説明

電気化学電池のための、非イオノマーフルオロポリマーとブレンドされたフッ素化イオノマーの膜

フッ素化イオノマーと少なくとも2つの非イオノマーフルオロポリマーとのブレンドが、引張強さおよび導電率が単一のフルオロポリマーを用いるブレンドよりもすぐれている燃料電池膜を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、燃料電池用途のためのイオン交換膜の分野である。
【背景技術】
【0002】
フッ素化イオノマーは、燃料電池およびクロルアルカリ電池などの電気化学電池において、ならびに流体乾燥および増湿において広範囲に用いられている。物理的な形態において、それらは、フィルムまたは管材料であってもよい。この形態は、溶融押出によるかもしくはイオノマーまたはそれらの前駆物質の溶液の押出または注型(casting)によって製造される。溶融押出の場合、イオノマー自体が溶融加工するのが難しいので、イオノマーの溶融加工可能な前駆物質が用いられる。溶液加工のために、イオノマー前駆物質の溶液は、フルオロカーボン溶剤中で製造されてもよく、またはイオノマー自体が、例えば、グロット(Grot)に対する(特許文献1)に開示された方法によって、溶液中に置かれてもよい。
【0003】
溶融押出は、フィルムがどのくらい薄く製造されるかに制限される。この1つの理由は、大部分のイオノマー前駆物質ポリマーのガラス転移温度(Tg)が室温付近かまたはそれ以下であることである。厚さ1〜2ミル(25〜50μm)未満のフィルムは、サラン(Saran)のような粘着(clinging)性質を有し、フィルムを巻取る際に間に紙をはさみ込む必要がある。薄いフィルムは、汚染物を引きつけ、伸長し、すなわち、寸法安定性がない。
【0004】
薄い押出フィルムのさらに別の欠点は、それらの加水分解が難しいということである。加水分解は、イオノマー前駆物質ポリマーをイオノマーの形態に変換するために必要である。これは概して、苛性アルカリ、水、およびしばしば溶剤、ならびに加熱を必要とする。ポリマーが加水分解される時に膨張し、薄いフィルムは、溶解または裂ける恐れなしにこの条件において扱うことが難しい。
【0005】
これらの問題のために、イオノマーフィルムは概して、厚さ1ミル(25μm)未満に押出されない。商業規模での1ミルのフィルムの連続加水分解は経済的ではなく、このようなフィルムは典型的に、加水分解する前に他のフィルムまたは基板に積層される。押出フィルムは付加的な加工をせずに加水分解される場合、それらは、厚さ少なくとも2ミル(50μm)、より一般的には厚さ3ミル(75μm)でなければならない。
【0006】
(特許文献2)には、フルオロポリマーとフッ素化イオノマーとの二成分ブレンドは、フルオロポリマーの存在によって増大した強度を有するフッ素化イオノマー膜に製造され得る組成物を生じることが開示されている。これらのブレンドは、ブラインを電気分解して苛性アルカリおよび塩素を製造すること、すなわちクロルアルカリ用途において用いられる。膜による塩素イオンの除去は、この混合によって改良されるが、膜オーム抵抗が電解槽の電圧の増加によって示されるように増加する。(特許文献3)には、燃料電池膜の物理的性質を改良するための、フルオロポリマーとフッ素化イオノマーとのブレンドが開示されている。フッ素化イオノマーとTHV(テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン/フッ化ビニリデン)コポリマーとのブレンドが、(特許文献4)に開示されている。
【0007】
先進燃料電池技術がそれらに求める増大する要求を満たすためにフッ素化イオノマー膜の導電率および引張強さのさらなる改良が必要とされる。
【特許文献1】米国特許第4,433,082号明細書
【特許文献2】欧州特許第345964号明細書
【特許文献3】米国特許第6,495,209号明細書
【特許文献4】米国特許第6,277,512号明細書
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、(a)酸または塩かまたはその前駆物質の形態のフッ素化イオノマーを約70〜約95重量%と、(b)イオン交換基を実質的に含有せず、融点において少なくとも約5℃互いに異なる2つの溶融加工可能なフルオロポリマーを約30〜約5重量%とを含んでなる膜を提供する。
【0009】
