電気光学装置の駆動方法、電気光学装置および電子機器
【課題】液晶パネルの光劣化の影響を抑制すること。
【解決手段】この駆動方法は、複数の画素電極と、前記複数の画素電極に対向する対向電極と、前記複数の画素電極と前記対向電極とに挟まれた電気光学層とを有する電気光学装置の駆動方法であって、1フレーム期間を分割した複数のサブフィールド期間の各々について、前記複数の画素電極の各々と前記対向電極との間に第1階調値および第2階調値のいずれかに対応する電圧を印加するステップを有し、前記複数のサブフィールド期間のすべてについて、サブフィールド期間の時間長が2.78ミリ秒以下である。
【解決手段】この駆動方法は、複数の画素電極と、前記複数の画素電極に対向する対向電極と、前記複数の画素電極と前記対向電極とに挟まれた電気光学層とを有する電気光学装置の駆動方法であって、1フレーム期間を分割した複数のサブフィールド期間の各々について、前記複数の画素電極の各々と前記対向電極との間に第1階調値および第2階調値のいずれかに対応する電圧を印加するステップを有し、前記複数のサブフィールド期間のすべてについて、サブフィールド期間の時間長が2.78ミリ秒以下である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気光学装置の駆動に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、液晶層を駆動する回路を石英基板上に形成した液晶パネルを開示している。特許文献2は、1フレームを複数のサブフレームに分割し、各サブフレームにおいては0Vまたは5Vの電圧を印加することにより中間階調を表現する技術を開示している。特許文献3および4は、サブフィールド毎に印加電圧の極性を反転させる技術を開示している。特許文献5は、1フレームにおいて正極性電圧が印加されるサブフィールドの時間と負極性電圧が印加されるサブフィールドの時間とを等しくする技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−293320号公報
【特許文献2】特開2001−100180号公報
【特許文献3】特開2010−191038号公報
【特許文献4】特開2002−169517号公報
【特許文献5】特開2010−85955号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1〜5には、液晶パネルの光劣化の影響を抑制する技術は開示されていない。
これに対し本発明は、液晶パネルの光劣化の影響を抑制する技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、複数の画素電極と、前記複数の画素電極に対向する対向電極と、前記複数の画素電極と前記対向電極とに挟まれた電気光学層とを有する電気光学装置の駆動方法であって、1フレーム期間を分割した複数のサブフィールド期間の各々について、前記複数の画素電極の各々と前記対向電極との間に第1階調値および第2階調値のいずれかに対応する電圧を印加するステップを有し、前記複数のサブフィールド期間のすべてについて、サブフィールド期間の時間長が2.78ミリ秒以下であることを特徴とする駆動方法を提供する。
この駆動方法によれば、サブフィールド期間の時間長が2.78ミリ秒を超える場合と比較して、電気光学層の光劣化による表示特性の変化を抑制することができる。
【0006】
好ましい態様において、前記複数のサブフィールド期間の時間長が、異なるk個の時間長tiのいずれかであり(iは、1≦i≦kである整数)、前記k個の時間長tiは、1≦i≦k−1の範囲においてti<ti+1であり、時間長tiのサブフィールド期間において、時間長ti+1のサブフィールド期間とは逆の極性の電圧が前記電気光学層に印加されてもよい。
この駆動方法によれば、時間長tiのサブフィールド期間において、時間長ti+1のサブフィールド期間とは逆の極性の電圧が前記電気光学層に印加される場合と比較して、電気光学層の光劣化による表示特性の変化を抑制することができる。
【0007】
別の好ましい態様において、前記複数のサブフィールド期間の時間長が、異なるk個の時間長tiのいずれかであり(iは、1≦i≦kである整数)、前記k個の時間長tiは、1≦i≦k−2の範囲において40マイクロ秒≦(ti+ti+2)≦2.78ミリ秒であってもよい。
この駆動方法によれば、時間長の和(ti+ti+2)が2.78ミリ秒を超える場合と比較して、電気光学層の光劣化による表示特性の変化を抑制することができる。
【0008】
さらに別の好ましい態様において、1フレーム期間において、前記電気光学層に正極性の電圧が印加されるサブフィールド期間の時間長の総和と、前記電気光学層に負極性の電圧が印加されるサブフィールド期間の時間長の総和との差が2.78ミリ秒以下であってもよい。
この駆動方法によれば、電気光学層に正極性の電圧が印加されるサブフィールド期間の時間長の総和と、電気光学層に負極性の電圧が印加されるサブフィールド期間の時間長の総和との差が2.78ミリ秒を超える場合と比較して、電気光学層の光劣化による表示特性の変化を抑制することができる。
【0009】
また、本発明は、複数の画素電極と、前記複数の画素電極に対向する対向電極と、前記複数の画素電極と前記対向電極とに挟まれた電気光学層と、1フレーム期間を分割した複数のサブフィールド期間の各々について、前記複数の画素電極の各々と前記対向電極との間に第1階調値および第2階調値のいずれかに対応する電圧を印加するための信号を出力するデータ線駆動回路とを有し、前記複数のサブフィールド期間のすべてについて、サブフィールド期間の時間長が2.78ミリ秒以下であることを特徴とする電気光学装置を提供する。
この電気光学装置によれば、サブフィールド期間の時間長が2.78ミリ秒を超える場合と比較して、電気光学層の光劣化による表示特性の変化を抑制することができる。
【0010】
さらに、本発明は、上記の電気光学装置を有する電子機器を提供する。
この電子機器によれば、サブフィールド期間の時間長が2.78ミリ秒を超える場合と比較して、電気光学層の光劣化による表示特性の変化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】一実施形態に係る電子機器1の構成を示すブロック図である。
【図2】液晶パネル100の構造を示す図である。
【図3】素子基板101の構成を示す図である。
【図4】画素110の等価回路を示す図である。
【図5】液晶パネル100の駆動方法を示すタイミングチャートである。
【図6】液晶パネル100の電圧−透過率特性(V−T特性)を示す図である。
【図7】液晶層105の特性が劣化するメカニズムを説明する図である。
【図8】極性反転時の透過率の過渡特性を示す図である。
【図9】サブフィールドの構成を例示する図である。
【図10】変形例1に係るサブフィールドの構成を例示する図である。
【図11】変形例5を説明する図である。
【図12】変形例6を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
1.構成
