説明

電縫管製造設備のスクイズロール用スクレーパ装置

【課題】スクイズロールのトップロールに付着したスパッタ及びスラグ等の堆積物を、実際に有効に除去可能なスクレーパ装置を提供する。
【解決手段】電縫管製造設備における高周波溶接部のスクイズロールが4ロール又は5ロール方式のスクイズロールである場合に、スクイズロールの左右のトップロール9のそれぞれ内側の角部近傍に付着した堆積物10を除去するスクイズロール用スクレーパ装置であって、高耐熱性及び耐磨耗性の樹脂材料からなるスクレーパ21を、左右のトップロール9の高周波加熱部側(図4で右側)における上部の内側角部近傍に当たるように設けた。スクレーパのトップロールに対する当接位置がトップロールの高周波加熱部側の上部であるから、トップロールが回転してスパッタやスラグがスクレーパに達するまでにそれらの堆積物が適度に冷却されて脆化しており、高耐熱性及び耐磨耗性の樹脂製のスクレーパで効果的に削り取ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電縫管製造設備における高周波溶接部のスクイズロールが4ロール方式又は5ロール方式である場合に、スクイズロールのトップロールに付着したスパッタ等の堆積物を除去するスクイズロール用スクレーパ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電縫管製造設備では、図13に模式的に示したように、アンコイラー2からピンチロール3で連続的に送り込まれた金属板1’は複数段のブレークダウンロール4で円弧状に湾曲され、引き続きフィンパスロール5で金属板の両端縁が離間した管状断面に成形され、次いで溶接部の高周波溶接機6で端縁が加熱され、スクイズロール7により円周方向の圧縮力が与えられて端縁どうしが突き合わせ溶接され、管1となる。
【0003】
図14は上記の電縫管製造設備の溶接部であるスクイズロール7の部分を簡略化して示した平面図である。
本発明で対象とするスクイズロール7は、図示の通り、材料送り方向から見て左右1対のサイドロール8と、上部の左右1対のトップロール9とからなる4ロール方式又はさらに受けロール(図14では隠れて見えない)を備えた5ロール方式のスクイズロールである。
図14に示した構成は、4ロール(又は5ロール)タイプのスクイズロールとしては一般的な構成である。なお、このスクイズロール7を正面から見た構成は、5ロール方式の場合であれば図3と同様(但し、本発明のスクレーパ装置20の部分を除く)である。
図示例の高周波溶接機は高周波抵抗溶接機であり、符号6は高周波抵抗溶接機のコンタクトチップを示している。
なお、図14において、管になる前後の管状体(すなわち、端縁どうしが閉じていない管状の金属板1’、又は端縁どうしが閉じ合わされた管の両方を指す)をいずれも符号1で示す。
【0004】
まだ閉じていない管状体1のV字形に向き合う両端縁の直近に高周波抵抗溶接機のコンタクトチップ6をそれぞれ接触させ、コンタクトチップ6に高周波電流を流すと、両端縁1a、1aがまだ管状体1に電流が流れるが、表皮効果及び近接効果により、V字形に向き合って収束する両端縁1a、1aに電流が集中して、両端縁部がジュール熱により加熱され、スクイズロール7を通過する際の円周方向の圧縮力により両端縁が突き合わされ、圧接される(突き合わせ溶接される)。上部の左右1対のトップロール9は、両端縁に近接した位置で管状体1に接触している。
この時、溶接点近傍では、火花放電により、溶けた金属が飛散して粒状に固まったスパッタが連続して発生し、トップロール9に堆積する。また、溶接ビード面上では、溶融した金属の表面に浮かぶ酸化物であるスラグが堆積し、トップロール9に付着する。
これらのスパッタあるいはスラグ等の堆積物は、左右のトップロール9のそれぞれ内側の角部9aが端縁開放の管状体1の端縁1aに近接しているので、図15にも示すように、トップロール9の角部9aを含めてその近傍のロール外周面9b及びロール側面9cに堆積する。トップロールに堆積したスパッタとスラグは混合して区別できないので、スパッタとスラグとの両方を含めて堆積物と呼ぶ。堆積物を10で示す。
【0005】
トップロール9にこれらの堆積物が付着したまま造管作業を続けていると、図15のように堆積物10が厚くなり、製品に凹みキズとなって明瞭に表れて、不良品として廃棄しなければならないことになり、歩留が低下するという問題がある。
このため、トップロールに付着した堆積物が厚くならない内に除去することになるが、この堆積物除去のためには、ラインを停止させて砥石やサンダーで削り取る必要があった。
【0006】
