電磁波吸収体
【課題】導電性繊維シートの量を抑制しつつ、広帯域の電磁波吸収性能を有する電磁波吸収体を提供する。
【解決手段】体積抵抗率Rが1Ω・cm≦R≦5000Ω・cmである導電性繊維シート基材1を容器2に充填する電磁波吸収体であって、導前記導電性繊維シート基材の密度をρ(kg/m3)、重量をG(kg)とした場合の体積Vを、V=G/ρとし、容器2の容積をV0とし、容器2に対する導電性繊維シート基材1の充填率を、V/V0×100と定義した場合に、導電性繊維シート基材1を、30%以上、80%以下の充填率の範囲で容器2全体に略均等に充填してある。
【解決手段】体積抵抗率Rが1Ω・cm≦R≦5000Ω・cmである導電性繊維シート基材1を容器2に充填する電磁波吸収体であって、導前記導電性繊維シート基材の密度をρ(kg/m3)、重量をG(kg)とした場合の体積Vを、V=G/ρとし、容器2の容積をV0とし、容器2に対する導電性繊維シート基材1の充填率を、V/V0×100と定義した場合に、導電性繊維シート基材1を、30%以上、80%以下の充填率の範囲で容器2全体に略均等に充填してある。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性繊維シートからなる電磁波吸収体に関する。
【背景技術】
【0002】
アンテナの性能評価、機器から発生する電磁界強度の評価、妨害波放射の測定などの用途において、電波暗室が広く用いられている。電波暗室は、室内の電波の反射をなくすために壁、天井、及び床に電波吸収体を設置した構造となっている。
【0003】
このような用途に用いられる電波吸収体は、広周波数帯域において高い吸収特性が必要なため、一般に、カーボンや金属粉等の導電材を樹脂に混合した損失材やフェライト等の磁性材を利用した損失材が、ピラミッド型電波吸収体として用いられている(特許文献1参照)。しかしながら、この種の電波吸収体は、ピラミッドの先端部の機械的強度が弱く、外力や経時劣化より変形してしまう問題がある。また、その形状から、電波吸収体が占有する空間が大きく、電波暗室の空間を有効に利用できない不都合がある。それらの解決するために、ピラミッド型電波吸収体の上面に同様の形状に成型した樹脂成形体を重ね合わせて平面形状にしたものや、導電材を発泡体に含浸させた成型品を積層した平面形状の電波吸収体等が用いられる場合がある。しかし、前者の場合、余分な成型体を使用する分コスト高となる、後者の場合、電波暗室に用いるには吸収特性が不十分であるといった問題がある。
【0004】
また、電磁波吸収体として、所定の処理条件で不織布等からなる繊維シート基材に導電性高分子を被覆することで所定の表面抵抗率を有する導電性シートを作製して得られるものが存在する(特許文献2参照)。こうした電磁波吸収体は、高周波広帯域において万遍なく高い電磁波吸収性能若しくはそれに付加して従来にない高い電磁波シールド性能を発揮する。なお、導電材の繊維を用いた電磁波対策品として、特許文献3のように、導電材を真綿状にしたものを敷き詰めた電磁波シールド材が存在するが、これは電磁波を反射することにより外部への電磁波の漏洩を防ぐものであって、室内の電波の反射をなくすために用いられる電磁波吸収体とは異なる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−177105号公報
【特許文献2】特開2010−80911号公報
【特許文献3】特開2001−11975号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
電磁波吸収体は、特許文献2に示されるように、通常、複数の導電性繊維シートを積層して形成されている。一般的に、高い電磁波吸収性能を維持するためには、周波数が低くなればなるほど、電磁波吸収体の厚みを増す必要がある。例えば、さらなる広帯域、特に1−10GHzにおいて、高い電磁波吸収性能を得ようとする場合には、電磁波吸収体に用いられる導電性繊維シートの量は、必然的に多くなる。
【0007】
本発明は、用いられる導電性繊維シートの量を抑制しつつ、広帯域の電磁波吸収性能を有する電磁波吸収体を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る電磁波吸収体は、体積抵抗率Rが1Ω・cm≦R≦5000Ω・cmである導電性繊維シート基材を容器に充填する電磁波吸収体であって、
前記導電性繊維シート基材の密度をρ(kg/m3)、重量をG(kg)とした場合の体積Vを、V=G/ρとし、
前記容器の容積をV0とし、前記容器に対する前記導電性繊維シート基材の充填率を、V/V0×100と定義した場合に、
前記導電性繊維シート基材を、30%以上、80%以下の充填率の範囲で前記容器全体に略均等に充填してある。
【0009】
このように、容器に対して所定の充填率で略均等に所定の体積抵抗率を示す導電性繊維シート基材が充填されていると、容器内において各々の導電性繊維シート基材の間に隙間が形成されて、容器全体に充填される。したがって、容器全体に導電性繊維シート基材を隙間なく充填させた場合に比べて、電磁波吸収体に用いられる導電性繊維シート基材の量が確実に抑制される。また、このように、充填された各々の導電性繊維シート基材の間に隙間が形成された電磁波吸収体は、所定の空間内において導電性繊維シート基材が略均等に充填されることで、広帯域において十分な電磁波吸収性能を示した。
【0010】
本発明に係る電磁波吸収体は、充填される導電性繊維シート基材が短冊状又は円柱状に形成されていてもよい。導電性繊維シート基材が短冊状又は円柱状に形成されていると、容器への導電性繊維シート基材の充填が容易となる。
【0011】
本発明に係る電磁波吸収体の導電性繊維シート基材は、全体が矩形状で短手方向の長さが100mm以下であり、幅をW、長手方向の長さをLとした場合に、W/L<0.5を満たすものであることが好ましい。
【0012】
W/L(アスペクト比)が0.5未満であると、導電性繊維シート基材は細長い形状になるため、導電性繊維シート基材を容器に充填した際に空隙が確保され易く、導電性繊維シート基材を充填する際に容器全体への均一な充填を行い易い。
一方、W/L(アスペクト比)が0.5以上になると、導電性繊維シート基材は正方形に近い形状になるため、導電性繊維シート基材を容器に充填した際に十分な空隙が確保できない。つまり、導電性繊維シート基材を充填する際に容器全体への均一な充填を行い難い。
【0013】
本発明に係る電磁波吸収体は、容器に充填される導電性繊維シート基材同士の間にスペーサを介在させてもよい。こうすると、容器内の導電性繊維シート基材の間にスペーサによる空間が形成されるので、容器全体への導電性繊維シート基材の充填が容易となり、導電性繊維シート基材が容器全体に確実に配置されることとなる。
【0014】
本発明に係る電磁波吸収体は、前記導電性繊維シート基材に用いられる導電物質がポリピロールであることが好ましい。ポリピロールは常温でも反応することから、反応性が高く、また、導電物質の中でも安価な材料である。
【0015】
本発明に係る電磁波吸収体の前記導電性繊維シート基材は、合成繊維の不織布または布帛からなる繊維シート基材を準備する工程と、前記繊維シート基材を、ドーパントを含む酸化剤水溶液で含浸する工程と、含浸した前記繊維シート基材を気相の導電性高分子のモノマーと接触させ、酸化重合することにより、導電性高分子を少なくとも部分的に基材上に生成させることにより導電性繊維シートを作製する工程と、を含む製造工程を経て製造されることが好ましい。
【0016】
導電性繊維シート基材が上述の製造工程を経て製造されると、繊維表面に均一かつ緻密に導電物質を付着させることができ、より少ない導電物質の量で高導電にすることが可能となる。したがって、導電性を発現させるための導電物質の付着量が少なく済み、安価に導電性繊維シート基材を製造することができる。
【0017】
なお、電磁波吸収体における電磁波吸収特性を考慮すると、導電性繊維シート基材の体積抵抗率Rは、50〜1000Ω・cmの範囲がより好ましく、導電性繊維シート基材の充填率は、40〜70%がより好ましい。さらに、電磁波吸収体の製造の容易性についても考慮すると、前記導電性繊維シート基材の幅Wは、5〜20mmが好ましく、導電性繊維シート基材の幅Wと長手方向の長さLとの比率であるW/Lは、0.02〜0.1が好ましく、導電性繊維シート基材の密度ρは、25〜400kg/m3が好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】導電性繊維シート基材及び電磁波吸収体を示す図である
【図2】他の導電性繊維シート基材及び電磁波吸収体を示す図である。
【図3】他の導電性繊維シート基材及び電磁波吸収体を示す図である。
【図4】実施例1の周波数1GHz〜40GHzにおける電磁波吸収性能を表す特性図である。
