説明

電気機械変換装置及びその製造方法

【課題】貫通配線を有する電気機械変換装置の性能ばらつきを向上させる技術を提供する。
【解決手段】貫通孔を備える絶縁性部分3が導電性基板1に接合された構造体を得て、貫通孔に導電性材料を充填して導電性基板1と電気的に接続する貫通配線4を形成する。導電性基板1を第1の電極とし、絶縁性部分3のある側と反対の側の第1の電極1上に、それぞれ、複数の間隙7を介して、第1の電極と対向する第2の電極9を含む複数の振動膜部8、9、10を形成し、複数のセル11を形成する。これにより、電気機械変換装置を構成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波診断装置の超音波探触子などに用いられる電気機械変換装置及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波トランスデューサーなどの電気機械変換装置は、電気信号から超音波へ変換と超音波から電気信号への変換の少なくとも一方を行うものであり、医用用途の超音波診断用や非破壊検査用の探触子などとして用いられている。近年、微細加工技術の発展に伴い、その技術を用いて作製された静電容量型電気機械変換装置(CMUT: Capasitive Micromachined Ultrasonic Transducer)の開発が盛んとなっている。CMUTの例としては、次のものがある。これは、下部電極を有する基板(基板が下部電極を兼ねる場合もある)と、基板上に下部電極と一定の間隔を保って形成された振動膜と、上部電極と、を備えたセルを有するエレメント基板を駆動回路基板に電気的に接続することで構成される。更には、2つ以上のセルが電気的に接続されたエレメントを複数有するエレメント基板を、駆動回路基板に電気的に接続することで構成される(特許文献1参照)。CMUTは、軽量の振動膜を用いて超音波を送信または受信し、液中及び空気中でも優れた広帯域特性を持つものが容易に得られる。従って、CMUTを利用すると、従来の医療診断より高精度な診断が可能となるため、有望な技術として注目されている。
【0003】
CMUTの動作原理について説明する。超音波を送信する際には、下部電極と上部電極間に、DC電圧とAC電圧を重畳して印加する。これにより振動膜が振動し超音波が送信される。超音波を受信する際には、振動膜が超音波を受信した際に起こる振動膜の変形に伴い下部電極と上部電極間の距離が変化することによる両電極間の静電容量変化から信号を検出する。CMUTを駆動するために電極へ電圧を印加する方法としては、CMUTの基板表面に電極を設けて上下電極へと通じる配線を引き回す方法と、基板に設けた貫通配線によって上下電極からの配線を基板裏面へと導いて電気的に接続する方法と、がある。前者では、基板表面において配線を引き回す必要があるため、配線が占める部分にはエレメントを配置することが難しい。従って、同一面積のエレメント内にセルが占める割合で表わされるフィルファクターが低下する。また、エレメント間隔も、配線が占める面積だけ離して配置する必要があるため、高密度なエレメント配置が難しくなる。結果として、CMUTの性能が低下する。一方、貫通配線を用いる方法では、基板をエレメント毎に絶縁してそれぞれに貫通配線を形成し、電気的接続を行う方法が一般的に採用されている。この様にして作製されたCMUTは、特許文献2、3に記載されている。貫通配線を用いて形成されたCMUTは、表面において配線を引き回す必要がないため、配線が占めていた部分にもセルを配置でき、また、高密度にエレメントを配置できる。そのため、フィルファクターが高く、エレメントの配置密度が高いCMUTを作製でき、性能の向上に繋がる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−319712号公報
【特許文献2】特開2007−215177号公報
