭導入孔52の形成領域の外表面に、これに密着する複数本の起毛用ワイヤー45を配置する。ワイヤー45の線径(t3)は、網刃体46の厚み寸法(t1)よりも大きく設定し、網刃体46に開設された髭導入孔52の開口寸法(t2)よりも小さく設定する。ワイヤー45を網刃体46の外表面に密着維持するための引っ張り手段Sを設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、網刃体を含む固定外刃と、この固定外刃に内接摺動する可動内刃とを備えた電気かみそりに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、往復動式内刃や回転式内刃をもつ電気かみそりの分野において、それらのアーチ状またはドーム状の外刃自体に、剃り残し等で長くなった長毛、あるいはくせ毛を起こして剃り易いように凸リブや長孔を設けることは、特許文献1に公知である。
【0003】
【特許文献1】実開昭58−143673号公報(図1、図2参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1においては、アーチ状の外刃の肌面に対し最も接触し易い中央部に本来の短毛切断用の髭導入孔を設け、長毛あるいはくせ毛を起こすための凸リブや長孔は、その髭導入孔領域の外側端に偏して設けてある。こうした凸リブや長孔が設けられる箇所は外刃の肌面に対し接触しにくい箇所であり、しかも外刃の限られた有効面積に設けられる関係上、その長孔開孔面積が制約されて狭いため、肌面との接触面積が少ない。このため長毛やくせ毛の起こし機能が満足に行われていないのが現状であり、長毛やくせ毛を捕まえて切断するのにあまりにも時間が長く掛かり過ぎる。
【0005】
そこで本発明の目的は、短毛、長毛およびくせ毛などの髭を確実に起こすことができるようにして、効率的な髭剃り操作を実行できる電気かみそりを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は図1および図8に示すように、網刃体46を含む固定外刃15と、この固定外刃15に内接摺動する可動内刃13とを備える電気かみそりであって、網刃体46の髭導入孔52の形成領域の外表面に、該当の外表面に密着する複数本の起毛用ワイヤー45が配置されていることを特徴とする。ここでの「ワイヤー」とは、金属線状体だけでなく、釣り糸のごとく樹脂製の線状体をも含む概念である。
【0007】
図4に示すように、ワイヤー45の線径(t3)は、網刃体46の厚み寸法(t1)よりも大きく設定することが好ましい。
【0008】
ワイヤー45の線径(t3)は、網刃体46に開設した髭導入孔52の開口寸法(t2)よりも小さく設定することが好ましい。ここでの髭導入孔52の開口寸法(t2)とは、髭導入孔52の最大内形寸法を意味しており、髭導入孔52が円孔状の場合には、その内径寸法を、髭導入孔52が四角孔状の場合には、その対角寸法を意味する。尤も、本発明における髭導入孔52の形状は、先の円孔状や四角孔状に限定されない。具体的には、網刃体46の厚み寸法(t1)は60μm程度、髭導入孔52の開口寸法(t2)は300μm〜450μm、ワイヤー45の線径(t3)は70μm〜130μmに設定することができる。
【0009】
網刃体46の外表面にワイヤー45を密着するよう維持するための引っ張り手段Sを設けることが好ましい。図3には、段部51および保持枠47を主要構成要素とする引っ張り手段Sを示しており、この引っ張り手段Sによれば、外刃ホルダー16をヘッドケース12に装着したとき、ワイヤー45の後端部分が前壁側の段部51に押されることにより、ワイヤー45が図6に示すような直線姿勢から、図3に示すような網刃体46の後縁に沿う略L字姿勢に撓み変形するので、ワイヤー45の全体を網刃体46の外表面に強く押し付けて、ワイヤー45を網刃体46の外表面に密着維持できる。図9には、ワイヤー45の後端を固定保持し、保持枠47内で上下方向にスライド移動可能に構成されたスライド体90と、スライド体90を下向きに移動付勢するコイル形のばね91とを主要構成要素とする引っ張り手段Sを示している。この引っ張り手段Sによれば、ばね91の付勢力を受けてスライド体90が保持枠47内で下向きに変位移行されることにより、ワイヤー45の後端を下方に引っ張って、網刃体46の外表面上にワイヤー45を緊張状態に密着維持できる。