【図5】実施例2の周波数1GHz〜40GHzにおける電磁波吸収性能を表す特性図である。
【図6】実施例3の周波数1GHz〜40GHzにおける電磁波吸収性能を表す特性図である。
【図7】実施例4の周波数1GHz〜40GHzにおける電磁波吸収性能を表す特性図である。
【図8】実施例5の周波数1GHz〜40GHzにおける電磁波吸収性能を表す特性図である。
【図9】実施例6の周波数1GHz〜40GHzにおける電磁波吸収性能を表す特性図である。
【図10】実施例7の周波数1GHz〜40GHzにおける電磁波吸収性能を表す特性図である。
【図11】実施例8の周波数1GHz〜40GHzにおける電磁波吸収性能を表す特性図である。
【図12】実施例9の周波数1GHz〜40GHzにおける電磁波吸収性能を表す特性図である。
【図13】実施例10の周波数1GHz〜40GHzにおける電磁波吸収性能を表す特性図である。
【図14】実施例11の周波数1GHz〜40GHzにおける電磁波吸収性能を表す特性図である。
【図15】比較例1の周波数1GHz〜40GHzにおける電磁波吸収性能を表す特性図である。
【図16】比較例2の周波数1GHz〜40GHzにおける電磁波吸収性能を表す特性図である。
【図17】比較例3の周波数1GHz〜40GHzにおける電磁波吸収性能を表す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の電磁波吸収体は、所定の体積抵抗率を有する導電性繊維シート基材を容器内に所定の充填率で略均等に充填するものである。図1〜図3は、それぞれ容器2内に導電性繊維シート基材1を充填した状態を示す。
【0020】
本発明で使用される導電性繊維シート基材1は、主として布帛や不織布の繊維表面に導電性ポリマーを直接反応させることで作製できる導電性繊維シートに関するものであるが、使用する基材、処理条件は、特定の使用目的および導電性ポリマーとの組み合わせに応じて当業者は容易に決定することができる。
【0021】
導電性繊維シート基材は、体積抵抗率Rが1Ω・cm≦R≦5000Ω・cmのものが用いられる。
ここで、体積抵抗率(Volume Resistivity,単位Ω・cm)とは、物質の導電性の尺度であって、電気抵抗(Resistance)を単位体積(1cm×1cm×1cm)当たりで示した値が体積抵抗率(Volume Resistivity,単位Ω・cm)のことである。
この値は物質に固有の絶対値であり、物質を幅W、厚みt、長さLの直方体とした場合に、断面積[W×t]に一定電流I(A)を流し、長さLだけ離れた電極間の電位差V(V)を測ることにより求められる。
【0022】
ここで、導電性繊維シート基材の体積抵抗率Rが1Ω・cm未満であると、電磁波吸収体の表面でのシールド性(電磁波反射)が強くなり過ぎるため、電磁波が電波吸収体内部まで進入せず、吸収特性が低下する。
一方、導電性繊維シート基材の体積抵抗率Rが5000Ω・cmを越えると、導電性が低くなり過ぎるため、電磁波が進入しても吸収されず通過してしまい、吸収特性が低下する。
【0023】
また、電磁波吸収体は、導電性繊維シート基材の密度をρ(kg/m3)、重量をG(kg)とした場合の体積Vを、V=G/ρとし、容器の容積をV0とし、容器に対する導電性繊維シート基材の充填率を、V/V0×100と定義した場合に、導電性繊維シート基材を、30%以上、80%以下の充填率の範囲で容器全体に略均等に充填してある。
【0024】
充填率が30%未満であると、容器内の空隙が多くなり過ぎるため、電磁波が導電性繊維シート基材に当たらずに通過する、もしくは十分に当たらないこととなり、吸収特性が十分に得られない。
一方、充填率が80%を越えると、空隙が少な過ぎるため、通常の積層体の特性に近くなり、導電性繊維シートを切断して充填する利点があまり得られない。
【0025】
導電性繊維シート基材は、全体が矩形状で短手方向の長さが100mm以下であり、幅をW,長手方向の長さをLとした場合、W/L<0.5を満たすことが好ましい。
【0026】
導電性繊維シート基材に用いられる導電物質がポリピロールであることが好ましい。
【0027】
導電性繊維シート基材は、合成繊維の不織布または布帛からなる繊維シート基材を準備する工程と、繊維シート基材を、ドーパントを含む酸化剤水溶液で含浸する工程と、含浸した繊維シート基材を気相の導電性高分子のモノマーと接触させ、酸化重合することにより、導電性高分子を少なくとも部分的に基材上に生成させることにより導電性繊維シートを作製する工程と、を含む製造工程を経て製造される。
【0028】
ここで、以下に本願明細書において使用するいくつかの術語について定義する。
【0029】
「繊維シート」とは、天然繊維、合成又は半合成化学繊維、若しくはそれらの混合物によって構成されるシート状のウエブのことをいう。シートの構造若しくは形状は、例えば織物、ニットなどの布帛、不織布、紙などであるが、本発明における処理剤の受け入れを許容するため繊維間に微細な間隙を持っていなければならない。特に高い電磁波吸収性能や電磁シールド性能が求められる用途には、極細繊維、典型的には極細ポリエステル繊維を原料とする不織布を使用することが好ましい。
【0030】
「ポリピロール」とは、ピロールのホモポリマーのみならず、ピロールと小割合の共重合可能なピロール同族体もしくは誘導体、例えばN−メチルピロール、3−メチルピロール、3,5−ジメチルピロール、2,2’−ビピロールとの共重合体をいう。
【0031】
「酸化剤」は、ピロールモノマーまたはチオフェンモノマーの酸化的重合によって導電性ポリマーを与えることができる化学的酸化剤をいう。使用し得る酸化剤の具体例は米国特許Nos.4,604,427、4,521,450および4,617,228を含む多数の文献に記載されており、過硫酸アンモニウム、塩化鉄(III)、硫酸鉄(III)、過酸化水素、過ホウ酸アンモニウム、塩化銅(II)などを含む。ドーパントとして使用するスルホン酸、例えばパラトルエンスルホンの第2鉄塩も酸化剤として使用することができる。
【0032】
「ドーパント」とは、導電性ポリマーの導電性を向上させるアニオンを指し、その具体例はやはり前出の米国特許を含む多数の特許文献に記載されている。パラトルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、ドテシルベンゼンスルホン酸、スルホン化ポリスチレンなどのスルホン酸が好ましい。
【0033】
充填される導電性繊維シート基材1の形状は、例えば、容器2の一辺の長さより短い直方体形状(図1)や、容器2の一辺の長さと同じ程度の長さを有する直方体形状(図2)や、平面状(図3)等であるが、特に限定されるものではなく、容器2の一辺よりも長い形状であってもよいし、円柱状や不規則な形状であってもよい。
【0034】
要するには、導電性繊維シート基材1は、容器2内において所定の空間を有しつつ全体的に略均等に充填される形状であればよい。容器2内に充填された状態の導電性繊維シート基材1は、容器2内において、形状を維持しつつ積み重ねられて充填される場合(図1)や、形状によっては曲げられた状態で充填される場合(図2)等がある。
【0035】
また、導電性繊維シート基材1のみでは、容器2内に略均等に充填できない場合には、図3に示すように、導電性繊維シート基材1にスペーサ3を適宜配置してもよい。こうすると、スペーサ3によって各導電性繊維シート基材1,1の間に一定の空間が形成されて、結果として容器2全体に略均等に導電性繊維シート基材1を充填することができる。
【0036】
スペーサ3は、導電性繊維シート基材1,1の間に空間を形成する上で、導電性繊維シート基材1よりも小さいものが好ましく、また、材質としては、導電性繊維シート基材の電磁波吸収特性に影響を与えないよう、導電性がなく、低誘電率のものが好ましい。
【実施例】
【0037】
以下の実施例および比較例は限定を意図するものではなく、また「部」および「%」は特記しない限り重量基準による。
【0038】
体積抵抗率の測定は、ダイアインスツルメンツ製ロレスタ−GP MCP−T610を用いた。
【0039】
電磁波吸収特性の測定は、アンリツ製ベクトルネットワークアナライザー 37269D、及びキーコム製ホーンアンテナを用い、アンテナと電磁波吸収体との距離を1.5mに設定して評価を行った。測定周波数の範囲は1GHzから40GHzとした。なお、電磁波吸収特性において、−15dB以下(電磁波 96.8%吸収に相当)であれば、その周波数における電磁波吸収体として使用可能であるとして、評価を行った。
【0040】
本発明では、導電性繊維シート基材1の密度をρ(kg/m3)、重量をG(kg)とした場合の体積Vを、V=G/ρとし、容器2の容積をV0とし、容器2に対する導電性繊維シート基材1の充填率を、V/V0と定義した。
【0041】
