説明

電界放出型表示装置及びその製造方法

【課題】エミッターからの電子放出量変動に伴う輝度変動を抑制し、特性が安定した電界放出型表示装置を提供する。
【解決手段】カソード基板1上に、少なくとも電子放出部9が設けられ、電子放出部9に対向して、少なくともアノード電極15と蛍光体層13とを備えたアノード基板2が設けられ、カソード基板1及びアノード基板2が周縁部において接合されて成り、電子放出部9から放出される電子が、アノード電極15に照射されて情報を表示する電界放出型表示装置であって、電界放出型表示装置の内部に、装置内雰囲気を制御する雰囲気制御機構40を設ける構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電界放出型表示装置及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
薄型化や軽量化、また大画面化等を実現する平面型の表示装置として、冷陰極電界電子放出型の表示装置、いわゆる電界放出型表示装置が、テレビジョン受像機や情報端末機器等への適用が有望視されている。
この電界放出型表示装置(Field Emission Display:FED)の一例を図6の概略構成図を参照して説明する(例えば特許文献1参照。)。
この例においては、電子放出源(エミッター)としてカーボンナノチューブ(CNT)を用いる場合を示す。
図6に示すように、電界放出型表示装置50は、平板状のカソード基板1とアノード基板2とが枠体3を介して所定の間隔に対向配置され、その周縁部が接合されて一体に構成される。
カソード基板1は、ベースとなる絶縁性の支持基板4の上に、カソード電極5が例えばストライプ状に形成され、その上の表示部分として機能する有効部に、電子放出部9が構成される。この場合、図示の例においては、カソード電極5と交差する複数のゲートラインを構成するゲート電極7が、絶縁層6を介して形成され、絶縁層6及びゲート電極7に連通して開口するキャビティ8が例えば平面円形状に形成され、その開口内に、電子放出部9として、例えば表面に炭素系針状物質11が突出したエミッター部10が形成されて成る。図示の例においては、カソード電極5とゲート電極7との交差する領域内に、複数のキャビティ8が設けられ、炭素系針状物質11を有するエミッター層を、複数のキャビティ8に共通して設けた例を示す。先端部が露出された炭素系針状物質11からのみ電子が放出される。
【0003】
なお、炭素系針状物質11としては、例えば非常に先鋭なエッジを有するCNTが用いられる。CNTは、グラフェンシートを丸めた1層又は他層の円筒状をなす物質で、直径が0.7〜50nm程度で長さが数μmの高いアスペクト比をもつ材料である。ただし、エミッター材料として利用可能な、微細な針状構造(繊維構造を含む)を有する物質であれば、CNT以外のものを炭素系針状物質11として用いても良い。
また、電子放出部9としては、その他、Mo等の仕事関数の比較的低い導電性物質を円錐形状に形成したいわゆるスピント型構成などがある。
【0004】
アノード基板2は、ベースとなる透明基板12と、この透明基板12上に形成された蛍光体層13及びブラックマトリックス14と、これら蛍光体層13及びブラックマトリックス14を覆う状態で透明基板12上に形成されたアノード電極15とを備えて構成される。蛍光体層13は、例えば白色蛍光体層か、或いは図示しないが赤色発光用、緑色発光用、青色発光用の3種の蛍光体層より構成される。ブラックマトリックス14は、各蛍光体層の間に形成される。アノード電極15は、カソード基板1の電子放出部9と対向するように、アノード基板2の表示領域として機能する有効部に全域にわたって、蛍光体層13及びブラックマトリックス14上に形成される。
【0005】
これらのカソード基板1とアノード基板2とは、それぞれの外周部で枠体3を介して接合される。カソード基板1の、表示領域として機能しない無効領域には、真空排気用の貫通孔16が設けられている。貫通孔16には、真空排気後に封じられるチップ管17が接続され、組み立て工程後には図示のように封じ切られた状態となる。
なお、図2においては、各基板1及び2の間のギャップを保持する耐圧用のスペーサは省略されている。
【0006】
このような構成の表示装置50において、実際に画像等の情報の表示を行う際には、例えばカソード電極5にカソード電極制御回路18から走査信号を入力し、ゲート電極7にゲート電極制御回路19からビデオ信号を入力する。或いは、カソード電極5にカソード電極制御回路18からビデオ信号を入力し、ゲート電極7にゲート電極制御回路から走査信号を入力する。
