説明

電界放出ディスプレイ

【課題】フィールドエミッションディスプレイ(FED)の無機蛍光膜に代えて有機エレクトロルミネセンス発光層を配することで、従来の有機エレクトロルミネセンス素子の発光輝度をはるかに上回る全く新しい電界放出ディスプレイを提供する。
【解決手段】FEDの無機蛍光膜に代えて有機エレクトロルミネセンス発光層を配する。FEDの陰極4と有機エレクトロルミネセンス発光層3との間に、多数の空洞に二次電子発生材料を塗布した電子増倍部5を配設する。有機エレクトロルミネセンス発光層3として、陽極ITO電極2側から、正孔注入層3A、正孔輸送層3B、発光層3Cにて構成された有機エレクトロルミネセンス発光層を使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電界放出ディスプレイの改良に係り、特に、フィールドエミッションディスプレイ(FED)の発光層に有機エレクトロルミネセンス発光層を配した電界放出ディスプレイに関する。
【背景技術】
【0002】
陰極線管CRT(cathode-ray tube)は古くからTVやコンピュターの端末に使われてきた。CRTの構造の主要部分は (1)、熱電子を発生させる熱電子源の陰極(cathode electrode)、(2)、陰極から蛍光体を塗ったガラス基板上の蛍光膜に向かって加速された熱電子を垂直および水平方向に偏向させる偏向装置(deflection system)、(3)、透明なガラス基板の底の部分に無機蛍光体を塗った蛍光膜(fluorescent screen)の陽極(anode electrode)等となる三つの部分から構成されている。この蛍光膜に高電圧の電極間(陰極と陽極)で発生させた熱電子(thermionic emission)を加速・衝突させて、蛍光体を発光させるというものは陰極線管CRT或いはブラウン管(Braun tube)と称する。
【0003】
一方、現在のFED(field emission display)或いはSED(surface emission display)と称する薄型フラットパネルディスプレイは従来のCRTをさらに発展させたものであり、基本原理は同じである。しかし、CRTの構造と異なる主要部分は (1)、陰極から電子を放出する方法は冷たい陰極の表面に非常に強い電界を加えて電子を放出させる方法である。つまり、電子の発生は冷陰極放出または界放出によるものである。(2)、電子を垂直および水平方向に偏向させる偏向装置(deflection system)の装着は必要ない。(3)、蛍光膜はCRTと同様無機蛍光体材料を用いていることにある。
【0004】
その他、とりわけLCDに代表される薄型フラットパネルディスプレイ以外に現在もっとも期待が高まっているのは、有機エレクトロルミネセンスである。代表的な有機エレクトロルミネセンスの素子構造は、透明なガラス基板上にITO(Indium Tin Oxide)を塗布した透明電極からなる陽極と、低仕事関数の金属からなる陰極の間に各種機能を担う有機多層膜を挟んだ構造である。通常、有機層と陰極は真空蒸着法で薄膜成膜される。有機エレクトロルミネセンスに直流電圧を印加することにより、正孔は陽極から正孔輸送層を経て、電子は陰極から電子輸送層を経て、それぞれ発光層内に注入される。注入された正負のキャリアにより発光層内の蛍光分子が励起状態となり、この励起分子の緩和過程で発光が得られる。つまり、電圧の印加、電荷の注入、電荷の輸送、発光まですべて固相(solid phase)の中で完成する。この有機エレクトロルミネセンスの発光原理は、電圧の印加によって有機材料の励起状態(excited state)に注入された電子と基底状態(ground state)に注入された正孔の正負のキャリアが、有機物質中で電界に駆動されて移動し、出会って再結合(recombination)する際に発光する。
【0005】
