電池用セパレータおよびそれを用いた二次電池
【課題】本発明は、イオン伝導性に優れ、シャットダウン機能と高い耐熱性を併せ持った電池用セパレータを提供する
【解決手段】ポリオレフィン多孔質フィルムの少なくとも一方の面に、いずれも融点が350℃以上の無機微粒子Aとバインダーを含む耐熱層を有するセパレータであって、バインダーは無機または有機酸化物を含み、前記ポリオレフィン多孔質フィルムの極大孔径が0.01μm以上0.2μm未満であり、前記無機微粒子Aの平均一次粒子径が0.2μm以上10μm以下であり、前記耐熱層は、無機微粒子Aを85〜99.9質量%とバインダーとを含むことを特徴とする電池用セパレータ。
【解決手段】ポリオレフィン多孔質フィルムの少なくとも一方の面に、いずれも融点が350℃以上の無機微粒子Aとバインダーを含む耐熱層を有するセパレータであって、バインダーは無機または有機酸化物を含み、前記ポリオレフィン多孔質フィルムの極大孔径が0.01μm以上0.2μm未満であり、前記無機微粒子Aの平均一次粒子径が0.2μm以上10μm以下であり、前記耐熱層は、無機微粒子Aを85〜99.9質量%とバインダーとを含むことを特徴とする電池用セパレータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電池用セパレータとして有用なポリオレフィン多孔質フィルムと無機物からなるシャットダウン機能を有する耐熱性セパレータ及びこれを用いた二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、セル内において正極と負極が対向するように配置されており、両極の短絡を防止するためにイオン伝導性のセパレータが使用される。リチウムイオン二次電池の特徴として、鉛蓄電池やニッケル水素電池と異なり、可燃性の有機系電解液が用いられ電池容量が大きい事が挙げられる。このためリチウムイオン二次電池用セパレータには、短絡発生時の温度上昇を抑え熱暴走及び発火を防止する機能が求められる。
【0003】
従来、過充電時の温度上昇を抑え熱暴走を防止する機能、つまりシャットダウン機能を有する電池用セパレータとしてポリオレフィン多孔質フィルムが知られている。ポリオレフィン多孔質フィルムのシャットダウン機能は、電池において過充電による温度上昇によってポリオレフィン多孔質フィルムが溶融し、該フィルムの微多孔が閉塞する事により電流を遮断する。
【0004】
しかしながら、シャットダウン機能を有するポリオレフィンフィルムであっても、電池内への異物混入や衝撃による変形においては、局所的に200℃以上の高温に曝されると想定される。このように局所的に瞬時に高温に達した場合はシャットダウン機能が効果を示すよりも速く、フィルムの形状が失われ電極が接触する危険性がある。その為、電池用セパレータには局所的に高温に曝されても破膜に至らない形状保持機能が求められる。これらの機能を果たす為に、シャットダウン機能を有する低融点成分と形状保持機能を有する高融点成分からなる複合セパレータが提示されている。
【0005】
例えば特許文献1にはポリオレフィン多孔質フィルムの空孔部表面に無機薄膜を形成した多孔質フィルムが開示されており、特許文献2にはポリオレフィン多孔質フィルム表面にゾルゲル法によって無機酸化物多孔質膜が形成されたセパレータが開示されている。特許文献3では非電導性繊維からなる基材の間隙及び基材上に無機接着剤によって酸化物粒子を接着した耐熱層に多孔質遮断層を積層したセパレータが開示されている。特許文献4には非電導性繊維からなる基材の間隙及び基材上に無機接着剤によって酸化物粒子を接着し、さらに熱可塑性のポリマー粒子を含むセパレータが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−172531号報
【特許文献2】特開2004−14127号報
【特許文献3】特表2007−509464号報
【特許文献4】特表2009−507353号報
【0007】
しかし、特許文献1及び特許文献2に記載の技術では以下に示す問題が生じる。
(1)無機酸化物前駆体となる溶液がポリオレフィン多孔質フィルムの微多孔を閉塞させずに塗工することが困難であるため、セパレータの重要な特性であるイオン伝導性が損なわれる可能性が高い。
(2)耐熱性を得る為に必要な無機薄膜の厚みにするために、数回にわたって塗布工程を繰り返す必要がある。
(3)無機酸化物がポリオレフィン多孔質フィルムの微多孔表面に形成される為、高温時にポリオレフィン多孔質フィルムの低融点成分が溶融しても微多孔が閉塞され難くなる。
【0008】
特許文献3では非導電性繊維からなる基材に酸化物微粒子を固定する工程と多孔質遮断層を積層する工程が別々に必要であり、生産上好ましくない。また、電池を組立てる際に積層する場合は、精密に耐熱層と多孔質遮断層を重ね合わせるために、電池生産設備の改良が必要である。もし、耐熱層と多孔質遮断層が位置的にずれて電池が組み立てられた場合は、耐熱層のみによって電極が隔離される箇所と、多孔質遮断層のみによって電極が隔離される箇所が存在する。このような場合、耐熱層のみの箇所ではシャットダウン機能は無く、多孔質遮断層のみの箇所は形状保持機能が無い。非電導性繊維からなる基材が存在するためセパレータの厚みが増大し、電極間距離の増大による電池のエネルギー密度の低下及びイオン伝導性が損なわれる。
【0009】
特許文献4ではポリマー粒子が無機接着剤で被覆されていると考えられるので、高温に曝された場合にポリマー粒子溶融の後に流動して微多孔を完全に閉塞することは困難である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上述のような状況を鑑みてなされたものであり、イオン伝導性に優れ、シャットダウン機能と高い耐熱性、局所的に瞬時に高温に達した場合でも破膜に至らない形状保持機能を有する電池用セパレータおよび、その製造方法およびそれを用いた二次電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、鋭意研究の結果、ポリオレフィン多孔質フィルムの少なくとも一方の面に、無機微粒子Aとバインダーを含む層を有するセパレータであって、前記バインダーと無機微粒子Aの融点がいずれも350℃以上であり、バインダーは特定の無機または有機酸化物であり、無機微粒子Aが特定範囲の平均一次粒子径であり、無機微粒子Aとバインダーを含む層において無機微粒子Aは特定範囲の組成比で含まれ、かつポリオレフィン多孔質フィルムが特定範囲の極大孔径であり、バインダーが無機微粒子Aと無機微粒子A及び無機微粒子Aとポリオレフィン多孔質フィルムを結着させていることで、更に優れたイオン伝導性とシャットダウン機能と高い耐熱性と局所的に瞬時に高温に達した場合でも破膜に至らない形状保持機能を発揮する電池用セパレータが得られることを見出した。
【0012】
つまり、ポリオレフィン多孔質フィルムの少なくとも一方の面に、無機微粒子Aとバインダーを含む層を有するセパレータであって、前記バインダーと無機微粒子Aの融点がいずれも350℃以上であり、バインダーは特定の無機または有機酸化物であり、無機微粒子Aの平均一次粒子径が0.2μm以上10μm以下であり、かつ前記ポリオレフィン多孔質フィルムの極大孔径が0.01μm以上0.2μm未満であり、バインダーが粒子と粒子及び粒子とポリオレフィン多孔質フィルムを結着させていることを特徴とする電池用セパレータに関する。
ここで無機微粒子Aとはアルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)から選択される元素の酸化物又は水酸化物一種以上である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の電池用セパレータは、ポリオレフィン多孔質フィルムの極大孔径と無機微粒子Aの平均一次粒子径および無機微粒子Aとバインダーを含む層において無機微粒子Aの組成比を制御することによる優れたイオン伝導性と、ポリオレフィン多孔質フィルムが溶融することによるシャットダウン機能と、融点がいずれも350℃以上である無機微粒子Aと無機または有機酸化物であるバインダーを含む層によって局所的に瞬時に高温に達した場合でも破膜に至らない形状保持機能を有している。
さらに、バインダーが粒子と粒子及び粒子とポリオレフィン多孔質フィルムを結着させていることで耐熱層が一体となっているので、従来の電池生産設備が使用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施例1の耐熱層側から撮影した走査型電子顕微鏡写真である。
【図2】比較例1の耐熱層側から撮影した走査型電子顕微鏡写真である。
【図3】実施例5の耐熱層側から撮影した走査型電子顕微鏡写真である。
【図4】実施例8の耐熱層側から撮影した走査型電子顕微鏡写真である。
【図5】実施例1のヒートショックテスト箇所を撮影した写真である。
【図6】比較例1のヒートショックテスト箇所を撮影した写真である。
【図7】比較例2のヒートショックテスト箇所を撮影した写真である。
【図8】比較例3のヒートショックテスト箇所を撮影した写真である。
【図9】実施例2のヒートショックテスト箇所を撮影した写真である。
【図10】実施例3のヒートショックテスト箇所を撮影した写真である。
【図11】比較例4のヒートショックテスト箇所を撮影した写真である。
【図12】実施例4のヒートショックテスト箇所を撮影した写真である。
【図13】実施例5のヒートショックテスト箇所を撮影した写真である。
【図14】実施例6のヒートショックテスト箇所を撮影した写真である。
【図15】実施例7のヒートショックテスト箇所を撮影した写真である。
【図16】実施例8のヒートショックテスト箇所を撮影した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の電池用セパレータは、前述の通り、ポリオレフィン多孔質フィルムと、このポリオレフィン多孔質フィルムの少なくとも一方の面に、融点がいずれも350℃以上である無機微粒子Aと無機または有機酸化物であるバインダーを含む層を有し、さらにバインダーが無機微粒子Aと無機微粒子A及び無機微粒子Aとポリオレフィン多孔質フィルムを結着させている。
以下本発明について詳述するが、本発明は実施形態に限定されるものではない。
【0016】
本発明の電池用セパレータはポリオレフィン多孔質フィルムと、このポリオレフィン多孔質フィルムの少なくとも一方に、融点がいずれも350℃以上である無機微粒子Aと無機または有機酸化物であるバインダーを含む層を有していればよいが、用途によってポリオレフィン多孔質フィルムの両面に無機微粒子Aと無機または有機酸化物であるバインダーからなる層を有しても良い。
【0017】
本発明の電池用セパレータは、ポリオレフィン多孔質フィルムと、このポリオレフィン多孔質フィルムの少なくとも一方の面に、融点がいずれも350℃以上である無機微粒子Aと無機または有機酸化物であるバインダーを含む層を有し、無機微粒子Aとバインダーを含む層において無機微粒子Aは85〜99.9質量%含まれるが、好ましくは90〜98質量%であることが好ましい。上記範囲より無機微粒子Aが多いと、微粒子とバインダーの結着性が低下し、ポリオレフィン多孔質フィルムから無機微粒子Aが欠落し易くなり好ましくない。また上記範囲より無機微粒子Aが少ないと余分のバインダー成分がポリオレフィン多孔質フィルムの微多孔を閉塞し、イオン導電性が低下する為好ましくない。
【0018】
本発明の電池用セパレータのポリオレフィン多孔質フィルムが優れたシャットダウン機能を有する為には、150℃以上の融点を有するポリマーの層と、120℃から140℃の範囲に融点を有するポリマーの層とを有する積層多孔質フィルムであればよい。この構成により、微多孔がポリオレフィンの溶融によって閉塞する温度(以下シャットダウン温度と呼ぶ)が120〜150℃に設計される。よって、150℃以上で溶融するポリオレフィン樹脂としては、好ましくはポリプロピレンであり、120℃から140℃で溶融するポリオレフィン樹脂としてはポリエチレンが好適に挙げられる。
【0019】
本発明に使用されるポリプロピレンは、数平均分子量が5万以上、より好ましくは7万以上であり、数平均分子量と重量平均分子量の比が8以下のものが高い機械的強度を得られ、多孔質フィルムを成形する上で好ましい。また、ポリプロピレンの結晶化温度は110℃以上が好ましく、さらに好ましくは112℃以上である。
【0020】
本発明に使用するポリエチレンとしては、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、直鎖低密度ポリエチレン等のいずれであっても良いが、好ましくは高密度ポリエチレンである。ポリエチレンの数平均分子量は1万以上、より好ましくは2万以上のものが高い機械的強度を得られ、多孔質フィルムを成形する上で適している。
【0021】
本発明において、ポリプロピレン及びポリエチレンの数平均分子量は、WATERS社製150C型ゲル浸透クロマトグラフを用いて、標準ポリスチレン換算によって求めた。カラムにはShodex HT-806M2本を使用し、0.3wt/vol%に調製したオルトジクロロベンゼン中、135℃で測定を行った。
また、ポリプロピレンの融点は、島津社製DSC−50を用いて測定した。試料は熱履歴を取除くために230℃で10分間保持して完全融解した後、10℃/minで室温まで冷却し、測定は昇温速度10℃/minにて融解曲線の極大値を融点とした。
【0022】
