説明

電磁波制御素子

【課題】金属材料を微細加工した構造体を利用して、効率的に電磁波の伝搬特性を制御することができる電磁波制御素子を提供する。
【解決手段】電磁波制御素子1は、基板10と、基板10上に形成された誘電体13と、誘電体13に埋め込まれた第1の金属層11および第2の金属層12とを含む。第1および第2の金属層11,12は、xy平面と平行な仮想平面25を挟んで、仮想平面25から等距離の位置に仮想平面25と平行に設けられる。電磁波19は仮想平面25に沿ってy軸方向に入射される。第1および第2の金属層11,12の間隔は電磁波の波長より小さい。そして、第1および第2の金属層11,12には、x軸方向に延び電磁波19の波長よりも小さな周期の複数のスリット14,15がそれぞれ形成される。このとき、第1および第2の金属層11,12の形状は、仮想平面25に対して非対称である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、光を含む電磁波の強度、位相、および群速度などの伝搬特性を制御する導波路型の電磁波制御素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電磁波(以下、電磁波は光を含む。)の波長と同程度の周期性を持つ人工材料を用いて電磁波の伝搬を制御する技術の開発が進められている。
【0003】
たとえば、特開2005−274840号公報(特許文献1)は、2次元フォトニック結晶配列中に形成された線欠陥導波路に関する。線欠陥導波路とは、誘電体膜に貫通孔が格子状に配列された2次元フォトニック結晶中で、貫通孔が存在することなく線状に連続した部分である。上記文献の技術では、この線欠陥導波路の幅を狭めたり、線欠陥導波路の両側の貫通孔の大きさを変化させたりすることによって、線欠陥導波路での電磁波の伝搬が制御される。
【0004】
また、J.T.Shenらは、貫通スリットが電磁波の波長よりも短い周期で周期的に配列された金属膜における電磁波の伝搬について開示している(「Mechanism for Designing Metallic Metamaterials with a High Index of Refraction」、Physical Review Letters、2005年、第94巻、197401−1〜4(非特許文献1)参照)。J.T.Shenらによれば、このような系は、電磁波の周波数に依存しない屈折率を有する誘電体スラブ(平面型誘電体導波路)に等価であると考えることができる。そして、この系の屈折率は金属膜の幾何学的形状のみで制御できるので、従来の誘電体では得られない大きな屈折率を実現することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−274840号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】J.T.Shen、外2名、「Mechanism for Designing Metallic Metamaterials with a High Index of Refraction」、Physical Review Letters、2005年、第94巻、197401−1〜4
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述の特開2005−274840号公報(特許文献1)に開示された誘電体のフォトニック結晶の場合、異なる2種類の誘電体における屈折率差,または誘電体と空気との屈折率差を利用して光の伝播特性を制御する。このため、上記のJ.T.Shenらの文献に記載されるように金属の構造体を用いる場合に比べて、電磁波の伝搬特性の変調度が小さくなりがちである。
【0008】
さらに、特開2005−274840号公報(特許文献1)に開示された技術で光の伝搬特性を制御する場合、2次元フォトニック結晶を構成する貫通孔の配置または大きさを光の波長以下の精度で制御することが不可欠である。したがって、生産性の点で技術的課題がある。
【0009】
この発明の目的は、金属材料を微細加工した構造体を利用して、効率的に電磁波の伝搬特性を制御することができる電磁波制御素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明は要約すれば、電磁波の伝搬特性を変化させる電磁波制御素子であって、第1および第2の金属層を備える。第1の金属層は、電磁波の伝搬方向と平行な仮想平面に対して、電磁波の半波長より短い第1の間隔を開けて平行に設けられる。第1の金属層には、各々が電磁波の伝搬方向と垂直かつ仮想平面と平行な第1の方向に延びた複数の第1のスリットが、電磁波の波長よりも短い第1の周期で電磁波の伝搬方向に周期的に形成される。第2の金属層は、仮想平面を挟んで第1の金属層と反対側に、仮想平面と第1の間隔を開けて平行に設けられる。第2の金属層には、各々が第1の方向に延びた複数の第2のスリットが、電磁波の波長よりも短い第2の周期で電磁波の伝搬方向に周期的に形成される。第1および第2の金属層の形状は、仮想平面に対して非対称である。
【発明の効果】
【0011】
この発明によれば、複数のスリットが電磁波の波長未満の周期で形成された第1および第2の金属層が仮想平面を挟んで互いに平行に配置される。そして、これらの金属層の形状は仮想平面に対して非対称であるので、仮想平面に沿って伝搬する電磁波の特性を大きく変化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】この発明の実施の形態1による電磁波制御素子1の構成を示す斜視図である。
【図2】図1の電磁波制御素子1の側面図である。
【図3】電磁波制御素子1を伝搬する電磁波の分散関係を示す図である。
【図4】図3に示した0次のTMモードの分散曲線上の点A1,B1,C1における磁界分布図である。
【図5】図3に示した1次のTMモードの分散曲線上の点A2,B2,C2における磁界分布図である。
【図6】第1の金属層11のスリット14の位置と第2の金属層12のスリット15の位置とにずれがない場合の電磁波の分散関係と、ずれがある場合の電磁波の分散関係とを対比して示す図である。
【図7】図1の電磁波制御素子1の製造工程の一例を説明するための図である。
【図8】他の構成例の電磁波制御素子2を示す側面図である。
