電池特性評価装置
【課題】ワールブルグインピーダンスを考慮して、電池の等価回路モデルにおける回路定数同定値の精度を高めることができる電池特性評価装置を提供すること。
【解決手段】電池の電流-電圧特性に基づき、等価回路モデルに対する回路定数を同定するように構成された電池特性評価装置において、矩形波電流の立ち上がりおよび立ち下がりを検出してそれぞれのステップ関数を出力する電流検出部と、これらステップ関数と前記電圧実測値と等価回路モデルデータが入力され、最適化された等価回路モデルの回路定数を演算して出力する回路定数最適化部、を含むことを特徴とするもの。
【解決手段】電池の電流-電圧特性に基づき、等価回路モデルに対する回路定数を同定するように構成された電池特性評価装置において、矩形波電流の立ち上がりおよび立ち下がりを検出してそれぞれのステップ関数を出力する電流検出部と、これらステップ関数と前記電圧実測値と等価回路モデルデータが入力され、最適化された等価回路モデルの回路定数を演算して出力する回路定数最適化部、を含むことを特徴とするもの。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池特性評価装置に関し、詳しくは、電池の等価回路モデルにおける回路定数同定値の高精度化に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図7は、電池特性を評価するための電流および電圧測定に用いられる従来の回路例を示すブロック図である。測定対象である電池1と直列に負荷2と電流計3が接続されるとともに、電池1と並列に電圧計4が接続されている。
【0003】
電流計3は負荷2のオン/オフに応じて変化する電池1の出力電流の立ち上がりや立ち下りの実測値を測定し、電圧計4は負荷2のオン/オフに応じて変化する電池1の出力電圧の立ち上がりや立ち下りの実測値を測定する。なお、これらの具体的な測定手順については、特許文献1に記載されている。
【0004】
図8は、図7の測定結果に基づき電池の特性評価を行う電池特性評価装置の従来例を示すブロック図である。入力部5には、電流計3による電流実測値データIM、電圧計4による電圧実測値データVMおよびあらかじめ作成されている電池1の標準的な等価回路モデルデータEMが入力される。
【0005】
回路定数最適化部6は、電圧演算部6aと判定部6bで構成されていて、入力部5から入力される電流計3による電流実測値データIM、電圧計4による電圧実測値データVMおよび等価回路モデルデータEMに基づいて電池1の等価回路モデルの回路定数を同定値FVとして最適化し、最適化された等価回路モデルの回路定数を出力部7に出力する。
【0006】
回路定数最適化部6において、電圧演算部6aには電流計3による電流実測値データIMと等価回路モデルデータEMおよび判定部6bから回路定数CCの候補が入力され、電圧計算値VCが計算されて判定部6bに出力される。
【0007】
判定部6bには電圧計4による電圧実測値データVMおよび電圧演算部6aで計算された電圧計算値VCが入力され、これら電圧実測値データVMと電圧計算値VCは比較されて最適値か否かが判定される。最適でなければ比較結果から新たな回路定数CCを生成して電圧演算部6aに入力し、再び電圧を計算させる。以上の処理を回路定数が最適値と判定されるまで繰り返して実行する。このようにして等価回路モデルの回路定数として最適化された同定値FVを出力部7に出力する。
【0008】
出力部7は、回路定数算出部6で最適化された等価回路モデルの回路定数の同定値FVに基づき、電池1の特性曲線を生成して図示しない表示部に表示する。
【0009】
図9は、電池1の特性を表す等価回路例図である。図9の等価回路は、直流電源Eと、抵抗R1と、抵抗R2とコンデンサC1の並列回路と、抵抗R3とコンデンサC2の並列回路とが直列接続されている。
【0010】
回路定数算出部6は、等価回路モデルデータEMとして図9のような回路データが入力されると、電圧の計算値と実測値の差が小さくなるように、抵抗の抵抗値R1,R2,R3、コンデンサの容量値C1,C2をそれぞれ算出する。
【0011】
特許文献1には、電池の内部インピーダンスを測定する方法および装置の構成が記載されている。
特許文献2には、電池の内部インピーダンス測定の際に、分極による応答電圧の影響を除去する手法が説明されている。
