説明

電磁機器の最適設計システム

【課題】複数の解析手法を連成した最適設計法を高速に行うための電動機の最適設計システムの提供を課題とする。
【解決手段】設計変数の組を受け取り、この設計変数の組に基づいて関数値を計算して出力する目的関数演算部と、前記関数値が極大または極小となる前記設計変数の組を探索する最適化の手段よりなる最適設計システムにおいて、前記目的関数演算部が、電磁機器に関する寸法データや物性値といった物理量を履歴ファイルから入力でき、かつ、この物理量を反映させて計算した最新の物理量を前記履歴ファイルに書き込む機能を持ち、さらに、前記最適化の手段が直接探索法のアルゴリズムに基づいていることを特徴とする電磁機器の最適設計システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁機器の最適設計法に係り、複数の解析手法を同時に解きながら高速に最適化計算を行うための電磁機器の最適設計システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、計算機の性能の向上と記録容量の増加により、複数の解析手法を連成した高精度な最適化技術が開発されている。例えば特許文献1では、最適化計算の精度の向上を図るために、構造解析,熱解析,流体解析,電磁界解析などの複数の解析手法を連成した最適化計算を行う方法について述べている。その計算順序は以下のようになっている。(1)解析に必要なデータを入力し、(2)複数の解析を連成させて同時に解き、(3)得られた解析結果の最適化を行い、(4)最適化の過程および最適化の結果で必要となる解析条件や形状データを変更する。これらの一連の操作を最適化計算が収束するまで繰り返し行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−122098号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】「減磁を考慮した小形回転機の熱・電圧・磁界の連成解析」山口忠・河瀬順洋・渡辺将史・樋田直孝・中村一也・福島絵理、電気学会静止器・回転機合同研究会資料、SA−06−91/RM−06−93、2006年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非特許文献1では、熱と磁界の連成解析を行った事例が示されている。熱解析と磁界解析に三次元有限要素法を使用していることから、1回の連成解析の計算に1ヶ月程度の時間を要している。一方、特許文献1は、目的関数の計算に必要な諸量を連成解析で計算していることから、最適化計算が収束するまでにかなりの時間を要するものと推察される。このように、連成解析と最適化の組み合わせた最適設計は、計算時間の短縮が課題となる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、設計変数の組を受け取り、この設計変数の組に基づいて関数値を計算して出力する目的関数演算部と、前記関数値が極大または極小となる前記設計変数の組を探索する最適化の手段よりなる最適設計システムにおいて、前記目的関数演算部が、電磁機器に関する寸法データや物性値といった物理量を履歴ファイルから入力でき、かつ、この物理量を反映させて計算した最新の物理量を前記履歴ファイルに書き込む機能を持ち、前記最適化の手段が直接探索法のアルゴリズムに基づくように構成すればよい。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、高速に最適化計算を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の第1の実施形態である小形化設計を行う永久磁石式同期電動機を回転軸方向に断面した概略図。
【図2】本発明の第1の実施形態である図1の永久磁石式同期電動機を半径方向に断面し、それを展開して一部を抜き出した概略図。
【図3】本発明の第1の実施形態である永久磁石の減磁曲線上における不可逆減磁の考え方を示す模式図。
【図4】本発明の第1,第3の実施形態である最適化計算の全体の流れを示す図。
【図5】本発明の第1の実施形態であるメッシュの寸法矛盾や位置関係の干渉を回避する手段を示す図。
【図6】本発明の第1の実施形態である熱等価回路網法における熱モデルの構成の一例を示す図。
【図7】本発明の第1の実施形態である図1,図2の電動機を熱等価回路網でモデル化した熱モデルを示す図。
【図8】本発明の第1の実施形態である図7の熱モデルの固定子巻線の温度特性を示す図。
【図9】本発明の第1の実施形態である最適化変数を示す図。
【図10】本発明の第1の実施形態である断面形状と固定子巻線の巻数の見直しによるコア積厚の短縮を行った最適化の結果(目的関数および制約条件の推移)を示す図。
【図11】本発明の第1の実施形態である最適化の計算過程における固定子巻線の抵抗率と永久磁石の残留磁束密度の推移を示す図。
【図12】本発明の実施形態2を示す永久磁石同期機の軸方向断面図。
【図13】本発明における熱解析を実施するための回転機の熱回路網(軸方向断面図)。
【図14】本発明の実施形態4の効果を示す結果。
【図15】本発明の実施形態6の説明図。
【図16】本発明の実施形態6の効果。
【図17】本発明の実施形態9の説明図。
【図18】本発明の実施形態10の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1〜図17を用いて、本発明の一実施形態である永久磁石式同期電動機の最適設計について説明する。
【0010】
〔第1の実施形態〕
図1〜図11を用いて、外転型,多極,集中巻の永久磁石式同期電動機の小形化設計について説明する。
【0011】
(1)対象機の構成
図1は、本発明で小形化設計を行う外転型,多極,集中巻の永久磁石式同期電動機を回転軸方向に断面した概略図である。
【0012】
図2は、図1の永久磁石式同期電動機を半径方向に断面し、それを展開して一部を抜き出した概略図である。
【0013】
