説明

電気転てつ機のロック状態管理方法及び装置

【課題】ロック状態の管理の自動化、ロックピースの鎖錠かんの切欠の基準位置からの変位量の正確な測定、正しいデータの数値管理が可能なロック状態管理方法を提供する。
【解決手段】次の工程からなる。転てつ機の管理番号及びロック状態を撮影する第1工程。ロック状態を見て必要と判断し、変位量を調整した後、再びロック状態を撮影する第2工程。撮影した画像をコンピュータに取り込む第3工程。取り込んだ画像について次の内容の画像処理を次の手順で行う第4工程。画像についてフォルダを指定する処理。管理番号記載部分及びロック状態の画像の中からベストショット画像を選択する処理。転てつ機のベストショット画像から管理番号を読み取る処理。ロック状態のベストショット画像の画像から鎖錠かんの変位量を測定する処理。読み取った管理番号と測定した鎖錠かんの変位量をテキストデータに変換し、管理データリストを作成して記憶及び/又は出力する処理。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気転てつ機のロック状態を管理する方法及びその方法を使用するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
列車(又は車両。以下、同じ。)を一つの線路から他の線路に移動させる箇所、すなわち、鉄道線路の分岐箇所には、電気転てつ機(以下、単に転てつ機という。)が設置されている。転てつ機は、トングレールを転換して基本レールに密着させ、又は基本レールから離間させる転換装置と、密着状態又は離間状態のトングレールをその位置に保持する鎖錠装置とを含んでいる。
【0003】
転換装置はトングレールを転換するためにトングレールに接続された動作かんを有し、鎖錠装置は密着状態又は離間状態のトングレールをその位置に保持するためにトングレールに接続された鎖錠かんと、その鎖錠かんの切欠に嵌合して所定の位置にロックするロックピースとを有している。そして、トングレールと連動する鎖錠かんの切欠にロックピースを横から挿入することによりトングレールの移動を阻止する状態、すなわち、鎖錠かんとロックピースのロック状態が完了する。
【0004】
列車がポイントを通過するときは、トングレールの先端は基本レールに密着し、完全に鎖錠されて開口しないようにすることが必要である。それには、鎖錠かんとロックピースの間に隙間が無いことが理想的であるが、鎖錠かんの微小な移動により鎖錠かんとロックピースの間に狂いが生じる場合があり、その場合は、ロックピースが鎖錠かんに引っ掛かって転換できなくなるので、列車の運行が不能になる。
【0005】
上記のように、密着状態におけるトングレールの基本レールからの離間幅(開口量)は0であることが望ましいが、経験則から5mmまでは安全とされている。一般的に、鎖錠かんの切欠幅43mmに対してロックピースの幅は40mmとされて、鎖錠かんの切欠とロックピースの間隔が両側合計で3mmとされている。これは、鎖錠かんの切欠及びロックピースの許容摩耗量を1mm、ジョーピンの摩耗等の余裕量を1mmと推定することに基づいている。
【0006】
鎖錠かんの切欠、ロックピースやジョーピンの摩耗等により、鎖錠かんの切欠の中心位置が基準位置(ロックピースの幅中央)から変位することがあり、その変位量が規定値を超えた場合は、ロック不能状態になる前に鎖錠かんの変位量を調整する必要があるので、定期的にロック状態の管理が行われている。
【0007】
従来の第1のロック状態管理方法は、目視確認のみで管理する方法であり、転てつ機を強制的に駆動してトングレールを定位側と反位側に移動させ、転てつ機のロック状態確認用窓を開けて、定位側と反位側のそれぞれにおける鎖錠かんの基準位置からの変位量を目視確認し、その変位量が規定値を超えていると判断したときは、鎖錠かんの取付状態を調整したり、ロックピースを研削したりなどして変位量を規定値以内になるように調整するものである。
【0008】
また、従来の第2のロック状態管理方法は、転てつ機を強制的に駆動してトングレールを定位側と反位側に移動させ、差し込みゲージ等の物差しを使用して直接変位量を測定する方法である。
【0009】
