説明

電荷量タグを含む合成ヌクレオチドのデザイン、合成及び使用

本開示の実施形態は、全般に、リンカー分子を介して、高電荷量部分が接合した、ヌクレオチドを含む合成ヌクレオチドであるレポーター組成物に関する。リンカー分子は、長さがある程度変化し得るので、重合が影響を受けないように、高電荷量部分がDNAポリメラーゼ複合体から外に伸びることを可能にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示の実施形態は、全般に、リンカー分子を介して電荷量レポーター分子(charge mass reporter molecule)を有するヌクレオチドを含む合成ヌクレオチドに関する。リンカー分子は、長さがある程度変化し得るのでそれにより重合のある面が完全にまたは部分的に影響を受けないように、レポーター部分がDNAポリメラーゼ複合体から外に伸びることを可能にする。
【背景技術】
【0002】
ヌクレオチドは、リボース、またはデオキシリボースリン酸に結合したプリンまたはピリミジン基を含むヌクレオシドのリン酸エステルとして定義されてよい。塩基として主にアデニン(A)またはグアニン(G)を有するプリンヌクレオチド、ピリミジンヌクレオチドであるシトシン(C)、チミン(T)またはウラシル(U)、これらは、DNA及びRNAにおける基本的な反復単位である(Henderson’s dictionary of biological terms, 1989)。
【0003】
DNAは、デオキシリボースヌクレオチドの単位を含む長いポリマーであり、RNAは、リボースヌクレオチドのポリマーである。ヌクレオチド塩基のかかる配列は、個々の遺伝形質を決定することを可能にする。
【0004】
分子生物学のセントラルドグマは、生物学的情報の通常の流れを一般に説明する:DNAはDNAに複製でき、DNAの遺伝情報はmRNAに「転写」でき、タンパク質は、翻訳と呼ばれる過程でmRNAの情報から翻訳でき、その過程において、mRNAにtRNA(各tRNAは、その配列に応じて特定のアミノ酸を運びこむ)が結合することにより、タンパク質のサブユニット(アミノ酸)が順番に(mRNAの配列により、及びそれ故に、DNAの配列により決定されるように)結合するのに十分な程度まで近接する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第5,644,048号
【特許文献2】米国特許第5,386,023号
【特許文献3】米国特許第5,637,684号
【特許文献4】米国特許第5,602,240号
【特許文献5】米国特許第5,216,141号
【特許文献6】米国特許第4,469,863号
【特許文献7】米国特許第5,235,033号
【特許文献8】米国特許第5,034,506号
【特許文献9】国際特許出願WO 97/33737号
【特許文献10】米国仮特許出願第61/094017号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Henderson’s dictionary of biological terms, 1989
【非特許文献2】Beaucageら(1993)、Tetrahedron 49(10)、1925頁
【非特許文献3】Letsinger (1970)、J. Org. Chem. 35、3800頁
【非特許文献4】Sprinzlら(1977)、Eur. J. Biochem. 81、579頁
【非特許文献5】Letsingerら(1986)、Nucl. Acids Res. 14、3487頁
【非特許文献6】Sawaiら(1984)、Chem. Lett. 805
【非特許文献7】Letsingerら(1988)、J. Am. Chem. Soc. 110、4470頁
【非特許文献8】Pauwelsら(1986)、Chemica Scripta 26、1419頁
【非特許文献9】Magら(1991)、Nucleic Acids Res. 19、1437頁
【非特許文献10】Briuら(1989)、J. Am. Chem. Soc. 111、2321頁
【非特許文献11】Eckstein、「Oligonucleotides and Analogues: A Practical Approach」、Oxford University Press社
【非特許文献12】Egholm (1992)、J. Am. Chem. Soc. 114、1895頁
【非特許文献13】Meierら(1992)、Chem. Int. Ed. Engl. 31、1008頁
【非特許文献14】Nielsen (1993)、Nature 365、566頁
【非特許文献15】Carlssonら(1996)、Nature 380、207頁
【非特許文献16】Denpcyら(1995)、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92、6097頁
【非特許文献17】Angew (1991)、Chem. Intl. Ed. English 30、423頁
【非特許文献18】Letsingerら(1988)、J. Am. Chem. Soc. 110、4470頁
【非特許文献19】Letsingerら(1994)、Nucleoside & Nucleotide 13、1597頁
【非特許文献20】ASC Symposium Series 580、「Carbohydrate Modifications in Antisense Research」、Y. S. SanghuiおよびP. Dan Cook編、第2および3章;第6および7章
【非特許文献21】Mesmaekerら(1994)、Bioorganic & Medicinal Chem. Lett. 4、395頁
【非特許文献22】Jeffsら(1994)、J. Biomolecular NMR 34、17頁
【非特許文献23】Tetrahedron Lett. 37、743頁(1996)
【非特許文献24】Jenkinsら(1995)、Chem. Soc. Rev、169〜176頁
【非特許文献25】Rawls、C & E News、1997年6月2日、35頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の実施形態に従って、レポーター組成物が開示される。レポーター組成物は、ヌクレオチドまたはその誘導体、ヌクレオチドまたはその誘導体に接合してもよいリンカー分子、及びレポーター組成物に作動可能に連結される高感度検出用ナノ構造(sensitive detection nanostructure)の特性を変化させるのに十分な電荷量(charge mass, 電荷質量)を含む、高電荷量部分を含む。一部の実施形態において、レポーター組成物中に存在するヌクレオチドまたはその誘導体は、デオキシリボヌクレオチド、リボヌクレオチド、ペプチドヌクレオチド、モルホリノ、ロックトヌクレオチド、グリコールヌクレオチド、トレオースヌクレオチド、任意の合成ヌクレオチド、それらの任意のアイソフォーム、及びそれらの任意の誘導体からなる群から選択されてよい。
【0009】
複数の他の実施形態において、リンカー分子は以下の一般式:H2N-L-NH2の分子を含み、式中、Lは、アルキル基、オキシアルキル基、またはそれらの組み合わせを含む直鎖または分岐鎖を含んでよい。リンカー中のLは、アルキル基、オキシアルキル基、またはそれらの組み合わせを含む直鎖を含んでよく、直鎖におけるアルキル基、オキシアルキル基、またはそれらの組み合わせの数は、多様な例において、1〜100、1〜75、1〜50、1〜25または1〜1000である。複数の例において、直鎖におけるアルキル基、オキシアルキル基、またはそれらの組み合わせの数は、1000を超えてもよい。リンカー分子及び/または高電荷量部分は、ポリメラーゼによるヌクレオチドの重合に影響を与えないように構成され、また除去可能である。リンカー分子は、ヌクレオチドまたはその誘導体のリン酸基、糖または塩基に結合してよい。
【0010】
一部の実施形態において、レポーター組成物中に存在する高電荷量部分は正または負であってよく、さらにこの部分の電荷量はpHに依存して変動してよい。複数の例において、高電荷量部分は、芳香族骨格及び/または脂肪族骨格を含んでもよく、該骨格は、1つまたは複数の第三級アミノ基、アルコールヒドロキシル基、フェノール性ヒドロキシル基、及びそれらのいずれかの組み合わせを含んでよい。複数の例において、高電荷量部分は、以下の基、それらの任意の誘導体、及びそれらのいずれかの組み合わせのうち1つまたは複数を含む。
【0011】
【化1】

【0012】
さらに、高電荷量部分に存在する前述の基、それらの任意の誘導体、及びそれらのいずれかの組み合わせの数は、様々な実施形態において、1〜10、11〜50、51〜100、または100を超えてよい。
【0013】
本発明のある態様において、レポーター組成物は以下の分子を含んでよい:
【0014】
【化2】

【0015】
(式中、Rは、デオキシリボヌクレオチド、リボヌクレオチド、ペプチドヌクレオチド、モルホリノ、ロックトヌクレオチド、グリコールヌクレオチド、トレオースヌクレオチド、任意の合成ヌクレオチド、それらの任意のアイソフォーム、及びそれらの任意の誘導体からなる群から選択される)。
【0016】
本発明の他の態様において、レポーター組成物は以下の分子を含んでよい:
【0017】
【化3】

【0018】
(式中、Rは、デオキシリボヌクレオチド、リボヌクレオチド、ペプチドヌクレオチド、モルホリノ、ロックトヌクレオチド、グリコールヌクレオチド、トレオースヌクレオチド、任意の合成ヌクレオチド、それらの任意のアイソフォーム、及びそれらの任意の誘導体からなる群から選択される)。
【0019】
本発明の更なる別の態様において、レポーター組成物は以下の分子を含んでよい:
【0020】
【化4】

