説明

電気泳動用濾紙の湿潤装置

【課題】電気泳動用濾紙に適量の電解液を均等に湿潤させることのできる湿潤装置を提供すること。
【解決方法】電気泳動用濾紙90(以下、単に「濾紙90という」を濾紙載置部40に載置した後、電界液を含浸している多孔性材料の湿潤ローラ11を、濾紙90の上を接触させながら回転移動させることにより、適量の電解液を濾紙90に湿潤させる。湿潤ローラ11から過剰の電界液が供給されて、濾紙90の吸収能力を上回った場合には、濾紙90の表面に広がった電界液は、湿潤ローラ11表面の多孔質材料50により吸収されるので、濾紙90に適量の電解液を湿潤させることが可能となる。また、濾紙90全体を電界液中に浸漬するのではなく、片面から電解液を供給して湿潤させるので裏面が濡れていない。そのため、ロボットアーム等による搬送等、湿潤処理後の濾紙90の取り扱いが容易である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、濾紙を用いて電気泳動による検査を行う濾紙電気泳動に関するものであり、より詳しくは、電気泳動検査を行うために、電気泳動用濾紙に電解液を均一に湿潤させる電気泳動用濾紙の湿潤装置に関する。電気泳動用濾紙としては、主としてセルロースアセテート膜が使用される。
【背景技術】
【0002】
電気泳動を用いた測定には、ゲルを用いるものと濾紙を使用するものがある。正確な検査には、取り扱いが容易で良好なゲルまたは濾紙等の担体を提供することが望まれる。例えば、ゲルを用いる場合には、一泳動時に使用されるのに必要な量の担体用部材又は緩衝液を可撓性部材により密封した密封体が提案されている(特許文献1)。
【0003】
濾紙電気泳動法では、主としてセルロースアセテート等の膜を使用する市販の電気泳動用濾紙を、使用の際に電解液を浸して、均一に湿潤させることにより使用している。この際、電気泳動用濾紙の湿潤に斑ができると、正確な検査を行うのに不適である。そのため、使用する電気泳動用濾紙を一枚ずつ慎重に電解液槽につけて、均一な湿潤を行っていた。また、このような手作業では、湿潤にバラツキが発生し易く、また湿潤作業が繁雑であるので、電気泳動用濾紙をベルトコンベアの上に載せて、電解液層中を一定速度で潜らせることにより、電解液を湿潤させる装置も利用されている。
【特許文献1】特開2004−132906号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ゲルを用いた電気泳動法では、特許文献1のような密封体が提案されているが、従来技術の濾紙に電解液を湿潤させる装置では、コンベアの上に電気泳動用濾紙を載せて電解液中を潜らせることから電気泳動用濾紙全体が過度に濡れすぎてしまうため、電解液が適度に乾くまで電気泳動用濾紙を使用することができない。そのため、電気泳動用濾紙を湿潤させた後に、電気泳動用濾紙を適度に乾燥させるための乾燥時間が必要となるという問題があった。
【0005】
さらに、例えば夜間等に、電気泳動検査を無人状態で自動的に遂行させるためには、これらの電気泳動用濾紙を必要なときに適宜湿潤させて検査を行わなければならないが、従来技術による湿潤装置では、検査の自動化が困難である。
【0006】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、電気泳動法に使用する濾紙に適度の量の電解液を均一に湿潤させることのできる濾紙湿潤装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明においては、多孔性材料により構成された湿潤ローラ中に電解液を保持させておき、該湿潤ローラを電気泳動用濾紙の上面に接触させながらスリップしないように回転させることにより、上記従来技術の問題点を解決した。
【0008】
本発明の請求項1にかかる電気泳動用濾紙の湿潤装置は、電気泳動用濾紙を載置する濾紙載置部と、少なくとも表面部が多孔性材料からなる円柱上の湿潤ローラと、前記回転ローラの表面に電解液を供給する電解液供給部と、前記載置台に載置された電気泳動用濾紙の上面に前記湿潤ローラの表面を接触させて、該湿潤ローラを回転させながら、前記電気泳動用濾紙に前記電解液を均一に湿潤させるローラ駆動部と、を備えることを特徴とする。湿潤ローラの回転は、湿潤ローラを電気泳動用濾紙に沿って横方向に移動する際の湿潤ローラ表面と電気泳動用濾紙の上面との接触摩擦によるものであっても、モータ等により回転駆動するものであっても良い。
【0009】
請求項1にかかる電気泳動用濾紙の湿潤装置は、湿潤ローラを多孔性材料により構成することにより、電気泳動用濾紙の吸収能力以上の多量の電界液が電気泳動用濾紙に供給され、電気泳動用濾紙の表面上に電界液が広がったときには、湿潤ローラの表面の多孔性材料による表面張力等の吸引力により多孔性部材が電気泳動用濾紙上の電界液を吸い上げるため、電気泳動用濾紙が必要以上に濡れ過ぎることを防止でき、適正量の電解液を濾紙に供給することが可能となる。また、電気泳動用濾紙を電解液中に浸漬させることなく、電気泳動濾紙の表面から湿潤処理を行うので、裏面は濡れることがない。そのため、湿潤処理後すぐにロボットアーム等で濾紙の裏面を持ち上げて搬送することや、コンベア搬送等の搬送処理を行うこと、及び電気泳動処理検査を迅速に開始することが可能となる。
【0010】
本発明の請求項2にかかる電気泳動用濾紙の湿潤装置は、前記湿潤ローラが一回転する前に前記電気泳動用濾紙の湿潤処理を完了することを特徴とする。
このように、電気泳動用濾紙に対する湿潤ローラ面の一度の回転接触により電気泳動濾紙の湿潤処理を完了させることにより、電気泳動用濾紙均一な湿潤処理が可能となる。すなわち、湿潤ローラが一回転以上して電気泳動用濾紙に電界液を供給する場合には、既に一回転目の接触で多孔性材料に蓄積された電界液は電気泳動用濾紙に供給されて失われており、2回転目の接触では多孔性材料に蓄積されている電解液が不足して湿潤斑が発生するおそれがある。そのため、少なくとも1回転以内で湿潤対象となる電気泳動用濾紙の湿潤処理を完了させることができるように、電気泳動用濾紙の最大長さに合わせて湿潤ローラの径を設定することが望ましい。
【0011】
本発明の請求項3にかかる電気泳動用濾紙の湿潤装置は、前記ローラ駆動部が、前記湿潤ローラが電気泳動用濾紙の表面上をスリップすることなく回転移動するように、横方向の移動速度と回転速度とを同期させるように駆動することを特徴とする。
【0012】
