説明

電池のゲル状電解質に用いる無機酸化物粉末および該無機酸化物粉末を含むゲル組成物

電池のゲル状電解質に用いる無機酸化物粉末であり、平均一次粒子径が5nm〜40nmであって、100μm以上の凝集物の存在確率が1%以下であり、好ましくは疎水化度が50%以上であり、好ましくは無機酸化物粉末がシリカ粉末、アルミナ粉末、チタニア粉末、またはこれらの混合粉末であり、この無機酸化物粉末を含むゲル組成物は、チキソトロピー指数が6.0以上、また好ましくは該無機酸化物粉末を30wt%以上含むときの動的弾性率D30が10000[Pa]以上であり、このゲル組成物を用いることによって、作業性および形状保持性に優れた電池用ゲル状電解質を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は電池のゲル状電解質に用いる無機酸化物粉末であって、電解質に添加したときに作業性および形状保持性に優れるゲル状電解質を得ることができる無機酸化物粉末に関する。
【背景技術】
リチウムイオンポリマー電池などの電解質にシリカ、アルミナ、チタニアなどの無機酸化物粉末をゲル化剤として加えることによって電解質の機械的強度やイオン伝導度を高めることが知られている。例えば、リチウムイオン電解質にシリカなどの無機充填剤を加えることによって機械的強度を高め、可塑剤を使用しないので電解液の含浸量が増加することが知られている(特開平2001−167796号公報)。また、疎水性無機酸化物粉末を用いることによってフッ素を含有する電解質から化学的に安定なゲル状電解質を得ることができ、この疎水性無機酸化物粉末は親水性無機酸化物粉末よりゲル化効果が高く、液漏れの危険性を減少させ、負荷特性や低温特性などの電池特性に優れた電池を得ることが知られている(特開平2001−229966号公報)。
電解質にシリカ粉末等を添加してゲル化し、その機械的強度を高める場合、十分な機械的強度を得るには概ね25%以上程度のシリカ粉末等を添加する必要がある。ところが、疎水化処理したシリカ粉末等は凝集体を形成しているため、電解質に用いるプロピレンカーボネート等の分散媒に添加した場合、この分散媒に対して馴染み難く、25%程度以上の量を添加するのが難しい。また、従来、ゲル化剤のシリカ粉末等を加えた電池用電解質のチキソトロピー指数(チキソ指数とも云う)が低いため作業性に劣り、形状保持性も低いと云う問題がある。
【発明の開示】
本発明は、従来の無機酸化物粉末を添加したゲル状電解質に比較して、チキソ指数が高く、電解質の動的弾性率が格段に向上したゲル状電解質を得ることができる無機酸化物粉末を提供する。さらにこの無機酸化物粉末を含むゲル組成物を提供する。
すなわち、本発明によれば、以下の構成からなる電池のゲル状電解質に用いる無機酸化物粉末とゲル組成物が提供される。
(1)電池のゲル状電解質に用いる無機酸化物粉末であり、平均一次粒子径が5nm〜40nmであって、100μm以上の凝集物の存在確率が1%以下であることを特徴とする無機酸化物粉末。
(2)疎水化処理と同時または疎水化処理の後に解砕処理した疎水性粉末であり、疎水化度が50%以上、平均一次粒子径が5nm〜40nmであって、100μm以上の凝集物の存在確率が1%以下である請求項1の無機酸化物粉末。
(3)無機酸化物粉末がシリカ粉末、アルミナ粉末、チタニア粉末、またはこれらの混合粉末である上記(1)または(2)の何れかに記載する無機酸化物粉末。
(4)上記(1)〜(3)の何れかに記載する無機酸化物粉末を含み、チキソトロピー指数が6.0以上であることを特徴とするゲル組成物。
(5)上記(1)〜(3)の何れかに記載する無機酸化物粉末を30wt%以上含み、その動的弾性率D30が10000[Pa]以上であるゲル組成物。
(6)電池に用いる上記(4)〜(5)の何れかに記載するゲル組成物。
〔発明の具体的な説明〕
以下、本発明を具体的に説明する。なお、%は特に示さない限りwt%である。