また、従来の第3のロック状態管理方法として、ロック状態確認用窓からカメラでロック状態を撮影する方法も特許文献1に記載されているが、撮影により得られた画像は、鎖錠かんの基準位置からの変位量を推測して、その変位量の調整の要否を判断するために使用するものである。
【0010】
さらに、従来の第4のロック状態管理方法として、特許文献2に、ロック変位量検出器を用い、鎖錠完了状態において鎖錠かんラインとゲージラインとの間の距離をロック変位量とするものが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2009−298302号公報
【特許文献2】特開2010−215004号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記第1の従来方法は、目視確認のみで管理するので、変位量の目測の信頼性が低い、管理を数値として取り扱うことができない、従って、履歴を残すことができない、などの問題点がある。上記第2の従来方法は、差し込みゲージ等を用いるので、測定ミスなどが発生する可能性が高いため、データの客観性が保証されない、測定作業に危険が伴う等の問題がある。カメラでロック状態を撮影する上記第3の従来方法は、履歴を残すことは可能であるが、ロック状態の画像が不鮮明な場合もあり、画像からの変位量の測定精度が低いという問題がある。ロック変位量検出器を用いる上記第4の従来方法は、ロック変位量検出器が出力するロック変位量が、鎖錠かんの基準位置からの左右両側の変位量の差分を表すので、変位量の調整を左右両側の変位量に応じて正確に行うことは困難であるという問題がある。そして、上記いずれの従来方法も、多数の転てつ機を管理対象とすることは困難であるとともに、鎖錠かんの変位量測定の信頼度が低く、また、ロック状態の確認結果を後のロック状態の管理計画に利用することはできない。
【0013】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、ロック状態の管理の自動化、鎖錠かんの基準位置からの変位量の正確な測定、正しいデータの数値管理が可能なロック状態管理方法及びその方法を使用するロック状態管理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するため、請求項1に係る発明は、ロック状態管理方法を次の工程を含むものとしたことを特徴とする(請求項1)。すなわち、
(1)転てつ機の設置現場で転てつ機の少なくとも管理番号が記載されている部分(以下、管理番号記載部分という。)及びロック状態を撮影手段で撮影する第1工程。
(2)撮影対象としたロック状態を目視確認して変位量調整の要否を判断し、要と判断したときに当該転てつ機の鎖錠かんの変位量を調整した後、再度、その転てつ機のロック状態を前記撮影手段で撮影する第2工程。
(3)撮影手段の画像をコンピュータに取り込む第3工程。
(4)コンピュータに取り込んだ画像の画像処理であって、次の内容の処理を次の手順で行う第4工程。
(ア)取り込んだ画像についてフォルダを指定する処理。
(イ)管理番号記載部分の画像及びロック状態画像の中からベストショット画像を撮影記録順に選択する処理。
(ウ)選択したベストショット画像の管理番号記載部分から当該転てつ機の管理番号を読み取る処理。
(エ)選択したベストショット画像のロック状態画像から鎖錠かんの変位量を測定する処理。
(オ)読み取った当該転てつ機の管理番号と測定した鎖錠かんの変位量をテキストデータに変換し、所定のフォルダの画像に対応する管理データリストを作成して記憶及び/又は出力する処理。
【0015】
撮影手段による撮影は、鎖錠かんを定位側に鎖錠した時のロック状態と、反位側に鎖錠した時のロック状態とを撮影することが望ましい(請求項2)。
【0016】
撮影手段の画像をコンピュータに取り込む第3工程は、撮影手段の画像を無線又は有線の通信手を介してコンピュータに取り込むことにより行うことでもよい(請求項3)。
【0017】
撮影手段から取り込んだ画像から転てつ機の管理番号を読み取る処理に代えて、その管理番号をコンピュータに手入力する処理を行うこともできる(請求項4)。
【0018】