【特許文献3】特開2010−35134号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2のCMUTでは、CMUTの基板に貫通配線を形成している。基板中に貫通配線を形成する手法としては、CMUTのエレメントを作製する前に基板に貫通配線を形成する方法と、エレメント形成後に貫通配線を形成する方法と、がある。しかし、前者の方法では、一般に基板内に貫通配線を形成することで、基板表面では、基板と貫通配線の間に段差が生じ、CMPプロセスなどで平坦化を試みても、材料の違いから基板表面の平坦性には限界がある。そのため、その段差がある基板上にセルを配置すれば、下部電極、間隙、振動膜及び上部電極が段差の影響を受けて、凹凸を持ってしまうことがある。従って、貫通配線のある部分とない部分とでセルの特性にばらつきが生じ、CMUTの性能劣化に繋がる。また後者では、エレメント基板の作製後に貫通配線を作製するため、貫通配線の直上にセルを配置することはプロセス上困難である。更に、セルは構造的に弱い薄膜で構成されているため、貫通配線の形成工程において歩留まりが下がる可能性がある。
【0006】
また、特許文献3の方法では、CMUTのエレメントの形成後に、貫通配線を形成した基板をエレメント基板に接合することで、貫通配線を有するCMUTを形成している。この手法においても、微細な間隙を持つ構造体を形成した後に貫通配線基板の接合を行うため、貫通配線基板の接合工程ないし接合後の工程において、エレメントの歩留まりが下がる可能性がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題に鑑み、本発明の電気機械変換装置の製造方法は、次の工程を有することを特徴とする。貫通孔を備える絶縁性部分(絶縁性基板、感光性の絶縁性部材など)が導電性基板に接合された構造体を得る工程。前記貫通孔に導電性材料を充填して前記導電性基板と電気的に接続する貫通配線を形成する工程。前記導電性基板を第1の電極とし、前記絶縁性部分のある側と反対の側の前記第1の電極上に、それぞれ、複数の間隙を介して、前記第1の電極と対向する第2の電極を含む複数の振動膜部を形成し、複数のセルを形成する工程。
【0008】
また、上記課題に鑑み、本発明の電気機械変換装置は、次の構成を有することを特徴とする。導電性基板の第1の電極上に、それぞれ、複数の間隙を介して、前記第1の電極と対向する第2の電極を含む複数の振動膜部を設置して形成された複数のセルを有する。そして、前記第1の電極には、前記間隙のある側と反対の側に絶縁性部分(絶縁性基板、感光性の絶縁性部材など)が接合され、前記絶縁性部分には、前記第1の電極と電気的に接続された貫通配線が形成されている。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、貫通孔を備える絶縁性部分が導電性基板に接合された構造体を得た後に、貫通孔に導電性材料を充填することで貫通配線を形成して導電性基板と貫通配線の電気的接続を確保した上で、導電性基板を電極として電気機械変換装置を形成する。よって、導電性基板の平坦性を損ねないまま電極として使用できるため、平坦性の精度が保証された導電性基板を用いれば、貫通配線と絶縁性部分との間の段差の影響は受けず、貫通配線の直上にもセルを配置することが可能となる。従って、貫通配線の直上にもセルを配置することでエレメント内の配置セル数を増やすことができるため、フィルファクターが向上し、性能の向上に繋がる。また、セル間のばらつきを低減することができる。更に、構造的に弱い微細な間隙を持つセルの形成を、貫通配線を形成した後に行うため、歩留まりの低下を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明による電気機械変換装置であるCMUTの断面と上面を示す図。
【図2−1】電気機械変換装置の製造方法の第1の実施例の工程フローを説明する断面図。
【図2−2】電気機械変換装置の製造方法の第1の実施例の工程フローを説明する断面図。
【図2−3】電気機械変換装置の製造方法の第1の実施例の工程フローを説明する断面図。
