説明

電磁放射を防止する配電線搬送における伝送路及び伝送方法

【課題】
配電線搬送で情報搬送電流に高周波を使うと電磁放射してしまったり伝送路の静電容量による漏れ電流の発生により搬送電流が遠くに届かないという問題があった。
【解決手段】配電線搬送に同軸ケーブルを利用し、接地を一つのセクションでは2箇所以上取らない事、また又受信機発信機も接地をしない事により内側導体に流れる電流と外側導体に流れる電流を等しくすれば伝送路からの電磁放射もなく静電容量が原因の漏れ電流による減衰が発生しない事により長距離通信が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力線を情報伝送路として使う場合の通信電流からの電磁放射を防止する技術に関するものである。この技術は、情報端末で扱う情報が巨大化し情報端末間の通信に周波数の高い通信信号を用いる必要がある場合に、そのような信号が通信路から電波の形で放射され、他の電気機器の障害になる事を防止する簡易な手段と方法を提供する。また電子機器からの電磁波は電磁干渉(EMI)問題として社会的に大きな関心事でありそれについても防止する手段を提供する。また従来電力と通信が別々のケーブルで搬送される事により機器間の結合のためのケーブルの数が多くなり美観上好ましくない事にも対処できる技術を提供する。
【背景技術】
【0002】
電力線を通信に利用することは既に宅内の場合には規制開放されているが、通信による電波障害を避けるため多くの規制が設けられ、電力線通信の普及の妨げになっている。本発明は情報を搬送する通信線からの電波の放射を根本的に解決し、電力線が通信線として開放される事を目的としている。電波障害における現在の技術は特許文献1にあるように、電波障害が起きたときには起きた事を通知して、障害電波の発生源に障害の停止を求めたり、特許文献2にあるように、一定地域に障害源が侵入した場合に警告信号を発し障害電波の発信を停止させたりするものがある。
【0003】
本発明に最も近い発明では、特許文献3にあるように障害電波を検知したらその信号を相殺する相殺信号を発生する技術がある。しかしこれらのものは何れも受信側の工夫である。さらに、オーディオの分野ではノイズを拾わないためのさまざまな工夫が知られている。そこにおいては外部ノイズに対して不平衡回路と衡平回路を設けるが、それらに共通するものは接地されたシールドを設けて行きと還りの電流をさまざまな回路に通すものである。
【0004】
また、通信ケーブルにおいてはその静電容量が重要であり、それは高周波においては高い静電容量があると漏れ電流が発生し、通信電流が遠くに届かないという問題があった。
【特許文献1】特開2004−297204公報
【特許文献2】特開2003−319063公報
【特許文献3】特開平5−227107公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
大量の情報を電気信号で搬送する際に搬送波の周波数が高くなると信号搬送路が必然的に電磁放射して、他の電気機器等に障害を与えるという問題があった。又通常の単芯ケーブルではその固有の静電容量のために漏れ電流が生じて遠くに届かないという問題があった。また、送電線の近くでは磁場が発生して健康被害を危惧する人たちが多くなり国際的にも規制を求められるようになっている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
同軸ケーブルの単位長さ辺りの静電容量は良く知られているように次式で表現される。
(数式1)
【数1】

【0007】
ここにrは同軸ケーブルの外側導体の内半径、riは内側導体の外半径である。内径と外径が等しいときは、静電容量は発散し無限大になる。
【0008】
通常はこの静電容量により漏れ電流が発生する。通信ケーブルとしての最大のネックはこの静電容量によるものである。しかし同軸ケーブルを本発明のように使った場合は後に述べるように同軸ケーブルには固有の電磁誘導Lが存在し静電容量による漏れ電流を元に戻す現象が出て、受信機に送れる電流が減少してしまうという現象は起こらない。
【0009】
本発明は、電磁放射させないためには同軸ケーブルの内側導体と外側導体を行きと還りの伝送路に利用し、内側導体の電流の空間積分で求められる電流と外側導体の空間積分で求められる電流がキャンセルするように、また複数の地点で接地をする事により往きの電流の和と還りの電流の和がキャンセルしなくなる事がないような伝送システムである。
【発明の効果】
【0010】
電気で信号を搬送するあらゆる機器において、信号の情報量が多くなると障害電波が発生し、電磁干渉(EMI)による健康への恐れや他の機器に障害を与えていたのを、信号搬送路での電磁波放射を防止し、その事により今まで利用できなかった電力線などを通信の搬送路として開放するという利点がある。その結果情報電気機器には電力供給路と情報搬送路を別々に設ける必要がなくなり、機器の結合も簡単になる。又同軸ケーブルが持つ固有磁気誘導により、通常の通信ケーブルの静電容量による電流喪失もないので長い伝送が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
通信電流を伝送するためには往きの電流と還りの電流を同軸ケーブルの外側と内側に流しその量が内側と外側でキャンセルさせる必要がある。ここでは同軸ケーブルの内側に流れる電流と外側に流れる電流の効果を検討する。
【0012】
同軸ケーブルは良く知られた自己誘導係数
【数2】


