説明

電池電極用バインダーおよび電池電極

【課題】電極活物質を集電体へ付着させる際の結着力が良好な電池電極用バインダー、および当該バインダーを用いた電池電極の提供。
【解決手段】電池電極用バインダーであり、当該バインダーが1、3−ブタジエン20〜60重量%、スチレン20〜79重量%、エチレン性不飽和カルボン酸系単量体0.1〜10重量%、これらと共重合可能な他の単量体0〜59.9重量%から構成される単量体を乳化重合して得られた共重合体ラテックスであって、当該共重合体ラテックス中に残留する4−フェニルシクロヘキセンが、該共重合体ラテックスの固形分に対して80ppm以下であることを特徴とする電池電極用バインダーおよび当該バインダーを用いた電池電極。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電池電極用バインダーと当該電池電極用バインダーを用いて作製した電池電極に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオンを吸蔵放出する電極活物質を電極に用いたリチウムイオン二次電池は軽量でエネルギー密度が大きいというその特徴から、小型電子機器の電源として重要性が増している。このリチウムイオンを吸蔵放出する電極活物質を主とした電極は、結着剤として通常、ポリマーバインダーが利用されている。このポリマーバインダーには、活物質との接着性、電解液として使用される極性溶媒に対する耐性、電気化学的な環境下での安定性が求められる。従来から、ポリフッ化ビニリデンなどのフッ素系のポリマーがこの分野に利用されているが、電極膜を形成した際に導電性を阻害し、集電体と電極膜間の接着強度が不足するなどの問題点がある。また、フッ素系のポリマーを還元条件となる負極に用いた場合は安定性が十分でなく、二次電池のサイクル性が低下するなど問題点もあり、これらの問題点の改良が望まれている。このため、非フッ素系ポリマーの開発が行われている。たとえば特開昭63−121257号公報(特許文献1)ではアクリロニトリル系のポリマーが、特開平1−186557号公報(特許文献2)にはポリエステル系のポリマーが記載されているが、上記の問題点の解決には十分とはいえない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭63−121257号公報
【0004】
【特許文献2】特開平1−186557号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、電極活物質を集電体へ付着させる際の結着力が良好な電池電極用バインダー、および当該電池電極用バインダーを用いた電池電極を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる課題を解決すべく鋭意検討した結果、電池電極用バインダーとして使われる共重合体ラテックスにおいて、重合過程にて副生産される1,3−ブタジエンとスチレンとの反応生成物である4−フェニルシクロヘキセンを特定量以下に制限することにより、上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は電池電極用バインダーであって、当該電池電極用バインダーが1、3−ブタジエン20〜60重量%、スチレン20〜79重量%、エチレン性不飽和カルボン酸系単量体0.1〜10重量%、これらと共重合可能な他の単量体0〜59.9重量%から構成される単量体を乳化重合して得られた共重合体ラテックスであって、当該共重合体ラテックス中に残留する4−フェニルシクロヘキセンが、当該共重合体ラテックスの固形分に対して80ppm以下であることを特徴とする電池電極用バインダーおよび当該電池電極用バインダーを用いた電池電極を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の電池電極用バインダーを用いた場合、電極活物質と当該電池電極用バインダーとの混合物である電池電極用組成物と、集電体との結着力が良好な電池電極が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に本発明について詳しく説明する。
本発明における共重合体ラテックスを構成するエチレン性不飽和カルボン酸系単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマール酸、イタコン酸などのモノまたはジカルボン酸(無水物)等が挙げられ、これらを1種または2種以上使用することができる。
【0009】
本発明における共重合体ラテックスを構成する共重合可能な他の単量体としては、アルケニル芳香族系単量体(スチレンを除く)、不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体、ヒドロキシアルキル基を含有する不飽和単量体、シアン化ビニル系単量体、不飽和カルボン酸アミド系単量体等が挙げられる。
