説明

電気メッキ電流制御方法

【課題】被メッキ材の加減速に対して、複数のメッキセルの負荷分担率及び使用優先順位を任意に設定して、均一目付を得ることが可能な電気メッキ電流制御方法を提供する。
【解決手段】各メッキセル13毎に負荷分担率と使用優先順位を予め決定しておき、メッキラインをメッキ槽14を含んだ同一長さの区分領域に分割し、また被メッキ材11を区分領域と同一長さを有する分割区間に分割して、被メッキ材11の進行と共に分割区間毎の積算通電量を常時トラッキングし、分割区間の先頭がメッキセル13を通過して次段のメッキセル13が存在する区分領域の入口に到達する毎に、目標目付量と積算通電量から換算した現状目付量との差を算出し、以降のメッキセル13毎に決定された負荷分担率及び使用優先順位に基づいて、使用するメッキセル13の電極13aの数と使用する電極13aに流す電極電流を再計算し、求めた電極電流を使用する電極13aに流す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の電気メッキセルを有する電気メッキ設備において、被メッキ材が加減速するときの必要電流の増減に応じて、使用するメッキセル数及びメッキセルに流す電流をそれぞれ増減させる電気メッキ電流制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の電気メッキセルを有するメッキラインの電気メッキ電流制御方法としては、被メッキ材の速度に比例する総電流を計算し、総電流を各メッキセルの電極の負荷分担率と使用優先順位に従って分担する方法(トータル電流制御方法)が知られている。ここで、負荷分担率とは、各電極の重み付けにあたるもので、各電極の負荷電流の相対比率を規定する。また、使用優先順位は、総電流の増減に伴い使用するメッキセル数を増減させる場合に、どのメッキセルの電極を選択するかを規定したものである。このトータル電流制御方法では、被メッキ材の速度が一定の定常状態であれば、メッキセル数の増減もなく良好な均一目付を得ることができるが、被メッキ材の加減速時にはメッキセル数の増減が発生し、過渡的に目付量に過不足が生じる欠点がある。この欠点は、メッキセル数の増減が発生する場合においても、使用される電極に流れる電流は総和が被メッキ材の速度に比例するように制御されるため、メッキセル数追加投入時においては各電極の電流は一旦低下し、またメッキセル数減少時においては各電極の電流は一旦上昇し、これにより被メッキ材の部位によっては均一な通電量が確保されないことに起因する。
【0003】
そこで、被メッキ材の加速時に均一目付を得るための電気メッキ電流制御方法として、被メッキ材の通電履歴を基に、後段(メッキ設備の下流側)のメッキセルから順次電極を投入しながら、ライン速度比例で電流を制御する方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。一方、被メッキ材の減速時に均一目付を得るための電気メッキ電流制御手法として、被メッキ材の減速に応じて各電極の電流を減少させ、予め設定した電流値まで減少した際に、最上流(最前段)側の電極の電流を遮断すると共に被メッキ材速度を保持し、遮断時に最上流側のメッキセルの入口にあった被メッキ材のポイントが次段(下流)メッキセルの入口に到達する毎に到達したメッキセルの電極に遮断した電極の分担していた電流を残りの使用電極で均等配分した分だけ加え、トラッキングポイントが最終メッキセルの入口に到達した時点で再度減速を開始し、順次被メッキ材のトラッキングと電流制御を繰り返して減速時の電気メッキ電流制御を行う方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2546934号公報
【特許文献2】特開昭62−180098号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された発明は加速時に限定するもので、特許文献2に記載された発明は減速時に限定したもので、加減速する被メッキ材に対する均一目付を同時に解決する方法ではなかった。また、特許文献1の方法では、後段セルからひとつ前段のセルを順次投入するという前提であり、これは、実操業上において使用する電極を集中させることなく、定期的にローテーションさせながら使用する要求を満足できるものではなかった。同様に、特許文献2に記載された方法についても、前段電極から順次遮断していくという前提で、電極使用の自由度を制約すると共に、電極の遮断及び被メッキ材の減速を段階的に実施するため、被メッキ材の一様な減速を制限するものであった。
【0006】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、被メッキ材の加減速に対して、複数の電極の負荷分担率及び使用優先順位を任意に設定して、均一目付を得ることが可能な電気メッキ電流制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的に沿う本発明に係る電気メッキ電流制御方法は、メッキセルを収納するメッキ槽が隙間を有して被メッキ材の進行方向に沿って並べて配置されたメッキラインを備えたメッキ設備で、該被メッキ材が加減速するときの必要電流の増減に応じて、使用する前記メッキセルの電極の数及び使用する該電極に流す電極電流をそれぞれ増減させる電気メッキ電流制御方法において、
前記メッキセル毎に負荷分担率と使用優先順位を予め決定しておき、前記メッキラインを、前記被メッキ材の進行方向に沿って前記メッキ槽をそれぞれ含んだ同一長さの区分領域に分割し、また前記被メッキ材を前記区分領域と同一長さを有する分割区間に分割して、前記被メッキ材の進行と共に前記分割区間毎の積算通電量を常時トラッキングし、該分割区間の先頭が前記メッキセルを通過して次段の前記メッキセルが存在する前記区分領域の入口に到達する毎に、目標目付量と前記積算通電量から換算した現状目付量との差を算出し、以降の前記メッキセル毎に決定された前記負荷分担率及び前記使用優先順位に基づいて、使用する前記メッキセルの電極の数と使用する該電極に流す前記電極電流を再計算し、求めた該電極電流を使用する該電極に流す。
【0008】
本発明に係る電気メッキ電流制御方法において、再計算後に前記被メッキ材に速度変化が生じた場合、該速度変化と同時に、以降で使用する前記電極に流す前記電極電流の値を、速度比に比例して補正することが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る電気メッキ電流制御方法においては、被メッキ材の分割区間毎の通電状況を管理し、分割区間の先頭が区分領域の入口に到達する毎に以降のセルで目標目付に必要な電流量を計算して、各メッキセルの負荷分担率及び使用優先順位に基づいて各電極の電流を再計算するため、被メッキ材の加減速に対しても柔軟にメッキ電流量を調整して均一な目付を得ることができ、被メッキ材の品質の安定や歩留まり向上に貢献することができる。また、使用メッキセル選択の自由度への配慮がなされており、メッキ設備及びメッキセルの状況や制約を負荷分担率や使用優先順位に反映させた運転制御が可能となる。更に、目付量設定の増減、被メッキ材の幅の増減といった仕様変化に対しても歩留まりを低減させることなく、均一な目付を得ることができる。
