説明

電気化学セルおよびその製造方法

【課題】高湿環境での結露、水蒸気、またリフロー実装時の内圧上昇による電解液の漏洩に対する耐食性を備えた、コイン形の電気化学セルを提供すること。
【解決手段】正極缶5と、負極缶3と、前記正極缶5と前記負極缶3の間に挟持されたガスケット4とを備え、表面に絶縁性のコーティング剤2が塗布されている電気化学セル1において、前記コーティング剤2はシリカを含むことを特徴とする電気化学セル1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池、電気二重層キャパシタ、及び酸化銀電池等の電気化学セル、およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電気二重層キャパシタなどコイン形の小型の電気化学セルでは、正極缶や負極缶などの外装体にステンレスなどの金属が用いられている。外装体には通常、搭載される電子機器とセルとの接触抵抗の低減のため、ニッケルメッキなどが施されている。
【0003】
正極缶及び負極缶それぞれの端面では、このステンレスとニッケルメッキが異種金属界面を形成している。特に正極缶上端部における界面は外部に露出しているため、水や酸素の影響により電蝕を起こし腐食することがある。加えて、電気化学セルに印加された電圧による電解液分解や、リフロー実装時に加えられる高熱の影響で、電解液や電解液の蒸気や飛沫を含んだガスが、外部に漏洩する場合がある。この電解液中に存在する塩化物イオンやフッ化物イオンなどのハロゲン化物イオン等が、腐食をより加速させる。
【0004】
このような腐食プロセスにより電気化学セルの表面に発生する錆は、電気化学セルの外観上の不具合のみならず、錆の拡大、飛散に伴い、搭載機器の基板回路や他のデバイスを汚染させる。加えて回路に飛散した錆による電気的な短絡などの影響も懸念される。そのため、外装体の耐食性を向上させ、錆の発生を予防する対策が求められている。
【0005】
一方では、内部から電解液が漏洩するような密閉性の悪い電気化学セルでは、水分の浸入により、充放電特性などの特性も悪化する。従来例においては、このような特性悪化に対し、モールディングや樹脂コーティングなどによって、電気化学セルの封止性を高める方法が開示されてきた。このような封止は同様に、錆発生を回避する方法ともなり得る。例えば、有機溶剤で希釈した樹脂液の粘度が好ましくは100〜10000cpsの紫外線硬化型樹脂を用いて浸漬法により樹脂を付着させている。その後、紫外線照射で硬化させることにより、厚みが10〜300μmの樹脂層でコーティングを施すものである。端子付リチウム電池の表面を浸漬法により薄い膜状の紫外線硬化型樹脂で被覆することにより、表面の電気絶縁を確保すると共に高温保存特性及び高温耐湿特性に優れたリチウム電池を提供するとしている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−37573号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一方、このように樹脂で被覆された端子付きの電気化学セルをリフロー実装する場合、リフロー時の加熱による電解液の蒸発のため、内圧が上昇し、セルが膨張する。また、被覆される樹脂自体も熱により変形する。これにより、樹脂の密着性が弱くなり、リフロー実装時に漏洩した電解液の蒸気や飛沫の影響で、セルが腐食されやすくなる。そのため、リフロー実装の必要な、コイン形の小型の電気化学セルの耐食性に必要な特長を備えたコーティング材料が求められてきた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、前記課題を解決するために以下の手段を提供する。
本発明に係る電気化学セルは、正極缶と、負極缶と、前記正極缶と前記負極缶の間に挟持されたガスケットとを備え、表面に絶縁性のコーティング剤が塗布されている電気化学セルにおいて、前記コーティング剤はシリカを含むことを特徴とする。
本発明においては、コーティング剤が電気化学セルに塗布される事により、電気化学セルに緻密かつ高純度なシリカを含む被膜が形成されている。この被膜は撥水性を備えており、外部環境における湿気や結露による水分が浸透する事を防止することができる。これにより、正極缶及び負極缶の腐食を防ぐことができる。
【0009】
