説明

電池用電極及びその製造方法

【課題】複数の材料を使用することなく、かつ製造工程を複雑化せずに、電解液中のリチウムイオンの移動経路を広く確保できる電池用電極及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】電池用電極29’は、集電体22の表面に活物質を含む合剤層28’が形成されており、合剤層28’は、集電体22の表面に沿う方向の位置に応じて空隙率が異なる構成を有している。電池用電極の製造方法は、集電体22の表面に合剤を塗布して表面に凹凸を有する合剤層28を形成する工程と、合剤層28を加圧圧縮して合剤層28の表面を平坦にする工程を含む。かかる構成を有する電池用電極29’を用いた電池では、空隙率が低い第1の合剤層領域31に対して空隙率が高い第2の合剤層領域32から電解液を浸透させて電解液の拡散を図ることができ、入出力特性を向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、集電体の表面に活物質を含む合剤層が形成された電池用電極及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化等の環境問題の顕在化により、自動車からの二酸化炭素排出量の削減が求められており、電気エネルギーを動力とする電気自動車や、自動車の減速時に生じるエネルギーを回生し、動力の一部として利用するハイブリッド自動車の開発が急ピッチで進められている。例えば、電極におけるリチウムイオン(Liイオン)の吸蔵放出反応を利用したリチウムイオン二次電池は、自動車向けの二次電池として注目されている。リチウムイオン二次電池の特性、特に車載用リチウムイオン二次電池において重要となる入出力特性は、二次電池の充放電時にリチウムイオンを吸蔵放出する電極の性能に大きく依存する。
【0003】
高容量化を実現するために、たくさんのリチウムイオンを吸蔵放出する電極の形状として、集電体を構成する金属箔の表面に、活物質を含んだ合剤層を形成することが知られている。合剤層は、水や溶剤中に、活物質、導電材、バインダ樹脂等を希釈分散させ、スラリー状にしたものを、金属箔の表面に塗布・乾燥したのち、それをプレスで圧縮形成することが一般的である。
【0004】
車載用リチウムイオン二次電池の特性において、入出力特性のさらなる向上が望まれている。入出力特性向上には、電池の内部抵抗のさらなる減少が必要である。内部抵抗が発現する一因として、電解液中のリチウムイオンの拡散抵抗があげられる。拡散抵抗は電解液の粘度やリチウムイオンの移動経路の広さ等に依存する。電解液の粘度が小さく、移動経路が広いほど拡散抵抗は低下する。拡散抵抗が低下すれば、内部抵抗が減少し、結果として入出力特性が向上する。
【0005】
一般的に合剤層と金属箔の密着力を確保するためにプレスを行うが、プレス成型後の電極では、電極材料中の活物質・助剤・バインダがお互い密に詰まった状態になり、電解液中のリチウムイオンの移動経路が狭くなる、あるいは移動経路自体が無くなる。そのため、電極厚さ方向でみたとき、金属箔との界面から電極表面(合剤層の表面)までの移動経路の確保が課題である。
【0006】
例えば、特許文献1には、平均粒径の異なる活物質を使用し、合剤層内の材料同士の空隙率を調整することによって、リチウムイオンの移動経路の制御を行う技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−77542号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記した特許文献1の場合、合剤層内の材料同士の空隙率を調整するために、平均粒径毎の合剤スラリー材料を用意することと、それぞれを積層形成しなければいけないため、工程が増えるといった問題がある。