【0012】
【特許文献1】特開2003−4780号公報
【特許文献2】特開2005−100969号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
ところで、電池1のインピーダンスの低周波領域では、拡散の影響でワールブルグインピーダンス(War- burg impedance)が見られる。このワールブルグインピーダンスは、図10に示すように周波数領域におけるインピーダンスとして求めることはできても、それを時間領域へ変換するのは困難である。そのため、従来の等価回路におけるワールブルグインピーダンスも、抵抗とコンデンサおよびインダクタンスで表現されていた。
【0014】
しかし、ワールブルグインピーダンスによる電圧降下曲線は、抵抗とコンデンサの組み合わせによって再現できるものではない。それにも拘わらず直流電源と抵抗とコンデンサで同定を行うと、図11に示すように抵抗の抵抗値やコンデンサの容量値が現実に即さないほど大きな値になってしまい、回路定数同定の意味をなさなくなってしまう。
【0015】
本発明は、このような問題を解決するものであり、その目的は、ワールブルグインピーダンスを考慮して、電池の等価回路モデルにおける回路定数同定値の精度を高めることができる電池特性評価装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
このような課題を達成するために、本発明のうち請求項1記載の発明は、
電池の電流-電圧特性に基づき、等価回路モデルに対する回路定数を同定するように構成された電池特性評価装置において、
矩形波電流の立ち上がりおよび立ち下がりを検出してそれぞれのステップ関数を出力する電流検出部と、
これらステップ関数と前記電圧実測値と等価回路モデルデータが入力され、最適化された等価回路モデルの回路定数を演算して出力する回路定数最適化部、
を含むことを特徴とする。
【0017】
請求項2記載の発明は、請求項1に記載の電池特性評価装置において、
前記回路定数最適化部は、
前記電流検出部から出力される立ち上がりおよび立ち下がりのステップ関数と等価回路モデルデータが入力され、前記立ち上がりおよび立ち下がりのステップ関数に対応したステップ応答電圧を演算出力するステップ応答演算部と、
これらステップ応答演算部から演算出力されるステップ応答電圧を加算して電圧計算値を出力する電圧加算部と、
この電圧計算値と前記電圧実測値が入力されてこれら電圧実測値と電圧計算値を比較して最適値か否かを判定し、最適でなければ比較結果から新たな回路定数を生成して前記各ステップ応答演算部に入力し、再び電圧を計算させる判定部、
とで構成されていることを特徴とする。
【0018】
請求項3記載の発明は、請求項1または請求項2に記載の電池特性評価装置において、
前記各等価回路モデルは、ワールブルグインピーダンスを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明の電池特性評価装置によれば、ワールブルグインピーダンスを考慮して、電池の等価回路モデルにおける回路定数を高精度に同定でき、高精度の電池特性評価が行える。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施例を示すブロック図である。
【図2】電池の特性を表すワールブルグインピーダンスを含む等価回路例図である。
【図3】矩形波の電流をステップ関数に分解する動作説明図である。
【図4】電源部を除いた図2の回路におけるステップ応答の重ね合わせによる再合成の説明図である。
【図5】電池の電圧応答特性例図である。
【図6】ワールブルグインピーダンスW1が単独で直列接続された等価回路図である。
【図7】電池特性を評価するための電流および電圧測定に用いられる従来の回路例を示すブロック図である。
【図8】図7の測定結果に基づき電池の特性評価を行う電池特性評価装置の従来例を示すブロック図である
【図9】電池の特性を表す等価回路例図である。
【図10】ワールブルグインピーダンスの説明図である。
【図11】ワールブルグインピーダンスを抵抗とコンデンサで近似した例の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明について、図面を用いて詳細に説明する。図1は本発明の一実施例を示すブロック図であり、図8と共通する部分には同一の符号を付けている。
