説明

電気音響変換器

【課題】小型薄型、広帯域使用可能でかつ、リフローハンダ付けが可能な耐熱性を有するスピーカなどの電気音響変換器を提供する。
【解決手段】固定子と、振動子とを構成要素とする電気音響変換器であって、振動子が、引張弾性率が5〜15GPaであり、300℃10分間処理における熱収縮率が0.07%以下であるポリイミドフィルムに導体厚さ12μm以下のプリントコイルを配設したものである電気音響変換器。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小型、広帯域で使用可能であり、かつ、基板への直接リフローハンダ付けが可能な耐熱性を有するスピーカ、マイクロホン等の電気音響変換器に関し、振動子に、高引張弾性率ポリイミドフィルム、好ましくはベンゾオキサゾール骨格を有するジアミン類と芳香族テトラカルボン酸類の縮重合にて得られるポリイミドフィルムを用いた電気音響変換器に関する。
【背景技術】
【0002】
電気信号を音響信号に変換するスピーカ、又は音響信号を電気信号に変換する素子であるマイクロホン等の電気音響変換器は、固定子と振動子から構成される。
以下スピーカを例に説明する。スピーカにおいては、振動子は主としてコーン型に成形されたセルロース系素材により構成されていた。また一般に電気信号が通ずるボイスコイルは、前記コーンとは別に形成された上でコーンと接着されることが多かった。
かかる構造のスピーカでは、小型化、薄型化が困難であり、特に携帯機器などに搭載される上では支障が大きかった。また、従来のスピーカに使用されていた材料は必ずしも耐熱性が十分ではなく、プリント配線板に直にハンダ付けされるような場合に置いてリフローハンダ付け、ベイパーフェイズリフローハンダ付けが困難であった。
【0003】
従来、携帯電話などに小型のスピーカが搭載されていたが、再生帯域が狭く、音楽再生などの多面的な用途においては音質的に不満の残るものであった。
特許文献1には、「ポリアミドイミド樹脂フィルム又はポリイミド樹脂をドーム形状に成形したことを特徴とするスピーカ用振動板」が開示されており、またかかる樹脂の「引張り引張弾性率が3500MPa以下500MPa以上であり、且つ20℃における損失正接tanδが0.025以上であること」が好ましいと開示されている。かかる提案によれば耐熱性の良いスピーカを得ることが可能であるが形状的に薄型化が困難である。
特許文献2にはスピーカコーンの成型用に適した「熱可塑性ポリイミド100重量部及びグラファイト5〜25重量部を含む樹脂組成物を溶融成形して得られた熱可塑性ポリイミドフィルムであって、室温における引張弾性率が450Kg/mm以上であることを特徴とする熱可塑性ポリイミドフィルム」が開示されている。かかる発明においては樹脂の熱可塑性を利用して立体形状のスピーカコーンを成形することが主眼とされており、同様に薄型化が困難であり、またポリイミド樹脂とはいえ熱可塑性であるために耐熱性に関しては不充分である。
特許文献3にはプリントコイルとコイル通電により磁化するヨークを振動子に具備するスピーカが開示されている。かかる構成により、平坦で薄い構造のスピーカが実現出来るとされているが、振動子が重くなるために高周波応答性が低下し、再生帯域が狭くなることが予想される。
一方、マイクロホンでは、特許文献4に振動板としてポリフェニレンサルファイド(PPS)フィルムを用いたコンデンサ型マイクロホンが提案されている。また特許文献5には、シリコン基板とその上に形成された振動板となる合成樹脂層からなるコンデンサマイクロホンにおいて、合成樹脂にポリイミドを用いることが提案されている。これらの提案ではリフローハンダ付けが可能であることが示唆されているが。ハンダ付けの際の加熱に伴う材料の伸縮差により振動板にストレスが加わり、音響特性が損なわれる懸念がある。
【特許文献1】特開2003−289594号公報
【特許文献2】特開平07−179755号公報
【特許文献3】特開2003−009283号公報
【特許文献4】特開2004−350247号公報
【特許文献5】特開2006−148477号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、小型薄型、広帯域使用可能でかつ、リフローハンダ付けが可能な耐熱性を有するスピーカは、従来技術では実現困難であり、これらの課題を解決した電気音響変換器を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、前記課題を解決せんとするものであり、以下の構成からなる。
1.少なくとも固定子と、振動子とを構成要素とする電気音響変換器であって、振動子が、引張弾性率が5〜15GPaであり、300℃10分間処理における熱収縮率が0.07%以下であるポリイミドフィルムに導体厚さ12μm以下のプリントコイルを配設したものであることを特徴とする電気音響変換器。
2.ポリイミドフィルムが、ベンゾオキサゾール骨格を有するジアミン類と芳香族テトラカルボン酸類の縮重合で得られるポリイミドフィルムである1.の電気音響変換器。
3.振動子が平板構造である1.〜2.いずれかの電気音響変換器。
4.固定子に使用される永久磁石のキュリー温度が300℃以上である1.〜3.いずれかの電気音響変換器。
【発明の効果】
【0006】