【図9】さらに他の構成例の電磁波制御素子3を示す側面図である。
【図10】図1の電磁波制御素子1を製造する他の方法を説明するための図である。
【図11】図1の電磁波制御素子1を製造する他の方法を説明するための図である。
【図12】この発明の実施の形態2による電磁波制御素子4Aの構成を示す側面図である。
【図13】実施の形態2の変形例としての電磁波制御素子4Bの構成を示す側面図である。
【図14】この発明の実施の形態3による電磁波制御素子5の構成を示す斜視図である。
【図15】図14の電磁波制御素子5の上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、この発明の実施の形態について図面を参照して詳しく説明する。なお、同一または相当する部分には同一の参照符号を付して、その説明を繰返さない。
【0014】
[実施の形態1]
図1は、この発明の実施の形態1による電磁波制御素子1の構成を示す斜視図である。
【0015】
図2は、図1の電磁波制御素子1の側面図である。図1、図2を参照して、電磁波制御素子1は、電磁波19の伝搬特性を制御する導波路型素子である(この明細書では、電磁波19には、可視光や赤外線などの光も含むものとする)。電磁波制御素子1は、基板10と、基板10上に形成された誘電体13と、誘電体13に埋め込まれた第1の金属層11および第2の金属層12とを含む。
【0016】
基板10には、電磁波19に対して透明な材料が用いられる。基板10の材料として、たとえば、電磁波19が可視光の場合に石英基板を用いることができ、赤外線の場合にシリコン基板を用いることができ、マイクロ波の場合にプラスチックやセラミックスなどを用いることができる。なお、基板10に近接したほうの第1の金属層11と基板10との距離hsが電磁波19の波長(この場合の波長は誘電体13中での電磁波19の波長である)より大きい場合には、基板10は電磁波19の伝搬にほとんど影響しないので電磁波に対して透明な材料を基板10に用いなくてよい。
【0017】
誘電体13も、電磁波19に対して透明な材料によって形成される。誘電体13として、たとえば、電磁波19が可視光や赤外線の場合に二酸化ケイ素を用いることができ、マイクロ波の場合にプラスチックやセラミックスなどを用いることができる。
【0018】
第2の金属層12の上面と誘電体13の表面との距離huは、誘電体13の表面から電磁波が染み出さないような厚みに設定される。このためには、厚みhuを少なくとも電磁波19の波長(この場合の波長は誘電体13中での電磁波19の波長である)よりも大きくする必要がある。誘電体13の表面上には、さらに電磁波制御素子1を保護するためのキャップ層を積層することもできる。上記の厚みhuが電磁波19の波長よりも小さい場合にはキャップ層には電磁波19に対して透明な材料を用いる必要がある。
【0019】
第1および第2の金属層11,12は、仮想平面25を挟んで、仮想平面25から等距離(Δz/2)の位置に仮想平面25と平行に設けられる。すなわち、第1および第2の金属層11,12は、Δzの間隔を開けて互いに平行に配置される。以下の説明では、基板10に近接する側の第1の金属層11を下側の金属層11とも称し、基板10から離反する側の第2の金属層12を上側の金属層12とも称する。金属層11,12として、金、銀、銅、アルミニウム、ニッケル、クロム、白金、およびこれらの材料からなる合金など、導電率の大きい金属材料を用いることができる。電磁波の波長がマイクロ波領域であれば、キャリア密度の大きい半導体も金属層11,12として利用可能である。
【0020】
ここで、仮想平面25は、電磁波制御素子1中での電磁波19の伝搬方向(+y方向)に平行な仮想的な平面であり、図1、図2ではxy平面と平行に配置される。電磁波19は、仮想平面25に沿うように+y方向に向かって電磁波制御素子1に入射される。図1、図2で仮想平面25に垂直な方向はz軸方向である。
【0021】
図1、図2に示すように、第1の金属層11には、電磁波19の伝搬方向(+y方向)と直交する方向であるx軸方向に延びた複数のスリット14が周期的に形成される。これによって、第1の金属層11は、複数の直方体の金属ブロック(図1の参照符号11.1〜11.7)に分離される。スリット14の領域にも誘電体13が埋め込まれている。
【0022】
ここで、複数のスリット14の周期をd1とし、各スリット14の幅(y軸方向)をa1とし、各金属ブロックの幅(y軸方向)をb1とする。したがって、d1=a1+b1である。また、第1の金属層11の厚み(z軸方向)をh1とする。図1、図2では、模式的に、6個のスリット14が図示されているが、実際には多数のスリット14が第1の金属層11に形成される。
【0023】
同様に、第2の金属層12には、x軸方向に延びた複数のスリット15が周期的に形成される。これによって、第2の金属層12は、複数の直方体の金属ブロック(図1の参照符号12.1〜12.8)に分離される。スリット15の領域にも誘電体13が埋め込まれている。
【0024】
ここで、複数のスリット15の周期をd2とし、各スリット15の幅(y軸方向)をa2とし、各金属ブロックの幅(y軸方向)をb2とする。したがって、d2=a2+b2である。また、第2の金属層12の厚み(z軸方向)をh2とする。図1、図2では、模式的に、7個のスリット15が図示されているが、実際には多数のスリット15が第1の金属層12に形成される。
【0025】
第1および第2の金属層11,12の各々のスリット14,15の周期d1,d2は、電磁波19の波長よりも短い必要がある。さらに、第1および第2の金属層11,12間の間隔Δzも、電磁波19の波長よりも短い必要がある。この結果、電磁波制御素子1を伝搬する電磁波19は、第1および第2の金属層11,12中の表面の自由電子と強く相互作用をしながら、仮想平面25に沿って+y方向に伝搬する。なお、上記および以下の説明で、電磁波19の波長とは、誘電体13の媒質中での電磁波19の波長を意味する。
【0026】
さらに、金属層11,12の厚みh1,h2は、電磁波の波長のおよそ1倍以上10倍以内であることが望ましい。なぜなら、金属層11,12の厚みh1,h2が電磁波19の波長よりも薄くなりすぎると、外部から入射された電磁波19と電磁波制御素子1との結合効率が低下するからである。さらに、詳しくは後述するが、金属層11,12の厚みが電磁波の波長に比較して薄くなりすぎると、屈折率の変調が大きい1次の固有モードの電磁波が電磁波制御素子1中で励起しなくなる。