【0010】
アルケニル芳香族系単量体(スチレンを除く)としては、α−メチルスチレン、メチルα−メチルスチレン、ビニルトルエンおよびジビニルベンゼン等が挙げられ、これらを1種または2種以上使用することができる。
【0011】
不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体としては、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、ブチルアクリレート、グリシジルメタクリレート、ジメチルフマレート、ジエチルフマレート、ジメチルマレエート、ジエチルマレエート、ジメチルイタコネート、モノメチルフマレート、モノエチルフマレート、2−エチルヘキシルアクリレート等が挙げられ、これらを1種または2種以上使用することができる。特にメチルメタクリレートの使用が好ましい。
【0012】
ヒドロキシアルキル基を含有する不飽和単量体としてはβ−ヒドロキシエチルアクリレート、β−ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、ヒドロキシブチルアクリレート、ヒドロキシブチルメタクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、ジ−(エチレングリコール)マレエート、ジ−(エチレングリコール)イタコネート、2−ヒドロキシエチルマレエート、ビス(2−ヒドロキシエチル)マレエート、2−ヒドロキシエチルメチルフマレートなどが挙げられ、これらを1種または2種以上使用することができる。特にβ−ヒドロキシエチルアクリレートの使用が好ましい。
【0013】
シアン化ビニル系単量体としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−クロルアクリロニトリル、α−エチルアクリロニトリルなどが挙げられ、これらを1種または2種以上使用することができる。特にアクリロニトリルまたはメタクリロニトリルの使用が好ましい。
【0014】
不飽和カルボン酸アミド系単量体としては、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミドなどが挙げられ、これらを1種または2種以上使用することができる。特にアクリルアミドまたはメタクリルアミドの使用が好ましい。
【0015】
上記の単量体組成は、1、3−ブタジエン20〜60重量%、スチレン20〜79重量%、エチレン性不飽和カルボン酸系単量体0.1〜10重量%、これらと共重合可能な他の単量体0〜59.9重量%から構成される。
【0016】
1、3−ブタジエンが20重量%未満では、本発明の電池電極用バインダーを含む電池電極用組成物を集電体に塗布した際に、十分な結着力が得られず、また60重量%を超えると本発明の電池電極を製造した際に耐電解液性が低下する問題が見られる。好ましくは30〜55重量%である。
【0017】
エチレン性不飽和カルボン酸系単量体が0.1重量%未満では共重合体ラテックス自身および電池電極用組成物の安定性が劣るため、また10重量%を超えるとラテックスの粘度が高くなり、共重合体ラテックス自身の取り扱い上の問題を生じる。好ましくは1〜7重量%である。
【0018】
スチレンが20重量%未満では本発明の電池電極を用いて電池を製造した際に耐電解液性が低下し、79重量%を超えると本発明の電池電極用バインダーを含む電池電極用組成物を集電体に塗布した際に、電極活物質との結着力が十分に得られない。好ましくは38〜69重量%である。
【0019】
本発明の共重合体ラテックス中に残留する4−フェニルシクロヘキセンの量は、該ラテックスの固形分に対して80ppm以下であることが必要である。4−フェニルシクロヘキセンの残留量が80ppmを越えると、本発明の電池電極用バインダーを電極活物質と混合し、集電体に塗布した際に十分な結着力が得られない。好ましくは40ppm以下であり、さらに好ましくは20ppm以下である。
なお、残留4−フェニルシクロヘキセン量を低減する方法については、共重合体ラテックスの単量体組成およびその添加方法、重合温度により適宜調整することができる。さらには、重合後の水蒸気蒸留の条件、加温下の減圧処理の条件により適宜調整することが可能である。これらの条件のうち、水蒸気蒸留温度を好ましくは75℃以上にする、さらに好ましくは85℃以上、それ以上に好ましいのは98℃以上にすることで残留4−フェニルシクロヘキセン量を低減させることが出来る。また、水蒸気蒸留を行う時間については、例えば同じ水蒸気蒸留温度で比較すると、未反応単量体を除去するのに必要な時間を基準とした場合、少なくとも3割以上時間を長くすることで、残留4−フェニルシクロヘキセン量を低減させることが出来る。
【0020】
