説明

電磁クラッチ

【課題】トルク伝達時に電磁コイルへの通電を停止することができ、かつ小型化が可能な電磁クラッチを提供する。
【解決手段】電磁クラッチ1は、第1カム面10aを有する第1カム部材10と、第1カム面10aに対向する第2カム面20aを有する第2カム部材20と、第1カム面10aと第2カム面20aとを離間させるように第2カム部材20を付勢する皿ばね3と、皿ばね3の付勢力により第2カム部材20と接触し、第2カム部材20との間に摩擦力を発生させるクラッチ板4と、皿ばね3の付勢力に抗して第2カム部材20をクラッチ板4から離間させる磁力を発生する電磁コイル61とを備え、第1カム面10a及び第2カム面20aは、摩擦力による第1カム部材10と第2カム部材20との相対回転により、第2カム部材20をクラッチ板4に押し付けるスラスト力を発生させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁クラッチに関し、特にカム機構を備えた電磁クラッチに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ベルト式CVT(Continuously Variable Transmission)を有する車両の自動変速装置として、変速機に作動油を供給する油圧供給装置の出力をクラッチによって切替可能としたものが知られている(特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載の変速装置は、エンジンの回転中に常時作動する第1ポンプと、第1ポンプよりも下流側に配置され、クラッチを介してエンジンの回転力が伝達される第2ポンプとを備えている。そして、大きな油圧が必要となる変速時には、クラッチを結合させて、第1ポンプ及び第2ポンプによって昇圧された油圧を変速機に供給するように構成されている。
【0004】
また、このような用途に適用可能なクラッチとして、特許文献2に記載の電磁クラッチが知られている。この電磁クラッチは、第1カム面を有する第1カム部材と、第1カム面に対向する第2カム面を有する第2カム部材と、第2カム部材に形成された摩擦面に接触して摩擦力を発生させる摩擦相手部材と、磁力によって第2カム部材を摩擦相手部材に接触させる電磁コイルと、第2カム部材と摩擦相手部材との間に配置された皿ばねとを備えている。
【0005】
この電磁コイルは、トルクを伝達する際に電磁コイルへ通電し、磁力によって第2カム部材を摩擦相手部材に接触させ、摩擦相手部材との摩擦力によって第1カム部材と第2カム部材との間に相対回転を生じさせ、この相対回転に基づいて第1カム面及び第2カム面によるカム機構を作動させる。そして、このカム機構によるスラスト力によって第2カム部材がより強く摩擦相手部材側に押し付けられ、第2カム部材と摩擦相手部材との間でトルク伝達が行われる。
【0006】
一方、トルクの伝達を遮断する際には、電磁コイルへの通電を停止し、皿ばねの付勢力によって第2カム部材を摩擦相手部材から離間させる。これにより、カム機構が非作動状態となり、第2カム部材と摩擦相手部材との間のトルク伝達が遮断される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−226802号公報
【特許文献2】特開2011−144835号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献2に記載の電磁クラッチでは、トルクを伝達している間は、皿ばねの付勢力に抗して第2カム部材を摩擦相手部材側に引き寄せる磁力を発生させ続けなければならない。このため、トルクを伝達している時間の長さに応じて電磁コイルでの消費電力量が増大する。
【0009】
そこで、本発明は、トルク伝達時に電磁コイルへの通電を停止することができ、かつ小型化が可能な電磁クラッチを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記目的を達成するために、[1]〜[5]の電磁クラッチを提供する。
【0011】
[1]周方向に延びるように形成された第1カム面を有する第1カム部材と、前記第1カム部材に対して所定の角度範囲で相対回転可能であり、前記第1カム面に対向する第2カム面を有する第2カム部材と、前記第1カム面と前記第2カム面とを離間させるように前記第2カム部材を付勢する付勢部材と、前記付勢部材の付勢力により前記第2カム部材と接触し、前記第2カム部材との間に摩擦力を発生させる摩擦部材と、前記付勢部材の付勢力に抗して前記第2カム部材を前記摩擦部材から離間させる磁力を発生する電磁コイルとを備え、前記第1カム面及び前記第2カム面は、前記摩擦力による前記第1カム部材と前記第2カム部材との相対回転により、前記第2カム部材を前記摩擦部材に押し付けるスラスト力を発生させる電磁クラッチ。