【0021】
(式中、Rは、デオキシリボヌクレオチド、リボヌクレオチド、ペプチドヌクレオチド、モルホリノ、ロックトヌクレオチド、グリコールヌクレオチド、トレオースヌクレオチド、任意の合成ヌクレオチド、それらの任意のアイソフォーム、及びそれらの任意の誘導体からなる群から選択される)。
【0022】
ヌクレオチドまたはその誘導体、リンカー分子、及び高電荷量部分を含むレポーター組成物を含む、ヌクレオチド配列を決定するためのキットもまた本発明の実施形態に従って開示される。
【0023】
レポーター組成物の合成方法もまた開示される。該方法は、以下を含む:ヌクレオチドまたはその誘導体とリンカーの第一のアミン基との間の第一の共有結合を生成させ、ここで、ヌクレオチドまたはその誘導体のリン酸基、糖または塩基はリンカーの第一のアミン基に結合されており;及びリンカーの第二のアミン基と高電荷量部分に存在するいずれかの官能基との間の第二の共有結合を生成させ;ここで、少なくとも2つのアミン基を含むリンカーもまた本出願書類との関連で開示される。一部の実施形態において、該方法において使用されるヌクレオチドまたはその誘導体は、一リン酸基を含んでよい。他の一部の実施形態において、該方法において使用されるヌクレオチドまたはその誘導体は、アデノシン一リン酸(AMP)、グアノシン一リン酸(GMP)、シチジン一リン酸(CMP)、チミジン一リン酸(TMP)、及びウリジン一リン酸(UMP)からなる群から選択されてよい。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以来、ヒトゲノムの配列決定およびその後の研究により、ヒトのDNA配列を知る価値の大きさが示されてきた。ゲノムDNA配列の解析により得られる情報は、特定の疾患(乳癌およびBRCA 1遺伝子およびBRCA 2遺伝子など)を発症させる個体の相対的危険性についての情報を提供しうる。さらに、腫瘍に由来するDNAの解析により、病期および重症度評価(grading)についての情報も提供されうる。
【0025】
ウイルスまたは細菌により引き起こされる疾患など、感染性疾患もまた、ヌクレオチドポリマーゲノム(DNAまたはRNAのいずれか)内においてそれらの遺伝情報を保有する。今日、これらの多くは配列決定されており(またはそれらのゲノムのうち、診断検査の実施を可能とする程度に十分に配列決定されており)、臨床試料に由来する感染性疾患ゲノムの解析(分子診断学と呼ばれる分野)は、高感度かつ特異的に疾患を診断する重要な方法のうちの1つとなっている。
【0026】
試料中におけるmRNA分子種の存在または不在ならびにその量を測定することにより、個体の健康状態、疾患状態、予後についての情報、ならびに薬理遺伝学的情報および薬理ゲノム学的情報を得ることができる。これらの発現アレイは、早くも、複雑な疾患に対する治療努力(fight)におけるツールとなりつつあり、費用が軽減され始めれば、一般性を獲得しうる。
【0027】
つまり、ヌクレオチドポリマー(DNAおよびRNA)の解析は、臨床ルーチンにおいて重要となりつつあるが、費用が、依然として広範な全世界的採用に対する障壁をなしている。このことの1つの理由は、RT-PCR実験が進むにつれて、最大4つの異なる蛍光チャネルを高感度で測定することが可能な高価なデバイスを必要とする、解析の複雑性である。電気泳動ゲルなどの、より廉価な代替法は、ローテク装置を作動させて解釈する熟練技術者を必要としうるが、これもまた高価であり得、また、発展途上国では、熟練技術者を欠くために手が出せない。
【0028】
これを解決するため、使用が廉価で容易なデバイスを必要としうるヌクレオチドポリマー解析の方法が必要とされうる。本開示の一部の実施形態は、このようなデバイスにおいて一般に用いられ得る化学試薬、合成ヌクレオチドを記載する。本開示に関連して用いられる各種の実施形態は、リンカー分子を介して結合した(例えば、5'リン酸基に結合した)高負電荷量レポーター部分を伴い、ポリメラーゼの作用に対して著明な有害効果を引き起こさないように、該リンカー長が、重合の間ポリメラーゼ複合体から突出するような長さである、少なくとも一部の標準的なヌクレオチド(または任意の修飾体、もしくはアイソフォーム)を含む新規の合成ヌクレオチドを記載する。
【0029】
本明細書の各種実施形態において使用されるように、ヌクレオチドは、制限はされないが、以下の化合物である、アデノシン、グアニン、シトシン、チミジン、ウラシル、及びイノシン並びにいずれかの修飾ヌクレオチド、いずれかのヌクレオチド誘導体、及びいずれかの縮重(degenerate)塩基ヌクレオチドの1つであってよい。このようなヌクレオチドの一部の非限定例は、デオキシリボヌクレオチド、リボヌクレオチド、ペプチドヌクレオチド、モルホリノ、ロックトヌクレオチド、グリコールヌクレオチド、トレオースヌクレオチド、任意の合成ヌクレオチド、それらの任意のアイソフォーム、及びそれらの任意の誘導体を含んでよい。さらに、一本鎖デオキシリボース核酸(ssDNA)は、一般に、ヌクレオチドを含む一本鎖ヌクレオチドポリマー分子であり得、二本鎖デオキシリボース核酸(dsDNA)は、一般に、相補的な逆方向に、例えば、水素結合により一体に連結された2つのssDNA分子を含む二本鎖であり得る。
【0030】
ヌクレオチドは、一般に、in vitroおよびin vivoの両方における各種の方法により合成することができる。これは、実験室における、サルベージ合成(有用部分を置換するために、分解反応および合成反応により新たなヌクレオチドを再合成するのに、ヌクレオチドの一部を再使用すること)、または保護基の使用を伴いうる。後者の場合には、精製されるヌクレオシドまたは核酸塩基を保護して、ホスホルアミダイトを作製することができ、並びに、これらを、天然では存在しない類似体を得るのに、および/またはオリゴヌクレオチドを作製するのに用いることができる。
【0031】
一部の実施形態において、ヌクレオチド合成は、ヌクレオシド(糖に連結された窒素性塩基)の形成を含む。ヌクレオチドの合成および構造に関与する糖は、リボースの場合もあり、デオキシリボースの場合もある;後者の場合、ウラシルを除くすべての場合において、ヌクレオシド名の前に、「デオキシ」という接頭辞を付加する場合がある。次いで、この糖にリン酸官能基をエステル化させると、ヌクレオチドが作製可能である。リン酸基は、1つ、2つ、または3つのリン酸を含むことが可能であり、それぞれ、一リン酸、二リン酸、または三リン鎖を形成する。
【0032】
本開示の他の一部の実施形態は、ヌクレオチドおよびレポーター部分を含む特定の合成ヌクレオチドのデザイン、合成、および使用であって、該レポーター部分が、リンカーを介して結合するポリメラーゼ酵素遮断部分としては作用し得ないデザイン、合成、および使用に関する。
【0033】
本発明に関連する各種実施形態において使用されるレポーター部分またはレポーター組成物は、バイオセンサーまたは他の検出方法(目視など)によって容易に検出される分子であって、かつ興味のある分子を検出または増幅する、生体分子またはプローブ、またはプライマーに接合される。
【0034】
各種実施形態に使用されるリンカー分子は、ヌクレオチドにレポーター分子を結合させる複数のサブユニットから成るポリマーである。リンカー分子の例は、ジアミンリンカーH2N-L-NH2であって、Lはさらなる複数のサブユニットを示す。
【0035】
そのようなものとして、本開示は、電荷量におけるわずかな変動を表面でまたは表面近くで検出することが可能な高感受性のバイオセンサーにおける検出可能な変化を得るのに十分な、全体的に高電荷を有するレポーター部分が結合しているリンカー分子を有するいずれかのヌクレオチドまたはその誘導体を含むあらゆる構造が含まれるものと解釈されるべきである。従って、本出願書類中に存在する複数の実施例は、例示の目的のためのみに提示され、本発明の範囲を制限するものとみなされるべきではない。
【0036】
各種の実施形態において、合成ヌクレオチドは、以下の側面:
1.レポーター部分が、酵素活性、蛍光などではなくて、電荷量に基づいて報告されること;
2.各合成ヌクレオチドが、同じ電荷量のレポーター部分を有するか、または異なる電荷量を保有しうること;
3.レポーター部分を、容易に切断しうること;および/または
4.ヌクレオチドを、廉価かつ容易に大量合成しうること
のうちの少なくとも一部を有しうる。
【0037】
リンカー及びレポーター部分の結合に利用可能な部位が複数存在し得る。別のヌクレオチドポリマー内における、その相補体塩基とハイブリダイズする場合(すなわち、逆方向の相補体DNAの2本の鎖がハイブリダイズして、二本鎖DNA分子を形成する場合)、ヌクレオチド間の塩基の重合またはそれらの塩基間における水素結合に干渉しないようにリンカーを接合させることが重要である。可能な一部位はヌクレオチドにおけるリン酸結合でもよい。さらに、リンカーをリン酸の5’位に結合させることによって、ホスホジエステル結合形成が妨げられるので、さらなるヌクレオチドの付加が阻害されるであろう。
【0038】
リンカーとレポーター部分の接合に利用可能な他の可能な部位は、糖または塩基のいずれか上にある。
【0039】
他の一部の実施形態は、検出後において、リンカーおよびレポーター部分が、反復的な態様で合成ヌクレオチドから切断されうる使用方法を記載する。リンカーに結合しうる可能な位置のうちの1つは、リン酸結合の5'-リン酸端であり、それは、さらなるヌクレオチドの付加を防ぐので、従って、リンカーを切断することにより、この阻害を取り除いて、さならるヌクレオチドの付加が可能となる。
【0040】
例示として、5'-リン酸末端における合成を促進しうる、少なくとも2つの選択肢が存在する:
1.チオリン酸;および/または
2.ホスホルアミデート。
【0041】
したがって、少なくとも一部の実施形態において、提起されるリンカーは、以下の構造:
H2N-L-NH2
を有しうる[式中、Lは、ヌクレオチドならびに高電荷量部分に連結するように構成される、任意の直鎖状分子または分枝鎖状分子でありうる(それらの両方が合成ヌクレオチド中に存在する)が、これらに限定されない]。一部の実施形態において、Lは、多様な長さにを有する、複数のアルキル基、オキシアルキル基、またはこれらの組合せを含む。一実施形態において、L中のアルキル基、オキシアルキル基、またはこれらの組合せの数は、1〜100である。別の実施形態において、L中のアルキル基、オキシアルキル基、またはこれらの組合せの数は、1〜75である。さらに別の実施形態において、L中のアルキル基、オキシアルキル基、またはこれらの組合せの数は、1〜50である。さらに別の実施形態において、L中のアルキル基、オキシアルキル基、またはこれらの組合せの数は、1〜25である。別の一部の実施形態において、L中のアルキル基、オキシアルキル基、またはこれらの組合せの数は、100を超える場合がある。例示を目的として、NH2を示しているが、ヌクレオチドまたはその誘導体ならびに高電荷量部分に架橋されうる他の任意の官能基により(それらの両方が合成ヌクレオチド中に存在する)、このNH2を置換することができる。NH2の代わりに用いうる一部の例示的な例には、任意のアルキル基(例えば、CnH2n+i [式中、nは、1、2、3など正の整数を表わす])、任意のアルコール基(例えば、CnH2nOH [式中、nは、1、2、3など正の整数を表わす])、任意のカルボキシル基(例えば、COOH)、任意のアミド基(例えば、CONH)、およびこれらの任意の誘導体が含まれるがこれらに限定されない。リンカー分子は、重合の一部の側面が、完全に、または部分的に影響されることがないよう、レポーター部分が、ヌクレオチドポリメラーゼ(例えば、DNAポリメラーゼ、RNAポリメラーゼ、および他のポリメラーゼ)複合体から伸び出すことを可能とするように長さおよび化学構造において部分的に変化させることができる。
【0042】
リンカーの所望の長さを、完全であれ部分的であれ知ることができない状況において、多様な長さのリンカーを容易に入手できることは、利益と考えることができる。これにより、最適化実験が容易となりうる。
【0043】
したがって、少なくとも一部の実施形態において、ヌクレオチドを伴うリンカー(例示的な例としては、アデノシン)は、以下の構造を有しうる。以下の一部の例ではアデノシンを示すが、他の一部の実施形態では、このアデノシンを、他の任意の天然ヌクレオチドまたは合成ヌクレオチド、その任意の修飾体、また、その任意の誘導体により置換することができる。
【0044】
【化5】

