説明

電線被覆材

【課題】絶縁性に代表される電気特性、吸水性、耐熱性、熱収縮性に優れた透明導体被覆材を得ることを目的とする。
【解決手段】透明導体被覆材としてポリフェニレンエーテル系樹脂と籠型シルセスキオキサン及び/または籠型シルセスキオキサンの部分開裂構造体よりなる樹脂組成物を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は耐熱性が高く、外観、難燃性、耐吸水性、機械的強度、絶縁性や誘電率や誘電正接などに代表される電気特性にも優れた透明導体被覆材に関するものであり、特に電線の被覆材に関する。
【背景技術】
【0002】
電線被覆材としては、ゴム、ポリ塩化ビニル、ポリオレフィン、ナイロン等が使用されており、主に難燃性や機械強度の点からポリ塩化ビニルが主に用いられている。しかし、電気・電子機器の小型化、薄膜化が進み、それに伴い、電気・電子機器内に使用される絶縁電線も導体の小型化、被覆材層の薄膜化が要求されているが、被覆材層が薄膜化するとその層の温度が上昇するために、電線被覆材には耐熱性が要求される。さらに、導体内を流れる信号も高周波数になっているため、特に被覆材の誘電率が高い場合には絶縁電線からの漏れ電流が増加するという問題があり、被覆材には特に高周波での誘電率の低いものが求められる。更に電線の挿入、結線状況を確実に目視確認ことや、デザイン性の面からも透明電線の要望が高まっている。
【0003】
電気特性がいい材料として、ポリフェニレンエーテル系樹脂を用いる様々な技術が提案されている。その例として、ポリフェニレンエーテルにスチレン系ブロック共重合体と難燃剤としての水和金属酸化物とを加えた組成物、ポリフェニレンエーテルにポリオレフィン系樹脂と、難燃剤として有機リン酸エステル化合物及び1,3,5−トリアジン誘導体とを加えた材料がそれぞれ電線被覆材として有用であることが開示されている。(特許文献1、2)
しかしながら、上記特許文献の電線被覆材の場合、耐熱性、難燃性、成型加工性のいずれかに課題を残している。
【0004】
耐熱性や難燃性に優れる電線被覆材として、ポリフェニレンエーテルにエチレン−エポキシ共重合体と難燃剤にメラミンシアヌレートを用いた組成物が電線被覆材として有用であることが開示されている。(特許文献3)
しかしながら、上記特許文献の電線被覆材の場合、不透明であり、また高周波での誘電特性及び、厚さが薄い材料での難燃性についての開示がない。
【特許文献1】特開平3−7755号公報
【特許文献2】特開平11−185532号公報
【特許文献3】特開2005−268082号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、こうした実情の下に透明性、耐熱性、難燃性、成形加工性に優れ、かつ導体内を流れる信号の高周波にも対応できる導体被覆材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題を達成する技術を鋭意検討した結果、ポリフェニレンエーテル系樹脂と籠状シルセスキオキサン及び/または籠状シルセスキオキサンの部分開裂構造体を配合した樹脂組成物を原料にして、押出成形機を用いて成形することにより、外観が良く、層剥離がなく、透明性、耐熱性、難燃性、耐吸水性、機械的強度に優れ、絶縁性や誘電率や誘電正接などに代表される電気特性にも優れた導体被覆材が得られることを見いだし、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、
(1)(a)ポリフェニレンエーテル系樹脂30〜99.9重量%と、(b)籠型シルセスキオキサン及び/又は籠型シルセスキオキサンの部分開裂構造体0.1〜70重量%を含む樹脂組成物を用いることを特徴とする導体被覆材。
(2) 該籠型シルセスキオキサン及び/又は籠型シルセスキオキサンの部分開裂構造体が
[RSiO3/2 (A)
(RSiO3/2(RXSiO) (B)
(一般式(A)、(B)において、Rは水素原子、炭素原子数1から6のアルコキシル基、アリールオキシ基、炭素原子数1から20の置換又は非置換の炭化水素基又はケイ素原子数1から10のケイ素原子含有基から選ばれ、複数のRは同一でも異なっていても良い;一般式(B)においてXはOR(Rは水素原子、アルキル基、アリール基、弟4級アンモニウムラジカル)、ハロゲン原子及び上記Rで定義された基の中から選ばれる基であり、複数のXは同じでも異なっていても良い、又(RXSiO)中の複数のXが互いに連結して連結構造を形成しても良い;nは6から14の整数、lは2から12の整数、kは2又は3である。)であること特徴とする(1)に記載の導体被覆材。
(3) 一般式(A)及び一般式(B)のR、Xの少なくとも一つは、1)不飽和炭化水素結合を含有する基、あるいは、2)窒素原子及び酸素原子の少なくとも1つを含有する極性基を有する基である(2)に記載の導体被覆材。
(4) 厚さ0.1mmのシートとしたときの全光線透過率が70%以上であり、ヘイズが20以下であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の導体被覆材からなるシート。
(5) (1)〜(3)のいずれかに記載の導体被覆材で被覆された電線。
(6) 該電線の周囲に(1)〜(3)のいずれかに記載の導体被覆材を溶融押出しして該電線を被覆することを特徴とする該電線の被覆方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明により外観が良く、層剥離がなく、耐熱性、難燃性、耐吸水性、機械的強度に優れ、絶縁性や誘電率や誘電正接などに代表される電気特性にも優れた導体被覆材、特に電線の被覆材を提供することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本願発明について具体的に説明する。
【0009】
本発明の(a)ポリフェニレンエーテル系樹脂とは、下記(式1)の繰り返し単位構造からなり、還元粘度(0.5g/dl、クロロホルム溶液、30℃測定)が、0.15〜1.0dl/gの範囲にあるホモ重合体及び/または共重合体である。さらに好ましい還元粘度は、0.20〜0.70dl/gの範囲、最も好ましくは0.40〜0.60の範囲である。
【0010】
【化1】

