説明

電気機器の取付構造、電気機器の取付枠体、および電気機器の取付方法

【課題】電気機器をパネルに取り付けるための電気機器の取付構造にて、簡易に安定した取付を実現する。
【解決手段】パネル50に開孔された取付孔51に本体61が差し込まれた電気機器60を、本体61に挿入され本体61と係合する略四角枠状の取付枠10を用いてパネル50に取り付ける電気機器60の取付構造であって、この取付枠10は、略四角枠状の互いに対向する2辺に設けられパネル50に当接する当接枠部11と、略四角枠状の互いに対向する他の2辺の内面にそれぞれ設けられ、電気機器60の本体61の外面に形成される係合凹部62と係合する係合爪20と、この係合爪20を係合凹部62と係合させて当接枠部10をパネル50側へ付勢する付勢手段とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気機器をパネルに取り付けるための電気機器の取付構造等に係り、特に、取付枠の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばタイマーやカウンタ、アワーメータなどの各種制御機器をパネルに取り付ける電気機器の取付構造については、従来から各種提案がなされている。従来の技術として、四角枠状に形成された取付枠の対向する辺の内面に係合爪を設け、外面にレバーを突設し、弾性力を有する片持ち梁状のアームをこのレバーに一体的に形成したものが存在する(例えば、特許文献1参照。)。そして、ここでは、アームの先端がパネルの内面に当接するまで取付枠を嵌め込み、係合爪を電気機器の係合凹部(ラチェット)に係合させる。その後、ネジを締めてネジの先端をパネルの内面に押圧させ、係合爪と係合凹部(ラチェット)とを圧接させ係合状態をロックしてガタツキの発生を防止している。この特許文献1では、更に、係合爪を有する辺に対し、他の対向する辺の内面にスペーサ突部を設け、スペーサ突部を外方へ膨らませるように変形させることで、係合爪を設けた辺に内方へ変位する力を作用させる技術が開示されている。
【0003】
また、電気機器の側面の被係止部(係合凹部)に係止させるための係止片(係合爪)を係止部材(取付枠)に設ける点は同様であるが、取付部材(U字型の線ばね)を係止部材(取付枠)に取り付け、取付部材(U字型の線ばね)の先端部をパネルに圧接させて、パネルと係止部材(取付枠)との間に弾性圧縮状態を形成する技術が存在する(例えば、特許文献2参照。)。
【0004】
【特許文献1】特開平6−13769号公報
【特許文献2】特開2001−15953号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、例えば上記特許文献1に記載された関連技術では、係合爪と係合凹部(ラチェット)との噛合いを得るために、取付枠の側面に設けた片持ち梁状のアームの撓みによる復元力を利用している。すなわち、パネル取付時にアームの自由端側をパネルに押し付けて変形させ、その復元力を利用して係合爪と係合凹部(ラチェット)とを噛み合わせている。そして、ネジを締め込み、ネジ先端でパネルを押し込むことで噛合い力を増加させている。しかしながら、取付枠の側面に設けられたアームの復元力は小さいことから、補強用のネジをバランス良く均等に締めないとガタツキが生じ、ねじを締め込み過ぎると締め込み作業中に外れてしまうという不具合があった。更に、上記特許文献1に記載された関連技術では、アームの復元力が非常に小さいことに加えて、取付枠に加わる力は傾斜した力である。そのため、ねじ締めによる補強が必要となり、ユーザがネジ締めを省略して所定の保持力を得る簡易取り付けを望んでも、構造上からその実現は困難であった。
【0006】
更に、例えば特許文献2に記載された関連技術では、係止部材(取付枠)側にてパネルに当接する箇所は、取付部材(U字型の線ばね)の先端部だけである。そのため、係止部材(取付枠)側とパネルとの当接箇所が限られ、安定した係止を実現することができなかった。
【0007】
本発明は、電気機器をパネルに取り付けるための電気機器の取付構造にて、簡易に安定した取付を実現することを主たる目的とする。
