説明

電線マーキング用インク

【課題】ワイヤーハーネス用電線へのマーキング分野においても、充分応用可能な、印刷部分の、ポリエチレンなどのポリオレフィン系被覆層に対する高い接着性(着色性)と、高い耐摩耗性とを備えながら、良好な生産性、速乾性、及び、適度な広がり性が得られる電線マーキング用インクを提供する。
【解決手段】分子量が105000以上93000以下のアクリル樹脂成分が配合されている電線マーキング用インク。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被覆電線の種類、製造時期等を明確にするために被覆にマーキングを施す際に用いられる、電線マーキング用インクに関する。
【背景技術】
【0002】
被覆電線には用途に応じて、芯線の本数、太さ、材質、あるいは、被覆の種類など、必要に応じて様々な種類があり、取り扱い上の必要から、分類や管理のために、あるいは、搬送する信号の種類を区別するために、その被覆層表面に、線や点状のマーキングを施す。
【0003】
このとき、マーキングの間隔や長さ(電線長さ方向の長さ)、あるいは、色等を単独で、あるいは、組み合わせてマーキングする。
【0004】
ここで、従来はころ状の印刷機を回転させながら被覆電線の被覆層に接触させて行う、一種の印刷によるマーキングが行われていた。しかしながら、より迅速で、鮮明なマーキング処理が望まれていた。
【0005】
ここで、本発明者等は従来のマーキングより鮮明な印刷が可能で、かつ、迅速な処理が可能となることが予想されるインクジェット印刷の応用について検討を行った(国際公開WO2004/061871 A1(特許文献))。
【0006】
このとき用いるインクとしては、従来のころ状の印刷機に用いていたインクでは粘稠過ぎてインクジェットによる印刷ができず、このため、インクジェットに対応できる新たな電線マーキング用インクが求められていた。
【特許文献1】国際公開WO2004/061871A1公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記電線マーキング用インクの、印刷対象の被覆電線としては、燃焼させてもダイオキシン類を発生しない、エコ電線あるいはノンハロゲン電線、すなわち、ポリプロピレン、ポリエチレンなどのポリオレフィン系被覆層を有する電線に対応できることが望ましく、また、その中でも特に自動車用ワイヤーハーネスでも用いることができる電線とすることが望ましい。
【0008】
すなわち、自動車用ワイヤーハーネスに用いられる電線では、良好な生産性と、速乾性と適度な広がり性が求められる普通の被覆電線で求められるマーキングの性能に加え、自動車内と云う環境で用いられるため、電線束内で隣接する電線同士の摩擦が生じやすく、また、ワイヤーハーネス作製やワイヤーハーネス配索時にも様々なものとの摩擦が考えられるので、印刷部分の高い接着性(堅牢性)と、高い耐摩耗性とを満足する必要がある。
【0009】
本発明は、このような様々な条件をクリアする、すなわち、ワイヤーハーネス用電線へのマーキング分野においても、充分応用可能な、印刷部分の、ポリプロピレンやポリエチレンなどのポリオレフィン系被覆層に対する高い接着性(着色性)と、高い耐摩耗性とを備えながら、良好な生産性、速乾性、及び、適度な広がり性が得られる電線マーキング用インクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の電線マーキング用インクは上記課題を解決するため、請求項1に記載の通り、分子量が10500以上93000以下のアクリル樹脂成分が配合されていることを特徴とする。
【0011】
さらに、本発明の電線マーキング用インクは請求項1に記載の電線マーキング用インクにおいて、請求項2に記載のように、上記アクリル樹脂成分の分子量が30000以上40000以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に記載の電線マーキング用インクによれば、ハーネス用電線へのマーキング分野においても充分応用可能な、印刷部分の高い接着性(堅牢性)と、高い耐摩耗性とを備えながら、印刷時に求められる良好な生産性と、速乾性と適度な広がり性が得られる電線マーキング用インクを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の電線マーキング用インクにおいて、アクリル樹脂成分の他は、溶媒及び着色材料が配合される。
【0014】