本発明における、少なくとも固定子と、振動子とを構成要素とする電気音響変換器であって、振動子が、導体厚さ12μm以下のプリントコイルを配設した、引張弾性率が5〜15GPaであり、300℃10分間処理における熱収縮率が0.07%以下であるポリイミドフィルムである電気音響変換器であり、なかでもポリイミドフィルムが、ベンゾオキサゾール骨格を有するジアミン類と芳香族テトラカルボン酸類の縮重合で得られるポリイミドフィルムである電気音響変換器は、特定物性の高引張弾性率ポリイミドフィルムを使用しそれにプリントコイルを配設して振動子とすることによって、小型薄型、広帯域使用可能でかつ、リフローハンダ付けが可能な耐熱性を有するスピーカなどの電気音響変換器を提供することができ工業的に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明における引張弾性率が5〜15GPaであり、300℃10分間処理における熱収縮率が0.07%以下であるポリイミドフィルムは、好ましくは芳香族テトラカルボン酸類(酸、無水物、イミド結合性誘導体など、以下同)と芳香族ジアミン類(ジアミン、イミド結合性誘導体など、以下同)中でも好ましいのはベンゾオキサゾール骨格を有するジアミン類(ジアミン、イミド結合性誘導体など、以下同)との縮重合により得られるポリイミドフィルムであり、例えば芳香族テトラカルボン酸類とベンゾオキサゾール骨格を有するジアミン類とを溶媒中で反応させて得られるポリアミド酸を流延塗布し乾燥し、イミド化させて得ることができる。
本発明で好ましく使用できるベンゾオキサゾール構造を有する芳香族ジアミン類として、下記の化合物が例示できる。
【0008】
【化1】

【0009】
【化2】

【0010】
【化3】

【0011】
【化4】

【0012】
2,2’−p−フェニレンビス(5−アミノベンゾオキサゾール)、2,2’−p−フェニレンビス(6−アミノベンゾオキサゾール)、1−(5−アミノベンゾオキサゾロ)−4−(6−アミノベンゾオキサゾロ)ベンゼン、2,6−(4,4’−ジアミノジフェニル)ベンゾ〔1,2−d:5,4−d’〕ビスオキサゾール、2,6−(4,4’−ジアミノジフェニル)ベンゾ〔1,2−d:4,5−d’〕ビスオキサゾール、2,6−(3,4’−ジアミノジフェニル)ベンゾ〔1,2−d:5,4−d’〕ビスオキサゾール、2,6−(3,4’−ジアミノジフェニル)ベンゾ〔1,2−d:4,5−d’〕ビスオキサゾール、2,6−(3,3’−ジアミノジフェニル)ベンゾ〔1,2−d:5,4−d’〕ビスオキサゾール、2,6−(3,3’−ジアミノジフェニル)ベンゾ〔1,2−d:4,5−d’〕ビスオキサゾール。
【0013】
これらの中でも、合成のし易さの観点から、アミノ(アミノフェニル)ベンゾオキサゾールの各異性体が好ましい。ここで、「各異性体」とは、アミノ(アミノフェニル)ベンゾオキサゾールが有する2つアミノ基が配位位置に応じて定められる各異性体である(例;上記「化1」〜「化4」に記載の各化合物)。これらのジアミンは、単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
本発明においては、前記ベンゾオキサゾール構造を有する芳香族ジアミンを全ジアミンの70モル%以上使用することが好ましく、85モル%以上使用することがさらに好ましい。
【0014】
本発明におけるポリイミドには前記に限定されないで下記の芳香族ジアミンを全ジアミン30モル%未満であれば使用してもよい。
例えば、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、2,2−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、m−アミノベンジルアミン、p−アミノベンジルアミン、
【0015】
3,3’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルスルホキシド、3,4’−ジアミノジフェニルスルホキシド、4,4’−ジアミノジフェニルスルホキシド、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、3,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、3,4’−ジアミノベンゾフェノン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、3,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]メタン、1,1−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エタン、1,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エタン、1,1−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,3−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、
【0016】