【0045】
一部の実施形態において、この位置における多様な長さのリンカーは、以下の構造を有してもよい(アデノシンを用いて例示される):
1. エチレンジアミン(2炭素結合長離れる)
【0046】
【化6】

【0047】
2. ペンタンジアミン(5炭素結合長離れる)
【0048】
【化7】

【0049】
3. 13炭素結合長と同等の長さ離れる
【0050】
【化8】

【0051】
したがって、一部の実施形態において、このようにして選択されるリンカーは、
1.入手が容易であり;
2.連結および切断が容易であり(以下の可能なプロトコールを参照されたい);かつ/または
3.ポリメラーゼおよびポリ核酸鎖と相互作用せず、かつ/または
新生ヌクレオチドポリマーによるヌクレオチドの重合および伸長に影響を及ぼさないことが可能である。
【0052】
レポーター部分: 本明細書で使用されるように、「レポーター部分」は、その存在を「報告(reporting)」するレポーター部分の存在なしには検出することが通常困難である興味のある分子を検出または増幅する生体分子、またはプローブ、またはプライマーに接合され、かつバイオセンサーまたは他の検出方法(目視など)により容易に検出される分子である。レポーター部分は、荷電された分子及びさらには樹枝状に配列される多くの荷電された分子の任意の荷電された分子群であってよい。報告の態様(reporting mode)は、ナノワイヤー/ナノチューブによるFET、ナノポア及び他の圧電性バイオセンサーなどの、高感受性荷電検出用バイオセンサーにより検出される、それらの荷電である。一部の実施形態において、レポーター部分は、UV検出器もしくは可視光検出器によるそれらの検出を可能とする発色性、または蛍光検出によりそれらを検出させる蛍光発光性など、他の特性と関連しうる。さらに、レポーター部分の量は、表面プラズモン共鳴バイオセンサー及びカンチレバー(cantaliver)などの、質量を検出可能なバイオセンサーを用いて開発されてよい。
【0053】
レポーター上の電荷:本発明のある実施形態は、高電荷量を保有するレポーター部分を記述する。一実施形態において、レポーター部分は、合成ヌクレオチド中に存在するヌクレオチドまたはその誘導体の電荷量より大きな電荷量を、該合成ヌクレオチドに導入しうる。しかし、別の実施形態において、レポーター部分により導入される電荷量は、合成ヌクレオチド中に存在するヌクレオチドまたはその誘導体の電荷量と実質的に同等であるかまたはそれより小さい場合がある。レポーター部分の一部の非限定的で例示的な例は、本明細書に記載されている。これらの例は、例示だけを目的とするものであり、本発明の範囲を限定するものと考えるべきではない。レポーター部分が合成ヌクレオチドに電荷量を供給するように、また、部分的であれ全体的であれヌクレオチドの重合反応に影響を及ぼさないように構成される限り、レポーター部分の化学構造および/または大きさ(例えば、レポーター部分として用いられる分子の長さ、サイズ、および質量)は制約されなくてよい。
【0054】
該部分上における電荷は、正の場合もあり、負の場合もある。結合の性質を考慮すれば、以下により、本開示の一部の実施形態においておそらく用いうる、電荷選択の一部の側面が提示される。
【0055】
正電荷:一部の実施形態では、芳香族骨格または脂肪族骨格上に第三級アミノ基を組み込むことにより、レポーター部分上において、一般に多数の正電荷を誘導することができる。酸性のpH(7未満)にあるこのような実施形態において、これらの基は、正電荷をおびることが可能であり、これにより、検出可能となる。
【0056】
負電荷:他の一部の実施形態では、芳香族骨格または脂肪族骨格上にアルコールヒドロキシル官能基および/またはヒドロキシ官能基を組み込むことにより、レポーター部分上において、一般に負電荷を誘導することができる。上述の基準を満たす、提起されるレポーター部分の一部を以下に挙げる。以下に列挙される断片は、入手可能でありえ、アミノ末端を介してリンカーに結合可能でありうる。さらなる利点は、ホスホルアミデート結合を形成するのに提起される試薬が、このアミド結合を形成するのに提起される試薬と同じ可能性があるということでありうる(したがって、系の費用がさらに削減される)。
【0057】
さらに、少なくとも部分的には、アルカリ性のpH(7を上回る)に対するこの結合の安定性により、負電荷の誘導過程は、干渉性を示さないか、または干渉性が実質的にわずかである。
【0058】
例示を目的として、以下の3つの非限定的な例を示す。これらの例は、例示だけを目的とするものであり、したがって、本発明の範囲を限定するものと考えるべきではない。以下の例に対する任意の改変は、それ自体、本発明の範囲内に確実に包含されている。例えば、該例と関連付けられる1または複数の基(例えば、-OH基、=O基、COOH基、または他の基)に対する任意の置換を実施することができる。また、以下の例のうちの1または複数に対するオリゴマー化または重合もまた、許容されうる。さらに、このような化学構造または分子が、合成ヌクレオチドに帯電量を供給するように、また、部分的であれ全体的であれヌクレオチドの重合反応に影響を及ぼさないようにも構成される限り、様々な大きさ(例えば、レポーター部分の長さ、サイズ、および質量)を有する他の任意の化学構造または分子を、レポーター部分として用いることができる。
【0059】
【化9】

【0060】
帯電後において、特定の実施形態におけるこれらのレポーターのうちの一部は、以下の通りに存在しうる。
【0061】
【化10】

【0062】
レポーター1およびレポーター3は市販品で入手できるが、レポーター2は特別注文で合成することができる。
【0063】
したがって、提起されるレポーター部分は一般に、
1.入手または合成が容易であり;
2.高電荷を保有し;
3.廉価であり;かつ/または
4.連結および切断が容易である
ことが可能である。
【0064】
最終化合物(単量体):上記の提起に基づくなら、リンカーおよびレポーターを伴うヌクレオチドの最終的な構造は、少なくとも実施形態の一部では以下の通りとなるであろう。一部の最終化合物の以下の例もまた、例示を目的とするものであり、したがって、本発明の範囲を限定するものと考えるべきではない。上記で説明した通り、ヌクレオチドまたはその誘導体、リンカーおよび高電荷量レポーター部分について許容される任意の変化はまた、最終化合物にも許容される。したがって、一部の例の5'-リン酸末端におけるヌクレオチドとしてのアデノシンに対して、リンカーが、例えば、C13同等物(上記の選択肢3)であるならば、各種のリンカーにより、最終構造物は以下の通りになると考えられる。
【0065】
提起される1つの最終合成ヌクレオチド1 (レポーターは単量体形態であるが、これは、必要に応じて、電荷量を増大させるようにこれらの単量体を凝集させることにより重合させることができる。):
【0066】
【化11】

【0067】
提起される別の合成ヌクレオチド2 (レポーターは単量体形態であるが、これは、必要に応じて、電荷量を増大させるようにこれらの単量体を凝集させることにより重合させることができる。):
【0068】
【化12】

