説明

電線

【課題】軽量化を図りつつ擦り合わせ刃による切断について容易化を図ることが可能な電線を提供する。
【解決手段】電線1は、高強度繊維11a上に金属メッキ11bを施した素線11を導体部10とし、導体部10を被覆部20で覆ったものである。また、この電線1は、ISO6722に準拠する密着力の測定方法において、導体部10と被覆部20との密着力が8N以上であり、且つ、皮むき可能密着力以下である。ここで、皮むき可能密着力とは、皮むき可能密着力(N)=0.4×皮むき面積(mm)=0.4×皮むき部位の導体部10と被覆部20との接触面積(mm)=0.4×皮むき長さ(mm)×導体部10と被覆部20とが略円状に接する接触距離(mm)である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電線に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化により二酸化炭素の排出量が少ない製品が市場に受け入れられている。特に自動車は原油価格高騰の影響との相乗効果により、二酸化炭素の排出量を抑えることが望まれており、燃費を向上させるべく自動車用電線について軽量化の要求が日増しに高まってきている。
【0003】
しかし、軟銅撚り線や銅合金撚り線などの自動車用電線では各金属の比重が決まっていることから、軽量化するためには細径化するしかない。
【0004】
そこで、アラミド繊維、ポリアリレート繊維、及びPBO(ポリ−p−フェニレンベンゾビスオキサゾール)繊維などの高強度繊維に金属メッキを施し、これを撚り合わせた導電性高強力コードが提案されている(例えば特許文献1参照)。また、超臨界流体を用いて高分子繊維にめっき前処理を行ったうえで高密着に無電解銅メッキを施した素線を撚り合わせて導体部とした電線が提案されている(例えば特許文献2参照)。これらによれば、繊維にメッキ処理を施したものを導体として用いているため、軽量化を図ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−130241号公報
【特許文献2】特開2009−242839号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1及び2に記載の電線によれば軽量を図ることができるものの、擦り合わせ刃での切断が困難であった。すなわち、高強度繊維はそれ自体屈曲に強く、且つ、強度も高い。このため、擦り合わせ刃により切断しようとした場合、高強度繊維が擦り合わせ刃の間に入り込んでしまうことがあり、切断が困難となってしまうことがあった。
【0007】
本発明はこのような従来の課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、軽量化を図りつつ擦り合わせ刃による切断について容易化を図ることが可能な電線を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の電線は、高強度繊維上に金属メッキを施した素線を導体部とし、導体部を被覆部で覆った電線であって、ISO6722に準拠する密着力の測定方法において、導体部と被覆部との密着力が8N以上であり、且つ、皮むき可能密着力以下であることを特徴とする。
【0009】
本発明の電線によれば、高強度繊維上に金属メッキを施した素線を導体部とし、導体部を被覆部で覆った電線であるため、繊維による軽量を図ることができる。また、ISO6722に準拠する密着力の測定方法において、導体部と被覆部との密着力が8N以上皮むき可能密着力以下である。ここで、導体部と被覆部との密着力が8N以上であるため、擦り合わせ刃での切断にあたり、被覆部と導体部との隙間が少なくなり、導体部と被覆部とが複合化されて導体部の逃げ場が失われることとなり、擦り合わせ刃の間に高強度繊維が入り難くなる。これにより、切断の容易化を図ることができる。また、導体部と被覆部との密着力が皮むき可能密着力以下であるため、密着力が高くなり過ぎず、皮むき不良が発生して電線として不良品となってしまう事態を防止することができる。従って、軽量化を図りつつ擦り合わせ刃による切断について容易化を図ることができる。
【0010】
なお、上記において皮むき可能密着力とは、皮むき可能密着力(N)=0.4×皮むき面積(mm)=0.4×皮むき部位の導体部と被覆部との接触面積(mm)=0.4×皮むき長さ(mm)×導体部と被覆部とが略円状に接する接触距離(mm)である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の電線によれば、軽量化を図りつつ擦り合わせ刃による切断について容易化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態に係る電線を示す図である。