【0011】
(R1、R4は、それぞれ独立して、水素、第一級もしくは第二級の低級アルキル、フェニル、アミノアルキル、炭化水素オキシを表わす。R2、R3は、それぞれ独立して、水素、第一級もしくは第二級の低級アルキル、フェニルを表わす。)
このポリフェニレンエーテル系樹脂の具体的例としては、ポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレンエーテル)、ポリ(2-メチル-6-エチル-1,4-フェニレンエーテル)、ポリ(2-メチル-6-フェニル-1,4-フェニレンエーテル)、ポリ(2,6-ジクロロ-1,4-フェニレンエーテル)等が挙げられ、さらに、2,6-ジメチルフェノールと他のフェノール類(例えば、2,3,6-トリメチルフェノールや2-メチル-6-ブチルフェノール)との共重合体のようなポリフェニレンエーテル共重合体も挙げられる。中でもポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレンエーテル)、2,6-ジメチルフェノールと2,3,6-トリメチルフェノールとの共重合体が好ましい。
本発明で使用する(a)ポリフェニレンエーテルの製造方法の例として、米国特許第3306874号明細書記載の第一銅塩とアミンのコンプレックスを触媒として用い、2,6-キシレノールを酸化重合する方法がある。
米国特許第3306875号、同第3257357号および同第3257358号の各明細書、特公昭52-17880号および特開昭50-51197号および同63-152628号の各公報等に記載された方法も(a)ポリフェニレンエーテルの製造方法として好ましい。
【0012】
本発明の(a)ポリフェニレンエーテル系樹脂は、重合行程後のパウダーのまま用いてもよいし、押出機などを用いて、窒素ガス雰囲気下あるいは非窒素ガス雰囲気下、脱揮下あるいは非脱揮下にて溶融混練することでペレット化して用いてもよい。
【0013】
本発明の(a)ポリフェニレンエーテル系樹脂は、種々のジエノフィル化合物により官能化されたポリフェニレンエーテルも含まれる。種々のジエノフィル化合物には、例えば無水マレイン酸、マレイン酸、フマル酸、フェニルマレイミド、イタコン酸、アクリル酸、メタクリル酸、メチルアリレート、メチルメタクリレート、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、ステアリルアクリレート、スチレンなどの化合物が挙げられる。
さらにこれらジエノフィル化合物により官能化する方法としては、ラジカル発生剤存在下あるいは非存在下で押出機などを用い、脱揮下あるいは非脱揮下にて溶融状態で官能化してもよい。あるいはラジカル発生剤存在下あるいは非存在下で、非溶融状態、すなわち室温以上、かつ融点以下の温度範囲にて官能化してもよい。この際、ポリフェニレンエーテルの融点は、示差熱走査型熱量計(DSC)の測定において、20℃/分で昇温するときに得られる温度-熱流量グラフで観測されるピークのピークトップ温度で定義され、ピークトップ温度が複数ある場合にはその内の最高の温度で定義される。
【0014】
本発明の(a)ポリフェニレンエーテル系樹脂には、ポリフェニレンエーテル樹脂単独又はポリフェニレンエーテル樹脂と芳香族ビニル系重合体との混合物であり、さらに他の樹脂が混合されたものも含まれる。芳香族ビニル系重合体とは、例えば、アタクティックポリスチレン、ハイインパクトポリスチレン、シンジオタクティックポリスチレン、アクリロニトリル-スチレン共重合体などが挙げられる。ポリフェニレンエーテル樹脂と芳香族ビニル系重合体との混合物を用いる場合は、ポリフェニレンエーテル樹脂と芳香族ビニル系重合体との合計量に対して、ポリフェニレンエーテル樹脂が70wt%以上、好ましくは80wt%以上である。
【0015】
次に、本発明に使用する籠状シルセスキオキサン及びその部分開裂構造体について説明する。
【0016】
シリカがSiOで表されるのに対し、シルセスキオキサンは[R’SiO3/2]で表される化合物である。シルセスキオキサンは通常はR’SiX(R’=水素原子、有機基、シロキシ基、X=ハロゲン原子、アルコキシ基)型化合物の加水分解−重縮合で合成されるポリシロキサンであり、分子配列の形状として、代表的には無定形構造、ラダー状構造、籠状(完全縮合ケージ状)構造あるいはその部分開裂構造体(籠状構造からケイ素原子が一原子欠けた構造や籠状構造の一部ケイ素−酸素結合が切断された構造)等が知られている。
本発明者は、各種有機ケイ素化合物のポリフェニレンエーテル系樹脂への添加効果を詳細に検討した。その結果、各種有機ケイ素化合物の中でも特定の構造の籠状シルセスキオキサン又は/及び籠状シルセスキオキサンの部分開裂構造体をポリフェニレンエーテル系樹脂に、添加しフィルム成型を行った場合に、安定的に高品質のフィルムを製造でき、耐熱性、耐吸水性、絶縁特性、難燃性に優れた成形体を与える電気絶縁性を有する導体被覆材が得られる事を見いだし、本発明を完成させた。ここで高品質とは、例えば外観、厚み均一性のことである。
本発明に使用される籠状シルセスキオキサンの具体的構造の例としては、例えば、下記の一般式(A)で表される籠状シルセスキオキサンが挙げられる。又、本発明に使用される籠状シルセスキオキサンの部分開裂構造体の具体的構造の例としては、例えば、下記の一般式(B)で表される籠状シルセスキオキサンの部分開裂構造体が挙げられる。しかしながら、本発明に使用される籠状シルセスキオキサンあるいはその部分開裂構造体の構造は、これらの構造に限定されるものではない。
【0017】
[RSiO3/2 (A)
(RSiO3/2(RXSiO) (B)
一般式(A)、(B)において、Rは水素原子、炭素原子数1から6のアルコキシル基、アリールオキシ基、炭素原子数1から20の置換又は非置換の炭化水素基又はケイ素原子数1から10のケイ素原子含有基から選ばれ、Rは全て同一でも複数の基で構成されていても良い。
【0018】
本発明で用いられる一般式(A)で表される籠状シルセスキオキサンの例としては[RSiO3/2の化学式で表されるタイプ(下記一般式(3))、[RSiO3/2の化学式で表されるタイプ(下記一般式(4))、[RSiO3/210の化学式で表されるタイプ(例えば下記一般式(5))、[RSiO3/212の化学式で表されるタイプ(例えば下記一般式(6))、[RSiO3/214の化学式で表されるタイプ(例えば下記一般式(7))が挙げられる。
【0019】
一般式(3)
【化2】