【0069】
提起されるさらに別の合成ヌクレオチド3 (レポーターは単量体形態であるが、これは、必要に応じて、電荷量を増大させるようにこれらの単量体を凝集させることにより重合させることができる。):
【0070】
【化13】

【0071】
以下は、少なくとも一部の実施形態において用いられる合成プロトコールの非限定的で例示的な例である。
1.アデノシンの5'-ホスホルアミデートの合成:(ジアミンリンカーとのヌクレオチドの結合)。アデノシンホスホルアミデートの5'-アミノ誘導体を合成するには、ジアミンおよびアデノシン一リン酸(AMP)を水中に溶解させ得るChuらの方法を用いることができる。その後EDACを添加し、一定の撹拌を伴う室温でインキュベートした。反応が完了するまでモニタリングした。
2.提起される最終構造物の合成:(レポーター部分とのジアミンリンカーの結合)。アデノシンホスホルアミデートの5'-アミノ誘導体を合成するには、ジアミンおよびアデノシン一リン酸(AMP)を水中に溶解させ得るChuらの方法を用いることができる。その後EDACを添加し、次いで、一定の撹拌を伴う室温でインキュベートした。反応が完了するまでモニタリングした。
【0072】
同様の手順の1つの利点は、それが、単量体としての最終化合物の形成をもたらす両方のステップに適合しうることである。
【0073】
一部の実施形態の一部の例示的な例では(下記を参照されたい)、リンカーおよびレポーター部分の切断を実施する必要があってもよい。ホスホルアミデートなどの結合は、一般に、周囲温度においてトリフルオロ酢酸などの酸を用いることによりごく容易に切断することができる。例示的な例として、提起される合成ヌクレオチド2を、以下の可能な3D図として示す。該分子の左下方の芳香環は、微弱なアルカリ性条件下ならば、潜在的に負電荷へと転換されうる3つのヒドロキシ官能基を有する。以下は、リンカー3を介してレポーター1と結合したアデノシンの3D立体構造、および関連データである。
【0074】
【化14】