【0027】
また、金属層11,12の厚みが電磁波の波長のおよそ10倍以上になると、各スリット14,15のアスペクト比(h1/a1,h2/a2)も10を超えることになるので、スリット14,15の作製が困難になる。さらに、詳しくは後述するが、金属層11,12の厚みが厚くなりすぎると、電磁波制御素子1中に励起する電磁波の固有モード数が増加する結果、個々のモードの群速度の変化率がかえって小さくなるので好ましくない。
【0028】
また、電磁波制御素子1のx軸方向の寸法DXおよびy軸方向の寸法DYは、少なくとも電磁波19の波長の5〜6倍程度の長さに設定されることが好ましい。この場合、電磁波19の伝搬は、電磁波制御素子1がx軸方向およびy軸方向に無限に長い場合と同様に考えることができる。
【0029】
最も典型的な場合には、図1、図2に示すように、第1の金属層11のスリット14の周期d1と第2の金属層12のスリット15の周期d2とは互いに等しく形成される。また、スリット14の幅a1とスリット15の幅a2とは等しく形成され、第1の金属層11の厚みh1と第2の金属層12の厚みh2とは等しい形成される(以下、d1=d2=d、a1=a2=a、b1=b2=b、h1=h2=hと記載する。)。さらに、仮想平面25に垂直なz方向から見たとき、スリット14の中心線とスリット15の中心線とのずれ幅Δyはスリット14の周期dの半分に等しく形成される(Δy=d/2)。この場合、次に示すように、電磁波制御素子1中での電磁波19の群速度が0または負になる場合が存在する。
【0030】
図3は、電磁波制御素子1を伝搬する電磁波の分散関係を示す図である。図3は、上記の典型的な場合における電磁波制御素子1中での電磁波19の分散関係を計算したものである。図3において、縦軸は2π×c/d(ただし、πは円周率を表わし、cは光速を表わし、dはスリット14,15の周期を表わす。)で規格化した角周波数ωを表わし、横軸は2π/dで規格化した波数ベクトルkを表わす。
【0031】
具体的な計算パラメータとして、図1のスリット14,15の周期d(d=d1=d2)を基準にして、スリット14,15の幅a(a=a1=a2)を3d/5にし、金属ブロックの幅b(b=b1=b2)を2d/5にし、金属層11,12の厚みh(h=h1=h2)を2dに設定した。また、金属層11,12間の間隔Δzを3d/50に設定した。また、z方向から見たとき、スリット14の中心線とスリット15の中心線とのずれ幅Δyをスリット14の周期dの半分に等しく設定した(Δy=d/2)。
【0032】
数値計算の境界条件について説明すると、金属層11,12と誘電体13との境界では、金属層11,12の表面に平行な電界成分を0にした。また電磁波制御素子1のx軸方向およびy軸方向の両端での境界条件を周期境界条件とした。また、簡単のために誘電体13の屈折率を1(真空中の屈折率)に等しく設定した。
【0033】
次に数値計算の結果について説明する。まず、図3に示すように、電磁波制御素子1中では、磁界方向が常に、仮想平面25と平行であり、かつ、電磁波19の伝搬方向と垂直な方向(x軸方向)を向いたTM(Transverse Magnetic:横磁場)モードのみ伝搬することができる。ここで、図3には、電磁波制御素子1中で生じる電磁波の複数の固有モードのうち、周波数の低い順に0次のTMモード(TM0)および1次のTMモード(TM1)の分散曲線が示されている。また、真空中での電磁波の分散曲線VACが破線で示されている。なお、電磁波制御素子1中で生じる固有モード数は、金属層11,12の厚みh1,h2が厚くなるほど増加する。
【0034】
0次のTMモードは、第1および第2の金属層11,12で挟まれた図1の仮想平面25の近傍で磁界強度が最大になる偶モード(偶関数で表わされるモード)のうちの最低次のモードである。0次のモードの場合、電磁波の進行方向に垂直な面内(図4の縦方向)に、磁界強度の絶対値のピークが1個存在する。一般に、2i次(ただし、iは0以上の整数)のモードの場合、電磁波の進行方向に垂直な面内(図2のz軸方向)で、磁界強度の絶対値のピークが2i+1個存在する。
【0035】
1次のTMモードは、第1および第2の金属層11,12で挟まれた図1の仮想平面25の近傍で磁界強度が0になる奇モード(奇関数で表わされるモード)のうちの最低次のモードである。1次のモードの場合、電磁波の進行方向に垂直な面内(図5の縦方向)に、磁界強度の絶対値のピークが2個存在する。一般に、2i+1次(ただし、iは0以上の整数)のモードの場合、電磁波の進行方向に垂直な面内(図2のz軸方向)に、磁界強度の絶対値のピークが2i+2個存在する。
【0036】
図3に示すように、0次のTMモードと1次のTMモードとでは全く異なる分散関係を示す。0次のTMモードの分散曲線(TM0)は、波数ベクトルkが増加するにつれて角周波数ωが単調に増加する特徴を有し、平面型誘電体導波路(スラブ導波路)での電磁波の分散曲線と同様である。
【0037】
これに対して、1次のTMモードの分散曲線(TM1)は極大点B2を有する。すなわち、図3の点A2から極大点B2までは、波数ベクトルkの増加に伴って角周波数ωが単調に増加する。一方、極大点B2からバンド端の点C2(このとき波数ベクトルkはπ/dに等しい。)までは、波数ベクトルkの増加に伴って角周波数ωが単調に減少する。バンド端(波数ベクトルk=π/d)では、1次のTMモードの分散曲線(TM1)と0次のTMのモードの分散曲線(TM0)とが一致する。
【0038】
極大点B2を与える電磁波の波長λは、図1のスリット14,15の周期d、スリット14,15の幅a、および上下のスリット14,15間のずれ幅Δyなど、第1および第2の金属層11,12の形状に大きく依存する。具体的に図3の場合、角周波数ωが、
ω=0.21×2πc/d
のとき分散曲線は極大になる。このときの波長λは、
λ=2πc/ω=d/0.21
の関係を満たすので、たとえば、スリットの周期dを1μmとすると、波長λ=4.76μmのとき1次のTMモードの分散曲線が極大になる。
【0039】
分散曲線TM1の極大点B2では、群速度Vg(Vg=∂ω/∂k)が0になる。群速度Vgは、電磁波のパルスの伝搬速度を意味する。この性質を利用すれば、電磁波制御素子1を遅延素子または光メモリーに適用することができる。