カソード電極5に相対的な負電圧、ゲート電極7に相対的な正電圧を印加して、エミッター部10の炭素系針状物質11の先端に電界が集中することにより、量子トンネル効果により電子がエネルギー障壁を越えて電子放出部9から真空中へ放出される。アノード電極15にゲート電極7より高い正電圧を印加して、引き付けられた電子は透明基板12上の蛍光体層13に衝突して、発光する。この発光位置を、画素単位で制御することによって、表示面に所望の情報、例えば画像を表示することができる。
【0007】
ところで、このような電界放出型表示装置において、エミッション電流の経時変化については、多くの報告があり、特にエミッション電流の減衰が大きな問題となっている(例えば非特許文献1参照。)。
エミッション電流の減衰(劣化)の原因として、パネル内の残留ガスによる電子放出部への吸着による仕事関数の増大によるもの、残留ガスのイオンボンバードによる電子放出部の形状変化による電界増大率(電子放出特性)の低下が推定されている。良好な寿命特性(ライフ)を得る為にはFEDパネル(CNT発光素子)内の真空度を改善して高真空に保持することが必須と考えられており、例えばゲッター(ガス吸着)機構を設けて高真空に保つとか、効率的な排気を行う構成が提案されている(例えば特許文献2及び3参照。)。
【0008】
【特許文献1】特開2003-229044号公報
【特許文献2】特開2001-210225号公報
【特許文献3】特開2001-332199号公報
【非特許文献1】「月刊ディスプレィ」、(株)テクノタイムズ社、2004年7月号(p119〜124)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述した電界放出型表示装置において、真空度を10−4Pa以下の10−5〜10−4Pa程度に保持した状態においても、エミッション電流の変動が生じ、輝度が変動する場合があった。
本発明は、このような問題に鑑みて、エミッターからの電子放出量変動に伴う輝度変動を抑制し、特性が安定した電界放出型表示装置及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明は、カソード基板上に、少なくとも電子放出部が設けられ、上記電子放出部に対向して、少なくともアノード電極と蛍光体層とを備えたアノード基板が設けられ、上記カソード基板及び上記アノード基板が周縁部において接合されて成り、上記電子放出部から放出される電子が、上記アノード電極に照射されて情報を表示する電界放出型表示装置であって、上記電界放出型表示装置の内部に、装置内雰囲気を制御する雰囲気制御機構が設けられて成ることを特徴とする。
【0011】
また、本発明は、上述の電界放出型表示装置において、上記情報を表示する有効部の外部に、少なくとも1つのエミッション電流検出領域が設けられて成ることを特徴とする。
更に、本発明は、上述の電界放出型表示装置において、上記電界放出型表示装置内に、ガス放出機構かガス捕捉機構のどちらか、あるいはその両方が、上記雰囲気制御機構の少なくとも一部として設けられて成ることを特徴とする。
【0012】
また本発明による電界放出型表示装置の製造方法は、カソード基板上に、少なくとも電子放出部を設ける工程と、少なくともアノード電極と蛍光体層とを備えたアノード基板を形成する工程と、装置内雰囲気を制御する雰囲気制御機構を形成する工程と、上記カソード基板及び上記アノード基板を周縁部において接合する工程とを少なくとも有することを特徴とする。
【0013】
上述したように、本発明による電界放出型表示装置は、表示装置内の雰囲気を制御する、すなわち真空度を高めるのみならず、適切な範囲で真空度を低下させることが可能な雰囲気制御機構を設けるものである。
本発明者等の鋭意考察研究の結果、電界放出型表示装置において、真空度を高めるだけではなく、ある程度真空度を低下させることによって、エミッション電流の低下を抑えることができ、これにより輝度変動を抑制することが可能となって、輝度を安定させることができることを究明した。
【0014】
このため、上述したように、電界放出型表示装置において、雰囲気制御機構を設けることによって、エミッション電流の変動を抑制し、特性を安定化させることが可能である。
また、本発明の電界放出型表示装置において、有効部の外部に電流検出領域を設けて、ここにおけるエミッション電流の変動を検出し、変動量に対応して表示装置内の雰囲気を制御することによって、より確実にエミッション電流の変動を抑制することができる。
