説明

電池

【課題】充放電効率を向上させることができる電池を提供する。
【解決手段】正極21と負極22とがセパレータ23を介して積層されている。セパレータ23には、溶媒と電解質塩とを含む電解液が含浸されている。電解質塩は、Li2 12102 、Li2 1211HあるいはLi2 1212などのLi2 12x 12-x(式中、xは平均で4以上12以下である。ZはH,ClまたはBrである。)で表されるホウ酸リチウム塩を含んでいる。これにより負極22に良好な被膜が形成され、充放電効率が改善される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、負極活物質としてケイ素(Si)あるいはスズ(Sn)などを含む材料を用いた電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、カメラ一体型VTR(Videotape Recorder;ビデオテープレコーダ),デジタルスチルカメラ,携帯電話,携帯情報端末あるいはノート型パソコンなどのポータブル電子機器が多く登場し、その小型軽量化が図られている。それに伴い、これらの電子機器の電源として、軽量で高エネルギー密度を得ることができる二次電池の開発が進められている。中でも、負極に炭素材料を用い、正極にリチウム(Li)と遷移金属との複合材料を用い、電解液に炭酸エステルを用いたリチウムイオン二次電池は、従来の鉛電池およびニッケルカドミウム電池と比べて、大きなエネルギー密度を得ることができるので広く実用化されている。
【0003】
これらのリチウムイオン二次電池では、電解質塩として、例えば、LiPF6 、LiBF4 、LiCF3 SO3 、LiClO4 、あるいはLiAsF6 などが用いられており、また、比較的高い導電性を示すと共に、高い熱的安定性を示すことから、LiN(CF3 SO2 2 ,LiN(C2 5 SO2 2 あるいはLiN(C4 9 SO2 )(CF3 SO2 )などのイミド塩を用いることが検討されている。更に、ホウ素クラスタ塩も提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
ところで、最近では、携帯用電子機器の高性能化に伴い、更なる容量の向上が求められており、負極活物質として、炭素材料に代えてスズあるいはケイ素などを用いることが検討されている。スズの理論容量は994mAh/g、ケイ素の理論容量は4199mAh/gと、黒鉛の理論容量の372mAh/gに比べて格段に大きく、容量の向上を期待できるからである。特に、スズあるいはケイ素の薄膜を集電体上に形成した負極は、リチウムの吸蔵および放出によっても、負極活物質が微粉化することなく、比較的大きな放電容量を保持できることが報告されている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2005−158695号公報
【特許文献2】国際公開第WO01/031724号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、リチウムを吸蔵したスズ合金あるいはケイ素合金は活性が高いので、電解液に従来より用いられている炭酸プロピレンあるいは炭酸ジエチルなどの炭酸エステルなどを用いると、これらが分解されてしまい、しかもリチウムが不活性化されてしまうという問題があった。よって、充放電を繰り返すと充放電効率が低下してしまい、十分なサイクル特性を得ることができなかった。
【0006】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、充放電効率を向上させることができる電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の電池は、正極および負極と共に電解質を備えたものであって、負極は、電極反応物質を吸蔵および放出することが可能であり、構成元素として金属元素および半金属元素のうちの少なくとも1種を含む負極材料を含有し、電解質は、化1に示したホウ酸リチウム塩を含有するものである。
(化1)
Li2 12x 12-x
(式中、xは平均で4以上12以下である。ZはH,ClまたはBrである。)
【発明の効果】
【0008】
本発明の電池によれば、電解質に化1に示したホウ酸リチウム塩を含むようにしたので、負極に、電極反応物質を吸蔵および放出することが可能であり、構成元素として金属元素および半金属元素のうちの少なくとも1種を含む負極材料を含有する場合に、電解質の分解反応を抑制することができ、放電容量維持率を向上させることができる。
【0009】
更に、電解質にハロゲン化炭酸エステルを含むようにすれば、より高い効果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0011】
(第1の実施の形態)
図1は本発明の第1の実施の形態に係る二次電池の断面構造を表すものである。この二次電池はいわゆる円筒型といわれるものであり、ほぼ中空円柱状の電池缶11の内部に、帯状の正極21と帯状の負極22とがセパレータ23を介して積層し巻回された巻回電極体20を有している。電池缶11は、例えばニッケル(Ni)のめっきがされた鉄(Fe)により構成されており、一端部が閉鎖され他端部が開放されている。電池缶11の内部には、電解液が注入され、セパレータ23に含浸されている。また、巻回電極体20を挟むように巻回周面に対して垂直に一対の絶縁板12,13がそれぞれ配置されている。
【0012】
電池缶11の開放端部には、電池蓋14と、この電池蓋14の内側に設けられた安全弁機構15および熱感抵抗素子(Positive Temperature Coefficient;PTC素子)16とが、ガスケット17を介してかしめられることにより取り付けられており、電池缶11の内部は密閉されている。電池蓋14は、例えば、電池缶11と同様の材料により構成されている。安全弁機構15は、熱感抵抗素子16を介して電池蓋14と電気的に接続されており、内部短絡あるいは外部からの加熱などにより電池の内圧が一定以上となった場合にディスク板15Aが反転して電池蓋14と巻回電極体20との電気的接続を切断するようになっている。熱感抵抗素子16は、温度が上昇すると抵抗値の増大により電流を制限し、大電流による異常な発熱を防止するものである。ガスケット17は、例えば、絶縁材料により構成されており、表面にはアスファルトが塗布されている。
【0013】
巻回電極体20の中心には例えばセンターピン24が挿入されている。巻回電極体20の正極21にはアルミニウム(Al)などよりなる正極リード25が接続されており、負極22にはニッケルなどよりなる負極リード26が接続されている。正極リード25は安全弁機構15に溶接されることにより電池蓋14と電気的に接続されており、負極リード26は電池缶11に溶接され電気的に接続されている。
