説明

電気化学型表示素子の製造方法、及び該表示素子を用いた電気化学型表示装置

【課題】 本発明は視認性、質感がきわめて紙に近く表示斑の少ない反射型の電気化学型表示素子を提供することを課題とする。
【解決手段】 シリカ、金属酸化物、金属水酸化物および金属炭酸化物からなる群から選ばれる少なくとも1種の無機化合物の微粒子を含有する、ポリアミド、ポリウレタンおよびポリ尿素からなる群から選ばれる少なくとも1種の有機ポリマーの微粒子と、該ポリマーの微粒子中に保持された電解液とからなるイオン伝導体を、液体で湿潤させた電極板に密着させることによる、2枚の電極板間にイオン伝導体を挟持させた電気化学型表示素子の製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、視認性、質感がきわめて紙に近い、反射型の表示素子の製造方法及び該表示素子を用いた表示装置を提供する。
【背景技術】
【0002】
表示素子に関して現在までに多種多様な技術が研究開発されている。その中でも視認性が高く目に優しいといわれている反射光による表示素子についても種々の方法が検討されている。反射光による表示素子は、周囲の明るさに表示面が追随する、指向性のある垂直光が目に進入しない等の理由のため、目が疲れにくく長時間の使用に耐える点が最大の長所として挙げられている。この長所を十分に発揮するには、光散乱による自然で柔らかい、紙に近い白さをいかにして出すかが重要である。そのため、表示面の視認性、質感をいかにして紙に近づけるかが最大の開発目標の一つとなっている。
【0003】
反射光型表示素子の技術のひとつである液晶を用いた表示素子は、現在最も広く用いられている技術であるが、本方式は偏光子を必要とするため、反射光強度が大きく減衰し、表示面の白さは紙には到底及ばない。加えて、視野角依存性が生じる問題もある。他の表示方式としては、色相の及び帯電特性の異なる2色の領域を有する粒子(2色粒子)を回転させることにより表示を行う、いわゆる粒子回転型ディスプレーが知られている(例えば、特許文献1参照。)。2色回転粒子はその構造上、視面側が明色(たとえば白)の場合は、その反対側は暗色(たとえば黒)になる。また、2色粒子を密に配列させても必ず隙間が生じてしまう。そのため、明色表示の際の視面から来た光が配列した2色粒子により生じた隙間に入ると、反対側の暗色面に光の大部分が吸収されてしまうために、光の反射効率が低く、紙に近い白さを出すことは困難である。
【0004】
また、粒子泳動法を用いた表示素子の場合では、一般に酸化チタン等の顔料微粒子を表示装置の視面側に移動させることにより白表示を行っている(例えば、特許文献2参照。)。しかしながら本方式では、白さを出すための機構が紙とは根本的に異なるため、粒状感が生じる等の理由により、紙のような自然な白さを出すことができない。
【0005】
一方、反射光を利用する他の表示素子として、電圧印加により、固体や液体に生じる可逆的な色相の変化を利用する電気化学型表示素子が知られている。本素子では着色表示の際の色相がクリアで視野角依存性もない優れた表示を行うことが可能である。透明電極上に存在している電気化学的な酸化還元により変色する高分子材料層と、この高分子材料層と接触し酸化チタン等の着色剤を含有した高分子固体電解質層を有する、エレクトロクロミック型表示素子が知られている(例えば、特許文献3参照。)。また同特許文献には、酸化チタン等の着色剤及び発色剤としての金属イオンを含有した高分子固体電解質層を電極間に挟んだ、エレクトロデポシション型表示素子について記載されている。また、銀塩(発色剤)と支持電解質とを溶媒に溶解させた電解液に、酸化チタンや酸化マグネシウム等の白色の半導体または絶縁体粉末を分散させ、この液体を透明電極に挟み込む構成の、エレクトロデポジション型表示装置について記載されている(例えば、特許文献4。)。
【0006】
特許文献3及び4のいずれの方法についても、表示素子に白色度を与えるためには、いわゆる白色顔料を用いているため、いずれの表示素子でも視認性および質感は、紙とは大きく異なっている。また、電気化学表示素子は、表示を行う際に対向電極間をイオンがスムーズに移動する必要があるが、特許文献3に示された高分子電解質を用いた方式では電解液を用いた場合に比してイオン伝導度が低くなるため、表示の応答速度が遅くなる上、駆動電圧が上昇してしまう可能性がある。また、イオン伝導性の温度依存性が液体の電解質を用いた場合に比して大きいため、広い温度領域、特に低温度での安定した駆動がしにくくなる。一方、特許文献4のように電解液を表示素子中に液体状態のまま用いると、表示素子が破損した際に漏洩等が起き易く安全性に問題が生じる上、白色粉末が偏在することで、均一な白色度を出せなくなる恐れがある。
【0007】
【特許文献1】米国特許4126854号
【特許文献2】特開平1−86116号公報
【特許文献3】特開平14−258327号公報
【特許文献4】米国特許4240716号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは、シリカ、金属酸化物、金属水酸化物および金属炭酸化物からなる群から選ばれる少なくとも1種の無機化合物の微粒子を含有する、ポリアミド、ポリウレタンおよびポリ尿素からなる群から選ばれる少なくとも1種の有機ポリマーの微粒子と、該ポリマーの微粒子中に保持された電解液とからなるイオン伝導体(以下、イオン伝導体(P)と言う。)を2枚の電極板間に挟持した電気化学型表示素子が、視認性、質感がきわめて紙に近いことを見出した。
【0009】
イオン伝導体はその内部に電解液を強く保持しているため、イオン伝導体の表面は電解液が滲み出ず、湿潤状態にはない。また、該イオン伝導体表面は密着性が強い特性があり、ITO電極等の平滑な電極板面等に一度設置すると移動させにくい。
このため、空気層が混入しないようにイオン伝導体(P)を電極板面等に設置することが難しく、空気層が混入した部位は全く電極反応を起こさないため表示斑となったり、効率的な消発色が妨げられたりすることが課題であることを見出した。
本発明は、表示斑が少なく、視認性、質感がきわめて紙に近い反射型の電気化学型表示素子ならびに表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、イオン伝導体(P)を2枚の電極板間に挟持した電気化学型表示素子が、視認性、質感がきわめて紙に近いこと、及びこのイオン伝導体(P)を電極板に設置する際に、予め該電極板面を液体(以下、液体(Q)と言う。)により湿潤させた後、該イオン伝導体を設置することにより、イオン伝導体と電極板との間にできる空気層(気泡とも称する。)に起因する表示斑を無くし、効率的な消着色が行なわれる表示素子を作製できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち本発明は、
