説明

電気かみそり

【課題】緊張ばねを外刃の面壁と面一状に形成しながら、緊張ばねに要求されるばね特性を充分に発揮できるようにする。併せて、外刃の緊張構造を簡素し、組み付けをより少ない手間で簡便に行える電気かみそりを提供する。
【解決手段】外刃11の腰壁21に、緊張ばね24を一体に形成する。展開状態における外刃11の腰壁21に、ばね要素30と区分空間31とを交互に形成して、複数個のばね要素30で緊張ばね24を構成する。ばね要素30は、上支壁33と、下支壁34と、これらの支壁33・34に連続する上ばね腕35および下ばね腕36と、上下のばね腕35・36の側端を繋ぐ腕端壁37と、上下のばね腕35・36の間に形成される解離スリット38とで構成する。上下のばね腕35・36、および上下の支壁33・34を互いに遠ざかる向きに弾性変形させて、外刃11を引っ張り付勢する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電気かみそりの外刃、なかでも外刃の緊張構造に関する。
【背景技術】
【0002】
電気かみそりにおいては、切断負荷の急激な変動によって外刃が内刃から浮き離れ、あるいは過剰な切断負荷によって外刃が破損するのを防ぐために、外刃と外刃ホルダーとの間に緊張構造を設けている。緊張構造は、小さな捻りコイルばねや板ばね、あるいはプラスチック成形されたばねを緩衝体として構成することが多く、そのため、外刃や緊張ばねなどを外刃ホルダーの内面に組み付ける作業が煩雑化しやすい。このような組付作業の煩雑さを解消し、さらに緊張構造を簡素化してコスト削減を実現するために、緊張ばねを外刃と一体に設けることが以前から提案されている(特許文献1、2、3)。
【0003】
特許文献1では、外刃の前後縁の一側に一対のばね腕を備えた緊張ばねを折り曲げ形成し、両ばね腕の遊端を外刃ホルダーの内面凹部に掛止装着して、両ばね腕がたわみ変形することで、外刃を緊張ばねの側へ向かって引っ張り付勢している。特許文献2では、外刃の前後縁の左右に脚部を設け、各脚部の突端側をそれぞれ渦巻状に巻き込んで緊張ばねとしている。特許文献3では、外刃の一側縁の両隅にバーリング加工を施して四角形の掛止穴を形成し、各辺部の中央の橋絡部を除く掛止穴の周囲をL字状の切欠で囲み、さらに、橋絡部の外方を各辺部と平行な切欠で囲んで、掛止穴の周囲の分断された面壁を緊張ばねとしている。掛止穴は、外刃ホルダーの内面に設けた係合突起に掛止される。
【0004】
【特許文献1】実開昭54−13792号公報(第2頁第7〜11行、第3図)
【特許文献2】特開昭60−100991公報(第3頁右上欄第2文、第1図)
【特許文献3】実開昭54−44092号公報(第3頁第3〜12行、第3図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
先に説明した従来の緊張ばねは、いずれも外刃を形成するための金属シート材にプレス加工を施して形成している。そのため、緊張ばねの位置精度および形状精度がばらつきやすく、そのため個々の外刃の緊張力にばらつきを生じやすい。特許文献1の外刃は、ばね腕が厚み方向へたわみ変形する時の弾性を利用して外刃を引っ張り付勢するので、ばねの応答度がよく、ばねの弾性変形範囲も大きい。同様に、特許文献2の緊張ばねも、基本的にはばね部分が厚み方向へたわみ変形する時の弾性を利用しており、厚み方向が渦巻き状に連続して変化しているに過ぎないので、ばねの応答度がよく、ばねの弾性変形範囲も大きい。しかし、いずれの場合にも、外刃の面壁の外側面に緊張ばねが大きく突出するので、外刃の外刃ホルダーに対する組み付け構造が複雑になるうえ、緊張ばねを収容するためのスペースを外刃ホルダーの内部に確保する必要がある。
【0006】
その点、特許文献3の外刃は、掛止穴の周囲を囲む分断された面壁(緊張ばね)を外刃の面壁と面一状に設けるので、外刃の外刃ホルダーに対する組み付け構造を簡素化でき、組み付けの手間も省くことができる。緊張ばねを収容するためのスペースも最小限化できる。しかし、緊張ばねの構造が特異であるため、ばねの応答度や、ばねの弾性変形範囲など、緊張ばねに要求されるばね特性を充分に発揮できない。