【0040】
また、点B2から点C2までの区間では、電磁波の群速度Vgが負になる。電磁波の位相速度Vp(Vp=ω/k)は一般に正の値を持つので、この区間では、群速度Vgの符号と位相速度Vpの符号とが逆になる。このように、位相速度Vpの方向と群速度Vgの方向とが180°逆向きになる特性は、負の群速度特性もしくは後進波特性と呼ばれる。後進波特性を有する媒質は屈折率が負になるので、通常の物質の限界を超えた応用が可能であり、たとえば、共振器やフィルターを極めて小型化することが可能になる。
【0041】
なお、0次のTMモードの分散曲線と1次のTMモード分散曲線とでは、電磁波の周波数が異なる。したがって、電磁波制御素子1に入射する電磁波の周波数に応じて、図1のスリット14,15の周期d、スリット14,15の幅a、および上下のスリット14,15間のずれ幅Δyなど、電磁波制御素子1の金属層11,12の形状を適切に設計することによって、0または負の群速度の特性と有する1次のTMモードを選択的に励起することができる。
【0042】
図4は、図3に示した0次のTMモードの分散曲線上の点A1,B1,C1における磁界分布図である。図4(A)は、0次のTMモードの分散曲線上の点A1における磁界分布を示し、図4(B)は、点B1における磁界分布を示し、図4(C)は、点C1における磁界分布を示す。
【0043】
図4(A)〜(C)では、x軸方向の磁界Hxが正の最大値(Hx=1で規格化)となる場合を白色で表わし、磁界Hxが負の最大値(Hx=−1で規格化)となる場合を黒色で表わし、これらの間の磁界強度を濃淡で示している。また、図4(A)〜(C)には、図2の電磁波制御素子1の側面図のうち第1、第2の金属層11,12に対応する部分の外形が破線で示されている。
【0044】
図4(A)〜(C)に示すように、金属層11,12に挟まれた領域、スリット14,15の領域、および金属層11,12の外側の領域のいずれの領域にも電磁波が分布する。0次のTMモードでは、図2の金属層11,12で挟まれた仮想平面25の近傍で磁界強度が最大になる。また、仮想平面25の上下の磁界の符号は同じである。バンド端(図3の点C1)に対応する図4(C)では、電磁波の波長はスリットの2周期分(図2の2×d。ただし、d=d1=d2。)に等しい。
【0045】
図5は、図3に示した1次のTMモードの分散曲線上の点A2,B2,C2における磁界分布図である。図5(A)は、1次のTMモードの分散曲線上の点A2における磁界分布を示し、図5(B)は、点B2における磁界分布を示し、図5(C)は、点C2における磁界分布を示す。
【0046】
図5(A)〜(C)では、x軸方向の磁界Hxが正の最大値(Hx=1で規格化)となる場合を白色で表わし、磁界Hxが負の最大値(Hx=−1で規格化)となる場合を黒色で示し、これらの間の磁界強度を濃淡で示している。また、図5(A)〜(C)には、図2に示す電磁波制御素子1の側面図のうち第1、第2の金属層11,12に対応する部分の外形が破線で示されている。
【0047】
図5(A)〜(C)に示すように、金属層11,12に挟まれた領域、スリット14,15の領域、および金属層11,12の外側の領域のいずれの領域にも電磁波が分布する。1次のTMモードでは、図2の金属層11,12で挟まれた仮想平面25の近傍で磁界強度がほぼ0になる。また、仮想平面25の上下の磁界の符号が逆になる。バンド端(図3の点C2)に対応する図5(C)では、電磁波の波長はスリットの2周期分(図2の2×d。ただし、d=d1=d2。)に等しい。
【0048】
図5(C)と図4(C)とを比較すると、電磁波の位相が互いに180°ずれている点を除いて、両者の磁界分布形状は同一である。このことは、図3のバンド端(波数ベクトルk=π/d)で、0次のTMモードの分散曲線と1次のTMモードの分散曲線とが一致する事実に符合している。
【0049】
次に、図2の上下のスリット14,15間のずれ幅Δyと電磁波制御素子1中での電磁波の分散との関係について説明する。
【0050】
図6は、第1の金属層11のスリット14の位置と第2の金属層12のスリット15の位置とにずれがない場合の電磁波の分散関係と、ずれがある場合の電磁波の分散関係とを対比して示す図である。上段の(A)のグラフは、図2でΔy=0の場合(すなわち、上下のスリット14,15にずれがない場合)の電磁波の分散関係であり、下段の(B)のグラフは、図2でΔy=d/2の場合(すなわち、上下のスリット14,15がスリットの周期dの半周期分ずれている場合)の電磁波の分散関係である。図6では、0次〜3次のTMモードの分散曲線(TM0〜TM3)が実線で示され、真空中での電磁波の分散曲線VACが破線で示されている。図6において、縦軸は2π×c/d(ただし、πは円周率を表わし、cは光速を表わし、dはスリット14,15の周期を表わす。)で規格化した角周波数ωを表わし、横軸は2π/dで規格化した波数ベクトルkを表わす。
【0051】
具体的な計算パラメータとして、図1のスリット14,15の周期d(d=d1=d2)をd=0.6mmとし、スリット14,15の幅a(a=a1=a2)をa=0.16mmとし、金属ブロックの幅b(b=b1=b2)をb=0.44mmとし、金属層11,12の厚みh(h=h1=h2)をh=1.3mmとした。また、金属層11,12間の間隔Δzを0.015mmとした。また、簡単のために誘電体13の屈折率を1(真空中の屈折率)とした。
【0052】
まず、図6(A)の場合(すなわち、上下の金属層のスリットのずれ幅ΔyがΔy=0の場合)、分散関係は単一の誘電体スラブ(平面型誘電体導波路)の分散関係と同様である。すなわち、前述のJ.T.Shenらの文献に記載された単層の金属の構造体(すなわち、周期的なスリットが形成された単一の金属膜)と同様の分散関係になり、金属層11,12が上下の2層構造となっている効果は現れない。
【0053】
一方、図6(B)の場合(すなわち、上下の金属層のスリットのずれ幅ΔyがΔy=d/2の場合)、偶数次のTMモードの分散曲線(TM0,TM2)は図6(A)の場合とほとんど変化がない。これに対して、奇数次のTMモードの分散曲線(TM1,TM3)は図6(A)の場合よりも低周波側にシフトする。この場合、波数ベクトルkが大きくなるほど、分散曲線(TM1,TM3)の低周波側へのシフト量が大きくなり、バンド端(k=π/d)では2i次(ただし、iは0以上の整数)の分散曲線と2i+1次の分散曲線とが一致する。この結果、奇数次のTMモードの分散曲線に極大値が生じる。