【0020】
一般式(4)
【化3】




【0021】
一般式(5)
【化4】




【0022】
一般式(6)
【化5】





【0023】
一般式(7)
【化6】




【0024】
本発明の一般式(A)[RSiO3/2で表される籠状シルセスキオキサンにおけるnの値としては、6から14の整数であり、好ましくは8,10あるいは12であり、より好ましくは、8、10または8,10の混合物あるいは8,10,12の混合物であり、特に好ましくは8又は10である。
【0025】
また、本発明では、籠状シルセスキオキサンの一部のケイ素−酸素結合が部分開裂した構造か、又は、籠状シルセスキオキサンの一部が脱離した構造、あるいはそれらから誘導される、一般式(B)[RSiO3/2(RXSiO)(lは2から12の整数であり、kは2又は3である。)で表される籠状シルセスキオキサンの部分開裂構造体を用いることもできる。
【0026】
一般式(B)においてXはOR(Rは水素原子、アルキル基、第4級アンモニウムラジカル)、ハロゲン原子及び上記Rで定義された基の中から選ばれる基であり、複数のXは同じでも異なっていても良い。又(RXSiO)中の複数のXが互いに連結して連結構造を形成しても良い。ここで、lは2から12の整数、好ましくは4から10の整数、特に好ましくは4、6又は8である。kは2又は3である。
【0027】
(RXSiO)中の2個又は3個のXは、同一分子中の他のXと互いに連結して各種の連結構造を形成しても良い。その、連結構造の具体例を以下に説明する。
【0028】
一般式(B)の同一分子中の2個のXは一般式(8)で示される分子内連結構造を形成しても良い。さらに、それぞれ異なった分子中に存在する2個のXが互いに連結して、上記一般式(8)で表される連結構造により複核構造を形成しても良い。
【0029】
一般式(8)
【化7】


【0030】
Y及びZはXと同じ基の群の中から選ばれ、YとZは同じでも異なっていても良い。
【0031】
一般式(B)で表される化合物における上記の各種の連結構造のうちでは、一般式(8)で表される連結構造が、合成が容易であり好ましい。
【0032】
本発明で使用される一般式(B)で表される化合物の例としては、例えば一般式(4)の一部が脱離した構造であるトリシラノール体あるいは、それからから合成される(RSiO3/2(RXSiO)の化学式で表されるタイプ(例えば、下記一般式(9))、一般式(9)あるいは(RSiO3/2(RXSiO)の化学式の化合物の中の3個のXのうち2個のXが一般式(1)で示される連結構造を形成するタイプ(例えば、下記一般式(10))、一般式(4)の一部が開裂したジシラノール体から誘導される(RSiO3/2(RXSiO)の化学式で表されるタイプ(例えば、下記一般式(11)及び(12))、一般式(11)あるいは(RSiO3/2(RXSiO)の化学式の化合物の中の2個のXが一般式(8)で示される連結構造を形成するタイプ(例えば、下記一般式(13))等が挙げられる。一般式(9)から(13)中の同一ケイ素原子に結合しているRとXあるいはYとZはお互いの位置を交換したものでもよい。さらに、それぞれ異なった分子中に存在する2個のXが互いに連結して、上記一般式(8)で代表される各種の連結構造により複核構造を形成しても良い。
【0033】
これらの各種の籠状シルセスキオキサンあるいはその部分開裂構造体は、それぞれ単独で用いてもいいし、複数の混合物として用いても良い。
【0034】
一般式(9)
【化8】