電縫管製造設備の高周波溶接部のスクイズロールに付着したスパッタやスラグ等の堆積物を除去する方法として、前提条件は本発明とは異なるが、特許文献1や特許文献2がある。
特許文献1は、図示は省略するが、左右1対のサイドロールからなる2つロール方式のスクイズロール(特許文献1の段落番号[0002]、図2、図3参照)であり、かつ、主として銅や黄銅等のパイプを製造する場合であるが、回転するスクイズロール(サイドロール)8の側面(凹曲面28や上側つば部30)に拭き取り部材37を当接させておくことで、スクイズロールの側面等に付着したスパッタを拭き取るというものである。拭き取り部材37の材質としては、耐熱性と耐摩耗性と柔軟性の高い繊維材料等(ネル等)を想定している(なお、符号は特許文献1中の符号)。
【0007】
特許文献2も、やはり左右1対のサイドロールからなる2つロール方式のスクイズロール(図1、図2参照)4であるが、スクイズロール(サイドロール)4の、高周波加熱部2とは反対側におけるつば部(電縫管5との接触部分(係合部分6)に隣接する円筒状部分7)にスクレーパ9を当てて、つば部7に堆積したスラグを除去する、というものである(なお、符号は特許文献2中の符号)。
この引用文献2では、サイドロール4のつば部7に堆積したスラグで、左右のサイドロール4の間隔が広がってロールによる拘束力が低下し製品の精度が低下することを防止する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−1325
【特許文献2】特開平9−220616
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記の通り、トップロール9にスパッタやスラグ等の堆積物が付着したまま造管作業を続けていると、製品に凹みキズが生じることになるので、トップロールに付着した堆積物が厚くならない内に除去することになるが、この堆積物除去のためには、ラインを停止させて、砥石やサンダーで削り取る必要があり、生産性を著しく低下させるという問題があった。
なお、特許文献1や特許文献2のスクイズロールは、左右1対のサイドロールからなる2つロール方式であり、上部のトップロールが存在しないから、事情が異なり、それらにおけるスパッタやスラグ等の堆積物の除去方法は、採用できない。また、2つロール方式は一般に小径管の製造に採用されており、本発明が対象とする4ロール又は5ロール方式は大径管に適用されるという点でも、事情が異なる。
【0010】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、電縫管製造設備における高周波溶接部のスクイズロールに付着したスパッタ等の堆積物を、実際に有効に除去することが可能なスクイズロール用スクレーパ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決する請求項1の発明は、電縫管製造設備における高周波溶接部のスクイズロールが、左右1対のサイドロールと上部の左右2つのトップロールとからなる4ロール方式又はさらに受けロールを備えた5ロール方式のスクイズロールである場合に、前記左右のトップロールのそれぞれ内側の角部近傍に付着したスパッタ及びスラグ等の堆積物を除去するスクイズロール用スクレーパ装置であって、
高耐熱性及び耐磨耗性の樹脂材料からなるスクレーパを、左右のトップロールの高周波加熱部側における上部の内側角部近傍に当たるように設けたことを特徴とする。
【0012】
請求項2は、請求項1のスクレーパ装置において、スクレーパがMCナイロンからなることを特徴とする。
【0013】
請求項3は、請求項1又は2のスクレーパ装置において、スクレーパがトップロールに当たる当接位置を、溶接点からトップロール回転方向に220〜240°の範囲内としたことを特徴とする。
【0014】
請求項4は、請求項1〜3のいずれかに記載のスクレーパ装置において、スクレーパが板状をなすとともに、このスクレーパの、トップロール軸長手方向から見たトップロール接線方向に対する傾き角であるすくい角αを30±10°に設定したことを特徴とする。
【0015】
請求項5は、請求項1〜4のいずれかに記載のスクレーパ装置において、スクレーパが板状をなすとともに、このスクレーパの、トップロール接線方向から見たロール幅方向に対する傾き角であるねじれ角βが0〜5°の範囲にあることを特徴とする。
【0016】
請求項6は、請求項1〜5のいずれかに記載のスクレーパ装置において、スクレーパが板状をなすとともに、このスクレーパの、トップロール半径方向外方から見たロール幅方向に対する傾き角であるねじれ角γが0〜5°の範囲にあることを特徴とする。