シリカ、金属酸化物、金属水酸化物および金属炭酸化物からなる群から選ばれる少なくとも1種の無機化合物の微粒子を含有する、ポリアミド、ポリウレタンおよびポリ尿素からなる群から選ばれる少なくとも1種の有機ポリマーの微粒子と、該ポリマーの微粒子中に保持された電解液とからなるイオン伝導体を、液体で湿潤させた電極板に密着させることによる、2枚の電極板間にイオン伝導体を挟持させた電気化学型表示素子の製造方法を提供する。
【0012】
また、該方法で作製された電気化学型表示素子を用いた電気化学型表示装置を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、視認性、質感がきわめて紙に近く、イオン伝導体と電極との密着性が優れるため表示斑が少なく、効率的な消着色が可能な反射型の電気化学型表示素子の製造方法ならびに、該方法で作製された表示素子を用いた表示装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明で製造した電気化学型表示素子について、図面に基づき詳細に説明する。
【0015】
図1は、本発明の電気化学型表示素子の一実施形態を示す概略断面図である。本発明の電気化学型表示素子の実施形態の一つは、電気化学的な酸化還元により消発色する消発色剤(以下、消発色剤と言う。)を含有する電解液(1)を保持したイオン伝導体(P)を有する表示素子である。図1では電気化学型表示素子は、透明基板1と、その上に設けられた透明電極3と、透明電極3の上に設けられたイオン伝導体(P)5と、対向基板2と、その上に設けられた対向電極4と、封止材7とから概略構成されている。
【0016】
図2は、イオン伝導体(P)中に消発色剤を有しなくとも良いかわりに、透明電極3の上に設けられた消発色材料層6を有している点が図1と異なる。このような構成の表示素子の場合は、液体で湿潤させるのは消発色材料層6となるが、本発明においてはこれも電極板と称する。
【0017】
(電極板)
本発明で使用する電極板は、上記のように基板上に電極が形成された構成であっても、金属板にように自身が電極と基板の役目をするものであってもよい。
【0018】
(基板)
本実施形態に用いられる基板としては、視面側に用いる基板1の材料については、表面が平滑で、光の透過率が高く、電極を設置できるものであれば特に限定されない。具体的には、ポリエチレンテレフタレート、ポリエステル、ポリカーボネート等のプラスチックシートやガラス板等を挙げることができる。視面の反対側に用いる対向基板2の場合は、光透過率が高い必要はなく、基板2と同様の材料を用いてもよい。
【0019】
(電極)
本実施形態に用いられる電極としては、視面側に位置する電極3は透明である必要がある。このような電極3としては、現在最も広く用いられているITO(インジウム・スズ酸化物)の他にATO(アンチモン・スズ酸化物)、TO(酸化スズ)、ZO(酸化亜鉛)、IZO(インジウム・亜鉛酸化物)、FTO(フッ素・スズ酸化物)等を例示することができる。一方、透明電極と対向する電極4は必ずしも透明である必要はない。そのため上記金属酸化物の他、電気化学的に安定な金属類、例えば、白金、金、銀、コバルト、パラジウム、銅、ビスマス等やこれらのメッキ層や炭素材料を用いることもできる。
【0020】
(封止材)
封止材7は、電極3、4間のギャップを保持すると共に、イオン伝導体(P)5に空気中の水分、酸素や二酸化炭素が混入することを防止する役割を有する。例えば、エポキシ樹脂、アクリル樹脂といった熱や紫外線による圧着硬化が可能で、ガスバリア性を有する樹脂等が挙げられる。
【0021】
(イオン伝導体(P))
本実施形態に係るイオン伝導体(P)は、シリカ、金属酸化物、金属水酸化物および金属炭酸化物からなる群から選ばれる少なくとも1種の無機化合物の微粒子を含有する、ポリアミド、ポリウレタンおよびポリ尿素からなる群から選ばれる少なくとも1種の有機ポリマーの微粒子と、該ポリマーの微粒子中に保持された電解液とからなるイオン伝導体である。この無機化合物の微粒子を含有する有機ポリマーの微粒子が、ジカルボン酸ハロゲン化物、ジクロロホーメート化合物及びホスゲン系化合物からなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物を有機溶媒に溶解した有機溶液(A)と、珪酸アルカリ及び/または2種以上の金属元素を有しその金属元素の1種がアルカリ金属である、金属酸化物、金属水酸化物および金属炭酸化物からなる群から選ばれる少なくとも一種の金属化合物と、ジアミンとを含有する塩基性の水溶液(B)とを混合攪拌し、重縮合反応させることにより得られた無機化合物の微粒子を含有する有機ポリマーの微粒子であることが好ましい。
【0022】
この製造方法で製造された無機化合物の微粒子を含有する有機ポリマーの微粒子は、単に有機ポリマーと無機化合物とを混ぜ合わせた構造とは異なり、サブミクロン〜ナノメートルオーダーの無機化合物の微粒子が、マトリックスとしての有機ポリマーに微分散した構造を有する無機化合物の微粒子を含有する有機ポリマーの微粒子(以下、有機無機複合体と言う。)である。
【0023】
無機化合物の微粒子の表面積が極めて大きく、また、無機化合物の含有量が有機無機複合体に対して多いことから、この有機無機複合体は、自重の4〜25倍の質量の電解液を保持することができる。このため、この有機無機複合体を用いたイオン伝導体(P)は、支持電解質を溶解させた液体に近いイオン伝導性を有する一方で、電子的には絶縁性を保つことができる。発色が良いことでコントラストのより高い電気化学型表示素子を得るためには、イオン伝導体(P)は有機無機複合体の5〜20倍の質量の電解液を保持していることが好ましい。
【0024】
また、このイオン伝導体(P)の厚さは、100〜1500μmであるのが好ましい。100μm以下であると、表示素子の隠蔽性や白色度が不十分である問題が生じ、1500μmより厚いとイオンの移動距離が長くなったり、素子の内部抵抗が高くなったりすることにより、応答性が悪くなる恐れがある。
【0025】
(有機無機複合体)
本発明でのイオン伝導体(P)に用いる有機無機複合体は、好ましくは共役構造を有さずに可視光線の吸収を生じず、高い白色度を有し、電子伝導性を有さないことが電極間セパレーターとして機能でき得る観点から好ましい。このような有機無機複合体に使用する有機ポリマーとしては、ポリアミド、ポリウレタン、及びポリ尿素からなる群から選ばれる少なくとも1種以上が挙げられ、好ましくは脂肪族のモノマーである。そのなかでも、脂肪族ポリアミドが特に好ましい。
【0026】
また、無機化合物としては、シリカ又は金属酸化物が好ましい態様として挙げられる。このような金属酸化物としては、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化スズからなる群から選ばれる少なくとも1種以上の化合物が好ましい。
【0027】
