説明

電着金属の剥離装置

【課題】本発明は、フレキシング実施後に確実に自動で剥ぎ取りを可能とする電着金属の剥離装置を提供することを目的とする。
【解決手段】電着金属50が付着した平板状のカソード10から、前記電着金属を剥離する電着金属の剥離装置であって、
前記電着金属が付着したカソードに片面から押圧力を付与して前記カソードを反らし、前記電着金属の一部を前記カソードから剥離する押圧剥離手段80と、
該押圧剥離手段により前記電着金属の一部が前記カソードから剥離されているときに、前記電着金属と前記カソードとの間に生じた隙間にスペーサー82を挿入し、前記押圧剥離手段が前記押圧力の付与を中止して前記カソードが平板状に戻った後も、前記隙間の存在を維持するスペーサー挿入手段70と、を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電着金属の剥離装置に関し、特に、電着金属が付着した平板状のカソードから、前記電着金属を剥離する電着金属の剥離装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、電解液で満たされた電解槽内に、カソードとアノードを交互に並べた状態で通電し、カソードの両面に金属を電着させる銅などの金属の電解精製が知られている(例えば、特許文献1参照)。かかる金属の電解精製においては、カソードには繰り返し利用が可能なパーマネントカソードとしてステンレス製の薄板などが一般的に用いられ、カソードの両面に電着した金属は、電解槽から引き上げた後に剥がし取られる。
【0003】
従来の電着金属の剥ぎ取り方法について、図を用いて説明する。図1は、電着が終了し、電解槽から引き上げられたカソード10の状態を示す概略図である。カソード10はステンレス製の板状部材である。カソード10の両サイド部には、樹脂製のエッヂカバー20が嵌め込まれる。カソード10の上部には、カソード10を電解槽に吊り下げるためのビーム30が設けられる。
【0004】
また、ビーム30の下部には二つの角穴40が設けられており、この角穴40にカソード10の搬送装置のフックを掛けて、電解槽への搬送を行う。電解槽から引きあげられた状態のカソード10には、両面に電解精製された電着金属50が形成されている。
【0005】
図2は、従来の電着金属の剥離方法に用いられる搬送装置に、カソード10が取り付けられた状態を示した図である。図2において、カソード10は搬送レール90上に載置され、ビーム30の両面が搬送用ガイド110により支持され、両サイド部のエッヂカバー20の下部がコの字固定具160により固定されている。かかる搬送装置により、カソード面と平行方向に搬送され、同一ライン中に設けられたフレキシング装置前で一度停止する。
【0006】
図3は、フレキシング装置を用いた従来の電着金属の引き剥がし工程を示した図である。図3(A)は、フレキシング装置に電着金属50が形成されたカソード10が設置された状態を示した図である。図3(A)に示すように、電着金属50が形成されたカソード10の両面にフレキシング押し具82及び電着金属押さえ具120が設けられている。フレキシング押し具82は、カソード10面の略中央部に設けられ、例えば、直径φ50mmで水平方向長さが500mmの円柱形状を有する。電着金属押さえ具120は電着金属50の上側に設けられ、例えば直径φ50mmで水平方向長さが1200mmの円柱形状を有する。
【0007】
図3(B)は、フレキシング押し具82を用いた電着金属部分剥離工程を示した図である。図3(B)に示すように、フレキシング押し具82により、カソード10の中央付近が50mmほど押込まれる。このときカソード10は、弓なりに湾曲し、カソードの凸面側の電着金属50の上側が剥がれる。電着金属押さえ具120は、電着金属50の上側が剥がれた際に、電着金属50が剥がれすぎてアノード10から剥離してしまい、転倒するのを防止する役割を果たす。電着金属10の剥離現象は、フレキシング時に電着金属50の面内方向に発生する引っ張り応力が、電着金属50のカソード10に対する付着力より大きくなるために発現すると考えられる。フレキシングにより電着金属50の上側から剥がれる理由は、電着金属50の下側はカソード10の下を取り囲むように電着金属50がつながっているため、付着力が強いからであると考えられる。フレキシング押し具82がカソード10から離れると、カソード10の湾曲変形は弾性変形のため、元の平らな状態に戻る。フレキシング中にカソード10から離れた状態にあった電着金属50は、カソード10が元の平らな状態に戻ると、カソード10と同様に平らになり、カソード10と平行に接した状態になる。以上のようなフレキシングの動作は、カソード10の両面に対して交互に同様に行われる。