本発明はまた、(a)酸または塩かまたはその前駆物質の形態のフッ素化イオノマーを約70〜約95重量%と(b)イオン交換基を実質的に含有せず、融点において少なくとも約5℃互いに異なる2つの溶融加工可能なフルオロポリマーを約30〜約5重量%とを含んでなる電気化学電池を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
この発明によって用いられるフッ素化イオノマーは、以下において酸基と称される酸(プロトン)または塩の形態のカチオン交換基を有するイオン交換ポリマーである。このような酸基には、スルホン酸基、カルボン酸基、ホスホン酸基、およびボロン酸基などがある。好ましくは、イオノマーは、スルホン酸および/またはカルボン酸基を有する。燃料電池については、イオノマーは好ましくは、スルホン酸基を有する。
【0011】
さらに、フッ素化イオノマーは、少なくともそれらのイオノマー前駆物質の形態において溶融加工可能である。それらは、酸基を有するフッ素化、好ましくは高フッ素化イオン交換ポリマーである。「フッ素化」は、ポリマー中の一価原子の総数の少なくとも約10%がフッ素原子であることを意味する。「高フッ素化」は、ポリマー中の一価原子の総数の少なくとも約90%がフッ素原子であることを意味する。最も好ましくは、ポリマーは全フッ素化(perfluorinated)される。
【0012】
溶融加工可能は、ポリマーを押出機および射出成形機などの通常のプラスチック処理装置で加工できることを意味する。このような溶融加工可能なポリマーは、ASTMD−1238によって測定したとき約1〜100g/10分、好ましくは約1〜50、より好ましくは約2〜30の範囲の溶融流量(melt flow rates)(MFR)を有する。
【0013】
好ましくは、フッ素化イオノマーは、主鎖に結合した反復側鎖、酸基を有する側鎖を有するポリマー主鎖を含んでなる。可能なフッ素化イオノマーには、グラフトすることによって酸基で官能化されるホモポリマーおよびコポリマーがある。ポリマー主鎖に導入される炭素原子を提供する、非官能性モノマーである少なくとも1つのモノマーから形成されたコポリマーが好ましい。第2のモノマーは、ポリマー主鎖のための炭素原子を提供すると共に酸基またはその前駆物質、例えば、後に加水分解されてスルホン酸基に変換され得る、スルホニルフルオリド(−SOF)などのスルホニルハライド基を有する側鎖に寄与する。例えば、第1のフッ素化ビニルモノマーとスルホニルフルオリド基(−SOF)を有する第2のフッ素化ビニルモノマーとのコポリマーを使用することができる。可能な第1のモノマーには、テトラフルオロエチレン(TFE)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、フッ化ビニル(VF)、ビニリジンフルオリド(VF)、トリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)、ヘキサフルオロイソブチレン((CH=C(CF)、エチレン、およびそれらの混合物などがある。TFEが好ましい。可能な第2のモノマーには、スルホン酸基またはポリマーに所望の側鎖を提供することができる前駆物質基を有するフッ素化ビニルエーテルがある。必要ならば付加的なモノマーもまた、これらのポリマーに導入することができる。
【0014】
他のスルホン酸フッ素化イオノマーが公知であり、燃料電池用途のために提案されている。芳香環にスルホン酸基を有するトリフルオロスチレンのポリマーが実施例である(米国特許第5,773,480号明細書)。トリフルオロスチレンモノマーをベースポリマーにグラフトしてイオン交換ポリマーを作製することができる(米国特許第6,359,019号明細書)。
【0015】
本発明に使用するための好ましいフッ素化イオノマーのクラスは、高フッ素化、最も好ましくは全フッ素化された炭素主鎖と、式−(O−CFCFR−O−CFCFR’SOXによって表される側鎖とを含有し、式中、RおよびR’が独立して、F、Clまたは1〜10個の炭素原子を有する全フッ素化アルキル基から選択され、a=0、1または2、およびX=H、金属カチオン、好ましくはアルカリ金属カチオン、もしくはアンモニアまたはアミンから誘導されたアンモニウムイオンである。好ましいポリマーには、例えば、米国特許第3,282,875号明細書および米国特許第4,358,545号明細書および米国特許第4,940,525号明細書に記載されたポリマーがある。