【0010】
図1および図3に示すごとく、固定外刃15はシート状の網刃体46を左右横長のアーチ形状に保形して、網刃体46の幅方向(前後方向)にわたってアーチを跨ぐように、左右方向に等間隔を置いて複数本のワイヤー45が、網刃体46の髭導入孔52の形成領域の外表面に配された形態を採ることができる。
【0011】
または、図7および図8に示すごとく、固定外刃15はシート状の網刃体46を左右横長のアーチ形状に保形して、網刃体46の髭導入孔52の領域の外表面に、左右方向に向かって複数本のワイヤー45が配された形態を採ることができる。
【発明の効果】
【0012】
網刃体46の髭導入孔52の形成領域の外表面に、複数本の起毛用のワイヤー45が密着するよう配されていると、髭剃り動作時のワイヤー45と肌面との接触機会を良好に確保できるので、ワイヤー45で短毛や長毛やくせ毛などの髭を効果的に起こして、これらを髭導入孔52から可動内刃13の切断領域内に引き入れて切断することが容易となる。つまり、網刃体46の外表面に複数本の起毛用のワイヤー45を密着配置してあると、特許文献1の従来形態ように、起毛用部材を髭導入孔領域の外側端に偏して設ける形式に比べて、肌面とワイヤー45との接触機会を格段に向上できるため、髭を効果的に起毛して、これらを短時間で効率的に切断できる。
【0013】
図4に示すごとく、ワイヤー45の線径(t3)が、網刃体46の厚み寸法(t1)よりも大きく設定されていると、これとは逆にワイヤー45の線径(t3)が網刃体46の厚み寸法(t1)よりも小さな形式に比べて、ワイヤー45これ自身の強度を良好に確保でき、ワイヤー45が髭導入孔52内に垂れ込むことを良く阻止できる。
【0014】
図4に示すごとく、ワイヤー45の線径(t3)が髭導入孔52の開口寸法(t2)よりも小さく設定されていると、ワイヤー45を設けたことによる髭導入孔52への髭の導入動作が阻害される不具合を最小限に抑えることができる。
【0015】
ワイヤー45を網刃体46の外表面に密着維持するための引っ張り手段が設けられていると、ワイヤー45が不用意に緩むのを防いで、ワイヤー45を緊張状態に維持し、ワイヤー45が髭導入孔52内に垂れ込むことを良く防止できる。
【0016】
図1に示すように、前後方向に複数本のワイヤー45を配した形態を採る場合には、電気かみそりを左右方向に動かしたときに、該ワイヤー45による起毛効果が良好に発揮されるため、当該左右方向の動作により、確実に短毛や長毛やくせ毛を起毛させて、これらを効率的に切断できる。
【0017】
図7に示すように、左右方向に複数本のワイヤー45を配した形態を採る場合には、電気かみそりを前後方向に動かしたときに、ワイヤー45による起毛効果が良好に発揮されるため、当該前後方向の動作により、確実に髭を起毛して、これらを効率的に切断できる。この種の左右方向に長いヘッド部3を有する電気かみそりでは、通常は前後方向にヘッド部3を動かして髭剃りを行う。したがって、上述のように左右方向にワイヤー45を配して、前後方向にヘッド部3を動かしたときに起毛効果が発揮されるようにしてあると、より効率的に髭を剃り上げることができ、実用利便性に優れた電気かみそりが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
(第1実施形態)
図1ないし図6は本発明をロータリー式の電気かみそりに適用した第1実施形態を示す。図2において電気かみそりは、グリップを兼ねる卵形の本体部1と、本体部1に連続して上向きに突設されたU字状の支持腕2と、支持腕2で浮動支持されるヘッド部3とを備えている。