1,1−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、1,3−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、1,4−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノシ)フェニル]ブタン、2,3−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、2−[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]−2−[4−(4−アミノフェノキシ)−3−メチルフェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)−3−メチルフェニル]プロパン、2−[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]−2−[4−(4−アミノフェノキシ)−3,5−ジメチルフェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)−3,5−ジメチルフェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、
【0017】
1,4−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホキシド、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、1,3−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,4−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、4,4’−ビス[(3−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,1−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,3−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、3,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、
【0018】
2,2−ビス[3−(3−アミノフェノキシ)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]メタン、1,1−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]エタン、1,2−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]エタン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホキシド、4,4’−ビス[3−(4−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ジフェニルエーテル、4,4’−ビス[3−(3−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ジフェニルエーテル、4,4’−ビス[4−(4−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)フェノキシ]ベンゾフェノン、4,4’−ビス[4−(4−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)フェノキシ]ジフェニルスルホン、ビス[4−{4−(4−アミノフェノキシ)フェノキシ}フェニル]スルホン、1,4−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェノキシ−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェノキシ−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(4−アミノ−6−トリフルオロメチルフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(4−アミノ−6−フルオロフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(4−アミノ−6−メチルフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(4−アミノ−6−シアノフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、
【0019】
