説明

電気泳動装置およびその撮影解析システム

【課題】電気出力装置と一体的に構成される電気泳動装置の気泡による導電性の低下などを抑えると共に、実験者の安全性を図り、より使いやすい電気泳動装置と、電気泳動後の分析を、暗室を利用せず、より身近なところで可能とする電気泳動観察装置を提案する。
【解決手段】
両側に電極を配置し、それら電極の間に電気泳動用ゲルを配置して、少なくとも電気泳動用ゲルが浸積する程度に配置した緩衝液よりなる電気泳動装置において、前記電極の近傍に、少なくとも緩衝液から突出するように配置した傾斜を有する仕切り板を具えた構成及び、当該電気泳動装置を収容して使用される 外部光を遮断する材料で形成され、かつ少なくとも一面以上の側面が開放された筐体と、その開放された側面を覆う遮光カバーを有する電気泳動観察装置において、その遮光カバー側面に口部を設けた電気泳動観察装置を提案する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主にDNA、RNA、タンパク質などの生体分子、または、電荷を有する各種の低分子化合物、錯体などの混合物を試料とし、それら試料の分離分析および精製、回収などに用いられる電気泳動装置およびその撮影解析システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の電気泳動装置 としては、実公昭63−39639号公報に示される泳動装置が公知である。この泳動装置はヒューズと整流手段および動作のオンオフや出力の切り替えスイッチのみで構成され、泳動担体のインピーダンスに応じた電流が供給可能である。
【特許文献1】実公昭63−39639号
【非特許文献1】電気泳動法のすべて(医歯薬出版株式会社、1983年) 電気泳動法のすべて(医歯薬出版株式会社、1983年)には、緩衝液内に浸積したゲルを挟むようにして、電極が配置されると共に、電極と、ゲルの間に、緩衝液から突出した状態の仕切り性を有する板状体が配置され、その板状体と泳動槽底部を電気的通路とした構成が示されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記発明装置は、直接AC100Vの家庭用電源等の汎用交流電源に直接接続するため、泳動担体のインピーダンスの急激な低下や、各部の短絡により大量の電流が流れる可能性が大である。この大量の電流は、人体にとって危険であるにもかかわらず、電気的絶縁性への配慮は、内蔵するヒューズの断線および電子回路を収容するケースの保護機能的形態のみである。
このような簡易な保護機能では、電気泳動実験を高校などでの教育の一環として行うことも増えてきている現在、決して十分とは言えない。また、扱いなれていない者が実験を行えば、液体を誤ってこぼしてしまうなど、装置が故障する可能性も高くなるため、故障しにくい構成にしたり、故障を招く可能性のある操作ができないような使用感の向上といったことが求められる。
【0004】
しかしながら、安全性や使用感を向上させるためだけに回路構成を複雑にしたり、自動化を進めるだけでは、装置の大型化や高価格化を招くことになる。そのような装置は、結果的には専門の研究機関でしか扱えず、教育用途の拡大や、一人の研究者が複数台を扱うことによる研究の迅速化につながらない。したがって、できるだけ簡易な構成でありながら、安全かつ操作しやすい泳動装置が求められることになる。
発明者らは、特願2001−379255において、簡易かつ安全な泳動装置を考案している。この発明における泳動装置では、泳動槽の蓋に磁石を備えており、泳動用電源と電気泳動槽の接続部にリードスイッチを挟み、このリードスイッチを蓋の磁石で動作させることにより、蓋をしなければ通電しない安全性を有している。また、泳動用電源のスイッチにも磁石を備え、電源ケース内のリードスイッチを磁力で動作させることにより、回路部を完全にケース内に密封することができるため、防水性が非常に高く故障しにくい構成を実現している。
【0005】
しかしながら上記発明の泳動装置では、随所に使用している磁石の性能のばらつきによって動作が不安定になることがあるという問題点を含んでいる。また、安全性を高めるためのリードスイッチが電気泳動槽に付属しているため、洗浄や緩衝液の注入などの際に、スイッチ部に液体が入ってしまい、故障を招くことがある。更に、電極線が泳動槽底部でむき出しになっているため、洗浄時などに容易に触れて、やはり故障を招く可能性もある。このため、取り扱いに注意を払う必要があり、簡単に使用できるとはいえない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで本発明は、実公昭63−39639号公報に示されている電気回路の簡易さを生かした、非常にコンパクトな泳動装置でありながら、誰でも簡単に扱える優れた使用感と、故障しにくく安全性もより向上させた泳動装置を考案することを目的とする。
装置の安全性については、蓋をしなければ通電できない構成によって確保するが、特願2001−379255の泳動装置のように、蓋と泳動槽に備えられたスイッチとを連動させるのではなく、蓋と泳動用電源に備えられたスイッチとを連動させる。これにより、液体に弱いスイッチ類を泳動槽から排除することが可能となり、故障の可能性を劇的に低減させることができる。更に、蓋がなければ動作できないスイッチ構成とすることにより、感電の可能性が全くない極めて安全な電気泳動装置を実現できる。
【0007】
泳動用電源のスイッチとしては、ばらつきが少なく動作が安定している機械的なスイッチを使用するが、ボタンとケースの形状の工夫によって防水性を向上させ、故障しにくい構成にする。
また、泳動槽や蓋の形状を工夫することにより、緩衝液の移し替えや廃棄を安全で迅速に行いやすくしたり、蓋が曇っても内部が容易に確認できる構成にすることによって、さらに使用感を向上させることが可能になる。
【0008】
さらに、電気泳動実験においては、泳動分離後の試料の可視化、結果の撮影、解析といった一連の手順が迅速かつ安全に行われる必要がある。本発明では電気泳動装置のみならず、その撮影方法および解析方法の改良も行う。具体的には、泳動後の試料を可視化するための照射装置、可視化した試料の観察撮影装置、取得した画像データを解析するソフトウェアをそれぞれ改良する。照射装置についていえば、小型の光源を配列することにより、全体サイズをコンパクトにしながらも均一性の高い照射ができるようにし、更に光反射板の形状を工夫することにより、照射均一性を高める。観察撮影装置では、筐体を遮光性、耐薬品性、強度に優れたステンレス材で構成しつつ、両側面を可撓性に優れた暗幕で構成することにより、全体としての耐久性と強度を保ちながらも、柔軟で自由度の高い内部処理も可能となる装置を実現する。撮影手段として進化の速いデジタルカメラを任意に選んで接続できる構成にすることで、将来の拡張性にも優れた装置となっている。最後に解析ソフトウェアについては、最も一般的なマルチウィンドウ形式を採用し、画像やグラフといった主要オブジェクトに対して、電気泳動の解析で必要なパラメータをプロパティとして保有させ、かつそのプロパティを自由に設定できるインターフェイスを充実させることで、直感的に高度な解析処理が行えるようになっている。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、より安全で、効率の良い電気泳動実験を実現可能とすると共に、実験者が、必要とするオーダーメイド的な関連器具および消耗品の供給をスムーズに行う。また、電気泳動実験後の観察撮影手段、およびそこから得られる画像データの解析手段を改良し、電気泳動法に関連する一連の手順を効率よく進行させるシステムを実現する。
【発明の実施の形態】
【0010】
本発明の電気泳動装置およびその撮影解析システムを順に説明する。
まず、本発明の電気泳動装置の基本構成の断面図を図1に示す。
本発明の電気泳動装置はサブマリン型と呼ばれるものであり、泳動槽1に泳動用緩衝液2を注入する。泳動槽1の中央部は台状に盛り上がっているのが通常である。また、泳動槽に用いる緩衝液などの支持電解質の液量を少なく用いることにより、台状に盛り上がっている場所にて、ろ紙電気泳動やセルロースアセテート電気泳動に転用することも可能である。この台状部3によって分けられた両底部には電極4が張られている。電極4は通常、白金の線状部材である。2本の電極4はそれぞれ泳動用電源に接続され、一方が陽極、もう一方が陰極となる。
台状部3には泳動担体5が設置される。この泳動担体5は、サブマリン型泳動装置においてはアガロースを主成分とするゲルであることが多い。泳動担体5には試料設置溝6が設けられ、試料7をこの中に設置する。泳動担体5には、電極4から緩衝液2を介して電圧が印加され、帯電している試料7が泳動される。試料7に含まれる各成分は分子サイズの違い、あるいは帯電状態の違いなどに応じて、泳動担体5内で分離される。
【0011】