本発明の請求項4にかかる電気泳動用濾紙の湿潤装置は、前記濾紙載置部が、表面に吸引部を備えており、電気泳動用濾紙を濾紙載置部に固定することを特徴とする。このように、濾紙載置部の上面に、真空引きするための吸引部を設けることにより、載置された電気泳動用濾紙を吸着保持することができる。吸引部は、少なくとも、電気泳動用濾紙へ湿潤処理の際には吸引を行い、電気泳動用濾紙を濾紙載置部上にしっかりと固定する。これにより、湿潤処理中に電気泳動用濾紙が動いてしまうことによる湿潤斑の発生を防止することができる。吸引部の吸引は、湿潤処理のときに限らず、電気泳動用濾紙を濾紙載置台に載置するときの他、電気泳動用濾紙を保持する必要に応じて、いつでも吸引するように構成することができる。
【0013】
本発明の請求項5にかかる電気泳動用濾紙の湿潤装置は、前記濾紙載置部の両端支持部と中央支持部が相対的に上下動可能であり、前記湿潤ローラによる湿潤処理の開始前及び湿潤処理の完了後は、前記両端支持部が前記両端支持部以高い低い位置であり、前記湿潤処理の際には、前記両端支持部及び前記中央支持部の高さが同じ平坦な面となるように 前記両端支持部または前記中央支持部とを相対的に上下動させることを特徴とする。
【0014】
このように、湿潤処理を行っていないときには、濾紙載置台の中央部が低い位置にあり、両端支持部により電気泳動用濾紙が支えられる構造となっている。従って、中央部の低い位置にロボットアームを挿入することにより、電気泳動用濾紙を載置し、または取り出すことが可能となる。また、湿潤処理の際には、両端支持部と中央支持部が相対的に上下動して同じ高さの平坦な面となるため、湿潤ローラが電気泳動用濾紙に均一に接触することが可能となり、均一な湿潤処理が可能となる。
【0015】
本発明の請求項6にかかる電気泳動用濾紙の湿潤装置は、前記湿潤ローラが上下動可能であり、前記ローラ駆動部は、前記濾電気泳動用紙に前記電界液を湿潤させるときには、前記湿潤ローラを下ろして前記湿潤ローラの表面の一部を前記電気泳動用濾紙一端部に接触させて該湿潤ローラを回転させながら前記電気泳動用濾紙の表面上を前記電気泳動用濾紙の他端部まで移動させ、その後前記湿潤ローラが前記電気泳動用濾紙と接触しないように前記湿潤ローラを上方に移動させて、前記湿潤ローラを元の位置に戻すことを特徴とする。
【0016】
このように、戻りは電気泳動用濾紙より高い位置に湿潤ローラを持ち上げることにより、湿潤ローラが電気泳動用濾紙に2回以上接触しないようにし、湿潤むら対する湿潤ローラの一度の回転接触により湿潤処理を完了させることにより、戻りの工程で湿潤斑が発生することを防止する。
【0017】
本発明の請求項7にかかる電気泳動用濾紙の湿潤装置は、前記湿潤ローラは、所定の間隔で配置された多数の貫通穴を備える中空状の中空円柱部を備え、前記電界液供給部から前記中空円柱部に電解液が供給されることを特徴とする。このように、湿潤ローラの内部から電解液を供給することにより、常に湿潤ローラに均等に電解液を供給することが可能となる。
【0018】
本発明の請求項8にかかる電気泳動用濾紙の湿潤装置は、前記中空円柱部に設けられる前記開口穴の大きさが、前記電解液供給部からの距離が離れるに従い大きくなることを特徴とする。電界液は電界液供給部に近いところから順に湿潤ローラの多孔性材料に吸収されるので、電解液供給部からの距離が離れるに従い電界液量は少なくなる。従って、このように、電解液供給部からの距離が離れるに従い開口穴の大きさが大きくなるように構成することにより、電界液供給部からの近い位置では小さい開口穴として中空円柱部の外に漏れにくくし、距離が離れるに従い開口穴を大きくして多孔性材料部に電界液が供給されやすくする。これにより、電界液供給部に近い位置と離れた位置における多孔性材料への電解液の供給量ができるだけ均等になるようにしている。
【0019】
本発明の請求項9にかかる電気泳動用濾紙の湿潤装置は、前記中空円柱部に設けられた多数の前記開口穴の密度が、前記電解液供給部からの距離が離れるに従って大きくなることを特徴とする。同様に、開口部の密度を電界液供給部に近い位置を粗にし、離れた位置の開口部の密度を密にすることにより、電界液供給部に近い位置と離れた位置における多孔性材料への電解液の供給量ができるだけ均等になるようにしている。
【0020】
本発明の請求項10にかかる電気泳動用濾紙の湿潤装置は、前記電界液供給部は、前記湿潤処理開始前において前記湿潤ローラ11の少なくとも一部を浸す電解液層を備えていることを特徴とする。このように、湿潤ローラの一部が電界液槽に浸漬されていることにより、短い時間で多孔質層に電解液を蓄積させることが可能となる。これにより、複数の電気泳動濾紙の連続湿潤処理を高速で行うことが可能となる。湿潤ローラ表面の電解液の蓄積をできるだけ均等にするためには、湿潤処理待機中であっても、湿潤ローラの一部を電界液槽に湿潤させた状態で、一定速度で回転させておくことが望ましい。回転速度は、待機中はゆっくり、連続蓄積処理の際には、多孔質材料の吸収速度を考慮して、電界液を吸収可能な最高速度で回転させることが望ましい。また、電解液層への湿潤と、湿潤ローラ中心部への電解液の供給等の他の供給構造を組み合わせて用いることも可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の電気泳動用濾紙の湿潤装置を、図面を用いて詳細に説明する。図1は、本発明による電気泳動用濾紙の湿潤装置の一実施例を示す斜視図であり、図2及び図3はその動作を示す斜視図である。図4は、図2(a)の状態を矢視A方向から見た図(正面図)を示している。これらの図1乃至図3では、構造を分かり易く示すために、一部を省略して示している。図5及び図6は、湿潤ローラ11の上下動作機構を説明するための模式図である。
【0022】
図1乃至図3に示す本発明の一実施例にかかる電気泳動用濾紙の湿潤装置10では、電解液供給部の一部及び湿潤ローラの駆動構造等を省略して示している。図中、11は湿潤ローラであり、湿潤ローラ11の両端を支えている2つの支持部を備えるブロック構造体は、湿潤ローラ11を両端で支持しながら電気泳動用濾紙(以下、特に必要がない場合には単に「濾紙」と称する)の上を移動することができるように設けられた支持ブロック20である。支持ブロック20はシャーシ69に取り付けられた2つの摺動軸25に摺動可能に支持されており、濾紙載置部40に両側面に沿って、移動可能である。
【0023】