これに対して、FED或いはSEDは電圧の印加、電荷の注入、電荷の輸送、発光まで固相の中で行っているのではなく、高真空中で完結しているのである。従って、FED或いはSEDの発光原理は真空中に放出された電子を無機蛍光体材料に向かって加速・衝突させて、つまり電子線(Electron Beam)を当てて発光する言わばカソードルミネッセンス(Cathode luminescence)である。
【0006】
発明者は、先に、特許文献1に記載の電子増倍部を装着したFEDデバイスを発明している。このFEDデバイスでは、多数の空洞に二次電子発生材料を塗布した電子増倍部を設けることで、FEDの発光輝度を向上させることが可能になったものである。
【0007】
更に、発明者は、特許文献2に記載された白色有機エレクトロルミネッセンス素子についての発明を出願している。これらの発明は、いずれも、ITO基板上に、陽極および陰極により挟まれた三層(赤色、緑色と青色)の有機層で積層され、各有機層からの3色の発光色を合成することにより、色純度の高い白光色を発する白色有機エレクトロルミネセンス素子を得るものである。
【特許文献1】特開2004‐227801号公報
【特許文献2】特開2005‐150078号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
発明者は、前述の有機エレクトロルミネセンスの発光特性の研究を進めた結果、異なった発光色を得ることに成功している。ところが、有機エレクトロルミネセンス素子の発光効率は7cd/A程度であることから、ハイビジョンが要求される平面ディスプレイなどへの使用が可能な発光効率は得られていない。
【0009】
一方、当発明者は、有機エレクトロルミネセンス素子の更なる研究の結果、これまで知られていない有機エレクトロルミネセンスの発光原理を発見した。すなわち、電子線(Electron Beam)を当てて発光するFEDパネルの無機蛍光膜を有機エレクトロルミネセンス発光層に置き換えて配置し、電子線を当てると、FEDのカソードルミネッセンス(Cathode luminescence)の原理とは異なる発光が生じることが分かった。すなわち、この発光は、有機エレクトロルミネセンス素子特有のキャリアが再結合する際に生じる発光の原理と類似で、しかも有機エレクトロルミネセンス素子に比べて極めて効率の良い発光特性が得られることである。
【0010】
そこで、本発明は、前述の有機エレクトロルミネセンス素子の発光特性及び、FEDの発光特性を有効に利用することで、有機エレクトロルミネセンス素子をはるかに上回る発光輝度を有する全く新しい電界放出ディスプレイの提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述の目的を達成すべく本発明は、透光性を有するガラス基板1と、このガラス基板1の内面に陽極として設けられた陽極ITO電極2と、該陽極ITO電極2の内側に設けられ陽極ITO電極2に対向する陰極4から発生した電子の作用により発光し前記ガラス基板の外部に光を透過せしめるフィールドエミッションディスプレイ(FED)の無機蛍光膜に代えて有機エレクトロルミネセンス発光層3を配したことにある。
【0012】
また、本発明の電界放出ディスプレイにおいて、多数の空洞に二次電子発生材料を塗布した電子増倍部5を、前記陰極4と有機エレクトロルミネセンス発光層3との間に配設し、陰極4から発生した一次電子が電子増倍部5の空洞を通過する際に、二次電子発生材料に衝撃を与えて、前記有機エレクトロルミネセンス発光層3に放射する二次電子量が増加するように設けている。
【0013】
また、前記電界放出ディスプレイにおいて、前記有機エレクトロルミネセンス発光層3に二次電子発生材料を塗布してもよい。
【0014】
本発明の有機エレクトロルミネセンス発光層3は、陽極ITO電極2側から、正孔注入層3A、正孔輸送層3B、発光層3C、二次電子発生材料の順にて積層された有機エレクトロルミネセンスを使用する。
【0015】
また、有機エレクトロルミネセンス発光層3は、陽極ITO電極2側から、正孔注入層3A、正孔輸送層3B、発光層3C、二次電子発生材料、メタルバック10の順にて積層することも可能である。