【0075】
ホスホルアミデートと末端の荷電原子とのおおよその距離は約20オングストロームであり、これは、一般に、検出用表面において電荷による電位差(charge potential)を誘導するのに十分でありうる。少なくとも部分的にはリンカー長を変化させることによる、位相のさらなる変化により、この距離をさらに変化させることができる。末端のレポーター部分上における電荷はまた、レポーター部分の化学的変化によっても変化しうる。
【0076】
ある実施形態において、付属の特許請求の範囲に記載されるレポーター組成物は、高電荷量部分に結合する切断可能なリンカー分子を伴う任意のヌクレオチドを含み、ここで、合成ヌクレオチド(それ以外にはレポーター組成物として参照される)は、レポーター組成物がナノ構造に作動可能に連結する場合(例として、合成手順による配列決定の間に合成ヌクレオチド(レポーター組成物)の新生鎖への付加により)、高感受性検出用ナノ構造の特性に検出可能な変化を引き起こすのに十分な電荷を有する。
【実施例】
【0077】
以下の記述は、本開示の一部の実施形態についての、例示的な実施例である。
【0078】
(実施例1)
DNAの配列決定
一例における配列決定法では、蛍光発光および高価な高感度カメラを用いることはなく、代わりに、少なくとも部分的には、その検出用表面または表面近傍における電荷量の蓄積を検出することが可能でありうる高感度ナノ構造を用いて、レポーター部分の電荷を感知することにより、本開示の一部の態様において説明される合成ヌクレオチドの付加を検出することができる。合成反応により配列決定される際に、伸長するポリマーに新たなヌクレオチドが付加されると、高感度ナノ構造の表面または表面近傍における電荷密度が増大する場合があり、これは、高感度検出用ナノ構造における特性変化により検出することができる(例えば、検出構造として、ナノワイヤー、またはカーボンナノチューブを用いる場合、その表面に近接するヌクレオチドの付加により引き起こされる電荷の増大は、電界効果と呼ばれる現象により、ワイヤー中における抵抗の変化により検出することができる)。しかし、ポリマーが伸長するにつれ、付加されたヌクレオチドにより保有される電荷が、高感度ナノ構造(例えば、ナノワイヤー)から遠く隔たりすぎて、該高感度検出用ナノ構造の特性変化を引き起こさなくなる可能性があるために、シグナルが減衰する場合があり、また、シグナルを観察できない場合がある。したがって、「リーディング長(read length)」(このヌクレオチド配列決定法により得ることのできる配列データの量)は、制約されうる。
【0079】
本明細書におけるこの特定の例で用いられるように、「高感度検出用ナノ構造(sensitive detection nanostructure)」とは、その表面または表面近傍において、かつ任意のポイントにおいて、任意の電荷の変化を検出することが可能であり、少なくとも1つの断面寸法が、約500ナノメートル未満、典型的には約200ナノメートル未満、より典型的には約150ナノメートル未満、さらにより典型的には約100ナノメートル未満、さらにより典型的には約50ナノメートル未満、またより典型的には約20ナノメートル未満、さらにより典型的には約10ナノメートル未満、またさらに約5ナノメートル未満でありうる、任意の構造(ナノスケールまたはそれ以外の)でありうる。他の実施形態において、該断面寸法のうちの少なくとも1つは、一般に、約2ナノメートル未満、または約1ナノメートルでありうる。一連の実施形態において、高感度検出用ナノ構造は、少なくとも1つの断面寸法が、約0.5ナノメートル〜約200ナノメートルの範囲でありうる。
【0080】
高感度検出用ナノ構造の特性は、圧電測定、電気化学的測定、電磁的測定、光測定、力学的測定、音響測定、および重量測定などを介して測定可能でありうる形で、表面または表面近傍の電荷に応答して変化しうる。高感度検出用ナノ構造の例には、二次元電界効果トランジスタ、カンチレバー、ナノワイヤー、カーボンナノチューブ、また、すべての誘電性マクロ構造、誘電性ミクロ構造、誘電性ナノ構造、誘電性ピコ構造、誘電性ゼプト構造、またはより小型の誘電性構造が含まれるがこれらに限定されない。
【0081】
本開示の特定の実施形態は、反応が進むにつれてその長さが長くなるリンカー分子を介して、高負(または正)電荷量レポーター部分を結合させた(例えば、5'リン酸基に結合させた)通常のヌクレオチドを含みうる合成ヌクレオチドを用いることにより、少なくとも部分的にこの制約に対処する。この電荷量は、これを高感度ナノ構造(例えば、ナノワイヤー)に「届かせて」、該高感度検出用ナノ構造の特性変化(例えば、用いられる高感度検出用ナノ構造に応じて、該構造内における電界効果または他の誘電変化)を引き起こすようにデザインすることができる。電界効果の恒常的な増大をもたらす、多量のレポーター部分の蓄積を除去することにより、良好な品質管理手段を可能とし、長いリーディング長を確保するため、少なくとも特定の実施形態では、これらのレポーター部分を切断して、合成配列により配列決定される次のヌクレオチドの付加を可能としうる。
【0082】
したがって、一部の実施形態において、サイクル反応は、以下の全体的または部分的に連続するイベントのうちの少なくとも一部または全部を含み得る:
1.配列決定される鋳型のssDNA分子を、高感度検出用ナノ構造および付加されるプライマーにライゲーションする場合もあり、高感度検出用ナノ構造上においてあらかじめ固定化させたか、あるいは高感度検出用ナノ構造を配置したマイクロ流体チャネル内でほどき、伸長させたプライマー配列に結合させる場合もあること。
2.高感度検出用ナノ構造を、水または低濃度塩緩衝液(1倍濃度SSCなど)により洗浄しうること。
3.高感度検出用ナノ構造の測定が可能であること。
4.重合反応に必要とされる1つの合成ヌクレオチド、ポリメラーゼ、および他のエレメントを含有する混合物を添加しうること。一例において、添加されるヌクレオチドが、プライマー配列のすぐ下流にあるマイナス鎖上における塩基に相補的である場合、それは、該ポリメラーゼにより、伸長する鎖へと組み込まれうること。
5.次いで、反応物を、水または低濃度塩緩衝液(1倍濃度SSCなど)により洗浄しうること。
6. 高感度検出用ナノ構造の測定が可能であり、これにより、レポーター部分の高電荷量により引き起こされる効果を観察しうること。
7.次いで、レポーター部分を切断しうること(例えば、酸溶液により、または酵素的に)。
8. 4つのヌクレオチドのうちの各々について第2〜7項目を反復しうること。また、明確なシグナルが減衰するまで、これを反復しうること。
【0083】
鋳型分子がプローブに固定化されるかまたは結合され、これが、高感度検出用ナノ構造に固定化されうる一部の実施形態では、高電荷量レポーター部分を合成ヌクレオチドに結合させるリンカー長を長くして、該電荷を、高感度検出用ナノ構造に「届かせて」、効果を及ぼすことを可能としうる。これは、合成反応による配列決定が進むにつれ、伸長するヌクレオチドポリマーにより、次のヌクレオチド付加部位が、高感度検出用ナノ構造からますます遠ざかりうるために、少なくとも一部の実施形態では必要でありうる。
【0084】
鋳型分子が、高感度検出用ナノ構造に固定化されず、または高感度検出用ナノ構造に固定化され得るプライマー/プローブにハイブリダイズされず、その代わりに、遊離されうるるか、または高感度検出用ナノ構造のクラスター全体にわたり水平に固定化されうる他の一部の実施形態では、サイクル反応の各々に対して単一のリンカー長を用いることができる。
【0085】
(実施例2)
プライマー伸長
一部の実施形態において、電気的バイオセンサー(ナノワイヤー/ナノチューブによるFET、二次元FET、ナノポア、圧電性フィルム/表面など)上で検出が実施されるプライマー伸長実験のための本開示の一部の態様について合成ヌクレオチドについて記述される。プライマー伸長は、DNAまたはRNAの5’端をマッピングするまたは決定することが可能な技術として一般に定義される。例えば、プライマー伸長は、遺伝子の転写開始部位の開始位置を決定するために使用可能である。この技術は、一般に、標的遺伝子の3’端近傍の領域に相補的である標識されたプライマーを必要とする。プライマーは標的遺伝子の転写物にアニーリングすることを可能にし、逆転写酵素は、転写物の5’端に到達するまで、転写物に対して相補的なcDNAを合成するために使用される。ポリアクリルアミドゲル上に生成物を流すことにより、ゲル上の配列の長さが標識されたプライマーに対する開始位置からの距離を示すので、転写開始部位を決定することが可能である。cDNAの合成の間、本出願書類に開示される合成ヌクレオチドが新生cDNA鎖に対して使用されかつ付加され得る。特定の合成核酸(例えば、アデニン、グアニン、チミジンまたはシスチンを有するデオキシヌクレオチド)の付加は、ナノセンサーによって検出され得る。以下にさらに記述されるナノセンサーは、一部の実施形態において該ナノセンサーに新生cDNA鎖が結合してもよいようにプライマーに結合し得る。あるいは、他の一部の実施形態において、標的配列の転写物はナノセンサー(例えば、ナノワイヤー、ナノチューブ、ナノビーズ、ナノポア、ナノギャップ及びその他のもの)に結合してもよい。
【0086】
バイオセンサー
各種実施形態で使用されるように、バイオセンサーは、一般に、生物学的要素に物理化学的検出要素を組み合わせた、検体の検出のためのデバイスである。一部の実施形態において、それは3つの側面を含んでよい:1. (高)感受性生物学的エレメント(生体物質(例えば、組織、微生物、器官、細胞受容体、酵素、抗体、核酸など)、生物由来物質または生物模倣体)。高感受性エレメントは生物工学により形成されてよい;2. 検体と生物学的エレメントの相互作用から生じるシグナルを、より容易に検出及び定量され得る他のシグナルに変換する(すなわち、変換器)、変換または検出用要素(物理化学的方法;光学的、圧電性、電気化学的など、で作用する);3. 利便性の高い態様で結果のディスプレイに主に関与する、関連する電子装置またはシグナル処理部。一部の他の例において、シグナル処理ユニットは、さらに1または複数の、シグナル検出ユニット、シグナル記録ユニット、データ処理ユニット及びデータ報告ユニットを含んでよい。
【0087】
ナノ構造
各種実施形態において使用されるように、ナノワイヤーは、細長いナノスケールの半導体であって、その長さに沿う任意のポイントで、500ナノメートル未満、好ましくは200ナノメートル未満、より好ましくは150ナノメートル未満、さらにより好ましくは100ナノメートル未満、さらにより好ましくは70、いっそうさらに好ましくは50ナノメートル未満、よりいっそう好ましくは20ナノメートル未満、さらにより好ましくは10ナノメートル未満、またさらに5ナノメートル未満である、少なくとも1つの断面寸法、及び一部の実施形態では、2つの直交断面寸法を有する。他の実施形態において、該断面寸法は、2ナノメートル未満または1ナノメートル未満でありうる。一連の実施形態において、ナノワイヤーは0.5ナノメートル〜200ナノメートルの範囲にある少なくとも1つの断面寸法を有する。コアおよび周囲領域を有するナノワイヤーについて述べる場合、上記の寸法は、コアの寸法に関する。細長型半導体の断面は、円形、正方形、長方形、楕円形及び管状が含まれるがこれらに限定されない任意の形状を有することが可能である。規則的形状および不規則的形状が含まれる。本発明のナノワイヤーを作製し得る原料の非限定的なリストを以下に示す。
【0088】
ナノチューブは、本発明で用いられ得るナノワイヤーのクラスであり、一実施形態において、本発明のデバイスは、ナノチューブにふさわしいスケールのワイヤーを包含する。本明細書で用いられるように、「ナノチューブ」とは、中空のコアを有するナノワイヤーであり、これには、当業者に知られるナノチューブが含まれる。「ナノチューブ以外のナノワイヤー」とは、ナノチューブではない任意のナノワイヤーである。本発明の一連の実施形態において、表面が改変されていない(それが配置される環境内にあるナノチューブに固有ではない、補助的な反応実体を包含しない)ナノチューブ以外のナノワイヤーは、ナノワイヤーまたはナノチューブを用いうる、本明細書に記載の本発明の任意の配置において用いることができる。「ワイヤー」とは、導電性、少なくとも半導体または金属の導電性を有する任意の材料を指す。例えば、「導電性」ワイヤーまたはナノワイヤーに言及する場合に用いられる、「導電性の」または「導体」または「導電体」という用語は、電荷にそれ自体を通過させるそのワイヤーの能力を指す。好ましい導電性材料は、約10-3未満、より好ましくは約10-4未満、また最も好ましくは約10-6または10-7オームメートル未満の抵抗を有する。
【0089】
ナノポアは、一般に、単分子検出器として使用可能な電気的に絶縁性の膜内に1または複数の小孔を有する。一部の場合において、それは、高電気抵抗性の脂質二十層における生物学的タンパク質のチャネルまたはソリッドステート(solid-state)膜における小孔であってよい。ナノポアは、一般に、その中に1または複数の小孔を有する、ナノスケールサイズの球体構造である。一部の態様によれば、ナノポアは、炭素または任意の導電性材料から作製される。
【0090】
ナノビーズは一般に、ナノスケールサイズの球体構造である。ナノビーズの形状は、一般には球体であるが、また、円形、正方形、長方形、楕円形、および管状でありうる。規則的形状および不規則的形状が含まれる。一部の例において、ナノビーズは、内部に小孔を有しうる。
【0091】
ナノギャップは一般に、ナノメートルの範囲の2つの接触部間における分離からなるバイオセンサーに用いられる。それは、標的分子、または多数の標的分子が、2つの接触部間においてハイブリダイズまたは結合する場合を感知し、該分子を介する電気シグナルを伝達させる。
【0092】
前出のナノ構造、すなわち、ナノワイヤー、ナノチューブ、ナノポア、ナノビーズ、およびナノギャップは、一部の実施形態についての即時的な例示を行う目的で説明されるものであり、本発明の範囲を限定する目的で説明されるものではない。前出の例に加え、ナノスケールのサイズを有し、本出願において開示される核酸配列決定法および核酸配列決定装置に適用するのに適する任意のナノ構造もまた、本発明の範囲内に包含されると考えるべきである。
【0093】
一般に、分子及び化合物を検出するために、ナノ構造またはナノセンサーと共に用いる検出戦略は、それら(電界効果トランジスタ、ナノギャップ、または圧電性ナノセンサーなど)の特性に測定可能な変化を引き起こしうる、それらの表面もしくは表面近傍、またはナノギャップもしくはナノポアを介する変化を感知して、標的核酸(DNA、RNA、cDNAなど)を検出及び定量化することである。
【0094】
本発明の態様は、ナノワイヤーが暴露されるサンプル中の検体を決定するために構築されかつ配置されるシステムの一面を好ましくは形成するナノワイヤーを提供する。本文脈における「決定する」は、サンプル中の検体の量及び/または存在を決定することを意味する。検体の存在はナノワイヤーにおける特性、典型的には電気的特性または光学的特性における変化を決定するために決定されてよい。例えば、検体はナノワイヤーの導電性または光学的特性に検出可能な変化を引き起こし得る。一実施形態において、ナノワイヤーは本質的に検体を決定するための能力を備える。ナノワイヤーは、機能化され(functionalized)てもよく、すなわち、検体がナノワイヤーに結合し測定可能な特性変化を誘導する、表面機能的部分を含んでもよい。結合事象は特異的であってもまたは非特異的であってもよい。機能的部分は、制限されないが、-OH、-CHO、-COOH、-SO3H、-CN、-NH2、-SH、-COSH、-COOR、ハロゲン化物を含む群から選択される単純群(simple groups); 制限されないが、アミノ酸、タンパク質、糖、DNA、抗体、抗原、及び酵素を含む生体分子部分; 制限されないが、ポリアミド、ポリエステル、ポリイミド、ポリアクリル酸を含むポリマー群から選択される、ナノワイヤーコアの直径未満の鎖長を有するグラフト化ポリマー鎖; 制限されないが、以下の材料群:金属元素であってもよい、金属、半導体、及び絶縁体、酸化物、硫化物、窒化物、セレン化物、ポリマー及びポリマーゲルを含む、ナノワイヤーのコアの表面を覆う薄いコーティングを含んでもよい。別の実施形態において、本発明は、ナノワイヤー及び、ナノワイヤーの特性における変化を決定することによって検体を決定することができるようにナノワイヤーに関連して位置する、検体が相互作用する反応部分を提供する。
【0095】
電界効果トランジスタ(FET)
電界効果とは一般に、結合を介するよりもむしろ空間内における直接的な作用による、対象の中心と遠隔の単極子または双極子との間における分子間クーロン相互作用について実験的に観察可能な、F(反応速度などに対する)により表わされる効果を指す。電界効果(または「直接的効果」)の規模は、単極電荷/双極子モーメント、双極子の配向性、対象の中心と遠隔の単極子または双極子との間の最短距離、および有効誘電定数に依存しうる。これは、コンピュータ用のトランジスタにおいて利用されており、より近年では、ナノセンサーとして用いられるDNA電界効果トランジスタにおいて利用されている。
【0096】
電界効果トランジスタ(FET)とは一般に、バイオセンサーとして機能する生体分子の部分電荷に起因する電界効果を用いうる、電界効果トランジスタである。FETの構造は、バイオセンサーFETの場合に表面受容体として作用する固定化プローブ分子の層により置換されうるゲート構造を例外として、金属酸化物半導体電界効果トランジスタ(MOSFET)の構造と類似しうる。標的生体分子が受容体にハイブリダイズしまたは結合する場合、表面変化近傍の電荷分布は、半導体変換器(例えばナノワイヤー)を介して電流輸送を同様に調整する。
【0097】
生物学的試料
用語試料(サンプル)または生物学的試料(サンプル)は一般に任意の細胞、組織、または生物起源(「生物学的試料」)由来の流体、または任意の他の媒体、生物学的であれ非生物学的であれ、血清や水などを含む、本発明に従って評価され得るものを意味する。試料は、制限されないが、有機体(例えば、ヒト、非ヒト動物、無脊椎動物、植物、真菌類、藻類、細菌、ウイルスなど)由来の生物学的試料、ヒトの食用にデザインされた食物由来の試料、家畜の餌などの動物の食用に設計された食物、ミルクなどを含む試料、臓器提供用試料、血液供給用血液の試料、給水由来の試料などが挙げられる。試料の一例は、特定の核酸配列の存在または不在を決定するための、ヒトまたは動物由来の試料である。
【0098】
核酸またはオリゴヌクレオチド
