説明

電池電極の製造方法

【課題】 正極や負極とセパレータとの密着性がよくなかった。
【解決手段】 負極の活物質層aの塗料12と、セパレータ層の塗料3と、正極の活物質層bの塗料13とを、同一のノズル10および11の異なるスリット102〜116から吐出させて、実質上同時に、負極の活物質層a14、セパレータ層4、正極の活物質層b15の順に、基板17両面の上に塗布する。そのさい、各塗料の粘度を、せん断速度1(1/sec)において10〜1000(Poise)の範囲であってかつ、せん断速度100(1/sec)において100(Poise)以下とする。また、負極および正極の活物質層の塗料の粘度をA、セパレータ層の塗料の粘度をBとしたとき、AおよびBが0.1≦A/B≦80の関係を満たすようにする。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、非水電解質電池に使用される電池電極の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】ポリマー電解質二次電池は、正極と負極とを有し、かつそれらの間にセパレータを有している。正極および負極それぞれは、正極または負極の活物質と、非水電解液と、この電解液を保持するポリマーとを含む塗料を所定の集電体上に塗布しその後乾燥して形成し、他方セパレータは、非水電解液およびこの電解液を保持するポリマーを含む塗料を所定の基材上に塗布して乾燥し、その後基材を取り除いて形成する。なお、正極に対応する集電体として例えばアルミニウムの集電体があり、他方負極に対応する集電体として例えば銅の集電体がある。さて、このように別々に形成した正極、負極およびセパレータから電池電極を製造する製造方法としては、例えば特開平9−500485で開示されているように、正極とセパレータと負極とを2つのロールの間に挟み込んで加圧、加熱し、熱融着させる方法がある。これにより一体化した正極、負極、セパレータからなるポリマー電解質二次電池を製造する。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】ところで、正極および負極の表面は平滑性が要求されるが、多数の孔を有するラスメタルと呼ばれる集電体の上に正極や負極の塗料を塗布することと、その後乾燥工程を経ることとによって、正極および負極の表面には、通常数十ミクロンの凹凸が生じる。この上にセパレータを熱融着させると、極板の凸部に対してはセパレータの密着性は良好であるが、凹部に対しては密着性が弱いか、密着されずに隙間が生じてしまう場合がある。隙間は電解液が存在しない空間となってしまうため、リチウムイオン等の正極活物質イオンの移動が不可能となり、このようなポリマー電解質二次電池で充放電を行うと、電池容量が小さくなるとか、サイクル特性が劣化するなどの、致命的な問題が生じる。また、正極や負極を製造するとき、上述したように集電体の上に活物質層を塗布形成した後乾燥するのであるが、乾燥後の膜厚が100ミクロンオーダーと厚いため、いわゆるマイグレーションが生じて溶媒の蒸発に伴ってバインダーであるポリマーが表層に集まる。その結果、表層部の活物質量が相対的に少なくなり、電池容量の低下やサイクル特性の劣化を招く。さらに集電体近傍にはバインダーであるポリマー量が少なくなり、集電体と活物質層の密着強度が弱くなる。その結果、特にサイクル特性が劣化する。さらに、正極と負極とセパレータを個別に作成した後、重ね合わせて電池電極を製造するため、重ね合わせる工程で異物などが混入し、その異物がセパレータ層を突き破ることで、ショート不良の原因ともなっていた。
【0004】本発明は、正極および負極の少なくとも一方とセパレータとを確実に密着させ、またバインダーであるポリマーを活物質層内部に実質上均一に分散させ、さらにショート不良などの発生を抑制する電池電極の製造方法を提供することを目的とするものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】第1の本発明(請求項1に対応)は、正極の活物質層と負極の活物質層とを有し、かつそれら2つの活物質層間にセパレータ層を有する電池電極の製造方法であって、前記セパレータ層の塗料と、前記正極の活物質層の塗料および/または前記負極の活物質層の塗料とを、いずれの塗料も実質上乾燥させずに、前記正極の活物質層、前記セパレータ層、前記負極の活物質層の順に、または前記負極の活物質層、前記セパレータ層、前記正極の活物質層の順に、所定の基材の上に塗布することを特徴とする電池電極の製造方法である。
【0006】第2の本発明(請求項11に対応)は、正極の活物質層と負極の活物質層とを有し、かつそれら2つの活物質層間にセパレータ層を有する電池電極の製造方法であって、所定の基材の上に予め前記正極もしくは前記負極の活物質層または前記セパレータ層が設けられた積層材の、前記活物質層または前記セパレータ層の上に、前記予め設けられた層が前記正極もしくは前記負極の活物質層である場合には、前記セパレータ層の塗料を塗布し、前記予め設けられた層が前記セパレータ層である場合には、前記正極もしくは前記負極の活物質層の塗料を塗布することを特徴とする電池電極の製造方法である。
【0007】
【発明の実施の形態】以下に、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0008】(実施の形態1)先ず、本発明の実施の形態1の電池電極の製造方法を述べる。
【0009】図1に、本発明の実施の形態1の電池電極の製造方法に用いる塗布装置の概略構成図を示す。10および11はノズルで、ノズル10は、マニホールド101、103および105と、スリット102、104および106とを備えており、マニホールド101はスリット102と、マニホールド103はスリット104と、マニホールド105はスリット106と、それぞれ連通している。同様に、ノズル11は、マニホールド111、113および115と、スリット112、114および116とを備えており、マニホールド111はスリット112と、マニホールド113はスリット114と、マニホールド115はスリット116と、それぞれ連通している。