3,3’−ジアミノ−4,4’−ジフェノキシベンゾフェノン、4,4’−ジアミノ5,5’−ジフェノキシベンゾフェノン、3,4’−ジアミノ−4,5’−ジフェノキシベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4−フェノキシベンゾフェノン、4,4’−ジアミノ−5−フェノキシベンゾフェノン、3,4’−ジアミノ−4−フェノキシベンゾフェノン3,4’−ジアミノ−5’−フェノキシベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジビフェノキシベンゾフェノン、4,4’−ジアミノ−5,5’−ジビフェノキシベンゾフェノン、3,4’−ジアミノ−4,5’−ジビフェノキシベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4−ビフェノキシベンゾフェノン、4,4’−ジアミノ−5−ビフェノキシベンゾフェノン、3,4’−ジアミノ−4−ビフェノキシベンゾフェノン、3,4’−ジアミノ−5’−ビフェノキシベンゾフェノン、1,3−ビス(3−アミノ−4−フェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノ−4−フェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノ−5−フェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノ−5−フェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノ−4−ビフェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノ−4−ビフェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノ−5−ビフェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノ−5−ビフェノキシベンゾイル)ベンゼン、2,6−ビス[4−(4−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)フェノキシ]ベンゾニトリル及び上記芳香族ジアミンにおける芳香環上の水素原子の一部もしくは全てがハロゲン原子、炭素数1〜3のアルキル基又はアルコキシル基、シアノ基、又はアルキル基又はアルコキシル基の水素原子の一部もしくは全部がハロゲン原子で置換された炭素数1〜3のハロゲン化アルキル基又はアルコキシル基で置換された芳香族ジアミン等が挙げられる。
【0020】
本発明におけるポリイミドに好ましく使用できる芳香族テトラカルボン酸類として、ピロメリット酸骨格を有する芳香族テトラカルボン酸類すなわちピロメリット酸及びその無水物又はハロゲン化物などのイミド結合性誘導体、ビフェニルテトラカルボン酸骨格を有する芳香族テトラカルボン酸類すなわちビフェニルテトラカルボン酸及びその無水物又はハロゲン化物が挙げられる。このピロメリット酸類とビフェニルテトラカルボン酸類とは酸性分の70モル%以上使用することが好ましく、30モル%未満であれば下記の芳香族テトラカルボン酸などを使用してもよい。
【0021】
【化5】

【0022】
【化6】

【0023】
【化7】

【0024】
【化8】

これらのテトラカルボン酸は単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
芳香族ジアミン類と、芳香族テトラカルボン酸無水物類とを重合してポリアミド酸を得るときに用いる溶媒は、原料となるモノマー及び生成するポリアミド酸のいずれをも溶解するものであれば特に限定されないが、極性有機溶媒が好ましく、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、N−アセチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホリックアミド、エチルセロソルブアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、スルホラン、ハロゲン化フェノール類等があげられるが、なかでもN−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミドが好ましく適用される。これらの溶媒は、単独あるいは混合して使用することができる。溶媒の使用量は、原料となるモノマーを溶解するのに十分な量であればよく、具体的な使用量としては、モノマーを溶解した溶液に占めるモノマーの質量が、通常5〜40質量%、好ましくは10〜20質量%となるような量が挙げられる。
【0025】
ポリアミド酸を得るための重合反応(以下、単に「重合反応」ともいう)の条件は従来公知の条件を適用すればよく、具体例として、有機溶媒中、0〜80℃の温度範囲で、10分〜30時間連続して撹拌及び/又は混合することが挙げられる。必要により重合反応を分割したり、温度を上下させてもかまわない。この場合に、両モノマーの添加順序には特に制限はないが、芳香族ジアミン類の溶液中に芳香族テトラカルボン酸無水物類を添加するのが好ましい。重合反応によって得られるポリアミド酸溶液に占めるポリアミド酸の質量は、好ましくは5〜40質量%、より好ましくは10〜30質量%であり、前記溶液の粘度はブルックフィールド粘度計による測定(25℃)で、送液の安定性の点から、好ましくは10〜2000Pa・sであり、より好ましくは100〜1000Pa・sである。
本発明におけるポリアミド酸の還元粘度(ηsp/C)は、特に限定するものではないが3.0dl/g以上が好ましく、4.0dl/g以上がさらに好ましく、なおさらに5.0dl/g以上が好ましい。
【0026】
また、重合反応の前に芳香族ジアミン類に少量の末端封止剤を添加して重合を制御することを行ってもよい。末端封止剤としては、無水マレイン酸等といった炭素−炭素二重結合を有する化合物が挙げられる。無水マレイン酸を使用する場合の使用量は、芳香族ジアミン類1モル当たり好ましくは0.001〜1.0モルである。
