説明

電線ないしは光ファイバ被覆用樹脂組成物、絶縁電線、光ファイバコード及び成形物品

【課題】成形加工性と優れた機械特性を有し、電線被覆材への適用が可能なポリブチレンサクシネート樹脂を含有する組成物およびそれを用いた絶縁電線、成形体等を提供する。
【解決手段】ポリブチレンサクシネート樹脂を含有する樹脂85〜15質量%、ポリアルキルメタクリレートとポリアルキルアクリレートとのブロック共重合体15〜85質量%である樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電気・電子機器の筐体やその内部および外部配線に使用される絶縁電線等を被覆するための樹脂組成物、ならびにその組成物で被覆した絶縁電線等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
非石油由来のプラスチック原料として、生分解性の特性を有する乳酸系のポリマーのトレイやプラスチック製の食器等の消費材への使用が期待されている(例えば、特許文献1参照。)。
しかしながら、これら乳酸系のポリマー等の非石油由来のプラスチック原料は耐久材用途への使用が困難であった。
一方、非石油由来のプラスチック原料としてポリエステル系のポリブチレンサクシネート樹脂の開発が行われている(例えば、特許文献2参照。)。
ところが、ポリブチレンサクシネート樹脂は剛直で成形加工性に乏しいことから、電子機器の筐体に使用することは出来なかった。また、さらに体積固有抵抗が非常に低いため、電線被覆材として使用することが難しく、耐久材用途のプラスチック材料として使用することは困難であった。
【特許文献1】特開平06−298236号公報
【特許文献2】特開2002−121299号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、上記の問題点に鑑み、優れた成形加工性と機械特性を有し、電線被覆材への適用が可能なポリブチレンサクシネート樹脂を含有する組成物およびそれを用いた絶縁電線、成形物品等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、ポリブチレンサクシネート樹脂をベース樹脂として用い、ポリアルキルメタクリレートとポリアルキルアクリレートとのブロック共重合体を含有させることで、成形加工性が改善されることを見出した。本発明はこの知見に基づきなされるに至ったものである。すなわち、本発明は、
(1)ポリブチレンサクシネート樹脂を含有する樹脂成分85〜15質量部%、及びポリアルキルメタクリレートとポリアルキルアクリレートとのブロック共重合体15〜85質量%を含有してなることを特徴とする樹脂組成物、
(2)前記(1)に記載の樹脂組成物を光ファイバの周りに被覆してなる光ファイバコードもしくは光ケーブル、
(3)前記(1)に記載の樹脂組成物を導体の周りに被覆してなる絶縁電線もしくはケーブル、及び
(4)前記(1)に記載の樹脂組成物を成形してなる成形物品
を提供するものである。
【発明の効果】
【0005】
本発明の樹脂組成物は、成形加工性と機械特性に優れ、電線等の被覆材として好適である。
本発明の絶縁電線もしくはケーブルは、前記樹脂組成物を導体の周りに被覆してなるので、機械特性、皮むき加工等の加工性、耐湿熱性、外観に優れる。
本発明の光ファイバコードもしくは光ケーブルは、前記樹脂組成物を光ファイバの周りに被覆してなるので、機械特性、皮むき加工等の加工性、耐湿熱性、外観に優れる。
本発明の成形物品は、前記樹脂組成物を成形してなるので、機械特性、切削加工等の加工性、耐湿熱性、外観に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
まず、本発明の樹脂組成物について説明する。
本発明の樹脂組成物は、ポリブチレンサクシネート樹脂を含有する樹脂成分85〜15質量部%、及びポリアルキルメタクリレートとポリアルキルアクリレートとのブロック共重合体15〜85質量%を含有してなる。
【0007】
a)ポリブチレンサクシネート樹脂
ポリブチレンサクシネート樹脂はコハク酸と1,4−ブタンジオールとを脱水縮合させるか、又はコハク酸と乳酸と1,4−ブタンジオールとを脱水縮合させることにより得られる。酸成分の一部としてアジピン酸やフタル酸を加えることにより改質することも可能である。
前記ポリブチレンサクシネート樹脂は三菱化学社よりGS−Pla(商品名)、昭和高分子社よりビオノーレ(商品名)として販売されている。
ポリブチレンサクシネート樹脂は押し出し成形される際は、MFR(190℃、2.16kg)で1〜8g/10分程度、射出成形なされる際は、3〜40g/10分程度の前記樹脂を用いることが好ましい。
【0008】
b)ポリアルキルメタクリレートとポリアルキルアクリレートのブロック共重合体
ポリアルキルメタクリレートとポリアルキルアクリレートとのブロック共重合体はハードセグメントをポリアルキルメタクリレート、ソフトセグメントをポリアルキルアクリレートとするエラストマーである。