本明細書における用語の核酸もしくはオリゴヌクレオチド、または文法的相当語句は、共有結合により一体に連結された少なくとも2つのヌクレオチドを指す。本発明の核酸は、一本鎖または二本鎖であることが好ましく、一般に、ホスホジエステル結合を含有するが、以下で概観される通り、一部の場合において、これには、例えば、ホスホルアミド結合(Beaucageら(1993)、Tetrahedron 49(10))、1925頁);および該文献における参考文献; Letsinger (1970)、J. Org. Chem. 35、3800頁; Sprinzlら(1977)、Eur. J. Biochem. 81、579頁; Letsingerら(1986)、Nucl. Acids Res. 14、3487頁; Sawaiら(1984)、Chem. Lett. 805; Letsingerら(1988)、J. Am. Chem. Soc. 110、4470頁;ならびにPauwelsら(1986)、Chemica Scripta 26、1419頁)、ホスホロチオエート結合(Magら(1991)、Nucleic Acids Res. 19、1437頁;および米国特許第5,644,048号)、ホスホロジチオエート結合(Briuら(1989)、J. Am. Chem. Soc. 111、2321頁)、O-メチルホスホロアミダイト結合(Eckstein、「Oligonucleotides and Analogues: A Practical Approach」、Oxford University Press社を参照されたい)、ならびにペプチド核酸骨格およびペプチド核酸結合(Egholm (1992)、J. Am. Chem. Soc. 114、1895頁; Meierら(1992)、Chem. Int. Ed. Engl. 31、1008頁; Nielsen (1993)、Nature 365、566頁; Carlssonら(1996)、Nature 380、207頁を参照されたい)を含む代替的な骨格を有しうる、核酸類似体が含まれる。他の類似体核酸には、正の骨格を伴う核酸(Denpcyら(1995)、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92、6097頁)、非イオン性骨格を伴う核酸(米国特許第5,386,023号、同第5,637,684号、同第5,602,240号、同第5,216,141号、および同第4,469,863号; Angew (1991)、Chem. Intl. Ed. English 30、423頁; Letsingerら(1988)、J. Am. Chem. Soc. 110、4470頁; Letsingerら(1994)、Nucleoside & Nucleotide 13、1597頁; ASC Symposium Series 580、「Carbohydrate Modifications in Antisense Research」、Y. S. SanghuiおよびP. Dan Cook編、第2および3章; Mesmaekerら(1994)、Bioorganic & Medicinal Chem. Lett. 4、395頁; Jeffsら(1994)、J. Biomolecular NMR 34、17頁; Tetrahedron Lett. 37、743頁(1996))、また、米国特許第5,235,033号、および同第5,034,506号、ならびにASC Symposium Series 580、「Carbohydrate Modifications in Antisense Research」、Y. S. SanghuiおよびP. Dan Cook編、第6および7章で説明される骨格を含めたリボース以外の骨格を伴う核酸が含まれる。1または複数の炭素環糖を含有する核酸もまた、核酸の定義内に包含される(Jenkinsら(1995)、Chem. Soc. Rev、169〜176頁を参照されたい)。Rawls、C & E News、1997年6月2日、35頁では、複数の核酸類似体が説明されている。リボース-リン酸骨格に対するこれらの修飾を行うことにより、標識などの付加部分の付加を容易とすることもでき、生理学的環境におけるこのような分子の安定性および半減期を増大させることもできる。
【0099】
検出戦略
本発明の一態様において、ナノ構造に結合するように構成される生物試料は核酸である。このような核酸にはDNA、RNA及びこれらの任意の誘導体が含まれてよい。一実施形態において、生物試料はDNAである。DNAがナノ構造に結合する場合、ヌクレオチドの数は5塩基から100塩基の範囲にあってよい。一部の実施形態において、DNAヌクレオチドの数は7塩基、10塩基、15塩基、20塩基、25塩基、30塩基、35塩基、40塩基、45塩基、50塩基、60塩基、70塩基、80塩基、90塩基及び100塩基であってよい。他の一部の実施形態において、リボ核酸及び任意の核酸誘導体は、ナノ構造に結合してもよい。さらなる他の一部の実施形態では、DNA、RNA及びその誘導体は同時に使用してもよい。従って、一例において、DNA配列はナノ構造に結合してもよいが、一方では別の例において、RNA配列はナノ構造に結合してもよく、さらなる別の例では、デオキシリボヌクレオチド、リボヌクレオチド、ペプチドヌクレオチド、モルホリノ、ロックトヌクレオチド、グリコールヌクレオチド、トレオースヌクレオチド、任意の合成ヌクレオチド、それらの任意のアイソフォーム、及びそれらの任意の誘導体などの核酸誘導体がナノ構造に結合してもよい。他の一部の例では、DNA及びRNAを含むヌクレオチド配列、DNA及び核酸誘導体、RNA及び誘導体、並びにDNA、RNA及び誘導体はナノ構造に結合してもよい。
【0100】
本発明の別の態様では、ナノ構造は導電性であり、本出願書類に開示されるように合成ヌクレオチドに由来する電荷を、その表面、近傍、内管(inner tube)及び/またはその中のポア(pore)で検出することが可能である。任意の診断用デバイスの重要な態様の1つは、どの程度特異的に(すなわち、低偽陽率)及び高感度で(すなわち、低偽陰率)生体分子を検出するかによって決定される性能を用いた生体分子の正確な検出を実行する能力である。少なくとも部分的には、ナノ構造上またはその近傍に固定化されたプローブに結合する標的分子により、それらの特性において測定可能な変化を引き起こし得る、それらの表面で、またはその近傍で、あるいはナノギャップまたはナノポアを介して電荷における変化を検出可能なナノセンサーは、標識(それらを検出装置が「検出する」ことを可能にする生体分子または興味のある分子に結合可能な高価な化学物質)の使用の必要性が制限されないか制限されて、超高感度性の検出用方法を提供する。
【0101】
本開示は、全般に、標的核酸(DNA,RNA、cDNAなど)を検出及び定量化するためのそれらの特性(電界効果トランジスタ、ナノギャップ、または圧電ナノ構造またはナノセンサーなど)において測定可能な変化を引き起こし得る、それらの表面で、または近傍で、あるいはナノギャップまたはナノポアを介して、電荷の変化を検出することにより分子及び化合物を検出し得るナノセンサーを用いた、分子生物学的プロトコル及び検出用戦略に関する。これらのバイオセンサーの基本的な機能は、ヌクレオチドポリマープローブ(またはPNA、モルホリノなどの合成ヌクレオチドポリマー)がナノ構造上、またはその近傍に固定化されることを要求するであろうし、プローブに結合する標的分子の増加(build up)は、プローブの電荷が原因で、ナノ構造またはナノセンサーの表面で、またはその近傍で、電荷密度の上昇を引き起こし得る。例えば、ナノワイヤー上で固定化された、(標的ヌクレオチドポリマーに相補的な逆向き配列を伴う)プローブに結合する増幅されたPCR断片は、電界効果と呼ばれる現象のために、ナノワイヤーの表面で、またはその近傍で、負電荷の増加によるコンダクタンスの測定可能な変化(ΔG)を引き起こし得る。一部の実施形態において、ヌクレオチド自身及び高電荷量レポーター部分に由来する、合成ヌクレオチドに存在する電荷は、ナノ構造/ナノセンサーによって検出され得る。
【0102】
これらのナノセンサーは生体分子の高感度で動的な(dynamic)検出に関する潜在性を提供するかもしれないが、この感受性が、たくさんの問題をもたらし得る。例えば、試料マトリックス内での、表面における電荷の自然変動は、ある程度は標的ヌクレオチドポリマー分子のフランキング(側面)配列(すなわち、プローブに結合しないオーバーハング配列)により、ノイズを引き起こし得る。さらに、ナノセンサーのアレイ上で同時に多くの標的分子が検出される場合、これらの分子のそれぞれのサイズ及びそれゆえに電荷量を標準化して、より厳しい比較及び品質コントロールを可能とさせるのが好ましいであろう。さらに、全ての標的分子に対して標準化したサイズを有することにより、アレイアッセイデザインにおけるプローブのハイブリダイゼーションの条件の標準化が可能となる。
【0103】
バイオセンサーシステム
バイオセンサーは、一般に、分子事象を電気的信号に変換し得る分析装置である。バイオセンサーに使用されるナノ構造は、核酸などの興味のある成分を検出するために一般に使用される。バイオセンサーは、液相または気相で一般に操作可能であり、例えば、集積装置用や下流の用途用の、非常に多様な用途を切り開く。従って、バイオセンサーは安価でかつ携帯用として製造可能であり、場合により移植可能な検出及びモニター用装置として使用される。あるいは、バイオセンサーは、質量分析器などの他の高分解能の装置と組み合わせてもよく、標的バイオ分子の存在、存在量及び/または構造的多様性の検出を含むさらなる情報を提供可能である。
【0104】
本発明の一態様は、電子的検出要素であってもよい、バイオセンサーの、検出要素、及び、検体を含む、もしくは含むと考えられる試料(例えば、液状試料)中の、検体の存在または不在を検出可能なナノワイヤーに関する。本発明のナノスケールセンサーは、例えば、pHまたは金属イオンの存在を検出するための化学的適用において;タンパク質、核酸(例えば、DNA、RNAなど)、糖類または炭水化物、及び/または金属イオンを検出するための生物学的適用において;並びに、pH、金属イオン、または興味のある他の検体を検出するための環境問題への適用において、使用してもよい。
【0105】
本発明の別の態様は、試料(サンプル)暴露領域(sample exposure region)を含むバイオセンサー及び検体の存在もしくは不在を検出することが可能なナノワイヤーを含む物品に関する。試料暴露領域は、試料暴露領域における試料が少なくともナノワイヤーの一部分に対処可能な該ナノワイヤーにごく接近したいずれの領域であってもよい。試料暴露領域の例には、制限されないが、ウェル、チャネル、マイクロチャネル、及びゲルが挙げられる。好ましい実施形態において、試料暴露領域は、ナノワイヤーに隣接した試料を保持し、または試料中の検体の決定のためにナノワイヤーに対して試料を向けてもよい。ナノワイヤーは、試料暴露領域に近接した、または内に位置してもよい。あるいは、ナノワイヤーは流体または流体の流路中に挿入されるプローブであってよい。ナノワイヤープローブは極微針をも含んでよく、試料暴露領域は、生物学的試料によってアドレス可能であってもよい。この準備において、極微針のプローブを生物学的試料中に挿入するために構築されかつ準備される装置は、試料暴露領域を規定する極微針を包囲する領域を含み、試料暴露領域における試料は、ナノワイヤーによってアドレス可能であり、逆も然りである。流体流路は、1997年9月18日に刊行された国際特許出願WO 97/33737号に記載されるものなどの様々な技術を用いて本発明(マイクロチャネル)に使用するのに有利なサイズ及び大きさで創製可能であり、該文献は参照により本明細書中に援用される。
【0106】
本発明の別の態様において、物品は、複数の、1または複数の検体の存在または不在を検出可能な複数のナノワイヤーを含んでよい。個々のナノワイヤーは、上述したように異なってドープされて(dope)よく、それにより、各ナノワイヤーの検体に対する感度を変化させる。あるいは、個々のナノワイヤーは特定の検体と相互作用するそれらの能力に基づいて選択されてもよく、それにより多様な検体の検出が可能になる。複数のナノワイヤーは不規則に、または互いに平行に配向されてよい。あるいは、複数のナノワイヤーは基体上のアレイに配向されてよい。
【0107】
検出器が存在する場合、ナノワイヤーに関連する性質を決定することのできるいずれの検出器も使用可能である。性質は電気、光学などであってよい。ナノワイヤーの電気的性質には、例えば、その伝導性、抵抗率などであってよい。ナノワイヤーに関連する光学的性質には、ナノワイヤーがpn接合で放射が生じる放射性(emissive)ナノワイヤーである場合の発光強度、または発光波長が含まれてよい。例えば、電気的または磁気的性質(例えば、電圧、電流、伝導性、抵抗率、インピーダンス、インダクタンス、電荷など)の変化を測定するために構築されうる検出器が使用されてよい。検出器には、典型的に、電源及び電圧計またはアンペアメーター(amp meter)が挙げられる。一実施形態において、1 nS未満のコンダクタンスが検出され得る。好ましい実施形態において、何千ものnSの範囲にあるコンダクタンスが検出され得る。種、または検体の濃度は、マイクロモル未満からモル濃度以上まで検出されてよい。既知の検出器を伴うナノワイヤーを使用することにより、感度は一分子にまで拡張され得る。一実施形態において、本発明の物品は、ナノワイヤーに対して刺激を送達することが可能であり、検出器は刺激から生じるシグナルを決定するために構築かつ配置される。例えば、pn接合を含むナノワイヤーは、刺激(電子電流)を送達可能であり、そこで刺激から生じるシグナル(電磁波放射線)を測定するために検出器が構築されかつ配置される。かかる配置において、ナノワイヤーと、またはナノワイヤーに近接して位置する反応部分(reaction entity)と検体との相互作用は、検出可能な態様でシグナルに影響を与え得る。別の例では、反応部分が量子ドットである場合、量子ドットは、ある波長の電磁波放射線を受け取り、異なる波長の電磁波放射線を放出するように構築されてよい。刺激が電磁派放射線である場合、検体との相互作用によってそれは影響を受け得るし、検出器はそこから生じるシグナルの変化を検出し得る。刺激の例には、定電流/電圧、交流電圧、及び光などの電磁波放射線が挙げられる。
【0108】
本発明の別の態様は、ナノワイヤーの電気的特性の変化を決定するために構築されかつ配置されるナノワイヤー及び検出器を含む物品を提供する。少なくとも一部のナノワイヤーは検体を含むかまたは含むと考えられるサンプルによってアドレス可能(addressable)である。表現「流体によってアドレス可能な」は、流体に存在すると考えられる検体がナノワイヤーと相互作用することができるように、ナノワイヤーに対して位置付けられる流体の能力として定義される。流体はナノワイヤーに近接するかまたは接触してよい。
【0109】
一部の実施態様において、ナノ構造は、現在入手可能なマイクロ流体システムであり、かつそれと互換性のあるフォーマットよりも高い密度での、マイクロカラムなどの複数の平行配列(parallel array)中に組み立てられ得る。ナノ構造アレイは、ナノワイヤー、ナノチューブ、ナノポア、ナノビーズ、ナノギャップ、またはそれらの組み合わせなどの複数のナノ構造を含んでもよい。アレイの各ナノ構造は、ナノワイヤーのコンダクタンスの任意の変化の検出のために、ナノワイヤー及び検出器にわたって電圧を適用するためのバッテリーに、例えば、2つまたはそれより多い電極を介して、電気的に接続されてよい。あるいは、各ナノ構造は別々に電気を受け取るか、または一緒に配列されるナノ構造の一部分のみが電気的に接続されてもよい。
【0110】
単一の検出器または検出器の組み合わせがナノワイヤーのアレイからのシグナルを検出するために場合により使用される。例えば、同一または異なるプローブに結合してもよい、異なる標的配列を含むプローブに結合する各ナノワイヤーが、複数のナノワイヤーの空間的アレイが、例えば、血液などの生物学的試料中に存在する複数の異なるヌクレオチド配列を素早く同定するために使用できるように、場合により別々に検出される。一部の例では、ナノ構造の複数のパッチがアレイ中に調製され、各パッチが、生物学的試料中の複数の標的配列を検出するために異なるプローブを提示する。あるいは、一部の他の例では、アレイに存在する全部のナノ構造が同一のプローブを提示してもよく、それにより、標的配列の存在、不在、及び/または変動のために、1つの該標的配列のみがテストされてよい。
【0111】
ナノ構造またはナノセンサーによる検出は、一般に、ナノ構造のコンダクタンスまたはその環境の変化である。シグナルは、ナノ構造を通した電圧、またはナノ構造を通した電流の変化に関して表現されてよい。かかる変化は典型的には電気的に、例えば電圧計及び/または電流計で検出される。あるいは、シグナルはデジタル的に検出される。一実施態様では、電圧は、定常状態のシグナルを提供する、ナノ構造、例えば、ナノワイヤーを通して適用される。ナノ構造に接合されるプローブ上で結合事象が発生すると、ナノ構造の近傍の電界が変化し、かつナノ構造のコンダクタンスが変化し、定常状態のシグナルの変動または変化を生み出す。このシグナルは電気的またはデジタル的に検出されてよく、興味のある事象の即時検出を提供する。
【0112】
生体分子の存在、レベル、及び/または変動を検出するために、バイオセンサーがシステムに組み合わされてもよい。一態様において、このようなシステムは、ナノ構造エレメントを通した電流を適用しかつ測定するための電源、モニターシステムを含んでよい。別の態様において、かかるシステムは、ナノ構造のプログラムされた操作を可能にし、得られるデータの有用な分析及び提示を受信し、蓄積し、そして提供するためのデータ処理能力をさらに含んでもよい。さらに、得られるデータを処理するためのコンピューターシステム並びにさらなる処理機構(単数または複数)が所望によりバイオセンサーシステム中に統合されてよい。バイオセンサーシステム中に存在するコンピューターシステムまたは任意の追加のエレメントは、データを分析し、または自動操作のためのソフトウェア並びに/あるいはバイオセンサーを用いて検出処理を実行するためのマニュアルを提供してもよい。さらに、バイオセンサーシステムの性能を向上させ得る任意の追加のエレメントが加えられてよい。本発明のバイオセンサーは即時のデータを回収可能である。
【0113】
(実施例3)
マイクロアレイなどのハイブリダイゼーション
一層他の一部の実施形態において、本開示の一部の態様において開示される合成ヌクレオチドがハイブリダイゼーションの処理に使用可能である。ハイブリダイゼーションの処理の一部の非限定的な例示的な例には、核酸及びタンパク質用のマイクロアレイが挙げられる。さらに、ハイブリダイゼーションを必要とし、標的の生体分子の存在、不在、もしくは任意の構造的変動を検出可能な任意の他の処理が含まれてよい。
【0114】
一例では、マイクロアレイで使用されるプローブは、ナノセンサー(例えば、ナノワイヤー、ナノチューブ、ナノビーズ、ナノポア、ナノギャップ、及びその他のナノ構造)などの媒体に結合されてよい。一部の場合には、生物学的試料から得られる標的ヌクレオチド配列は標識され、プローブと接触してよい。かかる場合、標的ヌクレオチドは、合成ヌクレオチドを組み入れてもよく、それにより、「高電荷量」で標識してもよい。プローブへの標的配列の結合は、それ自体、プローブが接合しているナノセンサーによって容易に測定可能である。さらに、本出願に開示される合成ヌクレオチドは、例えば、本出願の関連出願である、2008年9月3日に出願された米国仮特許出願第61/094017号に開示される核酸の存在、不在及び/または構造的変動を検出する方法で使用可能であり、かかる関連出願の開示は、その全体が参照により明確に本願明細書中に援用され、かつ、明確にこれにより本出願の一部とされる。本出願の合成ヌクレオチドの使用はそれ自体限定されず、適用可能な場合にさらに拡張され得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヌクレオチドまたはその誘導体;
ヌクレオチドまたはその誘導体、及び高電荷量部分に結合するリンカー分子;及び
レポーター組成物に作動可能に連結される高感度検出用ナノ構造の特性を変化させるのに十分な電荷量を含む、高電荷量部分
を含む、レポーター組成物。
【請求項2】
ヌクレオチドまたはその誘導体が、デオキシリボヌクレオチド、リボヌクレオチド、ペプチドヌクレオチド、モルホリノ、ロックトヌクレオチド、グリコールヌクレオチド、トレオースヌクレオチド、任意の合成ヌクレオチド、それらの任意のアイソフォーム、及びそれらの任意の誘導体からなる群から選択される、請求項1に記載のレポーター組成物。
【請求項3】
リンカー分子は以下の一般式:H2N-L-NH2の分子を含み、式中、Lは、アルキル基、オキシアルキル基、またはそれらの組み合わせを含む直鎖または分岐鎖を含む、請求項1に記載のレポーター組成物。
【請求項4】
Lは、アルキル基、オキシアルキル基、またはそれらの組み合わせを含む直鎖を含む、請求項3に記載のレポーター組成物。
【請求項5】
直鎖におけるアルキル基、オキシアルキル基、またはそれらの組み合わせの数が1〜100である、請求項4に記載のレポーター組成物。
【請求項6】
直鎖におけるアルキル基、オキシアルキル基、またはそれらの組み合わせの数が1〜75である、請求項5に記載のレポーター組成物。
【請求項7】
直鎖におけるアルキル基、オキシアルキル基、またはそれらの組み合わせの数が1〜50である、請求項5に記載のレポーター組成物。
【請求項8】
直鎖におけるアルキル基、オキシアルキル基、またはそれらの組み合わせの数が1〜25である、請求項5に記載のレポーター組成物。
【請求項9】
直鎖におけるアルキル基、オキシアルキル基、またはそれらの組み合わせの数が1〜1000である、請求項5に記載のレポーター組成物。
【請求項10】
直鎖におけるアルキル基、オキシアルキル基、またはそれらの組み合わせの数が1000を超える、請求項5に記載のレポーター組成物。
【請求項11】
リンカー分子がポリメラーゼによるヌクレオチドの重合に影響を与えないように構成される、請求項1に記載のレポーター組成物。
【請求項12】
高電荷量部分の正味の電荷量が正または負である、請求項1に記載のレポーター組成物。
【請求項13】
高電荷量部分の正味の電荷量がpHに依存して変動する、請求項1に記載のレポーター組成物。
【請求項14】
高電荷量部分が、芳香族骨格及び/または脂肪族骨格を含み、前記骨格は第三級アミノ基、アルコールヒドロキシル基、フェノール性ヒドロキシル基、及びそれらのいずれかの組み合わせのうち1つまたは複数を含む、請求項1に記載のレポーター組成物。
【請求項15】
高電荷量部分が、以下の基:
【化1】