図1は、一実施形態に係る電子機器1の構成を示すブロック図である。この例で、電子機器1はいわゆるリア型プロジェクターである。電子機器1は、液晶パネル100と、光源11と、光学系12と、反射鏡13と、反射鏡14と、スクリーン15とを有する。液晶パネル100は、ライトバルブとして機能する。光源11は、光を出力する。光源11から出射された光は、液晶パネル100を透過することにより画像情報が与えられる。光学系12は、液晶パネル100を透過した光束を制御し、反射鏡13に向けて光束を出射する。反射鏡13および反射鏡14は、光束をスクリーン15に導く。スクリーン15には、液晶パネル100によって制御された画像が表示される。
【0013】
図2(A)は、液晶パネル100の構造を示す斜視図である。図2(B)は、図2(A)におけるH−h線における断面を示す模式図である。液晶パネル100は、素子基板101と、対向基板102と、液晶層105とを有する。素子基板101と対向基板102とは、スペーサー(図示省略)を含むシール材90によって一定の間隙を保って、互いに電極形成面が対向するように貼り合わせられている。液晶層105は、この間隙に封入されている。液晶層105は、例えばVA(Vertical Alignment)型の液晶である。
【0014】
素子基板101および対向基板102は、それぞれ石英などの透明性を有する基板を有する。素子基板101にあっては、対向基板102よりもY方向のサイズが長い。奥側(h側)が揃えられているので、素子基板101の手前側(H側)の一辺が対向基板102から張り出している。この張り出した領域にX方向に沿って複数のコネクター107が設けられている。複数のコネクター107は、外部の回路から各種信号や各種電圧、画像信号などを供給するための端子である。
【0015】
素子基板101において対向基板102と対向する面には、画素電極118が形成されている。画素電極118は、ITO(Indium Tin Oxide)などの透明性を有する導電層をパターニングしたものである。また、素子基板101には、データ線駆動回路140が形成されている。対向基板102において、素子基板101と対向する面に設けられた対向電極108は、同じくITOなどの透明性を有する導電層である。
【0016】
図3は、素子基板101の構成を示す図である。素子基板101は、石英基板上に形成された駆動回路を有する。この駆動回路は、m本の走査線103と、n本のデータ線104と、m行n列に配置された画素110と、タイミング制御回路120と、走査線駆動回路130と、データ線駆動回路140とを有する。画素110は、走査線103とデータ線104との交差に対応して設けられている。m行n列に配置された画素110により、表示領域150が形成される。タイミング制御回路120は、走査線駆動回路130およびデータ線駆動回路140が動作するタイミングを制御する信号、例えばスタート信号DYおよび反転化信号FRを出力する。走査線駆動回路130は、m本の走査線103に、走査信号を供給する。走査信号は、m本の走査線103の中から1本の走査線103を順次排他的に選択するための信号である。データ線駆動回路140は、コネクター107を介して入力された画像信号に応じたデータ信号を、n本のデータ線104に供給する。データ信号は、その画素110の階調値に応じた電圧(以下「データ電圧」という)を示す。対向基板102には、対向電極108が形成されている。対向電極108は、すべての画素110に共通である。液晶層105は、印加される電圧に応じた光学状態を示す電気光学素子の一例である。
【0017】
図4は、画素110の等価回路を示す図である。画素110は、トランジスター111と、容量素子112と、画素電極118と、対向電極108とを有する。トランジスター111は、走査信号に応じてデータ線104と画素電極118との導通状態を制御するスイッチング手段の一例である。この例で、トランジスター111は、nチャネル型のTFT(Thin Film Transistor)である。トランジスター111のゲートおよびソースは、走査線103およびデータ線104に接続されている。トランジスター111のドレインは、画素電極118に接続されている。画素電極118は、画素110の各々に固有のものが1つずつ設けられている。画素電極118と対向電極108との間には、液晶層105が挟持されている。対向電極108には、共通電位LCcomが与えられる。トランジスター111が導通状態になっているとき、液晶層105には、データ電圧と共通電位LCcomとの差に応じた電圧が印加される。液晶層105は、データ電圧に応じた光学状態を示す。容量素子112は、データ電圧を保持するための保持容量である。容量素子112の一端はトランジスター111のドレインに接続されている。容量素子112の他端には共通電位Vcomが与えられる。この例では、Vcom=LCcomである。
【0018】
2.動作
図5は、液晶パネル100の駆動方法を示すタイミングチャートである。画像は1フレームごとに書き替えられる。例えば、フレーム速度は60フレーム/秒、すなわち垂直同期信号(図示略)の周波数は60Hzであり、1フレーム期間(以下、単に「1フレーム」という)は16.7ミリ秒である。液晶パネル100はサブフィールド駆動により駆動される。サブフィールド駆動において、1フレームは複数のサブフィールド期間(以下、単に「サブフィールド」という)に分割される。スタート信号DYは、サブフィールドの始期を示す信号である。スタート信号DYとしてH(High)レベルのパルスが供給されると、走査線駆動回路130は、走査線103の走査を開始、すなわち、m本の走査線103に走査信号Gi(1≦i≦m)を出力する。1つのサブフィールドにおいて、走査信号Gは、順次排他的にHレベルの電圧になる信号である。Hレベルの走査信号を選択信号といい、L(Low)レベルの走査信号を非選択信号という。また、第i行の走査線103に選択信号が供給されることを、「第i行の走査線103が選択される」という。トランジスター111は、非選択信号が入力されているときは絶縁状態(オフ状態)であり、選択信号が入力されているときは導通状態(オン状態)である。第j列のデータ線104に供給される出データ信号Sjは、走査信号と同期している。例えば、第i行の走査線103が選択されているときは、第i行第j列の画素110の階調値に対応する電圧を示す信号がデータ信号Sjとして供給される。
【0019】
データ信号Sjは、第1階調値および第2階調値の2値のいずれかの電圧(例えば、0Vまたは5V)を示す信号である。印加される電圧が0Vのサブフィールドを、「オフのサブフィールド」といい、あるサブフィールドにおいて0Vの電圧を印加することを「サブフィールドをオフにする」という。同様に、印加される電圧の絶対値が5Vのサブフィールドを、「オンのサブフィールド」といい、あるサブフィールドにおいて絶対値が5Vの電圧を印加することを「サブフィールドをオンにする」という。サブフィールド駆動においては、オンにするサブフィールドとオフにするサブフィールドの割合を制御することにより1フレームにおける中間階調を表現する。
【0020】