【0012】
[2]前記第1カム部材は、円筒状の外周面を有する軸部と、前記軸部の外周方向に突出し、前記第1カム面が形成された突出部とを有し、前記摩擦部材は、前記第1カム部材の前記軸部を挿通させる挿通孔を有し、前記挿通孔の内面と前記軸部の外周面との間に配置された軸受により、前記第1カム部材に相対回転可能に支持されている、前記[1]に記載の電磁クラッチ。
【0013】
[3]前記第2カム部材は、前記第1カム部材の前記軸部を挿通させる挿通孔を有し、前記摩擦部材と前記第1カム部材の前記突出部との間に配置され、前記付勢部材は、前記第1カム部材の前記突出部と、前記第2カム部材との間に配置された弾性体である、前記[2]に記載の電磁クラッチ。
【0014】
[4]前記第1カム部材、前記第2カム部材、及び前記摩擦部材は、前記電磁コイルに対して回転可能であり、前記電磁コイルの通電時に前記第1カム部材と前記摩擦部材との間でトルクが伝達され、前記電磁コイルの非通電時に前記第1カム部材と前記摩擦部材との間のトルク伝達が遮断される、前記[1]乃至[3]の何れかに記載の電磁クラッチ。
【0015】
[5]前記電磁コイルは、前記第2カム部材を前記摩擦部材から離間させた後に通電電流が低減される、前記[1]乃至[4]の何れかに記載の電磁クラッチ。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、トルク伝達時に電磁コイルへの通電を停止することができ、かつ小型化が可能な電磁クラッチを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1A】本実施の形態に係る電磁クラッチを入力側回転部材及び出力側回転部材と共に示す、トルク伝達が可能な状態の断面図である。
【図1B】本実施の形態に係る電磁クラッチを入力側回転部材及び出力側回転部材と共に示す、トルク伝達が遮断された状態の断面図である。
【図2】第1カム面及び第2カム面の構成例を示す周方向断面図であり、(a)は第1カム部材と第2カム部材が接近した状態を、(b)は第1カム部材と第2カム部材が離間した状態を、それぞれ示す。
【図3】第2カム部材を側面から見た状態を示す平面図である。
【図4】電磁コイルに供給されるコイル電流の時間的な変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[実施の形態]
以下、本発明の実施の形態に係る電磁クラッチを、図1A〜図4を参照して説明する。この電磁クラッチは、例えばベルト式CVTを有する車両の自動変速装置に設けられた複数の油圧ポンプのうち、いずれかの油圧ポンプにエンジンの回転力を伝達する伝達経路中に設けられる。
【0019】
図1A,図1Bは、本実施の形態に係る電磁クラッチを、入力側回転部材及び出力側回転部材と共に示す断面図であり、図1Aはトルク伝達が可能な状態を、図1Bはトルク伝達が遮断された状態を、それぞれ示す。
【0020】
この電磁クラッチ1は、複数の第1カム面10aを有する第1カム部材10と、第1カム面10aに対向する複数の第2カム面20aを有する第2カム部材20と、第1カム面10aと第2カム面20aとを離間させるように第2カム部材20を付勢する付勢部材としての皿ばね3と、皿ばね3の付勢力により第2カム部材20と接触する摩擦部材としてのクラッチ板4と、クラッチ板4を第1カム部材10に対して相対回転可能に支持する軸受5と、電磁石6とを備えている。
【0021】
第1カム部材10、第2カム部材20、及びクラッチ板4は、回転軸線Oを共有し、電磁石6に対して同軸上で回転可能である。
【0022】
クラッチ板4には、入力側回転部材71が相対回転不能に連結されている。また、第1カム部材10には、出力側回転部材72が相対回転不能に連結されている。入力側回転部材71には、例えば車両の駆動源としてのエンジン(図示せず)の回転力が伝達され、出力側回転部材72は、例えば自動変速装置を作動させる作動油を吐出する油圧ポンプ(図示せず)に連結される。
【0023】
第1カム部材10は、円筒状の外周面11aを有する軸部11と、軸部11と一体回転し、軸部11の外周方向に突出した突出部12とを有している。突出部12の第2カム部材20との対向面には、複数の第1カム面10aが形成されている。軸部11と突出部12とは、例えば溶接によって相対回転不能に連結されている。なお、軸部11と突出部12とを一体に形成してもよい。