【0007】
詳しくは、掛止穴の周囲を囲む分断された面壁(緊張ばね)が外刃の他の面壁と面一状に形成してあり、しかも、外刃の前後縁の左右両隅に限って分断された面壁(緊張ばね)を設けるので、例えば、外刃に切断負荷に相当する引っ張り力が作用したとしても、分断された面壁が伸び変形することはなく、よほど大きな外力が作用しない限りは伸び変形することはない。しかも、弾性変形し始めてから弾性限界に達するまでの弾性変形範囲はごく僅かでしかない。
【0008】
このことは、精密プレス法によって形成した外刃、あるいはエッチング法や電鋳法で形成された外刃を想定するとき、外刃を厚み方向へたわみ変形させて弾性を発揮させることは容易であるが、外刃にシート面と平行な引っ張り力を加えたとしても、外刃を弾性変形させることは極めて困難であることから容易に理解できるであろう。因みに、電鋳法で形成した外刃は、精密プレス法やエッチング法によって形成した外刃に比べて厚みが極端に薄いため、仮に、電鋳法で外刃ブランクを形成したのち、その一部にプレス加工を施して緊張ばねを折り曲げ形成したとしても、充分なばね弾性が得られない。
【0009】
本発明の目的は、展開状態における外刃の面壁と面一状に形成してある緊張ばねであるにもかかわらず、緊張ばねに要求されるばね特性を充分に発揮でき、したがって、外刃の緊張構造を簡素して、外刃ホルダーに対する組み付けをより少ない手間で簡便に行える電気かみそりを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の電気かみそりは、外刃ホルダー12で逆U字状に保形保持される外刃11と、外刃11の内面に沿って摺接する内刃9とを備えている。外刃11は刃主部20と、刃主部20に連続する前後一対の腰壁21とを一体に備えていて、外刃11の腰壁21に、外刃11を引っ張り付勢する緊張ばね24が一体に形成される。緊張ばね24は、展開状態における外刃11の面壁と面一状に形成される1個以上のばね要素30で構成する。
【0011】
緊張ばね24を構成するばね要素30の端部に、掛止穴26を含むばね側装着部25を形成する。
【0012】
外刃11のばね側装着部25は、各ばね要素30を橋絡する状態で連続形成する。
【0013】
ばね要素30の各構成部位の幅寸法を、ばね要素30の厚み寸法より大きく設定する。
【0014】
腰壁21に複数個のばね要素30と、隣接するばね要素30を区分する区分空間31とを交互に形成して、腰壁21とばね側装着部25とが、ばね要素30のみを介して繋がるようにする。
【0015】
ばね要素30は、壁21に連続する上支壁33と、ばね側装着部25に連続する下支壁34と、これらの支壁33・34に連続する上ばね腕35および下ばね腕36と、上下のばね腕35・36の側端を繋ぐ腕端壁37と、上下のばね腕35・36の間に形成される解離スリット38とで構成する。
【0016】
上ばね腕35と下ばね腕36の両側端のそれぞれは、端壁37で繋がれている。上支壁33と下支壁34の幅方向の中心どうしを結ぶ仮想中心を線対称軸にして、上ばね腕35および下ばね腕36と、腕端壁37と、解離スリット38を、線対称に形成する。
【0017】
ばね要素30を緊張させた状態において、上ばね腕35と下ばね腕36のそれぞれを、互いに逆向きに弾性変形させるようにする。
【0018】
上支壁33の曲げ弾性力と、下支壁34の曲げ弾性力とを大小に異ならせる。具体的には、上支壁33の上下方向の全長cを、下支壁34の上下方向の全長dより大きく設定する。また、上支壁33の左右方向の幅寸法aを、下支壁34の左右方向の幅寸法bより小さく設定する。
【発明の効果】
【0019】
本発明では、外刃11を引っ張り付勢するための緊張ばね24を、展開状態における外刃11の面壁と面一状に形成される1個以上のばね要素30で構成するので、緊張ばねが独立した部品として設けてある場合に比べて、外刃11および緊張ばね24を外刃ホルダー12などに組み付けるための作業を簡便化でき、さらに緊張構造を簡素化できる分だけコストを削減できる。ばね要素30を外刃11の面壁と面一状に形成するので、外刃ホルダー12の内部における緊張ばね24を収容するためのスペースを最小限化できる。とくに、外刃11を電鋳法で形成する場合には、ばね要素30の形状や、配置パターンなどを変更するだけで、緊張ばね24のばね特性を種々に変更して、外刃11と内刃9によるせん断条件に適合した緊張ばね24を容易に形成できる。