前記ブロック共重合体中、ポリアルキルメタクリレートからなるハードセグメントの含有量は5〜75質量%であることが好ましく、15〜25質量%であることがより好ましい。
このポリアルキルメタクリレートとポリアルキルアクリレートとのブロック共重合体の含有量は樹脂成分100質量%中、15〜85質量%に制限され、25〜50質量%であることが好ましい。
前記ブロック共重合体の含有量が15質量%より少ないと耐加水分解性、端末加工性が著しく低下し、また体積固有抵抗が著しく悪くなる。逆に85質量%より多いと力学的強度が著しく低下する。
前記ポリアルキルメタクリレートとポリアルキルアクリレートとのブロック共重合体は、LA2250(商品名、クラレ社製)、LA2140(商品名、クラレ社製)等が市販されている。
【0009】
本発明において、前記ポリブチレンサクシネート樹脂、前記ポリアルキルメタクリレートとポリアルキルアクリレートとのブロック共重合体以外に必要により目的に応じて他の樹脂を混合しても良い。このような混合可能な樹脂として例えばポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂、エチレン−αオレフィン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体等のエチレン系共重合樹脂、スチレン系樹脂および/またはエラストマー、アクリル系樹脂および/またはエラストマー、各種変性樹脂などを混合しても良い。
なお、混合される樹脂はこれらの樹脂に限定されるものではない。
【0010】
本発明の樹脂組成物には、一般的に使用されている各種の添加剤、例えば、酸化防止剤、金属不活性剤、難燃(助)剤、充填剤、滑剤などを本発明の目的を損なわない範囲で適宜配合することが出来る。
前記酸化防止剤としては、4,4’−ジオクチル・ジフェニルアミン、N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリンの重合物などのアミン系酸化防止剤、ペンタエリスリチル−テトラキス(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン等のフェノール系酸化防止剤、ビス(2−メチル−4−(3−n−アルキルチオプロピオニルオキシ)−5−t−ブチルフェニル)スルフィド、2−メルカプトベンヅイミダゾールおよびその亜鉛塩、ペンタエリスリトール−テトラキス(3−ラウリル−チオプロピオネート)などのイオウ系酸化防止剤などが挙げられる。
金属不活性剤としては、N,N’−ビス(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル)ヒドラジン、3−(N−サリチロイル)アミノ−1,2,4−トリアゾール、2,2’−オキサミドビス−(エチル3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)などが挙げられる。
さらに難燃(助)剤、充填剤としては、金属水和物、ハロゲン系難燃剤、カーボン、クレー、酸化亜鉛、酸化錫、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化モリブデン、三酸化アンチモン、シリコーン化合物、石英、タルク、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ほう酸亜鉛、ホワイトカーボンなどがあげられる。
滑剤としては、炭化水素系、脂肪酸系、脂肪酸アミド系、エステル系、アルコール系、金属石けん系などが挙げられる。
【0011】
次に、本発明の電線、ケーブル、光ファイバコードおよび光ケーブル並びに成形物品について説明する。
本発明の樹脂組成物は射出成形、押し出し成形、ブロー成形等により成形物品に加工しえる。
本発明の絶縁電線並びに光ファイバコードは、本発明の樹脂組成物からなる被覆層を押出被覆等により導体(例えば軟銅製などの単線または撚線導体)又は光ファイバ素線上に有してなり、この被覆層が樹脂組成物で構成されたものである。
また本発明のケーブル並びに光ケーブルは本発明の樹脂組成物を絶縁電線或いは光ファイバ心線、素線、導体の外側に形成させることによって構成されたものである。
本発明の絶縁電線においては、樹脂組成物を被覆層の形成後に架橋させることが出来る。架橋の方法としては、常法による電子線架橋法や化学架橋法が採用できる。
本発明の絶縁電線、ケーブル、光ファイバコードもしくは光ケーブルにおいては、導体の周りに形成される絶縁被覆層(本発明の樹脂組成物からなる被覆層)の肉厚は特には限定しないが通常0.15mm〜3mmである。
なお、本発明の光ファイバコードないしは光ケーブルは本発明の樹脂組成物を被覆層として、光ファイバ心線またはコードの外周に被覆されたものすべてを包含し、特にその構造を制限するものではない。被覆層の厚さ、光ファイバコードに縦添えまたは撚り合わせる抗張力繊維の種類、量などは、光ファイバケーブルの種類、用途などによって異なり、適宜に設定することができる。