【0017】
請求項7は、請求項1〜6のいずれかに記載のスクレーパ装置において、スクレーパが板状をなすとともに、トップロールに当たる部分の形状を、前記トップロールの角部を挟むロール側面とロール円周面との両方に接触するようなL形状にしたことを特徴とする。
【0018】
請求項8は、請求項1〜7のいずれかに記載のスクレーパ装置において、スクイズロールホルダの、スクイズロールを直接回転可能に軸支する下向きコ字形のホルダヨークの前面に、長穴を設けたブラケットを、前記長穴を通したボルトで長穴長手方向に移動調節可能に取り付け、前記ブラケットにスクレーパを取り付けたことを特徴とする。
【0019】
請求項9は、請求項1〜8のいずれかに記載のスクレーパ装置において、ブラケットにスクレーパを、当該スクレーパのすくい角度αを調整するためのテーパブロックを介在させて取り付けたことを特徴とする。
【0020】
請求項10は、請求項1〜9のいずれかに記載のスクレーパ装置において、スクレーパを、当該スクレーパをスクイズロール外周面に弾性的に付勢する弾性部材を介在させて前記ブラケットにスライド可能に取り付けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明のスクイズロール用スクレーパ装置により、スクイズロールにおけるトップロールの内側の角部近傍に付着したスパッタやスラグ等の堆積物を、有効に除去することが可能となった。
特に、スクレーパのトップロールに対する当接位置がトップロールの高周波加熱部側の上部、すなわち、溶接点からトップロール回転方向に180〜270°の範囲であるから、トップロールが回転してスパッタやスラグがスクレーパに達するまでにそれらの堆積物が適度に冷却されて脆化しており、スクレーパで削り取り易くなっている。このため、スクレーパの材質が、硬度の高い金属やセラミック等と比べて硬度の低い樹脂であっても、例えばMCナイロン等の耐磨耗性樹脂であれば堆積物を実際に有効に除去できる。
また、溶接点から180〜270°の範囲であれば、トップロールに冷却水を十分に掛けることでトップロール外周面及び堆積物の温度を十分に冷却することができるので、かつ、スクレーパ部分にも冷却水を十分に掛けることでスクレーパへの熱伝達を極力少なくすることができるので、スクレーパの材質として例えばMCナイロン等の耐熱性樹脂を用いれば、問題は生じない。
また、スクレーパが樹脂であるから、ロール表面を傷つけることもない。
また、高周波溶接機として高周波誘導溶接機を使用した場合には、鉄などの磁性体のスクレーパであれば、スクレーパ自体に誘導電流が生じてスクレーパが高温に加熱されてしまうが、樹脂であるから、そのような問題も生じない。
【0022】
請求項2のようにスクレーパの材質がMCナイロンであれば、耐熱温度(連続使用温度)が110℃以上であり、かつ耐摩耗性が極めて良好なので、耐久性に優れ、本発明のスクレーパの材質として特に好適である。
【0023】
請求項3のように、スクレーパのトップロールに対する当接位置を、溶接点からトップロール回転方向に220〜240°の範囲にすると、トップロール外周面及び堆積物が適度に冷却される点でも有効であるが、さらに、削り取った堆積物を滞留させずに、排出させる上でも有効である)。
【0024】
請求項4のように、スクレーパの30±10°というすくい角αは、堆積物を適切に削り取る上で有効である。
【0025】
また、請求項5のように、スクレーパがトップロール接線方向から見たロール幅方向に対する傾き角であるねじれ角β(図5(ハ)参照)を持たせることで、すなわち、スクレーパをロール幅方向に対してロール半径方向外方に傾斜させることで、トップロールの凹の外周面に適切に対応させることができる。また、堆積物のトップロールの外周面への付着厚みと側面への付着厚みとの差が大きい時に例えば付着厚みが大の側に傾けるなど、トップロール外周面付着厚みと側面付着厚みの差に対応させて調整することもできる。
【0026】
また、請求項6のように、スクレーパがトップロール半径方向外方から見たロール幅方向に対する傾き角であるねじれ角γを持つと、すなわち、スクレーパをロール幅方向に対してロール円周方向に傾斜させると、スクレーパのロール面に対する接触長が長くなり接触面積が広くなるので、スクレーパに作用する単位面積当たりの削り力(抵抗力)が少なく済むというシェア角効果が得られ、堆積物を削り取り易くなる。そのねじれ角γは0〜5°が適切である。
【0027】
請求項7によれば、スクレーパのトップロールに当たる部分がL字形をなしているので、トップロールの角部近傍のロール外周面及びロール側面に付着した堆積物を有効に削り取ることができる。