本発明の共重合体ラテックスの重合方法は、一段重合、二段重合、多段階重合、シード重合、パワーフィード重合法等何れを採用してもよい。また、本発明の重合方法における各種成分の添加方法についても特に制限されるものではなく、一括添加方法、分割添加方法、連続添加方法の何れも採用することができる。
さらに、乳化重合を行う際には、常用の乳化剤、重合開始剤、還元剤、連鎖移動剤、酸化還元触媒、炭化水素系化合物、電解質、重合促進剤、キレート剤等を使用することができる。
【0021】
本発明の乳化重合は、水を媒体として、乳化剤の存在下にて行われる。本発明の乳化重合時に使用される乳化剤としては、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、両性界面活性剤、さらにはカチオン性界面活性剤の内の1種類以上をそれぞれ単独または組み合わせて使用することができる。アニオン性界面活性剤としては、高級アルコールの硫酸エステル塩(ラウリル硫酸ナトリウム、ドデシル硫酸ナトリウム)、アルキルベンゼンスルホン酸塩(ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸カリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸アンモニウム塩)、アルキルジフェニルエーテルスルホン酸塩(ドデシルジフェニルエーテルスルホン酸ナトリウム、ドデシルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム、パルミチルジフェニルオキシドジスルホン酸ジナトリウム)、脂肪族スルホン酸塩(α−オレフィン(C11〜C15)スルホン酸ナトリウム、ラウリルスルホン酸ナトリウム)、エトシキ化硫酸塩(アルキルフェノールエトキシレート硫酸ナトリウム)、スルホコハク酸のエステル(ジヘキシルスルホコハク酸ナトリウム、ジシクロへキシルスルホコハク酸ナトリウム、ジアミルスルホコハク酸ナトリウム、ジイソブチルスルホコハク酸ナトリウム、スルホコハク酸ジナトリウムエトキシ化ノニルフェノール1/2エステルテトラナトリウムN,(1,2−ジカルボキシエチル)−N−オクタデシルスルホスクシナネート、イソデシルスルホコハク酸ジナトリウム、ビストリデシルスルホコハク酸ナトリウム)、縮合ナフタレンスルホン酸塩のナトリウム塩、アルキルアリルスルホン酸塩(硫酸アルキルアリルポリエーテルのナトリウム塩)、脂肪族カルボン酸塩(ラウリン酸、ステアリン酸、モンタン酸、ベヘン酸、パルミチン酸のナトリウム塩又はカリウム塩)、ノニオン性界面活性剤の硫酸エステル塩(ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリルム、ポリオキシエチレンセチルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンステアリルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンオレイルエーテル硫酸ナトリウム等のポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸エステル塩;ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル硫酸ナトリウム等のポリオキシアルキレンアリールエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレン(7)[ジスチレン化(メチルフェニルエーテル)]硫酸エステルアンモニウム塩、ポリオキシプロピレン(8)[ジスチレン化(メチルフェニルエーテル)]硫酸エステルアンモニウム塩、ポリオキシエチレン(30)[ジスチレン化(メチルフェニルエーテル)]硫酸エステルアンモニウム塩、ポリオキシエチレン(12)[ジスチレン化(ブチルフェニルエーテル)]硫酸エステルナトリウム塩、ポリオキシエチレン(10)[メチルジスチレン化(メチルフェニルエーテル)]硫酸エステルナトリウム塩、ポリオキシプロピレン(20)[メチルジスチレン化(メチルフェニルエーテル)]硫酸エステルナトリウム塩、[ポリオキシプロピレン(5)ポリオキシエチレン(6)]ランダム[ジスチレン化(メチルフェニルエーテル)]硫酸エステルアンモニウム塩、[ポリオキシプロピレン(10)ポリオキシエチレン(20)]ブロック[ジスチレン化メチルフェニルエーテル)]硫酸エステルナトリウム塩)等が挙げられる。また、ノニオン性界面活性剤としては、ポリエチレングリコールのアルキルエステル型、アルキルフェニルエーテル型、アルキルエーテル型(ポリエチレングリコールモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンラウリルエステル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル)等が挙げられる。さらに、両性界面活性剤としては、ラウリルベタイン、ステアリルベタインの塩などのアルキルベタインの塩、ラウリル−β−アラニン、ラウリルジ(アミノエチル)グリシン、オクチルジ(アミノエチル)グリシンの塩等のアミノ酸型のもの等が挙げられる。