【0022】
図1において、電流検出部8は、矩形波の電流実測値IMにおける電流の立ち上がりと立下りを検出して電流の立ち上がりに対応したステップ関数「電流p」と電流の立ち下がりに対応した「電流n」の2つに分解し、これら2つのステップ関数「電流p」と「電流n」を回路定数算出部6に入力する。
【0023】
回路定数算出部6において、図8の電圧演算部6aに代えて、2個のステップ応答演算部6c,6dと、これら2個のステップ応答演算部6c,6dの応答演算結果を加算する電圧加算部6eが設けられている。
【0024】
第1のステップ応答演算部6cには等価回路モデルデータEMと判定部6bからの回路定数CCの候補および電流検出部8からの電流の立ち上がりに対応したステップ関数「電流p」が入力されてステップ関数「電流p」として与えられた電流に対する「ステップ応答電圧p」が演算され、その演算結果「ステップ応答電圧p」は電圧加算部6eの一方の入力端子に入力される。
【0025】
第2のステップ応答演算部6dには等価回路モデルデータEMと判定部6bからの回路定数CCの候補および電流検出部8からの電流の立ち下がりに対応したステップ関数「電流n」が入力され、ステップ関数「電流n」として与えられた電流に対する「ステップ応答電圧n」が演算され、その演算結果「ステップ応答電圧n」は電圧加算部6eの他方の入力端子に入力される。
【0026】
電圧加算部6eは、第1のステップ応答演算部6cの演算結果「ステップ応答電圧p」と第2のステップ応答演算部6dの演算結果「ステップ応答電圧n」を加算して電圧計算値VCを求め、計算された電圧計算値VCを判定部6bに出力する。
【0027】
判定部6bには電圧計4による電圧実測値データVMおよび電圧加算部6eで加算された電圧計算値VCが入力され、これら電圧実測値データVMと電圧計算値VCは比較されて最適値か否かが判定される。最適でなければ比較結果から新たな回路定数CCを生成して第1のステップ応答演算部6cおよび第2のステップ応答演算部6dに入力し、再び電圧を計算させる。以上の処理を回路定数が最適値と判定されるまで繰り返して実行する。このようにして等価回路モデルの回路定数として最適化された同定値FVを出力部7に出力する。
【0028】
出力部7は、回路定数算出部6で最適化された等価回路モデルの回路定数の同定値FVに基づき、電池1の特性曲線を生成して図示しない表示部に表示する。
【0029】
図2は、電池の特性を表すワールブルグインピーダンスを含む等価回路例図である。図2において、直流電源Eと、抵抗R1と、抵抗R2とコンデンサC1の並列回路と、抵抗R3と物質拡散を表すワールブルグインピーダンスW1の直列回路とコンデンサC2の並列回路とが直列接続されている。
【0030】
図3は、矩形波の電流をステップ関数に分解する動作説明図である。(A)に示す電流I(t)は矩形波なので、(B),(C)に示すように立ち上がりと立ち下がりの2つのステップ関数に分割できる。
【0031】
パルス幅bの電流矩形波I(t)は、
I(t)=Io・u(t)−Io・u(t−b)=Ip+In (1)
と表現できる。ただし、u(t)は振幅1の単位ステップ関数とする。
【0032】
この(1)式について、Ip=Io・u(t)とIn=−Io・u(t−b)の二つの時間関数に分けて考える。特にInについては、t1=t−bとして、新しくt1の時間軸で考えることとする。
In(t1)=−Io・u(t1) (2)
なお、u(t)は、
【0033】
【0034】
であり、同様にt1の時間軸でも、
【0035】
【0036】
である。
【0037】
二つの時間関数Ip(t)=Io・u(t)とIn(t1)=−Io・u(t1)は、それぞれラプラス変換を行うことにより、
Ip(s)=L(Io・u(t))=Io・1/s
In(s)=L(−Io・u(t1))=−Io・1/s (3)
と表わされる。
【0038】
これら電流信号がインピーダンスZ(s)に流れることにより電圧に変換されるので、それぞれの電流による電圧は、
Vp(s)=Z(s)・Io・1/s
Vn(s)=−Z(s)・Io・1/s (4)
【0039】
次に、インピーンダンスZにステップ電流が流れたときの電圧過渡応答信号Vp(t)およびVn(t1)は、(4)式を逆ラプラス変換することで得られ、次式で表すことができる。
