説明

電池電極用バインダーおよびそれを用いたリチウム二次電池用電極

【課題】集電体と活物質粒子との間の剥離強度および活物質粒子間の接合強度の双方を高いレベルで両立できる電池電極用バインダーを提供する。
【解決手段】電池電極用バインダーは、コアシェル構造を有するポリマー粒子を含み、ポリマー粒子のコアを形成する第1ポリマー材料のガラス転移温度が、シェルを形成する第2ポリマー材料のガラス転移温度よりも高く、第1ポリマー材料のゲル含有量が、第2ポリマー材料のゲル含有量よりも高い。第1ポリマー材料のゲル含有量は50〜80質量%であり、第2ポリマー材料のゲル含有量が50質量%未満であることが好ましい。第1ポリマー材料のガラス転移温度は0℃以上であり、第2ポリマー材料のガラス転移温度は0℃未満であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池電極用バインダーおよびそれを用いたリチウム二次電池用電極に関し、詳しくは、電極活物質層に含まれる粒子状バインダーの改良に関する。
【背景技術】
【0002】
電池を使用する機器の高性能化に伴い、電池の高性能化が強く要求されている。例えば、リチウム二次電池用途では、携帯機器の高性能化および電気自動車やハイブリッド自動車の開発に伴って、高容量および高い電極強度を両立するための研究が活発に行われている。
【0003】
一般的な電極は、シート状の集電体とその表面に付着した電極活物質層とを具備する。電極活物質層は、活物質粒子およびバインダーを含む。具体的には、活物質粒子、バインダーおよび液状分散媒を含むスラリーを調製し、このスラリーを集電体表面に塗布し、乾燥後、圧延することにより、電極活物質層が形成される。
【0004】
バインダーは、活物質粒子間を結着し、かつ活物質粒子と集電体とを結着する機能を有する。バインダーの中でも、粒子状バインダーは、活物質粒子の表面を過度に被覆することがなく、使用量を低減できることから、有望視されている。粒子状バインダーとしては、例えば、スチレンブタジエンゴム、ニトリルゴムなどのゴム状重合体の粒子が知られている。
【0005】
また、集電体と活物質粒子との結着性や結着持続性を高めたり、電池特性を向上させたりするため、コアシェル構造の粒子状バインダーを用いることが検討されている(特許文献1〜3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−0025989号公報
【特許文献2】特開2005−011822号公報
【特許文献3】国際公開WO98/039808号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来、電極に求められる強度は、主に、集電体と、活物質粒子との接着界面における接合強度(剥離強度)であった。しかし、電極の製造過程や充放電時に活物質粒子が膨張収縮する際に、活物質粒子が脱落すると、製品不良が生じたり、内部短絡の原因となったり、電池特性が低下したりする。そのため、集電体と活物質粒子との剥離強度だけでなく、活物質粒子間の接合強度(粒子間強度)を高める必要がある。
【0008】
剥離強度を高めるには、例えば、集電体表面に対するバインダーの親和性を高めたり、接触面積を大きくするため、集電体表面に対するバインダーの密着性を高めたり、粒子状バインダーの粒径を小さくしたりすることが有効であると考えられていた。しかし、本発明者らは、このような方法が、粒子間強度を高めるためには必ずしも有効でないのみならず、剥離強度を高める効果も十分ではないことを見出した。例えば、集電体表面に対するバインダー粒子の密着性または柔軟性が高くなると、ある程度の剥離強度を確保できるものの、バインダー粒子がつぶれやすくなる。そのため、圧延によりつぶれたバインダー粒子が、活物質粒子表面を過度に覆うことになり、電池特性が低下する。また、本発明者らは、コアシェル型のバインダー粒子では、シェルの物性だけでなく、コアの物性が、粒子間強度に大きく影響することも見出した。具体的には、ガラス転移温度(Tg)およびゲル含有量が、粒子間強度に大きく影響する。
【0009】
特許文献1では、コア材料よりもガラス転移温度(Tg)が高いシェル材料を用いることを想定している。そのため、シェルによる活物質粒子表面に対するアンカー効果やグリップ力を十分に高めることが困難である。また、コア材料のTgが低いため、圧延によりバインダー粒子がつぶれたままの状態となり、粒子間強度を高めることが困難である。
【0010】
特許文献2では、Tgおよびゲル含有量のいずれも制御されていない。また、特許文献3では、コアとシェルとでゲル含有量に相違がないと考えられる。そのため、コアシェル粒子全体のTgやゲル含有量が低ければ、圧延によりバインダー粒子がつぶれたままの状態となり、粒子間強度を高めることが困難である。また、コアシェル粒子全体のTgやゲル含有量が高ければ、活物質粒子表面に対するアンカー効果やグリップ力が小さくなり、剥離強度を高めることが困難である。
このように、従来のバインダーを用いることにより、剥離強度と粒子間強度の双方を高いレベルで両立することは困難である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の目的は、集電体と活物質粒子との剥離強度および活物質粒子間の接合強度(粒子間強度)の双方を高いレベルで両立できる電池電極用バインダーを提供することである。
【0012】
本発明の一局面は、コアシェル構造を有するポリマー粒子を含み、ポリマー粒子のコアを形成する第1ポリマー材料のTgが、シェルを形成する第2ポリマー材料のTgよりも高く、第1ポリマー材料のゲル含有量が、第2ポリマー材料のゲル含有量よりも高い、電池電極用バインダーに関する。
【0013】
本発明の他の一局面は、集電体と、集電体の表面に形成された活物質層とを含み、活物質層が、リチウムイオンを吸蔵および放出可能な活物質粒子と、上記電池電極用バインダーとを含む、リチウム二次電池用電極に関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の電池電極用バインダーによれば、集電体と活物質粒子との間の剥離強度および活物質粒子間の接合強度(粒子間強度)の双方を高いレベルで両立できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態に係る電極を用いた角型のリチウム二次電池を、一部を切り欠いて模式的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[電池電極用バインダー]
本発明の電池電極用バインダーは、コアシェル構造を有するポリマー粒子を含み、ポリマー粒子のコアを形成する第1ポリマー材料のTgが、シェルを形成する第2ポリマー材料のTgよりも高く、コアを形成する第1ポリマー材料のゲル含有量が、第2ポリマー材料のゲル含有量よりも高い。つまり、シェルを形成する第2ポリマー材料のTgおよびゲル含有量が相対的に低いため、集電体表面にバインダーを含む活物質層を形成したときに、バインダーの、集電体および活物質粒子に対するグリップ力(密着力)や活物質粒子表層に対するアンカー効果(浸透性)を高めることができる。