1つの好ましいイオノマーは、ペルフルオロカーボン主鎖を含んでなり、側鎖は、式−O−CFCF(CF)−O−CFCFSOHによって表される。このタイプのイオノマーは、米国特許第3,282,875号明細書に記載されており、テトラフルオロエチレン(TFE)と全フッ素化ビニルエーテルCF=CF−O−CFCF(CF)−O−CFCFSOF、ペルフルオロ(3,6−ジオキサ−4−メチル−7−オクテンスルホニルフルオリド)(PDMOF)の共重合によって製造され得る。ポリマーが溶融製造される場合、これは、加水分解された形態よりも溶融加工可能である、スルホニルフルオリドの形態のポリマーで行なわれる。最終的な物理的な形態においては、ポリマーのスルホニルフルオリド基はスルホネート基に加水分解され、必要ならばイオン交換して所望の形態に変換する。米国特許第4,358,545号明細書および米国特許第4,940,525号明細書に開示されたタイプの別の好ましいフッ素化イオノマーは、側鎖−O−CFCFSOHを有する。このイオノマーは、テトラフルオロエチレン(TFE)と全フッ素化ビニルエーテルCF=CF−O−CFCFSOF、ペルフルオロ(3−オキサ−4−ペンテンスルホニルフルオリド)(POPF)を共重合し、その後、必要な溶融加工の後に加水分解およびイオン交換することによって製造され得る。スルホニルフルオリドは通常、アルカリ性溶液中で加水分解され、カリウムスルホネートなどのスルホン酸塩が得られるので、イオン交換が必要とされる。プロトン交換膜燃料電池は酸基を有する膜を使用するので、膜が燃料電池中で用いられる場合、スルホネートは酸でイオン交換され、それをスルホン酸に変換する。
【0016】
本発明による膜は好ましくは、厚さ約0.2〜約200μm、より好ましくは厚さ約0.5〜約150μm、最も好ましくは厚さ約1〜約100μmである。
【0017】
膜において用いられるフッ素化イオノマーは通常、塩基の1当量を中和するグラム単位の水素イオンまたは酸の形態のポリマーの重量である、それらの当量重量によって特性決定される。好ましくは、本発明の実施において使用されるフッ素化イオノマーは、異なった当量重量の2つのフッ素化イオノマーを含んでなる。
【0018】
上述のTFE/PDMOFコポリマーについては、当量重量は700〜1500、好ましくは約800〜1350、より好ましくは約850〜1200、最も好ましくは約900〜1100の範囲である。当量重量はビニルエーテルの分子量によって影響されるので、分子量とは独立にイオノマーイオン交換能力を特性決定するための別の方法が開発された。これは、イオン交換比(IXR)である。IXRは、ポリマー主鎖中の炭素原子の数をイオン交換基の数で割った値である。上述のTFE/PDMOFコポリマーについては、IXRは、式:(EW=50×IXR+344)によって当量重量(EW)に関連づけられる。上に与えられたEW範囲に相応するIXRは、約8〜24、好ましくは約10〜21、より好ましくは約12〜18である。IXRは、どのようにイオン交換基がポリマー主鎖に結合するかに関係なく適用される。上述のTFE/POPFコポリマーについては、IXRは、式:(EW=50×IXR+308)によって当量重量(EW)に関連づけられる。
【0019】
フッ素化イオノマーが酸基の1つより多いタイプを含有してもよいが、酸基の単一タイプが好ましい。膜は、実施例において開示された本発明の好ましい形態におけるようなイオノマーのブレンドによって、または異なったイオノマーの積層または同時押出などによって、多層構造によるなど、2つ以上のイオノマーから構成されてもよい。スルホン酸フッ素化イオノマー膜は、これらの膜のプロトンの輸送容易性の故に、すなわちスルホン酸フッ素化イオノマー膜が高いプロトン導電率を有するので、燃料電池において好ましい膜であった。
【0020】
「イオン交換基を実質的に含有しないフルオロポリマー」は、グラフトによるか、または適切なモノマーに導入するかのどちらかによる意図的なイオン交換可能な官能基の付加をせずに製造されたフルオロポリマーを意味する。重合開始剤によって、または加水分解してカルボキシレート基を製造する酸フルオリド末端基などの「不安定な末端基」の存在によって少数のイオン交換基が導入されることがあり得る。不安定な末端基は、米国特許第4,743,658号明細書に記載されているような、フルオロ重合の特徴である。このような偶発基(incidental groups)は、特定のイオン交換能力を有する場合があり、通常、ポリマー中100万の炭素原子当たり約1000以下、通常、約500未満の濃度において存在する。膜の耐久性を改良することが望ましい場合、後フッ素化(post−fluorinated)されて不安定な末端基を減少させる、すなわち、重合した後にフッ素化されるフルオロポリマーを使用することができる。フッ素化ポリマーは典型的に、非常に低いレベルの不安定な末端基、例えば、ポリマー中100万の炭素原子当たり6個未満を有する。便宜上、イオン交換基を実質的に含有しないフルオロポリマーはときどき、本明細書中で「非イオノマーフルオロポリマー」と称されることがある。