【0014】
図2は図1に示した巻回電極体20の一部を拡大して表すものである。正極21は、例えば、対向する一対の面を有する正極集電体21Aの両面または片面に正極活物質層21Bが設けられた構造を有している。正極集電体21Aは、例えば、アルミニウム箔,ニッケル箔あるいはステンレス箔などの金属箔により構成されている。
【0015】
正極活物質層21Bは、例えば、正極活物質として、リチウムを吸蔵および放出可能な正極材料のいずれか1種または2種以上を含んでおり、必要に応じて炭素材料などの導電材およびポリフッ化ビニリデンなどの結着材を含んでいてもよい。リチウムを吸蔵および放出可能な正極材料としては、例えば、硫化チタン(TiS2 ),硫化モリブデン(MoS2 ),セレン化ニオブ(NbSe2 )あるいは酸化バナジウム(V2 5 )などのリチウムを含有しないカルコゲン化物、またはリチウムを含有するリチウム含有化合物が挙げられる。
【0016】
中でも、リチウム含有化合物は、高電圧および高エネルギー密度を得ることができるものがあるので好ましい。このようなリチウム含有化合物としては、例えば、リチウムと遷移金属元素とを含む複合酸化物、またはリチウムと遷移金属元素とを含むリン酸化合物が挙げられ、特にコバルト(Co),ニッケルおよびマンガン(Mn)のうちの少なくとも1種を含むものが好ましい。より高い電圧を得ることができるからである。その化学式は、例えば、Lix MIO2 あるいはLiy MIIPO4 で表される。式中、MIおよびMIIは1種類以上の遷移金属元素を含む。xおよびyの値は電池の充放電状態によって異なり、通常、0.05≦x≦1.10、0.05≦y≦1.10である。
【0017】
リチウムと遷移金属元素とを含む複合酸化物の具体例としては、リチウムコバルト複合酸化物(Lix CoO2 )、リチウムニッケル複合酸化物(Lix NiO2 )、リチウムニッケルコバルト複合酸化物(Lix Ni1-z Coz 2 (z<1))、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(Lix Ni(1-v-w) Cov Mnw 2 (v+w<1))、あるいはスピネル型構造を有するリチウムマンガン複合酸化物(LiMn2 4 )などが挙げられる。中でも、ニッケルを含む複合酸化物が好ましい。高い容量を得ることができると共に、優れたサイクル特性も得ることができるからである。リチウムと遷移金属元素とを含むリン酸化合物の具体例としては、例えばリチウム鉄リン酸化合物(LiFePO4 )あるいはリチウム鉄マンガンリン酸化合物(LiFe1-u Mnu PO4 (u<1))が挙げられる。
【0018】
負極22は、例えば、正極21と同様に、対向する一対の面を有する負極集電体22Aの両面または両面に負極活物質層22Bが設けられた構造を有している。負極集電体22Aは、例えば、銅箔などの金属箔により構成されている。
【0019】
負極活物質層22Bは、例えば、負極活物質として、リチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料のいずれか1種または2種以上を含んでいる。リチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料としては、例えば、スズまたはケイ素を構成元素として含む材料が挙げられる。スズおよびケイ素はリチウムを吸蔵および放出する能力が大きく、高いエネルギー密度を得ることができるからである。
【0020】
このような負極材料としては、具体的には、スズの単体,合金,あるいは化合物、またはケイ素の単体,合金,あるいは化合物、またはこれらの1種あるいは2種以上の相を少なくとも一部に有する材料が挙げられる。なお、本発明において、合金には2種以上の金属元素からなるものに加えて、1種以上の金属元素と1種以上の半金属元素とを含むものも含める。また、非金属元素を含んでいてもよい。その組織には固溶体,共晶(共融混合物),金属間化合物あるいはそれらのうちの2種以上が共存するものがある。
【0021】
スズの合金としては、例えば、スズ以外の第2の構成元素として、ケイ素,ニッケル,銅(Cu),鉄,コバルト,マンガン,亜鉛(Zn),インジウム(In),銀(Ag),チタン(Ti),ゲルマニウム(Ge),ビスマス(Bi),アンチモン(Sb)およびクロム(Cr)からなる群のうちの少なくとも1種を含むものが挙げられる。ケイ素の合金としては、例えば、ケイ素以外の第2の構成元素として、スズ,ニッケル,銅,鉄,コバルト,マンガン,亜鉛,インジウム,銀,チタン,ゲルマニウム,ビスマス,アンチモンおよびクロムからなる群のうちの少なくとも1種を含むものが挙げられる。
【0022】
スズの化合物あるいはケイ素の化合物としては、例えば、酸素(O)あるいは炭素(C)を含むものが挙げられ、スズまたはケイ素に加えて、上述した第2の構成元素を含んでいてもよい。
【0023】
中でも、この負極材料としては、スズと、コバルトと、炭素とを構成元素として含み、炭素の含有量が9.9質量%以上29.7質量%以下であり、かつスズとコバルトとの合計に対するコバルトの割合Co/(Sn+Co)が30質量%以上70質量%以下であるCoSnC含有材料が好ましい。このような組成範囲において高いエネルギー密度を得ることができると共に、優れたサイクル特性を得ることができるからである。
【0024】
このCoSnC含有材料は、必要に応じて更に他の構成元素を含んでいてもよい。他の構成元素としては、例えば、ケイ素,鉄,ニッケル,クロム,インジウム,ニオブ(Nb),ゲルマニウム,チタン,モリブデン(Mo),アルミニウム,リン(P),ガリウム(Ga)またはビスマスが好ましく、2種以上を含んでいてもよい。容量またはサイクル特性を更に向上させることができるからである。
【0025】
なお、このCoSnC含有材料は、スズと、コバルトと、炭素とを含む相を有しており、この相は結晶性の低いまたは非晶質な構造を有していることが好ましい。また、このCoSnC含有材料では、構成元素である炭素の少なくとも一部が、他の構成元素である金属元素または半金属元素と結合していることが好ましい。サイクル特性の低下はスズなどが凝集あるいは結晶化することによるものであると考えられるが、炭素が他の元素と結合することにより、そのような凝集あるいは結晶化を抑制することができるからである。
【0026】