【0019】
本体部1の内部には、回路基板5と2個の2次電池6とを収容してある。本体部1の前面には化粧パネル7が配置されており、その上下に押しボタン型のスイッチボタン9と、スイッチボタン9がオン操作されたときに点灯する第1表示灯10と、充電時に点灯する第2表示灯11などを配置してある。
【0020】
図1ないし図4においてヘッド部3は、ヘッドケース12と、ヘッドケース12に組み込まれる可動内刃13、固定外刃15および外刃ホルダー16と、内刃駆動用のモーター17と、モーター動力を内刃13に伝動するギヤ機構19とを含む。
【0021】
図3において、ヘッドケース12は、前後に分割される半円筒状の前ハーフ12aおよび後ハーフ12bを蓋合わせ状に結合してなる。図1および図4に示すように、ヘッドケース12の下面両側には、左右一対の支持脚20・20を突設してあり、これらの支持脚20・20をフロートばね21を介して支持腕2で支持することにより、ヘッド部3は左右傾動あるいは左右同時昇降可能に浮動支持した。
【0022】
可動内刃13はロータリー刃からなり、その両端の軸部分を内刃支持台22で回転自在に軸支してある。固定外刃15は網刃で形成されており、後述するように外刃ホルダー16によってアーチ状に保形して支持される。モーター17は前後周面が平坦に形成してあり、その一側に出力軸23を有し、他側から給電リード25を導出する。
【0023】
ヘッド部を水洗い可能とするために、モーター17をハウジング26内に収容して水密状に封止する。図4においてハウジング26は、左右に分割される第1・第2のケース27・28と、両ケース27・28を分離不能に係合するクリップ30などで構成する。第1ケース27は、モーター17の全体を収容できる有底筒状に形成してある。第2ケース28は第1ケース27の開口を塞ぐ浅い皿形状に形成してある。クリップ30は、ばね板材を素材とするコ字状のプレス成形品であり、両ケース27・28の対向周面を同時に挟持して、両ケース27・28を分離不能に固定する。
【0024】
第1ケース27の側端上面には、内刃支持台22を支持する内刃ブラケット31を一体に形成する。第2ケース28の上面にも、同様の内刃ブラケット32を一体に形成し、これらの内刃ブラケット31・32に内刃支持台22を橋絡状に載置し、図4に示すように内刃支持台22をビス33で締結することにより、内刃支持台22をハウジング26と一体化できる。
【0025】
モーター17は、その出力軸23が側端壁から突出する状態で第1ケース27内に組み込まれ、出力軸26と第1ケース27の開口部分との隙間が第1パッキン35でシールされている。第1ケース27と第2ケース28との接合部分は、第2パッキン36でシールする。
【0026】
上記のようにモーター17が収容されたハウジング26は、図3に示すように前ハーフ12aと後ハーフ12bとで前後方向に挟み、両ハーフ12a・12bの接合縁を互いに係合し、さらに上側接合面の左右を一対のビス37(図4参照)で締結することにより、ハウジング26をヘッドケース12に一体化する。図4において給電リード25は、第2ケースの側端壁に開口した上下一対のリード穴からハウジング26の外へ導出し、支持脚20を介して本体部に配線する。
【0027】
ギヤ機構19は、平歯車群からなるギヤトレインで構成してあり、出力軸23の回転動力を可動内刃13に固定した終段ギヤ39に減速した状態で伝動する。
【0028】
ヘッドケース12に装着の外刃ホルダー16をロック保持するために、ヘッドケース12の側壁の内面にはロック解除ボタン40を配置し、このボタン40を圧縮コイル形のばね41でロック付勢している。ばね41の付勢力に抗してロック解除ボタン40を押し込み操作すると、ロック解除ボタン40に設けたロック爪42と、外刃ホルダー16に設けたロック凹部43との係合状態が解除されるので、外刃ホルダー16をヘッドケース12から取り外すことができる。