ポリプロピレンとポリエチレンの積層された多孔質フィルムを使用する場合は、ポリエチレン多孔質層の両面をポリプロピレン多孔質層で挟むように積層された多孔質フィルムが好ましい。この構成により、ポリエチレン多孔質層はポリプロピレン多孔質層間に挟持されている為、ポリエチレンの融点である130〜140℃の温度範囲においてポリエチレン多孔質層が溶融して流動しても、無機微粒子と無機または有機酸化物バインダーを含む耐熱層にポリエチレン溶融樹脂が流れ込まないので、効率よくシャットダウン機能が発揮される。さらに高温にさらされた場合160〜170℃の温度範囲においてポリプロピレンが溶融して、ポリエチレンとポリプロピレンの溶融樹脂が無機微粒子Aと無機または有機酸化物バインダーを含む耐熱層の空隙を閉塞させる為、より安全なシャットダウン機能が発揮される。また、無機微粒子Aと無機または有機酸化物バインダーを含む耐熱層がポリプロピレン多孔質層の表面に形成される。これにより、ポリエチレン多孔質層の微多孔表面は、無機微粒子Aや無機または有機酸化物バインダーによって、微多孔の閉塞が阻害され難くなり、130〜140℃の温度範囲で確実なシャットダウン機能を発揮する。
【0023】
本発明に用いられるポリオレフィン多孔質フィルムの膜厚は、使用される電池の種類にもよるが、一般的には10〜100μmが好ましく、より好ましくは15〜60μmであり、さらに好ましくは15〜45μmである。
【0024】
本発明に用いられるポリオレフィン多孔質フィルムは、製造条件によっても多少異なるが、適切なガーレー値(ガス透過速度)を有することが必要であり、通常、ガーレー値100〜1000秒/100cc、好ましくは150〜800秒/100ccの範囲である。ガーレー値が高すぎると電池用セパレ−タとして使用したときにイオン伝導性が十分でない場合があり、ガーレー値が低いフィルムは生産速度が低下する場合がある。
【0025】
ポリオレフィン多孔質フィルムの極大孔径が0.01μm以上0.2μm未満であればよいが、極大孔径の下限は0.03μm以上がより好ましく、さらに0.05μm以上がより好ましい。また、極大孔径の上限は0.15μm以下が好ましく、0.1μm以下がより好ましい。極大孔径が小さすぎるとガーレー値が高くなり電池用セパレ−タとして使用したときのイオン伝導性が十分でなく、極大孔径が大きすぎると、ポリオレフィン多孔質フィルム表面に無機微粒子Aと無機酸化物バインダーからなる耐熱層を形成する際に、無機微粒子A及び無機または有機酸化物バインダーがポリオレフィン多孔質フィルムの微多孔を閉塞させ、ガーレー値の上昇や、確実なシャットダウン機能の発現が困難になるためである。
【0026】
本発明においてポリオレフィン多孔質フィルムの極大孔径はユアサアイオニクス社製水銀ポロシメータを用いて測定した。試料を0.03〜0.07g秤量してガラス製のセル中で真空とした後、水銀を圧入、充填する。充填の際の水銀圧及び圧入水銀量から極大孔直径を求めた。
【0027】
本発明に用いられるポリオレフィン多孔質フィルムの製造方法は、特に限定されないが、ポリエチレンとポリプロピレンの積層多孔質フィルムの場合、特に乾式延伸法により製造されることが好ましく、具体的には特開平4−181651号公報等の公知の方法で製造することができる。例えばポリプロピレンとポリエチレンフィルムをそれぞれ別々に溶融押し出し積層した後延伸多孔化して積層多孔質フィルムを得る方法や、ポリプロピレンとポリエチレンを溶融共押し出しした後延伸多孔化して積層多孔質フィルムを得る方法を用いることができる。
【0028】
溶融押し出し方法はTダイによる溶融押し出し成型法、インフレーション法等により行われる。例えばフィルムをTダイにより溶融成形する場合、一般に樹脂の溶融温度より20〜70℃高い温度で、ドラフト比は50〜300で行われ、また引取り速度は特に限定されないが通常10〜80m/分で成形される。
【0029】
溶融押し出しされたフィルムは結晶性及びその配向性を高めるために熱処理される。熱処理温度は、ポリプロピレンフィルムについては110〜160℃、ポリエチレンフィルムについては100〜130℃が好ましい。熱処理温度が低いと十分に多孔化されず、また高すぎるとフィルムの溶融が生じるため適当でない。熱処理時間は特に制限はないが、2秒〜200秒の範囲で行われることが好ましい。
【0030】
熱処理されたポリプロピレンフィルムは、その複屈折が10×10−3以上25×10−3以下の範囲であることが好ましく、熱処理されたポリエチレンフィルムは、その複屈折が30×10−3せ以上45×10−3以下であることが好ましい。
複屈折がこれらの範囲を外れると、多孔化が不十分となり、延伸後の多孔質フィルムの細孔径や細孔径分布、層間剥離強度、機械的強度等に影響し品質にバラツキが生じやすくなるので上記範囲が適当である。
本発明において、複屈折は偏光顕微鏡を使用し、直交ニコル下でベレックコンペンセータを用いて測定された値である。
【0031】
ポリプロピレンでポリエチレンを挟み込んだ三層構成の積層多孔質フィルムを製造する場合は、熱処理されたポリプロピレンフィルム及びポリエチレンフィルムは熱圧着によって積層される。積層は、三枚のフィルムが3組の原反ロールスタンドから巻き出され、加熱されたロール間で圧着されて積層される。
【0032】
熱圧着させる為の加熱されたロールの温度は110〜155℃が好ましい。温度が低すぎるとフィルム間の接着性が弱く、その後の延伸工程で剥離が生じ、温度が高すぎるとポリエチレンの溶融によってフィルムの複屈折が低下して多孔化が困難となる。また、フィルムの巻出し速度は1〜20m/minが好ましく、熱圧着されたフィルムの剥離強度は5〜90g重/15mmの範囲が好ましい。
【0033】
熱処理の後に積層されたフィルムは延伸によって多孔化される。延伸は低温延伸、高温延伸の順序で行い、通常は延伸ロールの周速差を利用して延伸される。
低温延伸の温度は−20〜50℃、より好ましくは20〜35℃である。延伸温度が低いと、延伸工程中にフィルムの破断が生じやすく、延伸温度が高すぎると多孔化が不十分となる。低温延伸の倍率は5〜200%、好ましくは10〜100%の範囲である。延伸倍率が低すぎると、空孔率が低いものしか得られず、また高すぎると所定の空孔率及び孔径のものが得られなくなる。本発明において低温延伸倍率(E1)は次の式Xに従う。式XのL1は低温延伸後のフィルム寸法を意味し、L0は低温延伸前のフィルム寸法を意味する。
式X: E1=[(L1−L0)/L0]×100
【0034】
低温延伸後のフィルムは、次に高温延伸される。高温延伸はオーブン中で90〜140℃、特に好ましくは110〜135℃の温度範囲で行われる。延伸温度が低すぎると、延伸をする際にフィルムの破断等により生産効率が著しく低下するので好ましくない。また、延伸温度が高すぎると多孔化が不十分となるため好ましくない。
高温延伸の倍率は100〜400%の範囲である。延伸倍率が低すぎると、多孔化が不十分となり、また高すぎると所定の透気度、空孔率及び孔径のものが得られなくなるので上記範囲が適当である。
本発明において高温延伸倍率(E2)は次の式Yに従う。式YのL2は高温延伸後のフィルム寸法を意味し、L1は低温延伸後のフィルム寸法を意味する。
式Y: E2=[(L2−L1)/L1]×100
【0035】
高温延伸をした後、多孔質フィルムの熱固定を行う事が好ましい。熱固定は、延伸時に作用した残留応力によるフィルムの延伸方向への収縮を防ぐために予め延伸後のフィルム長さが10〜50%減少する程度熱収縮させる方法や、延伸方向の寸法が変化しないように規制して加熱する方法等で行われる。
【0036】
ポリオレフィン多孔質フィルム表面の層には、無機または有機酸化物バインダーとの結着性を向上させる目的で、無機酸化物からなる無機微粒子Bを0.1〜10重量%配合させるとよいが、0.2〜5重量%配合することがさらに好ましい。また、無機酸化物からなる無機微粒子Bの平均粒径は0.1μm以上10μm以下である。ここで無機微粒子Bとはアルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)から選択される元素の酸化物又は水酸化物を少なくとも1種含むものである。ポリオレフィン多孔質フィルム中における無機微粒子Bが少なすぎると、無機または有機酸化物バインダーとの結着性を向上させる効果が得られず、無機微粒子Bが多すぎるとポリオレフィン多孔質フィルムの機械的強度の低下や、ポリオレフィン多孔質フィルム中における無機微粒子Bの分散不良を招き、多孔質フィルムの外観不良となる。また、無機微粒子Bの平均粒径が小さすぎると、ポリオレフィン多孔質フィルムの表面から露出する無機微粒子Bが減少して、無機または有機酸化物バインダーとの結着性を向上させる効果が得られず、平均粒径が大きすぎるとポリオレフィン多孔質フィルムの成形性が損なわれる。
【0037】
本発明において、無機微粒子Bをポリオレフィン多孔質フィルムに配合する方法については特に制限はないが、通常の混練機により無機微粒子Bをポリオレフィン樹脂と混練する方法、例えば一軸押出機、二軸押出機、ミキシングロール等を用いて溶融混練する事でペレットを得ることできる。また、ヘンシェルミキサー、タンブラー等を用いてドライブレンドによってペレットへ配合しても良い。このようにして得られたペレットを、前述のポリオレフィン多孔質フィルム製造方法に用いることで無機微粒子Bが配合されたポリオレフィン多孔質フィルムを得る事ができる。
【0038】
本発明において、耐熱層を構成する無機微粒子Aは平均一次粒子径が0.2μm以上10μm以下であるが、無機微粒子Aの平均一次粒子径が上記範囲より大きい場合、耐熱層の厚みが増す為に電池用セパレータとしては厚くなり好ましくなく、平均一次粒子径が上記範囲より小さい場合は、ポリオレフィン多孔質フィルムの微多孔を閉塞させてイオン導電性を低下させる為好ましくない。無機微粒子AはAl、Si、Ti、Zrから選択される元素の酸化物又は水酸化物を少なくとも1種含むものであればよいが、入手の容易性の点から具体的には、シリカ、アルミナ、水酸化アルミニウム、アルミナシリケートが適している。
【0039】
本発明において、耐熱層を構成する無機微粒子Aの粒子形状は球状、板状、キュービック状、塊状、針状のいずれでも使用が可能であるが、好ましくは球状、板状又はキュービック状のいずれかである。針状の微粒子を用いた場合、ポリオレフィン多孔質フィルムの表面に耐熱層を形成する際に、微粒子がポリオレフィン多孔質フィルムを貫通して欠陥を生じる可能性が高いため好ましくない。
【0040】
本発明において、無機または有機酸化物からなるバインダーは、加水分解反応と重縮合反応により三次元架橋が進行することによって得られることを特徴とし、加水分解反応と重縮合反応により三次元架橋が進行する前駆体の構造が一般式(1)(式中、R1は有機置換基、mはR1の数、MはAl、Si、Ti、Zrから選択される一種類の元素、R2は炭素数1〜6のアルキル基、nはMの酸化数を表す。さらにm及びnは、0≦m≦2、2≦n≦4を満たす整数である)である化合物が含まれることが好ましい。また、前駆体は一般式(1)を満たすものであれば複数の前駆体を用いても良い。例えば、n=4である前駆体とn=3の前駆体を混合して用いても良いし、R1、R2、Mが夫々異なるものを組み合わせて使用しても良い。但し、n=2の前駆体を用いる場合は、三次元架橋を進行させる為に少なくともnが3以上の前駆体を配合する事が必要である。
【0041】
【化1】
【0042】
前記一般式(1)におけるR1で表される有機置換基は、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝のアルキル基が好適に挙げられ、好ましくは、R1がメチル基、エチル基、プロピル基およびブチル基から選択され、好ましくはメチル基、エチル基、またはプロピル基である。
また、R2で表されるアルキル基は、メチル基、エチル基、プロピル基、およびブチル基から選択される基が好適に挙げられるが、好ましくはメチル基、エチル基、またはプロピル基である。
R1及びR2の選択については、反応条件や所望する生成物の特性により行われる。具体的にはメチルトリメトキシシラン、テトラメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、テトラエトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシランから選択される一種類、又は二種類以上の化合物を組合せて使用しても良い。または、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルジエトキシシランから選択される一種類、又は二種類と、メチルトリメトキシシラン、テトラメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、テトラエトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシランから選択される一種類、又は二種類以上の化合物を組み合わせても良い。
【0043】
本発明において、無機または有機酸化物を含むバインダーは、加水分解反応と重縮合反応により三次元架橋が進行することによって得られる。加水分解反応と重縮合反応はアルコールと水の混合液体を溶媒として、一般式(1)に示される前駆体をアルコールと水の溶媒に溶かした後、触媒として酸又は塩基性の液体を使用することで反応させることが好ましい。溶媒を構成するアルコールとしては、取扱いの容易性からエタノール、イソプロパノール、ブタノールが好ましく用いることが可能である。触媒として用いる酸としては一般的な塩酸、硫酸、硝酸が挙げられるが、処理の容易性から塩酸が好ましい。触媒として塩基を用いる場合は水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニアから選択される水溶液が使用できるが、処理の容易性からアンモニア水が適している。以下の記述においては一般式(1)に示される前駆体とアルコール及び水と触媒の混合物をバインダー溶液と記述する。
