説明

電波時計用受信回路

【課題】ローカル信号の周波数の微調整を可能にして、水晶発振器及び周波数選択フィルタの初期偏差や温度特性を補償し、また、微調整された安定した周波数の中間周波数信号を得ることによって、上記フィルタの通過帯域を狭くして、受信信号に対するノイズの影響を大幅に低減できる電波時計用受信回路を提供する。
【解決手段】複数の周波数から選択して外付けしたアンテナ1により受信する時刻情報を含む長波標準電波から復調信号を生成する電波時計用受信回路において、水晶発振回路5の基準周波数信号からローカル信号を生成する局部発振回路8をPLL回路6とDDS回路7で構成し、DDS回路7によってローカル信号の周波数の微調整を行なう。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の周波数の標準電波を受信して時刻修正を行なう、スーパーヘテロダイン方式による多周波数対応の電波時計用受信回路に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、スーパーへテロダイン方式の電波時計用受信回路は知られている。時刻情報を含む標準電波は、送信地域毎に異なっており、例えば、我が国においては40kHzまたは60kHzに設定され、ドイツ(DCF−77)においては77.5kHzに設定されている。そして、電波時計用受信回路は、これら送信波のうちの受信した所定周波数の信号と、水晶発振器で生成した周波数32.768kHzの発振信号を基準信号源としてPLL(Phase Locked Loop:位相同期)回路からなる局部発振回路が出力する局部発振周波数の信号とを、ミキシング回路でミキシングした後、水晶フィルタを備えた中間周波数回路で中間周波数の信号を出力し、この中間周波数の信号を検波回路で復調するものである(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−214054号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、この従来のスーパーへテロダイン方式の電波時計用受信回路は、次のような問題を有している。第1に、水晶発振器の水晶振動子に起因して32.768kHzの基準信号周波数の初期偏差及び温度特性が存在するが、これに対する対策がとられていない。第2に、中間周波数回路の水晶フィルタにも水晶振動子に起因する初期偏差及び温度特性が存在するが、これに対する対策がとられていない。第3に、前記第2の点に関連し、前記水晶フィルタにおいては、付加回路により数百ppm程度の周波数補正は可能であるが、この付加回路による補正では、Q値(周波数半値幅と等価)や通過損が大きく変化するという結果を招くので、有効な対策とはならない。第4に、スーパーへテロダイン方式においては、受信可能な全周波数に対して同じ中間周波数を作ることができる局部発振回路が理想であり、PLL回路の出力周波数は、32.768kHz×N÷R(但し、Nは発振部側に設けたメインカウンタの分周数,Rは基準信号側に設けた基準カウンタの分周数)で表され、N及びRの値を大きくすることで、全受信周波数に対してほぼ同じ中間周波数を得る局部発振回路とすることができるが、この場合にはPLL回路のロック時間が長くなるとともに、出力周波数の安定度が悪化するという結果を招くという問題が生じる。本発明は、このような問題を解決したスーパーヘテロダイン方式による多周波数対応の電波時計用受信回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この目的を達成するため本発明に係る電波時計用受信回路は、複数の周波数から選択して外付けしたアンテナにより受信する時刻情報を含む長波標準電波から復調信号を生成する電波時計用受信回路であって、受信する長波標準電波の周波数に応じて前記アンテナの同調容量値を切り替える同調周波数調整用の容量素子を備えた同調周波数調整回路と、この同調周波数調整回路で調整された同調容量値にしたがって受信した電波信号を増幅する増幅器と、外部の水晶発振回路から入力する基準周波数信号を逓倍し、DDS(Direct Digital Synthesizer:デジタル直接合成発振器)回路によって前記逓倍した基準周波数信号からローカル信号を生成する局部発振回路と、前記増幅器で増幅された電波信号と前記局部発振回路で生成されたローカル信号とを合成して中間周波数信号を生成する周波数変換回路と、前記中間周波数信号を入力信号とし所定周波数以外のノイズを除去する一つの周波数選択フィルタ、例えば水晶フィルタやスイッチト・キャパシタ・フィルタを備えた中間周波数回路と、この中間周波数回路の出力信号を検波して時刻情報を含んだ復調信号を生成する検波回路とを有するものである。