本発明の無機酸化物粉末は、電池のゲル状電解質に用いる無機酸化物粉末であり、平均一次粒子径が5nm〜40nmであって、100μm以上の凝集物の存在確率が1%以下であることを特徴とし、さらに、好ましくは、疎水化処理の後に粉砕処理した疎水性のシリカ粉末、アルミナ粉末、チタニア粉末、またはこれらの混合粉末粉末であって、疎水化度が50%以上であることを特徴とする無機酸化物微粉末である。
本発明の無機酸化物粉末としては、シリカ、アルミナ、チタニアなどが用いられ、気相法で得られるものがより好ましい。これらのうち、例えば、気相法シリカ粉末は、四塩化珪素、トリクロロシラン、ジクロロシラン、メチルトリクロロシラン等のガス状の珪素化合物をシリカの融点以上の温度を有する火炎に導き、加水分解させることによって製造された非晶質シリカ微粒子である。
シリカ粉末などの無機酸化物粉末は疎水化処理したものが好ましい。疎水化剤としてはシランカップリング剤、シリコーンオイル、シラザン等が用いられ、この疎水化処理剤を1種または2種以上混合して用いることができる。疎水化処理の方法は、例えば、撹袢装置を備えた容器に微粉末を入れ、窒素雰囲気下で撹袢し、疎水化剤を単独に、あるいは疎水化剤と電荷調整剤を必要に応じて溶剤と共に滴下もしくは噴霧し、または疎水化剤等を加熱気化させ、微粉末と十分に分散させた後、加熱し、その後、冷却する乾式処理法によって疎水化シリカ微粒子を得ることことができる。疎水化処理は湿式処理でもよい。具体的には例えば、溶媒中にシリカ微粉末を分散させて疎水化剤等を添加し、反応させた後に乾燥する。なお、湿式疎水化処理法はシリカ微粒子が凝集しやすいので乾式の疎水化処理法が好ましい。
本発明の無機酸化物粉末は、シリカなどの無機酸化物粉末を疎水化処理し、更にこれを解砕処理したものが好ましい。解砕処理は機械的な破壊、圧縮、ミルによる粉砕など何れの手段でも良い。また、解砕処理は疎水化処理と同時に行っても良い。一般に疎水化処理などの表面処理を行ったシリカ粉末等は凝集体を形成しているので、疎水化処理と同時ないし疎水化処理後に解砕処理を行うことによって凝集体が解砕され、電解質の分散媒に対して馴染みの良い、分散性に優れた粉末を得ることができる。解砕処理の方法および条件は無機酸化物粉末の種類や疎水化処理の状態などに応じて定めれば良い。
本発明の無機酸化物粉末は、以上のように疎水化処理を施した場合には、これを解砕処理した凝集の少ない微粉末である。具体的には、平均一次粒子径が5nm〜40nmであって、100μm以上の凝集物の存在確率が1%以下である微粉末である。平均一次粒子径が5nm未満であるシリカは凝集が強すぎるため分散することが難しく、十分な機能を発揮することができないので好ましくない。一方、平均一次粒子径が40nmより大きくなると分散はし易いが、増粘効果、機械的特性の向上が著しく減少するのでこの場合も好ましくない。
凝集物の存在確率はレーザー回折粒度分布による粒度分布径に基づいて求めることができる。例えばエタノールに無機酸化物を3%ディゾルバー等により分散させ、レーザー回折粒度分布により粒度分布を求める。凝集粒子の多いシリカの場合には100μmを超える大きさの粒子が多く観察されるが、凝集物が少なければ100μmを超える粒子はほとんど存在しない。本発明の無機酸化物粉末は、このような方法によって測定した100μm以上の凝集物の存在確率が1%以下のものである。100μm以上の凝集物の存在率が1%より多い無機酸化物粉末は増粘しやすい傾向にあるため、これを電解質に添加してゲル状電解質を形成する場合、25%以上添加することが難しい。
さらに、本発明の無機酸化物粉末は、好ましくは疎水化度が50%以上のものである。このような疎水性を有することによって無機酸化物への水分の吸着を避けることができ、電解質などの混合物系内への水分の混入を防ぐことができる。