元素の結合状態を調べる測定方法としては、例えばX線光電子分光法(X-ray Photoelectron Spectroscopy;XPS)が挙げられる。XPSでは、炭素の1s軌道(C1s)のピークは、グラファイトであれば、金原子の4f軌道(Au4f)のピークが84.0eVに得られるようにエネルギー較正された装置において、284.5eVに現れる。また、表面汚染炭素であれば、284.8eVに現れる。これに対して、炭素元素の電荷密度が高くなる場合、例えば炭素が金属元素または半金属元素と結合している場合には、C1sのピークは、284.5eVよりも低い領域に現れる。すなわち、CoSnC含有材料について得られるC1sの合成波のピークが284.5eVよりも低い領域に現れる場合には、CoSnC含有材料に含まれる炭素の少なくとも一部が他の構成元素である金属元素または半金属元素と結合している。
【0027】
なお、XPS測定では、スペクトルのエネルギー軸の補正に、例えばC1sのピークを用いる。通常、表面には表面汚染炭素が存在しているので、表面汚染炭素のC1sのピークを284.8eVとし、これをエネルギー基準とする。XPS測定では、C1sのピークの波形は、表面汚染炭素のピークとCoSnC含有材料中の炭素のピークとを含んだ形として得られるので、例えば市販のソフトウエアを用いて解析することにより、表面汚染炭素のピークと、CoSnC含有材料中の炭素のピークとを分離する。波形の解析では、最低束縛エネルギー側に存在する主ピークの位置をエネルギー基準(284.8eV)とする。
【0028】
リチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料としては、また例えば、リチウムと合金を形成可能な他の金属元素または他の半金属元素を構成元素として含む材料を用いることもできる。このような金属元素あるいは半金属元素としては、例えば、マグネシウム(Mg),ホウ素(B),アルミニウム,ガリウム,インジウム,ゲルマニウム,鉛(Pb),ビスマス,カドミウム(Cd),銀,亜鉛,ハフニウム(Hf),ジルコニウム(Zr),イットリウム(Y),パラジウム(Pd)あるいは白金(Pt)が挙げられる。
【0029】
このような負極活物質は、例えば各構成元素の原料を混合して電気炉,高周波誘導炉あるいはアーク溶解炉などにより溶解しその後凝固することにより、また、ガスアトマイズあるいは水アトマイズなどの各種アトマイズ法、各種ロール法、またはメカニカルアロイング法あるいはメカニカルミリング法などのメカノケミカル反応を利用した方法により製造することができる。中でも、メカノケミカル反応を利用した方法により製造することが好ましい。負極活物質を低結晶化あるいは非晶質な構造とすることができるからである。この方法には、例えば、遊星ボールミル装置やアトライター等の製造装置を用いることができる。
【0030】
負極活物質層22Bは、また、上述した負極活物質に加えて他の負極活物質、または導電材などの他の材料を含んでいてもよい。他の負極活物質としては、例えば、リチウムを吸蔵および放出することが可能な炭素質材料が挙げられる。この炭素質材料は、充放電サイクル特性を向上させることができると共に、導電材としても機能するので好ましい。炭素質材料としては、例えば難黒鉛化炭素,易黒鉛化炭素,グラファイト,熱分解炭素類,コークス,ガラス状炭素類,有機高分子化合物焼成体,活性炭およびカーボンブラックなどのいずれか1種または2種以上を用いることができる。このうち、コークス類には、ピッチコークス,ニードルコークスあるいは石油コークスなどがあり、有機高分子化合物焼成体というのは、フェノール樹脂やフラン樹脂などの高分子化合物を適当な温度で焼成して炭素化したものをいう。
【0031】
セパレータ23は、正極21と負極22とを隔離し、両極の接触による電流の短絡を防止しつつ、リチウムイオンを通過させるものである。このセパレータ23は、例えば、ポリテトラフルオロエチレン,ポリプロピレンあるいはポリエチレンなどの合成樹脂製の多孔質膜、またはセラミック製の多孔質膜により構成されており、これら2種以上の多孔質膜を積層した構造とされていてもよい。
【0032】
セパレータ23に含浸された電解液は、溶媒と、この溶媒に溶解された電解質塩とを含んでいる。
【0033】
溶媒としては、電解質塩を溶解できる非プロトン性の溶媒が好ましく、例えば、炭酸エステルあるいはハロゲン化炭酸エステルなどのエステル類、エーテル類、ラクトン類、ニトリル類、アミド類あるいはスルホン類が挙げられ、具体的には、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ブチレン、1,3−ジオキソール−2−オン(炭酸ビニレン)、炭酸ジエチル、炭酸ジメチル、炭酸エチルメチルあるいはこれらの少なくとも一部の水素をハロゲンで置換した化合物、またはγ−ブチロラクトン、またはγ−バレロラクトン、または1,2−ジメトキシエタン、またはテトラヒドロフラン、または2−メチルテトラヒドロフラン、または1,3−ジオキソラン、または4−メチル−1,3−ジオキソラン、または酢酸エステル、または酪酸エステル、またはプロピオン酸エステル、またはアセトニトリル、またはグルタロニトリル、またはアジポニトリル、またはメトキシアセトニトリルなどの非水溶媒が挙げられる。溶媒は1種を単独で用いてもよいし、複数種を混合して用いてもよい。
【0034】
中でも、ハロゲン化炭酸エステル、特にフッ素化炭酸エステルが好ましい。負極22の表面にイオン伝導性を有する良好な被膜を形成することができ、電解液の分解反応を抑制することができるからである。ハロゲン化炭酸エステルは1種を単独で用いてもよいし、複数種を混合して用いてもよい。
【0035】
このようなハロゲン化炭酸エステルについて具体的に例を挙げれば、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、炭酸フルオロメチルメチル(CH2 FOCOOCH3 )、炭酸ビスフルオロメチル(CH2 FOCOOCH2 F)あるいは炭酸ジフルオロメチルメチル(CHF2 OCOOCH3 )などがある。
【0036】
電解質塩としては、化1に示したホウ酸リチウム塩を含んでいる。これにより、負極22の表面に良好な被膜を形成することができ、電解液の分解反応を抑制することができると考えられる。なお、このようなホウ酸リチウム塩は、12個のホウ素原子が正20面体の頂点に位置したかご型構造を有するアニオンと、リチウムカチオンとからなるものである。
(化1)
Li2 12x 12-x
【0037】
ホウ酸リチウム塩は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよいが、1種を単独で用いる場合には、化1においてxは4以上12以下であり、また2種以上を混合して用いる場合には、化1においてxは平均で4以上12以下である。また、ZはH,ClまたはBrである。