なお、電気泳動では高電圧が印加されることが通常であるため、感電を防ぐために泳動槽蓋8を設置する。泳動槽蓋8は、緩衝液中の水分の蒸発を抑制したり、ほこりなどの汚染物質が泳動槽内に混入することを防止する役割も果たしている。また、図1(a)のように、仕切り板8aを必要に応じて電極4の上方に設置する場合がある。これは、電極4からの通電を阻害しないように、少なくとも下部は開口しているが、上部からは安易に電極4に触れて故障することがないようにカバーするためのものである。仕切り板8aは、電極4から発生する気泡を、泳動槽1の中央部に流入させない機能も果たす。泳動槽の底面に対して垂直方向に仕切り板8aが配置される構成は、例えば非特許文献の欄に記載されているものなど、古くから利用されている。電気泳動に影響を与えるため、仕切り板8aは差し込み式など、必要に応じて着脱可能な部品となっていることが望ましい。さらに図1(b)のように、仕切り板8bを垂直方向から傾けて設置する場合もある。これは電極4から発生する気泡が仕切り板に付着して泳動用緩衝液2の中に残存してしまうことを防ぐための構造である。気泡が残存すると、泳動用緩衝液2への溶解が促進され、液中濃度が高くなることにより電気泳動に影響を及ぼす可能性がある。
【0012】
さらに図1(c)のように、底部仕切り板9を設置する場合もある。底部仕切り板9は、泳動槽1の緩衝液槽の底部から上方に立てられた板であり、必ずしも垂直である必要はないが、底部仕切り板9の上限が、仕切り板(図1(a)の8aまたは図1(b)、図1(c)の8bの下限よりも上方に位置するように形成する。底部仕切り板9の存在によって、電極4に触れる可能性はさらに低下するため、安全性が向上する。また、底部仕切り板9は、緩衝液槽を物理的に分断する機能を併せ持っているため、緩衝液の成分や濃度に不連続性を生じさせることも可能である。なお、仕切り板8a、8bと底部仕切り板9とは必ずしも別体になっている必要はなく、図1(d)に示すような断面をもつ一部品8cとして泳動槽に組み込まれるものであってもよい。
仕切り板8aは、泳動槽内の対向する内面に、ガイド溝をもうけ、このガイド溝に沿って、差し込むようにして泳動槽内に組み込み装着することが例示される。
その他、ガイド溝は、連続した凸部を2つ平行に設けたもの、あるいはレール状体を設けたもの等が例示される。
仕切り板8aの傾きは、泳動槽の側面に対し、3°〜30°が気泡を効率よく外部へ放出できる点で好ましいが、緩衝液の組成等により、その他の角度の傾きであっても良い場合もある。
仕切り板8aは、少なくとも、緩衝液面より突出し、緩衝液内部で貫通する間隙、孔部が形成されていればよく、その形状はこれらに限られるものではない。
【0013】
なお、電気泳動実験においては、2本の電極でそれぞれ異なる電気化学反応が起こり、一般的には異なる量の気泡が発生する。例えば陽極では酸素、陰極ではその2倍の量の水素が発生するというような電気分解反応が起こる。両極で反応が異なるため、時間の経過とともに両極付近の緩衝液は異なる物性をもつようになり、泳動に影響を及ぼす。図1のような基本構成でも、発生気泡量の差が主因となって緩衝液の循環が発生するが、その効果は小さい。両極付近の緩衝液の物性を同一にすることを目的に、緩衝液を強制的に循環させるポンプも市販されているが、泳動槽よりも高価である上に設置の手間も大きく、簡易な使用目的には適していない。そこで図2のように、緩衝液を循環させる目的で内部を構成する方法を考える。泳動槽1の台状部をゲル設置部材3aとし、必要に応じて着脱できるようにしておく。ゲル設置部材3aの下面と泳動槽1の間には空間があり、緩衝液2で満たされる。図1の基本構成では、電極間の緩衝液経路はゲル上部にしか存在しないため、ここで両極からの緩衝液が押し合って交換されることになるが、図2の構成では下部にも緩衝液経路が存在するため、緩衝液2が循環しやすい。
【0014】
すなわち、陰極(気泡の発生量が多い電極)4aから陽極4b(気泡の発生量が少ない電極)への緩衝液の流入はゲル上部で行われ、その逆の流入は下部で行われ、全体として循環する。緩衝液循環の駆動力は気泡の発生によるものであるから、ゲル設置部材3aからは経路構成部3bが陰極4aに向かって伸び、さらに陰極4aの手前で上方に気泡誘導部3cが形成されている。気泡誘導部3cの存在により、陰極4aから発生した気泡は上方に誘導され、緩衝液2を循環させる駆動力として効率よく利用される。泳動槽1の側面と気泡誘導部3cとの間隔が狭いほど気泡の流れが集中し、駆動力は大きくなるが、電場の形成にも影響するため極端に狭くすることはできず、2〜10mm程度とする。経路構成部3bは、気泡による駆動力を陽極側から緩衝液を引き込む力に集中させるためのものである。なお、ゲル設置部材3aは着脱可能になっていれば逆方向に取り付けることも可能であるから、両極の気泡発生量が異なる場合でも対応できる。ゲル設置部材3aの下部の緩衝液底部経路1Aは通電しているため、この経路があまりに大きいと逆に緩衝液の消耗を促進してしまう。緩衝液底部経路1Aの口径は高さ3mm以下程度、断面積400mm以下程度とし、陰極4a側(気泡によって緩衝液を吸引する側)の幅を陽極4b側よりも狭くしてもよい。
【0015】
図3は泳動槽600Aと電源ユニット600の接合の際、両者間の電気的接続部位を外部から触れることなく安全に且つ取り扱いを簡単にする為の本発明の他の実施例を示す。
電源と接続する電極端子ピン602とは別に、好ましくは導電性を有しない材料により形成された安全用ピン630を泳動槽側に設置しておく。
電極端子ピン602と、安全用ピン630は、おおよそ同じ長さで、泳動槽方向へ突出することが好ましいが、安全用ピン630によって、操作されるスイッチ部の位置によっては、異なる場合もある。
さらに、電源ユニット内に軸部632Sを中心に回動可能なL字形のストッパー632を設ける。ストッパー632は、軸部632Sを中心に会同するが、図3(a)で示す状態を定常状態とし、図3(c)で示すような変形した後、定常状態に戻るような、コイルバネ、板バネ等の弾力性部材を具えている。ただし、重力等によって自然に定常状態に戻る構成であれば、弾力性部材を必要としない場合もある。
【0016】
ストッパー632の少なくとも一部632aは、電源ユニット600のケース外部に表出しているが、表出部位を指で簡単に押したり操作できないように、ストッパーカバー633で覆われている。

このような構成にすれば、ストッパー632を動かさない限り、安全用ピン630とストッパー632が衝突するため、電源ユニットのパワーコンタクト608と泳動槽の電極端子ピン602を接続することができない。即ち、図3(b)で示す状態で、ストッパー632が、安全用ピン630と衝突し内部への侵入を防ぐため、電極端子ピン602が内部へ侵入できない状態となっている。
【0017】
したがって、この状態においては電源ユニットから電力を外部に出力することが物理的に不可能であるから、安全性は絶対的に確保されている。
なお、安全用ピン630と電極端子ピン602は共通化されていてもよい。すなわち、ストッパー632の位置を変えない限り、パワーコンタクト608と電極端子ピン602を接続することが物理的にできないようになっていればよい。
この構成に対し、安全性を確保したまま通電可能となるようにするためには、感電を防止する泳動槽蓋634を設置することを前提とし、泳動槽蓋634が、ストッパ−632を回動させることで、初めてストッパー632が移動し、パワーコンタクト608と電極端子ピン602の接続が可能になるようにすればよい。
【0018】
具体的には、図3(c)のように泳動槽蓋634に、ストッパー解除突起635を形成する。ストッパー解除突起635は、ストッパーカバー633の内側に入り込む形状になっている。この状態から電源ユニットを泳動槽側に押すと、図3(c)のように泳動槽蓋634のストッパー解除突起635が、ストッパー632の表出部分632aを押し込むことによってストッパー632を回転あるいは摺動させ、安全用ピン630とストッパー632の衝突状態を解除する。したがって、電源ユニットをそのまま進入させることができ、パワーコンタクト608と電極端子ピン602が接続されるのである。このような構成にすれば、泳動槽蓋を設置しない限り電源ユニットを泳動槽に接続することができず、通電状態の泳動槽内に指や異物を誤って入れることによる感電事故や発火事故などを防止することができる。図3の方式ではスイッチの故障等によって安全機構が機能しなくなったり、スイッチに緩衝液などが触れて容易に回路が短絡するといった危険性が回避され、より安全性は高くなる。ただしこの方式では、泳動槽に泳動槽蓋を設置した後でなければ電源ユニットを接続することができないが、電極端子ピン602とパワーコンタクト608は数十ワットの消費電力に見合う強度で勘合するものであるから、接続時に泳動槽に振動が伝わり、設置した試料が流出するなどの影響を受ける可能性がある。
【0019】
このような問題を回避するためには、まず、泳動槽と電源ユニットを接続し、その後に泳動用ゲルおよび試料を設置して、泳動槽蓋を静かに設置することで泳動が可能になるという手順が望ましい。
そこでこの手順を実現し、かつスイッチの故障や容易に回路が短絡する問題を回避できる方式の一例を、図4に示す。泳動槽蓋640には、突起構造641が設けられている。泳動槽蓋640は泳動槽642をカバーするためのものであるが、泳動槽蓋640を設置する前の段階で、泳動槽642と電源ユニット643とは接続されているものとする。接続方法は例えば図3で示すように電極端子ピンとパワーコンタクトを使用すればよい。
ただし、泳動槽蓋640を設置しない状態で、電源ユニットから泳動槽に電力が供給されてはならない。
すなわち、電源ユニット643の内部に組み込まれた回路基板644は、泳動槽蓋640スイッチの状態に関係なく、泳動槽蓋640が設置されていない状態では電気回路として切断されていなければならない。
【0020】