及び、それらの誘導体、及びそれらの組み合わせを1つまたは複数含む、請求項1に記載のレポーター組成物。
【請求項16】
高電荷量部分における基、それらの任意の誘導体、及びそれらのいずれかの組み合わせの数が1から10である、請求項15に記載のレポーター組成物。
【請求項17】
高電荷量部分における基、それらの任意の誘導体、及びそれらのいずれかの組み合わせの数が11から50である、請求項15に記載のレポーター組成物。
【請求項18】
高電荷量部分における基、それらの任意の誘導体、及びそれらのいずれかの組み合わせの数が51から100である、請求項15に記載のレポーター組成物。
【請求項19】
高電荷量部分における基、それらの任意の誘導体、及びそれらのいずれかの組み合わせの数が100を超える、請求項15に記載のレポーター組成物。
【請求項20】
高電荷量部分がポリメラーゼによるヌクレオチドの重合に影響を与えないように構成される、請求項1に記載のレポーター組成物。
【請求項21】
リンカー分子及び/または高電荷量部分が除去可能であるように構成される、請求項1に記載のレポーター組成物。
【請求項22】
【化2】

を含む、レポーター組成物であって、式中、Rは、デオキシリボヌクレオチド、リボヌクレオチド、ペプチドヌクレオチド、モルホリノ、ロックトヌクレオチド、グリコールヌクレオチド、トレオースヌクレオチド、任意の合成ヌクレオチド、それらの任意のアイソフォーム、及びそれらの任意の誘導体からなる群から選択される、レポーター組成物。
【請求項23】
【化3】