【0021】
イオン交換基を実質的に含有しないフルオロポリマーは好ましくは、ポリマー中の一価原子の総数の少なくとも約10%をフッ素原子として有する。より好ましくは、それらは、「高フッ素化」されており、ポリマー中の一価原子の総数の少なくとも約90%をフッ素原子として有する。フルオロポリマーは好ましくは全フッ素化されている。
【0022】
フッ素化イオノマーとブレンドするために有用なフルオロポリマーには、テトラフルオロエチレン(TFE)とヘキサフルオロプロピレン(HFP)、フルオロ(アルキルビニルエーテル)(FVE)(アルキル基が1〜10個の炭素原子を有することができ、又、エーテル酸素を含有してもよく、部分的または完全フッ素化、好ましくは全フッ素化されてもよく、この場合、FVEはPAVE(ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル))と呼ばれ、線状、分枝状、または環状であってもよい)、ペルフルオロアルキルエチレン(R−CH=CH)、およびエチレン(E)およびプロピレンなどの炭化水素オレフィンの1つもしくはそれ以上との溶融加工可能なコポリマーがある。同様に有用であるのは、フッ化ビニリデン(PVDF)のホモポリマー、およびフッ化ビニリデン(VF)とHFP、TFE、ヘキサフルオロイソブチレン(HFIB)とのコポリマー、およびフッ化ビニル(VF)のポリマーである。用語「コポリマー」はこの出願において、2つ以上のモノマーを重合することによって製造されたポリマーについて説明するために用いられる。
【0023】
好ましいコポリマーは、TFE/HFP(FEP)、TFE/PAVE(PFA)、およびTFE/HFP/PAVEである。PAVE中の好ましいアルキル基は全フッ素化され、プロピル、エチル、およびメチルであり、プロピルおよびエチルがより好ましい。異なったアルキル基を有する多数のPAVEが、コポリマーにおいて用いられてもよい。好ましいコポリマーは全フッ素化される。
【0024】
非イオノマーフルオロポリマーは、結晶性または非晶質であってもよい。非晶質とは、重合したままの樹脂について示差走査熱量測定(DSC)走査において検出された全ての吸熱から計算された融解熱が約3J/g以下、好ましくは約1J/g以下であることを意味する。このような吸熱は、もし実際に存在するならば、拡散し、検出が難しく、これらのレベルにおいて融解熱の計算値は、大きな相対誤差を伴いやすい。概して、第1の加熱に対して弱い吸熱が検出される場合でも第2のDSC加熱において吸熱はみられない。好ましくは、非イオノマーフルオロポリマーは結晶性である。
【0025】
2つの非イオノマーフルオロポリマーの融点は、少なくとも約5℃、好ましくは少なくとも約10℃、より好ましくは少なくとも約15℃、より好ましくはさらに、少なくとも約20℃、さらにより好ましくは少なくとも約25℃および最も好ましくは少なくとも約30℃異なる。
【0026】
第1の非イオノマーフルオロポリマーの融点は好ましくは、フッ素化イオノマーの融点の約10℃以内、より好ましくは約5℃以内である。第2の非イオノマーフルオロポリマーの融点は好ましくは、フッ素化イオノマーの融点よりも約15℃高く、より好ましくは約20℃高く、さらにより好ましくは約25℃高く、最も好ましくは少なくとも約30℃高い。
【0027】
非イオノマーフルオロポリマーは、上述の融点の要求条件を満たす場合、同じモノマーから製造されてもよい。しかしながら、フルオロポリマーが、異なったモノマー組成であるのが好ましい。例えば、1つの非イオノマーフルオロポリマーがFEPであり、他方がPFAであってもよい。PFAはTFEとPPVE、PEVE、およびPMVEとのコポリマーの一般名であるが(ときどき、TFE/PMVEコポリマーは「PMA」として記載され、これらは、PMVEの他に、若干のPPVEを含有してもよい)、異なったペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)で製造されたPFAポリマーは、この発明の目的のための異なったモノマー組成のフルオロポリマーとして考えられる。
