説明

電波減衰抑制剤、電波減衰抑制膜、積層体、積層体の製造方法、及び電波減衰抑制方法。

【課題】電波透過性の高い膜を簡易な工程で形成可能な電波減衰抑制剤を提供する。
【解決手段】含水率が0.5%以下であるシリカ化合物粒子、ロジン、ロジンエステル若しくはこれらの水添物、シリコーン樹脂、アクリル樹脂又はポリエステル樹脂からなる群より選ばれる一種からなる樹脂及び非水系溶媒を含有する組成物からなる電波減衰抑制剤、及び該電波減衰抑制剤の不揮発成分からなる電波減衰抑制膜をポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂及びABS樹脂からなる群より選ばれる一種からなる基材上に備える積層体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電波減衰抑制剤、電波減衰抑制膜、積層体、積層体の製造方法、及び電波減衰抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
屋外用通信アンテナなどの電波の送受信装置を、電波透過性を維持しながら、直射日光や雨、塵埃などの自然環境から受ける物理的・化学的影響から保護するため、レドームが用いられている。このようなレドームの表面はフッ素系樹脂又はエポキシ系樹脂などからなる保護膜で覆われている(特許文献1及び2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許4176793号公報
【特許文献2】特開2009−28900号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、現在使用されているレドームにおいては保護膜の電波透過性が十分でないため、良好な電波の送受信を妨げてしまう。
【0005】
さらに、近年の通信情報量の増大や無線通信デバイスの発達に伴い、UHF〜EHF帯域にある電波が通信用電波として使用されるようになってきているが、このような高周波数帯では従来のレドームは使用されていない。
【0006】
また、フッ素系樹脂、エポキシ系樹脂等を用いた従来の保護膜を用いる場合、保護膜を形成させるために、機械加工処理、電気メッキ処理、加熱/冷却処理といった特殊な処理が必要な場合があり、その処理によっては高温での乾燥及びエージングに数日を要するという問題を有していた。このため、レドームの設置現場にて保護膜を形成させることは困難であった。また、基材の材質や厚さによっては高温での処理に耐えられず、基材が変形してしまうという問題もあった。
【0007】
そこで本発明は、電波透過性の高い膜を簡易な工程で形成可能な電波減衰抑制剤、これを用いた電波減衰抑制膜及び積層体を提供することを目的とする。本発明はまた、積層体の製造方法及び電波の送受信機の電波減衰抑制方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、含水率が0.5%以下であるシリカ化合物粒子、樹脂、及び非水系溶媒を含有する組成物からなる電波減衰抑制剤を提供する。このような電波減衰抑制剤であれば、電波透過性の高い膜を簡易な工程で形成可能である。
【0009】
上述のように、フッ素系樹脂を含有する保護膜形成剤を用いて保護膜を形成する場合には加工に煩雑さが伴うが、これは、当該保護膜形成剤が一般に水を含有していることに起因することが今回見出された。すなわち、本発明者らの知見によれば、水を含有する系で保護膜を作成すると、水分が残存してしまうことが多く、残存する水分が電波透過性の低下の要因となり、水分を完全に除去しようとすれば、加工に手間がかかるようになる。さらに、フッ素系樹脂を含有する保護膜形成剤を用いる場合は、上記の通り水分を除去する工程に加え、完成した保護膜に撥水機能を持たせるため130℃以上での高温処理も必要になる。
【0010】
一方、本発明の電波減衰抑制剤は、溶媒として非水系溶媒を使用することから、残存する水分による影響を受け難く、膜形成のために特殊な処理も要求されない。
【0011】
電波減衰抑制剤中の樹脂は、ロジン、ロジンエステル若しくはこれらの水添物、シリコーン樹脂、アクリル樹脂又はポリエステル樹脂であることが好ましい。このような樹脂を用いることにより、複素比誘電率ε´及び誘電損失tanδを効果的に低減でき、この結果、電波透過性が優れるようになる。
【0012】