また他の目的は、ネジ締めによる補強を省略しても、より充分な保持力を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる目的を達成するために、本発明は、パネルに開孔された取付孔にパネルの前面側から本体が差し込まれパネルの前面側に当接する当接部を備えた電気機器を、パネルの後面側から本体に挿入され本体と係合する略四角枠状の取付枠を用いてパネルに取り付ける電気機器の取付構造であって、この取付枠は、略四角枠状の互いに対向する2辺に設けられパネルに当接する当接枠部と、略四角枠状の互いに対向する他の2辺の内面にそれぞれ設けられ、電気機器の本体の外面に形成される係合凹部と係合する係合爪と、この係合爪を係合凹部と係合させて当接枠部をパネル側へ付勢する付勢手段とを備えたことを特徴とする。
【0009】
ここで、この係合爪は、当接枠部がパネルに当接した後であってもパネルに向けた方向に移動可能に構成されることを特徴とすれば、付勢手段により当接枠部をパネル側へ付勢する付勢力を更に強めることが可能となり、電気機器をパネルの後面側により強く引っ張ることができる。
【0010】
また、この付勢手段は、当接枠部が形成される2辺側から係合爪を支持する支持部を備え、この支持部を弾性変形させることで当接枠部をパネル側へ付勢することを特徴とすれば、当接枠部が形成される2辺側から支持部が伸びることで、本構成を採用しない場合に比べてパネルへの当接および付勢をより安定化することが可能となる。
【0011】
更に、この取付枠は、対向する2辺に設けられる当接枠部の対向距離を電気機器の本体の挿入箇所の外形寸法よりも小さく形成し、電気機器の本体に取付枠が挿入されることにより、係合爪を支持する支持部が弾性変形して当接枠部が互いに遠ざかる方向に変位することを特徴とすれば、当接枠部の対向距離を利用して係合性能をより高めることができる点で好ましい。
【0012】
また、この取付枠は、係合爪を内面に有し支持部に支持される変位枠部を更に備え、支持部は、当接枠部がパネルに当接した際に、変位枠部とパネルとの間に段差が形成されるように変位枠部を支持することを特徴とすれば、当接枠部がパネルに当接した後であっても、変位枠部を移動することで係合爪をパネル側に移動できる点で優れている。
【0013】
他の観点から把えると、本発明は、パネルに開孔された取付孔に本体が差し込まれた電気機器の本体の係合凹部と係合可能に構成される、略四角枠状の取付枠体であって、この略四角枠状の互いに対向する2辺に設けられる枠部と、略四角枠状の互いに対向する他の2辺の内面にそれぞれ設けられ、電気機器の係合凹部と係合するための係合爪と、この係合爪を、枠部に対する係合爪の位置が略四角枠状の深さ方向に変位可能となるように支持する係合爪支持部とを備えたことを特徴とする。
【0014】
ここで、この係合爪を内面に有し係合爪支持部に支持される変位枠部を更に備え、この係合爪支持部は、略四角枠状の角部から変位枠部まで延びる複数の梁部材で構成されることを特徴とすることができる。
また、この複数の梁部材は、角部から係合爪側まで曲線を描く形状からなることを特徴とすれば、直線で形成する場合に比べ、弾性変形に際して発生する応力を、より分散することができる点で好ましい。
更に、この複数の梁部材は、角部から係合爪側までアーチ状の曲線を描く形状からなることを特徴とすれば、必要とする方向に対する弾性力をより良好に得ることが可能となる。
【0015】
また更に、この係合爪支持部は、変位枠部に伸びる一端において略四角枠状の深さ方向にて係合爪から離れた位置にある第1の支持部と、変位枠部に伸びる一端において第1の支持部に比べて係合爪と近い位置にある第2の支持部とを備えたことを特徴とする。
更に、この第2の支持部の一端は、略四角枠状の深さ方向にて係合爪と同等に位置することを特徴とする。
また、この第1の支持部と第2の支持部とは、略四角枠状の内側と外側とに位置がずれて形成されるとともに、この第2の支持部は、その両端部に比べて中央部が外側に位置するように湾曲して形成されることを特徴とすれば、取付枠体を電気機器の本体に挿入した際に、係合爪の係合作用をより強化できる点で優れている。