また、シリカを含む被膜は電気的絶縁性を備えている。そのため、結露などによる水分の付着があっても、正極缶と負極缶との短絡を防ぎ、電解による腐食を防止することができる。さらに、被膜は耐熱性を備えており、リフロー実装工程を経て搭載機器の基板に実装される場合においても、熱分解などにより被膜が破壊されない。そのため、シリカを含む被膜の表面撥水性および電気的絶縁性は、リフロー実装工程を経ても保持されている。
【0010】
本発明に係る電気化学セルは、負極缶中央部および正極缶底部に、前記コーティング剤の未塗布領域を有することを特徴とする。
本発明においては、電気化学セルにコーティング剤の未塗布領域を有することにより、予めコーティング後のセルの電気的接続箇所を確保することができる。そのため、後工程で被膜を剥離することなく、効率良く耐食性を向上できる。
【0011】
本発明に係る電気化学セルは、前記正極缶上端部と前記ガスケットとの間に形成される隙間と、前記負極缶と前記ガスケットの間に形成される隙間に前記コーティング剤が塗布されたことを特徴とする。
本発明においては、電解液などの漏洩のため、電解液に含まれる、塩素やフッ素などのハロゲン化物イオンによる隙間腐食を防止することができる。
【0012】
本発明に係る電気化学セルは、前記正極缶上端部と前記ガスケットとの間に形成される隙間と、正極缶側部に前記コーティング剤が塗布されたことを特徴とする。
本発明においては、電圧印加により酸化されやすい正極側で、コーティング剤を最小限に塗布することができる。
【0013】
本発明に係る電気化学セルは、前記正極缶及び前記負極缶の表面はニッケルメッキが施され、前記負極缶と前記ガスケットの間に形成される隙間と、前記正極缶上端部と前記ガスケットとの間に形成される隙間から前記正極缶側部までに、前記コーティング剤が塗布されたことを特徴とする。
本発明においては、負極缶とガスケットの間に形成される隙間と、正極缶上端部とガスケットとの間に形成される隙間から正極缶側部までをコーティングすることにより、ニッケルの腐食により生成される錆の発生を防ぐことができる。
【0014】
本発明に係る電気化学セルは、前記正極缶及び前記負極缶はメッキなしのステンレスが用いられ、前記正極缶上端部と前記ガスケットとの間に形成される隙間と、前記負極缶と前記ガスケットの間に形成される隙間に前記コーティング剤が塗布されたことを特徴とする。
本発明においては、正極缶、負極缶とガスケットとの間に被膜を形成することにより、ステンレスの隙間腐食を防ぐことができる。
【0015】
本発明にかかる電気化学セルは、前記コーティング剤により形成される被膜の厚みのうち、前記正極缶上端部における厚みが0.1μm以上30μm以下であることを特徴とする。
本発明においては、電気的絶縁性を備えたシリカを含む被膜が形成されている。膜厚については、薄ければ結露と電圧印加による電蝕に対し、電気的絶縁性を確保することができない。また厚すぎると、被膜と正極缶及び負極缶の金属との熱膨張率の差から、被膜にヒビが入りやすくなる。適切な厚みとしては、0.1〜30μmであればよい。
【0016】
本発明に係る電気化学セルは、前記正極缶上端部と前記ガスケットとの間に形成される隙間において、前記コーティング剤の被膜の最大厚みが、前記正極缶上端部における被膜の厚みよりも厚いことを特徴とする。
本発明においては、正極缶上端部とガスケットとの間に形成される隙間に、より多量のコーティング剤が塗布され、被膜が厚く形成されているため、セル内部からの電解液の漏洩を留めることができる。
【0017】
本発明に係る電気化学セルの製造方法は、正極缶と負極缶の間にガスケットを挟持することにより電気化学セルを形成する工程と、前記電気化学セルの表面に、ポリシラザン組成物もしくはシリコーンレジンの少なくとも一方と、有機溶剤との混合物を塗布する工程と、を有することを特徴とする。
本発明においては、被膜が高い撥水性を備えており、外部環境における湿気や結露による水分が浸透する事を防止することができる。これにより、正極缶及び負極缶の腐食を防ぐことができる。
【0018】
本発明に係る電気化学セルの製造方法は、前記ポリシラザン組成物はアルキル基を有することを特徴とする。
本発明においては、被膜が高い撥水性を備えるため、結露などを防止し、正極缶及び負極缶の腐食を防ぐことができる。
【0019】
本発明に係る電気化学セルの製造方法は、前記コーティング剤をスタンプに付着させ、スタンプを電気化学セルへ塗布する箇所に合わせ転写することを特徴とする。