また、無機化合物は、平均粒子径が1μm以下であって、有機無機複合体100質量%に対する無機化合物の含有率が20〜80質量%であることが好ましい。無機化合物の平均粒子径を1μm以下とすることにより、有機ポリマー微粒子と無機化合物微粒子との界面面積が比較的広くなり、光散乱が良好に生じ、高い白色度を有機無機複合体に付与することができる。これらは電解液保持特性の観点から無機化合物の平均粒子径が500nm以下であることが好ましく、100nm以下であると更に好ましい。
【0028】
また、無機化合物の含有率を20〜80質量%とすると、平均粒子径が1μm以下の表面積の極めて大きい無機化合物の微粒子が多量に有機無機複合体中に存在していることにより、極性溶媒へのより強い親和性が付与され、有機無機複合体が多量の電解液を保持することができる。また、無機化合物の含有率が20質量%未満であると、無機化合物が有機無機複合体に与える無機化合物固有の機能が不十分となり好ましくなく、一方、80質量%を越えて多すぎると、有機無機複合体に与えるマトリックスとしての有機ポリマーの機能が低下することにより、加工性に乏しくなる弊害が現れ、好ましくない。
【0029】
本実施形態に係る有機無機複合体の形状に特に限定はないが、繊維径が20μm以下で、アスペクト比が10以上のパルプ(屈曲微小繊維)形状であるのが好ましい。有機無機複合体をパルプ形状とすることにより抄紙可能になり、結合剤等を用いることなく、紙とほぼ等しい外観の薄いシート状ウエットケーキを得ることができる。また、有機無機複合体をパルプ形状とすることにより、繊維間に多量の電解液を保持することができる。
【0030】
(有機無機複合体の合成)
この有機無機複合体は、ジカルボン酸ハロゲン化物、ジクロロホルメート化合物、及びホスゲン系化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種以上の化合物を有機溶媒に溶解した有機溶液(A)と、珪酸アルカリ及び/又は2種以上の金属元素を有し該金属元素の1種がアルカリ金属である、金属酸化物、金属水酸化物、及び金属炭酸化物からなる群から選ばれる少なくとも1種以上の金属化合物と、ジアミンとを含有する塩基性の水溶液(B)を混合攪拌し、重合反応させて得ることができる。
【0031】
この重合反応にあっては、常温、常圧下での10秒〜数分程度の攪拌操作を行うことにより、有機溶液(A)中のモノマーと、水溶液(B)中のジアミンとが迅速に反応し、上記有機ポリマーが収率よく得られる。その際、珪酸アルカリ及び/又は金属化合物中のアルカリ金属が、重合の際に発生するハロゲン化水素の除去剤として作用することで、上記有機ポリマーの重合反応が促進される。それと同時に、珪酸アルカリ及び/又は金属化合物中のアルカリ金属元素以外の金属元素を有する無機化合物が固体へと転化する。その際、上記有機ポリマーの重合反応と無機化合物の固体への転化とは、どちらか一方のみが生じるのではなく、両方が平行して起こるため、無機化合物の微粒子が上記有機ポリマーに微分散した構造の本実施形態に係る有機無機複合体を得ることができる。
【0032】
(有機溶液(A))
有機溶液(A)としては、ジカルボン酸ハロゲン化物、ジクロロホルメート化合物、及びホスゲン系化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種以上の化合物を有機溶媒に溶解したものが用いられる。このようなジカルボン酸ハロゲン化物としては、例えば、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸の酸ハロゲン化物、及びイソフタル酸、テレフタル酸等の芳香族ジカルボン酸の酸ハロゲン化物、あるいはこれら芳香環の水素をハロゲン原子、ニトロ基、アルキル基等で置換した芳香族ジカルボン酸の酸ハロゲン化物等が挙げられる。これらは単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。そのなかでも、アジポイルクロライド、アゼラオイルクロライド、セバコイルクロライド等の脂肪族のジカルボン酸の酸ハロゲン化物を使用すると、繊維状の有機無機複合体を容易に得ることができ、該複合体をウエットケーキシート等へ加工することもできる上、共役構造をもたないため白色度が高いため特に好ましい。
【0033】
また、ジクロロホルメート化合物としては、例えば、1,2−エタンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール等の脂肪族ジオール類や、1個又は2個以上の芳香環に水酸基を2個持つレソルシノール(1,3−ジヒドロキシベンゼン)、ヒドロキノン(1,4−ジヒドロキシベンゼン)、1,6−ジヒドロキシナフタレン、2,2’−ビフェノール、ビスフェノールS、ビスフェノールA、テトラメチルビフェノール等の2価フェノール類の水酸基をすべてホスゲン化処理によりクロロホルメート化したものを挙げることができる。これらは単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0034】
また、ホスゲン系化合物としては、例えば、ホスゲン、ジホスゲン、及びトリホスゲンを挙げることができる。これらは単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0035】
有機溶液(A)に用いるモノマーを上記の中から選択することにより、有機無機複合体に含まれる有機ポリマーを前記のものとすることができる。具体的には、モノマーとしてジカルボン酸ハロゲン化物を用いた場合は有機ポリマーとしてポリアミドを、モノマーとしてジクロロホルメート化合物を用いた場合は有機ポリマーとしてポリウレタンを、モノマーとしてホスゲン系化合物を用いた場合は有機ポリマーとしてポリ尿素を、各々水溶液(B)との反応によって得ることができる。
【0036】
この有機溶液(A)に用いる有機溶媒としては、上記の有機溶液(A)中の各種モノマーやジアミンとは反応せず、有機溶液(A)中の各種モノマーを溶解させるものであれば特に制限なく用いることができる。例えば、水と非相溶の有機溶媒としては、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、n−ヘキサン等の脂肪族炭化水素類、クロロホルム、塩化メチレン等のハロゲン化炭化水素類、シクロヘキサン等の脂環式炭化水素類を挙げることができる。
【0037】
また、水と相溶する有機溶媒としては、テトラヒドロフラン等のエーテル類、メチルケトン、メチルエチルケトン等のケトン類等を代表的な例として挙げることができる。
【0038】
有機溶液(A)に用いる有機溶媒として、水に対して非相溶の有機溶剤を用いた場合、重合反応は有機溶液(A)と水溶液(B)の界面のみで生じる界面重合反応となる。水に対して非相溶の有機溶剤を用いると、生成する有機ポリマーの分子量を容易に高くすることができ、繊維形状の有機無機複合体を得ることができるため、好ましい。また、有機溶液(A)と水溶液(B)の界面で生じた膜状の有機無機複合体を引き上げつつ紡糸することにより、強度の高い長繊維の有機無機複合体を得ることができる。