【0035】
一般式(10)
【化9】




【0036】
一般式(11)
【化10】






【0037】
一般式(12)
【化11】






【0038】
一般式(13)
【化12】

【0039】
本発明に使用される一般式(A)及び/又は一般式(B)で表される化合物におけるRの種類としては水素原子、炭素原子数1から6のアルコキシル基、アリールオキシ基、炭素原子数1から20の置換又は非置換の炭化水素基、またはケイ素原子数1から10のケイ素原子含有基が挙げられる。
【0040】
炭素原子数1から6のアルコキシル基の例としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロピルオキシ基、i−プロピルオキシ基、n−ブチルオキシ基、t−ブチルオキシ基、n−ヘキシルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基等が挙げられる。アリールオキシ基の例としては、フェノキシ基、2,6−ジメチルフェノキシ基等が挙げられる。一般式(A)又は一般式(B)の化合物の1分子中のアルコキシル基及びアリールオキシ基の数は合計で好ましくは3以下、より好ましくは1以下である。
【0041】
炭素数1から20までの炭化水素基の例としてはメチル、エチル、n―プロピル、i-プロピル、ブチル(n−ブチル、i−ブチル、t−ブチル、sec-ブチル)、ペンチル(n―ペンチル、i−ペンチル、ネオペンチル、シクロペンチル等)、ヘキシル(n−ヘキシル、i−ヘキシル、シクロヘキシル等)、ヘプチル(n−ヘプチル、i−ヘプチル等)、オクチル(n−オクチル、i−オクチル、t―オクチル等)、ノニル(n−ノニル、i−ノニル等)、デシル(n−デシル、i−デシル等)、ウンデシル(n−ウンデシル、i−ウンデシル等)、ドデシル(n−ドデシル、i−ドデシル等)等の非環式又は環式の脂肪族炭化水素基、ビニル、プロペニル、ブテニル、ペンテニル、ヘキセニル、シクロヘキセニル、シクロヘキセニルエチル、ノルボルネニルエチル、ヘプテニル、オクテニル、ノネニル、デセニル、ウンデセニル、ドデセニル、スチレニル等の非環式及び環式アルケニル基、ベンジル、フェネチル、2−メチルベンジル、3−メチルベンジル、4−メチルベンジル等のアラルキル基、PhCH=CH−基のようなアラアルケニル基、フェニル基、トリル基あるいはキシリル基のようなアリール基、4−アミノフェニル基、4−ヒドロキシフェニル基、4−メトキシフェニル基、4−ビニルフェニル基のような置換アリール基等が挙げられる。
【0042】
これらの炭化水素基の中でも、特に炭素数2から20の脂肪族炭化水素基、炭素数2から20のアルケニル基の数が、全R、X、Y、Zにしめる割合が大きい場合には特に良好な成形時の溶融流動性が得られる。またRが脂肪族炭化水素基及び/又はアルケニル基の場合には、成形時の溶融流動性、難燃性及び操作性のバランスがいいものとして、R中の炭素数は通常20以下、好ましくは16以下、より好ましくは12以下である。
【0043】
又、本発明に使用されるRとしてはこれらの各種の炭化水素基の水素原子又は主査骨格の一部がエーテル結合、エステル基(結合)、水酸基、チオール基、チオエーテル基、カルボニル基、カルボキシル基、カルボン酸無水物結合、チオール基、チオエーテル結合、スルホン基、アルデヒド基、エポキシ基、アミノ基、置換アミノ基、アミド基(結合)、イミド基(結合)、イミノ基、ウレア基(結合)、ウレタン基(結合)、イソシアネート基、シアノ基等の極性基(極性結合)あるいはフッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子等から選ばれる置換基で部分置換されたものでも良い。
一般式(A)及び(B)におけるR中の置換又は非置換の炭化水素基中の置換基も含めた全炭素原子数としては、通常は20以下のものが使用されるが、フィルムの特性バランスがよいものとしては、好ましくは16以下、特に好ましくは12以下のものが使用される。
【0044】
Rとして採用されるケイ素原子数1〜10のケイ素原子含有基としては、広範な構造のものが採用される。当該ケイ素原子含有基中のケイ素原子数としては、通常1〜10の範囲であるが、好ましくは1〜6の範囲、より好ましくは1〜3の範囲である。ケイ素原子の数が大きくなりすぎると籠状シルセスキオキサン化合物は粘ちょうな液体となり、ハンドリングや精製が困難になるので好ましくない。
【0045】
なお、ポリフェニレンエーテル系樹脂フィルムの量産性向上効果とフィルムの特性向上効果の両方とも特に優れた効果を示す別の化合物の群としては、一般式(A)及び一般式(B)で表される化合物の中でも、一般式(A)及び/又は一般式(B)のR、X、Y、Zの少なくとも一つは、1)不飽和炭化水素結合を含有する基、あるいは、2)窒素原子及び/又は酸素原子を含有する極性基を有する基である化合物の群が挙げられる。ここで、R、X、Y、Zが複数の種類の基で構成されている場合には、その中の少なくとも一つが上記の1)又は2)の基であればよい。
【0046】
上記1)の不飽和炭化水素結合を含有する基の例としては、ビニル、プロペニル、ブテニル、ペンテニル、ヘキセニル、シクロヘキセニル、シクロヘキセニルエチル、ノルボルネニル、ノルボルネニルエチル、ヘプテニル、オクテニル、ノネニル、デセニル、ウンデセニル、ドデセニル、スチレニル、スチリル等の非環式及び環式アルケニル基、アルキニル基、あるいはこれらの基を含有する基が挙げられる。上記の不飽和炭化水素結合を含有する基の具体例としては、例えばビニル基、アリル基、2−(3,4−シクロヘキセニル)エチル基、3,4−シクロヘキセニル基、ジメチルビニルシロキシ基、ジメチルアリルシロキシ基、(3−アクリロイルプロピル)ジメチルシロキシ基、(3−メタクリロイルプロピル)ジメチルシロキシ基等が挙げられる。
【0047】
また、上記2)の窒素原子及び/又は酸素原子を含有する極性基を有する基の例としてはエーテル結合、エステル結合、水酸基、カルボニル基、アルデヒド基、エポキシ基(結合)、アミノ基、置換アミノ基、アミド基(結合)、イミド基(結合)、イミノ基、シアノ基、ウレア基(結合)、ウレタン基(結合)、イソシアネート基等を含む基が挙げられる。その中でも、特に、アミノ基あるいはその誘導体、あるいはエーテル基(エポキシ基も含む)を含有する基が好ましい。上記のアミノ基誘導体の例としては、例えば、モノアルキルアミノ基、2−ヒドロキシエチルアミノ基、ジアルキルアミノ基等の各種置換アミノ基、アミド基、イミド基、イミノ基、ウレア基等が挙げられる。
【0048】
上記のアミノ基あるいはその誘導体を含有する基の具体例としては、例えば、3−アミノプロピル基(HNCHCHCH−)、MeNCHCHCH−、MeC=NCHCHCH−、ーCHCHNH、3−アミノプロピルジメチルシロキシ基(HNCHCHCHMeSiO−)、HNCHCHCHMe(HO)SiO−、3−(2−アミノエチルアミノ)プロピル基(HNCHCHNHCHCHCH−)、MeHNCHCHNHCHCHCH−、MeC=NCHCHNHCHCHCH−、HOCHCHHNCHCHNHCHCHCH−、CH3COHNCHCHNHCHCHCHMeSiO−、3−(2−アミノエチルアミノ)プロピルジメチルシロキシ基(HNCHCHNHCHCHCHMeSiO−)、HNCHCHNHCHCHCHMe(HO)SiO−が挙げられる。また、上記のエーテル基(エポキシ基も含む)を含有する基の具体例としては、例えば、3−グリシジルオキシプロピル基、3−グリシジルオキシプロピルジメチルシロキシ基、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル基、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルジメチルシロキシ基、CHOCHCHCH−、HOCHCHOCHCHCH−等が挙げられる。