【0010】さて、図示していないが定量ポンプにより、負極の活物質層aの塗料12をマニホールド101および111へ供給し、セパレータ層の塗料3をマニホールド103および113へ供給し、正極の活物質層bの塗料13をマニホールド105および115へ供給する。そして、マニホールド101、111に連通しているスリット102、112から負極の活物質層aの塗料12を押し出し、マニホールド103、113に連通しているスリット104、114からセパレータ層の塗料3を押し出し、マニホールド105、115に連通しているスリット106、116から正極の活物質層bの塗料13を押し出して、基材17の両面側に、負極の活物質層aの塗料12、セパレータ層の塗料3、正極の活物質層bの塗料13を、負極、セパレータ、正極の順に塗布する。
【0011】なお以下では、同一のノズルの異なるスリットから、負極の活物質層の塗料および/または正極の活物質層の塗料と、セパレータ層の塗料とを、基材や集電体の上に、正極の活物質層、セパレータ層、負極の活物質層の順に、または負極の活物質層、セパレータ層、正極の活物質層の順に塗布することを、「同時に塗布する」と表現することにする。また、基材17は、図1において、下側から上側に順に移動し、ノズル10および11と対向する位置で、上述した負極、セパレータおよび正極の各層の塗料が塗布される。
【0012】この後、図示していないが乾燥工程を経て巻き取られる。なお、乾燥後の厚みが、正極および負極が20〜500μmの範囲、セパレータ層が5〜50μmの範囲となるように乾燥する。塗布時(ウエットにおける)各層の厚みを、乾燥後の厚みの2〜10倍程度となるようにし、熱風式や赤外線式等の乾燥方法を用いると、乾燥後の厚みが、正極および負極が20〜500μmの範囲に、セパレータ層が5〜50μmの範囲に、それぞれおさまる。
【0013】なお、本実施の形態では、図1を用いて説明したように、負極の活物質層aの塗料12と、セパレータ層の塗料3と、正極の活物質層bの塗料13とを、同時に基材17に塗布する場合を例にとって電池電極の製造方法を説明したが、請求項1の本発明の電池電極の製造方法は、セパレータ層と、少なくとも正極もしくは負極の何れか1層を選択して、基材または集電体へ、例えば同時に、いずれの塗料も実質上乾燥させずに、2層以上塗布するものである。従って、図2に示すように、基材17の片面側に正極層、セパレータ層、負極層を同時に塗布する方法、あるいは図5に示すように集電体5の両面に選択した一つの活物質層6とセパレータ層4の2層を同時に塗布する方法も、請求項1の本発明の電池電極の製造方法に含まれる。また、基材または集電体の片面に、選択した一つの活物質層とセパレータ層の2層を同時に塗布する方法も、請求項1の本発明の電池電極の製造方法に含まれる。ただし、集電体の片面に活物質層とセパレータ層の2層を塗布する場合、集電体の上に活物質層を先ず塗布することになる。また、図示していないが基材の上に下層として例えば負極の活物質層を塗布した後に、所定の時間間隔を置いて、セパレータ層を、またはセパレータ層と正極の活物質層とを順に、塗布する方法も、請求項1の本発明の電池電極の製造方法に含まれる。要するに、請求項1の本発明の電池電極の製造方法は、セパレータ層の塗料と、正極の活物質層の塗料および/または負極の活物質層の塗料とを、いずれの塗料も実質上乾燥させずに、正極の活物質層、セパレータ層、負極の活物質層の順に、または負極の活物質層、セパレータ層、正極の活物質層の順に、所定の基材の上に塗布するというものである。なお、ここでいう所定の基材は、集電体であってもよいし、集電体でなくてもよい。
【0014】ノズル10および/または11の先端形状は、各塗料の粘度や塗布層の厚みに応じて、長さや、厚みなどを最適化したものを用いる。またノズル10および/または11の先端形状は、図示していないが曲面形状や多角形の複合化した形状でもよい。また塗布層の厚みに応じて、図1に示すように、各スリットの先端の高さに段差を設けてもよい。
【0015】正極の塗料組成には、活物質とポリマーとが含まれる。活物質としては、LiCoO2、LiNiO2、LiMn24、リチウムを含む非晶質五酸化バナジウムなどや、二流化チタンや二流化モリブデンなどのカルコゲン化合物を用いることができる。ポリマーとしては、ポリエチレンオキサイド系、ポリプロピレンオキサイド系、ポリクリルニトリル系、ビニリデンフロライドとヒキサフルオロプロピレンとの共重合体などを用いることができる。この他に、正極の塗料には溶媒と添加剤、電解液などを必要に応じて加える。
【0016】他方、負極の塗料組成にも、活物質とポリマーとが含まれる。活物質としては、リチウムイオンを吸蔵・放出する炭素材料、例えば人造グラファイト、天然グラファイトなどを用いることができる。また、負極の塗料には溶媒と添加剤、電解液などを必要に応じて加える。ポリマーや、溶媒や、添加物や電解液などは、正極の塗料に含まれるものと同様のものを適時選択して用いる。
【0017】セパレータの塗料組成は、上記ポリマーを主として、シリカなどのフィラー、溶媒、添加剤、電解液などを適時選択し混合したものである。
【0018】以下に、本実施の形態の特徴を順に説明する。
【0019】第1の特徴は、正極および負極の活物質層の塗料と、セパレータ層の塗料の粘度の範囲にある。活物質層およびセパレータ層の塗料の粘度を検討した結果、両者の粘度は、少なくともせん断速度1(1/sec)において10〜1000(Poise)の範囲であること、さらにせん断速度100(1/sec)において100(Poise)以下であることである。せん断速度1(1/sec)における塗料の粘度が10(Poise)よりも小さいと、隣り合う層の塗料が混ざり合い、2層もしくは3層構造が形成できない。また粘度が1000(Poise)よりも大きいと、最上層におけるレベリング性が悪く、最上層の表面が平坦にならない。この結果、3層構造であれば、最上層の上に集電体を密着させたさい、活物質層の凹凸部によって集電体との間に隙間が生じ、電池容量の低下やサイクル特性の劣化などを招く。また2層構造であれば、最上層となるセパレータ層の上に例えば正極の層を従来と同様にして加圧して融着させようとすると、セパレータ層の凹凸によって正極の層との間に隙間が生じ、やはり電池容量の低下やサイクル特性の劣化などを招く。また、せん断速度100(1/sec)における正極および負極とセパレータの各塗料の粘度が100(Poise)以下であることも重要である。この範囲内であれば、所定の厚みで2層もしくは3層構造を塗布形成することができる。
【0020】第2の特徴は、活物質層の塗料の粘度をA、セパレータ層の塗料の粘度をBとしたとき、AおよびBが0.1≦A/B≦80の関係を満たすことである。上記第1の塗料の粘度範囲を満たしかつ、この範囲とすることで、安定した同時多層塗布ができ、さらに、2層もしくは3層が形成され、乾燥工程を通過中に、各層が混じり合うことを抑制できる。