【0008】
図3(C)は、チゼリング装置を用いた従来の電着金属完全剥離工程を示した図である。図3(B)に示したフレキシングが終了したカソードは、次のチゼリング装置前まで搬送され、一時停止する。チゼリング装置では、図3(C)に示すように、電着金属50とカソード10との間に空いたわずかな隙間にくさび状のチス刃100が上から下に挿入され、電着金属50は完全にカソード10から剥ぎ取られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平9−71891号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、図3で説明した従来の電着金属の剥離方法においては、電着金属50とカソード10との間の隙間が狭かったり、または隙間が曲がっていたりすると、チス刃100が電着金属50の上端面に引っかかり、チス刃100がカソード10と電着金属50の間に挿入されず、電着金属50を自動で剥ぎ取ることができない場合があった。このような場合には、作業員がチス刃を手動操作することにより剥ぎ取りを行う必要があるため、単位時間当たりの処理枚数が低減するという問題があった。
【0011】
そこで、本発明は、確実に自動で剥ぎ取りを可能とする電着金属の剥離装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明の一実施形態に係る電着金属の剥離装置は、電着金属が付着した平板状のカソードから、前記電着金属を剥離する電着金属の剥離装置であって、
前記電着金属が付着したカソードに片面から押圧力を付与して前記カソードを反らし、前記電着金属の一部を前記カソードから剥離する押圧剥離手段と、
該押圧剥離手段により前記電着金属の一部が前記カソードから剥離されているときに、前記電着金属と前記カソードとの間に生じた隙間にスペーサーを挿入し、前記押圧剥離手段が前記押圧力の付与を中止して前記カソードが平板状に戻った後も、前記隙間の存在を維持するスペーサー挿入手段と、を有することを特徴とする。
【0013】
また、前記スペーサー挿入手段は、前記カソードの面と同一方向に前記カソードの両側に配置され、前記スペーサーを、回転可能に支持した構造であってもよい。
【0014】
また、前記スペーサー挿入手段は、前記スペーサーが前記隙間に挿入された状態で、前記隙間への刃状の分離部材の挿入により前記電着金属の前記カソードからの全面剥離を可能とするものであってもよい。
【0015】
また、前記スペーサー挿入手段は搬送手段に設けられ、搬送中も前記隙間の存在を維持してもよい。
【0016】
また、前記搬送手段は、前記電着金属が付着した前記カソードを、刃状の分離部材を有する分離装置に搬送してもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、電着金属をカソードから自動で確実に剥ぎ取ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】電着終了後の電解槽から引き上げられたカソードの状態を示す概略図である。
【図2】従来の電着金属の剥離方法に用いられる搬送装置にカソードが取り付けられた状態を示した図である。
【図3】フレキシング装置を用いた従来の電着金属の引き剥がし工程を示した図である。図3(A)は、フレキシング装置に電着金属が付着したカソードが設置された状態を示した図である。図3(B)は、フレキシング押し具を用いた電着金属部分剥離工程を示した図である。図3(C)は、チゼリング装置を用いた従来の電着金属完全剥離工程を示した図である。
【図4】本発明の実施形態に係る電着金属の剥離装置の一例を示した構成図である。
【図5】本実施形態に係る電着金属の剥離装置の部分剥離工程の一例の説明図である。図5(A)は、電着金属が形成されたカソードを本実施形態に係る電着金属の剥離装置に設置した状態を示した図である。図5(B)は、押圧剥離手段の押圧動作により電着金属がカソード10から部分剥離した状態を示した図である。図5(C)は、カソードと電着金属との間に生じた隙間にスペーサーが挿入された状態を示した図である。図5(D)は、押圧剥離手段のフレキシング押し具が押圧動作を中止して元に戻った状態を示した図である。
【図6】本実施形態に係る電着金属の剥離装置の全面剥離工程の一例を示した図である。図6(A)は、チス刃が電着金属とスペーサーの間の隙間に挿入される状態を示した図である。図6(B)は、チス刃がスペーサーよりも下方に挿入された状態を示した図である。図6(C)は、電着金属がカソードから全面剥離された状態を示した図である。図6(D)は、チス刃が上方に戻った状態を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して、本発明を実施するための形態の説明を行う。