【0028】
フッ素化イオノマーとフルオロポリマーの各々の溶融流量(MFR)(ASTMD1238に準拠)は、互いの約40MFR単位以内、好ましくは約30MFR単位以内、より好ましくは約20MFR単位以内であるのがよい。MFR単位はg/10分である。2つ以上のフッ素化イオノマーがブレンドにおいて用いられ、それらが異なったMFRを有する場合、ブレンドした後のフッ素化イオノマーのMFRがフルオロポリマーのMFRとの比較のための基準である。
【0029】
この発明の膜は、約70〜95重量%のフッ素化イオノマー、好ましくは約80〜90重量%、より好ましくは約82〜88重量%を含有し、残りが2つの非イオノマーフルオロポリマーである。
【0030】
第1の非イオノマーフルオロポリマー対第2の非イオノマーフルオロポリマーの比が約9:1〜1:9、好ましくは約4:1〜1:4、より好ましくは約3:1〜1:3、最も好ましくは約2:1〜1:2である。
【0031】
フッ素化イオノマーとフルオロポリマーとの溶融混合は、当業者に公知の装置、例えばロールミル、ニーダ、および押出機、好ましくはニーダおよび押出機、より好ましくは押出機、最も好ましくは二軸押出機で行なわれてもよい。2つの非イオノマーフルオロポリマーが先ず二軸押出機などの高剪断混合装置内で、好ましくは高温および短い接触時間で一緒にブレンドされるのが好ましい。これは、イオノマーの存在しない時に、従ってその完全性が膜導電率、従って燃料電池の性能に不可欠なイオノマーの熱分解または剪断分解の恐れなしに非イオノマーポリマーの完全な混合を可能にする。非イオノマーフルオロポリマーに対する大きくない(modest)熱および剪断の効果は、ポリマーのこれらの性質が膜導電率に有意に影響を及ぼさないので、許容範囲内である。
【0032】
次に、十分に混合されたブレンドをペレット化し、このペレットを好ましくは同様にペレット化されるイオノマーと共に一軸低剪断押出機に供給し、フィルムを製造するために適したダイに押出すことができる。あるいは、二軸押出機は、適切なダイを取付けた一軸押出機に結合される場合、ペレット化工程は除かれてもよい。押出膜は、最小で厚さ約0.2μm、好ましくは厚さ約0.5μm、より好ましくは厚さ約1μm、さらにより好ましくは厚さ約10μm、最も好ましくは厚さ約25μmである。押出膜は、最大で厚さ約200μm、好ましくは厚さ約150μm、より好ましくは厚さ約100μm、最も好ましくは厚さ約50μmである。
【0033】
押出した後、スルホニルフルオリドの形態のペルフルオロスルホン酸膜の加水分解を使用するために公知である手順を用いて、膜を加水分解および酸交換することができる。例えば、
1.45分間、80℃において組成物:16重量%のKOHおよび20重量%のジメチルスルホキシド(DMSO)を有する溶液中で膜を処理する。
2.室温において水洗して過剰なKOHを除き、DMSOを洗い出す。
3.室温において30分間、20%のHNO水溶液中で加水分解膜を処理する。
4.膜を脱イオン水で洗浄して過剰なHNOを除く。
【0034】
この発明の膜は、イオン交換膜が通常に用いられる場合に有用である。本発明によって、膜は、電解槽、燃料電池および蓄電単電池、すなわちバッテリなどの電気化学電池において使用される。電解槽の重要な実施例は、クロルアルカリ電池であり、ブラインの電気分解による苛性アルカリおよび塩素の製造に用いられる。良好な機械的性質を有する薄い高導電性膜が望ましい、水素および炭化水素燃料、特にメタノールベースの燃料電池の重要性が増しているので、この発明の膜は、燃料電池用途のために特に有用である。
実施例
ポリマー
FEP−コポリマーTFE/HFP/PEVEおよそ87/12/1重量%および溶融流量22が、米国特許第5,703,185号明細書、実施例1の一般方法によって製造される。FEPは、重合した後にフッ素化され、不安定な末端基を低減する。その融点は約265℃である。
【0035】
PFA−TFEおよびPAVE(PEVE)が、米国特許第3,635,926号明細書の一般方法によって水中で共重合される。FEPは、重合した後にフッ素化され、不安定な末端基を100万の炭素原子当たり約6個未満の不安定な末端基に低減する。PAVE含有量は約7重量%であり、融点は約295℃であり、溶融流量は約16である。