【0020】
ばね要素30の端部にばね側装着部25を一体に形成すると、緊張ばね24とは別に装着構造を設ける必要がなく、その分だけ外刃11および緊張ばね24を外刃ホルダー12などに組み付けるための作業をさらに簡便化し、同時に緊張構造を簡素化できる。
【0021】
外刃11において、ばね側装着部25が各ばね要素30を橋絡する状態で連続形成すると、隣接するばね要素30の突端どうしをばね側装着部25で橋絡して補強できるので、外刃11の取扱い時に各ばね要素30の一部が破損し、あるいは変形するのを防止して、耐久性を向上できる。とくに、外刃11を電鋳法で製造する場合には、電鋳完了後に外刃11を母型から剥離するときに、個々のばね要素30の一部が破損し、あるいはばね要素30に亀裂が生じるのを解消でき、外刃11の歩留まりを向上できる。さらに、外刃11を形成する際に同時にばね要素30を形成できるので、緊張ばね24の位置精度および形状精度のばらつきを解消して、個々の外刃11における緊張力のばらつきを一掃できる。電鋳法で外刃11を形成する場合には、必要に応じてばね要素30や刃主部20の厚みを部分的に調整し、他の部位の厚みと異ならせて機能を向上でき、例えば上支壁33と下支壁34の強度を大小に異らせるような場合に適用できる。
【0022】
ばね要素30の各構成部位の幅寸法を、ばね要素30の厚み寸法より大きく設定すると、ばね要素30の各構成部位の強度を確保しながら、充分な弾性を発揮できる緊張ばね24がえられる。因みに、ばね要素30の各構成部位の幅寸法が、ばね要素30の厚み寸法より小さい場合には、ばね要素30は弾性変形しやすくなるが、衝撃力や大きな外力が作用するとき破損しやすく耐久性に問題がある。
【0023】
腰壁21に複数個のばね要素30と、隣接するばね要素30を区分する区分空間31とを交互に形成する外刃11によれば、腰壁21とばね側装着部25とが、ばね要素30のみを介して繋がる構造となるので、外刃11に作用する外力を個々のばね要素30に直接作用させて、ばね要素30を等しく弾性変形させることができる。また、刃主部20の幅方向に均等に緊張力を作用させて、外刃11の幅方向の全面にわたって切れ味を向上できる。なお、緊張ばね24が1個のばね要素30で形成してある場合には、外刃11に外力が作用するときのばね要素30の応力が一箇所に集中するのを避けられず、そのため外刃11の幅方向に均等な緊張力を作用させることが難しく、外刃11の幅方向の全面にわたって切れ味を確保するのが困難となる。
【0024】
上下の支壁33・34と、これらの支壁33・34に連続する上ばね腕35および下ばね腕36と、上下のばね腕35・36の側端を繋ぐ腕端壁37と、上下のばね腕35・36の間に形成される解離スリット38とで構成したばね要素30によれば、上下のばね腕35・36が互いに逆向きに厚み方向へ変形することでばね弾性を発揮できるので、薄い面壁で形成してあるにもかかわらず充分なばね弾性を発揮でき、しかも耐久性に優れた緊張ばね24が得られる。外刃11の面壁と面一にばね要素30を形成するので、緊張構造を簡素化してコストを削減できるうえ、外刃11および緊張ばね24を外刃ホルダー12などに組み付けるための作業も簡便化できる。
【0025】
上支壁33と下支壁34の幅方向の中心どうしを結ぶ仮想中心を線対称軸にして、上下のばね腕35・36と腕端壁37と解離スリット38が線対称に形成してあると、外刃11に作用する外力を各ばね要素30に均等に作用させることができるので、緊張ばね24のばね特性の設定や管理を簡便化できるうえ、外刃11の網刃部分20Aの全面を内刃9に対して均等に密着させることができる。
【0026】
ばね要素30を緊張させた状態において、上ばね腕35と下ばね腕36のそれぞれを、互いに逆向きに弾性変形させると、緩やかな右上がりの直線からなるばね弾性を利用して外刃11を緊張させることができる。つまり、たわみ変形量の変化に比べてばね弾性の変化が小さな変形領域で外刃11を緊張させることができ、これにより外刃11を内刃9に対して概ね均等なばね弾性力で密着できる。