以下の実施例1〜11及び比較例1〜3に用いられる導電性繊維シート基材の体積抵抗率や大きさ等の各データについては表1に示し、周波数別に測定した電磁波減衰量については表2及び図4〜17に示す。
なお、導電性繊維シートを作製するために使用する繊維シート基材は、目付300g/m2、厚さ4mm(密度75kg/m3)のポリエステル不織布を用いた。
【0042】
【表1】
【0043】
【表2】
【0044】
[実施例1]
(導電性繊維シートの作製)
幅500mm、長さ500mm、のポリエステル不織布を、ペルオキソニ硫酸アンモニウムを2%、パラトルエンスルホン酸1%を含有する水溶液に含浸し、マングルにて余剰
な液を除去した。その後、ポリエステル不織布を室内に設置したエバポレーターにてピロールモノマーの蒸気を充満させた反応室に30分投入し、ポリピロールの気相重合を行った。その後、反応室内からポリエステル不織布を取り出し、蒸留水にて過剰なポリピロール及び薬剤を除去したうえ、60℃の乾燥室で1時間乾燥し、シートS1を作製した。得られたシートS1の体積抵抗率は100Ω・cm、密度は77.3kg/m3であった。この作業を繰り返し、シートS1を10枚作製した。
(電磁波吸収体の作製)
10枚のシートS1をカッターにて切断し、幅W=20mm、長さL=500mm(W/L=0.04)となるように加工した。得られた加工物(導電性繊維シート基材1)を、幅500mm、奥行き500mm、高さ70mmの直方体のアクリル製容器2に充填し、電磁波吸収体Pを作製した。このとき、アクリル製容器2に対する導電性繊維シート基材1の充填率(体積比率)は57%であった。
(電磁波吸収特性)
電磁波吸収体Pの電磁波吸収特性を評価したところ、表2及び図4に示すように、1GHzから40GHzの全ての領域において、−25dB以下の吸収特性を得た。
【0045】
[実施例2]
(導電性繊維シートの作製)
ペルオキソニ硫酸アンモニウムを8%、パラトルエンスルホン酸5%を含有する水溶液に含浸する以外は、実施例1と同じ処理を行い、シートS2を作製した。得られたシートS2の体積抵抗率は1Ω・cm、密度は78.8kg/m3であった。この作業を繰り返し、シートS2を10枚作製した。
(電磁波吸収体の作製)
10枚のシートS2をカッターにて切断し、幅W=20mm、長さL=500mm(W/L=0.04)となるように加工した。得られた加工物(導電性繊維シート基材1)を、幅500mm、奥行き500mm、高さ70mmの直方体のアクリル製容器2に充填し、電磁波吸収体Pを作製した。このとき、アクリル製容器2に対する導電性繊維シート基材1の充填率(体積比率)は57%であった。
(電磁波吸収特性)
電磁波吸収体Pの電磁波吸収特性を評価したところ、表2及び図5に示すように、1GHzから40GHzの全ての領域において、−15dB以下の吸収特性を得た。
【0046】
[実施例3]
(導電性繊維シートの作製)
ペルオキソニ硫酸アンモニウムを0.7%、パラトルエンスルホン酸0.35%を含有する水溶液に含浸する以外は、実施例1と同じ処理を行い、シートS3を作製した。得られたシートS3の体積抵抗率は5000Ω・cm、密度は76.5kg/m3であった。この作業を繰り返し、シートS3を10枚作製した。
(電磁波吸収体の作製)
10枚のシートS3をカッターにて切断し、幅W=20mm、長さL=500mm(W/L=0.04)となるように加工した。得られた加工物(導電性繊維シート基材1)を、幅500mm、奥行き500mm、高さ70mmの直方体のアクリル製容器2に充填し、電磁波吸収体Pを作製した。このとき、アクリル製容器2に対する導電性繊維シート基材1の充填率(体積比率)は57%であった。
(電磁波吸収特性)
電磁波吸収体Pの電磁波吸収特性を評価したところ、表2及び図6に示すように、1GHzから40GHzの全ての領域において、−15dB以下の吸収特性を得た。
【0047】
[実施例4]
(導電性繊維シートの作製)
実施例1と同じ処理を行い、シートS1を10枚作製した。
(電磁波吸収体の作製)
10枚のシートS1をカッターにて切断し、幅W=20mm、長さL=50mm(W/L=0.4)となるように加工した。得られた加工物(導電性繊維シート基材1)を、幅500mm、奥行き500mm、高さ70mmの直方体のアクリル製容器2に充填し、電磁波吸収体Pを作製した。このとき、アクリル製容器2に対する導電性繊維シート基材1の充填率(体積比率)は57%であった。
(電磁波吸収特性)
電磁波吸収体Pの電磁波吸収特性を評価したところ、表2及び図7に示すように、1GHzから40GHzの全ての領域において、−15dB以下の吸収特性を得た。
【0048】
[実施例5]
(導電性繊維シートの作製)
幅500mm、長さ1000mm、のポリエステル不織布を、ペルオキソニ硫酸アンモニウムを2%、パラトルエンスルホン酸1%を含有する水溶液に含浸し、マングルにて余剰な液を除去した。その後、ポリエステル不織布を室内に設置したエバポレーターにてピロールモノマーの蒸気を充満させた反応室に30分投入し、ポリピロールの気相重合を行った。その後、反応室内からポリエステル不織布を取り出し、蒸留水にて過剰なポリピロール及び薬剤を除去したうえ、60℃の乾燥室で1時間乾燥し、シートS4を作製した。得られたシートS4の体積抵抗率は100Ω・cm、密度は77.3kg/m3であった。この作業を繰り返し、シートS4を5枚作製した。
(電磁波吸収体の作製)
5枚のシートS4をカッターにて切断し、幅W=20mm、長さL=1000mm(W/L=0.02)となるように加工した。得られた加工物(導電性繊維シート基材1)を、幅500mm、奥行き500mm、高さ70mmの直方体のアクリル製容器2に充填し、電磁波吸収体Pを作製した。このとき、アクリル製容器2に対する導電性繊維シート基材1の充填率(体積比率)は57%であった。
(電磁波吸収特性)
電磁波吸収体Pの電磁波吸収特性を評価したところ、表2及び図8に示すように、1GHzから40GHzの全ての領域において、−20dB以下の吸収特性を得た。
【0049】
[実施例6]
(導電性繊維シートの作製)
実施例1と同じ処理を行い、シートS1を10枚作製した。
(電磁波吸収体の作製)
10枚のシートS1をカッターにて切断し、幅W=1mm、長さL=25mm(W/L=0.04)となるように加工した。得られた加工物(導電性繊維シート基材1)を、幅500mm、奥行き500mm、高さ70mmの直方体のアクリル製容器2に充填し、電磁波吸収体Pを作製した。このとき、アクリル製容器2に対する導電性繊維シート基材1の充填率(体積比率)は57%であった。
(電磁波吸収特性)
電磁波吸収体Pの電磁波吸収特性を評価したところ、表2及び図9に示すように、1GHzから40GHzの全ての領域において、−20dB以下の吸収特性を得た。
【0050】
[実施例7]
(導電性繊維シートの作製)
実施例1と同じ処理を行い、シートS1を10枚作製した。
(電磁波吸収体の作製)
10枚のシートS1をカッターにて切断し、幅W=100mm、長さL=250mm(W/L=0.4)となるように加工した。得られた加工物(導電性繊維シート基材1)を、幅500mm、奥行き500mm、高さ70mmの直方体のアクリル製容器2に充填し、電磁波吸収体Pを作製した。このとき、アクリル製容器2に対する導電性繊維シート基材1の充填率(体積比率)は57%であった。
(電磁波吸収特性)
電磁波吸収体Pの電磁波吸収特性を評価したところ、表2及び図10に示すように、1GHzから40GHzの全ての領域において、−15dB以下の吸収特性を得た。
【0051】
[実施例8]
(導電性繊維シートの作製)
実施例1と同じ処理を行い、シートS1を8枚作製した。
(電磁波吸収体の作製)
8枚のシートS1をカッターにて切断し、幅W=20mm、長さL=500mm(W/L=0.04)となるように加工した。得られた加工物(導電性繊維シート基材1)を、幅500mm、奥行き500mm、高さ70mmの直方体のアクリル製容器2に充填し、電磁波吸収体Pを作製した。このとき、アクリル製容器2に対する導電性繊維シート基材1の充填率(体積比率)は45%であった。
(電磁波吸収特性)
電磁波吸収体Pの電磁波吸収特性を評価したところ、表2及び図11に示すように、1GHzから40GHzの全ての領域において、−20dB以下の吸収特性を得た。
【0052】
[実施例9]
(導電性繊維シートの作製)
実施例1と同じ処理を行い、シートS1を6枚作製した。
(電磁波吸収体の作製)
6枚のシートS1をカッターにて切断し、幅W=20mm、長さL=500mm(W/L=0.04)となるように加工した。得られた加工物(導電性繊維シート基材1)を、幅500mm、奥行き500mm、高さ70mmの直方体のアクリル製容器2に充填し、電磁波吸収体Pを作製した。このとき、アクリル製容器2に対する導電性繊維シート基材1の充填率(体積比率)は34%であった。