を持つといわれている。
【0013】
これは、同軸ケーブルの電流が軸に沿って流れている場合の磁束密度H=I/(2πr)において、同軸ケーブルの外側導体と内側導体の間の空間a≦r≦bについて積分したものである。
【0014】
本発明では同軸ケーブルの内側導体に流れる電流と外側導体に流れる電流が反対方向を向いている。この2つの電流により出来る磁束密度を以下に検討する。
【0015】
同軸ケーブルの断面を図2において示す。今点Rにおける磁束密度を計算するが、この点には外側導体の点Aにある素電流が、図面の表から図面の裏に突き抜けているとする。同様に内側導体の点Bにある素電流が、図面の裏から図面の表へ貫いているとする。
【0016】
点Aの電流がRに及ぼす磁束密度は点R→点Dの方向に、
【数3】


正弦定理から
【数4】


であるから
【数5】


これは積分が可能で外側導体の円周上を0から2πまで積分すると
【数6】


即ち、外側導体に流れる電流による半径方向の磁場はゼロである。
【0017】
同様にx成分を計算すると
【数7】


△AROにおいて
【数8】


ここでI=2πbiである。しかしこの積分表現では従来良く知られた関係式H=I/(2πr)との関係が明確でないので、複素積分に直してみる:
z=eiθとすると
【数9】


ここで積分は複素平面を半径1で回転しているものであり、α=x/bという変数を導入して無次元化した。
【0018】
積分は
【数10】


により、z=0、z=α、z=α−1の極を有するが、α<1ときはz=0とz=αの極が積分に寄与し、α>1のときはz=0とz=α−1の極が積分に寄与する。
【0019】
留数定理によりα<1の場合:
【数11】


括弧の中の第1項はz=0の寄与であり、第2項はz=αの寄与である。即ち円筒の内側には磁場は存在しない。
【0020】
次に内側の導体上のB点の画面の裏側から表側に流れる電流素による磁束密度を検討する。
点Bの電流がRに及ぼす磁束密度は点R→点Cの方向に
【数12】


正弦定理から
【数13】


であるから
【数14】



これは積分が可能で外側導体の円周上を0から2πまで積分すると
【数15】


即ち、内側導体に流れる電流による半径方向の磁束密度はゼロである。
【0021】
同様にx成分を計算すると
【数16】


△BROにおいて
【数17】


これはA点による磁界と全く同じ形をしている、但し符号は当然のことながら逆となっている。
【0022】
前と同様に複素積分に変換すると:
z=eiθとすると
【数18】


ここで積分は複素平面を半径1で回転しているものであり、α=x/aという変数を導入して無次元化した。
積分は
【数19】


α>1なのでz=0とz=α−1からの寄与があり
【数20】


よく知られた結果が得られる。即ち円筒の外側には磁場があり、あたかも軸上の線電流によって生じる磁場と同じであり、円筒の半径には関係しない。
【0023】
さらに詳しく外側導体の中と外での磁場を検討する。図7において外側導体の中の点Fにおける磁場は次のように求められる。
円弧の帯F−F′−E′−Eにおいて素電流がこの帯を通過していないことから
【数21】


