説明

電気化学式センサの診断方法及び電気化学式センサ

【課題】拡散制御孔を有する拡散制御板を備えた電気化学式センサにおいて、拡散性が低下している異常状態を簡単且つ確実に診断することが可能な診断方法を確立する。
【解決手段】検知極及び対極を電解質層の両側に接続したセンサ手段と、検知対象ガスが検知極に拡散律速で接触するように外気の流入量を制御する拡散制御孔を有する拡散制御手段とを備えた電気化学式センサの診断方法にて、検知極と対極との間が適切な湿潤状態にあり検知対象ガスの濃度検知を行える状態を正常湿潤状態として、検知極と対極との間の電気的特性を検出し、これを正常湿潤状態にある場合の検知極と対極との間における基準電気的特性と比較し、当該電気的特性が正常湿潤状態における基準電気的特性から変動している場合に、拡散性が低下していると判断して、異常状態であると診断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検知対象ガス等が反応する検知極及び対極を電解質層の両側に接続したセンサ手段と、外気に含まれる前記検知対象ガスが前記検知極に拡散律速で接触するように前記外気の流入量を制御する拡散制御孔を形成した拡散制御手段とを備え、前記検知極と前記対極との間に流れる電流又は当該電流に対応する電圧に基づいて、前記検知対象ガスの濃度を検知する電気化学式センサの異常状態を診断する電気化学式センサの診断方法に関する。また、そのような診断方法を実施するための電気化学式センサに関する。
【背景技術】
【0002】
警報装置等に搭載されるセンサの一つとして、例えば、一酸化炭素ガスを検知するCOセンサがある。また、このCOセンサの検知方式として電気化学式のものが知られている。電気化学式センサは、一般に、電解質溶液又は固体電解質を検知極及び対極で挟み込んで構成される。
この電気化学式センサの検知原理を、一酸化炭素ガスを検知するCOセンサを例に挙げて説明する。
【0003】
COセンサの検知極に検知対象ガスである一酸化炭素が接触すると、下記(1)に示すように、検知極では一酸化炭素と水とが反応して二酸化炭素を生成するとともにプロトン(H+)及び電子(e-)が発生する。
CO + H2O → CO2 + 2H+ + 2e- ・・・ (1)
上記(1)の反応は、今回の様に拡散制御孔等がある条件下では、測定雰囲気中において一酸化炭素が拡散する速度に依存した拡散律速反応である(酸素と一酸化炭素が共存する検知極の混成電位付近においては一酸化炭素の酸化反応は拡散律速となる。)。
【0004】
また、検知極で発生したプロトン(H+)は電解質を通過して対極の側へ移動する。さらに、検知極で発生した電子(e-)は外部回路を通過して対極へと移動し、下記(2)に示すように、対極に導入される酸素及び電解質中の水と反応し、水酸基(OH-)を生成する。尚、検知極には酸素も存在するので、一般的には一酸化炭素の約半分は検知極の酸素で酸化され、残りの半分が対極の酸素で酸化される。
1/2・O2 + H2O + 2e- → 2OH- ・・・ (2)
【0005】
このように上記反応に伴って検知極側から対極側へと外部回路を流れる電子の電気的特性を、例えば、短絡電流値として検知することで、測定雰囲気中の一酸化炭素の濃度を測定することができる、又は、検知極、対極を開路状態としてその開路電圧を検知することで、測定雰囲気中の一酸化炭素の濃度を測定することができる。
【0006】
ところで、測定雰囲気を構成するガスの分子に対して一酸化炭素の分子が多い場合(すなわち、一酸化炭素濃度が高い場合)では、検知極に供給されるCO分子の絶対数が多くなる。そうすると、検知極側での上記(1)の反応が追いつかなくなる虞がある。
【0007】
そこで、上記のCOセンサに代表される電気化学式センサでは、検知極側に上側導電疎水膜を介して拡散制御板が設けられる。この拡散制御板には、測定雰囲気を構成するガスの分子及び検知対象ガスの分子の通過量を制御するための拡散制御孔が形成されている。これにより、拡散制御孔を通過する検知対象ガスの分子の数は、拡散律速反応が進行する程度にまで確実に低減される。その結果、検知極において上記(1)の反応が追いつかないという不都合は生じない。ただし、この場合、拡散制御孔、上側導電疎水膜、検知極、電解質層、対極等を健全な状態に維持しておくことが重要である。
ところが、例えば、電気化学式センサに結露が発生し、その結露水が拡散制御孔を塞いで孔詰まり状態になると、検知対象ガスの拡散性が低下し、上記(1)の反応、ひいては上記(2)の反応が阻害されることになる。同様に、例えば、上記結露や、電気化学式センサの雰囲気に急激な温度変化等が発生したり、当該電気化学式センサの雰囲気が極端な高湿状態(相対湿度90%以上)にさらされたりして、当該電気化学式センサにおいて、上側導電疎水膜中やその近傍に、過剰な水や電解質層中の電解液が滞留或いは電解質が析出することで液詰まり状態になったり、また、電解質層と検知極との界面に過剰に水が滞留した状態となると、検知対象ガスの拡散性が低下し、上記(1)の反応、ひいては上記(2)の反応が阻害されることになる。
【0008】
そこで、電気化学式センサにおいて拡散制御孔が孔詰まり状態であるか否か等の検知対象ガスの拡散性が低下している状態を異常状態として、簡便に診断することができれば、正常な状態で良好に検知対象ガスの濃度を検知でき、製品としての信頼性が向上するとともに、ユーザにとっての利便性も改善すると期待される。
【0009】
この点に関し、従来、拡散制御孔の孔詰まり状態等の検知対象ガスの拡散性が低下している状態を診断するものではないが、電気化学式センサ自体の正常・異常を診断する方法として、電源をオフした後に再度オンした際のセンサの出力ピークや出力ボトムの有無から、電気化学式センサの健全性を診断する方法が提唱されている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2004−279293号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところが、特許文献1の方法は、上記のとおり、電気化学式センサの診断をする際に電源のオフ・オン操作をその都度実行しなければならないため、ユーザにとって煩わしさがある。
また、同文献の第0011段落に記載されているように、電気化学式センサの健全状態を確実に診断するためには、電源をオフした後再度オンするまでにある程度の時間を要することになる。