【0028】
請求項8のように、ホルダーヨークに移動調節可能に取り付けたブラケットにスクレーパを取り付けると、スクレーパを、ロール径の異なる種々のスクイズロールに容易に対応させることができる。
【0029】
請求項9のように、スクレーパをテーパブロックを介在させてブラケットに取り付けると、スクレーパ取付面の角度が異なる複数種類のテーパブロックを用意しておくことで、スクレーパのすくい角を容易に変更することができる。
【0030】
請求項10のように、スクレーパをスクイズロールに弾性部材の力で押し付ける構成とすれば、スクイズロールに対する押し付け力を自動的に調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明のスクイズロール用スクレーパ装置の一実施例を模式的に示すもので、電縫管製造設備における溶接部のスクイズロール装置の近傍を簡略化して示した平面図である。
【図2】図1における要部を拡大して示した斜視図である。
【図3】本発明の一実施例のスクレーパ装置を取り付けたスクイズロール装置の正面図である。
【図4】(イ)は図3における左側の、スクレーパ装置を取り付けたトップロール部分のロール軸長手方向から見た側面図、(ロ)は(イ)の右側面図である。
【図5】トップロールの位置及び姿勢について説明する図であり、(イ)はトップロール軸長手方向から見たトップロール接線方向に対する傾き角であるすくい角αを説明する図、(ロ)はトップロール接線方向から見たロール幅方向に対する傾き角であるねじれ角γを説明する図((イ)のA方向から見た図)、(ハ)はトップロール接線方向から見たロール幅方向に対する傾き角であるねじれ角βを説明する図((イ)のB方向から見た図)である。
【図6】スクレーパが図5(ハ)のねじれβを有する場合の正面から見た図(図4(ロ)に相当する図)である。
【図7】上記実施例のスクレーパの形状を示すもので、(イ)は正面図、(ロ)は(イ)の左側面図である。
【図8】他の実施例のスクレーパの形状を示すもので、(イ)は正面図、(ロ)は(イ)の左側面図である。
【図9】スクレーパをトップロールに押し付ける弾性部材を設けた実施例を示すもので、(イ)は側面図、(ロ)は正面図である。
【図10】スクレーパをテーパブロックを介してブラケットに取り付けた実施例を示すもので、(イ)はスクレーパの板面がすくい角αを形成する場合、(ロ)、(ハ)はそれぞれスクレーパの下端面がすくい角αを形成する場合である。
【図11】トップロールに当たる先端部をテーパ面にしたスクレーパをテーパブロックを介してブラケットに取り付けた実施例を示す図である。
【図12】スクレーパの下部をシャープな鋭角の広いテーパ面とした実施例を示すもので、(イ)はブラケットに直接取り付ける場合、(ロ)はテーパブロックを介してブラケットに取り付ける場合を示す図である。
【図13】一般的な電縫管製造設備の主要部分の構成を模式的に示した側面図である。
【図14】従来の問題点を説明するもので、電縫管製造設備における溶接部のスクイズロール装置の近傍を簡略化して示した平面図である。
【図15】スパッタやスラグ等の堆積物がトップロールに付着する状況を説明するもので、トップロールの一部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明のスクイズロール用スクレーパ装置の実施例を、図1〜図13を参照して説明する。
【実施例1】
【0033】
電縫管製造設備では、図13に模式的に示したように、アンコイラー2からピンチロール3で連続的に送り込まれた金属板1’は複数段のブレークダウンロール4で円弧状に湾曲され、引き続きフィンパスロール5で金属板の両端縁が離間した管状断面に成形され、次いで溶接部の高周波溶接機6で端縁が加熱され、スクイズロール7により円周方向の圧縮力が与えられて端縁どうしが突き合わせ溶接され、管1となる。
図示は省略するが、次いで、ビードトリマーで溶接ビードが削り取られ、クーリングゾーンの冷却水で冷却され、複数段のサイジングロールで定形(絞りを加えて所望の丸管外径寸法に、又は所望の角管寸法に定形)され、切断機で切断されて、ストックヤードに送り出される。なお、ピンチロール3からブレークダウンロール4との間には通常、ルーパー設備が設けられるが、図示を省略した。
実施例では構造用角形鋼管を製造する電縫管製造設備を想定しているが、サイズとしては、板厚4.5〜16mm等で、スクイズロールで丸鋼管とした段階で125〜500mmφなどの大型鋼管を想定している。大サイズの鋼管を製造する電縫管製造設備における溶接部では、スパッタやスラグの付着量も当然、小サイズの鋼管の場合より顕著に大である。