【0010】
本発明に係る電気メッキ電流制御方法において、再計算後に被メッキ材に速度変化が生じた際に、速度変化と同時に、以降で使用する電極に流す電流の値を、速度比に比例して補正する場合、被メッキ材の分割区間内での均一目付が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施の形態に係る電気メッキ電流制御方法に使用する電気メッキ設備の構成を示す説明図である。
【図2】同電気メッキ設備の運転制御を行うメッキ制御システムの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
図1に示すように、本発明の一実施の形態に係る電気メッキ電流制御方法に使用される電気メッキ設備10では、被メッキ材(鋼板)11は、入側ブライドル12を通過後、No.1、No.2、・・・、No.(N−1)、No.Nのメッキセル13がそれぞれ収容され隙間を有して配置されたNo.1、No.2、・・・、No.(N−1)、No.Nのメッキ槽14を有するメッキラインを通過しながら、各メッキ槽14内で各メッキセル13の電極13aに流す電流に応じた目付がなされ、出側ブライドル15を通って次工程へ送られる。入側ブライドル12及び出側ブライドル15はそれぞれ入側電動機16、出側電動機17により駆動され、入側電動機16及び出側電動機17は電動機制御装置18(図2参照)により制御される。入側ブライドル12又は出側ブライドル15のいずれか一方が被メッキ材11の速度制御を行い、他方が被メッキ材11に加わる張力を一定とする制御を行う。被メッキ材11に加わる張力を一定とすることにより、メッキ目付のバラツキ及びムラ、被メッキ材11と各メッキセル13との接触を防止している。
【0013】
各メッキ槽14内には、メッキ電解液が入っており、各電極13a、メッキ電解液、被メッキ材11、コンダクターロール19に電流が流れ、被メッキ材11に各メッキセル13の物質あるいは電解液中に含まれるメッキ物質がメッキされる。なお、コンダクターロール19は、No.1のメッキ槽14の入側、No.Nのメッキ槽14の出側、No.1〜No.Nの各メッキ槽14の間に設けられ、各コンダクターロール19間の距離は等しい。従って、各コンダクターロール19の位置に合わせてメッキラインを分割すると、隣合うコンダクターロール19で挟まれた部分がメッキラインの区分領域となる。
【0014】
図2は、電気メッキ設備10のメッキ槽14の一部分と、電気メッキ設備10の運転制御を行うメッキ制御システム20を概念的に示したもので、図中の点線矢印の方向にメッキ電流が流れ、この電流が流れることにより被メッキ材11に連続的にメッキがなされる。なお、図中、電気メッキ設備10は一部省略して記載している。ここで、各メッキセル13には、被メッキ材11の表面、裏面共にメッキできるように、被メッキ材11の表、裏面にそれぞれ対向して電極13aが設けられ、図2では被メッキ材11の両面メッキをしている状態を示している。
【0015】
メッキ制御システム20は、目標目付量の設定を行う目付量設定器21と、被メッキ材11の速度の設定を行う速度設定器22と、目付量設定器21から入力される目標目付量及び速度設定器22から入力される速度に基づいて各メッキセル13に流すメッキセル電流値を決定する電流指令、被メッキ材11の速度指令、及び被メッキ材11の張力指令を出力するメッキ制御装置23と、電流指令に基づいて各メッキセル13に流すメッキセル電流値を制御する電流制御装置24と、被メッキ材11の速度指令及び張力指令に基づいて入側電動機16及び出側電動機17の運転を制御する電動機制御装置18とを有している。なお、電動機制御装置18は、被メッキ材11の移動速度を検出する速度検出器25の検出値を使用して、被メッキ材11が与えられた張力の下で、与えられた速度で移動するように入側電動機16、出側電動機17の運転を制御する。
【0016】
次に、本発明の一実施の形態に係る電気メッキ電流制御方法について説明する。
(1)メッキセル電流は、被メッキ材11に対し単位面積当りの通電量を一定にするため、ライン速度(被メッキ材11の速度)に比例した通電制御を行う。しかしながら、メッキセル及び電流制御装置の定格、使用効率並びに電流密度制約等により、単一のメッキセルに流せる電流には上、下限制約があるため、図1に示すように、メッキセル13を収納したメッキ槽14を複数準備し、メッキセル13毎に負荷分担率と使用優先順位を予め決定しておく。
【0017】
(2)次いで、目付量設定器21を介して目標目付量、速度設定器22を介して被メッキ材11の速度をそれぞれメッキ制御装置23に入力する。これによって、メッキ制御装置23では、使用するメッキセル数と使用するメッキセル13に流すメッキセル電流の総和が計算され、これに基づいて、使用する各メッキセル13に流すメッキセル電流値の電流指令が各電流制御装置24に、被メッキ材11の速度指令及び張力指令が電動機制御装置18にそれぞれ出力される。
【0018】
(3)そして、被メッキ材11を、メッキラインの区分領域と同一長さ(隣合うコンダクターロール19間の距離と同一長さ)を有する分割区間に分割し、被メッキ材11の進行と共に分割区間毎の積算通電量(通電履歴)を常時トラッキングする。このとき、被メッキ材11の各分割区間の先頭(一つ先の分割区間の尾端)がメッキセル13を通過して次段のメッキセル13が存在する区分領域の入口(区分領域の入側のコンダクターロール19)に到達する毎に、次段以降の各メッキセル13に対して次の(4)、(5)の処理を行う。
【0019】
(4)被メッキ材11が次段のメッキセル13が存在する区分領域の入口に到達した時点での通電履歴からその時点での現状目付量を計算し、目標目付量との差を計算し、その時点での被メッキ材11の速度から以降で必要な電流量を計算する。
【0020】
(5)必要な電流量が求まると、メッキセル13の負荷分担率と使用優先順位に基づいて次段以降で使用するメッキセル13の数と当該メッキセル13に流すメッキセル電流を再計算する。ここで、計算後に被メッキ材11に速度変化が生じた場合、速度変化と同時に、メッキセル電流を速度比(変化後の速度/変化前の速度)に比例させて変化させる。これにより、被メッキ材11での分割区間内での均一目付を確保する。
【0021】
ここで、被メッキ材をメッキしながらライン速度を上げていく際の電気メッキ電流制御方法について、5つのメッキ槽を有する電気メッキ設備を例にして説明する。
なお、本実施例では、被メッキ材が最上流側のメッキ槽に進入して最下流側のメッキ槽から出てくるまでに、5000C/mの通電(目付量と等価)を施すものとし、電極の長さを2m、被メッキ材の分割区間長を4m、被メッキ材の幅を1mと設定した。また、使用優先順位は、表1の使用優先順位欄に記入された数値の小さい数値から優先的に使用されるものとし、負荷分担率は、表1の負荷分担率欄の数値によって与えられるものとする。表1では、被メッキ材の速度が200m/min(200mpm)の定常状態における各メッキセルの電流、メッキセル入側での通電履歴、該メッキセルを通過後の予定通電履歴を表している。
【0022】
【表1】