一般式(A)および一般式(B)におけるR、X、Y、Zの中から選ばれる少なくとも一つの官能基が上記のアミノ基を含有する一般式(A)の籠状シルセスキオキサン及び/又は一般式(B)で表される籠状シルセスキオキサンの部分開裂構造体が導体被覆材を用いる時のバランスが良いため、好ましい。
一般式(A)および一般式(B)におけるR、X、Y、Zはそれぞれ独立に各種の構造を取りうるし、又、R、X、Y、Zはそれぞれ複数の基からなっていてもよい。
【0049】
本発明の籠状シルセスキオキサンは例えばBrownらのJ.Am.Chem.Soc.1965,87,4313や、FeherらのJ.Am.Chem.Soc.1989,111,1741あるいはOrganometallics 1991,10,2526などの方法で合成することができる。例えばシクロヘキシルトリエトキシシランを水/メチルイソブチルケトン中で触媒にテトラメチルアンモニウムヒドロキサイドを加えて反応させることにより結晶として得られる。また一般式(9)(X=OH)、一般式(11)(X=OH)、一般式(12)(X=OH)で表されるトリシラノール体及びジシラノール体は完全縮合型の籠状シルセスキオキサンを製造する際に同時に生成するか、一度完全縮合型の籠状シルセスキオキサンからトリフルオロ酸やテトラエチルアンモニウムヒドロキサイドによって部分切断することでも合成できる(FeherらのChem.Commun.,1998,1279参照)。また、さらに、一般式(9)(X=OH)の化合物は、RSiT(T=Clまたはアルコキシル基)型化合物から、直接合成することも出来る。
【0050】
一般式(4)で8個のRのうち、1個のRのみ異なった置換基R´を導入する方法としては一般式(9)(X=OH)で表されるトリシラノール化合物とR´SiCl等を反応させて合成する方法が挙げられる。そのような合成法の具体例としては、例えば一般式(9)(R=シクロヘキシル基、X=OH)で表される籠状シルセスキオキサンの部分開裂構造体を上記の方法で合成した後、テトラヒドロフラン溶液中で、HSiCl1当量と一般式(9)(R=シクロヘキシル、X=OH)で表される籠状シルセスキオキサンの部分開裂構造体1当量の混合物に、3当量のトリエチルアミンを加えることによって合成することができる。(例えばBrownらのJ.Am.Chem.Soc.1965,87,4313参照)
一般式(B)で示される籠状シルセスキオキサンの部分開裂構造体で、Xとしてケイ素原子含有基を導入する方法の具体例としては、例えば一般式(9)(R=シクロヘキシル基、X=OH)で示される籠状シルセスキオキサンの部分開裂構造体1当量対して、テトラヒドロフラン中で、3当量のトリエチルアミンと3当量のトリメチルクロロシランを加えることによって、XとしてMeSiO―基を導入した化合物を製造する方法が挙げられる。(例えばJ.Am.Chem.Soc.1989,111,1741参照)
本発明の籠状シルセスキオキサンの構造解析は、X線構造解析(LarssonらのAlkiv Kemi 16,209(1960))で行うことができるが、簡易的には赤外吸収スペクトルやNMRを用いて同定を行うことができる。(例えばVogtらのInorga.Chem.2,189(1963)参照)
本発明に用いられる一般式(A)で表される籠状シルセスキオキサンあるいは一般式(B)で表される籠状シルセスキオキサンの部分開裂構造体はそれぞれ単独で用いても良いし、2種類以上の混合物として用いても良い。また更に籠状シルセスキオキサン及び籠状シルセスキオキサンの部分開裂構造体を混合して使用しても良い。
【0051】
また、本発明に用いられる籠状シルセスキオキサン、籠状シルセスキオキサンの部分開裂構造体、又はその混合物はそれ以外の他の構造を有する有機ケイ素系化合物と組み合わせで使用しても良い。この場合の他の構造を有する有機ケイ素系化合物の例としては、例えば、ポリジメチルシリコーン、ポリジメチル/メチルフェニルシリコーン、アミノ基や水酸基等の極性置換基を含有した置換シリコーン化合物、無定形ポリメチルシルセスキオキサン、各種ラダー型シルセスキオキサン等が挙げられる。その場合、混合物の組成比の制限は特にないが、通常は上記混合物における籠状シルセスキオキサンあるいは/およびその部分開裂構造体の割合は、好ましくは10重量%以上で使用され、より好ましくは30重量%以上で使用され、特に好ましくは50重量%以上で使用される。
【0052】
本発明に使用される一般式(A)、(B)及び(3)から(13)で表される籠状シルセスキオキサンあるいは籠状シルセスキオキサンの部分開裂構造体の替わりに、籠を形成していない無定形なポリシルセスキオキサンをポリフェニレンエーテル系樹脂組成物の添加剤として用いた場合は、安定的に高品質の電気絶縁性の導体被覆材を製造することが難しく、得られた導体被覆材として用いる際の特性バランスも悪い。ここで特性バランスとは特に、外観と難燃性と透明性のバランスのことである。
【0053】
本発明の電気絶縁性の導体被覆材中の一般式(A)で表される籠状シルセスキオキサン、一般式(B)で表される籠状シルセスキオキサンの部分開裂構造体、又はこれらの混合物の含有量は好ましくは0.1重量%以上90重量%以下である。より好ましくは0.1重量%以上50重量%以下の範囲、更に好ましくは0.5重量%以上30重量%以下の範囲、特に好ましくは0.5重量%以上15重量%以下が使用される。上記範囲より添加量が少ない場合は安定的に高品質の電気絶縁性の導体被覆材を得るのが難しく、得られた電気絶縁性の導体被覆材特性のバランスも悪い。上記範囲より多い場合には耐熱性や機械的強度などの物性値が下がるため好ましくない。本発明の電気絶縁性の導体被覆材において、後述の実施例で具体的に示されるように、一般式(A)で表される籠状シルセスキオキサン、一般式(B)で表される籠状シルセスキオキサンの部分開裂構造体、又はこれらの混合物は、極めて少量の添加量で特定の範囲でダイ温度を調整すれば、安定的に高品質のフィルムを得ることが可能な優れた量産性向上効果を示す。したがって、この組成物においては、従来公知である他の添加剤使用の場合と異なり、ポリフェニレンエーテル樹脂本来の特長である高耐熱性や良好な機械的特性をほとんど損なわずに安定的に高品質な電気絶縁性の導体被覆材を得られるという工業的に極めて大きなメリットがある。
【0054】
本発明の電気絶縁性の導体被覆材には更に難燃助剤として、特定の構造の環状窒素化合物を加えることが出来る。本発明に用いられる環状窒素化合物とは、基本的に分子中にトリアジン骨格を有する化合物およびメラミン誘導体である。その具体例としては、好ましくは、メラミン誘導体であるメラミン、メレム、メロンが挙げられる。その中でも、揮発性が低いという点でメレム及びメロンがより好ましい。当該環状窒素化合物は、難燃性向上効果発現の為には微粉化されたものが好ましい。微粉化された粒子径は、好ましくは平均粒子径30μm以下、より好ましくは0.05〜5μmに微粉化されたものである。
【0055】
上記環状窒素化合物の含有量は0.1重量%以上、20重量%以下の範囲が好ましく、より好ましくは0.2重量%以上10重量%以下の範囲である。上記範囲より添加量が少ない場合は難燃性に対する効果が小さく、上記範囲より添加量が多い場合は機械的物性が下がるため好ましくない。
【0056】