本発明はまた、電波減衰抑制剤の不揮発成分からなる電波減衰抑制膜、及びこの電波減衰抑制膜を基材上に備える積層体を提供する。本発明の電波減衰抑制膜は、膜内部でシリカ化合物粒子が高密度に充填した構造をとることができ、また、粒子間には適度な空隙が含包され得る。このような構造を主要因として、保護膜としての十分な強度及び良好な電波透過性を発揮するようになると考えられる。また、このような電波減衰抑制膜を備える積層体であれば、外的環境に対する保護機能を充分有すると共に良好な電波透過性も有するため、例えば電波の送受信機を覆うレドームとして用いることもできる。
【0013】
積層体を構成する基材としては、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂及びABS樹脂からなる群より選ばれる一種からなることが好ましい。これにより、基材と電波減衰抑制膜との密着性がより向上する。また、基材自体の誘電損失を低く抑えることができ、電波透過性がより良好になる。
【0014】
また、本発明は、基材上に、含水率が0.5%以下であるシリカ化合物粒子及び樹脂を含有する電波減衰抑制膜を形成させる、積層体の製造方法を提供する。このような製造方法を適用することで、非常に簡易な工程で対象物に電波透過性が優れた電波減衰抑制膜を形成することができる。
【0015】
さらに本発明は、電波の送受信機上に、含水率が0.5%以下であるシリカ化合物粒子及び樹脂を含有する電波減衰抑制膜を形成させる、電波の送受信機の電波減衰抑制方法を提供する。この方法によれば、電波透過性を維持しながら、直射日光や雨、塵埃などの自然環境から受ける物理的・化学的影響から、電波の送受信機を保護することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、レドームだけでなく電波の送受信機にも直接塗布可能で、電波透過性の高い膜を簡易な工程で形成可能な電波減衰抑制剤、これを用いた電波減衰抑制膜及び積層体を提供することができる。本発明によればまた、積層体の製造方法及び電波の送受信機の電波減衰抑制方法を提供することができる。
【0017】
本発明の電波減衰抑制膜は、例えば対象物への電波減衰抑制剤の塗布及び溶媒の除去という工程で製造可能である。そのため、従来のフッ素系樹脂等の保護膜製造方法に比べ非常に簡易な方法で対象物に電波減衰抑制膜を形成することができる。
【0018】
また、本発明によれば膜形成時に高温処理の不要な保護膜を形成できる。これにより、これまでは電波透過性に優れるものの、高温処理に耐えられず保護膜として使用できなかった材質からなる基材を使用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】26〜32GHz帯における実施例及び比較例の複素比誘電率ε´を表すグラフである。
【図2】26〜32GHz帯における実施例及び比較例の誘電損失tanδを表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の電波減衰抑制剤は、含水率が0.5%以下のシリカ化合物粒子(以下「(A)成分」と呼ぶ場合がある。)、樹脂(以下「(B)成分」と呼ぶ場合がある。)及び非水系溶媒(以下「(C)成分」と呼ぶ場合がある。)を必須成分としており、上述した効果を損なわない範囲で、これら以外の成分を含有していてもよい。
【0021】
先ず、(A)成分について説明する。
【0022】
(A)成分は、含水率が0.5%以下であるシリカ化合物粒子である。ここで、含水率とは、シリカ化合物粒子が含む水分の質量をシリカ化合物粒子全体の質量で除した値であり、この値は0.01〜0.4%が好ましく、0.01〜0.3%がより好ましい。この含水率は、例えば平沼産業(株)製の自動水分測定装置AQV−2100CTのような測定装置によって測定することができる。
【0023】
(A)成分を構成するシリカ化合物は、シリカ又はシリカ誘導体をいい、シリカ誘導体としてはオルガノシロキサン骨格を導入したシリカが好ましい。シリカ化合物粒子表面は水酸基(シラノール基)を有するものが好ましく、この場合、単位表面積当たりの表面水酸基の数は1.5個/nm以下(好ましくは、0.5個/nm以下)であることが好ましい。なお、シリカ化合物粒子表面には、水酸基以外の官能基(例えば、アミノ基、メルカプト基、エポキシ基)が導入されていてもよい。
【0024】
(A)成分のうち、オルガノシロキサン骨格を導入したシリカ粒子は、例えばアルキルジシラザン(ヘキサメチルジシラザン等)やアルキルクロロシラン(ジメチルジクロロシラン等)でシリカ粒子を表面処理することで得ることができる。この場合において、単位表面積当たりの表面のOH基の数が1.5個/nm以下(好ましくは、0.5個/nm以下)であるシリカを水蒸気及び塩基性ガスの存在下にヘキサメチルジシラザンと接触させる方法で得ることが好ましい。