【0016】
更に他の観点から把えると、本発明は、パネルに開孔された取付孔に電気機器を取り付ける電気機器の取付方法であって、このパネルの取付孔に電気機器の本体を差し込み、この電気機器の後面側の端部より略四角枠状の取付枠体を挿入し、電気機器に設けられたフランジをパネルの第1面(前面側の面)に当接させ、取付枠体の略四角枠状の互いに対向する2辺に設けられた当接枠部をパネルの第2面(後面側の面)に当接させ、取付枠体の略四角枠状の互いに対向する他の2辺の内面に対をなして設けられ弾性支持された係合爪を、当接枠部が第2面に当接された後にパネルに向けた方向に移動させ、電気機器の本体の外面に形成される係合凹部に係合爪を係合させることで、取付枠体の当接枠部をパネル側へ付勢することを特徴とする。
【0017】
ここで、この当接枠部が第2面に当接された後に係合爪をパネルに向けた方向に移動させ、係合凹部の更にパネルに近い側の溝に係合爪を係合させることで、電気機器を後面側に付勢することを特徴とすることができる。
【発明の効果】
【0018】
以上のように構成された本発明によれば、電気機器をパネルに取り付けるための電気機器の取付構造にて、これらの構成を採用しない場合に比べて、より安定した取付を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1および図2は、取付枠(取付枠体)10を用いて電気機器60をパネル50に取り付けた状態を示す図である。図1はパネル50の後面側から見た斜視図であり、図2は断面図である。
【0020】
図1に示すように例えばパネル厚1〜5mmの制御盤等のパネル50には、例えば45mm角の標準パネルカット寸法にて開孔された取付孔51が複数、設けられている。タイマーやカウンタ、アワーメータなどの電気機器60は、この標準パネルカット寸法に適応して本体61が形成される埋込専用機器である。電気機器60は、外形の断面形状が略四角形に形成される本体61の外面(4面)に、多数の溝62aを有する係合凹部(ラチェット)62が形成されている。また、図2に示すように、本体61の前面側には、本体61の外形寸法(一辺の長さがOL)より外形が大きく形成された額縁状の枠であるフランジ63が設けられている。このフランジ63は、パネル50の取付孔51に電気機器60が挿入された際、パネル50の前面側に当接することで電気機器60が更に後面側へ入り込むことを防止する当接部である。この当接部としては、フランジ63の代わりに、2箇所以上の突起などを用いることもできる。係合凹部62の溝62aは、後面側が垂直面となった三角形状を有している。また、本実施の形態では、後面側から取付枠10を電気機器60に挿入し、パネル50に電気機器60を取り付けている。
【0021】
パネル50は、電気機器60の計器面が表面に出る前面側のパネル前面(第1面)50aと、その裏面である後面側のパネル後面(第2面)50bとを有している。電気機器60のフランジ63をパネル前面50aに当接させ、取付枠10の当接枠部11が有する当接端面11aをパネル後面50bに当接させた状態で、取付枠10の係合爪20を電気機器60の係合凹部62に噛み合わせることで、電気機器60をパネル50に狭持している。すなわち、電気機器60の当接部であるフランジ63と取付枠10の当接枠部11とでパネル50を挟み込み、取付枠10の当接枠部11と弾性支持された係合爪20との間の復元力で電気機器60の本体を後面側に引っ張ることで、電気機器60をパネル50に挟持している。尚、後述するように、これに加えてねじ止めを行って更に強固に固定することも可能である。
【0022】
図3〜図5は、取付枠(取付枠体)10の構成を説明するための図である。図3は斜視図、図4は取付枠10を図3の上方から見た図、図5は枠部12側から取付枠10を見た図である。