【0039】
それに対し、有機溶媒として、水に対して相溶する有機溶剤を用いた場合、有機溶媒と水とが乳化した状態で重合反応が進行するため、粉体形状の有機無機複合体が得られる。
いずれの有機溶媒を用いた場合でも得られる有機無機複合体は、繊維形状又は粉体形状であり、バルク形状に比べて外表面積が大きい。そのため、粉砕等の処理を行うことなく、電解液を効率よく複合体に接触させることができるため、容易に電解液を保持させることができる。
【0040】
(水溶液(B))
水溶液(B)としては、珪酸アルカリ及び/又は2種以上の金属元素を有し該金属元素の1種がアルカリ金属である、金属酸化物、金属水酸化物、及び金属炭酸化物からなる群から選ばれる少なくとも1種以上の金属化合物と、ジアミンとを含有する塩基性の水溶液が好ましい。
【0041】
(珪酸アルカリ)
水溶液(B)中に、珪酸アルカリを共存させた状態で重合反応を行うことで、上記有機ポリマーとシリカとからなる有機無機複合体を得ることができる。この珪酸アルカリとしては、例えば、JIS K 1408に記載された水ガラス1号、2号、3号等のAO・nSiOの組成式で表され、Aがアルカリ金属、nの平均値が1.8〜4のものが挙げられる。また、nの平均値が0.8〜1.1である、メタ珪酸アルカリ(例えば、メタ珪酸ナトリウム1種、2種)の粉末を水に溶解させた液体も、上記水ガラスと同様に用いることができる。珪酸アルカリ中に含まれるアルカリ金属化合物は、重合の際に発生するハロゲン化水素の除去剤として作用することにより、重合反応を促進する。
【0042】
(金属酸化物、金属水酸化物、金属炭酸化物)
また、水溶液(B)に用いる金属化合物としては、2種以上の金属元素を有し該金属元素の1種がアルカリ金属である、金属酸化物、金属水酸化物、及び金属炭酸化物からなる群から選ばれる少なくとも1種以上の金属化合物が好ましい。ここで、Aはアルカリ金属元素であり、Mは周期表第3〜第12族の遷移金属元素、周期表第13〜16族の典型金属元素である。ここで言う遷移金属元素とは、銅や亜鉛を含めた周期表第11族及び第12族も含めた広義の意味での遷移金属元素を意味している。
具体的には、本発明で言う周期表第3〜第12族の遷移金属元素とは、周期表の21Sc〜30Znまでと、39Y〜48Cdまでと、57La〜80Hgまでと、89Ac以上の金属元素を意味する。
【0043】
また、周期表第13〜16族の典型金属元素とは、周期表の13Al、31Ga、32Ge、49In、50Sn、51Sb、81Tl、82Pb、83Bi、および84Poを意味する。これらの金属元素の中でも、特に好ましくはアルミニウム、ジルコニウム、亜鉛、スズからなる群から選ばれる少なくとも1種以上の金属元素であり、BはO、CO、及びOHからなる群から選ばれる少なくとも1種以上、好ましくはOであり、x、y、zは、AとMとBの結合を可能とする数である。
【0044】
一般式Aで表される化合物は、水に完全に又は一部溶解し、塩基性を示すものであることが好ましい。また、化合物中のアルカリ金属Aは、重合の際に発生するハロゲン化水素の除去剤として作用することにより、ハロゲン化塩となり化合物中から除かれるため、残った化合物中の金属元素Mが無機化合物に転化する。有機ポリマーにこの無機化合物を効率的に複合化させる観点から、金属元素Mを有する無機化合物は、水にほとんど又は全く溶解しないものであることが好ましい。
【0045】
金属化合物Aの内、BがOである化合物としては、亜鉛酸ナトリウム、アルミン酸ナトリウム、モリブデン酸ナトリウム、スズ酸ナトリウム、タンタル酸ナトリウム、タングステン酸ナトリウム、ジルコン酸ナトリウム等のナトリウム複合酸化物や、亜鉛酸カリウム、アルミン酸カリウム、モリブデン酸カリウム、スズ酸カリウム、タンタル酸カリウム、タングステン酸カリウム、金酸カリウム、銀酸カリウム、ジルコン酸カリウム、テルル酸カリウム、アンチモン酸カリウム等のカリウム複合酸化物、アルミン酸リチウム、モリブデン酸リチウム、スズ酸リチウム、タングステン酸リチウム、亜鉛酸リチウム、ジルコン酸リチウム等のリチウム複合酸化物のほかルビジウム複合酸化物、セシウム複合酸化物を好適に用いることができる。
【0046】
そのなかでも、アルミン酸ナトリウム、ジルコン酸ナトリウム、亜鉛酸ナトリウム、スズ酸ナトリウム等のナトリウム複合酸化物や、アルミン酸カリウム、ジルコン酸カリウム、亜鉛酸カリウム、スズ酸カリウム等のカリウム複合酸化物が入手が容易且つ水溶性が高いために好ましい。
【0047】
また、BがCOとOHの一方又は双方を含む金属化合物としては、炭酸亜鉛カリウム、炭酸ニッケルカリウム、炭酸ジルコニウムカリウム、炭酸コバルトカリウム、炭酸スズカリウム、及びこれらの水和物を例示することができる。
【0048】
これらの金属化合物は水に溶解させて用いるため、水和物であってもよい。また、これらは単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0049】
(ジアミン)
また、水溶液(B)に用いるジアミンとしては、有機溶液(A)中の各モノマーと反応し、上記有機ポリマーを生成するものであれば特に制限なく用いることができる。例えば、1,2−ジアミノエタン、1,3−ジアミノプロパン、1,4−ジアミノブタン、1,6−ジアミノヘキサン、1,8−ジアミノオクタン等の脂肪族ジアミン、m−キシリレンジアミン、p−キシリレンジアミン、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、1,5−ジアミノナフタレン、1,8−ジアミノナフタレン、2,3−ジアミノナフタレン等の芳香族ジアミン、あるいはこれら芳香環の水素をハロゲン原子、ニトロ基、又はアルキル基等で置換した芳香族ジアミン等が挙げられる。これらは単独又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。そのなかでも、1,3−ジアミノプロパン、1,4−ジアミノブタン、1,6−ジアミノヘキサン等の脂肪族ジアミンを使用すると、繊維状の有機無機複合体を容易に得ることができ、また不織布等に加工することもできるため、特に好ましい。
【0050】
(有機無機複合体の合成操作)
本実施形態における有機溶液(A)及び水溶液(B)中のモノマー濃度は、重合反応が十分に進行すれば特に制限されないが、各々のモノマー同士を良好に接触させる観点から、0.01〜3モル/Lの濃度範囲が好ましく、0.05〜1モル/Lが特に好ましい。
【0051】
また、水溶液(B)中の珪酸アルカリ及び/又は金属化合物の濃度は、有機溶液(A)及び水溶液(B)中のモノマー濃度によってある程度は決定されるが、有機無機複合体の高収率を維持し、かつ重合時の過剰な発熱により生じうる有機溶液(A)中のモノマーと水との副反応を防止する理由から、1〜500g/Lの範囲が好ましい。