【0009】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、複数の合剤スラリー材料を使用することなく、かつ製造工程を複雑化せず、電解液中のリチウムイオンの移動経路を広く確保できる電池用電極及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願は、上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一例を挙げるならば、集電体の表面に活物質を含む合剤層が形成された電池用電極であって、合剤層は、集電体の表面に沿う方向の位置に応じて空隙率が異なることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本願発明によれば、空隙率が高い領域から空隙率が低い領域に電解液を拡散させることができる。したがって、合剤層全体に、電解液中のリチウムイオンの移動経路を広く確保でき、入出力特性の高い電池を得ることができる。なお、上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係わる電池用電極を用いた円筒形のリチウムイオン二次電池の一部を破断した状態の分解斜視図。
【図2】電池用電極を形成する工程を説明するフロー図。
【図3】プレス工程前の活物質の状態を説明する図。
【図4】プレス工程後の圧縮された活物質の状態を説明する図。
【図5】合剤層の塗工・乾燥工程を説明する図。
【図6】乾燥後の電池用電極の平面図。
【図7】図6のA−A’線断面図。
【図8】電池用電極をプレスする方法を説明する図。
【図9】本実施の形態における電池用電極の一例を断面で示す図。
【図10】本実施の形態における電池用電極の他の例を断面で示す図。
【図11】本実施の形態における電池用電極のさらに他の例を断面で示す図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[第1実施の形態]
次に、本発明に係わる電池用電極の第1の実施の形態について図面を用いて説明する。
【0014】
図1は、本実施の形態における電池用電極を用いた円筒形のリチウムイオン二次電池の一部を破断した状態の分解斜視図である。なお、本実施の形態では、円筒形電池の場合を例に説明するが、電池用電極の利用は、円筒形電池に限定されるものではなく、角形電池等の各種電池にも利用することができる。
【0015】
リチウムイオン二次電池は、図1に示すように、電池用電極である正極と負極の間にセパレータを介在させて捲回することにより構成された電極群8と、電極群8を収容する有底筒状の電池容器1と、電池容器1の上部開口を閉塞する上蓋部を有している。
【0016】
電極群8の電池用電極(正極と負極)は、集電体の両面に活物質を含む合剤層が形成されて構成されている。より具体的には、正極集電体14は、アルミニウム等からなる帯状の金属箔であり、その表面、すなわち、捲回内周面と捲回外周面の両面に正極合剤層16が形成されている。正極集電体14の捲回軸方向一方側(図1で上方に示される)の長辺部には、正極タブ12が複数設けられている。負極集電体15は、銅等からなる帯状の金属薄膜であり、その表面、すなわち、捲回内周面と捲回外周面の両面に負極合剤層17が形成されている。負極集電体15の捲回軸方向他方側(図2で下方に示される)の長辺部には、負極タブ13が複数設けられている。
【0017】
これら正極集電体14及び負極集電体15を、多孔質で絶縁性を有するセパレータ18を介して樹脂製の軸芯7の周囲に捲回し、最外周のセパレータ18をテープで止めて、電極群8を構成している。この際、軸芯7に接する最内周はセパレータ18であり、最外周は負極集電体15及び負極合剤層17を覆うセパレータ18である。
【0018】
管状の軸芯7の両端には、正極集電板5及び負極集電板6が嵌め合いによって固定されている。正極集電板5には正極タブ12が、例えば、超音波溶接法により溶接されている。同様に負極集電板6には負極タブ13が、例えば、超音波溶接法により溶接されている。
【0019】
負極の端子を兼ねる有底筒状の電池容器1の内部には、樹脂製の軸芯7を軸として捲回された電極群8に、正極集電板5及び負極集電板6が取り付けられて収納されている。この際、電解液も電池容器1内に注入される。また、電池容器1と上蓋ケース4との間にはガスケット2が設けられ、このガスケット2により電池容器1の開口部を封口するとともに電気的に絶縁する。
【0020】
正極集電板5の上には、電池容器1の開口部を封口するように設けられた電導性を有する上蓋部があり、上蓋部は上蓋3と上蓋ケース4からなる。上蓋ケース4に正極リード9の一方が溶接され、他方が正極集電板5に溶接されることによって上蓋部と電極群8の正極とが電気的に接続される。
【0021】