図1〜図2において、外転型,多極,集中巻の永久磁石式同期電動機101は固定子102と回転子103から構成される。固定子102は、大きくは固定子コア104と固定子巻線105とで構成される。固定子コア104は、珪素鋼板を型による打ち抜き等により、積層して構成される。固定子コア104の内周には、固定子磁路を構成する固定子コアバック201と、固定子コアバック201より固定子外周に向かって放射状にのびる固定子突極202から構成されている。図示のように、隣り合った固定子突極202間と固定子コアバック201とで構成される空間はスロット203であり、固定子巻線105を収納する空間である。ここで、各固定子突極202には、図示のように1極に1個の固定子巻線105を巻回するものとする。固定子コア104は、定盤106に立てられた鉄板107にボルトで固定されている。
【0014】
一方、回転子103は、固定子102の外周に配置された回転子磁路を構成する回転子コア108と、回転子コア108の内周面に等間隔に配置された永久磁石109と、回転子コア108を外周から覆ったお椀型のドラム110とで構成される。回転子コア108は、珪素鋼板を型による打ち抜き等により、積層して構成される。また、回転子コア108は、ドラム110の内周面にボルトで固定されている。ドラム110の中心には、シャフト111が連結されている。シャフト111は、回転子103が回転可能となるようベアリング112を介して固定子102に接続されている。永久磁石式同期電動機101を制御する際に必要な位置検出を行うエンコーダ113は、シャフト111と連結させて鉄板107に固定されている。
【0015】
本実施例で述べる小形化設計は、直接探索法の一つであるローゼンブロック法により図1に示す所定の回転子コア108外径Dcに対してコア積厚Lcを短縮していくことである。また、コア積厚Lcを固定として回転子コア108外径Dcを短縮してもよい。
【0016】
本電動機101の固定子巻線105温度の評価はヒートラン試験の熱定常状態で行う。本電動機101の性能試験の結果、要求性能を達成し、電圧と固定子巻線105温度については10%(要求仕様値比)程度の余裕があることが分かっている。そこで、小形化設計を行う際には、電圧と固定子巻線105温度の余裕分を使ってコア積厚Lcを限界まで短縮する。
【0017】
(2)最適化問題の設定
図3は、永久磁石の減磁曲線上における不可逆減磁の考え方を示した模式図である。
【0018】
小形化する際に問題となるのが電動機内部の温度である。電動機体格を低減していくと、冷却面積の減少により温度が上昇する。これは、固定子巻線の絶縁破壊や永久磁石の不可逆減磁(永久磁石の磁力が大幅に低下し、本来の性能を失う現象)を引き起こす原因となり、電動機として成立しなくなる。そのため、小形化の際には固定子巻線の温度と永久磁石の不可逆減磁を把握しておくことが重要である。また、コア積厚を低減すると永久磁石の軸長が短くなることから、トルクに寄与する永久磁石の磁束量が減り、トルクが低下する。そこで、コア積厚の短縮と同時に固定子巻線の巻数の変更,電動機断面形状の適正化を行い、トルクを増加させる必要がある。これはトルク密度を上昇させることと等価である。さらに、電源容量には上限があることから、固定子巻線巻数の変更や電動機断面形状の適正化を行う際には、電動機の線間電圧を把握しておく必要がある。
【0019】
こうした作業を最適化問題に焼き直すと「電動機断面形状などの最適化変数xに制約条件(電圧,固定子巻線温度,永久磁石の不可逆減磁)を課しながら、目的関数f(x)(トルク密度)が最大になる変数の最適値x*を探索する」となる。これを定式化すると以下のようになる。
【0020】
【数1】

【0021】
【数2】

【0022】
【数3】

【0023】
【数4】

【0024】
ここで、τはトルク、Dcは回転子コア外径、Lcはコア積厚である。τとLcはxの関数である。(1)式の分母は体積を表わすので、f(x)はトルク密度に対応する。制約条件を(2)〜(4)式で表わす。(2)式は電動機の電圧に関し、線間電圧Vが上限値Vlimより小さいことを条件にしている。(3)式では、固定子巻線の温度上昇Tcが上限値Tc、lim以下であることを課している。(4)式は永久磁石が不可逆減磁しない条件に対応する。
【0025】
不可逆減磁の考慮方法を図3に示す永久磁石の減磁曲線301の模式図を用いて説明する。減磁曲線301は、一般に横軸を永久磁石内部の磁界の強さ、縦軸を永久磁石内部の磁束密度(または磁化)とした座標空間に図示のように表され、永久磁石の動作点を把握するのによく使われる。本実施例では、減磁曲線301の傾きと等価である永久磁石の透磁率(リコイル透磁率)が線形であると仮定し、減磁曲線301をa軸と置き、a軸と縦軸との交点をa=0%、a軸と横軸との交点をa=100%と定義する。そして、磁界解析で計算した永久磁石内部の磁束密度分布から上記の定義に従ってaの分布を求め、これを図中に示すヒストグラム302として出力することで永久磁石内部の動作点を算出する。(4)式のa1はヒストグラム中でaが最も大きい動作点の位置303、aknickは永久磁石のクニック点(不可逆減磁を開始する点)304の位置を表わしている。(4)式により、永久磁石の動作点303がクニック点304を超えると永久磁石は不可逆減磁を起こしたことになる。
【0026】
VとTcとa1はxの関数である。また、aknickは温度依存性を持つため、間接的にxの関数である。
【0027】
以上で述べた制約条件付きの最適化問題をローゼンブロック法で解くためには、これを無制約化する必要がある。これは、ローゼンブロック法が無制約での局所最適解の探索アルゴリズムであることによる。このため、(2)〜(4)式の制約条件を外点ペナルティ関数法で(1)式へ組み込み、以下の拡張目的関数を制約条件なしで最大化する:
【0028】
【数5】

【0029】
ここで、pはペナルティ係数である。(5)式の右辺第2項はペナルティ項である。これにより、(2)〜(4)式の制約条件をどれか一つでも満足しない場合にはF(x)の値に大きなハンディが付く(ここではF(x)の値がf(x)から大幅に下がる)ことになる。そのため、ペナルティ係数の値を大きくするほど、制約を破った変数は最適解になりにくくなる。(5)式の形から明らかなように、変数xの全領域において拡張目的関数F(x)の連続性は保証されている。
【0030】
一方、前記の最適化問題の考え方は電動機だけに限らず発電機にも同様に適用できる。永久磁石式同期発電機の場合は、「発電機断面形状などの最適化変数xに制約条件(トルク,固定子巻線温度,永久磁石の不可逆減磁)を課しながら、目的関数f(x)(出力密度)が最大になる変数の最適値x*を探索する」となる。
