説明

電磁鋼板の溝加工装置及び溝加工方法

【課題】電磁鋼板の板厚が変動しても表面に均一な溝形状を容易に形成する電磁鋼板の溝加工装置及び溝加工方法を提供すること。
【解決手段】電磁鋼板6の走行方向に基準押えローラ8、溝加工ローラ9、基準押えローラ10を備える。基準押えローラ8,10はその外周面で電磁鋼板6の表面を押え、溝加工ローラ9はその外周面に溝加工用の突起9aが形成されている。溝加工ローラ9に形成された突起9aの高さが基準押えローラ8,10の外周面の高さよりも所定量だけ突き出るように溝加工ローラ9の位置を調整して溝加工を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変圧器等の鉄心材料に使用される電磁鋼板の溝加工技術に係り、特に均一な溝深さを実現するための溝加工装置及び溝加工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
日本国内の変圧器に於いては、トップランナー制度導入に伴い、損失の少ない高効率変圧器の製造が義務化されている。更に、世界的にも地球温暖化対策としてCO削減の機運が高まっており、高効率変圧器の需要が増大している。変圧器の鉄心材料には一般に電磁鋼板が用いられるが、その損失(鉄損)を低減させる一手法として、電磁鋼板の表面に溝加工を施す技術(スクラッチ法)が知られている。すなわち、鋼板の表面に溝を形成することで磁区の細分化を図り、磁壁移動に伴う渦電流損を低減させるものである。
【0003】
特許文献1には、電磁鋼板の溝加工方法として、溝形成装置による機械加工の例が開示されている。この例では、円筒面に突起を有するローラにより、鋼板表面に線状の溝を形成するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−294416号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
表面に溝を形成した電磁鋼板(スクラッチ鋼板)は、溝なしの電磁鋼板と比べ電磁特性が優れるものの、材料単価が高く変圧器の原価高の要因となっている。また、表面に形成する溝形状(溝間隔と溝深さ)は電磁鋼板の磁区分割構造、すなわち鉄損の大きさに影響することになる。よって、損失の少ない高効率の変圧器を製造するためには、電磁鋼板の表面に所望の溝形状を容易に加工する技術が必要となる。
【0006】
特許文献1をはじめ従来のロール加工法では、電磁鋼板に形成される溝形状の精度を確保するのは困難といえる。例えば、電磁鋼板の板厚が変動すると、単純な2ロール挟持方式(ロール軸固定)では、溝深さが変動することは避けられず、安定した特性の電磁鋼板を得ることはできなかった。
【0007】
本発明の目的は、上記した課題に鑑み、電磁鋼板の板厚が変動しても表面に均一な溝形状を容易に形成する電磁鋼板の溝加工装置及び溝加工方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、電磁鋼板の表面に所定の深さの溝を加工する電磁鋼板の溝加工装置において、前記電磁鋼板の走行方向に第1、第2、第3のローラを備え、前記第1及び第3のローラはその外周面で前記電磁鋼板の表面を押える基準押えローラであり、前記第2のローラはその外周面に溝加工用の突起が形成された溝加工ローラであって、該第2のローラに形成された突起の高さが前記第1及び第2のローラの外周面の高さよりも所定量だけ突き出るように該第2のローラの位置を調整して溝加工を行う構成とする。
【0009】
本発明は、電磁鋼板の表面に所定の深さの溝を加工する電磁鋼板の溝加工方法において、前記電磁鋼板の走行方向に第1、第2、第3のローラを配し、前記第1及び第3のローラの外周面で前記電磁鋼板の表面を押え、前記第2のローラの外周面に溝加工用の突起を形成し、該第2のローラに形成された突起の高さが前記第1及び第2のローラの外周面の高さよりも所定量だけ突き出るように該第2のローラの位置を調整し、該第2のローラの突起により前記電磁鋼板に溝加工を行うものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、高精度で安定した溝形状を有する電磁鋼板が得られ、これを用いて高効率の変圧器を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係る電磁鋼板の溝加工装置の一実施例を含む、変圧器用鉄心製造装置の全体構成図。
【図2】溝加工部2内の溝加工ローラ9の形状を示す正面図と側面図。
【図3】電磁鋼板の溝加工を模式的に示す正面図。
【図4】溝加工部2内の複数のローラの構成を示す正面図と側面図。
【図5】基準押えローラ8,10と溝加工ローラ9の位置関係を示す正面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施例を図面を用いて説明する。
図1は、本発明に係る電磁鋼板の溝加工装置の一実施例を含む、変圧器用鉄心製造装置の全体構成図を示す。
鉄心製造装置の全体構成は、アンコイラ部1、溝加工部(溝加工装置)2、切断部3、巻取部4、及び排出部5を備えて構成されている。
【0013】