【0044】
本発明において、無機微粒子Aと無機または有機酸化物であるバインダーの融点は350℃以上であり、好ましくは400℃以上である。350℃未満の温度において融点が存在する場合は、電極の短絡による局所的な発熱によって溶融する可能性がある。例えば一般的なリチウムイオン二次電池におけるLiCoO2等の正極又は黒鉛負極と非水電解液の発熱反応のピークは200℃から300℃に生じる事が知られている。このため少なくとも200〜300℃の温度範囲において、セパレータは形状を維持できなければ熱暴走を防止する事が出来ない。無機微粒子Aと無機または有機酸化物であるバインダーの融点が350℃以上、好ましくは400℃以上であれば、短絡発生時の温度上昇の影響を受けにくく、電池の形状を安定に保ち、熱暴走や発火を防止する効果を発揮する。
本発明の無機微粒子Aと無機または有機酸化物であるバインダーの融点は、島津社製DSC−50を用いて測定した。試料はポリオレフィン多孔質フィルム上に形成された耐熱層より、無機微粒子Aと無機または有機酸化物であるバインダーを剥離して試料とした。測定は昇温速度10℃/minにて室温より110℃まで昇温し20min保持した後に、昇温速度10℃/minで融解曲線の極大値を融点とした。
【0045】
本発明において、耐熱層は無機微粒子Aと無機または有機酸化物を含むバインダーから構成される。無機微粒子Aの表面に存在する水酸基と、バインダー溶液が重縮合することにより、無機微粒子A同士の結着が成される。
【0046】
本発明において、耐熱層をポリオレフィン多孔質フィルム表面に形成する方法として、バインダー溶液と無機微粒子Aを混合してスラリーを調製し、スラリーをポリオレフィン多孔質フィルム表面の少なくとも一方の面に塗布し、ポリオレフィン多孔質フィルム上においてバインダー溶液と無機微粒子Aとが加水分解及び重縮合反応を進行させることにより形成することが好ましい。
【0047】
本発明におけるスラリーの調製方法としては一般式(1)で示される前駆体をアルコールと水からなる溶媒に混合し、無機微粒子Aを混合した後に触媒を加えても良い。または、一般式(1)で示される前駆体をアルコールと水からなる溶媒に混合し、触媒を加えて加水分解及び重縮合反応を進行させて、前駆体から2量体以上のオリゴマーを生成させた後に微粒子を添加してスラリーとしても良い。好ましくは後者の順序でスラリーを調製することであるが、これは触媒と無機微粒子との反応を抑えることが出来るからである。
【0048】
本発明においてスラリーを調製した後にポリオレフィン多孔質フィルムへ塗布されるが、塗布方法としては限定されないが、スプレーコート法、バーコート法、グラビアコート法、スロットダイコート法が挙げられる。塗工方法の選択は、目的とする耐熱層の厚みやスラリーの粘度によって最適な方法を選択されることが望ましい。
【0049】
本発明において調製される好ましいスラリーの組成比は一般式(1)で示される前駆体が5〜30質量%、アルコールが2〜30質量%、水が2〜30質量%、触媒が0.1〜3質量%、無機微粒子Aが35〜90質量%の範囲の組成比であり、より好ましくは一般式(1)の前駆体が10〜20質量%、アルコールが5〜15質量%、水が10〜30質量%、触媒が0.1〜3質量%、無機微粒子Aが45〜70質量%である。前記組成比で、かつ耐熱層を構成する無機微粒子Aは平均一次粒子径が0.2μm以上10μm以下であれば、このスラリーは優れた塗工性を示し、ポリオレフィン多孔質フィルムの微多孔を閉塞させることなく耐熱層を形成する事が可能である。スラリーの組成比において前駆体が上記範囲より少なければ結着力が充分でなく、多すぎるとポリオレフィン多孔質フィルムの微多孔を閉塞させてイオン伝導性が低下する。またアルコールの比率が多くかつ水の比率が少ないと、バインダー溶液がポリオレフィン多孔質フィルムの微多孔を閉塞させてイオン伝導性が低下し、さらに微多孔内壁にバインダーが結着してシャットダウン特性の低下を招く。逆にアルコールの比率が少なく、水の比率が多いと前駆体と水が相分離して不均一に反応が進行し、バインダー成分が一部凝集する為、バインダー溶液を得る事ができない。触媒が上記範囲より少ないと加水分解反応速度が低下し、触媒が多すぎると後の洗浄工程で抽出する為に大量の洗浄液が必要となり好ましくない。
【0050】
スラリーをポリオレフィン多孔質フィルムへ塗布により耐熱層とポリオレフィン多孔質フィルムが積層された耐熱セパレータが得られるが、加水分解及び重縮合反応の進行と乾燥の為に、オーブン内で耐熱性セパレータの熱処理を行う事が好ましく、オーブン温度としては30℃以上100℃以下が好ましく、より好ましくは50℃以上90℃以下が適当である。この範囲より温度が低いと加水分解及び重縮合反応と乾燥に長時間を有するため生産効率が悪くなり好ましくない。また温度が高すぎると、ポリオレフィン多孔質フィルムが変形または溶融する為、上記範囲が適当である。
さらに、耐熱性セパレータの乾燥が完了した後は、水やアルコール又は水とアルコールの混合物により、耐熱セパレータに残留する触媒成分を洗浄することが好ましい。耐熱セパレータに触媒成分が残留していた場合は、電池の容量低下を招く恐れがある。
【0051】
本発明において、融点がいずれも350℃以上である無機微粒子Aと無機または有機酸化物であるバインダーを含む層、つまり耐熱層における無機微粒子Aの含有量は、一般式(1)で示される前駆体が加水分解及び重縮合反応により減少する質量を換算し算出したちである。例えば、一般式(1)で示される前駆体がSi(OC2H5)であるテトラエトキシシランを用いた場合、前駆体の分子量は208.3であり、加水分解及び重縮合反応によって分子量60.1であるSiO2に定量的に変化する。この物質収支を基に耐熱層における無機微粒子Aの含有量は算出する事が可能である。
【0052】
上記方法で得られる耐熱性セパレータはイオン伝導性に優れ、シャットダウン機能と高い耐熱性を併せ持ち、局所的に瞬時に高温に達した場合でも破膜に至らない電池用セパレータとして用いることができる。
【実施例】
【0053】
以下、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。また、実施例及び比較例で用いた評価方法及び測定方法は下記に示すとおりである。
【0054】
1)ガーレー値
JIS P8117に準じて測定した。測定装置としてB型ガーレーデンソメーター(東洋精機社製)を使用した。試料片を直径28.6mm、面積645mm2の円孔に締付ける。内筒質量567gにより、筒内の空気を試験円孔部から筒外へ通過させる。空気100ccが通過する時間を測定し、ガーレー値(透気度)とした。
【0055】
2)無機微粒子Aの平均一次粒子径
無機微粒子Aの平均一次粒子径は電界放射型走査型電子顕微鏡(FE−SEM)により微粒子を20個観察して、その粒子径の平均値を用いた。
【0056】
3)平均膜厚
膜厚測定器として、電子マイクロメータミリトロン1202D(mahr社製)を使用した。試験片膜厚を20点測定して、20点の平均値を平均膜厚とした。
【0057】
4)シャットダウン温度とシャットダウン維持温度の測定
シャットダウン特性評価として、電気抵抗測定用セルを用いて、電気抵抗の温度依存性を測定した。電気抵抗測定用セルは対となる電極面積が2.0cm2であるニッケル製電極を使用した。測定用セルに電解液に濡らしたセパレータ試料片を挟み、セラミックヒーターを用いて10℃/minで昇温した。電極間抵抗は抵抗測定装置:LCRハイテスタ(日置電気(株)製)を用いて、測定周波数1kHzの条件で行った。測定に用いた電解液は、体積比でプロピレンカーボネート(PC)とジエチルカーボネート(DEC)をPC/DEC=3/7で混合溶媒を調製し、前記混合溶媒に対し1mol/Lの濃度になるように六フッ化燐酸リチウムを溶解し、電解液とした。このとき、電気抵抗が1000Ωに達した温度をシャットダウン温度とした。また、シャットダウン温度後も220℃まで昇温を続けて、再短絡が生じるかを確認し、再短絡が生じた温度をシャットダウン維持温度とした。
【0058】
5)ヒートショックテスト
局所的に瞬時に高温に達した場合の形状保持機能特性評価として、厚みが15mmのSUS304平板上に厚みが20μmのアルミ箔を固定して試験台とした。この試験台の上に作成した試料片のポリオレフィン多孔質層がアルミ箔と向かい合わせになるように固定した。先端形状が0.5Rで、直径1mmφの温調機能付きニードルの先端温度を350℃に設定し、ニードル先端を試験台の上に固定された試料に対して垂直に150gの荷重をかけて3秒間押し当て、試料の貫通孔の有無及び最大長により評価を行った。貫通孔の最大長が500μmを超える場合は×とし、貫通孔の最大長が500μm以下の場合は△とし、貫通孔が無しの場合は○として判定した。
【0059】
〔実施例1〕
(1)ポリオレフィン多孔質フィルムの作成
数平均分子量70000、結晶化温度112℃のポリプロピレンに、酸化珪素を主成分とする平均粒径2.1μmの無機微粒子Bを、二軸混練機を用いて樹脂に対して10000ppmになるように配合した。この無機微粒子配合ポリプロピレンは、吐出幅1000mm、吐出リップ開度2mmのTダイを使用してフィルム状に溶融押出しした。
吐出フィルムは、90℃の冷却ロールに導かれ、30℃の冷風が吹きつけられて冷却された後、40m/minで引取られた。
得られたポリプロピレン組成物フィルムの膜厚は6.0μmであった。この未延伸ポリプロピレンフィルムは、引取り方向を固定された状態で、135℃に60秒間熱処理した後、室温まで冷却した。
熱処理された未延伸ポリプロピレンフィルムの複屈折は、17.6×10−3であった。
【0060】
ポリエチレンとして、数平均分子量20000、密度0.964、融点134℃の高密度ポリエチレンを、吐出幅1000mm、吐出リップ開度2mmのTダイを使用して溶融押出しした。
吐出フィルムは、115℃の冷却ロールに導かれ、25℃の冷風が吹きつけられて冷却された後、20m/minで引取られた。得られたポリエチレンフィルムの膜厚は8.5μmであった。この未延伸ポリエチレンフィルムは、引取り方向を固定された状態で、120℃に60秒間熱処理した後、室温まで冷却した。
熱処理された未延伸ポリエチレンフィルムの複屈折は、35.5×10−3であった。
【0061】
熱処理したポリエチレンフィルム及びポリプロピレンフィルムは、ポリプロピレンを表面層に、ポリエチレンを内層(中間層)に配した三層構成に積層された。積層は、三組のロールスタンドから該ポリプロピレンフィルム及びポリエチレンフィルムをそれぞれ巻出し速度10.0m/minで巻出し、加熱ロールに導き、温度125℃、線圧1.8kg/cmで熱圧着し、その後同速度で30℃の冷却ロールに導いて巻き取った。巻取り速度は10.0m/min、巻出し張力は0.9kgであった。得られた未延伸積層フィルムの膜厚は20.3μmであった。
【0062】
未延伸積層フィルムは、30℃に保持されたニップロール間で25%低温延伸された。この時のロール間は350mm、供給側のロール速度は6m/minであった。
低温延伸した積層フィルムは、引続き123℃に加熱された熱風循環オーブン中に導かれ、ロール周速差を利用してロール間で総延伸量180%になるまで高温延伸された後、125℃に加熱されたロールで30%緩和させて72秒間熱固定され、連続的にポリオレフィン多孔質フィルムを得た。ポリオレフィン多孔質フィルムの膜厚は16.2μmであった。
【0063】
(2)スラリーの調製
バインダー前駆体としてテトラエトキシシランを36.7g、アルコールとしてエタノールを31.0g、蒸留水を47.5g、混合した後に、触媒として35.5%塩酸を5.3g添加し、70℃オイルバス中で90分間攪拌した。その後に、加水分解反応及び重縮合反応を進行させる為に密閉容器に移して、室温で24時間静置してバインダー溶液を調製した。この時のバインダー溶液の重量はエタノールの蒸発により、仕込み合計重量120.5gに対して107.1gに減少していた。
無機微粒子Aとして一次粒子径が1.4μmのシリカ微粒子9.9gを前記バインダー溶液10.0gに添加して30分間攪拌を行い、スラリーを得た。このスラリーの配合比を表1に示した。
【0064】
(3)塗布工程
200mm四方のポリオレフィン多孔質フィルムをガラス板に固定し、この両端に幅25mmのPETフィルムをスペーサーとして固定した。PETフィルムの膜厚は20μmであった。ポリオレフィン多孔質フィルム両端に固定されたPETフィルムスペーサー間に前記スラリー溶液を5mL滴下し、ドクターブレードを用いてスラリーを流延して塗布を行った。塗布が終了した後に、室温で30分間静置して、60℃に設定されたオーブンに20分間投入する事で乾燥を行った。乾燥終了後、水とアルコールが重量比で1:1に調製された洗浄液1L中に10分間浸漬して1次洗浄を行い、更に同様に調製された洗浄液1Lに10分間浸漬して2次洗浄を行った。これにより得られたセパレータの特性を表2、表3と表4に示した。また図1に実施例1の耐熱層側から撮影した走査型電子顕微鏡写真を示した。粒子と粒子をバインダーが結着させている様子が確認された。
【0065】
〔比較例1〕
