説明

電気機器用鉄心の製造方法

【課題】 スティッキング除去が十分かつ均一に行われ、かつ、鉄損特性に優れた電気機器用鉄心の製造方法を提供する。
【解決手段】 本発明の電気機器用鉄心の製造方法は、打抜き、積層、成型、歪取り焼鈍の工程を経て製造される電磁鋼板からなる電気機器用鉄心であり、前記歪取り焼鈍工程の後に超音波を印加する工程を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種産業用途、民生用途に用いられるモータ、トランス等の電気機器用鉄心の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電気機器、例えば、モータの鉄心は、0.35mm厚や0.50mm厚の薄い電磁鋼板を、金型を用いてステータ形状、ロータ形状に打ち抜き、次いで、打ち抜き加工後の電磁鋼板を必要積厚だけ積層することにより製造される。このとき、前記積層材を鉄心として成型固定するため、この方法としては、かしめ、溶接およびネジ止め等が多く用いられている。
【0003】
しかしながら、上記鉄心製造工程において、前記打ち抜き工程では、コア材の端部に破断による塑性歪みと弾性歪みが残留するとともに、コア全体に弾性歪みが残留する場合もある。また、前記かしめ工程は、積層材に局部的に丸型やV型の塑性変形を積層方向に発生させることにより積層材の固定を行うため、かしめの周辺には、塑性歪み、弾性歪みが残留する。溶接では、溶け込み部およびその周辺に熱残留応力が発生し、ネジ止めにおいてもネジ穴周囲に打ち抜きによる加工歪みやネジで締めこんだ際の残留応力が発生する。そのため、これらの残留歪みの除去を目的とし、750℃付近の温度まで加熱したのち、徐冷するという焼鈍(以下、歪取り焼鈍と称す)が、従来から行なわれている。
【0004】
しかし、上記歪取り焼鈍では、歪みは除去できるものの、温度分布が生じた部分の、特に高温部において、積層した薄鋼板どうしが、いくぶんか絶縁が破壊され、焼きついてしまう、いわゆるスティッキングと呼ばれる現象が起きてしまう。このスティッキングにより、積層鉄心の鉄損は、材料の鉄損に比べ、大幅に劣化する。
【0005】
これに対して、スティッキング状態を除去する方法として、例えば特許文献1では、外部からハンマリングや落下などの衝撃力を加える技術が記載されている。また、特許文献2では、層間の短絡を防止する観点から、層間にゴムシートを挟む方法が記載されている。
【特許文献1】特開昭50-90901号公報
【特許文献2】特開平5-231654号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、スティッキング除去の効果が不均一であり、歪取り焼鈍による鉄損改善効果が十分に反映されない。さらに、衝撃力により歪みが加わり鉄損が劣化してしまう場合もある。
【0007】
特許文献2では、占積率が低下し、歪解放のための歪取り焼鈍との併存が困難である。
【0008】
本発明は、以上の点に鑑みなされたもので、スティッキング除去が十分かつ均一に行われ、かつ、鉄損特性に優れた電気機器用鉄心の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上述した従来技術の課題を解決すべく検討した結果、焼鈍工程の後に超音波を印加する工程を行うことが鉄損特性に優れた電気機器用鉄心を得るのに有効であることが判った。
【0010】
本発明は、このような知見に基づきなされたもので、その要旨は以下のとおりである。
【0011】
打抜き、積層、成型、歪取り焼鈍の工程を経て製造される電磁鋼板からなる電気機器用鉄心の製造方法において、前記焼鈍工程の後に超音波を印加する工程を有することを特徴とする電気機器用鉄心の製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、鉄損特性に優れた電気機器用鉄心を得ることができる。また、本発明では、歪取り焼鈍工程の後に超音波を印加することでスティッキングを十分かつ均一に除去する。よって、歪取り焼鈍の適用が可能となり、占積率も低下しない。
【0013】
また、歪取り焼鈍による鉄損改善効果をスティッキング除去により損なうことがないため、高効率のモータを安定して製造できる。さらに、従来のスティッキング除去方法に比べ、超音波印加は、製造ライン中の短時間処理で有効な効果を得ることができるため、工数の削減という点でも優れている。
【0014】
以上から、本発明の電気機器用鉄心は、電気機器などの鉄心、トランス、リアクトル等の材料として非常に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に、本発明の電気機器用鉄心の製造方法を詳細に説明する。
【0016】
本発明では、電磁鋼板を使用し、まず、電磁鋼板を所定の形状に打ち抜き加工し、バラコアとする。この時、生産性の観点から、鋼板またはフ−プ状の電磁鋼板をプレス機を用いて連続打ち抜き加工することが望ましい。
【0017】
次に、バラコアを複数枚積層し、積層材を形成する。この時、例えば、打ち抜いた個々の鋼板がバラバラにならないように簡易な押さえ治具等で仮拘束、仮止めすることもできる。