正極合剤層16は、正極活物質と、正極導電材と、正極バインダ樹脂とを有する。正極活物質としては、リチウム酸化物が好ましい。具体的には、コバルト酸リチウム、マンガン酸リチウム、ニッケル酸リチウム、リン酸鉄リチウム、リチウム複合酸化物(コバルト、ニッケル、マンガンから選ばれる2種類以上を含むリチウム酸化物)等が挙げられる。
【0022】
また、正極導電材は、正極合剤中におけるリチウムイオンの吸蔵放出反応で生じた電子の正極への伝達を補助できる物質であれば特に限定されることなく用いることができる。正極導電材の例として、黒鉛やアセチレンブラック等が挙げられる。
【0023】
さらに、正極バインダ樹脂は、正極活物質と正極導電材と正極集電体とを結着させることが可能であり、電解液との接触によって大幅に劣化しない樹脂であれば特に限定されない。正極バインダ樹脂の例としては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)やフッ素ゴム等が挙げられる。
【0024】
負極合剤層17は、通常、負極活物質と、負極バインダ樹脂と、増粘剤とを有する。なお、負極合剤層17は、場合によりアセチレンブラック等の負極導電材を有していても良い。負極活物質の例としては、グラファイト、ソフトカーボン、ハードカーボン等の炭素材料が挙げられる。負極バインダ樹脂としては、正極と同様にPVDF等を用いることができ、あるいはスチレン−ブタジエン共重合体ゴム(SBR)等も適用可能である。
【0025】
図2は、電池用電極を形成する工程を説明するフロー図である。
電池用電極29を形成するには、合剤を構成する物質と溶媒を混練して分散溶液を調製し、スラリー状にする(ステップS1)。そして、その合剤スラリーを集電体の表面に塗工し(ステップS2)、乾燥させる(ステップS3)。それから、プレスして加圧圧縮する(ステップS4)。
【0026】
分散溶液の溶媒としては、N−メチルピロリドン(NMP)や水等を用いることができる。塗布方法の例としては、スリットダイ塗工法、ロール塗工法等を挙げることができる。さらに、乾燥方法としては、熱風循環、赤外加熱、それらの混合方法等を挙げることができる。プレスの方法としては、一対の円柱状のプレスローラの間に電池用電極を挟み込んで通過させ、電池用電極を両面から加圧圧縮することが挙げられる。
【0027】
図3は、プレス工程前の活物質の状態を説明する図、図4は、プレス工程後の圧縮された活物質の状態を説明する図である。
【0028】
合剤スラリーの活物質には、図3に示すように、活物質の一次粒子20が疎に凝集した空隙率の高い二次粒子、すなわち、活物質として空隙を含む顆粒状の二次粒子19を用いる。このような活物質は、プレスにより加圧圧縮されると、図3に示す疎の状態から図4に示す密の状態に形状変化する特徴がある。プレス工程後は、図4に示すように、活物質の一次粒子20同士が密に接近した空隙率の低い二次粒子21となる。本実施の形態では、活物質の一次粒子20の平均粒子径(D50)は、1μm〜2μm、活物質の二次粒子21の平均粒子径は、9〜11μm、好ましくは10μmである。
【0029】
図5は、合剤層の塗工・乾燥工程を説明する図である。
集電体22は、帯状の金属箔からなり、図5に示すように、巻き出しローラ23に捲回された状態から送り出され、複数のガイドローラ25に案内されて、集電体22の表面に沿う方向に移動される。そして、スリットダイ24のスリットから合剤スラリーが吐出されて、集電体22の表面に塗布される。それから、ガイドローラ25によって乾燥炉26に案内され、乾燥路26内で合剤スラリーが乾燥される。そして、乾燥後の合剤層を有する電池用電極29として巻き取りローラ27にロール状に巻き取られる。合剤層は、集電体22の両面に形成される。
【0030】
スリットダイ24は、集電体22の表面に対向して配置されており、一定のスリット幅で集電体22の移動方向に直交する方向に延在するスリットを有している。スリットには、延在方向に所定間隔をおいてスリット幅が部分的に狭められている絞り箇所が設けられている。したがって、かかる絞り箇所に対応する位置における合剤スラリーの塗工膜厚を部分的に薄くすることができ、乾燥後、凸凹の断面形状をもった合剤層を有する電池用電極29を作りこむことができる。
【0031】
図6は、乾燥工程後の電池用電極の平面図、図7は、図6のA−A’線断面図である。