更に、本発明の電界放出型表示装置において、ガス放出機構を設ける場合は、エミッション電流が低下した場合に、ガスを放出することによって、装置内の雰囲気を適切に保持することができ、これによりエミッション電流の減衰を抑制することが可能となる。
【0015】
また、このような電界放出型表示装置は、上述の本発明による電界放出型表示装置の製造方法によって製造し得る。すなわち、雰囲気制御機構を設ける工程のみの追加によって、大幅な製造工程数の増加を要することなく製造することが可能である。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように、本発明の電界放出型表示装置によれば、エミッション電流の変動を抑制し、特性の安定な電界放出型表示装置を提供することができる。
また、本発明の電界放出型表示装置において、有効部の外部に、少なくとも1つの電流検出領域を設けることによって、より確実にエミッション電流の変動を抑え、更に特性の安定化を図ることができる。
更に、本発明の電界放出型表示装置において、ガス放出機構を設けることによって、より確実にエミッション電流の変動を抑え、特性の安定化を図ることができる。
また、本発明の電界放出型表示装置において、ガス捕捉機構を設けることによって、同様に、より確実にエミッション電流の変動を抑え、特性の安定化を図ることができる。
更に、本発明の電界放出型表示装置の製造方法によれば、簡単な製造工程により、エミッション電流の変動が抑制され、特性の安定な電界放出型表示装置を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下本発明を実施するための最良の形態の例を説明するが、本発明は以下の例に限定されるものではない。
先ず、本発明による電界放出型表示装置の一例を説明する前に、電界放出型表示装置において雰囲気を制御し、特に真空度を低下させた場合にエミッション電流の変動が抑制されることを見出した実験例について説明する。
前述の図6に示す例において説明したように、電界放出型表示装置は通常、チップ管をチップオフ(封止)して表示装置として完成されるが、この実験例においては、図1に示す様に、実験的に電界放出型表示装置50のチップ管17にバルブ51を介して排気手段52を接続し、排気手段52により排気をしながら、装置50内のアノード電極に流れ込むエミッション電流の経時変化を測定した。
【0018】
図2に、その結果の一例を示す。この例においては、前述の図6に示す構成の電界放出型表示装置を用いて測定を行った。図2の結果から、経過時間と共にエミッション電流が減衰している。この結果は、表示装置内を排気しながらの測定であり、排気手段52としてターボ分子ポンプを使用しており、装置内は1×10−4Pa以下にすることが可能である。この場合、装置内が高真空状態にも関わらず、エミッション電流が減衰している。即ち、輝度が時間と共に低下しており、所定の寿命(ライフ)が得られないことが問題となる。
【0019】
この問題を解決するために、ゲート電圧の調整により、エミッション電流、輝度を一定に制御することが考えられる。図1と同様の電界放出型表示装置を用いてゲート電圧を変えてエミッション電流を測定した結果を図3に示す。装置内が10−4Paオーダーの高真空な排気状態では、エミッション電流は減衰する傾向があり、ゲート電圧を上昇することによりエミッション電流の低下を抑制することができることがわかる。しかしながら、このようにゲート電圧の上昇を続けると放電してしまい、更にはゲートとカソード間の耐圧が保てず絶縁破壊を起こし、表示装置としての欠陥が発生する恐れがある。したがって、ゲート電圧の調整は、エミッション電流低下に対する恒久対策としては問題がある。
【0020】
また、さらに10−5Pa台での高真空下での実験等を試みたが、同様にエミッション電流の減衰現象が確認された。
そこで、逆に低真空側(10−4〜10−2Pa)での実験を試みたところ、低真空にするとエミッション電流が増大する現象を見出した。
図4は、図1と同様の電界放出型表示装置を用いて、エミッション電流(輝度)が一定になる様にバルブ51の操作を行い、装置内の真空度を手動で調整した結果である。先ず、矢印aで示す時刻において、バルブ51を僅かに開いて真空度を低下させ、その後エミッション電流を確認しながらバルブ51を手動により調整し、矢印bで示す時刻において、再びバルブ51を開いて真空度を高くして測定を行った。
この結果、バルブ操作直後ではエミッション電流の上昇はみられないが、その後真空度が低下した状態で、エミッション電流が回復し、かつほぼ一定に保持できることが確認される。