溶媒としてはアクリル樹脂成分の溶解性、揮発性、取り扱い性等を勘案して用いるが、これらを満足するものとしてケトン類が挙げられる。具体的にはアセトン、メチルエチルケトン等のケトン類等である。また、メタノール、エタノールなどの揮発性の高いアルコール類等の、易揮発性溶媒が上記ケトン類に配合されていてもよい。
【0015】
着色成分としては、インクジェット用インクに配合されうる着色成分であれば良く、顔料、染料、あるいはこれらの中間的な着色材料などが用い得る。含有量としてはインクジェット印刷を施したときに、電線被覆層に明確なマーキングが可能な濃度で、かつ、インクジェット印刷可能な濃度であれば良い。
【0016】
ここで具体的には顔料としてはアクリル樹脂成分の溶剤に対して均一分散し、ノズル詰まりをおこなさないものを適宜選択して使用することができる。また、染料としては黄色系ではオイルイエロー129(C.I.ソルベントイエロー29)、オイルイエロー3G(C.I.ソルベントイエロー16)などが挙げられ、赤色系ではオイルレッド513(C.I.ソルベントレッド27)、オイルレッドRR(C.I.ソルベントレッド24)などが挙げられる。青色系ではオイルブルー2N(C.I.ソルベントブルー35)、ファストブルー1605(C.I.ソルベントブルー38)、黒色系ではオイルブラックHBB(C.I.ソルベントブラック8)、オイルブラックBS(C.I.ソルベントブラック7)などが挙げられ、これらはオリエント化学工業社等から入手できる。
【0017】
ここで、印刷対象の被覆層の色が濃色の場合には顔料や、顔料と染料との中間的な性格を持つ着色材料を用いることが望ましく、印刷対象の被覆層の色が白色や淡色の場合には染料であっても好適に使い得る。
【0018】
本発明の電線マーキング用インクにおいて、アクリル樹脂成分としてはポリメタクリル酸メチル、及び、ポリアクリル酸メチル及びその変性体が挙げられ、これらから選択して用いるが、2種以上を混合使用しても良い。
【0019】
また、本発明の電線マーキング用インクにおいて、用いるアクリル樹脂成分としては、マーキングの堅牢性を高める柔軟成分である、ゴム成分が予め配合されているアクリル樹脂成分を用いることもでき、このようなアクリル樹脂成分は旭化成社から入手可能である。
【0020】
本発明で用いるアクリル樹脂成分としては、分子量、すなわち、本発明においてはGPC法で測定される平均分子量が10500以上93000以下であることが必要である。分子量が10500未満であると耐摩耗性が不充分で、耐久性が著しく劣る。一方、分子量が93000超であると、電線の、ポリオレフィン系の被覆層との接着性に劣り、その結果、やはり耐久性が著しく劣る。ここで、好ましい分子量の範囲は30000以上140000以下である。
【0021】
本発明の電線マーキング用インクはこれら必須成分の他に、顔料等の分散成分の分散性を向上させる分散剤、粘度を調整するための粘度調整剤などを適量配合してもよい。
【0022】
本発明の電線マーキング用インクはこれら原料を均一になるよう攪拌・混合して溶解・分散させて得るが、そのとき、インクジェット用のノズル(直径0.03〜0.1mm)から適当な液量の液滴(10〜100nL)が吐出される粘度範囲に調整する。このような粘度範囲(使用温度での)としては通常0.1mPa・s以上2mPa・s以下であり、好ましい範囲は0.5mPa・s以上1.4mPa・s以下である。また、着色成分の配合量は、充分な視認性が得られる濃度以上とすることが必要である。
【0023】
本発明において用いるインクジェット方式としては、サーマルインクジェット方式、ピエゾ方式等、一般的に用いられる方式を用いることができる。また、ノズルから被印刷面までの距離もこれら方式で用いられる範囲で行う。
【0024】
本発明における被印刷面である電線被覆層には一般に用いられる電線被覆層であれば、特に制限はない。塩化ビニル被覆層を有する従来からの被覆電線であっても、燃焼させてもダイオキシン類を発生しない、エコ電線あるいはノンハロゲン電線、すなわち、ポリプロピレンやポリエチレンなどのポリオレフィン系被覆層を有する被覆電線であっても好適に用い得る。
【実施例】
【0025】
以下に本発明の電線マーキング用インクの実施例について具体的に説明する。
【0026】
<インク組成物の調製>
表1及び2にメーカー、型式、樹脂種類、分子量(GPCによる平均分子量)示すアクリル樹脂成分を用いて、これら表1及び2に示すように溶媒(アセトンまたはメチルエチルケトン(MEK))・配合比でインクジェット用のインクを調製した。
【0027】
【表1】