ロック状態画像から鎖錠かんの変位量を測定する処理は、ロックピースの幅を規定値、例えば40mmを基準として、画像上のロックピースの幅の画素数に対する変位量の画素数に基づいてその変位量を測定するものであることを特徴とする(請求項5)。また、鎖錠かんの変位量の測定は、ロックピースの左右両側における変位量を測定することを特徴とする(請求項6)。
【0019】
本発明の好ましい実施の形態は、上記請求項1の発明における第4工程に、出力されたテキストデータに基づいて各転てつ機の鎖錠かんの変位量のトレンドグラフ、すなわち、時系列的傾向を示すグラフを作成し表示する処理を加えたことを特徴とする(請求項7)。
【0020】
上記ロック状態管理方法を使用するための装置、すなわち、ロック状態管理装置は、転てつ機の管理番号記載部分及びロック状態を撮影する撮影手段と、(ア)取り込んだ画像についてフォルダを指定する処理、(イ)管理番号記載部分の画像及びロック状態画像の中からベストショット画像を撮影記録順に選択する処理、(ウ)選択したベストショット画像の管理番号記載部分から当該転てつ機の管理番号を読み取る処理、(エ)選択したロック状態のベストショット画像上のロックピースの幅の基準画素数に対する鎖錠かんの変位量の画素数の比に基づいてその変位量を測定する処理、及び、(オ)読み取った当該転てつ機の管理番号と鎖錠かんの変位量の測定値とをテキストデータに変換し、所定のフォルダの画像に対応する管理データリストを作成して記憶及び/又は出力する処理を内容とする画像処理機能を有するコンピュータとからなっている(請求項8)。
【発明の効果】
【0021】
請求項1の発明によれば、転てつ機の変位量を調整した後、再びその転てつ機のロック状態を撮影手段で撮影するので、現場作業が簡易なため、測定ミスが発生することが無い。また、その画像の画像処理により鎖錠かんの変位量を測定してテキストデータによる管理を行うので、ロック状態管理の自動化及び正しいデータの数値管理を行うことができる。さらに、変位量の測定データとロック状態の画像とを同時に閲覧することができるため、測定データの正当性が第三者に対して保障できる。さらにまた、例えば過去の数年間のロック状態など、過去の履歴が正確な数値として確認できる。
【0022】
請求項2の発明によれば、定位側と反位側のロック状態を対比的に観察し、測定値を比較しながら確認できるので、変位量の差異がある場合のその差異の発見が容易であり、原因究明に資する。
【0023】
請求項5の発明によれば、鎖錠かんの基準位置からの変位量の正確な測定が可能であるとともに、撮影手段の撮影距離、視角などが異なっても、同一基準に基づいて変位量の測定を容易に行うことができる。
請求項6の発明によれば、ロックピースの両側の変位量が測定され出力されて、両側の変位量が分かるので、作業者は変位量調整作業を容易に行うことができる。
【0024】
従来のロック状態管理方法では過去の情報を閲覧しにくいが、請求項7の発明によれば、過去の情報をグラフ表示することや履歴管理ができるため、グラフからトレンドを学習することができ、転てつ機の保守計画が立てやすくなる。
【0025】
請求項8の発明によれば、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラ、携帯電話機その他の携帯電子機器に内蔵されているカメラなどの市販の撮影手段と、画像処理ソフトウェアを有するコンピュータとを用いて、本発明に係るロック状態管理方法を実施するシステムを構成できるので、安価なロック状態管理装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】転てつ機が設置された分岐箇所の平面図である。
【図2】転てつ機の転換装置と鎖錠装置を抽出して示す斜視図である。
【図3】鎖錠装置の構成要素の一部であるロックピースの先端付近の斜視図である。
【図4】本発明に係るロック状態管理方法の工程図である。
【図5A】図1の転てつ機のロック状態確認窓の中を撮影した画像である。
【図5B】同画像をコンピュータで画像処理して得られたロックピースの幅及びロックピースの左右両側の変位量を数値で表した画像である。
【図6】本発明に係るロック状態管理装置の構成を概略的に示すブロック図である。