【0027】
上支壁33の曲げ弾性力と、下支壁34の曲げ弾性力とが大小に異なっていると、個々のばね要素30において、曲げ弾性力が小さい側の支壁とばね腕を先行して弾性変形させたのち、他方のばね腕を逆向きに弾性変形させて、外刃11に対する緊張力を均等化できる。仮に、上支壁33の曲げ弾性力を、下支壁34の曲げ弾性力より小さく設定すると、外刃11に外力が作用するとき、上支壁33を先行して弾性変形させ、下支壁34を逆向きに弾性変形させることができる。同時に、上支壁33を外刃ホルダー12の内面壁から遠ざかる向へ弾性変形させて、上ばね腕35が外刃ホルダー12の内面壁に接当干渉するのを防止し、緊張ばね24の伸縮動作を円滑化できる。
【0028】
上支壁33の上下方向の全長cを、下支壁34の上下方向の全長dより大きく設定すると、全長cが大きい分だけ上支壁33が厚み方向へ弾性変形しやすくなる。そのため上支壁33および上ばね腕35を、下支壁34および下ばね腕36に先行して弾性変形させることができ、しかも全てのばね要素30の上支壁33および上ばね腕35を段部42から遠ざかる向きに弾性変形させ、同時に全ての下支壁34および下ばね腕36を上支壁33および上ばね腕35とは逆向きに弾性変形させて、上ばね腕35が外刃ホルダー12の内面壁に接当干渉するのを防止でき、したがって緊張ばね24の伸縮動作を円滑化できることとなる。因みに、稀にではあるが、組立作業者の組み立て方によっては、上支壁33および上ばね腕35が段部42へ近付く向きに弾性変形することがあるが、上記のように、上支壁33を下支壁34に比べて弾性変形しやすくしておくと、上支壁33および上ばね腕35をより確実に段部42から遠ざかる向きに弾性変形させることができる。
【0029】
上支壁33の左右方向の幅寸法aを、下支壁34の左右方向の幅寸法bより小さく設定すると、幅寸法aが小さい分だけ上支壁33の変形応力を小さくできるので、上支壁33および上ばね腕35を、下支壁34および下ばね腕36に先行して弾性変形させることができる。これにより、全てのばね要素30の上ばね腕35を、段部42から遠ざかる向きにさらに確実に弾性変形させることができ、上ばね腕35が外刃ホルダー12の内面壁に接当干渉するのを防止して緊張ばね24の伸縮動作をさらに円滑化できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
(実施例) 図1ないし図8は本発明に係る外刃を備えた電気かみそりの実施例を示す。図2において電気かみそりは、Y字状に形成される本体ケース1と、本体ケース1で上下動、前後傾動、および左右傾動可能に浮動支持されるヘッド部2とを備えており、本体ケース1の内部に2個の2次電池3と図示していない回路基板およびスイッチなどが配置してある。本体ケース1の前面には、先のスイッチを切り換える押しボタン形のスイッチボタン4と、スイッチボタン4がオン操作されたときに点灯する表示灯5と、充電時に点灯する充電表示灯6が配置してある。
【0031】
ヘッド部2は、ヘッドケース7の内部に、内刃駆動用のモーター8と、内刃9と、モーター8の回転動力を内刃9に伝動するギヤ機構10などを収容して構成してあり、そのヘッドケース2aの上部外面に、シート状の外刃11を逆U字状に保形する外刃ホルダー12が着脱可能に装着してある。図3に示すように内刃9は、円柱状のブレード軸15と、ブレード軸15の軸心に沿って固定される内刃軸16と、ブレード軸15の周面に沿ってスパイラル状に植設される一群のブレード17とで構成してある。内刃9は矢印で示すように反時計回転方向へ回転駆動されて、外刃11と協同してひげ切断を行う。
【0032】
図1および図3に示すように外刃11は、使用状態において内刃9に沿って湾曲する刃主部20と、刃主部20に連続する前後一対の腰壁21・21とを一体に備えており、回転上手側の腰壁21の前縁に沿って5個の掛止穴22を備えた固定側装着部23が形成され、回転下手側の腰壁21に連続して緊張部28を設けてなる。緊張部28には、外刃11を引っ張り付勢する緊張ばね24と、4個の掛止穴26を備えたばね側装着部25が、腰壁21に連続して一体に形成してある。刃主部20には、主として短毛を切断する網刃部分20Aが形成され、網刃部分20Aから回転上手側の腰壁21にわたって、主としてくせ毛や長毛を切断するためのスリット刃部分20Bが形成してある。