【0023】
ここで、被メッキ材の速度が200mpmのとき、5000C/mを目付するのに必要な総電流は16667Aのため、負荷分担率より、No.1メッキセルの電流(A)は、16667×80/(80+85+70)=5674、No.3メッキセルの電流(A)は、16667×85/(80+85+70)=6028、No.5メッキセルの電流は16667×70/(80+85+70)=4965として求めることができる。また、各メッキセルでの積算通電量(C/m)は、メッキセル電流と、被メッキ材が長さ2mの電極を通過する時間と、電極に投影される被メッキ材の面積、すなわち電極長×被メッキ材の幅で規定される面積により決まる。例えば、No.1メッキセルでは、5674(A)×(2(m)/(200(mpm)/60(sec))/(2m×1m)=1702(C/m)となる。同様に、No.3メッキセルでは、6028(A)×(2(m)/(200(mpm)/60(sec))/(2m×1m)=1809(C/m)であり、No.3メッキセル入側での積算通電量1702(C/m)を加算して、出側での積算通電量は3511(C/m)、同様にNo.5メッキセル出側での積算通電量は5000(C/m)となり、目標通電量を達成できている。No.2、No.4メッキセルでは通電電流が零のため、入側と出側の積算通電量は変化がない。
【0024】
単一のメッキセルに流せる電流の上、下限は、設備により異なるが、例えば、単一のメッキセルに流れる電流が4000(A)から7000(A)の範囲となるように、被メッキ材の各分割区間の先頭が次のメッキセルが存在する区分領域の入口に到達した時点で、単一のメッキセルにそれぞれ流れる電流が所望範囲に入るように、使用するメッキセルの個数を増加あるいは減少させる。以下に、メッキセル数の増加あるいは減少させる場合について説明する。
【0025】
被メッキ材の速度が200mpmから250mpmに上昇したとき、本発明では、速度比(速度変化量)に比例させて各メッキセル電流を上昇させる。各メッキセルが存在する区分領域の入口に到達した時点での被メッキ材の速度をVとし、そのVに従って計算されたメッキセル電流をIとする。その後、次の計算タイミングに至るまでに速度がVに変化したとき、そのときのメッキセル電流をIとすると、IはI=(V/V)×Iにより与えられる。計算結果を表2に示す。
【0026】
【表2】