例えば回路基板644上に中継部品645を2箇所以上に設置し、この部品の間を電気的に接続しなければ、泳動槽側に電力を供給できない構成にしておく。さらにレバー646を用意し、その先端部などに導電部材647を取り付け、レバー646は回転軸648を中心として回転できるように構成する。回転軸648は、図4(a)のように回路基板644上に設置されている方が製造上便利であるが、とくに位置は問題ではない。重要なのは、通常は導電部材647の荷重などにより導電部材647と中継部品645は十分な距離を保って離れているが、泳動槽蓋640による外力を加えることによってレバー646を回転させれば、導電部材647と中継部品645が接触し、複数の中継部品645が電気的に接続されて通電されるようにしておくことである。
【0021】
例えば図4(a)のように、電源ユニットの開口部649に泳動槽蓋の突起構造641が挿入されてレバー646を回転させ、導電部材647と中継部品645とを接触させるようにすればよい(接触状態は図4(b)に示されている)。この方式ではスイッチを使用しないため、通常状態での導電部材647と中継部品645との距離を十分安全な任意の大きさで確保することができる上に、スイッチのように基板上に設置することが前提になっているものではないため、緩衝液がかかりにくい位置や、かかっても容易に回路が短絡しない位置を選んで設置することができるという利点がある。安全性が第一であるから、当然ながら開口部649は容易に指などの異物が入らない大きさ(例えば直径3mm未満)にしておく。
以上のように本実施例によれば、少なくとも、泳動可能な状態にならない限り、電気的接続が完成されない構造を、部品の耐久性を備えたまま可能とすることができる。
【0022】
更に本発明の一実施例である電気泳動後の観察に関する装置および補助器具について説明する。電気泳動の試料として一般的に扱われる核酸、タンパク質などの生体分子には、可視光に対して透明であるものが多いため、泳動後の検出には、これら生体分子と結合する蛍光物質を使用することが多い。使用される蛍光物質は、紫外光を照射されるとそれを吸収し、可視光の蛍光を発するものが一般的である。紫外光は人間に有害であるだけでなく、カメラで記録する際にもフィルムやCCD素子に影響を及ぼす。したがって、電気泳動後の観察に関する装置および補助器具としては、紫外光を照射するための装置と、それによって得られる試料からの光学的シグナルを記録し、かつ照射光は観察及び撮影に影響しないようにカットされる観察撮影装置がそれぞれ必要である。
紫外光照射装置および観察撮影装置については、発明者らは特願2004-73549、特願2004-148223において提案を行っているが、更に照射均一性および操作性について改良した装置を提案する。
【0023】
まず、紫外光照射装置について説明する。図5は、本発明における紫外光照射装置の内部を示している。照射装置の筐体1600は、紫外光への耐久性という点でアルミニウム、スチール、ステンレス等の金属製であることが望ましく、耐薬品性や内部での紫外光反射効率、軽量性等を考慮すれば、アルミニウムを使用するのがよい。
この筐体1600内部に最大強度波長が250nm〜325nmの範囲に存在する光源1601を配置するが、通常は紫外蛍光管が用いられる。これは、生体分子の検出に必要となる波長320nm以下の紫外光を放出できる光源として、現在は水銀を使用した蛍光管(蛍光ランプ)が最適であり、紫外レーザーでは出力が大きすぎる、発光ダイオードのような半導体光源では適した波長帯のものが存在しない、といった問題点があるためである。したがって、生体分子の蛍光標識として紫外以外の吸収帯をもつものを使用したり、最適な波長をもつ半導体や有機化合物からなる光源が利用できるようになれば、必ずしも蛍光管を使用しなくともよい。例えば最近では、量子効果を利用した新しい標識物質も開発されている。
【0024】
量子効果を利用した発光現象は、材料を構成する原子や原子結合の物性ではなく、材料自身の粒径等の物理構造やサイズの違いによって異なる量子状態(エネルギー状態)を生成させるため、同じ材料を用いて同じ光源で励起しても、さまざまな発光波長を実現させることができる。このような量子構造体に、生体分子と結合しやすい物質(分子)を結合させたものが、生体分子の標識として実用化されている。現在は結合物質として抗体や抗原を利用し、特定分子検出用の蛍光標識として利用されることが多いが、粒径の違いによって波長が変化するという特性を利用すれば、さまざまな用途が考えられる。例えば、異なる粒径の量子構造体の混合物を、生体試料とともに遠心分離機に導入すれば、生体試料に含まれる各成分と同質量の量子構造体が同位置に分布することになるから、この状態で加熱などにより各生体成分と量子構造体を結合させることができれば、結合した量子構造体の波長分布を解析することによって、簡易的な質量分析が可能になる。具体的な例は別として、このように新しい標識物質が開発されているので、光源としては必ずしも紫外光に特化しない。光源を照射したい領域が広域にわたる場合には、図5のように光源1601を複数配置してもよく、例えば150mm×150mm程度の領域を照射する場合には6本程度配置されるが、当該本数は、照明対象となるゲルの大きさや試料のシグナル強度等によって適宜選択される。
【0025】
光源1601を単純に等間隔に配列すると、照明の強弱が等間隔に生じ、図6(a)のように照度の不均一性が大きくなる。図6(a)は、縦軸を照度とし、横軸Xを、光源の配置部位とした分布図である。1601は、図6(a)の分布図における光源の位置を示している。図6の(a)、(b)及び(c)で示す光源1601の配列は、図5で示す構成に対し、x-x'で切断した断面に相当する。
尚、図6(a)(b)で示す照度は、光源から約10mm〜25mm程度(光源直径の1〜4倍程度)離れた部位を示す。
蛍光管1601を線状光源と考えれば、蛍光管の部分要素Δlから放出される光は距離rにおいて2πr・Δlの面積に分配されることになり、照度は1/rに比例する。図6(b)の照射面(横軸)Xにおける照度分布Lは、隣接する複数の光源からの光量が足し合わされるため、単純に1/rに比例した形にはならないが、蛍光管からの光路が最短(r1)となる蛍光管1601の真上aで最大値、光路が最長(r2)となる中間点bで最小値をとる。光源と照射面の距離を大きくすれば最大値と最小値の差は小さくなるが、光量の絶対値が大幅に低下する上に、照射装置も大型化するため現実的な対策にはならない。
【0026】
したがって照度の均一性を高めるためには、光源1601の裏側(照射したい試料を設置する方向と逆の方向)に、図6(b)で示すように光反射板1602を設置して、中間点bにおける光量を反射光で補う必要がある。具体的には、図6(b)のような構成が考えられる。照射装置には当然ながら底面1600aが存在し、これがアルミニウム等の紫外光反射特性に優れた材質で形成されていれば、底面1600aからの反射光も照度分布Lに大きく影響する。まず、底面1600aで反射して照射面Xの中間点b付近へと進入する反射光路r3は、そのまま活用すべきである。それに対し、底面1600aで反射して隣接する光源の真上a付近へと進入する反射光路は、もともと直接光による照度が大きい部位に進入するものであるから、照度分布Lの不均一性を拡大させてしまう。そこで反射板1602を設置し、何もなければ中間点bには進入しない光路を、中間点b付近に侵入する光路r4へと変化させる。これにより、中間点bにおける照度は増加して、照度分布Lの最大値と最小値の差は縮小され、均一性が向上する。反射板1602がなく底面1600aのみが存在する場合には、光源の真上aへの反射光によって不均一性は増幅されるから、反射板1602は中間点bにおける光量を増加させるだけでなく、
【0027】
光源の真上aにおける光量が増加することを防ぐ機能も果たしていることになる。反射板1602の具体的な形状としては、図6(b)のように平板を折り曲げた形状でもよいし、曲面であってもよい。重要なのは、底面1600aで反射して照度の低い中間点b付近に侵入する光路r3には影響を与えず、中間点b付近には侵入しない光路に対しては、中間点b付近に侵入する光路r4へと変化させる形状にすることである。例えば光源間隔をpとし、反射光成分(光源から照射面方向へのベクトルをもたない成分)のうち、60%以上を中間点b付近(b-p/3〜b+p/3)に集光させる形状、または反射光成分が光源の真上周辺(a-p/2〜a+p/2)に達する光量の1.5倍以上の光量を中間点b周辺(b-p/2〜b+p/2)に集める形状とすればよいが、これに限られるものではない。光路r3に影響を与えないということから、図6(b)のように不連続な形状となるのが通常であるが、底面1600aの反射が小さい場合には、底面1600aの反射を補うように、底面の一部を融合させた図6(c)のような形状1602aであってもよい。なお、照度分布の不均一性という点では、最も外側にある蛍光管付近では、隣接する蛍光管が1本しか存在しないため、光量が不足する。したがって、中央部の蛍光管間隔よりも、外側の蛍光管間隔を狭くする等の方法で、外側の光量を補う場合もある。
【0028】
上記のように構成された光源1601と光反射板1602からなる光源系は、図5で示すように内部ケース1603内に収められる。光源1601が紫外光源であれば内部ケースはアルミニウム製であるものが望ましく、他の波長の光源であれば、その波長に対する光反射率が高い材料を選択する。内部ケース1603は、紫外光を照射面に集中させるとともに、周囲の配線や電子部品等に紫外光が照射されて劣化することを防ぐものである。ただしこの状態では、蛍光管で発生した熱がケース内に留まり、冷却しにくい。