本発明においては、スタンプの形状や、スタンプに塗布するコーティング剤のパターンを適宜調整することにより、電気化学セルに塗布する場所を容易に変更することができる。これにより、シリンジからコーティング剤を塗出し塗布する方法や、刷毛塗り、ワイピングなどの方法に比べて、効率の良い塗布を行うことができる。
【0020】
本発明に係る電気化学セルの製造方法は、マスキング材を負極缶上部に載置した後、前記コーティング剤をスプレー噴霧し、被膜形成後、前記マスキング材を除去することを特徴とする。
本発明においては、コーティング剤の塗布から熱処理まで一箇所で大量に処理ができるため、シリンジからコーティング剤を塗出し塗布する方法や、刷毛塗り、ワイピングなどの方法に比べて、効率の良い塗布を行うことができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、実装される電子機器の周辺の湿度などの環境に関わらず、良好な外観を維持することにより、電子機器の耐久性を向上させることのできる、電気化学セルを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明にかかる実施形態を示す電気化学セルの断面図である。
【図2】本発明にかかる実施形態の別の例を示す電気化学セルの断面図である。
【図3】本発明にかかる実施形態のさらに別の例を示す電気化学セルの断面図である。
【図4】本発明にかかる実施形態を示す、スタンプを用いるコーティング方法を示す模式図である。
【図5】本発明にかかる実施形態を示す、スプレー処理によるコーティング方法を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係る実施形態を、図1から図3を参照して説明する。
図1に示す電気化学セル1は、負極缶3と、正極缶5と、負極缶3と正極缶5との間に挟入されたガスケット4とを備えている。また発電要素として、負極6、正極7、セパレータ8、また図示しないが電解液が、電気化学セル1の内部に組込まれている。正極缶5が、ガスケット4を介して開口部を負極缶3にかしめられることにより封口されている。
以下、電気化学セルの一形態として、電気二重層キャパシタの構成を用いて説明する。電気二重層キャパシタでは、リフロー実装工程を行うため、次のような耐熱性の材料が用いられる。
【0024】
負極缶3及び正極缶5は、鉄やステンレスなどの金属材料が用いられ、表面にニッケルメッキが施されている。負極6及び正極7は、活性炭シートで構成されている。
セパレータ8は、ガラス繊維で構成されていて、電解液を含浸する。ガラス繊維の他、ポリフェニレンサルファイド、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリイミド等の樹脂が用いられる。
【0025】
ガスケット4は、リフロー実装時の耐熱性を保つため、熱変形温度が230℃以上の材料が用いられている。具体的にはポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂、液晶ポリマー(LCP)、ポリエーテルニトリル(PEN)樹脂等が用いられている。また、成形精度向上、気密性向上のため、これらの樹脂に対し、チタン酸カリウムなどの高摺動成形材料配合が添加されている。
【0026】
電解液は、沸点が200℃以上の溶媒が主溶媒として用いられている。具体的にはγ−ブチロラクトン、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、スルホラン等が用いられている。
コーティング剤2は、正極缶側部52、正極缶上端部53、ガスケット4、及び負極缶側部R32に渡り塗布されている。すなわち、負極缶中央部31および正極缶底部51に塗布されない未塗布領域を有している。
【0027】
コーティング剤2の材質としては、特に以下のものが好適である。例えばポリシラザンは、常温もしくは高温熱処理の下で、シラザンの珪素−窒素の結合が、大気中の水や酸素と反応する酸化反応により、珪素−酸素に変化する。そして緻密かつ高純度なシリカ被膜を形成することができる。そのため、被膜は撥水性、電気的絶縁性、および耐熱性を備える。また、シロキサン結合を有するシリコーンレジンも同様に、緻密かつ高純度なシリカ被膜を形成し、撥水性、電気的絶縁性、および耐熱性を備える。
【0028】
また、コーティング剤2は、各種の有機溶剤に任意の割合で溶解もしくは分散することにより、被膜の厚み及び粘度を任意に調節することができる。有機溶剤としては、アルコール、エーテル、エステル、ケトン、またトルエン、キシレン等の芳香族化合物など、種々の化合物を用いることができる。これにより、作業性や耐食性を向上させることができ好適である。また無溶剤の液体シリコーンレジンであっても、粘度や被膜の厚みを調整するために、各種有機溶剤により希釈する事が好ましい。