【0052】
この重合反応は、例えば、−10〜50℃の常温付近の温度範囲で十分に反応が進行する。また、加圧、減圧を一切必要としない。また、この重合反応は、用いるモノマーや反応装置にもよるが、通常10分程度の短時間で完結する。
【0053】
(電解液)
本発明の電解液は、支持電解質とこれを溶解させる溶媒とから構成されている。更に電解液は、消発色剤と酸化還元促進剤からなる群から選ばれる少なくとも1種の材料を含有することが好ましい。
【0054】
(溶媒)
電解液を構成する溶媒は、水系、非水系のどちらでもよく、水のほかに、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、2−エトキシエタノール、2−メトキシメタノール、イソプロピルアルコール、N−メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、ブチロニトリル、グルタロニトリル、ジメトキシエタン、γ−ブチロラクトン、エチレングリコール、プロピレングリコール等の極性溶媒を例示することができる。なお、水系の場合には、0℃以下での凝固を防止して低温条件下の動作を満足させるため、上記溶媒のなかでも、水と相溶する溶媒を相溶させて用いることができる。
【0055】
有機無機複合体中の有機ポリマーの屈折率は1.5近辺であるため、この有機ポリマーとの屈折率差の高い電解液を用いると、電解液の浸漬による有機無機複合体の白色度の低下を最小限に抑えることができ、より高い白色度を維持したイオン伝導体(P)を作製することができる。有機ポリマーがポリアミド6.6である場合は、該ポリマーの屈折率は1.53であるため、好ましくは1.40以下の屈折率の溶媒、さらに好ましくは1.38以下の溶媒を用いる。このような溶媒としては水、アセトニトリル、メタノール、エタノール、2−エトキシエタノール、2−メトキシメタノール、イソプロピルアルコール等やこれらの混合物を例示することができる。
【0056】
(支持電解質)
また、電解液を構成する支持電解質としては、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム、過塩素酸リチウム、硝酸リチウム、硫酸リチウム、ホウフッ化リチウム等のリチウム塩、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、ヨウ化ナトリウム、塩化カリウム、臭化カリウム、ヨウ化カリウム等のハロゲン化アルカリ金属、テトラブチルアンモニウムブロマイド、テトラブチルアンモニウムクロライド、ホウフッ化テトラエチルアンモニウム、ホウフッ化テトラブチルアンモニウム、過塩素酸アンモニウム、過塩素酸テトラエチルアンモニウム、過塩素酸テトラブチルアンモニウム等のアンモニウム塩等や硫酸、ホウフッ化水素酸、過塩素酸、塩酸等の酸類を例示することができる。
【0057】
(消発色剤)
本発明の電気化学型表示素子は、消発色剤により表示のオン・オフを行う。図1にしめした通り、イオン伝導体(P)が保持する電解液中に消発色剤を含有させた場合は、電圧印加により消発色剤を電極上で酸化もしくは還元(場合によっては)析出させて着色させ、また酸化もしくは還元(場合によっては)溶解させて消色させる。一方、図2に例示的に示すように、本発明の電気化学型表示素子が、消発色剤を有する消発色剤層を有する場合は、イオン伝導体(P)が保持する電解液は必ずしも消発色剤を有する必要はない。
【0058】
消発色剤がイオン伝導体(P)中に含有されている場合は、表示素子内の消発色剤含有率を高くすることができることにより、発色を強くすることができる上、金属イオンまた低分子有機化合物が瞬時に変色を伴う化学変化を生じるため、応答速度を早くできる特徴がある。このような構成に用いられる有機化合物としては、ベンゾキノン、ナフサキノン、アントラキノン、ジフェノキノン、ジフェニルキノン、ジベンゾアントラキノン、ビオラントロン、イソビオラントロン、ピラントロン等の有機キノン類を例示することができる。これら有機キノン類は、電極に駆動電圧を印加することにより、還元されて各化合物特有の着色状態を作り出す。これらの化合物を用いる際には、イオン伝導体(P)中の濃度を高くするため前述のキノン系化合物を多量に溶解させることができる非水系溶媒を有する電解液が好ましく用いられる。
【0059】
また、消発色剤として用いられる金属化合物としては、銀、ビスマス、銅、鉄、クロム、ニッケル等のハロゲン化物、硫化物、硝酸塩、過ハロゲン酸塩等を例示することができる。これらの化合物を電解液中に溶解させることにより、各金属はイオン化するため、該電解液を消発色剤として用いることができる。例えば、銀化合物を溶解させた電解液を用いた場合には、電極に駆動電圧を印加すると、Ag + e → Agの還元反応が陰極側で生じて、このAg析出物により陰極電極が黒色に変化する。上記金属のうちビスマス、銀は、電解液に溶解させた状態がほぼ透明である上に、析出物の色が濃く、消発色の可逆反応が良好であるため、特に好ましく用いられる。これらの化合物は水溶性を有するものも多く、非水系溶媒の他、水系溶媒も電解液溶媒として好適に用いることができる。
【0060】
(消発色剤層)
消発色剤が溶媒溶解性に劣る等の理由によりイオン伝導体(P)に発色剤を含有させることが困難である場合は、視面側の透明電極上に、電気化学的な酸化還元により消発色する消発色剤層を設けることでも電気化学型表示素子とすることができる。(図2の構成に相当)
【0061】
このような消発色剤層としては、有機高分子化合物又は金属化合物を用いることができる。消発色剤層を構成する有機化合物としては、ポリピロール、ポリアニリン、ポリアズレン、ポリチオフェン、ポリインドール、及びポリカルバゾール等の有機高分子化合物を例示することができる。そのなかでも、特にポリピロール、ポリチオフェンが、析出物の色が濃く、消発色の可逆反応が良好であるため、好ましい。また、材料層9を構成する無機化合物としては、WO、MoO、V、Nb、TiO、NiO、Cr、MnO、CoO、及びIrO等を例示することができる。消発色剤層として有機高分子化合物を用いる場合には、上記高分子化合物の原料モノマーを電解重合もしくは化学的重合することにより、該層を透明電極上に製膜することができる。消発色剤層として金属化合物を用いる場合には、真空蒸着法、電子ビーム真空蒸着法、スパッタリング法等の公知の方法で製膜することができる。
【0062】
また、消発色剤の溶媒溶解性が良好な(前述のキノン系化合物や、銀、ビスマス等の金属イオン)各種材料を、支持電解質や溶媒とともに、各種結着樹脂に混合した着色剤含有液体やゲル状物を透明電極上に塗布することによっても、図2と同様な表示素子を作製することができる。この場合は塗工法、スピンコート法等により着色層を設置することができる。この場合は、イオン伝導体(P)に発色剤を必ずしも含有させる必要は無いが、発色を強くするためには含有させたほうが好ましい。