【0016】
更に、この有機エレクトロルミネセンス発光層3は、有機材料の変更及び有機エレクトロルミネセンス発光層3の形態を変更することにより発光色を変えるように設けられている。
【0017】
そして有機エレクトロルミネセンス発光層3は、メタルバック10の有無により発光輝度を可変出来るように設けられている。
【0018】
本発明における陰極4の電子発生源として、熱電子源の陰極(タングステン等仕事関数の低い金属)又は冷電子源の陰極{カーボン・ナノチューブタイプ(CNT type)、スピンドタイプ(spindt type)、PNタイプ、MIMタイプ、サーフェース・エミッションタイプ(surface emission type)}の中からいずれかを選択使用する。
【0019】
本発明の電子増倍部5として、前記メタルチャンネル型電子増倍部、ボックス型電子増倍部、ラインフォーカス型電子増倍部、メッシュ型電子増倍部、MPC型電子増倍部のいずれか又はこれらの組み合わせを使用するものである。
【0020】
本発明の前記電子増倍部5の二次電子発生材料は、Cu−Be又はAg−Mgが使用されるものである。
【0021】
本発明の有機エレクトロルミネセンス発光層3に塗布する二次電子発生材料は、Be, Mg、Caの酸化金属が使用される。
【0022】
本発明電界放出ディスプレイにおいて、透光性を有するガラス基板と、陽極ITO電極と、有機エレクトロルミネセンス発光層とを順に配し、該有機エレクトロルミネセンス発光層に、二次電子発生材料又は/及びメタルバック陰極とを設けて有機エレクトロルミネセンス素子を形成する。そして、該有機エレクトロルミネセンス素子に印加する印加電圧を配することを課題解消のための手段とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明は、カソードルミネッセンスの発光体に有機エレクトロルミネセンス発光層3を使用し、陰極4からの電子線を有機エレクトロルミネセンス発光層3に放射することで、キャリアが再結合する単独の有機エレクトロルミネセンス発光層特有の原理と類似の発光特性が得られる電界放出ディスプレイを提供することに成功した。しかも、陰極4から放射される電子量によって発光効率を調整することが可能になった。
【0024】
電子増倍部5を設けたことで、有機エレクトロルミネセンス発光層3に放射する二次電子量が増加し、単独の有機エレクトロルミネセンス発光層の発光原理と類似の発光効率を高めることができる。
【0025】
前記有機エレクトロルミネセンス発光層3を、陽極ITO電極2側から、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、二次電子発生材料の順にて積層することで、アノード電流値を高く取ることができ、アノード電圧の増加に伴って発光効率が飽和しないといった効果が得られる。
【0026】
また、前記有機エレクトロルミネセンス発光層3を、陽極ITO電極2側から、正孔注入層3A、正孔輸送層3B、発光層3C、二次電子発生材料、メタルバック10の順にて積層することで、有機エレクトロルミネセンス発光層3が発光する前のスレスホルド電圧を印加することが可能になり、陰極となるメタルバック10に僅かな電子を注入しても発光するものになる。
【0027】
更に、有機エレクトロルミネセンス発光層3の材料の変更及び発光層の形態を変更することにより、有機エレクトロルミネセンス発光層3の発光色を変えることができる。
【0028】
しかも有機エレクトロルミネセンス発光層3は、メタルバック10の有無により、発光輝度を可変することも出来る。
【0029】
陰極4の電子発生源として、冷電子源の陰極例えばカーボン・ナノチューブを使用することにより、低電圧による使用が可能になり、耐久性に優れ安価なコストで提供することができる。また、他の冷陰極への変更も可能になっている。
【0030】