【図3】電気機械変換装置の製造方法の第2の実施例の工程フローを説明する断面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の特徴は、貫通孔を備える絶縁性部分が導電性基板に接合された構造体を作製した後に、貫通孔に導電性材料を充填して導電性基板と電気的に接続する貫通配線を形成し、導電性基板上に複数のセルが形成されて電気機械変換装置が構成されることにある。こうした考え方に基づいて、本発明の電気機械変換装置及びその製造方法は、上記課題を解決するための手段のところで述べた様な基本的な構成を有する。前記構造体を得る方法としては、後述の実施例1で説明する様に、導電性基板に、貫通孔を形成した前記絶縁性部分である絶縁性基板を接合する工程を含む方法がある。また、後述の実施例2で説明する様に、導電性基板に感光性の絶縁性部分を形成して接合する工程と、感光性の絶縁性部分に導電性基板に達する貫通孔を形成する工程を含む方法も可能である。
【0012】
更に、夫々少なくとも1つのセルを含む複数のエレメントに対して前記第2の電極を共通とする場合には、エレメント毎に前記第1の電極を電気的に分離する工程を含んでもよい。この場合、第1の電極から電気的に分離された導電性基板の部分であって貫通配線の何れかと電気的に接続する部分を形成し、共通の第2の電極を前記部分と電気的に接続する工程を含んでもよい。一方、複数のエレメントに対して前記第1の電極を共通とすることもできる。この場合には、第1の電極から電気的に分離された導電性基板の複数の部分であって夫々対応する貫通配線と電気的に接続する複数の部分を形成し、エレメント毎に第2の電極を電気的に分離して、該各第2の電極を前記各部分と電気的に接続する様にできる。また、前記振動膜部は、間隙を介して設置された振動膜と該振動膜上に形成された第2の電極とを有する様にしてもよいし、第2の電極を兼ねる導電性の振動膜からなる様にしてもよい。
【0013】
以下に、図を用いて本発明が適用可能な電気機械変換装置及びその製造方法を、CMUTを例にとって説明する。なお、以下の実施例相互間で同様な部分は同一の符号を付して説明を簡略化する。
【0014】
図1は、本発明の製造方法により製造された実施例であるCMUTの構造を表した模式図である。図1(a)は、図1(b)のA−A’の断面図であり、図1(b)はCMUTの上面図である。本発明の製造方法により製造されたCMUTは、基板1、貫通配線4を持つ絶縁性基板ないし部材3、基板1上に形成されたCMUTデバイスからなる。CMUTデバイスは、第1の電極を兼ねる基板1上に間隙7(略真空な空隙、ガスの充填された空隙などである)を介して形成された振動膜8、第2の電極9、及び封止膜10を含むセル11を備える。ここでは、振動膜8と第2の電極9と封止膜10が振動膜部をなす。また、複数のセル11を電気的に接続してなるエレメントを多数有し、それらが二次元に配列されている。各エレメントにおいて、共通の第1の電極となる基板1には、1つ以上(図示例では1つ)の貫通配線4が接続されている。ここでは、第2の電極9は全エレメントに対して共通の電極となっている。本実施例では、この共通の第2の電極9は、第1の電極の基板1から電気的に分離された基板の部分及び貫通配線(図1(a)の最左部の基板1の部分と貫通配線4)と電気的に接続されて、外部に取り出されている。本実施例では、この様に、第1の電極である基板1を各エレメントに対応して電気的に個別に分離し、第2の電極9を全エレメントに対して共通電極としている。しかし、前述した様に、第1の電極の基板1を共通電極とし、第2の電極9を各エレメントに対応して個別に分離してもよい。
【0015】