濾紙載置部40は、濾紙が載置されたときに濾紙の両端を支える両端支持部41と、両端以外の中央部分を支える中央支持部42とを備えている。両端支持部41は、上下動可能な可動支持台43に固定されており、可動支持台43はバネ45等の弾性部材により上方向に付勢されている。従って、図1に示す、待機時には、両端支持部41が中央支持部42よりも高い位置にあり、中央支持部42が窪んだ状態となっている。そのため、濾紙90が載置されたときに、濾紙と央支持部42の間に空間ができる(図2(a)参照)。これにより、後述するロボットアーム等により、濾紙90を濾紙載置台40に載置しまたは濾紙載置台40から濾紙90を取り出すことが可能となる。
【0024】
すなわち、ロボットアーム等により濾紙90を運搬する場合、ロボットアーム等により濾紙90を下から持ち上げる。このようにしてロボットアームにより運ばれてきた濾紙90は、濾紙90の両端が両端支持部41にかかるように橋渡し状態で載置された後、中央支持部42の上の空間部分からロボットアーム等が抜き取られる。その後、電解液の湿潤処理の際には、両端支持部41が下がりまたは中央支持部42が持ち上がり、両端支持部41及び中央支持部42の高さが同じになって平坦な面となる。その後、湿潤ローラ11による湿潤処理が開始される。このように湿潤処理の際には、濾紙90は平坦な面で支持されているので、濾紙90の撓み等による湿潤の斑を防止可能となり、均一な湿潤処理を行うことが可能となる。
【0025】
また、左右の両端支持部41の上面には、真空引きするための吸引溝48が設けられている。これにより、濾紙90を両端支持部41に吸着保持することができる。少なくとも、濾紙90へ湿潤処理の最中には吸引溝48によりエアの吸引が行われ、濾紙90を濾紙載置台40上にしっかりと固定する。これにより、湿潤処理中に濾紙90が動いてしまうことによる湿潤斑の発生を防止することができる。吸引溝48による吸引は、湿潤処理のときに限らず、濾紙90を濾紙載置台に載置するときの他、濾紙90を保持する必要に応じて、いつでも吸引させることができる。尚、本実施例では、吸引溝48により吸引することとしているが、溝ではなく、複数の吸引口を設けてもよい。また、中央支持部42に吸引口(図示せず)を設けるようにしてもよい。
【0026】
濾紙90の湿潤処理が完了すると、両端支持部41が再び持ち上がりまたは中央支持部が下がり、再び図1の状態となる。従って、中央支持部42の上部の空間にロボットアーム等を挿入して、濾紙90を掬い上げるように持ち上げることが可能となる。このようにして、ロボットアーム等により、濾紙90の載置、取り出し及び搬送が可能となるので、電気泳動用濾紙を用いた検査の自動化が可能となる。
【0027】
本発明では、回転可能な湿潤ローラ11を用いて濾紙90に適度の量の電解液を均一に湿潤させている。濾紙90は、濾紙載置台40上に載置された後、湿潤ローラ11の表面が濾紙90の表面に接触するように水平方向に駆動される。湿潤ローラ11は円柱形状であり、中央の軸を中心に回転可能な構造となっている。湿潤ローラ11は、その表面が濾紙90の表面に接触して濾紙90の表面上を回転しながら、濾紙90の上を移動する。これにより、多孔性材料からなる湿潤ローラ11から適度の電解液が濾紙に移動して、濾紙90を湿潤させる。
【0028】
(湿潤処理動作)
図2及び図3を用いて、まず、図1に示す電気泳動用濾紙の湿潤装置10による湿潤処理動作を説明する。図2(a)は、濾紙90が載置された直後の状態を示している。この状態で、湿潤ローラ11は、濾紙載置台部40の両端支持部41の上端位置よりも高い位置にある。
【0029】
濾紙90の湿潤処理が起動されると、支持ブロック20が駆動部67(図4参照、詳細については後述する)により、濾紙載置台40方向に駆動される。これにより、図2(b)に示すように、支持ブロック20に支持されている湿潤ローラ11は支持部ブロック20とともに、濾紙載置台40の方に移動する。それとともに、湿潤ローラ11は、濾紙90の上面に接触する所定に位置まで下降する。この下降のメカニズムについては、後述する。
【0030】
支持ブロック20がさらに移動すると、図2(c)に示すように、支持ブロック20の係合部21が、両端支持部41を支持している可動支持台43の傾斜面44と係合する。係合部21と傾斜面44とが係合した状態で、支持ブロック20がさらに移動することにより、可動支持台43に下方向の力が働く。この下方向の力が可動支持台43を支える弾性部材(実施例ではバネ45)の弾性力より大きくなると、可動支持台43は下降する。両端支持部41は、可動支持台43に固定されているので、可動支持台43の下降に伴い、両端支持部41も下降する。係合部21が可動支持台43の傾斜面44を過ぎて水平面に到達すると、下方向への力はなくなるので、この位置で両端支持部41の下降は終了する。この状態で両端支持部41と中央支持部42が同じ高さとなるような構造に調整されている。
【0031】
尚、湿潤ローラ11の下降時(湿潤処理時)の高さも、この両端支持部41と中央支持部42とが平坦な面となったときの高さに濾紙90の厚みを加味して、湿潤圧力が最適となるような高さに調整される。
【0032】
この状態で、図2(d)に示すように、湿潤ローラ11が回転しながら濾紙90の上面を移動して濾紙90に電解液を供給し、濾紙90を適度に湿潤させる。このとき、湿潤ローラ11は、湿潤ローラ11を横方向に移動させる際の湿潤ローラ11表面と濾紙90の上面との接触摩擦により回転するようにしても良いが、好ましくは、湿潤ローラ11の横方向の移動と同期させながらモータ等により湿潤ローラ11を回転駆動することが好ましい。いずれによる回転駆動であっても、濾紙90の上面と湿潤ローラ11の表面との間に滑り(スリップ)が発生しないようにすることが望ましい。また、湿潤ローラが一回転する前に、濾紙90全体への湿潤処理を完了することができるように、湿潤ローラ11の径を設定することが望ましい。
【0033】
湿潤ローラ11は、少なくともその表面部分が、ポリビニールアルコール等の多孔性部材により構成されており、多孔性部材に対して電解液が順次供給されている。このように、湿潤ローラ11を多孔性材料により構成することにより、濾紙90の湿潤能力以上の多量の電界液が濾紙供給され、濾紙の表面上に電界液が広がったときには、湿潤ローラ11の表面の多孔性材料による表面張力等の吸引力により多孔性部材が濾紙上の電界液を吸い上げるため、濾紙が必要以上に濡れ過ぎることを防止でき、適正量の電解液を濾紙90に供給することが可能となる。湿潤ローラ11への電解液の供給方法については、後述する。
【0034】