電子増倍部5にメタルチャンネル型電子増倍部6Aを使用したことにより、発光初期性能を長時間維持することが可能になった。しかも、他の電子増倍部5を選択使用することも可能である。
【0031】
電子増倍部5に二次電子発生材料として、Cu−Be又はAg−Mgを使用することで、二次電子を極めて効率良く発生させることができる。
【0032】
透光性を有するガラス基板と、陽極ITO電極と、有機エレクトロルミネセンス発光層とを順に配し、該有機エレクトロルミネセンス発光層に、二次電子発生材料又は/及びメタルバックを陰極とする有機エレクトロルミネセンス素子を形成し、該有機エレクトロルミネセンス素子に印加する印加電圧を配したことで、これまでに無い発光原理の有機エレクトロルミネセンス素子を提供することができる。
【0033】
このように、本発明によると、フィールドエミッションディスプレイ(FED)の無機蛍光膜に有機エレクトロルミネセンス発光層を配して、有機エレクトロルミネセンスの発光特性を有効に利用することで、有機エレクトロルミネセンス素子の発光輝度をはるかに上回る全く新しい電界放出ディスプレイを提供することができるといった有益な効果を奏するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
本発明ディスプレイの最良の形態は、透光性を有するガラス基板1と、このガラス基板1の内面に陽極ITO電極2とを設ける。該陽極ITO電極2の内側に設けられ陽極ITO電極2に対向する陰極4から発生した電子の作用により発光し前記ガラス基板の外部に光を透過せしめるフィールドエミッションディスプレイ(FED)を設ける。FEDの無機蛍光膜に有機エレクトロルミネセンス発光層3を配する。この電界放出ディスプレイの陰極4と有機エレクトロルミネセンス発光層3との間に、多数の空洞に二次電子発生材料を塗布した電子増倍部5を配設する。この電界放出ディスプレイの陰極4と有機エレクトロルミネセンス発光層3との間に、多数の空洞に二次電子発生材料を塗布した電子増倍部5を配設するか、二次電子発生材料を塗布した有機エレクトロルミネセンス発光層3を使用する。そして、有機エレクトロルミネセンス発光層3として、陽極ITO電極2側から、正孔注入層3A、正孔輸送層3B、発光層3Cにて構成された有機エレクトロルミネセンス発光層3を使用することで、当初の目的を達成するものである。
【実施例】
【0035】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。本発明の基本構成は、電子線を当てて発光せしめるFED素子の無機蛍光膜に、有機エレクトロルミネセンス発光層3を装着したものである(図1、図8、図9参照)。
【0036】
このFED素子は、透光性を有するガラス基板1と、このガラス基板1の内面に陽極として設けられた陽極ITO電極2と、該陽極ITO電極2の内側に設けられITO電極2に対向する陰極から発生した電子の作用により発光し前記ガラス基板1の外部に光を透過せしめるものである。このようなFED素子の無機蛍光膜に、有機エレクトロルミネセンス発光層3を配している。
【0037】
図1のFED素子には、陰極と陽極との間に電子増倍部5を装着している。該電子増倍部5により、電子増倍部5から発生した一次電子が電子増倍部5の空洞を通過する際に、二次電子発生材料に衝撃を与え、放射する二次電子量を増加することができる。この結果、有機エレクトロルミネセンス発光層3に放射する電子量が増えて、正孔と発光層で出会う正負キャリアの再結合(Recombination)の数量が増えるため、発光効率を向上することができる。
【0038】
最適な電子増倍部5としてメタルチャンネル型電子増倍部がある(図14参照)。このメタルチャンネル型電子増倍部に塗布する二次電子発生材料9は、Cu−Be(銅−ベリリュウム)又はAg−Mg(銀−マグネシウム)の使用が好適である。また、この他にも、ボックス型電子増倍部(図10参照)、ラインフォーカス型電子増倍部(図11参照)、メッシュ型電子増倍部(図12参照)、MPC型電子増倍部(図13参照)のいずれか一つ又は複数を組み合わせた中から選択使用することができる。また、前記二次電子発生材料9は、前記前記電子増倍部に塗布するほか、前記有機エレクトロルミネセンス発光層3のメタルバック陰極の材料に用いることも可能である。