【0054】
図示を省略しているが、上下のスリット14,15間のずれ幅Δyが、Δy=0(図(A)の場合)からΔy=d/2(図(B)の場合)に増加するにつれて、奇数次のTMモードの分散曲線の低周波側へのシフト量が大きくなる。そして、Δy=d/2のとき低周波側へのシフト量が最大になる。
【0055】
これを別の観点から見ると、図2の仮想平面25に対して、上下の金属層11,12の形状が対称な場合は、電磁波制御素子1を伝搬する電磁波の分散関係に異常は見られない。これに対して仮想平面25に対して、上下の金属層11,12の形状の非対称になると奇数次のTMモードの分散関係に異常が現れる。仮想平面25に対して、上下の金属層11,12の非対称性が大きい場合には、群速度が0または負になる場合が存在する。このように、上下のスリット14,15のずれ幅Δy、ひいては上下の金属層11,12の非対称性を調整することによって、電磁波制御素子1を伝搬する電磁の特性を制御することができる。
【0056】
図7は、図1の電磁波制御素子1の製造工程の一例を説明するための図である。以下、図7(A)〜(G)を参照して、電磁波制御素子1の製造工程について説明する。
【0057】
まず、図7(A)に示すように、基板10の主面上の全面にCVD(Chemical Vapor Deposition)法などを用いて誘電体13Aを製膜する。誘電体13Aの膜厚は、図2の第1の金属層11と基板10との間の距離hsに等しい。
【0058】
その後、図7(B)に示すように、誘電体13Aの表面にフォトレジストを塗布して、電子ビームリソグラフィなどによってフォトレジストをライン状にパターニングする。ライン状のフォトレジスト21Aの周期は、図2の第1の金属層11に形成されたスリット14の周期d1に等しく、ライン状のフォトレジスト21Aの幅は、図2の第1の金属層11に形成されたスリット14の幅a1に等しい。
【0059】
次に、パターンニングされたフォトレジスト21Aの上から金属膜を真空蒸着法などによって堆積させる。このときの金属膜の厚みは、図2の第1の金属層11の厚みh1に等しい。この後、レジスト21A上の余分な金属膜をレジスト21Aとともに除去することによって(リフトオフ法)、図7(C)に示すように、複数のスリットの形成された第1の金属層11が形成される。
【0060】
次に、図7(D)に示すように、誘電体13Bを金属層11のスリットに埋め込むように形成する。このとき金属層11の上面より上の誘電体13Bの膜厚が、図2のΔzに等しくなるように調整する。たとえば、CVD法などによって誘電体13Bを厚めに製膜した後、表面を研磨することによって膜厚を調整することができる。
【0061】
次に、図7(E)に示すように、誘電体13Bの表面にフォトレジストを塗布して、電子ビームリソグラフィなどによってフォトレジストをライン状にパターンニングする。ライン状のフォトレジスト21Bの周期は、図2の第2の金属層12に形成されたスリット15の周期d2に等しく、ライン状のフォトレジスト21Bの幅は、図2の第2の金属層12に形成されたスリット15の幅a2に等しい。
【0062】
次に、パターンニングされたフォトレジスト21Bの上から金属膜を真空蒸着法などによって製膜する。このときの金属膜の厚みは、図2の第2の金属層12の厚みh2に等しい。この後、レジスト21B上の余分な金属膜をレジスト21Bとともに除去することによって(リフトオフ法)、図7(F)に示すように、複数のスリットの形成された第2の金属層12が形成される。
【0063】
次に、図7(G)に示すように、誘電体13Cを金属層12のスリットに埋め込むように形成する。このとき金属層12の上面より上の誘電体13Cの膜厚が、図2の金属層12よりも上側の誘電体13の厚みhuに等しくなるように調整する。たとえば、CVD法などによって誘電体13Cを厚めに製膜した後、表面を研磨することによって膜厚を調整することができる。図7(G)において、誘電体13A,13B,13Cが図1,図2の誘電体13に対応する。
【0064】
以上のプロセスによって、図1、図2の電磁波制御素子1が完成する。上記のプロセスによれば、金属層11,12にそれぞれ形成されるスリットの幅a1,a2および金属ブロックの幅b1,b2を100nm程度まで小さく作製することが可能であるため、可視光で動作する電磁波制御素子1を作製することができる。
【0065】
以上のとおり、実施の形態1の電磁波制御素子1によれば、複数のスリット14,15がそれぞれ形成された第1および第2の金属層11,12が、仮想平面25を挟んで互いに平行に配設される。このとき、スリット14,15が延びる方向は電磁波19の伝搬方向(+y方向)に対して垂直方向(x軸方向)であり、スリット14,15の周期は電磁波19の波長より小さい。また、第1および第2の金属層11,12間の間隔Δzも電磁波19の波長より小さい。
【0066】
上記の場合、仮想平面25に対して、第1および第2の金属層11,12の形状が非対称であれば、電磁波制御素子1を伝搬する電磁波19の分散特性、特に奇数次のTMモードの分散を通常の誘電体導波路の場合に比べて大きく変化させることができる。中でも、上下の金属層11,12のスリット14,15の周期が互いに等しく、仮想平面に垂直な方向から見たときのスリット14,15の中心線のずれ幅Δyがスリット14,15の周期dの1/2に等しいときの電磁波の分散特性の変化が大きくなる。この場合、奇数時のTMモードの分散特性には群速度が0や負の領域が存在する。
【0067】
ここで、上下のスリット14,15の形成位置をずらす方法以外によっても、第1および第2の金属層11,12の形状を仮想平面25に対して非対称にすることは可能である。以下、このような変形例1,2について説明する。なお、以下の説明では、実施の形態1の場合と同一または相当する部分には同一の参照符号を付してその説明を繰返さない。
【0068】
[実施の形態1の変形例1]