を帯の面で積分する。磁場は半径方向の成分はゼロであることは上に計算されている。
【数22】


これより、外側導体の中でもその磁場はE点における磁場と同様に:
【数23】


外導体の外の点では、図7における円弧帯F−F′−G′−Gにおいて素電流は導体表面、中心からbのところを流れているので:
【数24】


これより、外側導体の外側では磁場はゼロである事を確認できる。
【0024】
上の結果から、信号電流を同軸ケーブルで送ると、内側導体に流れる電流は内側導体と外側導体の間に磁場を発生させるが、外側導体の外側では外側導体に流れる同相反対方向電流が作る磁界に打ち消され磁界を発生させない、さらに内側導体の内側には自己誘導の相殺により磁場を発生させない。外側導体に流れる電流は円筒の内側には自己誘導の相殺により磁場を発生させず、円筒の外側は、内側導体に流れる電流の影響にて磁場がキャンセルし磁場を発生させない事が解る。
【0025】
そこで、同軸ケーブルの内側導体と外側導体を電流の行きと帰りの伝送路として利用すると、よく知られているように電路上で図8に示される等価回路が形成される。ここで外側導体は磁場を発生しないので図8の下側の線路、内側導体は外側導体と内側導体で囲まれる空間で磁場を発生するのでインダクタンスがある。また内側と外側の導体の間では静電容量が発生する。
【0026】
内側導体の上での電流と電圧の変化を検討する:
よく知られているようにインダクタンスの前後でコイル内の電流をIとすれば
【数25】


また上に述べたようにコンデンサを通して電流が内側導体から外側導体に漏れてしまうがその量はコンデンサと内側導体の結合点における電圧の変化により
【数26】


これをセクションを細かく取った式にすると内側導体におけるΔxの間での電圧変化は
【数27】


同様に静電容量によるΔxの間での漏電流による電流喪失は
【数28】


Δxを無限小にして微分形式にすると
【数29】


これから有名な波動方程式が導かれる。即ち
【数30】


内側導体に流れる電流電圧は
【数31】


の速度を持つ波動方程式に従う。
【0027】
注目すべきは静電容量があるにもかかわらず減衰項が不在であることである。また同じく重要なことは速度は同軸ケーブルの形状に関係せず、材質だけによることだ。即ち
【数32】


により速度は内側導体と外側導体の間にある絶縁体の透磁率μと誘電率εだけによる。
【0028】
さて、仮に、
【数33】


なる電圧が内側導体に流れていたとすると上の電圧に関する波動関数に代入すると
【数34】


なる関係を持つ。
【0029】
このとき流れる電流は
【数35】


よって
【数36】


ここで
【数37】


は有名な同軸ケーブルの特性インピーダンスと呼ばれるものである。この値が小さい方、即ち内径と外径の比が1に近い方が、多くの電流を流す事が出来る。
今x=0の点に電源があり
【数38】


なる電圧がかかっていたとする。
また他端x=lではZlなるインピーダンスが負荷としてあったとする。
このような境界条件の下に上記は同方程式の解を求めてみる。
【0030】
上記電圧の波動方程式の一般解は
【数39】


第1項は進行波であるのに対して第2項は逆行する波である。
At x=0 に電源を置くと
【数40】


よって進行波と逆行する波を加えて1となるように分配してやると一般的に以下のように表示できる。
【数41】


したがって元の一般式に代入して電圧は:
【数42】


x=0点においては電源の信号が再現されている。
【0031】
この時の電流は
【数43】


をxで積分して
【数44】


負荷を
【数45】


とすると進行波の電圧によって負荷に流れる電流は
【数46】


もともと同軸ケーブルに乗っていた進行波の電流は
【数47】


もし、進行波電流が負荷に侵入する電流より大きい場合は、反射する電流は元の進行波と負荷に侵入する波の差で
【数48】


(方向だけ反転)
この反射波はもともとの逆行する波であるので
【数49】


これにより負荷と特性インピーダンスとRの関係が求まり
【数50】


左辺にRの項をまとめると
【数51】


負荷のインピーダンスが特性インピーダンスに等しいときは逆に進行する波はゼロとなる。
【0032】
またもし、負荷に加わる進行波電圧によって負荷に流れる理論的な電流が元の進行波電流より大きい場合
【数52】


即ち、Z≦Zのときは全て負荷に流れてしまうので反射の波はない。即ちR=0となる。極端な例としては短絡していても特性インピーダンスだけによる回路が構成される。
【0033】
又開放となった場合はZ=∞ではRは2分の1となり全部反射で返ってくる事になる。
付加に多くの電力を送るためには
【数53】