重合反応中に真空脱泡することは、良質なポリアミド酸の溶液を製造するのに有効である。
ポリアミド酸の溶液を支持体上に流延・塗布するに際して予め減圧などの処理によって該溶液中の気泡や溶存気体を除去しておくことも、本発明のポリイミフィルムを得るために有効な処理である。以下ポリイミドフィルムの作製例を記述する。
【0027】
重合反応によって得られたポリアミド酸溶液を支持体に流延(塗布)し、乾燥して自己支持性のポリアミド酸フィルム(前駆体フィルム)を得、この前駆体フィルムを高温処理するなどしてイミド化しポリイミドフィルムを得る。支持体は、ポリアミド酸溶液をフィルム状に成形するに足る程度の平滑性、剛性を有していればよく、表面が金属、プラスチック、ガラス、磁器などであるドラム又はベルト状回転体などが挙げられる。また、適度な剛性と高い平滑性を有するポリイミドフィルムを利用する方法も好ましい態様である。中でも、支持体の表面は好ましくは金属であり、より好ましくは錆びなくて耐腐食に優れるステンレスである。支持体の表面にはCr、Ni、Snなどの金属メッキを施してもよい。支持体表面は必要に応じて鏡面にしたり、あるいは梨地状に加工することができる。また支持体の差によって乾燥における風量や温度は適宜選択採用すればよく、支持体へのポリアミド酸溶液の塗布は、スリット付き口金からの流延、押出機による押出し、スキージコーティング、リバースコーティング、ダイコーティング、アプリケータコーティング、ワイヤーバーコーティング等を含むが、これらに限られず、従来公知の溶液の塗布手段を適宜用いることができる。
【0028】
前記で流延(塗布)・乾燥して得られるポリアミド酸フィルムをイミド化・熱処理する方法として、閉環(イミド化)触媒や脱水剤を含まないポリアミド酸溶液を用いて、熱処理に供することでイミド化反応を進行させる方法(所謂、熱閉環法)やポリアミド酸溶液に閉環触媒及び脱水剤を含有させておいて、上記閉環触媒及び脱水剤の作用によってイミド化反応を行わせる、化学閉環法を挙げることができる。
熱閉環法の熱処理温度は、150〜500℃が好ましく、熱処理温度がこの範囲より低いと充分に閉環されづらくなり、またこの範囲より高いと劣化が進行し、フィルムが脆くなりやすくなる。より好ましい態様としては、150〜250℃で3〜20分間処理した後に350〜500℃で3〜20分間熱処理するところの初期段階熱処理と後段階熱処理とを有する2段階熱処理工程が挙げられる。
熱閉環反応であっても、化学閉環法であっても、支持体に形成されたポリイミドフィルムの前駆体(グリーンフィルム)を完全にイミド化する前に支持体から剥離してもよいし、イミド化後に剥離してもよい。
ポリイミドフィルムの厚さは特に限定されないが、1〜150μm、好ましくは2〜50μmである。この厚さはポリアミド酸溶液を支持体に塗布する際の塗布量や、ポリアミド酸溶液の濃度によって容易に制御し得る。
本発明のポリイミドには、滑剤をポリイミド中に添加含有せしめるなどして成形品表面に微細な凹凸を付与し成形品の滑り性を改善することが好ましい。
滑剤としては、無機や有機の0.03〜3μm程度の平均粒子径を有する微粒子が使用でき、具体例として、酸化チタン、アルミナ、シリカ、炭酸カルシウム、燐酸カルシウム、燐酸水素カルシウム、ピロ燐酸カルシウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、粘土鉱物などが挙げられる。
【0029】
本発明のポリイミドフィルムの引張弾性率は5〜15GPaが必須であり、6〜15GPaが好ましく7.5〜15GPaがなお好ましい。引張弾性率がこの5GPaに満たないと、周波数帯域の高周波側の特性が低下する場合がある。また引張弾性率がこの15GPaを超えると熱ストレスにより振動子の破断が生じやすくなる。
本発明のポリイミドフィルム(高引張弾性率フィルム)の熱収縮率は300℃で10分間の処理において0.07%以下であることが必須であり、さらに0.04%以下が好ましく0.025%以下であることがなお好ましい。熱収縮率がこの範囲より大きいとハンダ付けの際の熱ストレスにより振動子の破断ないしは接着部分の剥離などの問題を生じる可能性があり、また破断、剥離に至らなかった場合でも振動子に歪みが残存し、周波数応答性に問題を生じる場合がある。
【0030】
電気音響変換素子は、固定子と振動子を基本構成とするものであり、音響信号から電気信号への変換においては、固定子に対して音響、すなわち圧力波により変動する振動子の位置の時間変化を、電磁力、電磁誘導、電磁誘導起電力、静電気力、静電誘導、等を利用して電気信号に変換する。また電気信号から音響信号への変換においては電気信号を電磁力ないし静電気力に変換して振動子の一を時間的に変化せしめて圧力波、すなわち音響信号へと変換する。
本発明においては、電磁誘導を利用し、振動子側のコイルと固定子側の永久磁石との間に生じる電磁力を用いて音響信号と電気信号の相互変換を行う。