(電磁波吸収特性)
電磁波吸収体Pの電磁波吸収特性を評価したところ、表2及び図12に示すように、1GHzから40GHzの全ての領域において、−15dB以下の吸収特性を得た。
【0053】
[実施例10]
(導電性繊維シートの作製)
実施例2と同じ処理を行い、シートS2を6枚作製した。
(電磁波吸収体の作製)
6枚のシートS2をカッターにて切断し、幅W=20mm、長さL=500mm(W/L=0.04)となるように加工した。得られた加工物(導電性繊維シート基材1)を、幅500mm、奥行き500mm、高さ70mmの直方体のアクリル製容器2に充填し、電磁波吸収体Pを作製した。このとき、アクリル製容器2に対する導電性繊維シート基材1の充填率(体積比率)は34%であった。
(電磁波吸収特性)
電磁波吸収体Pの電磁波吸収特性を評価したところ、表2及び図13に示すように、1GHzから40GHzの全ての領域において、−20dB以下の吸収特性を得た。
【0054】
[実施例11]
(導電性繊維シートの作製)
実施例1と同じ処理を行い、シートS1を14枚作製した。
(電磁波吸収体の作製)
14枚のシートS1をカッターにて切断し、幅W=20mm、長さL=500mm(W/L=0.04)となるように加工した。得られた加工物(導電性繊維シート基材1)を、幅500mm、奥行き500mm、高さ70mmの直方体のアクリル製容器2に充填し、電磁波吸収体Pを作製した。このとき、アクリル製容器2に対する導電性繊維シート基材1の充填率(体積比率)は80%であった。
(電磁波吸収特性)
電磁波吸収体Pの電磁波吸収特性を評価したところ、表2及び図14に示すように、1GHzから40GHzの全ての領域において、−15dB以下の吸収特性を得た。
【0055】
[比較例1]
(導電性繊維シートの作製)
ペルオキソニ硫酸アンモニウムを0.5%、パラトルエンスルホン酸0.25%を含有する水溶液に含浸する以外は、実施例1と同じ処理を行い、シートS5を作製した。得られたシートS5の体積抵抗率は10000Ω・cm、密度は75.8kg/m3であった。この作業を繰り返し、シートS5を10枚作製した。
(電磁波吸収体の作製)
10枚のシートS5をカッターにて切断し、幅W=20mm、長さL=500mm(W/L=0.04)となるように加工した。得られた加工物(導電性繊維シート基材1)を、幅500mm、奥行き500mm、高さ70mmの直方体のアクリル製容器2に充填し、電磁波吸収体Pを作製した。このとき、アクリル製容器2に対する導電性繊維シート基材1の充填率(体積比率)は57%であった。
(電磁波吸収特性)
電磁波吸収体Pの電磁波吸収特性を評価したところ、表2及び図16に示すように、10GHzから40GHzの全ての領域において、−15dB以下の吸収特性が得られたが、1GHzから10GHzの領域では、−15dBに達しなかった。
【0056】
[比較例2]
(導電性繊維シートの作製)
実施例1と同じ処理を行い、シートS1を5枚作製した。
(電磁波吸収体の作製)
5枚のシートS1をカッターにて切断し、幅W=20mm、長さL=500mm(W/L=0.04)となるように加工した。得られた加工物(導電性繊維シート基材1)を、幅500mm、奥行き500mm、高さ70mmの直方体のアクリル製容器2に充填し、電磁波吸収体Pを作製した。このとき、アクリル製容器2に対する導電性繊維シート基材1の充填率(体積比率)は28%であった。
(電磁波吸収特性)
電磁波吸収体Pの電磁波吸収特性を評価したところ、表2及び図18に示すように、2GHzから40GHzの全ての領域において、−15dB以下の吸収特性が得られたが、1GHzから2GHzの領域では、−15dBに達しなかった。
【0057】
[比較例3]
(導電性繊維シートの作製)
実施例1と同じ処理を行い、シートS1を15枚作製した。
(電磁波吸収体の作製)
15枚のシートS1をカッターにて切断し、幅W=20mm、長さL=500mm(W/L=0.04)となるように加工した。得られた加工物(導電性繊維シート基材1)を、幅500mm、奥行き500mm、高さ70mmの直方体のアクリル製容器2に充填し、電磁波吸収体Pを作製した。このとき、アクリル製容器2に対する導電性繊維シート基材1の充填率(体積比率)は86%であった。
(電磁波吸収特性)
電磁波吸収体Pの電磁波吸収特性を評価したところ、表2及び図19に示すように、2GHzから40GHzの全ての領域において、−15dB以下の吸収特性が得られたが、1GHzから2GHzの領域では、−15dBに達しなかった。
【0058】
[考 察]
図4〜17及び表2を参照して理解されるように、実施例1〜11の電磁波吸収体はシャープな吸収ピークを示さない、広帯域に対して優れた電磁波吸収性能を発揮する電磁波吸収体であるということが判る。この理由として、一定の体積抵抗率をもち、電磁波吸収性能を有する導電性繊維シート基材1をある一定の空隙を持たせた形で充填することにより、電磁波が容器2内の多くの導電性繊維シート基材1を通過もしくは反射しながら電磁波吸収体内部に進入するため、電磁波のエネルギーを効率よく減衰させると推察される。
【0059】
一方、これに対し比較例1〜3の電磁波吸収材の場合は、導電性繊維シート基材1の体積抵抗率、及び充填率が適切な設計になっておらず、電磁波が電磁波吸収体表面で反射もしくは吸収されずに透過してしまうため、本発明のように広帯域に対して、万遍なく優れた電磁波吸収性能を発揮することができない(表2参照)。
【0060】
表2より、導電性繊維シート基材の体積抵抗率Rを1Ω・cm≦R≦5000Ω・cmの範囲に調整し、容器に対する基材の充填率を30〜80%の範囲に調整することにより、従来にない広帯域に対して万遍なく優れた電磁波吸収性能を付与することができる。
【0061】
なお、電磁波吸収体おける電磁波吸収特性を考慮すると、導電性繊維シート基材の体積抵抗率Rは、50〜1000Ω・cmの範囲がより好ましく、導電性繊維シート基材の充填率は、40〜70%がより好ましい。さらに、電磁波吸収体の製造の容易性についても考慮すると、導電性繊維シート基材の幅Wは、5〜20mmが好ましく、導電性繊維シート基材の幅Wと長手方向の長さLとの比率であるW/Lは、0.02〜0.1が好ましく、導電性繊維シート基材の密度ρは、25〜400kg/m3が好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明に係る電磁波吸収体は、広帯域の電磁波を吸収する各種用途において利用することができる。
【符号の説明】
【0063】
1 導電性繊維シート基材
2 容器
3 スペーサ
P 電磁波吸収体
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性繊維シートからなる電磁波吸収体に関する。
【背景技術】
【0002】
アンテナの性能評価、機器から発生する電磁界強度の評価、妨害波放射の測定などの用途において、電波暗室が広く用いられている。電波暗室は、室内の電波の反射をなくすために壁、天井、及び床に電波吸収体を設置した構造となっている。
【0003】
このような用途に用いられる電波吸収体は、広周波数帯域において高い吸収特性が必要なため、一般に、カーボンや金属粉等の導電材を樹脂に混合した損失材やフェライト等の磁性材を利用した損失材が、ピラミッド型電波吸収体として用いられている(特許文献1参照)。しかしながら、この種の電波吸収体は、ピラミッドの先端部の機械的強度が弱く、外力や経時劣化より変形してしまう問題がある。また、その形状から、電波吸収体が占有する空間が大きく、電波暗室の空間を有効に利用できない不都合がある。それらの解決するために、ピラミッド型電波吸収体の上面に同様の形状に成型した樹脂成形体を重ね合わせて平面形状にしたものや、導電材を発泡体に含浸させた成型品を積層した平面形状の電波吸収体等が用いられる場合がある。しかし、前者の場合、余分な成型体を使用する分コスト高となる、後者の場合、電波暗室に用いるには吸収特性が不十分であるといった問題がある。
【0004】
また、電磁波吸収体として、所定の処理条件で不織布等からなる繊維シート基材に導電性高分子を被覆することで所定の表面抵抗率を有する導電性シートを作製して得られるものが存在する(特許文献2参照)。こうした電磁波吸収体は、高周波広帯域において万遍なく高い電磁波吸収性能若しくはそれに付加して従来にない高い電磁波シールド性能を発揮する。なお、導電材の繊維を用いた電磁波対策品として、特許文献3のように、導電材を真綿状にしたものを敷き詰めた電磁波シールド材が存在するが、これは電磁波を反射することにより外部への電磁波の漏洩を防ぐものであって、室内の電波の反射をなくすために用いられる電磁波吸収体とは異なる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−177105号公報