【0039】
また、本発明は、電子増倍部5を使用しないFED素子としても実施可能である(図8、参照)。このとき、FED素子の無機蛍光膜に配された有機エレクトロルミネセンス発光層3の下面には、二次電子発生材料が直接塗布されている。この二次電子発生材料として、Be、Mg、Ca等の酸化金属を用いている。
【0040】
更に、電子増倍部5を使用しないFED素子において、メタルバック10を設けた有機エレクトロルミネセンス発光層3を配することも可能である(図9参照)。このメタルバック10は、有機エレクトロルミネセンス発光層3の印加電圧の陰極の役割ともなり、また電子が有機エレクトロルミネセンス発光層3の界面に注入したことによって発生する電荷の蓄積が有機エレクトロルミネセンス発光層3の破壊を引き起こすのを防止するもので、Cu‐B、Ag‐Mg、Au‐Caなどが用いられる。同図では、陽極ITO電極2とメタルバック10との間に有機エレクトロルミネセンス発光層3が配置され、これら陽極ITO電極2とメタルバック10との間に予め印加電圧VEL < Vth(有機エレクトロルミネセンスが発光する臨界電圧)を印加する。また、メタルバック10と有機層3との間に、前記二次電子発生材料、Be、Mg、Caの酸化金属が直接塗布されており、これらメタルバック10と前記二次電子発生材料を含めた厚さは約120オングストロームである。
【0041】
図9の構成で示すように、有機エレクトロルミネセンス発光層3にメタルバック10を付加すると、このメタルバック10は単体の有機エレクトロルミネセンス発光層の陰極の役割をする。たとえば、図示の如く、メタルバック10の陰極と陽極ITO電極2とを別途直流電源(DC)に連結すると、この直流電源は単体の有機エレクトロルミネセンス発光層3の印加電圧VELになる。この印加電圧VELは可変出来るので、VELをVth(Vthは有機エレクトロルミネセンスの発光しき値電圧)より少なく調整することができる。従って、VELを予め単体の有機エレクトロルミネセンス発光層3に印加することにより、有機エレクトロルミネセンス発光層の発光に必要とされる電子エネルギ−は少なくてすむ。また、VELを可変することにより、当然消費電力が低減できるほか、発光輝度やディスプレイのグレースケル(gray scale)の調整も可能になる。
【0042】
有機エレクトロルミネセンス発光層3の形態等は任意に設定することができる。たとえば図2に示す有機エレクトロルミネセンス発光層3は、陽極ITO電極2側から、正孔注入層3A、正孔輸送層3B、発光層3Cにて構成されている。
【0043】
正孔注入層3Aは、化学式1で示されるm−MTDATA(4,4’,4”−トリス(3−メチル−フェニル−フェニル−アミノ)トリフェニルアミン(4,4',4"-tris(3-methyl-phenyl-phenyl-amino)triphenylamine))、AlF3、CuPc、HfO3、またはTa2O5を材料として形成される。その厚さは300オングストロームである。この正孔注入層3Aは、正孔を有効に正孔輸送層3Bに輸送する役割である。
【化1】

【0044】
正孔輸送層3Bの材料は、化学式2で示されるNPB(N,N’−ジ(ナフタレン−1−イル)―N,N’−ジフェニル−ベンジジン(N,N'-di(naphthalene-1-yl)-N,N'-diphenyl-benzidine))である。その厚さは600オングストロームである。
【化2】

【0045】
発光層3Cは、化学式3で示されるAlq3(トリキノリノレートアルミニウム)を材料として形成され、その厚さは4000オングストロームである。このAlq3は緑色発光材料で、アルキレート化合物である。
【化3】

【0046】