【0021】第3の特徴は、乾燥後のセパレータ層の厚みをt1、活物質層の厚みをt2としたとき、t1およびt2が0.05≦t1/t2≦1の関係を満たし、かつ、t1≧5μm、t2≧20μmを満たすように乾燥することである。上記の粘度範囲と、t1とt2の厚み比には密接な関係があることが、本発明者の検討により判明した。前記範囲内では、電池電極用として用いる比較的高い粘度の塗料に対して、良好な同時多層塗布が可能である。範囲外では、各層の間で、乱れが生じて厚みを均一化できないかもしくは塗布できなくなる。なお、塗布時(ウエットにおける)各層の厚みを、乾燥後の厚みの2〜10倍程度となるようにし、熱風式や赤外線式等の乾燥方法を用いると、0.05≦t1/t2≦1の関係と、t1≧5μmと、t2≧20μmとを満たすことができる。
【0022】第4の特徴は、活物質層とセパレータ層とを同時に塗布形成するため、従来の製造方法で示された、極板とセパレータの熱融着が不要であるばかりでなく、極板の圧延も不要となることである。また、乾燥後の活物質層内の活物質の密度が1.2(g/cm3)以上となるように乾燥することが重要である。この範囲よりも密度が小さいと、極板としての容量が小さすぎて、二次電池用極板として機能しなくなる。さらに、同時に多層塗布し乾燥する過程で、活物質層の密度が小さすぎて、セパレータ層が活物質層にしみ込んで吸収され、存在しなくなる。その結果、電池として機能しなくなる。なお、乾燥後の活物質層内の活物質の密度を1.2(g/cm3)以上にするための方法として、例えば活物質層の塗料内の活物質の密度を1.1〜1.2(g/cm3)にしておき、熱風式や赤外線式等の乾燥方法を用いる。
【0023】第5の特徴は、同時に多層塗布することで、従来発生していた乾燥工程におけるマイグレーションを抑制できることである。集電体の上に活物質層を単層で塗布形成した従来の場合、乾燥工程において、溶媒が蒸発する過程でバインダーであるポリマーも表層部分に移動し、集電体側におけるポリマー量が相対的に少なくなる。この結果、従来の製造方法では集電体と活物資層の密着強度が弱くなりすぎて、活物質層の脱落やサイクル特性の低下などの致命的問題が生じていた。それに対して、本実施の形態において説明したように、同時に多層を塗布形成すると、セパレータ層が活物質層に含まれるバインダーの移動を阻害するのでマイグレーションの発生を抑制できる。その結果、集電体と活物質層の密着強度は高く、さらにサイクル特性も格段に向上させることができる。
【0024】次に、上述した3層を同時に塗布して製造した極板を用いて二次電池を作成し、評価を行った。以下に、詳細な製造方法と、評価結果について説明する。
【0025】正極塗料として、LiCoO2と、ポリマーと、溶媒とからなるからなるものを用いた。乾燥後の正極活物質層の密度は1.4(g/cm3)である。負極塗料として、グラファイトとポリマー、溶媒からなるものを用いた。乾燥後の負極活物資層の密度も1.4(g/cm3)である。セパレータ塗料は、ポリマーとシリカと溶媒を主成分とした。それぞれの塗料粘度を変更して、各種塗料粘度に対する塗布の状態を検討した。その結果、(表1)および(表2)に示すように、上記した本実施の形態の範囲内であれば、良好な塗布が可能であることが判明した。なお、各表における結果の欄に記述した「○」印は塗布が良好に行われたことを示す。また、「△」印は「○」には劣るが不良ではないことを示す。ここで、(表1)における、上から5番目に記述した、活物質層の塗料粘度Aが1200(Poise)であって、セパレータ層の塗料粘度Bが150(Poise)である場合の結果「塗布乱れでNG」と、一番下に記述した、活物質層の塗料粘度Aが1000(Poise)であって、セパレータ層の塗料粘度Bが10(Poise)である場合の結果「塗布乱れでNG」と、について説明する。先ず上から5番目に記述した「塗布乱れでNG」の意味であるが、実質上使用不可という意味である。それに対して、一番下に記述した「塗布乱れでNG」の意味であるが、ここではあえて「NG」というように記述したが、「△」よりもやや劣るという意味であって、使用不可という意味ではない。ところで、「△」よりもやや劣るということの理由であるが、第2の特徴を説明するさいに記述した条件「0.1≦A/B≦80」を満たしていないことによるものと考える。
【0026】
【表1】


【0027】
【表2】


【0028】また、上述したものとは異なり、正極および負極塗料粘度を、せん断速度1(1/sec)において650(Poise)、せん断速度100(1/sec)において15(Poise)とし、セパレータ塗料を、せん断速度1(1/sec)において150(Poise)、せん断速度100(1/sec)において2(Poise)として、正極層、負極層およびセパレータ層の各厚みを変更し、各種厚み構成に対する塗布状態を検討した。その結果、(表3)に示すように、上記した本実施の形態の範囲内であれば、良好な塗布が可能であることが判明した。
【0029】
【表3】


【0030】なお、評価するために作成した極板は、図1R>1で示したように、ノズル10、11で3層同時に塗布形成した。ノズル10、11の先端形状は、フラットで、塗布厚みに応じて段差を設けた。
【0031】さらに、上述した方法により3層を同時に塗布した極板を所定の寸法である幅35mm、長さ50mmに裁断して二次電池を作成し、放電容量とサイクル特性について評価を行った。なお、その3層同時塗布したものを実施例1とする。また、比較例として、従来の製造方法で、前記寸法の二次電池を作成したものを用いた。
【0032】(1)放電容量室温において、一定電流、終止電圧4.2Vで充電を完了した二次電池を一定電流で放電して、放電開始から低下する電圧が終止電圧2Vに達したときの放電容量で比較した。本実施例では図6に示すように、放電容量の低下が小さいことがわかった。これは、正負極層とセパレータ層を同時に多層塗布しているために、両者の間に隙間が全くなくかつ密着性が良いためである。
【0033】(2)サイクル特性室温において、一定条件で充放電を繰り返して放電容量を測定し、比較した。図7に示すように、本実施例では比較例に比べて明らかに容量の低下が小さい。これは、正負極層とセパレータ層を同時に多層塗布しているために、両者の間に隙間が全くなくかつ密着性が良いためである。また、マイグレーションを抑制することができ、そのため正極や負極の表層におけるポリマーの分布が実質上均一になったので、集電体と正極または負極の密着性が高くなり、剥離しにくくなったことも、サイクル特性がアップした理由の一つである。