【0029】
本実施形態は上記構造の電気かみそりにおいて、図1に示すごとく、固定外刃15の外表面に、これに密着するよう複数本の起毛用ワイヤー45を配置してある点が着目されるべきである。ここでは7本のステンレス製のワイヤー45が、左右方向の定ピッチ位置に固定外刃15の上面を前後方向に跨ぐように配設されている。
【0030】
図5において固定外刃15は、ニッケル、あるいはニッケルコバルト合金を用いて電鋳法によって形成したシート状の網刃体46と、網刃体46の対向縁の後端側に固定される保持枠47と、網刃体46の対向縁の前端側に装着される緊張構造49とを含む。この緊張構造49は、網刃体46を緊張状態に維持し、可動内刃13の先端に網刃体46を密着させることを目的とする。本実施形態では、これら保持枠47と緊張構造49との間に、網刃体46の上面を前後方向に跨ぐようにワイヤー45を配設した。図6に示すように、外刃ホルダー16の前壁の内面には、先の緊張構造49を受け止める段部50が形成されており、外刃ホルダー16の後壁の内面には、前記保持枠47を受け止める段部51が形成されている。図4に示すごとく、網刃体46の厚み寸法(t1)は60μm、網刃体46に形成された髭導入孔52の開口寸法(t2)は300μmとし、ワイヤー45の線径寸法(t3)は70μmとする。図5において、符号53はワイヤー45の両端に形成された抜け止め用の球状体を示しており、ここではワイヤー45の先端を溶融することにより球状体53を形成した。図3において符号Sは、ワイヤー45を網刃体46の外表面に密着維持するための引っ張り手段を示しており、ここでは、段部51、保持枠47および緊張構造49などで、本発明で言うところの引っ張り手段Sを構成した。この引っ張り手段Sの作用については後に詳述する。
【0031】
保持枠47は左右横長のベース部55を基体とするプラスチック成形品であり、その片面(後面)に網刃体を固定ための4個の溶着ピン56が突設されており、下面中央に指掛部57が突設されている。図6に示すように、溶着ピン56を網刃体46の後縁に沿って設けたピン孔59に外面側から係合し、溶着ピン56の突端を溶融変形することにより、保持枠47を網刃体46と一体化できる。
【0032】
ベース部55の後面には、ワイヤー45を組むための縦溝60が、ベース部55の上縁から下方に向かって上下方向に長く刻設されている。本実施形態では、7本の縦溝60を左右方向に等間隔を置いて刻設してある。各縦溝60の下端には、球状体53を受け入れるための凹部61が、縦溝60に連続して凹み形成されている。図6に示すように、ワイヤー45および球状体53は、縦溝60および凹部61内に外面側から嵌め込み、凹部61の前方開口を塞ぐように該凹部61の周縁を溶融変形することにより、ワイヤー45と保持枠47とを一体化できる。
【0033】
緊張構造49は、付勢枠62と、付勢枠62とともに網刃体46に固定されるばね体63と、付勢枠62およびばね体63の外面を覆う状態で付勢枠62に装着される保護カバー65とで構成する。
【0034】
付勢枠62は左右横長のプラスチック成形品であり、その後面にばね体63を組むためのコ字状の溝66を刻設し、該溝66で囲まれる後壁面に4個の溶着ピン67を突設してある。付勢枠62の下面中央には、前記指掛部57と同様の指掛部69を突設してある。付勢枠62の後面には、前記縦溝60および凹部61と同様の縦溝70および凹部71を刻設してある。ばね体63は、左右横長の四角枠状のベース部72と、ベース部72の上縁2箇所から前面側に向かって折り曲げられる掛止壁73と、各掛止壁73の左右両端から斜め上向きに連出されるばね腕75とを一体に備えており、ステンレス板材をプレス成形して得る。網刃体46の前縁には、溶着ピン67用のピン孔76を形成してある。
【0035】
