説明

電着塗装方法および装置

【課題】ワークに対する塗装不良に繋がるエアポケットの発生防止に好適な電着塗装方法および電着塗装装置を提供する。
【解決手段】電着塗料液を貯留する電着槽1へワークWを浸漬させた状態で電圧を印加してワークW表面に塗膜を形成する電着塗装において、前記浸漬させたワークW表面に電着塗膜を形成する通電時には、少なくともワークWが存在する領域において、前記電着槽1の底面近傍に配置して液面に向けて電着塗料液を噴出する噴射ノズルを多数備えるライザー管7からの噴出電着塗料液により、前記電着槽1の底面領域から電着塗料液の表面へ上昇する攪拌流を付与してワークWに電着塗装するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車ボディや自動車部品の塗装ラインに用いられる電着塗装装置および電着塗装方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から自動車ボディの下塗り工程では、電着塗装等のワークを電着塗料液中に全没させるディッピング塗装法が広く使用されている(特許文献1、2参照)。
【0003】
これらのディッピング塗装法においては、連続的に搬送されるワークを所定の時間だけ全没させる必要があることから、槽内には低固形分に希釈された大量の電着塗料液が収容され、顔料沈降を防止するためにも、常時あるいは間欠的に攪拌されている。また、ワークと共に電着槽内に持ち込まれた金属粉がワーク表面に再付着して塗膜欠陥が発生することを防止するよう、被塗装面に付着しようとする金属粉等の異物を除去し、濾過器により槽外に排出するためにも、槽内攪拌が利用される。このように、顔料沈降の防止あるいは顔料分散の均一化、気泡や熱の除去および異物の付着防止などの諸観点から、槽内の電着塗料液をポンプで吸引し、これを槽内に配置された複数の噴射ノズルから噴射させることにより、電着槽内の撹拌が行われている。
【特許文献1】特開2001−20094号公報
【特許文献1】特開昭59−177399号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来例では、電着塗装液の攪拌方向および攪拌流量は常に一定方向から一定流量でなされているものであるため、ワークに対する電着液の流量、流速も常に一定流量が一定方向から流されるという構成となっており、複雑な形状のワーク、例えば、筒状部分を備えるワークにおいては、エアポケットの発生を防止できず、塗装不良が発生する場合があった。
【0005】
そこで本発明は、上記問題点に鑑みてなされたもので、ワークに対する塗装不良に繋がるエアポケットの発生防止に好適な電着塗装方法および電着塗装装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、電着塗料液を貯留する電着槽へワークを浸漬させた状態で電圧を印加してワーク表面に塗膜を形成する電着塗装方法および電着塗装装置において、前記浸漬させたワーク表面に電着塗膜を形成する通電時には、少なくともワークが存在する領域において、前記電着槽の底面近傍に配置して液面に向けて電着塗料液を噴出する噴射ノズルを多数備えるライザー管からの噴出電着塗料液により、前記電着槽の底面領域から電着塗料液の表面へ上昇する攪拌流を付与してワークに電着塗装するようにした。
【発明の効果】
【0007】
したがって、本発明では、浸漬させたワーク表面に電着塗膜を形成する通電時には、少なくともワークが存在する領域において、前記電着槽の底面近傍に配置して液面に向けて電着塗料液を噴出する噴射ノズルを多数備えるライザー管からの噴出電着塗料液により、前記電着槽の底面領域から電着塗料液の表面へ上昇する攪拌流を付与してワークに電着塗装するようにしたため、ワークに付着したエアや通電によりワ−ク自体から発生するガスを、前記上昇液流による攪拌流により、ワークから離脱させるよう作動させることができ、ワークに対する塗装不良に繋がるエアポケットの発生を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の電着塗装方法および電着塗装装置の一実施形態を図1〜図7に基づいて説明する。図1は本発明を適用した電着塗装装置の第1実施形態を示す概略構成図、図2〜図7は電着塗装工程を示す説明図である。