【0027】
No.1、3、5メッキセルの電流は初期定常状態に比べ250/200=1.25倍となっている。ライン速度の増加に伴い、単一のメッキセルに流れるメッキセル電流が7000(A)を超えるものがあるため、その後、被メッキ材の分割区分の先頭が次のメッキセルが存在する区分領域の入口に到達した時点で、使用するメッキセルの個数及びメッキセル電流は再計算され、各単一のメッキセルに流れるメッキセル電流が7000(A)を超えないようにするため、使用するメッキセルの個数を3から4に増加する。メッキセルの個数を4にした場合の、再計算後の状態を表3に示す。
【0028】
【表3】

【0029】
ここで、No.1メッキセルでのメッキセル電流は、被メッキ材の速度が250mpmのときに5000(C/m)を目付するのに必要なトータル電流が20833(A)のため、使用優先順位4のメッキセルが投入されことを前提にして、使用するメッキセルの負荷分担率より、20833×80/(80+85+75+70)=5376(A)となる。No.2メッキセルは、使用優先順位が5番目のため投入しない。仮に投入した場合について考察しておくと、No.2メッキセルでの電流は、被メッキ材の速度が250mpmで5000−1702=3298(C/m)を通電する必要があり、残りの4つのメッキセルでのトータル電流は13741(A)が必要となる。これをNo.2、3、4、5メッキセルで分担すると、No.2メッキセルで流す電流は、13741×70/(70+85+75+70)=3206(A)となる。これは、電流の下限4000(A)を下回るため、投入の必要がないことを確認できる。No.3メッキセルでの電流は、被メッキ材の速度が250mpmで5000−1702=3298(C/m)を通電する必要があり、残りのメッキセルでのトータル電流は13741(A)が必要となる。これを、No.3、4、5メッキセルで分担するとすると、No.3メッキセルでの電流は13741×85/(85+75+70)=5078(A)となる。No.4メッキセルでの電流は、被メッキ材の速度が250mpmで5000−3511=1489(C/m)を通電する必要があり、残りセルでのトータル電流は6205(A)が必要となる。これを、使用優先順位の高いNo.5メッキセル単体で負担することができるため、この時点では投入しない。No.5メッキセルでは、被メッキ材の速度が250mpmで残り5000−3511=1489(C/m)を通電する必要があり、必要電流は6206(A)となる。
【0030】
被メッキ材のライン速度が250mpmのまま、次のメッキセルが存在する区分領域の入口に到達した状態を表4に示す。
【0031】
【表4】