本実施例のCMUTの製造方法では、第1の電極を兼ねる導電性の基板1に、絶縁性の基板ないし部材を接合し、絶縁性の基板内に貫通配線を形成して基板1との電気的接続を確保した上で、基板1を第1の電極として電気機械変換装置を形成する。すなわち、基板1の裏面に貫通配線を有する絶縁性の基板を予め接続することで、基板1の表面の平坦性を保ったまま、その基板1上にCMUTを形成することができる。従って、基板1として、例えば、平坦性が保証された低抵抗率のSi基板を用いれば、貫通配線を形成することで発生し易い基板表面の段差の発生を抑制してその影響を受けることなく、CMUTを形成でき、CMUTの性能の均一性を向上することができる。また、貫通配線の直上にもCMUTのセル11を形成することが可能となるため、フィルファクターを向上でき、CMUTの性能を向上できる。更に、微細な間隙を持ち構造的に弱いCMUTを形成した後に貫通配線の形成を行わないため、それに伴って発生する歩留まりの低下を低減することができる。
【0016】
貫通配線を有する構造体(基板1と絶縁性の基板ないし部材とを併せたものを指す)上へのCMUTの形成は、第1の電極を兼ねる基板1上に、間隙7を形成するための犠牲層13を成膜及びパターニングし、例えば、その上に振動膜8を形成する。更に第2の電極9を成膜及びパターニングする。次に、犠牲層13を除去するためのエッチング孔を振動膜8に形成し、犠牲層13のみを選択的に除去することで、間隙7を形成する。そして、封止膜10を成膜し、犠牲層除去用の上記エッチング孔を封止することでCMUTなどの電気機械変換装置が作製される。
【0017】
本実施例に用いられる基板1としては、表面の平坦性が保証でき(すなわち、表面粗さが小さい値であり)、微細加工が容易なSi基板が望ましい。また、基板1が第1の電極を兼ねるため、基板1の抵抗率は0.02Ωcm以下であることが望ましい。これは、第1の電極の配線抵抗が小さい方が信号の損失を低減できるためである。更には、基板1の表面粗さRmsは0.5nm以下のものが望ましい。基板1上に薄膜を積み上げていくことでCMUTを形成するため、基板1の表面粗さが小さいほど、ばらつきの小さいCMUTが形成できるためである。
【0018】
基板1としては、SiとSiの間にSiO膜を内包することで作製されるSOIウェハの活性層を使用することも可能である。通常は、エレメント分離溝6を形成した後に、溝6が形成する基板1と絶縁性部分3との間の段差に起因する段を乗り越えるように、上部電極である第2の電極9をカバレッジ良く成膜する必要がある。しかし、SOIの活性層で基板1を形成すれば、基板1を薄く形成できるため、エレメント分離溝6が形成する段差が小さくなり、プロセスの安定性が向上する。
【0019】
本実施例の製造方法に用いられる犠牲層13としては、振動膜8とエッチング選択性があるもの、また、振動膜8を成膜する工程で、熱によって表面粗さが大きく変化しない熱耐性がある材料を選択するのが好ましい。例えば、Cr、Moなどが望ましい。また、本実施例の製造方法に用いる第2の電極(上部電極)9は、封止膜10の成膜時の熱工程において、熱で表面粗さが大きく変化しない耐熱性があり、犠牲層13をエッチングする工程において犠牲層13との選択性があるものを選択するのが良い。例えば、Ti、W、TiW、Moなどの材料を選択できる。また、本実施例の製造方法に用いられる振動膜8としては、応力制御が可能であり、機械的特性及び絶縁性能に優れPECVDで成膜されるSiN膜が望ましい。
【0020】
封止膜10は振動膜部としても使用されるため、封止部にカバレッジ良く成膜されることの他に、応力制御が可能で、機械的特性及び絶縁性能に優れる材料を選択するのが好ましい。例えば、PECVDで成膜されるSiN膜が選択できる。本実施例における貫通配線を形成する絶縁性の基板ないし部材としては、貫通配線となる貫通孔の形成が容易で、かつ基板1との接合が可能な材料である必要がある。例えば、パイレックス(登録商標)ガラスや石英ガラスを使用することができる。石英ガラスやパイレックス(登録商標)ガラスは、サンドブラスト加工などにより微細な貫通孔を形成でき、また、例えば、基板1となるSi基板との接合も容易に行うことができる。特にパイレックス(登録商標)ガラスは、基板1となるSiと熱膨張係数が非常に近いため、熱工程において、Si基板との整合性が高いという利点がある。