【0025】
(A)成分は、市販品として入手してもよく、例えば、シリカ粒子表面のOH基にヘキサメチルジシラザンを接触反応させて改質したアエロジルRX200、アエロジルRX300(日本アエロジル(株)製)や、シリカ粒子の表面のOH基にジメチルジクロロシランを接触反応させて改質したアエロジルR974、アエロジルR976(日本アエロジル(株)製)等が好ましいものとして挙げられる。これらのシリカ化合物粒子は、SiO・n((CH・SiO)・m((CH・SiO0.5)又はSiO・n((CH・SiO)と表すことができる。
【0026】
シリカ化合物粒子の一次粒子の平均粒子径は5〜60nmであることが好ましく、7〜40nmであることがより好ましい。平均粒子径が5〜60nmの範囲を外れると、均質な電波減衰抑制膜の形成性が劣化する傾向にあり、そのため膜からシリカ化合物粒子が飛散しやすくなる。
【0027】
シリカ化合物粒子中の炭素量(例えば、オルガノシロキサン骨格のオルガノ基に由来する)は0.5〜7質量%であることが好ましく、0.7〜5質量%であることがより好ましい。炭素量が0.5質量%未満であると微細シリカ表面の改質(表面処理)が不十分になる傾向にあり、7質量%を超えると不均一な改質部位が発生し易くなり、均質な電波減衰抑制膜の形成が妨げられる傾向にある。
【0028】
次に、(B)成分について説明する。
【0029】
(B)成分は樹脂であり、電波減衰抑制剤から電波減衰抑制膜を形成した場合にマトリックス成分となる樹脂である。(B)成分は、基材とシリカ化合物粒子との間のバインダー、及び/又はシリカ化合物粒子同士のバインダーとして主に機能する。このような樹脂としては例えば、アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、脂環式飽和炭化水素樹脂、ロジン系樹脂(ロジン、ロジンエステル又はこれらの水添物)、アルキルフェノール樹脂(ノボラック型)、アルキルフェノール樹脂(レゾール型)、テルペンフェノール樹脂、シリコーン樹脂等を用いることができ、これらの中でも、ロジン系樹脂(ロジン、ロジンエステル若しくはこれらの水添物)、シリコーン樹脂、アクリル樹脂又はポリエステル樹脂が好ましく、ロジン系樹脂及びシリコーン樹脂がより好ましい。これらの樹脂を用いると電波減衰の抑制効果がより良好なものとなる。
【0030】
アクリル樹脂には、アクリル(共)重合体の他、メタクリル(共)重合体も含まれる。アクリル樹脂を構成するモノマーとしては、(メタ)アクリル酸エステル、官能基が導入された(メタ)アクリル酸エステル(例えば、ヒドロキシ(メタ)アクリレート)、グリシジル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリロニトリル等が挙げられる。アクリル樹脂としては、カルボキシル基等の酸性基を有する(メタ)アクリル共重合体が好適であり、エマルジョンとして提供される場合は、固形分30質量%での粘度が100mPa・s以下(例えば、B型粘度計にて測定)ものが好ましい。酸性基を有する(メタ)アクリル共重合体を用いることにより、得られるコーティング膜の耐久性や基材への密着性がより向上する傾向にある。
【0031】
ロジン系樹脂(特に、ロジンエステル)としては軟化点が90℃以上のものが特に好ましく用いられる。ロジン系樹脂を用いることにより、基材のシリカ化合物粒子の担持力が向上する傾向にある。
【0032】
シリコーン樹脂としては、アミノ変性シリコーン、ジメチルポリシロキサン又はシリコーンレジン(アルコキシシラン等のシラン化合物を加水分解し、縮合重合させて得られる3次元架橋構造を有するシリコーン)が特に好ましく用いられる。シリコーン樹脂を用いることにより、膜と基材との密着性が良好となり、かつ膜強度も向上する傾向にある。
【0033】
ポリエステル樹脂としては、特に限定されるものではなく、一般的には多価カルボン酸類と多価アルコール類との重縮合反応により得られるポリエステル樹脂である。なかでも、多価カルボン酸成分として芳香族ジカルボン酸及び/又は脂環族ジカルボン酸を、多価アルコール成分として脂肪族ジオール及び/又は脂環族ジオールを用いて得たものが好ましい。
【0034】