取付枠10は、電気機器60の本体61の外形形状に合わせて内面が形成される略四角枠状の枠体である。この略四角枠状として、取付枠10は、互いに対向する2辺に当接枠部11が設けられ、これらと隣接して互いに対向する他の2辺に枠部12が設けられている。そして、この対向する枠部12の内面には、各々、内側に爪先を向けた状態で係合爪20が設けられている。取付枠10の材質としては、ポリアセタール(POM)、ポリアミド、ポリプロピレンなど、適度な強度のある弾性部材が用いられる。
【0023】
当接枠部11は、取付枠10の深さ方向D(取付枠10の抜き差し方向)の一端に当接端面11aが形成されている。この当接端面11aは内面がRまたは平面状に面取りされた面である。この面取りにより、電気機器60の本体61に対して取付枠10を円滑に挿入することができる。また、対向する当接枠部11の両側(すなわち、略四角枠状の四隅)には角部13が形成され、この角部13には、必要に応じてねじ止めを可能とするためのねじ孔14が設けられている。角部13の端面は当接枠部11の端面と面が一致しており、当接端面11aの位置(高さ)と角部13の端面13aの位置(高さ)とが一致している。また、角部13には、当接枠部11の変形を助けるための切り欠き15が設けられている。
【0024】
尚、本実施の形態における当接枠部11は、突起のない面である当接端面11aを端部に備えており、当接端面11aと角部13の端面13aとの全面で均等にパネル50に当接できるように構成されている。但し、当接端面11aに代えて複数の突起を設け、この複数の突起がパネル50に当接するように構成しても構わない。
【0025】
枠部12は、係合爪20を内側(内面)に有する変位枠部21と、この変位枠部21(すなわち係合爪20)を支持する支持部(係合爪支持部)として、第1の支持部22と、第2の支持部23とを備えている。また、変位枠部21は、変位枠部21をパネル50側に押し付ける際や取付枠10を電気機器60から取り外す際に用いられるレバー24を備えている。
【0026】
第1の支持部22および第2の支持部23は、各々、角部13から変位枠部21(係合爪20が設けられた部分の側)まで曲線を描く両持梁状の梁部材からなっている。この曲線として、本実施の形態では、弧を描くアーチ状を採用している。そして、図5に示すように、第2の支持部23が形成するアーチ状の変位枠部21側の一端23aは、取付枠10の深さ方向Dの位置が係合爪20の深さ方向Dの位置とほぼ一致している。すなわち、一端23aにて、第2の支持部23と係合爪20とが深さ方向Dにおいて同等の高さとなっている。一方、第1の支持部22は、取付枠10の深さ方向Dにて係合爪20から離れた位置にある一端22aで、変位枠部21を支持している。第1の支持部22の一端22aは、変位枠部21の端面21aと連続した位置にあり、一端22aの深さ方向Dの位置は、端面21aとほぼ同等である。このように、第1の支持部22および第2の支持部23は、深さ方向D方向に離間して設けられており、変位枠部21を安定して支持することができる。尚、変位枠部21をより安定して支持するためには、深さ方向Dにおいて一端23aが係合爪20と同等の高さであることが好ましいが、同等の高さとしない態様でも好ましい結果が得られる。例えば、深さ方向Dにて第1の支持部22の一端22aが係合爪20から離れた位置にあり、第2の支持部23の一端23aが、一端22aに比べて係合爪20と近くなるように位置させる。このように構成することで、後述するように枠部12が深さ方向Dにて「ひねり変形」するように作用した場合に、一端22aの高さ部分を支点として一端23aに近い係合爪20の係合凹部62への押し付け力を強めることができる。
【0027】
このように、支持部(係合爪支持部)である第1の支持部22および第2の支持部23を、角部13から変位枠部21まで「曲線を描く梁部材」によって形成することで、係合爪20(変位枠部21)を深さ方向Dの方向に変位可能となるように支持することができる。また、係合爪20は、枠部12の辺の中央に設けられ、第1の支持部22および第2の支持部23によって形成される弧を描くアーチ状が、係合爪20を挟んで対象の形状となっている。
【0028】