【0017】
また、コアを形成する第1ポリマー材料のTgおよびゲル含有量が相対的に高いため、コアによりバインダー粒子内の弾性凝集力を高めることができる。これにより、集電体表面にバインダーを含む活物質層を形成する際に、活物質層を圧延しても、バインダー粒子が過度につぶれるのを抑制できる。
【0018】
バインダー粒子がつぶれて活物質粒子間に広がった状態で活物質粒子が結着されると、活物質粒子間に弾性凝集力が働きにくくなり、十分な粒子間強度が得られない。このような問題は、圧延により活物質層に付与される圧力が大きくなるほど、また、活物質密度が大きくなるほど、顕在化する。
【0019】
しかし、本発明では、コアの高い弾性凝集力により圧延時にバインダー粒子が過度につぶれず、シェルにより高いグリップ力およびアンカー効果を確保できる。そのため、高い粒子間強度が得られる。さらに、集電体と活物質粒子との間の結着性も高くなる。よって、剥離強度と、粒子間強度とを両立できる。なお、弾性凝集力とは、バインダー粒子に加えられた力に対してバネのように反発して、バインダー粒子の形状を復元しようとする力を言う。
【0020】
バインダー粒子がつぶれて活物質粒子間に広がった状態で活物質粒子が結着されると、活物質粒子表面が、バインダーで過度に被覆された状態となり、電池反応が損なわれる。例えば、リチウム二次電池では、活物質粒子へのリチウムイオンの吸蔵または放出が阻害され、電池特性が低下したり、リチウムが析出して安全性が損なわれたりする。しかし、本発明では、バインダーによる活物質粒子表面の過度な被覆が抑制されるため、このような事態を避けることができる。
【0021】
第1ポリマー材料のゲル含有量は、例えば、50質量%以上、好ましくは55質量%以上、さらに好ましくは58質量%以上である。また、第1ポリマー材料のゲル含有量は、例えば、80質量%以下、好ましくは75質量%以下、さらに好ましくは72質量%以下である。これらの上限値と下限値とは適宜選択して組み合わせることができる。第1ポリマー材料のゲル含有量がこのような範囲である場合、バインダー粒子の高い弾性凝集力を得るのに有利である。これにより、粒子間強度をより効果的に高めることができるとともに、バインダーにより活物質粒子表面が過度に被覆されるのを有効に抑制でき、電池容量の低下を抑制できる。
【0022】
第2ポリマー材料のゲル含有量は、例えば、50質量%未満、好ましくは45質量%以下、さらに好ましくは42質量%以下である。また、第2ポリマー材料のゲル含有量は、例えば、15質量%以上、好ましくは18質量%以上、さらに好ましくは20質量%以上または25質量%以上である。これらの上限値と下限値とは適宜選択して組み合わせることができる。第2ポリマー材料のゲル含有量がこのような範囲である場合、集電体および活物質粒子に対する高いグリップ力および活物質粒子に対する高いアンカー効果を確保する上で有利である。そのため、剥離強度および粒子間強度をさらに高めることができる。
【0023】
第1および第2ポリマー材料のゲル含有量は、トルエン不溶分として表すことができ、ポリマー材料の架橋の度合いの指標となる。ゲル含有量は、1gのポリマー材料を100℃で24時間乾燥させた後の乾燥質量Mpを測定し、乾燥物をトルエン100gに25℃で24時間浸漬し、200メッシュの篩を用いて不溶分を回収し、乾燥させて質量Mgを測定し、下記式に基づいて算出できる。
ゲル含有量(質量%)=Mg/Mp×100
なお、バインダー粒子のコアのゲル含有量は、1gのコア粒子を用いて上記に従って算出できる。バインダー粒子のシェルのゲル含有量は、1gのバインダー粒子を用いて上記に従って算出したゲル含有量から、コアのゲル含有量を差し引くことにより算出できる。
【0024】
第1または第2ポリマー材料が、テトラフルオロエチレンを構成単位として含む単独重合体または共重合体などのフッ素樹脂である場合、トルエンに溶解しないため、上記式ではゲル含有量を算出できない。架橋性モノマー単位および架橋剤などの架橋成分を用いずに得られたフッ素樹脂のゲル含有量は、実質的に0%である。
【0025】
第1ポリマー材料のTgは、例えば、0℃以上、好ましくは10℃以上、さらに好ましくは20℃以上または23℃以上である。第1ポリマー材料のTgは、例えば、60℃以下、好ましくは50℃以下、さらに好ましくは40℃以下である。これらの上限値と下限値とは、適宜選択して組み合わせることができる。第1ポリマー材料のTgがこのような範囲である場合、バインダー粒子の高い弾性凝集力を得るのに有利である。これにより、粒子間強度をより効果的に高めることができるとともに、バインダーにより活物質粒子表面が過度に被覆されるのを有効に抑制でき、電池容量の低下を抑制できる。
【0026】
第2ポリマー材料のTgは、例えば、0℃未満、好ましくは−5℃以下、さらに好ましくは−10℃以下または−17℃以下である。また、第2ポリマー材料のTgは、例えば、−45℃以上、好ましくは−40℃以上、さらに好ましくは−35℃以上である。これらの上限値と下限値とは適宜選択して組み合わせることができる。第2ポリマー材料のTgがこのような範囲である場合、バインダーの、集電体および活物質粒子に対する高いグリップ力および活物質粒子に対する高いアンカー効果を確保する上で有利である。これにより、剥離強度および粒子間強度をさらに高めることができる。
なお、第1および第2ポリマー材料のTgは、示差走査熱量計を用いて測定できる。
【0027】
(第1および第2ポリマー材料)
第1および第2ポリマー材料としては、Tgやゲル含有量の条件を満たす限り、例えば、ゴム状ポリマー、芳香族ビニル樹脂、フッ素樹脂、アクリル樹脂、オレフィン樹脂などの各種熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマーが使用できる。これらの材料は、一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて使用できる。
第1および第2ポリマー材料としては、Tgを制御するため、軟質モノマー(具体的にはポリマー材料にゴム弾性または柔軟性を付与するモノマー(第1モノマー))を、構成単位として含有する共重合体を用いるのが好ましい。軟質モノマー単位の含有量を調整することにより、第1および第2ポリマー材料のTgを容易に調整できる。
【0028】
軟質モノマーとしては、そのホモポリマーのTgが低いモノマー、例えば、ホモポリマーのTgが0℃以下、好ましくは−15℃以下であるモノマーなどが挙げられる。軟質モノマーのホモポリマーのTgの下限は、特に制限されず、例えば、−130℃、好ましくは−90℃である。
【0029】
軟質モノマーの具体例としては、ブタジエン、イソプレンなどのジエン;ジメチルシロキサンなどのジアルキルシロキサン;アクリル酸アルキル、メタクリル酸アルキルなどの(メタ)アクリル酸エステル;パーフルオロ(メチルビニルエーテル)、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)などのフッ素化アルキルビニルエーテルなどが挙げられる。アクリル酸アルキルとしては、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシルなどのアクリル酸C2-12アルキルが例示できる。メタクリル酸アルキルとしては、メタクリル酸ノニル、メタクリル酸ドデシルなどのメタクリル酸C8-14アルキルが例示できる。これらの軟質モノマーは、一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて使用できる。