支持ブロック20は、図3(a)に示すように、湿潤ローラ11が濾紙載置台40を通り過ぎるまで移動する。支持ブロック20が、図3(b)に示す所定の終点位置まで移動すると、支持ブロック20は、駆動部67により、これまでとは逆に、元の位置に戻るように駆動される。支持ブロック20が逆方向に戻る動作を開始する初期移動時において、図3(c)に示すように、今度は湿潤ローラ11が上方に持ち上げられる。支持ブロック20は、このように湿潤ローラ11を持ち上げた状態で逆方向に移動し、図3(d)に示すように元の位置まで戻る。このように、湿潤ローラ11を持ち上げた状態で戻ることにより、復路において湿潤ローラ11が濾紙90に接触することを防止し、濾紙90の湿潤斑の発生を防止することができる。復路の移動開始時における湿潤ローラ11の持ち上げ動作機構についても後述する。
【0035】
(湿潤ローラの上下動機構)
湿潤処理の開始直前に湿潤ローラ11を下降させ、湿潤処理終了後の復路において湿潤ローラ11を持ち上げる機構の一例を、図1、図5及び図6を参照しながら説明する。図5及び図6は、湿潤ローラ11と支持ブロック20及びローラ回動部30a、30bにおける係合部材31a、31bの関係を示す模式図である。図5及び図6では、説明を分かり易くするため、ローラ回動部30a、30bについては、係合部材31a、31bと、弾性部材(バネ34、35)のみしか示していない。
【0036】
動作の説明の理解を容易にするため、まず、図1における湿潤ローラ11の回動機構を説明する。湿潤ローラ11の支持軸の左端には、第1の回動アーム12が設けられている。第1の回動アーム12は、支持ブロック20に取り付けられている回転軸13に固定されており、回転軸13にはさらに反対側に第第2の回動アーム14が固定されている。第2の回動アーム14の先端には、2つのストッパ22aと22bと係合するアーム端部15が設けられている。アーム端部15は、2つのストッパ22aと22bの間のみを回動可能であり、アーム端部15が2つのストッパ22aと22bの間を回動することにより、湿潤ローラ11は、下降しまたは上方に持ち上げられる。
【0037】
さらに、第1の回動アーム12に設けられたピン16と、支持ブロックに設けられたピン23にバネ24が装架されている。第1の回動アーム12と第2の回動アーム14は、湿潤ローラ11と回転軸13とアーム端部15が三角形を構成するような位置関係に設けられ、ピン23は、湿潤ローラ11が図5(a)の位置にあるときに、ピン16に向かう線が、第1及び第2の回動アーム12、14の回転軸13の位置より僅かに外側にずれた位置になるように設けられる。これにより、図5(a)に示す初期状態では、バネ24の弾性力により、湿潤ローラ11は反時計方向に付勢されており、アーム端部15がストッパ22bに係合して当接した状態で停止している。アーム端部15がストッパ22bに当接している位置において、湿潤ローラ11が最も高い位置に移動した状態となる。
【0038】
次に、図4乃至図6を用いて、シャーシ69に固定されているローラ回動部30a、30b(図1参照)の構造の概略を説明する。図4は、図2(a)の状態を矢視Aの方向から見た図である。湿潤ローラ11は、ローラ回動部30aまたは30bの機構により、下降されまたは持ち上げられる。図4の状態は、図2(a)に示すように、湿潤処理前で湿潤ローラ11が最も高い位置に持ち上げられている状態を示している。
【0039】
ローラ回動部30a、30bは、それぞれ係合部材31a、31bを有している。また、各係合部材31a、31bは、それぞれ反対方向向きの斜面36,37を有している(図5,図6を参照)。また、係合部材31a、31bはスリット32を有しており、該スリット32には、ローラ回動部30a、30bに固定された支持ピン33が挿入されている。さらに、係合部材31a、31bは、上方向により強い力で付勢されているバネ(弾性部材)34,35により、上下双方向に付勢されている(図4参照)。従って、係合部材31a、31bは、上方向引き寄せられた状態で、スリット32に沿って上下動可能に、ローラ回動部30a、30bに取り付けられている。
【0040】
図4中、65は、湿潤ローラ11を回転させるモータである。回転用モータ65としては、正確な回転駆動を行うために、ステッピングモータ等を用いることが望ましい。回転用モータ65の回転は、回転ベルト66により湿潤ローラに伝達される。67は、支持ブロック20を横方向に移動させるための横駆動用モータである。横駆動用モータ67の回転力は横移動ベルト68を介して支持ブロック20に伝達される。これにより、後述するように、支持ブロック20が濾紙載置台40の方向に移動する。回転駆動及び横方向の駆動については、さらに後述する。
【0041】
以上の構成を元にして、まず、図1、図5、及び図6を用いて、湿潤ローラ11の下降動作について説明する。図5は、湿潤ローラ11を下降させる動作を説明するための模式図であり、概ね、図5(a)の状態が図2(a)の位置に対応し、図5(b)と(c)の状態が図2(c)の位置に対応し、図5(d)の状態が図2(c)の位置に対応する。
【0042】
先に説明したように、 図5(a)の状態、すなわち湿潤処理開始前の状態では、バネ24の弾性力により、湿潤ローラ11は上方向に付勢されており、ストッパ22bにより、アーム端部15の動きが停止されているので、湿潤ローラ11が持ち上げられた状態で維持されている。この状態で、支持ブロック20が図5(a)において右方向に移動すると、図5(b)に示すように、ローラ回動部30aの係合部材31aの斜面36に係合する。
【0043】
この状態で支持ブロック20がさらに右方向に移動すると、アーム端部15は係合部材31aに押される。そのまま支持ブロック20が右方向に移動し続けると、アーム端部15が係合部材31aに押されて、第2の回動アーム14及び第1の回動アーム12は回転軸13を中心に時計方向に回転し、アーム端部15は左方向に移動し続ける。この第1の回動アーム12の回転により湿潤ローラ11は徐々に下降していく。支持ブロック20がしばらく右方向に移動すると、図5(c)に示すように、アーム端部15の左方向の移動は、ストッパ22aにより停止され、第1の回動アーム12及び第2の回動アーム14の時計方向の回転も停止する。
【0044】
ストッパ22aにより停止された位置が、湿潤ローラ11の最大下降位置である。また、このとき、ピン16とピン23を結ぶ線は、回転軸13の内側を通過する状態となっている。従って、バネ24の弾性力により、今度は湿潤ローラ11が下降した状態に維持されることとなる。