更に、この「曲線を描く梁部材」として「アーチ状」を採用したが、他の態様として、例えば「S字状」などを採用することも可能である。また、アーチ形状は、深さ方向Dにて上下どちらに凸でも良い。また更に、曲線ではなく、深さ方向Dにて変位する「直線の梁」などで支持することも可能である。更に、折れ曲がった板形状としても良い。但し、「直線の梁」で支持した場合には、梁の両端で弾性力を形成/維持することとなり、応力集中などによる経時劣化が懸念される。かかる点からも「曲線を描く梁部材」による弾性支持がより好ましい。
【0029】
また、図5に示すように、変位枠部21は、取付枠10の深さ方向Dにて角部13および当接枠部11から距離Gだけ浮いた状態で変位枠部21が支持されている。すなわち、変位枠部21の端面21aと当接端面11aとには、距離Gだけの寸法差がある。距離Gだけ浮いた状態で変位枠部21を支持することで、電気機器60の本体61に取付枠10が挿入され当接枠部11の当接端面11aがパネル50に当接した際、変位枠部21の端面21aとパネル50との間に段差が形成される。この段差を利用して、当接枠部11をパネル50に当接させた後に、係合爪20を有する変位枠部21をパネル方向に移動させることが可能となる。
【0030】
更に、図4に示すように、本実施の形態が適用される取付枠10にて、変位枠部21(すなわち係合爪20)を支持する第1の支持部22と第2の支持部23とは、枠体の内側と外側とに位置がずれて形成されている。より詳しくは、その一端23aが係合爪20と同等の高さ(深さ方向Dの位置)にある第2の支持部23は枠体の外側に形成され、その一端22aが係合爪20から深さ方向Dにて離れた位置に設けられる第1の支持部22は、枠体の内側に形成されている。このように、枠体の内側と外側とをずらして支持部(第1の支持部22と第2の支持部23)を形成することで、例えば一方向からの型抜きが可能となる。
【0031】
ここで、本実施の形態が適用される取付枠10にて、対向する当接枠部11の対向距離IL1(図4参照)は、電気機器60の本体61の外形寸法OL(図2参照)に比べて短くなるように、すなわち、
IL1 < OL
となるように形成されている。この場合に、電気機器60の本体61に取付枠10が挿入されると、取付枠10の対向する当接枠部11は、図4に示すA方向に広がる。当接枠部11がA方向に広がることで、これらに隣接している枠部12は、図4に示すB方向(内側)に入り込む。尚、角部13に設けられた切り欠き15によって、この枠体の変形動作が良好に行われる。
【0032】
また、図4に示すように、第2の支持部23は、それぞれ梁の両端部(一端23a,23b)の位置から梁の中央部が外側に広がり、湾曲状に形成されている。ここで、当接枠部11がA方向に広がると、第2の支持部23の梁の一端23bにて、図4に示すような力のつり合いが働く。すなわち、当接枠部11のA方向の広がりにより、一端23bにて第2の支持部23にはP方向の引っ張り力が働く。これに対抗する力はP’であるが、このP’は、斜め外側に広がる第2の支持部23の接線方向成分Pと、これに直交して斜め内側に入り込む成分Pとの合力となる。このように、取付枠10では、当接枠部11がA方向に広がることによって、第2の支持部23に力の成分Pが生じ、この力の成分Pによって、第2の支持部23に高さ(深さ方向Dの位置)の近い係合爪20の部位が、更に内側に押し込まれるように構成されている。言い換えると、当接枠部11がA方向に広がると、枠部12が深さ方向Dにて「ひねり変形」しようと作用する。この作用によって、取付枠10は、係合凹部62に対して係合爪20をより強固に係合させることができるように構成されている。
【0033】
次に、上記のような構成を有する取付構造の作用、および電気機器の取付方法について、図1〜図5を用いて詳述する。