【0031】
(3)最適化計算の流れ
図4は本発明の一実施例である永久磁石式同期電動機の小形化を行うための最適化計算の全体の流れである。
【0032】
図4において、破線内が(5)式の拡張目的関数F(x)であり、上から順に、物性値計算,自動メッシュ作成,磁界解析,電動機損失計算,熱抵抗計算,熱解析,電動機特性計算で構成される。これをコマンドファイルとして定義する。ここで、磁界解析に有限要素法を採用していることからメッシュ作成が必要となり、熱解析に熱等価回路網法を採用していることから熱抵抗計算が必要となる。最適化エンジン403は、上で述べた目的関数を逐次実行しながら、適当な変数の初期値x0からスタートして目的関数が極大となる変数の最適値x*を見つけ出す。
【0033】
以下、拡張目的関数F(x)における計算手順を時系列順に詳しく説明する。
【0034】
先ず、最適化変数xを入力し、前回の計算で求めた固定子巻線,永久磁石の温度を温度履歴ファイル401から読み込み、(i)これらを用いて物性値(銅線の抵抗率や永久磁石の残留磁束密度,不可逆減磁特性)を計算する。次に、(ii)変数xをもとに磁界解析で用いる2次元メッシュを作成し、(iii)有限要素法による2次元磁界解析を実施した後、積厚履歴ファイル402から前回の計算で求めたコア積厚Lcを読み込み、(iv)磁界解析結果の後処理により鉄損,メッシュの形状を用いて銅損を計算する。次に、(v)変数xとコア積厚Lcをもとに、熱等価回路モデルにおける熱抵抗を計算し、(vi)上で求めた損失をもとに熱定常状態における温度分布を計算する。求めた固定子巻線,永久磁石の温度を最新値として温度履歴ファイル401に追加する。(vii)トルク,電圧,永久磁石の動作点,コア積厚を計算し、コア積厚については最新値として積厚履歴ファイル402に追加記載する。最後に、以上で求めた諸量より(5)式の拡張目的関数F(x)を計算し、出力する。また、前記の磁界解析に磁気回路法,熱解析に有限要素法を適用することも可能である。
【0035】
本来、熱−磁界連成解析は、過渡状態の計算において、タイムステップ中で前回のステップの熱解析で求めた温度を用いて物性値を計算し、温度を収束させていく手法である。そのため、以上で述べた図4の最適化計算では熱定常状態の計算を行うことから、磁界解析と熱解析を直接連成して解いていない。しかし、最適化の繰り返しの中で目的関数F(x)の値を毎回計算する際に、直前の熱解析の結果を反映して電動機特性を計算し、熱解析の結果を最新値に更新するプロセスを繰り返している。この結果、最適化の繰り返し計算が収束に近づけば(電動機断面形状の変化が落ち着いてきた状況では)、熱の定常解析と磁界解析を連成して解くことが可能である。
【0036】
(4)メッシュ作成の方法
図5はメッシュ形状やメッシュ作成の失敗の原因につながる寸法矛盾や位置関係の干渉を回避する手段を示した模式図である。
【0037】
図4のメッシュ作成に関する工夫点について述べる。最適化エンジンはメッシュの成立性とは無関係に変数xを見直して解を探索する。したがって、最適化計算の過程において、意図しないメッシュ形状やメッシュ作成の失敗に対する配慮が必要である。
【0038】
このための対策として、本最適化計算のメッシュの作成方法では、プログラムとしてメッシュの作成手順を定義し、デローネ法により2次元メッシュを作成する方法を採用している。プログラム形式による方法であることから、寸法矛盾や位置関係の干渉を予見してこれを比較的容易に回避する(プログラム内で計算した寸法から位置関係を比較,判断して適宜対策を施す)ことが可能である。
【0039】
回避の手段としては、図5に示す“反転”操作501を利用するのが最も簡便である。図5の例では、変数x1がa502を超えてはならない状況を表わしている。これは制約条件x1−a≦0を課したことと等価である。今、変数x1の値が想定外のb(>a)503とする。上で述べたメッシュ作成プログラムでは、こうした状況が起きた場合に、変数x1の値を強制的に2a−b504とする処理を行い、見直し後のx1を用いてメッシュを作成する。以上で述べた処理は、x1=aの位置に鏡505を置いて、変数x1のb値を鏡像の座標2a−bに置き換えるものである。この操作を最適化プログラムの立場から見ると、変数x1の探索範囲は相変わらずx1軸上の全範囲である。
【0040】
“反転”操作501を施した場合の目的関数の連続性と微係数の不連続性について触れておく。変数x1を図5の鏡505の右側からa502に近づけると、処理後の変数x1の値は鏡505の左側から限りなくa502に近づく。したがって、この方法によれば、目的関数の連続性は保証される。一方、目的関数はx1=aにおいて明らかに滑らかではなくなり、目的関数のx1に関する微係数はこの点で不連続になる。したがって、この目的関数の性質から、微係数を必要とする最適化アルゴリズムを使用できない。一方、直接探索法では目的関数の連続性が保証されていれば解の探索は可能である。
【0041】
上記のメッシュ作成の方法は、寸法制約を(5)式の拡張目的関数F(x)に組み込む必要がなく、最適化計算において無駄な(変数が寸法制約を破った)計算を行うことがないため、計算時間の短縮にもつながる。
【0042】
(5)温度計算の方法
図6は熱等価回路網法における熱モデルの構成の一例を示す。
【0043】
図4の熱解析手法には熱等価回路網法を採用した。これは計算時間の短縮と図4の破線内の構成の簡素化が狙いである。
【0044】
熱等価回路網法は、熱流と電気回路における電流の流れ方のアナロジーを利用したものである。このために、対象とする物体における熱の流れを分析し、各部に節点601を設け、これらを結ぶ熱抵抗602,各節点に熱容量603と熱源604を付与する。図6はこれらの節点の内でn番目の節点(温度はTn、熱容量はCn)に注目して周辺の熱回路を取り出して示したものである。この節点601には熱源604から単位時間当たりQnの熱が流れ込む。この節点は、全部でm個の熱抵抗Rn,iを介して周囲の節点(温度はTn,i)と接続されている。ここで、節点温度を時間の関数として求めるために、時刻tを間隔Δtで等間隔に分割しておく(tk=t0+kΔt)。また、熱源に関してt≧t0のときQn>0,t<t0のときQn=0とする。さらに、発熱開始以前においてすべての節点温度がT0(環境温度)とする。