本発明においては、振動子を構成する高引張弾性率ポリイミドフィルムに印刷配線板技術を応用して平面型のプリントコイルを形成する。プリントコイルの形成手法としてはサブトラクティブ法、ないしアディティブ法、セミアディティブ法を用いることが出来る。サブトラクティブ法においては、フィルム表面に金属箔を形成し、不要部分をエッチング除去してコイルを形成する。またアディティブ法においてはコイル部分だけに金属をメッキ、ないし導電ペーストなどをスクリーン印刷、インクジェットプリント等の手法で形成する。フィルム表面への金属箔形成は金属箔のラミネートないし蒸着、スパッタリング、無電解メッキ、ないしそれらと電気めっきの組み合わせ等の手法を用いることが可能である。エッチングレジストないしアディティブ法のメッキレジスト形成には印刷法、フォト法を用いることが可能である。
【0031】
本発明に於けるプリントコイル(金属箔)の厚さは12μm以下であることが必須であり、8.5μm以下が好ましく、さらに5.5μm以下が好ましく、なおさらには3.2μm以下が好ましい。金属箔の厚さがこの範囲を上回ると、振動子の慣性が上がり、周波数帯域が狭くなる場合がある。また本発明のプリントコイル(金属箔)厚さの下限は0.2μm程度が好ましく、さらに好ましくは0.5μm、なお好ましくは0.9μmである。プリントコイル(金属箔)の厚さがこの範囲を下回ると、電気信号の十分な送受が困難となり、また金属種によっては長期間の使用により酸化腐食等は生じ、耐久性に問題が生じることがある。
プリントコイル(金属箔)の金属としては銅、アルミ、ニッケル、ニッケル−リン、ニッケル−ボロン、金、銀、白金、銅合金など、通常の導電材料として用いられている素材を好ましく用いることができる。
本発明においては固定子側に永久磁石を用いる。本発明においては、用いられる永久磁石のキュリー温度が300℃以上であることが好ましいものであり、キュリー温度330℃以上が好ましく、370℃以上がなお好ましい。キュリー温度がこの温度に満たないとハンダ付けの際の熱ストレスにより永久磁石の磁化が失われるか、ないし著しく低下する可能性がある。キュリー温度が300℃以上の永久磁石としてはフェライト磁石(キュリー温度450〜460℃)、サマリウムコバルト磁石(キュリー温度750−800℃)、アルニコ磁石(キュリー温度>800℃)などを好ましく用いることが出来、さらにはサマリウムコバルト磁石、アルニコ磁石を、なお好ましく用いることができる。
【0032】
本発明の電気音響素子の構造を図1に模式的に示す。
ポリイミドフィルム1.には両面にスパッタメッキ法により金属箔が形成され、両面スルーホール回路加工によりプリントコイル(平面コイル)2.が形成されている。図では模式化のため片面のみが示されている。
筐体4中には永久磁石3が所定の位置に設置されている。かかる筐体はハンダ耐熱性のある絶縁材料、たとえばポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、マレイミド樹脂、ビスマレイミドトリアジン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ポリエチレンスルフィド樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、セラミックス等により形成される。かかる筐体4とフィルター6を有する蓋部材5に、先の平面コイルが形成されたポリイミドフィルムが挟持拘束されており、ポリイミドフィルムの非拘束部分が振動子となる。
図では省略されているが、ポリイミドフィルムに形成された平面コイルの両端は筐体内に形成された導通路を通じて基板接続用電極に電気的に接続されている。
【実施例】
【0033】
以下、実施例によって本発明を更に詳細に説明するが本発明はこれらの実施例によって何ら制限されるものではない。
実施例中に示される特性値の測定は以下の方法で行った。
【0034】
1.ポリアミド酸の還元粘度(ηsp/C)
ポリマー濃度が0.2g/dlとなるようにN−メチル−2−ピロリドンに溶解した溶液をウベローデ型の粘度管により30℃で測定した。
【0035】
2.ポリイミドフィルムのフィルム厚さ
フィルムの厚さは、マイクロメーター(ファインリューフ社製、ミリトロン1254D)を用いて測定した。
【0036】
3.ポリイミドフィルムの引張弾性率、引張破断強度及び引張破断伸度
乾燥後のフィルムを長手方向(MD方向)及び幅方向(TD方向)にそれぞれ長さ100mm、幅10mmの短冊状に切り出して試験片とし、引張試験機(島津製作所製オートグラフ(商品名)機種名AG−5000A)を用い、引張速度50mm/分、チャック間距離40mmの条件で、引張引張弾性率、引張強度及び破断伸度を測定した。それぞれの力学物性データ値は、MD方向とTD方向の平均値で示した。
【0037】
4.300℃10分間処理における熱収縮率(表では熱収縮率で示す)
フィルムを長さ250mm、幅25mmの短冊状に切り取りサンプルとする。サンプル内に約200mm離して、直径1mmのパンチ孔を明け、測長機により両者の間隔Laをμm単位で測定する。次いでフィルムサンプルを300℃に加温したドライオーブンに素早く入れ、所定時間経過後に取りだして、室温まで自然冷却し、再度測長機にてパンチ孔の間隔Lbを正確に測定し、以下の式を盛って熱収縮率とする。
熱収縮率=100×(La−Lb)/La
【0038】
ポリイミドフィルムの作製
<作製例1>
窒素導入管,温度計,攪拌棒を備えた反応容器内を窒素置換した後,5−アミノ−2−(p−アミノフェニル)ベンゾオキサゾール500質量部を仕込んだ。次いで,N−メチル−2−ピロリドン5000質量部を加えて完全に溶解させた後,ピロメリット酸二無水物485質量部を加え,25℃の反応温度で15時間攪拌すると,褐色で粘調なポリアミド酸溶液が得られた。このもののηsp/Cは4.0であった。