【0012】
また、本発明の樹脂組成物から通常の射出成形等の成形方法により、例えば、電源プラグ、コネクター、スリーブ、ボックス、テープ基材、チューブ、シート等の、主として電気的用途の部品を成形することができるが、その成形物品の種類、形状は制限されるものではない。
なお、シートやチューブ等についても電線被覆と同様な方法で押し出し可能であり、電線と同様、化学架橋法や電子線架橋法により架橋を行ってもよい。
【実施例】
【0013】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
なお、組成を示す「部」は特に記載がない場合、質量部を示す。
(実施例、比較例)
表1に実施例および比較例の樹脂組成物の各成分の含有量を示す。
まず、下記表1に示す各成分を室温(25℃)にてドライブレンドし、バンバリーミキサーを用いて溶融混練して、各絶縁被覆用樹脂組成物を用意した。
上記得られた樹脂組成物からTダイを用い、厚さ1mmのシートを成形した。さらに射出成形により3mm厚の板を成形した。
これにより本発明の樹脂組成物が各種成形物品製造に好適であることを確認した。
【0014】
次に、電線製造用の押出被覆装置を用いて、導体(導体系:0.8mmφ錫メッキ軟銅撚線 構成:1本/0.8mmφ)上に、予め溶融混練した絶縁被覆用樹脂組成物を押出し法により被覆して、各実施例、比較例に対応する絶縁電線を製造した。外径は1.65mmとした。
なお、表1に示す各成分は下記のものを使用した。
(1)ポリブチレンサクシネート樹脂
GS−Pla AZ91T(商品名、三菱化学社製)
(2)ポリアクリルメタクリレートとポリアクリルアクリレートとのブロック共重合体
LA2250(商品名、クラレ社製)
【0015】
得られた各絶縁電線に対して、以下の物性を測定した。得られた各実施例、比較例の結果を表1に示した。
1)引張試験
各絶縁電線から作成した被覆層の管状片をJIS C3005に基づき引張強さ(MPa)及び伸び(%)を、標線間20mm、引張速度500mm/分の条件で測定した。
引張強さは12MPa以上、伸びは200%以上必要である。
【0016】
2)湿熱後の引張試験
上記管状片を60℃、95%、1週間放置後、上記と同様な方法で引張試験を行った。
引張強さは10MPa以上、伸びは100%以上必要である。
【0017】
3)体積固有抵抗
前記各シートをJIS K 6723に基づき、体積固有抵抗(Ω・cm)の測定を行った。
前記体積固有抵抗は1.00E+10以上必要である。
4)加工性
V刃の自動加工機を用い、各絶縁電線について皮むき加工を行って加工性を試験した。皮むき長は10mmで行った。
○:10本中10本が加工できた絶縁電線。
△:10本中7本が加工できた絶縁電線。
×:10本中6本以下しか加工できなかった絶縁電線。
○と△を合格とした。
5)外観(成形加工性)
電線の外観を目視で観察し、外観が良好であったものを○、ざらざら又はサメ肌で外観が悪く製品レベルでないものを×で示した。
【0018】
【表1】

【0019】
表1から明らかなように、ポリブチレンサクシネート樹脂の含有量が本発明の範囲に満たない比較例1及び4の電線はいずれも、引張強さ、皮むき加工性に劣っていた。
また、ポリアルキルメタクリレートとポリアルキルアクリレートとのブロック共重合体の含有量が本発明の範囲に満たない比較例2及び3の電線はいずれも、伸び、特に湿熱後の伸びに劣っていた。特に比較例3の電線は、皮むき加工性、外観についても劣っていた。
これに対して、実施例1〜3の電線は、引張特性、体積固有抵抗、皮むき加工性、外観いずれの評価項目においても良好な結果が得られている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリブチレンサクシネート樹脂を含有する樹脂85〜15質量%、及びポリアルキルメタクリレートとポリアルキルアクリレートとのブロック共重合体15〜85質量%を含有してなることを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の樹脂組成物を導体の周りに被覆してなる絶縁電線もしくはケーブル。
【請求項3】
請求項1に記載の樹脂組成物を光ファイバの周りに被覆してなる光ファイバコードもしくは光ケーブル。
【請求項4】
請求項1に記載の樹脂組成物を成形してなる成形物品。


【公開番号】特開2008−195873(P2008−195873A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−34121(P2007−34121)
【出願日】平成19年2月14日(2007.2.14)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】