反転化信号FRは、データ電圧の極性を示す信号である。例えば、反転化信号FRがHレベルのサブフィールドにおいて正極性のデータ電圧(例えば+5V)が印加され、反転化信号FRがLレベルのサブフィールドにおいて負極性のデータ電圧(例えば−5V)が印加される。反転化信号FRは、スタート信号DYと同期してHレベルとLレベルが切り替わる信号である。すなわち、データ電圧の極性は、サブフィールド毎に切り替わる。
【0021】
図6は、液晶パネル100の電圧−透過率特性(V−T特性)を示す図である。この図を用いて、従来技術の問題点を説明する。図5において、横軸は液晶層105に印加される電圧を、縦軸は液晶層105の透過率を示している。破線は初期(例えば未使用時)の特性を、実線は劣化後(例えばある時間光照射された後)の特性を示す。電子機器1において、スクリーン15に投影される画像を明るくするためには、より高輝度の光源11が用いられる。液晶パネル100は、光源11から照射される光によって特性が劣化する。図5の例では、劣化後において、V−T曲線が全体的に初期よりも高電圧側にシフトしている。例えば液晶層105に3Vの電圧を印加する場合を考えると、劣化後は初期よりも透過率が低下している。すなわち、劣化後は初期よりも画像が暗くなる。
【0022】
図7は、液晶層105の特性が劣化するメカニズムを説明する図である。図7(A)は、初期状態の液晶層105の様子を示す模式図である。初期状態においては、液晶層105の外部から与えられる電圧は液晶層105に印加される。光源11から光を照射されると、液晶層105において不純物イオンが発生する。不純物イオンとしては、液晶層105に含まれていた不純物が光照射によりイオン化したもの、液晶分子が光照射により分解されイオン化したもの、またはシール材90もしくは封止材から混入した不純物が光照射によりイオン化したものが考えられる。図7(B)は、不純物イオンの影響を示す図である。不純物イオンの中には、液晶層105中を移動する可動イオンがある。例えば、対向電極108および画素電極118にそれぞれ0Vおよび−3Vの電圧が印加された場合、負極性の不純物イオンは対向電極108側に移動し、正極性の不純物イオンは画素電極118側に移動する。これらの不純物イオンにより、液晶層105において内部電界Eiが発生する。内部電界Eiは、対向電極108および画素電極118の電位差に応じた電界(以下「外部電界Ee」という)を打ち消す向きの電界である。すなわち、液晶層105に印加される実効的な電圧は、外部電界Eeから内部電界Eiを差し引いた電界に対応する電圧が印加される。すなわち、液晶層105に印加される実効的な電圧の絶対値は、3Vよりも低くなる。
【0023】
液晶パネルにおいては、一般的に、パネルの焼き付きを防ぐため極性反転駆動が行われる。極性反転駆動とは、例えば3Vの電圧に相当する透過率を得るために、−3Vの電圧と+3Vの電圧とを交互に印加することをいう。極性反転駆動の周波数が不純物イオンの移動度に対して十分に低い場合、不純物イオンは、印加電圧の極性反転に追従して移動する。
【0024】
図8は、極性反転時の透過率の過渡特性を示す図である。横軸は時間を、縦軸は透過率を示している。破線は初期の特性を、実線は劣化後の特性を示している。印加電圧の極性が反転した瞬間、外部電界Eeと内部電界Eiの向きが揃う(図7(C))。この瞬間、液晶層105に印加される実効的な電圧の絶対値は、3Vよりも高くなる。すなわちこのとき、液晶層105の透過率は初期状態よりも高くなる。その後、時間の経過とともに不純物イオンは移動する。不純物イオンの移動に伴い、内部電界Eiはゼロになった後、最終的には外部電界を打ち消す向きを向く(図7(D))。すなわち、液晶層105の透過率は初期状態よりも低い値に収束する。その後再び極性が反転すると、外部電界Eeと内部電界Eiの向きが揃い、透過率が上昇する。透過率は時間の経過とともに低下し、初期状態よりも低い値に収束する。
【0025】
図7で説明したメカニズムによれば、極性反転の周波数を上昇させると、不純物イオンの移動が極性反転に追従できなくなり、その影響を低減できるはずである。本願の発明者らの研究によれば、極性反転の周波数を360Hz以上(すなわち、極性反転の周期を2.78ミリ秒以下)にすることにより、不純物イオンの透過率に対する影響を無視できる程度に低減できることがわかった。360Hz以上の高い周波数で極性反転を行うことにより、たとえ光劣化により液晶層105中に不純物イオンが発生したとしても、透過率に対する影響を低減することができる。
【0026】
図9は、サブフィールドの構成を例示する図である。この例では、1フレームはSF1〜SF20の20個のサブフィールドにより構成される。すべてのサブフィールドについて時間長(幅)はtsで均一である。例えば1フレームが16.7ミリ秒である場合(垂直同期周波数が60Hzである場合)、ts=0.833ミリ秒である。すなわち、データ電圧の極性が切り替わる周期は2.78ミリ秒より短い。したがって、液晶パネル100によれば、データ電圧の極性が切り替わる周期が2.78ミリ秒を超える場合と比較して、不純物イオンによる透過率への影響が低減された駆動を行うことができる。なお、極性反転の周期すなわちサブフィールドの時間長は、20.0マイクロ秒以上であることが望ましい。これは、サブフィールドの時間長が20.0マイクロ秒未満になると、この速度では液晶分子がほとんど応答できなくなるためである。
【0027】
3.他の実施形態
本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、種々の変形実施が可能である。以下、変形例をいくつか説明する。以下の変形例のうち2つ以上のものが組み合わせて用いられてもよい。
【0028】
3−1.変形例1
図10は、変形例1に係るサブフィールドの構成を例示する図である。複数のサブフィールドの時間長は均一でなくてもよい。変形例1においては、サブフィールドの時間長は、t1、t2、t3、およびt4の4種類(t1<t2<t3<t4)のいずれかである。1フレームは、複数(この例では5つ)のブロックに分割されている。1ブロックは、複数(この例では4つ)のサブフィールドに分割されている。1ブロック内の4つのサブフィールドの時間長は、t1、t2、t3、およびt4である。この例で、サブフィールドの時間長は、20.0マイクロ秒≦t1<t2<t3<t4≦2.78ミリ秒である。時間長t4の一番長いサブフィールドにおいても、不純物イオンによる透過率への影響が低減された駆動を行うことができる。
【0029】
3−2.変形例2
図10の例において、時間長tiのサブフィールドにおいて印加されるデータ電圧の極性と、時間長ti-1のサブフィールドおよび時間長ti+1のサブフィールドにおいて印加されるデータ電圧の極性とは逆である。このような構成により、時間長tiのサブフィールドにおいて印加されるデータ電圧の極性と、時間長ti-1のサブフィールドおよび時間長ti+1のサブフィールドにおいて印加されるデータ電圧の極性とが同じである構成と比較して、データ電圧の極性差(正極性の電圧が印加された時間と負極性の電圧が印加された時間との差)を小さくすることができる。例えば図10において、SF1〜SF5をオンにする例を考える。このとき、極性差Δtは、Δt=t1−t2+t3−t4+t1である。仮に、時間長ti-1のサブフィールドおよび時間長ti+1のサブフィールドにおいて印加されるデータ電圧の極性とが同じである例を考えると、極性差Δtcは、Δtc=t1+t2+t3+t4−t1となる。図10の構成により、極性差を低減できていることがわかる。しかし、時間長ti-1のサブフィールドおよび時間長ti+1のサブフィールドにおいて印加されるデータ電圧の極性とが同じであってもよい。