【0034】
図1は上記の電縫管製造設備の溶接部であるスクイズロール7の部分を簡略化して示した平面図、図2は図1の要部の斜視図である。
図示例の高周波溶接機は高周波抵抗溶接機であり、符号6は高周波抵抗溶接機のコンタクトチップを示している。
図1において、管になる前後の管状体(端縁どうしが閉じていない管状の金属板、又は端縁どうしが閉じ合わされた管の両方を指す)をいずれも符号1で示す。
【0035】
この実施例で対象とするスクイズロール7は、図3にも示すように、左右1対のサイドロール8と、上部の左右1対のトップロール9とからなる4ロール方式のスクイズロールにさらに受けロール11を備えた5ロール方式のスクイズロールである。サイドロール8の回転軸を8aで示す。
左右のトップロール8は図示の通り、それぞれ概ね管状体1の中心に向かうように傾斜しており、左右のサイドロール8の上部間において、端縁1aに近接した位置で管状体1の外周面を押圧する。
トップロール9は面盤13に取り付けられている。面盤13に左右1対の斜め下向きコ字形の枠部14が固定され、この枠部14に設けた圧下スクリュウ15の下端にホルダーヨーク16が連結され、このホルダーヨーク16にトップロール9が回転可能に軸支されている。トップロール9の回転軸を9dで示す(図1、図2)。
なお、実施例は5ロール方式であるが、受けロール11のない4ロール方式であっても当然、同様に適用できる。
【0036】
図4にも示すように、前記ホルダーヨーク16の前面(図4(イ)で右側の面:高周波コイル6側の面)にスクレーパ装置20が取り付けられている。
このスクレーパ装置20は、板状のMCナイロン(登録商標)からなるスクレーパ21と、このスクレーパ21をホルダーヨーク16に取り付けるブラケット22とからなっている。なお、MCナイロンは、その各種グレードのなかで、高耐熱性・耐摩耗性のものを選択するが、例えばMC901・MC900NC等を用いることができ、あるいはさらに耐熱温度の高いグレードのものを用いてもよい。
ブラケット22は縦長の長方形の板状で、縦長の長穴22aを有し、ボルト23を前記長穴22aを通してホルダーヨーク16の前面にあけたネジ穴にねじ込んで、ブラケット22をホルダーヨーク16に固定する。このブラケット22の前面の下部にスクレーパ21をボルト24で固定している。
スクレーパ21は、図7にも示すように、長方形の下端部に突出部21aを有する板状体であり、上部に2つの取り付け穴を持ち、下端縁が横向きのL字形をなしている。スクレーパ21は、そのL字形の下端縁21b及び21cがそれぞれ、トップロール9の角部9aの近傍のロール外周面9b及びロール側面9cに対向するように、ブラケット22を介してホルダーヨーク16に取り付けられる。
図8はスクレーパの下端部の形状の他の実施例を示すもので、スクレーパ21の下端面をテーパ面21dにしたものである。
なお、スクレーパ21の下端縁のL字形は必ずしも直角に限らず、ロール外周の凹面に対応させて鋭角にしてもよい。また、場合により、鈍角にすることも考えられる。
【0037】
スクレーパ21のトップロール9に対する適切な位置及び姿勢を図5を参照して説明する。
図5(イ)はスクレーパ21のトップロール回転方向の位置及びトップロールに対するすくい角αを説明する図、(ロ)は(イ)のA方向から見た図で、ねじれ角γを説明する図、(ハ)は(イ)のB方向から見た図で、ねじれ角βを説明する図、である。
スクレーパ21のトップロール9に当たる当接位置Pは、材料送り方向から見た左右のトップロールの高周波加熱部側(図5、図4(イ)等で右側)における上部とする。すなわち、溶接点Mからトップロール回転方向に概ね180〜270°の範囲(図5(イ)におけるθが180〜270°)とする。
また、スクレーパ21の板面の、トップロール軸長手方向(図5(イ)で紙面と直交する方向)から見た前記当接位置Pにおけるロール接線a方向に対する角度、すなわちすくい角αは、30°±10°が適切である。
このすくい角αは、スクレーパ21のトップロール9に当たる当接位置P、及び、鉛直線に対する傾きにより定まる。図4の実施例ではスクレーパ21を鉛直な姿勢で設けたが、図5(イ)のように鉛直線に対して傾斜させてもよい。
前記の30°±10°というすくい角αは、堆積物を適切に削り取る上で有効である。
【0038】
図5(ロ)に示すように、スクレーパ21の、トップロール半径方向外方から見た(図5(イ)のA方向から見た)ロール幅方向に対する傾き角であるねじれ角γを設けてもよい。図4に示した実施例ではこのねじれ角γが0であるが、ねじれ角γを0〜5°の範囲で設定することができる。