【0024】
軸部11の中心部には、回転軸線Oに沿って貫通孔111が形成されている。貫通孔111の内周面には、出力側回転部材72を相対回転不能に連結するためのスプライン嵌合部111aが形成されている。
【0025】
第2カム部材20は、鉄等の磁性体からなり、第1カム部材10の軸部11を挿通させる挿通孔200を有する円板状に形成されている。第2カム部材20は、第1カム部材10の突出部12とクラッチ板4との間に配置されている。第1カム部材10の突出部12に対向する第2カム部材20の一方の側面2aには、第1カム面10aに対向する部位に、複数(第1カム面10aと同数)の第2カム面20aが形成されている。
【0026】
図2は、第1カム面10a及び第2カム面20aの構成例を示す第1カム部材10及び第2カム部材20の周方向断面図であり、(a)は第1カム部材10と第2カム部材20が接近した状態を、(b)は第1カム部材10と第2カム部材20が離間した状態を、それぞれ示す。
【0027】
第1カム面10aは、回転軸線Oの周方向に延びるように形成され、周方向の中央部100aで軸方向の深さが最も深くなり、中央部100aから端部100b,100cに向かって徐々に深さが浅くなる斜面として形成されている。また、第2カム面20aは、第1カム面10aに対向して回転軸線Oの周方向に延びるように形成され、周方向の中央部200aで軸方向の深さが最も深くなり、中央部200aから端部200b,200cに向かって徐々に深さが浅くなる斜面として形成されている。
【0028】
第1カム面10aと第2カム面20aとの間には、球状のカムボール13が配置されている。カムボール13は、第1カム部材10と第2カム部材20とが軸方向に最も接近した状態では、図2(a)に示すように中央部100aと中央部200aとの間に位置し、第1カム部材10と第2カム部材20との相対回転に伴って、図2(b)に示すように第1カム面10a及び第2カム面20aを転動する。このカムボール13の転動により、1カム部材10と第2カム部材20とが軸方向に離間する。
【0029】
第1カム面10aは、第1カム部材10の突出部12に複数個(例えば6個)形成されている。また、第2カム面20aは、複数の第1カム面10aのそれぞれに対応して、複数個(第1カム面10aと同数個)形成されている。第2カム部材20は、第1カム部材10に対して、カムボール13が第1カム面10a及び第2カム面20aを転動する周方向範囲に対応する所定の角度範囲で相対回転可能である。
【0030】
図1A及び図1Bに示すように、第2のカム部材20と第1カム部材10の突出部12との間には、環状の弾性体である皿ばね3が配置されている。皿ばね3は、軸方向の一端が突出部12に当接すると共に軸方向の他端が第2のカム部材20の側面2aに当接し、第2カム部材20を突出部12から軸方向に離間させるように付勢している。
【0031】
クラッチ板4は、鉄等の磁性体からなる本体部40と、本体部40に貼り付けられた摩擦材41とを有する。本体部40は、第1カム部材10の軸部11を挿通させる挿通孔400を有する円板状に形成されている。摩擦材41は、第2カム部材20の他方の側面2b(側面2aの反対側の側面)に対向する本体部40の側面に貼り付けられている。
【0032】
本体部40の外周部には、円筒状に形成された入力側回転部材71の内周面71aにスプライン嵌合するスプライン嵌合部401が形成されている。このスプライン嵌合部401により、クラッチ板4と入力側回転部材71とが相対回転不能に連結されている。
【0033】
挿通孔400の内周面400aと、第1カム部材10の軸部11の外周面11aとの間には、軸受5が配置されている。軸受5は、例えばボールベアリングであり、内周面400aに内嵌された外輪51と、外周面11aに外嵌された内輪52と、外輪51と内輪52との間に配置された複数の球状の転動体53とを備えている。軸受5は、クラッチ板4を第1カム部材10に相対回転可能に支持している。
【0034】
内輪52は、軸部11に固定されたスナップリング112によって、突出部12から離間する方向の軸方向移動が規制されている。また、クラッチ板4は、内周面400aよりも径方向内側に突出して本体部40に形成され、内輪52の側面に軸方向に対向する鍔部402によって、第2のカム部材20から離間する方向の軸方向移動が規制されている。
【0035】