【0032】
ここで、No.1メッキセルでの電流は、被メッキ材の速度が250mpmのときに5000(C/m)を目付するのに必要なトータル電流が20833(A)のため、前回計算と同様に20833×80/(80+85+75+70)=5376(A)となる。No.2メッキセルは、使用優先順位が5番目のためここでも投入しない。No.3メッキセル電流は、被メッキ材の速度が250mpmで残り5000−1702=3296(C/m)を通電する必要があり、残りセルでのトータル電流は13741(A)が必要となる。これを、No.3、4、5メッキセルで分担すると、No.3メッキセルでの電流は13741×85/(85+75+70)=5078(A)となる。No.4メッキセルでの電流は、被メッキ材の速度250mpmで残り5000−2921=2079(C/m)を通電する必要があり、残りメッキセルでのトータル電流は8663(A)となる。これを、No.4、5メッキセルで分担すると、No.4メッキセルでの通電電流は8663×75/(75+70)=4481(A)となる。No.5メッキセルでは、被メッキ材の速度が250mpmで残り5000−3511=1489(C/m)を通電する必要があり、必要電流は6206Aとなる。
【0033】
被メッキ材のライン速度が250mpmのまま、更に次のメッキセルが存在する区分領域の入口に到達した状態を表5に示す。
【0034】
【表5】

【0035】
ここで、No.1メッキセルでのメッキセル電流は、前回計算と同様に5376(A)となる。No.2メッキセルはここでも投入の必要はない。No.3メッキセルでの電流は、被メッキ材の速度250mpmで残り5000−1290=3710(C/m)を通電する必要があり、残りメッキセルでのトータル電流は15457(A)が必要となる。これを、No.3、4、5メッキセルで分担すると、No.3メッキセルでの通電電流は15457×85/(85+75+70)=5712(A)となる。No.4メッキセルでは、被メッキ材の速度が250mpmで残り5000−2921=2079(C/m)を通電する必要があり、残りメッキセルでのトータル電流が8663(A)となる。これをNo.4、5メッキセルで分担すると、No.4メッキセルでの通電電流は8663×75/(75+70)=4481(A)となる。No.5メッキセルでは、被メッキ材の速度が250mpmで残り5000−3996=1004(C/m)を通電する必要があり、必要電流は4182(A)となる。
【0036】
同様に被メッキ材の進行を繰り返していくと、被メッキ材の速度変化直後の再計算でNo.1メッキセルが存在する区分領域の入口に位置していた被メッキ材の分割区間の先頭が、No.5メッキセルが存在する区分領域の入口に到達した時点では表6に示すようになる。
【0037】
【表6】

【0038】
ここで、No.1メッキセルでの電流は、前回計算と同様に5376(A)となる。No.2メッキセルは投入の必要がない。No.3メッキセルでのメッキセル電流についても、前回計算と同様に5712(A)となる。No.4メッキセルでは、被メッキ材の速度が250mpmで残り5000−2661=2239(C/m)を通電する必要があり、残りメッキセルでのトータル電流が9745(A)となる。これをNo.4、5メッキセルで分担すると、9745×75/(75+70)=5040(A)となる。No.5メッキセルでは、被メッキ材の速度が250mpmで残り1120(C/m)を通電する必要があり、必要電流は4704(A)となる。本状態は、使用優先順位、負荷分担率前提でのライン速度250mpmにおける定常状態となり、速度変化が生じない場合はこの状態を維持する。
【0039】
続いて、被メッキ材の速度が減少する場合について説明する。
ライン速度250mpmの定常状態からライン速度200mpmに速度が低下した場合、各メッキセルの電流Iは、I=(V/V)×Iに従い200/250=0.8倍となる。計算結果を表7に示す。
【0040】
【表7】