【0038】
このようなホウ酸リチウム塩について具体的に例を挙げれば、Li2 125 7 、Li2 126 6 、Li2 127 5 、Li2 128 4 、Li2 129 3 、Li2 12102 、Li2 1211H、Li2 1212、Li2 125 Cl7 、Li2 126 Cl6 、Li2 127 Cl5 、Li2 128 Cl4 、Li2 129 Cl3 、Li2 1210Cl2 、Li2 1211Cl、Li2 125 Br7 、Li2 126 Br6 、Li2 127 Br5 、Li2 128 Br4 、Li2 129 Br3 、Li2 1210Br2 あるいはLi2 1211Brなどがある。
【0039】
電解質塩としては、これらのホウ酸リチウム塩に加えて、他の電解質塩を混合して用いてもよい。他の電解質塩としては、例えば、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6 )、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4 )、六フッ化ヒ酸リチウム(LiAsF6 )、過塩素酸リチウム(LiClO4 )、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCF3 SO3 )、ビス[トリフルオロメタンスルホニル]イミドリチウム(LiN(CF3 SO2 2 )、トリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチルリチウム((CF3 SO2 3 CLi)、ビス[ペンタフルオロエタンスルホニル]イミドリチウム(LiN(C2 5 SO2 2 )、トリスペンタフルオロエチルトリフルオロリン酸リチウム(LiP(C2 5 3 3 )、トリフルオロメチルトリフルオロホウ酸リチウム(LiB(CF3 )F3 )、あるいはペンタフルオロエチルトリフルオロホウ酸リチウム(LiB(C2 5 )F3 )などのリチウム塩が挙げられる。他の電解質塩は1種を単独で用いてもよいが、2種以上を混合して用いてもよい。
【0040】
この二次電池は、例えば、次のようにして製造することができる。
【0041】
まず、例えば、正極集電体21Aに正極活物質層21Bを形成し正極21を作製する。正極活物質層21Bは、例えば、正極活物質の粉末と導電材と結着材とを混合して正極合剤を調製したのち、この正極合剤をN−メチル−2−ピロリドンなどの溶剤に分散させてペースト状の正極合剤スラリーとし、この正極合剤スラリーを正極集電体21Aに塗布し乾燥させ、圧縮成型することにより形成する。また、例えば、正極21と同様にして、負極集電体22Aに負極活物質層22Bを形成し負極22を作製する。
【0042】
次いで、正極集電体21Aに正極リード25を溶接などにより取り付けると共に、負極集電体22Aに負極リード26を溶接などにより取り付ける。続いて、正極21と負極22とをセパレータ23を介して巻回し、正極リード25の先端部を安全弁機構15に溶接すると共に、負極リード26の先端部を電池缶11に溶接して、巻回した正極21および負極22を一対の絶縁板12,13で挟み電池缶11の内部に収納する。正極21および負極22を電池缶11の内部に収納したのち、電解液を電池缶11の内部に注入し、セパレータ23に含浸させる。そののち、電池缶11の開口端部に電池蓋14,安全弁機構15および熱感抵抗素子16をガスケット17を介してかしめることにより固定する。これにより、図1,2に示した二次電池が完成する。
【0043】
この二次電池では、充電を行うと、例えば、正極21からリチウムイオンが放出され、電解液を介して負極22に吸蔵される。放電を行うと、例えば、負極22からリチウムイオンが放出され、電解液を介して正極21に吸蔵される。その際、負極22には、リチウムを吸蔵および放出することが可能であり、構成元素として金属元素および半金属元素のうちの少なくとも1種を含む負極材料が含まれており、活性が高くなっているが、電解液には化1に示したホウ酸リチウム塩とが含まれているので、負極22に良好な被膜が形成され、電解液の分解が抑制されると考えられる。
【0044】
このように本実施の形態によれば、電解液に化1に示したホウ酸リチウム塩を含むようにしたので、電解液の分解反応を抑制することができ、充放電効率を向上させることができる。
【0045】
更に、電解液にハロゲン化炭酸エステルを含むようにすれば、より高い効果を得ることができる。
【0046】
(第2の実施の形態)
第2の実施の形態に係る二次電池は、負極の構成が異なることを除き、他は第1の実施の形態に係る二次電池と同様の構成および作用を有しており、同様にして製造することができる。よって、図1および図2を参照し、対応する構成要素には同一の符号を付して同一の部分の説明は省略する。
【0047】
負極22は、第1の実施の形態に係る二次電池と同様に、負極集電体22Aの両面あるいは片面に負極活物質層22Bが設けられた構造を有している。負極活物質層22Bは、例えば、スズまたはケイ素を構成元素として含む負極活物質を含有している。具体的には、例えば、スズの単体,合金,あるいは化合物、またはケイ素の単体,合金,あるいは化合物を含有しており、それらの2種以上を含有していてもよい。
【0048】
また、負極活物質層22Bは、例えば、気相法,液相法あるいは焼成法、またはそれらの2以上の方法を用いて形成されたものであり、負極活物質層22Bと負極集電体22Aとが界面の少なくとも一部において合金化していることが好ましい。具体的には、界面において負極集電体22Aの構成元素が負極活物質層22Bに、または負極活物質の構成元素が負極集電体22Aに、またはそれらが互いに拡散していることが好ましい。充放電に伴う負極活物質層22Bの膨張・収縮による破壊を抑制することができると共に、負極活物質層22Bと負極集電体22Aとの間の電子伝導性を向上させることができるからである。
【0049】
なお、気相法としては、例えば、物理堆積法あるいは化学堆積法を用いることができ、具体的には、真空蒸着法,スパッタ法,イオンプレーティング法,レーザーアブレーション法,熱化学気相成長(CVD;Chemical Vapor Deposition )法,プラズマ化学気相成長法あるいは溶射法などが挙げられる。液相法としては、電気鍍金あるいは無電解鍍金などの公知の手法を用いることができる。焼成法というのは、例えば、粒子状の負極活物質を結着材などと混合して溶剤に分散させ、塗布したのち、結着材などの融点よりも高い温度で熱処理する方法である。焼成法に関しても公知の手法が利用可能であり、例えば、雰囲気焼成法,反応焼成法あるいはホットプレス焼成法が挙げられる。