電磁石6は、電磁コイル61と、電磁コイル61を収容する環状の凹部621が形成されたヨーク62とを有している。ヨーク62は、例えば軟鉄等の軟磁性体からなるリング状であり、第1カム部材10の突出部12の外周側に配置されている。ヨーク62は、例えば車体に固定された支持部材90に形成された凹部90aに嵌合し、ボルト91によって支持部材90に固定されている。
【0036】
凹部621は、回転軸線Oに沿った軸方向の一側(第2カム部材20側)に開口621aを有している。電磁コイル61は、開口621aから凹部621内に挿入され、ヨーク62に保持されている。
【0037】
電磁コイル61には、ヨーク62に設けられた貫通孔62bに挿通された配線611により、制御装置8からコイル電流が供給される。電磁コイル61は、コイル電流の通電により、皿ばね3の付勢力に抗して第2カム部材20をクラッチ板4から離間させる磁力を発生する。
【0038】
開口621aが形成された側のヨーク62の側面62aは、第2カム部材20の側面2aに対向している。電磁コイル61に通電されると、図1Bに示すように、ヨーク62の側面62aと、第2カム部材20の側面2aとが接触する。
【0039】
図3は、第2カム部材20を側面2a側から見た状態を示す平面図である。図3に示すように、第2カム部材20には、ヨーク62の側面62aのうち、開口621aよりも内側の領域に接触する内側接触面20bと、開口621aよりも外側の領域に接触する外側接触面20cとが形成されている。図3では、内側接触面20b及び外側接触面20cの内周側及び外周側の境界を破線で示している。複数の第2カム面20aは、内側接触面20bよりも内側に、等間隔で形成されている。
【0040】
(電磁クラッチ1の動作)
次に、電磁クラッチ1の動作について説明する。電磁クラッチ1は、電磁コイル61にコイル電流が供給されない非通電時に入力側回転部材71から出力側回転部材72にトルクを伝達し、電磁コイル61にコイル電流が供給される通電時に入力側回転部材71から出力側回転部材72へのトルク伝達が遮断される。
【0041】
図1Aに示すように、電磁コイル61への非通電時には、皿ばね3が第2カム部材20をクラッチ板4側に押し付け、第2カム部材20の側面2bがクラッチ板4の摩擦材41に接触する。この接触によりクラッチ板4と第2カム部材20との間に摩擦力が発生し、この状態でクラッチ板4が第1カム部材10に対して回転すると、第2カム部材20が摩擦力によってクラッチ板4と共に第1カム部材10に対して回転する。
【0042】
すると、図2(b)に示すように、カムボール13が第2カム部材20の第2カム面20a及び第1カム部材10の第1カム面10aに当接し、第2カム面20a,第1カム面10a,及びカムボール13によって構成されるカム機構14によって、第2カム部材20がより強くクラッチ板4側に押し付けられる。つまり、第2カム部材20は、第1カム部材10と第2カム部材20との相対回転によってカム機構14で発生するスラスト力により、クラッチ板4に押し付けられる。
【0043】
ここで、第2カム部材20に作用するクラッチ板4への押し付け力Fは、皿ばね3による付勢力Fに、第2カム面20a及び第1カム面10aのカム角や有効半径等によって定まる増幅係数kを乗じた値となる(F=k×F)。
【0044】
これにより、クラッチ板4と第2カム部材20とが摩擦係合し、クラッチ板4から第2カム部材20へのトルク伝達が行われる。また、第2カム部材20と第1カム部材10とは、カムボール13が第1カム面10a及び第2カム面20aを転動する範囲でのみ相対回転が可能であるので、第1カム部材10と第2カム部材20とは、図2(b)に示す位置関係を保って一体に回転する。以上によって、入力側回転部材71から出力側回転部材72にトルクが伝達される。
【0045】
一方、電磁コイル61にコイル電流が供給されると、電磁石6の磁力によって、第2カム部材20がクラッチ板4から離間する。つまり、電磁コイル61は、皿ばね3の付勢力に抗して第2カム部材20をクラッチ板4から離間させる磁力を発生する。
【0046】
ここで、第2カム部材20をクラッチ板4から離間させるために必要な磁力(第2カム部材20に作用する電磁吸引力)Fは、皿ばね3による付勢力Fよりも大きければよい。つまり、第2カム部材20に作用するクラッチ板4への押し付け力Fは、F=k×(F−F)の式によって表されるので、増幅係数kの大きさに関わらず、F<Fであれば、第2カム部材20をクラッチ板4から離間させ、第2カム部材20をヨーク62に吸着することができる。
【0047】
第2カム部材20とクラッチ板4が離間すると、第2カム部材20とクラッチ板4との間に摩擦力が発生しないので、クラッチ板4と第1カム部材10及び第2カム部材20とが相対回転可能となり、入力側回転部材71から出力側回転部材72へのトルク伝達が遮断される。