【0006】
局部発振回路における基準周波数信号を逓倍する動作は、VCO(Voltage Controlled
Oscillator:電圧制御発振器)を備えたPLL回路で行ない、VCOは、入出力端子間に接続された帰還抵抗と、入力端子側から順に直列接続された偶数段の第1のインバータ回路列及び電流制御可能な第2のインバータ回路と、前記第1のインバータ回路列の入出力端間に接続された容量素子とを有すると好適である。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る電波時計用受信回路によれば、局部発振回路にDDS回路を備えることにより、ローカル信号の周波数の微調整が可能になって、従来問題であった水晶発振器及び水晶フィルタの初期偏差や温度特性を補償することができ、また、微調整された安定した周波数の中間周波数信号を得ることができるので、周波数選択フィルタの通過帯域を狭くして、受信信号に対するノイズの影響を大幅に低減できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の好適な実施形態を示すブロック図。
【図2】PLL回路のブロック図。
【図3】PLL回路におけるVCOのより具体的な構成を示すブロック図。
【図4】DDS回路のブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の好適な実施形態を図1〜図4に基づいて説明する。図1に示すように、電波時計用受信回路は、外付けしたアンテナ1と、制御手段2により制御されて前記アンテナ1を受信する電波信号の周波数に同調させる同調周波数調整回路3と、この同調周波数調整回路3の出力を増幅する増幅器4と、水晶発振回路5により生成されて外部から入力する基準周波数信号をPLL回路6で逓倍し、DDS回路7によって前記逓倍した基準周波数信号から前記制御手段2で設定された周波数のローカル信号を生成する局部発振回路8と、前記増幅器4で増幅された電波信号と前記局部発振回路8で生成されたローカル信号とを合成して中間周波数信号を生成する周波数変換回路9と、前記中間周波数信号を入力信号とし所定周波数以外のノイズを除去する一つの周波数選択フィルタである外付けした一つの水晶フィルタ10を備えた中間周波数回路11と、この中間周波数回路11の出力信号を検波して時刻情報を含んだ復調信号を生成する検波回路12とから構成される。
【0010】
図1に示すように、同調周波数調整回路3は、並列接続された複数の容量素子31のそれぞれにスイッチ素子32を接続してなり、各スイッチ素子32を制御手段2によりオンオフ制御して、受信すべき長波標準電波の周波数に同調するようアンテナ1の同調容量値を切り替え、調整するものである。受信した電波信号は増幅器4によって増幅されて、周波数変換回路9に入力する。この周波数変換回路9には、局部発振回路8の出力も入力する。
【0011】
局部発振回路8は、外部の水晶発振回路5で生成された32.768kHzの基準周波数信号が入力されて、前記基準周波数信号を16逓倍するPLL回路6と、このPLL回路6から出力された524.288kHzの出力信号からローカル信号を生成するDDS回路7からなる。
【0012】
図2に示すように、PLL回路6は、基準周波数信号と、詳細は後述するVCO64の発振信号を1/16分周する分周器65の出力信号との位相を比較する位相比較回路61と、この位相比較回路61の出力に応じた電流を出力するチャージポンプ回路62と、このチャージポンプ回路62の出力信号の高周波成分を減衰させて低周波成分だけを出力するローパスフィルタ63と、このローパスフィルタ63の出力信号の電圧レベルに応じた周波数の発振信号を出力するVCO64からなる。このような構成によって、前記PLL回路6は、周波数32.768kHzの基準周波数信号を16逓倍して周波数524.288kHzの出力信号を得るものである。