【0033】
外刃11は電鋳法、エッチング法、および精密プレス法によって形成され、網刃部分20Aやスリット刃部分20Bを形成するとき、固定側装着部23、緊張ばね24、およびばね側装着部25を同時に形成する。電鋳法では、ニッケルや、ニッケル−コバルト合金などを基材表面に電着させて、成長した電着層で先の各部材20A〜25に相当する必要部分を形成し、エッチング法では、焼き入れしたステンレスシートを素材にして、エッチング液の腐蝕作用によって不用部分を除去して先の各部材20A〜25を形成する。同様に精密プレス法でも、不用部分を打ち抜き除去して先の各部材20A〜25を形成する。この実施例では外刃11が電鋳法で形成してあるものとして説明する。図示していないが、腰壁21・21には微細な穴からなる放熱穴が一面に形成してある。
【0034】
図1に示すように、緊張ばね24は、回転下手側の腰壁21の端縁に沿って形成される7個のばね要素30で構成されており、隣接するばね要素30の間を、エ字状にくり抜かれた区分空間31で区分することにより、各ばね要素30を独立させている。これにより、腰壁21とばね側装着部25とは、7個のばね要素30のみを介して繋がることとなり、外刃11に作用する引っ張り力を個々のばね要素30に均等に作用させて、ばね要素30を適度に弾性変形できる。
【0035】
ばね要素30は、厚み方向へ弾性変形する上下一対のばね壁35・36を含んで、外刃11の他の面壁と面一状に形成する。詳しくは、腰壁21に連続する上支壁33と、ばね側装着部25に連続する下支壁34と、これらの支壁33・34に連続して左右へ張り出し形成される上ばね腕35および下ばね腕36と、上下のばね腕35・36の両側端を繋ぐ一対の腕端壁37・37と、上下のばね腕35・36を区分する解離スリット38とで構成する。上支壁33と下支壁34の幅方向の中心どうしを結ぶ仮想中心を線対称軸とするとき、上ばね腕35および下ばね腕36と、両腕端壁37と、解離スリット38は、いずれも左右で線対称になるように形成する。
【0036】
以上のように構成した外刃11は、図3に示すように固定側装着部23、およびばね側装着部25のそれぞれに、左右横長の取付ピース41・42を溶着固定し、各取付ピース41・42を外刃ホルダー12の前後壁の内面に設けた段部43・44で受け止めることにより、外刃ホルダー12で逆U字状に保形される。各取付ピース41・42は、左右横長の帯状のプラスチック成形品からなり、それぞれの板面に各掛止穴22・26に対応する溶着ピン45・46が一体に設けてある(図5参照)。
【0037】
図3に示すように、外刃ホルダー12をヘッドケース2aに係合装着した状態では、外刃11の主として網刃部分20Aの内面が内刃9のブレード17に受け止められた状態で逆U字状に保持されており、この状態の緊張ばね24は、各ばね要素30が弾性変形して、外刃11を内刃9に密着させている。このとき、外刃11の全体は内刃9によって押上げられて逆U字状に保形されるため、各ばね要素30は弾性変形する。具体的には、上ばね腕35は上方へ引っ張られ、下ばね腕36は下向きに引っ張られて、それぞれのばね腕36が逆向きに伸長変形する。その結果、各ばね要素30において上支壁33、および解離スリット38に臨む上ばね腕35の左右中央部分(上支壁33と下支壁34の左右中央を結ぶ線上の部分)が段部42から遠ざかる向きに弾性変形し、同時に下支壁34、および解離スリット38に臨む下ばね腕36の左右中央部分が段部42へ近付く向きに弾性変形して、外刃11を引っ張り付勢している。また、上支壁33と下支壁34のそれぞれは、上ばね腕35および下ばね腕36の変形方向と交差する向きに折れ曲がる。つまり、上下の支壁33・34と上下のばね腕35・36はそれぞれ異なる厚み方向へ変形して弾性力を発揮しており、ばね要素30の全体でみると各部位は3次元変形していることになる。このときのばね要素30の弾性変形量は、後述するように自由状態と弾性変形限界のほぼ中央付近の変形量になっており、外刃11が内刃9から浮き離れ、あるいは外刃11が内刃9の回転方向下手側へ引っ張られる場合には、それぞれ上下のばね腕35・36の弾性変形量が増減して、常に外刃11を内刃9に密着させることができる。