【0030】
軟質モノマーとしては、ジエンおよび/または(メタ)アクリル酸エステルが好ましい。(メタ)アクリル酸エステルのうち、アクリル酸C2-10アルキル、メタクリル酸C9-12アルキルが好ましい。なお、アクリル酸およびメタクリル酸を(メタ)アクリル酸と総称し、アクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステルを(メタ)アクリル酸エステルと総称する。
第1または第2ポリマー材料が、フッ素樹脂の場合、フッ素化アルキルビニルエーテルを軟質モノマーとして用いることも好ましい。
【0031】
第1ポリマー材料における軟質モノマー単位の含有量Wp1は、例えば、25〜60質量%、好ましくは30〜55質量%である。
Tgを調整するため、第2ポリマー材料中の軟質モノマー単位の含有量Wp2は、第1ポリマー材料中の含有量Wp1よりも多いのが好ましく、例えば、50〜80質量%、好ましくは55〜75質量%である。
【0032】
第1または第2ポリマー材料は、軟質モノマー単位に加え、さらに、他の共重合性モノマー(第2モノマー)を構成単位として含む共重合体であってもよい。ポリマー材料が熱可塑性エラストマーである場合、軟質モノマー単位が連結したソフトセグメントと、第2モノマー単位を含むハードセグメントとを有する熱可塑性エラストマーが例示できる。第2モノマー単位が連結してハードセグメントを形成してもよい。
【0033】
第2モノマーとしては、ポリマー材料の種類に応じて、例えば、スチレン、ビニルトルエンなどの芳香族ビニル;シアン化ビニル;エチレン、プロピレンなどのオレフィン;ハロゲン化オレフィンが使用できる。ハロゲン化オレフィンとしては、フッ化ビニル、塩化ビニルなどのハロゲン化ビニル;テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレンなどのフッ素化オレフィン(好ましくは、ポリフルオロC2-4オレフィン)が例示できる。これらの第2モノマーは、一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて使用できる。好ましい第2モノマーは、芳香族ビニル、シアン化ビニル、およびハロゲン化オレフィンである。また、ポリマー材料が、フッ素樹脂である場合、フッ化ビニルおよび/またはフッ素化オレフィンを、第2モノマーとして使用するのが好ましい。
【0034】
熱可塑性エラストマーでは、スチレン系エラストマー、フッ素含有エラストマーが好ましい。好ましいフッ素含有エラストマーは、フッ素化C2-3オレフィンを構成単位として含むハードセグメントと、フッ素化C1-4アルキル−ビニルエーテルを構成単位として含むソフトセグメントとを含む。
【0035】
第1ポリマー材料としては、例えば、少なくともスチレン単位と、ブタジエン単位および/または(メタ)アクリル酸アルキルエステル単位とを含む共重合体が好ましい。このような共重合体は、さらに、シアン化ビニル単位を含んでもよい。また、上記共重合体は、ゴム状共重合体であってもよい。
【0036】
第1ポリマー材料は、さらに、(メタ)アクリル酸、フマル酸などの重合性不飽和カルボン酸を構成単位として含有してもよい。重合性不飽和カルボン酸単位の含有量を調整することによっても、Tgを調整することができる。
第1ポリマー材料における重合性不飽和カルボン酸単位の含有量は、例えば、0.1〜5質量%、好ましくは0.3〜3質量%である。
【0037】
第2ポリマー材料としては、ゴム状ポリマー、芳香族ビニル樹脂、フッ素樹脂、オレフィン樹脂、および熱可塑性エラストマーからなる群より選択された少なくとも一種を用いることが好ましい。第2ポリマー材料のうち、少なくともスチレン単位およびブタジエン単位を含む共重合体が好ましい。共重合体は、さらにシアン化ビニル単位を含んでもよい。また、上記共重合体は、ゴム状共重合体であってもよい。
【0038】
第2ポリマー材料としては、結晶性ポリマー、例えば、結晶性の高いモノマーを構成単位として含む単独重合体または共重合体を用いてもよい。結晶性の高いモノマーとしては、エチレンなどのC2-4オレフィン、テトラフルオロエチレンなどのフッ素化C2-4オレフィンが例示できる。また、熱可塑性エラストマーは、結晶性の高いモノマー単位が連結したハードセグメントを含むものが好ましい。このような熱可塑性エラストマーや結晶性ポリマーは、圧延時にフィブリル化しやすく、高いグリップ力が得られるため、剥離強度や粒子間強度を向上させる上で有利である。
【0039】
また、剥離強度の観点から、第2ポリマー材料は、カルボキシル基やスルホン酸基などの酸基、ヒドロキシル基、メチロール基、エステル基、アミノ基、イミノ基、アミド基およびイミド基からなる群より選択された少なくとも一種の官能基を有していてもよい。このような官能基は、金属集電体に対する親和性が高いため、剥離強度を高めるのに有利である。これらの官能基は、官能基を含むモノマーを、第2ポリマー材料の構成モノマーとともに重合することにより、第2ポリマー材料に導入できる。また、第2ポリマー材料の構成モノマーを重合した後、ヒドロキシル化、エステル化、アミド化などの各種有機反応を利用することにより、官能基をポリマー骨格に導入してもよい。
【0040】
第2ポリマー材料は、上記官能基のうち、特に、カルボキシル基などの酸基を有するのが好ましい。カルボキシル基は、例えば、(メタ)アクリル酸、フマル酸などの重合性不飽和カルボン酸を、第1モノマーおよび第2モノマーなどの第2ポリマー材料の構成モノマーとともに重合することにより導入できる。第2ポリマー材料中の重合性不飽和カルボン酸単位の含有量は、第1ポリマー材料中における含有量よりも大きいのが好ましく、例えば、3〜15質量%、好ましくは4〜12質量%である。
酸基を有する第2ポリマー材料の酸価は、例えば、5〜100、好ましくは30〜90である。酸価がこのような範囲である場合、集電体に対する親和性が高く、剥離強度を高める上で有利である。
【0041】
第1および第2ポリマー材料は、さらに、架橋性モノマーを構成単位として含有してもよい。架橋性モノマーの含有量を調整することにより、ゲル含有量を調整することができる。架橋性モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリロイル基やビニル基などの重合性不飽和結合を複数有するモノマーが使用できる。
【0042】