【0045】
アーム端部15がストッパ22aにより停止された状態で支持ブロック20がさらに右方向に移動すると、係合部材31aは係合部材停止片39aにより右方向の移動が規制されているため、アーム端部15と係合している斜面36により係合部材31aを下方に押し下げる力が発生する。この下方へ押し下げる力がバネ(弾性部材)34の力に抗して、係合部材31aを下方に押し下げる。その後は、アーム端部15は、係合部材31aの上面38を通過していく。すなわち、以後、湿潤ローラ11はバネ24の弾性力により最大下降位置の状態を維持したまま、右方向に移動していき、図2(d)、図3(a)、図3(b)の状態に至り、その後支持ブロック20は、反対方向(左方向)に移動するように駆動される。
【0046】
次に、図6を用いて、復路の初期工程において湿潤ローラ11を持ち上げる動作について説明する。図6は、復路における湿潤ローラ11の動きを示す模式図であり、図6(a)は左方向最大移動位置を示している。また、概ね、図6(b)が図3(b)の位置に対応し、図6(c)と図6(d)が図3(c)の位置に対応する。
【0047】
図6(a)の位置から支持ブロック20が左方向に移動し、図6(b)の位置まで移動すると、アーム端部15が、ローラ回動部30bの係合部材31bの斜面37と係合する。さらに支持ブロック20が左方向に移動すると、アーム端部15は斜面37により右方向に押されて、第1の回動アーム12、第2の回動アーム14が回転軸13を中心に回転する(図中の白抜矢印方向)。これにより、湿潤アーム11は、徐々に上方向に持ち上げられる。
【0048】
さらに支持ブロック20が左方向に移動すると、図6(c)に示すように、アーム端部15の移動はストッパ22bにより停止される。この位置が湿潤ローラ11の最大持ち上げ位置である。このとき、ピン16とピン23を結ぶ線は、回転軸13の外側にあるため、湿潤ローラ11はバネ24の力により持ち上げられた状態がそのまま維持される。
【0049】
その後さらに支持ブロック20が左方向に移動すると、係合部材31bは係合部材停止片39bにより右方向の移動が規制されているため、アーム端部15により係合部材31bが押し下げられる。従って、湿潤ローラ11を持ち上げた状態のままで、アーム端部15は係合部材31bの上面38の上を通過し、元の位置(図1の位置)に戻り、図5(a)の状態となる。
【0050】
尚、図5(d)の状態から支持ブロック20がさらに移動すると、ローラ回動部30bの係合部材31bの傾斜面36(図1及び図6参照)に当接する。しかし、係合部材31bの右方向への移動は規制されていないので、係合片31bは右方向の力が加わると、支持ピン33を中心に回転する。これにより、支持ブロック20は係合部材31bを乗り越えて右方向へ移動可能である。この場合も、係合部材31bの右側に係合部材停止片(図示せず)を設けることにより、係合部材31bが下方向に移動するように構成してもよい。
【0051】
復路においても同様である。ローラ回動部30aの係合部材31aは、支持ブロック20が通過した後は、バネ34の力により上方に移動しているため支持ブロック20は復路において係合部材31aの傾斜面37と当接する。この場合も同様に、左方向の力により係合部材31aが支持ピン33を中心に左方向に回転することにより、支持部材20は係合部材31aを乗り越えて左方向に移動可能である。この場合も、係合部材31aの左側に係合部材停止片(図示せず)を設けることにより、係合部材31aが下方向に移動するように構成してもよい。
【0052】
(湿潤ローラの構造及び電解液の供給)
湿潤ローラに対する電解液の供給構造を図7及び図8に例示する。図7(a)は、湿潤ローラ11の一実施例の構造を説明するための斜視図である。図7(b)は、中空円柱部52の一部切り欠いてその内部構造を示す図であり、図7(c)は、中央断面図である。
【0053】
湿潤ローラ11の外側表面層50は、例えばポリビニールアルコール等の多孔質性材料により構成されており、その内部には外表面に多数の穴53が空けられており、内部が中空の中空円柱部52が設けられている。中空円柱部52の右端には電解液の供給源に接続され電解液を導入する供給管56が接続されている。中空円柱部52は外側表面層50の内部に固定されており、供給管56は中空円柱部52の中心軸の位置に、中空円柱部52及び外側表面層50が回転可能な構造で取り付けられている。
【0054】
図7(b)からわかるように、中空円柱部52の内部は空間55を有する中空状になっており、中空状の空間55に、供給管56から電解液が順次供給される。穴53は、中空円柱部52の円周方向、及び長さ方向に一定間隔で設けられており、この穴53を通じて、電解液が外側表面層50に供給される。外側表面層50は多孔性材料により構成されているので、電解液は外側表面層50の多くの孔に蓄えられる。外側表面層50の円周に均等に電解液を供給するためには、中空円柱部52及び外側表面層50からなる湿潤ローラ11は、回転していることが望ましい。尚、図7では、穴53を比較的大きく描いているが、電解液を左側奥まで供給するために、穴53は、比較的小さな穴とすることが好ましい。
【0055】
図8(a)乃至図8(d)は、湿潤ローラ11へ電解液を供給する構造の他の実施例を示す中央横断面図である。図8に示す実施例は、湿潤ローラ11の外部表面層50の長さ方向にできるだけ均一に電解液を供給するために、中空円柱部52の穴の位置や大きさ、及び供給管56の構造と配置を変えたものである。
【0056】
図8(a)に示す中空円柱部60は、供給管56に近い右端の穴53は小さく、左端の方に行くに従って徐々に穴53が大きくなっている。これにより、供給管56から供給された電解液ができるだけ左側の端まで供給されやすくなる。
【0057】
図8(b)に示す中空円柱部61は、穴53の大きさは同じであるが、軸方向の隣接する穴53の間隔が徐々に小さくなっている。このように電解液の供給源から遠くなる左側に行くに従って穴53の密度が高くなるので、湿潤ローラ11への長さ方向における電解液の供給量をできるだけ均等にすることが可能となる。
【0058】
図8(c)に示す湿潤ローラ11では、中空円柱部62の中央まで供給管56が挿入されており、中空円柱部62の穴53は、中央部が小さく外側両端部に向かうに従って大きな穴53となっている。このように、中空円柱部52の中央部で供給管56から電解液を供給することにより、左右の両端部までの距離を半分にすることができ、さらに穴53の大きさを外側になるほど大きくすることにより、より、均等な電解液の供給が可能となる。