【0050】
(第3の実施の形態)
図3は、第3の実施の形態に係る二次電池の構成を表すものである。この二次電池は、いわゆるラミネートフィルム型といわれるものであり、正極リード31および負極リード32が取り付けられた巻回電極体30をフィルム状の外装部材40の内部に収容したものである。
【0051】
正極リード31および負極リード32は、それぞれ、外装部材40の内部から外部に向かい例えば同一方向に導出されている。正極リード31および負極リード32は、例えば、アルミニウム,銅,ニッケルあるいはステンレスなどの金属材料によりそれぞれ構成されており、それぞれ薄板状または網目状とされている。
【0052】
外装部材40は、例えば、ナイロンフィルム,アルミニウム箔およびポリエチレンフィルムをこの順に貼り合わせた矩形状のアルミラミネートフィルムにより構成されている。外装部材40は、例えば、ポリエチレンフィルム側と巻回電極体30とが対向するように配設されており、各外縁部が融着あるいは接着剤により互いに密着されている。外装部材40と正極リード31および負極リード32との間には、外気の侵入を防止するための密着フィルム41が挿入されている。密着フィルム41は、正極リード31および負極リード32に対して密着性を有する材料、例えば、ポリエチレン,ポリプロピレン,変性ポリエチレンあるいは変性ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂により構成されている。
【0053】
なお、外装部材40は、上述したアルミラミネートフィルムに代えて、他の構造を有するラミネートフィルム,ポリプロピレンなどの高分子フィルムあるいは金属フィルムにより構成するようにしてもよい。
【0054】
図4は、図3に示した巻回電極体30のI−I線に沿った断面構造を表すものである。電極巻回体30は、正極33と負極34とをセパレータ35および電解質層36を介して積層し、巻回したものであり、最外周部は保護テープ37により保護されている。
【0055】
正極33は、正極集電体33Aの両面または片面に正極活物質層33Bが設けられた構造を有している。負極34は、負極集電体34Aの両面または片面に負極活物質層34Bが設けられた構造を有しており、負極活物質層34Bと正極活物質層33Bとが対向するように配置されている。正極集電体33A,正極活物質層33B,負極集電体34A,負極活物質層34Bおよびセパレータ35の構成は、上述した第1ないし第3の実施の形態における正極集電体21A,正極活物質層21B,負極集電体22A,負極活物質層22Bおよびセパレータ23と同様である。
【0056】
電解質層36は、電解液と、この電解液を保持する保持体となる高分子化合物とを含み、いわゆるゲル状となっている。ゲル状の電解質は高いイオン伝導率を得ることができると共に、電池の漏液を防止することができるので好ましい。電解液の構成は、第1の実施の形態と同様である。高分子化合物としては、例えば、ポリエチレンオキサイドあるいはポリエチレンオキサイドを含む架橋体などのエーテル系高分子化合物、ポリメタクリレートなどのエステル系高分子化合物あるいはアクリレート系高分子化合物、またはポリフッ化ビニリデンあるいはフッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体などのフッ化ビニリデンの重合体が挙げられ、これらのうちのいずれか1種または2種以上が混合して用いられる。特に、酸化還元安定性の観点からは、フッ化ビニリデンの重合体などのフッ素系高分子化合物を用いることが望ましい。
【0057】
この二次電池は、例えば、次のようにして製造することができる。
【0058】
まず、正極33および負極34のそれぞれに、電解液と、高分子化合物と、混合溶剤とを含む前駆溶液を塗布し、混合溶剤を揮発させて電解質層36を形成する。次いで、正極集電体33Aに正極リード31を取り付けると共に、負極集電体34Aに負極リード32を取り付ける。続いて、電解質層36が形成された正極33と負極34とをセパレータ35を介して積層し積層体としたのち、この積層体をその長手方向に巻回して、最外周部に保護テープ37を接着して巻回電極体30を形成する。そののち、例えば、外装部材40の間に巻回電極体30を挟み込み、外装部材40の外縁部同士を熱融着などにより密着させて封入する。その際、正極リード31および負極リード32と外装部材40との間には密着フィルム41を挿入する。これにより、図3,4に示した二次電池が完成する。
【0059】
また、この二次電池は、次のようにして作製してもよい。まず、上述したようにして正極33および負極34を作製し、正極33および負極34に正極リード31および負極リード32を取り付けたのち、正極33と負極34とをセパレータ35を介して積層して巻回し、最外周部に保護テープ37を接着して、巻回電極体30の前駆体である巻回体を形成する。次いで、この巻回体を外装部材40に挟み、一辺を除く外周縁部を熱融着して袋状とし、外装部材40の内部に収納する。続いて、電解液と、高分子化合物の原料であるモノマーと、重合開始剤と、必要に応じて重合禁止剤などの他の材料とを含む電解質用組成物を用意し、外装部材40の内部に注入したのち、外装部材40の開口部を熱融着して密封する。そののち、熱を加えてモノマーを重合させて高分子化合物とすることによりゲル状の電解質層36を形成し、図3,4に示した二次電池を組み立てる。
【0060】
この二次電池は、第1あるいは第2の実施の形態に係る二次電池と同様に作用し、同様の効果を得ることができる。
【実施例】
【0061】
更に、本発明の具体的な実施例について詳細に説明する。
【0062】
(実施例1−1〜1−4)
図5に示したようなコイン型の二次電池を作製した。この二次電池は、正極51と、負極52とを電解液を含浸させたセパレータ53を介して積層し、外装缶54と外装カップ55との間に挟み、ガスケット56を介してかしめたものである。
【0063】
まず、炭酸リチウム(Li2 CO3 )と炭酸コバルト(CoCO3 )とをLi2 CO3 :CoCO3 =0.5:1のモル比で混合し、空気中において900℃で5時間焼成して正極活物質としてのリチウム・コバルト複合酸化物(LiCoO2 )を得た。次いで、このリチウム・コバルト複合酸化物91質量部と、導電材としてグラファイト6質量部と、結着材としてポリフッ化ビニリデン3質量部とを混合して正極合剤を調製したのち、溶剤としてN−メチル−2−ピロリドンに分散させて正極合剤スラリーとした。続いて、この正極合剤スラリーを厚み20μmのアルミニウム箔よりなる正極集電体51Aに均一に塗布して乾燥させたのち圧縮成型して正極活物質層51Bを形成した。そののち、直径15.5mmのペレットに打ち抜き、正極51を作製した。