さらに、同文献の方法では、拡散制御孔が完全に閉塞して断線状態にならなければ電気化学式センサの異常状態を検知できないが、拡散制御孔が完全に閉塞する前に検知したいという要求もある。また、拡散制御孔が完全に開口している場合でも、検知対象ガスの拡散性の低下が発生すると、これを異常状態として診断したいという要求もある。
【0012】
従って、本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、拡散制御孔を有する拡散制御板を備えた電気化学式センサにおいて、拡散制御孔が部分的に又は完全に閉塞する等により、検知対象ガスの拡散性が低下しているか否かを簡単且つ確実に診断することが可能な電気化学式センサの診断方法を確立することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る電気化学式センサの診断方法は、検知対象ガスが反応する検知極及び対極を電解質層の両側に接続したセンサ手段と、外気に含まれる前記検知対象ガスが前記検知極に拡散律速で接触するように前記外気の流入量を制御する拡散制御孔を形成した拡散制御手段とを備え、前記検知極と前記対極との間に流れる電流又は当該電流に対応する電圧に基づいて、前記検知対象ガスの濃度を検知する電気化学式センサの異常状態を診断する電気化学式センサの診断方法であって、その特徴手段は、前記検知極と前記対極との間が適切な湿潤状態にあり、前記検知対象ガスの濃度検知を行える状態を正常湿潤状態として、前記検知極と前記対極との間に発生する電気的特性を検出し、前記検出された電気的特性を、前記正常湿潤状態にある場合の前記検知極と前記対極との間における基準電気的特性と比較し、前記検出された電気的特性が前記正常湿潤状態における基準電気的特性から変動している場合に、拡散性が低下していると判断して、異常状態であると診断する点にある。
【0014】
電気化学式センサにおいては、通常、検知対象ガスの濃度を検出する際の反応を確実に行うため電解質層には必要十分な量(所定量)の水が供給されている必要がある。このような状況で、検知極側に形成された拡散制御板の拡散制御孔が部分的に又は完全に閉塞すると、検知対象ガスの拡散性が低下する。同様に、当該電気化学式センサにおいて、電解質層と検知極との界面に過剰に水が滞留した状態となったり、また、検知極と拡散制御板との間に上側導電疎水膜が設けられている場合に、上側導電疎水膜中やその近傍に、過剰な水や電解質層中の電解液が滞留或いは電解質が析出することで液詰まり状態となる場合もあり、このような状態でも、検知対象ガスの拡散性が低下する。このように検知対象ガスの拡散性が低下する状態になると、当該拡散制御孔からの水蒸気の蒸散が抑制されたり、上記(1)及び(2)の反応が阻害される等の理由により、検知極と対極との間に存在する水の量が増加する。
そして、この拡散性の低下に依存して、検知極と対極との間に発生する電気的特性が変動することとなる。
そこで、本特徴手段による電気化学式センサの診断方法では、このように変動した電気的特性を検出し、この電気的特性を正常湿潤状態(検知極と対極との間が適切な湿潤状態にあり、検知対象ガスの濃度検知を行える状態)に対応する基準電気的特性と比較する。その結果、検出した電気的特性が基準電気的特性から変動している場合(例えば所定の閾値以上の変動がある場合など)に、検知対象ガスの拡散性が低下していると判断して、異常状態であると診断することができる。なお、正常湿潤状態とは、特定濃度の検知対象ガスが存在する場合に、検知極と対極との間に流れる電流や当該電流に対応する電圧を当該特定濃度に対応した状態で得ることができ、検知極と対極との間に存在する水の量が適正範囲(所定量)となっている湿潤状態をいう。逆に正常湿潤状態でない場合(検知極と対極との間に存在する水の量が適正範囲を逸脱している場合)には、水分過多となっているため、特定濃度の検知対象ガスが存在する場合でも、当該特定濃度に対応した状態の電流や電圧を得ることができず、検知対象ガスの濃度を正確に検出することができない状態である。
このように、本特徴手段では、電気化学式センサの電気的特性を利用して、拡散制御板に形成した拡散制御孔が部分的に又は完全に閉塞して拡散性が低下しているか否か等を判断しているので、検知対象ガスの拡散性が低下している異常状態を簡単且つ確実に診断することが可能となる。
【0015】
本発明に係る電気化学式センサの診断方法の更なる特徴手段は、前記検知極と前記対極との間に交流電圧を印加して、前記検知極と前記対極との間に発生する電気的特性としてのインピーダンス若しくはインピーダンスの実数部を検出し、検出されたインピーダンス若しくはインピーダンスの実数部が、前記正常湿潤状態における基準電気的特性としての基準インピーダンス若しくは基準インピーダンスの実数部より低下した場合に、検知極と対極との間に存在する水の量が前記正常湿潤状態における水の量よりも増加しているとみなして、拡散性が低下していると判断し、異常状態であると診断する点にある。
【0016】
本特徴手段の電気化学式センサの診断方法によれば、検知極と対極との間に交流電圧を印加した際において、検知極と対極との間の電導性が増加することで、両電極間に発生するインピーダンス若しくはインピーダンスの実数部が正常湿潤状態における基準インピーダンス若しくは基準インピーダンスの実数部から低下したことにより、検知対象ガスの拡散性が低下していると判断し、異常状態であると診断することができる。
従って、本特徴手段では、交流電圧を印加した際における検知極と対極との間のインピーダンス若しくはインピーダンスの実数部をモニタするだけで、検知対象ガスの拡散性が低下している異常状態を簡単且つ確実に診断することが可能となる。特に、インピーダンス若しくはインピーダンスの実数部を連続的にモニタするだけでよいので、検出を止める必要がなくなり、簡単に異常状態を診断することができる。
【0017】
本発明に係る電気化学式センサの診断方法の更なる特徴手段は、前記検知極と前記対極との間に交流電圧を印加して、前記検知極と前記対極との間に発生する電気的特性としての電圧と電流の位相差を検出し、検出された位相差が、前記正常湿潤状態における基準電気的特性としての基準位相差より増加した場合に、検知極と対極との間に存在する水の量が前記正常湿潤状態における水の量よりも増加しているとみなして、拡散性が低下していると判断し、異常状態であると診断する点にある。
【0018】
本特徴手段の電気化学式センサの診断方法によれば、検知極と対極との間に交流電圧を印加した際において、検知極と対極との間の電導性が増加することで、両電極間に発生する電圧と電流の位相差が正常湿潤状態における基準位相差から増加したことにより、検知対象ガスの拡散性が低下していると判断し、異常状態であると診断することができる。