【0034】このように、セパレータ層と極板との密着性が良好であり、さらに両者の間に隙間を生じさせず、極板内に電解液を実質上均一に存在させることができるため、リチウムイオンの移動が可能となるので、ポリマー電解質二次電池の電池容量やサイクル特性を向上させることができ、さらに製品のコストダウンを達成することができる。
【0035】以上のようにポリマー電池などの二次電池極板の製造方法において、請求項1および2の基発明の製造方法の効果を確認することができた。
【0036】なお、上述した実施の形態1では、図1の基材17の上に負極の活物質層aの塗料12を塗布するとしたが、図1における負極の活物質層aの塗料12と正極の活物質層bの塗料13とを入れ替えて、基材17の上に正極の活物質層bの塗料13を塗布してもよい。また、図1では基材17を用いたが、図1における基材17を、集電体に置き換えてもよい。ただしその場合、集電体のすぐ上に塗布する塗料が負極の活物質層aの塗料12であれば、負極層に対応する例えば銅の集電体を用いる必要があり、他方、集電体のすぐ上に塗布する塗料が正極の活物質層bの塗料13であれば、正極層に対応する例えばアルミニウムの集電体を用いる必要がある。
【0037】(実施の形態2)次に、本発明の実施の形態2の電池電極の製造方法を述べる。
【0038】図2に、本発明の実施の形態2の電池電極の製造方法に用いる塗布装置の概略構成図を示す。10はノズルで、図示していないが定量ポンプにより、負極の活物質層aの塗料12をマニホールド101へ供給し、セパレータ層の塗料3をマニホールド103へ供給し、正極の活物質層bの塗料13をマニホールド105へ供給する。そして、実施の形態1で説明したようにして、スリット102、104および106から、負極の活物質層aの塗料12、セパレータ層の塗料3、および正極の活物質層bの塗料13をそれぞれ押し出して、基材17の片側の面に、負極の活物質層a14、セパレータ層4、正極の活物質層b15、を同時に塗布形成する。
【0039】なお、基材17は、図2において、矢印の向き、つまり時計回りに移動し、ノズル10と対向する位置で、上述した負極、セパレータおよび正極の各層の塗料が塗布される。
【0040】この後、図示していないが乾燥工程を経て巻き取られる。なお、乾燥後の厚みが、正極および負極が20〜500μmの範囲、セパレータ層が5〜50μmの範囲となるように乾燥する。塗布時(ウエットにおける)各層の厚みを、乾燥後の厚みの2〜10倍程度となるようにし、熱風式や赤外線式等の乾燥方法を用いると、乾燥後の厚みが、正極および負極が20〜500μmの範囲に、セパレータ層が5〜50μmの範囲に、それぞれおさまる。
【0041】なお、本実施の形態では、図2を用いて説明したように、負極の活物質層aの塗料12と、セパレータ層の塗料3と、正極の活物質層bの塗料13とを、同時に基材17に塗布する場合を例にとって電池電極の製造方法を説明したが、請求項2の本発明の電池電極の製造方法は、セパレータ層と、少なくとも正極もしくは負極の何れか1層を選択して、基材または集電体へ同時に2層以上塗布するものである。従って、実施の形態1で説明した、基材の両面に3層を同時に塗布する方法、あるいは図示していないが基材の両面もしくは片面側に選択した一つの活物質層とセパレータ層の2層を同時に塗布形成する方法も含まれる。また、図示していないが基材の上に下層として例えば負極の活物質層を塗布した後に、所定の時間間隔を置いて、セパレータ層、またはセパレータ層と正極の活物質層とを順に塗布する方法は、請求項1の本発明の電池電極の製造方法に含まれる。
【0042】ノズル10の先端形状は、各塗料の粘度や塗布層の厚みに応じて、長さや、厚みなどを最適化したものを用いる。またノズル10の先端形状は、図示していないが曲面形状や多角形の複合化した形状でもよい。また図2には段差を設けていないが、図1に示すように、塗布層の厚みに応じて、各スリットの先端の高さに段差を設けてもよい。
【0043】次に図3および図4について説明する。図3R>3および図4は、上記3層から基材17を剥離する工程と、上記3層に集電体5を密着させる工程の両工程を示す概略図である。図3の構成では、集電体5の両面に上記3層をロール18で圧力により密着させる。ロール18は、加熱式のロールでもよい。また、図3では、集電体5を密着させるとともに、基材17をロール18で剥離しているが、これに限らず、別途ロールを設けておきそのロールを利用するなどして、集電体5を密着させる前に基材17を剥離しておいてもよい。なお、図3に示すように、集電体5の両面に上記3層を密着させるとともに基板17を剥離した後、上記3層のさらに両外面に、集電体5とは別の集電体を密着させる必要がある。それら集電体5および、両外面に密着させる集電体としては、密着させるさいの対向層の極に対応させたものを用いる。例えば対向層が正極であればアルミニウム等の集電体を用い、対向層が負極であれば銅等の集電体を用いる。他方図4は、上記3層の両面に集電体5を密着させる構成である。この場合には、図4に示すように別途ロール19を設けておき、そのロール19を利用するなどして、集電体5を密着させる前に基材17を上記3層から剥離しておく。なお、正極の活物質層b15側の集電体5として、例えばアルミニウム等の正極に対応する集電体を用い、負極の活物質層a14側の集電体5として、例えば銅等の負極に対応する集電体を用いる。
【0044】さて、正極の塗料組成には、活物質とポリマーとが含まれる。活物質としては、LiCoO2、LiNiO2、LiMn24、リチウムを含む非晶質五酸化バナジウムなどや、二流化チタンや二流化モリブデンなどのカルコゲン化合物を用いることができる。ポリマーとしては、ポリエチレンオキサイド系、ポリプロピレンオキサイド系、ポリクリルニトリル系、ビニリデンフロライドとヒキサフルオロプロピレンとの共重合体などを用いることができる。この他に、正極の塗料には溶媒と添加剤、電解液などを必要に応じて加える。
【0045】他方、負極の塗料組成にも、活物質とポリマーとが含まれる。活物質としては、リチウムイオンを吸蔵・放出する炭素材料、例えば人造グラファイト、天然グラファイトなどを用いることができる。また、負極の塗料には溶媒と添加剤、電解液などを必要に応じて加える。ポリマーや、溶媒や、添加物や電解液などは、正極の塗料に含まれるものと同様のものを適時選択して用いる。