そこで、図7で示すような断面の構成を考える。図5で示す内部ケース1603は、図で示すようにコの字型の2つの部材を互いに垂直になるように重ねることによって上部が開放された箱型を形成するのが製造しやすいが、図7のように、これら2つのコの字部材1612、1613の底面を垂直方向にずらして空間Kが生じるように組み合わせる。その上で、下部側の部材1613の底面あるいは側面下方に通気孔1614を設ければ、遮光機能を保持したまま通気性が確保され、ファン等によって通気孔1614から内部空気を吸引すれば、冷却効率が高くなる。上部側の部材1612は、図6(b)や図6(c)で説明したような反射構造を有していてもよい。
【0029】
上記のように内部ケース1603内に構成された光源系は、図5の蛍光管の電極1604に電源基板1605から電力を供給することで機能する。通常、蛍光管を駆動させるインバータ基板は、蛍光管1本に対し1枚使用されることが多いので、電源基板1605はインバータ基板そのものではなく、これらのインバータ基板に外部からの電力を分配するための中継基板として機能する。電源基板1605には外部電源コード1606が接続されるか、外部電源コード1606とのコネクタ部品が設置される。
外部電源コード1606は、照射装置が必要とする電力が商用交流電力であればそのままコンセントへ接続されるが、直流電力が必要であれば、AC/DC変換アダプタに接続される。いずれを使用するにしても、蛍光管の点灯には高電圧が必要とされ、昇圧する必要があることから、外部からの電力供給はAC/DC変換アダプタを利用する方式のほうが、安全性や海外使用の点では都合がよい。
【0030】
実用上は光源をオンオフするためのスイッチ1609や、光源の点灯状態を表示する発光ダイオード1610、紫外光をカットする安全カバーが開けられたときに強制的に光源への電力供給を停止するための安全スイッチ1611等の電子部品も必要であり、これらとの配線およびそのコネクタ部品も、電源基板1605上に設置されている。安全スイッチ1611は例えばマグネットスイッチであり、紫外光をカットする安全カバー側に、このスイッチを接続状態にするための部品を設置しておく。
ただし、安全カバーを閉じなければ絶対に光源を駆動できないという構成では、実用上問題となる場合もあるため、この安全スイッチ1611を短絡させて無効化する解除スイッチも、必要に応じて設置する。解除スイッチは安易に触れられる状態であってはならないため、筐体1600に開けられた小さな穴から、細いピンなどで意図的に押さなければ動作できないような位置に配置することが望ましい。1607はファンであって、ここから外気を吸引し、通気孔1608から内部空気を排除することによって、内部温度を低温に保つ。なお、図7のように筐体の底面に通気孔1614を設けたり、通気孔1614に電動冷却用ファンを配置してもよい。いずれにせよ、図5で示す内部ケース1603から通気孔1608を通じて外部に紫外光が漏洩するような構成であってはならず、紫外線の漏洩を解決するために図7で示すような二重底構造のような工夫が必要である。
【0031】
図8に、紫外光照射装置の一例を示す。図8は、暗室内で好適に利用される。図5の内部ユニットに、上部カバー1621を設置して全体を覆う。上部カバー1621の中央部には、紫外光を透過させ可視光をカットする紫外光透過フィルタ1622が配置されている。このフィルタは具体的には、波長290nm〜320nmの波長を50%以上透過させ、400nm以上の波長を99%以上カットするものであるが、光源や用途に応じて特性は変わりうる。フィルタのサイズは60mm×110mm以上150mm×150mm以下程度とするが、これも用途に応じて変わりうる。さらに、上部カバー1621または照射装置の筐体には、安全のため紫外光カットカバー1623を接続することが好ましい。接続方法は蝶番1624等により、必要に応じて上下または左右方向に開閉できるようにする。蝶番1624は、トルク蝶番(例えばPC-30、株式会社モリギン扱い)のように、任意の位置で停止できるものが望ましく、これであれば安全のために紫外光カットカバー1623を顔の前に固定しておきながら、両手を自由に使って処理するといった使用法が可能になる。また、1626は安全スイッチ動作デバイスであり、紫外光照射装置側に設置された安全スイッチ1625を動作させるためのものである。例えば安全スイッチ1625がマグネットスイッチであれば、安全スイッチ動作デバイス1626はマグネットとなる。安全スイッチ1625が紫外光カットカバー1623の重量で押されるようなものであれば、安全スイッチ動作デバイス1626は不要となる場合もある。
使用時、図8で示す紫外光カットカバー1623を開けて、紫外光透過可能な泳動槽または泳動後のゲル及び紫外光透過トレーと電気泳動ゲルを紫外光透過フィルタ1622上にのせた後、再び紫外光カットカバー1623を閉じて計測することが好ましい。
【0032】
これまで述べてきたような紫外光照射装置の構成では、試料からの蛍光がそれほど強くはないため、基本的に暗室内でしか利用できない。明るい室内でも試料の観察撮影を行うためには、紫外光照射装置の上部に簡易暗室カバーを設置する必要がある。図9に、簡易暗室カバーの一例を示す。簡易暗室カバーの筐体1701は、耐紫外光および耐薬品性の観点から、ステンレス、アルミニウム等の金属で形成する。1702は図8で示す1626と同様の安全スイッチ動作デバイスであり、紫外照射装置側に設置された安全スイッチを動作させるためのものである。筐体1701の下面は大きな開口部1703となっており、筐体1701の下方に照射装置を設置して、照射光を筐体内部に採り入れる。ただし、筐体内部に外光が入ると観察撮影の妨げとなるため、開口部1703の周囲四辺には遮光枠1704を形成する。凹凸のある面状での使用が想定される場合には、遮光枠1704だけで完全に遮光することは難しいため、遮光枠1704の裏面にスポンジやゴム等の弾力性のある素材を貼り付ける。さらに筐体1701の左右面も開口しているが、この面の周囲四辺にも同様に枠1705を形成する。
【0033】
枠1705は遮光が主な目的ではなく、構造強化および遮光幕1707を取り付けるための構造である。したがって、枠1705にはマジックテープやマグネットシートなど、遮光幕を取り付けるのに必要な部材を接着しておく。本発明の簡易暗室カバーでは、筐体内部に手を入れて操作することも想定しているため、枠1705のままでは手首に痛みを受けてしまう。そのため、ゴムあるいはスポンジなどによるクッション部材1706を枠1705の下部(手を筐体1701内部に入れる際に触れる部分)に設置し、円滑に操作できるようにする。1707は前述したとおり遮光幕であり、枠1705に接着されたマジックテープやマグネットシートにより、筐体1701の左右面に取り付けられる。筐体内部への試料や機器の出し入れでは、遮光幕1707を取り外せばよい。また、筐体内部に手を入れて操作を行う際には、遮光幕1707を剥がすと外光が入ってしまうため、遮光幕1707を枠1705に取り付けたまま操作できることが望ましい。このため、遮光幕1707には袖1708が縫製されており、ここから手を入れればよい。袖の出口にはゴムが入れられており、手首に密着して外光が入らないようになっている。手を入れない場合には、袖1708から外光が入るため、遮光幕1707の外側に、さらに外幕1709が縫製されている。
【0034】
外幕1709の内側に手を入れる必要性から縫製部位は上部であることが好ましく、必要に応じて下部の接続部材1710によって外幕1709を固定し、完全に遮光できるようにする。接続部材1710はホックやボタン、マジックテープなど、ワンタッチで着脱できるものがよい。このように、可撓性を有する柔軟な素材で側面を形成し、さらにその側面に可撓性を有する筒状(袖状)の操作口を設けることにより、非常に高い自由度かつ完全な遮光性を保ったままで内部処理を行うことができるのである。
筐体1701の左右面に遮光幕1707を取り付けた状態では、完全に密閉されているため、内部を観察することができない。そのため、筐体1701の上部に開口部1711を設ける。紫外光を使用することから、単純な開口では目に有害となるため、開口部1711の内側には紫外光をカットする透明部材を設置する。上部から目視しながら手を入れて操作するためには、開口部1711はできるだけ大きいことが好ましく、直径80mm以上の穴となっていればよい。また、内部操作を行う際には椅子に座って作業できることが望ましく、筐体1701の高さは140〜300mm程度が目安となるが、下方に設置する紫外光照射装置の高さにもよるため、この範囲に限られるものではない。
【0035】
筐体1701が低いほど観察及び撮影可能な範囲は狭くなるので、図8に示した照射装置では、冷陰極管や発光ダイオードのように小型の光源を採用し、照射装置の高さを抑えることによって、観察撮影装置の高さを確保するのがよい。開口部1711の上部には、鏡筒1712を取り付ける。鏡筒1712は図中にあるように、開口部1711の周囲を覆い、横方向および斜め方向から外光が筐体内部に入ることを防ぐ。さらに、鏡筒1712の上部に蓋をする形で、穴変換アダプタ1713を設置する。この中央部にはカメラレンズに最適なサイズである37〜43mm程度のレンズ用開口部1715が設けられている。穴変換アダプタ1713は、鏡筒1712の横に設けられたねじ穴1714を用いてねじ固定される。レンズ用開口部1715とカメラアダプタの接続用開口部1716には互いにかみ合うようにねじが切られており、接続される。カメラアダプタのカメラ固定ねじ1717は、カメラの底面に設けられている三脚固定ねじ穴に合うようになっており、カメラを固定できる。