【0059】
図8(d)に示す湿潤ローラ11では、中空円柱部52の中央を貫通するように供給管56bが配置されている。供給管56bには、中空円柱部52の長さ方向に沿って、複数の小さな供給穴57が設けられている。このように、供給管56bの小さな供給穴57から電解液を供給することにより、中空円柱部52の長さ方向により均等に電解液を供給することができ、ひいては外側表面層50の長さ方向に均等に電解液を供給することが可能となる。
【0060】
図9に、供給管56に電解液を供給する供給源の一例を示す。この例では、電解液を貯蔵する貯蔵部58aから、調整弁59により落下量を調整して一時滞留部58bに滴下し、供給管56に一定量の電解液を供給している。図9の例では、点滴のような構造で電解液を供給する例を示したが、コンプレッサ等により所定の圧力をかけて、定期的に所定量の電解液を供給管56から中空円柱部52に供給するように構成してもよい(図示せず)。
【0061】
以上説明したように、本発明にかかる電気泳動用濾紙の湿潤装置では、表面が多孔質の湿潤ローラ11を濾紙の表面に接触させて湿潤処理を行うので、もし、誤って濾紙90の吸収能力以上の過剰の電界液が濾紙90に供給されてしまうことにより濾紙90の表面上に電界液が広がったとしても、湿潤ローラ11の表面の多孔性材料50の毛管現象等の吸引力により電気泳動用濾紙上の電界液を多孔性で吸い上げるため、濾紙90が必要以上に濡れ過ぎることを防止でき、適正量の電解液を濾紙90に供給することが可能となる。
また、本発明にかかる電気泳動用濾紙の湿潤装置では、電気泳動用濾紙を電解液中に浸漬させることなく、湿潤ローラ11により濾紙90の表面から湿潤処理を行うので、濾紙90の裏面は濡れることがない。そのため、湿潤処理後すぐにロボットアーム等で濾紙90の裏面を掬い上げて濾紙90を移動させることやコンベア等による搬送処理を行うことができ、また電気泳動処理検査を迅速に開始することも可能となる。
【0062】
(第2の実施例)
本発明にかかる電気泳動用濾紙の湿潤装置の第2の実施例を、図10に示す。第1の実施例と異なるところは、第2の実施例においては、電解液槽47を備えている点である。電解液槽47には、所定量の電解液91が貯蔵されており、湿潤処理動作を開始する前のホームポジション(図10の位置)において、湿潤ローラ11が電解液槽47内に挿入されて、湿潤ローラ11の下側の一部が電解液91に浸された状態で待機している。このとき、湿潤ローラ11の濡れ具合を均一化するために、湿潤ローラ11をゆっくり回転させながら待機するように構成することが望ましい。また、通常は湿潤ローラ11を停止させておき、湿潤処理が起動されたときに、湿潤ローラ11を少なくとも一回転させてから、以下に説明する湿潤処理を実行するように構成しても良い。このように、湿潤ローラ11の一部を電解液槽47中で1回転以上回転させることにより、湿潤ローラ11内の孔に均等に電解液を含浸保持させることができ、湿潤ローラ11による濾紙表面への湿潤処理を均一化することが可能となる。
【0063】
電解液槽47は、濾紙載置台40の両端支持部41の端部から延びる槽支持部46に固定されており、両端支持部41の上下動作と連動して、上下に移動する。また、両端支持部41を支持している可動支持台43も前方に延びており、実施例1で示すタイミングよりも早い、湿潤ローラ11が下方に下降するよりも早いタイミングで、両端支持部41及び電解液槽47が下降するように構成されている。
【0064】
以下、図11(a)乃至(d)を用いて、待機状態から湿潤処理を開始する際の湿潤ローラ11と電解液槽47の動きを順次説明する。図11(a)は、待機状態を示す側面図である。この状態で、湿潤ローラ11の下部は、電解液槽47の電解液に浸かっている。前述したように、湿潤ローラ11の表面全体に均一に電解液を含浸させるためには、この状態で、湿潤ローラ11がゆっくり回転していることが望ましい。このように、湿潤ローラ11を電界液槽47で回転させることにより、湿潤ローラ11の表面についたゴミを除去することができ、湿潤ローラ11の表面をきれいな状態に保つことができる。
【0065】
湿潤処理が起動されて、支持ブロック20が右方向に移動されると、図11(b)は、支持ブロック20が右方向に移動することにより、アーム端部15がローラ回動部30aの係合部材31aに係合する早いタイミングで、支持ブロック20の係合部21が可動支持台43の傾斜面44と係合する。これにより、支持ブロック20が右方向に移動することにより両端支持部41が下方に押し下げられ、連動して電解液槽47も下方に下降して、図11(b)の状態となる。
【0066】
支持ブロック20がさらに右方向に移動すると、アーム端部15がローラ回動部30aの係合部材31aに係合して、図5(b)、(c)、(d)において説明したのと同様にして、図11(c)に示すように湿潤ローラ11が徐々に下降し、図11(d)に示すアーム端部15がストッパ22aに接触する位置に到達したときに、湿潤ローラ11は最下降位置に達する。その後、さらに支持ブロック20が右に移動すると、係合部材31aが下方に移動するので、アーム端部15はさらに右方向への移動が可能となる。
【0067】
その後の湿潤ローラ11による濾紙90への電解液の湿潤処理は、前述した第1の実施例と同様である。また、濾紙90への湿潤処理が終わった後の復路においては、湿潤ローラ11が持ち上げられることも同様である。復路においては、湿潤ローラ11が持ち上げられた状態で支持ブロック20が左方向に移動する。支持ブロック20左方向に移動して、係合部21が可動支持台43の傾斜面部44に到達すると、傾斜面部44の角度に応じて可動支持台43が徐々に上昇する。これにより、両端支持部41が上昇するとともに、電解液槽47も徐々に上昇して、図11(b)から(a)の状態となる。
【0068】
以上説明したように、第2の実施例によると、湿潤処理の直前まで湿潤ローラ11を電解液槽47に浸しておくことにより、湿潤ローラ11の乾きを防止できる。さらに、待機中に湿潤ローラ11をゆっくり回転させることにより、または湿潤処理起動時に電解液槽内で湿潤ローラ11を少なくとも1回以上回転させることにより、湿潤ローラ11表面における電解液の含有斑を抑制することが可能となる。また、湿潤ローラ11を回転させることにより、湿潤処理等の際に湿潤ローラ11の表面に付着した濾紙の繊維等の各種ゴミを電解液で洗い流すことができるため、湿潤ローラ11の表面をきれいに保つことが可能となる。