【0045】
節点nに注目して、時刻の区間[tk-1,tk]における熱量の保存を式で表すと、
【0046】
【数6】


が得られる。左辺第1項は熱容量Cnへ流れ込む熱量、第2項は周りの節点へ流れる熱量、これらの和が右辺の発熱量に等しいことを表している。(6)式を書き直して、
【0047】
【数7】


の形に整理する(左辺に時刻tkにおける節点温度を集約)。全部の節点について(7)式と同様の関係式が成立するので、これらを統合すると、時刻tkの各節点温度に関する連立1次方程式が得られる。時刻tk-1における各節点の温度がわかっていれば、この連立方程式を解いて時刻tkの各節点温度を求めることができる。したがって、初期条件の時刻t0においてすべての節点温度がT0であることからスタートして、上記連立1次方程式を順次解くことにより各時刻の節点温度を求めることができる。
【0048】
本発明の最適化計算では、熱定常状態を対象としている。したがって、熱容量へ流れ込む熱流はない。この場合には、熱容量がないことと等価になるので、(7)式においてCn=0とおいた上で、環境温度T0を設定して上記連立1次方程式を1回だけ解けばよい。
【0049】
(6)電動機特性計算の方法
図4に示す(iii)2次元磁界解析と(vii)電動機特性計算について詳しく述べる。
【0050】
目的関数を計算するために以下の2ケースの2次元磁界解析を実施している:(1)所定電流を通電したときの負荷状態の解析。(2)減磁評価のための解析。(1)の解析は電圧,永久磁石内部で発生する渦電流損,固定子コアと回転子コア内部で発生する鉄損の計算用である。ここでは軸方向単位長さ当たりの諸量が求まるので、前回のコア積厚を掛けて換算している。鉄損については磁界解析の結果を後処理することにより求めている。(2)の解析では、固定子巻線電流がつくる磁束の方向が永久磁石のつくる磁束の方向と逆になる位相(電動機専門用語ではd軸の負の方向の位相という)と(1)の所定電流の2倍の大きさの電流を通電する。この解析結果を後処理して図3に示す永久磁石の動作点a1を求めている。この永久磁石の動作点a1と前回に計算した永久磁石の温度から求めたクニック点位置aknickを比較して永久磁石の不可逆減磁を判断する。
【0051】
以上で述べた解析結果を用いて電動機特性を計算する際に問題となるのが鉄損の取り扱いである。銅損については抵抗による電圧降下を磁界解析で求めた電圧にベクトル的に足し込むことで、入力,出力,損失間の整合をとる(エネルギー保存則を成立させる)ことができる。永久磁石内部で発生する渦電流損については磁界解析により直接求めているので、特に問題はない。しかし、鉄損は(1)の解析結果を後処理して求めたものである。そのため、上記の計算では鉄損を考慮した電圧を計算することは困難である。そこで、電圧については、(1)の磁界解析で求めた電圧に固定子巻線抵抗分の電圧降下を足し合わせたものを、(2)式の制約条件式g1(x)の線間電圧Vとしている(鉄損の影響は無視する)。トルクについては、(1)の磁界解析で求めたトルクによる電動機出力から鉄損と機械損を引いたものが、実際の電動機出力になると仮定して、以下のようにトルクを見直す:
【0052】
【数8】

【0053】
ここで、τは見直し後のトルク、ωrは回転子の角速度、τ*およびWiは前回の積厚を用いて計算したトルクおよび鉄損、Wmは機械損ある。
【0054】
最適化の繰り返し計算の過程で電動機形状が変化することから、上記の見直したトルクは目標トルクと必ずしも一致しない。そのため、次回の計算のために過不足分を考慮してコア積厚を見直す必要がある。これには、
【0055】
【数9】


を用いた。ここで、L′cは見直し後のコア積厚、Lcは前回のコア積厚、τgは目標トルクである。電動機特性の計算終了後、(9)式で求めた見直し後のコア積厚を積厚履歴ファイルに最新値として追加記載する。最適化の繰り返しの中で目的関数F(x)の値を毎回計算する際に、上記のコア積厚の見直しを行うことで、コア積厚は目的関数のトルク密度の上昇と連動して減少していく。そして、最適化の繰り返し計算が収束したときのコア積厚の値が、小形化の限界値を示している。
(7)熱モデル
図7は、図1,図2の電動機を熱等価回路網でモデル化した熱モデルである。
【0056】
図8は、図7の熱モデルの固定子巻線の温度特性である。
【0057】
図7において、電動機内部で発生した熱の主な経路は大きく2つに分けられ、(1)固定子巻線105−固定子コア104−鉄板107・定盤106−空気、(2)永久磁石109−回転子コア108−ドラム110−空気となる。従って、固定子巻線105と固定子コア104で発生した熱は主に鉄板107と定盤106の表面から放熱され、永久磁石109と回転子コア108で発生した熱は主にドラム110の表面から放熱される。また、小形化によりコア積厚Lcを短縮していくと、熱は径方向に流れにくくなり、逆に軸方向には流れやすくなる。
【0058】
材料の熱伝導率と材料表面の熱伝達係数の設定には、実機のヒートラン試験の結果を基にパラメタチューニングを行うことで対処した。図8の固定子巻線の温度上昇の数値は温度上昇がほぼ定常に達したときの数値で正規化している。図8において、実測結果と計算結果の温度上昇がほぼ近い推移を示していることから、熱モデルは十分な精度を有している。
【0059】
熱等価回路網法は発電機や変圧器といった電磁機器のモデル化にも容易に適用することができ、有限要素法に比べて高速に温度上昇を計算することができる。解析精度の向上に関しては、前記のように、実機の温度試験の結果からパラメタチューニングを行うことで対処しなければならない。
【0060】
(8)最適化計算の条件
図9は、(1)〜(5)式の最適化変数xである。
【0061】