【0020】
図4は、本発明の実施形態に係る電着金属の剥離装置の一例を示した構成図である。図4において、本実施形態に係る電着金属の剥離装置は、スペーサー挿入手段70と、押圧剥離手段80とを備える。また、図4において、本実施形態に係る電着金属の剥離装置の関連構成要素として、カソード10と、エッヂカバー20と、ビーム30と、角穴40と、電着金属50と、搬送手段60と、搬送レール90が示されている。スペーサー挿入手段70は、カソード10の面と平行に、カソード10の両側に設けられている。一方、押圧剥離手段80は、カソード10の面と略垂直方向に設けられている。
【0021】
カソード10は、電着工程においては、カソード電極として作用する電極である。電着金属50のカソード10への付着は、銅等の金属イオンを含有した電解液にカソード10とアノード(図示せず)を対向して電解槽に浸漬し、アノードに正電圧、カソードに負電圧を印加して電解精錬を行うことにより行われる。これにより、負極であるカソード10に電解液中の金属イオンが付着し、電着金属50が形成される。電着金属50は、製品となる金属薄板であり、用途に応じて種々の金属材料から構成され得る。また、カソード10は、導体であれば、金属を含む種々の材料で構成されてよいが、例えば、ステンレスで構成されてもよい。
【0022】
エッヂカバー20は、カソード10のエッヂをカバーする部材である。カソード10のエッヂにまで電着金属50が付着すると剥離が困難となるため、エッヂカバー20はカソード10のエッヂを覆うべく設けられる。
【0023】
ビーム30は、カソード10を電解槽に浸漬する際に、電解槽上部から吊り下げ可能なように設けられた部材である。角穴40は、カソード10を吊り下げ搬送する際に用いられる吊り下げ穴である。なお、電解精錬は、設置された電極上にビーム30を載せ、電解液に浸漬された状態で行われる。
【0024】
搬送手段60は、搬送レール90上を移動して、カソード10を搬送するための手段である。本実施形態に係る電着金属の剥離装置においては、電着金属50の部分剥離工程を行い、カソード10から電着金属50を一部剥離させた後、電着金属50の全面剥離工程を行う。その際、図2に示す電着金属の剥離装置で一部剥離を行った後、同じ場所で全面剥離工程を行うようにしてもよいが、他の場所で全面剥離用の装置を用いて全面剥離工程を行うようにしてもよい。その場合には、搬送手段60を用いて、電着金属50の付着したカソード10を全面剥離用の装置に搬送する。よって、搬送手段60は、必要に応じて設けるようにしてよい。なお、搬送手段60は、図4においては、搬送レール90上を移動するレール式の搬送装置が示されているが、カソード10を搬送することができれば、種々の搬送装置が用いられてよい。また、搬送手段60を設ける場合には、電解精錬が終了し、電着金属50が付着したカソード10を搬送手段60に設置し、本実施形態に係る電着金属の剥離装置に搬送するようにしてよい。
【0025】
押圧剥離手段80は、電着金属50が付着したカソード10の中央付近の部分に押圧力を加えてカソード10を反らし、カソード10から電着金属50の一部を剥離させる手段である。押圧剥離手段80は、本体81と、フレキシング押し具82とを備える。フレキシング押し具82は、カソード10の中央部を、カソード面に略垂直に押圧する手段であり、カソード10の中央付近の高さに、水平方向に延在して設けられる。フレキシング押し具82が、カソード10の中央付近を押圧することにより、カソード10を反らせ、電着金属50の上部を剥離させる。電着金属50は、数mm程度、例えば7mm程度の厚さを有する金属薄板であり、カソード10に押圧力を付与して反らした場合のカソードと電着金属の間のせん断応力が、カソードと電着金属の間の接着力以上になると、電着金属50の一部がカソード10から剥離する。カソード10の下面には、電着金属50が両面に跨るように連続膜として付着しているが、カソード10は、電着金属50は両面で連続しておらず、片面にそれぞれ付着しているので、上端部の方が下端部よりも付着力が弱く、カソード10の上部の電着金属50が最初に剥離し始める。なお、電着金属50の剥離は、電着金属50の上辺の総てでほぼ同時に発生することが好ましいので、フレキシング押し具82は、円柱状に水平方向に延在した形状となっており、カソード面10に平行に設けられる。
【0026】