尚、有機エレクトロルミネセンス発光層3の構成は、前述の如く図示例に限定されるものではなく、有機エレクトロルミネセンス発光層3で使用する有機材料の変更及び各層の厚みや形状などの形態を変更することが可能である。また、これらの変更により、赤、青、緑の発光色を選択し、あるいは組み合わせることで、有機エレクトロルミネセンス発光層3の発光色を任意に変えることができる。
【0047】
次に、本発明ディスプレイの発光特性を測定した実験結果を説明する(図3乃至図5参照)。この陽極ITO電極2の基板(30x50mm)を、アセトン等の洗浄液で洗浄した。次に、この陽極ITO電極2を図3に示す有機材料真空蒸着製造装置の基板ホルダに装着し、蒸着機が2×10-6 Torr以下の高真空のもとで、順次有機材料をm-MTDATA(厚さ300オングストローム)、NPB(厚さ600オングストローム)、Alq3(厚さ4000オングストローム)に蒸着して積層し、有機エレクトロルミネセンス発光層3を設けた。各有機材料の蒸着時の成膜率は0.5~2オングストローム/secである。
【0048】
本発明における有機エレクトロルミネセンス発光層3の発光特性を測定する為に、まず多層有機薄膜が蒸着されたITO透明電極(陽極ITO電極2)を図4に示す真空測定チャンバーに移行した。チャンバー内にはPhilips 6922真空管の熱電子発生源の陰極(Cathode)と電子加速用のグリド電極を用いた。有機薄膜を蒸着したITO透明電極と真空管の陰極はそれぞれKeithley 237の電源装置の陽極と陰極に接続し、アノド電圧Vaとした。又、真空管の陰極とグリド電極はそれぞれKeithley2400の電源装置の陽極と陰極に接続し、グリッド電圧Vgとした。尚、真空管の陰極は傍熱型の為、陰極のフイラメントには別途DC電源に接続して加熱している。
【0049】
有機エレクトロルミネセンス発光層3の発光特性を測定する前に、まずフイラメントに電圧を印加して、フイラメントの温度で充分陰極を加熱し、陰極の表面から熱電子が放出出来る状態にする。その後、Keithley 2400のDC電源を入れて、Vg=20Vに設定する。その時、Keithley 2400で表示された電流値はグリド電流Igである。この値から概ね熱電子の放出量が分かる。従って、グリド電流Igが安定した後、Keithley 237のDC電源を入れて、有機薄膜の陽極基板のITO電極と真空管の陰極の間に電圧を印加する。従って、真空中に放出された熱電子は陽極基板に向かい、有機多層薄膜に衝突して発光せしめる。陰極熱電子ビーム(Electron Beam)放射で多層有機薄膜材料を衝突させて得られた有機エレクトロルミネセンス発光層3の発光特性は優れたものがある。アノド電圧Vaが相当低い値でも、肉眼で発光が観察できることが分かった。
【0050】
図5は本発明(FEOELD)の陽極基板から発光が確認出来た範囲内で測定したアノド電流I(mA)、アノド電圧V(volt)と発光輝度L(cd/m2)の関係とアノド電流密度J(mA/cm2)、アノド電圧V(volt)と発光効率(Luminescence Efficiency)の関係特性図である。実験に用いた陽極ITO電極2の基板は30×50mmである。グリド電圧Vg=20V、陽極電圧Va=200Vをパネルに印加した時、陽極電流Iaは2.3mA、輝度L=220 cd/cm2が得られた。図に示す様に陽極電圧はVa=100Vからそれ以上パネルに印加しても陽極電流Iaと輝度Lは変化せず飽和している。
【0051】
表1の特性比較図から本発明(FEOELD)の発光効率〜137cd/A > 単独の有機エレクトロルミネセンスの発光効率〜7cd/Aで有ることが分かる。
【表1】

【0052】