従って、本特徴手段では、交流電圧を印加した際における検知極と対極との間の電圧と電流の位相差をモニタするだけで、検知対象ガスの拡散性が低下している異常状態を簡単且つ確実に診断することが可能となる。特に、位相差を連続的にモニタするだけでよいので、検出を止める必要がなくなり、簡単に異常状態を診断することができる。
【0019】
本発明に係る電気化学式センサの診断方法の更なる特徴手段は、前記交流電圧が、10Hz以下の周波数の交流電圧である点にある。
【0020】
本構成の電気化学式センサの診断方法によれば、10Hz以下の比較的低い周波数の交流電圧を印加するので、正常湿潤状態の基準電気的特性(基準位相差)と比較した場合において、検知対象ガスの拡散性が低下している状態の電気的特性である検知極と対極との間の電圧と電流の位相差の変動をより大きく検出できることとなり、検知対象ガスの拡散性が低下している状態を一層簡単且つ確実に診断することが可能となる。
【0021】
本発明に係る電気化学式センサの診断方法の更なる特徴手段は、前記正常湿潤状態が、前記拡散制御孔が完全に開口している状態で実現される点にある。
【0022】
本構成の電気化学式センサの診断方法によれば、正常湿潤状態は、検知極と対極との間が適切な湿潤状態にあり、検知対象ガスの濃度検知を行える状態であり、しかも、拡散制御孔が完全に開口している状態となる。これにより、検出された検知極と対極との間の電気的特性を、当該正常湿潤状態(拡散制御孔が完全に開口した状態)における検知極と対極との間の基準電気的特性と比較することができる。従って、少なくとも拡散制御孔が部分的又は完全に閉塞した孔詰まり状態となった場合には、検出された電気的特性が当該基準電気的特性から変動するため、検知極と対極との間に存在する水の量が正常湿潤状態における水の量よりも増加したものとみなして、検知対象ガスの拡散性が低下したことを確実に異常状態であるとして診断することができる。
【0023】
本発明に係る電気化学式センサは、検知対象ガスが反応する検知極及び対極を電解質層の両側に接続したセンサ手段と、外気に含まれる前記検知対象ガスが前記検知極に拡散律速で接触するように前記外気の流入量を制御する拡散制御孔を形成した拡散制御手段とを備え、前記検知極と前記対極との間に流れる電流又は当該電流に対応する電圧に基づいて、前記検知対象ガスの濃度を検知する電気化学式センサであって、その特徴構成は、前記検知極と前記対極との間に発生する電気的特性を検出する検出手段と、前記検知極と前記対極との間が適切な湿潤状態にあり、前記検知対象ガスの濃度検知を行える状態を正常湿潤状態として、前記検出された電気的特性を、前記正常湿潤状態にある場合の前記検知極と前記対極との間における基準電気的特性と比較する比較手段と、前記検出された電気的特性が前記正常湿潤状態における基準電気的特性から変動している場合に、拡散性が低下していると判断して、異常状態であると診断する診断手段とを備えた点にある。
【0024】
電気化学式センサにおいては、通常、検知対象ガスの濃度を検出する際の反応を確実に行うため電解質層には必要十分な量(所定量)の水が供給されている必要がある。このような状況で、検知極側に形成された拡散制御板の拡散制御孔(拡散制御手段)が部分的に又は完全に閉塞すると、検知対象ガスの拡散性が低下する。同様に、当該電気化学式センサにおいて、電解質層と検知極との界面に水が過剰に滞留した状態となったり、また、検知極と拡散制御板との間に上側導電疎水膜が設けられている場合に、上側導電疎水膜中やその近傍に、過剰な水や電解質層中の電解液が滞留或いは電解質が析出することで液詰まり状態となる場合もあり、このような状態でも、検知対象ガスの拡散性が低下する。このように検知対象ガスの拡散性が低下する状態になると、当該拡散制御孔からの水蒸気の蒸散が抑制されたり、上記(1)及び(2)の反応が阻害される等の理由により、検知極と対極との間に存在する水の量が増加する。
そして、この拡散性の低下に依存して、検知極と対極との間に発生する電気的特性が変動することとなる。
そこで、本特徴構成による電気化学式センサは、このように変動した電気的特性を検出手段により検出し、この電気的特性を比較手段により、正常湿潤状態(検知極と対極との間が適切な湿潤状態にあり、検知対象ガスの濃度検知を行える状態)に対応する基準電気的特性と比較する。その結果、検出した電気的特性が基準電気的特性から変動している場合(例えば所定の閾値以上の変動がある場合など)に、診断手段が、検知対象ガスの拡散性が低下していると判断して、異常状態であると診断することができる。
このように、本特徴構成では、電気化学式センサの電気的特性を利用して、拡散制御板に形成した拡散制御孔が部分的に又は完全に閉塞して拡散性が低下しているか否か等を判断しているので、検知対象ガスの拡散性が低下している異常状態を簡単且つ確実に診断することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】電気化学式センサの診断方法で使用する電気化学式センサの全体構成を示す縦断面図
【図2】電気化学式センサの要部であるセンサ本体の縦断面図
【図3】電気化学式センサ及び基本測定回路の概略図
【図4】正常湿潤状態及び拡散性が低下している異常状態におけるインピーダンスと周波数との関係を示すグラフ図
【図5】正常湿潤状態及び拡散性が低下している異常状態におけるインピーダンスの虚数部と実数部との関係を示すグラフ図
【図6】正常湿潤状態及び拡散性が低下している異常状態における位相差と周波数との関係を示すグラフ図
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明による実施形態を図面に基づいて説明する。なお、本発明は以下に説明する実施形態や図面に記載される構成に限定されるものではなく、種々の改変が可能である。
【0027】
〔電気化学式センサの基本構造〕
図1は、本発明の電気化学式センサの診断方法で使用する電気化学式センサ100の全体構成を示す縦断面図である。図2は、電気化学式センサ100の要部であるセンサ本体10の縦断面図である。
【0028】
本実施形態の電気化学式センサ100は、一酸化炭素を検知対象ガスとしたCOセンサであり、その基本構造として、センサ本体10、水タンク20、フィルタ部30、ワッシャ40、及びガスケット50等を備える。
【0029】
センサ本体10は、図2に示すように、電解質層1の両側(上下面)に検知極としてのアノード極2と対極としてのカソード極3とが夫々接続された積層構造を有するセンサ手段11と、後述する上側導電疎水膜4,下側導電疎水膜5と、拡散制御板6(拡散制御手段の一例)とを備えている。