このように、押圧剥離手段80は、カソード10の中央部分に、カソード面に略垂直に押圧力を印加することにより、カソード10を反らし、電着金属50を部分剥離させ、カソード10と電着金属50との間に隙間を生じさせる。なお、フレキシング押し具82は、カソード面に垂直に、水平方向に移動する動作を行う。また、本体81は、フレキシング押し具82を水平に移動させるための駆動手段を有し、例えば、駆動モータ等を内部に備えてよい。
【0027】
スペーサー挿入手段70は、電着金属50の一部がカソード10から剥離し、電着金属50とカソード10との間に隙間が生じたときに、生じた隙間にスペーサー72を挿入し、押圧剥離手段80が押圧を止めてカソード10が平板状態に戻ったときでも、隙間が空いた状態を維持するための隙間維持手段である。スペーサー挿入手段70は、スペーサー支持部71と、スペーサー72と、回転支持部73と、制御部74とを備える。
【0028】
スペーサー支持部71は、スペーサー72を回転可能に支持する手段である。本実施形態に係る電着金属の剥離装置が、搬送手段60を備える場合には、スペーサー支持部71は、搬送手段60と一体的に構成される。スペーサー挿入手段70は、電着金属50の部分剥離工程で剥離された箇所の隙間を維持し、次の全面剥離工程での全面剥離のための分離器等の挿入を容易にすることを目的とするため、電着金属50の全面剥離が搬送後に行われる場合には、搬送中も隙間を維持する必要があるからである。なお、本実施形態に係る電着金属の剥離装置が搬送手段60を備えていない場合には、カソード10が設置される位置の両側に、固定されて設けられてよい。
【0029】
スペーサー72は、押圧剥離手段80により、カソード10と電着金属50との間に生じた隙間に差し込まれ、押圧剥離手段80が押圧を停止してカソード10が平板状態に戻っても隙間の存在を維持するための挿入手段である。スペーサー72は、スペーサー支持手段71に回転可能に支持される。スペーサー72は、カソード10と電着金属50との間に隙間が生じたときに、素早く挿入できるように、カソード面に平行に、カソード10の両側に配置される。またスペーサー72は、挿入位置が反対面側のフレキシングによりアノード10が前後に移動した場合も追従できるようにABS樹脂等の弾性体でできていることが望まく、形状は薄板状であることが望ましい。
【0030】
回転支持部73は、スペーサー72が回転するときの回転中心となる部分であり、スペーサー72を回転可能に支持する。回転支持部73を中心として、スペーサー72が両側からカソード10のある内側に回転し、カソード10と電着金属50との間に生じた隙間に挿入されることになる。回転支持部73の高さが、スペーサー72が水平状態となる位置を定めるが、スペーサー72はカソード10の上部から挿入されるので、カソード10の上部付近の高さに回転支持部73が設置されることが好ましい。また回転支持部73は、フレキシング時にスペーサー72がアノード10に追従して移動しやすいようにABS樹脂等の弾性体でできていることが望ましい。
【0031】
制御部74は、スペーサー72を回転駆動させるための制御駆動手段である。押圧剥離手段80のフレキシング押し具82の押圧動作と連動し、カソード10から電着金属50が部分剥離したタイミングでスペーサー72が回転降下し、カソード10と電着金属50との間の隙間に挿入されるタイミングでスペーサー72を回転させる駆動制御を行う。そして、挿入後は、所定の高さ又は回転角度でスペーサー72を停止して維持する動作を行わせる。制御部74は、所定の電子回路や、プログラムによる動作するマイクロプロセッサ等で実現されてよい。
【0032】
スペーサー挿入手段70のスペーサー支持部71、スペーサー72及び回転支持部73は、カソード面と同一面か、又は少し間隔を有して、カソード面と平行に設けられることが好ましい。これにより、電着金属50がカソード10から剥離する隙間が生じる位置とスペーサー72の回転面が一致し、カソード10を大きく反らさなくても、スペーサー72を隙間に容易に挿入することが可能となる。
【0033】
なお、本実施形態においては、回転式のスペーサー挿入手段70について説明したが、電着金属50がカソード10から剥離して隙間が生じたときにスペーサー72を挿入することができれば、スペーサー挿入手段70は種々の構成とすることができる。例えば、スペーサー72が水平方向又は斜め下方向にスライドして隙間に挿入されるような、スライド式のスペーサー挿入手段70として構成してもよい。
【0034】
次に、図5及び図6を用いて、本実施形態に係る電着金属の剥離装置の動作について説明する。図5は、本実施形態に係る電着金属の剥離装置の部分剥離工程の一例について説明するための図である。