【図7】図5のCPUの機能実現手段を示す図である。
【図8】転てつ機の管理データリストの一例を示す図である。
【図9】トレンドグラフの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
続いて、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
本発明によるロック状態管理方法においては、図1に示すように、転てつ機の設置現場で転てつ機の少なくとも管理番号が記載されている部分(管理番号記載部分)及びロック状態を撮影手段で撮影する第1工程と、撮影対象としたロック状態を目視確認して変位量調整の要否を判断し、要と判断したときに当該転てつ機の変位量を調整した後、再度、その転てつ機のロック状態を前記撮影手段で撮影する第2工程と、撮影手段の画像をコンピュータに取り込む第3工程と、コンピュータに取り込んだ画像に対して所定の内容の画像処理を行う第4工程とからなっている。以下に、各工程について詳述する。
【0028】
[第1工程]
第1工程では、撮影手段を用いて転てつ機の撮影を行う。撮影手段は、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラ、携帯電話に内蔵されているカメラなど、撮影により作成された画像を後述するようにコンピュータに取り込むことができる形式の画像を形成できる市販のカメラであれば、限定がない。
【0029】
撮影対象は、ロック状態の管理対象とされる駅構内の全ての転てつ機であり、先ずは、当該転てつ機を特定するため、図2に例示するように、鉄道線路の分岐箇所に設置されている転てつ機Aの好ましくは全体像、例えば図2に楕円B1で示した範囲、あるいは、少なくとも管理番号Nが記載されている部分を撮影して、メモリカードその他の記録媒体に保存する。後述される管理番号Nの読取を正確に行い易くする見地からは、転てつ機Aの真上からの撮影が好ましいが、管理番号の読取が可能であれば、斜め上方から撮影しても構わない。
【0030】
転てつ機の管理番号Nは、管理単位である駅ごとに識別可能な番号に整理されている。こうして、転てつ機を撮影した画像に写されている管理番号から何号機の転てつ機の画像であるかが分かる。
【0031】
次に、その転てつ機のロック状態確認用窓を開けて、見えているロック状態、すなわち、ロックピースが鎖錠かんの切欠に嵌合している状態、さらに詳しくは、ロックピースの幅とその両側に存在する隙間、つまり、鎖錠かんの変位量を撮影する。鎖錠かんの変位量は、転てつ機本体1内に設けてある制御器を操作して、トングレールを定位に移動させた場合における変位量と、反位に移動させた場合における変位量とを撮影し、同じ記録媒体に保存する。制御器の操作は、列車が通過しない時間帯を選んで、現場で直接行う手動操作、信号扱い所から制御信号を送信してもらう遠隔操作のいずれでも良い。
【0032】
ここで、転てつ機のロック状態について、図2〜図3に基づいて説明する。
図2において、1は転てつ機本体、2はその転てつ機本体の一端に取付けられたモータ、3はモータ2により駆動される動作かんであって、アジャスターロッド4を介してトングレールR2に接続されている。また、5は鎖錠かんであって、接続かん6を介してトングレールR2に接続されている。R1は基本レールである。
【0033】
転てつ機本体1の中には、周知のように、モータの動力伝達系として、フリクションクラッチ、中間歯車及び転換歯車(いずれも図示省略)が設けられ、さらに、図3に示されている周知の転換装置7及び鎖錠装置8が設けられている。
【0034】
転換装置7は、転換歯車に立設された転換ローラ9と、転てつ機本体1の一方側から他方側まで水平方向に貫通し、転てつ機本体1内に存在する中央部にカム溝10を有する動作かん3とからなっている。カム溝10は開口付近にエスケープカム面を、奥に転換カム面を有していて、モータ2が所定方向又は反対方向に回転すると、転換ローラ9が動作かん10の溝のエスケープカム面及び転換カム面と接触することにより、動作かん10が長手方向に前進又は後退され、その結果、トングレールR2が基本レールR1に密着するポイント定位に転換され、又は基本レールから離間されるポイント反位に転換されるようになっている。