架橋性モノマーの具体例としては、ジビニルベンゼンなどのポリビニル化合物、ポリオールの(メタ)アクリル酸エステルなどが使用できる。ポリオールのポリ(メタ)アクリル酸エステルとしては、エチレングリコールジアクリレートなどのアルキレングリコールジアクリレート;ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレートなどのポリアルキレングリコールジアクリレート;トリメチロールプロパントリアクリレート;またはこれらに対応するメタクリレートなどが例示できる。これらの架橋性モノマーは、一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて使用できる。好ましい架橋性モノマーは、ポリオールの2個以上のヒドロキシル基が、(メタ)アクリル酸でエステル化されたポリオールポリ(メタ)アクリレートである。
【0043】
第1ポリマー材料における架橋性モノマーの含有量は、例えば、1〜7質量%、好ましくは2.5〜5.5質量%である。第2ポリマー材料における架橋性モノマーの含有量は、第1ポリマー材料よりも少ないのが好ましく、例えば、0.1質量%以上2.5質量%未満、好ましくは0.2〜2質量%である。
【0044】
第1および第2ポリマー材料では、重合時に、慣用の架橋剤、重合開始剤、鎖伸長剤、連鎖移動剤などを用い、その種類や使用量を調整することにより、Tgおよび/またはゲル含有量を調整してもよい。
【0045】
(ポリマー粒子)
コアシェル構造を有するポリマー粒子は、慣用の方法により製造できる。例えば、第1ポリマー材料の構成モノマーを乳化重合または懸濁重合してコア粒子を形成し、第2ポリマー材料の構成モノマーを追加して、引き続き重合し、シェルを形成することができる。また、第1ポリマー材料を、粉砕および整粒してコア粒子を形成し、コア粒子の表面を、第2ポリマー材料で被覆することにより、シェルを形成してもよい。また、コア粒子を乳化重合や懸濁重合により形成し、コア粒子の表面を、第2ポリマー材料で被覆することにより、シェルを形成してもよい。
【0046】
ポリマー粒子において、コアとシェルとの質量比は、15/85〜80/20、好ましくは18/82〜75/25である。このような範囲では、高いグリップ力が得られやすく、剥離強度および粒子間強度を高める上で有利である。
【0047】
ポリマー粒子の平均粒径は、例えば、0.05〜2μm、好ましくは0.1〜1μmである。乳化重合や懸濁重合でポリマー粒子を製造する場合、平均粒径は、通常、0.05〜0.5μm、好ましくは0.08〜0.2μmである。
ポリマー粒子の平均粒径が上記範囲である場合、剥離強度と粒子間強度とをバランスよく高めることができる。
【0048】
コアの平均粒径は、例えば、0.03〜0.5μm、好ましくは0.07〜0.15μmである。
ポリマー粒子やコアの平均粒径とは、ポリマー粒子やコアの体積粒度分布におけるメジアン径(D50)を意味する。ポリマー粒子やコアの体積粒度分布は、例えば、市販のレーザー回折式の粒度分布測定装置により測定することができる。
【0049】
[電極]
上記の電池電極用バインダーを用いることにより、高い剥離強度および粒子間強度を得ることができる。そのため、上記バインダーは、各種一次または二次電池の電極活物質層を形成するのに有用である。中でも、集電体表面に形成される薄膜状の活物質層に使用するのに有用である。特に、リチウムイオンを吸蔵および放出可能な活物質を使用するリチウム二次電池では、充放電に伴う活物質の膨張収縮により、活物質層や活物質粒子が剥離または脱落し易い。本発明の電池電極用バインダーは、このようなリチウム二次電池の電極活物質層に使用しても、高い剥離強度および粒子間強度を得ることができ、充放電を繰り返した場合の電池特性の低下を抑制できる。そのため、特に、リチウム二次電池用電極に使用するのに適している。
【0050】
リチウム二次電池用電極は、集電体と、集電体の表面に形成された活物質層とを含む。活物質層は、リチウムイオンを吸蔵および放出可能な活物質粒子と、本発明の電池電極用バインダーとを含む。
電池電極用バインダーは、正極および負極のいずれか一方の電極に使用すればよく、両方の電極に使用してもよいが、特に、負極に使用するのに適している。
【0051】
(集電体)
正極集電体の材料としては、例えば、ステンレス鋼、アルミニウム、アルミニウム合金、チタンが挙げられる。また、負極集電体の材料としては、例えば、ステンレス鋼、ニッケル、銅、銅合金が挙げられる。
集電体は、無孔の導電性基板であってもよく、複数の貫通孔を有する多孔性の導電性基板であってもよい。無孔の集電体としては、金属箔、金属シートなどが利用できる。多孔性の集電体としては、連通孔(穿孔)を有する金属箔、メッシュ体、パンチングシート、エキスパンドメタルなどが例示できる。
集電体の厚みは、例えば、3〜50μmの範囲から選択できる。
【0052】
(活物質)
正極活物質としては、公知のリチウム二次電池用正極活物質が使用でき、その中でも、リチウム含有複合酸化物、オリビン型リン酸リチウムなどが好ましい。
【0053】
リチウム含有複合酸化物は、リチウムと遷移金属元素とを含む金属酸化物またはこの金属酸化物中の遷移金属元素の一部が異種元素によって置換された酸化物である。遷移金属元素としては、Sc、Y、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Crなどを挙げることができる。これらの遷移金属元素の中でも、Mn、Co、Niなどが好ましい。異種元素としては、Na、Mg、Zn、Al、Pb、Sb、Bなどが挙げられる。これらの異種元素の中でも、Mg、Alなどが好ましい。遷移金属元素及び異種元素は、それぞれ一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて使用できる。
【0054】
リチウム含有複合酸化物の具体例としては、例えば、LixCoO2、LixNiO2、LixMnO2、LixComNi1-m2、LixCom1-mn、LixNi1-mmn、LixMn24、LixMn2-mMnO4などが挙げられる。Mは、Sc、Y、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Cr、Na、Mg、Zn、Al、Pb、SbおよびBよりなる群から選ばれる少なくとも一種の元素を示す。x、mおよびnは、それぞれ、0<x≦1.2であり、0≦m≦0.9であり、2.0≦n≦2.3である。これらのリチウム含有複合酸化物の中でも、LixCom1-mnが好ましい。Mは、少なくともMnおよび/またはNiを含むのが好ましい。
【0055】
オリビン型リン酸リチウムとしては、例えば、LiZPO4、Li2ZPO4Fなどが挙げられる。Zは、Co、Ni、MnおよびFeよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素である。
上記した各組成式において、リチウムのモル比は正極活物質合成直後の値であり、充放電により増減する。正極活物質は一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて使用できる。
【0056】
負極活物質としては、リチウムイオンを可逆的に吸蔵および放出し得る各種材料、例えば、黒鉛型結晶構造を有する材料;ケイ素;ケイ素酸化物などのケイ素含有化合物;Sn、Al、Znおよび/またはMgなどを含むリチウム合金などが例示できる。黒鉛型結晶構造を有する材料としては、例えば、天然黒鉛や球状または繊維状の人造黒鉛、難黒鉛化性炭素、易黒鉛化性炭素などの炭素材料が例示できる。これらの負極活物質は、一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて使用してもよい。好ましい負極活物質は、黒鉛である。