まず、ユーザは、パネル50の前面側から、取付孔51に電気機器60の本体61を挿入する。次に、パネル50の後面側から、当接枠部11の当接端面11aをパネル50に向けた状態で、取付枠10を挿入する。尚、電気機器60の本体61は断面が正方形であり、係合凹部62も4面に形成されていることから、取付方向については特に特定されない。但し、図4に示すように、取付枠10は、当接枠部11が形成される面には係合爪20などの機能部品がなく、枠体としての外形寸法がこの方向では小さくなる。そこで、パネル50に、一方向の間隔を狭めて複数の電気機器60を配置する場合には、重ねる方向に当接枠部11の面を設けることで、電気機器60の配置間隔を狭めることが可能となる。
【0034】
取付枠10は、前述のとおり、対向する当接枠部11の対向距離IL1(図4参照)が、電気機器60の本体61の挿入箇所の外形寸法OL(図2参照)に比べて短い。そのため、取付枠10が電気機器60に挿入されると、対向する当接枠部11の間隔が広がり、連接する枠部12の全体が内側に押しつけられ、図2に示すB方向の力が加わる。また、前述のとおり、当接枠部11の広がりによって第2の支持部23に内側方向の力成分が生じ、枠部12が係合爪20を押しつけるようにひねり変形して、図2に示すR方向の回転力が加わる。これらによって係合爪20は、電気機器60の本体61に比較的強い力で押し付けられる。
【0035】
次いで、電気機器60のフランジ63をパネル50のパネル前面50aに当接させた状態で、挿入された取付枠10の当接枠部11の当接端面11aをパネル50のパネル後面50bに当接させるまで、取付枠10を押し込む。当接枠部11(当接端面11a)がパネル50(パネル後面50b)に当接した際、図5に示す距離Gがあること、および変位枠部21が第1の支持部22および第2の支持部23により弾性支持されていることにより、変位枠部21の端面21aとパネル50のパネル後面50bとの間には段差が生じている。ユーザは、この段差があることにより、弾性支持されている変位枠部21をパネル50側に更に押し込むことが可能である。例えばレバー24の操作により変位枠部21がパネル50側に押し込まれると、電気機器60の係合凹部(ラチェット)62に対峙している係合爪20は、係合凹部62の、よりパネル50に近い溝62aと噛み合う。これにより、係合爪20と当接枠部11の当接端面11aとは、第1の支持部22および第2の支持部23の復元力を受けて伸びる方向に力を受ける。すなわち、係合爪20と係合凹部62にて係合している電気機器60は、パネル50から遠ざかる方向、すなわち、後面側である図2のT方向に、復元力を受けることとなる。この結果、フランジ63によりパネル50に当接している電気機器60は、第1の支持部22および第2の支持部23の復元力によりパネル50に対して強固に取り付けられる。
【0036】
このように、本実施の形態が適用される電気機器の取付構造では、図2に示すT方向の復元力、B方向の押し付け力、R方向の変形押し付け力によって、パネル50に対して電気機器60を良好に係止することが可能となる。
【0037】
ここで、更に強固に固定したい場合には、取付枠10のねじ孔14を用いて、取付枠10をパネル50にねじ止めすることも可能である。このとき、本実施の形態では、ねじ孔14が設けられている枠体四隅の角部13は、その端面がパネル50に当接し、また、パネル50に対して取付枠10がほぼ均等に押しつけられている。そのため、例えば取付枠10の枠体の対角線にて2箇所のねじ止めを行う場合などに際し、ねじの均等締め付けが容易に行える。
【0038】
尚、電気機器60に取付枠10を取り付けた後に、取付枠10を電気機器60から取り外す場合には、レバー24を外方向に開き、電気機器60の係合凹部62から係合爪20の係合を解いた後、レバー24を持って後面側に引き抜く。このとき、この取付枠10は、係合爪20を曲線を描く梁部材(第1の支持部22および第2の支持部23)により弾性支持するとともに、第2の支持部23が外側にも湾曲している(図4参照)。これにより、第1の支持部22およびこれに近接する変位枠部21の内側箇所に対して、係合爪20が外側に広がりやすい。その結果、レバー24を外方向に開き易くなり、係合爪20の係合を解き易い。
【0039】