【0035】
鎖錠装置8は、動作かん3の下側に動作かん3の長手方向に対して直角水平方向に滑動可能に配置された一対のカムバー11a,11bと、各カムバーの他端に接続され、カムバーの滑動方向に伸びる一対のロックピース12a,12bと、前記鎖錠かん5とからなっている。鎖錠かんは、上下一対5a,5bが備えられている。一対のカムバー11a,11bは転換ローラ9が接触するエスケープカム面を、奥に転換カム面を有していて、その転換ローラの所定方向又は反対方向の回転により一対のロックピース12a,12bが長手方向に前進又は後退されるように構成されている。また、一対のロックピース12a,12bには、先端部に図4に示すように、一方が上方に突出し、他方が下方に突出する鎖錠ブロック13a,13bが設けられている。そして、上下一対の鎖錠かん5a,5bは、所定の間隔を持って結合されており、対向面に長手方向に所定の距離を隔てた位置において上側の鎖錠かん5aには下向きに開口する切欠14aが、下側の鎖錠かん5bには上向きに開口する切欠14bが形成されている。
【0036】
上記構成により、列車が運行される際は、信号扱い所から転てつ機の制御器にポイントを反位から定位に転換させる指令が与えられた時は、モータ2が所定方向に回転し、まず、転換装置7が動作して、動作かん3がトングレールR2を基本レールR1に密着させるため、ポイントが反位から定位に転換される。転換が完了すると、モータ2の所定方向の継続回転により鎖錠装置8が動作して、所定の一つのロックピースの鎖錠ブロックが所定の一つの鎖錠かんの切欠に嵌合するため、定位状態がロックされる。また、信号扱い所から定位から反位に転換させる指令が与えられた時は、モータ2が反対方向に回転し、まず、転換装置7が動作して、動作かん3がトングレールR2を基本レールR1から離間させるため、ポイントが定位から反位に転換される。転換が完了すると、モータ2の反対方向の継続回転により鎖錠装置8が動作して、所定の他のロックピースの鎖錠ブロックが所定の他の鎖錠かんの切欠に嵌合するため、反位状態がロックされる。
【0037】
すなわち、ポイント定位時は、図3の右側のロックピース12bの鎖錠ブロック13bが前進して下側の鎖錠かん5bの移動面から退避するが、左側のロックピース12aの鎖錠ブロック13aは後退して上側の鎖錠かん5aの切欠14aに嵌合するため、定位状態がロックされる。また、ポイント反位時は図3の右側のロックピース12aの鎖錠ブロック13aが前進して上側の鎖錠かん5aの移動面から退避するが、左側のロックピース12bは後退してその鎖錠ブロック13bは下側の鎖錠かん5bの切欠14bに嵌合するため、反位状態がロックされる。
【0038】
そして、本発明の方法を実施する場合は、前記制御器を手動操作又は遠隔操作して、転てつ機を定位側と反位側に転換し、それぞれの場合のロック状態を撮影する。転てつ機Aには、ロック状態確認用窓W(図2)が設けてあり、その窓を開けると、図3に円B2で示した部分が見えるようになっている。
【0039】
撮影する時のカメラは、いずれの転てつ機においても、窓Wから所定の距離を隔てた位置に設置し、ズーム率も同じであることが、後の画像処理が容易になるので、望ましい。しかし、撮影距離や撮影角度が多少異なっても、後述するように、画像処理においてロックピースの幅寸法を標準としてこれに合致させる処理を行えば、問題は無い。また、撮影は1回で完全な画像を形成することは困難である。そこで、一つの被写体を少なくとも2回撮影することが望ましい。
【0040】
図5Aは、窓Wを開けて撮影したロック状態の画像Pを示す。
【0041】
[第2工程]
本発明方法の第2工程として、確認窓Wから見たロック状態又は撮影した画像をカメラ上に再生して、例えば図5Aのロック状態を目で観察し、ロックピース12aの左右両側の辺と鎖錠かん5aの切欠14aの左右両側の辺との間の隙間15R,15Lの大小関係、すなわち、鎖錠かん5aの変位量が規定値以上か否かで、変位量調整の要否を判断する。否の場合は次の第3工程に移行するが、要の場合は従来から行われている調整機構を用いて、鎖錠かんの切欠14aの中心がロックピース12aの幅方向中央に位置するように、すなわち、左右のロックピースの左右両側の隙間15R,15Lの寸法が等しくなるように鎖錠かん5aの取付位置を調整する。