実施例1で調整したバインダー溶液18.6gに対し、無機微粒子Aとして平均一次粒子径0.03μmのシリカ微粒子を1.5g用いてスラリーを調製した以外は実施例1と同様にしてセパレータを得た。用いたスラリーの配合比を表1に示した。得られたセパレータの特性を表2、表3と表4に示した。また図2に比較例1の耐熱層側から撮影した走査型電子顕微鏡写真を示した。耐熱層は不均一に亀裂が生じている様子が確認された。
【0066】
〔比較例2〕
膜厚が14μmのポリプロピレンフィルムと膜厚が10μmのポリエチレンフィルムを用いて、実施例1の方法で積層と延伸を行い、膜厚が30.3μmのポリオレフィン多孔質フィルムを得た。これにより得られたセパレータの特性を表2、表3と表4に示した。
【0067】
〔比較例3〕
実施例1で調整したバインダー溶液14.0gに対し、無機微粒子Aとして一次粒子径が1.4μmのシリカ微粒子を6.0g添加した以外は実施例1と同様にしてセパレータを得た。用いたスラリーの配合比を表1に示した。得られたセパレータの特性を表2、表3と表4に示した。
【0068】
〔実施例2〕
バインダー前駆体としてテトラエトキシシランを21.4g、アルコールとしてエタノールを6.0g、蒸留水を41.3g、混合した後に、触媒として35.5%塩酸を3.1g添加し、70℃オイルバス中で90分間攪拌した。その後に、加水分解反応及び重縮合反応を進行させる為に密閉容器に移して、室温で24時間静置してバインダー溶液を調製した。この時のバインダー溶液の重量はエタノールの蒸発により、仕込み合計重量71.8gに対して70.2gに減少していた。
無機微粒子Aとして一次粒子径が1.4μmのシリカ微粒子9.9gを前記バインダー溶液10.0gに添加して30分間攪拌を行い、スラリー溶液を得た。このスラリーの配合比を表1に示した。このスラリー溶液を用いた以外は実施例1と同様にしてセパレータを得た。得られたセパレータの特性を表2、表3と表4に示した。
【0069】
〔実施例3〕
バインダー前駆体としてテトラエトキシシランを21.5g、アルコールとしてエタノールを41.4g、蒸留水を4.4g、混合した後に、触媒として35.5%塩酸を3.1g添加し、70℃オイルバス中で90分間攪拌した。その後に、加水分解反応及び重縮合反応を進行させる為に密閉容器に移して、室温で24時間静置してバインダー溶液を調製した。この時のバインダー溶液の重量はエタノールの蒸発により、仕込み合計重量70.4gに対して65.8gに減少していた。
無機微粒子Aとして一次粒子径が1.4μmのシリカ微粒子10.0gを前記バインダー溶液10.0gに添加して30分間攪拌を行い、スラリー溶液を得た。このスラリーの配合比を表1に示した。このスラリー溶液を用いた以外は実施例1と同様にしてセパレータを得た。得られたセパレータの特性を表2、表3と表4に示した。
【0070】
〔比較例4〕
ポリオレフィン多孔質フィルムとして膜厚が25.2μmのPE単層膜をセパレータとして用いた。これにより得られたセパレータの特性を表2、表3と表4に示した。
【0071】
〔実施例4〕
実施例1で調製したスラリーを、比較例4で用いたPE単層膜に塗布した。用いたスラリーの配合比を表1に示した。得られたセパレータの特性を表2、表3と表4に示した。
【0072】
〔実施例5〕
(1)スラリーの調製
バインダー前駆体としてテトラエトキシシランを1.2g、アルコールとしてエタノールを9.0g、蒸留水を6.0g混合した溶液を30分間(500rpm)で攪拌した。次に、触媒として35.5質量%塩酸を0.5g添加し、70℃で2時間攪拌した。
無機微粒子Aとしてベーマイト微粒子(一次粒子径:2.0μm、BET比表面積8.8m2/g)4.5gに前記バインダー溶液6.94gを添加して、遊星ボールミル(ドイツ・フリッチュ社製 TYPE05.201)で10分間(390rpm)攪拌を行い、スラリー溶液を得た。このスラリーの配合比を表1に示す。
【0073】
(2)塗布工程
100mm(TD方向)×150mm(MD方向)の実施例1で用いたものと同じポリオレフィン多孔質フィルムをガラス板に固定し、この両端に幅10mmのポリイミドフィルムをスペーサーとして固定した。ポリイミドフィルムの膜厚は7.5μmであった。ポリオレフィン多孔質フィルム両端に固定されたポリイミドフィルムスペーサー間に前記スラリー溶液を1mL滴下し、コーターナイフを用いてスラリーを流延して塗布を行った。塗布が終了した後に、80℃に設定されたオーブンに60分間投入する事で乾燥を行った。これにより得られたセパレータの特性を表2と表4に示す。また図3に耐熱層側から撮影した走査型電子顕微鏡写真を示す。粒子と粒子がバインダーで結着されていることを確認した。
【0074】
〔実施例6〕
バインダー前駆体としてテトラエトキシシランを2.3g、アルコールとしてエタノールを9.0g、蒸留水を6.0g混合した溶液を30分間(500rpm)で攪拌した。次に、触媒として35.5質量%塩酸を0.5g添加し、70℃で2時間攪拌した。
無機微粒子Aとしてベーマイト微粒子(一次粒子径:2.0μm、BET比表面積8.8m2/g)4.0gに前記バインダー溶液7.69gを添加して、遊星ボールミル(ドイツ・フリッチュ社製 TYPE05.201)で10分間(390rpm)攪拌を行い、スラリー溶液を得た。このスラリーの配合比を表1に示した。
このスラリー溶液を用いた以外は実施例5と同様にしてセパレータを得た。得られたセパレータの特性を表2と表4に示した。
【0075】
〔実施例7〕
バインダー前駆体としてテトラエトキシシランを3.9g、アルコールとしてエタノールを9.0g、蒸留水を6.0g混合した溶液を30分間(500rpm)で攪拌した。次に、触媒として35.5質量%塩酸を0.5g添加し、70℃で2時間攪拌した。
無機微粒子Aとしてベーマイト微粒子(一次粒子径:2.0μm、BET比表面積8.8m2/g)3.5gに前記バインダー溶液7.5gを添加して、遊星ボールミル(ドイツ・フリッチュ社製 TYPE05.201)で10分間(390rpm)攪拌を行い、スラリー溶液を得た。このスラリーの配合比を表1に示した。
このスラリー溶液を用いた以外は実施例5と同様にしてセパレータを得た。得られたセパレータの特性を表2と表4に示した。
【0076】
〔実施例8〕
バインダー前駆体としてテトラエトキシシランを7.9g、アルコールとしてエタノールを9.0g、蒸留水を6.0g混合した溶液を30分間(500rpm)で攪拌した。次に、触媒として35.5質量%塩酸を1.0g添加し、70℃で1時間攪拌した。
無機微粒子Aとしてベーマイト微粒子(一次粒子径:2.0μm、BET比表面積8.8m2/g)2.5gに前記バインダー溶液7.50gを添加して、遊星ボールミル(ドイツ・フリッチュ社製 TYPE05.201)で10分間(390rpm)攪拌を行い、スラリー溶液を得た。このスラリーの配合比を表1に示した。
このスラリー溶液を用いた以外は実施例5と同様にしてセパレータを得た。得られたセパレータの特性を表2と表4に示した。また図4に耐熱層側から撮影した走査型電子顕微鏡写真を示す。粒子と粒子がバインダーで結着されていることを確認した。
【0077】
【表1】
【0078】
【表2】
【0079】
【表3】
【0080】
【表4】
【0081】
表1と表2より、実施例1の耐熱性セパレータは比較例2のポリオレフィン多孔質フィルムと同等の温度でシャットダウン機能が働き、シャットダウンは220℃以上まで維持されていた。図5に実施例1のヒートショックテスト箇所を示したが、亀裂及び貫通孔は確認されず、耐熱性と形状保持機能を有していることが確認された。
これに対して比較例1のセパレータはシャットダウン温度が実施例1及び比較例2に対して高温側にシフトしている為、シャットダウン機能が低下している。さらにヒートショックテストにおいて未塗工品の比較例2よりは小さいものの亀裂が発生していた事が図6より確認された。
未塗工品の比較例2においてはヒートショックテストにより、図7に示したとおり、最大長500μmを超える貫通孔が確認された。
比較例3について、耐熱層における無機微粒子Aの含有量を本発明の範囲より減少させた場合、シャットダウン温度が実施例1及び比較例2に対して高温側にシフトしている為、シャットダウン機能が低下している。
実施例2について、図9より500μm以下の貫通孔が確認されたが、シャットダウン特性及びガーレー値のいずれも良好であった。
実施例3について、図10より貫通孔は500μm以下であり、比較例2に対して耐熱性と形状保持機能は向上していることが確認された。
比較例4と実施例4との比較より、本発明により実施例4ではガーレー値が上昇しているが、耐熱性と形状保持機能が大きく向上していることが確認された。
実施例5〜8は実施例1よりも耐熱層の厚みを薄くし、かつ無機微粒子Aの種類を変更したものであるが、シャットダウン試験及びヒートショック試験より、比較例2と比べて耐熱性と形状保持機能が向上している事が確認された。
また、表4に示したように、今回作成した実施例1〜8及び比較例1と比較例3のセパレータに形成された耐熱層を剥離して、これを試料としてDSC−50により昇温速度10℃/minにて室温から110℃まで昇温し20min保持した後に、昇温速度10℃/minで400℃まで昇温したところ、いずれも融点を示すピークは得られなかった。
以上の結果から本発明による電池用セパレータはイオン伝導性に優れ、シャットダウン機能と、高い耐熱性と、局所的に瞬時に高温に達した場合でも破膜に至らない形状保持機能を有している。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明のセパレータは優れたイオン伝導性とシャットダウン機能を有し、高い耐熱性と局所的に瞬時に高温に達した場合でも破膜に至らない形状保持機能を発揮することができるため、電池用セパレータとして有用であり、上記性能の優れた電池を得ることができ、有用である。
【技術分野】
【0001】
本発明は電池用セパレータとして有用なポリオレフィン多孔質フィルムと無機物からなるシャットダウン機能を有する耐熱性セパレータ及びこれを用いた二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、セル内において正極と負極が対向するように配置されており、両極の短絡を防止するためにイオン伝導性のセパレータが使用される。リチウムイオン二次電池の特徴として、鉛蓄電池やニッケル水素電池と異なり、可燃性の有機系電解液が用いられ電池容量が大きい事が挙げられる。このためリチウムイオン二次電池用セパレータには、短絡発生時の温度上昇を抑え熱暴走及び発火を防止する機能が求められる。
【0003】
従来、過充電時の温度上昇を抑え熱暴走を防止する機能、つまりシャットダウン機能を有する電池用セパレータとしてポリオレフィン多孔質フィルムが知られている。ポリオレフィン多孔質フィルムのシャットダウン機能は、電池において過充電による温度上昇によってポリオレフィン多孔質フィルムが溶融し、該フィルムの微多孔が閉塞する事により電流を遮断する。
【0004】
しかしながら、シャットダウン機能を有するポリオレフィンフィルムであっても、電池内への異物混入や衝撃による変形においては、局所的に200℃以上の高温に曝されると想定される。このように局所的に瞬時に高温に達した場合はシャットダウン機能が効果を示すよりも速く、フィルムの形状が失われ電極が接触する危険性がある。その為、電池用セパレータには局所的に高温に曝されても破膜に至らない形状保持機能が求められる。これらの機能を果たす為に、シャットダウン機能を有する低融点成分と形状保持機能を有する高融点成分からなる複合セパレータが提示されている。
【0005】
例えば特許文献1にはポリオレフィン多孔質フィルムの空孔部表面に無機薄膜を形成した多孔質フィルムが開示されており、特許文献2にはポリオレフィン多孔質フィルム表面にゾルゲル法によって無機酸化物多孔質膜が形成されたセパレータが開示されている。特許文献3では非電導性繊維からなる基材の間隙及び基材上に無機接着剤によって酸化物粒子を接着した耐熱層に多孔質遮断層を積層したセパレータが開示されている。特許文献4には非電導性繊維からなる基材の間隙及び基材上に無機接着剤によって酸化物粒子を接着し、さらに熱可塑性のポリマー粒子を含むセパレータが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−172531号報
【特許文献2】特開2004−14127号報
【特許文献3】特表2007−509464号報
【特許文献4】特表2009−507353号報
【0007】
しかし、特許文献1及び特許文献2に記載の技術では以下に示す問題が生じる。
(1)無機酸化物前駆体となる溶液がポリオレフィン多孔質フィルムの微多孔を閉塞させずに塗工することが困難であるため、セパレータの重要な特性であるイオン伝導性が損なわれる可能性が高い。
(2)耐熱性を得る為に必要な無機薄膜の厚みにするために、数回にわたって塗布工程を繰り返す必要がある。
(3)無機酸化物がポリオレフィン多孔質フィルムの微多孔表面に形成される為、高温時にポリオレフィン多孔質フィルムの低融点成分が溶融しても微多孔が閉塞され難くなる。
【0008】
特許文献3では非導電性繊維からなる基材に酸化物微粒子を固定する工程と多孔質遮断層を積層する工程が別々に必要であり、生産上好ましくない。また、電池を組立てる際に積層する場合は、精密に耐熱層と多孔質遮断層を重ね合わせるために、電池生産設備の改良が必要である。もし、耐熱層と多孔質遮断層が位置的にずれて電池が組み立てられた場合は、耐熱層のみによって電極が隔離される箇所と、多孔質遮断層のみによって電極が隔離される箇所が存在する。このような場合、耐熱層のみの箇所ではシャットダウン機能は無く、多孔質遮断層のみの箇所は形状保持機能が無い。非電導性繊維からなる基材が存在するためセパレータの厚みが増大し、電極間距離の増大による電池のエネルギー密度の低下及びイオン伝導性が損なわれる。