【0048】
また、本実施の形態では、第2カム部材20をヨーク62に吸着した後に、制御装置8から電磁コイル61に供給されるコイル電流を低減する。これは、第2カム部材20がクラッチ板4に接触している状態ではヨーク62の側面62aと第2カム部材のヨーク62側の側面2aとの距離が大きいため、強い磁力が必要であるのに対し、第2カム部材20をヨーク62に吸着した後は、第2カム部材20とヨーク62との隙間が実質的になくなるので、比較的弱い磁力で第2カム部材20をヨーク62に吸着した状態を維持できるためである。
【0049】
図4は、電磁コイル61に供給されるコイル電流の時間的な変化の例を示すグラフである。電磁コイル61への通電開始直後は、第2カム部材20をクラッチ板4から離間させるために大きなコイル電流(Ia)を供給し、第2カム部材20をヨーク62に吸着した後は、低減されたコイル電流(Ib)を供給する(Ia>Ib)。
【0050】
コイル電流の低減は、例えば制御装置8のタイマーにより、時間的に制御することができる。より具体的には、制御装置8がトルク伝達を遮断すべき指令信号を受けた際、直ちに大きなコイル電流(Ia)を電磁コイル61に供給する。その後、所定時間t(例えば0.5秒)が経過したときにコイル電流を低減し、その後トルク伝達を遮断する間、この低減されたコイル電流(Ib)の供給を継続する。第2カム部材20をヨーク62に吸着した状態を維持するためのコイル電流(Ib)は、第2カム部材20をクラッチ板4から離間させるためのコイル電流(Ia)の10%以下である。
【0051】
(実施の形態の効果)
以上説明した実施の形態に係る電磁クラッチ1によれば、以下に示す効果が得られる。
【0052】
(1)電磁コイル61への非通電時にトルク伝達が行われるので、トルク伝達中は電磁コイル61における消費電力をなくすことができる。これにより、例えばトルク伝達を行う時間の割合がトルク伝達を行わない時間の割合よりも大きい場合には、トルク伝達時に電磁コイルへの通電を行うように構成された電磁クラッチに比較して、電磁クラッチ1の消費電力を低減することができる。
【0053】
(2)第2カム部材20は、第1カム部材10との相対回転により、クラッチ板4側へ押し付けられるスラスト力を受けるので、皿ばね3の付勢力よりも大きな力でクラッチ板4に圧接され、クラッチ板4との間の摩擦力が増大する。これにより、電磁クラッチ1の大型化を抑制しながら、トルク伝達容量を高めることができる。
【0054】
(3)第2カム部材20及びクラッチ板4は、中心部に形成された挿通孔200,400を有する円板状であり、挿通孔200,400に第1カム部材10の軸部11を挿通させて同軸上に配置されているので、電磁クラッチ1を小型化することができる。
【0055】
(4)第1カム部材10の突出部12は電磁石6のヨーク62の内周側に配置され、カムボール13及び皿ばね3は、突出部12と第2カム部材20との間に配置されている。つまり、皿ばね3、カムボール13、及びヨーク62が回転軸線Oの径方向に並んで配置されているので、電磁クラッチ1をさらに小型化することができる。
【0056】
(5)電磁コイル61への通電電流は、第2カム部材20をヨーク62に吸着した後に低減されるので、電磁クラッチ1の諸費電力を低減することが可能となる。
【0057】
[他の実施の形態]
以上、本発明の電磁クラッチを上記実施の形態に基づいて説明したが、本発明はこの実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の態様において実施することが可能である。
【0058】
例えば、上記実施の形態では、電磁クラッチ1が入力側回転部材71から出力側回転部材72へのトルク伝達を行うように構成した場合について説明したが、トルクの伝達方向はこれに限らず、逆方向でもよい。
【0059】
また、第1カム部材10を支持部材90に相対回転不能に連結し、電磁コイル61への非通電時にクラッチ板4(入力側回転部材71)の回転を摩擦力によって停止させるように構成してもよい。この場合、電磁クラッチ1は、電磁ブレーキとして機能する。
【0060】
また、上記実施の形態では、クラッチ板4が摩擦材41を有する場合について説明したが、これに限らず、クラッチ板4が摩擦材41を有しなくともよい。この場合、第2カム部材20は、本体部40に接触する。なお、摩擦材41を有しない場合には、第2カム部材20とクラッチ板4との摺動部に摩耗を抑制するための熱処理等を行うとよい。
【0061】