表1の両者特性の比較図から本発明(FEOELD)の発光効率は約137cd/Aで、単独の有機エレクトロルミネセンス発光層(OELD)の発光効率の7cd/Aよりも大幅に高い事がわかる。次に、両者を同じ電流密度のもとで比較する為に、本発明と単独の有機エレクトロルミネセンス発光層との輝度及び発光効率を示す比較図を示す(図7参照)。この図から本発明素子は、単独の有機エレクトロルミネセンス発光層を使用したパネルよりも輝度と発光効率が大幅に高い事がわかる。例えば同じ電流密度0.14 mA/cm2において、本発明の輝度は196 cd/m2で、発光効率は138 cd/Aである。然し、単独の有機エレクトロルミネセンス発光層の輝度は約9.14 cd/m2で発光効率は6.5 cd/Aである。
【0053】
次に、有機エレクトロルミネセンス発光層3の発光原理を示す実験をおこなった(図6(イ)参照)。本実験に用いた有機エレクトロルミネセンス発光層3の発光原理を解明する為に、先に述べた図2の陽極基板構成の正孔輸送層3B(NPB)と発光層3C(Alq3)の間に、ホール阻止層3D(BCP)厚さ 150オングストロームを挿入した。典型的な有機エレクトロルミネセンス発光層では、ホール阻止層3DのBCP有機材料はホールの移動を阻止する役割がある。ここでは、ホール阻止層3Dは陽極ITO電極2から有機層に注入されたホールの移動を阻止し、ホールは隣接の正孔輸送層3B(NPB)の界面に蓄積される(図6(ロ)参照)。従ってキャリアの再結合領域は正孔輸送層3B(NPB)に限定されて、NPB材料による青色の発光をするものと推定出来る。
【0054】
また、図15に示すエネルギーバンド図から分かるように、キャリアの再結合領域を正孔輸送層3B(NPB)で行うということは、陰極から放出した電子が発光層3C(Alq3)に注入され、更に電子はホール阻止層3D(BCP)へ移動して正孔輸送層3B(NPB)の界面でホールと出会い、再結合によって正孔輸送層3B(NPB)材料特有の青色の発光をするからである。従って、発光層3C(Alq3)の緑色の発光はしない筈である。若し、有機エレクトロルミネセンス発光層3の発光原理がカソードルミネッセンス
(Cathodeluminescence)によるものならば発光層3C(Alq3)からの緑色発光をする。然し、実験からは青色の発光であった。従って、有機エレクトロルミネセンス発光層3の発光原理は有機エレクトロルミネセンスに類似したキャリアの再結合(Recombination)によるものであることが断定出来る。
【0055】
尚、本発明は図示例に限定されるものではなく、たとえば有機エレクトロルミネセンス発光層の形態や陰極の種類、あるいは電子増倍部の形態など、本発明の要旨を変更しない範囲において自由に変更することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の一実施例を示す概略図。
【図2】本発明の陽極構造を示す概略断面図。
【図3】本発明の有機エレクトロルミネセンス発光層に有機材料を蒸着する装置を示す概略図。
【図4】本発明ディスプレイの真空測定装置。
【図5】本発明の発光特性を示す図。
【図6】本発明ディスプレイの発光原理に関する実験例を示し、(イ)は装置の概略図、(ロ)は原理図。
【図7】本発明と単独の有機エレクトロルミネセンスとの輝度及び発光効率を示す比較図。
【図8】本発明の他の実施例を示す概略図。
【図9】本発明の他の実施例を示す概略図。
【図10】本発明の電子増倍部を示し、(イ)は斜視図、(ロ)は要部断面図。
【図11】他の電子増倍部を示す要部断面図。
【図12】他の電子増倍部を示す概略図。
【図13】他の電子増倍部を示し、(イ)は一部切欠き斜視図、(ロ)は要部断面図。
【図14】他の電子増倍部を示し、(イ)は断面図、(ロ)は要部拡大断面図。
【図15】本発明で使用する有機エレクトロルミネセンス発光層のエネルギーバンド図。
【符号の説明】
【0057】
1 ガラス基板
2 陽極ITO電極
3 有機エレクトロルミネセンス発光層
3A 正孔注入層
3B 正孔輸送層
3C 発光層
3D ホール阻止層
4 陰極
5 電子増倍部
6 グリッド
7 一次電子
8 二次電子
9 二次電子発生材料
10 メタルバック