【0028】
【表2】

【0029】
【表3】

【0030】
なお、表1及び2中、アクリル樹脂成分として「メタクリル樹脂+ゴム」として記載されている旭化成社製SR8200はメタクリル樹脂7.5重量%に対してゴムを5重量%含有するものである。
【0031】
また綜研化学社製のMP1000及びMP1600における分子量は平均分子量ではなく、前者では分子量が2500000〜700000のポリアクリルメチルの混合物であり、後者は分子量が400000〜700000のポリアクリルメチルの混合物である。
【0032】
また、これらインク組成物において着色成分として用いたのはオリエント化学工業社製の青色の着色材料であるオイルブルーZN(C.I.ソルベントブルー35)およびファストブルー1605(C.I.ソルベントブルー38)である。
【0033】
<インク組成物の粘度:滴射性>
電線被覆に対してインクジェット印刷することを想定すると、粘度が1.5mPa・s未満であることが理想的であり、1.5mPa・s以上2mPa・s未満であれば好適に使用できる。2mPa・s以上3mPa・s未満であれば使用可能であるが、3mPa・s以上であると使用できない。
【0034】
ここで、上記インク組成物の粘度を25℃の温度条件下で音叉型振動式粘度計法によって測定した。このときの測定結果で粘度が1.5mPa・s未満である場合、滴射性を「◎」、1.5mPa・s以上2mPa・s未満であれば滴射性を「○」、2mPa・s以上3mPa・s未満であれば滴射性を「△」、3mPa・s以上である場合、滴射性を「×」として、それぞれ表1〜3に記載した。なお、滴射性が「×」であった組成物はインクジェット用インク組成物として用いることができないので以下の評価を行わなかった。
【0035】
<インク組成物によるマーキングでの着色性・耐こすれ性評価>
調製したインク組成物を用いて電線に印刷した。
【0036】
ノズル径が0.065mmのインクジェット印刷装置を用いて、ポリプロピレン被覆電線(外径:1.4mm、外観色:白)を長さ方向に移動させながら、乾燥後の膜厚が約10μmになるようにマーキングを行った。
【0037】
このとき、上記マーキングの形状、及び、その色が識別でき、かつ、そのマーキングを指の腹で強くこすっても剥がれなかったものを理想的であるとして「◎」、マーキングの形状、及び、その色が識別でき、かつ、そのマーキングを指の腹で強くこすった場合には剥がれが生じるものの、軽くこすった場合には剥がれが生じないものを使用可能として「○」、マーキング形状がはっきりせず色識別性が乏しく、軽くこすった場合にも剥がれが生じるものを使用可能として「△」、マーキング形状及び色の識別性が乏しく、軽くこすった場合にも剥がれが生じるものを使用不可能として「×」として評価した。これら結果を上記表1〜3に「着色性」として示す。
【0038】
ここで、着色性・耐こすれ性評価で「△」以上の良好な結果がえられたサンプルについて詳細に検討を行ったところ、マーキングの生産性に直接影響する上記電線の長さ方向の移動速度としては、従来のころ状の印刷機を用いたマーキングに比べて、格段に早い速度でも対応できる速乾性が得られ、かつ、そのマーキングにも明瞭な視認が可能な、適度な広がりが得られていることが確認された。
【0039】
<堅牢性の評価>
上記で施されたマーキングの摩耗に対する堅牢性の評価を次のようにして行った。
【0040】
すなわち、曲率R:37.5(15mm)の台の上に、台の曲面に沿わせてマーキングを施した被覆電線(1本)を、そのマーキングが上になるように固定する。
【0041】
三橋フェルト社製白フェルト2号(羊毛80%、厚さ3mm)を上方から、この電線に一定圧力で押しつけながら、電線に沿って一定距離間を30回往復動させた。
【0042】
その後にこの電線を観察して、そのマーキング形状が識別可能であり、インクの剥がれが全くない場合に自動車用ワイヤーハーネスでも用いることができる電線としても優れた堅牢性があるとして「◎」、インクの剥がれが多少あるもののマーキング形状が識別可能であるばあいには自動車用ワイヤーハーネスでも用いることができる電線としても優れた堅牢性があるとして「○」、インクの剥がれが多少あり、かつ、マーキング形状がはっきりしないものは、自動車用ワイヤーハーネスでも用いることができる電線として「△」、著しいインクの剥がれが発生し、マーキングが識別困難な場合には、自動車用ワイヤーハーネス用電線として用いることができないものであるとして「×」として、それぞれ評価した。評価結果を表1〜3に併せて示す。
【0043】
<評価まとめ>
表1及び表2によれば、インクジェット用として用いることができるインク組成物において分子量が10500以上93000以下のアクリル樹脂成分が配合されている、本発明に係る電線マーキング用インクによれば優れた着色性・耐こすれ性と高い堅牢性とを併せて得られることが判る。このとき、配合されるアクリル樹脂の分子量が、30000以上40000以下であると、より優れた結果が得られることが判る。
【0044】
また、電線としてポリプロピレン被覆層を有する電線の代わりに、ポリエチレン被覆層を有する電線(外径:1.4mm)を用いて上記同様に検討を行ったが、この場合にも良好な着色性と高い堅牢性が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の電線マーキング用インクは従来のころ状印刷機を用いたマーキングに比べ、生産性に優れるインクジェットによるマーキングに対応でき、そのとき、明瞭な視認が可能な、適度な広がりを有するマーキングが可能となり、かつ、優れた着色性と高い堅牢性とが得られるため、通常の被覆電線への応用は勿論、過酷な環境で用いられる自動車用ワイヤーハーネスへの応用も可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子量が10500以上93000以下のアクリル樹脂成分が配合されていることを特徴とする電線マーキング用インク。
【請求項2】
上記アクリル樹脂成分の分子量が30000以上40000以下であることを特徴とする請求項1に記載の電線マーキング用インク。
【請求項3】
粘度が2mPa・s未満であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の電線マーキング用インク。

【公開番号】特開2007−197645(P2007−197645A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−21209(P2006−21209)
【出願日】平成18年1月30日(2006.1.30)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】