【0029】
図1において塗布領域は、正極缶側部52、正極缶上端部53、ガスケット4、および負極缶側部R32である。すなわち、負極缶中央部31および正極缶底部51に塗布されない未塗布領域を有することとなる。
【0030】
本実施形態における塗布領域の別の例を図2に示す。電気化学セル10において、コーティング剤21は、正極缶上端部53とガスケット4との間に形成される隙間、および、負極缶側部R32とガスケット4との間に形成される隙間を埋めるように塗布されている。
【0031】
本実施形態における塗布領域のさらに別の例を図3に示す。電気化学セル20において、コーティング剤22は、正極缶側部52に塗布される他、正極缶上端部53とガスケット4との間に形成される隙間を埋めるように塗布されている。
【0032】
次に、コーティング剤の塗布方法について説明する。
塗布方法はワイピングの他に、刷毛塗り、スタンプ、シリンジからのコーティング剤2の吐出、スプレー噴霧、など種々の方法によって塗布することができる。その後、熱処理により脱水、重合等の反応を経てコーティング剤が硬化される。特に量産工程を考慮し、効率よく塗布するために、以下、スタンプを用いた塗布、及び、スプレーを用いた塗布について説明する。
【0033】
図4にスタンプを用いるコーティング方法の一例を示す。図4(a)に示すとおり、スタンプ11は、スタンプをコーティング前の電気化学セル17に塗布する転写部12と、保持部13により構成されている。まずコーティング前の電気化学セル17にコーティングする領域に合わせてあらかじめコーティング剤14をスタンプ台15に塗布する。そしてスタンプ転写部12をスタンプ台15に押し当てることにより、図4(b)に示すように、パターニングされたコーティング剤16をスタンプに転写する。さらにスタンプをコーティング前の電気化学セル17に押し当てる。このようにして、図4(c)に示す領域にコーティング剤18を塗布する。コーティング剤18はその後、熱処理により硬化し、緻密かつ高純度なシリカ被膜となる。
【0034】
このように、スタンプ転写部12にコーティング剤18を塗布し、そのまま電気化学セル17に転写することにより、電気化学セル17にコーティング剤18を塗布する。ここでスタンプ11の形状や、スタンプ11に塗布するコーティング剤18のパターンを適宜調整することにより、電気化学セル17に塗布する場所を容易に変更することができる。これにより、シリンジからコーティング剤18を塗出し塗布する方法や、刷毛塗り、ワイピングなどの方法に比べて、より効率の良い塗布を行うことができる。
【0035】
さらに図5にスプレーを用いるコーティング方法の一例を示す。まず図5(a)に示すとおり、コーティング前の電気化学セル17の負極缶中央部31に、ポリイミド製のシートからなるマスキング材19を載置する。その後、図5(b)に示すように、コーティング前の電気化学セル17をステージ25の上に並べ、上部からスプレー23によりコーティング剤24を噴霧する。このようにして、コーティング前の電気化学セル17に霧状のコーティング剤24を塗布し、熱処理により硬化させ、緻密かつ高純度なシリカ被膜を形成させる。これにより、シリンジからコーティング剤を塗出し塗布する方法や、刷毛塗り、ワイピングなどの方法に比べて、効率の良い塗布を行うことができる。
【0036】
マスキング材としては、融点が熱処理温度を上回り、熱処理によって電気化学セルに融着することがない材料が好ましい。例えば、四フッ化エチレン樹脂やポリイミド樹脂などでは、融点が200℃を大きく超える上に、シート状であれば熱処理後の剥離も容易であるため、マスキング材として好適である。これにより、負極缶中央部31への部分的な被膜の未塗布領域の形成が容易に行われる。
このようにして作製した、コーティング剤の塗布された電気化学セルの耐食性を確認するため、下記の通り保存試験を行った。
【0037】
(実施例1)
まず、外装体として、表面にニッケルメッキが形成されたステンレスからなる負極缶3と、正極缶5と、負極缶3と正極缶5との間に挟入されたポリエーテルエーテルケトン(PEEK)よりなるガスケット4を備えた。また発電要素として、負極6、正極7、セパレータ8および電解液を備えた。正極缶5、ガスケット4および負極缶3より作られる内部空間に、負極6、正極7、セパレータ8および電解液を入れ、ガスケット4を介して正極缶5の開口部を負極缶3にかしめ、封口した。このようにして電気化学セルとしての電気二重層キャパシタを作製した。