プレス工程前の電池用電極29は、上記塗布・乾燥工程によって、合剤層(乾燥後合剤層)28が、その表面に凹凸を有する。図6及び図7に示す例では、合剤層28は、集電体22の移動方向に直交する方向(幅方向)の断面が凹凸形状を有しており、集電体22の移動方向に直交する方向に所定間隔をおいて、凹部28aが形成されている。凹部28aは、スリットダイ24のスリット幅が狭められた絞り箇所によって合剤スラリーの吐出量が絞られて、塗工膜厚が部分的に薄くなることによって形成されている。
【0032】
なお、図6及び図7では、3本の凹部28aを示しているが、凹部28aの数は3本に限定されるものではなく、合剤層28の表面に凹凸を形成するものであればよく、例えば1本でもよく、また、3本以外の複数本でもよい。また、本実施の形態では、合剤層の厚さは50μm程度であるが、構成の理解を容易とするために、図7では、合剤層28の厚さを拡大して表している。後述する図9〜図11における合剤層の断面図についても同様に、厚さを拡大して表している。乾燥工程後の合剤層28は、その位置にかかわらず、すべて等しい空隙率を有している。
【0033】
なお、空隙率は、合剤層の体積A(空隙を含む体積)と材料の理論体積B(空隙を含まない体積)を用いて、下記の式(1)により求めることができる。
空隙率=(A−B)/A ・・・(1)
【0034】
合剤層の体積Aは、合剤層の面積とプレス後の合剤層厚さの積から求められる。そして、材料の理論体積Bは、塗工・乾燥された合剤層の重量にスラリー中の角材量の混合比(重量比)を掛けて、各材料の比重から、各材料の体積を計算して合算することにより求められる。
【0035】
図8は、電池用電極をプレスして合剤層を加圧圧縮する方法を説明する図である。
プレス工程では、合剤層28の表面が凹凸を有する状態からフラット(平坦)になるように加圧圧縮される。例えば、図8に示すように、外周面が平坦な一対の円柱状のプレスローラ(金属ローラ)30の間に電池用電極29を挟み込んで通過させることによって、合剤層28をプレスする。
【0036】
図9は、本実施の形態における電池用電極の一例を断面で示す図であり、図9(a)は、プレス工程前の断面図、図9(b)は、プレス工程後の断面図である。
【0037】
電池用電極29は、図9(a)に示すように、その後のプレス工程により、一対のプレスローラ30の間に挟み込まれ、合剤層28が厚さ方向に加圧圧縮される。そして、図9(b)に示すように、プレス工程後の合剤層28’の表面は、フラットな面とされる。
【0038】
プレス工程前の合剤層28の表面のうち、凹部28a以外の凸部28bはプレス時に高圧縮され、その結果、空隙率の低い第1の合剤層領域31が形成される。そして、凹部28aは、凸部28bよりも塗工膜厚が薄いので、プレス時に、凸部28bよりも圧縮される量が少なく、空隙率の高い第2の合剤層領域32が形成される。
【0039】
したがって、プレス工程後の合剤層28’は、第1の合剤層領域31と第2の合剤層領域32との間で、空隙率に差が発生し、集電体22の表面に沿う方向の位置に応じて空隙率が異なる構成となる。ここでは、図9(b)に示すように、空隙率が互いに異なる複数の領域として第1の合剤層領域31と第2の合剤層領域32が集電体22の幅方向に順番に交互に配置されている。これにより、合剤層の空隙率の異なる領域を面内で交互に持たせる電極構造ができる。
【0040】
プレス工程後の電池用電極29’は、空隙率の低い第1の合剤層領域31によって集電体22と合剤層28’との密着性を確保するとともに、空隙率の高い第2の合剤層領域32によってより多くの電解液を保液することができる。したがって、合剤層28’の表面から集電体22の界面まで合剤層28’の厚さ方向に亘って、電解液中のリチウムイオンの移動経路を確保でき、その移動抵抗を小さくすることができる。
【0041】
例えば、各第2の合剤層領域32の幅方向の配置間隔が、合剤層すべてが空隙率の低い状態に比べて、少なくとも合剤層の厚さの10倍未満であれば、電解液の移動効果が期待でき、特に、第2の合剤層領域32の配置間隔が合剤層厚さの1倍以上2倍未満であることが好ましい。
【0042】
上記の配置間隔に設定することによって、空隙率の低い第1の合剤層領域31が大半を占める合剤層中に、空隙率の高い第2の合剤層領域32を適度に配置することができ、第1の合剤層領域31に対して、合剤層の表面からだけでなく、集電体22の幅方向両側の第2の合剤層領域32からも電解液を供給して拡散させることができる。