電解質層1は、後述するように、アノード極2での一酸化炭素の酸化反応に伴って発生するプロトン(H+)等のカチオンがカソード極3に移動する(あるいはカソード極3からOH-等のアニオンがアノード極2に移動する)際の媒質として機能し、例えば、濾紙等の基体に下記の化学式で示される芳香族スルホン酸塩(重合体)を含む電解液を含浸させて構成することができる。
【化1】

なお、電解質層1には、図示しない参照電極を介在させても構わない。この場合、電解質層1を上下二層に分割し、両層の間に参照電極を挟み込む。
【0030】
アノード極2は、一酸化炭素を二酸化炭素へと酸化する電極触媒であり、一般に白金触媒等が使用される。カソード極3も、実質的にアノード極2と同様の構成を有している。本実施形態では、アノード極、カソード極の膜厚はそれぞれ約0.05〜0.2mmに設定されている。
【0031】
アノード極2の上側及びカソード極3の下側には、上側導電疎水膜4,下側導電疎水膜5が夫々設けられる。この上側導電疎水膜4,下側導電疎水膜5は、アノード極2又はカソード極3での反応に関わるガス(一酸化炭素、二酸化炭素、水蒸気、及び酸素)を透過可能なガス透過膜として構成される。
【0032】
アノード極2の上側の上側導電疎水膜4の上方には、拡散制御板6が設けられる。この拡散制御板6は、外気に含まれる一酸化炭素ガスがアノード極2に拡散律速で接触するように外気の流入量を制御する。具体的には、拡散制御板6には拡散制御孔6aが形成され、この拡散制御孔6aを経てアノード極2へと供給される外気及びCO分子の供給量が制御される。従って、外気に含まれる一酸化炭素の濃度が高く、仮にそのままの状態で一酸化炭素をアノード極2に導入すれば、過剰な一酸化炭素のためにアノード極2での酸化反応が追いつかなくなるような場合でも、拡散制御板6に設けた拡散制御孔6aの作用により、アノード極2ですべてのCOの酸化反応を完了させることができる。
なお、本実施形態では、拡散制御板6はステンレス等の金属からなる薄板で形成され、拡散制御孔6aは打ち抜き等の任意の方法で形成されている。
【0033】
また、センサ本体10のカソード極3の側の下方には、水タンク20が接続される。水タンク20は、その外壁21の一部にくびれ部22が形成され、そのくびれ部22に、中央部に孔部41が形成されたワッシャ40が係留されている。外壁21とワッシャ40とによって包囲される空間Xには、水又は水を吸収させた吸水性樹脂23が収容されている。空間Xに存在する水は、水蒸気の状態でワッシャ40の孔部41を通り、センサ本体10のカソード極3を通して電解質層1に供給される。
【0034】
一方、センサ本体10のアノード極2の側の上方には、フィルタ部30が設けられる。フィルタ部30は、第1通気孔31aが形成された上半部31に第2通気孔32aが形成された下半部32をかしめて中空部Yを形成し、その中空部Yに活性炭フィルタ33を充填した構成となっている。この構成において、外気に含まれる一酸化炭素は第1通気孔31aから侵入し、活性炭フィルタ33で不純物等が取り除かれた後、第2通気孔32aからセンサ本体10のアノード極2へと供給される。
フィルタ部30と水タンク20の外壁21との間には、水タンク20から蒸発した水蒸気が外部に漏出しないように、ガスケット50が設けられる。
【0035】
本発明の電気化学式センサ100では、水タンク20の底面24及び上半部31の上面31bが電極端子として機能する。従って、フィルタ部30の上半部31及び下半部32、センサ本体10の拡散制御板6、ワッシャ40、ならびに水タンク20の外壁21は、金属等の導電性材料で構成される。
【0036】
このように構成された電気化学式センサ100は、例えば、図3に示すような基本測定回路200を備える。
電気化学式センサ100のセンサ本体10から発生した微小な電流(短絡電流)は、オペアンプ201、抵抗202、及びコンデンサ203によって増幅処理及び変換処理がなされ、出力端子204から電圧Voutとして出力される。そして、この出力結果から、電気化学式センサ100において外気に含まれる一酸化炭素の濃度の検知が行われる。短絡電流は、電解質中をアノード極2からカソード極3に流れ、外部回路中をカソード極3からアノード極2へ流れる。通常、一酸化炭素濃度が増加するに従って、Voutは増加する。アノード極2とカソード極3との間が適切な湿潤状態(アノード極2とカソード極3との間に存在する水の量が適正範囲(所定量)となっている状態)にあり、一酸化炭素ガスの濃度検知を行える状態である、本願で言う正常湿潤状態では、大気中の微量COの影響によりわずかにプラス電流が流れる状態となる。
【0037】
上記が本願に係る電気化学式センサ100の基本構成であるが、図3に示すように、この電気化学式センサ100は、さらに、一酸化炭素ガスの拡散性が低下している異常状態にあるか否かを診断する診断装置206を備える。この異常状態としては、例えば、拡散制御孔6aが部分的に又は完全に閉塞した状態、電解質層1とアノード極2との界面に過剰に水が滞留した状態、或いは、上側導電疎水膜4中や、上側導電疎水膜4と拡散制御板6との界面(上側導電疎水膜4の近傍)に、過剰な水や電解質層1中の電解液が滞留或いは電解質が析出する液詰まり状態等が挙げられる。なお、この診断装置206は、コンピュータ205と同様の機能を有するため、当該コンピュータ205と共通の装置として構成してもよい。
診断装置206は、一酸化炭素ガスの拡散性の低下に依存してアノード極2とカソード極3との間に発生する電気的特性を検出する検出手段207と、アノード極2とカソード極3との間が適切な湿潤状態にあり、一酸化炭素ガスの濃度検知を行える状態を正常湿潤状態として、検出された電気的特性を、当該正常湿潤状態にある場合のアノード極2とカソード極3との間における基準電気的特性と比較する比較手段208と、検出された電気的特性が正常湿潤状態における基準電気的特性から変動している場合に、アノード極2とカソード極3との間に存在する水の量が正常湿潤状態における水の量よりも増加しているとみなして、一酸化炭素ガスの拡散性が低下していると判断し、異常状態であると診断する診断手段209とを備えて構成される。
【0038】
検出手段207は、アノード極2とカソード極3との間に交流電圧を印加し、当該印加した交流電圧の電位・電流を測定するポテンショスタット(電位・電流測定装置)と、当該ポテンショスタットにより測定された電位・電流の周波数解析を行う周波数解析装置(FRA:Frequency Response Analyzer)とを備える。したがって、検出手段207により交流電圧を印加して、アノード極2とカソード極3との間における電気的特性としての交流印加時のインピーダンスZ及び当該インピーダンスZの実数部並びに電圧と電流の位相差Φ(電気的特性の一例)を得ることができる。