【0021】
更には、貫通配線を形成する絶縁性の部材として、感光性の樹脂やガラス材料も使用することができる。スピンコートで塗布が可能な感光性樹脂材料では、例えば、Si基板上に塗布膜形成を行うことが容易であり、フォトリソグラフィ技術により貫通孔形成も可能である。また、CMUTなどの電気機械変換装置を形成する工程での熱に対する耐性に優れた材料も存在し、例えば感光性ポリイミド(東レ株式会社製)などが使用できる。更に、絶縁性の基板ないし部材としては、感光性のドライフィルム(日立株式会社製、旭化成株式会社製、東京応化株式会社製などの市販品)も使用することができる。
【0022】
以下、本発明が適用できる電気機械変換装置の製造方法の更に具体的な例を、図面を参照して詳細に説明する。
(実施例1)
実施例1を説明する。本実施例では、低抵抗のSi基板と絶縁性のガラス基板とで形成した貫通配線が接続された基板上に作製するCMUTの製造方法について説明する。本実施例では、貫通孔付き絶縁性基板3としてパイレックス(登録商標)ガラスを用いるが、石英ガラスなどの他の材料を用いる場合でも基本的な製造方法は同様である。
【0023】
図2−1〜図2−3で本実施例のプロセスフローを説明する。これらの図では、図の簡略化のために2つのエレメントを有するデバイスの断面を示すが、他のエレメントも同様に作製される。まず、基板1となるSi基板を用意する(図2−1(a))。基板1は下部電極となる第1の電極を兼ねるため、抵抗率の低いものが望ましい。本実施例では、抵抗率0.02Ωcm以下のSi基板を用いる。また、基板1の表面にCMUTを形成するため、表面粗さRmsは小さく、Rmsが0.5nm以下のものを使用する。次に、基板1の両面に絶縁膜15として約1μmの熱酸化膜層を形成する。Si基板上に形成する熱酸化膜は平坦性に優れ、Si基板の有する平坦性を殆ど損なわず絶縁膜15が形成できる。後述の振動膜8が絶縁性であるので、これにより上下電極間の電気的分離を充分に確保できれば、絶縁膜15は、省略することができる場合もある。
【0024】
次に、基板1と貫通配線部とのオーミックコンタクトを取るため、Si基板の裏面の酸化膜を剥離し、オーミック金属2を成膜及びパターニングする。更にアニール処理を行うことで、Si基板1とのオーミックコンタクト層を形成する。オーミックコンタクトを取るための金属には、AlやTiなど、Siと合金層を形成しやすい金属を用いる(図2−1(b))。
【0025】
次に、貫通配線を形成する部分にサンドブラスト法で貫通孔を形成した貫通孔付き絶縁性基板3であるパイレックス(登録商標)ガラスを準備し、オーミック金属2が貫通孔と重なるように基板1の裏面に接合する(図2−1(c))。パイレックス(登録商標)ガラスとSi基板は陽極接合や直接接合により接合できる。本実施例ではサンドブラスト法にて貫通孔を形成したが、これに限定されない。ドリル加工法、レーザー加工法、超音波加工法、更にはフォトリソグラフィ技術とドライエッチングを組み合わせた方法でも貫通孔を形成することができる。また、パイレックス(登録商標)ガラスとSi基板は陽極酸化にて接合したが、これに限定されず、直接接合など他の接合方法も使用可能である。
【0026】
更に、貫通孔に貫通配線となる導電性材料を充填する。充填する導電性材料としては、めっきによるCuを用いる(図2−1(d))。貫通配線を形成した後、裏面をCMPで研磨することで貫通配線4とパイレックス(登録商標)ガラス3の表面高さを揃える。次に、接合した基板の裏面に、貫通配線を形成する金属をプロセス中での各種エッチング工程において保護するための保護材料12を形成する。本実施例では、エッチングの選択性が高く、熱に対する耐性の高いTiを300nm、EB蒸着法にて成膜する。本工程で、貫通配線4が形成された基板の構造体が完成する(図2(e))。
【0027】