【特許文献2】特開2010−80911号公報
【特許文献3】特開2001−11975号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
電磁波吸収体は、特許文献2に示されるように、通常、複数の導電性繊維シートを積層して形成されている。一般的に、高い電磁波吸収性能を維持するためには、周波数が低くなればなるほど、電磁波吸収体の厚みを増す必要がある。例えば、さらなる広帯域、特に1−10GHzにおいて、高い電磁波吸収性能を得ようとする場合には、電磁波吸収体に用いられる導電性繊維シートの量は、必然的に多くなる。
【0007】
本発明は、用いられる導電性繊維シートの量を抑制しつつ、広帯域の電磁波吸収性能を有する電磁波吸収体を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る電磁波吸収体は、体積抵抗率Rが1Ω・cm≦R≦5000Ω・cmである導電性繊維シート基材を容器に充填する電磁波吸収体であって、
前記導電性繊維シート基材の密度をρ(kg/m3)、重量をG(kg)とした場合の体積Vを、V=G/ρとし、
前記容器の容積をV0とし、前記容器に対する前記導電性繊維シート基材の充填率を、V/V0×100と定義した場合に、
前記導電性繊維シート基材を、30%以上、80%以下の充填率の範囲で前記容器全体に略均等に充填してある。
【0009】
このように、容器に対して所定の充填率で略均等に所定の体積抵抗率を示す導電性繊維シート基材が充填されていると、容器内において各々の導電性繊維シート基材の間に隙間が形成されて、容器全体に充填される。したがって、容器全体に導電性繊維シート基材を隙間なく充填させた場合に比べて、電磁波吸収体に用いられる導電性繊維シート基材の量が確実に抑制される。また、このように、充填された各々の導電性繊維シート基材の間に隙間が形成された電磁波吸収体は、所定の空間内において導電性繊維シート基材が略均等に充填されることで、広帯域において十分な電磁波吸収性能を示した。
【0010】
本発明に係る電磁波吸収体は、充填される導電性繊維シート基材が短冊状又は円柱状に形成されていてもよい。導電性繊維シート基材が短冊状又は円柱状に形成されていると、容器への導電性繊維シート基材の充填が容易となる。
【0011】
本発明に係る電磁波吸収体の導電性繊維シート基材は、全体が矩形状で短手方向の長さが100mm以下であり、幅をW、長手方向の長さをLとした場合に、W/L<0.5を満たすものであることが好ましい。
【0012】
W/L(アスペクト比)が0.5未満であると、導電性繊維シート基材は細長い形状になるため、導電性繊維シート基材を容器に充填した際に空隙が確保され易く、導電性繊維シート基材を充填する際に容器全体への均一な充填を行い易い。
一方、W/L(アスペクト比)が0.5以上になると、導電性繊維シート基材は正方形に近い形状になるため、導電性繊維シート基材を容器に充填した際に十分な空隙が確保できない。つまり、導電性繊維シート基材を充填する際に容器全体への均一な充填を行い難い。
【0013】
本発明に係る電磁波吸収体は、容器に充填される導電性繊維シート基材同士の間にスペーサを介在させてもよい。こうすると、容器内の導電性繊維シート基材の間にスペーサによる空間が形成されるので、容器全体への導電性繊維シート基材の充填が容易となり、導電性繊維シート基材が容器全体に確実に配置されることとなる。
【0014】
本発明に係る電磁波吸収体は、前記導電性繊維シート基材に用いられる導電物質がポリピロールであることが好ましい。ポリピロールは常温でも反応することから、反応性が高く、また、導電物質の中でも安価な材料である。
【0015】
本発明に係る電磁波吸収体の前記導電性繊維シート基材は、合成繊維の不織布または布帛からなる繊維シート基材を準備する工程と、前記繊維シート基材を、ドーパントを含む酸化剤水溶液で含浸する工程と、含浸した前記繊維シート基材を気相の導電性高分子のモノマーと接触させ、酸化重合することにより、導電性高分子を少なくとも部分的に基材上に生成させることにより導電性繊維シートを作製する工程と、を含む製造工程を経て製造されることが好ましい。
【0016】
導電性繊維シート基材が上述の製造工程を経て製造されると、繊維表面に均一かつ緻密に導電物質を付着させることができ、より少ない導電物質の量で高導電にすることが可能となる。したがって、導電性を発現させるための導電物質の付着量が少なく済み、安価に導電性繊維シート基材を製造することができる。
【0017】
なお、電磁波吸収体における電磁波吸収特性を考慮すると、導電性繊維シート基材の体積抵抗率Rは、50〜1000Ω・cmの範囲がより好ましく、導電性繊維シート基材の充填率は、40〜70%がより好ましい。さらに、電磁波吸収体の製造の容易性についても考慮すると、前記導電性繊維シート基材の幅Wは、5〜20mmが好ましく、導電性繊維シート基材の幅Wと長手方向の長さLとの比率であるW/Lは、0.02〜0.1が好ましく、導電性繊維シート基材の密度ρは、25〜400kg/m3が好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】導電性繊維シート基材及び電磁波吸収体を示す図である
【図2】他の導電性繊維シート基材及び電磁波吸収体を示す図である。
【図3】他の導電性繊維シート基材及び電磁波吸収体を示す図である。
【図4】実施例1の周波数1GHz〜40GHzにおける電磁波吸収性能を表す特性図である。
【図5】実施例2の周波数1GHz〜40GHzにおける電磁波吸収性能を表す特性図である。
【図6】実施例3の周波数1GHz〜40GHzにおける電磁波吸収性能を表す特性図である。
【図7】実施例4の周波数1GHz〜40GHzにおける電磁波吸収性能を表す特性図である。
【図8】実施例5の周波数1GHz〜40GHzにおける電磁波吸収性能を表す特性図である。
【図9】実施例6の周波数1GHz〜40GHzにおける電磁波吸収性能を表す特性図である。
【図10】実施例7の周波数1GHz〜40GHzにおける電磁波吸収性能を表す特性図である。
【図11】実施例8の周波数1GHz〜40GHzにおける電磁波吸収性能を表す特性図である。
【図12】実施例9の周波数1GHz〜40GHzにおける電磁波吸収性能を表す特性図である。
【図13】実施例10の周波数1GHz〜40GHzにおける電磁波吸収性能を表す特性図である。
【図14】実施例11の周波数1GHz〜40GHzにおける電磁波吸収性能を表す特性図である。
【図15】比較例1の周波数1GHz〜40GHzにおける電磁波吸収性能を表す特性図である。
【図16】比較例2の周波数1GHz〜40GHzにおける電磁波吸収性能を表す特性図である。
【図17】比較例3の周波数1GHz〜40GHzにおける電磁波吸収性能を表す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の電磁波吸収体は、所定の体積抵抗率を有する導電性繊維シート基材を容器内に所定の充填率で略均等に充填するものである。図1〜図3は、それぞれ容器2内に導電性繊維シート基材1を充填した状態を示す。
【0020】
本発明で使用される導電性繊維シート基材1は、主として布帛や不織布の繊維表面に導電性ポリマーを直接反応させることで作製できる導電性繊維シートに関するものであるが、使用する基材、処理条件は、特定の使用目的および導電性ポリマーとの組み合わせに応じて当業者は容易に決定することができる。
【0021】
導電性繊維シート基材は、体積抵抗率Rが1Ω・cm≦R≦5000Ω・cmのものが用いられる。
ここで、体積抵抗率(Volume Resistivity,単位Ω・cm)とは、物質の導電性の尺度であって、電気抵抗(Resistance)を単位体積(1cm×1cm×1cm)当たりで示した値が体積抵抗率(Volume Resistivity,単位Ω・cm)のことである。
この値は物質に固有の絶対値であり、物質を幅W、厚みt、長さLの直方体とした場合に、断面積[W×t]に一定電流I(A)を流し、長さLだけ離れた電極間の電位差V(V)を測ることにより求められる。
【0022】
ここで、導電性繊維シート基材の体積抵抗率Rが1Ω・cm未満であると、電磁波吸収体の表面でのシールド性(電磁波反射)が強くなり過ぎるため、電磁波が電波吸収体内部まで進入せず、吸収特性が低下する。
一方、導電性繊維シート基材の体積抵抗率Rが5000Ω・cmを越えると、導電性が低くなり過ぎるため、電磁波が進入しても吸収されず通過してしまい、吸収特性が低下する。
【0023】
また、電磁波吸収体は、導電性繊維シート基材の密度をρ(kg/m3)、重量をG(kg)とした場合の体積Vを、V=G/ρとし、容器の容積をV0とし、容器に対する導電性繊維シート基材の充填率を、V/V0×100と定義した場合に、導電性繊維シート基材を、30%以上、80%以下の充填率の範囲で容器全体に略均等に充填してある。