【0036】
カメラ固定ねじ1717の位置は、左右に自由に移動できるようになっている。また、前後移動ねじ1718および上下移動ねじ1719により、カメラを固定した部材を前後、上下にも移動できるため、結果的にカメラの位置を三次元的に変化できることになり、多くのカメラを固定できるようになっている。接続されるカメラは、生命科学研究用に多く用いられているポラロイドカメラなどのフィルムカメラ、広く普及しているデジタルカメラ、ビデオカメラなどが想定される。ポラロイドカメラは試料を撮影してその場で現像できることから実験用に適しているが、デジタルカメラでも小型のプリンタにケーブル接続したり、USBメモリのような小型のリムーバブルメディアを介してコンピュータやプリンタにデータを転送できるようになっているため、同等の使用法が可能である。ケーブルやメディアの使用が面倒であれば、無線通信でデータを転送できるカメラ、携帯電話、携帯端末などを利用することも考えられる。いずれにせよ、実験機器は多数の使用者で共有することが一般的であるから、撮影手段としては個人が所有するカメラや携帯機器を使用するか、カメラを持ち運ばなくともデータを出力できるか、カメラ自体に現像または印刷手段が備えられていることが望ましい。撮影時に適切にフォーカスされているか、露出やカラーバランスの設定が適切であるかといったことも、その場で確認できることが望ましいため、カメラに付属しているディスプレイ画面や、撮影機に接続して拡大表示できるディスプレイ機器を利用することもありうる。
【0037】
なお、生体試料の撮影用にさまざまな光学フィルタが市販されているが、これらのフィルタはカメラアダプタの接続用開口部1716の上部に必要に応じて入れられるようになっている。また、観察と撮影のたびに穴変換アダプタ1713を着脱するのは手間になるため、カメラを接続したまま筐体1701内部を簡単に観察できるように、簡易窓1720を形成しておく。内部確認用であるため、簡易窓1720はそれほど大きい必要はなく、40mm×90mm程度である。ただし、紫外光を直視することはできないので、ここにも紫外光をカットする透明部材を設置する。開口部1711と簡易窓1720の紫外光カット部材は共通化していてもよい。撮影の際には、簡易窓1720から外光が入ってはならないため、ワンタッチで簡易窓1720を覆うことができる小カバー1721を設置する。小カバー1721は左右または上下方向に開閉でき、金属または幕で形成されている。接続方法も蝶番やマジックテープ等、素材に適したものを選択する。
【0038】
簡易暗室カバーは、必ずしも本発明の紫外照射装置にしか適用できないわけではなく、一般に市販されている照射装置の上方に置いて使用することも可能である。もし発光ダイオードなどで紫外光が照射されているか否かを表示しない照射装置に設置して使用する場合には、何らかの方法で照射の有無を確認できることが望ましい。そこで、筐体1701の上面または前面に、蛍光表示部材1722を設置する。これは紫外光に対して発光する蛍光アクリルなどで形成されており、紫外光さえ照射されていれば、照射装置によらず発光するため、照射状態を簡単に確認することができる。
【0039】
図10に、本発明の簡易暗室カバーの中央部断面図(図9の右側面を正面とした図)を示す。暗室カバーの筐体1801の接地部には折り返しまたは溶接により形成された枠構造1802が存在し、外光が筐体内部に入らないようになっている。上面開口部の裏面には紫外カット板1803がねじ留めまたは接着等により取り付けられ、肉眼での内部観察が可能になっている。上面開口部の周辺表面には鏡筒1804が取り付けられ、その上部には穴変換アダプタ1805がはまるようになっている。穴変換アダプタ1805の裏面(鏡筒側)には図示されているように内壁が形成され、必要に応じて固定ねじ1806によって鏡筒1804に固定される。固定ねじ1806による固定を確実にするために、穴変換アダプタ1805が固定ねじ1806の先端に触れる部分に溝を設けておくのもよい。筐体1801の裏面にはスタンド支持体1807があり、ここにスタンド1808が取り付けられる。図10のように、不要なときにはスタンド1808は筐体1801の裏面に接しており、必要に応じて根元を回転させて規定の角度に固定し、スタンド1808の先端が設置面に接するように置くことで、簡易暗室カバー全体を開いた状態に固定できる。
【0040】
大きな試料や機器を出し入れする場合には、このように全体が開閉する方が便利である。筐体1801の内面にはレンズ支持体1809があり、ここにレンズ1811をはめこんだレンズフレーム1810が取り付けられ、スタンド1808と同様に回転して、規定または任意の角度に固定できる。試料内部の微細な部分に対して処理を行うときには拡大観察できるレンズを用いる方が便利だが、撮影の際にはレンズは邪魔であるため、このように必要に応じて容易にレンズを使用したり除去(移動)できる構造が望ましい。筐体1801の上部には照明ユニット1812を必要に応じて着脱することができる。照明ユニット1812に組み込まれる光源1813は蛍光管、発光ダイオード、有機発光材料、レーザーなどであり、発光色は一般の有色試料に対しては白色、特定の励起光が必要な試料に対しては単色や紫外光が選択される。光源1813の後方には必要に応じて反射板1814が設置され、試料に対して集光したり、逆に広範囲を照射できるように光を分散させる効果をもつ。指向性が強い光源や、反射板による集光効果が高い場合には、光源1813と照射対象の間に設けられた光拡散板1815により、光を拡散させて均一な照射が可能になるようにする。光源1813には電源コード1817から光源駆動基板1816を介して電力が供給される。
【0041】
ここまでに記述した照射装置および簡易暗室カバーによって試料を撮影し、画像データを得ることができる。撮影機としてデジタルカメラを使用した場合には、そのまま画像データをデジタルデータとしてコンピュータに取り込むことができる。フィルムカメラを使用した場合には、光学スキャナ等を使用してデータをデジタル化してコンピュータに取り込むことが一般的に行われている。いずれにしても、コンピュータに取り込まれたデジタル画像データを、ソフトウェアによって解析する必要がある。次に、本発明の画像解析ソフトウェアを説明する。
本発明の画像解析ソフトウェア(以下、「本ソフトウェア」と表記)は、一般的に普及しているパーソナルコンピュータで使用されることを想定しており、そのオペレーティングシステムとしては、Windows(マイクロソフト社製)やMacOS(アップルコンピュータ社製)に代表される、ディスプレイ画面上のウィンドウ表示とマウス入力およびキーボード入力による操作を基本としたシステムで動作することを前提としている。図11は本ソフトウェアの動作中の概観であり、一般的なマルチウィンドウ形式を採用する。すなわち、全体を統括するメインウィンドウ1901は上部にウィンドウ名表示部1902とコマンドメニュー部1903を有し、このメインウィンドウ内部に各サブウィンドウ1904やパレットウィンドウ1906が表示され動作する。サブウィンドウ1904は画像処理や解析処理を行うためのものであり、画像やグラフ等のオブジェクト1905を必要に応じて表示するが、詳細は後述する。パレットウィンドウ1906はコマンドメニュー部1903を補うもので、頻度の高いコマンド(命令)を優先的に文字やボタンで表示したり、使用者が設定を行ったりする。これについても後述する。
【0042】
まずサブウィンドウのうち、画像処理ウィンドウについて説明する。本ソフトウェアは、電気泳動等の実験で得られた画像データを解析することを目的としているため、画像データを表示し、処理を行う画像処理ウィンドウが必要である。画像処理ウィンドウの概観は図12のようになっている。画像処理ウィンドウ2001の上部にはウィンドウ名表示部2002があり、とくに指定しなければ表示する画像ファイル名となるが、指定により変更することもできる。また下部には状態表示部2003があり、マウスポインタの位置座標、その位置における画像ピクセルデータ(輝度等)、画像表示の拡大率等を表示する。2004が画像データを開いて表示した画像であり、拡大率等は変更可能とする。画像2004には、マウスによって長方形、楕円形、多角形、直線、折れ線等の「図形オブジェクト」を描くことができる。図形の種類はメインウィンドウのコマンドメニュー、画像の右クリックメニュー、パレットウィンドウ上のコマンドボタン等から指定する。図形の生成タイミングは、図形指定直後に画像上に描かれ、それをマウスによって変形する方式と、図形指定後にマウスで位置とサイズを指定して描く方式のどちらでもよい。
【0043】