ねじれ角γを設けると、すなわち、スクレーパ21をロール外周面上でロール幅方向に対して傾けると、スクレーパのロール面に対する接触長が長くなり接触面積が広くなるので、スクレーパに作用する単位面積当たりの削り力(抵抗力)が少なく済み、堆積物を削り取り易くなるが、そのねじれ角γは0〜5°が適切である。
スクレーパ21で堆積物を削り取る際、削り取った堆積物が滞留せずにスムーズに排出される必要がある。
前記スクレーパ21にねじれ角γを設けると、スクレーパの板面がロール円周方向に対して傾いており、堆積物を側方に向けて削り取る作用をするので、削り取った堆積物をスムーズに排出させるためにも有効である。
【0039】
図5(ハ)に示すように、スクレーパ21の、トップロール接線方向から見た(図5(イ)のB方向から見た)ロール幅方向に対する傾き角であるねじれ角βを設けてもよい。
図4に示した実施例ではこのねじれ角βが0°であるが、ねじれ角βを0〜5°の範囲で設定するのが好適である。
図6はスクレーパ21に前記ねじれ角βを設けた場合の正面図(図4(ロ)に相当する図)である。図6の正面図では前記ねじれ角βと若干異なる角度β’に見える。
スクレーパ21に適切な傾き角βを設定することで、トップロール9の凹の外周面9bに適切に対応させることができ、堆積物10の削り取りが有効に行なわれるようにできる。また、堆積物のトップロール9の外周面への付着厚みと側面への付着厚みとに対応させて調整することもでき、この点でも堆積物10の削り取りが有効に行なわれるようにできる。
【0040】
なお、一般的な電縫管製造設備と同様に、当然、溶接部の熱で高温となるトップロール9に冷却水をかけるが、特にスクレーパ21の部分にも積極的に冷却水をかける。これにより、樹脂であるスクレーパ21の耐熱性に問題が生じないようにする。
また、スクレーパ21で削り取った堆積物を排出するためのエア噴出ノズルを、スクレーパ21に向けて設けるとよい。
【0041】
まだ閉じていない管状体1のV字形に向き合う両端縁の直近に高周波抵抗溶接機のコンタクトチップ6をそれぞれ接触させ、コンタクトチップ6に高周波電流を流すと、両端縁1a、1aがまだ管状体1に電流が流れるが、表皮効果及び近接効果により、V字形に向き合って収束する両端縁1a、1aに電流が集中して、両端縁部がジュール熱により加熱され、スクイズロール7を通過する際の円周方向の圧縮力により両端縁部が突き合わされ、圧接される(突き合わせ溶接される)。上部の左右1対のトップロール9は、両端縁に近接した位置で管状体1に接触している。
この時、溶接点近傍では、火花放電により、溶けた金属が飛散して粒状に固まったスパッタが連続して発生し、トップロール9に堆積する。また、溶接ビード面上では、溶融した金属の表面に浮かぶ酸化物であるスラグが堆積し、トップロール9に付着する。
これらのスパッタあるいはスラグの堆積物は、左右のトップロール9のそれぞれ内側の角部9aが端縁開放の管状体1の端縁1aに近接しているので、図15にも示すように、トップロール9の角部9aを挟むロール外周面9b及びロール側面9cに堆積する。
しかし、付着した堆積物10は上述のスクレーパ21により削除される。すなわち、図4、図5において、溶接点Mからトップロール回転方向に180°を越えて回転してスパッタやスラグがスクレーパ21に達するまでに、堆積物が適度に冷却されて脆化しており、スクレーパ21で削り取り易くなっている。このため、スクレーパ21の材質が、硬度の高い金属やセラミック等と比べて硬度の低い樹脂であっても、堆積物を実際に有効に除去できる。
また、溶接点から180〜270°の範囲であれば、トップロールに冷却水を十分に掛けることでトップロール外周面及び堆積物の温度を十分に冷却することができるので、かつ、スクレーパ部分にも冷却水を十分に掛けることでスクレーパへの熱伝達を極力少なくすることができるので、耐熱温度(連続使用温度)が110℃以上のMCナイロンからなるスクレーパ21にとって、問題は生じない。
また、MCナイロン製のスクレーパ21がロール表面を傷つけることもない。
また、鉄などの磁性体のスクレーパであれば、スクレーパ自体に誘導電流が生じてスクレーパが高温に加熱されてしまうが、樹脂であるから、そのような問題もない。
また、堆積物は図15のように、トップロール9の角部9a及びこれに隣接するロール外周面9b及びロール側面9cに付着するが、スクレーパ21のトップロール9に当たる部分がL字形をなしているので、トップロール9の角部近傍のロール外周面9b及びロール側面9cに適切に当たり、その部分に付着した堆積物を有効に削り取ることができる。
【0042】