【図2】本実施形態に係る電線の切断の様子を示す概略図である。
【図3】切断が困難となる場合の一例を示す概略図である。
【図4】本実施形態に係る電線を擦り合わせ刃で切断したときの実験結果を示す第1のグラフである。
【図5】本実施形態に係る電線を擦り合わせ刃で切断したときの実験結果を示す第2のグラフである。
【図6】本実施形態に係る電線を皮むきしたときの実験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好適な実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、本発明の実施形態に係る電線を示す図である。同図に示す電線1は、高強度繊維11a上に金属メッキ11bを施した素線11からなる導体部10と、導体部10を覆う被覆部20とから構成されている。
【0014】
ここで、高強度繊維11aとは、アラミド繊維、ポリアリレート繊維、及びPBO繊維などである。金属メッキ11bは、例えば銅及びスズが該当する。このような高強度繊維11aと金属メッキ11bとからなる素線11は、繊維を用いているため、軽量化を図ることができる。
【0015】
なお、図1において電線1の導体部10は複数本の素線11を撚り合わせて構成されているが、導体部10は複数本の素線11を撚り合わせたものに限らず、単線により構成されていてもよい。
【0016】
図2は、本実施形態に係る電線1の切断の様子を示す概略図である。図2に示すように、擦り合わせ刃2は、例えば刃部位がV字状となる2つのV字刃2a,2bを有し、互いのV字刃2a,2bのV字開放側が付き合わされた状態となっている。電線1を擦り合わせ刃2で切断する場合、まず、双方のV字刃2a,2bのV字開放側、すなわち双方のV字刃2a,2bの間に電線1を設置する。そして、V字刃2a,2bを互いに接近・交差させることで、電線1を切断する。
【0017】
しかし、従来の電線では切断が困難となる場合がある。図3は、切断が困難となる場合の一例を示す概略図である。図3に示すように、素線11に高強度繊維11aを用いた電線を、擦り合わせ刃2により切断しようとした場合、高強度繊維が擦り合わせ刃2の間に入り込んでしまうことがある。これにより、切断が困難となってしまう。
【0018】
そこで、本実施形態に係る電線1は、ISO6722に準拠する密着力の測定方法において、導体部10と被覆部20との密着力が8N以上皮むき可能密着力以下となっている。
【0019】
ここで、導体部10と被覆部20との密着力が8N以上であると、擦り合わせ刃での切断にあたり、被覆部10と導体部20との隙間が少なくなり、導体部10と被覆部20とが複合化されて導体部10と被覆部20とが複合化されて導体部10の逃げ場が失われることとなり、擦り合わせ刃2の間に高強度繊維11aが入り難くなる。これにより、切断の容易化を図ることができる。
【0020】
また、導体部10と被覆部20との密着力が皮むき可能密着力以下であるため、密着力が高くなり過ぎず、皮むき不良(特にメッキ剥がれ)が発生して電線として不良品となってしまう事態を防止することができる。
【0021】
ここで、皮むき可能密着力(N)は、皮むき可能密着力(N)=0.4×皮むき面積(mm)=0.4×皮むき部位の導体部10と被覆部20との接触面積(mm)=0.4×皮むき長さ(mm)×導体部10と被覆部20とが略円状に接する接触距離(mm)で表わすことができる。なお、皮むき長さは、電線の使用用途に応じてある程度決められるものである。
【0022】
以上により、本実施形態に係る電線1は、軽量化を図りつつ擦り合わせ刃2による切断について容易化を図ることができる。
【0023】
図4は、本実施形態に係る電線1を擦り合わせ刃2で切断したときの実験結果を示す第1のグラフである。なお、図4に示す実験結果を得るにあたり、擦り合わせ刃2としてはキャスティングC370(株式会社小寺電子製)を使用し、電線1の被覆部20としてはポリプロピレンを使用した。
【0024】
図4に示すように、高強度繊維11aとしてアラミド繊維を使用した場合、導体部10と被覆部20との密着力が約5N以上となると、切断成功率が100%となった。また、高強度繊維11aとしてポリアリレート繊維及びPBO繊維を使用した場合、導体部10と被覆部20との密着力が約8N以上となると、切断成功率が100%となった。
【0025】
図5は、本実施形態に係る電線1を擦り合わせ刃2で切断したときの実験結果を示す第2のグラフである。なお、図5に示す実験結果を得るにあたり、擦り合わせ刃2としてはホビー用はさみアレックス15132(株式会社林刃物製)を使用し、電線1の被覆部20としてはポリプロピレンを使用した。