【0057】
負極活物質の粒子の表面は、水溶性高分子で被覆されていてもよい。被覆は、慣用の方法により行うことができる。
水溶性高分子としては、セルロース誘導体;ポリアクリル酸、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンまたはこれらの誘導体などが例示できる。これらのうちでも特に、セルロース誘導体、ポリアクリル酸が好ましい。セルロース誘導体としては、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースのNa塩などが好ましい。
【0058】
(活物質層)
活物質層は、活物質、バインダーおよび分散媒を含むスラリーを、集電体の表面に塗布し、乾燥することにより形成できる。乾燥後、塗膜は、所望の厚みになるように、通常、圧延される。バインダーとして、本発明の電池電極用バインダーを用いることにより、圧延時にバインダー粒子が過度に押し潰されて、剥離強度および活物質粒子間強度が低下することを抑制できる。
活物質層は、集電体の両方の表面に形成してもよく、片方の表面に形成してもよい。
活物質層の厚みは、例えば、10〜100μmである。
【0059】
活物質層における本発明の電池電極用バインダーの質量割合は、活物質粒子100質量部に対して、例えば、0.1〜10質量部、好ましくは0.15〜5質量部、さらに好ましくは0.2〜2質量部である。
【0060】
また、バインダーとしては、本発明の電池電極用バインダーとともに、慣用のバインダーを併用してもよい。また、一方の電極の活物質層に本発明の電池電極用バインダーを用いる場合には、他方の電極の活物質層に、慣用のバインダーを使用してもよい。このような慣用のバインダーとしては、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデンなどのフッ素樹脂;ポリアクリル酸メチルなどのアクリル樹脂;スチレン−ブタジエンゴム、アクリルゴムなどのゴム状樹脂;またはこれらの混合物などが挙げられる。
活物質層における慣用のバインダーの質量割合は、活物質粒子100質量部に対して、例えば、5質量部以下、好ましくは0.1〜2質量部、さらに好ましくは0.2〜2質量部である。
【0061】
分散媒としては、例えば、エタノールなどのアルコール(C1-3アルカノールなど)、アセトンなどのケトン、アセトニトリルなどのニトリル、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)などの有機溶媒、水、またはこれらの混合溶媒などが例示できる。活物質の種類にもよるが、分散媒としては、正極活物質層では、NMPなどの有機溶媒が好ましく、負極活物質層では、水、または水と水溶性有機溶媒との混合溶媒が好ましい。
【0062】
活物質層は、導電剤、増粘剤などを任意成分として含んでもよい。
導電剤としては、カーボンブラック、フッ化カーボン、金属粉末、導電性繊維(炭素繊維、金属繊維など)などが例示できる。活物質が黒鉛でない場合には、導電剤として、天然黒鉛、人造黒鉛などを用いてもよい。導電剤の質量割合は、活物質100質量部に対して、例えば、0.1〜5質量部である。
【0063】
増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)などのセルロース誘導体;ポリエチレングリコールなどのポリC2-4アルキレングリコール;ポリビニルアルコール;可溶化変性ゴムなどが挙げられる。増粘剤の質量割合は、活物質100質量部に対して、例えば、0.1〜5質量部である。
【0064】
活物質が黒鉛の場合、活物質層における活物質密度(黒鉛密度)は、例えば、1.5g/cm3以上、好ましくは1.5〜1.9g/cm3、さらに好ましくは1.6〜1.9g/cm3ある。
【0065】
活物質密度が高い場合、圧延によりバインダー粒子がつぶれやすくなり、粒子間強度が低くなりやすい。しかし、本発明では、バインダー粒子の弾性凝集力が高いため、活物質密度が高い場合であっても、高い粒子間強度が得られる。
【0066】
活物質層における粒子間強度は、活物質粒子が黒鉛粒子であり、活物質密度が1.5〜1.9g/cm3であり、活物質層が、活物質粒子100質量部に対して0.2〜1質量部の電池電極用バインダーを含むとき、例えば、180N/cm2以上、好ましくは200N/cm2以上、さらに好ましくは230N/cm2以上である。粒子間強度の上限は特に制限されないが、例えば、500N/cm2以下である。なお、粒子間強度は、タッキング試験機の測定プローブの先端に、両面テープの一方の面を貼り付け、他方の面を、活物質層に押しつけて引き離し、活物質粒子間で剥離が起こる最大荷重を測定し、測定プローブの断面積で除することにより決定できる。
【0067】
[リチウム二次電池]
リチウム二次電池は、正極および負極、これらの間に介在するセパレータ、並びに非水電解質を有する。正極および負極のいずれか一方または双方が、上記電池電極用バインダーを含む。
【0068】
(セパレータ)
セパレータとしては、樹脂製の、微多孔フィルム、不織布または織布などが使用できる。セパレータを構成する樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン;ポリアミド;ポリアミドイミド;ポリイミドなどが例示できる。
セパレータの厚みは、例えば、5〜100μmである。
【0069】
(非水電解質)
非水電解質は、非水溶媒と、非水溶媒に溶解したリチウム塩とを含む。
非水溶媒としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネートなどの環状炭酸エステル;ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジメチルカーボネートなどの鎖状炭酸エステル;γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトンなどの環状カルボン酸エステルなどが例示できる。これらの非水溶媒は、一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて使用できる。
【0070】
リチウム塩としては、例えば、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiAsF6、LiCF3SO3、LiN(SO2CF32、LiN(SO2252、LiC(SO2CF33などが挙げられる。リチウム塩は、一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて使用できる。
非水電解質中のリチウム塩の濃度は、例えば、0.5〜1.5mol/Lである。
【0071】
非水電解質には、公知の添加剤、例えば、ビニレンカーボネートなどのビニレンカーボネート化合物;ビニルエチレンカーボネート、ジビニルエチレンカーボネートなどのビニル基を有する環状カーボネート化合物;1,3−プロパンサルトン、1,4−ブタンサルトンなどのアルカンサルトン;シクロヘキシルベンゼン、ビフェニル、ジフェニルエーテルなどの芳香族化合物などを添加してもよい。