図8は、他の構成例の電磁波制御素子2を示す側面図である。図8には、第1の金属層11に形成されたスリット14の周期d1と第2の金属層12に形成されたスリット15の周期d2とが異なる場合が図示されている。図8の場合、周期d1と周期d2の比は約12:7である。一方、第1の金属層11の厚みh1は第2の金属層12の厚みh2に等しく、スリット14の幅a1はスリットの幅a2に等しい。
【0069】
このように、上下の金属層11,12のスリット14,15の周期を異ならせることによって、金属の領域と誘電体の領域との体積比を上下の金属層11,12で異ならせることができる。この結果、上下の金属層11,12で電磁波の分布状態が異なることになるので、電磁波の伝搬状態の制御が可能になる。
【0070】
[実施の形態1の変形例2]
図9は、さらに他の構成例の電磁波制御素子3を示す側面図である。図9には、第1の金属層11の厚みh1と第2の金属層12の厚みh2とが異なり、第1の金属層11に形成されたスリット14の幅a1と第2の金属層12に形成されたスリット15の幅a2とが異なる場合が図示されている。一方、スリット14の周期d1はスリット15の周期d2に等しい。また、仮想平面25に垂直な方向(z軸方向)から見たときの、スリット14の中心線はスリット15の中心線に一致し、両者にずれはない。
【0071】
このようにしても、金属の領域と誘電体の領域との体積比を上下の金属層で異ならせることができる。この結果、上下の金属層11,12で電磁波の分布状態が異なるので、電磁波の伝搬状態の制御が可能になる。
【0072】
[実施の形態1の変形例3]
図10、図11は、図1の電磁波制御素子1を製造する他の方法の説明するための図である。以下、図10(A)〜(F)および図11(A)〜(E)を参照して、電磁波制御素子1の製造方法の変形例について説明する。
【0073】
まず、図10(A)に示すように、基板10の主面上の全面にCVD法などを用いて誘電体13Dを製膜する。誘電体13Dの膜厚は、図2の第1の金属層11の厚みh1と、金属層11と基板10との間の距離hsとの和h1+hsに等しい。
【0074】
その後、図10(B)に示すように、誘電体13Dの表面にフォトレジストを塗布して、電子ビームリソグラフィなどによってフォトレジストをライン状にパターニングする。ライン状のフォトレジスト21Cの周期は、図2の第1の金属層11に形成されたスリット14の周期d1に等しく、ライン状のフォトレジスト21Cの幅は、図2の第1の金属層11に形成されたスリット14の幅a1に等しい。
【0075】
次に、パターンニングされたフォトレジスト21Cをマスクとして、反応性プラズマエッチングなどの方法によって誘電体13Dを異方性エッチングする。このときのエッチングの深さは、図2の第1の金属層11の厚みh1に等しい。エッチング後にフォトレジスト21Cを除去することによって、図10(C)に示すように、誘電体13Dにライン状の凹部が複数形成される。
【0076】
次に、図10(D)に示すように、誘電体13Dのライン状の凹部を埋めるように誘電体13Dの表面に金属メッキを施こす。これによって、複数の凹部の形成された誘電体13Dの表面が金属膜11Aによって被覆される。
【0077】
次に、図10(E)に示すように、化学研磨法などによって、誘電体13Dの表面が露出するまで金属膜11Aを研磨する。これによって、誘電体13Dの埋め込まれたスリットを複数有する金属層11が形成される。
【0078】
その後、図10(F)に示すように、研磨後の金属膜11Aの上に誘電体13EをCVD法などによって製膜する。誘電体13Eの厚みは、図2の第1および第2の金属層11,12間の厚みΔzと第2の金属層12の厚みh2との和Δz+h2に等しい。
【0079】
次に、図11(A)に示すように、誘電体13Eの表面にフォトレジストを塗布して、電子ビームリソグラフィなどによってフォトレジストをライン状にパターニングする。ライン状のフォトレジスト21Dの周期は、図2の第2の金属層12に形成されたスリット15の周期d2に等しく、ライン状のフォトレジスト21Dの幅は、図2の第2の金属層12に形成されたスリット15の幅a2に等しい。
【0080】
次に、パターンニングされたフォトレジスト21Dをマスクとして、反応性プラズマエッチングなどの方法によって誘電体13Eを異方性エッチングする。このときのエッチングの深さは、図2の第2の金属層12の厚みh2に等しい。エッチング後にフォトレジスト21Dを除去することによって、図11(B)に示すように、誘電体13Eにライン状の凹部が複数形成される。
【0081】
次に、図11(C)に示すように、誘電体13Eのライン状の凹部を埋めるように誘電体13Eの表面に金属メッキを施こす。これによって、複数の凹部の形成された誘電体13Eの表面が金属膜12Aによって被覆される。
【0082】
次に、図11(D)に示すように、化学研磨法などによって、誘電体13Eの表面が露出するまで金属膜12Aを研磨する。これによって、誘電体13Eの埋め込まれたスリットを複数有する金属層12が形成される。
【0083】
その後、図11(E)に示すように、研磨後の金属膜12Aの上に誘電体13FをCVD法などによって製膜する。誘電体13Fの厚みは、図2の金属層12の上側の誘電体13の厚みhuに等しくなるようにする。図11(E)において、誘電体13D,13E,13Fが図1,図2の誘電体13に対応する。
【0084】
以上のプロセスによって、図1、図2の電磁波制御素子1が完成する。上記のプロセスによれば、金属層11,12にそれぞれ形成されるスリット14,15の幅a1,a2および金属ブロックの幅b1,b2を100nm程度まで小さく作製することが可能であるため、可視光で動作する電磁波制御素子1を作製することができる。
【0085】
上記の例および図7の例では、可視光の領域で動作する電磁波制御素子1にも適用可能な製造工程を示したが、マイクロ波の領域など、波長の大きな電磁波で動作する電磁波制御素子1の場合は、サイズを大きくできるので比較的簡単に製造することができる。
【0086】
たとえば、電磁波に対して透明な基板の主面上に金属膜を製膜し、製膜した金属膜に複数のスリットを形成する。そして、このように加工した2枚の基板の主面側を対向させ、適切なギャップ(図2のΔz)を開けた上でスリットの位置合わせをして固定することによって、電磁波制御素子1を作製することができる。
【0087】
[実施の形態2]