【0026】
図5に示すように、高強度繊維11aとしてアラミド繊維、ポリアリレート繊維及びPBO繊維を使用した場合、いずれの場合においても導体部10と被覆部20との密着力が約8N以上となると、切断成功率が100%となった。
【0027】
以上より、繊維種類による多少の差異がみられるが、密着力が8N以上であれば導体部10と被覆部20とが複合化された状態となり、金属メッキ11bの厚さによらず切断が容易となることがわかった。
【0028】
図6は、本実施形態に係る電線1を皮むきしたときの実験結果を示すグラフである。なお、図6の説明において皮むき状態が不良とは金属メッキ11bが剥がれてしまったことを意味し、皮むき状態が良好とは金属メッキ11bが剥がれなかったこと、又は、剥がれたとしても非常に微小であることを意味している。
【0029】
図6に示すように、皮むき面積が約47mmである場合、密着力が約16Nであると皮むき状態は良好であるのに対し、密着力が約30Nであると皮むき状態は不良となった。また、皮むき面積が約70mmである場合、密着力が約20Nであると皮むき状態は良好であるのに対し、密着力が約40Nであると皮むき状態は不良となった。
【0030】
同様に、皮むき面積が約210mmである場合、密着力が約75Nであると皮むき状態は良好であるのに対し、密着力が約100Nであると皮むき状態は不良となった。また、皮むき面積が約290mmである場合、密着力が約110Nであると皮むき状態は良好であるのに対し、密着力が約125Nであると皮むき状態は不良となった。
【0031】
以上より、皮むき可能密着力は、皮むき可能密着力(N)=0.4×皮むき面積(mm)=0.4×皮むき部位の導体部10と被覆部20との接触面積(mm)=0.4×皮むき長さ(mm)×導体部10と被覆部20とが略円状に接する接触距離(mm)で表わすことができることがわかった。なお、実験結果では繊維の違いによる差は確認されなかった。
【0032】
このようにして、本実施形態に係る電線1によれば、高強度繊維11a上に金属メッキ11bを施した素線11を導体部10とし、導体部10を被覆部20で覆った電線1であるため、繊維による軽量を図ることができる。また、ISO6722に準拠する密着力の測定方法において、導体部10と被覆部20との密着力が8N以上皮むき可能密着力以下である。ここで、導体部10と被覆部20との密着力が8N以上であるため、擦り合わせ刃での切断にあたり、被覆部20と導体部10との隙間が少なくなり、導体部10と被覆部20とが複合化されて導体部10の逃げ場が失われることとなり、擦り合わせ刃2の間に高強度繊維11aが入り難くなる。これにより、切断の容易化を図ることができる。また、導体部10と被覆部20との密着力が皮むき可能密着力以下であるため、密着力が高くなり過ぎず、皮むき不良が発生して電線1として不良品となってしまう事態を防止することができる。従って、軽量化を図りつつ擦り合わせ刃による切断について容易化を図ることができる。
【0033】
以上、実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、変更を加えてもよい。
【0034】
例えば、本実施形態に係る電線1は複数本の素線11を撚って導体部10としているが、これに限らず、導体部10は単線であってもよい。
【0035】
また、本実施形態に係る電線1は許容電流が純銅を導体部とする電線よりも小さい可能性があるため、微弱な電流を流す電線1として用いられてもよいし、可能であれば通常の電流を流す電線1として用いられてもよい。
【符号の説明】
【0036】
1…電線
10…導体部
11…素線
11a…高強度繊維
11b…金属メッキ
20…被覆部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高強度繊維上に金属メッキを施した素線を導体部とし、前記導体部を被覆部で覆った電線であって、
ISO6722に準拠する密着力の測定方法において、前記導体部と前記被覆部との密着力が8N以上であり、且つ、皮むき可能密着力以下である
ことを特徴とする電線。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−99231(P2012−99231A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−243462(P2010−243462)
【出願日】平成22年10月29日(2010.10.29)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】