【0072】
リチウム二次電池は、通常、正極、負極およびこれらを隔離するセパレータを、非水電解質とともに、電池ケースに収容することにより作製できる。
【0073】
図1は、角型のリチウム二次電池を模式的に示す斜視図である。図1では、電池21の要部の構成を示すために、その一部を切り欠いて示している。電池21は、角型電池ケース11内に、扁平状電極群10および非水電解質(図示せず)が収容された角型電池である。
【0074】
正極、負極、およびセパレータ(いずれも図示せず)を、正極と負極とをセパレータで絶縁させた状態となるように重ね合わせて捲回して捲回体を形成する。得られた捲回体を側面から挟み込むようにプレスして扁平状に成形することにより、電極群10を作製する。正極の正極集電体に、正極リード14の一端部を接続し、他端部を、正極端子としての機能を有する封口板12と接続する。負極の負極集電体に、負極リード15の一端部を接続し、他端部を、負極端子13と接続する。封口板12と、負極端子13との間には、ガスケット16が配置され、両者を絶縁している。封口板12と、電極群10との間には、通常、ポリプロピレンなどの絶縁性材料で形成された枠体18が配置され、負極リード15と封口板12とを絶縁している。
【0075】
封口板12は、角型電池ケース11の開口端に接合され、角型電池ケース11を封口する。封口板12には、注液孔17aが形成されており、注液孔17aは、非水電解質を角型電池ケース11内に注液した後に、封栓17により塞がれる。
【実施例】
【0076】
以下、本発明を実施例および比較例に基づいて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0077】
実施例1
(1)バインダーの調製
(a)コア粒子の合成
スチレン399g、トリエチレングリコールジアクリレート35g、アクリル酸7g、イオン交換水350gおよびアニオン性界面活性剤(第一工業製薬社製、ネオゲンRK)21gを、ホモミキサーを用いて混合し、第1モノマー乳化物を得た。
【0078】
オートクレーブに、窒素置換した滴下装置および撹拌機をセットした。オートクレーブ内に、イオン交換水630gを仕込み、撹拌しながら、70℃まで昇温し、イオン交換水70gに過硫酸カリウム4.2gを溶解させた水溶液を添加した。70℃の温度を維持した状態で、撹拌を継続しながら、第1モノマー乳化物およびブタジエン301gを、4時間かけて、圧力封入により滴下し、次いで3時間重合を行った。このような操作により、スチレンブタジエンゴムのコア粒子を含むエマルジョンを得た。
【0079】
コア粒子の平均粒径(体積基準のメジアン径)は、106nmであった。コア粒子を形成するスチレンブタジエンゴム(第1ポリマー材料)のガラス転移点を、示差走査熱量計(TAインスツルメンツ社製、Q2000)を用いて測定したところ、20℃であった。また、第1ポリマー材料のゲル含有量を、既述の方法により測定したところ、70質量%であった。
【0080】
(b)コアシェル粒子の合成
スチレン120g、トリエチレングリコールジアクリレート3g、アクリル酸15g、イオン交換水150gおよびアニオン性界面活性剤(第一工業製薬社製、ネオゲンRK)9gを、ホモミキサーを用いて混合し、第2モノマー乳化物を得た。
【0081】
上記(a)の工程で得られたオートクレーブ内のエマルジョンに、撹拌下、イオン交換水30gに過硫酸カリウム1.8gを溶解させた水溶液を添加した。70℃の温度を維持した状態で、撹拌を継続しながら、第2モノマー乳化物およびブタジエン180gを、4時間かけて、圧力封入により滴下し、次いで5時間重合を行った。このような操作により、コアシェル粒子を含むバインダーエマルジョンを得た。
【0082】
コアシェル粒子の平均粒径(体積基準のメジアン径)は120nmであったため、シェル層の厚みは7nmと推定された。シェルを形成するスチレンブタジエンゴム(第2ポリマー材料)のガラス転移温度およびゲル含有量を上記と同様にして測定したところ、それぞれ、−10℃および30質量%であった。また、JIS K 2501-2003に準じて水酸化カリウム滴定することにより測定したコアシェル粒子の酸価は、40であった。
【0083】
(2)負極の作製
天然黒鉛粒子(平均粒径21μm)100質量部、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩(CMC−Na)1質量部、上記(1)の工程で得られたバインダーエマルジョン固形分として1質量部、および適量の水を双腕型混練機で混練し、スラリーを調製した。
【0084】
このスラリーを、厚さ10μmの銅箔(負極集電体)の両面に塗布し、塗膜を乾燥した後、2000N/cmの線圧で圧延し、負極を作製した。両面の負極活物質層と負極集電体との合計厚さは150μmであった。その後、負極を所定の寸法に裁断して、帯状の負極を得た。負極の活物質密度は、1.7g/cm3であった。
【0085】
(3)正極の作製
LiNi0.82Co0.15Al0.032(正極活物質)100質量部、アセチレンブラック(導電剤)1質量部、ポリフッ化ビニリデン(バインダー)1質量部および適当量のN−メチル−2−ピロリドンを双腕型混練機で混合し、正極スラリーを調製した。この正極スラリーを厚さ15μmの帯状アルミニウム箔(正極集電体)の両面に塗布し、得られた塗膜を乾燥した後、圧延して、正極を作製した。両面の正極活物質層と正極集電体との合計厚さは120μmであった。その後、正極を所定の寸法に裁断して、帯状の正極を得た。
【0086】
(4)非水電解質の調製
エチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートとを体積比1:3で混合した混合溶媒99質量部に、ビニレンカーボネート1質量部を添加して、混合溶液を得た。この混合溶液に、濃度が1.0mol/LとなるようにLiPF6を溶解することにより、非水電解質を調製した。
【0087】
(5)電池の組み立て
(2)および(3)で得られた正極および負極を用い、次のようにして電極群を作製した。
アルミニウム製正極リードの一端を正極集電体に接続した。ニッケル製負極リードの一端を負極集電体に接続した。正極と負極とを、厚さ16μmのポリエチレン製多孔質シート(セパレータ)で絶縁して、これらを捲回した。得られた捲回式電極群を、25℃環境下、プレス圧0.25MPaでプレスし、扁平状の電極群を作製した。
得られた電極群および(4)で得られた非水電解質を用いて、前述のようにして、図1に示すリチウム二次電池を作製した。
【0088】
比較例1
モノマーの量を、表1のように変更する以外は、実施例1の工程(1)(a)と同様にして、スチレンブタジエンゴムの粒子を含むエマルジョンを得た。
得られたエマルジョンを、バインダーエマルジョンとして用いる以外は、実施例1と同様にして、リチウム二次電池を作製した。
【0089】
実施例2〜4および比較例2および3
モノマーの量を、表1のように変更する以外は、実施例1の工程(1)と同様にして、バインダーエマルジョンを得た。