【0024】
充填率が30%未満であると、容器内の空隙が多くなり過ぎるため、電磁波が導電性繊維シート基材に当たらずに通過する、もしくは十分に当たらないこととなり、吸収特性が十分に得られない。
一方、充填率が80%を越えると、空隙が少な過ぎるため、通常の積層体の特性に近くなり、導電性繊維シートを切断して充填する利点があまり得られない。
【0025】
導電性繊維シート基材は、全体が矩形状で短手方向の長さが100mm以下であり、幅をW,長手方向の長さをLとした場合、W/L<0.5を満たすことが好ましい。
【0026】
導電性繊維シート基材に用いられる導電物質がポリピロールであることが好ましい。
【0027】
導電性繊維シート基材は、合成繊維の不織布または布帛からなる繊維シート基材を準備する工程と、繊維シート基材を、ドーパントを含む酸化剤水溶液で含浸する工程と、含浸した繊維シート基材を気相の導電性高分子のモノマーと接触させ、酸化重合することにより、導電性高分子を少なくとも部分的に基材上に生成させることにより導電性繊維シートを作製する工程と、を含む製造工程を経て製造される。
【0028】
ここで、以下に本願明細書において使用するいくつかの術語について定義する。
【0029】
「繊維シート」とは、天然繊維、合成又は半合成化学繊維、若しくはそれらの混合物によって構成されるシート状のウエブのことをいう。シートの構造若しくは形状は、例えば織物、ニットなどの布帛、不織布、紙などであるが、本発明における処理剤の受け入れを許容するため繊維間に微細な間隙を持っていなければならない。特に高い電磁波吸収性能や電磁シールド性能が求められる用途には、極細繊維、典型的には極細ポリエステル繊維を原料とする不織布を使用することが好ましい。
【0030】
「ポリピロール」とは、ピロールのホモポリマーのみならず、ピロールと小割合の共重合可能なピロール同族体もしくは誘導体、例えばN−メチルピロール、3−メチルピロール、3,5−ジメチルピロール、2,2’−ビピロールとの共重合体をいう。
【0031】
「酸化剤」は、ピロールモノマーまたはチオフェンモノマーの酸化的重合によって導電性ポリマーを与えることができる化学的酸化剤をいう。使用し得る酸化剤の具体例は米国特許Nos.4,604,427、4,521,450および4,617,228を含む多数の文献に記載されており、過硫酸アンモニウム、塩化鉄(III)、硫酸鉄(III)、過酸化水素、過ホウ酸アンモニウム、塩化銅(II)などを含む。ドーパントとして使用するスルホン酸、例えばパラトルエンスルホンの第2鉄塩も酸化剤として使用することができる。
【0032】
「ドーパント」とは、導電性ポリマーの導電性を向上させるアニオンを指し、その具体例はやはり前出の米国特許を含む多数の特許文献に記載されている。パラトルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、ドテシルベンゼンスルホン酸、スルホン化ポリスチレンなどのスルホン酸が好ましい。
【0033】
充填される導電性繊維シート基材1の形状は、例えば、容器2の一辺の長さより短い直方体形状(図1)や、容器2の一辺の長さと同じ程度の長さを有する直方体形状(図2)や、平面状(図3)等であるが、特に限定されるものではなく、容器2の一辺よりも長い形状であってもよいし、円柱状や不規則な形状であってもよい。
【0034】
要するには、導電性繊維シート基材1は、容器2内において所定の空間を有しつつ全体的に略均等に充填される形状であればよい。容器2内に充填された状態の導電性繊維シート基材1は、容器2内において、形状を維持しつつ積み重ねられて充填される場合(図1)や、形状によっては曲げられた状態で充填される場合(図2)等がある。
【0035】
また、導電性繊維シート基材1のみでは、容器2内に略均等に充填できない場合には、図3に示すように、導電性繊維シート基材1にスペーサ3を適宜配置してもよい。こうすると、スペーサ3によって各導電性繊維シート基材1,1の間に一定の空間が形成されて、結果として容器2全体に略均等に導電性繊維シート基材1を充填することができる。
【0036】
スペーサ3は、導電性繊維シート基材1,1の間に空間を形成する上で、導電性繊維シート基材1よりも小さいものが好ましく、また、材質としては、導電性繊維シート基材の電磁波吸収特性に影響を与えないよう、導電性がなく、低誘電率のものが好ましい。
【実施例】
【0037】
以下の実施例および比較例は限定を意図するものではなく、また「部」および「%」は特記しない限り重量基準による。
【0038】
体積抵抗率の測定は、ダイアインスツルメンツ製ロレスタ−GP MCP−T610を用いた。
【0039】
電磁波吸収特性の測定は、アンリツ製ベクトルネットワークアナライザー 37269D、及びキーコム製ホーンアンテナを用い、アンテナと電磁波吸収体との距離を1.5mに設定して評価を行った。測定周波数の範囲は1GHzから40GHzとした。なお、電磁波吸収特性において、−15dB以下(電磁波 96.8%吸収に相当)であれば、その周波数における電磁波吸収体として使用可能であるとして、評価を行った。
【0040】
本発明では、導電性繊維シート基材1の密度をρ(kg/m3)、重量をG(kg)とした場合の体積Vを、V=G/ρとし、容器2の容積をV0とし、容器2に対する導電性繊維シート基材1の充填率を、V/V0と定義した。
【0041】
以下の実施例1〜11及び比較例1〜3に用いられる導電性繊維シート基材の体積抵抗率や大きさ等の各データについては表1に示し、周波数別に測定した電磁波減衰量については表2及び図4〜17に示す。
なお、導電性繊維シートを作製するために使用する繊維シート基材は、目付300g/m2、厚さ4mm(密度75kg/m3)のポリエステル不織布を用いた。
【0042】
【表1】
【0043】
【表2】
【0044】
[実施例1]
(導電性繊維シートの作製)
幅500mm、長さ500mm、のポリエステル不織布を、ペルオキソニ硫酸アンモニウムを2%、パラトルエンスルホン酸1%を含有する水溶液に含浸し、マングルにて余剰
な液を除去した。その後、ポリエステル不織布を室内に設置したエバポレーターにてピロールモノマーの蒸気を充満させた反応室に30分投入し、ポリピロールの気相重合を行った。その後、反応室内からポリエステル不織布を取り出し、蒸留水にて過剰なポリピロール及び薬剤を除去したうえ、60℃の乾燥室で1時間乾燥し、シートS1を作製した。得られたシートS1の体積抵抗率は100Ω・cm、密度は77.3kg/m3であった。この作業を繰り返し、シートS1を10枚作製した。
(電磁波吸収体の作製)
10枚のシートS1をカッターにて切断し、幅W=20mm、長さL=500mm(W/L=0.04)となるように加工した。得られた加工物(導電性繊維シート基材1)を、幅500mm、奥行き500mm、高さ70mmの直方体のアクリル製容器2に充填し、電磁波吸収体Pを作製した。このとき、アクリル製容器2に対する導電性繊維シート基材1の充填率(体積比率)は57%であった。
(電磁波吸収特性)
電磁波吸収体Pの電磁波吸収特性を評価したところ、表2及び図4に示すように、1GHzから40GHzの全ての領域において、−25dB以下の吸収特性を得た。
【0045】
[実施例2]
(導電性繊維シートの作製)
ペルオキソニ硫酸アンモニウムを8%、パラトルエンスルホン酸5%を含有する水溶液に含浸する以外は、実施例1と同じ処理を行い、シートS2を作製した。得られたシートS2の体積抵抗率は1Ω・cm、密度は78.8kg/m3であった。この作業を繰り返し、シートS2を10枚作製した。
(電磁波吸収体の作製)
10枚のシートS2をカッターにて切断し、幅W=20mm、長さL=500mm(W/L=0.04)となるように加工した。得られた加工物(導電性繊維シート基材1)を、幅500mm、奥行き500mm、高さ70mmの直方体のアクリル製容器2に充填し、電磁波吸収体Pを作製した。このとき、アクリル製容器2に対する導電性繊維シート基材1の充填率(体積比率)は57%であった。
(電磁波吸収特性)
電磁波吸収体Pの電磁波吸収特性を評価したところ、表2及び図5に示すように、1GHzから40GHzの全ての領域において、−15dB以下の吸収特性を得た。
【0046】
[実施例3]
(導電性繊維シートの作製)
ペルオキソニ硫酸アンモニウムを0.7%、パラトルエンスルホン酸0.35%を含有する水溶液に含浸する以外は、実施例1と同じ処理を行い、シートS3を作製した。得られたシートS3の体積抵抗率は5000Ω・cm、密度は76.5kg/m3であった。この作業を繰り返し、シートS3を10枚作製した。
(電磁波吸収体の作製)