スクレーパ21を取り付けたブラケット22がその長穴22aにてボルト24でホルダーヨーク16に固定されているので、ブラケット22を上下に移動調節してスクレーパ21の上下方向の位置を調節することができ、ロール径の異なる種々のスクイズロールに対応することができる。すなわち、ロール径の異なる種々のスクイズロールに対して、容易に適切な押し付け力を設定することができる。
【0043】
トップロール外周面及び溶接点に発生してトップロールに付着した堆積物は、トップロールの回転とともに、冷却水によって急冷され、溶接点からトップロール回転方向に概ね180〜270°の範囲では十分低くなる。
MCナイロンの耐熱温度は110℃以上であるので、前記溶接点からトップロール回転方向に概ね180〜270°の範囲の位置であれば、上記の通り耐熱性に問題はなく、MCナイロンの耐久性を確保できる。
また、この範囲の位置であれば、火花放電により生じるスパッタがスクレーパに達してスクレー自体に堆積することもない。
しかし、削り取った堆積物が滞留しないための位置としては、θ=220〜240°の範囲が適切である。また、すくい角αを30°±10°の範囲に設定し易いという点でも、θ=220〜240°の範囲が適切である。
【実施例2】
【0044】
図9にスクレーパ装置の他の実施例を示す。この実施例のスクレーパ装置30は、スクレーパ21を、当該スクレーパ21をスクイズロール外周面に弾性的に付勢する圧縮コイルバネ(弾性部材)31を介在させてブラケット22に上下にスライド可能に取り付けたものである。
スクレーパ21は、抜け止め用の頭部32aを持つ軸32の下端に固定され、前記軸32には前記圧縮コイルバネ32が装着されるとともに、ブラケット22の上部に固定した張り出し部34にあけた穴若しくは溝より上に頭部32aがある状態で、上部張り出し部34に上下移動可能に係合している。スクレーパ21は、ブラケット22に設けたガイド22aに沿って上下にスライド可能である。
これにより、スクレーパ21は、常に圧縮コイルバネ31の反力でスクイズロール9の外周面に押し付けられる。
したがって、圧縮コイルバネ31の反力を適切に設定すれば、電縫管の製造中、スクレーパ21のスクイズロール9に対する押し付け力が適切な大きさに自動的に調整される。
【実施例3】
【0045】
図10(イ)、(ロ)、(ハ)にスクレーパ装置のさらに他の実施例を示す。
図10(イ)のスクレーパ装置40は、ブラケット22にスクレーパ21を、当該スクレーパ21のすくい角度αを調整するためのテーパブロック41を介在させて取り付けたものである。
ブラケット22への取付面41aとスクレーパ取付面41bのなす角度δが異なる複数種類のブロック41を用意しておけば、適切な角度δのブロック41を用いることで、スクレーパ21のすくい角度αを簡単に調整できる。
【0046】
図10(ロ)、(ハ)に示したスクレーパ装置40’、40”は、スクレーパ21を同じくテーパブロック41を介在させてブラケット22に取り付けているが、これらの各場合は、スクレーパ21の下端面21bがすくい角αを形成している。図10(ハ)はスクレーパ21の板面を特に水平にした場合を示す。
なお、図10(イ)、(ロ)、(ハ)ではスクレーパ21の下端の突出部21aの図示を省略した。
【実施例4】
【0047】
図11にスクレーパ装置のさらに他の実施例を示す。この実施例のスクレーパ装置50は、図8のスクレーパ21のように、下端面をテーパ面21dとしたスクレーパ21を用いたものである。このスクレーパ21を前記と同様にテーパブロック41を介してブラケット22に取り付けている。
【実施例5】
【0048】
図12にスクレーパ装置のさらに他の実施例を示す。
図12(イ)、(ロ)のスクレーパ装置60、60’はいずれも、スクレーパ21の下部をシャープな鋭角の広いテーパ面21eとしたものである。
図12(イ)はスクレーパ21を直接ブラケット22に取り付けた場合、図12(ロ)はスクレーパ21をテーパブロック41を介在させてブラケット22に取り付けた場合である。
【実施例6】
【0049】
上述の各実施例ではスクレーパの材質としてMCナイロンを用いたが、必ずしもMCナイロンに限定されない。耐熱性及び耐摩耗性の良好な樹脂材料であれば、採用できる。
また、上述の説明では、高周波溶接機が高周波抵抗溶接機である場合として示したが、高周波誘導溶接機を用いる場合にも当然適用できる。
【符号の説明】
【0050】
1 管(管状体)
1’金属板
1a 端縁
6 高周波加熱部(高周波抵抗溶接機のコンタクトチップ)
7 スクイズロール
8 (スクイズロールの)サイドロール
9 (スクイズロールの)トップロール