【0043】
したがって、合剤層28’の全体に亘って、リチウムイオンの移動経路を広く形成することができる。したがって、リチウムイオン二次電池の内部抵抗を低くすることができ、高い入出力特性および品質を実現できる。また、第2の合剤層領域32の配置間隔を合剤層厚さの1倍以上とすることによって、合剤層28’と集電体22との密着性を十分に確保することができる。
【0044】
上記した構成を有する電池用電極29’によれば、材料・工数を増加させることなく、集電体の表面に沿う方向の位置に応じて空隙率が異なる合剤層領域31、32を簡単に形成することができ、入出力特性が向上した電池を提供することができる。
【0045】
[第2実施の形態]
次に、本発明に係わる電池用電極の第2の実施の形態について説明する。なお、上述の第1実施の形態と同様の構成要素には同一の符号を付することでその詳細な説明を省略する。
【0046】
図10は、本実施の形態における電池用電極の一例を断面で示す図であり、図10(a)は、プレス工程前の断面図、図10(b)は、プレス工程後の断面図である。
【0047】
本実施の形態において特徴的なことは、塗工・乾燥工程で表面が平坦な合剤層を形成し、プレス工程で合剤層を加圧圧縮して合剤層の表面に凹凸を形成し、凹部を空隙率の低い第1の合剤層領域とし、凸部を空隙率の高い第2の合剤層領域としたことである。
【0048】
プレス工程前の電池用電極129は、合剤層128の表面128aが平坦に形成されている。表面128aが平坦な合剤層128は、一定速度で移動される集電体22の表面に対して、スリット幅が一定のスリットダイ24から合剤スラリーを吐出させることによって形成される。
【0049】
電池用電極129は、図10(a)に示すように、プレス工程により、一対のプレスローラ130の間に挟み込まれ、合剤層128が厚さ方向に加圧圧縮される。プレスローラ130は、円柱状の金属ローラからなり、その外周面130bには、周方向に沿って延在する凹溝130aが設けられており、軸方向に所定間隔をおいて複数本が設けられている。
【0050】
したがって、図10(b)に示すように、プレス工程後の合剤層128’の表面は、凹凸を有する面とされ、集電体22の幅方向に所定間隔をおいて凸部132が形成される。
【0051】
プレス工程前の合剤層128の表面のうち、プレスローラ130の外周面130bによって加圧圧縮される凹部131は、プレス時に高圧縮され、その結果、空隙率の低い第1の合剤層領域131が形成される。
【0052】
そして、プレスローラ130の凹溝130aによって加圧圧縮される凸部132は、凹溝130aの溝深さ分だけ、プレスローラ130の外周面130bよりも圧縮量が少なく、空隙率の高い第2の合剤層領域132が形成される。
【0053】
したがって、プレス工程後の合剤層128’は、第1の合剤層領域131と第2の合剤層領域132との間で、空隙率に差が発生し、集電体22の表面に沿う方向の位置に応じて空隙率が異なる構成となる。ここでは、図10(b)に示すように、空隙率が互いに異なる複数の領域として第1の合剤層領域131と第2の合剤層領域132が集電体22の幅方向に順番に交互に配置されている。これにより、合剤層の空隙率の異なる領域を面内で交互に持たせる電極構造ができる。
【0054】
電池用電極129’は、空隙率の低い第1の合剤層領域131によって集電体22と合剤層128’との密着性を確保するとともに、空隙率の高い第2の合剤層領域132によってより多くの電解液を保液することができる。したがって、合剤層128’の表面から集電体22の界面まで合剤層128’の厚さ方向に亘って、電解液中のリチウムイオンの移動経路を確保でき、その移動抵抗を小さくすることができる。
【0055】
したがって、空隙率の低い第1の合剤層領域131が大半を占める合剤層中に、空隙率の高い第2の合剤層領域132を適度に配置することによって、第1の合剤層領域131に対して、合剤層128’の表面からだけでなく、集電体22の幅方向両側の第2の合剤層領域132からも電解液を供給して拡散させることができる。
【0056】