具体的には、センサ手段11のアノード極2側をポテンショスタットの試験極につなぐと共に、カソード極3側をポテンショスタットの参照極及び対極につないで、定電圧(例えば、0Vを中心に±20mV)の交流電圧を、周波数を(例えば、10kHzから0.1Hzまで)自動で変化させながら印加する。そして、各周波数ごとに得られる電流値の波形から、インピーダンス値Z、位相差Φを算出し、さらに、インピーダンスZの実数部(抵抗成分)と、虚数部(容量成分)とを算出する。
検出手段207により検出された電気的特性は、当該検出手段207から比較手段208に出力可能に構成されている。
【0039】
比較手段208は、検出手段207から出力された電気的特性と、上記正常湿潤状態である場合における基準電気的特性(例えば、基準インピーダンス値、基準位相差、基準インピーダンスの実数部)とを比較することができる情報処理手段により構成されている。基準電気的特性は、診断装置206が備える記憶部(図示せず)若しくはコンピュータ205が備える記憶手段に予め記憶したものを用いることができる。
比較手段208により比較された結果は、当該比較手段208から診断手段209に出力される。
【0040】
診断手段209は、下記する条件を満たす場合に、アノード極2とカソード極3との間に存在する水の量が正常湿潤状態における水の量よりも増加しているとみなして、拡散性が低下していると判断し、異常状態であると診断することができる情報処理手段により構成されている。
後述するように、例えば、上記条件を満たす場合として、検出手段207により検出されたインピーダンスZが、正常湿潤状態における基準インピーダンスより低下した場合、或いは検出手段207により検出されたインピーダンスZの実数部が、正常湿潤状態における基準インピーダンスの実数部より低下した場合に、アノード極2とカソード極3との間に存在する水の量が正常湿潤状態における水の量よりも増加しているとみなして、一酸化炭素ガスの拡散性が低下していると判断し、異常状態であると診断することができるように構成されている。
また、例えば、検出手段207により検出された電圧と電流の位相差Φが、正常湿潤状態における基準位相差より増加した場合に、アノード極2とカソード極3との間に存在する水の量が正常湿潤状態における水の量よりも増加しているとみなして、一酸化炭素ガスの拡散性が低下していると判断し、異常状態であると診断することができるように構成されている。
なお、診断結果が、一酸化炭素ガスの拡散性が低下している異常状態であるとする診断である場合には、電気化学式センサ100が備えるLEDや液晶等に拡散性が低下している状態にある旨表示することができるように構成されている。例えば、LEDを赤色に点灯させたり、液晶に拡散性の低下異常と表示させたりすることができる。
【0041】
〔電気化学式センサの診断方法〕
従来技術の項目でも説明したように、拡散制御板6を備えた電気化学式センサ100においては、検知対象ガス(一酸化炭素ガス)の濃度を正確に検知するためには、拡散制御孔6a、上側導電疎水膜4、アノード極2、電解質層1、カソード極3、下側導電疎水膜5等を健全な状態に維持しておくことが重要である。ところが、例えば、気温変化が大きい環境下等では、結露水や水タンク20からの水(正常湿潤状態において水タンク20から電解質層1に供給される必要十分な水の量を越える量の水)等によって拡散制御孔6aが部分的に又は完全に閉塞して拡散性が低下する等により、上述の異常状態となる虞がある。そこで、本実施形態では、一酸化炭素ガスの拡散性が低下している異常状態を診断する。以下、電気化学式センサの診断方法について説明する。
【0042】
まず、図3に示す回路において、検出手段207によりアノード極2とカソード極3との間に交流電圧を印加する。具体的には、センサ手段11のアノード極2側をポテンショスタットの試験極につなぐと共に、カソード極3側をポテンショスタットの参照極及び対極につないで、定電圧(0Vを中心に±20mV)の交流電圧を、周波数を10kHzから0.1Hzまで自動で変化させながら印加する。そして、各周波数ごとに得られる電流値の波形から、インピーダンス値Zを算出し、検出結果として比較手段208に出力する。
この検出結果は、図4に示すように、アノード極2とカソード極3との間が適切な湿潤状態にあり、一酸化炭素ガスの濃度検知を行える状態である正常湿潤状態にある場合には、インピーダンス値Zが周波数の増加に伴い比較的大きな値をとりつつ定常値に収束する(図4上、正常と記載)。一方、拡散制御孔6aが部分的に又は完全に閉塞して拡散性が低下している等により、上記異常状態にある場合には、インピーダンス値Zが周波数の増加に伴い定常値に収束するものの、上記正常湿潤状態のインピーダンス値Zよりも小さな値をとる(図4上、異常と記載)。なお、図4からも判るように、正常湿潤状態におけるインピーダンス値Zと異常状態におけるインピーダンス値Zとは、明確に区分できる。ここで、正常湿潤状態及び異常状態の夫々について複数(例えば6個)の電気化学式センサを用いて実験を行ったが、複数(例えば6個)の電気化学式センサの何れもが同様の傾向を示していることが確認できた。そして、図4では、複数(例えば6個)の電気化学式センサのうちの一部の実験結果を示している。
【0043】
検出手段207から出力された検出結果は、比較手段208により記憶部に予め記憶された正常湿潤状態における基準インピーダンス値と比較される。例えば、所定の周波数(例えば、2Hz)において、正常湿潤状態の基準インピーダンス値から、検出されたインピーダンス値Zがどれだけ低下しているかを示す数値情報が、比較手段208から診断手段209に出力される。
【0044】
比較手段208により出力された数値情報が、所定の閾値以上となっている場合には、診断手段209は、正常湿潤状態における基準インピーダンス値からインピーダンス値Zが所定値以上低下しているものとして、アノード極2とカソード極3との間に存在する水の量が正常湿潤状態における水の量よりも増加しているとみなす。この場合、一酸化炭素ガスの拡散性が低下していると判断し、異常状態であると診断する。一方で、比較手段208により出力された数値情報が、所定の閾値よりも小さい場合には、診断手段209は異常状態と診断しないようになっている。従って、インピーダンス値Zが、基準インピーダンス値から所定の閾値までの範囲にある場合には、診断手段209が異常状態と診断せず、電気化学式センサ100は、雰囲気中の一酸化炭素濃度をある程度正確に検知できる状態であり、一酸化炭素濃度の検知を適時に行う。