Vp(t)=L-1(Vp(s))=Io・L-1(Z(s)・1/s)
Vn(t1)=−L-1(Vn(s))=−Io・L-1(Z(s)・1/s) (5)
【0040】
よって、2つに分離したステップ電流を再合成することにより、矩形波電流をインピーダンスZに流したときの過渡応答電圧波形V(t)は、
V(t)=Vp(t)+Vn(t−b) (6)
で表わすことができる。
【0041】
図4は、電源部を除いた図2の回路におけるステップ応答の重ね合わせによる再合成の説明図である。図4において、(A)は電流の2つのステップ関数を表し、(B)はそれぞれのステップ応答を表し、(C)はステップ応答の重ね合わせを表している。
【0042】
そして、電池の電圧応答特性は図5に示すようになり、ワールブルグインピーダンスを含めた等価回路による電圧を高精度に計算できる。図5において、(A)は電流が時刻t1で立ち上がって時刻t2で立ち下がる場合の実測値を示し、(B)は(A)に示す電流の立ち上がりと立ち下がりに伴う電圧の変化について実測値を実線で示して計算値を破線で示している。
【0043】
このように構成することにより、ワールブルグインピーダンスを等価回路に含めることができ、電池の同定精度が高まり、電流-電圧特性をより現実に近づけることができる。
また、ワールブルグインピーダンス以外の回路定数についても現実的な値が得られる。
【0044】
なお、上記実施例では、ワールブルグインピーダンスが並列に接続された等価回路モデルについて説明したが、図6に示すようにワールブルグインピーダンスW1が単独で直列接続された等価回路についても容易な計算で実施できる。
【0045】
図6において、RLC回路が直列接続されている回路ブロックにおける電圧については従来の方法を適用し、ワールブルグインピーダンスブロックにおける電圧については本発明の方法を適用する。
【0046】
この場合、ワールブルグインピーダンスブロックW1の時間領域の電圧Vwは、
Vw=(δ√2t)×Ip/Γ(3/2) (7)
で求めることができ、計算が簡易になる。ここで、σは拡散を表す定数、Γはガンマ関数である。
【0047】
図6の等価回路全体の電圧は、ワールブルグインピーダンスW1のブロックにおける電圧とRLC回路のブロックにおける電圧の和として求める。そして、それぞれの方法で演算した電圧を、電圧実測値と比べて評価する。
【0048】
なお、電流が厳密には矩形波ではなく、ある程度の勾配の立ち上がりを持っていても、矩形波に近似して計算することができる。この場合、電池の応答に対して電流の立ち上がりが十分早ければ誤差も小さくできる。
【0049】
以上説明したように、本発明によれば、ワールブルグインピーダンスを考慮して、電池の等価回路モデルにおける回路定数を高精度に同定できて高精度の電池特性評価が行える電池特性評価装置が実現でき、電池の各種パラメータの効率的な解析に好適である。
【符号の説明】
【0050】
5 入力部
6 回路定数最適化部
6b 判定部
6c 第1のステップ応答演算部
6d 第2のステップ応答演算部
6e 電圧加算部
7 出力部
8 電流検出部
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池特性評価装置に関し、詳しくは、電池の等価回路モデルにおける回路定数同定値の高精度化に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図7は、電池特性を評価するための電流および電圧測定に用いられる従来の回路例を示すブロック図である。測定対象である電池1と直列に負荷2と電流計3が接続されるとともに、電池1と並列に電圧計4が接続されている。
【0003】
電流計3は負荷2のオン/オフに応じて変化する電池1の出力電流の立ち上がりや立ち下りの実測値を測定し、電圧計4は負荷2のオン/オフに応じて変化する電池1の出力電圧の立ち上がりや立ち下りの実測値を測定する。なお、これらの具体的な測定手順については、特許文献1に記載されている。
【0004】
図8は、図7の測定結果に基づき電池の特性評価を行う電池特性評価装置の従来例を示すブロック図である。入力部5には、電流計3による電流実測値データIM、電圧計4による電圧実測値データVMおよびあらかじめ作成されている電池1の標準的な等価回路モデルデータEMが入力される。