【0009】
特許文献4ではポリマー粒子が無機接着剤で被覆されていると考えられるので、高温に曝された場合にポリマー粒子溶融の後に流動して微多孔を完全に閉塞することは困難である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上述のような状況を鑑みてなされたものであり、イオン伝導性に優れ、シャットダウン機能と高い耐熱性、局所的に瞬時に高温に達した場合でも破膜に至らない形状保持機能を有する電池用セパレータおよび、その製造方法およびそれを用いた二次電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、鋭意研究の結果、ポリオレフィン多孔質フィルムの少なくとも一方の面に、無機微粒子Aとバインダーを含む層を有するセパレータであって、前記バインダーと無機微粒子Aの融点がいずれも350℃以上であり、バインダーは特定の無機または有機酸化物であり、無機微粒子Aが特定範囲の平均一次粒子径であり、無機微粒子Aとバインダーを含む層において無機微粒子Aは特定範囲の組成比で含まれ、かつポリオレフィン多孔質フィルムが特定範囲の極大孔径であり、バインダーが無機微粒子Aと無機微粒子A及び無機微粒子Aとポリオレフィン多孔質フィルムを結着させていることで、更に優れたイオン伝導性とシャットダウン機能と高い耐熱性と局所的に瞬時に高温に達した場合でも破膜に至らない形状保持機能を発揮する電池用セパレータが得られることを見出した。
【0012】
つまり、ポリオレフィン多孔質フィルムの少なくとも一方の面に、無機微粒子Aとバインダーを含む層を有するセパレータであって、前記バインダーと無機微粒子Aの融点がいずれも350℃以上であり、バインダーは特定の無機または有機酸化物であり、無機微粒子Aの平均一次粒子径が0.2μm以上10μm以下であり、かつ前記ポリオレフィン多孔質フィルムの極大孔径が0.01μm以上0.2μm未満であり、バインダーが粒子と粒子及び粒子とポリオレフィン多孔質フィルムを結着させていることを特徴とする電池用セパレータに関する。
ここで無機微粒子Aとはアルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)から選択される元素の酸化物又は水酸化物一種以上である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の電池用セパレータは、ポリオレフィン多孔質フィルムの極大孔径と無機微粒子Aの平均一次粒子径および無機微粒子Aとバインダーを含む層において無機微粒子Aの組成比を制御することによる優れたイオン伝導性と、ポリオレフィン多孔質フィルムが溶融することによるシャットダウン機能と、融点がいずれも350℃以上である無機微粒子Aと無機または有機酸化物であるバインダーを含む層によって局所的に瞬時に高温に達した場合でも破膜に至らない形状保持機能を有している。
さらに、バインダーが粒子と粒子及び粒子とポリオレフィン多孔質フィルムを結着させていることで耐熱層が一体となっているので、従来の電池生産設備が使用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施例1の耐熱層側から撮影した走査型電子顕微鏡写真である。
【図2】比較例1の耐熱層側から撮影した走査型電子顕微鏡写真である。
【図3】実施例5の耐熱層側から撮影した走査型電子顕微鏡写真である。
【図4】実施例8の耐熱層側から撮影した走査型電子顕微鏡写真である。
【図5】実施例1のヒートショックテスト箇所を撮影した写真である。
【図6】比較例1のヒートショックテスト箇所を撮影した写真である。
【図7】比較例2のヒートショックテスト箇所を撮影した写真である。
【図8】比較例3のヒートショックテスト箇所を撮影した写真である。
【図9】実施例2のヒートショックテスト箇所を撮影した写真である。
【図10】実施例3のヒートショックテスト箇所を撮影した写真である。
【図11】比較例4のヒートショックテスト箇所を撮影した写真である。
【図12】実施例4のヒートショックテスト箇所を撮影した写真である。
【図13】実施例5のヒートショックテスト箇所を撮影した写真である。
【図14】実施例6のヒートショックテスト箇所を撮影した写真である。
【図15】実施例7のヒートショックテスト箇所を撮影した写真である。
【図16】実施例8のヒートショックテスト箇所を撮影した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の電池用セパレータは、前述の通り、ポリオレフィン多孔質フィルムと、このポリオレフィン多孔質フィルムの少なくとも一方の面に、融点がいずれも350℃以上である無機微粒子Aと無機または有機酸化物であるバインダーを含む層を有し、さらにバインダーが無機微粒子Aと無機微粒子A及び無機微粒子Aとポリオレフィン多孔質フィルムを結着させている。
以下本発明について詳述するが、本発明は実施形態に限定されるものではない。
【0016】
本発明の電池用セパレータはポリオレフィン多孔質フィルムと、このポリオレフィン多孔質フィルムの少なくとも一方に、融点がいずれも350℃以上である無機微粒子Aと無機または有機酸化物であるバインダーを含む層を有していればよいが、用途によってポリオレフィン多孔質フィルムの両面に無機微粒子Aと無機または有機酸化物であるバインダーからなる層を有しても良い。
【0017】
本発明の電池用セパレータは、ポリオレフィン多孔質フィルムと、このポリオレフィン多孔質フィルムの少なくとも一方の面に、融点がいずれも350℃以上である無機微粒子Aと無機または有機酸化物であるバインダーを含む層を有し、無機微粒子Aとバインダーを含む層において無機微粒子Aは85〜99.9質量%含まれるが、好ましくは90〜98質量%であることが好ましい。上記範囲より無機微粒子Aが多いと、微粒子とバインダーの結着性が低下し、ポリオレフィン多孔質フィルムから無機微粒子Aが欠落し易くなり好ましくない。また上記範囲より無機微粒子Aが少ないと余分のバインダー成分がポリオレフィン多孔質フィルムの微多孔を閉塞し、イオン導電性が低下する為好ましくない。
【0018】
本発明の電池用セパレータのポリオレフィン多孔質フィルムが優れたシャットダウン機能を有する為には、150℃以上の融点を有するポリマーの層と、120℃から140℃の範囲に融点を有するポリマーの層とを有する積層多孔質フィルムであればよい。この構成により、微多孔がポリオレフィンの溶融によって閉塞する温度(以下シャットダウン温度と呼ぶ)が120〜150℃に設計される。よって、150℃以上で溶融するポリオレフィン樹脂としては、好ましくはポリプロピレンであり、120℃から140℃で溶融するポリオレフィン樹脂としてはポリエチレンが好適に挙げられる。
【0019】
本発明に使用されるポリプロピレンは、数平均分子量が5万以上、より好ましくは7万以上であり、数平均分子量と重量平均分子量の比が8以下のものが高い機械的強度を得られ、多孔質フィルムを成形する上で好ましい。また、ポリプロピレンの結晶化温度は110℃以上が好ましく、さらに好ましくは112℃以上である。
【0020】
本発明に使用するポリエチレンとしては、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、直鎖低密度ポリエチレン等のいずれであっても良いが、好ましくは高密度ポリエチレンである。ポリエチレンの数平均分子量は1万以上、より好ましくは2万以上のものが高い機械的強度を得られ、多孔質フィルムを成形する上で適している。
【0021】
本発明において、ポリプロピレン及びポリエチレンの数平均分子量は、WATERS社製150C型ゲル浸透クロマトグラフを用いて、標準ポリスチレン換算によって求めた。カラムにはShodex HT-806M2本を使用し、0.3wt/vol%に調製したオルトジクロロベンゼン中、135℃で測定を行った。
また、ポリプロピレンの融点は、島津社製DSC−50を用いて測定した。試料は熱履歴を取除くために230℃で10分間保持して完全融解した後、10℃/minで室温まで冷却し、測定は昇温速度10℃/minにて融解曲線の極大値を融点とした。
【0022】
ポリプロピレンとポリエチレンの積層された多孔質フィルムを使用する場合は、ポリエチレン多孔質層の両面をポリプロピレン多孔質層で挟むように積層された多孔質フィルムが好ましい。この構成により、ポリエチレン多孔質層はポリプロピレン多孔質層間に挟持されている為、ポリエチレンの融点である130〜140℃の温度範囲においてポリエチレン多孔質層が溶融して流動しても、無機微粒子と無機または有機酸化物バインダーを含む耐熱層にポリエチレン溶融樹脂が流れ込まないので、効率よくシャットダウン機能が発揮される。さらに高温にさらされた場合160〜170℃の温度範囲においてポリプロピレンが溶融して、ポリエチレンとポリプロピレンの溶融樹脂が無機微粒子Aと無機または有機酸化物バインダーを含む耐熱層の空隙を閉塞させる為、より安全なシャットダウン機能が発揮される。また、無機微粒子Aと無機または有機酸化物バインダーを含む耐熱層がポリプロピレン多孔質層の表面に形成される。これにより、ポリエチレン多孔質層の微多孔表面は、無機微粒子Aや無機または有機酸化物バインダーによって、微多孔の閉塞が阻害され難くなり、130〜140℃の温度範囲で確実なシャットダウン機能を発揮する。
【0023】
本発明に用いられるポリオレフィン多孔質フィルムの膜厚は、使用される電池の種類にもよるが、一般的には10〜100μmが好ましく、より好ましくは15〜60μmであり、さらに好ましくは15〜45μmである。
【0024】
本発明に用いられるポリオレフィン多孔質フィルムは、製造条件によっても多少異なるが、適切なガーレー値(ガス透過速度)を有することが必要であり、通常、ガーレー値100〜1000秒/100cc、好ましくは150〜800秒/100ccの範囲である。ガーレー値が高すぎると電池用セパレ−タとして使用したときにイオン伝導性が十分でない場合があり、ガーレー値が低いフィルムは生産速度が低下する場合がある。
【0025】
ポリオレフィン多孔質フィルムの極大孔径が0.01μm以上0.2μm未満であればよいが、極大孔径の下限は0.03μm以上がより好ましく、さらに0.05μm以上がより好ましい。また、極大孔径の上限は0.15μm以下が好ましく、0.1μm以下がより好ましい。極大孔径が小さすぎるとガーレー値が高くなり電池用セパレ−タとして使用したときのイオン伝導性が十分でなく、極大孔径が大きすぎると、ポリオレフィン多孔質フィルム表面に無機微粒子Aと無機酸化物バインダーからなる耐熱層を形成する際に、無機微粒子A及び無機または有機酸化物バインダーがポリオレフィン多孔質フィルムの微多孔を閉塞させ、ガーレー値の上昇や、確実なシャットダウン機能の発現が困難になるためである。
【0026】
本発明においてポリオレフィン多孔質フィルムの極大孔径はユアサアイオニクス社製水銀ポロシメータを用いて測定した。試料を0.03〜0.07g秤量してガラス製のセル中で真空とした後、水銀を圧入、充填する。充填の際の水銀圧及び圧入水銀量から極大孔直径を求めた。
【0027】
本発明に用いられるポリオレフィン多孔質フィルムの製造方法は、特に限定されないが、ポリエチレンとポリプロピレンの積層多孔質フィルムの場合、特に乾式延伸法により製造されることが好ましく、具体的には特開平4−181651号公報等の公知の方法で製造することができる。例えばポリプロピレンとポリエチレンフィルムをそれぞれ別々に溶融押し出し積層した後延伸多孔化して積層多孔質フィルムを得る方法や、ポリプロピレンとポリエチレンを溶融共押し出しした後延伸多孔化して積層多孔質フィルムを得る方法を用いることができる。
【0028】
溶融押し出し方法はTダイによる溶融押し出し成型法、インフレーション法等により行われる。例えばフィルムをTダイにより溶融成形する場合、一般に樹脂の溶融温度より20〜70℃高い温度で、ドラフト比は50〜300で行われ、また引取り速度は特に限定されないが通常10〜80m/分で成形される。
【0029】
溶融押し出しされたフィルムは結晶性及びその配向性を高めるために熱処理される。熱処理温度は、ポリプロピレンフィルムについては110〜160℃、ポリエチレンフィルムについては100〜130℃が好ましい。熱処理温度が低いと十分に多孔化されず、また高すぎるとフィルムの溶融が生じるため適当でない。熱処理時間は特に制限はないが、2秒〜200秒の範囲で行われることが好ましい。
【0030】
熱処理されたポリプロピレンフィルムは、その複屈折が10×10−3以上25×10−3以下の範囲であることが好ましく、熱処理されたポリエチレンフィルムは、その複屈折が30×10−3せ以上45×10−3以下であることが好ましい。
複屈折がこれらの範囲を外れると、多孔化が不十分となり、延伸後の多孔質フィルムの細孔径や細孔径分布、層間剥離強度、機械的強度等に影響し品質にバラツキが生じやすくなるので上記範囲が適当である。
本発明において、複屈折は偏光顕微鏡を使用し、直交ニコル下でベレックコンペンセータを用いて測定された値である。
【0031】
ポリプロピレンでポリエチレンを挟み込んだ三層構成の積層多孔質フィルムを製造する場合は、熱処理されたポリプロピレンフィルム及びポリエチレンフィルムは熱圧着によって積層される。積層は、三枚のフィルムが3組の原反ロールスタンドから巻き出され、加熱されたロール間で圧着されて積層される。
【0032】