アンコイラ部1は、フープ状に巻かれた電磁鋼板(ケイ素鋼板)6を、巻かれた方向と逆方向に回転させることで溝加工部2へ電磁鋼板6を供給する。
溝加工部2は、下部ローラ7a〜7cと上部ローラ8〜10を有し、アンコイラ部1から供給された電磁鋼板6に溝加工を施す。溝加工部2には、形成した溝深さを測定する溝深さ測定センサ11を備えている。
【0014】
切断部3は、溝加工された電磁鋼板6aを切断刃13にて所定の長さに切断する。
巻取部4は、切断された電磁鋼板を所定枚重ね合わせて1ブロック6cとして投入し、ブロック毎に芯金14に巻き取る。そして、所定のブロック数の電磁鋼板を巻き取ることで、鉄心6dを得る。
排出部5は、鉄心6dの電磁鋼板をばらけないように溶接接合して排出する。このようにして、表面に溝加工を施した電磁鋼板からなる変圧器用鉄心を製造する。
【0015】
この工程中で、溝加工部2は電磁鋼板6に溝加工を施すものであるが、溝形状(溝深さと溝間隔)は電磁鋼板の性能(鉄損)に影響する重要な要素である。溝形状を高精度で且つ安定に加工を行うため、本実施例の溝加工部2は、溝加工ローラ9を含む複数のローラにより溝加工するとともに、加工した電磁鋼板の溝深さを測定する溝深さ測定センサ11を有する。
【0016】
図2〜図5は、本実施例の溝加工部(溝加工装置)2を詳細に説明する図である。具体例として、電磁鋼板(ケイ素鋼板)の板厚は0.2〜0.4mmの間で変動し、これに溝深さ18μm、溝間隔5mmの溝を形成するものとする。
【0017】
図2は、溝加工部2内の溝加工ローラ9の形状を示す正面図と側面図である。溝加工ローラ9は、直径約300mmの円筒面にスプライン状に突起9aを形成した構造である。突起9aの高さは約20μmで、円周方向の間隔は所望の溝間隔に合わせて例えば5mmとする。なお、突起9aをローラ軸に平行でなくスプライン状に配置したのは、突起9aにかかる荷重点がロール回転とともに軸方向に移動させることで、溝加工を連続的で滑らかに実行させるためである。
【0018】
図3は、電磁鋼板の溝加工を模式的に示す正面図である。電磁鋼板6は、回転する溝加工ローラ9と押当てローラ7bの間隙に引き込まれ、溝加工ローラ9の突起9aを電磁鋼板6の表面に食い込ませることで表面に溝6bを形成し、溝入り電磁鋼板6aとなって送り出す。そのとき、押当てローラ7bの位置(図面上下方向の位置)を固定し、押当てローラ7bの外周面に電磁鋼板6の裏面(非加工側)を押当てる。一方、後述するように、溝加工ローラ9の上下方向の位置を制御することで、突起9aを所定の深さだけ電磁鋼板6の表面に食い込ませるようにする。このようにして、電磁鋼板6aに対し均一な深さの溝6bを形成する。
【0019】
図4は、溝加工部2内の複数のローラの構成を示す正面図と側面図である。溝加工部2は、電磁鋼板の板厚が変動しても均一な溝深さで溝加工するために、電磁鋼板の走行面の下側に3個のローラ、上側に3個のローラをそれぞれ対向させて配置している。
【0020】
下側に配置する3個の押当てローラ7a,7b,7cには、電磁鋼板6の裏面が押当てられる。ローラ7a,7b,7cの外周面のなす面20を「押当て面」と呼ぶことにする。3個の押当てローラ7a,7b,7cを、それらの外周面の頂点位置が同一高さとなるよう調整することで、押当て面20が平面になるようにする。そして、調整後のローラ7a,7b,7cを下部ローラ支持体18にて固定する。
【0021】
上側に配置する3個のローラは、走行方向に、入口側基準押えローラ8、溝加工ローラ9、出口側基準押えローラ10の順に配置する。入口側基準押えローラ8と出口側基準押えローラ10は、電磁鋼板6の表面(加工側)を押える。ローラ8,10の外周面のなす面21を「基準押え面」と呼ぶことにする。電磁鋼板6に溝加工を行う溝加工ローラ9は、その下点位置(突起9aの高さ)がローラ8,10の基準押え面21の高さよりも溝加工の深さ分だけ突き出させるよう調整する。ここで溝加工ローラ9の上下方向の位置は、位置決めモータ15により所定の突出し量となるよう制御する。そして、調整後のローラ8,9,10を上部ローラ支持体19にて固定する。
【0022】
溝加工時は、上部ローラ支持体19を下降シリンダ16,17により下降させ、電磁鋼板6を基準押えローラ8,10と押当てローラ7a,7b,7cとで挟むようにする。その際、下降シリンダ16,17をそれぞれ独立に下降動作させることで、電磁鋼板6の板厚が途中で変化している場合にも、電磁鋼板6を上下のローラで隙間なく確実に挟み込むことができる。そして、溝加工ローラ9の突起9aにより、電磁鋼板6の表面に所定深さの溝加工を施すようにする。
【0023】
図5は、基準押えローラ8,10と溝加工ローラ9の位置関係を示す正面図である。入口側基準押えローラ8と出口側基準押えローラ10は、それらの外周面の下点8a,10aで電磁鋼板6の表面(加工側)に当接する。下点8a,10aを結ぶ面が基準押え面21である。一方溝加工ローラ9は、突起9aの先端の下点位置を、基準押え面21から溝加工の深さdだけ下方に突き出すように調整する。突起9aの先端位置が加工面22となる。
【0024】