図12は、この発明の実施の形態2による電磁波制御素子4Aの構成を示す側面図である。図12に示す電磁波制御素子4Aは、図2の誘電体13に代えて、電界によって電磁波の屈折率または吸収率が変化する媒体16が設けられている点で、図2の電磁波制御素子1と異なる。媒体16として、液晶や高分子材料を用いることができる。また、媒体16として、電気光学効果を有するナノ結晶を分散した複合材料などを利用することができる。
【0088】
さらに、電磁波制御素子4Aの第2の金属層12を構成する各金属ブロックは電極として用いられ、隣接する金属ブロック間に電源17によって電界18が印加される。その他の点については、図12の電磁波制御素子4Aは、図2の電磁波制御素子1と同じであるので、同一または相当する部分には同一の参照符号を付して説明を繰返さない。
【0089】
電磁波制御素子4Aでは、電源17の出力を変化させることによって、第2の金属層12を構成する各金属ブロック間(特にスリット15の領域)の電界18の大きさが変化する。この結果、第2の金属層12の近傍、特にスリット15の領域における媒体16の屈折率または吸収係数が変化するので、第2の金属層12の近傍の電磁波の分布状態が変化する。
【0090】
これによって、仮想平面25を挟んで下側の第1の金属層11の周辺の電磁界分布と上側の第2の金属層12の周辺の電磁界分布との非対称性の強弱を変化させることができるので、電磁波制御素子4Aを伝搬する電磁波の分散関係を制御することができる。たとえば、電源17の出力電圧のオンおよびオフに応じて、電磁波の群速度の正負を切替えたりすることが可能になる。
【0091】
上記の例では、第2の金属層12を構成する金属ブロック間に電界を印加する場合について説明したが、これに代えて第1の金属層11を構成する金属ブロック間に電界を印加してもよい。
【0092】
また、媒体16を、主として電界が印加されるスリットの領域にのみ設けてもよい。すなわち、第1の金属層11を構成する金属ブロック間に電界を印加する場合には、第1の金属層11のスリット14の領域にのみ媒体16を設け、第2の金属層12を構成する金属ブロック間に電界を印加する場合には、第2の金属層12のスリット15の領域にのみ媒体16を設けてもよい。
【0093】
また、図12の仮想平面25を挟んで上下の金属層11,12の形状を対称に形成してもよい。すなわち、スリット14の周期d1とスリット15の周期d2とは等しく形成され、スリット14の幅a1とスリット15の幅a2とは等しく形成される。さらに、第1の金属層11の厚みh1と第2の金属層12の厚みh2とは等しく形成される。したがって、この場合には、電界の印加のみで上下の電磁波分布に非対称性を生じさせることになる。
【0094】
[実施の形態2の変形例]
図13は、実施の形態2の変形例としての電磁波制御素子4Bの構成を示す側面図である。電磁波制御素子4Bでは、第1および第2の金属層11,12を構成する金属ブロックが両方とも電極として用いられ、第1および第2の金属層11,12間に電源17によって電界18が印加される。また、図13の電磁波制御素子4Bでは、上下の金属層11,12の形状は仮想平面25に対して非対称である必要がある。その他の点については、図13の電磁波制御素子4Bは図12の電磁波制御素子4Aと共通するので、同一または相当する部分には同一の参照符号を付して説明を繰返さない。
【0095】
図13の電磁波制御素子4Bでは、電源17の出力を変化させることによって、第1および第2の金属層11,12間の電界18の大きさを変化させる。この結果、第1および第2の金属層11,12間の領域における媒体16の屈折率または吸収係数が変化するので、電磁波制御素子4Bを伝搬する電磁波の分布状態を制御することができる。たとえば、電源17の出力電圧のオンおよびオフに応じて、電磁波の群速度の正負を切替えたりすることが可能になる。
【0096】
なお、媒体16を、主として電界が印加される第1および第2の金属層11,12間の領域(厚みΔzの領域)にのみ設けてもよい。
【0097】
[実施の形態3]
図14は、この発明の実施の形態3による電磁波制御素子5の構成を示す斜視図である。
【0098】
図15は、図14の電磁波制御素子5の上面図である。図15では、図14の電磁波制御素子5の第2の金属層12を実線で表わし、第1の金属層11を破線で表わしている。図14の誘電体13および基板10については図示を省略している。
【0099】
図14、図15を参照して、電磁波制御素子5は、基板10と、基板10上に形成された誘電体13と、誘電体13に埋め込まれた第1の金属層11および第2の金属層12とを含む。第1および第2の金属層11,12は、xy平面と平行な仮想平面25を挟んで、仮想平面25から等距離の位置に仮想平面25と平行に設けられる。電磁波は仮想平面25に沿った任意の方向に入射される。入射された電磁波は、仮想平面25に沿って電磁波制御素子5中を伝搬する。
【0100】
ここで、電磁波制御素子5は、x軸方向に延びる複数のスリット14Aに加えて、さらにy軸方向に延びる複数のスリット14Bが第1の金属層11に形成される点で図1、図2の電磁波制御素子1と異なる。さらに、電磁波制御素子5は、x軸方向に延びる複数のスリット15Aに加えて、さらにy軸方向に延びる複数のスリット15Bが第2の金属層12に形成される点で図1、図2の電磁波制御素子1と異なる。
【0101】
スリット14A,14B,15A,15Bは、それぞれ、電磁波の波長より短い周期で周期的に形成される。z軸方向から見たとき、第1の金属層11に形成されたスリット14Aの中心線と第2の金属層12に形成されたスリット15Aの中心線とには、ずれがある。また、z軸方向から見たとき、第2の金属層11に形成されたスリット14Bの中心線と第2の金属層12に形成されたスリット15Bの中心線とには、ずれがある。これによって、仮想平面25に対して、第1の金属層11の形状と第2の金属層12の形状とに非対称性が生じるので、実施の形態1の場合と同様に、電磁波制御素子5を伝搬する電磁波(TM波)の分散を大きく変化させることができる。
【0102】
なお、電磁波制御素子5において、スリット14Aとスリット15Aとは同一方向に形成され、スリット14Bとスリット15Bとは同一方向に形成される必要があるが、それらの交差角は直角に限らず任意の角度であってよい。
【0103】