最適化変数xには、トルクと固定子巻線105の温度上昇への影響が大きい、ギャップ半径x1,ティース幅x2,ティース長x3,固定子巻線巻数x4の4個を選んだ。ギャップ半径x1については、トルクの増大に直接的に関与する(ギャップ中におけるマクスウェル応力が一定であると仮定すれば、トルクはギャップ半径の二乗に比例)ことから、これによるコア積厚低減の効果が大きいことが期待される。固定子巻線巻数x4に関しては、固定子巻線占積率が一定であると仮定したので、固定子巻線巻数が増えると固定子巻線径が小さくなるようにした。また、本来、固定子巻線巻数x4は整数であるが、本計算では実数として取り扱う。上記の変数の初期値には、図1,図2の対象電動機の設計値を設定することにした。また、断面形状の変数x1,x2,x3には、メッシュ作成の失敗を防止するために、図5の“反転”操作を適用した。線間電圧,固定子巻線の温度上昇の上限値には、図1,図2の対象電動機の要求仕様値を設定した。永久磁石のクニック点の算出には、カタログからある温度に対するクニック点を読み取り、それを多項式近似して得られた関数を用いることとした。(5)式のペナルティ係数pには、目的関数と制約関数値のオーダを比較することにより1000を設定した。
【0062】
(9)最適化計算の結果
図10は、断面形状と固定子巻線の巻数の見直しによるコア積厚Lcの短縮を行った最適化の結果(目的関数および制約条件の推移)である。
【0063】
図11は、最適化の計算過程における固定子巻線の抵抗率と永久磁石の残留磁束密度の推移である。
【0064】
図10,図11の結果は最適化計算がほぼ収束したことを確認し、200回程度の探索で打ち切っている。計算時間は3.7GHzのCPUを搭載したPCで約50時間である。
【0065】
図10では、上段から(a)目的関数、(b)線間電圧、(c)固定子巻線の温度上昇、(d)減磁耐力、(e)変数を示す。横軸はローゼンブロック法の探索回数である。目的関数,コア積厚,変数の数値は初期値で正規化し、線間電圧と固定子巻線の温度上昇については上限値で正規化している。図中に示すコア積厚の推移より、最適解では図1のコア積厚Lcが10%程度短縮していることがわかる。一方、制約条件については、線間電圧が上限値に一致し、固定子巻線の温度と永久磁石の不可逆減磁が余裕をもつ結果となった。変数は初期値に対して、x1(ギャップ半径)+1.7%,x2(ティース幅)+14%,x3(ティース長)+3%,x4(固定子巻線の巻数)+6%変化している。ギャップ半径x1とティース幅x2は、位置関係の干渉が発生しない、最大の変化量となっている。
【0066】
コア積厚10%低減(トルク密度は10%上昇)の主な理由としては、ギャップ半径x1の増加によるトルクの上昇,ティース幅x2の増加によるティース中の磁気飽和の緩和,固定子巻線巻数x4の増加による誘起電圧の上昇が推察される。固定子巻線の温度と永久磁石の不可逆減磁の余裕を使い切れなかった理由としては、固定子巻線の温度上昇への影響が大きい固定子巻線の巻数が電圧制約を受けてさらに巻くことができなかったこと、永久磁石の寸法を変数にしなかったことが挙げられる。
【0067】
本実施例の最適化計算の結果は、断面形状(ギャップ半径,スロット形状)と固定子巻線の巻数を適正化することによりコア積厚Lcを10%程度短縮できる可能性があることを示している。また、固定子巻線の温度と永久磁石の不可逆減磁には余裕があることから、新たな変数(ギャップ幅,固定子コアバックの厚さ,永久磁石の厚み,永久磁石の幅など)を導入することで、コア積厚をさらに短縮できる可能性があることも示している。
【0068】
図11では、上段から(a)固定子巻線の抵抗率、(b)永久磁石の残留磁束密度を示す。横軸は探索回数である。縦軸の数値は初期値で正規化している。図中の固定子巻線の抵抗率と永久磁石の残留磁束密度は温度上昇の変化に追従して変化し、最適解付近である値に収束しているのがわかる。電動機断面形状の変化が大きい探索の初期の段階では温度上昇の変動も大きいため、熱と磁界の連成は成立していない。しかし、最適解付近では熱と磁界の連成が成立している。
【0069】
本実施例の最後に、ここで述べた電動機や発電機の小形化設計に限らず、変圧器のようなエネルギー変換機の効率を最大化したい場合においても、本発明の最適化システムにより、巻線の温度上昇を考慮した最適化計算を行うことができる。
【0070】
〔第2の実施形態〕
図12に、本発明による永久磁石式同期電動機の概略図と最適設計に用いる変数を示す。図12は電動機における中枢部であり、固定子コア1201,固定子巻線1202,回転子コア1203,回転子永久磁石1204から構成される。図12に示すx1〜x10の10個の寸法を変数として、あらかじめテキストファイルなどにこれらの変数を数値としてそれぞれスペースないしは改行で区切った形で用意しておく。図12に示す電動機における固定子,回転子以外に必要な寸法(例えば電動機筺体部,エンドプレート,シャフト,ベアリングなどの寸法)は、同様にしてあらかじめテキストファイルなどにそれぞれスペースないしは改行で区切った形で用意しておくか、若しくは計算プログラム内に組み込んだ状態にしておく。本実施形態では、上記固定子,回転子以外に必要な寸法は一定値として説明をしているが、変数としても扱うことも可能である。その場合は、数値が一定値でなく、変数となるだけなので、上記の処理は変わらない。さらに温度を計算するために必要な物性値である熱伝導率,比熱,密度を理科年表等から調べた値として計算プログラム内に組み込んでおくか、計算プログラム実行値時に入力できる形にしておく。熱−磁界連成最適化計算プログラムは上記変数や定数を考慮して事前に用意しておく。これで、計算に必要な入力変数,定数,計算プログラムが揃い、熱−磁場連成最適化計算プログラムを実行する。磁界解析には有限要素法(FEM)による2次元磁界解析,熱解析には熱等価回路網法を用いた熱解析をそれぞれ適用する。最適化計算の中では変数x1〜x10が時々刻々と変わり、目的とする特性を満足するように最適形状の自動探索を行い、収束計算によって、最終的に最適化された1つの解である形状を得ることができる。ここで挙げた最適化の変数はx1〜x10の10個となっているが、それ以下でもそれ以上でも計算が可能である。また、磁界解析,熱解析ともに有限要素法や磁気回路法など、様々な計算方法も適用可能である。
【0071】
〔第3の実施形態〕
図4に、本発明による永久磁石式同期電動機の小形化設計アルゴリズムである。本アルゴリズムの中では、数理計画法による最適化計算手法を適用する。数理計画法とは幾つかの変数を目的関数として関数化し、制約条件を加えることでその関数を極小化または極大化することにより解を得る手法である。上記変数とは第1の実施形態で説明した最適化の変数に該当する。本実施形態では電動機を小形化することを目的とし、変数から作成する目的関数はトルク密度とする。トルク密度は電動機の回転力を表すトルクを電動機の体積で割った値である。つまりこのトルク密度が最大となるように計算を行うことで、小さな体格で大きなトルクを出力することができる最適形状を算出することができる。計算にはローゼンブロック法による最適化プログラムを適用する。