前者の方式では、同種の図形の前回設定に合わせて生成する等の工夫をする余地があるが、それでも使用者が所望する形状を初めから実現することは難しいため、描かれた図形をマウスで変形する操作が前提となる。例えば図形の変形では、図形が外接する長方形の角をマウスでドラッグ操作することによって全体を拡大縮小したり、図形の各頂点をドラッグ操作して個別に移動させる。図形はコピーして全く同一のものを貼り付けることによっても生成される。画像および図形オブジェクトは、マウスでクリックまたはダブルクリックすることによって表示される「プロパティウィンドウ」にキーボードから入力を行って、プロパティ(特性パラメータ)を変更することもできる。プロパティウィンドウから変更を行うのは、画像および図形オブジェクトの名前、表示色、サイズ、位置、属性、階層構造、表示切替(画像ならばどの図形を表示するか、図形ならばそれを表示するか否か)等である。これらについては後述する。また、前述した図形の変形方法では、図形の頂点を増やすことができないため、このプロパティウィンドウには頂点を追加または削除するモードに移行するボタンが用意され、これを選択した後に図形の辺や頂点をマウスで指定すると、その位置で頂点の追加や削除が実行される。
【0044】
電気泳動等の画像データを解析するためには、まず得られた画像データに対して必要な画像処理を行わなければならない。本ソフトウェアで保有する画像処理機能には、次のものが存在する。

モノクロ化
画像データがカラー画像である場合、そのままでは輝度の基準やグラフ化の対象として何色を選択するのかなど、解析上面倒な扱いになることが多い。その実験で解析対象としたい色は、使用した試薬の発色など絞られていることが普通である。そこで、画像をモノクロ化(単色化)し、以後の解析処理を単純にすることが望ましい。本ソフトウェアで行うモノクロ化処理には、カラー画像から特定の色のみを抽出する方式、各色成分に使用者指定の係数を乗じて平均値(二乗平均、階乗平均等も含む)を計算する方式等がある。ある基準値以上の値を最大値、基準値未満の値を最低値に変換する二階調化処理も含まれる。

カラー補正
各色成分に使用者指定の係数を乗じた上で規格化を行い、それを変換後の色成分とする処理である。
【0045】
コントラスト補正
各色成分に、現在の輝度値を変数とする変換関数を適用し、それを変換後の色成分とする処理である。変換関数は数式で表記されるものに限らず、変換前の輝度値と変換後の輝度値の関係を示すグラフをマウスで変形したり折れ線を描くことによって指定することもできる。

表示サイズ変更
表示する画像のサイズを変更する処理である。
【0046】

画像回転
画像全体または図形オブジェクト内の画像を回転させて表示する処理。画像または図形オブジェクトのプロパティウィンドウを表示させて回転角を数値指定する方式、マウスでドラッグ操作してマウスの変位から回転角を決定する方式、画像上に描かれた図形オブジェクトを基準にする方式がある。とくに電気泳動画像のように、試料に方向性があるようなものでは、例えば電気泳動の出発点を結んだ直線(または折れ線)を基準とし、それが水平や垂直など所望の角度になるように画像全体の回転処理を行う方式が、他の方式に比べて使いやすい。手順としては、画像上の所望の角度にしたい部分に直線等の図形オブジェクトを描き、「回転」−「指定された図形を基準に回転」というコマンドを実行することになる。このコマンドを実行した場合、回転基準とする図形に対して垂直二等分線が一時的に表示され、その上の一点をクリックすることにより、回転中心と回転軸(垂直二等分線)が指定される。次に開かれるダイアログから「水平」「垂直」「45°」など所望の角度を選択すると、画像が回転する。なお、画像が正方形や正円形でない場合は、回転前と回転後の画像サイズは異なるため、回転前後の図形がいずれも含有されるように画像サイズを拡大し、輝度値データがない部分には白色や黒色等のデータを補うこととする。
輝度値反転
画像の輝度値を最大値と最小値が入れ替わるように反転する処理である。すなわち、本ソフトウェアで扱う最大の輝度値をX、現在の各ピクセルの輝度値をxとして、xをX−xに変換することになる。カラー画像については、(R, G, B)など各色成分に同じ処理を適用する。
【0047】
前記の画像処理コマンドを適宜実行した上で、解析処理に移行する。画像全体に対して解析を行うこともあるが、電気泳動のように試料が存在する領域が限られていたり規則化されている場合には、特定の領域に対して解析を行うのが普通である。本ソフトウェアにおいては、領域の指定は既に説明した各種の図形オブジェクトを描くことによって行う。同じ図形であっても、行いたい解析処理はさまざまであるため、単に図形を描くだけでは解析できない。そこで本ソフトウェアでは、描いた図形に対して属性と階層構造のプロパティを指定または変更することで、適切な解析処理が行われるようにする。これらの指定と変更は、図形オブジェクトをダブルクリックするかコマンドメニューから選択して開く「プロパティウィンドウ」に入力することで実行される。右クリックメニューから属性を選ぶ方式も便利であるため、使用できるようにする。以下、属性と階層構造について説明する。

レーン属性
長方形または多角形オブジェクトの属性である。平板型ゲルを用いる電気泳動の場合、複数の試料を同時に泳動することが一般的であり、それぞれが泳動するコースをレーンと呼ぶ。図12の図形オブジェクト2005にある長方形のように、このレーンを囲む長方形を描き、長方形の属性を「レーン」に指定すると、以後この長方形で囲まれた領域は電気泳動のレーンであると認識し、電気泳動用の解析処理の対象となる。多角形オブジェクトの場合でも同様である。なお、後述するように本ソフトウェアでは複数のレーンを自動認識する機能をもつため、このようにしてソフトウェアで自動認識(生成)されたレーンについては、初めから属性も「レーン」となる。
【0048】
マーカーレーン属性
長方形または多角形オブジェクトの属性である。基本的な特徴はレーン属性と同じであるが、一般的なレーンは分子量が未知のバンド(次に記述)を含んでいるのに対し、マーカーレーンは分子量(および物質量)が既知であるバンドからなるものであることが特徴である。マーカーとして用いられる試料は複数存在するため、それぞれに固有の名称が与えられている。本ソフトウェアでは、マーカーに関するデータを1つのファイルにまとめており、1行にマーカー名、含まれるバンドの数、各バンドの分子量、物質量等のデータが配列され、マーカーが複数登録されていれば、この行も複数にわたる。使用者が独自にマーカーを登録することや、インターネットを通じて新規のマーカーデータを追加登録することも可能であり、これらの場合にはマーカーデータファイルに新規の行が追加される。
【0049】
使用者が画像上の長方形および多角形(既にレーン属性に指定されているものも含む)のオブジェクトに対して、その属性を「マーカーレーン」に指定した場合には、どのマーカーであるかを選択させるダイアログを開き、マーカーデータファイルの情報を表形式で表示する。各行の先頭一列にマーカー名が表示され(アルファベット順が望ましい)、マーカー名の列はボタン形式になっており、マウスで押すことによって選択が確定する方式がよい。使用者が独自にマーカーを登録する際にもこのダイアログを利用し、表示されている表に直接マーカー名やバンド数、分子量等の情報を入力できると使いやすい。このダイアログには、マーカーレーンに囲まれた部分画像も合わせて表示しておくと、間違った選択をする可能性が低くなる。
【0050】
バンド属性
長方形または多角形オブジェクトの属性である。電気泳動によって各レーンを泳動する試料は、泳動の過程で主に分子サイズに応じて、図12のように複数のバンド2007に分離される。これも基本的には長方形になっており、これを囲む図形オブジェクトの属性を「バンド」に指定すると、解析処理において分子量計算など、バンドについて通常行われる解析処理の対象となる。バンドはレーンに属するものであるから、属性を「バンド」に指定された図形オブジェクトについては、その上位階層にあたるレーンの名称も指定しなければならない。ただし、バンドに指定されたオブジェクトが、その時点で特定のレーン属性をもつオブジェクト内部に位置している場合には、自動的にレーン指定まで行われる。後述するように、本ソフトウェアではバンドの自動認識機能をもち、通常はレーン属性をもつオブジェクトに対して自動認識処理を実行するため、このようにして自動認識(生成)されたバンドについては、初めから属性が「バンド」、上位階層のレーンはそのバンドを内包するレーンとなる。
【0051】
範囲属性
長方形・多角形・楕円オブジェクトの属性である。画像上で何らかの二次元領域(範囲)を指定したい場合に用いる。例えば画像上の特定領域の輝度平均値や積分値を算出したい場合などに利用する。複数の範囲について同じ処理を行う必要がある場合も多いが、その用途については、範囲属性をもつ複数の図形オブジェクトをグループ化しておくか、名前で判断するのがよい。例えば、XXX[i](iは指数)という形式で、指数だけが異なる名前をもつオブジェクトの一つに解析処理コマンドが選択された場合に、同様の命名がなされたオブジェクトに対しても同じ処理を行うかどうかを尋ねるダイアログを開けばよい。

センター属性
ライン(折れ線含む)オブジェクトの属性であり、レーンやバンドの中心ラインを示す。濃淡グラフの作成の際には、センター属性をもつラインに沿ってグラフ化するのが一般的な処理となる。
【0052】
ウェルライン属性