付勢枠62の溝66に、ばね体63のベース部72を嵌め込み、次いでワイヤー45および球状体53を縦溝70および凹部71内に嵌め込む。さらに網刃体46のピン孔76に溶着ピン67を外面側から係合する。この状態から溶着ピン67の突端を網刃体46の内面側で溶融変形させることにより、付勢枠62およびばね体63を網刃体46に分離不能に溶着固定することができる。図6に示すように、縦溝70および凹部71の後方開口を網刃体46で塞ぐことで、付勢枠62に対してワイヤー45を抜け止め不能に固定保持できる。この組み付け状態において、ばね体63の掛止壁73は、付勢枠62の上面で受け止め支持されている。以上のように、保護枠47と緊張構造49との間にワイヤー45を装着固定したとき、図6に示すごとくワイヤー45は、その後端部が網刃体46の後縁から浮き離れた前方斜めに傾斜する直線姿勢にある。
【0036】
図5において、保護カバー65は、ステンレス板材を素材にしたプレス形成品であり、付勢枠62より上下幅が大きな帯板状のガイド壁77を有し、その左右両端にガイド壁77と協同して付勢枠62の側端を前後に挟持する一対の抱持腕79が折り曲げ形成されている。ガイド壁77の上下には、ばね腕75を受け止める上壁80と、付勢枠62の下方移動限界を規制する左右一対のストッパー81・81とを一体に備えている。
【0037】
上記構成の固定外刃15は、保持枠47および付勢枠49に設けた指掛部57・69を親指と人差指とでつまんで、図6に示すように網刃体46をアーチ状に湾曲した状態で外刃ホルダー16に下面側から組み付け、保持枠47の上面を後壁側の段部51と接触させ、同様に保護カバー65の上壁を前壁側の段部50に接触させる。このとき、ワイヤー45は後壁側の段部51に押されて、図3に示すように、網刃体46の外表面に沿うような姿勢状態となる。この後に外刃ホルダー16をヘッドケース12に装着することにより、網刃体46が緊張構造49で押し下げ付勢されて可動内刃13の内面に密着する。この装着状態においては、ばね腕75が弾性変形された網刃体46を押し下げ付勢するので、網刃体46が可動内刃13との摩擦によって回転下手側へ引っ張られることがあっても、網刃体46が緩むのを阻止して緊張状態を維持できる。保持枠47および付勢枠62に設けた指部掛け57・69は、図1に示すように、外刃ホルダー16の前後壁に隙間を介して対向しているので、固定外刃15を交換する場合には、指掛部57・69をつまんで網刃体46を湾曲させることにより、固定外刃15を外刃ホルダー16から容易に分離できる。なお、図3において白抜き矢印は、可動内刃13の回転方向を示す。
【0038】
かかる装着状態においては、ワイヤー45の後端部分が前壁側の段部51に押し付けられることにより、ワイヤー45が図6に示すような直線姿勢から、図3に示すような網刃体46の後縁に沿う略L字姿勢に撓み変形し、ワイヤー45の全体を網刃体46の外表面に強く押し付けることができる。これにて網刃体46の外表面上にワイヤー45が緊張状態に密着するので、網刃体46を肌面に強く押し付けながら、電気かみそりを動かしたときにも、ワイヤー45が不用意に緩んだり、位置ズレしたりすることがない。
【0039】
以上のように、起毛用のワイヤー45を固定外刃15(網刃体46)の上面に密着配置してあると、髭剃り動作時のワイヤー45と肌面との接触機会を良好に確保できるので、ワイヤー45で短毛や長毛やくせ毛などの髭を起こして、これを髭導入孔52から可動内刃13の切断領域内に引き入れて切断することが容易となる。したがって様々な方向に生えている髭を短時間で効率的に剃り上げることが可能となる。
【0040】