【0013】
ここで、VCO64の構成をより詳細に説明する。VCO64は、ローパスフィルタ63の出力信号が入力する制御回路641を備えるとともに、直列に3段接続したインバータ642,643,644を備えている。前記入力端子側の2段のインバータ642,643が第1のインバータ回路列を構成し、前記最終段のインバータ644が第2のインバータ回路を構成する。前記最終段のインバータ644の出力端は、帰還抵抗645を介して前記1段目のインバータ642の入力端に接続し、前記1段目のインバータ642の入力端は、容量素子646を介して接地するとともに、容量素子647を介して前記最終段のインバータ644の入力端に接続している。前記帰還抵抗645と前記容量素子647によって時定数回路を構成する。前記制御回路641から出力される制御信号は、最終段のインバータ644に入力してこのインバータ644に流れる電流を制御し、主に容量素子647への充放電時間を調整して、出力周波数を変更する。このように構成することで、発振振幅が大きくなり(CMOSレベル)、位相雑音を低くすることができるという効果がある。
【0014】
図3に示すように、各インバータ642,643,644は、それぞれPチャネルMOSトランジスタP1,P2,P3とNチャネルMOSトランジスタN1,N2,N3からなり、同一構成である。なお、インバータ644には、制御回路641から出力される制御信号である制御電圧をPチャネルMOSトランジスタP3とNチャネルMOSトランジスタN3に印加するために、前記PチャネルMOSトランジスタP3にはPチャネルMOSトランジスタP4を接続し、前記NチャネルMOSトランジスタN3にはNチャネルMOSトランジスタN4を接続している。
【0015】
図4に示すように、DDS回路7は、加算器71とラッチ72で構成する位相アキュムレータ(アドレス演算器)73と、1/4周期分の波形データが書き込まれたSIN波形メモリ74と、DAコンバータ75と、ローパスフィルタ76からなる。位相アキュムレータ73は基準クロックに同期して周波数設定値Mを累積することで、周波数設定値Mに比例した速度のノコギリ波を生成する。このノコギリ波のデータが出力波形の位相に相当するため、前記SIN波形メモリ74のアドレスとして使用し、書き込まれている波形データを呼び出してSIN波形を得る。このSIN波形をDAコンバータ75でアナログ変換し、この階段状の出力波形をローパスフィルタ76でクロック成分を除去することにより、きれいなアナログ出力を得る。なお、前記周波数設定値Mは、制御手段2にデータ入力して設定する。
【0016】
ここで、発振周波数は、加算器71のビット数をnとすると、
発振周波数=周波数設定値M×クロック周波数÷2
と表されるので、例えば、クロック周波数を524.288kHz、加算器71のビット数を21とすると、クロック周波数÷2=0.25(Hz)となり、周波数設定値Mを適宜設定することにより、周波数変更ステップが0.25Hzの所望の発振周波数をDDS回路7から出力することができる。
【0017】
このようにして、上述の実施形態によれば、0.25HzのステップでDDS回路7の出力周波数を変更できるので、水晶発振器5の水晶振動子に起因する32.768kHzの基準周波数の初期偏差及び温度特性を補償することができる。また、同様に、水晶フィルタ10の水晶振動子に起因する初期偏差及び温度特性も補償することができる。
【0018】
続いて、上述した実施形態の動作を説明する。まず、受信する標準電波の周波数、例えば40kHzを制御手段2において指定し、この制御手段2の制御信号によって同調周波数調整回路3はアンテナ1の同調周波数を指定された周波数である40kHzに設定する。これと並行して、制御手段2によって周波数設定値M、例えば284000を設定し、制御手段2から局部発振回路8のDDS回路7に周波数設定値284000を送る。
【0019】
アンテナ1で受信された40kHzの標準電波信号は、同調周波数調整回路3から増幅器4に送られて増幅され、周波数変換回路9に送られる。一方、水晶発振回路5からの周波数32.768kHzの基準信号は、局部発振回路8のPLL回路6で16逓倍した周波数524.288kHzのクロック信号としてDDS回路7に送られる。