得られたバインダーエマルジョンを用いる以外は、実施例1と同様にして、リチウム二次電池を作製した。
【0090】
実施例5
ブタジエンに代えて、アクリル酸n−ブチルを用いるとともに、モノマーの量を表1に示す量に変更する以外は、実施例1の工程(1)(a)と同様にして、アクリルゴムのコア粒子を含むエマルジョンを得た。得られたエマルジョンを用いるとともに、モノマーの量を表1に示す量に変更する以外は、実施例1の工程(1)(b)と同様にして、バインダーエマルジョンを得た。
得られたバインダーエマルジョンを用いる以外は、実施例1と同様にして、リチウム二次電池を作製した。
【0091】
実施例6
モノマーの量を、表1のように変更する以外は、実施例1の工程(1)(a)と同様にして、コア粒子を含むエマルジョンを得た。得られたエマルジョンおよびスチレンに代えてテトラフルオロエチレンを用い、ブタジエンを使用しない以外は、実施例1の工程(1)(b)と同様にして、バインダーエマルジョンを得た。
得られたバインダーエマルジョンを用いる以外は、実施例1と同様にして、リチウム二次電池を作製した。
【0092】
実施例7
モノマーの量を、表1のように変更する以外は、実施例1の工程(1)(a)と同様にして、コア粒子を含むエマルジョンを得た。得られたエマルジョン、スチレンに代えてテトラフルオロエチレン、並びにブタジエンに代えてパーフルオロ(メチルビニルエーテル)およびパーフルオロ(プロピルビニルエーテル)を用いる以外は、実施例1の工程(1)(b)と同様にして、バインダーエマルジョンを得た。
【0093】
実施例および比較例で得られた負極、またはリチウム二次電池について、下記の評価を行った。
【0094】
[剥離強度(負極集電体に対する負極活物質層の剥離強度)]
実施例および比較例で得られた負極を裁断して幅15mm、長さ80mmの試験片を作製した。両面テープ(品番:No.151、日東電工(株)製)を試験片の一方の面の負極活物質層に貼り付け、表面が平滑なステンレス鋼基板に固定した。試験片が固定されたステンレス鋼基板を、水平になるように設置した。試験片の長手方向における負極集電体の一端を、引張り試験機(商品名:テンシロン万能試験機RTC1210、(株)エー・アンド・デイ製)の可動冶具に固定し、ステンレス鋼基板の基板面に対して90°の方向に負極集電体を剥離するように設定した。そして、可動治具を移動させ、試験片の負極活物質層と負極集電体とを20mm/分の速度で剥離させた。その際、引張方向は試験片を固定しているステンレス鋼基板の基板面に対して常に90°に維持した。試験片の30mm以上が剥離した時の、安定した引張り強度の数値を読み取り、負極活物質層の負極集電体からの剥離強度(N/m)とした。
【0095】
[粒子間強度(負極活物質層における黒鉛粒子間の接合強度)]
実施例および比較例で得られた負極を裁断し、2cm×3cmの負極片を得た。得られた負極片の一方の面の負極活物質層を剥がし、他方の面の負極活物質層をそのまま残した。この負極片を、ガラス板上に貼り付けた両面テープ(品番:No.515、日東電工(株)製)に、他方の面の負極活物質層と両面テープの接着剤層とが接着するように貼り付けた。次いで、負極片から負極集電体を剥離して負極活物質層を露出させた。これにより、両面テープの片面に負極活物質層が付着した測定用試料を作製した。
【0096】
タッキング試験機(商品名:TAC−II、(株)レスカ製)の測定子(先端直径0.2cm、断面積0.031cm2)の先端に、上記と同じ両面テープを取付けた。次に、測定プローブを、下記試験条件で、負極活物質層に押しつけ、引き離す剥離試験を行った。この剥離試験において、黒鉛粒子間で剥離が起る最大荷重を測定した。測定された最大荷重を測定子の断面積で除した値を、活物質粒子の粒子間強度(N/cm2)とした。なお、測定終了後、評価用試料の測定子側の剥離面を観察し、黒鉛粒子間で剥離が起こっていることを確認した。
【0097】
試験条件:プローブの押し込み速度30mm/分
プローブの押し込み時間10秒
プローブの押し込み荷重3.9N
プローブの引き離し速度600mm/分
【0098】
[電池容量]
実施例および比較例で得られたリチウム二次電池について、充放電サイクルを3回繰返し、3回目の放電容量を求め、電池容量(mAh)とした。なお、1回の充放電サイクルでは、200mAの電流で4.2Vの終止電圧まで定電流充電し、4.2Vの電圧で20mAの終止電流まで定電圧充電し、20分休止し、次いで、200mAの電流で4.2Vの終止電圧まで定電流放電した後、20分休止した。
【0099】
[容量維持率]
実施例および比較例のリチウム二次電池について、45℃において、充放電サイクルを500回繰り返した。1回の充放電サイクルでは、500mAの電流で4.2Vの終止電圧まで定電流充電し、4.2Vの電圧で100mAの終止電流まで定電圧充電し、次いで、500mAの電流で3Vの終止電圧まで定電流放電した。
そして、1回目の放電容量に対する500回目の放電容量の百分率として、容量維持率(%)を求めた。
【0100】
上記の評価結果を、表1に示す。また、表1には、実施例および比較例で使用したモノマーの種類および量、得られた第1および第2ポリマー材料のガラス転移点(℃)およびゲル含有量(質量%)を、コアシェル粒子の物性とともに示す。
【0101】
【表1】

【0102】
実施例の負極では、剥離強度および黒鉛粒子間強度のいずれも高かった。つまり、実施例の負極は、負極集電体と負極活物質層との密着性に優れるとともに、黒鉛粒子間の結着性が高い。
【0103】
一方、比較例1および2の負極では、高い電池容量および容量維持率が得られるものの、剥離強度および黒鉛粒子間強度のいずれも顕著に低かった。比較例1の負極では、バインダー粒子内部および表面ともにTgおよびゲル含有量が高いため、バインダー粒子内の弾性凝集力が高く、変形しにくい。そのため、圧延によりバインダー粒子がつぶれて黒鉛粒子表面を過度に覆うことがなく、電池特性の低下が抑制されたと考えられる。しかし、バインダー粒子表面のTgおよびゲル含有量が高いため、黒鉛粒子や集電体に対するグリップ力が低くなり、剥離強度および黒鉛粒子間強度は低くなったと考えられる。また、粒子間強度が低くなったのは、バインダー粒子表面のTgが高いことにより、圧延時の黒鉛粒子に対するアンカー効果が十分に得られなかったことも一因であると考えられる。
【0104】
比較例2の負極では、第2ポリマー材料のTgおよびゲル含有量が高いため、グリップ力が極めて低く、第1ポリマー材料のTgおよびゲル含有量が低いため、バインダー粒子内(コア)の弾性凝集力が低い。そのため、剥離強度および黒鉛粒子間強度が低くなったと考えられる。比較例2の負極では、コアの弾性凝集力は低いが、第2ポリマー材料のTgおよびゲル含有量が高いため、シェルが硬く、つぶれにくい。そのため、圧延時の変形が抑制され、黒鉛粒子の表面を過度に被覆することがなく、電池特性の低下は抑制されたと考えられる。
【0105】