以上、詳述したように、本実施の形態では、取付枠10の対向する2辺の内面に係合爪20を設け、この係合爪20の両側にアーチ形状などの曲線形状からなる梁部材(第1の支持部22および第2の支持部23)を形成した。これによって、バネ性を持たせる部分が両持ち梁状となり、本構成を採用しない場合に比べて剛性を強くすることができ、取付時に作用する保持力を高めることができる。
【0040】
また、取付枠10に設けられる係合爪20は、枠部12の辺の略中央に設けられ、第1の支持部22および第2の支持部23によって形成されるアーチ形状が、係合爪20を挟んで対象の形状となっている。これによって、電気機器60の本体61に取付枠10を取り付けた際、押圧力のバランスが良好となる。即ち、第1の支持部22および第2の支持部23によるバネ力をほぼ均等に作用させることが可能となり、取付状態を安定させることができる。
【0041】
更に、本実施の形態では、アーチ形状などの曲線形状からなる梁部材を第1の支持部22と第2の支持部23との2段構成とし、第2の支持部23を第1の支持部22よりも外側に設けると共に、この第2の支持部23を外方へ湾曲させた。これによって、第2の支持部23のアーチ部の辺がひねり変形し、深さ方向Dにて係合爪20の配置位置に近い第2の支持部23の内側へ入り込む力を増すことに加え、レバー24を開閉方向へ動かすための柔軟性を得ることができる。
【0042】
また更に、本実施の形態では、本体61への取付前にて、取付枠10における枠部12の辺の長さを本体61の外形寸法よりも短くし、取付時に広がることで係合爪20が内側へ入り込むように構成した。即ち、取付時に第1の支持部22と第2の支持部23とが弾性変形することで、アーチ形状がねじれる。これによって、係合爪20の係合凹部62への噛み込み(係合力)を更に増すことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】取付枠を用いてパネルに電気機器を取り付けた状態をパネルの後面側から見た斜視図である。
【図2】取付枠を用いて電気機器をパネルに取り付けた状態を示した断面図である。
【図3】取付枠の構成を説明するための斜視図である。
【図4】図3の上方から見た取付枠の構成図である。
【図5】図3の枠部側から取付枠を見た図である。
【符号の説明】
【0044】
10…取付枠(取付枠体)、11…当接枠部、11a…当接端面、12…枠部、13…角部、20…係合爪、21…変位枠部、22…第1の支持部、23…第2の支持部、50…パネル、51…取付孔、60…電気機器、61…本体、62…係合凹部、62a…溝、63…フランジ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パネルに開孔された取付孔に当該パネルの前面側から本体が差し込まれ当該パネルの当該前面側に当接する当接部を備えた電気機器を、当該パネルの後面側から当該本体に挿入され当該本体と係合する略四角枠状の取付枠を用いて当該パネルに取り付ける電気機器の取付構造であって、
前記取付枠は、
前記略四角枠状の互いに対向する2辺に設けられ前記パネルに当接する当接枠部と、
前記略四角枠状の互いに対向する他の2辺の内面にそれぞれ設けられ、前記電気機器の前記本体の外面に形成される係合凹部と係合する係合爪と、
前記係合爪を前記係合凹部と係合させて前記当接枠部を前記パネル側へ付勢する付勢手段と
を備えたことを特徴とする電気機器の取付構造。
【請求項2】
前記係合爪は、前記当接枠部が前記パネルに当接した後であっても当該パネルに向けた方向に移動可能に構成されることを特徴とする請求項1に記載の電気機器の取付構造。
【請求項3】
前記付勢手段は、前記当接枠部が形成される前記2辺側から前記係合爪を支持する支持部を備え、当該支持部を弾性変形させることで当該当接枠部を前記パネル側へ付勢することを特徴とする請求項1または2に記載の電気機器の取付構造。
【請求項4】
前記取付枠は、対向する2辺に設けられる前記当接枠部の対向距離を前記電気機器の前記本体の挿入箇所の外形寸法よりも小さく形成し、当該電気機器の当該本体に当該取付枠が挿入されることにより、前記係合爪を支持する支持部が弾性変形して当該当接枠部が互いに遠ざかる方向に変位することを特徴とする請求項3に記載の電気機器の取付構造。