【0064】
また、スズ・コバルト・インジウム・チタン合金粉末と、炭素粉末とを混合し、メカノケミカル反応を利用してSnCoC含有材料を合成した。得られたSnCoC含有材料について組成の分析を行ったところ、スズの含有量は48質量%、コバルトの含有量は23質量%、インジウムの含有量は5質量%、チタンの含有量は2質量%、炭素の含有量は20質量%、スズとコバルトとの合計に対するコバルトの割合Co/(Sn+Co)は32.4質量%であった。なお、炭素の含有量は、炭素・硫黄分析装置により測定し、スズ,コバルト,インジウムおよびチタンの含有量は、ICP(Inductively Coupled Plasma:誘導結合プラズマ)発光分析により測定した。また、得られたSnCoC含有材料についてX線回折を行ったところ、回折角2θ=20°〜50°の間に、回折角2θが1.0°以上の広い半値幅を有する回折ピークが観察された。更に、このSnCoC含有材料についてXPSを行ったところ、図6に示したようにピークP1が得られた。ピークP1を解析すると、表面汚染炭素のピークP2と、ピークP2よりも低エネルギー側にSnCoC含有材料中におけるC1sのピークP3とが得られた。このピークP3は、284.5eVよりも低い領域に得られた。すなわち、SnCoC含有材料中の炭素が他の元素と結合していることが確認された。
【0065】
次いで、このSnCoC含有材料を負極活物質として用い、このSnCoC含有材料粉末80質量部と、導電材としてグラファイト(ロンザ製KS−15)11質量部およびアセチレンブラック1質量部と、結着材としてポリフッ化ビニリデン8質量部とを混合し、溶剤としてのN−メチル−2−ピロリドンに分散させて負極合剤スラリーとした。続いて、この負極合剤スラリーを厚み10μmの銅箔よりなる負極集電体52Aに均一に塗布して乾燥させたのち圧縮成型して負極活物質層52Bを形成した。そののち、直径16mmのペレットに打ち抜き負極52を作製した。その際、負極活物質による充電容量が正極51の充電容量よりも大きくなるように負極活物質量を調節し、充電の途中で負極52にリチウム金属が析出しないようにした。
【0066】
次いで、作製した正極51と負極52とを微多孔性ポリプロピレンフィルムよりなるセパレータ53を介して外装缶54に載置し、その上から電解液を注入して、外装カップ55を被せてかしめることにより密閉した。
【0067】
その際、実施例1−1では、ハロゲン化炭酸エステルである4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン(FEC)と、炭酸ジエチルとを、50:50の質量比で混合した溶媒に、電解質塩として、化1に示したホウ酸リチウム塩を溶解したものを用いた。化1に示したホウ酸リチウム塩には、Li2 12102 と、Li2 1211Hと、Li2 1212とが、Li2 12102 :Li2 1211H:Li2 1212=70:28:2の質量比で混合された混合物を用い、電解液における化1に示したホウ酸リチウム塩の濃度は、合計で0.4mol/kgとした。
【0068】
また、実施例1−2では、ハロゲン化炭酸エステルである4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン(FEC)と、炭酸ジエチルとを、50:50の質量比で混合した溶媒に、電解質塩として、化1に示したホウ酸リチウム塩およびLiPF6 を溶解したものを用いた。化1に示したホウ酸リチウム塩には、Li2 12102 と、Li2 1211Hと、Li2 1212とが、Li2 12102 :Li2 1211H:Li2 1212=70:28:2の質量比で混合された混合物を用いた。また、電解液における化1に示したホウ酸リチウム塩の濃度は合計で0.1mol/kgとし、LiPF6 の濃度は0.9mol/kgとした。
【0069】
更に、実施例1−3では、ハロゲン化炭酸エステルである4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン(DFEC)と、炭酸エチレンと、炭酸ジエチルとを、4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン:炭酸エチレン:炭酸ジエチル=10:40:50の質量比で混合した溶媒に、電解質塩として、化1に示したホウ酸リチウム塩およびLiPF6 を溶解したものを用いた。化1に示したホウ酸リチウム塩には、Li2 12102 と、Li2 1211Hと、Li2 1212とが、Li2 12102 :Li2 1211H:Li2 1212=70:28:2の質量比で混合された混合物を用いた。また、電解液における化1に示したホウ酸リチウム塩の濃度は合計で0.1mol/kgとし、LiPF6 の濃度は0.9mol/kgとした。
【0070】
更にまた、実施例1−4では、炭酸エチレンと、炭酸ジエチルとを、50:50の質量比で混合した溶媒に、電解質塩として、化1に示したホウ酸リチウム塩を溶解したものを用いた。化1に示したホウ酸リチウム塩には、Li2 12102 と、Li2 1211Hと、Li2 1212とが、Li2 12102 :Li2 1211H:Li2 1212=70:28:2の質量比で混合された混合物を用い、電解液における化1に示したホウ酸リチウム塩の濃度は、合計で0.4mol/kgとした。
【0071】
実施例1−1〜1−4に対する比較例1−1,1−2として、電解質塩として化1に示したホウ酸リチウム塩を用いず、LiPF6 のみを用いたことを除き、他は実施例1−1〜1−4と同様にして二次電池を作製した。具体的には、比較例1−1では、溶媒に4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンと炭酸ジエチルとを50:50の質量比で混合したものを用い、電解液におけるLiPF6 を1mol/kgとなるようにした。また、比較例1−2では、溶媒に炭酸エチレンと炭酸ジエチルとを50:50の質量比で混合したものを用い、電解液におけるLiPF6 を1mol/kgとなるようにした。
【0072】
また、比較例1−3〜1−7として、負極活物質に人造黒鉛を用いたことを除き、他は実施例1−1〜1−4と同様にして二次電池を作製した。その際、負極は、人造黒鉛粉末92質量部と、結着材としてポリフッ化ビニリデン8質量部とを混合し、溶剤としてのN−メチル−2−ピロリドンに分散させて作製した負極合剤スラリーを用い、実施例1−1〜1−4と同様にして作製した。また、電解液は、実施例1−1〜1−3および比較例1−1,1−2とそれぞれ同様とした。