【0030】
3−3.変形例3
図10の例において、1ブロックは、時間長が異なるk個(k=4)のサブフィールドにより構成される。1フレーム中のサブフィールドの総数をSFtotalと表すと(SFtotal=20)、変形例3において、サブフィールドの総数SFtotalとサブフィールドの種類の数kは、次式(1)の関係を満たす。
【数1】
ここで、Δtfは、1ブロック内における極性差の代表値であり、次式(2)で表される。
【数2】
Δtfは、1ブロック内のすべてのサブフィールドがオンである場合の極性差に相当する。式(1)の条件を採用することにより、1ブロック内のすべてのサブフィールドがオンである場合も、不純物イオンの影響を低減することができる。
【0031】
3−4.変形例4
変形例4において、時間長tiとti+2との和、すなわち、隣接する2つの同極性のサブフィールドの時間長の和は、2.78ミリ秒以下である。中間階調を表現するために、あるサブフィールドと隣接するサブフィールドだけでなく、2つ隣のサブフィールドをオンにする場合がある。例えば、図10の例で、SF1〜SF5、およびSF7をオンにする場合を考える。第2番目のブロックにおいてSF5およびSF7は同極性であり、逆極性のSF6がオフであるので、極性差はt1とt3との和に依存している。したがって、ti+ti+2≦2.78ミリ秒という条件を採用することにより、不純物イオンの影響を低減することができる。なお、液晶分子の応答速度を考慮すると、ti+ti+2の下限値は40.0マイクロ秒(1サブフィールドにつき20.0マイクロ秒)である。すなわち、40.0マイクロ秒≦ti+ti+2≦2.78ミリ秒である。
【0032】
3−5.変形例5
図11は、変形例5を説明する図である。変形例5において、液晶パネル100は、ある階調を表現するSFコードが複数存在する場合には、極性差が2.78ミリ秒以下になるSFコードが用いられる。「SFコード」とは、オンにするサブフィールドの組み合わせをいう。例えば、ある階調を表現するのに、図11(A)〜(C)の3つのSFコードが存在する場合、データ線駆動回路140は、これらのうち、極性差が2.78ミリ秒以下になるSFコードに従ったデータ電圧をデータ線104に出力する。別の例で、データ線駆動回路140は、これらのうち、極性差が最小になるSFコードに従ったデータ電圧をデータ線104に出力してもよい。
【0033】
3−6.変形例6
図12は、変形例6を説明する図である。実施形態においては、1フレーム内のサブフィールドの極性またはSFコードの構成について説明した。上記の内容に加えて、変形例6では、1フレーム毎にデータ電圧の極性を反転させるいわゆるフレーム反転駆動が用いられる。図12においては、第1フレームと、それに続く第2フレームにおけるサブフィールドの極性が示されている。例えば、複数フレームに渡って同じ画像を表示し続ける場合を考えると、あるフレームで発生した極性差を、その次のフレームでキャンセルすることができる。
【0034】
3−7.変形例7
サブフィールドの時間長の上限値は2.78ミリ秒に限定されない。要は、不純物イオンが追従できない程度の速さでデータ電圧の極性を切り替えられればよい。すなわちこの上限値は、不純物イオンの移動度、温度、液晶層の粘度等の条件に応じて変更されてもよい。サブフィールドの時間長の上限値は1ミリ秒以下であることがより好ましい。
また、液晶層105は、透過型に限られず、反射型であってもよい。また、液晶層105は、ノーマリーブラックモードに限られず、例えばTN方式として、電圧無印加時において液晶層120が白状態となるノーマリーホワイトモードであってもよい。さらに、液晶以外の電気光学素子が用いられてもよい。
また、画素回路は図4に例示したものに限定されない。液晶層105に対し所望の電圧を印加できるものであれば、どのような構成の回路が用いられてもよい。
また、電子機器1は、リア型プロジェクターに限定されない。電子機器1は、プロジェクター、パーソナルコンピューター、PDA(Personal Digital Assistant)、携帯電話、スマートフォン、タブレット端末、または携帯ゲーム機であってもよい。
【符号の説明】
【0035】
1…電子機器、11…光源、12…光学系、13…反射鏡、14…反射鏡、15…スクリーン、90…シール材、100…液晶パネル、101…素子基板、102…対向基板、103…走査線、104…データ線、105…液晶層、107…コネクター、108…対向電極、110…画素、111…トランジスター、112…容量素子、118…画素電極、120…タイミング制御回路、130…走査線駆動回路、140…データ線駆動回路、150…表示領域。
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気光学装置の駆動に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、液晶層を駆動する回路を石英基板上に形成した液晶パネルを開示している。特許文献2は、1フレームを複数のサブフレームに分割し、各サブフレームにおいては0Vまたは5Vの電圧を印加することにより中間階調を表現する技術を開示している。特許文献3および4は、サブフィールド毎に印加電圧の極性を反転させる技術を開示している。特許文献5は、1フレームにおいて正極性電圧が印加されるサブフィールドの時間と負極性電圧が印加されるサブフィールドの時間とを等しくする技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−293320号公報
【特許文献2】特開2001−100180号公報
【特許文献3】特開2010−191038号公報
【特許文献4】特開2002−169517号公報
【特許文献5】特開2010−85955号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1〜5には、液晶パネルの光劣化の影響を抑制する技術は開示されていない。
これに対し本発明は、液晶パネルの光劣化の影響を抑制する技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、複数の画素電極と、前記複数の画素電極に対向する対向電極と、前記複数の画素電極と前記対向電極とに挟まれた電気光学層とを有する電気光学装置の駆動方法であって、1フレーム期間を分割した複数のサブフィールド期間の各々について、前記複数の画素電極の各々と前記対向電極との間に第1階調値および第2階調値のいずれかに対応する電圧を印加するステップを有し、前記複数のサブフィールド期間のすべてについて、サブフィールド期間の時間長が2.78ミリ秒以下であることを特徴とする駆動方法を提供する。