このようなアクリル樹脂、ロジン系樹脂、シリコーン樹脂及びポリエステル樹脂は市販品として入手することが可能であり、例えば、アクリル共重合体としてはリカボンドFK−610(中央理化工業(株)製)、ロジンエステルとしてはスーパーエステルA−100(荒川化学工業(株)製)、シリコーン樹脂としては、KF864(信越化学工業(株)製)、SF8411(東レ・ダウコーニング(株)製)等のアミノ変性シリコーンや、SR2510(東レ・ダウコーニング(株)製)等のシリコーンレジンを挙げることができる。また、ポリエステル樹脂としては、ペスレジンA−124GP、ペスレジンA−120(共に高松油脂(株)製)等を挙げることができる。
【0035】
次に、(C)成分について説明する。
【0036】
(C)成分は非水系溶媒である。(C)成分は、シリカ化合物粒子を分散可能で、かつ樹脂を分散、膨潤又は溶解できるものであればよい。ここで、非水系溶媒とは、水分の添加を行なっていない有機溶媒(実質的に水を含有しない有機溶媒)を意味し、製造上や保管上の都合等から水分を僅かに含んでいる場合は非水系溶媒として考える。非水系溶媒の水分含有率は0.1質量%以下(さらには0.01質量%以下)が好ましい。(C)成分としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、イソブチルアルコール等の炭素数1〜4の脂肪族アルコール;アセトン、エチルメチルケトン等のケトン類;酢酸エチル等のエステル類;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、メチルt−ブチルエーテル等のエーテル類;脂肪族系炭化水素;脂環式系炭化水素;芳香族系炭化水素等が挙げされる。これらは必要に応じて一種類で用いてもよく、二種類以上を混合して用いてもよい。
【0037】
電波減衰抑制剤は、(A)成分、(B)成分及び(C)成分を混合させて得ることができる。但し、電波減衰抑制剤中で、(A)成分及び(B)成分の分散性が弱すぎる場合には、経時での分散安定性が悪くなることにより、電波減衰抑制膜中に分散不良による凝集粒子が混在するようになり、膜としての耐久性(基材との密着性)が低下する傾向にある。従って、電波減衰抑制剤を調製する際には、(A)成分、(B)成分及び(C)成分の混合物を均一分散させることが好ましい。均一分散性を得るためには、例えばホモジナイザー、コロイドミル、ボールミル、ビーズミル、サンドミル、三本ロールミル、ニーダー若しくはエクストルーダー、又は超音波分散若しくは高圧ジェットミル分散装置等の高速分散装置を用いることができる。
【0038】
また、電波減衰抑制剤の全質量を基準として、(A)成分の含有量は、0.5〜10質量%(さらには1〜5質量%)であることが好ましく、(B)成分の含有量は、0.5〜30質量%(さらには1〜25質量%)であることが好ましく、(C)成分の含有量は、50〜99質量%(さらには60〜99質量%)であることが好ましい。各含有量がこのような範囲にあることで、電波減衰抑制剤中での(A)成分及び(B)成分の分散性が良好になり、均質な電波減衰抑制膜を形成することができる。
【0039】
電波減衰抑制剤は、(A)、(B)、(C)成分以外に、架橋剤、紫外線吸収剤、顔料などの添加成分をさらに含有していてもよい。添加成分の含有量は、電波減衰抑制剤の上述した効果を損なわないレベルであればよく、一般的には、(A)、(B)、(C)成分を含有する電波減衰抑制剤の全質量を基準として、0〜15質量%(さらには0.01〜10質量%)であることが好ましい。
【0040】
次に、電波減衰抑制膜について説明する。
【0041】
電波減衰抑制膜は、電波減衰抑制剤の不揮発成分からなる。ここで、不揮発成分とは、105℃の加熱(常圧又は減圧)により、揮発しない成分をいう。このような電波減衰抑制膜は、例えば、対象物に電波減衰抑制剤を塗布し、非水系溶媒を除去するという方法を用いて得ることができる。
【0042】
このようにして得られた電波減衰抑制膜は、単位面積当たりの不揮発成分の量、つまり(A)成分及び(B)成分の量が、0.03〜10g/m(さらには0.03〜5g/m)であることが好ましい。これにより、より良好な保護膜の機能及び電波透過率の維持を両立することができる。
【0043】
次に、積層体について説明する。
【0044】
積層体は、上述した電波減衰抑制膜を基材上に備えるものである。基材上に形成する電波減衰抑制膜は1種類であるものが一般的であるが、同一又は異なる電波減衰抑制膜を基材上に備えるものであってもよい。基材の表面に担持される(A)成分及び(B)成分の量は、上述の通り0.03〜10g/m(さらには0.03〜5g/m)であることが好ましい。特に(A)成分の担持量が0.01〜5g/m(さらには0.01〜3gm/)であることが好ましい。