【0009】
図1において、電着塗装装置は、電着塗料液が満たされた電着槽1を備え、電着槽1の上流側には前工程である脱脂処理・表面調整・化成処理等の前処理工程における最終工程の水切槽2が隣接して配置され、下流側には後工程の水洗槽3が配置されている。
【0010】
被塗物である自動車部品(以下では「ワーク」という)は、前処理工程からのワークWを電着槽1に搬送し、電着槽1に入槽する昇降可能に構成された投入側搬送コンベア4と、電着槽1に入槽されたワークWを投入側搬送コンベア4から受取り、電着槽1内で入槽点から二個の中間点を経由させて出槽点まで横方向に搬送する電着コンベア5と、電着槽1の出槽点に到達したワークWを電着コンベア5から受取り、出槽させて後工程に搬送する昇降可能に構成された搬出側搬送コンベア6と、を備える。これらのコンベアは、後述するように夫々連動してワークWを搬送作動する。
【0011】
前記電着槽1には、ワークWが入槽されると、カチオン型電着塗料では、電着槽1の側壁および底壁に配置された図示しない電極板を介して、電着塗料液に300V前後の直流電圧が印加され、これによりアースされたワークWとの間で塗料粒子に電気泳動を生じさせ、ワークWの内外面や袋構造内面に電着塗膜を形成させる。
【0012】
前記電着槽1には、槽内の底面領域から上方に向かって電着塗料液を噴射する多数の噴射ノズルを備える中央側ライザー管7と、槽内の入槽側の壁面領域に出槽側に向かって電着塗料液を噴射する多数の噴射ノズルを備える入槽側ライザー管8と、槽内の出槽側の壁面領域に入槽側に向かって電着塗料液を噴射する多数の噴射ノズルを備える出槽側ライザー管9と、が配置されている。各ライザー管7〜9は、夫々電動バルブ(中央側電動バルブ10、入槽側電動バルブ11、出槽側電動バルブ12)を介して塗料循環ポンプ13に連結されている。前記塗料循環ポンプ13は、電着槽1からオーバーフローした電着塗料液を貯留する図示しないオーバーフロー槽から電着塗料液を吸引して、前記各電動バルブ10〜12により設定されたライザー管7〜9に吐出して電着塗料液を循環させるよう作動する。前記電着槽1への通電制御、各コンベア4〜6、各電動バルブ10〜12および塗料循環ポンプ13は、コントローラ14によりその動作が制御される。
【0013】
以上の構成の電着塗装装置による電着塗装方法について説明する。先ず、本実施形態の電着塗装方法で電着塗装するワークWとしての自動車部品の一例として、自動車のサスペンション部品の一部を構成するサスペンションメンバSMについて、図5に基づき説明する。このサスペンションメンバSMは自動車車体に対してサスペンション装置を取付けるために使用する部品であり、車体サイドメンバの下部に取付ける前後マウントMを備える筒状断面の左右フレームFと、この左右フレームFを前方および後方で連結する筒状断面をなす前後の連結メンバCMとを備える。前記左右フレームFと連結メンバCMの各端部は、図5(B)に示すように、少なくとも一部が開放された形状とされている。前記サスペンションメンバSMは、前後の連結メンバCMのいずれかを上方にしてハンガにより吊り下げて搬送され、電着槽1に投入される。電着塗装の電着槽1内においては、電着塗料液が前記左右フレームFと連結メンバCMの各筒状断面内に入り込み充満することにより、各筒状断面内の内面に対しても電着塗装が実施される。
【0014】
次に、本実施形態における電着塗装方法について説明する。先ず、塗料循環ポンプ13は一定吐出量で稼動しており、いずれかのライザー管7〜9の噴射ノズルから電着槽1内に噴出させることにより、電着槽1の電着塗料液を攪拌しつつ循環させて、顔料が沈降するのを防止している。