次に、作製した基板の構造体上にCMUTを形成する工程を説明する(図2−2(f)〜(i)及び図2−3(j)〜(m))。本実施例のCMUTの製造方法では、犠牲層と呼ばれる材料を予めパターニングしておいた後に振動膜を成膜し、犠牲層を選択的に除去する手法で間隙を形成する。これにより、導電性基板を第1の電極とし、絶縁性部分のある側と反対の側の第1の電極上に、それぞれ、複数の間隙を介して、第1の電極と対向する第2の電極を含む複数の振動膜部を形成し、複数のセルを形成することができる。この工程で作製するCMUTは、350℃以下の比較的低温で作製することが可能であるため、貫通配線4を形成した後にCMUTを形成する方法でも、熱による影響が小さくCMUTの形成が可能である。
【0028】
まず、作製した貫通配線4を有する基板の表面に、フォトリソグラフィ技術でレジストのパターニングを行う。更に、レジストパターンをマスクとしてSFをエッチングガスとしたドライエッチングを行い、下部電極である基板1を、絶縁性の基板3と基板1の接合面まで切断することでエレメント分離溝6を形成する。この工程により、各エレメントに対応する基板1の部分毎に電気的に分離される(図2−2(f))。
【0029】
続いて、基板1上に犠牲層13を形成してパターニングをする工程である(図2−2(g))。犠牲層13の成膜工程では、Crからなる犠牲層13をEB蒸着法にて作製する。この工程での条件は、好ましくは次の通りである。真空度2.0×10−4Paまで引いたあと、EB蒸着法にてCrを約200nm成膜する。続いて、フォトリソグラフィ技術によりレジストマスクを形成し、混酸クロムエッチャント(クロムエッチング液、関東化学製)でCrをエッチングすることで、犠牲層13のパターンを形成する。
【0030】
次に、犠牲層13上に振動膜8を形成する工程を説明する(図2−2(h))。振動膜8となるSiN膜の成膜工程は、振動膜8をプラズマCVD法にて成膜する。この工程での条件は、好ましくは次の通りである。基板加熱温度350℃、チャンバ圧力1.6Torrで、SiH、N、NHの混合ガス中にて、約200秒間成膜し、膜厚約440nmのSiN膜を形成する。続いて、上部電極となる第2の電極9と貫通配線4との接続部を形成するため、CFをエッチングガスとしたドライエッチングで、上部電極の取出し部の振動膜と絶縁膜15をエッチングする(図2−2(i))。
【0031】
次に、上部電極となる第2の電極9を形成する工程を説明する(図2−3(j))。この工程の条件は、好ましくは次の通りである。上部電極となるTi膜の成膜工程は、EB蒸着法にて行う。真空度2.5×10−4Paにて100nmのTi膜の成膜を行う。更にフォトリソグラフィ技術によりレジストマスクを形成する。また裏面のTi保護用のレジストを形成する。更にTiエッチング液(WLC−T、三菱ガス化学製)にてTiのエッチングを行うことで、上部電極9のパターンを形成する。
【0032】
続いて、間隙7となる犠牲層13を除去する工程について説明する(図2−3(k))。まず、フォトリソグラフィ技術にて形成したレジストマスクを設け、CFをエッチングガスとしたドライエッチングを用いて、犠牲層13をエッチングするためのエッチング孔を振動膜8に形成する。図2−3(k)では、図の簡略化のためにエッチング孔の記載は省略してある。更に、犠牲層のエッチング液である混酸クロムエッチング液に浸漬することで、エッチング孔を介して犠牲層13を選択的に除去し、間隙7を形成する。犠牲層13が完全に除去された後、十分に水洗を行い、イソプロピルアルコールにて水との置換を行い、最後にフッ素系の低表面張力溶剤(HFE7100、住友3M製)にて乾燥させることで間隙7が形成される。
【0033】
次に、間隙7を形成したエッチング孔を封止する工程について説明する(図2−3(l))。エッチング孔が形成された振動膜8上にプラズマCVD法にて封止膜10を成膜する。この工程の条件は、好ましくは次の通りである。基板加熱温度350℃、チャンバ圧力1.6Torrで、SiH、N、NHの混合ガス中にて、約320秒間成膜し、膜厚約700nmのSiN膜10を形成する。この工程により封止された間隙7は、上記チャンバ圧力と同程度の圧力の空隙となる。