【0022】
重合開始剤としては、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の水溶性重合開始剤、クメンハイドロパーオキサイド、過酸化ベンゾイル、t−ブチルハイドロパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド等の油溶性重合開始剤を適宜用いることができる。特に過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウムの水溶性重合開始剤、クメンハイドロパーオキサイドの油溶性重合開始剤の使用が好ましい。
【0023】
本発明において好ましく用いられる還元剤の具体例としては、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、ピロ亜硫酸塩、亜ニチオン酸塩、ニチオン酸塩、チオ硫酸塩、ホルムアルデヒドスルホン酸塩、ベンズアルデヒドスルホン酸塩、また、L−アスコルビン酸、エリソルビン酸、酒石酸、クエン酸などのカルボン酸類及びその塩、更にはデキストロース、サッカロースなどの還元糖類、更にはジメチルアニリン、トリエタノールアミンなどのアミン類が挙げられる。特にL−アスコルビン酸、エリソルビン酸、が好ましい。
【0024】
本発明において使用することのできる連鎖移動剤としては、α−メチルスチレンダイマー、n−ヘキシルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、t−オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、n−ステアリルメルカプタン等のアルキルメルカプタン、ジメチルキサントゲンジサルファイド、ジイソプロピルキサントゲンジサルファイド等のキサントゲン化合物、ターピノレン、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラメチルチウラムモノスルフィド等のチウラム系化合物、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、スチレン化フェノール等のフェノール系化合物、アリルアルコール等のアリル化合物、ジクロルメタン、ジブロモメタン、四臭化炭素等のハロゲン化炭化水素化合物、α−ベンジルオキシスチレン、α−ベンジルオキシアクリロニトリル、α−ベンジルオキシアクリルアミド等のビニルエーテル、トリフェニルエタン、ペンタフェニルエタン、アクロレイン、メタアクロレイン、チオグリコール酸、チオリンゴ酸、2−エチルヘキシルチオグリコレート等が挙げられ、これらを1種または2種以上使用することができる。特に、n−オクチルメルカプタンやt−ドデシルメルカプタンが好ましい。
これらの連鎖移動剤の量は特に限定されないが、通常、単量体100重量部に対して0〜5重量部にて使用される。
【0025】
また、重合に際して、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン等の飽和炭化水素、ペンテン、ヘキセン、ヘプテン、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロヘプテン、4−メチルシクロヘキセン、1−メチルシクロヘキセン等の不飽和炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素などの炭化水素化合物を使用しても良い。特に、沸点が適度に低く、重合終了後に未反応物として残留した成分を水蒸気蒸留などによって回収、再利用しやすいシクロヘキセンが好適である。
【0026】
さらに、共重合体ラテックスには、必要に応じて、老化防止剤、防腐剤、分散剤、増粘剤などを適宜添加することができる。
【0027】
本発明の共重合体ラテックスのゲル含有量については特に制限はないが、電池電極用組成物と電極活物質との結着力といった観点からみて、好ましいゲル含有量は40〜100重量%である。ゲル含有量が40%未満ではポリマーとしての凝集力が小さくなるため、十分な結着力が得られない。
【0028】
また、上記共重合体ラテックスの数平均粒子径についても特に制限はないが50〜250nmであるラテックスが好ましい。さらに好ましくは70〜200nmである。数平均粒子径が50nm未満では電極用組成物の粘度が高く取り扱いづらくなり、250nmを超えると電極用組成物の粘度の経時変化が大きくなるので好ましくない。
【0029】