【0015】
図1はワークWの搬送工程を示し、投入側搬送コンベア4および搬出側搬送コンベア6は、図示しない昇降装置により上昇位置にあり、投入側搬送コンベア4は、後続するワークWを水切槽2の上方位置に、また前処理工程の水切槽2で水切処理を終了したワークWを電着槽1の入槽位置に搬送し、電着コンベア5は前回の通電工程時に一次電着処理を終了したワークW(B)を第1中間位置から第2中間位置に搬送し、搬出側搬送コンベア6は電着槽1から出槽されたワークW(D)を水洗槽3の上方へ搬送する。
【0016】
この搬送工程においては、中央側電動バルブ10が開放されて、循環電着塗料液は中央側ライザー管7から多数の噴射ノズルを介して電着槽1の底面領域から上方に向かって電着塗料液が噴射されている状態となっている。電着槽1内の電着液は多数の噴射ノズルにより電着槽1の中央領域において底面領域から液面に向かって上昇し、電着槽1の壁面領域において液面側から底面領域に降下する循環流が発生している。
【0017】
続く搬送工程においては、図2に示すように、投入側搬送コンベア4および搬出側搬送コンベア6が、図示しない昇降装置により下降され、夫々入槽位置に搬送したワークW(D、A、C)を水切槽2、電着槽1の入槽側、および水洗槽3に入槽させて、水切槽2においては水切処理、電着槽1においては電着処理、水洗槽3においては水洗処理を、夫々実行可能とする。
【0018】
電着槽1の入槽側に投入されるワークW(A)は、電着槽1への入槽時に、下降するワークW(A)に対して、中央側電動バルブ10を経由して中央側ライザー管7の噴射ノズルから吐出される電着塗料の攪拌流により、電着槽1への入槽時にワークW(A)に付着しているエアの電着塗料液内への取り込みを防止する。即ち、ワークW(A)の下降移動に対して上向き方向の攪拌流を与えることにより、ワークW(A)からのエアの離脱を促進させて除去して、ワークW(A)に対するエア除去効果を高める。
【0019】
また、前記上方に流動する電着塗料液の攪拌流の一部は、ワークW(A)の上下方向に延びる左右フレームFの筒状断面内に入り込み、筒状断面内を上方へ流動することにより、左右フレームF内に残存するエアを上方へ排出させる。
【0020】
次いで、図3に示すように、電着コンベア5が回転して、入槽側のワークW(A)を投入側搬送コンベア4から受取ると共に、第2中間位置にあるワークW(B)を出槽側へ搬送して、ワークW(A、B)を入槽側と出槽側とに配列した状態で、ワークW(A、B)に対する電着塗装工程を開始する。この場合に、入槽側のワークW(A)は一回目の電着処理であり、出槽側のワークW(B)は2回目の電着処理である。なお、入槽側のワークW(A)は搬送されて出槽側へ至る時にワークW(B)と同様に2回目の電着処理が実行される。
【0021】
ワークW(A、B)に対する電着塗装工程においては、入槽側と出槽側の両ワークW(A、B)を同時にアース極として、電着槽1の側壁および底壁に配置された図示しない電極板をプラス極として、電着塗料液に300V前後の直流電圧を所定時間(例えば、100[sec])印加して、これによりアース極のワークW(A、B)との間で塗料粒子に電気泳動を生じさせ、ワークW(A、B)の内外面や袋構造内面に電着塗膜を形成させる。
【0022】
このワークW(A、B)に対する電着塗装工程においては、図4に示すように、通電初期においては中央側電動バルブ10の開放を維持し、所定時間後に中央側電動バルブ10に代わって入槽側電動バルブ11を開放し、更に所定時間後に入槽側電動バルブ11に代わって出槽側電動バルブ12を開放するように、コントローラ14によるタイマー制御により各電動バルブ10〜12のON/OFF制御を実施している。以下、具体的に説明する。
【0023】