【請求項5】
前記取付枠は、前記係合爪を内面に有し前記支持部に支持される変位枠部を更に備え、
前記支持部は、前記当接枠部が前記パネルに当接した際に、前記変位枠部と前記パネルとの間に段差が形成されるように当該変位枠部を支持することを特徴とする請求項3または4に記載の電気機器の取付構造。
【請求項6】
パネルに開孔された取付孔に本体が差し込まれた電気機器の当該本体の係合凹部と係合可能に構成される、略四角枠状の取付枠体であって、
前記略四角枠状の互いに対向する2辺に設けられる枠部と、
前記略四角枠状の互いに対向する他の2辺の内面にそれぞれ設けられ、前記電気機器の前記係合凹部と係合するための係合爪と、
前記係合爪を、前記枠部に対する当該係合爪の位置が前記略四角枠状の深さ方向に変位可能となるように支持する係合爪支持部と
を備えたことを特徴とする電気機器の取付枠体。
【請求項7】
前記係合爪を内面に有し前記係合爪支持部に支持される変位枠部を更に備え、
前記係合爪支持部は、前記略四角枠状の角部から前記変位枠部まで延びる複数の梁部材で構成されることを特徴とする請求項6に記載の電気機器の取付枠体。
【請求項8】
前記複数の梁部材は、前記角部から前記係合爪側まで曲線を描く形状からなることを特徴とする請求項7に記載の電気機器の取付枠体。
【請求項9】
前記複数の梁部材は、前記角部から前記係合爪側までアーチ状の曲線を描く形状からなることを特徴とする請求項8に記載の電気機器の取付枠体。
【請求項10】
前記係合爪支持部は、前記変位枠部に伸びる一端において前記略四角枠状の深さ方向にて前記係合爪から離れた位置にある第1の支持部と、当該変位枠部に伸びる一端において当該第1の支持部に比べて当該係合爪と近い位置にある第2の支持部とを備えたことを特徴とする請求項7乃至9何れか1項に記載の電気機器の取付枠体。
【請求項11】
前記第2の支持部の前記一端は、前記略四角枠状の深さ方向にて前記係合爪と同等に位置することを特徴とする請求項10に記載の電気機器の取付枠体。
【請求項12】
前記第1の支持部と前記第2の支持部とは、前記略四角枠状の内側と外側とに位置がずれて形成されるとともに、当該第2の支持部は、その両端部に比べて中央部が外側に位置するように湾曲して形成されることを特徴とする請求項10または11に記載の電気機器の取付枠体。
【請求項13】
パネルに開孔された取付孔に電気機器を取り付ける電気機器の取付方法であって、
前記パネルの前記取付孔に前記電気機器の本体を差し込み、
前記電気機器の後面側の端部より略四角枠状の取付枠体を挿入し、
前記電気機器に設けられたフランジを前記パネルの第1面(前面側の面)に当接させ、前記取付枠体の前記略四角枠状の互いに対向する2辺に設けられた当接枠部を当該パネルの第2面(後面側の面)に当接させ、
前記取付枠体の前記略四角枠状の互いに対向する他の2辺の内面に対をなして設けられ弾性支持された係合爪を、前記当接枠部が前記第2面に当接された後に前記パネルに向けた方向に移動させ、前記電気機器の前記本体の外面に形成される係合凹部に当該係合爪を係合させることで、当該取付枠体の当該当接枠部を当該パネル側へ付勢すること
を特徴とする電気機器の取付方法。
【請求項14】
前記当接枠部が前記第2面に当接された後に前記係合爪を前記パネルに向けた方向に移動させ、前記係合凹部の更にパネルに近い側の溝に当該係合爪を係合させることで、前記電気機器を前記後面側に付勢することを特徴とする請求項13に記載の電気機器の取付方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−70841(P2009−70841A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−234312(P2007−234312)
【出願日】平成19年9月10日(2007.9.10)
【出願人】(000124362)シチズンセイミツ株式会社 (120)
【Fターム(参考)】