【0046】セパレータの塗料組成は、上記ポリマーを主として、シリカなどのフィラー、溶媒、添加剤、電解液などを適時選択し混合したものである。
【0047】以下に、本実施の形態の特徴を順に説明する。
【0048】第1の特徴は、正極および負極の活物質層の塗料と、セパレータ層の塗料の粘度の範囲にある。活物質層およびセパレータ層の塗料の粘度を検討した結果、両者の粘度は、少なくともせん断速度1(1/sec)において10〜1000(Poise)の範囲であること、さらにせん断速度100(1/sec)において100(Poise)以下であることである。せん断速度1(1/sec)における塗料の粘度が10(Poise)よりも小さいと、隣り合う層の塗料が混ざり合い、また粘度が1000(Poise)よりも大きいと、最上層におけるレベリング性が悪く、最上層の表面が平坦にならない。この結果、3層構造であれば、最上層の上に集電体を密着させるさい、活物質層の凹凸部によって集電体との間に隙間が生じ、電池容量の低下やサイクル特性の劣化などを招く。また2層構造であれば、最上層となるセパレータ層の上に例えば正極の層を従来と同様にして融着させようとすると、セパレータ層の凹凸によって正極の層との間に隙間が生じ、やはり電池容量の低下やサイクル特性の劣化などを招く。また、せん断速度100(1/sec)における正極および負極とセパレータの各塗料の粘度が100(Poise)以下であることも重要である。この範囲内であれば、所定の厚みで2層もしくは3層構造を塗布形成することができる。
【0049】第2の特徴は、活物質層の塗料の粘度をA、セパレータ層の塗料の粘度をBとしたとき、AおよびBが0.1≦A/B≦80の関係を満たすことである。上記第1の塗料の粘度範囲を満たしかつ、この範囲とすることで、安定した同時多層塗布ができ、さらに、2層もしくは3層が形成され、乾燥工程を通過中に、各層が混じり合うことを抑制できる。
【0050】第3の特徴は、乾燥後のセパレータ層の厚みをt1、活物質層の厚みをt2としたとき、t1およびt2が0.05≦t1/t2≦1の関係を満たし、かつ、t1≧5μm、t2≧20μmを満たすように乾燥することである。上記の粘度範囲と、t1とt2の厚み比には密接な関係があることが、本発明者の検討により判明した。前記範囲内では、電池電極用として用いる比較的高い粘度の塗料に対して、良好な同時多層塗布が可能である。範囲外では、各層の間で、乱れが生じて厚みを均一化できないかもしくは塗布できなくなる。なお、塗布時(ウエットにおける)各層の厚みを、乾燥後の厚みの2〜10倍程度となるようにし、熱風式や赤外線式等の乾燥を行うと、0.05≦t1/t2≦1の関係と、t1≧5μmと、t2≧20μmとを満たすことができる。
【0051】第4の特徴は、活物質層とセパレータ層とを同時に塗布形成するため、従来の製造方法で示された、極板とセパレータの熱融着が不要であるばかりでなく、極板の圧延も不要となることである。また、乾燥後の活物質層内の活物質の密度が1.2(g/cm3)以上となるように乾燥することが重要である。この範囲よりも密度が小さいと、極板としての容量が小さすぎて、二次電池用極板として機能しなくなる。さらに、同時に多層塗布し乾燥する過程で、活物質層の密度が小さすぎて、セパレータ層が活物質層にしみ込んで吸収され、存在しなくなる。その結果、電池として機能しなくなる。なお、乾燥後の活物質層内の活物質の密度を1.2(g/cm3)以上にするための方法として、例えば活物質層の塗料内の活物質の密度を1.1〜1.2(g/cm3)にしておき、熱風式や赤外線式等の乾燥方法を用いる。
【0052】第5の特徴は、同時に多層塗布することで、従来発生していた乾燥工程におけるマイグレーションを抑制できることである。集電体の上に活物質層を単層で塗布形成した従来の場合、乾燥工程において、溶媒が蒸発する過程でバインダーであるポリマーも表層部分に移動し、集電体側におけるポリマー量が相対的に少なくなる。この結果、従来の製造方法では集電体と活物資層の密着強度が弱くなりすぎて、活物質層の脱落やサイクル特性の低下などの致命的問題が生じていた。それに対して、本実施の形態において説明したように、同時に多層を塗布形成すると、セパレータ層が活物質層に含まれるバインダーの移動を阻害するのでマイグレーションの発生を抑制できる。その結果、集電体と活物質層の密着強度は高く、さらにサイクル特性も格段に向上させることができる。
【0053】第6の特徴は、図2に示すように、バックロール16で支持された基材17の上にノズル10で同時に3層を塗布形成するため、ノズル10と基材17との隙間が機械的に決まり安定する。従って、非常に高精度な厚みで各層を塗布することが可能である。また、ノズル10と基材17との隙間が安定しており、その隙間で塗料に高いせん断力が加わり、塗料中の凝集等を効果的に破壊し、緻密で、表面性の優れた極板を製造することが可能となった。
【0054】次に、上述した3層を同時に塗布して製造した極板を用いて二次電池を作成し、評価を行った。以下に、詳細な製造方法と、評価結果について説明する。
【0055】正極塗料として、LiCoO2と、ポリマーと、溶媒とからなるからなるものを用いた。乾燥後の正極活物質層の密度は1.4(g/cm3)である。負極塗料として、グラファイトとポリマー、溶媒からなるものを用いた。乾燥後の負極活物資層の密度も1.4(g/cm3)である。セパレータ塗料は、ポリマーとシリカと溶媒を主成分とした。それぞれの塗料粘度を変更して、各種塗料粘度に対する塗布の状態を検討した。その結果、(表1)および(表2)に示すように、上記した本実施の形態の範囲内であれば、良好な塗布が可能であることが判明した。
【0056】また、上述したものとは異なり、正極および負極塗料粘度を、せん断速度1(1/sec)において650(Poise)、せん断速度100(1/sec)において15(Poise)とし、セパレータ塗料を、せん断速度1(1/sec)において150(Poise)、せん断速度100(1/sec)において2(Poise)として、正極層、負極層およびセパレータ層の各厚みを変更し、各種厚み構成に対する塗布状態を検討した。その結果、(表3)に示すように、上記した本実施の形態の範囲内であれば、良好な塗布が可能であることが判明した。
【0057】なお、評価するために作成した極板は、ノズル10で3層同時に塗布形成した。ノズル10の先端形状は、図1で示したように、フラットで、塗布厚みに応じて段差を設けた。