本実施形態に係る電気かみそりのように、左右に長いアーチ状の固定外刃15を髭切断要素とする形式では、網刃体46の上面を肌面に当てながら、電気かみそりのヘッド部3を左右方向に動かすと、常に網刃体46の上面が肌面に接触した状態となる。このため、従来形態の固定外刃15の形態では、長毛やくせ毛を起毛させることができず、これらを効率的に切断できない点に不利があった。つまり、電気かみそりのヘッド部3を前後に動かして髭切断動作を行ったときには、網刃体46の上面の前後には肌面と非接触となる部分ができるため、当該非接触部分に係る網刃体46の髭導入孔52を介して、長毛やくせ毛を可動内刃13の髭切断領域に引き入れて、これを切断することが比較的容易であるものの、これとは別に電気かみそりのヘッド部3を左右方向に動かしたときには、常に網刃体46の上面が肌面をなぞることとなるため、長毛等を起毛させることが容易でなく、これらを効率良く切断することができない点に不満があった。その点、本実施形態のように、固定外刃15の上面を跨ぐように前後方向にワイヤー45を配設してあると、電気かみそりを左右方向に動かしたときに、該ワイヤー45による起毛効果が良好に発揮されるため、当該左右方向の動作により、確実に長毛やくせ毛を起毛させて、これらを効率的に切断することが可能となる。
【0041】
図4に示すように、ワイヤー45の線径(t3)を網刃体46の厚み寸法(t1)よりも大きく設定してあると、これとは逆にワイヤー45の線径(t3)を網刃体46の厚み寸法(t1)よりも小さく設定した形式に比べて、ワイヤー45これ自身の強度を良好に確保して、ワイヤー45が髭導入孔52に垂れ込むのを良く阻止できる。これによれば、ワイヤー45と可動内刃13との接触を防ぐことができるので、ワイヤー45の損傷を防ぐに有利である。ワイヤー45の線径(t3)を髭導入孔52の開口寸法(t2)よりも小さく設定してあると、ワイヤー45を設けたことによる髭導入孔52への髭の導入動作が阻害される不具合を最小限に抑えて、髭切断を効率的に行える。換言すれば、ワイヤー45の線径(t3)は、網刃体46の厚み寸法(t1)よりも大きく、網刃体46に開設された髭導入孔52の開口寸法(t2)よりも小さなもの((t1)<(t3)<(t2))に設定することが最適である。
【0042】
(第2実施形態)
図7および図8には本発明の第2実施形態を示す。そこでは、網刃体46の外表面に、起毛用のワイヤー45を左右方向に密着配置してある点が先の第1実施形態と相違する。具体的には、網刃体46の外表面の前後方向の定ピッチ位置に、左右方向に走るように5本のワイヤー45を密着配置した。各ワイヤー45は、その両端を網刃体46の外表面にスポット溶接することにより固定した。それ以外については第1実施形態と同様であるので、同一部材には同一符号を付してその説明を省略する。
【0043】
このように、網刃体46の外表面に左右方向に長くワイヤー45が密着配置されていると、電気かみそりを前後方向に動かしたときに、ワイヤー45による起毛効果が良好に発揮される。したがって、第1実施形態のように、長毛やくせ毛を起毛させるために、電気かみそりを左右方向に動かす必要がなく、前後方向の髭剃り動作だけで長毛等を効率的に切断できる点で優れている。
【0044】
(第3実施形態)
図9に本発明の第3実施形態を示す。そこでは、ワイヤー45の後端を固定保持し、保持枠47内で上下方向にスライド移動可能に構成されたスライド体90と、スライド体90を下向きに移動付勢するコイル形のばね91とで引っ張り手段Sを構成してある点が、先の第1実施形態と相違する。この引っ張り手段Sでは、ばね91の付勢力を受けてスライド体90が保持枠47内で下向きに変位移行されることにより、ワイヤー45の後端を下方に引っ張って、これを網刃体46の外表面上に緊張状態に密着させている。これによれば、ばね91の付勢力によってワイヤー45を引っ張る仕様であるため、経年使用によってワイヤー45自身が伸びてもこれが緩むおそれが少なく、ワイヤー45の良好な緊張状態が長期にわたって持続される点で優れている。
【0045】
上記の引っ張り手段Sにおいては、左右方向に長い一本のスライド体90に全てのワイヤー45を固定保持させてもよいし、ワイヤー45ごとにスライド体90とばね91を設けて、各ワイヤー45を独立して引っ張ることができるようにしてもよい。後者形態によれば、各ワイヤー45を他のワイヤー45の影響を受けることなく引っ張って、これを網刃体46の外表面上に緊張状態に密着させることができるので、他のワイヤー45の影響を受けてワイヤー45が不用意に緩むような不具合がなく、起毛効果が安定的に発揮される点で優れている。