本発明の電池電極用バインダーは例えば、リチウムイオン二次電池、ニッケル水素電池、ニッケルカドミウム電池などの二次電池の電極を形成するために用いられる。正極活物質または負極構成材の粒子同士、および、正極活物質または負極構成材と集電体とを結着させる。具体的には、本発明の電池電極用バインダーを、正極活物質または負極構成材に配合することにより、電池電極用組成物が調製される。すなわち、電池電極用バインダーを正極活物質に配合することにより、二次電池の正極に用いられる正極用組成物が調製される。また、電池電極用バインダーを負極構成材に配合することにより、二次電池の負極に用いられる負極用組成物が調製される。
【0030】
以下に、本発明の電池電極用バインダーをリチウムイオン二次電池に使用する場合について、具体的に説明する。
正極活物質としては、特に限定されないが、例えば、MnO2、MoO3、V2O5、V6O13、Fe2O3、Fe3O4などの遷移金属酸化物、LiCoO2、LiMnO2、LiNiO2、LiXCoYSnZO2などのリチウムを含む複合酸化物、LiFePO4などのリチウムを含む複合金属酸化物、例えば、TiS2、TiS3、MoS3、FeS2などの遷移金属硫化物、例えば、CuF2、NiF2などの金属フッ化物が挙げられ、1種あるいは2種以上用いることができる。
負極構成材としては、特に限定されないが、非水電解液二次電池の場合、例えば、フッ化カーボン、黒鉛、炭素繊維、樹脂焼成炭素、リニア・グラファイト・ハイブリット、コークス、熱分解気層成長炭素、フルフリルアルコール樹脂焼成炭素、メソカーボンマイクロビーズ、メソフェーズピッチ系炭素、黒鉛ウィスカー、擬似等方性炭素、天然素材の焼成体、およびこれらの粉砕物などの導電性炭素質材料、例えば、ポリアセン系有機半導体、ポリアセチレン、ポリ−p−フェニレンなどの導電性高分子などが挙げられ、1種あるいは2種以上用いることができる。
電池電極用組成物を調製する場合には、電池電極用バインダーを、正極活物質または負極構成材100重量部に対して、共重合体ラテックスの固形分が、例えば、0.1〜10重量部、好ましくは0.5〜5重量部となるように配合する。本発明の電池電極用バインダーの配合量が0.1重量部未満では、集電体に対する良好な結着力が得られず、10重量部を超えると電気抵抗が大きくなり電池特性に悪影響をおよぼす。
【0031】
本発明の電池電極用バインダーは必要に応じて、水溶性増粘剤などの各種添加剤が添加されていてもよい。例としてはカルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸(塩)、酸化スターチ、リン酸化スターチ、カゼインなどの水溶性増粘剤、ヘキサメタリン酸ソーダ、トリポリリン酸ソーダ、ピロリン酸ソーダ、ポリアクリル酸ソーダなどの分散剤、ラテックスの安定化剤としてのノニオン性、アニオン性界面活性剤などが挙げられる。
【0032】
本発明の電池電極用バインダーは電極活物質(正極活物質または負極構成材)と混合し、スラリー状にして集電体に塗布し、乾燥することによって電池電極として使用されるものである。また、上記スラリーを集電体に塗布する方法としてはリバースロール法、コンマバー法、グラビヤ法、エアーナイフ法など任意のコーターヘッドを用いることができ、乾燥方法としては放置乾燥、送風乾燥機、温風乾燥機、赤外線加熱機、遠赤外線加熱機などが使用できる。乾燥温度は、通常50℃以上で行う。
【0033】
本発明の電池電極用バインダーを用いて電池を製造する際には集電体、セパレーター、非水系電解液、端子、絶縁体、電池容器等について既存のものが特に制限無く使用可能である。
【実施例】
【0034】
以下実施例を挙げ、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を変更しない限り、これらの実施例に限定されるものではない。なお実施例中、割合を示す部および%は重量基準によるものである。また実施例における共重合ラテックスの作成方法、諸物性の評価は次の方法に拠った。
【0035】
共重合体ラテックスの粒子径の測定
共重合体ラテックスの数平均粒子径は動的光散乱法により測定した。尚、測定に際しては、FPAR−1000(大塚電子製)を使用した。
【0036】
共重合体ラテックスの残留4−フェニルシクロヘキセンの測定
共重合体ラテックス中の残留4−フェニルシクロヘキセンは、島津製作所社製ガスクロマトグラフGC−14Aを用いて以下の方法で行った。
(1)サンプルの作成
共重合体ラテックス1g(固形分 45〜50重量%)を精秤し、アセトン25mlに溶解した後密閉容器内で24時間放置後、これを測定試料とした。
(2)ガスクロマトグラフ測定条件
サンプル量 :5μl
検出器 :FID
Inj/Det温度 :200℃
カラム温度 :80℃×40min後、180℃×20min
カラム :ガラスカラム20m×1.2mmφ
固定相 :メチルシリコン
液膜厚 :3μm
キャリアーガス :ヘリウム、20ml/min.