この原因については検討中であるが、電子放出部(エミッター)に仕事関数を下げる様なガス吸着が起きる、また、適当な強度のイオンボンバード効果により、電子放出部が清浄化し仕事関数が低下して、エミッション電流が増加すると考えられる。
なお、10−1Pa近傍まで低真空にすると、装置内での放電が発生しやすくなるので、10−2Pa付近までが妥当な真空度であった。
【0021】
これらの結果から、電界放出型表示装置において、その内部に装置内雰囲気を調整する、すなわち真空度を低下させる機能を含む雰囲気制御機構を設けることによって、エミッション電流の低下を抑制することができることがわかる。
【0022】
図1A及びBは、このような雰囲気制御機構を設けた本発明構成の電界放出型表示装置の一例における概略断面構成及び概略平面構成を示す。
図1Aにおいて、電界放出型表示装置50の電子放出部9の詳細な構造については省略しているが、前述の図6において説明したCNTを用いる構造の他、スピント型などの各種の電子放出源の構造が適用可能である。また図1A及びBにおいて、図6と対応する部分には同一符号を付して示す。
【0023】
図1Aに示すように、この電界放出型表示装置50は、カソード基板1とアノード基板2とが、周縁部において枠体3を介して相対向して接合されて成り、カソード基板1には、カソード電極5上に電子放出部9が設けられ、アノード基板2には、情報を表示する有効部30に、少なくとも蛍光体層13及びアノード電極15が設けられる。
そして、この例においては、アノード基板2の有効部30の外部に、エミッション電流検出領域31を設ける。具体的には、例えばカソード基板1において、エミッション電流検出領域31と対向する位置にカソード電極5及び電子放出部9Bを設ける。そして、この電子放出部9Bと対向するアノード基板2のエミッション電流検出領域31に、例えば検出用電極35を形成する。この検出用電極35に、エミッション電流を検出する検流計34を接続し、更に、この検流計34からの出力を雰囲気制御回路35に出力して、雰囲気を制御する制御信号Sを出力する。
なお、図1Aにおいては、カソード基板1に設けるチップ管、また各基板1及び2の間の間隔を保持するスペーサ等を省略しているが、これらは通常の電界放出型表示装置と同様の構成とし得る。
【0024】
そして、例えば図1Bに示すように、有効部30の外部に、ガスを放出するガス放出機構32またはガスを捕捉するガス捕捉機構33を設けて、雰囲気制御機構40を構成する。この場合、上述の雰囲気制御回路35から出力された制御信号Sに基づいて、ガス放出機構32及びガス捕捉機構33を機能させる。
なお、ガス放出機構32及びガス捕捉機構33を設ける位置は、アノード基板2上に限定されず、カソード基板1上でもよく、また枠体に設けるなど、その他の表示装置内でもよい。また、ガス捕捉機構33については、有効部30の内部に設けることも可能である。
また、電流検出領域31は図示の例においては1つのみであるが、2以上設けることもできる。ガス放出機構32及びガス捕捉機構33も同様である。
【0025】
ここで、ガス捕捉機構としては、通常用いられるいわゆるゲッターポンプ(或いはゲッターボックス)が適している。これは、気体分子をゲッター材と化学吸着させることによって真空を得る機構であり、ゲッター材には、チタニウム、モリブデン、ジルコニウム、アルミニウム、バナジウム、ニオブ等がある。その他、ブラウン管(CRT)等で実績があるSAES Getters(サエス・ゲッタース)社のバリウムを用いたファーストフラッシュゲッター、同じくSAES Getters社のPDP(プラズマディスプレイパネル)用に開発されたHPTFゲッター等を用いることができる。
また、ゲッターポンプ(ゲッターボックス)の設置法としては多くの例があり、本発明では特に限定されることなく、各種の構成例が適用可能である。
例えば、ゲッター材を収納する容器をカソード基板の裏面側に設けるとか、或いは表示装置内の空間を分けて、カソード基板の裏面側に配置する空間内にゲッター材を設けるなど、また、アノード基板の形状を、カソード基板からはみ出してその縁部を覆う構成とし、このアノード基板のはみ出し領域にゲッター材を設けるなど、種々の構成とすることができる。
【0026】
ガス放出機構としては、例えば加熱することにより吸着したガス(気体)を放出するゲッター材、例えばチタンを用いれば、このゲッター材料に加熱手段を設けることにより、ガスの捕捉及び放出の両方を実現する構成となる。
すなわち、図5Bの例においては、ガス放出機構32及びガス捕捉機構33を別々に設ける例を示すが、一体に設けることも可能である。
【0027】