すなわち、電気化学式センサ100においては、通常、一酸化炭素ガスの濃度を検知する際の反応を確実に行うため電解質層1には水タンク20等から必要十分な量(所定量)の水が供給されている。このような状況で、アノード極2側に形成された拡散制御孔6aが部分的に又は完全に閉塞すると、一酸化炭素ガスの拡散性が低下する。同様に、当該電気化学式センサ100において、電解質層1とアノード極2との界面に水が過剰に滞留した状態となったり、また、上側導電疎水膜4中やその近傍に、過剰な水や電解質層1中の電解液が滞留或いは電解質が析出することで液詰まり状態となると、一酸化炭素ガスの拡散性が低下する。このように一酸化炭素ガスの拡散性が低下する状態になると、当該拡散制御孔6aからの水蒸気の蒸散が抑制されたり、上記(1)及び(2)の反応が阻害される等の理由により、アノード極2とカソード極3との間に存在する水の量が増加することがある。そして、このアノード極2とカソード極3との間に存在する水の量に依存して、電解質層1中での電気伝導度、或いは電解質層1とアノード極2との界面での電気伝導度が増加(抵抗が低下)し、インピーダンスZが低下することとなる。そこで、本実施形態に係る電気化学式センサ100の診断方法では、このように低下したインピーダンスZを検出し、これを、アノード極2とカソード極3との間が適切な湿潤状態にあり、一酸化炭素ガスの濃度検知を行える状態である正常湿潤状態に対応する基準インピーダンスと比較する。その結果、検出したインピーダンスZが基準インピーダンスから低下している場合(所定の閾値以上低下している場合など)に、アノード極2とカソード極3との間に存在する水の量が正常湿潤状態における水の量よりも増加しているとみなして、一酸化炭素ガスの拡散性が低下していると判断し、異常状態であると診断することができる。なお、アノード極2とカソード極3との間に存在する水としては、アノード極2と電解質層1との界面に存在する水や、電解質層1中に存在する水が想定される。
【0045】
従って、電気化学式センサ100のアノード極2とカソード極3との間のインピーダンス値Zを利用して、一酸化炭素ガスの拡散性が低下している異常状態を簡単且つ確実に診断することが可能となる。
【0046】
一方で、図示しないが、複数の電気化学式センサ100を50、60、70℃の恒温槽内にそれぞれ所定時間(例えば、2000時間)保管し、これら電気化学式センサ100を所定の時間ごとに(例えば、100〜200時間ごとに)複数回、恒温室外に取り出して、取り出すたび毎に室温(例えば、20℃程度)で恒温槽外に所定時間(例えば、24時間)保管した。そして、恒温槽外で20℃程度となった各電気化学式センサ100の感度(雰囲気中に300ppmの一酸化炭素ガスが存在する際の出力値)及び上記インピーダンス値Z(1000Hz時)を測定した。
このように、50〜70℃から室温(20℃程度)に急激に変化するような場合としては、例えば、屋内駐車場での換気制御用途として電気化学式センサ100を用いる際に、車の排気ガスに一瞬触れてすぐ室温に戻るような場合や、業務用(厨房等)での検知器用途として電気化学式センサ100を用いる際に、調理による蒸気に一瞬触れてすぐ室温に戻る(或いは、一定時間蒸気に触れてから室温に戻る)ような場合を想定することができる。すなわち、これら場合は、電気化学式センサ100の雰囲気中に急激な温度変化が起こり、結露水や水タンク20からの水(正常湿潤状態において水タンク20から電解質層1に供給される必要十分な水の量を越える量の水)等によって拡散制御孔6aが部分的に又は完全に閉塞したり、電解質層1とアノード極2との界面に水が過剰に滞留した状態、或いは、上側導電疎水膜4中や、上側導電疎水膜4と拡散制御板6との界面(上側導電疎水膜4の近傍)に、過剰な水や電解質層1中の電解液が滞留或いは電解質が析出する液詰まり状態となることで、一酸化炭素ガスの拡散性が低下し、上述の異常状態となる虞がある場合である。
【0047】
そして、上記測定の結果、上記恒温槽内での保管が約2000時間経過した後の複数の電気化学式センサ100のうちいくつかは、正常湿潤状態における出力値(雰囲気中に300ppmの一酸化炭素ガスが存在する際の出力電流)に対する出力値の比が、同様の濃度の一酸化炭素ガスが存在するにも拘らず、0.4以下に低下しており、さらに、インピーダンス値Zが、正常湿潤状態における基準インピーダンス値(例えば、20Ω)よりも低下し、5Ω以下となっていた。
従って、このように上記複数の電気化学式センサ100のうち、インピーダンス値Zが5Ω以下に低下したものについては、50〜70℃から室温(20℃程度)に急激に温度変化することで、一酸化炭素ガスの拡散性が低下し、上述の異常状態となっているものと考えられる。すなわち、電気化学式センサ100が急激に冷やされて、結露水により、拡散制御孔6aが部分的又は完全に閉塞された孔詰まり状態となったり、水タンク20内の水が電解質層1やアノード層2側に噴き出して、電解質層1とアノード極2との界面に水が過剰に滞留した状態、或いは、上側導電疎水膜4中や、上側導電疎水膜4と拡散制御板6との界面(上側導電疎水膜4の近傍)に、過剰な水や電解質層1中の電解液が滞留或いは電解質が析出する液詰まり状態となって、一酸化炭素ガスの拡散性が低下し、上述の異常状態となっているものと考えられる。
よって、電気化学式センサ100において一酸化炭素ガスの拡散性が低下している上記異常状態は、インピーダンス値Zの低下として検出することができるといえる。
【0048】
また、上記実施形態では、検出手段207が交流電圧を印加して、電気的特性としてインピーダンスZを検出したが、検出手段207が電気的特性として当該インピーダンスZの実数部を検出し、正常湿潤状態における基準インピーダンスの実数部と比較することにより、一酸化炭素ガスの拡散性が低下している異常状態を診断することもできる。
【0049】
具体的には、上記実施形態と同様の構成で、検出手段207により、同様の交流電圧をアノード極2とカソード極3との間に印加して、各周波数ごとに得られる電流値の波形から、インピーダンスZの実数部(抵抗成分)と、虚数部(容量成分)との関係を算出し、検出結果として比較手段208に出力する。