【0058】さらに、上述した方法により3層を同時に塗布した極板を所定の寸法である幅35mm、長さ50mmに裁断して二次電池を作成し、放電容量とサイクル特性について評価を行った。なお、その3層同時塗布したものを実施例2とする。また、比較例として、従来の製造方法で、前記寸法の二次電池を作成したものを用いた。つまり、実施の形態2における比較例は、実施の形態1における実施例1を説明するさいに用いた比較例と同じものである。
【0059】(1)放電容量室温において、一定電流、終止電圧4.2Vで充電を完了した二次電池を一定電流で放電して、放電開始から低下する電圧が終止電圧2Vに達したときの放電容量で比較した。本実施例では図6に示すように、放電容量の低下が小さいことがわかった。これは、正負極層とセパレータ層を同時に多層塗布しているために、両者の間に隙間が全くなくかつ密着性が良いためである。
【0060】(2)サイクル特性室温において、一定条件で充放電を繰り返して放電容量を測定し、比較した。図7に示すように、本実施例では比較例に比べて明らかに容量の低下が小さい。これは、正負極層とセパレータ層を同時に多層塗布しているために、両者の間に隙間が全くなくかつ密着性が良いためである。
【0061】このように、セパレータ層と極板との密着性が良好であり、さらに両者の間に隙間を生じさせず、極板内に電解液を実質上均一に存在させることができるため、リチウムイオンの移動が可能となるので、ポリマー電解質二次電池の電池容量やサイクル特性を向上させることができ、さらに製品のコストダウンを達成することができる。
【0062】以上のようにポリマー電池などの二次電池極板の製造方法において、請求項1および2の本発明の製造方法の効果を確認することができた。
【0063】(実施の形態3)次に、本発明の実施の形態3の電池電極の製造方法を述べる。
【0064】図8に、本発明の実施の形態3の電池電極の製造方法に用いる塗布装置の概略構成図を示す。1および2はノズルで、図示していないが定量ポンプにより、セパレータ層の塗料3を、ノズル1および2に供給し、マニホールド101、201を通らせ、それらに連通しているスリット102、202から押し出して、集電体5の両面側に予め形成された活物質層6の表面に塗布し、セパレータ層4を形成する。この後、図示していないが乾燥工程を経て巻き取られる。なお、乾燥後のセパレータ層4の厚みが5〜50μmの範囲となるように乾燥する。塗布時(ウエットにおける)セパレータ層の塗料3の厚みを、乾燥後の厚みの2〜10倍程度となるようにし、熱風式や赤外線式等の乾燥方法を用いると、乾燥後のセパレータ層4の厚みが5〜50μmの範囲におさまる。また、活物資層6は正極用、負極用どちらでもよい。
【0065】セパレータの塗料組成は、上記ポリマーを主として、シリカなどのフィラー、溶媒、添加剤、電解液などを適時選択し混合したものである。
【0066】以下に、本実施の形態の特徴を順に説明する。
【0067】第1の特徴は、直接塗布するセパレータ層の塗料3の粘度の範囲にある。活物資層6は圧延していたとしても、微小な穴が無数に形成されているため、セパレータ層の塗料3が穴にしみこまないようにすることが重要である。そこで、セパレータ層の塗料3の粘度を検討した結果、少なくともせん断速度1(1/sec)において10〜1000(Poise)の範囲であること、さらにせん断速度100(1/sec)において100(Poise)以下であることが最も重要である。せん断速度1(1/sec)におけるセパレータ層の塗料3の粘度が10(Poise)よりも小さいと、極板の穴にセパレータ層の塗料3がしみ込み、セパレータ層4を形成できず、セパレータとして機能しなくなる。また粘度が1000(Poise)よりも大きいと、極板の凹凸に対するレベリング性が悪く、セパレータ層4の表面が平坦にならない。この結果、そのセパレータ層4の上に、活物質層6の極の相手方の極の極板を、つまり活物質層6が正極であれば負極の極板を、活物質層6が負極であれば正極の極板を、加圧して積層するときに、セパレータ層4が凹凸部を有しているため、セパレータ層4と極板との一部に隙間が生じ、電池容量の低下やサイクル特性の劣化などを招く。さらにせん断速度100(1/sec)におけるセパレータ層の塗料3の粘度が100(Poise)以下であることも重要である。この範囲内であれば、所定の厚み、例えば乾燥後の厚み5〜50μmの範囲でセパレータ層4を塗布形成することができる。
【0068】第2の特徴は、直接塗布する極板側の密度にある。活物資層6は圧延していたとしても、微小な穴が無数に形成されているため、セパレータ層の塗料3が穴にしみこまないようにすることが重要である。極板の製造後あるいは圧延後にかかわらずセパレータ層の塗布3直前における正極もしくは負極の活物質層6内の活物質の密度が、1.2(g/cm3)以上であることが重要である。この範囲よりも密度が小さいと、極板の微小な孔にセパレータ層の塗料3がしみ込み、セパレータ層4を形成できず、セパレータとして機能しなくなる。
【0069】次に、セパレータ層4を塗布形成した後、活物質層6の極の相手方の活物質層を集電体5とは別の集電体に別途形成しておいたものを、セパレータ層4が2つの活物質層に挟まれるようにして、加圧して電極を作成し、その電極を用いてさらに二次電池を作成し、評価を行った。以下に、詳細な製造方法と、評価結果について説明する。なお、集電体5は銅のラスメタルの集電体であって、活物質層6は負極の層であるとする。したがって、活物質層6の極の相手方の活物質層は正極の層である。
【0070】負極としてグラファイトとポリマーからなる活物資層6をラスメタル(集電体5)の両面に予め形成したものを用いた。活物資層6内のグラファイトの密度は1.4(g/cm3)である。この上に、図8で示したように、ノズル1、2でセパレータ層の塗料3を塗布形成した。セパレータ層の塗料3は、ポリマーとシリカと溶媒を主成分とした。セパレータ層の塗料3の粘度は、せん断速1(1/sec)において200(Poise)、せん断速度100(1/sec)において10(Poise)である。乾燥後のセパレータ層4の厚みは20μmである。正極としては、LiCoO2とポリマーからなる活物質層をアルミニウムのラスメタルに塗布形成したものを用いた。上記極板を所定の寸法である幅35mm、長さ50mmに裁断して二次電池を作成し、以下の評価を行った。なお、このようにして作成した二時電池を実施例3とする。また、比較例として、従来の製造方法で、前記寸法の二次電池を作製したものを用いた。つまり、実施の形態3における比較例は、実施の形態1における実施例1を説明するさいに用いた比較例と同じものである。