変位量調整の要否判断と、必要時の変位量調整作業は、定位と反位の両方に対して行う。そして、それぞれ調整作業の終了後に、再び、確認窓Wからロック状態の撮影を行う。
【0042】
[第3工程]
管理対象の全ての転てつ機の撮影を終了したならば、第3工程として、当該撮影手段に保存されている画像をコンピュータに取り込む。この場合のコンピュータは、図6,7に基いて後に説明するように、既知のソフトウェアを用いる所定の画像処理機能を有するものである。この画像取込は、メモリカードをカメラから取り出してコンピュータのカードスロットに装填したり、カメラをコンピュータにUSBコードで繋いで記録媒体からコンピュータ側に取り込んだり、あるいは、携帯電子機器から画像をインターネット経由、あるいは、その他の有線、無線の通信手段によりコンピュータに送信して取り込むなど、任意の手法を用いることができる。
【0043】
[第4工程]
撮影手段から画像をコンピュータに取り込んだ後は、第4工程として、図6に例示するコンピュータPCにより所定の画像処理を行う。コンピュータPCは、CPU(中央演算処理部)101と、データバス102によりCPU101に接続されている記憶部103及びIOインタフェース104と、そのインタフェースに接続されている入力部105と、出力部、例えば表示部106と、通信部107とから構成されている。
【0044】
入力部105には、カメラのメモリカードその他の記録媒体から画像を取り込む手段を含む。通信部107は、通信機能を有する撮影手段からインターネット又は無線通信を介して画像を取り込む場合に使用される。
【0045】
CPU101は、本発明方法における所期の画像処理を実現するための手段として、図7に例示するように、フォルダ指定手段101a、ベストショット画像選択手段101b、画像管理手段101c、転てつ機管理番号読取手段101d、鎖錠かん変位量測定手段101e、管理データ作成手段101f、トレンドグラフ作成手段101g、出力手段101hを有している。続いて、各手段について説明する。
【0046】
フォルダ指定手段101aは、入力部105からの入力に基いて、撮影手段から取込んで記憶部103のバッファメモリに記憶された駅単位の転てつ機群の画像の格納場所を指定するためのフォルダを指定し、そのフォルダにその画像に管理可能に格納する。
【0047】
格納された画像には、ピンボケ、明度不足、彩度不足などがあり得る。ベストショット画像選択手段101bは、同一被写体の複数の画像をピント、明度、彩度等を計測し、その計測結果に基づいて、最良のものをベストショット画像として表示部106に表示させる。撮影者は、そのベストショット画像として入表示されたものを入力部105の操作により選択することができる。これにより、後記鎖錠かん変位量測定手段101eによる測定結果の信頼性を向上させることができる。一つのベストショット画像を選択したときは、その画像のみが保存され、それ以外は消去される。
【0048】
画像管理手段101cは、ベストショット画像選択手段101bによる選択・消去後に残った画像を一つの転てつ機ごとに1グループとして、すなわち、転てつ機全体像と定位及び反位のロック状態の画像を1組として、記憶部103の所定の記憶領域に保存してその画像を管理するものである。
【0049】
転てつ機管理番号読取手段101dは、周知のOCR(オプティカル・キャラクター・リーダー)から構成され、入力部からの指令入力に基いて、各組の画像の中の転てつ機全体像から転てつ機管理番号を読取るものである。OCRによる管理番号読取に代えて、管理番号を入力部の操作によりコンピュータに手入力する方法、当該転てつ機の管理番号を表すIDタグやQRコード(登録商標)あるいはバーコードを読み取る方法でもよい。
【0050】