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透光性を有するガラス基板と、このガラス基板の内面に陽極として設けられた陽極ITO電極と、該陽極ITO電極の内側に設けられ陽極ITO電極に対向する陰極から発生した電子の作用により発光し前記ガラス基板の外部に光を透過せしめるフィールドエミッションディスプレイ(FED)の無機蛍光膜に代えて有機エレクトロルミネセンス発光層を配したことを特徴とする電界放出ディスプレイ。
【請求項2】
前記電界放出ディスプレイにおいて、多数の空洞に二次電子発生材料を塗布した電子増倍部を、前記陰極と有機エレクトロルミネセンス発光層との間に配設し、陰極から発生した一次電子が電子増倍部の空洞を通過する際に、二次電子発生材料に衝撃を与えて、前記有機エレクトロルミネセンス発光層に放射する二次電子量が増加するように設けた請求項1記載の電界放出ディスプレイ。
【請求項3】
前記電界放出ディスプレイにおいて、前記有機エレクトロルミネセンス発光層に二次電子発生材料が塗布された請求項1記載の電界放出ディスプレイ。
【請求項4】
前記有機エレクトロルミネセンス素子の有機エレクトロルミネセンス発光層は、陽極ITO電極側から、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、二次電子発生材料の順にて積層された請求項1乃至3いずれか記載の電界放出ディスプレイ。
【請求項5】
前記有機エレクトロルミネセンス発光層は、陽極ITO電極側から、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子注入層、二次電子発生材料、メタルバックの順にて積層された請求項1乃至3いずれか記載の電界放出ディスプレイ。
【請求項6】
前記有機エレクトロルミネセンス発光層は、有機材料の変更及び発光層の形態を変更することにより発光色を変えるように設けられた請求項1乃至3いずれか記載の電界放出ディスプレイ。
【請求項7】
前記有機エレクトロルミネセンス発光層は、メタルバックの有無により発光輝度を可変出来るように設けられた請求項1乃至3いずれか記載の電界放出ディスプレイ。
【請求項8】
前記陰極の電子発生源として、熱電子源の陰極又は、冷電子源の陰極として、カーボン・ナノチューブタイプ(CNT type)、スピンドタイプ(spindt type)、PNタイプ、MIMタイプ、サーフェース・エミッションタイプ(surface emission type)のいずれかを選択使用する請求項1又は2記載の電界放出ディスプレイ。
【請求項9】
前記電子増倍部として、前記メタルチャンネル型電子増倍部、ボックス型電子増倍部、ラインフォーカス型電子増倍部、メッシュ型電子増倍部、MPC型電子増倍部のいずれか又はこれらの組み合わせを使用する請求項2記載の電界放出ディスプレイ。
【請求項10】
前記電子増倍部の二次電子発生材料は、Cu−Be或いはAg−Mgが使用される請求項2記載の電界放出ディスプレイ。
【請求項11】
前記有機エレクトロルミネセンス発光層の二次電子発生材料は、Be, Mg、Caの酸化金属が使用される請求項3記載の電界放出ディスプレイ。
【請求項12】
前記電界放出ディスプレイにおいて、透光性を有するガラス基板と、陽極ITO電極と、有機エレクトロルミネセンス発光層とを順に配し、該有機エレクトロルミネセンス発光層に、二次電子発生材料又は/及びメタルバックを陰極とする有機エレクトロルミネセンス素子を形成し、該有機エレクトロルミネセンス素子に印加する印加電圧を配した請求項1記載の電界放出ディスプレイ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate


【公開番号】特開2007−157576(P2007−157576A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−353444(P2005−353444)
【出願日】平成17年12月7日(2005.12.7)
【出願人】(503027975)有限会社アイティシ (2)
【Fターム(参考)】