ライン(折れ線含む)オブジェクトの属性である。電気泳動の解析においては、バンドの移動距離が重要な意味を持つため、どこが泳動の出発点(試料の設置位置となるウェル)であるかを明確に認識していなければならない。同時に複数の試料を泳動すると、各レーンの出発点が微妙にずれている場合や、画像が斜めに傾いている場合もあるため、各レーンの出発点(ウェル)をラインで結んだオブジェクトを生成かつその属性を「ウェルライン」に指定し、各レーン(またはそのセンターライン)との交点を出発点と認識するのがよい。ウェルは画像としては図12の2006のように存在するが、バックグラウンドよりも低輝度に写っていることが多いため、自動レーン認識または自動バンド認識の際に、ウェルも自動認識してウェルラインを生成することも可能である。この場合、認識がうまくいっていなければ、自動認識されたウェルラインを使用者に変形修正させることになる。
【0053】
バンドグループ属性
ライン(折れ線含む)オブジェクトの属性である。複数のレーンに存在する複数のバンドの中で、同じ分子量をもつバンドのセンターラインを折れ線で連結したものがバンドグループとなる。同じ分子量をもっていれば原理的には一直線上にバンドが並ぶことになるが、ゲル内の温度分布や電気的条件の差異等によって、一般的には直線状にはならないことが多い。同じ分子量のバンドが直線になっていない(等しい泳動距離になっていない)と、解析上問題となるため、必要に応じてこのように同じ分子量のバンドを指定する必要がある。指定の方法としては、複数のバンドをマウスで選択し、メインウィンドウの解析メニューまたは右クリックメニューから「ウェルライン生成」を実行する。
【0054】
スマイリング属性
ライン(折れ線含む)オブジェクトの属性である。バンドグループ属性で記述したように、同一の分子量をもつバンドの移動度が、各レーンで等しくならない現象(一般的にはスマイリング現象と呼ばれる)が発生するが、同じ分子量をもつバンドが複数のレーンにわたって必要数だけ存在しているとは限らず、この場合には、各レーンの移動度の差異をバンドグループとして指定することができない。ただし、各レーンに分子量が既知のバンドが含まれていれば、移動度の差異を推定することは可能である。したがって、マウスを使って折れ線を描き、推定される移動度の差異を表現すれば、分子量計算の参考にすることができる。具体的には、このときの折れ線をスマイリング属性に指定し、そのスマイリングラインが分子量としていくらに相当するのかを入力すればよい。なお、同一ではなくとも各レーンに分子量が既知のバンドが存在し、その分子量が表などで与えられている場合には、スマイリングラインを自動生成することも可能である。
【0055】
ここまでの操作により、画像に対する基本的な処理と、解析に必要な基本情報入力は完了している。次に、具体的な解析処理に移行する。解析処理は主に解析ウィンドウを開いて行われるため、ここでは解析ウィンドウについて説明する。
図13に、本ソフトウェアの解析ウィンドウの概観を示す。解析ウィンドウ2100の上部には、他のウィンドウと同様に、ウィンドウ名表示部2101がある。変更は可能だが、とくに指定がなければ、選択されている図形オブジェクトや表データ名が表示される。解析の際には何らかのグラフ化を行うことが多いため、解析ウィンドウの左上部には、グラフ表示部2102が配置される。グラフの元データとなるのは、画像上の図形オブジェクトであることが多く、図形オブジェクトに対して「グラフ作成」や「解析ウィンドウ作成」といったコマンドを実行すると、グラフ表示部2102には最初からグラフが描かれた状態で表示される。この場合のグラフは、画像の輝度を基データとする。
【0056】
このグラフ表示部2102には、グラフを示すライン2103を表示するのは当然だが、これ以外に、ピークを示すピークライン2104や、解析範囲を示す範囲オブジェクト2105、グラフ上の各ポイントを強調表示しキーボードの左右キーや上下キーで移動できるグラフポインタなども併せて表示される。また、グラフ表示部2102の横には、そのグラフの基になった図形オブジェクト画像2106が表示される。これによって、そのグラフが何を意味しているのかを容易に把握することができる。当然ながら、そのグラフの基データが画像から得たものでない場合は、図形オブジェクト画像2106も表示されない。なお、複数の図形オブジェクトからグラフを生成する場合(例えば複数の電気泳動レーンに対するグラフ化等)には、グラフライン2103も複数表示され、その横にはそれぞれの図形オブジェクト画像2106が並べて表示される。
【0057】
複数のグラフラインを生成する処理は、複数の図形オブジェクトが選択された状態から「グラフ作成」や「解析ウィンドウ作成」といったコマンドを実行するか、一つの図形オブジェクトに対してこれらのコマンドが実行された際に同じ属性をもつ図形オブジェクトが存在するかを検索し、検索されたオブジェクトについても一緒にグラフ化するかを尋ねるダイアログを開くことによって行われる。また、グラフをダブルクリックする等の方法で開かれる「グラフプロパティウィンドウ」に、同じ属性をもつオブジェクト名とチェックボックスを並べて記述し、使用者がグラフ表示したいオブジェクトにチェックを付けて選択することによって、表示するグラフラインはいつでも追加/削除される。
グラフ表示部2102の下方または横には、表2107が表示される。この表にはまず、グラフライン2103の基になっている数値データが表示される。表2107の先頭一列はデータ名2108であって、例えば基になったオブジェクト名が表示される。また、データ名2108はボタン形式になっており、オブジェクトの属性によっては、ここを押すことによって何らかの動作を行う。
【0058】
例えば、マーカーレーン属性をもつオブジェクトを含むグラフ化を行った場合には、データ名2108にはマーカー名が入ることになるが、これを押すことによってマーカーを選択するダイアログを開き、適切なマーカーデータに変更することも可能である。ただし、マーカーレーンに対するグラフラインで検出または指定されているピークライン2104の数と選択されたマーカーのバンド数が一致しない場合など、適切な処理が行えない場合には、その注意を行うメッセージボックスを表示し、処理としては何も行わない場合もある。数値データや文字データについては、データ名2108の横に配置されているセル2109に表示される。ここには、濃度積分等の解析処理結果や、ピークラインの有無(ピーク検出を行った場合に、グラフの数値データの下の行にピークライン表示行が設けられ、ピークが位置するところには○印等を表示する)も表示される。
また、セル2109は選択された数値データやピークの有無など、先に定められた結果を表示するだけでなく、積極的な入力/変更手段としても用いられる。例えばピークライン表示行の空白セルをクリックすると、その位置に新しくピークラインが生成されてグラフ上に表示されたり、逆にピークラインとなっているセルをクリックすると空白セルとなって、ピークラインが削除される機能がある。これは、自動認識されるピークラインが、必ずしも使用者が所望するものと一致するとは限らないことから、必要な機能である。
【0059】
また、グラフの数値データ行の次に範囲指定行を設けて、範囲の先頭と最後のセルをそれぞれクリックすることにより、グラフ上に範囲オブジェクト2105が生成される処理も行われる。もともと数値データが入っているセルの値を変更すると、その結果に応じてグラフラインの形状を変更する処理もある。なお、この表2107はグラフ表示部2102と密接に連動するため、グラフ表示部2107をクリックすると、クリックされたポイントの数値データが中央等の望ましい位置に表示されるように、表2107の表示を変更する。この機能によって、グラフ上のピークラインをクリックして表の中央部にピークラインのセルを表示させ、そのセルをクリックしてピークラインを削除し、さらに別のセルをクリックして新しいピークラインを出現させるというように、グラフと表を連動させて処理を容易にすることが可能になる。ここまで説明した内容以外にも、数式などの関数を数値データ行に適用した結果を示す演算行、セルに文字を入力するとそのセルに対応するグラフ上の位置に文字を表示する文字入力行などが存在する。また、外部のデータファイルから数値データを読み取って各行に表示したり、そのデータを基にグラフを生成することも可能である。
【0060】
表2107の横や下方など適当な位置には、解析コマンドボタン2110が配置されている。選択されたグラフラインや表の行、範囲オブジェクトに対して輝度値を積分する、グラフ表示を反転する、自動的にグラフのピークを検出する、電気泳動のバンド分子量計算をするといったコマンドがボタンとして表示される。分子量計算に対して、ウェルラインの指定がない、マーカーの指定がないなどの問題がある場合には、コマンドボタンを押して実行しても、適切でない旨を説明するメッセージウィンドウを表示して、コマンドの実行を中止する。これらのコマンドはメインウィンドウのコマンドメニューからも実行できるものとする。
【0061】
本ソフトウェアのサブウィンドウとして、画像処理ウィンドウおよび解析ウィンドウの他に、コマンドパレットウィンドウがある。このウィンドウは、コマンドメニューに含まれる膨大な数のコマンドから選択する手間を省き、使われる頻度の高いものをパレット化したものである。このコマンドパレットに含まれるコマンドの選択方式には、次のようなものがあり、必要に応じてパレット上に並列表示されることもある。いずれの方式でも、選択表示されるコマンドは使用者ごとに異なるため、現在のソフトウェアの使用者が誰であるかを認識しておくことが望ましい。例えば、本ソフトウェアを起動する際に、使用者の選択やパスワード入力を行う方法を用いる。

使用者による選択