熱圧着させる為の加熱されたロールの温度は110〜155℃が好ましい。温度が低すぎるとフィルム間の接着性が弱く、その後の延伸工程で剥離が生じ、温度が高すぎるとポリエチレンの溶融によってフィルムの複屈折が低下して多孔化が困難となる。また、フィルムの巻出し速度は1〜20m/minが好ましく、熱圧着されたフィルムの剥離強度は5〜90g重/15mmの範囲が好ましい。
【0033】
熱処理の後に積層されたフィルムは延伸によって多孔化される。延伸は低温延伸、高温延伸の順序で行い、通常は延伸ロールの周速差を利用して延伸される。
低温延伸の温度は−20〜50℃、より好ましくは20〜35℃である。延伸温度が低いと、延伸工程中にフィルムの破断が生じやすく、延伸温度が高すぎると多孔化が不十分となる。低温延伸の倍率は5〜200%、好ましくは10〜100%の範囲である。延伸倍率が低すぎると、空孔率が低いものしか得られず、また高すぎると所定の空孔率及び孔径のものが得られなくなる。本発明において低温延伸倍率(E1)は次の式Xに従う。式XのL1は低温延伸後のフィルム寸法を意味し、L0は低温延伸前のフィルム寸法を意味する。
式X: E1=[(L1−L0)/L0]×100
【0034】
低温延伸後のフィルムは、次に高温延伸される。高温延伸はオーブン中で90〜140℃、特に好ましくは110〜135℃の温度範囲で行われる。延伸温度が低すぎると、延伸をする際にフィルムの破断等により生産効率が著しく低下するので好ましくない。また、延伸温度が高すぎると多孔化が不十分となるため好ましくない。
高温延伸の倍率は100〜400%の範囲である。延伸倍率が低すぎると、多孔化が不十分となり、また高すぎると所定の透気度、空孔率及び孔径のものが得られなくなるので上記範囲が適当である。
本発明において高温延伸倍率(E2)は次の式Yに従う。式YのL2は高温延伸後のフィルム寸法を意味し、L1は低温延伸後のフィルム寸法を意味する。
式Y: E2=[(L2−L1)/L1]×100
【0035】
高温延伸をした後、多孔質フィルムの熱固定を行う事が好ましい。熱固定は、延伸時に作用した残留応力によるフィルムの延伸方向への収縮を防ぐために予め延伸後のフィルム長さが10〜50%減少する程度熱収縮させる方法や、延伸方向の寸法が変化しないように規制して加熱する方法等で行われる。
【0036】
ポリオレフィン多孔質フィルム表面の層には、無機または有機酸化物バインダーとの結着性を向上させる目的で、無機酸化物からなる無機微粒子Bを0.1〜10重量%配合させるとよいが、0.2〜5重量%配合することがさらに好ましい。また、無機酸化物からなる無機微粒子Bの平均粒径は0.1μm以上10μm以下である。ここで無機微粒子Bとはアルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)から選択される元素の酸化物又は水酸化物を少なくとも1種含むものである。ポリオレフィン多孔質フィルム中における無機微粒子Bが少なすぎると、無機または有機酸化物バインダーとの結着性を向上させる効果が得られず、無機微粒子Bが多すぎるとポリオレフィン多孔質フィルムの機械的強度の低下や、ポリオレフィン多孔質フィルム中における無機微粒子Bの分散不良を招き、多孔質フィルムの外観不良となる。また、無機微粒子Bの平均粒径が小さすぎると、ポリオレフィン多孔質フィルムの表面から露出する無機微粒子Bが減少して、無機または有機酸化物バインダーとの結着性を向上させる効果が得られず、平均粒径が大きすぎるとポリオレフィン多孔質フィルムの成形性が損なわれる。
【0037】
本発明において、無機微粒子Bをポリオレフィン多孔質フィルムに配合する方法については特に制限はないが、通常の混練機により無機微粒子Bをポリオレフィン樹脂と混練する方法、例えば一軸押出機、二軸押出機、ミキシングロール等を用いて溶融混練する事でペレットを得ることできる。また、ヘンシェルミキサー、タンブラー等を用いてドライブレンドによってペレットへ配合しても良い。このようにして得られたペレットを、前述のポリオレフィン多孔質フィルム製造方法に用いることで無機微粒子Bが配合されたポリオレフィン多孔質フィルムを得る事ができる。
【0038】
本発明において、耐熱層を構成する無機微粒子Aは平均一次粒子径が0.2μm以上10μm以下であるが、無機微粒子Aの平均一次粒子径が上記範囲より大きい場合、耐熱層の厚みが増す為に電池用セパレータとしては厚くなり好ましくなく、平均一次粒子径が上記範囲より小さい場合は、ポリオレフィン多孔質フィルムの微多孔を閉塞させてイオン導電性を低下させる為好ましくない。無機微粒子AはAl、Si、Ti、Zrから選択される元素の酸化物又は水酸化物を少なくとも1種含むものであればよいが、入手の容易性の点から具体的には、シリカ、アルミナ、水酸化アルミニウム、アルミナシリケートが適している。
【0039】
本発明において、耐熱層を構成する無機微粒子Aの粒子形状は球状、板状、キュービック状、塊状、針状のいずれでも使用が可能であるが、好ましくは球状、板状又はキュービック状のいずれかである。針状の微粒子を用いた場合、ポリオレフィン多孔質フィルムの表面に耐熱層を形成する際に、微粒子がポリオレフィン多孔質フィルムを貫通して欠陥を生じる可能性が高いため好ましくない。
【0040】
本発明において、無機または有機酸化物からなるバインダーは、加水分解反応と重縮合反応により三次元架橋が進行することによって得られることを特徴とし、加水分解反応と重縮合反応により三次元架橋が進行する前駆体の構造が一般式(1)(式中、R1は有機置換基、mはR1の数、MはAl、Si、Ti、Zrから選択される一種類の元素、R2は炭素数1〜6のアルキル基、nはMの酸化数を表す。さらにm及びnは、0≦m≦2、2≦n≦4を満たす整数である)である化合物が含まれることが好ましい。また、前駆体は一般式(1)を満たすものであれば複数の前駆体を用いても良い。例えば、n=4である前駆体とn=3の前駆体を混合して用いても良いし、R1、R2、Mが夫々異なるものを組み合わせて使用しても良い。但し、n=2の前駆体を用いる場合は、三次元架橋を進行させる為に少なくともnが3以上の前駆体を配合する事が必要である。
【0041】
【化1】
【0042】
前記一般式(1)におけるR1で表される有機置換基は、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝のアルキル基が好適に挙げられ、好ましくは、R1がメチル基、エチル基、プロピル基およびブチル基から選択され、好ましくはメチル基、エチル基、またはプロピル基である。
また、R2で表されるアルキル基は、メチル基、エチル基、プロピル基、およびブチル基から選択される基が好適に挙げられるが、好ましくはメチル基、エチル基、またはプロピル基である。
R1及びR2の選択については、反応条件や所望する生成物の特性により行われる。具体的にはメチルトリメトキシシラン、テトラメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、テトラエトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシランから選択される一種類、又は二種類以上の化合物を組合せて使用しても良い。または、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルジエトキシシランから選択される一種類、又は二種類と、メチルトリメトキシシラン、テトラメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、テトラエトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシランから選択される一種類、又は二種類以上の化合物を組み合わせても良い。
【0043】
本発明において、無機または有機酸化物を含むバインダーは、加水分解反応と重縮合反応により三次元架橋が進行することによって得られる。加水分解反応と重縮合反応はアルコールと水の混合液体を溶媒として、一般式(1)に示される前駆体をアルコールと水の溶媒に溶かした後、触媒として酸又は塩基性の液体を使用することで反応させることが好ましい。溶媒を構成するアルコールとしては、取扱いの容易性からエタノール、イソプロパノール、ブタノールが好ましく用いることが可能である。触媒として用いる酸としては一般的な塩酸、硫酸、硝酸が挙げられるが、処理の容易性から塩酸が好ましい。触媒として塩基を用いる場合は水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニアから選択される水溶液が使用できるが、処理の容易性からアンモニア水が適している。以下の記述においては一般式(1)に示される前駆体とアルコール及び水と触媒の混合物をバインダー溶液と記述する。
【0044】
本発明において、無機微粒子Aと無機または有機酸化物であるバインダーの融点は350℃以上であり、好ましくは400℃以上である。350℃未満の温度において融点が存在する場合は、電極の短絡による局所的な発熱によって溶融する可能性がある。例えば一般的なリチウムイオン二次電池におけるLiCoO2等の正極又は黒鉛負極と非水電解液の発熱反応のピークは200℃から300℃に生じる事が知られている。このため少なくとも200〜300℃の温度範囲において、セパレータは形状を維持できなければ熱暴走を防止する事が出来ない。無機微粒子Aと無機または有機酸化物であるバインダーの融点が350℃以上、好ましくは400℃以上であれば、短絡発生時の温度上昇の影響を受けにくく、電池の形状を安定に保ち、熱暴走や発火を防止する効果を発揮する。
本発明の無機微粒子Aと無機または有機酸化物であるバインダーの融点は、島津社製DSC−50を用いて測定した。試料はポリオレフィン多孔質フィルム上に形成された耐熱層より、無機微粒子Aと無機または有機酸化物であるバインダーを剥離して試料とした。測定は昇温速度10℃/minにて室温より110℃まで昇温し20min保持した後に、昇温速度10℃/minで融解曲線の極大値を融点とした。
【0045】
本発明において、耐熱層は無機微粒子Aと無機または有機酸化物を含むバインダーから構成される。無機微粒子Aの表面に存在する水酸基と、バインダー溶液が重縮合することにより、無機微粒子A同士の結着が成される。
【0046】
本発明において、耐熱層をポリオレフィン多孔質フィルム表面に形成する方法として、バインダー溶液と無機微粒子Aを混合してスラリーを調製し、スラリーをポリオレフィン多孔質フィルム表面の少なくとも一方の面に塗布し、ポリオレフィン多孔質フィルム上においてバインダー溶液と無機微粒子Aとが加水分解及び重縮合反応を進行させることにより形成することが好ましい。
【0047】
本発明におけるスラリーの調製方法としては一般式(1)で示される前駆体をアルコールと水からなる溶媒に混合し、無機微粒子Aを混合した後に触媒を加えても良い。または、一般式(1)で示される前駆体をアルコールと水からなる溶媒に混合し、触媒を加えて加水分解及び重縮合反応を進行させて、前駆体から2量体以上のオリゴマーを生成させた後に微粒子を添加してスラリーとしても良い。好ましくは後者の順序でスラリーを調製することであるが、これは触媒と無機微粒子との反応を抑えることが出来るからである。
【0048】
本発明においてスラリーを調製した後にポリオレフィン多孔質フィルムへ塗布されるが、塗布方法としては限定されないが、スプレーコート法、バーコート法、グラビアコート法、スロットダイコート法が挙げられる。塗工方法の選択は、目的とする耐熱層の厚みやスラリーの粘度によって最適な方法を選択されることが望ましい。
【0049】
本発明において調製される好ましいスラリーの組成比は一般式(1)で示される前駆体が5〜30質量%、アルコールが2〜30質量%、水が2〜30質量%、触媒が0.1〜3質量%、無機微粒子Aが35〜90質量%の範囲の組成比であり、より好ましくは一般式(1)の前駆体が10〜20質量%、アルコールが5〜15質量%、水が10〜30質量%、触媒が0.1〜3質量%、無機微粒子Aが45〜70質量%である。前記組成比で、かつ耐熱層を構成する無機微粒子Aは平均一次粒子径が0.2μm以上10μm以下であれば、このスラリーは優れた塗工性を示し、ポリオレフィン多孔質フィルムの微多孔を閉塞させることなく耐熱層を形成する事が可能である。スラリーの組成比において前駆体が上記範囲より少なければ結着力が充分でなく、多すぎるとポリオレフィン多孔質フィルムの微多孔を閉塞させてイオン伝導性が低下する。またアルコールの比率が多くかつ水の比率が少ないと、バインダー溶液がポリオレフィン多孔質フィルムの微多孔を閉塞させてイオン伝導性が低下し、さらに微多孔内壁にバインダーが結着してシャットダウン特性の低下を招く。逆にアルコールの比率が少なく、水の比率が多いと前駆体と水が相分離して不均一に反応が進行し、バインダー成分が一部凝集する為、バインダー溶液を得る事ができない。触媒が上記範囲より少ないと加水分解反応速度が低下し、触媒が多すぎると後の洗浄工程で抽出する為に大量の洗浄液が必要となり好ましくない。
【0050】
スラリーをポリオレフィン多孔質フィルムへ塗布により耐熱層とポリオレフィン多孔質フィルムが積層された耐熱セパレータが得られるが、加水分解及び重縮合反応の進行と乾燥の為に、オーブン内で耐熱性セパレータの熱処理を行う事が好ましく、オーブン温度としては30℃以上100℃以下が好ましく、より好ましくは50℃以上90℃以下が適当である。この範囲より温度が低いと加水分解及び重縮合反応と乾燥に長時間を有するため生産効率が悪くなり好ましくない。また温度が高すぎると、ポリオレフィン多孔質フィルムが変形または溶融する為、上記範囲が適当である。