また、その他のガス放出機構としては、例えば制御可能な加熱手段上に多孔質でガスを吸着する物質、例えばシリカゲル等を乗せた容器を配置し、上述の電流検出領域により検出された電流変動値を元に、加熱手段を制御してこの容器を温度制御し、表示装置内へのガス放出量を制御し、輝度を一定に保つことも可能である。
【0028】
更に、ガス放出機構として、アノード基板上の有効部外に、蛍光体の代わりに多孔質でガスを吸着する物質、例えばシリカゲル等を形成したガス吸着用アノード領域を設け、これに対向する位置にカソード領域すなわち電子放出部を形成し、そのエミッション電流を制御することによって、ガス吸着用アノード領域からのガス放出量を制御し、輝度を一定に保つ構成としてもよい。このガス放出用のアノード領域構造は、蛍光体の代わりに多孔質な物質を形成し、その他の構成は蛍光体層を設ける有効部と同じ構造とすることができる。
また、装置内で発生したガスを、白金等の触媒金属を用いて吸着、放出して雰囲気を一定に保ち、エミッション電流、すなわち輝度を安定化する構成としてもよい。この触媒金属は、表示装置内に直接形成してもよく、または容器内に収容して表示装置内に設置してもよい。
【0029】
このようなガス捕捉機構及びガス放出機構の製造工程としては、上述したように、ゲッターボックスに加熱機構を追加して形成するとか、或いは、シリカゲルを収容した容器を例えばアノード基板上に形成し、その容器に接して加熱手段を形成するとか、またはシリカゲル等の多孔質と対向する位置に、カソード機構を設けるなどの製造工程を追加するのみで、容易に形成することができる。
また、上述の電子放出部9B及び電流検出領域31は、例えばそれぞれカソード電極5、電子放出部9A及びアノード電極15を形成する工程において、形成する領域を追加するいわばパターンの変更のみによって、簡単に製造することができる。
【0030】
このように、ガス捕捉機構及びガス放出機構を設けて、表示装置の有効画面外に設けた電流検出領域において検出された電流変動値を元に、ガス放出機構32の例えば加熱手段を温度制御し、またはガス捕捉機構33を動作させて装置内の真空度を調整することによって、エミッション電流の低下、変動を抑制して、特性の安定な、したがって寿命の長期化を図った電界放出型表示装置を得ることができる。
なお、エミッション電流検出用の電子放出部9Bは、映像等の情報信号に対応したゲート電圧ではなく、基準値となるゲート電圧による駆動を行う。これにより、表示装置内の真空度をモニターしながら雰囲気制御回路35において適切な出力信号Sを出力して、装置内を目的とする真空度に保持し、エミッション電流の安定化を図ることができる。
【0031】
なお、図4の結果から、装置内の真空度を制御する際に、制御開始時に大きな変化を必要としていることがわかる。これは、真空度とエミッション電流の変化に遅れが生じている為と思われる。真空度とエミッション電流の関係がガス吸着、またはイオンボンバード(スパッタエッチング)等に起因しており、現象に時間を要するためと考えられる。この様に現象に遅れがある場合の制御は比較的難しく、制御回路等が複雑となり、コスト高を招来する場合がある。
一方、図3に示すゲート電圧によるエミッション電流、輝度の制御例においては、ゲート電圧に対してのエミッション電流の応答が比較的速いことがわかる。したがって、真空度の制御とゲート電圧の制御を組み合わせることにより、制御回路を安価にすることも可能である。
【0032】
更に、電界放出型表示装置の排気管すなわちチップ管を封止(いわゆるチップオフ)する前に、一旦、高真空状態とし、次にガスを装置内に導入し、ガス放出機構及び装置内にガス吸着させてもよい。この場合は、装置内の真空度を輝度変動が少ない真空度、すなわち10−4〜10−2Pa近傍に調整し、封止後にガス捕捉機構、ガス放出機構を動作させ、輝度変動を調整しても良い。
このガス種としては、実験的には大気でも良いが、酸素(O)、窒素(N)以外にアルゴン(Ar)、ヘリウム(He)等の不活性ガスや水素(H)、メタンガス、一酸化炭素(CO)等のカーボン(C)を含む気体等を添加しても良い。これらの雰囲気(ガス)は表示装置内とガス放出機構部に吸着する。装置内に吸着したガスは、電子放出動作時にエミッターから放出された電子のエネルギーにより、装置内に再放出され、輝度変動を少なくするように作用する。
一方、真空度の微調整をガス捕捉機構及びガス放出機構で行い、また、補助的にゲート電圧の調整も行って、エミッション電流の安定化を図り、輝度を一定に保つ構成とすることもできる。
なお、CNTは水素を吸着(吸蔵)することが知られており、アノード基板の蛍光体層も多孔質であることから、ガスを吸着する作用を有する。
【0033】