【0072】
以下、目的関数F(x)における計算手順を時系列的に説明する。まず、最適化変数xを入力し、前回の計算で求めた巻線,磁石温度を温度履歴ファイル401(初回計算は任意に与える:電動機が使用される環境によって決めてやると良い)から読み込み、(i)これらを用いて物性値(銅線の抵抗率や永久磁石の残留磁束密度,不可逆減磁特性)を計算する。(i)で計算する物性値はカタログのデータ等からそれぞれを温度の関数として定義しておき、温度ごとの特性を計算できるようにしておく。次に、(ii)変数xをもとに磁界解析用の2次元メッシュを作成し、(iii)有限要素法による2次元磁界解析を実施した後、積厚履歴ファイル402(初回計算は任意に与える)から前回の計算で求めたコア積厚LFEを読み込み、(iv)磁界解析結果の後処理により鉄損,メッシュの形状を用いて銅損の計算をする。次に、(v)変数xとコア積厚LFEをもとに熱等価回路モデルにおける熱抵抗を計算し、(vi)上記で求めた損失をもとに温度分布を計算する。熱等価回路モデルは図13に示すように、電動機の軸方向断面図において、固定子バックヨーク1301,固定子ティース1302,巻線1303,回転子コア1304,回転子磁石1305,シャフト1306,ベアリング1307,ハウジング1308,エンドプレート1309,フランジ1310(電動機が取り付けられる部分),ベンチ1311(電動機が取り付けられた物体が接触している部分),外気1312にそれぞれ節点を置いたものであり、(i)〜(ii)で求めた寸法と物性値によって計算される各節点間の熱抵抗と(iv)で計算された電動機の損失を入力値として熱解析が実行可能となる。ここでは、巻線の占積率等によって生じる巻線同士間の空気の影響などは、熱抵抗計算を計算する際に考慮する。また、ここに挙げた節点の数よりも多くの節点を設けることによって、計算の精度をあげることが可能である。こうして、求めた巻線,磁石の温度を最新値として温度履歴ファイル401に追加する。(vii)トルク,電圧,磁石動作点,コア積厚を計算し、コア積厚については最新値として積厚履歴ファイル402に追加記載する。最後に、以上で求めた諸量より目的関数F(x)を計算し、出力する。出力されたここでの目的関数であるトルク密度が最適化エンジン403によって最大化されるように変数の自動調整が行われる。上記には計算の中で温度と積厚は前回計算した値を用いると記載しているが、この計算は繰り返して行うことを前提としており、計算を繰り返すことによって前回との温度差や積厚差を最小化し、前回計算した値を用いても連成解析を成立させることができ、最終的に1つの最適形状解を得ることができる。
【0073】
ここで、最適化計算に重要な制約条件について説明を行う。一般に電動機を小形化すると発熱密度が大きくなり、温度上昇の問題が肥大化する。電動機に使用されている巻線には耐熱温度が規定されており、その温度を超えないように制約条件として加えなければ、電動機として成立しない。また、永久磁石については温度と巻線に電流を流すことによって生じる外部磁界によって減磁という現象を引き起こし、永久磁石の持つ残留磁束密度が低下する。この外部磁界を強めるほど残留磁束密度は低下し、外部磁界を弱めると元の残留磁束密度に戻る。ところが外部磁界を強めすぎて、ある臨界点を超すと不可逆減磁という現象を引き起こす。不可逆減磁は磁界を弱めても元の残留磁束密度に戻らない現象のことであり、こうなると電動機の性能は著しく低下する。そのため、不可逆減磁を起こさないことも制約条件として加える必要がある。さらに、駆動するためのインバータには電圧の上限値が存在することから、その電圧を超えないことも制約条件として加える必要がある。このように目標とする特性に対して、最適形状の探索を試みた場合、制約となるような項目を設定して最適化計算を実施する。
【0074】
〔第4の実施形態〕
図14に第4の実施形態による効果を示す。本実施形態では、第2の実施形態に記載の図12における最適化変数を用いて、第3の実施形態に挙げた電動機の小形化を目的とした最適化計算を行った場合を例に挙げて説明する。図12に示すように電動機の外径は最適化の変数に含まれていないため、一定値として計算を行うことになる。こうした場合、外径を変えた形状に対してそれぞれ最適形状が異なる。小形化を考えると、外径を4種類変えた形状に対してそれぞれ最適形状を算出し、その体格と質量はそれぞれ異なってくる。図14に示すように、電動機の外径を軸長(ただし、軸長は巻線のエンド部まで含めた長さとする)で割った値である電動機扁平率として横軸にとり、縦軸に電動機の体格と質量をそれぞれとると、それぞれの最適形状ごとに電動機の扁平率に対する体格と質量の関係が明らかとなる。体格は電動機の直径2×軸長(巻線のエンド部まで含めた長さ)とする。このようにして外径ごとに算出されたそれぞれの最適形状の比較をすることができる。その結果、数種類の最適形状において、目的に対して最も効果の高いポイントを見つけることができ、最適化計算の応用例として適用できる。この場合は体格も質量も最小となる値として、電動機の扁平率が約2.3となる形状が最も小形化設計として効果が高い結果が得られる。
【0075】
〔第5の実施形態〕