本発明では、上記の成分の他に、本発明の特徴および効果を損なわない範囲で必要に応じて他の附加的成分、例えば、酸化防止剤、難燃剤(有機リン酸エステル系化合物、フォスファゼン系化合物)、エラストマー(エチレン/プロピレン共重合体、エチレン/1-ブテン共重合体、エチレン/プロピレン/非共役ジエン共重合体、エチレン/アクリル酸エチル共重合体、エチレン/メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン/酢酸ビニル/メタクリル酸グリシジル共重合体およびエチレン/プロピレン-g-無水マレイン酸共重合体、ABSなどのオレフィン系共重合体、ポリエステルポリエーテルエラストマー、ポリエステルポリエステルエラストマー、ビニル芳香族化合物-共役ジエン化合物ブロック共重合体、ビニル芳香族化合物-共役ジエン化合物ブロック共重合体の水素添加物)、可塑剤(オイル、低分子量ポリエチレン、エポキシ化大豆油、ポリエチレングリコール、脂肪酸エステル類等)、難燃助剤、耐候(光)性改良剤、ポリオレフィン用造核剤、各種着色剤を添加してもかまわない。
【0057】
本発明において、(a)、(b)を混練する場合、混練する順番は特に限定はないが、一括して混練することが、プロセスの簡略性や物性向上の観点から望ましい。
【0058】
本発明の電気絶縁性の導体被覆材に用いる樹脂組成物は、必要に応じて、有機充填剤、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、滑剤、防錆剤、架橋剤、発泡剤、蛍光剤、表面平滑剤、表面光沢改良剤、フッ素樹脂などの離型改良剤などの各種の添加剤を含有しても良い。
【0059】
本発明の導体被覆材として用いる樹脂組成物は、押出機を用いて溶融混練されるものである。本発明で使用される樹脂組成物は種々の方法で製造することができる。例えば、単軸押出機、二軸押出機、ロール、ニーダー、ブラベンダープラストグラフ、バンバリーミキサー等による加熱溶融混練方法が挙げられるが、中でも二軸押出機を用いた溶融混練方法が最も好ましい。この際の溶融混練温度は特に限定されるものではないが、通常150−350℃の中から任意に選ぶことができる。
【0060】
溶融混練に際しては、各成分は予めタンブラーもしくはヘンシェルミキサーのような装置で各成分を均一に混合した後、混練装置に供給してもよいし、各成分を混練装置にそれぞれ別個に定量供給する方法も用いることができる。
【0061】
なお、上記添加剤は樹脂組成物の製造工程中あるいはその後の加工工程において添加することができる。
【0062】
本発明で得られる透明性の高い導体被覆材は、0.1mmの厚さにシート成型をした時の全光線透過率が70%以上であることが好ましく、75%以上がより好ましく、特に好ましくは80%以上である。またヘイズ(曇り度)も20以下が好ましく、より好ましくは15以下、特に好ましくは10以下である。全光線透過率が70%未満やヘイズが20以上である場合は、被覆が厚くなると、結線状況が目視しにくいことと、デザイン等の観点から好ましくない。
【0063】
本発明の絶縁電線は、導体に上記本発明の透明性の高い導体被覆材を被覆してなる。
【0064】
ここに、導体としては、銅、軟銅、ニッケルめっき軟銅、すずめっき軟銅、銀、アルミニウム、金、鉄、タングステン、モリブデン、クロムなど、周知の導体を使用することができる。導体は単線状、撚り線状でも使用できる。
【0065】
本発明においては、導体をポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリメチルメタクリレートのような汎用樹脂で薄くコートした上に本発明の導体被覆材を被覆することができる。かかる汎用樹脂の中では、ポリエチレン、ポリプロピレンとともに、ポリエチレン、ポリプロピレンの架橋体などが好ましく用いられる。
【0066】
また、本発明の導体被覆材層のさらに外側に、樹脂からなる外層を被覆することができる。かかる外層の樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリアミド、ポリカーボネート等のエンジニアリングプラスチック、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド等のスーパーエンジニアリングプラスチックなどの中から、目的に応じて選択することができる。
【0067】
本発明の絶縁電線の構造は特に限定されるものではなく、通常の絶縁電線に適用可能である。本発明においては、絶縁電線の導体、被覆材のいずれも、その厚み、径を変えることができる。電線中の導体は単芯であっても多芯であってもよい。
【0068】
本発明の絶縁電線の形状としては、例えば、電線・ケーブル、フラットケーブル、光ファイバーケーブル、計測ケーブル、電子ワイヤー等が挙げられる。
【0069】
本発明の絶縁電線を製造する方法は特に限定されるものではなく、周知の方法で製造することができる。例えば、本発明の導体被覆材の溶融体を押し出し機から押し出して、該被覆材のフィルムをあらかじめ作製しておき、次に導体表面にかかるフィルムを巻きつけて被覆材層を形成することが好ましい。導体と該フィルムの間にポリフェニレンエーテルを含有する樹脂組成物及び/またはその他の樹脂からなる絶縁層が存在してもよい。また、該フィルムの外層にポリフェニレンエーテルを含有する樹脂組成物及び/またはその他の樹脂からなる絶縁層が存在してもよい。より好ましい方法としては、電線押し出し被覆装置を使用し、押し出し機から前記溶融体を導体上に押し出し、被覆層を形成する方法である。特に、この場合、一般式(A)及び一般式(B)のR、X、並びに前記したように一般式(B)の2つのXが一般式(8)で示される連結構造を形成する場合のY、Zの少なくとも一つは、1)不飽和炭化水素結合を含有する基、あるいは、2)窒素原子及び酸素原子の少なくとも1つを含有する極性基を有する基である場合が、導体との密着性の観点で好ましい。
【0070】
本発明の透明性の高い電気絶縁性の導体被覆材は、光ファイバー心線の被覆材としても有用である。光ファイバー心線の被覆材層は、本発明の導体被覆材の単層であっても、該被覆材を構成する多層であってもよい。多層の場合、内側の被覆材層に本発明の導体被覆材を適用し、外側に本発明の被覆材か、ポリオレフィン、エンジニアプラスチック、スーパーエンジニアプラスチックなどの絶縁材料を適用してもよい。これら樹脂の発泡体や架橋体も外層に適用することができる。
【0071】
こうして得られた本発明の透明性が高く電気絶縁性の導体被覆材ならびに、その被覆材で被覆した電線は、透明性に代表される外観が良く、耐熱性、難燃性、耐吸水性、機械的強度に優れ、絶縁性や誘電率や誘電正接などに代表される電気特性にも優れる特徴を有する。従って、これらの特性が要求される用途に好適である。
【実施例】
【0072】
本発明を以下、実施例に基づいて説明する。但し本発明はその主旨を越えない限り以下の実施例に限定されるものではない。樹脂組成物の特性を評価するために、フィルム成型して、特性を評価した。また本発明の導体被覆材で被覆した電線の特性を評価するために、溶融押し出しにより本発明の導体被覆材で被覆した電線を作製して評価を行った。
【0073】
製造例1
<ポリフェニレンエーテル(PPE-1)の製造例>
2,6-ジメチルフェノールを酸化重合して得た還元粘度0.5のパウダー状のポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレンエーテル)である。
製造例2
<籠状シルセスキオキサンの製造例>
TrisilanolIsobutyl−POSS[米国Hybrid Plastics社製]をトルエン/メタノールの溶液中、アミノエチルアミノプロピルトリメトキシシラン[チッソ(株)社製]と反応させることによって、下記式(14)で表されるアミノ基含有籠状シルセスキオキサンを得た。
【0074】
【化13】