を含む、レポーター組成物であって、式中、Rは、デオキシリボヌクレオチド、リボヌクレオチド、ペプチドヌクレオチド、モルホリノ、ロックトヌクレオチド、グリコールヌクレオチド、トレオースヌクレオチド、任意の合成ヌクレオチド、それらの任意のアイソフォーム、及びそれらの任意の誘導体からなる群から選択される、レポーター組成物。
【請求項24】
【化4】

を含む、レポーター組成物であって、式中、Rは、デオキシリボヌクレオチド、リボヌクレオチド、ペプチドヌクレオチド、モルホリノ、ロックトヌクレオチド、グリコールヌクレオチド、トレオースヌクレオチド、任意の合成ヌクレオチド、それらの任意のアイソフォーム、及びそれらの任意の誘導体からなる群から選択される、レポーター組成物。
【請求項25】
請求項1、22、23または24のいずれか一項に記載のレポーター組成物を含む、ヌクレオチド配列を決定するためのキット。
【請求項26】
ヌクレオチドまたはその誘導体とリンカーの第一のアミン基との間の第一の共有結合を生成させる工程であって、ここで、ヌクレオチドまたはその誘導体のリン酸基、糖または塩基はリンカーの第一のアミン基に結合されている、工程;及び
リンカーの第二のアミン基と高電荷量部分に存在するいずれかの官能基との間の第二の共有結合を生成させる工程
を含み、ここで、リンカーが少なくとも2つのアミン基を含む、請求項1に記載のレポーター組成物の合成方法。
【請求項27】
ヌクレオチドまたはその誘導体が一リン酸基を含む、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
ヌクレオチドまたはその誘導体は、アデノシン一リン酸(AMP)、グアノシン一リン酸(GMP)、シチジン一リン酸(CMP)、チミジン一リン酸(TMP)、及びウリジン一リン酸(UMP)からなる群から選択される、請求項26に記載の方法。

【公表番号】特表2012−501644(P2012−501644A)
【公表日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−525645(P2011−525645)
【出願日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際出願番号】PCT/IB2009/007025
【国際公開番号】WO2010/026490
【国際公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【出願人】(511056792)クワンタムディーエックス・グループ・リミテッド (3)
【Fターム(参考)】