を最大にする。これはZの最小値Zのとき最大となる。
【実施例1】
【0034】
通信用電流密度の和を局所的にゼロにするために、中心軸を共有する2つの重なった伝送路を通信電流路として使用する搬送路において、同軸ケーブルの外側導体を通信の電流のみが流れる導体とし、同軸ケーブルの内側導体を電力用電流と通信用電流が流れる導体とし、通信用電流の往きの電流と還りの電流が同じになるように送信機と受信機の間の同軸ケーブルでは接地しないかあるいは2箇所以上ででは接地しない。又送信機と受信機それぞれも導体に流れる電流が同じになるように接地をしない。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】電力と通信を送る同軸ケーブルを説明する構成図である。電力用電流は内側導体を通る場合と外側導体を通る場合がある。通信用電流は行きの電流が内側導体を通る場合は返りの電流は外側導体を通る。反対に行きの電流が外側導体を通る場合は返りの電流は内側導体を通る。電力用電流は内側を通っても外側を通っても構わない。
【図2】同軸ケーブルの内側導体に流れる電流と外側導体に流れる電流による点Rにおける磁束密度を算出するための図である。電流は導体表面を一様に流れており図中の角度θによらないと仮定する。
【図3】同軸ケーブルの内側導体と外側導体により構成される回路の等価回路である。
【図4】発信機と受信機が同軸ケーブルにつないだ場合の電流の流れ方のイメージ。内側導体に流れている電流と外側導体に流れる電流が空間積分した後キャンセルする。発信機と受信機のアンテナに相当する部分と接地に相当する部分は同軸ケーブルのうちと外でそれぞれ接続され閉回路を構成する。
【図5】通常外部雑音を抑制するため採用されている接続方法。外部からの雑音信号は外側導体のシールドによって内側導体に伝わらないとされる。本発明は伝送路からの発信を抑制するもので結線の大きな違いは発信機と受信機は接地しない。本図のように発信機受信機を接地すると行きと還りの電流が同軸ケーブルの内側と外側で同量とならず空間積分してもキャンセルしない。
【図6】通常外部雑音を抑制するため採用されている他の接続方法。上の例と同様、外部からの雑音信号は外側導体のシールドによって内側導体に伝わらないとされる。本発明は伝送路からの発信を抑制するもので結線の大きな違いは発信機と受信機は接地しない。このような結線では行きと還りの電流が同軸ケーブルの内側と外側で同量とならず空間積分してもキャンセルしない。
【図7】外側導体内外の磁束密度を計算するための図。外側導体の外側Gでは磁場は存在しない事が計算で示される。
【図8】同軸ケーブルを示すとされる等価回路。
【符号の説明】
【0036】
1 同軸ケーブルの内側導体
2 同軸ケーブルの外側導体
3 同軸ケーブルの内側導体の外径、数式1における2ri
4 同軸ケーブルの外側導体の内径、数式1における2ro
5 同軸ケーブルの固有の相互誘導
6 信号受信回路
11 送信回路
12 受信回路
13 送信回路
14 同軸ケーブル固有の静電容量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに絶縁された内側と外側の導体で構成される同軸ケーブルにより通信情報あるいは電力またはその両方を搬送する伝送手段であり、発信機と受信機に結合されており、内側導体に流れる電流と外側導体に流れる電流が同量、同相、反対向きに流れるように、送り側と帰り側の電流を同軸ケーブルの内側導体と外側導体に流れるように前記発信機と受信機が接続され、さらに前記発信機と受信機の間では接地は2箇所以上になく、さらに発信機と受信機は接地しない事により、空間分布の電流の積分がキャンセルするように接続されることで電磁放射を起こさない伝送システムで、前記同軸ケーブルの内側に設けられた導体の半径と上記同軸ケーブルの外側に設けられた導体の内径の半径との比を1に近い値を取る事により多くの電力を送れ、電力用電流については外側の導体または内側の導体の一方または両方に流すこともできる通信ケーブルとしても電力用ケーブルにも使える事を特徴とする電力と通信を両方送れる伝送手段。
【請求項2】
互いに絶縁された内側と外側の導体で構成される同軸ケーブルにより通信情報あるいは電力またはその両方を搬送する伝送方法であり、内側導体に流れる電流と外側導体に流れる電流が同量、同相、反対向きに流れるように、送り側と帰り側の電流を同軸ケーブルの内側導体と外側導体に流れるように前記発信機と受信機を結合し、さらに前記発信機と受信機の間では接地は2箇所以上とることはなく、さらに発信機と受信機は接地しない事により、空間分布の電流の積分がキャンセルするよう接続し、前記同軸ケーブルの内側に設けられた導体の半径と上記同軸ケーブルの外側に設けられた導体の内径の半径との比を1に近い値にすることにより多くの電力を送れ、電力用電流については外側の導体または内側の導体の一方または両方に流すこともできる電力と通信を両方送れる伝送方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−105486(P2009−105486A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−272791(P2007−272791)
【出願日】平成19年10月19日(2007.10.19)
【出願人】(000002842)株式会社高岳製作所 (72)
【Fターム(参考)】