式14
製造例3
<籠状シルセスキオキサンの部分開裂構造体の製造例>
TrisilanolIsobutyl−POSS[米国Hybrid Plastics社製]をトルエン/メタノールの溶液中、アミノプロピルメチルジメトキシシラン[チッソ(株)社製]と反応させることによって、下記式(15)で表されるアミノ基含有籠状シルセスキオキサンの部分開裂構造体を得た。
【0075】
【化14】


式15
【0076】
各樹脂フィルム及び電線の物性評価を、以下の方法に従って実施した。
(1)電線被覆の外観
成型した電線被覆を100mmの範囲で、目視で黒色の焼けの数を、数えた。
○:焼けが10個以下である。
△:焼けが10〜20個の範囲で確認される。
×:焼けが21個以上確認される。又は厚みむらや表面荒れが確認される。
(2)耐熱性
フィルムをMD、TD方向それぞれに3mm幅×19mm幅にカットし、島津製作所(株)製熱機械分析装置(TMA−50)を使用し、チャック間15mmで、荷重10gで10℃/minで測定を行い、接点交線により耐熱温度(軟化温度)を決定した。
(3)熱収縮率
フィルムを、MDとTDに各片が平行になるように、100mm×100mmの大きさにカットし、150℃に設定したオーブン中に45分間セットし、取り出して放冷する。MD、TD各々加熱前後の寸法を測定し、以下の式に従って求めた。
熱収縮率(%)=(加熱前の辺の長さ-加熱後の辺の長さ)/(加熱前の辺の長さ)×100
(4)難燃性
フィルムをMD、TD方向それぞれに200mm幅×50mm幅にカットし、UL−94の薄膜試験(VTM)に基づき、燃焼試験を行った。
(5)絶縁破壊電圧
フィルムを100×100角に切り取り、ASTM D149に基づき絶縁破壊電圧を行った。
(6)誘電率・誘電正接
インピーダンスアナライザーHP4291B(HEWLETT製)を用いて温度23℃、湿度48%RHの条件下で、1GHzで測定した。
(7)体積抵抗値
フィルムを40mm×40mm角にカットし、東亜ディーケーケー(株)極超絶縁計SM−10E型を使用し、体積抵抗率及び表面抵抗率を求めた。
(8)吸水性
フィルムをサイズ100×100mm角に切り取り、110℃のオーブンで1時間乾燥させた。乾燥させたフィルムを23℃の水槽に入れ、24時間曝した後、以下の式に従って、重量増加率(Δw)を求めた。各フィルム2枚の平均値をとった。
重量増加率(Δw)(%)=(w1-w0)/w0×100
(w1:加温加湿後、十分にシート表面の水滴を拭った後のシート重量(g)、w0:吸水前に、110℃、1時間熱風乾燥機中にて乾燥し、デシケーター中にて室温まで冷却したシート重量(g))重量増加率(Δw)の値が小さい方が、耐吸湿性に優れることを意味する。
(9)引っ張り強度
フィルムを15mm幅×150mmの短冊状にカットし、島津製作所(株)製オートグラフAG−1型、セル1kNを使用し、ASTM D882に基づき引っ張り試験を行い、引っ張り強度(MPa)と引っ張り伸び(%)を求めた。
(10)透明性
フィルムを50mm×50mm角にカットし、日本電色工業製ヘイズメーターNDH2000を使用し、JIS K7105に基づき全光線透過率及び、ヘイズを測定した。
(11)加熱変形性
180℃の雰囲気下に10min放置後、これに300gの荷重を1minかけたときに、被覆した絶縁皮が溶け導体が露出するか否かで判定した。
○:導体が露出しない。
×:被覆した絶縁皮が形状を保持せず、導体が露出する。
【0077】
実施例1
ポリフェニレンエーテル(PPE-1)と式(14)で表される籠状シルセスキオキサンを、それぞれポリフェニレンエーテル:96wt%、式(14)で表される籠状シルセスキオキサン:4wt%で、120−290℃に設定したベントポート付き二軸押出機[KZW−15:テクノベル(株)製]を用いて溶融混練し、ペレットとして得た。得られたペレットを、シリンダー温度290℃、Tダイ温度280℃に設定した300mm幅Tダイを備えたスクリュー径15mmの押出機を用い、100μmの厚さにフィルム成形を行った。得られたフィルムの平均厚みは102μmであった。
【0078】
電線の状態で特性評価するために、導体(軟銅線を7本撚り合わせ、この導体外面を平滑にするため、円形に圧縮したもの)0.5mmに被覆厚を0.2mmとして押出成形機にて樹脂組成物の被覆を施した。
この時使用するダイス・ニップルは、1.25mmφおよび0.88mmφのものを使用し、押出温度は、ダイス280℃、シリンダ290℃の条件とし、線速を10m/minとした。導体と樹脂組成物との密着は良好であった。
上に示した方法に従って評価を実施した。その結果を表1に示した。
【0079】
実施例2
ポリフェニレンエーテルと式(14)で表される籠状シルセスキオキサンをそれぞれ89wt%、11wt%にした以外は実施例1と同様の操作でフィルムおよび電線被覆を作製した。上記に示した方法に従ってフィルム及び電線の評価を実施した。その結果を表1に示した。
【0080】
実施例3
ポリフェニレンエーテル(PPE-1)と式(15)で表される籠状シルセスキオキサンの部分開裂構造体を、それぞれポリフェニレンエーテル:96wt%、式(15)で表される籠状シルセスキオキサンの部分開裂構造体:4wt%で、120−290℃に設定したベントポート付き二軸押出機(KZW−15:テクノベル(株)社製)を用いて溶融混練し、ペレットとして得た。得られたペレットを、シリンダー温度290℃、Tダイ温度280℃に設定した300mm幅Tダイを備えたスクリュー径15mmの押出機を用い、100μmの厚さにフィルム成形を行った。得られたフィルムの平均厚みは105μmであった。
【0081】
電線の状態で特性評価するために、導体(軟銅線を7本撚り合わせ、この導体外面を平滑にするため、円形に圧縮したもの)0.5mmに被覆厚を0.2mmとして押出成形機にて樹脂組成物の被覆を施した。
この時使用するダイス・ニップルは、1.25mmφおよび0.88mmφのものを使用し、押出温度は、ダイス280℃、シリンダ290℃の条件とし、線速を10m/minとした。
【0082】
上記に示した方法に従ってフィルム及び電線の評価を実施した。その結果を表1に示した。
【0083】
比較例1
ペレット原料として、耐熱難燃性の変性ポリフェニレンエーテル(ザイロン500Z(登録商標)、旭化成ケミカルズ(株)製)を用いたこと以外は、実施例1と同様に、フィルム成形及び電線被覆を行った。これらのフィルムおよび電線を、上記に示した方法に従って物性評価を実施した。その結果を表1に示した。熱収縮率に関しては、シートの変形が大きく、測定できなかった。
【0084】
比較例2
ポリフェニレンエーテル(PPE-1)と両末端アミノ変性シリコーンオイル(信越化学(株)製KF858)を、それぞれポリフェニレンエーテル:95wt%、両末端アミノ変性シリコーンオイル:5wt%で、120−290℃に設定したベントポート付き二軸押出機[KZW−15:テクノベル(株)製]を用いて溶融混練し、ペレットとして得た。得られたペレットを、シリンダー温度290℃、Tダイ温度280℃に設定した300mm幅Tダイを備えたスクリュー径15mmの押出機を用い、100μmの厚さにフィルム成形を行った。電線の状態で特性評価するために、導体(軟銅線を7本撚り合わせ、この導体外面を平滑にするため、円形に圧縮したもの)0.5mmに被覆厚を0.2mmとして押出成形機にて樹脂組成物の被覆を施した。
この時使用するダイス・ニップルは、1.25mmφおよび0.88mmφのものを使用し、押出温度は、ダイス280℃、シリンダ290℃の条件とし、線速を10m/minとした。導体と樹脂組成物との密着は不良であった。フィルムおよび電線を、上記に示した方法に従って物性評価を実施した。その結果を表1に示した。
【0085】
【表1】