即ち、通電時間内の通電初期の所定時間(例えば、20[sec])では、中央側電動バルブ10を経由した中央側ライザー管7の噴射ノズルによる、電着槽1の底面領域から上方に向かって電着塗料液が噴射されて、多数の噴射ノズルにより電着槽1の中央領域において底面領域から液面に向かって上昇している状態を継続させ、通電によりワ−クW(A、B)自体から発生するガスを、前記上昇液流による攪拌流により、ワークW(A、B)から離脱させるよう作動させる。特に、前記上方に流動する電着塗料液の攪拌流の一部は、ワークW(A、B)の上下方向に延びる左右フレームFの筒状断面内に入り込み、筒状断面内を上方へ流動することにより、左右フレームF内に通電によりワ−クW自体から発生するガスを上方へ排出させる。
【0024】
続く通電時間内の所定時間(例えば、40[sec])においては、入槽側電動バルブ11が開放されると共に中央側電動バルブ10が閉じられ、底面領域からの上昇液流に代わって、入槽側壁面から出槽側に向かう横方向液流を発生させる。この横方向液流は、図5(A)の左側に示すように、入槽側のワークW(A)の前後の連結メンバCMに対して、横方向の開口部から筒状断面内に流入して、筒状断面内に残留しているエアおよび筒状断面内への電着塗料の電着時においてワークW(A)自体から発生するガスを筒状断面の他方の開口から電着槽1の中央側へ排出させる。
【0025】
続く通電時間内の所定時間(例えば、40[sec])においては、出槽側電動バルブ12が開放されると共に入槽側電動バルブ11ブが閉じられ、入槽領域からの横液流に代わって、出槽側壁面から入槽側に向かう横方向液流を発生させる。この横方向液流は、図5(A)の右側に示すように、出槽側のワークW(B)の前後の連結メンバCMに対して、横方向の開口部から筒状断面内に流入して、筒状断面内に残留若しくは筒状断面内への電着塗料の電着時においてワークW(B)自体から発生するガスを筒状断面の他方の開口から電着槽1の中央側へ排出させる。
【0026】
以上のように、ワークW(A、B)に対して両方向から電着塗料液を交互に横方向の流動による攪拌流を発生させることにより、ボックス断面を備える複雑な形状が付いている自動車部品においても、ボックス断面内の残留エアおよび電着塗料液の電着時にワークW(A、B)自体から発生するガスを確実に外部へ排出させることができる。
【0027】
前記電着塗装工程が終了した段階で、ワークW(A、B)への通電が停止され、図6に示すように、出槽側電動バルブ12が開放された状態において、電着コンベア5が回転して、入槽側のワークW(A)が第1中間位置に搬送されると共に、出槽側のワークW(B)が搬出側搬送コンベア6に引き渡される。次いで、図7に示すように、投入側搬送コンベア4と搬出側搬送コンベア6が、昇降装置により上昇される。投入側搬送コンベア4は、水切槽2での水切処理を終了したワークW(D)を吊り上げて上昇し、このワークW(D)を図1に示す入槽位置に搬送すると共に、後続する図示しない次のワークを水切槽2の上方に搬送する。また、搬出側搬送コンベア6は、電着槽1から受取ったワークW(B)と水洗槽3で水洗処理を終了したワークW(C)とを吊り上げて上昇し、これらのワークW(B、C)を図1に示すように、夫々次工程に搬送して、図1〜図7の工程を順次繰り返して順次各ワークWに対する電着塗装を実施する。
【0028】
前記した図6および図7の搬送工程において、出槽側から吊り出されるワークW(B)に対して、出槽側電動バルブ12が開放して出槽側ライザー管9側から電着塗料液を横方向に流動させることにより、ワークW(B)の横方向に位置するボックス断面をなす連結メンバCM内への電着塗料液の流出を促して残留使用とする電着塗料液の排出を促進して、ワークW(B)による電着塗料液の持ち出しを低減させる。
【0029】
なお、上記実施形態において、電着槽として、二個のワークWを浸漬して電着塗装するものについて説明したが、図示はしないが、一個のワークを浸漬させて電着塗装するものであってもよく、また、3個以上のワークを浸漬させて電着塗装するものであってもよい。