【0071】(1)放電容量室温において、一定電流、終止電圧4.2Vで充電を完了した二次電池を一定電流で放電して、放電開始から低下する電圧が終止電圧2Vに達したときの放電容量で比較した。本実施例では図6に示すように、放電容量の低下が小さいことがわかった。これは、負極層の上にセパレータ層を直接塗布しているために、両者の間に隙間が全くなくかつ密着性が良いためである。
【0072】(2)サイクル特性室温において、一定条件で充放電を繰り返して放電容量を測定し、比較した。図7に示すように、本実施例では比較例に比べて明らかに容量の低下が小さい。これは、負極層の上にセパレータ層を直接塗布しているために、両者の間に隙間が全くなくかつ密着性が良いためである。
【0073】このように、セパレータ層と極板との密着性が良好であり、さらに両者の間に隙間を生じさせず、極板内に電解液を実質上均一に存在させることができるため、リチウムイオンの移動が可能となるので、ポリマー電解質二次電池の電池容量やサイクル特性を向上させることができ、さらに製品のコストダウンを達成することができる。
【0074】以上のようにポリマー電池などの二次電池極板の製造方法において、請求項11の本発明の製造方法の効果を確認することができた。
【0075】なお、上述した実施の形態3では、集電体5の両面側に予め形成された活物質層6の表面にセパレータ層の塗料3を塗布するとしたが、片面側に塗布してもよく、また集電体以外の基材の両面側に予め活物質層6を形成しておき、その活物質層6の一方または双方の表面にセパレータ層の塗料3を塗布するとしてもよい。また、基材の両面または片面に予めセパレータ層を形成しておき、そのセパレータ層の表面に正極または負極の活物質層の塗料を塗布するとしてもよい。いずれにしても塗布する塗料の粘度を、せん断速度1(1/sec)において10〜1000(Poise)の範囲であってかつ、せん断速度100(1/sec)において100(Poise)以下とする。それは、塗布した後の塗料と、予め形成しておいた層との混合を防止するためである。また、両面または片面に予めセパレータ層を形成した基材のセパレータ層の表面に、正極または負極の活物質層の塗料を塗布した後乾燥するさい、乾燥後の活物質層内の活物質の密度が1.2(g/cm3)以上となるように乾燥する。なぜなら、この範囲よりも密度が小さいと、極板としての容量が小さすぎて、二次電池用極板として機能しなくなるからである。
【0076】また、上述した実施の形態3では、集電体5の両面側に予め形成された活物質層6の表面にセパレータ層の塗料3を塗布するとしたが、セパレータ層の塗料3を塗布する前に、そのセパレータ層の塗料3に含まれる溶媒、もしくは可塑剤または樹脂のうちの少なくとも一種類を塗布しておいてもよい。同様に、両面または片面に予めセパレータ層を形成した基材のセパレータ層の表面に、正極または負極の活物質層の塗料を塗布するさいも、活物質層の塗料を塗布する前に、セパレータ層に含まれる溶媒、もしくは可塑剤または樹脂のうちの少なくとも一種類を塗布しておいてもよい。
【0077】さらに、上述した実施の形態3では、セパレータ層の塗料3を塗布し、セパレータ層4を形成した後、活物質層6の極の相手方の活物質層を集電体5とは別の集電体に別途形成しておいたものを、セパレータ層4が2つの活物質層に挟まれるようにして、加圧して電極を作成するとした。つまり、セパレータ層4を形成した後、そのセパレータ層4に、活物質層6の極の相手方の活物質層を加圧密着させるとした。しかしながら、セパレータ層4の上に、活物質層6の極の相手方の活物質層の塗料を塗布し、乾燥して活物質層を形成するとしてもよい。また、両面または片面に予めセパレータ層を形成した基材のセパレータ層の表面に、正極または負極の活物質層の塗料を塗布する場合、その後乾燥して基材を剥離し、セパレータ層の基材が設けられていた側に、塗布した塗料の極の相手方の極の塗料を塗布し、正極、セパレータおよび負極から構成される電極を製造してもよい。
【0078】
【発明の効果】以上述べたところから明らかなように、本発明は、正極および負極の少なくとも一方とセパレータとを確実に密着させ、またバインダーであるポリマーを活物質層内部に実質上均一に分散させ、さらにショート不良などの発生を抑制する電池電極の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態1の電池電極の製造方法に用いる塗布装置の概略構成図である。
【図2】本発明の実施の形態2の電池電極の製造方法に用いる塗布装置の概略構成図である。
【図3】本発明の第2の実施の形態の、3層から基材17を剥離する工程と、3層に集電体5を密着させる工程の両工程を示す略示構成図である。
【図4】図3とは別の、本発明の第2の実施の形態の、3層から基材17を剥離する工程と、3層に集電体5を密着させる工程の両工程を示す略示構成図である。
【図5】本発明の実施の形態1の電池電極の製造方法に用いる塗布装置の概略構成図で
【図6】本発明の実施の形態1、2および3において説明した各製造方法を用いて作製した電池電極の評価結果を示す図である。
【図7】図6とは別の、本発明の実施の形態1、2および3において説明した各製造方法を用いて作製した電池電極の評価結果を示す図である。
【図8】本発明の実施の形態3の電池電極の製造方法に用いる塗布装置の概略構成図である。
【符号の説明】
1 ノズル
2 ノズル
3 セパレータ層の塗料
4 セパレータ層
5 集電体
6 活物質層
7 ノズル
8 ノズル
9 活物質層の塗料
10 ノズル
11 ノズル
12 負極の活物質層aの塗料
13 正極の活物質層bの塗料
14 負極の活物質層a
15 正極の活物質層b
16 ロール
17 基材
101、103、105、111、113、115、201、701、703、801、804 マニホールド
102、104、106、112、114、116、202、702、704、802、803 スリット

【特許請求の範囲】
【請求項1】 正極の活物質層と負極の活物質層とを有し、かつそれら2つの活物質層間にセパレータ層を有する電池電極の製造方法であって、前記セパレータ層の塗料と、前記正極の活物質層の塗料および/または前記負極の活物質層の塗料とを、いずれの塗料も実質上乾燥させずに、前記正極の活物質層、前記セパレータ層、前記負極の活物質層の順に、または前記負極の活物質層、前記セパレータ層、前記正極の活物質層の順に、所定の基材の上に塗布することを特徴とする電池電極の製造方法。