したがって、合剤層128’の全体に亘って、リチウムイオンの移動経路を広く形成することができる。したがって、リチウムイオン二次電池の内部抵抗を低くすることができ、高い入出力特性および品質を実現できる。
【0057】
そして、各第2の合剤層領域132の配置間隔が、合剤層すべてが空隙率の低い状態に比べて、少なくとも合剤層の厚さの10倍未満であれば、電解液の移動効果が期待でき、特に、第2の合剤層領域132の配置間隔が合剤層厚さの2倍未満であることが好ましい。また、第2の合剤層領域132の配置間隔を合剤層厚さの1倍以上とすることによって、合剤層128’と集電体22との密着性を十分に確保することができる。
【0058】
[第3実施の形態]
次に、本発明に係わる電池用電極の第3の実施の形態について説明する。なお、上述の各実施の形態と同様の構成要素には同一の符号を付することでその詳細な説明を省略する。
【0059】
図11は、本実施の形態における電池用電極の一例を断面で示す図であり、図11(a)は、プレス工程前の断面図、図11(b)は、プレス工程後の断面図である。
【0060】
本実施の形態において特徴的なことは、塗工・乾燥工程で表面が平坦な合剤層を形成し、プレス工程で合剤層を加圧圧縮して合剤層の表面に断面が複数の連続した山形からなる鋸歯状の凹凸を形成し、頂上で空隙率が最も高くなり、谷底で空隙率が最も低くなるようにしたことである。
【0061】
プレス工程前の電池用電極229は、合剤層228の表面228aが平坦に形成されている。表面228aが平坦な合剤層228は、一定速度で移動される集電体22の表面に対して、スリット幅が一定のスリットダイ24から合剤スラリーを吐出させることによって形成される。
【0062】
電池用電極229は、図11(a)に示すように、プレス工程により、一対のプレスローラ230の間に挟み込まれ、合剤層228が厚さ方向に加圧圧縮される。プレスローラ230は、円柱状の金属ローラからなり、その外周面230aは、軸方向に所定間隔をおいて大径部230bと小径部230cとが交互に配置された蛇腹形状を有するように形成されている。
【0063】
したがって、プレス工程後の合剤層228’の表面は、凹凸を有する面とされ、具体的には、図11(b)に示すように、集電体22の幅方向に山折りと谷折りが交互に連続する蛇腹折り形状を有する。
【0064】
プレス工程前の合剤層228の表面のうち、プレスローラ130の大径部230b側で加圧圧縮されて形成された谷折り領域はプレス時に高圧縮され、その結果、空隙率の低い第1の合剤層領域231が形成される。
【0065】
そして、プレスローラ130の小径部230c側で加圧圧縮されて形成された山折り領域は、谷折り領域よりも圧縮量が少なく、空隙率の高い第2の合剤層領域232が形成される。
【0066】
したがって、プレス工程後の合剤層228’は、第1の合剤層領域231と第2の合剤層領域232との間で、空隙率に差が発生し、集電体22の表面に沿う方向の位置に応じて空隙率が異なる構成となる。ここでは、図11(b)に示すように、空隙率が互いに異なる複数の領域として第1の合剤層領域231と第2の合剤層領域232が集電体22の幅方向に順番に交互に配置されている。これにより、合剤層の空隙率の異なる領域を面内で交互に持たせる電極構造ができ、合剤層228’の空隙率を集電体22の幅方向に連続的に変化させたものになる。
【0067】
電池用電極229’は、空隙率の低い第1の合剤層領域231によって集電体22と合剤層228’との密着性を確保するとともに、空隙率の高い第2の合剤層領域232によってより多くの電解液を保液することができる。したがって、合剤層228’の表面から集電体22の界面まで合剤層228’の厚さ方向に亘って、電解液中のリチウムイオンの移動経路を確保でき、その移動抵抗を小さくすることができる。
【0068】
したがって、空隙率の低い第1の合剤層領域231が大半を占める合剤層中に、空隙率の高い第2の合剤層領域232を適度に配置することによって、第1の合剤層領域231に対して、合剤層228’の表面からだけでなく、集電体22の幅方向両側の第2の合剤層領域232からも電解液を供給して拡散させることができる。
【0069】
したがって、合剤層228’の全体に亘って、リチウムイオンの移動経路を広く形成することができる。したがって、リチウムイオン二次電池の内部抵抗を低くすることができ、高い入出力特性および品質を実現できる。
【0070】