【0046】
第1および第3実施形態には前後方向にワイヤー45を配置した形式を示し、第2実施形態には左右方向にワイヤー45を配置した形式を示したが、両形式に係るワイヤー45を共に備えるものであってもよい。つまり、前後と左右のワイヤー45からなる網状とすることができる。
【0047】
上記の実施形態では、本発明をロータリー式の電気かみそりに適用した場合について説明したが、可動内刃が左右方向へ往復摺動される往復動式の電気かみそりや、ドーム型の固定外刃内で円盤状の可動内刃が回転摺動される回転式の電気かみそりにも等しく適用できる。ステンレスなどの金属製のワイヤー45に替えて、釣り糸のようなナイロンなどの樹脂製のワイヤーを配する形態を採ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】第1実施形態に係る電気かみそりのヘッド部の分解正面図
【図2】第1実施形態に係る電気かみそりの外観図
【図3】第1実施形態に係るヘッド部の縦断側面図
【図4】第1実施形態に係るヘッド部の縦断正面図
【図5】第1実施形態に係る固定外刃の分解斜視図
【図6】第1実施形態に係る固定外刃と外刃ホルダーとを分離した状態の縦断側面図
【図7】第2実施形態に係る電気かみそりを構成する網刃体の斜視図
【図8】第2実施形態に係る電気かみそりのヘッド部の縦断側面図
【図9】第3実施形態に係る電気かみそりのヘッド部の縦断側面図
【符号の説明】
【0049】
13 可動内刃
15 固定外刃
45 ワイヤー
46 網刃体
52 髭導入孔
S 引っ張り手段
t1 網刃体の厚み寸法
t2 髭導入孔の開口寸法
t3 ワイヤーの線径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
網刃体(46)を含む固定外刃(15)と、該固定外刃(15)に内接摺動する可動内刃(13)とを備える電気かみそりであって、
網刃体(46)の髭導入孔(52)の形成領域の外表面に、該当の外表面に密着する複数本の起毛用ワイヤー(45)が配置されていることを特徴とする電気かみそり。
【請求項2】
ワイヤー(45)の線径(t3)が、網刃体(46)の厚み寸法(t1)よりも大きく設定されている請求項1記載の電気かみそり。
【請求項3】
ワイヤー(45)の線径(t3)が、網刃体(46)に開設した髭導入孔(52)の開口寸法(t2)よりも小さく設定されている請求項1又は2記載の電気かみそり。
【請求項4】
網刃体(46)の外表面に、ワイヤー(45)を密着するよう維持するための引っ張り手段(S)を備えている請求項1記載の電気かみそり。
【請求項5】
固定外刃(15)は、シート状の網刃体(46)を左右横長のアーチ形状に保形してなり、
網刃体(46)の幅方向(前後方向)にわたってアーチを跨ぐように、左右方向に等間隔を置いて複数本のワイヤー(45)が、網刃体(46)の髭導入孔(52)の形成領域の外表面に配されている請求項1又は2又は3記載の電気かみそり。
【請求項6】
固定外刃(15)は、シート状の網刃体(46)を左右横長のアーチ形状に保形してなり、
網刃体(46)の髭導入孔(52)の領域の外表面に、左右方向に向かって複数本のワイヤー(45)が配されている請求項1又は2又は3記載の電気かみそり。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−280404(P2006−280404A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−100542(P2005−100542)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(000164461)九州日立マクセル株式会社 (338)
【Fターム(参考)】