この駆動方法によれば、サブフィールド期間の時間長が2.78ミリ秒を超える場合と比較して、電気光学層の光劣化による表示特性の変化を抑制することができる。
【0006】
好ましい態様において、前記複数のサブフィールド期間の時間長が、異なるk個の時間長tiのいずれかであり(iは、1≦i≦kである整数)、前記k個の時間長tiは、1≦i≦k−1の範囲においてti<ti+1であり、時間長tiのサブフィールド期間において、時間長ti+1のサブフィールド期間とは逆の極性の電圧が前記電気光学層に印加されてもよい。
この駆動方法によれば、時間長tiのサブフィールド期間において、時間長ti+1のサブフィールド期間とは逆の極性の電圧が前記電気光学層に印加される場合と比較して、電気光学層の光劣化による表示特性の変化を抑制することができる。
【0007】
別の好ましい態様において、前記複数のサブフィールド期間の時間長が、異なるk個の時間長tiのいずれかであり(iは、1≦i≦kである整数)、前記k個の時間長tiは、1≦i≦k−2の範囲において40マイクロ秒≦(ti+ti+2)≦2.78ミリ秒であってもよい。
この駆動方法によれば、時間長の和(ti+ti+2)が2.78ミリ秒を超える場合と比較して、電気光学層の光劣化による表示特性の変化を抑制することができる。
【0008】
さらに別の好ましい態様において、1フレーム期間において、前記電気光学層に正極性の電圧が印加されるサブフィールド期間の時間長の総和と、前記電気光学層に負極性の電圧が印加されるサブフィールド期間の時間長の総和との差が2.78ミリ秒以下であってもよい。
この駆動方法によれば、電気光学層に正極性の電圧が印加されるサブフィールド期間の時間長の総和と、電気光学層に負極性の電圧が印加されるサブフィールド期間の時間長の総和との差が2.78ミリ秒を超える場合と比較して、電気光学層の光劣化による表示特性の変化を抑制することができる。
【0009】
また、本発明は、複数の画素電極と、前記複数の画素電極に対向する対向電極と、前記複数の画素電極と前記対向電極とに挟まれた電気光学層と、1フレーム期間を分割した複数のサブフィールド期間の各々について、前記複数の画素電極の各々と前記対向電極との間に第1階調値および第2階調値のいずれかに対応する電圧を印加するための信号を出力するデータ線駆動回路とを有し、前記複数のサブフィールド期間のすべてについて、サブフィールド期間の時間長が2.78ミリ秒以下であることを特徴とする電気光学装置を提供する。
この電気光学装置によれば、サブフィールド期間の時間長が2.78ミリ秒を超える場合と比較して、電気光学層の光劣化による表示特性の変化を抑制することができる。
【0010】
さらに、本発明は、上記の電気光学装置を有する電子機器を提供する。
この電子機器によれば、サブフィールド期間の時間長が2.78ミリ秒を超える場合と比較して、電気光学層の光劣化による表示特性の変化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】一実施形態に係る電子機器1の構成を示すブロック図である。
【図2】液晶パネル100の構造を示す図である。
【図3】素子基板101の構成を示す図である。
【図4】画素110の等価回路を示す図である。
【図5】液晶パネル100の駆動方法を示すタイミングチャートである。
【図6】液晶パネル100の電圧−透過率特性(V−T特性)を示す図である。
【図7】液晶層105の特性が劣化するメカニズムを説明する図である。
【図8】極性反転時の透過率の過渡特性を示す図である。
【図9】サブフィールドの構成を例示する図である。
【図10】変形例1に係るサブフィールドの構成を例示する図である。
【図11】変形例5を説明する図である。
【図12】変形例6を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
1.構成
図1は、一実施形態に係る電子機器1の構成を示すブロック図である。この例で、電子機器1はいわゆるリア型プロジェクターである。電子機器1は、液晶パネル100と、光源11と、光学系12と、反射鏡13と、反射鏡14と、スクリーン15とを有する。液晶パネル100は、ライトバルブとして機能する。光源11は、光を出力する。光源11から出射された光は、液晶パネル100を透過することにより画像情報が与えられる。光学系12は、液晶パネル100を透過した光束を制御し、反射鏡13に向けて光束を出射する。反射鏡13および反射鏡14は、光束をスクリーン15に導く。スクリーン15には、液晶パネル100によって制御された画像が表示される。
【0013】
図2(A)は、液晶パネル100の構造を示す斜視図である。図2(B)は、図2(A)におけるH−h線における断面を示す模式図である。液晶パネル100は、素子基板101と、対向基板102と、液晶層105とを有する。素子基板101と対向基板102とは、スペーサー(図示省略)を含むシール材90によって一定の間隙を保って、互いに電極形成面が対向するように貼り合わせられている。液晶層105は、この間隙に封入されている。液晶層105は、例えばVA(Vertical Alignment)型の液晶である。
【0014】
素子基板101および対向基板102は、それぞれ石英などの透明性を有する基板を有する。素子基板101にあっては、対向基板102よりもY方向のサイズが長い。奥側(h側)が揃えられているので、素子基板101の手前側(H側)の一辺が対向基板102から張り出している。この張り出した領域にX方向に沿って複数のコネクター107が設けられている。複数のコネクター107は、外部の回路から各種信号や各種電圧、画像信号などを供給するための端子である。
【0015】
素子基板101において対向基板102と対向する面には、画素電極118が形成されている。画素電極118は、ITO(Indium Tin Oxide)などの透明性を有する導電層をパターニングしたものである。また、素子基板101には、データ線駆動回路140が形成されている。対向基板102において、素子基板101と対向する面に設けられた対向電極108は、同じくITOなどの透明性を有する導電層である。
【0016】
図3は、素子基板101の構成を示す図である。素子基板101は、石英基板上に形成された駆動回路を有する。この駆動回路は、m本の走査線103と、n本のデータ線104と、m行n列に配置された画素110と、タイミング制御回路120と、走査線駆動回路130と、データ線駆動回路140とを有する。画素110は、走査線103とデータ線104との交差に対応して設けられている。m行n列に配置された画素110により、表示領域150が形成される。タイミング制御回路120は、走査線駆動回路130およびデータ線駆動回路140が動作するタイミングを制御する信号、例えばスタート信号DYおよび反転化信号FRを出力する。走査線駆動回路130は、m本の走査線103に、走査信号を供給する。走査信号は、m本の走査線103の中から1本の走査線103を順次排他的に選択するための信号である。データ線駆動回路140は、コネクター107を介して入力された画像信号に応じたデータ信号を、n本のデータ線104に供給する。データ信号は、その画素110の階調値に応じた電圧(以下「データ電圧」という)を示す。対向基板102には、対向電極108が形成されている。対向電極108は、すべての画素110に共通である。液晶層105は、印加される電圧に応じた光学状態を示す電気光学素子の一例である。