【0069】
また、第2の実施例では、湿潤ローラの一部が電界液槽に浸漬されていることにより、短い時間で多孔質層に電解液を蓄積させることが可能となる。これにより、複数の電気泳動濾紙の連続湿潤処理を高速で行うことが可能となる。湿潤ローラ表面の電解液の蓄積をできるだけ均等にするためには、湿潤処理待機中であっても、湿潤ローラの一部を電界液槽に湿潤させた状態で、一定速度で回転させておくことが望ましい。回転速度は、待機中はゆっくり、連続蓄積処理の際には、多孔質材料の吸収速度を考慮して、電界液を吸収可能な最高速度で回転させることが望ましい。
【0070】
尚、以上の説明では、第1の実施例と第2の実施例として2種類の電解液の供給構造を例示したが、電解液層への湿潤と、湿潤ローラ中心部への電解液の供給等の他の供給構造を組み合わせて用いることも可能である。また、湿潤ローラへ転写ローラを用いて電界液を供給することも可能である。
【0071】
図12は、湿潤ローラ11を回転駆動する駆動部と、湿潤ローラ11を支持している支持ブロック20を横方向に移動させる横方向駆動部の一例を示す斜視図である。湿潤ローラ11は、回転用モータ65により回転駆動される。回転用モータ65と湿潤ローラ11の端部に設けられたプーリ54には回転ベルト66がかけられており、湿潤ローラ11は回転ベルト66を介して回転用モータ65により回転駆動される。湿潤ローラ11が電解液層47に浸されているときはゆっくりと回転し、湿潤処理の際には、湿潤ローラ11の横方向の移動と湿潤ローラの接触面との間に滑りが生じないように、横方向の移動と同期するように回転速度で回転駆動される。支持ブロック20の移動すなわち、湿潤ローラ11の横方向の移動は、横駆動用モータ67の回転により駆動される。横駆動用モータ67は、湿潤装置の長手方向に装架されたベルト68を駆動させる。ベルト68の一部は、支持ブロック20に固定された接合部26に結合されている。これにより、横駆動用モータ67が左右に回転することにより、支持ブロック20が横方向に前後に移動する。これにより、支持ブロック20の横方向の往復動作が可能となる。
【0072】
尚、以上の説明では、両端支持部41を下降させることにより、両端支持部41と中央支持部42との高さを調整する例を示したが、中央支持部を上昇させることにより、高さを調整するように構成することも可能である。
【0073】
次に図13を用いて、電気泳動検査システムについて説明する。図13は、本発明の電気泳動濾紙の湿潤装置を用いて、電気泳動検査を無人で行うことのできる電気泳動検査システムの一実施形態を模式的に示す平面図である。電気泳動検査システム70は、濾紙の湿潤、検体の滴下、電気泳動処理、試薬の塗布及びインキュベーション、乾燥、検査の検出及び廃棄までの一連の処理を無人状況下で自動的に行う装置である。
【0074】
図中、71は、電気泳動検査システムの各部及び全体動作を制御する制御部で、所定の検査プログラムが記憶されており、コンピュータ制御により所定の順番で駆動信号を各部に供給して、システム各部の動作を制御する。制御部71は、さらに、電気泳動検査システム70により検査した濾紙のID、及び検査結果等のデータの記憶及び管理も行う。
【0075】
72は、エンドエフェクタ(アーム)72aをX−Y―Zの3方向に動かして、濾紙等の移送対象物を下から掬い上げて持ち上げ、運搬する濾紙搬送ロボットである。横駆動部72bは、エンドエフェクタ72aを左右方向(Y方向)及び上下方向(Z方向)に移動させることができ、かつエンドエフェクタを回転させることができる横駆動部であり、72cは横駆動部72bを縦方向(X方向)に移動させる縦駆動部である。
【0076】
73は、未使用の濾紙を載置してある濾紙保管部であり、74は、検体が入れてある検体プレートが載置されている検体載置台である。75は、スポッティング装置であり、76は、本発明の電気泳動濾紙用の湿潤装置である。77は電気泳動層であり、78はインキュベータ装置、79は定着乾燥装置である。80は解析装置であり、81は廃棄ボックスである。
【0077】
一連の電気泳動検査のための動作は、制御部71により制御される。まず、濾紙搬送ロボット72のエンドエフェクタ72aにより、濾紙保管部73から未使用の濾紙が取り出され、電気泳動用濾紙の湿潤装置76の濾紙載置台40に載置される。このとき、図1等で説明したように、両端支持部41に対して中央支持部42が低い位置にあるので、エンドエフェクタ72aを中央支持部42の上に挿入して、濾紙90を両端支持部41上に載置することができる。
【0078】
濾紙載置台40に載置された濾紙は、制御部71の制御の下、既に説明した通り湿潤ローラ11により、濾紙90の湿潤処理が行われる。湿潤処理が終わると、制御部71の制御の下、スポッティング装置75が起動される。スポッティング装置75は、複数のスポットが下向きに配置(図示せず)された可動アーム75bを備えている。可動アーム75bはX方向に移動可能であり、検体載置台74まで移動して、検体プレートから検体を吸引する。その後、可動アーム75bを電気泳動濾紙用の湿潤装置76の濾紙載置台40に載置されている湿潤処理済みの濾紙の上まで移動させ、吸引した検体を濾紙上に滴下する。
【0079】
次に、制御部71により、濾紙搬送ロボットが起動されて、エンドエフェクタにより、検体が滴下された濾紙が取り出され、電気泳動層77に搬送される。電気泳動層77においては、濾紙の両端に電極が接続され、電界がかけられる。これにより、検体が濾紙上を電気泳動により移動し、一群の検体が検体の重さごとに区分されて、濾紙上に縞模様状に分布する。
【0080】
電気泳動処理が終了すると、濾紙搬送ロボット72により濾紙が取り出され、インキュベータ装置78に搬送される。インキュベータ装置78は、濾紙に試薬を塗布し、その後所定時間、試薬と検体が反応する最適温度及び湿度状態に維持する。所定の時間は検体の種類により異なる。所定時間が経過すると、濾紙搬送ロボット72により濾紙が取り出され、定着乾燥装置79に搬送される。定着乾燥処理が完了すると、濾紙は、再び濾紙搬送ロボットにより取り出されて、解析装置80により、電気泳動検査結果の自動解析が行われる。解析が完了した濾紙は、濾紙搬送ロボット72により取り出され、廃棄ボックス81に廃棄される。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明による電気泳動用濾紙の湿潤装置の一実施例を示す斜視図である。