【0038】
図8(b)に示すように、線ばね、板ばね、コイルばねなどの一般的なばねの場合には、ばねのたわみ変形量とばね弾性とがほぼ比例し、その変化特性は傾斜する直線であらわすことができる。このときの横軸はばねのたわみ変形量X、縦軸はばね弾性力Fである。その限りでは、たわみ変形量が大小に変化する場合でも、ばね弾性力の変化量が小さいほど、外刃11に作用する緊張力をほぼ一定にすることができる。つまり、先の変化特性直線の傾き角度が緩やかであるほど、外刃11に作用する緊張力が極端に変化するのを防止できる。
【0039】
上記のばね要素30の場合には、上支壁33および上ばね腕35と下支壁34および下ばね腕36がそれぞれ逆向きに弾性変形し、さらに腕端壁37・37の上半部と下半部とが逆向きに捻られるように弾性変形して、これらの合力が個々のばね要素30のばね弾性となり、変化特性は図8(a)に示すように緩やかな直線となる。このような特性のばね要素30を腰壁21に並列にしかも均等に複数形成している。したがって、外刃ホルダー12をヘッドケース2aに装着した状態において、ばね要素30が伸び変形する場合と、縮み変形する場合の両方において、ばね弾性が大きく変化するのを防止しながら、外刃11を内刃9に概ね均等なばね弾性力で密着できる。なお、この実施例におけるばね要素30では、外刃ホルダー12をヘッドケース2aに装着した状態において、上支壁33および下支壁33の曲げ角度は、図7(b)に示すように約45度に設定した。変化特性が緩やかな直線となったのは、上支壁33、上ばね腕35、下ばね腕36、下支壁34が直列に一体で繋がっているためである。
【0040】
自由状態におけるばね要素30の状態と、ばね要素30が弾性変形した状態の違いを図6(a)・(b)、および図7(a)・(b)に示している。図6(a)および図7(a)に示すように、ばね要素30が自由状態にあるときには、上下のばね腕35・36は、腰壁21と面一状になっており、このときの緊張ばね24は弾性力を発揮していない。図6(b)および図7(b)に示すように、ばね要素30が弾性変形した状態では、上支壁33および上ばね腕35と下支壁34および下ばね腕36が互いに逆向きに弾性変形して、外刃11をばね側装着部25の側へ引っ張り付勢する。このとき、上支壁33および上ばね腕35と下支壁34および下ばね腕36が弾性変形するのに伴って、ばね要素30の上下長さは図7に示す寸法E分だけ伸長する。
【0041】
上記のようにばね要素30は、上下の支壁33・34、および上下のばね腕35・36が互いに逆向きに弾性変形することでばね弾性を発揮するが、下支壁34に比べて上支壁33をたわみ変形しやすくしておくと、外刃11に外力が作用するとき下ばね腕36が弾性変形するのに先行して上ばね腕35を弾性変形させることができる。しかも、上支壁33および上ばね腕35を段部42から遠ざかる向きに弾性変形させるようにすると、上ばね腕35が外刃ホルダー12の内面壁に接当干渉するのを防止し、緊張ばね24の伸縮動作を円滑化できることとなる。そのために、この実施例では、上支壁33と下支壁34の寸法関係を以下のように設定している。上支壁33の上下方向の全長aを、下支壁34の上下方向の全長bより大きく設定して上支壁33をたわみやすくし、さらに上支壁33の左右方向の幅寸法cを、下支壁34の左右方向の幅寸法dより小さく設定して上支壁33をたわみやすくしている。
【0042】
詳しくは、外刃11の厚み寸法を55μmとするとき、先の寸法aは0.96mm、寸法bは1.06mm、寸法cは0.50mm、寸法dは0.30mmとした。また、上下のばね腕35・36の左右幅(解離スリット38の左右幅)は4.00mm、解離スリット38の上下幅は0.150mm、腕端壁37の左右幅は5.450mmとした。
【0043】