続いてこのポリアミド酸溶液をステンレスベルトにスキージ/ベルト間のギ ャップを
650μmとしてコーティングし、3つの熱風式乾燥ゾーンを備えた乾燥機にて所定条件で乾燥した。
乾燥後に自己支持性となったポリアミド酸フィルムをステンレスベルトから剥離し厚み40μmのグリーンフィルムを得た。
得られたグリーンフィルムを、窒素置換された連続式の熱処理炉に通し、第1段が180℃で3分、昇温速度4℃/秒で昇温して第2段として460℃で2分の条件で2段階の加熱を施して、イミド化反応を進行させた。その後、5分間で室温にまで冷却することで、褐色を呈する厚さ9.5μmのポリイミドフィルムAを得た。得られたフィルムの物性を評価した、その結果を表1に示す。
【0039】
<作製例2>
窒素導入管、温度計、攪拌棒を備えた容器を窒素置換した後、P−PDA(パラフェニレンジアミン)を入れた。次いで、DMAC(ジメチルアセトアミド)を加えて完全に溶解させてから、BPDA(3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物)を加えて、モノマーとしてのP−PDAとBPDAとが1/1のモル比でDMAC中重合し、モノマー仕込濃度が、15質量%となるようにし、25℃にて5時間攪拌すると、褐色の粘調なポリアミド酸溶液が得られた。得られたグリーンフィルムを、作製例1と同様にしてイミド化反応を進行させ、褐色を呈する厚さ10.3μmのポリイミドフィルムBを得た。得られたフィルムの物性を評価した、その結果を表1に示す。
【0040】
<作製例3>
窒素導入管、温度計、攪拌棒を備えた容器を窒素置換した後、ODA(4,4’−ジアミノジフェニルエーテル)を入れた。次いで、DMAC(ジメチルアセトアミド)を加えて完全に溶解させてから、PMDAを加えて、モノマーとしてのODAとPMDAとが1/1のモル比でDMAC中重合し、モノマー仕込濃度が、15質量%となるようにし、25℃にて5時間攪拌すると、褐色の粘調なポリアミド酸溶液が得られた。得られたグリーンフィルムを、作製例1と同様にしてイミド化反応を進行させ、褐色を呈する厚さ12.6μmのポリイミドフィルムCを得た。得られたフィルムの物性を評価した、その結果を表1に示す。
【0041】
<作製例4>
温度計・攪拌装置及び原料投入口を備えた反応容器に、窒素雰囲気下、脱水したN−メチル−2−ピロリドン(NMP)4000質量部を入れ、さらにパラフェニルジアミン108質量部を加えた後に完全に溶解し、その後、氷浴下冷却した。この冷却したジアミン溶液にコロイダルシリカをジメチルアセトアミドに分散してなるスノーテックス(商品名)DMAC−Zl(日産化学工業株式会社製)7質量部(シリカを1.4質量部含む)、無水ピロメリット酸二無水物218質量部を添加し一時間反応させ、さらに室温下2時間反応後、マレイン酸無水物0.5質量部を添加しさらに30分反応させた。粘調なポリアミド酸溶液が得られた。この還元粘度(ηsp/C)は3.4dl/gであった。得られたグリーンフィルムを、作製例1と同様にしてイミド化反応を進行させ、褐色を呈する厚さ8.2μmのポリイミドフィルムDを得た。得られたフィルムの物性を評価した、その結果を表1に示す。
【0042】
【表1】

【0043】
[実施例1]
(金属化ポリイミドフィルムの製造)
作製例において得られたポリイミドフィルムAを、巻き出し装置、巻き取り装置、プラズマ処理装置を備えた真空装置内にセットし、次いでフィルム両表面のプラズマ処理を行った。プラズマ処理条件はアルゴンガス中で、周波数13.56MHz、出力100W、ガス圧0.8Paの条件であり、処理時の温度は25℃、プラズマ雰囲気での滞留時間約30秒であった。次いで、プラズマ処理後のフィルムを、同じく巻き出し装置装置、巻き取り装置、スパッタリングエリアを有する真空装置内にセットし、周波数13.56MHz、出力400W、ガス圧0.8Paの条件、ニッケル−クロム(クロム7%)ターゲットを用い、アルゴン雰囲気下にてRFスパッタ法により、両面に150Åのニッケル−クロム合金被膜を形成した。次いで、銅ターゲットを用いてスパッタリングにより両面に厚さ3000オングストローム銅薄膜を形成させた。
得られた金属化フィルムを連続式の電気メッキ槽により、硫酸銅めっき浴を用いて、両面に厚さ5μmの厚付け銅メッキ層を形成し、両面金属化フィルムを得た。
【0044】
(プリントコイルの製作)
得られた両面金属化フィルムを、幅250mmにスリットし、所定の箇所に孔あけを行い、ロールトゥロール方式の加工ラインにおいて、スルホールメッキを行い、さらにドライフィルムレジストを使用したサブトラクティブ法にて、直径4.0mmの所定のプリントコイルを作製した。
(マイクロホンの試作と特性評価)
得られたプリントコイルを用い、図1.に示すムービングコイル型マイクロホンを作製した。得られたマイクロホンに10Hz〜50kHz帯域を有する試験信号を用いて、初期の入力周波数特性を測定した。結果100Hz〜20kHz ± 3dBの良好なる特性を得ることができた。次にマイクロホンを、ハンダペーストが印刷されたプリント配線板に仮接着し、ピーク温度270℃のリフローハンダ装置を用いてハンダ付けし、ハンダ付け後に同様に帯域幅を求めた。結果、100Hz〜19kHz ± 3dBの良好な帯域を得ることが出来た。