このように本実施例では、基準押えローラ8,10で電磁鋼板の表面を押え、それらのローラ8,10の外周面の高さよりも所定量だけ突き出た突起を有する溝加工ローラ9で溝加工する構成である。すなわち、電磁鋼板の表面位置を基準面として溝加工するので、形成される溝深さは電磁鋼板の板厚によらず常に一定とすることができる。
【0025】
本実施例では、溝深さの精度をさらに向上させるために、溝加工した電磁鋼板の溝深さを測定し、目標値からずれた場合にこれを修正するフィードバック機能を設けている。図1の溝深さ測定センサ11は、例えばレーザ光による非接触表面形状測定器であり、加工後の溝深さを測定する。溝深さの測定値は、溝加工ローラ11の上下位置を制御しているシーケンサ等の制御部(図示せず)に送られる。制御部は、溝深さの測定値と目標値を比較し、その差分量に従い図4の位置決めモータ15を駆動して、溝深さが目標値になるように溝加工ローラ9の位置を修正する。
【0026】
これにより、図5の基準押えローラ8,10と溝加工ローラ9の位置関係、すなわち突起9aの突き出し量dが所定値からずれたとしても、直ちにこれを修正することができる。その結果、例えば、溝深さ18±2.5μmといった高精度の電磁鋼板を安定に供給することができ、これを用いて損失の少ない高効率の変圧器を製造することができる。
【0027】
また本実施例によれば、図1の鉄心製造装置において、溝加工部2により電磁鋼板に形成する溝深さを均一にするだけでなく、溝深さを任意に変化させることができる。これにより、例えば鉄心の内側では溝入り鋼板を用いて外側では溝なし鋼板を用いるような、鉄心内の部位によって溝の有無を組み合わせたハイブリッド鉄心や、鉄心の部位によって溝深さが異なるハイブリット鉄心を、1つの鉄心製造装置で製造することが可能となる。
【符号の説明】
【0028】
1…アンコイラ部
2…溝加工部
3…切断部
4…巻取部
5…排出部
6…電磁鋼板
6a…溝入り電磁鋼板
6b…溝
7a,7b,7c…押当てローラ
8…入口側基準押えローラ
9…溝加工ローラ
9a…突起
10…出口側基準押えローラ
11…溝深さ測定センサ
13…切断刃
14…芯金
15…位置決めモータ
16,17…下降シリンダ
18…下部ローラ支持部
19…上部ローラ支持部
20…基準押え面
21…押当て面
22…加工面
d…突起の突出し量。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁鋼板の表面に所定の深さの溝を加工する電磁鋼板の溝加工装置において、
前記電磁鋼板の走行方向に第1、第2、第3のローラを備え、
前記第1及び第3のローラはその外周面で前記電磁鋼板の表面を押える基準押えローラであり、
前記第2のローラはその外周面に溝加工用の突起が形成された溝加工ローラであって、
該第2のローラに形成された突起の高さが前記第1及び第2のローラの外周面の高さよりも所定量だけ突き出るように該第2のローラの位置を調整して溝加工を行うことを特徴とする電磁鋼板の溝加工装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電磁鋼板の溝加工装置において、
前記電磁鋼板の裏面側に、前記第1、第2、第3のローラに対向して第4、第5、第6のローラを備え、
該第4、第5、第6のローラの外周面は同一高さとなるよう調整され、該外周面に前記電磁鋼板の裏面を押当てて溝加工を行うことを特徴とする電磁鋼板の溝加工装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の電磁鋼板の溝加工装置において、
前記第2のローラの位置を調整する位置決めモータと、
前記電磁鋼板に加工された溝深さを測定する溝深さ測定センサとを備え、
該溝深さ測定センサにて測定された溝深さの値が目標値からずれたとき、前記位置決めモータを駆動して前記第2のローラの位置を修正することを特徴とする電磁鋼板の溝加工装置。
【請求項4】
電磁鋼板の表面に所定の深さの溝を加工する電磁鋼板の溝加工方法において、
前記電磁鋼板の走行方向に第1、第2、第3のローラを配し、
前記第1及び第3のローラの外周面で前記電磁鋼板の表面を押え、
前記第2のローラの外周面に溝加工用の突起を形成し、
該第2のローラに形成された突起の高さが前記第1及び第2のローラの外周面の高さよりも所定量だけ突き出るように該第2のローラの位置を調整し、
該第2のローラの突起により前記電磁鋼板に溝加工を行うことを特徴とする電磁鋼板の溝加工方法。
【請求項5】
請求項4に記載の電磁鋼板の溝加工方法において、
前記電磁鋼板に加工された溝深さを測定し、
該測定された溝深さの値が目標値からずれたとき、前記第2のローラの位置を修正することを特徴とする電磁鋼板の溝加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−136362(P2011−136362A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−297990(P2009−297990)
【出願日】平成21年12月28日(2009.12.28)
【出願人】(502129933)株式会社日立産機システム (1,140)
【Fターム(参考)】