(比較例) 本発明者等は、上記の実施例に先行して、形成パターンが異なる緊張ばねを電鋳法によっていくつも試作して、緊張ばねのばね特性を確かめた。例えば図9(a)に示すように、外刃51を電鋳法で形成する際に、ジグザグ状のばね要素53の一群を同時に形成し、これらのばね要素53で緊張ばね52を構成した。また、図9(b)に示すように、縦横に交差するリブ54と、縦方向のリブ54に沿って一定間隔おきに形成されるリング55とからなるばね要素53の一群で緊張ばね52を構成した。そこでは、電鋳完了後に外刃51を母型から剥離するときに、個々のばね要素53の一部が破損し、あるいはばね要素5に亀裂が生じるのを解消するために、両側端に位置するばね要素53の外側方を連結壁57で連結した。
【0044】
しかし、ばね要素53の形成パターンをどのように変更しても、充分な弾性を発揮できる緊張ばね52を得ることができなかった。さらなる試行錯誤を重ねた結果、両側端に位置するばね要素53の外側方が、連結壁57で連結されて拘束されているのが、充分な弾性を発揮できない要因であることを見出した。つまり、連結壁57を除去すると、外力がばね要素53に直接作用するため、ばね要素53が弾性変形しやすいことを見出した。このような試行錯誤を重ねた結果、上記の実施例で説明したばね構造が好適である点を確認した。
【0045】
図10は、外刃11の別の実施例を示す。そこでは、ばね要素30を上下の支壁33・34と、上下一対のばね腕35・36と、両腕端壁37・37と、解離スリット38などで構成するが、各下支壁34の下端に連続して、掛止穴26を備えたばね側装着部25を設けるようにした。つまり、個々のばね要素30に独立した状態のばね側装着部25を設けるようにした。この場合には、取付ピース42を外刃11に装着することで、各ばね側装着部25が取付ピース42を介して一体化されることになる。なお、ばね側装着部25は、必要に応じて下支壁34の左右に張り出し形成して、掛止穴26を複数個設けることができる。他は先の実施例と同じであるので、同じ部材に同じ符号を付してその説明を省略する。
【0046】
先の実施例では、上ばね腕35および下ばね腕36を、上下の支壁33・34の両側にそれぞれ張り出し形成したが、その必要はなく、図11に示すように上ばね腕35および下ばね腕36を、上下の支壁33・34の片側に限って張り出し形成し、両ばね腕35・36の張り出しを腕端壁37で繋いでばね要素30とすることができる。解離スリット38の一端は、両ばね腕35・36の張り出し基端側の側端縁で区分空間31と連通する。この場合の区分空間31は横長コ字状となる。
【0047】
上記の実施例では、上下の支壁33・34の曲げ弾性を異ならせて、上ばね腕35を特定方向へ弾性変形させるようにしたが、その必要はない。例えば、自由状態における上ばね腕35および下ばね腕36を、予め弾性変形させたい方向へくせ付けしておくことで実現できる。また、外刃11を外刃ホルダー12に組み付けた状態においては、各ばね要素30は弾性変形しているので、組み付け時に治具を使用して上ばね腕35および下ばね腕36を特定方向へ弾性変形させることができる。また、上ばね腕35と対向する外刃ホルダー12の内面に、上ばね腕35を強制的に段部42から遠ざかる向きに押し出すピンを設けておくと、単に外刃11を外刃ホルダー12に組付けるだけで、上ばね腕35を段部42から遠ざかる向きに弾性変形させることができる。
【0048】
上記の実施例以外に、上支壁33と上ばね腕35、および下支壁34と下ばね腕36は、それぞれT字に形成する以外に、Y字状に形成して、解離スリット38の形状を左右に長い菱形とすることができる。上記の実施例では、ロータリー式の内刃9を備えている電気かみそりについて説明したが、本発明に係る外刃11は往復動式の電気かみそりにも適用できる。その場合には、前後の腰壁21のそれぞれに緊張ばね24を設けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】外刃の展開平面図である。
【図2】電気かみそりの正面図である。
【図3】ヘッド部の縦断側面図である。
【図4】外刃と外刃ホルダーを分離した状態の分解正面図である。