実施例と比較例3とでは、負極に使用したバインダー粒子の表面の物性は変わらないが、黒鉛粒子間強度に大きな差が生じている。これは、コアの物性が、黒鉛粒子間強度に大きく影響することを示唆している。比較例3の負極では、シェルのTgおよびゲル含有量が低いため、グリップ力やアンカー効果はある程度確保でき、剥離強度が高くなっている。しかし、実施例に比べて、黒鉛粒子間強度が顕著に低いのは、コアの弾性凝集力が低いことによるものと考えられる。また、コアの弾性凝集力が低いため、粒子がつぶれやすい。そのため、比較例3では、負極の圧延時にバインダー粒子が変形して、黒鉛粒子表面を過度に被覆することにより、電池容量および容量維持率が低下したと考えられる。
【0106】
上記比較例の結果を考慮すると、実施例の負極では、第1ポリマー材料のTgおよびゲル含有量が、第2ポリマー材料よりも高いため、コアにより弾性凝集力を高めることができる。また、シェルにより集電体および黒鉛粒子に対するグリップ力、ならびに黒鉛粒子に対するアンカー効果を高めることができる。そのため、剥離強度および黒鉛粒子間強度を向上できたと考えられる。また、バインダー粒子内の弾性凝集力が高いため、圧延時の変形により、黒鉛粒子表面が過度に被覆されることがなく、高い電池容量および容量維持率を確保できたと考えられる。
【0107】
実施例2の負極では、非常に高い剥離強度および黒鉛粒子間強度が得られている。これは、バインダー粒子におけるシェルの質量比が大きく、平均粒径も大きいため、圧延時に集電体や黒鉛粒子に対するバインダー粒子の接触面積が大きくなり、グリップ力がさらに向上したことによるものと考えられる。また、第2ポリマー材料のTgが低いため、アンカー効果が高くなり、第1ポリマー材料のTgが高いため、コアの弾性凝集力がさらに大きくなったと考えられる。
【0108】
実施例6および7では、第2ポリマー材料に、結晶性の高いテトラフルオロエチレンユニットを含むポリマーを用いている。そのため、圧延時にシェルを形成する第2ポリマーがフィブリル化して、高いグリップ力が得られる。また、酸価が高いため、金属集電体との接着性がさらに向上する。そのため、十分な剥離強度および黒鉛粒子間強度を確保できると考えられる。なお、実施例6および7で使用した第2ポリマー材料は、架橋成分を含まないため、ゲル含有量は実質的に0%である。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明の電池電極用バインダーは、リチウム二次電池用の電極に使用するのに有用であり、このような電極を具備するリチウム二次電池は、携帯用電子機器の電源として有用である。携帯用電子機器には、パーソナルコンピュータ、携帯電話、モバイル機器、携帯情報端末(PDA)、携帯用ゲーム機器、ビデオカメラなどがある。また、本発明の電極は、ハイブリッド電気自動車、燃料電池自動車、プラグインHEVなどにおける電気モータ駆動用の主電源または補助電源、電動工具、掃除機、ロボットなどの駆動用電源などに利用されるリチウム二次電池用電極として期待される。
【符号の説明】
【0110】
10 電極群
11 角型電池ケース
12 封口板
13 負極端子
14 正極リード
15 負極リード
16 ガスケット
17 封栓
17a 注液孔
18 絶縁性枠体
21 リチウム二次電池

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コアシェル構造を有するポリマー粒子を含み、
前記ポリマー粒子のコアを形成する第1ポリマー材料のガラス転移温度が、シェルを形成する第2ポリマー材料のガラス転移温度よりも高く、前記第1ポリマー材料のゲル含有量が、前記第2ポリマー材料のゲル含有量よりも高い、電池電極用バインダー。
【請求項2】
前記第1ポリマー材料の前記ゲル含有量が50〜80質量%であり、前記第2ポリマー材料の前記ゲル含有量が50質量%未満である、請求項1に記載の電池電極用バインダー。
【請求項3】
前記第1ポリマー材料の前記ゲル含有量が50〜75質量%であり、前記第2ポリマー材料の前記ゲル含有量が18〜45質量%である、請求項1または2に記載の電池電極用バインダー。
【請求項4】
前記第1ポリマー材料の前記ガラス転移温度が0℃以上であり、前記第2ポリマー材料の前記ガラス転移温度が0℃未満である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の電池電極用バインダー。
【請求項5】
前記第1ポリマー材料の前記ガラス転移温度が10℃以上であり、前記第2ポリマー材料の前記ガラス転移温度が−10℃以下である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の電池電極用バインダー。
【請求項6】
前記第1ポリマー材料および前記第2ポリマー材料が、ジエン、(メタ)アクリル酸エステルおよびフッ素化アルキルビニルエーテルから選択された少なくとも一種の第1モノマーを構成単位として含む共重合体である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の電池電極用バインダー。
【請求項7】
前記第1ポリマー材料における前記第1モノマー単位の含有量Wp1が、25〜60質量%であり、前記第2ポリマー材料における前記第1モノマー単位の含有量Wp2が、50〜80質量%であり、かつ前記Wp1より多い、請求項6に記載の電池電極用バインダー。
【請求項8】
前記共重合体が、さらに、芳香族ビニル、シアン化ビニルおよびハロゲン化オレフィンからなる群より選択された少なくとも一種の第2モノマーを構成単位として含む、請求項6または7に記載の電池電極用バインダー。
【請求項9】
前記第1ポリマー材料および第2ポリマー材料が、さらに、重合性不飽和カルボン酸を構成単位として含み、第2ポリマー材料の酸価が5〜100である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の電池電極用バインダー。
【請求項10】
前記ポリマー粒子の平均粒径が、0.05〜2μmである、請求項1〜9のいずれか1項に記載の電池電極用バインダー。
【請求項11】
前記コアと前記シェルとの質量比が、15/85〜80/20である、請求項1〜10のいずれか1項に記載の電池電極用バインダー。
【請求項12】
集電体と、前記集電体の表面に形成された活物質層とを含み、
前記活物質層が、リチウムイオンを吸蔵および放出可能な活物質粒子と、請求項1〜11のいずれか1項に記載の電池電極用バインダーとを含む、リチウム二次電池用電極。
【請求項13】
前記活物質粒子が黒鉛粒子であり、活物質密度が1.5〜1.9g/cm3であり、前記活物質層が、前記活物質粒子100質量部に対して0.2〜2質量部の前記電池電極用バインダーを含み、前記活物質層における粒子間強度が、180N/cm2以上である請求項12に記載のリチウム二次電池用電極。

【図1】
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【公開番号】特開2013−73921(P2013−73921A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−214554(P2011−214554)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】