【0030】
また、上記実施形態において、ワークWとして、ボックス断面を縦横に備える自動車部品としてのサスペンションメンバSMについて説明したが、図示はしないが、自動車ボディフレーム等の他の大型部品であってもよく、また、自動車用部品に限定されることなく、他の分野の製品のフレームやケースにも適用することもできる。
【0031】
本実施形態においては、以下に記載する効果を奏することができる。
【0032】
(ア)電着塗料液を貯留する電着槽1へワークWを浸漬させた状態で電圧を印加してワークW表面に塗膜を形成する電着塗装において、前記浸漬させたワークW表面に電着塗膜を形成する通電時には、少なくともワークWが存在する領域において、前記電着槽1の底面近傍に配置して液面に向けて電着塗料液を噴出する噴射ノズルを多数備えるライザー管7からの噴出電着塗料液により、前記電着槽1の底面領域から電着塗料液の表面へ上昇する攪拌流を付与してワークWに電着塗装するようにした。このため、ワークWに付着したエアや通電によりワ−クW自体から発生するガスを、前記上昇液流による攪拌流により、ワークWから離脱させるよう作動させることができ、ワークWに対する塗装不良に繋がるエアポケットの発生を防止することができる。
【0033】
(イ)電着槽1に浸漬させたワークW表面に電着塗膜を形成する通電時には、少なくともワークWが存在する領域において、前記電着槽1の底面領域から電着塗料液の表面へ上昇する攪拌流に続けて、ワークWの横方向からワークWに対して電着塗料液を流動させる攪拌流を付与してワークWに電着塗装することにより、横方向に延びるボックス断面部材に対しても、積極的に電着塗料液をボックス断面内に流動させて、その内面に残留するエアポケットや通電時にワークW表面自体から発生するガスを、ボックス断面内から積極的に排出させることができる。特に、横方向の攪拌流は、ワークWの筒状断面にその開口部から電着塗料液が流入および/または流出する方向から付与することが望ましい。
【0034】
(ウ)特に、横方向の攪拌流を、ワークWの横方向の一方からワークWに対して電着塗料液を流動させる一方の攪拌流と、一方の攪拌流に代えて、ワークWの横方向の他方からワークWに対して電着塗料液を流動させる他方の攪拌流と、により実行されることにより、ボックス断面部材の両側から交互に電着塗料液をボックス断面内に流動させて、その内面に残留するエアポケットや通電時にワークW表面自体から発生するガスを、ボックス断面内から確実に排出させることができる。
【0035】
(エ)ワークWを電着槽1へ入槽する時に、少なくともワークWが入槽される領域において、電着槽1の底面領域から電着塗料液の表面へ上昇する攪拌流を付与することにより、ワークWの下降移動に対して上向き方向の攪拌流を与えることにより、ワークWからのエアの離脱を促進させて除去して、ワークWに対するエア除去効果を高めることができる。
【0036】
(オ)ワークWの電着槽1内での搬送中には、少なくともワークWが存在する領域において、電着槽1の底面領域から電着塗料液の表面へ上昇する攪拌流を付与することにより、電着時にワークW表面に発生したガスの除去を確実に実施することができる。
【0037】
(カ)また、実施形態のように、電着槽1が入槽側と出槽側との間に複数のワークWを収容可能であり、入槽側と出槽側とで夫々ワークW表面に電着塗膜を形成する通電が同時に実施されるものである場合には、新たなワークWの電着槽1への入槽時には、出槽側に位置するワークWも含めて、電着槽1の底面領域から電着塗料液の表面へ上昇する攪拌流を付与し、 入槽側および出槽側のワークW表面に対する電着塗膜を形成する通電時には、前記電着槽1の底面領域から電着塗料液の表面へ上昇する攪拌流を付与する工程と、続いて入槽側から出槽側に流動する攪拌流を付与する工程と、出槽側から入槽側に流動する攪拌流を付与する工程とを備えていることにより、ワークW入槽時のエア取り込みを防止できると共に、電着通電時においても、入槽側と出槽側のワークWに対して下方向・横方向と満遍なく攪拌流を付与して、エア排出を確実化できる。