【0017】
図4は、画素110の等価回路を示す図である。画素110は、トランジスター111と、容量素子112と、画素電極118と、対向電極108とを有する。トランジスター111は、走査信号に応じてデータ線104と画素電極118との導通状態を制御するスイッチング手段の一例である。この例で、トランジスター111は、nチャネル型のTFT(Thin Film Transistor)である。トランジスター111のゲートおよびソースは、走査線103およびデータ線104に接続されている。トランジスター111のドレインは、画素電極118に接続されている。画素電極118は、画素110の各々に固有のものが1つずつ設けられている。画素電極118と対向電極108との間には、液晶層105が挟持されている。対向電極108には、共通電位LCcomが与えられる。トランジスター111が導通状態になっているとき、液晶層105には、データ電圧と共通電位LCcomとの差に応じた電圧が印加される。液晶層105は、データ電圧に応じた光学状態を示す。容量素子112は、データ電圧を保持するための保持容量である。容量素子112の一端はトランジスター111のドレインに接続されている。容量素子112の他端には共通電位Vcomが与えられる。この例では、Vcom=LCcomである。
【0018】
2.動作
図5は、液晶パネル100の駆動方法を示すタイミングチャートである。画像は1フレームごとに書き替えられる。例えば、フレーム速度は60フレーム/秒、すなわち垂直同期信号(図示略)の周波数は60Hzであり、1フレーム期間(以下、単に「1フレーム」という)は16.7ミリ秒である。液晶パネル100はサブフィールド駆動により駆動される。サブフィールド駆動において、1フレームは複数のサブフィールド期間(以下、単に「サブフィールド」という)に分割される。スタート信号DYは、サブフィールドの始期を示す信号である。スタート信号DYとしてH(High)レベルのパルスが供給されると、走査線駆動回路130は、走査線103の走査を開始、すなわち、m本の走査線103に走査信号Gi(1≦i≦m)を出力する。1つのサブフィールドにおいて、走査信号Gは、順次排他的にHレベルの電圧になる信号である。Hレベルの走査信号を選択信号といい、L(Low)レベルの走査信号を非選択信号という。また、第i行の走査線103に選択信号が供給されることを、「第i行の走査線103が選択される」という。トランジスター111は、非選択信号が入力されているときは絶縁状態(オフ状態)であり、選択信号が入力されているときは導通状態(オン状態)である。第j列のデータ線104に供給される出データ信号Sjは、走査信号と同期している。例えば、第i行の走査線103が選択されているときは、第i行第j列の画素110の階調値に対応する電圧を示す信号がデータ信号Sjとして供給される。
【0019】
データ信号Sjは、第1階調値および第2階調値の2値のいずれかの電圧(例えば、0Vまたは5V)を示す信号である。印加される電圧が0Vのサブフィールドを、「オフのサブフィールド」といい、あるサブフィールドにおいて0Vの電圧を印加することを「サブフィールドをオフにする」という。同様に、印加される電圧の絶対値が5Vのサブフィールドを、「オンのサブフィールド」といい、あるサブフィールドにおいて絶対値が5Vの電圧を印加することを「サブフィールドをオンにする」という。サブフィールド駆動においては、オンにするサブフィールドとオフにするサブフィールドの割合を制御することにより1フレームにおける中間階調を表現する。
【0020】
反転化信号FRは、データ電圧の極性を示す信号である。例えば、反転化信号FRがHレベルのサブフィールドにおいて正極性のデータ電圧(例えば+5V)が印加され、反転化信号FRがLレベルのサブフィールドにおいて負極性のデータ電圧(例えば−5V)が印加される。反転化信号FRは、スタート信号DYと同期してHレベルとLレベルが切り替わる信号である。すなわち、データ電圧の極性は、サブフィールド毎に切り替わる。
【0021】
図6は、液晶パネル100の電圧−透過率特性(V−T特性)を示す図である。この図を用いて、従来技術の問題点を説明する。図5において、横軸は液晶層105に印加される電圧を、縦軸は液晶層105の透過率を示している。破線は初期(例えば未使用時)の特性を、実線は劣化後(例えばある時間光照射された後)の特性を示す。電子機器1において、スクリーン15に投影される画像を明るくするためには、より高輝度の光源11が用いられる。液晶パネル100は、光源11から照射される光によって特性が劣化する。図5の例では、劣化後において、V−T曲線が全体的に初期よりも高電圧側にシフトしている。例えば液晶層105に3Vの電圧を印加する場合を考えると、劣化後は初期よりも透過率が低下している。すなわち、劣化後は初期よりも画像が暗くなる。
【0022】
図7は、液晶層105の特性が劣化するメカニズムを説明する図である。図7(A)は、初期状態の液晶層105の様子を示す模式図である。初期状態においては、液晶層105の外部から与えられる電圧は液晶層105に印加される。光源11から光を照射されると、液晶層105において不純物イオンが発生する。不純物イオンとしては、液晶層105に含まれていた不純物が光照射によりイオン化したもの、液晶分子が光照射により分解されイオン化したもの、またはシール材90もしくは封止材から混入した不純物が光照射によりイオン化したものが考えられる。図7(B)は、不純物イオンの影響を示す図である。不純物イオンの中には、液晶層105中を移動する可動イオンがある。例えば、対向電極108および画素電極118にそれぞれ0Vおよび−3Vの電圧が印加された場合、負極性の不純物イオンは対向電極108側に移動し、正極性の不純物イオンは画素電極118側に移動する。これらの不純物イオンにより、液晶層105において内部電界Eiが発生する。内部電界Eiは、対向電極108および画素電極118の電位差に応じた電界(以下「外部電界Ee」という)を打ち消す向きの電界である。すなわち、液晶層105に印加される実効的な電圧は、外部電界Eeから内部電界Eiを差し引いた電界に対応する電圧が印加される。すなわち、液晶層105に印加される実効的な電圧の絶対値は、3Vよりも低くなる。
【0023】
液晶パネルにおいては、一般的に、パネルの焼き付きを防ぐため極性反転駆動が行われる。極性反転駆動とは、例えば3Vの電圧に相当する透過率を得るために、−3Vの電圧と+3Vの電圧とを交互に印加することをいう。極性反転駆動の周波数が不純物イオンの移動度に対して十分に低い場合、不純物イオンは、印加電圧の極性反転に追従して移動する。
【0024】