本実施例では、材料の組み合わせについて説明する。第2〜第4の実施形態では使用する材料は計算を開始する時点で決まっており、その特性はカタログ値等から引用してきた値を用いている。第3の実施例として示しているように、電動機を小形化すると発熱密度が大きくなり、温度上昇の問題が肥大化する。電動機に使用されている巻線には耐熱温度が規定されており、その温度を超えないように制約条件として加えなければ、電動機として成立しない。また、永久磁石については温度と巻線に電流を流すことによって生じる外部磁界によって減磁という現象を引き起こし、永久磁石の持つ残留磁束密度が低下する。この外部磁界を強めるほど残留磁束密度は低下し、外部磁界を弱めると元の残留磁束密度に戻る。ところが外部磁界を強めすぎて、ある臨界点を超すと不可逆減磁という現象を引き起こす。不可逆減磁は磁界を弱めても元の残留磁束密度に戻らない現象のことであり、こうなると電動機の性能は著しく低下する。そのため、不可逆減磁を起こさないことも制約条件として加える必要がある。さらに、駆動するためのインバータには電圧の上限値が存在することから、その電圧を超えないことも制約条件として加える必要がある。このように上記に示した3つを制約条件として考慮して最適化計算を実施している。つまり、これら3つの制約条件のうち少なくとも一つが制約となり、最適形状を決定している。制約条件のうち一つだけが設計の制約となった場合に他2つの制約条件に対してはまだ制約される条件に達しておらず、制約に対して余裕のある設計であることになる。例えば、巻線の温度に対しては制約となる限界であり、永久磁石の不可逆減磁制約に対しては余裕のある設計である場合に有効な材料の活用方法として以下のような組み合わせが存在する。
【0076】
まず永久磁石の不可逆減磁制約に対して余裕のある設計では、保磁力が小さい永久磁石材料を適用することができる。保磁力の小さい永久磁石材料は一般に残留磁束密度が高いため、少ない電流で大きなトルクが期待できる。さらに、上記永久磁石材料に最適である電動機コアの材料として鉄−コバルト合金であり、磁性材料の中でも最高の飽和磁束密度を持つ材料として知られているパーメンジュールを適用することによって、少ない電流で大きなトルク特性の効果を高めることができ、上記永久磁石材料との組み合わせが最適である。
【0077】
〔第6の実施形態〕
本第6の実施形態を図15より説明する。図15では電動機における制約条件を考慮し、熱−磁界連成解析を用いて、制約となる条件におけるトルク特性をそれぞれの制約条件に対して算出する。まず、低速領域の回転数から始める。回転数,電流値を決めて入力とする。これらの入力値からある形状において、磁界解析を実行する。次に、第3の実施形態で示したように磁界解析の後処理により計算された損失を入力値として熱解析を実施する。計算された損失によって温度が上昇値し、その分だけ物性値も変化するので温度依存物性値が収束するまで繰り返しの計算を行う。次に、それぞれの制約条件に対して、収束判定値±ε以内となるまで電流値を更新しながら収束計算を行う。収束計算が終了すると、その制約条件付近のトルク値を計算する。このような計算をすることで各制約となる条件付近のトルク値が算出できる。上記に示した温度依存物性値の収束計算は、電流値を更新していく中で自動的に収束していくため、電流値を更新するループの中で考慮することもでき、そうすれば計算時間の短縮も可能である。トルクの計算が終わると次は回転数を変え、同様の計算を実行する。考慮すべき高速域の回転数まで計算すると計算終了となる。こうして得られた結果を図16に示す。図16に示すように、巻線の温度制約,不可逆減磁制約,電圧制約それぞれに対して最大出力可能なトルクを回転数−トルク特性として明確にすることができる。この図からも明らかなように、巻線の温度制約に対して不可逆減磁制約はトルク限界値に余裕があることがわかる。第5の実施形態で示したように、材料の組み合わせを変更することや、最適化変数に含めていない寸法等をパラメータサーベイすることによってそれぞれの制約条件に対するトルク限界値を同程度の値にすることができる。こうすることにより、制約条件に対して限界設計することが可能であり、且つ制約条件ごとのトルク限界値に対してばらつきがなく、材料や設計無駄がないバランスのとれた設計が可能となる。
【0078】
〔第7の実施形態〕
第2〜第6の実施形態では小形化についての最適設計手法について説明したが、第3の実施形態で述べた目的関数を変えることにより、違った目的に対する最適形状の探索も可能である。例えば、電気機器においては小形化に限らず、高効率というのも重要な観点であり、その場合は目的関数を効率とする。第3の実施形態で説明したように、最適化計算の中では磁界解析と熱解析を連成させて計算している。こうした連成解析の中で時々刻々と変化する最適化変数から計算される寸法や物性値を考慮し、磁界解析の後処理によって得られる損失,トルク値,回転数から実駆動状態を想定した高精度な効率が計算できる。この計算された効率を目的関数として、効率を最大化する最適化計算を実施することによって効率が最大となる最適形状が算出できる。さらに、第4の実施形態で示したように最適化変数に含まれていない寸法を変え、その変えた寸法に対してそれぞれ最適形状を算出することによって、最も高効率設計として性能が高いポイントを探ることが可能となる。
【0079】
〔第8の実施形態〕
第7の実施形態同様に、電動機は特に量産型であればコストも重要な観点である。そこで、最適化変数に電磁鋼板の量,永久磁石の量,銅線の量,材料のグレードが計算できる値を設定し、それを単位量あたりの価格から、全体のコストに換算することができる。本実施形態ではコストを目的関数とし、コストを最小化するような最適化計算を実施する。最適化計算の中で時々刻々と変化する最適化変数から計算される寸法や物性値を考慮し、電動機形状から電動機1台に対するコストに換算する。このコストを最小化する最適化計算を行うことによって、低価格な電動機の設計が可能となる。
【0080】
〔第9の実施形態〕
図17に第9の実施形態に用いる説明図を示す。本発明では、図13に示す各節点に熱容量を考慮することによって初期温度から熱平衡状態となるまでの過渡的な温度上昇も含めて高精度に再現することができる。これにより、電動機の駆動時間に合わせた特性の算出とその状態の最適形状を算出することができる。第3の実施形態を例に挙げて説明すると、最適化計算の中では温度と積厚は前回の値を用いて計算しているが、繰り返しの計算によって前回との値の差分を最小化し、連成計算を成立させることができる仕掛けになっている。そのため、最終的に得られた形状では、連成が成立しており、図13に示す断面図における節点にそれぞれ熱容量を考慮することによって、時々刻々と変化する温度に対しても過渡状態まで含めた温度を高精度に計算することができる。これを利用すると、最適化計算の中で抽出する温度をある時間の温度と指定することによって、その時間における最適点を探索することも可能であり、電動機における連続運転,短時間運転の最適化が可能である。例えば、サーボモータなどの連続運転にはほとんど使用しない用途であれば短時間運転での最適点を探索するのに最適であり、電動パワーステアリング等の特殊用途に対しても適用が可能な設計方法となる。こうした実施形態においても第2〜7で示した実施形態が適用できる。