9a 角部
9b ロール外周面
9c ロール側面
10 堆積物(スパッタ及びスラグ)
11 受けロール
13 面盤
14 枠部
15 圧下スクリュウ
16 ホルダーヨーク
20、30、40、40’、40”、50、60、60’ スクレーパ装置
21 スクレーパ
21a 突出部
21b、21c (L字形の)下端縁
21d テーパ面
21e テーパ面
22 ブラケット
22a ガイド部
22a 長穴
31 圧縮コイルバネ(弾性部材)
32 軸
32a 頭部
34 張り出し部
41 テーパブロック
41a (テーパブロックの)ブラケットへの取付面
41b (テーパブロックの)スクレーパ取付面
α すくい角(トップロール軸長手方向から見たトップロール接線方向に対する傾き角)
β ねじれ角(トップロール接線方向から見たロール幅方向に対する傾き角)
γ ねじれ角(トップロール半径方向外方から見たロール幅方向に対する傾き角)
δ (テーパブロックの)ブラケットへの取付面とスクレーパ取付面のなす角度



【特許請求の範囲】
【請求項1】
電縫管製造設備における高周波溶接部のスクイズロールが、左右1対のサイドロールと上部の左右2つのトップロールとからなる4ロール方式又はさらに受けロールを備えた5ロール方式のスクイズロールである場合に、前記左右のトップロールのそれぞれ内側の角部近傍に付着したスパッタ及びスラグ等の堆積物を除去するスクイズロール用スクレーパ装置であって、
高耐熱性及び耐磨耗性の樹脂材料からなるスクレーパを、左右のトップロールの高周波加熱部側における上部の内側角部近傍に当たるように設けたことを特徴とするスクイズロール用スクレーパ装置。
【請求項2】
スクレーパがMCナイロンからなることを特徴とする請求項1記載のスクイズロール用スクレーパ装置。
【請求項3】
スクレーパがトップロールに当たる当接位置を、溶接点からトップロール回転方向に220〜240°)の範囲内としたことを特徴とする請求項1又は2記載のスクイズロール用スクレーパ装置。
【請求項4】
スクレーパが板状をなすとともに、このスクレーパの、トップロール軸長手方向から見たトップロール接線方向に対する傾き角であるすくい角αを30±10°に設定したことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のスクイズロール用スクレーパ装置。
【請求項5】
スクレーパが板状をなすとともに、このスクレーパの、トップロール接線方向から見たロール幅方向に対する傾き角であるねじれ角βが0〜5°の範囲にあることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のスクイズロール用スクレーパ装置。
【請求項6】
スクレーパが板状をなすとともに、このスクレーパの、トップロール半径方向外方から見たロール幅方向に対する傾き角であるねじれ角γが0〜5°の範囲にあることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のスクイズロール用スクレーパ装置。
【請求項7】
スクレーパが板状をなすとともに、トップロールに当たる部分の形状を、前記トップロールの角部を挟むロール側面とロール円周面との両方に接触するようなL形状にしたことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のスクイズロール用スクレーパ装置。
【請求項8】
スクイズロールホルダの、スクイズロールを直接回転可能に軸支する下向きコ字形のホルダヨークの前面に、長穴を設けたブラケットを、前記長穴を通したボルトで長穴長手方向に移動調節可能に取り付け、前記ブラケットにスクレーパを取り付けたことを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のスクイズロール用スクレーパ装置。
【請求項9】
前記ブラケットにスクレーパを、当該スクレーパのすくい角度αを調整するためのテーパブロックを介在させて取り付けたことを特徴とする請求項8記載のスクイズロール用スクレーパ装置。
【請求項10】
スクレーパを、当該スクレーパをスクイズロール外周面に弾性的に付勢する弾性部材を介在させて前記ブラケットにスライド可能に取り付けたことを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載のスクイズロール用スクレーパ装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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