さらに、耐熱性セパレータの乾燥が完了した後は、水やアルコール又は水とアルコールの混合物により、耐熱セパレータに残留する触媒成分を洗浄することが好ましい。耐熱セパレータに触媒成分が残留していた場合は、電池の容量低下を招く恐れがある。
【0051】
本発明において、融点がいずれも350℃以上である無機微粒子Aと無機または有機酸化物であるバインダーを含む層、つまり耐熱層における無機微粒子Aの含有量は、一般式(1)で示される前駆体が加水分解及び重縮合反応により減少する質量を換算し算出したちである。例えば、一般式(1)で示される前駆体がSi(OC2H5)であるテトラエトキシシランを用いた場合、前駆体の分子量は208.3であり、加水分解及び重縮合反応によって分子量60.1であるSiO2に定量的に変化する。この物質収支を基に耐熱層における無機微粒子Aの含有量は算出する事が可能である。
【0052】
上記方法で得られる耐熱性セパレータはイオン伝導性に優れ、シャットダウン機能と高い耐熱性を併せ持ち、局所的に瞬時に高温に達した場合でも破膜に至らない電池用セパレータとして用いることができる。
【実施例】
【0053】
以下、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。また、実施例及び比較例で用いた評価方法及び測定方法は下記に示すとおりである。
【0054】
1)ガーレー値
JIS P8117に準じて測定した。測定装置としてB型ガーレーデンソメーター(東洋精機社製)を使用した。試料片を直径28.6mm、面積645mm2の円孔に締付ける。内筒質量567gにより、筒内の空気を試験円孔部から筒外へ通過させる。空気100ccが通過する時間を測定し、ガーレー値(透気度)とした。
【0055】
2)無機微粒子Aの平均一次粒子径
無機微粒子Aの平均一次粒子径は電界放射型走査型電子顕微鏡(FE−SEM)により微粒子を20個観察して、その粒子径の平均値を用いた。
【0056】
3)平均膜厚
膜厚測定器として、電子マイクロメータミリトロン1202D(mahr社製)を使用した。試験片膜厚を20点測定して、20点の平均値を平均膜厚とした。
【0057】
4)シャットダウン温度とシャットダウン維持温度の測定
シャットダウン特性評価として、電気抵抗測定用セルを用いて、電気抵抗の温度依存性を測定した。電気抵抗測定用セルは対となる電極面積が2.0cm2であるニッケル製電極を使用した。測定用セルに電解液に濡らしたセパレータ試料片を挟み、セラミックヒーターを用いて10℃/minで昇温した。電極間抵抗は抵抗測定装置:LCRハイテスタ(日置電気(株)製)を用いて、測定周波数1kHzの条件で行った。測定に用いた電解液は、体積比でプロピレンカーボネート(PC)とジエチルカーボネート(DEC)をPC/DEC=3/7で混合溶媒を調製し、前記混合溶媒に対し1mol/Lの濃度になるように六フッ化燐酸リチウムを溶解し、電解液とした。このとき、電気抵抗が1000Ωに達した温度をシャットダウン温度とした。また、シャットダウン温度後も220℃まで昇温を続けて、再短絡が生じるかを確認し、再短絡が生じた温度をシャットダウン維持温度とした。
【0058】
5)ヒートショックテスト
局所的に瞬時に高温に達した場合の形状保持機能特性評価として、厚みが15mmのSUS304平板上に厚みが20μmのアルミ箔を固定して試験台とした。この試験台の上に作成した試料片のポリオレフィン多孔質層がアルミ箔と向かい合わせになるように固定した。先端形状が0.5Rで、直径1mmφの温調機能付きニードルの先端温度を350℃に設定し、ニードル先端を試験台の上に固定された試料に対して垂直に150gの荷重をかけて3秒間押し当て、試料の貫通孔の有無及び最大長により評価を行った。貫通孔の最大長が500μmを超える場合は×とし、貫通孔の最大長が500μm以下の場合は△とし、貫通孔が無しの場合は○として判定した。
【0059】
〔実施例1〕
(1)ポリオレフィン多孔質フィルムの作成
数平均分子量70000、結晶化温度112℃のポリプロピレンに、酸化珪素を主成分とする平均粒径2.1μmの無機微粒子Bを、二軸混練機を用いて樹脂に対して10000ppmになるように配合した。この無機微粒子配合ポリプロピレンは、吐出幅1000mm、吐出リップ開度2mmのTダイを使用してフィルム状に溶融押出しした。
吐出フィルムは、90℃の冷却ロールに導かれ、30℃の冷風が吹きつけられて冷却された後、40m/minで引取られた。
得られたポリプロピレン組成物フィルムの膜厚は6.0μmであった。この未延伸ポリプロピレンフィルムは、引取り方向を固定された状態で、135℃に60秒間熱処理した後、室温まで冷却した。
熱処理された未延伸ポリプロピレンフィルムの複屈折は、17.6×10−3であった。
【0060】
ポリエチレンとして、数平均分子量20000、密度0.964、融点134℃の高密度ポリエチレンを、吐出幅1000mm、吐出リップ開度2mmのTダイを使用して溶融押出しした。
吐出フィルムは、115℃の冷却ロールに導かれ、25℃の冷風が吹きつけられて冷却された後、20m/minで引取られた。得られたポリエチレンフィルムの膜厚は8.5μmであった。この未延伸ポリエチレンフィルムは、引取り方向を固定された状態で、120℃に60秒間熱処理した後、室温まで冷却した。
熱処理された未延伸ポリエチレンフィルムの複屈折は、35.5×10−3であった。
【0061】
熱処理したポリエチレンフィルム及びポリプロピレンフィルムは、ポリプロピレンを表面層に、ポリエチレンを内層(中間層)に配した三層構成に積層された。積層は、三組のロールスタンドから該ポリプロピレンフィルム及びポリエチレンフィルムをそれぞれ巻出し速度10.0m/minで巻出し、加熱ロールに導き、温度125℃、線圧1.8kg/cmで熱圧着し、その後同速度で30℃の冷却ロールに導いて巻き取った。巻取り速度は10.0m/min、巻出し張力は0.9kgであった。得られた未延伸積層フィルムの膜厚は20.3μmであった。
【0062】
未延伸積層フィルムは、30℃に保持されたニップロール間で25%低温延伸された。この時のロール間は350mm、供給側のロール速度は6m/minであった。
低温延伸した積層フィルムは、引続き123℃に加熱された熱風循環オーブン中に導かれ、ロール周速差を利用してロール間で総延伸量180%になるまで高温延伸された後、125℃に加熱されたロールで30%緩和させて72秒間熱固定され、連続的にポリオレフィン多孔質フィルムを得た。ポリオレフィン多孔質フィルムの膜厚は16.2μmであった。
【0063】
(2)スラリーの調製
バインダー前駆体としてテトラエトキシシランを36.7g、アルコールとしてエタノールを31.0g、蒸留水を47.5g、混合した後に、触媒として35.5%塩酸を5.3g添加し、70℃オイルバス中で90分間攪拌した。その後に、加水分解反応及び重縮合反応を進行させる為に密閉容器に移して、室温で24時間静置してバインダー溶液を調製した。この時のバインダー溶液の重量はエタノールの蒸発により、仕込み合計重量120.5gに対して107.1gに減少していた。
無機微粒子Aとして一次粒子径が1.4μmのシリカ微粒子9.9gを前記バインダー溶液10.0gに添加して30分間攪拌を行い、スラリーを得た。このスラリーの配合比を表1に示した。
【0064】
(3)塗布工程
200mm四方のポリオレフィン多孔質フィルムをガラス板に固定し、この両端に幅25mmのPETフィルムをスペーサーとして固定した。PETフィルムの膜厚は20μmであった。ポリオレフィン多孔質フィルム両端に固定されたPETフィルムスペーサー間に前記スラリー溶液を5mL滴下し、ドクターブレードを用いてスラリーを流延して塗布を行った。塗布が終了した後に、室温で30分間静置して、60℃に設定されたオーブンに20分間投入する事で乾燥を行った。乾燥終了後、水とアルコールが重量比で1:1に調製された洗浄液1L中に10分間浸漬して1次洗浄を行い、更に同様に調製された洗浄液1Lに10分間浸漬して2次洗浄を行った。これにより得られたセパレータの特性を表2、表3と表4に示した。また図1に実施例1の耐熱層側から撮影した走査型電子顕微鏡写真を示した。粒子と粒子をバインダーが結着させている様子が確認された。
【0065】
〔比較例1〕
実施例1で調整したバインダー溶液18.6gに対し、無機微粒子Aとして平均一次粒子径0.03μmのシリカ微粒子を1.5g用いてスラリーを調製した以外は実施例1と同様にしてセパレータを得た。用いたスラリーの配合比を表1に示した。得られたセパレータの特性を表2、表3と表4に示した。また図2に比較例1の耐熱層側から撮影した走査型電子顕微鏡写真を示した。耐熱層は不均一に亀裂が生じている様子が確認された。
【0066】
〔比較例2〕
膜厚が14μmのポリプロピレンフィルムと膜厚が10μmのポリエチレンフィルムを用いて、実施例1の方法で積層と延伸を行い、膜厚が30.3μmのポリオレフィン多孔質フィルムを得た。これにより得られたセパレータの特性を表2、表3と表4に示した。
【0067】
〔比較例3〕
実施例1で調整したバインダー溶液14.0gに対し、無機微粒子Aとして一次粒子径が1.4μmのシリカ微粒子を6.0g添加した以外は実施例1と同様にしてセパレータを得た。用いたスラリーの配合比を表1に示した。得られたセパレータの特性を表2、表3と表4に示した。
【0068】
〔実施例2〕
バインダー前駆体としてテトラエトキシシランを21.4g、アルコールとしてエタノールを6.0g、蒸留水を41.3g、混合した後に、触媒として35.5%塩酸を3.1g添加し、70℃オイルバス中で90分間攪拌した。その後に、加水分解反応及び重縮合反応を進行させる為に密閉容器に移して、室温で24時間静置してバインダー溶液を調製した。この時のバインダー溶液の重量はエタノールの蒸発により、仕込み合計重量71.8gに対して70.2gに減少していた。
無機微粒子Aとして一次粒子径が1.4μmのシリカ微粒子9.9gを前記バインダー溶液10.0gに添加して30分間攪拌を行い、スラリー溶液を得た。このスラリーの配合比を表1に示した。このスラリー溶液を用いた以外は実施例1と同様にしてセパレータを得た。得られたセパレータの特性を表2、表3と表4に示した。
【0069】
〔実施例3〕
バインダー前駆体としてテトラエトキシシランを21.5g、アルコールとしてエタノールを41.4g、蒸留水を4.4g、混合した後に、触媒として35.5%塩酸を3.1g添加し、70℃オイルバス中で90分間攪拌した。その後に、加水分解反応及び重縮合反応を進行させる為に密閉容器に移して、室温で24時間静置してバインダー溶液を調製した。この時のバインダー溶液の重量はエタノールの蒸発により、仕込み合計重量70.4gに対して65.8gに減少していた。
無機微粒子Aとして一次粒子径が1.4μmのシリカ微粒子10.0gを前記バインダー溶液10.0gに添加して30分間攪拌を行い、スラリー溶液を得た。このスラリーの配合比を表1に示した。このスラリー溶液を用いた以外は実施例1と同様にしてセパレータを得た。得られたセパレータの特性を表2、表3と表4に示した。
【0070】
〔比較例4〕
ポリオレフィン多孔質フィルムとして膜厚が25.2μmのPE単層膜をセパレータとして用いた。これにより得られたセパレータの特性を表2、表3と表4に示した。
【0071】
〔実施例4〕
実施例1で調製したスラリーを、比較例4で用いたPE単層膜に塗布した。用いたスラリーの配合比を表1に示した。得られたセパレータの特性を表2、表3と表4に示した。
【0072】
〔実施例5〕
(1)スラリーの調製
バインダー前駆体としてテトラエトキシシランを1.2g、アルコールとしてエタノールを9.0g、蒸留水を6.0g混合した溶液を30分間(500rpm)で攪拌した。次に、触媒として35.5質量%塩酸を0.5g添加し、70℃で2時間攪拌した。
無機微粒子Aとしてベーマイト微粒子(一次粒子径:2.0μm、BET比表面積8.8m2/g)4.5gに前記バインダー溶液6.94gを添加して、遊星ボールミル(ドイツ・フリッチュ社製 TYPE05.201)で10分間(390rpm)攪拌を行い、スラリー溶液を得た。このスラリーの配合比を表1に示す。
【0073】
(2)塗布工程
100mm(TD方向)×150mm(MD方向)の実施例1で用いたものと同じポリオレフィン多孔質フィルムをガラス板に固定し、この両端に幅10mmのポリイミドフィルムをスペーサーとして固定した。ポリイミドフィルムの膜厚は7.5μmであった。ポリオレフィン多孔質フィルム両端に固定されたポリイミドフィルムスペーサー間に前記スラリー溶液を1mL滴下し、コーターナイフを用いてスラリーを流延して塗布を行った。塗布が終了した後に、80℃に設定されたオーブンに60分間投入する事で乾燥を行った。これにより得られたセパレータの特性を表2と表4に示す。また図3に耐熱層側から撮影した走査型電子顕微鏡写真を示す。粒子と粒子がバインダーで結着されていることを確認した。
【0074】
〔実施例6〕
バインダー前駆体としてテトラエトキシシランを2.3g、アルコールとしてエタノールを9.0g、蒸留水を6.0g混合した溶液を30分間(500rpm)で攪拌した。次に、触媒として35.5質量%塩酸を0.5g添加し、70℃で2時間攪拌した。
無機微粒子Aとしてベーマイト微粒子(一次粒子径:2.0μm、BET比表面積8.8m2/g)4.0gに前記バインダー溶液7.69gを添加して、遊星ボールミル(ドイツ・フリッチュ社製 TYPE05.201)で10分間(390rpm)攪拌を行い、スラリー溶液を得た。このスラリーの配合比を表1に示した。