【0086】
表1から、本発明の導体被覆材は、外観が良く、透明性、耐熱性、難燃性、耐吸水性、機械的強度に優れ、絶縁性や誘電率や誘電正接などに代表される電気特性にも優れる特徴を有する。従って、これらの特性が要求される用途に好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ポリフェニレンエーテル系樹脂30〜99.9重量%と、(b)籠型シルセスキオキサン及び/又は籠型シルセスキオキサンの部分開裂構造体0.1〜70重量%を含む樹脂組成物を用いることを特徴とする導体被覆材。
【請求項2】
該籠型シルセスキオキサン及び/又は籠型シルセスキオキサンの部分開裂構造体が
[RSiO3/2 (A)
(RSiO3/2(RXSiO) (B)
(一般式(A)、(B)において、Rは水素原子、炭素原子数1から6のアルコキシル基、アリールオキシ基、炭素原子数1から20の置換又は非置換の炭化水素基又はケイ素原子数1から10のケイ素原子含有基から選ばれ、複数のRは同一でも異なっていても良い;一般式(B)においてXはOR(Rは水素原子、アルキル基、アリール基、第4級アンモニウムラジカル)、ハロゲン原子及び上記Rで定義された基の中から選ばれる基であり、複数のXは同じでも異なっていても良い、又(RXSiO)中の複数のXが互いに連結して連結構造を形成しても良い;nは6から14の整数、lは2から12の整数、kは2又は3である。)であること特徴とする請求項1に記載の導体被覆材。
【請求項3】
一般式(A)及び一般式(B)のR、Xの少なくとも一つは、1)不飽和炭化水素結合を含有する基、あるいは、2)窒素原子及び酸素原子の少なくとも1つを含有する極性基を有する基である請求項2に記載の導体被覆材。
【請求項4】
厚さ0.1mmのシートとしたときの全光線透過率が70%以上であり、ヘイズが20以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の導体被覆材からなるシート。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載の導体被覆材で被覆された電線。
【請求項6】
該電線の周囲に請求項1〜3のいずれかに記載の導体被覆材を溶融押出しして該電線を被覆することを特徴とする該電線の被覆方法。

【公開番号】特開2008−152995(P2008−152995A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−337916(P2006−337916)
【出願日】平成18年12月15日(2006.12.15)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】