【0073】
作製した実施例1−1〜1−4および比較例1−1〜1−7の二次電池について、サイクル特性を調べた。結果を表1,表2に示す。なお、サイクル特性は、23℃で充放電を50サイクル行い、1サイクル目の放電容量に対する50サイクル目の放電容量維持率(50サイクル目の放電容量/1サイクル目の放電容量)×100(%)を求めた。また、充電は、1mA/cm2 の定電流密度で電池電圧が4.2Vに達するまで行ったのち、4.2Vの定電圧で電流密度が0.02mA/cm2 に達するまで行い、放電は、実施例1−1〜1−4および比較例1−1〜1−2は1mA/cm2 の定電流密度で電池電圧が2.5Vに達するまで、比較例1−3〜1−7は1mA/cm2 の定電流密度で電池電圧が3.0Vに達するまで行った。
【0074】
【表1】

【0075】
【表2】

【0076】
表1に示したように、化1に示したホウ酸リチウム塩を用いた実施例1−1,1−2または実施例1−4によれば、化1に示したホウ酸リチウム塩を用いていない比較例1−1または比較例1−2よりも、それぞれ放電容量維持率が向上した。また、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンを用いた実施例1−1によれば、これを用いていない実施例1−4よりも、放電容量維持率が向上した。更に、化1に示したホウ酸リチウム塩に加えて他の電解質塩を用いた、あるいは他のハロゲン化炭酸エチレンである4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンを用いた実施例1−2あるいは1−3においても、実施例1−1と同様に高い放電容量維持率を示した。
【0077】
一方、表2に示したように、負極活物質として炭素材料を用いた場合には、化1に示したホウ酸リチウム塩を用いても、放電容量維持率の改善効果は観られなかった。
【0078】
すなわち、負極52に、リチウムを吸蔵および放出することが可能な金属元素を構成元素として含む負極材料を含む場合に、電解液に、化1に示したホウ酸リチウム塩とを含むようにすれば、サイクル特性を向上させることができ、更に、ハロゲン化炭酸エチレンを含むようにすれば、好ましいことが分かった。
【0079】
(実施例2−1〜2−4)
負極活物質としてケイ素を用い、電子ビーム蒸着法により負極活物質層52Bを形成したことを除き、他は実施例1−1〜1−4と同様にして二次電池を作製した。また、実施例2−1〜2−4に対する比較例2−1,2−2として、化1に示したホウ酸リチウム塩を用いなかったことを除き、具体的には、比較例1−1,1−2と同様の電解液を用いたことを除き、他は実施例2−1〜2−4と同様にして二次電池を作製した。
【0080】
作製した実施例2−1〜2−4および比較例2−1,2−2の二次電池について、実施例1−1〜1−11と同様にしてサイクル特性を調べた。結果を表3に示す。
【0081】
【表3】

【0082】
表3に示したように、実施例1−1〜1−4と同様に、化1に示したホウ酸リチウム塩を用いた実施例2−1,2−2または実施例2−4によれば、化1に示したホウ酸リチウム塩を用いていない比較例2−1または比較例2−2よりも、それぞれ放電容量維持率が向上した。また、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンを用いた実施例2−1によれば、これを用いていない実施例2−4よりも、放電容量維持率が向上した。更に、化1に示したホウ酸リチウム塩に加えて他の電解質塩を用いた、あるいは他のハロゲン化炭酸エチレンである4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンを用いた実施例2−2あるいは2−3においても、実施例1−1と同様に高い放電容量維持率を示した。
【0083】
すなわち、負極52に、リチウムを吸蔵および放出することが可能な半金属元素を構成元素として含む負極材料を含む場合にも、電解液に、化1に示したホウ酸リチウム塩とを含むようにすれば、サイクル特性を向上させることができ、更に、ハロゲン化炭酸エチレンを含むようにすれば、好ましいことが分かった。
【0084】
(実施例3−1)
図1,2に示した円筒型の二次電池を作製した。正極21は実施例1−1〜1−4と同様にして作製し、負極22は実施例2−1〜2−4と同様にして作製した。すなわち、負極活物質はケイ素とし、電子ビーム蒸着法により負極活物質層22Bを形成した。また、ケイ素による充電容量が正極21の充電容量よりも大きくなるようにケイ素の量を調節し、充電の途中で負極22にリチウム金属が析出しないようにした。更に、セパレータ23には厚み25μmの微多孔性ポリプロピレンフィルムを用い、電解液は、実施例1−1と同様のものとした。
【0085】
実施例3−1に対する比較例3−1として、電解質塩として化1に示したホウ酸リチウム塩を用いず、LiPF6 のみを用いたことを除き、具体的には、比較例1−1と同様の電解液を用いたことを除き、他は実施例3−1と同様にして二次電池を作製した。
【0086】
作製した実施例3−1および比較例3−1の二次電池について、実施例1−1〜1−4と同様にしてサイクル特性を調べた。結果を表4に示す。
【0087】
【表4】

【0088】
表4に示したように、化1に示したホウ酸リチウム塩を用いた実施例3−1によれば、化1に示したホウ酸リチウム塩を用いていない比較例3−1よりも放電容量維持率が向上した。
【0089】
すなわち、他の外装部材を用いた場合にも、電解液に、化1に示したホウ酸リチウム塩とを含むようにすれば、サイクル特性を向上させることができることが分かった。
【0090】
(実施例4−1)
図3,4に示したラミネートフィルム型の二次電池を作製した。まず、正極33を実施例1−1〜1−4と同様にして作製した。また、負極34を実施例2−1〜2−4と同様にして作製した。すなわち、負極活物質はケイ素とし、電子ビーム蒸着法により負極活物質層34Bを形成した。また、ケイ素による充電容量が正極33の充電容量よりも大きくなるようにケイ素の量を調節し、充電の途中で負極34にリチウム金属が析出しないようにした。
【0091】