【0041】
被メッキ材の速度減少に伴い、No.5メッキセルに流れる電流が電流範囲下限の4000(A)を下回るため、更にその後、被メッキ材が進行して次のメッキセルが存在する区分領域の入口に到達した際に、使用するメッキセルの個数、各メッキセルのメッキセル電流が再計算され、単一のメッキセルに流れるメッキセル電流が所望範囲となるように、使用するメッキセルの個数を4から3に減少させる。表8に再計算結果を示す。
【0042】
【表8】

【0043】
ここで、No.1メッキセルでのメッキセル電流は、被メッキ材の速度が200mpmのときに5000(C/m)を目付するのに必要なトータル電流が16667(A)で、No.5メッキセルが電流範囲の下限値である4000(A)を下回るため使用優先順位4のNo.4メッキセルを投入しないことを前提に、使用するメッキセルの負荷分担率より、16667×80/(80+85+70)=5674(A)となる。No.2メッキセルは、ここでも投入の必要はない。No.3メッキセルでのメッキセル電流は、被メッキ材の速度が200mpmで残り5000−1290=3710(C/m)を通電する必要があり、残りメッキセルでのトータル電流は12366(A)となる。これを、使用優先順位4のNo.4メッキセルは使用しない前提で、No.3、5メッキセルで分担すると、No.3メッキセルでの通電電流は12366×85/(85+70)=6781(A)となる。No.4メッキセルでは、被メッキ材の速度が200mpmで残り5000−2681=2339(C/m)を通電する必要があり、残りメッキセルでのトータル電流が7796(A)となる。これは各メッキセルの電流上限値7000(A)を超えるため、No.4,5メッキセルで分担することとなり、そのときの電流は7796×75/(75+70)=4032(A)となる。No.5メッキセルでは、被メッキ材の速度が200mpmで残り5000−3871=1129(C/m)を通電する必要があり、必要電流は3763(A)となる。これは下限4000(A)を下回るが、トータル5000(C/m)を確保のため3763Aを流すこととなる。
【0044】
被メッキ材ライン速度が200mpmのまま、次のメッキセルが存在する区分領域の入口に到達した状態を表9に示す。
【0045】
【表9】

【0046】
ここで、No.1メッキセルでの電流は、前回計算と同様に5674(A)となる。No.2メッキセルでのメッキセル電流も前回同様に投入しない。No.3メッキセルでの電流は、被メッキ材の速度が200mpmで残り5000−1290=3325(C/m)を通電する必要があり、残りメッキセルでのトータル電流が12366(A)となる。これを、No.3、5メッキセルで分担すると、No.3メッキセルでの通電電流は12366×85/(85+70)=6781(A)となる。No.4メッキセルでは、被メッキ材の速度が200mpmで残り5000−3325=1675(C/m)を通電する必要があり、残りメッキセルでのトータル電流が5585(A)となる。これは、使用優先順位の高いNo.5メッキセルで負担することができるためNo.4メッキセルは投入しない。No.5メッキセルでは、被メッキ材の速度が200mpmで残り5000−3871=1129(C/m)を通電する必要があり、必要電流は3763(A)となる。ここでも下限4000(A)を下回るが、トータル5000(C/m)を確保のため3763(A)を流すこととなる。
【0047】
被メッキ材のライン速度が200mpmのまま、更に次のメッキセルが存在する区分領域の入口に到達した状態を表10に示す。
【0048】
【表10】

【0049】
ここで、No.1メッキセルでのメッキセル電流は、前回計算と同様に5674(A)となる。No.2メッキセルでの電流も前回同様に投入しない。No.3メッキセルでのメッキセル電流は、被メッキ材の速度が200mpmで残り5000−1702=3298(C/m)を通電する必要があり、残りメッキセルでのトータル電流が10993(A)となる。これを、No.3、5メッキセルで分担すると、No.3メッキセルでの通電電流は10933×85/(85+70)=6028(A)となる。No.4メッキセルでは、被メッキ材の速度が200mpmで残り5000−3325=1675(C/m)を通電する必要があり、残りメッキセルでのトータル電流が5585(A)となる。これは、使用優先順位の高いNo.5セルで負担することができるためNo.4メッキセルは投入しない。No.5メッキセルでは、被メッキ材の速度が200mpmで残り5000−3325=1675(C/m)を通電する必要があり、必要電流は5585(A)
となる。
【0050】
同様に被メッキ材の進行を繰り返していくと、被メッキ材の速度変化直後の再計算でNo.1メッキセルが存在する区分領域の入口に位置していた被メッキ材の分割区間の先頭が、No.5メッキセルが存在する区分領域の入口に到達した時点では表11に示すようになる。
【0051】
【表11】