【0045】
[実施例2]
作製例において得られたポリイミドフィルムBを用いて同様に両面金属化フィルム、プリントコイルを作製し、図1.に示すムービングコイル型マイクロホンを作製した。得られたマイクロホンを実施例1と同様に初期の帯域とリフローハンダ付け後の帯域を求めた。結果、初期の帯域幅:100Hz〜20kHz ± 3dB、リフローハンダ付け後の帯域幅:100Hz〜18kHz ± 3dBと、リフローハンダ付け後にやや帯域が狭まったが、聴感上の音質差はほとんど感じられなかった。
【0046】
[比較例1]
作製例において得られたポリイミドフィルムCを用いて同様に両面金属化フィルム、プリントコイルを作製し、図1.に示すムービングコイル型マイクロホンを作製した。得られたマイクロホンを実施例1と同様に初期の帯域とリフローハンダ付け後の帯域を求めた。結果、初期の帯域幅 150Hz〜15kHz ± 3dB、リフローハンダ付け後の帯域幅180Hz〜8kHz ± 3dBと、初期の帯域幅が小さく、さらにリフローハンダ付け後は高音域が著しく低下した。また聴感上も、リフローハンダ付け後の音質の劣化、特に高音域の減衰が顕著であった。
【0047】
[比較例2]
作製例において得られたポリイミドフィルムDを用いて同様にムービングコイル型マイクロホンを作製し、同様に評価した。結果、初期の帯域幅:120Hz〜18kHz ± 3dB、リフローハンダ付け後の帯域幅:300Hz〜12kHz ± 3dBと、初期の帯域幅がやや小さく、さらにリフローハンダ付け後は高音域、低音域ともに帯域幅が縮まった。聴感上も帯域劣化は明らかであった。
【0048】
[実施例3〜4、比較例3〜4]
実施例1と同様にして両面金属化ポリイミドフィルムをそれぞれのポリイミドフィルムを用いて作成し、直径が12mmのプリントコイルを作製し、図1のマイクロホンと同様の構造を有するムービングコイル型のスピーカを得た。得られたスピーカについて、マイクロホンと同様に、初期とリフローハンダ後の入出力特性を求めて比較した。なお入出力性は、入力側に10Hz〜50kHzの帯域を有する試験信号を用いた。以下にその結果を示す。
【0049】
[実施例3]
(ポリイミドフィルムAを使用)
初期出力帯域幅:80Hz〜16kHz± 3dB
リフローハンダ付け後の出力帯域幅:80Hz〜16kHz± 3dB
聴感上、差異無し。
【0050】
[実施例4]
(ポリイミドフィルムBを使用)
初期出力帯域幅:80Hz〜15kHz ±3dB
リフローハンダ付け後の出力帯域幅:80Hz〜14kHz ±3dB
聴感上、差異無し。
【0051】
[比較例3]
(ポリイミドフィルムCを使用)
初期出力帯域幅:250Hz〜8kHz±3dB
リフローハンダ付け後の出力帯域幅:300Hz〜5kHz ±3dB
聴感上、明らかに高域が低下。
【0052】
[比較例4]
(ポリイミドフィルムDを使用)
初期出力帯域幅:150Hz〜18kHz± 3dB
リフローハンダ付け後の出力帯域幅:250Hz〜11kHz ±3dB
聴感上、高域が低下。
【産業上の利用可能性】
【0053】
以上、示したように本発明のマイクロホンならびにスピーカは、リフローハンダ付け前後にて電気−音響変換特性の変化が少なく、小型マイクロホン、小型スピーカの実装に置いて極めて有用なものであり、小型の音響機器、携帯電話、トランシーバー、警報機機、音響センサー、探知機等に有用に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】は本発明における、電気音響変換器の模式図であり、上図は振動子の平面模式図を、下図は電気音響変換器の断面模式図を示す。
【符号の説明】
【0055】
1.ポリイミドフィルム
2.プリントコイル
3.永久磁石
4.筐体
5.蓋部材
6.フィルター
7.支持部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも固定子と、振動子とを構成要素とする電気音響変換器であって、振動子が、引張弾性率が5〜15GPaであり、300℃で10分間処理における熱収縮率が0.07%以下であるポリイミドフィルムに、導体厚さ12μm以下のプリントコイルを配設したものであることを特徴とする電気音響変換器。
【請求項2】
ポリイミドフィルムが、ベンゾオキサゾール骨格を有するジアミン類と芳香族テトラカルボン酸類の縮重合で得られるポリイミドフィルムである請求項1記載の電気音響変換器。
【請求項3】
振動子が平板構造である請求項1〜2いずれかに記載の電気音響変換器。
【請求項4】
固定子に使用される永久磁石のキュリー温度が300℃以上である請求項1〜3いずれかに記載の電気音響変換器。

【図1】
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【公開番号】特開2008−294515(P2008−294515A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−135173(P2007−135173)
【出願日】平成19年5月22日(2007.5.22)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】