【0045】
基材としては、軟質ガラス、ガラスエポキシ、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ABS樹脂、ポリアミド(ナイロン(登録商標)など)又はポリウレタン樹脂が挙げられるが、それ自体が誘電損失が小さく、電波透過性のよい素材が好ましい。具体的には、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂及びABS樹脂が好ましい。
【0046】
基材に電波減衰抑制剤を塗布する方法については特に限定されず、従来のコーティング方法を適用することができる。例えば、刷毛塗り、エアガン若しくはエアレスガン塗装機による直接コーティング;エアゾールスプレー若しくはトリガースプレー形態による直接スプレーコーティング;ローラー式刷毛を用いたコーティング;シート状基体によるコーティングが挙げられる。
【0047】
基材の表面上に塗布する電波減衰抑制剤の量は、均一に塗布ができる程度の量であればよく、10〜500mL/mが好ましい。
【0048】
また、基材の塗布面に対して前処理を施しておくことが好ましい。すなわち、塗布に先立って、基材表面から有機性の汚染物を実質的に除去しておくことが好ましい。このような前処理としては、基材の材質によっても異なるが、例えば、アセトンやエタノール等の有機溶媒を使用した溶媒による清浄化処理が効果的である。
【0049】
電波減衰抑制剤から溶媒を除去する方法は特に制限されず、本発明においては特に加熱せずに乾燥させることも可能である。従来のフッ素樹脂などからなる保護膜を形成させる方法においては一般に加熱が必要であったが、本発明の電波減衰抑制剤を用いた場合には、常温での乾燥で十分な保護機能を有する電波減衰抑制膜を形成することができる。なお、膜の形成時間を短縮させる観点から、加熱乾燥する方法を採用してもよい。
【0050】
このように、電波減衰抑制剤の塗布及び溶媒の除去という非常に簡易な工程で電波減衰抑制膜を製造することができる。そのため、メタルスペースフレームレドームのような巨大なドームから、民生用アンテナやさらに小型で形状の複雑な電波の送受信機まで、幅広く塗布対象とすることができる。
【0051】
また、電波の送受信機上に電波減衰防止膜を形成させる方法としては、基材と電波減衰防止膜からなる積層体を用いてレドームのような構造体を製造する方法、又は粘着性のシートをさらに備えた積層体を対象物に貼り付ける方法等が挙げられる。
【0052】
電波減衰抑制膜の電波透過性の高さは、その複素比誘電率ε´及び誘電損失tanδで評価する。複素比誘電率ε´は、電波が膜で反射することによる電波損失率を示し、この値が低く1に近いほど膜表面での電波反射が抑制され、電波減衰特性が優れていることになる。また、誘電損失tanδは、電波が膜を透過するときに膜で発生する熱エネルギーロスを示し、この値が低く0に近いほどエネルギーロスが少なく、電波減衰特性が優れていることになる。複素比誘電率の数値が、3.5以下(好ましくは、3.0以下、さらには2.8以下)であり、且つ、誘電損失の値が0.05以下(好ましくは、0.03以下、さらには0.025以下)であると、電波透過性が高いと評価できる。
【0053】
以下、実施例を用いて本発明をさらに説明するが、本発明はそれらに限定することを意図するものではない。
【実施例】
【0054】
実施例に用いたシリカ化合物粒子、樹脂及び溶媒はそれぞれ以下の通りである。
<シリカ化合物粒子>
アエロジルRX300(日本アエロジル(株))
(含水率:0.3%、炭素量:4質量%)
<樹脂>
シリコーン樹脂:KF864(信越化学工業(株))
ロジンエステル系樹脂:エステルガムAAV(荒川化学工業(株))
<非水系溶媒>
イソプロピルアルコール
【0055】
[コーティング剤の作製]
(実施例1)
以下の諸成分、
シリカ化合物粒子:アエロジルRX300 1.0質量%
樹脂 :KF864 0.5質量%
溶媒 :イソプロピルアルコール 98.5質量%
を予備混合した後、ホモジナイザー装置(ゴーリーン社製、商品名:ホモジナイザー、処理条件:300Kg/cm)を用いて分散処理(5分間)を施し、安定な乳白色をしたコーティング剤1を得た。
【0056】
(実施例2)
以下の諸成分:
シリカ化合物粒子:アエロジルRX300 2.0質量%
樹脂 :エステルガムAAV 20.0質量%
溶媒 :イソプロピルアルコール 78.0質量%