パレットに含まれるコマンドを、使用者が自らの意思によって選択する方式である。コマンドを削除したり追加することは、使用者の意思でいつでも行うことができる。
【0062】
使用頻度順に選択
それまでのソフトウェア使用実績に基づいて、使用頻度の高いものから優先的にコマンドパレット上に配置していく方式である。使用実績情報は、使用者の意思によってリセットすることも可能である。

連結使用頻度順に選択
直前に実施されたコマンドを認識し、そのコマンドの次に使用されるコマンドとして、使用頻度の高いものから優先的にコマンドパレット上に配置していく方式である。単純に全体の使用頻度順に表示する方式では、必ずしも使用者が使いたいコマンドが表示されるとは限らない。例えば分子量計算コマンドについては、全体の使用頻度としては高くないが、マーカー指定コマンドやピーク検出コマンドの次に使用されるコマンドとしては、圧倒的に頻度が高くなることが推測される。したがって、これらのコマンドが実行された直後には、コマンドパレット上に分子量計算コマンドが表示されていると便利である。この方式では、コマンドが実行されるたびに、コマンドパレットも変化していくことになる。統計データとしては、各コマンドごとに、次に使用されるコマンドの頻度を保有しておく必要がある。なお、この統計データは使用者ごとに選択できることが望ましく、さらに必要に応じてリセットしたり、データファイルを編集できるようにしておく。また、一連のコマンドをあらかじめマクロとして登録しておき、連続して自動的に実行する機能もあると便利である。
【0063】
一般に使用されている解析ソフトウェアには、ネットワーク接続をサポートし、インターネットなどを通じて最新のデータを取り込み、解析に活用する機能を有するものが多い。本ソフトウェアにおいても、インターネットあるいはイントラネットを通じて入手できるデータ、あるいはソフトウェアが動作するサーバー内に含まれるデータを、解析に活用する機能をもたせる。サーバー内に含まれるデータについては、そのデータを入力した使用者が、他の使用者にもデータの使用を認める権限を付与するか否かを設定できるようにしておく。また、本ソフトウェアでは、単にデータの共有をネットワーク間で行うだけでなく、必要に応じて解析処理もネットワークを通じて行う。例えば、ネットワークでリンクされた複数のコンピュータ(少なくとも演算処理機能を有するハードウェア)に解析処理を分散させ、それぞれの解析結果をネットワークを通じて回収し、使用者に提供する処理を行う。電気泳動結果の解析のように、一つ一つの解析処理は比較的単純であるが、ハイスループットの処理が求められる(同時に処理される数量が多い)ような解析では、複数のコンピュータに処理を分散させることは容易であり、低コストで高速な処理を実現できる。
【0064】
上記のように、本ソフトウェアでは電気泳動結果の主体となる画像、そこから得られるグラフや数値データといったオブジェクトに、電気泳動の解析において重要となるパラメータをプロパティとして保有させ、かつそれらを柔軟に扱うことのできるインターフェイスを用意することで、直感的かつ高い自由度で使用できる解析ソフトウェアを実現している。
【0065】
上記のごとく、本発明の電気泳動装置は、非常に簡易な回路および部品構成でありながら、故障や事故を防ぐ耐久性および安全性に優れた構造を実現し、かつ気泡や緩衝液の動的特性をコントロールして安定性能を確保している。また、本発明の電気泳動観察撮影装置は、光源配置と光反射板構造の工夫によって均一性を向上させた光照射装置と、金属で形成された筐体と可撓性を有する幕の組み合わせによって遮光性と使用感の向上を実現させた暗室型撮影装置から構成され、全体として非常に簡便かつ高精度に電気泳動結果を観察記録できるものである。さらに、ウィンドウや図形といったオブジェクトに電気泳動解析上で有用なプロパティをもたせ、かつそれらのプロパティを柔軟に変更できるインターフェイスを設けることにより、直感的かつ高い自由度で使用できる解析ソフトウェアを用意することで、電気泳動から観察撮影、解析処理に至る一連の実験手順を極めて簡便かつ高精度に完了できる電気泳動システムを実現している。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、電気泳動実験用の電源一体型の装置、複数の一体型電気泳動装置に電気出力を供給するタイマー付き電源、撮影観察装置、解析ソフトウェア等に関する。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の一実施例を示す図。
【図2】本発明の一実施例を示す図。
【図3】本発明の他の実施例を示す図。
【図4】本発明の他の実施例を示す図。
【図5】本発明の他の実施例を示す図。
【図6】本発明の他の実施例を示す図。
【図7】本発明の他の実施例を示す図。
【図8】本発明の他の実施例を示す図。
【図9】本発明の他の実施例を示す図。
【図10】本発明の他の実施例を示す図。
【図11】本発明の他の実施例を示す図。
【図12】本発明の他の実施例を示す図。
【図13】本発明の他の実施例を示す図。
【符号の説明】
【0068】
1 泳動槽
2 緩衝液
3 台状部
3a ゲル設置部材
3b 経路構成部
3c 気泡誘導部
4 電極
4a 陰極
4b 陽極
5 泳動担体
6 試料設置溝
7 試料
8 泳動槽蓋
9 底部仕切り板
630 安全用ピン
631 安全用ピン挿入口
632 ストッパー
633 ストッパーカバー
634 泳動槽蓋
635 ストッパー解除突起
640 泳動槽蓋
641 突起構造
642 泳動槽
643 電源ユニット
644 回路基板
645 中継部品
646 レバー
647 導電部材
648 回転軸
649 開口部
1600 筐体
1600a 底面
1601 光源
1602 光反射板
1603 内部ケース
1604 蛍光管電極
1605 電源基板
1606 外部電源コード
1607 ファン
1608 通気孔
1609 光源スイッチ
1610 発光ダイオード
1611 安全スイッチ
1612 コの字部材
1613 コの字部材
1614 通気孔
1621 上部カバー
1622 紫外光透過フィルタ
1623 紫外光カットカバー
1624 蝶番
1625 安全スイッチ
1626 安全スイッチ動作デバイス
1701 筐体
1702 安全スイッチ動作デバイス
1703 開口部
1704 遮光枠
1705 枠
1706 クッション部材
1707 遮光幕
1708 袖
1709 外幕
1710 接続部材
1711 開口部
1712 鏡筒
1713 穴変換アダプタ
1714 ねじ穴
1715 レンズ用開口部
1716 接続用開口部
1717 固定ねじ
1718 前後移動ねじ
1719 上下移動ねじ
1720 簡易窓
1721 小カバー
1722 蛍光表示部材
1801 筐体
1802 枠構造
1803 紫外カット板
1804 鏡筒
1805 穴変換アダプタ
1806 固定ねじ
1807 スタンド支持体
1808 スタンド
1809 レンズ支持体
1810 レンズフレーム
1811 レンズ
1812 照明ユニット
1813 光源
1814 反射板
1815 光拡散板
1816 光源駆動基板
1901 メインウィンドウ
1902 ウィンドウ名表示部
1903 コマンドメニュー部
1904 サブウィンドウ
1905 オブジェクト
1906 パレットウィンドウ
2001 画像処理ウィンドウ
2002 ウィンドウ名表示部
2003 状態表示部
2004 画像
2005 図形オブジェクト
2006 ウェル
2007 バンド
2100 解析ウィンドウ
2101 ウィンドウ名表示部
2102 グラフ表示部
2103 グラフライン
2104 ピークライン
2105 範囲オブジェクト
2106 図形オブジェクト画像
2107 表
2108 データ名
2109 セル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
両側に電極を配置し、それら電極の間に電気泳動用ゲルを配置して、少なくとも電気泳動用ゲルが浸積する程度に配置した緩衝液よりなる電気泳動装置において、前記電極の近傍に、少なくとも緩衝液から突出するように配置した傾斜を有する仕切り板を具えた電気泳動装置。
【請求項2】
前記傾斜を有する仕切り板よりも電気泳動ゲルに近い位置に、泳動槽の底部から上方に向かう第二の仕切り板を具えた請求項1記載の電気泳動装置。
【請求項3】
外部光を遮断する材料で形成され、かつ少なくとも一面以上の側面が開放された筐体と、その開放された側面を覆う遮光カバーを有する電気泳動観察装置において、その遮光カバー側面に口部を設けた電気泳動観察装置。
【請求項4】
前記遮光カバーが可撓性を有する材料で形成されている請求項3記載の電気泳動観察装置。
【請求項5】
前記遮光カバー側面に設けられた口部が可撓性を有する筒状に形成されている請求項3〜4記載の電気泳動観察装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2006−162445(P2006−162445A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−354724(P2004−354724)
【出願日】平成16年12月7日(2004.12.7)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.マジックテープ
2.ポラロイド
【出願人】(000126757)株式会社アドバンス (60)
【Fターム(参考)】