【0036】
フルオロイオノマー−N−1000およびN−920は、TFEとPDMOFとのコポリマーである。それらは、米国特許第5,281,680号明細書に開示された一般方法によって製造される。当量重量は、それぞれ1000および920である。スルホニルフルオリドの形態のポリマーの溶融流量は、それぞれ20−24g/10分である。
試験方法
溶融流量は、ASTMD1238の方法に準拠して確認される。
【0037】
引張強さは、ASTMD−882の方法に準拠して確認される。
【0038】
膜厚さは、2.5psi(17kPa)の圧力下で直径1/2インチ(13mm)の足部を有するエームズ(Ames)タイプゲージを用いて0.1ミル(2.5μm)に最も近い厚さまで測定される。状態調節せずに押出フィルム(加水分解されない)を測定することができる。加水分解された酸または塩の形態の膜が湿潤状態で測定される。
【0039】
燃料電池−使用される燃料電池は、フュエル・セル・テクノロジーズ(Fuel Cell Technologies)(ニューメキシコ州、アルバカーキ(Albuquerque,NM))によって製造される。その面積は、25cmセルであり、ポッコ(Pocco)黒鉛流れ場を有する。電池を組み立てて、次いで10時間、80℃および25psig(170kPa)の背圧において、100%の相対湿度の水素および空気が、アノードおよびカソードにそれぞれ、供給されて状態調節される。ガス流量は化学量論の2倍であり、すなわち、水素および酸素は、電池運転条件においての理論消費の率の2倍において電池に供給される。状態調節プロセスの間、電池は、10分間の200mVの設定電位と0.5分間の開回路電圧との間で3時間、サイクル経過される。次いで、電池は、1時間、400mA/cmに維持される。次に、1200mA/cmの電流密度から始まり、次いで200mA/cmの減少で100mA/cmまで低下する2つの分極曲線をとり、各段階においての定常電圧を記録する。状態調節した後、電池を65℃および大気圧において100%の相対湿度の水素および酸素で試験した。水素を1.25の化学量論量に等しい流量でアノードに供給する。濾過された圧縮空気を、1.67倍の化学量論量において酸素を供給する流量でカソードに供給する。1000mA/cmの電流密度から始まり、次いで200mA/cmの減少で100mA/cmまで低下する2つの分極曲線をとり、各段階においての定常電圧を記録する。以下の表に記載された800mA/cmにおいての電圧は、分極曲線から読み取られた値の平均である。
【0040】
平面通過導電率(Through−plane Conductivity)の測定−膜を2つの平面電極の間に置き、およびそのACインピーダンスを確認する。膜の直径1/4インチ(6mm)のディスクを打ち抜き、2つの電極の間に挟んだ。電極は、東レ(Toray)カーボン紙に57:43ナフィオン(Nafion)(登録商標):カーボンブラック混合物約2.4mg/cmをコーティングすることによって作製される。あるいは、エテック(Etek)(米国、ニュージャージー州、サマセット、デノラノースアメリカ(DeNora North America,Somerset NJ,USA))から市販されているガス拡散電極を使用することができる。次に、積層体を、水を加えて電池取付具内に組み立てる。電池電極は直径1/2インチ(13mm)であり、金めっきされた磨き面を有する直径1/4インチ(6mm)のステンレスロッド(stainless rods)に取付けられる。これらは、トルクレンチによって締められて約8.3MPa(1200psi)の比較的高圧をもたらす万力で組み立てられる。この高圧が上記コーテッドペーパーを膜と完全に接触させる。当該方法は、インピーダンス分光法を利用して膜インピーダンスの抵抗成分(実部)および容量成分(虚部)を測定する。膜は、試験する前に1時間、脱イオン水中で煮沸される。虚部対実部のインピーダンスのプロット(インピーダンスプロットまたはナイキスト(Nyquist)プロット)が用いられる。プロットの線部分がゼロのキャパシタンスに補外され、そこにおいてオーム抵抗を測定する。この値と膜厚さ(湿潤状態で測定される)から、S/cm単位での導電率が得られる。インピーダンスの実部は典型的に、100kHzに測定される。膜の面積抵抗は、取付具不良値(fixture short value)を引くことによって確認される。