【0035】
図5(A)は、電着金属50が形成されたカソード10を本実施形態に係る電着金属の剥離装置に設置した状態を示した図である。なお、図5(A)において、上方の図が側面図、下方の図が正面図である。以下、図5及び図6においてこの点は同様とする。
【0036】
図5(A)において、電着金属50が形成されたカソード10が、本実施形態に係る電着金属の剥離装置に設置され、押圧剥離手段80のフレキシング押し具82が正面に配置された状態となる。また、スペーサー72は、カソード10の両側で上方に真っ直ぐ延びた状態で待機している。
【0037】
なお、図5(A)において、カソード10の片面にのみ電着金属50が形成されており、フレキシング押し具82もカソード10の片面にしか配置されていないが、これは、理解の容易のために片面のみを例に挙げて説明したためである。カソード10の両面に電着金属50が形成されている場合には、カソード10の両面に押圧剥離装置80を対称に設けて、両面の電着金属50の剥離を行うようにしてよい。この場合には、片面ずつ、電着金属50の部分剥離を行うようにすればよい。
【0038】
図5(B)は、押圧剥離手段80の押圧動作により電着金属50がカソード10から部分剥離した状態を示した図である。図5(B)において、フレキシブル押し具82がカソード10に押し込まれた状態となり、カソード10が反った状態となっている。これにより、電着金属50を引き剥がす方向に応力が発生し、電着金属50の上部はカソード10から部分剥離した状態となる。なお、図5(B)の段階においては、スペーサー挿入手段70のスペーサー72は垂直に上方に延びたままの状態である。
【0039】
図5(C)は、カソード10と電着金属50との間に生じた隙間にスペーサー72が挿入された状態を示した図である。カソード10の側方の両側に設置されたスペーサー挿入手段70のスペーサー72が90°回転し、カソード10から一部剥がれた電着金属50の上端とカソード10の間に一時的に空いた空間(隙間)に挿入される。図5(C)の下方の図に示すように、スペーサー72が回転支持部73を中心として内側に回転し、スペーサー10と電着金属50との隙間に挿入される。なお、スペーサー72は、フレキシング装置の近辺に固定設置してある制御手段74の駆動制御により、90°回転する。
【0040】
図5(D)は、押圧剥離手段80のフレキシング押し具82が押圧印加による押し込み動作を中止し、元に戻った状態を示した図である。これにより、カソード10は、湾曲状態から平板状態に戻る。図5(D)に示すように、スペーサー72は90°回転したままの状態でフレキシング押し具72が元の位置まで戻り、スペーサー72は電着金属50とカソード10の間に挟まれた状態になる。つまり、カソード10が平板状態に戻ると、電着金属50は、カソード10に接触した平板状態に戻ろうとするが、スペーサー72が電着金属50とスペーサー10との間に挿入されているため、カソード10と電着金属50との隙間の存在は維持される。このような状態で、電着金属50が付いたカソードは、全面剥離を行うチゼリング位置まで、搬送手段60に固定されたスペーサー挿入手段70と共に搬送され、搬送中もカソード10と電着金属50との隙間を維持する。
【0041】
図6は、本実施形態に係る電着金属の剥離装置の全面剥離工程の一例を示した図である。図6(A)は、刃状の分離部材が電着金属50とスペーサー10の間の隙間に挿入される状態を示した図である。刃状の分離部材は、種々の部材を用いてよいが、例えば、チス刃100が用いられてもよい。図6(A)に示すように、チス刃100は、スペーサー72により維持された隙間に向かって、上方から下降して挿入される。スペーサー72により、チス刃100が挿入される空間が形成されているので、容易に電着金属50とスペーサー10の間にチス刃100を挿入することができる。
【0042】
図6(B)は、チス刃100がスペーサー72よりも下方に挿入された状態を示した図である。チス刃100は、そのまま下降し、電着金属50をカソード10から剥ぎ取る。図6(B)の下方の図に示すように、スペーサー72は、カソード面の中央を通るチス刃100とは接触しないカソード面の両端に設けられているので、チス刃100はスペーサー72との干渉無くスムースに電着金属50の剥離を進めることができる。
【0043】
図6(C)は、電着金属50がカソード10から全面剥離された状態を示した図である。図6(C)に示すように、チス刃100がカソード10の下方付近まで到達すると、電着金属50はカソード10から完全に剥離され、剥ぎ取られる。このように、チス刃100は、電着金属50をカソード10から確実に剥がし取ることができる。