【0038】
(キ)電着槽1の底面近傍に配置して液面に向けて電着塗料液を噴出する噴射ノズルを多数備えるライザー管7を設け、前記浸漬させたワークW表面に電着塗膜を形成する通電時には、前記ライザー管7に電着塗料液を供給して多数の噴射ノズルから電着塗料液を噴射させて、底面領域から液面に流動する攪拌流を発生させることにより、電着塗料液の滞留箇所を減少でき、電着槽1のサイズに影響されることなく、吐出流量の小型の塗料循環ポンプ13を選定しても、必要流量が確保でき、設備費や電力量を削減できる。
【0039】
(ク)特に、電着槽1の入槽側壁面近傍に配置して出槽側に向けて電着塗料液を噴出する噴射ノズルを多数備えるよう構成した入槽側ライザー管8と、前記電着槽1の出槽側壁面近傍に配置して入槽側に向けて電着塗料液を噴出する噴射ノズルを多数備えるよう構成した出槽側ライザー管9と、を備えて、入槽側および出槽側のワークW表面に対する電着塗膜を形成する通電時には、前記底面領域のライザー管7の噴射ノズルから電着塗料液を噴射して電着液表面へ上昇する攪拌流を付与する過程と、続いて入槽側ライザー管8の噴射ノズルから電着塗料液を噴射して出槽側に流動する攪拌流を付与する過程と、出槽側ライザー管9の噴射ノズルから電着塗料液を噴射して入槽側に流動する攪拌流を付与する過程とを備えることにより、吐出流量の小型の塗料循環ポンプ13によっても、ワークWに付着するエア除去を確実化できる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明を適用した電着塗装装置の第1実施形態を示す概略構成図。
【図2】同じく図1に続く搬送工程を示す概略構成図。
【図3】同じく図2に続く電着塗装工程を示す電着塗装方法の概略構成図。
【図4】電着塗装工程での通電中における電着塗料液の攪拌手順を示す説明図。
【図5】通電中における攪拌状態を示す説明図(A)、およびワーク形状の概略を示す説明図(B)。
【図6】同じく図3に続く搬送工程を示す概略構成図。
【図7】同じく図1に続く搬送工程を示す概略構成図。
【符号の説明】
【0041】
1 電着槽
2 水切槽
3 水洗槽
4 投入側搬送コンベア
5 電着コンベア
6 搬出側搬送コンベア
7 中央側ライザー管
8 入槽側ライザー管
9 出槽側ライザー管
10 中央側電動バルブ
11 入槽側電動バルブ
12 出槽側電動バルブ
13 塗料循環ポンプ
14 コントローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電着塗料液を貯留する電着槽へワークを浸漬させた状態で電圧を印加してワーク表面に塗膜を形成する電着塗装方法において、
前記浸漬させたワーク表面に電着塗膜を形成する通電時には、少なくともワークが存在する領域において、前記電着槽の底面領域から電着塗料液の表面へ上昇する攪拌流を付与してワークに電着塗装することを特徴とする電着塗装方法。
【請求項2】
前記浸漬させたワーク表面に電着塗膜を形成する通電時には、少なくともワークが存在する領域において、前記電着槽の底面領域から電着塗料液の表面へ上昇する攪拌流に続けて、ワークの横方向からワークに対して電着塗料液を流動させる攪拌流を付与してワークに電着塗装することを特徴とする請求項1に記載の電着塗装方法。
【請求項3】
前記横方向の攪拌流は、ワークの横方向の一方からワークに対して電着塗料液を流動させる一方の攪拌流と、一方の攪拌流に代えて、ワークの横方向の他方からワークに対して電着塗料液を流動させる他方の攪拌流と、により実行されることを特徴とする請求項2に記載の電着塗装方法。
【請求項4】
前記横方向の攪拌流は、ワークの筒状断面にその開口部から電着塗料液が流入および/または流出する方向から付与することを特徴とする請求項2または請求項3に記載の電着塗装方法。