【0018】
次いで、積層材を成型し固定する。例えば、かしめにより積層材を固定する。この際に、成型用治具で拘束したのち、かしめで固定することも可能である。また、かしめ以外の方法として溶接、ネジ止めの方法を積層体の固定に用いることもできる。
【0019】
次いで、固定された積層材に対して、歪取り焼鈍処理を行う。歪取り焼鈍処理は、例えば電気炉、誘導加熱炉等を用いることができる。この時の歪取り焼鈍処理は、通常750〜850℃程度で30分以上行うことが好ましい。
【0020】
次いで、焼鈍後、超音波を印加する。これは本発明において最も重要な要件であり、この工程を有することにより、本発明ではスティッキングが十分かつ均一に除去され、鉄損特性に優れた電気機器用鉄心が得られることになる。以下、超音波印加工程について、詳細に説明する。
【0021】
歪取り焼鈍後のモータステータコア(50A350材適用)を15個準備し、5個は、従来のハンマリング法によりスティッキングを除去し、残る10個については、防錆油を混和した媒体中に浸漬し、30秒間、50kHzもしくは100kHzにて、それぞれ5個ずつ超音波を印加した。次いで上記コアに巻線を施し、JIS(C 2550)に準拠する方法により、鉄損を測定した。得られた結果を図1に示す。
【0022】
図1より、電気機器用鉄心の打ち抜き、積層、かしめ、歪み取り焼鈍後のスティッキング除去を、従来の局所的な衝撃力による方法から、コア全体に印加可能な超音波法とすることにより、歪取り焼鈍による鉄損改善効果を十分享受可能となることがわかる。
【0023】
なお、本発明において、超音波を印加するにあたって、例えば、周波数は汎用性の理由により20kHz〜1MHzが好ましい。印加時間は生産性の理由により30〜60秒が好ましい。しかし、条件はこれに限定されず、スティッキングの状態を考慮し、適宜設定・調整することが可能である。
【0024】
また、超音波を印加する方法としては、もっとも簡単には、超音波の伝導しやすい媒体中にコア全体を投入し、外部より超音波振動を加える方法が上げられる。この時、超音波の伝導媒体としては、水が一般的であるが、鋼板のさび生成の観点から防錆剤を混合した水系媒体を用いることも有利である。さらに、超音波を印加する方法は上記に限定されず、媒体を介する方法以外でも、超音波振動する接触板等の接触子をモータコアに密着させ、コアに直接超音波振動を印加することも可能である。
【0025】
なお、本発明において、電磁鋼板の組成に特に制限はない。例えば、JIS C 2552で規定される鋼板や、JIS C 2553で規定される鋼板や、JIS C 2555で規定される鋼板を対象とすることができる。ここで、モータコア鉄損等のコア成形後の特性を考慮した場合、モータの高効率化の観点では、Si含有量が2mass%以上の無方向性電磁鋼板を用いることが好ましい。板厚についても特別な制限はないが、モータの高効率化の観点では、特に0.35mm以下の板厚の電磁鋼板が適しており、本発明ではこのような薄い鋼板についても何ら問題なく使用できる。
【実施例1】
【0026】
35A230材を用いて、打抜き、積層、かしめを順次行った後、750℃で1時間の歪取り焼鈍を行い、外径300mmφのステータコアを10個作製した。このうちの5個については、比較例として、プラスティックハンマーにより慎重に、均一な衝撃力を加えた。一方、本発明例として、残る5個については、積層側面に、側面に沿うように湾曲させた接触板を準備し、それにより、コア全体に25kHzの超音波を印加した。そして、各々のステータコアに対して、JIS 2550に順ずる方法により鉄損を測定した。得られた結果を図2に示す。
【0027】
図2より、本発明例においては、歪取り焼鈍後の鉄損が低く、スティッキング除去後も磁性が良好かつ安定に得られていることがわかる。一方、比較例では、鉄損の値のばらつきが大きく、安定して良好な磁性が得られていない。
【産業上の利用可能性】
【0028】
電気機器などの鉄心、トランス、リアクトル等の材料として非常に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】スティッキング除去法の違いによる鉄損値との関係を示す図である。
【図2】スティッキング除去法の違いによる鉄損値との関係を示す図である。(実施例1)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
打抜き、積層、成型、歪取り焼鈍の工程を経て製造される電磁鋼板からなる電気機器用鉄心の製造方法において、
前記歪取り焼鈍工程の後に超音波を印加する工程を有することを特徴とする電気機器用鉄心の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−129640(P2006−129640A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−316273(P2004−316273)
【出願日】平成16年10月29日(2004.10.29)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】