以上、本発明の各実施の形態について詳述したが、本発明は、上述の実施形態の構成に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、種々の設計変更を行うことができるものである。例えば、前記した各実施の形態では、リチウムイオン二次電池の電極の例を示したが、リチウム電池等の一次電池の電極や、ニッケル水素二次電池の電極にも使用できる。また、リチウム電池に限られるものでなく、他の一次電池や二次電池の電極として使用できることは勿論である。
【符号の説明】
【0071】
1 電池容器
8 電極群
14 正極集電体
15 負極集電体
16 正極合剤層
17 負極合剤層
18 セパレータ
19 活物質
22 集電体
24 スリットダイ
26 乾燥炉
28、28’ 合剤層
29、29’ 電池用電極
30 プレスローラ
31 第1の合剤層領域
32 第2の合剤層領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電体の表面に活物質を含む合剤層が形成された電池用電極であって、
前記合剤層は、前記集電体の表面に沿う方向の位置に応じて空隙率が異なる構成を有することを特徴とする電池用電極。
【請求項2】
前記合剤層は、空隙率が互いに異なる複数の領域を有することを特徴とする請求項1に記載の電池用電極。
【請求項3】
前記集電体は、帯状の金属箔からなり、
前記合剤層は、前記集電体の幅方向に前記複数の領域が配置されていることを特徴とする請求項2に記載の電池用電極。
【請求項4】
前記合剤層は、第1の合剤層領域と、該第1の合剤層領域よりも空隙率が低い第2の合剤層領域を有しており、前記第1の合剤層領域と前記第2の合剤層領域が前記金属箔の幅方向に交互に配置されていることを特徴とする請求項3に記載の電池用電極。
【請求項5】
前記合剤層は、前記第2の合剤層領域の配置間隔が前記合剤層の厚さの1倍以上10倍未満であることを特徴とする請求項4に記載の電池用電極。
【請求項6】
前記合剤層は、断面が凹凸形状を有しており、凹部の空隙率と凸部の空隙率が異なることを特徴とする請求項1に記載の電池用電極。
【請求項7】
前記合剤層は、前記凸部の空隙率が前記凹部の空隙率よりも高いことを特徴とする請求項6に記載の電池用電極。
【請求項8】
集電体の表面に活物質を含む合剤を塗布して表面に凹凸を有する合剤層を形成する工程と、
前記合剤層を加圧圧縮して前記合剤層の表面を平坦にする工程と、
を含むことを特徴とする電池用電極の製造方法。
【請求項9】
前記表面に凹凸を有する合剤層を形成する工程では、前記集電体を該集電体の表面に沿う方向に移動させ、前記集電体の表面に対向して配置されて前記集電体の移動方向に直交する方向に延在しかつ延在方向に所定間隔をおいてスリット幅が狭められているスリットダイから前記合剤を含む合剤スラリーを吐出させ、
前記合剤層の表面を平坦にする工程では、外周面が平坦な一対のローラの間に前記集電板と前記合剤層を挟み込んで通過させることを特徴とする請求項8に記載の電池用電極の製造方法。
【請求項10】
集電体の表面に活物質を含む合剤を塗布して表面が平坦な合剤層を形成する工程と、
前記合剤層を加圧圧縮して前記合剤層の表面に凹凸を形成する工程と、
を含むことを特徴とする電池用電極の製造方法。
【請求項11】
前記表面が平坦な合剤層を形成する工程では、前記集電体を該集電体の表面に沿う方向に移動させ、前記集電体の表面に対向して配置されて前記集電体の移動方向に直交する方向に一定のスリット幅で延在するスリットダイから前記合剤を含む合剤スラリーを吐出させ、
前記合剤層の表面に凹凸を形成する工程では、外周面に凹凸を有する一対のローラの間に前記集電板と前記合剤層を挟み込んで通過させることを特徴とする請求項10に記載の電池用電極の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−8523(P2013−8523A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−139665(P2011−139665)
【出願日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【出願人】(505083999)日立ビークルエナジー株式会社 (438)
【Fターム(参考)】