鎖錠かん変位量測定手段101eは、各組の画像の中のロック状態の画像から鎖錠かんの変位量を次の手順により測定するものである。すなわち、画像の中のロックピースの幅及びそのロックピースの左右両側に存在する隙間15R,15Lを測定し、ロックピースの幅の基準値に対する測定値の比を求め、その比を隙間の測定値に乗じてそれぞれの隙間の実際値を求める。すなわち、ロックピースの画像中の幅寸法に関わり無く、これを実寸法である擬制し、これを基準とした場合の隙間の寸法を算出する。ロックピースの幅の基準値は40.00mmと規定されている。
【0051】
管理データ作成手段101fは、転てつ機管理番号読取手段101dにより読み取られた管理番号及び鎖錠かん変位量測定手段101eにより得られたロックピースの幅とロックピースの左右両側の隙間の測定値をテキストデータに変換し、所定のフォルダの各組の画像に対応する管理データリストを作成して記憶領域に保存する。
【0052】
また、先のロック状態の画像のロックピース(13a)の幅と隙間15R,15Lを見易くするため、図5Bに例示するように、それぞれ異なる色彩又は模様を付加するとともに、それぞれの近辺に測定値40.00mmと1.53mm,2.10mmを上書きして合成画像を形成し、保存することが望ましい。
【0053】
このように、実際の画像にロックピースの幅と左右両側の隙間の測定値を数値で表すので、画像のみを目視確認する場合よりも、変位量を正確に認識することができ、数値管理が可能であり、測定ミスや錯覚を防止することができる。
【0054】
図8は、管理番号51の転てつ機について保存された管理データリスト(MDL)の一例を示す。各測定値の右側の評価欄の記号○は基準値以内を、記号×は基準値超を意味する。記号の種類は、識別が可能ならば任意である。例えば、基準値以内は緑色で、基準値超は赤色で表示するようにしても良い。また、各画像の信頼度、すなわち、ピントの合焦度を併せて記録することが望ましい。
【0055】
上記管理データは、入力部105からの指令入力により表示部106に表示させることができる。そして、いずれかの測定値の右側の評価欄に基準値超を示す記号が表示されている場合は、当該転てつ機に対して変位量調整が必要であることを容易に知ることができる。
【0056】
そして、その必要性に基いて変位量調整作業が行われた場合は、その後に第2回目の撮影が行われることとなるので、図8の管理データリスト(MDL)には、第1回目撮影に対応する管理データの下側に第2回目撮影に対応する管理データが記録されることとなる。
【0057】
出力手段101hは、記憶部103に記憶されている各種情報のうち、入力部103から入力される指令に基いて、所定の情報、例えば、指定された画像、指定された管理データを読み出して表示するものである。出力手段101hにはプリンタが付加されても良い。
【0058】
上記転てつ機のロック状態の撮影は、鉄道線路の環境条件により異なるが、1ヶ月に1回、3ヶ月に1回、あるいは1年に1回などの頻度で行われる。そこで、本発明の好ましい実施の形態においては、コンピュータの記憶部103に、当該転てつ機が使用されている間、過去の履歴(画像データ及び管理データ)を保存するようにした。そして、CPU101にトレンドグラフ作成手段101gを備え、入力部103から入力される指令に基いて、指定された転てつ機について過去の履歴を読み出し、図9に例示するようなトレンドグラフを作成することができるようにしてある。
【0059】
図9は、縦軸に変位量(mm)を取り、横軸に時間(t)を取ったトレンドグラフであり、基準位置(変位量0)から右側の変位量をプラスで、左側の変位量をマイナスで表している。図9には、ロックが徐々に右側に狂ってきて、4回目の検査時に変位量調整を行ったことが現れている。このように、トレンドグラフを見ることにより、当該転てつ機の狂いの傾向が分かるので,その転てつ機の管理計画が立てやすい。
【符号の説明】
【0060】
図5A,5Bにおいて
P 画像
1 転てつ機本体
W ロック状態確認用窓
5a、5b 鎖錠かん
12a,12b ロックピース
13a,13b 鎖錠ブロック
14a 切欠
15R,15L 隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の工程を含むことを特徴とする転てつ機のロック状態管理方法。
転てつ機の設置現場で転てつ機の少なくとも管理番号が記載されている部分及びロック状態を撮影手段で撮影する第1工程。