【請求項5】
前記ワークを電着槽へ入槽する時には、少なくともワークが入槽される領域において、電着槽の底面領域から電着塗料液の表面へ上昇する攪拌流を付与することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一つに記載の電着塗装方法。
【請求項6】
前記ワークの電着槽内での搬送中には、少なくともワークが存在する領域において、電着槽の底面領域から電着塗料液の表面へ上昇する攪拌流を付与することを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一つに記載の電着塗装方法。
【請求項7】
前記電着槽は、入槽側と出槽側との間に複数のワークを収容可能であり、入槽側と出槽側とで夫々ワーク表面に電着塗膜を形成する通電が同時に実施されるものであり、
新たなワークの電着槽への入槽時には、出槽側に位置するワークも含めて、電着槽の底面領域から電着塗料液の表面へ上昇する攪拌流を付与し、
入槽側および出槽側のワーク表面に対する電着塗膜を形成する通電時には、前記電着槽の底面領域から電着塗料液の表面へ上昇する攪拌流を付与する工程と、続いて入槽側から出槽側に流動する攪拌流を付与する工程と、出槽側から入槽側に流動する攪拌流を付与する工程とを備えていることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか一つに記載の電着塗装方法。
【請求項8】
電着塗料液を貯留する電着槽へワークを浸漬させた状態で電圧を印加してワーク表面に塗膜を形成する電着塗装装置において、
前記電着槽の底面近傍に配置して液面に向けて電着塗料液を噴出する噴射ノズルを多数備えるライザー管を設け、
前記浸漬させたワーク表面に電着塗膜を形成する通電時には、前記ライザー管に電着塗料液を供給して多数の噴射ノズルから電着塗料液を噴射させて、底面領域から液面に流動する攪拌流を発生させることを特徴とする電着塗装装置。
【請求項9】
前記電着槽は、入槽側と出槽側との間に複数のワークを収容可能であり、入槽側と出槽側とで夫々ワーク表面に電着塗膜を形成する通電が同時に実施されるよう構成され、
前記電着槽の入槽側壁面近傍に配置して出槽側に向けて電着塗料液を噴出する噴射ノズルを多数備えるよう構成した入槽側ライザー管と、前記電着槽の出槽側壁面近傍に配置して入槽側に向けて電着塗料液を噴出する噴射ノズルを多数備えるよう構成した出槽側ライザー管と、を備え、
入槽側および出槽側のワーク表面に対する電着塗膜を形成する通電時には、前記底面領域のライザー管の噴射ノズルから電着塗料液を噴射して電着液表面へ上昇する攪拌流を付与する過程と、続いて入槽側ライザー管の噴射ノズルから電着塗料液を噴射して出槽側に流動する攪拌流を付与する過程と、出槽側ライザー管の噴射ノズルから電着塗料液を噴射して入槽側に流動する攪拌流を付与する過程とを備えることを特徴とする請求項8に記載の電着塗装装置。
【請求項10】
前記電着槽への新たなワークの入槽時には、前記底面領域のライザー管の噴射ノズルから電着塗料液を噴射して電着液表面へ上昇する攪拌流を付与することを特徴とする請求項8または請求項9に記載の電着塗装装置。
【請求項11】
前記電着槽内での入槽側から出槽側へのワーク搬送時には、前記底面領域のライザー管の噴射ノズルから電着塗料液を噴射して電着液表面へ上昇する攪拌流を付与することを特徴とする請求項8から請求項10のいずれか一つに記載の電着塗装装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−303421(P2008−303421A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−151338(P2007−151338)
【出願日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)