【実施例1】
【0041】
この実施例は、フッ素化イオノマーとFEPおよびPFAとのブレンドの性能ならびにFEP対PFAの比を示し、そこにおいてフッ素化イオノマーがブレンドの90重量%を占める。N−1000およびN−920の各々45部が、10部のFEPまたは10部のPFA、もしくはFEPおよびPFAの各々5部と溶融−ブレンドされる。後者の場合、FEPおよびPFAを先ず溶融−ブレンドして目視的に均質な1:1重量:重量ブレンドを製造し、それをペレット化する。膜は厚さ0.8ミル(20μm)である。表1は、結果を記載する。FEPは導電率および引張強さに対する有利な効果を有し、PFAは、電圧に対する有利な効果を有する。FEPとPFAとのブレンドは、十分な導電率、ならびに許容範囲の電圧および十分な引張強さを有する。
【0042】
【表1】

【実施例2】
【0043】
この実施例は実施例1に似ているが、ただし、41.3部のN1000および38.7部のN920を20部のFEP、PFA、またはそれらのブレンドとブレンドする。表2は、結果を記載する。
【0044】
【表2】

【0045】
実施例は、フッ素化イオノマーと単一のフルオロポリマーとのブレンドよりもフッ素化イオノマーと、イオン交換基を実質的に含有せず融点において少なくとも約5℃互いに異なる少なくとも2つのフルオロポリマーとのブレンドの優れていることを示す。組合せられたフルオロポリマーの驚くべき相乗効果は、物理的性質と電気化学性能との望ましいバランスを有する膜を提供する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)酸または塩かまたはその前駆物質の形態のフッ素化イオノマーを約70〜約95重量%と、(b)イオン交換基を実質的に含有せず、融点において少なくとも約5℃互いに異なる2つの溶融加工可能なフルオロポリマーを約30〜約5重量%とを含んでなる膜。
【請求項2】
前記フッ素化イオノマーが、全組成の約80〜90重量%として含まれてなる請求項1に記載の膜。
【請求項3】
前記フッ素化イオノマーが、異なった当量重量の2つのフッ素化イオノマーを含んでなる請求項1に記載の膜。
【請求項4】
前記フッ素化イオノマーが全フッ素化イオノマーである請求項1に記載の膜。
【請求項5】
イオン交換基を実質的に含有しない前記2つのフルオロポリマーの少なくとも1つがペルフルオロポリマーである請求項1に記載の膜。
【請求項6】
イオン交換基を実質的に含有しない前記2つの異なったフルオロポリマーの少なくとも1つが、テトラフルオロエチレンとヘキサフルオロプロピレンとのコポリマーおよびテトラフルオロエチレンとフルオロビニルエーテルとのコポリマーよりなる群から選択される請求項1に記載の膜。
【請求項7】
イオン交換基を実質的に含有しない前記2つの異なったフルオロポリマーの第1のフルオロポリマーが、前記フッ素化イオノマーの融点の約10℃以内の融点を有し、イオン交換基を実質的に含有しない前記2つの異なったフルオロポリマーの第2のフルオロポリマーが、前記フッ素化イオノマーの融点よりも約15℃高い融点を有する請求項1に記載の膜。
【請求項8】
前記第1のフルオロポリマーが、前記第2のフルオロポリマーの量以上の量において存在する請求項7に記載の膜。
【請求項9】
約0.2〜約200マイクロメーターの厚さを有する請求項1に記載の膜。
【請求項10】
前記イオノマーがスルホン酸基を有する請求項1に記載の膜。
【請求項11】
(a)酸または塩かまたはその前駆物質の形態のフッ素化イオノマーを約70〜約95重量%と、(b)イオン交換基を実質的に含有せず、融点において少なくとも約5℃互いに異なる2つの溶融加工可能なフルオロポリマーを約30〜約5重量%とを含んでなる膜を含んでなる電気化学電池。
【請求項12】
燃料電池である、請求項11に記載の電気化学電池。

【公表番号】特表2007−503098(P2007−503098A)
【公表日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−524005(P2006−524005)
【出願日】平成16年8月18日(2004.8.18)
【国際出願番号】PCT/US2004/026799
【国際公開番号】WO2005/020363
【国際公開日】平成17年3月3日(2005.3.3)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】