水素 :0.7kg/cm2
エアー :0.9kg/cm2
(3)定量方法
既知濃度のフェニルシクロヘキサンを用いて作成した検量線を用いて、得られたガスクロマトグラフより共重合体ラテックス固形分に対するフェニルシクロヘキサンの定量値を残留4−フェニルシクロヘキセンとして求めた。同一試料について3回測定し、平均値をppmの単位で示した。
【0037】
共重合体ラテックスのゲル含有量の測定
室温雰囲気にてラテックスフィルムを作成する。その後ラテックスフィルムを約1g秤量し、これを400ccのトルエンに入れ48時間膨潤・溶解させる。その後、これを300メッシュの金網で濾過し、金網に捕捉されたトルエン不溶部を乾燥後秤量し、はじめのラテックスフィルムの重量に対するトルエン不溶部の乾燥後の重量の割合をゲル含有量として重量%で算出した。
【0038】
共重合体ラテックス(1)、(2)、(5)、(7)の作成
耐圧性の重合反応機に、重合水120部、乳化剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.6部、重炭酸ナトリウム0.2部、過硫酸カリウム0.9部、シクロヘキセン8部を仕込み、十分攪拌した後、表1および表2に示す一段目の各単量体およびt―ドデシルメルカプタンを添加して60℃で1時間重合を行い、70℃に温度を上げて、表1および表2の2段目に示す各単量体およびt―ドデシルメルカプタンを7時間で連続添加した後に、重合転化率が97%になるまで重合を継続して終了した。
次いで、これら共重合体ラテックスを、表1および表2に示す条件下にて水蒸気蒸留を行い、未反応単量体等を除去し、表1および表2に示す粒子径、ゲル含有量、4−フェニルシクロヘキセン量の共重合体ラテックス(1)、(2)、(5)、(7)を得た。
【0039】
共重合体ラテックス(3)の作成
耐圧性の重合反応機に、重合水120部、乳化剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.6部、重炭酸ナトリウム0.2部、過硫酸カリウム0.9部、シクロヘキセン8部を仕込み、十分攪拌した後、表1に示す一段目の各単量体およびt―ドデシルメルカプタンを添加して60℃で1時間重合を行い、65℃に温度を上げて、表1の2段目に示す各単量体およびt―ドデシルメルカプタンを4時間で連続添加した後に、更に70℃に温度を上げて、表1の3段目に示す各単量体およびt―ドデシルメルカプタンを3時間で連続添加した。更に重合転化率が97%になるまで重合を継続して終了した。
次いで、これら共重合体ラテックスを、表1に示す条件下にて水蒸気蒸留を行い、未反応単量体等を除去し、表1に示す粒子径、ゲル含有量、4−フェニルシクロヘキセン量の共重合体ラテックス(3)を得た。
【0040】
共重合体ラテックス(4)の作成
耐圧性の重合反応機に重合水120部、乳化剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.6部、重炭酸ナトリウム0.2部、過硫酸カリウム0.9部、シクロヘキセン8部を仕込み、十分攪拌した後、表2に示す一段目の各単量体およびt―ドデシルメルカプタンを添加して55℃で1時間重合を行い、70℃に温度を上げて、表2の2段目に示す各単量体およびt―ドデシルメルカプタンを3時間で連続添加した後に、重合転化率が97%になるまで重合を継続して終了した。
次いで、これら共重合体ラテックスを、表2に示す条件下にて水蒸気蒸留を行い、未反応単量体等を除去し、表2に示す粒子径、ゲル含有量、4−フェニルシクロヘキセン量の共重合体ラテックス(4)を得た。
【0041】
共重合体ラテックス(6)の作成
耐圧性の重合反応機に、重合水120部、乳化剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.6部、重炭酸ナトリウム0.2部、過硫酸カリウム0.9部、シクロヘキセン8部を仕込み、十分攪拌した後、表2に示す一段目の各単量体およびt―ドデシルメルカプタンを添加して60℃で1時間重合を行い、70℃に温度を上げて、表2の2段目に示す各単量体およびt―ドデシルメルカプタンを7時間で連続添加した後に、重合転化率が97%になるまで重合を継続して終了した。
次いで、これら共重合体ラテックスを、表2に示す条件下にて水蒸気蒸留を行い、未反応単量体等を除去し、表2に示す粒子径、ゲル含有量、4−フェニルシクロヘキセン量の共重合体ラテックス(6)を得た。