【0005】
回路定数最適化部6は、電圧演算部6aと判定部6bで構成されていて、入力部5から入力される電流計3による電流実測値データIM、電圧計4による電圧実測値データVMおよび等価回路モデルデータEMに基づいて電池1の等価回路モデルの回路定数を同定値FVとして最適化し、最適化された等価回路モデルの回路定数を出力部7に出力する。
【0006】
回路定数最適化部6において、電圧演算部6aには電流計3による電流実測値データIMと等価回路モデルデータEMおよび判定部6bから回路定数CCの候補が入力され、電圧計算値VCが計算されて判定部6bに出力される。
【0007】
判定部6bには電圧計4による電圧実測値データVMおよび電圧演算部6aで計算された電圧計算値VCが入力され、これら電圧実測値データVMと電圧計算値VCは比較されて最適値か否かが判定される。最適でなければ比較結果から新たな回路定数CCを生成して電圧演算部6aに入力し、再び電圧を計算させる。以上の処理を回路定数が最適値と判定されるまで繰り返して実行する。このようにして等価回路モデルの回路定数として最適化された同定値FVを出力部7に出力する。
【0008】
出力部7は、回路定数算出部6で最適化された等価回路モデルの回路定数の同定値FVに基づき、電池1の特性曲線を生成して図示しない表示部に表示する。
【0009】
図9は、電池1の特性を表す等価回路例図である。図9の等価回路は、直流電源Eと、抵抗R1と、抵抗R2とコンデンサC1の並列回路と、抵抗R3とコンデンサC2の並列回路とが直列接続されている。
【0010】
回路定数算出部6は、等価回路モデルデータEMとして図9のような回路データが入力されると、電圧の計算値と実測値の差が小さくなるように、抵抗の抵抗値R1,R2,R3、コンデンサの容量値C1,C2をそれぞれ算出する。
【0011】
特許文献1には、電池の内部インピーダンスを測定する方法および装置の構成が記載されている。
特許文献2には、電池の内部インピーダンス測定の際に、分極による応答電圧の影響を除去する手法が説明されている。
【0012】
【特許文献1】特開2003−4780号公報
【特許文献2】特開2005−100969号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
ところで、電池1のインピーダンスの低周波領域では、拡散の影響でワールブルグインピーダンス(War- burg impedance)が見られる。このワールブルグインピーダンスは、図10に示すように周波数領域におけるインピーダンスとして求めることはできても、それを時間領域へ変換するのは困難である。そのため、従来の等価回路におけるワールブルグインピーダンスも、抵抗とコンデンサおよびインダクタンスで表現されていた。
【0014】
しかし、ワールブルグインピーダンスによる電圧降下曲線は、抵抗とコンデンサの組み合わせによって再現できるものではない。それにも拘わらず直流電源と抵抗とコンデンサで同定を行うと、図11に示すように抵抗の抵抗値やコンデンサの容量値が現実に即さないほど大きな値になってしまい、回路定数同定の意味をなさなくなってしまう。
【0015】
本発明は、このような問題を解決するものであり、その目的は、ワールブルグインピーダンスを考慮して、電池の等価回路モデルにおける回路定数同定値の精度を高めることができる電池特性評価装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
このような課題を達成するために、本発明のうち請求項1記載の発明は、
電池の電流-電圧特性に基づき、等価回路モデルに対する回路定数を同定するように構成された電池特性評価装置において、
矩形波電流の立ち上がりおよび立ち下がりを検出してそれぞれのステップ関数を出力する電流検出部と、
これらステップ関数と前記電圧実測値と等価回路モデルデータが入力され、最適化された等価回路モデルの回路定数を演算して出力する回路定数最適化部、
を含むことを特徴とする。
【0017】
請求項2記載の発明は、請求項1に記載の電池特性評価装置において、
前記回路定数最適化部は、
前記電流検出部から出力される立ち上がりおよび立ち下がりのステップ関数と等価回路モデルデータが入力され、前記立ち上がりおよび立ち下がりのステップ関数に対応したステップ応答電圧を演算出力するステップ応答演算部と、