次いで、ハロゲン化炭酸エステルである4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンと、炭酸プロピレンとを、50:50の質量比で混合した溶媒に、電解質塩として、化1に示したホウ酸リチウム塩を溶解して電解液を作製した。化1に示したホウ酸リチウム塩には、Li2 12102 と、Li2 1211Hと、Li2 1212とが、Li2 12102 :Li2 1211H:Li2 1212=70:28:2の質量比で混合された混合物を用い、電解液における化1に示したホウ酸リチウム塩の濃度は、合計で0.4mol/kgとした。
【0092】
続いて、高分子化合物として、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとを、フッ化ビニリデン:ヘキサフルオロプロピレン=93:7の質量比でブロック共重合させた共重合体を用意し、この高分子化合物と、作製した電解液とを、混合溶剤を用いて混合して前駆溶液を作製した。そののち、作製した前駆溶液を正極33および負極34のそれぞれに塗布し、混合溶剤を揮発させてゲル状の電解質層36を形成した。
【0093】
次いで、正極33にアルミニウム製の正極リード31と取り付けると共に、負極34にニッケル製の負極リード32を取り付け、正極33と負極34とを厚み25μmのポリエチレンよりなるセパレータ35を介して積層し、巻回したのち、ラミネートフィルムよりなる外装部材40に減圧封入した。
【0094】
実施例4−1に対する比較例4−1として、化1に示したホウ酸リチウムに代えて、LiPF6 を用いたことを除き、他は実施例4−1と同様にして二次電池を作製した。
【0095】
作製した実施例4−1および比較例4−1の二次電池について、実施例1−1〜1−4と同様にしてサイクル特性を調べた。結果を表5に示す。
【0096】
【表5】

【0097】
表5に示したように、化1に示したホウ酸リチウム塩を用いた実施例4−1によれば、化1に示したホウ酸リチウム塩を用いていない比較例4−1よりも放電容量維持率が向上した。
【0098】
すなわち、他の外装部材を用い、ゲル状の電解質とした場合にも、電解液に化1に示したホウ酸リチウムとを含むようにすれば、サイクル特性を向上させることができることが分かった。
【0099】
以上、実施の形態および実施例を挙げて本発明を説明したが、本発明は実施の形態および実施例に限定されず、種々の変形が可能である。例えば、上記実施の形態および実施例では、電解質として電解液または電解液を高分子化合物に保持させたゲル状電解質を用いる場合についても説明したが、他の電解質を用いるようにしてもよい。他の電解質としては、例えば、イオン伝導性セラミックス,イオン伝導性ガラスあるいはイオン性結晶などのイオン伝導性無機化合物と電解液とを混合したもの、または他の無機化合物と電解液とを混合したもの、またはこれらの無機化合物とゲル状電解質とを混合したものが挙げられる。
【0100】
また、上記実施の形態および実施例では、電極反応物質としてリチウムを用いる電池について説明したが、ナトリウム(Na)あるいはカリウム(K)などの他のアルカリ金属、またはマグネシウムあるいはカルシウム(Ca)などのアルカリ土類金属、またはアルミニウムなどの他の軽金属を用いる場合についても、本発明を適用することができる。その際、負極には、上記実施の形態で説明した負極活物質、例えばスズまたはケイ素を構成元素として含むものを同様にして用いることができる。
【0101】
更に、上記実施の形態または実施例では、円筒型,ラミネートフィルム型あるいはコイン型の二次電池を具体的に挙げて説明したが、本発明はボタン型、あるいは角型などの他の形状を有する二次電池、または積層構造などの他の構造を有する二次電池についても同様に適用することができる。また、本発明は、二次電池に限らず、一次電池などの他の電池についても同様に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る二次電池の構成を表す断面図である。
【図2】図1に示した二次電池における巻回電極体の一部を拡大して表す断面図である。
【図3】本発明の第3の実施の形態に係る二次電池の構成を表す分解斜視図である。
【図4】図3に示した巻回電極体のI−I線に沿った構成を表す断面図である。
【図5】実施例において作製した二次電池の構成を表す断面図である。
【図6】実施例で作製したSnCoC含有材料に係るX線光電子分光法により得られたピークの一例を表すものである。
【符号の説明】
【0103】
11…電池缶、12,13…絶縁板、14…電池蓋、15…安全弁機構、15A…ディスク板、16…熱感抵抗素子、17,56…ガスケット、20,30…巻回電極体、21,33,51…正極、21A,33A,51A…正極集電体、21B,33B,51B…正極活物質層、22,34,52…負極、22A,34A,52A…負極集電体、22B,34B,52B…負極活物質層、23,35,53…セパレータ、24…センターピン、25,31…正極リード、26,32…負極リード、36…電解質層、37…保護テープ、40…外装部材、41…密着フィルム、54…外装缶、55…外装カップ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極および負極と共に電解質を備えた電池であって、
前記負極は、電極反応物質を吸蔵および放出することが可能であり、構成元素として金属元素および半金属元素のうちの少なくとも1種を含む負極材料を含有し、
前記電解質は、化1に示したホウ酸リチウム塩を含有する
ことを特徴とする電池。
(化1)
Li2 12x 12-x
(式中、xは平均で4以上12以下である。ZはH,ClまたはBrである。)
【請求項2】
前記負極は、構成元素としてケイ素(Si)およびスズ(Sn)のうちの少なくとも一方を含む負極材料を含有することを特徴とする請求項1記載の電池。
【請求項3】
前記電解質は、ハロゲン化炭酸エステルを含むことを特徴とする請求項1記載の電池。
【請求項4】
前記ハロゲン化炭酸エステルは、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、炭酸フルオロメチルメチル、炭酸ビスフルオロメチルおよび炭酸ジフルオロメチルメチルからなる群のうちの少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項3記載の電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−258065(P2007−258065A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−82874(P2006−82874)
【出願日】平成18年3月24日(2006.3.24)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】