【0038】
次に、作製したコーティング前の電気化学セルにアルキル基を有するポリシラザンと酢酸エチルを主成分とする混合溶液からなるコーティング剤を、図1に示す領域に、ワイピングにより塗布した。さらに150℃で1時間熱処理し、シリカ被膜を形成させた。
【0039】
シリカ被膜形成後、セルのSEM断面を観察し、シリカ被膜の厚みを求めたところ、塗布箇所によって、0.1〜3.6μmまで厚みが変化していた。特に正極缶上端部53での被膜の厚みは2.3μm、また正極缶上端部53とガスケット4との間に形成される隙間における被膜の厚みは2.8μmであった。
【0040】
(実施例2)
実施例1に記載の方法でコーティング前の電気化学セルとしての電気二重層キャパシタを作製した。次に、シリコーンレジン5〜10体積%を、エタノールを主成分とする混合アルコールに希釈したものを、図1に示す領域に、ワイピングによりコーティング前の電気化学セルに塗布した。これを8日間常温にてエージングし、シリカ被膜を形成させた。
【0041】
(実施例3)
次の方法により、電気化学セルとしての酸化銀電池を作製した。すなわち、外装体として、表面にニッケル層が形成されたステンレスからなる負極缶3と、表面にニッケルめっきが形成された鉄からなる正極缶5と、負極缶3と正極缶5との間に挟入されたナイロンよりなるガスケット4を備えた。また発電要素として、負極6、正極7、セパレータ8および電解液を備えた。正極缶5、ガスケット4および負極缶3より作られる内部空間に、負極6、正極7、セパレータ8および電解液を入れ、ガスケット4を介して正極缶5の開口部を負極缶3にかしめ、封口した。
【0042】
次に、シリコーンレジン5〜10体積%を、エタノールを主成分とする混合アルコールに希釈したものを、図1に示す領域に、ワイピングによりコーティング前の電気化学セルに塗布した。これを8日間常温にてエージングし、シリカ被膜を形成させた。
【0043】
(比較例1)
実施例1に記載の方法でコーティング前の電気化学セルとして電気二重層キャパシタを作製した。これを実施例1および実施例2で示されているようなコーティングを施さずに、そのまま評価に投入した。
【0044】
(比較例2)
実施例1に記載の方法でコーティング前の電気化学セルとして電気二重層キャパシタを作製した。次に、作製したコーティング前の電気化学セルにアルキル基を有するポリシラザンと酢酸エチルを主成分とする混合溶液からなるコーティング剤を、図1に示す領域に、実施例1よりも厚く塗布した。さらに150℃で1時間熱処理し、シリカ被膜を形成させた。
【0045】
シリカ被膜形成後、セルのSEM断面を観察し、シリカ被膜の厚みを求めたところ、塗布箇所によって5μm〜45μmまで厚みが変化していた。特に正極缶上端部53での被膜の厚みは32μm、また正極缶上端部53とガスケット4との間に形成される隙間における被膜の厚みは40μmであった。
【0046】
(比較例3)
実施例3に記載の方法でコーティング前の電気化学セルとして酸化銀電池を作製した。これを実施例3で示されているようなコーティングを施さずに、そのまま評価に投入した。
【0047】
このようにして作製した、実施例1、2及び比較例の耐食性について比較評価した。実施例1、実施例2、比較例1、及び比較例2のそれぞれの電気二重層キャパシタについて、温度60℃、相対湿度93%の高温高湿環境にて、3.3Vの電圧を連続的に印加した。各実施例及び比較例において、n=15ずつ試験に投入し、10日後における目視錆の発生個数を表1に示す。
【0048】
【表1】

【0049】
表1に示すとおり、実施例1では、錆の発生数が15個中0個、また実施例2では15個中1個であった。これに対し、比較例1では、錆の発生数は15個中5個であり、錆の発生割合は33%に達した。これにより、コーティング剤により耐食性が向上する効果が示された。
また、比較例2においては、正極缶側部において全数(15個中15個)ヒビが発生し、発生箇所から緑色の錆が発生した。被膜が厚くなると、耐久性が悪くなることが確認された。
【0050】
次に、実施例3及び比較例3の酸化銀電池の耐食性について調べた。それぞれn=24ずつ、60℃93%の高温高湿環境にて、60日保存し、目視での錆の発生数を調べたものを表2に示す。
【0051】
【表2】

【0052】