撮影対象としたロック状態を目視確認して変位量調整の要否を判断し、要と判断したときに当該転てつ機の変位量を調整した後、再度、その転てつ機のロック状態を前記撮影手段で撮影する第2工程。
撮影手段の画像を所定のコンピュータに取り込む第3工程。
コンピュータに取り込んだ画像の画像処理であって、次の内容の処理を次の手順で行う第4工程。
(ア)取り込んだ画像についてフォルダを指定する処理。
(イ)管理番号記載部分の画像及びロック状態画像の中からベストショット画像を撮影記録順に選択する処理。
(ウ)選択したベストショット画像の管理番号記載部分から当該転てつ機の管理番号を読み取る処理。
(エ)選択したベストショット画像のロック状態画像から鎖錠かんの変位量を測定する処理。
(オ)読み取った当該転てつ機の管理番号と測定した鎖錠かんの変位量を対応させてテキストデータに変換し、所定のフォルダの各組の画像に対応する管理データリストを作成して記憶及び/又は出力する処理。
【請求項2】
撮影手段による撮影は、鎖錠かんを定位側に鎖錠した時のロック状態の撮影と、反位側に鎖錠した時のロック状態の撮影を含むことを特徴とする請求項1に記載の転てつ機のロック状態管理方法。
【請求項3】
撮影手段の画像をコンピュータに取り込む第3工程は、撮影手段の画像を無線又は有線の通信手を介してコンピュータに取り込むことを特徴とする請求項1に記載の転てつ機のロック状態管理方法。
【請求項4】
撮影手段から取り込んだ画像から転てつ機の管理番号を読み取る処理に代えて、その管理番号をコンピュータに手入力する処理又は当該転てつ機の管理番号を表すIDタグやQRコード(登録商標)あるいはバーコードを読み取る処理を行うことを特徴とする請求項1に記載の転てつ機のロック状態管理方法。
【請求項5】
ロック状態画像から鎖錠かんの変位量を測定する処理は、ロックピースの幅の規定値を基準として、画像上のロックピースの幅の画素数に対する変位量の画素数に基づいてその変位量を測定するものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の転てつ機のロック状態管理方法。
【請求項6】
鎖錠かんの変位量の測定は、ロックピースの左右両側における変位量を測定することを特徴とする請求項1、2又は5に記載の転てつ機のロック状態管理方法。
【請求項7】
請求項1の発明における第4工程に、出力されたテキストデータに基づいて各転てつ機の鎖錠かんの変位量のトレンドグラフを作成し表示する処理を加えたことを特徴とする転てつ機のロック状態管理方法。
【請求項8】
転てつ機の管理番号が記載されている部分及びロック状態を撮影する撮影手段と、取り込んだ画像についてフォルダを指定する処理、管理番号記載部分の画像及びロック状態画像の中からベストショット画像を撮影記録順に選択する処理、選択したベストショット画像の管理番号記載部分から当該転てつ機の管理番号を読み取る処理、当該転てつ機の管理番号を手入力する処理、又は当該転てつ機の管理番号を表すIDタグやQRコード(登録商標)あるいはバーコードを読み取る処理のいずれか一つ、選択したロック状態のベストショット画像上のロックピースの幅の基準画素数に対する鎖錠かんの変位量の画素数の比に基づいてその変位量を測定する処理、及び読み取った当該転てつ機の管理番号と鎖錠かんの変位量の測定値とを対応させてテキストデータに変換し、所定のフォルダの画像に対応する管理データリストを作成して記憶及び/又は出力する処理を内容とする画像処理機能を有するコンピュータとからなることを特徴とする転てつ機のロック状態管理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−95333(P2013−95333A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−241540(P2011−241540)
【出願日】平成23年11月2日(2011.11.2)
【出願人】(000173784)公益財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【Fターム(参考)】