【図2】図1に示す湿潤装置による湿潤処理動作を説明するための斜視図である。
【図3】図2に示す湿潤処理動作後の戻り動作を説明するための斜視図である。
【図4】図4は、図2(a)の状態を矢視A方向から見た図(正面図)である。
【図5】湿潤ローラの下降動作を説明するための一連の模式図である。
【図6】湿潤ローラの上昇動作を説明するための一連の模式図である。
【図7】湿潤ローラに対する電解液の供給構造の一例を説明するための図である。
【図8】湿潤ローラに対する電解液供給構造の他の例を示す湿潤ローラの中央横断面図である。
【図9】電解液を供給する供給源の一例を示す図である。
【図10】本発明にかかる電気泳動用濾紙の湿潤装置の第2の実施例を示す斜視図である。
【図11】本発明の第2の実施例における待機状態から湿潤処理を開始する際の湿潤ローラ11と電解液槽47の動きを順次説明するための一連の側面図である。
【図12】第2の実施例における湿潤ローラ11を回転駆動する駆動部と、支持ブロックを横方向に移動させる横方向駆動部の一例を示す斜視図である。
【図13】本発明の電気泳動濾紙の湿潤装置を用いた電気泳動検査システムの一実施形態を模式的に示す平面図である。
【符号の説明】
【0082】
10 湿潤装置
11 湿潤ローラ
12 第1の回動アーム
13 回転軸
14 第2の回動アーム
15 アーム端部
16 ピン
20 支持ブロック
21 係合部
22a、22b ストッパ
23 ピン
24 バネ
25 摺動軸
26 接合部
30a、30b ローラ回動部
31a、31b 係合部材
32 スリット
33 支持ピン
34 バネ
35 バネ
36 斜面
37 斜面
38 上面
40 濾紙載置部
41 両側支持部
42 中央支持部
43 可動支持台
44 傾斜面
45 バネ
46 槽支持部
47 電解液槽
48 吸引溝
50 外側表面層
52 中空円柱部
53 穴
54 プーリ
55 中空状の空間
56 供給管
56b 供給管
57 供給穴
58a 貯蔵部
58b 一時滞留部
59 調整弁
60 中空円柱部
61 中空円柱部
62 中空円柱部
65 回転用モータ
66 回転ベルト
67 横駆動用モータ
68 横移動ベルト
69 シャーシ
70 電気泳動検査システム
71 制御部
72 濾紙搬送ロボット
72a エンドエフェクタ
72b 横駆動部
72c 縦駆動部
73 濾紙保管部
74 検体載置台
75 スポッティング装置
75b 可動アーム
76 湿潤装置
77 電気泳動層
78 インキュベータ装置
79 定着乾燥装置
80 解析装置
81 廃棄ボックス
90 濾紙
91 電解液


【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気泳動用濾紙を載置する濾紙載置部と、
少なくとも表面部が多孔性材料からなる円柱上の湿潤ローラと、
前記回転ローラの表面に電解液を供給する電解液供給部と、
前記載置台に載置された電気泳動用濾紙の上面に前記湿潤ローラの表面を接触させて、該湿潤ローラを回転させながら、前記電気泳動用濾紙に前記電解液を均一に湿潤させるローラ駆動部と、
を備えることを特徴とする電気泳動用濾紙の湿潤装置。
【請求項2】
前記湿潤ローラが一回転する前に前記電気泳動用濾紙の湿潤処理を完了することを特徴とする請求項1に記載の電気泳動用濾紙の湿潤装置。
【請求項3】
前記ローラ駆動部は、前記湿潤ローラが電気泳動用濾紙の表面上をスリップすることなく回転移動するように、横方向の移動速度と回転速度とを同期させるように駆動することを特徴とする請求項2に記載の電気泳動用濾紙の湿潤装置。
【請求項4】
前記濾紙載置部は、表面に吸引部を備えており、電気泳動用濾紙を濾紙載置部に固定することを特徴とする請求項1に記載の電気泳動用濾紙の湿潤装置。
【請求項5】
前記濾紙載置部は、両端支持部と中央支持部が相対的に上下動可能であり、前記湿潤ローラによる湿潤処理の開始前及び湿潤処理の完了後は、前記両端支持部が前記両端支持部以高い低い位置であり、前記湿潤処理の際には、前記両端支持部及び前記中央支持部の高さが同じ平坦な面となるように 前記両端支持部または前記中央支持部とを相対的に上下動させることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の電気泳動用濾紙の湿潤装置。
【請求項6】
前記湿潤ローラは上下動可能であり、前記ローラ駆動部は、前記電気泳動用濾紙に前記電界液を湿潤させるときには、前記湿潤ローラを下ろして前記湿潤ローラの表面の一部を前記電気泳動用濾紙の一端部に接触させて該湿潤ローラを回転させながら前記電気泳動用濾紙の表面上を前記電気泳動用濾紙の他端部まで移動させ、その後前記湿潤ローラが前記電気泳動用濾紙と接触しないように前記湿潤ローラを上方に移動させて、前記湿潤ローラを元の位置に戻すことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の電気泳動用濾紙の湿潤装置。
【請求項7】
前記湿潤ローラは、所定の間隔で配置された多数の貫通穴を備える中空状の中空円柱部を備え、前記電界液供給部から前記中空円柱部に電解液が供給されることを特徴とする請求項1に記載の電気泳動用濾紙の湿潤装置。
【請求項8】
前記中空円柱部に設けられる前記開口穴の大きさが、前記電解液供給部からの距離が離れるに従って大きくなることを特徴とする請求項7に記載の電気泳動用濾紙の湿潤装置。
【請求項9】
前記中空円柱部に設けられた多数の前記開口穴の密度が、前記電解液供給部からの距離が離れるに従って大きくなることを特徴とする請求項7に記載の電気泳動用濾紙の湿潤装置。
【請求項10】
前記電界液供給部は、前記湿潤処理開始前において前記湿潤ローラ11の少なくとも一部を浸す電解液層を備えていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の電気泳動用濾紙の湿潤装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2008−281472(P2008−281472A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−126647(P2007−126647)
【出願日】平成19年5月11日(2007.5.11)
【出願人】(302033126)アイエス・テクノロジー・ジャパン株式会社 (10)