表2に示すとおり、実施例3は、錆の発生数が24個中0個であった。また、比較例2の錆の発生数は24個中2個であり、8.3%に錆が見られた。これにより、実施例3においても、コーティング剤により耐食性が向上する効果が示された。
このように、必要な箇所のみコーティング処理を施すことによっても、電気化学セルの耐食性を向上させることができた。
【符号の説明】
【0053】
1、10、20 電気化学セル
2、14、16、18、21、22、24 コーティング剤
3 負極缶
4 ガスケット
5 正極缶
6 負極
7 正極
8 セパレータ
31 負極缶中央部
32 負極缶側部R
51 正極缶底部
52 正極缶側部
53 正極缶上端部
11 スタンプ
12 スタンプ転写部
13 スタンプ保持部
15 スタンプ台
17 コーティング前の電気化学セル
19 マスキング材
23 スプレー缶
25 ステージ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極缶と、負極缶と、前記正極缶と前記負極缶の間に挟持されたガスケットとを備え、表面に絶縁性のコーティング剤が塗布されている電気化学セルにおいて、
前記コーティング剤はシリカを含むことを特徴とする電気化学セル。
【請求項2】
負極缶中央部および正極缶底部に、前記コーティング剤の未塗布領域を有することを特徴とする請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項3】
正極缶上端部と前記ガスケットとの間に形成される隙間と、前記負極缶と前記ガスケットの間に形成される隙間に前記コーティング剤が塗布されたことを特徴とする、請求項1または2に記載の電気化学セル。
【請求項4】
前記正極缶上端部と前記ガスケットとの間に形成される隙間と、正極缶側部に前記コーティング剤が塗布されたことを特徴とする請求項1または2に記載の電気化学セル。
【請求項5】
前記正極缶及び前記負極缶の表面はニッケルメッキが施され、
前記負極缶と前記ガスケットの間に形成される隙間と、
前記正極缶上端部と前記ガスケットとの間に形成される隙間から前記正極缶側部までに、前記コーティング剤が塗布されたことを特徴とする請求項1または2に記載の電気化学セル。
【請求項6】
前記正極缶及び前記負極缶はメッキなしのステンレスが用いられ、
前記正極缶上端部と前記ガスケットとの間に形成される隙間と、前記負極缶と前記ガスケットの間に形成される隙間に前記コーティング剤が塗布されたことを特徴とする請求項1または2に記載の電気化学セル。
【請求項7】
前記コーティング剤により形成される被膜の厚みのうち、前記正極缶上端部における厚みが0.1μm以上30μm以下であることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の電気化学セル。
【請求項8】
前記正極缶上端部と前記ガスケットとの間に形成される隙間において、前記コーティング剤の被膜の最大厚みが、前記正極缶上端部における被膜の厚みよりも厚いことを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の電気化学セル。
【請求項9】
正極缶と負極缶の間にガスケットを挟持することにより電気化学セルを形成する工程と、
前記電気化学セルの表面に、ポリシラザン組成物もしくはシリコーンレジンの少なくとも一方と、有機溶剤との混合物を塗布する工程と、
を有することを特徴とする電気化学セルの製造方法。
【請求項10】
前記ポリシラザン組成物はアルキル基を有することを特徴とする請求項9に記載の電気化学セルの製造方法。
【請求項11】
前記コーティング剤をスタンプに付着させ、前記スタンプを前記電気化学セルへ塗布する箇所に合わせ転写することを特徴とする請求項9または10に記載の電気化学セルの製造方法。
【請求項12】
マスキング材を前記負極缶の上部に載置した後、前記コーティング剤をスプレー噴霧し、被膜形成後、前記マスキング材を除去することを特徴とする請求項9または10に記載の電気化学セルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−33936(P2013−33936A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−121457(P2012−121457)
【出願日】平成24年5月29日(2012.5.29)
【出願人】(000002325)セイコーインスツル株式会社 (3,629)
【Fターム(参考)】