以上説明したように、本発明の電界放出型表示装置によれば、雰囲気を制御することによって、エミッション電流の低下等の変動を抑え、特性の安定化、寿命の長期化を図ることが可能となる。
なお、本発明は、上述の例に限定されるものではなく、本発明構成を逸脱しない範囲において、その他種々の変形、変更が可能であることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明による電界放出型表示装置の作用の説明に供する実験例における電界放出型表示装置の概略構成図である。
【図2】エミッション電流の経時変化を示す図である。
【図3】ゲート電圧の変化に対するエミッション電流の経時変化を示す図である。
【図4】実験例における真空度に対するエミッション電流の変化を示す図である。
【図5】Aは本発明による電界放出型表示装置の一例の概略断面構成図である。Bは本発明による電界放出型表示装置の一例の概略平面構成図である。
【図6】従来の電界放出型表示装置の一例の概略構成図である。
【符号の説明】
【0035】
1.カソード基板、2.アノード基板、3.枠体、4.支持基板、5.カソード電極、7.ゲート電極、8.キャビティ、9.電子放出部、10.エミッター部、11.炭素系針状物質、12.透明基板、13.蛍光体層、14.ブラックマトリックス、15.アノード電極、16.貫通孔、17.チップ管、18.カソード電極制御回路、19.ゲート電極制御回路、20.アノード電極制御回路、21.カソード電極、22.第1のグリッド電極、23.第2のグリッド電極、24.アノード電極、25.カソード電極制御回路、26.第1のグリッド電極制御回路、27.第2のグリッド電極制御回路、28.アノード電極制御回路、30.有効部、31.エミッション電流検出領域、32.ガス放出機構、33.ガス捕捉機構、34.検流計、35.雰囲気制御回路、36.検出用電極、40.雰囲気制御機構、50.電界放出型表示装置、51.バルブ、52.排気手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カソード基板上に、少なくとも電子放出部が設けられ、上記電子放出部に対向して、少なくともアノード電極と蛍光体層とを備えたアノード基板が設けられ、上記カソード基板及び上記アノード基板が周縁部において接合されて成り、上記電子放出部から放出される電子が、上記アノード電極に照射されて情報を表示する電界放出型表示装置であって、
上記電界放出型表示装置の内部に、装置内雰囲気を制御する雰囲気制御機構が設けられて成る
ことを特徴とする電界放出型表示装置。
【請求項2】
上記情報を表示する有効部の外部に、少なくとも1つのエミッション電流検出領域が設けられて成る
ことを特徴とする請求項1記載の電界放出型表示装置。
【請求項3】
上記電界放出型表示装置内に、ガス放出機構かガス捕捉機構のどちらか、あるいはその両方が、上記雰囲気制御機構の少なくとも一部として設けられて成る
ことを特徴とする請求項1記載の電界放出型表示装置。
【請求項4】
上記電界放出型表示装置内に、ガス放出機構かガス捕捉機構のどちらか、あるいはその両方が、上記雰囲気制御機構の少なくとも一部として設けられて成る
ことを特徴とする請求項2記載の電界放出型表示装置。
【請求項5】
上記アノード基板及び上記カソード基板の少なくとも一方に、上記ガス放出機構及び上記ガス捕捉機構の少なくとも一方、もしくは両方が設けられ成る
ことを特徴とする請求項3記載の電界放出型表示装置。
【請求項6】
上記アノード基板及び上記カソード基板の少なくとも一方に、上記ガス放出機構及び上記ガス捕捉機構の少なくとも一方、もしくは両方が設けられ成る
ことを特徴とする請求項4記載の電界放出型表示装置。
【請求項7】
カソード基板上に、少なくとも電子放出部を設ける工程と、
少なくともアノード電極と蛍光体層とを備えたアノード基板を形成する工程と、
装置内雰囲気を制御する雰囲気制御機構を形成する工程と、
上記カソード基板及び上記アノード基板を周縁部において接合する工程とを少なくとも有する
ことを特徴とする電界放出型表示装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−179200(P2006−179200A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−368347(P2004−368347)
【出願日】平成16年12月20日(2004.12.20)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】