この検出結果は、図5に示すように、所定の周波数(図5では、周波数が2Hz)において、上記正常湿潤状態にある場合には、インピーダンスZの実数部が増加するにつれてインピーダンスZの虚数部は比較的緩やかに増加する傾向にある(図5上、正常と記載)。一方、拡散制御孔6aが部分的に又は完全に閉塞して拡散性が低下している等により、上記異常状態にある場合には、インピーダンスZの実数部が増加するにつれてインピーダンスZの虚数部は比較的急激に増加する傾向がある(図5上、異常と記載)。しかも、インピーダンスZの虚数部が所定値の場合(例えば、−50の場合)において、拡散性が低下している異常状態の時には、インピーダンスZの実数部の値は、正常湿潤状態での基準インピーダンスの実数部の値よりも低下している。なお、図5からも判るように、正常湿潤状態におけるインピーダンスZの実数部の値と異常状態におけるインピーダンスZの実数部の値とは、明確に区分できる。ここで、正常湿潤状態及び異常状態の夫々について複数(例えば6個)の電気化学式センサを用いて実験を行ったが、複数(例えば6個)の電気化学式センサの何れもが同様の傾向を示していることが確認できた。そして、図5では、複数(例えば6個)の電気化学式センサのうちの一部の実験結果を示している。
【0050】
検出手段207から出力された検出結果は、比較手段208により記憶部に予め記憶された正常湿潤状態における基準インピーダンスの実数部と比較される。具体的には、所定の周波数(例えば、2Hz)及び所定のインピーダンスZの虚数部の値(例えば、当該虚数部の値が、−50の場合)における、正常湿潤状態の基準インピーダンスの実数部から、検出されたインピーダンスZの実数部の値がどれだけ低下しているかを示す数値情報が、比較手段208から診断手段209に出力される。
【0051】
比較手段208により出力された数値情報が、所定の閾値以上となっている場合には、診断手段209は、正常湿潤状態における基準インピーダンスの実数部の値からインピーダンスZの実数部の値が所定値以上低下しているものとして、アノード極2とカソード極3との間に存在する水の量が正常湿潤状態における水の量よりも増加しているとみなす。この場合、一酸化炭素ガスの拡散性が低下していると判断し、異常状態であると診断する。一方で、比較手段208により出力された数値情報が、所定の閾値よりも小さい場合には、診断手段209は異常状態と診断しないようになっている。従って、インピーダンスZの実数部の値が、基準インピーダンスの実数部の値から所定の閾値までの範囲にある場合には、診断手段209が異常状態と診断せず、電気化学式センサ100は、雰囲気中の一酸化炭素濃度をある程度正確に検知できる状態であり、一酸化炭素濃度の検知を適時に行う。
【0052】
従って、上記実施形態と同様に、電気化学式センサ100のアノード極2とカソード極3との間のインピーダンスZの実数部の値を利用して、一酸化炭素ガスの拡散性が低下している異常状態を簡単且つ確実に診断することが可能となる。
【0053】
さらに、上記実施形態では、検出手段207が交流電圧を印加して、電気的特性としてインピーダンスZ、或いは当該インピーダンスZの実数部を検出したが、検出手段207が電気的特性として電圧と電流の位相差Φを検出し、正常湿潤状態における基準位相差と比較することにより、一酸化炭素ガスの拡散性が低下している異常状態を診断することもできる。
【0054】
具体的には、上記実施形態と同様の構成で、検出手段207により、同様の交流電圧をアノード極2とカソード極3との間に印加して、各周波数ごとに得られる電流値の波形から、電圧と電流の位相差Φを算出し、検出結果として比較手段208に出力する。
この検出結果は、図6に示すように、上記正常湿潤状態にある場合には、位相差Φが周波数の増加に伴い比較的小さな値をとりつつ定常値に収束する(図6上、正常と記載)。一方、拡散制御孔6aが部分的に又は完全に閉塞して拡散性が低下している等により、上記異常状態にある場合には、位相差Φが周波数の増加に伴い定常値に収束するものの、正常湿潤状態の位相差よりも大きな値をとる(図6上、異常と記載)。なお、図6からも判るように、正常湿潤状態における位相差Φと異常状態における位相差Φとは、明確に区分できる。ここで、正常湿潤状態及び異常状態の夫々について複数(例えば6個)の電気化学式センサを用いて実験を行ったが、複数(例えば6個)の電気化学式センサの何れもが同様の傾向を示していることが確認できた。そして、図6では、複数(例えば6個)の電気化学式センサのうちの一部の実験結果を示している。
【0055】
検出手段207から出力された検出結果は、比較手段208により記憶部に予め記憶された正常湿潤状態における基準位相差と比較される。例えば、所定の周波数(例えば、2Hz)において、正常湿潤状態の基準位相差から、検出された位相差Φの値がどれだけ増加(マイナスの値が増加)しているかを示す数値情報が、診断手段209に出力される。
【0056】
比較手段208により出力された数値情報が、所定の閾値以上となっている場合には、診断手段209は、正常湿潤状態における基準位相差の値から位相差Φの値が所定値以上増加しているものとして、アノード極2とカソード極3との間に存在する水の量が正常湿潤状態における水の量よりも増加しているとみなす。この場合、一酸化炭素ガスの拡散性が低下していると判断し、異常状態であると診断する。一方で、比較手段208により出力された数値情報が、所定の閾値よりも小さい場合には、診断手段209は異常状態と診断しないようになっている。従って、位相差Φの値が、基準位相差の値から所定の閾値までの範囲にある場合には、診断手段209が異常状態と診断せず、電気化学式センサ100は、雰囲気中の一酸化炭素濃度をある程度正確に検知できる状態であり、一酸化炭素濃度の検知を適時に行う。
【0057】
従って、上記実施形態と同様に、電気化学式センサ100のアノード極2とカソード極3との間の電圧と電流の位相差Φを利用して、一酸化炭素ガスの拡散性が低下している異常状態を簡単且つ確実に診断することが可能となる。
【0058】
このように、本発明の電気化学式センサ100の診断方法は、電気化学式センサ100における拡散性の低下に基づく、アノード極2とカソード極3との間に存在する水の量の変動現象を利用するものであるため、電気化学式センサ100に交流電圧を印加して、出力を周波数解析によりモニタするだけで、一酸化炭素ガスの拡散性が低下している異常状態であるか否かを判定することができる。これにより、一酸化炭素ガスの拡散性が低下している異常状態を簡単且つ確実に診断することが可能となる。
【0059】
特に、上記実施形態において、図6に示すように、交流電圧をアノード極2とカソード極3との間に印加した際に得られる電圧と電流の位相差Φを用いて異常状態を診断する際には、交流電圧として10Hz以下の低周波数の交流電圧を用いると、正常湿潤状態と拡散性が低下している異常状態とのそれぞれの場合で、アノード極2とカソード極3との間における電気的特性(位相差Φ)を、より大きな差として検出することができ、より簡単且つ確実に拡散性が低下している異常状態を診断でき好適である。