【0063】
(酸化還元促進剤)
前記消発色剤の電気化学的な酸化還元反応(すなわち消発色反応)を促進させるために電解液中には酸化還元促進剤を導入してもよい。酸化還元促進剤とは、消発色が生じる電極とは反対側の電極上で、ある一定の酸化還元電位において可逆的な酸化還元を行うことで消発色材の酸化還元反応を促進する材料で、ヒドロキノン、カテコールやこれらの誘導体のほか、1,4−ナフタレンジオール、1,5−ナフタレンジオール、2,7−ナフタレンジオールやこれらの誘導体を例示することができる。これらの2価フェノールは可逆的にそれぞれの化合物が対応するキノンへと(例えば、ヒドロキノンの場合はベンゾキノン)変化することで電子を放出したり、収容したりすることで消発色の酸化還元を促進する。また、前記の2価フェノール類に対応するキノンをもちいてもよい。また、同様な作用を持つ材料として、フェロセン、フェロシアンカリウム、フェリシアンカリウム等を用いてもよい。
【0064】
この他、消発色の可逆性を良くすることを目的として、めっき用薬剤として用いられる、光沢剤、錯化剤、緩衝剤、pH調整剤等を添加してもよい。
【0065】
(イオン伝導体(P)の製造方法)
本発明で使用する有機無機複合体は電解液の種類によらず電解液保持特性が極めて高いため、電解液中で該複合体を分散させて得た複合体分散液(スラリー)を濾過する等の簡単な操作を行うのみで、複合体100質量部に対して400〜1500質量部の電解液を保持させたイオン伝導体(P)を得ることができる。また、電解液への分散も該複合体が繊維状または粉体で得られるため、汎用のバッチ式攪拌層を用いて容易に行うことができる。
【0066】
また、有機無機複合体は合成条件によっては繊維(パルプ)形状を持つことができるため、例えば電解液に該複合体を分散させた分散液を公知慣用の方法により濾過することで、結合材を全く用いずにシート形状にすることが可能である。例えば分散液をステンレスやナイロン網やフッ素樹脂網等の濾材に通じる方法や、分散液をスプレーにより電極板に噴霧する方法等が挙げられる。本方法により容易に大面積シート状のイオン伝導体(P)を得ることが出来る。このとき、濾材として特に剥離性に優れたフッ素樹脂性の濾材を用いると、濾材よりイオン伝導体(P)を容易に剥離することができるため、表面に傷等がない平滑なイオン伝導体シートを得ることができるため好ましく用いられる。また、濾材として金属網や炭素繊維不織布等の電子伝導性が高い材料を用いた場合には、該濾材をそのまま対向電極として用いることもできる。この場合は視面側の電極板のみを湿潤させ、イオン伝導体を密着させる操作を行うとよい。このとき、必要とされる電解液保持性や白色度や電子絶縁性を損なわない範囲で、公知慣用の結合材を用いることもできる。
【0067】
電解液を保持させる工程で、有機無機複合体を高い固形分率にまで乾燥させたあとに用いようとすると、有機成分の極性基に由来する水素結合により、複合体が強固に固化する場合がある。一度固化した複合体は、電解液中で再分散することが困難となり、電解液の保持量が大きく減少する上、電解液中での未分散物の残存により均一なイオン伝導性や外観を有するイオン伝導体(P)を得ることができなくなる。そのため、得られた複合体はウエットケーキ状態で電解液保持操作を行うことが好ましい。好ましくは、前記複合体の固形分率が35質量%以下、更に好ましくは20質量%以下の状態のウエットケーキを用いる。このような固形分率にある複合体に電解液を保持させる含浸工程をとることにより、高い保持率で電解液を保持し且つ均一なイオン伝導性や外観を有するイオン伝導体(P)を得ることができる。
【0068】
また、上記方法で得られるイオン伝導体(P)は複合体100質量部に対して400〜1500質量部の多量の電解液を保持しているため、支持電解質を溶解させた液体に近いイオン伝導性と有している一方、電子的には絶縁性を保つことができる。
【0069】
(表示素子の製造方法)
本発明の電気化学型表示素子を構成するイオン伝導体(P)を用いて表示素子を作製するにはイオン伝導体(P)を、電極板上に設置する工程が必要である。しかし、イオン伝導体(P)は、固体に対する密着性が強いため、ITO電極等の平滑な電極面に一度設置すると移動させにくい。仮に、該イオン伝導体を電極面に設置する際に空気層が混入した場合、空気層が混入した部位は全く電極反応を起こさない。そのため表示が全くできなくなり表示斑が発生し表示品位が著しく損なわれるため、これを除く必要がある。イオン伝導体(P)のシートは、特にパルプ形状を有する有機無機複合体を用いた場合は一定の引っ張り強度を持っているため空気層の占有面積が大きい場合は、ラミネート処理により空気層を押し出し取り除くことができるが、空気層が直径1mm程度の小さい気泡がイオン伝導体(P)と電極面との間に進入した場合は除去することが極めて困難である。
【0070】
このとき、電極板を予め液体(Q)で湿潤させておき、その後イオン伝導体(P)を設置することにより、イオン伝導体(P)を電極板に密着させる際にイオン伝導体(P)と電極板間に均一な厚さで液体層ができることにより、気泡が残存することを高い確率で防止することができる。例えば、液体(Q)と電極板との接触角が高く濡れ性が悪い場合には、液滴が電極板上で独立して存在する。この状態でイオン伝導体(P)が設置されると、イオン伝導体(P)の電極板への密着工程において、液滴が電極板上で押し広げられつつ気泡をイオン伝導体端面方向に追い出すことにより、気泡が残存しない表示素子を容易に作製することができる。
【0071】
一方液体(Q)と電極板との接触角が低く濡れ性が良い場合には液体(Q)は電極板上で薄い層状で存在することにより気泡ができにくい上、仮に少量の気泡があっても液体(Q)の電極板上での接触角が大きい場合と同様、気泡が素子端面へと除去され、気泡が残存しない表示素子を作製することができる。いずれの場合でも、本発明で用いられるイオン伝導体(P)は液体吸水特性が高いため、電極板上の液体(Q)を吸水しつつ膨潤することにより電極板に密着するため、電極板を湿潤させることにより液体層がイオン伝導体(P)と電極板との間にとどまることがないため、紙的質感や視認性が低下することや、素子破損時に液体が漏洩する恐れはない。
【0072】
(液体(Q)の溶媒種及び含有する成分)
液体(Q)はイオン伝導体(P)に最終的に吸収されることで電極板上の気泡を除去する。そのため、イオン伝導体(P)が有する電解液と相溶する液体を選定することが好ましく、さらに好ましくは、イオン伝導体(P)の電解液の溶媒と同一の液体であり、最も好ましくは、液体(Q)がイオン伝導体(P)が有する電解液と同一であることである。特に、液体(Q)がイオン伝導体(P)中の電解液と同一の場合(すなわち、支持電解質や消発色剤を含んでいる場合)には、単なる溶媒である場合に比べてイオン伝導体(P)中の電解液中の支持電解質等の濃度を低下させることがないため、発色特性や応答速度を維持し、駆動電圧の上昇を防止することができる。また、電極板上での濡れ性を向上させることにより、イオン伝導体を容易に密着させることを目的として、液体(Q)に界面活性剤、レベリング剤等を、本表示素子内で生じる電気化学反応を阻害しない範囲で添加してもよい。また、前述の通り、本発明で用いるイオン伝導体(P)は電解液中に有機無機複合体を分散させたスラリーを濾過することで作製することもできるが、そのとき発生した濾液を液体(Q)として用いることもできる。