【0052】
ここで、No.1メッキセルでのメッキセル電流は、前回計算と同様に5674(A)となる。No.2メッキセルでの電流についても前回同様に投入しない。No.3メッキセルについても前回計算と同様で、6028(A)となる。No.4メッキセルでは、被メッキ材の速度が200mpmで残り5000−3511=1489(C/m)を通電する必要があり、残りメッキセルでのトータル電流が4965(A)となる。これは、使用優先順位の高いNo.5メッキセルで負担することができるため、No.4メッキセルは使用しない。No.5メッキセルでは、被メッキ材の速度が200mpmで残り5000−3511=1489(C/m)を通電する必要があり、必要電流は4965(A)となる。本状態は、使用優先順位、負荷分担率前提でのライン速度200mpmにおける定常状態となり、本実施例の最初の定常状態と同じ状態に戻っており、速度変化が生じない場合はこの状態を維持する。
【0053】
以上、本発明を、実施の形態を参照して説明してきたが、本発明は何ら上記した実施の形態に記載した構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載されている事項の範囲内で考えられるその他の実施の形態や変形例も含むものである。
例えば、本実施の形態では、電流値0Aのセルが存在しているが、セルに電流を流さないとセルにメッキされる懸念がある場合は、強制的に少量の電流を流してもよい。
なお、「通電するメッキセルの電極の増減」と「使用するメッキセル数の増減」、「メッキセルの投入あるいは電極の投入」と「メッキセルの電極に通電すること」、「メッキセルの電極に流す電極電流」と「メッキセル電流」とはそれぞれ同じ意味である。また、本発明の実施例では、1つのメッキセルの中には、上下一対の電極を1つ有する場合で説明したが、1つのメッキセルの中に、上あるいは下の1つの電極のみを有する場合にも適用可能であるし、1つのメッキセルの中に、上下一対の電極を複数有する場合にも適用できる。
【符号の説明】
【0054】
10:電気メッキ設備、11:被メッキ材、12:入側ブライドル、13:メッキセル、13a:電極、14:メッキ槽、15:出側ブライドル、16:入側電動機、17:出側電動機、18:電動機制御装置、19:コンダクターロール、20:メッキ制御システム、21:目付量設定器、22:速度設定器、23:メッキ制御装置、24:電流制御装置、25:速度検出器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メッキセルを収納するメッキ槽が隙間を有して被メッキ材の進行方向に沿って並べて配置されたメッキラインを備えたメッキ設備で、該被メッキ材が加減速するときの必要電流の増減に応じて、使用する前記メッキセルの電極の数及び使用する該電極に流す電極電流をそれぞれ増減させる電気メッキ電流制御方法において、
前記メッキセル毎に負荷分担率と使用優先順位を予め決定しておき、前記メッキラインを、前記被メッキ材の進行方向に沿って前記メッキ槽をそれぞれ含んだ同一長さの区分領域に分割し、また前記被メッキ材を前記区分領域と同一長さを有する分割区間に分割して、前記被メッキ材の進行と共に前記分割区間毎の積算通電量を常時トラッキングし、該分割区間の先頭が前記メッキセルを通過して次段の前記メッキセルが存在する前記区分領域の入口に到達する毎に、目標目付量と前記積算通電量から換算した現状目付量との差を算出し、以降の前記メッキセル毎に決定された前記負荷分担率及び前記使用優先順位に基づいて、使用する前記メッキセルの電極の数と使用する該電極に流す前記電極電流を再計算し、求めた該電極電流を使用する該電極に流すことを特徴とする電気メッキ電流制御方法。
【請求項2】
請求項1記載の電気メッキ電流制御方法において、再計算後に前記被メッキ材に速度変化が生じた場合、該速度変化と同時に、以降で使用する前記電極に流す前記電極電流の値を、速度比に比例して補正することを特徴とする電気メッキ電流制御方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−202950(P2010−202950A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−52120(P2009−52120)
【出願日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【出願人】(306022513)新日鉄エンジニアリング株式会社 (897)