を予備混合した後、高圧ジェットミル分散装置((株)スギノマシン製、商品名:アルチマイザー、処理条件:100Pa)を用いて分散処理(5分間)を施し、安定な乳白色をしたコーティング剤2を得た。
【0057】
(比較例1)
フッ素系撥水剤「NKガードNDN−7E」(日華化学(株))をコーティング剤3とした。
【0058】
(比較例2)
ポリウレタン樹脂「ネオステッカー700」(日華化学(株))をコーティング剤4とした。
【0059】
(比較例3)
「KF864」をコーティング剤5とした。
【0060】
[評価用試料の作製]
有機性の汚染物を除去するために、PET基材(100mm×100mm×厚み2mm)をアセトン洗浄した後、スピンコーターを用い、コーティング剤1〜5をPET基板の表面に均一に塗布した。その後、コーティング剤1,2又は5を塗布した基板については、室温(25℃)で風乾させ、コーティング剤3及び4を塗布した基板については、105℃にて40分間乾燥させて水分を除去した後にさらに130℃で5分間の高温加熱処理を施し、それぞれのコーティング膜が形成された評価用試料を得た。なお、コーティング剤の塗布は、乾燥後のコーティング剤の不揮発成分が5g/mとなるような塗布条件で行った。
【0061】
[評価方法]
(電波透過性評価)
コーティング膜が形成された評価用試料の、26〜32GHzにおける電波透過性(複素比誘電率ε´及び誘電損失tanδ)を測定した。測定はJIS R 1660−2:2004に則り、開放型共振器KCM−540(KEYCOM製)及びミリ波送受信システム装置を用いて行った。電波透過性評価の結果を表1〜5並びに図1及び2に示す。
【0062】
【表1】

【0063】
【表2】

【0064】
【表3】

【0065】
【表4】

【0066】
【表5】

【0067】
本発明のコーティング剤(電波減衰抑制剤)を用いた実施例1及び2では、PET基材上に簡易な工程でコーティング膜を形成でき、複素比誘電率ε´の値が3.0未満で、かつ誘電損失tanδの値が0.025未満と、共に低い値を示し、良好な電波透過性を有していた。一方、比較例2及び3では、複素比誘電率ε´及び誘電損失tanδの値が共に実施例より大きく、良好な電波透過性を有していなかった。
【0068】
また、比較例1はコーティング膜形成に特殊な処理が必要であり、簡易な工程でコーティング膜を形成できなかった。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、特に高周波帯域での電波の送受信を行う分野で幅広くその効果を発揮する。例えば、天文台のミリ波長電波望遠鏡、ゲリラ豪雨及び台風観測装置、船舶及び航空機のレーダー、又はGPS衛星用に用いられるレドームへの利用が考えられる。また、民生用として、短波ラジオ放送や地上デジタルTV放送用のアンテナなどへの直接被覆材としても利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
含水率が0.5%以下であるシリカ化合物粒子、樹脂及び非水系溶媒を含有する組成物からなる電波減衰抑制剤。
【請求項2】
前記樹脂は、ロジン、ロジンエステル若しくはこれらの水添物、シリコーン樹脂、アクリル樹脂又はポリエステル樹脂である、請求項1記載の電波減衰抑制剤。
【請求項3】
請求項1又は2記載の電波減衰抑制剤の不揮発成分からなる電波減衰抑制膜。
【請求項4】
請求項3記載の電波減衰抑制膜を基材上に備える積層体。
【請求項5】
前記基材は、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂及びABS樹脂からなる群より選ばれる一種からなる、請求項4記載の積層体。
【請求項6】
基材上に、
含水率が0.5%以下であるシリカ化合物粒子及び樹脂を含有する電波減衰抑制膜を形成させる、積層体の製造方法。
【請求項7】
電波の送受信機上に、
含水率が0.5%以下であるシリカ化合物粒子及び樹脂を含有する電波減衰抑制膜を形成させる、電波の送受信機の電波減衰抑制方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−168664(P2011−168664A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−32471(P2010−32471)
【出願日】平成22年2月17日(2010.2.17)
【出願人】(000226161)日華化学株式会社 (208)
【Fターム(参考)】