10枚のシートS3をカッターにて切断し、幅W=20mm、長さL=500mm(W/L=0.04)となるように加工した。得られた加工物(導電性繊維シート基材1)を、幅500mm、奥行き500mm、高さ70mmの直方体のアクリル製容器2に充填し、電磁波吸収体Pを作製した。このとき、アクリル製容器2に対する導電性繊維シート基材1の充填率(体積比率)は57%であった。
(電磁波吸収特性)
電磁波吸収体Pの電磁波吸収特性を評価したところ、表2及び図6に示すように、1GHzから40GHzの全ての領域において、−15dB以下の吸収特性を得た。
【0047】
[実施例4]
(導電性繊維シートの作製)
実施例1と同じ処理を行い、シートS1を10枚作製した。
(電磁波吸収体の作製)
10枚のシートS1をカッターにて切断し、幅W=20mm、長さL=50mm(W/L=0.4)となるように加工した。得られた加工物(導電性繊維シート基材1)を、幅500mm、奥行き500mm、高さ70mmの直方体のアクリル製容器2に充填し、電磁波吸収体Pを作製した。このとき、アクリル製容器2に対する導電性繊維シート基材1の充填率(体積比率)は57%であった。
(電磁波吸収特性)
電磁波吸収体Pの電磁波吸収特性を評価したところ、表2及び図7に示すように、1GHzから40GHzの全ての領域において、−15dB以下の吸収特性を得た。
【0048】
[実施例5]
(導電性繊維シートの作製)
幅500mm、長さ1000mm、のポリエステル不織布を、ペルオキソニ硫酸アンモニウムを2%、パラトルエンスルホン酸1%を含有する水溶液に含浸し、マングルにて余剰な液を除去した。その後、ポリエステル不織布を室内に設置したエバポレーターにてピロールモノマーの蒸気を充満させた反応室に30分投入し、ポリピロールの気相重合を行った。その後、反応室内からポリエステル不織布を取り出し、蒸留水にて過剰なポリピロール及び薬剤を除去したうえ、60℃の乾燥室で1時間乾燥し、シートS4を作製した。得られたシートS4の体積抵抗率は100Ω・cm、密度は77.3kg/m3であった。この作業を繰り返し、シートS4を5枚作製した。
(電磁波吸収体の作製)
5枚のシートS4をカッターにて切断し、幅W=20mm、長さL=1000mm(W/L=0.02)となるように加工した。得られた加工物(導電性繊維シート基材1)を、幅500mm、奥行き500mm、高さ70mmの直方体のアクリル製容器2に充填し、電磁波吸収体Pを作製した。このとき、アクリル製容器2に対する導電性繊維シート基材1の充填率(体積比率)は57%であった。
(電磁波吸収特性)
電磁波吸収体Pの電磁波吸収特性を評価したところ、表2及び図8に示すように、1GHzから40GHzの全ての領域において、−20dB以下の吸収特性を得た。
【0049】
[実施例6]
(導電性繊維シートの作製)
実施例1と同じ処理を行い、シートS1を10枚作製した。
(電磁波吸収体の作製)
10枚のシートS1をカッターにて切断し、幅W=1mm、長さL=25mm(W/L=0.04)となるように加工した。得られた加工物(導電性繊維シート基材1)を、幅500mm、奥行き500mm、高さ70mmの直方体のアクリル製容器2に充填し、電磁波吸収体Pを作製した。このとき、アクリル製容器2に対する導電性繊維シート基材1の充填率(体積比率)は57%であった。
(電磁波吸収特性)
電磁波吸収体Pの電磁波吸収特性を評価したところ、表2及び図9に示すように、1GHzから40GHzの全ての領域において、−20dB以下の吸収特性を得た。
【0050】
[実施例7]
(導電性繊維シートの作製)
実施例1と同じ処理を行い、シートS1を10枚作製した。
(電磁波吸収体の作製)
10枚のシートS1をカッターにて切断し、幅W=100mm、長さL=250mm(W/L=0.4)となるように加工した。得られた加工物(導電性繊維シート基材1)を、幅500mm、奥行き500mm、高さ70mmの直方体のアクリル製容器2に充填し、電磁波吸収体Pを作製した。このとき、アクリル製容器2に対する導電性繊維シート基材1の充填率(体積比率)は57%であった。
(電磁波吸収特性)
電磁波吸収体Pの電磁波吸収特性を評価したところ、表2及び図10に示すように、1GHzから40GHzの全ての領域において、−15dB以下の吸収特性を得た。
【0051】
[実施例8]
(導電性繊維シートの作製)
実施例1と同じ処理を行い、シートS1を8枚作製した。
(電磁波吸収体の作製)
8枚のシートS1をカッターにて切断し、幅W=20mm、長さL=500mm(W/L=0.04)となるように加工した。得られた加工物(導電性繊維シート基材1)を、幅500mm、奥行き500mm、高さ70mmの直方体のアクリル製容器2に充填し、電磁波吸収体Pを作製した。このとき、アクリル製容器2に対する導電性繊維シート基材1の充填率(体積比率)は45%であった。
(電磁波吸収特性)
電磁波吸収体Pの電磁波吸収特性を評価したところ、表2及び図11に示すように、1GHzから40GHzの全ての領域において、−20dB以下の吸収特性を得た。
【0052】
[実施例9]
(導電性繊維シートの作製)
実施例1と同じ処理を行い、シートS1を6枚作製した。
(電磁波吸収体の作製)
6枚のシートS1をカッターにて切断し、幅W=20mm、長さL=500mm(W/L=0.04)となるように加工した。得られた加工物(導電性繊維シート基材1)を、幅500mm、奥行き500mm、高さ70mmの直方体のアクリル製容器2に充填し、電磁波吸収体Pを作製した。このとき、アクリル製容器2に対する導電性繊維シート基材1の充填率(体積比率)は34%であった。
(電磁波吸収特性)
電磁波吸収体Pの電磁波吸収特性を評価したところ、表2及び図12に示すように、1GHzから40GHzの全ての領域において、−15dB以下の吸収特性を得た。
【0053】
[実施例10]
(導電性繊維シートの作製)
実施例2と同じ処理を行い、シートS2を6枚作製した。
(電磁波吸収体の作製)
6枚のシートS2をカッターにて切断し、幅W=20mm、長さL=500mm(W/L=0.04)となるように加工した。得られた加工物(導電性繊維シート基材1)を、幅500mm、奥行き500mm、高さ70mmの直方体のアクリル製容器2に充填し、電磁波吸収体Pを作製した。このとき、アクリル製容器2に対する導電性繊維シート基材1の充填率(体積比率)は34%であった。
(電磁波吸収特性)
電磁波吸収体Pの電磁波吸収特性を評価したところ、表2及び図13に示すように、1GHzから40GHzの全ての領域において、−20dB以下の吸収特性を得た。
【0054】
[実施例11]
(導電性繊維シートの作製)
実施例1と同じ処理を行い、シートS1を14枚作製した。
(電磁波吸収体の作製)
14枚のシートS1をカッターにて切断し、幅W=20mm、長さL=500mm(W/L=0.04)となるように加工した。得られた加工物(導電性繊維シート基材1)を、幅500mm、奥行き500mm、高さ70mmの直方体のアクリル製容器2に充填し、電磁波吸収体Pを作製した。このとき、アクリル製容器2に対する導電性繊維シート基材1の充填率(体積比率)は80%であった。
(電磁波吸収特性)
電磁波吸収体Pの電磁波吸収特性を評価したところ、表2及び図14に示すように、1GHzから40GHzの全ての領域において、−15dB以下の吸収特性を得た。
【0055】
[比較例1]
(導電性繊維シートの作製)
ペルオキソニ硫酸アンモニウムを0.5%、パラトルエンスルホン酸0.25%を含有する水溶液に含浸する以外は、実施例1と同じ処理を行い、シートS5を作製した。得られたシートS5の体積抵抗率は10000Ω・cm、密度は75.8kg/m3であった。この作業を繰り返し、シートS5を10枚作製した。
(電磁波吸収体の作製)
10枚のシートS5をカッターにて切断し、幅W=20mm、長さL=500mm(W/L=0.04)となるように加工した。得られた加工物(導電性繊維シート基材1)を、幅500mm、奥行き500mm、高さ70mmの直方体のアクリル製容器2に充填し、電磁波吸収体Pを作製した。このとき、アクリル製容器2に対する導電性繊維シート基材1の充填率(体積比率)は57%であった。
(電磁波吸収特性)
電磁波吸収体Pの電磁波吸収特性を評価したところ、表2及び図16に示すように、10GHzから40GHzの全ての領域において、−15dB以下の吸収特性が得られたが、1GHzから10GHzの領域では、−15dBに達しなかった。
【0056】
[比較例2]
(導電性繊維シートの作製)
実施例1と同じ処理を行い、シートS1を5枚作製した。
(電磁波吸収体の作製)
5枚のシートS1をカッターにて切断し、幅W=20mm、長さL=500mm(W/L=0.04)となるように加工した。得られた加工物(導電性繊維シート基材1)を、幅500mm、奥行き500mm、高さ70mmの直方体のアクリル製容器2に充填し、電磁波吸収体Pを作製した。このとき、アクリル製容器2に対する導電性繊維シート基材1の充填率(体積比率)は28%であった。