【図5】外刃の分解斜視図である。
【図6】ばね要素の弾性変形状態を示す斜視図である。
【図7】ばね要素の弾性変形状態を示す断面図である。
【図8】従来のばねと、本発明に係る緊張ばねの特性の違いを示す特性図である。
【図9】本発明に先行して試作した緊張ばねの要部平面図である。
【図10】緊張ばねの別の実施例を示す要部のみの展開平面図である。
【図11】緊張ばねのさらに別の実施例を示す要部のみの展開平面図である。
【符号の説明】
【0050】
9 内刃
11 外刃
22 掛止穴
23 固定装着部
24 緊張ばね
25 ばね側装着部
30 ばね要素
31 区分空間
33 上支壁
34 下支壁
35 上ばね腕
36 下ばね腕
37 腕端壁
38 解離スリット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外刃ホルダー(12)で逆U字状に保形保持される外刃(11)と、外刃(11)の内面に沿って摺接する内刃(9)とを備えており、
外刃(11)は刃主部(20)と、刃主部(20)に連続する前後一対の腰壁(21)とを一体に備えており、外刃(11)の腰壁(21)に、外刃(11)を引っ張り付勢する緊張ばね(24)が一体に形成されており、
前記緊張ばね(24)が、展開状態における外刃(11)の面壁と面一状に形成される1個以上のばね要素(30)で構成してある電気かみそり。
【請求項2】
緊張ばね(24)を構成するばね要素(30)の端部に、掛止穴(26)を含むばね側装着部(25)が形成してある請求項1記載の電気かみそり。
【請求項3】
外刃(11)のばね側装着部(25)が、各ばね要素(30)を橋絡する状態で連続形成してある請求項2記載の電気かみそり。
【請求項4】
ばね要素(30)の各構成部位の幅寸法が、ばね要素(30)の厚み寸法より大きく設定してある請求項2または3記載の電気かみそり。
【請求項5】
腰壁(21)に複数個のばね要素(30)と、隣接するばね要素(30)を区分する区分空間(31)とが交互に形成されており、
腰壁(21)とばね側装着部(25)とが、ばね要素(30)のみを介して繋がっている請求項3または4記載の電気かみそり。
【請求項6】
ばね要素(30)が、腰壁(21)に連続する上支壁(33)と、ばね側装着部(25)に連続する下支壁(34)と、これらの支壁(33・34)に連続する上ばね腕(35)および下ばね腕(36)と、上下のばね腕(35・36)の側端を繋ぐ腕端壁(37)と、上下のばね腕(35・36)の間に形成される解離スリット(38)とで構成してある請求項3から5のいずれかに記載の電気かみそり。
【請求項7】
上ばね腕(35)と下ばね腕(36)の両側端のそれぞれが腕端壁(37)で繋がれており、
上支壁(33)と下支壁(34)の幅方向の中心どうしを結ぶ仮想中心を線対称軸にして、上ばね腕(35)および下ばね腕(36)と、腕端壁(37)と、解離スリット(38)が、線対称に形成してある請求項6記載の電気かみそり。
【請求項8】
ばね要素(30)が緊張した状態において、上ばね腕(35)と下ばね腕(36)のそれぞれが、互いに逆向きに弾性変形している6または7記載の電気かみそり。
【請求項9】
上支壁(33)の曲げ弾性力と、下支壁(34)の曲げ弾性力とが大小に異ならせてある請求項6、7または8記載の電気かみそり。
【請求項10】
上支壁(33)の上下方向の全長(c)が、下支壁(34)の上下方向の全長(d)より大きく設定してある請求項6から9のいずれかに記載の電気かみそり。
【請求項11】
上支壁(33)の左右方向の幅寸法(a)が、下支壁(34)の左右方向の幅寸法(b)より小さく設定してある請求項6から10のいずれかに記載の電気かみそり。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−206567(P2008−206567A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−43939(P2007−43939)
【出願日】平成19年2月23日(2007.2.23)
【出願人】(000164461)九州日立マクセル株式会社 (338)
【Fターム(参考)】