【0081】
〔第10の実施形態〕
図18に本発明の最適設計システムの出力形式を示す。本発明は最適化アルゴリズムに直接探索法を採用していることから、横軸を探索回数、縦軸を目的関数,制約条件,変数とした図中のグラフを作成することができる。これにより、最適化計算の収束状況,制約条件の状況,変数の推移の状況を確認することができる。また、本発明では物性値の温度依存性を考慮していることから、横軸を探索回数、縦軸を固定子巻線の抵抗率,磁石の残留磁束密度とした図中のグラフも作成することができる。これにより、熱と磁界の連成が成立しているかを確認することができる。これらのグラフを作成するために、最適化計算において目的関数を毎回計算する度に、前記のグラフ作成に必要な各諸量をファイルに書き出している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
設計変数の組を受け取り、この設計変数の組に基づいて関数値を計算して出力する目的関数演算部と、前記関数値が極大または極小となる前記設計変数の組を探索する最適化の手段よりなる最適設計システムにおいて、
前記目的関数演算部が、電磁機器に関する寸法データと物性値を含む物理量を履歴ファイルから入力でき、かつ、この物理量を反映させて計算した最新の物理量を前記履歴ファイルに書き込む機能を持ち、さらに、前記目的関数演算部には複数の解析を連立させて同時に解く連立解析部を含まず、さらに、前記最適化の手段が直接探索法のアルゴリズムに基づいていることを特徴とする電磁機器の最適設計システム。
【請求項2】
請求項第1項に記載の電磁機器の最適設計システムにおいて、
前記目的関数演算部が、少なくとも、電磁機器の磁界解析と熱解析を行う機能を有し、さらに、前記履歴ファイルに、少なくとも、前記熱解析の履歴を格納されていることを特徴とする電磁機器の最適設計システム。
【請求項3】
請求項第2項に記載の電磁機器の最適設計システムにおいて、
前記磁界解析の手段が有限要素法であり、前記熱解析の手段が熱等価回路網法であることを特徴とする電磁機器の最適設計システム。
【請求項4】
請求項第3項に記載の電磁機器の最適設計システムにおいて、
前記目的関数演算部が出力する関数値が電磁機器の単位体積あたりのトルクより算出したものであることを特徴とする電磁機器の最適設計システム。
【請求項5】
請求項第4項に記載の電磁機器の最適設計システムにおいて、
前記履歴ファイルに、少なくとも、電磁機器のコア積厚の履歴を格納されていることを特徴とする電磁機器の最適設計システム。
【請求項6】
請求項第3項に記載の電磁機器の最適設計システムにおいて、
前記目的関数演算部が出力する関数値が電磁機器の効率より算出したものであることを特徴とする電磁機器の最適設計システム。
【請求項7】
コンピュータに請求項第1項から請求項第6項までのいずれかの処理を実行させることを特徴とする電磁機器の最適設計プログラム。
【請求項8】
コンピュータのディスプレイに請求項第1項から請求項第6項までのいずれかの処理結果として、横軸を探索回数、縦軸を目的関数,制約条件,変数としたグラフを表示させることを特徴とする電磁機器の最適設計システム。
【請求項9】
コンピュータのディスプレイに請求項第1項から請求項第6項までのいずれかの処理結果として、横軸を探索回数、縦軸を物性値としたグラフを表示させることを特徴とする電磁機器の最適設計システム。
【請求項10】
請求項第1項乃至第9項に記載の最適設計システムにおいて、
最適設計の中で設定する種々の制約される条件ごとに回転数−トルク特性としてトルクの限界値を計算し、前記条件によって制約されるトルク値のばらつきを最小化することを特徴とする電動機の設計方法。
【請求項11】
請求項第1項乃至第9項に記載の最適設計システムにおいて、
請求項第1項に記載の設計変数とならない寸法ないし物性値を変化させたものに対してそれぞれ前記最適設計システムを適用し、それぞれの寸法ないし物性値ごとの最適形状を比較し、最も効果の高い形状を選択することを特徴とする設計方法。
【請求項12】
請求項第1項乃至第9項に記載の最適設計システムにおいて、
低保磁力,高残留磁束密度な特徴を持つ永久磁石材料を電動機に適用し、鉄−コバルト合金のパーメンジュールを電動機のコアに適用し、これらを組み合わせることを特徴とする電動機。
【請求項13】
永久磁石式同期電動機の設計方法を以下のステップにより算出することを特徴とする永久磁石式同期電動機の設計方法。
(1)変数または定数とする前記永久磁石式同期電動機における各部の寸法,各部の物性値を入力値とし、(2)入力値から解析対象機の要素を分割し、(3)巻線,永久磁石の温度をあらかじめ用意しておいた温度履歴ファイルから読み込み、その温度における巻線の抵抗値,永久磁石の残留磁束密度を温度の関数として計算し、(4)2次元磁界解析を実行し、(5)(4)の結果と前記永久磁石式同期電動機の積厚をあらかじめ用意しておいた積厚履歴ファイルから読み込み、それらを用いて前記永久磁石式同期電動機の損失を計算し、(6)解析対象にあらかじめ設定した節点からそれぞれの節点間の熱抵抗を寸法と物性値から計算し、(7)(5)(6)から得られる損失と熱抵抗を入力値として熱解析を実行し、得られた各節点における温度を前記温度履歴ファイルに更新し、(8)要求されるトルク値が得られるように前記永久磁石式同期電動機の積厚を計算し、新しい積厚を積厚履歴ファイルに更新し、(9)目的とする形状に収束するように(1)で入力した変数を自動的に調整し、(1)〜(9)を繰り返すことにより熱と磁界を同時に解くことを可能とする特徴を有する解析手法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate


【公開番号】特開2011−243126(P2011−243126A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−116855(P2010−116855)
【出願日】平成22年5月21日(2010.5.21)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】