このスラリー溶液を用いた以外は実施例5と同様にしてセパレータを得た。得られたセパレータの特性を表2と表4に示した。
【0075】
〔実施例7〕
バインダー前駆体としてテトラエトキシシランを3.9g、アルコールとしてエタノールを9.0g、蒸留水を6.0g混合した溶液を30分間(500rpm)で攪拌した。次に、触媒として35.5質量%塩酸を0.5g添加し、70℃で2時間攪拌した。
無機微粒子Aとしてベーマイト微粒子(一次粒子径:2.0μm、BET比表面積8.8m2/g)3.5gに前記バインダー溶液7.5gを添加して、遊星ボールミル(ドイツ・フリッチュ社製 TYPE05.201)で10分間(390rpm)攪拌を行い、スラリー溶液を得た。このスラリーの配合比を表1に示した。
このスラリー溶液を用いた以外は実施例5と同様にしてセパレータを得た。得られたセパレータの特性を表2と表4に示した。
【0076】
〔実施例8〕
バインダー前駆体としてテトラエトキシシランを7.9g、アルコールとしてエタノールを9.0g、蒸留水を6.0g混合した溶液を30分間(500rpm)で攪拌した。次に、触媒として35.5質量%塩酸を1.0g添加し、70℃で1時間攪拌した。
無機微粒子Aとしてベーマイト微粒子(一次粒子径:2.0μm、BET比表面積8.8m2/g)2.5gに前記バインダー溶液7.50gを添加して、遊星ボールミル(ドイツ・フリッチュ社製 TYPE05.201)で10分間(390rpm)攪拌を行い、スラリー溶液を得た。このスラリーの配合比を表1に示した。
このスラリー溶液を用いた以外は実施例5と同様にしてセパレータを得た。得られたセパレータの特性を表2と表4に示した。また図4に耐熱層側から撮影した走査型電子顕微鏡写真を示す。粒子と粒子がバインダーで結着されていることを確認した。
【0077】
【表1】
【0078】
【表2】
【0079】
【表3】
【0080】
【表4】
【0081】
表1と表2より、実施例1の耐熱性セパレータは比較例2のポリオレフィン多孔質フィルムと同等の温度でシャットダウン機能が働き、シャットダウンは220℃以上まで維持されていた。図5に実施例1のヒートショックテスト箇所を示したが、亀裂及び貫通孔は確認されず、耐熱性と形状保持機能を有していることが確認された。
これに対して比較例1のセパレータはシャットダウン温度が実施例1及び比較例2に対して高温側にシフトしている為、シャットダウン機能が低下している。さらにヒートショックテストにおいて未塗工品の比較例2よりは小さいものの亀裂が発生していた事が図6より確認された。
未塗工品の比較例2においてはヒートショックテストにより、図7に示したとおり、最大長500μmを超える貫通孔が確認された。
比較例3について、耐熱層における無機微粒子Aの含有量を本発明の範囲より減少させた場合、シャットダウン温度が実施例1及び比較例2に対して高温側にシフトしている為、シャットダウン機能が低下している。
実施例2について、図9より500μm以下の貫通孔が確認されたが、シャットダウン特性及びガーレー値のいずれも良好であった。
実施例3について、図10より貫通孔は500μm以下であり、比較例2に対して耐熱性と形状保持機能は向上していることが確認された。
比較例4と実施例4との比較より、本発明により実施例4ではガーレー値が上昇しているが、耐熱性と形状保持機能が大きく向上していることが確認された。
実施例5〜8は実施例1よりも耐熱層の厚みを薄くし、かつ無機微粒子Aの種類を変更したものであるが、シャットダウン試験及びヒートショック試験より、比較例2と比べて耐熱性と形状保持機能が向上している事が確認された。
また、表4に示したように、今回作成した実施例1〜8及び比較例1と比較例3のセパレータに形成された耐熱層を剥離して、これを試料としてDSC−50により昇温速度10℃/minにて室温から110℃まで昇温し20min保持した後に、昇温速度10℃/minで400℃まで昇温したところ、いずれも融点を示すピークは得られなかった。
以上の結果から本発明による電池用セパレータはイオン伝導性に優れ、シャットダウン機能と、高い耐熱性と、局所的に瞬時に高温に達した場合でも破膜に至らない形状保持機能を有している。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明のセパレータは優れたイオン伝導性とシャットダウン機能を有し、高い耐熱性と局所的に瞬時に高温に達した場合でも破膜に至らない形状保持機能を発揮することができるため、電池用セパレータとして有用であり、上記性能の優れた電池を得ることができ、有用である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン多孔質フィルムの少なくとも一方の面に、いずれも融点が350℃以上の無機微粒子Aとバインダーを含む耐熱層を有するセパレータであって、
バインダーは無機または有機酸化物を含み、
前記ポリオレフィン多孔質フィルムの極大孔径が0.01μm以上0.2μm未満であり、
前記無機微粒子Aの平均一次粒子径が0.2μm以上10μm以下であり、
前記耐熱層は、無機微粒子Aを85〜99.9質量%とバインダーとを含むことを特徴とする電池用セパレータ。
【請求項2】
前記バインダーは加水分解反応と重縮合反応により三次元架橋が進行することによって、得られることを特徴とする請求項1記載の電池用セパレータ。
【請求項3】
前記バインダーの前駆体が下記一般式(1)(式中、R1は有機置換基、mはR1の数、MはAl、Si、Ti、およびZrから選択される一種類の元素、R2はアルキル基、nはMの酸化数を表す。さらにm及びnは、0≦m≦2、2≦n≦4を満たす整数である)で表される一種類又は二種類以上の化合物を含むことを特徴とする請求項2記載の電池用セパレータ。
【化1】
【請求項4】
前記バインダーの前駆体が一般式(1)で表され、式中のnが3以上の化合物が少なくとも一種類以上含まれることを特徴とする請求項3記載の電池用セパレータ
【請求項5】
前記バインダーの三次元骨格がシロキサン結合を含むものである請求項4記載の電池用セパレータ。
【請求項6】
前記無機微粒子AがAl、Si、Ti、およびZrから選択される元素の酸化物又は水酸化物を少なくとも1種含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の電池用セパレータ。
【請求項7】
前記電池用セパレータにおいて、
ヒートショック試験後の亀裂の最大長が500μm以下である、
測定条件:厚みが15mmのSUS304平板上に、厚みが20μmのアルミ箔を固定した試験台を用い、該試験台上にポリオレフィン多孔質層を固定し、先端形状が0.5Rで、直径1mmφのニードルの先端温度を350℃に設定し、ニードル先端を試験台の上に固定された試料に対して垂直に150gの荷重をかけて3秒間押し当てて、試料の貫通孔の有無および最大長を測定する。
ことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の電池用セパレータ。
【請求項8】
前記ポリオレフィン多孔質フィルムが、150℃以上の融点を有するポリマーの層と、120℃から140℃の範囲に融点を有するポリマーの層とを有する積層多孔質フィルムであることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の電池用セパレータ。
【請求項9】
前記ポリオレフィン多孔質フィルムの150℃以上の融点を有するポリマーの層が、無機微粒子Aおよびバインダーを含む層と、120℃から140℃の範囲に融点を有するポリマーの層との間に存在することを特徴とする請求項8記載の電池用セパレータ。
【請求項10】
前記ポリオレフィン多孔質フィルムの150℃以上の融点を有するポリマーの層中に無機酸化物からなる無機微粒子Bが含まれ、無機微粒子Bの一部がポリオレフィン多孔質フィルムの150℃以上の融点を有するポリマーの層外に露出し、無機微粒子Bと無機微粒子Aが前記バインダーを介して結着されていることを特徴とする請求項9記載の電池用セパレータ。
【請求項11】
前記無機微粒子Bはポリオレフィン多孔質フィルムの150℃以上の融点を有するポリマーの層中に0.1〜10質量%含まれていることを特徴とする請求項10記載の電池用セパレータ。
【請求項12】
一般式(1)で示される前駆体が5〜30質量%、アルコールが2〜30質量%、無機微粒子Aが35〜90質量%の範囲の組成比であるスラリーをポリオレフィン多孔質フィルムの少なくとも一方の面に塗布した後、乾燥することで、耐熱層を形成する請求項11記載の電池用セパレータ。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれかに記載の電池用セパレータの製造方法。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれかに記載のセパレータを備えたリチウム電池。
【請求項1】
ポリオレフィン多孔質フィルムの少なくとも一方の面に、いずれも融点が350℃以上の無機微粒子Aとバインダーを含む耐熱層を有するセパレータであって、
バインダーは無機または有機酸化物を含み、
前記ポリオレフィン多孔質フィルムの極大孔径が0.01μm以上0.2μm未満であり、
前記無機微粒子Aの平均一次粒子径が0.2μm以上10μm以下であり、
前記耐熱層は、無機微粒子Aを85〜99.9質量%とバインダーとを含むことを特徴とする電池用セパレータ。
【請求項2】
前記バインダーは加水分解反応と重縮合反応により三次元架橋が進行することによって、得られることを特徴とする請求項1記載の電池用セパレータ。
【請求項3】
前記バインダーの前駆体が下記一般式(1)(式中、R1は有機置換基、mはR1の数、MはAl、Si、Ti、およびZrから選択される一種類の元素、R2はアルキル基、nはMの酸化数を表す。さらにm及びnは、0≦m≦2、2≦n≦4を満たす整数である)で表される一種類又は二種類以上の化合物を含むことを特徴とする請求項2記載の電池用セパレータ。
【化1】
【請求項4】
前記バインダーの前駆体が一般式(1)で表され、式中のnが3以上の化合物が少なくとも一種類以上含まれることを特徴とする請求項3記載の電池用セパレータ
【請求項5】
前記バインダーの三次元骨格がシロキサン結合を含むものである請求項4記載の電池用セパレータ。
【請求項6】
前記無機微粒子AがAl、Si、Ti、およびZrから選択される元素の酸化物又は水酸化物を少なくとも1種含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の電池用セパレータ。
【請求項7】
前記電池用セパレータにおいて、
ヒートショック試験後の亀裂の最大長が500μm以下である、
測定条件:厚みが15mmのSUS304平板上に、厚みが20μmのアルミ箔を固定した試験台を用い、該試験台上にポリオレフィン多孔質層を固定し、先端形状が0.5Rで、直径1mmφのニードルの先端温度を350℃に設定し、ニードル先端を試験台の上に固定された試料に対して垂直に150gの荷重をかけて3秒間押し当てて、試料の貫通孔の有無および最大長を測定する。
ことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の電池用セパレータ。
【請求項8】
前記ポリオレフィン多孔質フィルムが、150℃以上の融点を有するポリマーの層と、120℃から140℃の範囲に融点を有するポリマーの層とを有する積層多孔質フィルムであることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の電池用セパレータ。
【請求項9】
前記ポリオレフィン多孔質フィルムの150℃以上の融点を有するポリマーの層が、無機微粒子Aおよびバインダーを含む層と、120℃から140℃の範囲に融点を有するポリマーの層との間に存在することを特徴とする請求項8記載の電池用セパレータ。
【請求項10】
前記ポリオレフィン多孔質フィルムの150℃以上の融点を有するポリマーの層中に無機酸化物からなる無機微粒子Bが含まれ、無機微粒子Bの一部がポリオレフィン多孔質フィルムの150℃以上の融点を有するポリマーの層外に露出し、無機微粒子Bと無機微粒子Aが前記バインダーを介して結着されていることを特徴とする請求項9記載の電池用セパレータ。
【請求項11】
前記無機微粒子Bはポリオレフィン多孔質フィルムの150℃以上の融点を有するポリマーの層中に0.1〜10質量%含まれていることを特徴とする請求項10記載の電池用セパレータ。
【請求項12】
一般式(1)で示される前駆体が5〜30質量%、アルコールが2〜30質量%、無機微粒子Aが35〜90質量%の範囲の組成比であるスラリーをポリオレフィン多孔質フィルムの少なくとも一方の面に塗布した後、乾燥することで、耐熱層を形成する請求項11記載の電池用セパレータ。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれかに記載の電池用セパレータの製造方法。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれかに記載のセパレータを備えたリチウム電池。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2012−138188(P2012−138188A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−288156(P2010−288156)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]