【0073】
(液体(Q)による電極板面の湿潤方法)
イオン伝導体を電極板に設置するに先立ち、液体(Q)により電極板面を湿潤させる必要があるが、この方法は液体(Q)が電極板面上に局在化することなく存在できる方法であれば特に限定されない。液体(Q)と接触角が高く濡れ性が悪い場合には、小さい液滴がイオン伝導体を設置する領域全般に分布していると、各液滴がイオン伝導体の設置の際に電極板とイオン伝導体の間で広げられる事で気泡を素子全面に渡って効率的に除去できるため特に好ましい。このような状態に液体(Q)を電極板上に存在させる例としては、液体(Q)を電極板にスプレー等により噴霧する方法が挙げられる。一方、液体(Q)と電極板との親和性が高く濡れ性が高い場合は、液体(Q)に電極板を浸漬させ引き上げる方法や、電極板上に液体(Q)を滴下する方法等が挙げられる。
【0074】
(液体(Q)による湿潤電極板)
本発明では、表示素子での気泡が原因となる表示欠陥をなくすることが目的であるため、少なくとも視面側の電極板については液体(Q)により湿潤させたのち、イオン伝導体(P)を設置する必要がある。しかしながら視面側電極板、対向電極板の双方を湿潤させることにより、イオン伝導体(P)を双方の電極板に完全に密着させることがより好ましい。なぜなら対向電極板にも密着していることにより、対向極での電気化学反応を十分に生じさせることができ、安定に駆動する表示素子を作製することができるからである。
【0075】
(電気化学型表示装置)
図1及び図2で示された表示素子に電源部、回路部や必要に応じてシール層、筐体等を設けることにより、表示装置とすることができる。
【0076】
以下に実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。特に断らない限り、「部」は「質量部」を表す。
【0077】
(合成例:シリカ/ポリアミド複合体の合成)
イオン交換水81.1部に、水ガラス3号9.18部、1,6−ジアミノヘキサン1.58部を加え、25℃で15分間攪拌し、均質透明な水溶液(B)を得た。
室温下でこの水溶液(B)をオスタライザー社製ブレンダー瓶中に仕込み、毎分10000回転で攪拌しながら、アジポイルクロライド2.49部をトルエン44.4部に溶解させた有機溶液(A)を、20秒かけて滴下した。
【0078】
次いで、生成したゲル状物をスパチュラで砕き、さらに毎分10000回転で40秒間攪拌した。この操作で得られたパルプ状の生成物の分散した液を、直径90mmのヌッチェを用い、目開き4μmの濾紙上で減圧濾過した。
ヌッチェ上の生成物をメタノール100部に分散させ、スターラーで30分間攪拌し減圧濾過することで洗浄処理を行った。引き続き同様の洗浄操作を蒸留水100部を用いて行い、減圧濾過することで、純白色のシリカ/ポリアミド複合体の水を含んだケーキシートを得た。
【0079】
得られたシリカ/ポリアミド複合体を、以下の(1)〜(2)の方法に従って分析し、(3)〜(6)に従って電気化学型表示素子を作製した。
【0080】
(1)無機化合物含有率(灰分)の測定
合成例で得られたシリカ/ポリアミド複合体に含まれる無機化合物の含有率の測定を、以下の方法により行った。
この複合体を絶乾後に精秤し、複合体質量を求め、これを空気中、600℃で3時間焼成し、有機ポリマー成分を完全に焼失させ、焼成後の質量を測定し灰分質量(=無機化合物質量)とした。これらの値から下式により無機化合物含有率を算出した。
無機化合物含有率(質量%)=(灰分質量/複合体質量)×100
この複合体中に含まれ、600℃焼成によっても除かれないのはシリカのみであるため、この測定により得られた値を無機化合物含有率をと定義した。本測定での無機化合物含有率は60質量%であった。
【0081】
(2)シリカ/ポリアミド複合体中の無機化合物の平均粒子径測定および分散状態の観察
シリカ/ポリアミド複合体を170℃、20MPa/cmの条件で2時間熱プレスを行い、厚さ約1mmのシリカ/ポリアミド複合体からなる薄片を得た。これをマイクロトームを用いて厚さ75nmの超薄切片とした。得られた切片を、日本電子社製透過型電子顕微鏡「JEM−200CX」にて100000倍の倍率で観察した。無機化合物は暗色の像として、明るい有機ポリマー中に微分散しているのが観察された。
【0082】
次いで、100個の無機化合物微粒子の粒径を測定し、その平均値を無機化合物平均粒子径とした。このシリカ/ポリアミド複合体では、平均粒子径約10nmの球状のシリカが網目状、すなわち3次元的にネットワークを形成し、ポリアミド中に微分散しているのが観察された。
【0083】
(3)電気化学型表示素子作製用の分散液の作製
(3−1)ケーキシートの洗浄と固形分率の測定
得られたシリカ/ポリアミド複合体のケーキシート約10部を、100部の超純水中に分散し、減圧濾過をする工程をそれぞれ3回繰り返すことにより洗浄処理を行い、超純水を含んだケーキシートを得た。
このケーキシートの質量(湿潤質量)測定後、150℃で2時間乾燥させ、乾燥質量を測定した。これらの数値より、ケーキシートの固形分率を下式により算出したところ、得られたケーキシートの固形分率は8.5質量%であった。
固形分率(質量%)=(乾燥質量/湿潤質量)×100
【0084】
(3−2)シリカ/ポリアミド有機無機複合体が電解液中に分散した分散液の作製
溶媒として超純水669部に、消発色剤としてオキシ過塩素酸ビスマスを12.8部、支持電解質として過塩素酸の60質量%溶液を2.48部、酸化還元促進剤としてヒドロキノン6.93部を、室温で攪拌して溶解させ、均質無色透明な電解液を調製した。
この電解液に、(3−1)の操作によって得られたケーキシート88.4部を入れ攪拌分散させることにより、電解液中にシリカ/ポリアミド有機無機複合体が均一に分散した分散液(スラリー)を得た。
【0085】
(4)イオン伝導体(P)の作製(電解液を含有したシリカ/ポリアミド有機無機複合体ウエットケーキシートの作製)
(3−2)で用いた分散液65gを、濾過瓶上に直径90mmのヌッチェをセットし、その濾過面にテフロン(登録商標)製濾過材であるミリポア社製メンブレンフィルター“デュラポアー”上から注ぎ込み、0.03MPaで減圧したのち、余剰の電解液を除去した後濾過剤を剥離することで、電解液を多量に保持した700μm厚の有機無機複合体ウエットケーキシートであるイオン伝導体(P)を得た。