【0020】
DDS回路7では、位相アキュムレータ73で前記クロック信号と同期して、制御手段2で設定された周波数設定値284000を累積することで、この周波数設定値284000に比例した速度のノコギリ波状データを生成し、この生成したデータをアドレスとしてSIN波形メモリ74の対応するSIN波形データを出力する。このSIN波形データは、ADコンバータ75でアナログ変換された後、ローパスフィルタ76でクロック成分が除去されて、周波数71kHzのきれいなアナログのローカル信号となって周波数変換回路9へ送られる。
【0021】
周波数変換回路9では、増幅された標準電波信号と、局部発振回路8から出力されたローカル信号を周波数変換(ミキシング)して周波数31kHzの中間周波数信号を生成し、中間周波数回路11で中間周波数信号を抽出して検波回路12へ送る。検波回路12は抽出された中間周波数信号を検波して時刻情報を含んだ復調信号を生成して出力する。この復調信号は図示していない制御部に送られて時刻情報に変換され、この時刻情報が電波時計の時刻の修正に利用される。
【0022】
なお、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、例えばPLL回路6におけるVCO64の構成は上述のものに限らないほか、PLL回路6を備えなくてもよいものである。すなわち、外部の水晶発振回路5が、32.768kHzの基本周波数ではなく、DDS回路7に所望の動作をさせるに足りる周波数信号を供給する場合には、それを直接DDS回路に入力すればよくPLL回路6は不要となる。また、中間周波数回路11に外付けされる水晶フィルタ10は、SCF(スイッチト・キャパシタ・フィルタ)など所定周波数以外のノイズを除去する周波数選択機能を持つものをICに内蔵することでも代替できる。さらに、DDS回路7の出力周波数における周波数変更ステップは0.25Hzに限らず、クロック周波数と加算器71のビット数によって、適宜設定可能である。
【符号の説明】
【0023】
1 アンテナ
2 制御手段
3 同調周波数調整回路
4 増幅器
5 水晶発振回路
6 PLL回路
7 DDS回路
8 局部発振回路
9 周波数変換回路
10 水晶フィルタ
11 中間周波数回路
12 検波回路


【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の周波数から選択して外付けしたアンテナにより受信する時刻情報を含む長波標準電波から復調信号を生成する電波時計用受信回路であって、受信する長波標準電波の周波数に応じて前記アンテナの同調容量値を切り替える同調周波数調整用の容量素子を備えた同調周波数調整回路と、この同調周波数調整回路で調整された同調容量値にしたがって受信した電波信号を増幅する増幅器と、DDS回路によって外部の水晶発振回路から入力する基準周波数信号に基づいたローカル信号を生成する局部発振回路と、前記増幅器で増幅された電波信号と前記局部発振回路で生成されたローカル信号とを合成して中間周波数信号を生成する周波数変換回路と、前記中間周波数信号を入力信号とし所定周波数以外のノイズを除去する一つの周波数選択フィルタを備えた中間周波数回路と、この中間周波数回路の出力信号を検波して時刻情報を含んだ復調信号を生成する検波回路とを有することを特徴とする電波時計用受信回路。
【請求項2】
前記局部発振回路は、前記基準周波数信号を逓倍するための電圧制御発振器を含むPLL回路を備え、前記電圧制御発振器は、入出力端子間に接続された帰還抵抗と、入力端子側から順に直列接続された偶数段の第1のインバータ回路列及び電流制御可能な第2のインバータ回路と、前記第1のインバータ回路列の入出力端間に接続された容量素子とを有することを特徴とする請求項1記載の電波時計用受信回路。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2012−32275(P2012−32275A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−172027(P2010−172027)
【出願日】平成22年7月30日(2010.7.30)
【出願人】(390009667)セイコーNPC株式会社 (161)
【Fターム(参考)】