本発明の無機酸化物粉末を有機溶媒(分散媒)に添加することによってゲル組成物を得ることができる。このゲル組成物は、平均一次粒子径5nm〜40nm、および100μm以上の凝集物の存在確率が1%以下であり、好ましくは疎水化度が50%以上である上記無機酸化物粉末を含み、また好ましくはチキソトロピー指数(チキソ指数)が6.0以上のゲル組成物である。具体的には、実施例に示すように、プロピレンカーボネートに上記粒子条件のシリカ粉末を25〜35%添加したゲル組成物について、回転数40rpmの動粘度[X40]と回転数5rpmの動粘度[X5]の比〔X5/X40〕によって示されるチキソ指数は何れの添加量においても6.2以上であり、高いチキソ指数を有している。
また、本発明のゲル組成物は、例えば、上記無機酸化物粉末を30wt%以上含む場合に、その動的弾性率D30が10000[Pa]以上のものである。具体的には、実施例に示すように、プロピレンカーボネートに上記粒子条件のシリカ微粉末を30wt%添加したゲル組成物の動的弾性率D30は19590[Pa]であり、格段に高い動的弾性率を有している。
このゲル組成物に使用される有機溶媒は、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジエチルカーボネートなどが挙げられ、プロピレンカーボネートが好適に用いられるが、これらに限定されるものではなく、また単独で使用しても2種以上を混合して使用してもよい。
上記ゲル組成物を電解質に混合することによってゲル状電解質を得ることができる。このゲル状電解質に使用される電解質は、無機電解質または有機電解質のどちらでも良く、例えばLiPF、LiClO、LiBF、LiSiF、LiN(SOCFCF)などのリチウム塩が好適に用いられるが、これらに限定されるものではなく、また単独で使用しても2種以上を混合して使用してもよい。
【発明の効果】
以上のように、本発明の無機酸化物粉末は、平均一次粒子径が5nm〜40nmであって、100μm以上の凝集物の存在確率が1%以下であり、好ましくは疎水化処理し、かつ解砕処理することによって平均一次粒子径および凝集物の存在確率を上記範囲にした疎水化度50%以上の粉末である。本発明の無機酸化物粉末は電池電解質に添加した場合に分散媒との馴染みがよいので多量に添加することができ、またチキソ指数が高くなるので作業性がよく、さらに動的弾性率が格段に向上するので形状保持性に優れる。すなわち、例えばリチウム電池などの電解質に対してゲル化剤として用いた場合、その添加量を大幅に増加することができるので、ゲル状電解質の固体的性質を高めることができ、その機械的強度を格段に向上することができるので、形状保持性が高く、しかも液漏れのない電解質を得ることができる。またゲル状電解質のチキソ指数も高いので成形性ないし作業性に優れたゲル状電解質を得ることができる。
具体的には、例えば、プロピレンカーボネートに対して、疎水性シリカ粉末の添加量を35wt%まで高めることができる。このように、疎水性シリカ粉末の添加量を増すことができるので、疎水性シリカ粉末の添加量が25%程度のときの動的弾性率が5300[Pa]程度である場合に、添加量を30〜35wt%に増加することによって動的弾性率を20,000〜60,000以上に高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明を実施例および比較例によって以下に具体的に示す。なお、シリカ粉末を添加したゲル組成物について、回転型粘度計を用いて回転数40rpmの動粘度(40/s粘度)[Pa・s]と回転数5rpmの動粘度(5/s粘度)[Pa・s]、および動的弾性率G[Pa]を測定した。動粘度は力を加えたときの内部抵抗の大きさを示し、従ってこの値が大きすぎると成形時や加工時の作業に支障をきたす。例えば、40/s粘度が低いほど作業時ないし成型時に扱いやすく、5/s粘度が高いほど成型後の形状保持性が高い。チキソ指数はそれらの比(40/s粘度:5/s粘度)によって示され、チキソ指数が高いほど作業性および形状保持性に優れる。また、動的弾性率は市販のレオメーター(例えばHAAKE社製RS150)により測定することができる。これは固体的な要素の大きさを示しており、この値が大きいほど固体的な性質が高く、成型後に外部の力を加えても型崩れし難く、ゲル電解質において液漏れし難いことを意味している。