【0034】
最後に、裏面のプロセスでの保護用Ti膜を除去し、貫通配線4にアンダーバンプメタルを形成する(図2−3(m))。Ti膜の除去工程では、Ti膜と貫通配線を形成するCuにエッチング選択性のあるエッチング液であるTiエッチング液(WLC−T、三菱ガス化学製)にてTiのエッチングを行う。このことで、Cuとの選択比を十分に保ったまま裏面のTi膜(保護材料12)のみを除去することができる。更に、ステンシルマスクを用いて、アンダーバンプメタル5となるAu/Ni/Ti膜を貫通配線4と接する部分に形成することで、CMUTが完成する。
【0035】
以上のような工程で作製すれば、貫通配線を形成することで発生することがある貫通配線と基板との段差の影響を受けず、表面が平坦な基板の構造体上に電気機械変換装置を作成・展開できるため、性能ばらつきを低減したものが作製できる。
【0036】
(実施例2)
実施例2を説明する。本実施例の製造方法では、低抵抗のSi基板上に感光性の特徴を持つ樹脂もしくはガラス材料を塗布することで絶縁層である絶縁性の部材を形成する。そして、それに貫通孔をパターニングすることで貫通配線が接続された基板の構造体上に、CMUTを作製する。
【0037】
本実施例では、感光性の樹脂材料としてポリイミド(東レ株式会社、旭化成株式会社、日立化成株式会社製などの市販品)を用いる。また、ここでは感光性の樹脂材料としてポリイミドを用いたが、KI−1000シリーズ(日立化成株式会社製)、TMMR(東京応化株式会社製)、SU−8(化薬マイクロケム製)なども用いることができる。更には、感光性のドライフィルム(日立株式会社製、旭化成株式会社製、東京応化株式会社製などの市販品)も使用することができる。但し、プラズマCVDで成膜する振動膜8のSiN膜の成膜工程では、それぞれの樹脂材料の耐熱温度に対して、成膜条件を調整する必要がある。本実施例では、振動膜8の成膜温度を350℃としたが、300℃以上であれば、良好な機械的性能、絶縁性能を持つ振動膜が形成可能である。
【0038】
図3に本実施例のプロセスフローを示す。まず、基板に貫通配線を接続するプロセスについて説明する。図3(a)は、本実施例で用いる基板1であり、抵抗率が低いSi基板である。基板1は第1の電極を兼ねるため、実施例1と同様に表面粗さが小さく、低効率が低いものが望ましい。具体的には、Rmsが0.5nm以下であり、抵抗率が0.02Ωcm以下のものが望ましい。
【0039】
続いて、基板1に、熱酸化膜である絶縁層15を1μmを形成し、更に基板裏面にオーミックコンタクトを取るためのオーミック金属2を成膜及びパターニングで形成する。本工程は実施例1の図2−1(a)、(b)と同様である。次に、貫通配線を備える絶縁性の部材14となる感光性ポリイミド溶液をスピンコート法で基板1の裏面に50μmの厚さで均一に塗布し、ホットプレートで加熱乾燥する。更に、フォトリソグラフィ技術により、フォトマスクを介して露光を行い、TMAH(テトラメチルアンモニウムハロライド)2.38%の現像液で現像することで、オーミック金属2に合わせて貫通孔を形成する。続いて、イミド化を促進させるために300℃の窒素雰囲気中で加熱硬化させることで、絶縁性の部材に貫通配線4のための貫通孔を設ける工程が完了する。
【0040】
以上のように設けた貫通孔に、実施例1の図2−1(d)と同様の工程で、金属を充填すれば、本工程までで貫通配線4が接続された基板の構造体が形成される。以後の工程は、実施例1の図2−1(e)〜図2−3(m)と同様の工程を基板の構造体上に展開すれば、貫通配線4を有するCMUTが形成される。
【0041】
以上のような工程によっても、貫通配線を形成することで発生することがある貫通配線と基板との段差の影響を受けず、表面が平坦な基板の構造体上に電気機械変換装置を作成・展開できるため、性能ばらつきを低減したものが作製できる。