【0086】
(5)電極板湿潤用の液体(Q)の作製
(3−2)中の電解液作製工程と同様な方法で電解液を調製し。これを電極板湿潤用液体(Q)とした。
【0087】
(6)電極板及び電極
本発明の表示素子には700μm厚のガラス基板上にITO電極(株式会社イーエッチシー製、表面抵抗10Ω/□)を有する透明電極基板を6cm角に切断して用いた。
【0088】
(実施例1:電極板を湿潤させることによる表示素子の作製)
(4)で作製したイオン伝導体(P)を電極板への設置に先立ち4cm×4cmに切断した。引きつづき、(5)で作製した液体(Q)を小型霧吹きにより(6)の透明電極基板(電極板)の電極面側に噴霧した。液体(Q)は該電極上で約1mmΦの多数の液滴として電極板上全域にほぼ均一に分布した。その後テフロン(登録商標)製濾過材を剥離した側をITO電極上に設置した。設置時にはイオン伝導体(P)と電極面の間に少量の気泡が混入したが、イオン伝導体(P)を電極面へ押し付ける操作を行った所、電極上の液体(Q)の液滴がイオン伝導体(P)と電極に挟まれることで電極上で広がり、さらに隣同士の液滴がつながることにより、気泡をイオン伝導体の端面側に移動し完全に除去することで、気泡がまったくない状態で透明電極基板(電極板)上にイオン伝導体(P)が設置されたシートが作製できた。この操作の直後には、透明電極基板(電極板)とイオン伝導体との間の液体(Q)層は、高い液体吸収特性を持つイオン伝導体(P)に吸収され、結果的にイオン伝導体(P)と透明電極とが完全に密着した。
【0089】
次に、もう一枚の透明電極基板(電極板)の電極面側にも液体(Q)と噴霧することにより該電極板を湿潤させ、その上に先ほど作製した透明電極上にイオン伝導体(P)が設置されたシートをイオン伝導体側から設置した。このとき、イオン伝導体を挟み込んだ電極板同士に圧を加えることにより、2番目に設置した面側も最初に設置した面側と同様に気泡が完全に除去された。次いで、イオン伝導体(P)の周囲をエポキシ樹脂で封止することにより、約厚さ700μmの電気化学型表示素子(1)を作製した。本表示素子では、テフロン(登録商標)製濾過材を剥離した側のイオン伝導体(P)を視面側として用いる。
【0090】
(参考例1:電極板を湿潤させない表示素子の作製)
(4)で作製したイオン伝導体(P)を4cm×4cmに切断し、テフロン(登録商標)製濾過材を剥離した側を、実施例1で行った電極板の湿潤操作を行なわずに、透明電極基板(電極板)の透明電極上に設置した。その際に、気泡が電極板をイオン伝導体間に混入したため、イオン伝導体(P)を電極板側に押し付ける操作により電極とイオン伝導体(P)とを密着させる操作を行なったところ、テフロン(登録商標)製濾材を剥離した側であることにより、イオン伝導体(P)面は平滑であったためほとんどの気泡が除くことができたが、3箇所に0.5mm以下の非常に小さい気泡が残存し、これらは最終的に除去できなかった。
続いて電極板上に設置したイオン伝導体(P)上より、対向電極として用いる透明電極を実施例1で行った湿潤処理を行わずに設置した。後から透明電極を設置した側は、電極板の湿潤処理を行わなかったことに加えて、濾過材の無い側(自由表面側)であるためケーキ面が平滑ではないことにより、電極面とケーキ面に気泡が多数混入し気泡の除去ができなかった。本表示素子を電気化学型表示素子(2)と言う。
【0091】
以上の電気化学型表示素子(1)、(2)のそれぞれの電極にリード線を接続したのちファンクションジェネレーターにつなぎ、±1.5V、周期2秒の矩形波を印加したところ、電気化学型表示素子(1)については、電極板が有する電極とイオン伝導体(P)との密着性に優れることより、表示に斑の無い優れた表示特性を示した上に、紙的な質感が良好な特徴を持っていた。
【0092】
一方、表示素子(2)は背面側において、電極とケーキとの密着性が悪かったため、視面側の密着性は比較的良好であったにも係わらず、表示斑が多く良好な表示ができなかった。
【0093】
以上の結果から、本発明によれば、電極板を液体(Q)により湿潤させた後にイオン伝導体(P)を電極板上にを設置することにより、表示斑のない表示特性が良好な電気化学型表示素子を製造できることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】本発明における、2枚の電極板間にイオン伝導体を挟持した電気化学表示素子の模式図である。
【図2】本発明における、2枚の電極板間にイオン伝導体を挟持し、視面側電極板に消発色層を有する電気化学表示素子の模式図である。
【符号の説明】
【0095】
1 透明基板
2 対向基板
3 透明電極
4 対向電極
5 イオン伝導体(P)
6 消発色材料層
7 封止材


【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカ、金属酸化物、金属水酸化物および金属炭酸化物からなる群から選ばれる少なくとも1種の無機化合物の微粒子を含有する、ポリアミド、ポリウレタンおよびポリ尿素からなる群から選ばれる少なくとも1種の有機ポリマーの微粒子と、該ポリマーの微粒子中に保持された電解液とからなるイオン伝導体を、液体で湿潤させた電極板に密着させることにより2枚の電極板間にイオン伝導体を挟持させた電気化学型表示素子の製造方法。
【請求項2】
電極板面を湿潤させる液体が、イオン伝導体が有する電解液である、請求項1に記載の電気化学型表示素子の製造方法。
【請求項3】
有機ポリマーの微粒子が、ジカルボン酸ハロゲン化物、ジクロロホーメート化合物及びホスゲン系化合物からなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物を有機溶媒に溶解した有機溶液(A)と、珪酸アルカリ及び/または2種以上の金属元素を有しその金属元素の1種がアルカリ金属である、金属酸化物、金属水酸化物および金属炭酸化物からなる群から選ばれる少なくとも一種の金属化合物と、ジアミンとを含有する塩基性の水溶液(B)とを混合攪拌し、重縮合反応させることにより得られた無機化合物の微粒子を含有する有機ポリマーの微粒子である請求項1に記載の電気化学型表示素子の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかの請求項に記載の製造方法で作製した電気化学型表示素子を用いた電気化学型表示装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−235484(P2006−235484A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−53230(P2005−53230)
【出願日】平成17年2月28日(2005.2.28)
【出願人】(000002886)大日本インキ化学工業株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】