(電磁波吸収特性)
電磁波吸収体Pの電磁波吸収特性を評価したところ、表2及び図18に示すように、2GHzから40GHzの全ての領域において、−15dB以下の吸収特性が得られたが、1GHzから2GHzの領域では、−15dBに達しなかった。
【0057】
[比較例3]
(導電性繊維シートの作製)
実施例1と同じ処理を行い、シートS1を15枚作製した。
(電磁波吸収体の作製)
15枚のシートS1をカッターにて切断し、幅W=20mm、長さL=500mm(W/L=0.04)となるように加工した。得られた加工物(導電性繊維シート基材1)を、幅500mm、奥行き500mm、高さ70mmの直方体のアクリル製容器2に充填し、電磁波吸収体Pを作製した。このとき、アクリル製容器2に対する導電性繊維シート基材1の充填率(体積比率)は86%であった。
(電磁波吸収特性)
電磁波吸収体Pの電磁波吸収特性を評価したところ、表2及び図19に示すように、2GHzから40GHzの全ての領域において、−15dB以下の吸収特性が得られたが、1GHzから2GHzの領域では、−15dBに達しなかった。
【0058】
[考 察]
図4〜17及び表2を参照して理解されるように、実施例1〜11の電磁波吸収体はシャープな吸収ピークを示さない、広帯域に対して優れた電磁波吸収性能を発揮する電磁波吸収体であるということが判る。この理由として、一定の体積抵抗率をもち、電磁波吸収性能を有する導電性繊維シート基材1をある一定の空隙を持たせた形で充填することにより、電磁波が容器2内の多くの導電性繊維シート基材1を通過もしくは反射しながら電磁波吸収体内部に進入するため、電磁波のエネルギーを効率よく減衰させると推察される。
【0059】
一方、これに対し比較例1〜3の電磁波吸収材の場合は、導電性繊維シート基材1の体積抵抗率、及び充填率が適切な設計になっておらず、電磁波が電磁波吸収体表面で反射もしくは吸収されずに透過してしまうため、本発明のように広帯域に対して、万遍なく優れた電磁波吸収性能を発揮することができない(表2参照)。
【0060】
表2より、導電性繊維シート基材の体積抵抗率Rを1Ω・cm≦R≦5000Ω・cmの範囲に調整し、容器に対する基材の充填率を30〜80%の範囲に調整することにより、従来にない広帯域に対して万遍なく優れた電磁波吸収性能を付与することができる。
【0061】
なお、電磁波吸収体おける電磁波吸収特性を考慮すると、導電性繊維シート基材の体積抵抗率Rは、50〜1000Ω・cmの範囲がより好ましく、導電性繊維シート基材の充填率は、40〜70%がより好ましい。さらに、電磁波吸収体の製造の容易性についても考慮すると、導電性繊維シート基材の幅Wは、5〜20mmが好ましく、導電性繊維シート基材の幅Wと長手方向の長さLとの比率であるW/Lは、0.02〜0.1が好ましく、導電性繊維シート基材の密度ρは、25〜400kg/m3が好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明に係る電磁波吸収体は、広帯域の電磁波を吸収する各種用途において利用することができる。
【符号の説明】
【0063】
1 導電性繊維シート基材
2 容器
3 スペーサ
P 電磁波吸収体
【特許請求の範囲】
【請求項1】
体積抵抗率Rが1Ω・cm≦R≦5000Ω・cmである導電性繊維シート基材を容器に充填する電磁波吸収体であって、
前記導電性繊維シート基材の密度をρ(kg/m3)、重量をG(kg)とした場合の体積Vを、V=G/ρとし、
前記容器の容積をV0とし、前記容器に対する前記導電性繊維シート基材の充填率を、V/V0×100と定義した場合に、
前記導電性繊維シート基材を、30%以上、80%以下の充填率の範囲で前記容器全体に略均等に充填してある電磁波吸収体。
【請求項2】
前記導電性繊維シート基材が短冊状又は筒状に形成されてある請求項1記載の電磁波吸収体。
【請求項3】
前記導電性繊維シート基材は、全体が矩形状で短手方向の長さが100mm以下であり、幅をW、長手方向の長さをLとした場合に、W/L<0.5を満たす請求項1又は2に記載の電磁波吸収体。
【請求項4】
前記導電性繊維シート基材同士の間にスペーサを介在させてある請求項1〜3のいずれか一項に記載の電磁波吸収体。
【請求項5】
前記導電性繊維シート基材に用いられる導電物質がポリピロールである請求項1〜4のいずれか一項に記載の電磁波吸収体。
【請求項6】
前記導電性繊維シート基材が、
合成繊維の不織布または布帛からなる繊維シート基材を準備する工程と、
前記繊維シート基材を、ドーパントを含む酸化剤水溶液で含浸する工程と、
含浸した前記繊維シート基材を気相の導電性高分子のモノマーと接触させ、酸化重合することにより、導電性高分子を少なくとも部分的に基材上に生成させることにより導電性繊維シートを作製する工程と、を含む製造工程を経て製造される請求項1〜5のいずれか一項に記載の電磁波吸収体。
【請求項7】
前記体積抵抗率Rが、50〜1000Ω・cmである請求項1〜6のいずれか一項に記載の電磁波吸収体。
【請求項8】
前記導電性繊維シート基材の充填率が、40〜70%である請求項1〜7のいずれか一項に記載の電磁波吸収体。
【請求項9】
前記導電性繊維シート基材の幅Wが、5〜20mmである請求項3記載の電磁波吸収体。
【請求項10】
前記導電性繊維シート基材の幅Wと長手方向の長さLとの比率であるW/Lが、0.02〜0.1である請求項3記載の電磁波吸収体。
【請求項11】
前記導電性繊維シート基材の密度ρが、25〜400kg/m3である請求項1〜10のいずれか一項に記載の電磁波吸収体。
【請求項1】
体積抵抗率Rが1Ω・cm≦R≦5000Ω・cmである導電性繊維シート基材を容器に充填する電磁波吸収体であって、
前記導電性繊維シート基材の密度をρ(kg/m3)、重量をG(kg)とした場合の体積Vを、V=G/ρとし、
前記容器の容積をV0とし、前記容器に対する前記導電性繊維シート基材の充填率を、V/V0×100と定義した場合に、
前記導電性繊維シート基材を、30%以上、80%以下の充填率の範囲で前記容器全体に略均等に充填してある電磁波吸収体。
【請求項2】
前記導電性繊維シート基材が短冊状又は筒状に形成されてある請求項1記載の電磁波吸収体。
【請求項3】
前記導電性繊維シート基材は、全体が矩形状で短手方向の長さが100mm以下であり、幅をW、長手方向の長さをLとした場合に、W/L<0.5を満たす請求項1又は2に記載の電磁波吸収体。
【請求項4】
前記導電性繊維シート基材同士の間にスペーサを介在させてある請求項1〜3のいずれか一項に記載の電磁波吸収体。
【請求項5】
前記導電性繊維シート基材に用いられる導電物質がポリピロールである請求項1〜4のいずれか一項に記載の電磁波吸収体。
【請求項6】
前記導電性繊維シート基材が、
合成繊維の不織布または布帛からなる繊維シート基材を準備する工程と、
前記繊維シート基材を、ドーパントを含む酸化剤水溶液で含浸する工程と、
含浸した前記繊維シート基材を気相の導電性高分子のモノマーと接触させ、酸化重合することにより、導電性高分子を少なくとも部分的に基材上に生成させることにより導電性繊維シートを作製する工程と、を含む製造工程を経て製造される請求項1〜5のいずれか一項に記載の電磁波吸収体。
【請求項7】
前記体積抵抗率Rが、50〜1000Ω・cmである請求項1〜6のいずれか一項に記載の電磁波吸収体。
【請求項8】
前記導電性繊維シート基材の充填率が、40〜70%である請求項1〜7のいずれか一項に記載の電磁波吸収体。
【請求項9】
前記導電性繊維シート基材の幅Wが、5〜20mmである請求項3記載の電磁波吸収体。
【請求項10】
前記導電性繊維シート基材の幅Wと長手方向の長さLとの比率であるW/Lが、0.02〜0.1である請求項3記載の電磁波吸収体。
【請求項11】
前記導電性繊維シート基材の密度ρが、25〜400kg/m3である請求項1〜10のいずれか一項に記載の電磁波吸収体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2012−38926(P2012−38926A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−177827(P2010−177827)
【出願日】平成22年8月6日(2010.8.6)
【出願人】(000215800)テイカ株式会社 (108)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年8月6日(2010.8.6)
【出願人】(000215800)テイカ株式会社 (108)
【Fターム(参考)】
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