【請求項2】 前記セパレータ層の塗料と、前記正極の活物質層の塗料および/または前記負極の活物質層の塗料とを、同一のノズルの異なるスリットから吐出させて、実質上同時に塗布することを特徴とする請求項1記載の電池電極の製造方法。
【請求項3】 前記正極の活物質層の塗料、前記負極の活物質層の塗料および前記セパレータ層の塗料の粘度は、少なくともせん断速度1(1/sec)において10〜1000(Poise)の範囲であってかつ、せん断速度100(1/sec)において100(Poise)以下であることを特徴とする請求項1または2記載の電池電極の製造方法。
【請求項4】 前記活物質層の塗料の粘度をA、前記セパレータ層の塗料の粘度をBとしたとき、前記Aおよび前記Bは0.1≦A/B≦80の関係を満たすことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の電池電極の製造方法。
【請求項5】 前記セパレータ層と、前記正極の活物質層および/または前記負極の活物質層とを前記基材の上に塗布した後、前記セパレータ層と、前記正極の活物質層および/または前記負極の活物質層と、前記基材とを、乾燥後の前記セパレータ層の厚みをt1、前記活物質層の厚みをt2としたとき、前記t1および前記t2が0.05≦t1/t2≦1の関係を満たし、かつ、前記t1≧5μm、前記t2≧20μmを満たすように乾燥することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の電池電極の製造方法。
【請求項6】 前記セパレータ層と、前記正極の活物質層および/または前記負極の活物質層とを前記基材の上に塗布した後、前記セパレータ層と、前記正極の活物質層および/または前記負極の活物質層と、前記基材とを、乾燥後の前記活物質層内の活物質の密度が1.2(g/cm3)以上となるように乾燥することを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の電池電極の製造方法。
【請求項7】 前記基材は集電体であることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の電池電極の製造方法。
【請求項8】 前記基材の上に塗布された層は、前記正極の活物質層、前記セパレータ層および前記負極の活物質層の3層であって、前記3層を前記基材の上に塗布した後、前記3層および前記基材を乾燥し、その乾燥の後に前記基材を前記3層から剥離し、さらに所定の集電体に前記3層を密着させることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の電池電極の製造方法。
【請求項9】 前記3層を前記集電体の両面に密着させ、さらに両外面に前記集電体とは別の第2の集電体を密着させせることを特徴とする請求項8記載の電池電極の製造方法。
【請求項10】 前記集電体は前記3層の両面に密着させるものであって、前記3層のうちの対向する層に応じて異なる種類の集電体を密着させることを特徴とする請求項8記載の電池電極の製造方法。
【請求項11】 正極の活物質層と負極の活物質層とを有し、かつそれら2つの活物質層間にセパレータ層を有する電池電極の製造方法であって、所定の基材の上に予め前記正極もしくは前記負極の活物質層または前記セパレータ層が設けられた積層材の、前記活物質層または前記セパレータ層の上に、前記予め設けられた層が前記正極もしくは前記負極の活物質層である場合には、前記セパレータ層の塗料を塗布し、前記予め設けられた層が前記セパレータ層である場合には、前記正極もしくは前記負極の活物質層の塗料を塗布することを特徴とする電池電極の製造方法。
【請求項12】 前記塗布するセパレータ層の塗料の粘度または、前記塗布する正極もしくは負極の活物質層の塗料の粘度は、少なくともせん断速度1(1/sec)において10〜1000(Poise)の範囲であって且つ、せん断速度100(1/sec)において100(Poise)以下であることを特徴とする請求項11記載の電池電極の製造方法。
【請求項13】 前記セパレータ層の塗料または、前記正極もしくは前記負極の活物質層の塗料を塗布する前に、前記積層材の前記予め設けられた層の上に、前記セパレータ層の塗料または前記セパレータ層に含まれる溶媒、もしくは可塑剤もしくは樹脂のうちの少なくとも一種類を塗布した後、前記セパレータ層の塗料または、前記正極もしくは前記負極の活物質層の塗料を塗布することを特徴とする請求項11または12記載の電池電極の製造方法。
【請求項14】 前記予め設けられた層は前記正極もしくは前記負極の活物質層であって、前記活物質層内の活物質の密度が1.2(g/cm3)以上であることを特徴とする請求項11から13のいずれかに記載の電池電極の製造方法。
【請求項15】 前記予め設けられた層は前記セパレータ層であって、前記正極もしくは前記負極の活物質層の塗料を塗布した後、前記積層材および前記塗布した層を、乾燥後の前記活物質層内の活物質の密度が1.2(g/cm3)以上となるように乾燥することを特徴とする請求項11から13のいずれかに記載の電池電極の製造方法。
【請求項16】 前記積層材の前記予め設けられた層が前記正極もしくは負極の活物質層である場合、前記塗布した前記セパレータ層の上に、前記予め設けられていた正極もしくは負極の相手方の活物質層の塗料を塗布し、前記積層材の前記予め設けられた層が前記セパレータ層である場合、前記積層材および、前記塗布した前記正極もしくは負極の活物質層を乾燥した後、前記積層材の前記基材を剥離し、前記セパレータ層の前記基材が設けられていた側に、前記塗布した正極もしくは負極の相手方の活物質層の塗料を塗布することを特徴とする請求項11から15のいずれかに記載の電池電極の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2000−323129(P2000−323129A)
【公開日】平成12年11月24日(2000.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平11−133609
【出願日】平成11年5月14日(1999.5.14)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】