これらステップ応答演算部から演算出力されるステップ応答電圧を加算して電圧計算値を出力する電圧加算部と、
この電圧計算値と前記電圧実測値が入力されてこれら電圧実測値と電圧計算値を比較して最適値か否かを判定し、最適でなければ比較結果から新たな回路定数を生成して前記各ステップ応答演算部に入力し、再び電圧を計算させる判定部、
とで構成されていることを特徴とする。
【0018】
請求項3記載の発明は、請求項1または請求項2に記載の電池特性評価装置において、
前記各等価回路モデルは、ワールブルグインピーダンスを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明の電池特性評価装置によれば、ワールブルグインピーダンスを考慮して、電池の等価回路モデルにおける回路定数を高精度に同定でき、高精度の電池特性評価が行える。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施例を示すブロック図である。
【図2】電池の特性を表すワールブルグインピーダンスを含む等価回路例図である。
【図3】矩形波の電流をステップ関数に分解する動作説明図である。
【図4】電源部を除いた図2の回路におけるステップ応答の重ね合わせによる再合成の説明図である。
【図5】電池の電圧応答特性例図である。
【図6】ワールブルグインピーダンスW1が単独で直列接続された等価回路図である。
【図7】電池特性を評価するための電流および電圧測定に用いられる従来の回路例を示すブロック図である。
【図8】図7の測定結果に基づき電池の特性評価を行う電池特性評価装置の従来例を示すブロック図である
【図9】電池の特性を表す等価回路例図である。
【図10】ワールブルグインピーダンスの説明図である。
【図11】ワールブルグインピーダンスを抵抗とコンデンサで近似した例の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明について、図面を用いて詳細に説明する。図1は本発明の一実施例を示すブロック図であり、図8と共通する部分には同一の符号を付けている。
【0022】
図1において、電流検出部8は、矩形波の電流実測値IMにおける電流の立ち上がりと立下りを検出して電流の立ち上がりに対応したステップ関数「電流p」と電流の立ち下がりに対応した「電流n」の2つに分解し、これら2つのステップ関数「電流p」と「電流n」を回路定数算出部6に入力する。
【0023】
回路定数算出部6において、図8の電圧演算部6aに代えて、2個のステップ応答演算部6c,6dと、これら2個のステップ応答演算部6c,6dの応答演算結果を加算する電圧加算部6eが設けられている。
【0024】
第1のステップ応答演算部6cには等価回路モデルデータEMと判定部6bからの回路定数CCの候補および電流検出部8からの電流の立ち上がりに対応したステップ関数「電流p」が入力されてステップ関数「電流p」として与えられた電流に対する「ステップ応答電圧p」が演算され、その演算結果「ステップ応答電圧p」は電圧加算部6eの一方の入力端子に入力される。
【0025】
第2のステップ応答演算部6dには等価回路モデルデータEMと判定部6bからの回路定数CCの候補および電流検出部8からの電流の立ち下がりに対応したステップ関数「電流n」が入力され、ステップ関数「電流n」として与えられた電流に対する「ステップ応答電圧n」が演算され、その演算結果「ステップ応答電圧n」は電圧加算部6eの他方の入力端子に入力される。
【0026】
電圧加算部6eは、第1のステップ応答演算部6cの演算結果「ステップ応答電圧p」と第2のステップ応答演算部6dの演算結果「ステップ応答電圧n」を加算して電圧計算値VCを求め、計算された電圧計算値VCを判定部6bに出力する。
【0027】
判定部6bには電圧計4による電圧実測値データVMおよび電圧加算部6eで加算された電圧計算値VCが入力され、これら電圧実測値データVMと電圧計算値VCは比較されて最適値か否かが判定される。最適でなければ比較結果から新たな回路定数CCを生成して第1のステップ応答演算部6cおよび第2のステップ応答演算部6dに入力し、再び電圧を計算させる。以上の処理を回路定数が最適値と判定されるまで繰り返して実行する。このようにして等価回路モデルの回路定数として最適化された同定値FVを出力部7に出力する。