【実施例】
疎水化処理したフュームドシリカ(日本アエロジル社製品、商品名Aerosil R972)を用い、疎水化処理した後に解砕処理し、表1に示す粒子条件の疎水性シリカ粉末Aを調製した。この疎水性シリカ粉末Aをプロピレンカーボネートに添加して、その40/s粘度、5/s粘度を測定し、チキソ指数を求め、また1[Pa]ストレス下での動的弾性率を測定した。一方、疎水化処理後に解砕処理しないシリカ粉末Bについて同様の試験を行った。これらの結果を添加量およびチキソ指数と共に表1に示した。
表1に示すように、比較例の解砕処理しない疎水性シリカ粉末Bは分散媒に対して馴染み難いため30wt%添加することができなかった。25%添加したときの40/s粘度は95[Pa・s]、5/s粘度は295[P・s]であり、チキソ指数は3.1、動的弾性率は5343[Pa]であった。一方、本発明の解砕処理した疎水性シリカ粉末Aは分散媒に対して馴染みがよく、35wt%まで添加することができた。その結果、40/s粘度78[Pa・s]、5/s粘度589[Pa・s]、チキソ指数7.5、動的弾性率は63840[Pa]であり、チキソ指数と動的弾性係数が格段に向上した。また、本発明のシリカ粉末Aは比較例のシリカ粉末Bよりも分散媒に対して馴染みがよいので、25wt%までシリカ粉末を添加して分散させるのにシリカBは約400秒かかるのに対してシリカAでは約50秒ですむ。また、その時AとBの動的弾性率はほぼ同じであるのに対して、粘度がシリカBでは極めて高く、成形時や加工時の作業に支障をきたす。

【産業上の利用可能性】
本発明の無機酸化物粉末は、電解質に対してゲル化剤として用いた場合、その添加量を大幅に増加することができるので、ゲル状電解質の固体的性質を高めることができ、その機械的強度を格段に向上することができる。従って、形状保持性が高く、しかも液漏れのない電解質を得ることができる。またゲル状電解質のチキソ指数も高いので成形性ないし作業性に優れたゲル状電解質を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池のゲル状電解質に用いる無機酸化物粉末であり、平均一次粒子径が5nm〜40nmであって、100μm以上の凝集物の存在確率が1%以下であることを特徴とする無機酸化物粉末。
【請求項2】
疎水化処理と同時または疎水化処理の後に解砕処理した疎水性粉末であり、疎水化度が50%以上、平均一次粒子径が5nm〜40nmであって、100μm以上の凝集物の存在確率が1%以下である請求の範囲第1項の無機酸化物粉末。
【請求項3】
無機酸化物粉末がシリカ粉末、アルミナ粉末、チタニア粉末、またはこれらの混合粉末である請求の範囲第1項または第2項の何れかに記載する無機酸化物粉末。
【請求項4】
請求の範囲第1項〜第3項の何れかに記載する無機酸化物粉末を含み、チキソトロピー指数が6.0以上であることを特徴とするゲル組成物。
【請求項5】
請求の範囲第1項〜第3項の何れかに記載する無機酸化物粉末を30wt%以上含み、その動的弾性率D30が10000[Pa]以上であるゲル組成物。
【請求項6】
電池に用いる請求の範囲第4項または第5項に記載するゲル組成物。

【国際公開番号】WO2004/062008
【国際公開日】平成16年7月22日(2004.7.22)
【発行日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−564532(P2004−564532)
【国際出願番号】PCT/JP2003/016806
【国際出願日】平成15年12月25日(2003.12.25)
【出願人】(390018740)日本アエロジル株式会社 (14)
【Fターム(参考)】