【0060】
〔別実施形態〕
(A)上記実施形態では、電気化学式センサ100を診断するにあたり、当該電気化学式センサ100が設置される対象は特定しなかったが、設置対象を検知対象ガスの濃度検知の高信頼性が要求されるガス警報器とすることができる。すなわち、検知対象ガスの濃度を正確に表すことができない状態にあることを簡単且つ確実に知ることができる本願の電気化学式センサ100の診断方法を有効に利用することにより、より高信頼性を担保した警報器を構成することができる。
【0061】
(B)上記実施形態では、正常湿潤状態が、検知極と対極との間が適切な湿潤状態にあり、検知対象ガスの濃度検知を行える状態であるとして説明したが、この正常湿潤状態が、さらに、拡散制御孔6aが完全に開口している状態で実現されることとしてもよい。この場合、正常湿潤状態が、検知極と対極との間が適切な湿潤状態にあり、検知対象ガスの濃度検知を行える状態であり、しかも、拡散制御孔6aが完全に開口している状態となる。これにより、検出された検知極と対極との間の電気的特性を、当該正常湿潤状態(拡散制御孔6aが完全に開口した状態)における検知極と対極との間の基準電気的特性と比較することができる。この構成を採用すると、少なくとも拡散制御孔6aが部分的又は完全に閉塞した孔詰まり状態となった場合には、検出された電気的特性が当該基準電気的特性から変動するため、検知極と対極との間に存在する水の量が正常湿潤状態における水の量よりも増加したものとみなして、検知対象ガスの拡散性が低下したことを確実に異常状態であるとして診断することができる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明は、拡散制御孔を有する拡散制御板を備えた電気化学式センサにおいて、拡散制御孔が部分的に又は完全に閉塞する等により、検知対象ガスの拡散性が低下している異常状態を簡単且つ確実に診断することが可能な電気化学式センサの診断方法として有効に利用可能である。
【符号の説明】
【0063】
1 電解質層
2 アノード極(検知極)
3 カソード極(対極)
6 拡散制御板(拡散制御手段)
6a 拡散制御孔
11 センサ手段
100 電気化学式センサ
205 コンピュータ
207 検出手段
208 比較手段
209 診断手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検知対象ガスが反応する検知極及び対極を電解質層の両側に接続したセンサ手段と、外気に含まれる前記検知対象ガスが前記検知極に拡散律速で接触するように前記外気の流入量を制御する拡散制御孔を形成した拡散制御手段とを備え、前記検知極と前記対極との間に流れる電流又は当該電流に対応する電圧に基づいて、前記検知対象ガスの濃度を検知する電気化学式センサの異常状態を診断する電気化学式センサの診断方法であって、
前記検知極と前記対極との間が適切な湿潤状態にあり、前記検知対象ガスの濃度検知を行える状態を正常湿潤状態として、
前記検知極と前記対極との間に発生する電気的特性を検出し、前記検出された電気的特性を、前記正常湿潤状態にある場合の前記検知極と前記対極との間における基準電気的特性と比較し、
前記検出された電気的特性が前記正常湿潤状態における基準電気的特性から変動している場合に、拡散性が低下していると判断して、異常状態であると診断する電気化学式センサの診断方法。
【請求項2】
前記検知極と前記対極との間に交流電圧を印加して、前記検知極と前記対極との間に発生する電気的特性としてのインピーダンス若しくはインピーダンスの実数部を検出し、
検出されたインピーダンス若しくはインピーダンスの実数部が、前記正常湿潤状態における基準電気的特性としての基準インピーダンス若しくは基準インピーダンスの実数部より低下した場合に、前記検知極と前記対極との間に存在する水の量が前記正常湿潤状態における水の量よりも増加しているとみなして、拡散性が低下していると判断し、異常状態であると診断する請求項1に記載の電気化学式センサの診断方法。
【請求項3】
前記検知極と前記対極との間に交流電圧を印加して、前記検知極と前記対極との間に発生する電気的特性としての電圧と電流の位相差を検出し、
検出された位相差が、前記正常湿潤状態における基準電気的特性としての基準位相差より増加した場合に、前記検知極と前記対極との間に存在する水の量が前記正常湿潤状態における水の量よりも増加しているとみなして、拡散性が低下していると判断し、異常状態であると診断する請求項1に記載の電気化学式センサの診断方法。
【請求項4】
前記交流電圧が、10Hz以下の周波数の交流電圧である請求項3に記載の電気化学式センサの診断方法。
【請求項5】
前記正常湿潤状態が、前記拡散制御孔が完全に開口している状態で実現される請求項1から4の何れか一項に記載の電気化学式センサの診断方法。
【請求項6】
検知対象ガスが反応する検知極及び対極を電解質層の両側に接続したセンサ手段と、
外気に含まれる前記検知対象ガスが前記検知極に拡散律速で接触するように前記外気の流入量を制御する拡散制御孔を形成した拡散制御手段とを備え、前記検知極と前記対極との間に流れる電流又は当該電流に対応する電圧に基づいて、前記検知対象ガスの濃度を検知する電気化学式センサであって、
前記検知極と前記対極との間に発生する電気的特性を検出する検出手段と、
前記検知極と前記対極との間が適切な湿潤状態にあり、前記検知対象ガスの濃度検知を行える状態を正常湿潤状態として、前記検出された電気的特性を、前記正常湿潤状態にある場合の前記検知極と前記対極との間における基準電気的特性と比較する比較手段と、
前記検出された電気的特性が前記正常湿潤状態における基準電気的特性から変動している場合に、拡散性が低下していると判断して、異常状態であると診断する診断手段とを備えた電気化学式センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−158468(P2011−158468A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−290573(P2010−290573)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(000000284)大阪瓦斯株式会社 (2,453)
【出願人】(000112439)フィガロ技研株式会社 (58)
【Fターム(参考)】