【0028】
出力部7は、回路定数算出部6で最適化された等価回路モデルの回路定数の同定値FVに基づき、電池1の特性曲線を生成して図示しない表示部に表示する。
【0029】
図2は、電池の特性を表すワールブルグインピーダンスを含む等価回路例図である。図2において、直流電源Eと、抵抗R1と、抵抗R2とコンデンサC1の並列回路と、抵抗R3と物質拡散を表すワールブルグインピーダンスW1の直列回路とコンデンサC2の並列回路とが直列接続されている。
【0030】
図3は、矩形波の電流をステップ関数に分解する動作説明図である。(A)に示す電流I(t)は矩形波なので、(B),(C)に示すように立ち上がりと立ち下がりの2つのステップ関数に分割できる。
【0031】
パルス幅bの電流矩形波I(t)は、
I(t)=Io・u(t)−Io・u(t−b)=Ip+In (1)
と表現できる。ただし、u(t)は振幅1の単位ステップ関数とする。
【0032】
この(1)式について、Ip=Io・u(t)とIn=−Io・u(t−b)の二つの時間関数に分けて考える。特にInについては、t1=t−bとして、新しくt1の時間軸で考えることとする。
In(t1)=−Io・u(t1) (2)
なお、u(t)は、
【0033】
【0034】
であり、同様にt1の時間軸でも、
【0035】
【0036】
である。
【0037】
二つの時間関数Ip(t)=Io・u(t)とIn(t1)=−Io・u(t1)は、それぞれラプラス変換を行うことにより、
Ip(s)=L(Io・u(t))=Io・1/s
In(s)=L(−Io・u(t1))=−Io・1/s (3)
と表わされる。
【0038】
これら電流信号がインピーダンスZ(s)に流れることにより電圧に変換されるので、それぞれの電流による電圧は、
Vp(s)=Z(s)・Io・1/s
Vn(s)=−Z(s)・Io・1/s (4)
【0039】
次に、インピーンダンスZにステップ電流が流れたときの電圧過渡応答信号Vp(t)およびVn(t1)は、(4)式を逆ラプラス変換することで得られ、次式で表すことができる。
Vp(t)=L-1(Vp(s))=Io・L-1(Z(s)・1/s)
Vn(t1)=−L-1(Vn(s))=−Io・L-1(Z(s)・1/s) (5)
【0040】
よって、2つに分離したステップ電流を再合成することにより、矩形波電流をインピーダンスZに流したときの過渡応答電圧波形V(t)は、
V(t)=Vp(t)+Vn(t−b) (6)
で表わすことができる。
【0041】
図4は、電源部を除いた図2の回路におけるステップ応答の重ね合わせによる再合成の説明図である。図4において、(A)は電流の2つのステップ関数を表し、(B)はそれぞれのステップ応答を表し、(C)はステップ応答の重ね合わせを表している。
【0042】
そして、電池の電圧応答特性は図5に示すようになり、ワールブルグインピーダンスを含めた等価回路による電圧を高精度に計算できる。図5において、(A)は電流が時刻t1で立ち上がって時刻t2で立ち下がる場合の実測値を示し、(B)は(A)に示す電流の立ち上がりと立ち下がりに伴う電圧の変化について実測値を実線で示して計算値を破線で示している。
【0043】
このように構成することにより、ワールブルグインピーダンスを等価回路に含めることができ、電池の同定精度が高まり、電流-電圧特性をより現実に近づけることができる。
また、ワールブルグインピーダンス以外の回路定数についても現実的な値が得られる。
【0044】
なお、上記実施例では、ワールブルグインピーダンスが並列に接続された等価回路モデルについて説明したが、図6に示すようにワールブルグインピーダンスW1が単独で直列接続された等価回路についても容易な計算で実施できる。
【0045】
図6において、RLC回路が直列接続されている回路ブロックにおける電圧については従来の方法を適用し、ワールブルグインピーダンスブロックにおける電圧については本発明の方法を適用する。
【0046】
この場合、ワールブルグインピーダンスブロックW1の時間領域の電圧Vwは、
Vw=(δ√2t)×Ip/Γ(3/2) (7)
で求めることができ、計算が簡易になる。ここで、σは拡散を表す定数、Γはガンマ関数である。
【0047】