【符号の説明】
【0042】
1・・基板(第1の電極、下部電極)、3、14・・絶縁性の基板ないし部材(絶縁性部分)、4・・貫通配線、6・・エレメント分離溝、7・・間隙(空隙)、8・・振動膜、9・・第2の電極(上部電極)、11・・セル、13・・犠牲層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
貫通孔を備える絶縁性部分が導電性基板に接合された構造体を得る工程と、
前記貫通孔に導電性材料を充填して前記導電性基板と電気的に接続する貫通配線を形成する工程と、
前記導電性基板を第1の電極とし、前記絶縁性部分のある側と反対の側の前記第1の電極上に、それぞれ、複数の間隙を介して、前記第1の電極と対向する第2の電極を含む複数の振動膜部を形成し、複数のセルを形成する工程と、
を含むことを特徴とする電気機械変換装置の製造方法。
【請求項2】
前記構造体を得る工程は、前記導電性基板に、前記貫通孔を形成した前記絶縁性部分である絶縁性基板を接合する工程を含むことを特徴とする請求項1に記載の電気機械変換装置の製造方法。
【請求項3】
前記構造体を得る工程は、前記導電性基板に感光性の絶縁性部分を形成して接合する工程と、前記感光性の絶縁性部分に前記導電性基板に達する前記貫通孔を形成する工程を含むことを特徴とする請求項1に記載の電気機械変換装置の製造方法。
【請求項4】
更に、少なくとも1つの前記セルを含むエレメント毎に前記第1の電極を電気的に分離する工程を含むことを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の電気機械変換装置の製造方法。
【請求項5】
前記第1の電極から電気的に分離された前記導電性基板の部分であって前記貫通配線の何れかと電気的に接続する部分を形成し、複数の前記エレメントに対して前記第2の電極を共通として該共通の第2の電極を前記部分と電気的に接続する工程を含むことを特徴とする請求項4に記載の電気機械変換装置の製造方法。
【請求項6】
前記振動膜部は、前記間隙を介して設置された振動膜と、該振動膜上に形成された第2の電極を有することを特徴とする請求項1から5の何れか1項に記載の電気機械変換装置の製造方法。
【請求項7】
前記エレメント毎に分離された前記第1の電極の1つに対し、1つ以上の前記貫通配線を電気的に接続することを特徴とする請求項1から6の何れか1項に記載の電気機械変換装置の製造方法。
【請求項8】
前記導電性基板は、抵抗率0.02Ωcm以下のSi基板であることを特徴とする請求項請求項1から7の何れか1項に記載の電気機械変換装置の製造方法。
【請求項9】
導電性基板の第1の電極上に、それぞれ、複数の間隙を介して、前記第1の電極と対向する第2の電極を含む複数の振動膜部を設置して形成された複数のセルを有し、
前記第1の電極には、前記間隙のある側と反対の側に絶縁性部分が接合され、
前記絶縁性部分には、前記第1の電極と電気的に接続された貫通配線が形成されていることを特徴とする電気機械変換装置。
【請求項10】
前記第1の電極は、少なくとも1つの前記セルを含むエレメント毎に分離されており、
前記絶縁性部分には、前記エレメント毎に分離された前記第1の電極それぞれに電気的に接続される複数の貫通配線が形成されていることを特徴とする請求項9に記載の電気機械変換装置。

【図1】
image rotate

【図2−1】
image rotate

【図2−2】
image rotate

【図2−3】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2013−51459(P2013−51459A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−186731(P2011−186731)
【出願日】平成23年8月30日(2011.8.30)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】