上記の点以外については、図14、図15の電磁波制御素子5は、図1、図2の電磁波制御素子1と共通するので、同一または相当する部分には同一の参照符号を付して説明を繰返さない。
【0104】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものでないと考えられるべきである。この発明の範囲は上記した説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0105】
1,2,3,4A,4B,5 電磁波制御素子、10 基板、11 第1の金属層、12 第2の金属層、13 誘電体、14,15 スリット、16 電界によって屈折率が変化する媒体、25 仮想平面、19 電磁波。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁波の伝搬特性を変化させる電磁波制御素子であって、
前記電磁波の伝搬方向と平行な仮想平面に対して、前記電磁波の半波長より短い第1の間隔を開けて平行に設けられた第1の金属層を備え、
前記第1の金属層には、各々が前記電磁波の伝搬方向と垂直かつ前記仮想平面と平行な第1の方向に延びた複数の第1のスリットが、前記電磁波の波長よりも短い第1の周期で前記電磁波の伝搬方向に周期的に形成され、
前記電磁波制御素子は、前記仮想平面を挟んで前記第1の金属層と反対側に、前記仮想平面と前記第1の間隔を開けて平行に設けられた第2の金属層をさらに備え、
前記第2の金属層には、各々が前記第1の方向に延びた複数の第2のスリットが、前記電磁波の波長よりも短い第2の周期で前記電磁波の伝搬方向に周期的に形成され、
前記第1および第2の金属層の形状は、前記仮想平面に対して非対称である、電磁波制御素子。
【請求項2】
前記第1の周期は、前記第2の周期と等しく、
前記仮想平面と垂直な方向から見たとき、前記複数の第1のスリットの各々の中心線と前前記複数の第2のスリットの各々の中心線とには、ずれがある、請求項1に記載の電磁波制御素子。
【請求項3】
前記仮想平面と垂直な方向から見たとき、前記複数の第1のスリットの各々の中心線と前前記複数の第2のスリットの各々の中心線とのずれ幅は、前記第1の周期の半分に等しい、請求項2に記載の電磁波制御素子。
【請求項4】
前記第1の金属層の厚みは、前記第2の金属層の厚みと異なる、請求項1に記載の電磁波制御素子。
【請求項5】
前記複数の第1のスリットの各々の幅は、前記複数の第2のスリットの各々の幅と異なる、請求項1に記載の電磁波制御素子。
【請求項6】
前記第1の周期は、前記第2の周期と異なる、請求項1に記載の電磁波制御素子。
【請求項7】
前記電磁波は、前記仮想平面の近傍で磁界強度が0になる奇数次のTMモードである、請求項1〜6のいずれか1項に記載の電磁波制御素子。
【請求項8】
前記複数の第1または第2のスリットの各々の領域に設けられ、各スリットに印加された電界によって前記電磁波の屈折率または前記電磁波の吸収係数が変化する媒体をさらに備える、請求項1〜7のいずれか1項に記載の電磁波制御素子。
【請求項9】
前記第1および第2の金属層によって挟まれた領域に設けられ、前記第1および第2の金属層間に印加された電界によって前記電磁波の屈折率または前記電磁波の吸収係数が変化する媒体をさらに備える、請求項1〜7のいずれか1項に記載の電磁波制御素子。
【請求項10】
電磁波の伝搬特性を変化させる電磁波制御素子であって、
前記電磁波の伝搬方向と平行な仮想平面に対して、前記電磁波の半波長より短い第1の間隔を開けて平行に設けられた第1の金属層を備え、
前記第1の金属層には、各々が前記仮想平面と平行な第1の方向に延びた複数の第1のスリットが前記仮想平面と平行かつ前記第1の方向と垂直方向に周期的に形成され、
前記第1の金属層には、さらに、各々が前記仮想平面と平行かつ前記第1の方向と交差する第2の方向に延びた複数の第2のスリットが前記仮想平面と平行かつ前記第2の方向と垂直方向に周期的に形成され、
前記複数の第1のスリットの周期および前記複数の第2のスリットの周期は、それぞれ、前記電磁波の波長よりも短く、
前記電磁波制御素子は、前記仮想平面を挟んで前記第1の金属層と反対側に、前記仮想平面と前記第1の間隔を開けて平行に設けられた第2の金属層をさらに備え、
前記第2の金属層には、各々が前記第1の方向に延びた複数の第3のスリットが前記仮想平面と平行かつ前記第1の方向と垂直方向に周期的に形成され、
前記第2の金属層には、さらに、各々が前記第2の方向に延びた複数の第4のスリットが前記仮想平面と平行かつ前記第2の方向と垂直方向に周期的に形成され、
前記複数の第3のスリットの周期および前記複数の第4のスリットの周期は、それぞれ、前記電磁波の波長よりも短く、
前記第1および第2の金属層の形状は、前記仮想平面に対して非対称である、電磁波制御素子。
【請求項11】
電磁波の伝搬特性を変化させる電磁波制御素子であって、
前記電磁波の伝搬方向と平行な仮想平面に対して、前記電磁波の半波長より短い第1の間隔を開けて平行に設けられた第1の金属層を備え、
前記第1の金属層には、各々が前記電磁波の伝搬方向と垂直かつ前記仮想平面と平行な第1の方向に延びた複数の第1のスリットが、前記電磁波の波長よりも短い第1の周期で前記電磁波の伝搬方向に周期的に形成され、
前記電磁波制御素子は、前記仮想平面を挟んで前記第1の金属層と反対側に、前記仮想平面と前記第1の間隔を開けて平行に設けられた第2の金属層をさらに備え、
前記第2の金属層には、各々が前記第1の方向に延びた複数の第2のスリットが、前記仮想平面と垂直な方向から見たとき前記複数の第1のスリットと重なるように、前記第1の周期で前記電磁波の伝搬方向に周期的に形成され、
前記電磁波制御素子は、前記複数の第1または第2のスリットの各々の領域に設けられ、各スリットに印加された電界によって前記電磁波の屈折率または前記電磁波の吸収係数が変化する媒体をさらに備える、電磁波制御素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−224431(P2010−224431A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−74153(P2009−74153)
【出願日】平成21年3月25日(2009.3.25)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】