図8は、極性反転時の透過率の過渡特性を示す図である。横軸は時間を、縦軸は透過率を示している。破線は初期の特性を、実線は劣化後の特性を示している。印加電圧の極性が反転した瞬間、外部電界Eeと内部電界Eiの向きが揃う(図7(C))。この瞬間、液晶層105に印加される実効的な電圧の絶対値は、3Vよりも高くなる。すなわちこのとき、液晶層105の透過率は初期状態よりも高くなる。その後、時間の経過とともに不純物イオンは移動する。不純物イオンの移動に伴い、内部電界Eiはゼロになった後、最終的には外部電界を打ち消す向きを向く(図7(D))。すなわち、液晶層105の透過率は初期状態よりも低い値に収束する。その後再び極性が反転すると、外部電界Eeと内部電界Eiの向きが揃い、透過率が上昇する。透過率は時間の経過とともに低下し、初期状態よりも低い値に収束する。
【0025】
図7で説明したメカニズムによれば、極性反転の周波数を上昇させると、不純物イオンの移動が極性反転に追従できなくなり、その影響を低減できるはずである。本願の発明者らの研究によれば、極性反転の周波数を360Hz以上(すなわち、極性反転の周期を2.78ミリ秒以下)にすることにより、不純物イオンの透過率に対する影響を無視できる程度に低減できることがわかった。360Hz以上の高い周波数で極性反転を行うことにより、たとえ光劣化により液晶層105中に不純物イオンが発生したとしても、透過率に対する影響を低減することができる。
【0026】
図9は、サブフィールドの構成を例示する図である。この例では、1フレームはSF1〜SF20の20個のサブフィールドにより構成される。すべてのサブフィールドについて時間長(幅)はtsで均一である。例えば1フレームが16.7ミリ秒である場合(垂直同期周波数が60Hzである場合)、ts=0.833ミリ秒である。すなわち、データ電圧の極性が切り替わる周期は2.78ミリ秒より短い。したがって、液晶パネル100によれば、データ電圧の極性が切り替わる周期が2.78ミリ秒を超える場合と比較して、不純物イオンによる透過率への影響が低減された駆動を行うことができる。なお、極性反転の周期すなわちサブフィールドの時間長は、20.0マイクロ秒以上であることが望ましい。これは、サブフィールドの時間長が20.0マイクロ秒未満になると、この速度では液晶分子がほとんど応答できなくなるためである。
【0027】
3.他の実施形態
本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、種々の変形実施が可能である。以下、変形例をいくつか説明する。以下の変形例のうち2つ以上のものが組み合わせて用いられてもよい。
【0028】
3−1.変形例1
図10は、変形例1に係るサブフィールドの構成を例示する図である。複数のサブフィールドの時間長は均一でなくてもよい。変形例1においては、サブフィールドの時間長は、t1、t2、t3、およびt4の4種類(t1<t2<t3<t4)のいずれかである。1フレームは、複数(この例では5つ)のブロックに分割されている。1ブロックは、複数(この例では4つ)のサブフィールドに分割されている。1ブロック内の4つのサブフィールドの時間長は、t1、t2、t3、およびt4である。この例で、サブフィールドの時間長は、20.0マイクロ秒≦t1<t2<t3<t4≦2.78ミリ秒である。時間長t4の一番長いサブフィールドにおいても、不純物イオンによる透過率への影響が低減された駆動を行うことができる。
【0029】
3−2.変形例2
図10の例において、時間長tiのサブフィールドにおいて印加されるデータ電圧の極性と、時間長ti-1のサブフィールドおよび時間長ti+1のサブフィールドにおいて印加されるデータ電圧の極性とは逆である。このような構成により、時間長tiのサブフィールドにおいて印加されるデータ電圧の極性と、時間長ti-1のサブフィールドおよび時間長ti+1のサブフィールドにおいて印加されるデータ電圧の極性とが同じである構成と比較して、データ電圧の極性差(正極性の電圧が印加された時間と負極性の電圧が印加された時間との差)を小さくすることができる。例えば図10において、SF1〜SF5をオンにする例を考える。このとき、極性差Δtは、Δt=t1−t2+t3−t4+t1である。仮に、時間長ti-1のサブフィールドおよび時間長ti+1のサブフィールドにおいて印加されるデータ電圧の極性とが同じである例を考えると、極性差Δtcは、Δtc=t1+t2+t3+t4−t1となる。図10の構成により、極性差を低減できていることがわかる。しかし、時間長ti-1のサブフィールドおよび時間長ti+1のサブフィールドにおいて印加されるデータ電圧の極性とが同じであってもよい。
【0030】
3−3.変形例3
図10の例において、1ブロックは、時間長が異なるk個(k=4)のサブフィールドにより構成される。1フレーム中のサブフィールドの総数をSFtotalと表すと(SFtotal=20)、変形例3において、サブフィールドの総数SFtotalとサブフィールドの種類の数kは、次式(1)の関係を満たす。
【数1】
ここで、Δtfは、1ブロック内における極性差の代表値であり、次式(2)で表される。
【数2】
Δtfは、1ブロック内のすべてのサブフィールドがオンである場合の極性差に相当する。式(1)の条件を採用することにより、1ブロック内のすべてのサブフィールドがオンである場合も、不純物イオンの影響を低減することができる。
【0031】
3−4.変形例4
変形例4において、時間長tiとti+2との和、すなわち、隣接する2つの同極性のサブフィールドの時間長の和は、2.78ミリ秒以下である。中間階調を表現するために、あるサブフィールドと隣接するサブフィールドだけでなく、2つ隣のサブフィールドをオンにする場合がある。例えば、図10の例で、SF1〜SF5、およびSF7をオンにする場合を考える。第2番目のブロックにおいてSF5およびSF7は同極性であり、逆極性のSF6がオフであるので、極性差はt1とt3との和に依存している。したがって、ti+ti+2≦2.78ミリ秒という条件を採用することにより、不純物イオンの影響を低減することができる。なお、液晶分子の応答速度を考慮すると、ti+ti+2の下限値は40.0マイクロ秒(1サブフィールドにつき20.0マイクロ秒)である。すなわち、40.0マイクロ秒≦ti+ti+2≦2.78ミリ秒である。
【0032】
3−5.変形例5
図11は、変形例5を説明する図である。変形例5において、液晶パネル100は、ある階調を表現するSFコードが複数存在する場合には、極性差が2.78ミリ秒以下になるSFコードが用いられる。「SFコード」とは、オンにするサブフィールドの組み合わせをいう。例えば、ある階調を表現するのに、図11(A)〜(C)の3つのSFコードが存在する場合、データ線駆動回路140は、これらのうち、極性差が2.78ミリ秒以下になるSFコードに従ったデータ電圧をデータ線104に出力する。別の例で、データ線駆動回路140は、これらのうち、極性差が最小になるSFコードに従ったデータ電圧をデータ線104に出力してもよい。
【0033】
3−6.変形例6
図12は、変形例6を説明する図である。実施形態においては、1フレーム内のサブフィールドの極性またはSFコードの構成について説明した。上記の内容に加えて、変形例6では、1フレーム毎にデータ電圧の極性を反転させるいわゆるフレーム反転駆動が用いられる。図12においては、第1フレームと、それに続く第2フレームにおけるサブフィールドの極性が示されている。例えば、複数フレームに渡って同じ画像を表示し続ける場合を考えると、あるフレームで発生した極性差を、その次のフレームでキャンセルすることができる。