【0044】
図6(D)は、チス刃100が上方に戻った状態を示した図である。図6(D)に示すように、電着金属50がカソード10から完全に剥離されたら、チス刃100は元の状態に戻り、再び上方にセットされる。また、図6(D)の状態において、スペーサー72は、チゼリング装置の近辺に固定設置してある制御手段74の駆動制御により90°回転され、元の上方にセットされた状態に戻る。
【0045】
なお、図示はしていないが、搬送手段60に固定されたスペーサー72を支持するスペーサー支持手段71は、間接部にバネを内装した折りたたみ式に構成されてもよい。このように構成することにより、搬送手段60にカソード10が載っていない状態で回送される際には、狭い空間も壁と干渉することなく通過することができる。
【0046】
このように、フレキシング押し具82によりカソード10が湾曲し、電着金属50の上側がカソード10から離れた状態において、本実施形態に係る電着金属の剥離装置を用いることにより、電着金属50の剥離した部分とカソード10の間に一時的にできる隙間にスペーサー72を挿入でき、隙間にスペーサー72を挿入した状態で次工程の位置まで搬送できる。また、次工程の完全剥離を行うチゼリングにおいて、電着金属50とカソード10の間がスペーサー72で適度に開いているため、チス刃100を電着金属50とカソード10の間に確実に自動挿入できるようになる。
【0047】
なお、図5及び図6においては、搬送手段60にスペーサー挿入手段70を設ける例を挙げて説明したが、搬送手段60が不要な場合には、スペーサー挿入手段70をカソード10の両側に固定して設け、図5及び図6で説明した工程を実行すればよい。
【0048】
以上、本発明の好ましい実施例について詳説したが、本発明は、上述した実施例に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、上述した実施例に種々の変形及び置換を加えることができる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、電解精錬等によりカソードに形成された電着金属をカソードから完全に剥離する電着金属の剥離装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0050】
10 カソード
20 エッヂカバー
30 ビーム
40 角穴
50 電着金属
60 搬送手段
70 スペーサー挿入手段
71 スペーサー支持手段
72 スペーサー
73 回転支持手段
74 制御手段
80 押圧剥離手段
81 本体
82 フレキシング押し具
90 搬送レール
100 チス刃
110 搬送用ガイド
120 電着金属押さえ具
160 コの字固定具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電着金属が付着した平板状のカソードから、前記電着金属を剥離する電着金属の剥離装置であって、
前記電着金属が付着したカソードに片面から押圧力を付与して前記カソードを反らし、前記電着金属の一部を前記カソードから剥離する押圧剥離手段と、
該押圧剥離手段により前記電着金属の一部が前記カソードから剥離されているときに、前記電着金属と前記カソードとの間に生じた隙間にスペーサーを挿入し、前記押圧剥離手段が前記押圧力の付与を中止して前記カソードが平板状に戻った後も、前記隙間の存在を維持するスペーサー挿入手段と、を有することを特徴とする電着金属の剥離装置。
【請求項2】
前記スペーサー挿入手段は、前記カソードの面と同一方向に前記カソードの両側に配置され、前記スペーサーを、回転可能に支持した構造であることを特徴とする請求項1に記載の電着金属の剥離装置。
【請求項3】
前記スペーサー挿入手段は、前記スペーサーが前記隙間に挿入された状態で、前記隙間への刃状の分離部材の挿入により前記電着金属の前記カソードからの全面剥離を可能とすることを特徴とする請求項1又は2に記載の電着金属の剥離装置。
【請求項4】
前記スペーサー挿入手段は搬送手段に設けられ、搬送中も前記隙間の存在を維持することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の電着金属の剥離装置。
【請求項5】
前記搬送手段は、前記電着金属が付着した前記カソードを、刃状の分離部材を有する分離装置に搬送することを特徴とする請求項4に記載の電着金属の剥離装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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