図6の等価回路全体の電圧は、ワールブルグインピーダンスW1のブロックにおける電圧とRLC回路のブロックにおける電圧の和として求める。そして、それぞれの方法で演算した電圧を、電圧実測値と比べて評価する。
【0048】
なお、電流が厳密には矩形波ではなく、ある程度の勾配の立ち上がりを持っていても、矩形波に近似して計算することができる。この場合、電池の応答に対して電流の立ち上がりが十分早ければ誤差も小さくできる。
【0049】
以上説明したように、本発明によれば、ワールブルグインピーダンスを考慮して、電池の等価回路モデルにおける回路定数を高精度に同定できて高精度の電池特性評価が行える電池特性評価装置が実現でき、電池の各種パラメータの効率的な解析に好適である。
【符号の説明】
【0050】
5 入力部
6 回路定数最適化部
6b 判定部
6c 第1のステップ応答演算部
6d 第2のステップ応答演算部
6e 電圧加算部
7 出力部
8 電流検出部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池の電流-電圧特性に基づき、等価回路モデルに対する回路定数を同定するように構成された電池特性評価装置において、
矩形波電流の立ち上がりおよび立ち下がりを検出してそれぞれのステップ関数を出力する電流検出部と、
これらステップ関数と前記電圧実測値と等価回路モデルデータが入力され、最適化された等価回路モデルの回路定数を演算して出力する回路定数最適化部、
を含むことを特徴とする電池特性評価装置。
【請求項2】
前記回路定数最適化部は、
前記電流検出部から出力される立ち上がりおよび立ち下がりのステップ関数と等価回路モデルデータが入力され、前記立ち上がりおよび立ち下がりのステップ関数に対応したステップ応答電圧を演算出力するステップ応答演算部と、
これらステップ応答演算部から演算出力されるステップ応答電圧を加算して電圧計算値を出力する電圧加算部と、
この電圧計算値と前記電圧実測値が入力されてこれら電圧実測値と電圧計算値を比較して最適値か否かを判定し、最適でなければ比較結果から新たな回路定数を生成して前記各ステップ応答演算部に入力し、再び電圧を計算させる判定部、
とで構成されていることを特徴とする請求項1に記載の電池特性評価装置。
【請求項3】
前記各等価回路モデルは、ワールブルグインピーダンスを含むことを特徴とする請求項1または請求項2記載の電池特性評価装置。
【請求項1】
電池の電流-電圧特性に基づき、等価回路モデルに対する回路定数を同定するように構成された電池特性評価装置において、
矩形波電流の立ち上がりおよび立ち下がりを検出してそれぞれのステップ関数を出力する電流検出部と、
これらステップ関数と前記電圧実測値と等価回路モデルデータが入力され、最適化された等価回路モデルの回路定数を演算して出力する回路定数最適化部、
を含むことを特徴とする電池特性評価装置。
【請求項2】
前記回路定数最適化部は、
前記電流検出部から出力される立ち上がりおよび立ち下がりのステップ関数と等価回路モデルデータが入力され、前記立ち上がりおよび立ち下がりのステップ関数に対応したステップ応答電圧を演算出力するステップ応答演算部と、
これらステップ応答演算部から演算出力されるステップ応答電圧を加算して電圧計算値を出力する電圧加算部と、
この電圧計算値と前記電圧実測値が入力されてこれら電圧実測値と電圧計算値を比較して最適値か否かを判定し、最適でなければ比較結果から新たな回路定数を生成して前記各ステップ応答演算部に入力し、再び電圧を計算させる判定部、
とで構成されていることを特徴とする請求項1に記載の電池特性評価装置。
【請求項3】
前記各等価回路モデルは、ワールブルグインピーダンスを含むことを特徴とする請求項1または請求項2記載の電池特性評価装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−122918(P2011−122918A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−280358(P2009−280358)
【出願日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【Fターム(参考)】
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