【0034】
3−7.変形例7
サブフィールドの時間長の上限値は2.78ミリ秒に限定されない。要は、不純物イオンが追従できない程度の速さでデータ電圧の極性を切り替えられればよい。すなわちこの上限値は、不純物イオンの移動度、温度、液晶層の粘度等の条件に応じて変更されてもよい。サブフィールドの時間長の上限値は1ミリ秒以下であることがより好ましい。
また、液晶層105は、透過型に限られず、反射型であってもよい。また、液晶層105は、ノーマリーブラックモードに限られず、例えばTN方式として、電圧無印加時において液晶層120が白状態となるノーマリーホワイトモードであってもよい。さらに、液晶以外の電気光学素子が用いられてもよい。
また、画素回路は図4に例示したものに限定されない。液晶層105に対し所望の電圧を印加できるものであれば、どのような構成の回路が用いられてもよい。
また、電子機器1は、リア型プロジェクターに限定されない。電子機器1は、プロジェクター、パーソナルコンピューター、PDA(Personal Digital Assistant)、携帯電話、スマートフォン、タブレット端末、または携帯ゲーム機であってもよい。
【符号の説明】
【0035】
1…電子機器、11…光源、12…光学系、13…反射鏡、14…反射鏡、15…スクリーン、90…シール材、100…液晶パネル、101…素子基板、102…対向基板、103…走査線、104…データ線、105…液晶層、107…コネクター、108…対向電極、110…画素、111…トランジスター、112…容量素子、118…画素電極、120…タイミング制御回路、130…走査線駆動回路、140…データ線駆動回路、150…表示領域。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の画素電極と、前記複数の画素電極に対向する対向電極と、前記複数の画素電極と前記対向電極とに挟まれた電気光学層とを有する電気光学装置の駆動方法であって、
1フレーム期間を分割した複数のサブフィールド期間の各々について、前記複数の画素電極の各々と前記対向電極との間に第1階調値および第2階調値のいずれかに対応する電圧を印加するステップ
を有し、
前記複数のサブフィールド期間のすべてについて、サブフィールド期間の時間長が2.78ミリ秒以下である
ことを特徴とする駆動方法。
【請求項2】
前記複数のサブフィールド期間の時間長が、異なるk個の時間長tiのいずれかであり(iは、1≦i≦kである整数)、
前記k個の時間長tiは、1≦i≦k−1の範囲においてti<ti+1であり、
時間長tiのサブフィールド期間において、時間長ti+1のサブフィールド期間とは逆の極性の電圧が前記電気光学層に印加される
ことを特徴とする請求項1に記載の駆動方法。
【請求項3】
前記複数のサブフィールド期間の時間長が、異なるk個の時間長tiのいずれかであり(iは、1≦i≦kである整数)、
前記k個の時間長tiは、1≦i≦k−2の範囲において40マイクロ秒≦(ti+ti+2)≦2.78ミリ秒である
ことを特徴とする請求項1または2に記載の駆動方法。
【請求項4】
1フレーム期間において、前記電気光学層に正極性の電圧が印加されるサブフィールド期間の時間長の総和と、前記電気光学層に負極性の電圧が印加されるサブフィールド期間の時間長の総和との差が2.78ミリ秒以下である
ことを特徴とする請求項1または2に記載の駆動方法。
【請求項5】
複数の画素電極と、
前記複数の画素電極に対向する対向電極と、
前記複数の画素電極と前記対向電極とに挟まれた電気光学層と、
1フレーム期間を分割した複数のサブフィールド期間の各々について、前記複数の画素電極の各々と前記対向電極との間に第1階調値および第2階調値のいずれかに対応する電圧を印加するための信号を出力するデータ線駆動回路と
を有し、
前記複数のサブフィールド期間のすべてについて、サブフィールド期間の時間長が2.78ミリ秒以下である
ことを特徴とする電気光学装置。
【請求項6】
請求項5に記載の電気光学装置を有する電子機器。
【請求項1】
複数の画素電極と、前記複数の画素電極に対向する対向電極と、前記複数の画素電極と前記対向電極とに挟まれた電気光学層とを有する電気光学装置の駆動方法であって、
1フレーム期間を分割した複数のサブフィールド期間の各々について、前記複数の画素電極の各々と前記対向電極との間に第1階調値および第2階調値のいずれかに対応する電圧を印加するステップ
を有し、
前記複数のサブフィールド期間のすべてについて、サブフィールド期間の時間長が2.78ミリ秒以下である
ことを特徴とする駆動方法。
【請求項2】
前記複数のサブフィールド期間の時間長が、異なるk個の時間長tiのいずれかであり(iは、1≦i≦kである整数)、
前記k個の時間長tiは、1≦i≦k−1の範囲においてti<ti+1であり、
時間長tiのサブフィールド期間において、時間長ti+1のサブフィールド期間とは逆の極性の電圧が前記電気光学層に印加される
ことを特徴とする請求項1に記載の駆動方法。
【請求項3】
前記複数のサブフィールド期間の時間長が、異なるk個の時間長tiのいずれかであり(iは、1≦i≦kである整数)、
前記k個の時間長tiは、1≦i≦k−2の範囲において40マイクロ秒≦(ti+ti+2)≦2.78ミリ秒である
ことを特徴とする請求項1または2に記載の駆動方法。
【請求項4】
1フレーム期間において、前記電気光学層に正極性の電圧が印加されるサブフィールド期間の時間長の総和と、前記電気光学層に負極性の電圧が印加されるサブフィールド期間の時間長の総和との差が2.78ミリ秒以下である
ことを特徴とする請求項1または2に記載の駆動方法。
【請求項5】
複数の画素電極と、
前記複数の画素電極に対向する対向電極と、
前記複数の画素電極と前記対向電極とに挟まれた電気光学層と、
1フレーム期間を分割した複数のサブフィールド期間の各々について、前記複数の画素電極の各々と前記対向電極との間に第1階調値および第2階調値のいずれかに対応する電圧を印加するための信号を出力するデータ線駆動回路と
を有し、
前記複数のサブフィールド期間のすべてについて、サブフィールド期間の時間長が2.78ミリ秒以下である
ことを特徴とする電気光学装置。
【請求項6】
請求項5に記載の電気光学装置を有する電子機器。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−220838(P2012−220838A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−88425(P2011−88425)
【出願日】平成23年4月12日(2011.4.12)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年4月12日(2011.4.12)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
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