また、上記実施の形態では、第1カム面10aと第2カム面20aとの間にカムボール13が介在するように構成したが、これに限らず、第1カム面10aと第2カム面20aとが直接摺動するようにしてもよい。この場合、第1カム面10aと第2カム面20aが周方向に対して同じ方向に同じ角度で傾斜して、互いに平行となるように形成される。
【0062】
また、上記実施の形態では、クラッチ板4が、その外周側に設けられたスプライン嵌合部401により入力側回転部材71に連結され、第1カム部材10が、軸部11に設けられた貫通孔111の内面に設けられたスプライン嵌合部111aにより出力側回転部材72に連結された場合について説明したが、これに限らず、クラッチ板4と入力側回転部材71、及び第1カム部材10と出力側回転部材72が、それぞれ一体回転するように連結されていればよい。
【0063】
また、電磁クラッチ1の用途や適用対象物も、上記実施の形態に記載したものに限らない。
【符号の説明】
【0064】
1…電磁クラッチ、2a,2b…側面、3…皿ばね、4…クラッチ板、5…軸受、6…電磁石、8…制御装置、10…第1カム部材、10a…第1カム面、11…軸部、11a…外周面、12…突出部、13…カムボール、14…カム機構、20…第2カム部材、20a…第2カム面、20b…内側接触面、20c…外側接触面、40…本体部、41…摩擦材、51…外輪、52…内輪、53…転動体、61…電磁コイル、62…ヨーク、62a…側面、62b…貫通孔、71…入力側回転部材、71a…内周面、72…出力側回転部材、90…支持部材、90a…凹部、91…ボルト、100a…中央部、100b,100c…端部、111…貫通孔、111a…スプライン嵌合部、112…スナップリング、200…挿通孔、200a…中央部、200b,200c…端部、400…挿通孔、400a…内周面、401…スプライン嵌合部、402…鍔部、611…配線、621…凹部、621a…開口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周方向に延びるように形成された第1カム面を有する第1カム部材と、
前記第1カム部材に対して所定の角度範囲で相対回転可能であり、前記第1カム面に対向する第2カム面を有する第2カム部材と、
前記第1カム面と前記第2カム面とを離間させるように前記第2カム部材を付勢する付勢部材と、
前記付勢部材の付勢力により前記第2カム部材と接触し、前記第2カム部材との間に摩擦力を発生させる摩擦部材と、
前記付勢部材の付勢力に抗して前記第2カム部材を前記摩擦部材から離間させる磁力を発生する電磁コイルとを備え、
前記第1カム面及び前記第2カム面は、前記摩擦力による前記第1カム部材と前記第2カム部材との相対回転により、前記第2カム部材を前記摩擦部材に押し付けるスラスト力を発生させる電磁クラッチ。
【請求項2】
前記第1カム部材は、円筒状の外周面を有する軸部と、前記軸部の外周方向に突出し、前記第1カム面が形成された突出部とを有し、
前記摩擦部材は、前記第1カム部材の前記軸部を挿通させる挿通孔を有し、前記挿通孔の内面と前記軸部の外周面との間に配置された軸受により、前記第1カム部材に相対回転可能に支持されている、
請求項1に記載の電磁クラッチ。
【請求項3】
前記第2カム部材は、前記第1カム部材の前記軸部を挿通させる挿通孔を有し、前記摩擦部材と前記第1カム部材の前記突出部との間に配置され、
前記付勢部材は、前記第1カム部材の前記突出部と、前記第2カム部材との間に配置された弾性体である、
請求項2に記載の電磁クラッチ。
【請求項4】
前記第1カム部材、前記第2カム部材、及び前記摩擦部材は、前記電磁コイルに対して回転可能であり、
前記電磁コイルの通電時に前記第1カム部材と前記摩擦部材との間でトルクが伝達され、前記電磁コイルの非通電時に前記第1カム部材と前記摩擦部材との間のトルク伝達が遮断される、
請求項1乃至3の何れか1項に記載の電磁クラッチ。
【請求項5】
前記電磁コイルは、前記第2カム部材を前記摩擦部材から離間させた後に通電電流が低減される、
請求項1乃至4の何れか1項に記載の電磁クラッチ。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−68315(P2013−68315A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−209378(P2011−209378)
【出願日】平成23年9月26日(2011.9.26)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)