【0042】
電極用組成物の作成
(1)正極用組成物の作成
正極活物質としてLiCoO2を100重量部に対して、導電剤としてアセチレンブラックを5重量部、結着剤として共重合体ラテックス(1)〜(7)4重量部とを全固形分が40%となるように適量の水を加えて混練し、正極用組成物スラリーを調製した。
(2)負極用組成物の作成
負極構成材として平均粒子径が20μmの天然黒鉛を使用し、天然黒鉛100重量部に対して、固形分で増粘剤としてカルボキシメチルセルロース水溶液を2重量部、共重合体ラテックス(1)〜(7)4重量部とを全固形分が40%となるように適量の水を加えて混練し、負極用組成物スラリーを調製した。
【0043】
電極の作製
(1)正極の作成
各々の正極用組成物を、集電体となる厚さ20μmのアルニミウム箔の両面に塗布し、120℃で20分乾燥し、プレス(室温)で圧縮成型して実施例1〜3および、比較例1〜4の正極をそれぞれ作成した。塗工層の厚みが80μm(片面あたり)の正極を得た。これらの評価内容については以下のとおりである。
(2)負極の作成
各々の負極用組成物を、集電体となる厚さ20μmの銅箔の両面に塗布し、120℃で20分乾燥し、プレス(室温)で圧縮成型して実施例1〜3および、比較例1〜4の負極をそれぞれ作成した。塗工層の厚みが80μm(片面あたり)の負極を得た。これらの評価内容については以下のとおりである。
【0044】
電極塗工層の結着力評価
上記の方法で得られた電極シートの表面に、ナイフを用いて塗工層から集電体に達する深さまでの切り込みを2mm間隔で縦横それぞれ6本入れ、25個(5個×5個)のマス目を有する碁盤目を形成した。この切り込みに粘着テープを貼り付けて直ちに引き剥がし、活物質の脱落の程度を目視判定で、下記の通り評価した。評価結果については表1および表2に示した。
◎:脱落なし
○:1〜9個のマス目が脱落
△:10〜19個のマス目が脱落
×:20〜25個のマス目が脱落
【0045】
【表1】

【0046】
【表2】

【0047】
共重合体ラテックス(4)と(5)は共重合体ラテックス(1)と同じ組成比率をもつ共重合体ラテックスであるが、残留4−フェニルシクロヘキセンが80ppmを超えていたため、それを用いた比較例1および2では結着力が劣っていた。また、共重合体ラテックス(6)は残留4−フェニルシクロヘキセンは80ppm以下であったが、1、3-ブタジエンの組成比率が60重量%以上であったため、それを用いた比較例2では結着力が劣っていた。さらに、共重合体ラテックス(7)はエチレン性不飽和カルボン酸系単量体を使用しておらず、請求範囲下限外のため、それを使用した比較例4では結着力が劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の電池電極用バインダーを用いた場合、電極活物質と当該電池電極用バインダーとの混合物である電池電極用組成物と、集電体との結着力が良好な電池電極が得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1、3−ブタジエン20〜60重量%、スチレン20〜79重量%、エチレン性不飽和カルボン酸系単量体0.1〜10重量%、これらと共重合可能な他の単量体0〜59.9重量%から構成される単量体を乳化重合して得られた共重合体ラテックスであって、当該共重合体ラテックス中に残留する4−フェニルシクロヘキセンが、当該共重合体ラテックスの固形分に対して80ppm以下であることを特徴とする電池電極用バインダー。
【請求項2】
請求項1に記載の共重合体ラテックス中に残留する4−フェニルシクロヘキセンが、当該共重合体ラテックスの固形分に対して20ppm以下であることを特徴とする電池電極用バインダー。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の電池電極用バインダーからなる電池電極。

【公開番号】特開2010−245035(P2010−245035A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−60005(P2010−60005)
【出願日】平成22年3月16日(2010.3.16)
【出願人】(399034220)日本エイアンドエル株式会社 (186)
【Fターム(参考)】