説明

電解コンデンサの製造方法及び電解コンデンサ

【課題】半田耐熱性及び長寿命特性に優れた電解コンデンサを提供する。
【解決手段】 陽極箔と陰極箔とからなる一対の電極箔がセパレータを介して巻回されたコンデンサ素子を形成し、前記コンデンサ素子に、導電性固体の粒子またはその凝集体が溶媒に分散された分散液を含浸させることにより、前記電極箔上に導電性固体の粒子またはその凝集体を有する平面状の導電性固体層を形成し、前記導電性固体層が形成されたコンデンサ素子に電解液を含浸させる電解コンデンサの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解コンデンサに関し、より詳しくは陽極箔と陰極箔とからなる一対の電極箔がセパレータを介して巻回されたコンデンサ素子を有する電解コンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器のデジタル化に伴い、それに使用されるコンデンサにも小型、大容量で高周波領域における等価直列抵抗(以下、ESRという)の小さいものが求められるようになってきている。
【0003】
高周波領域におけるESRを低減するために、電解質として従来の駆動用電解液よりも電気電導度の高いポリピロール、ポリチオフェンあるいはこれらの誘導体からなる導電性高分子等の電気伝導性材料を陰極材として用いた固体電解コンデンサが知られている(例えば、特許文献1)。
【0004】
一方、大容量化の観点から、陽極箔と陰極箔との間にセパレータを介在させて巻回したコンデンサ素子内に上記のような導電性高分子からなる導電性固体層を充填した構成を有する巻回形の固体電解コンデンサが製品化されてきている。
【0005】
しかしながら、上記従来の巻回形の固体電解コンデンサにおいては、電解質として誘電体皮膜の修復性の乏しい導電性高分子が用いられているため、耐電圧が低く、漏れ電流も高くなりやすいだけでなく、使用中に突発的な漏れ電流の増大や誘電体皮膜の損傷に伴うショート故障などが発生しやすい。
このため、導電性高分子からなる導電性固体層と電解液の両方をコンデンサ素子内に充填した巻回形の固体電解コンデンサが提案されている(例えば、特許文献2)。
【特許文献1】特許第3040113号公報
【特許文献2】特開2006−100774号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記のようなコンデンサ素子内に充填される導電性高分子からなる導電性固体層は、誘電体皮膜が形成された陽極箔と、陰極箔とを、セパレータを介して巻回してなるコンデンサ素子に、ピロール、チオフェンあるいはこれらの誘導体からなる重合性モノマー、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム等の酸化剤、及びナフタレンスルホン酸等のドーピング剤を含有する重合液を含浸させ、前記重合性モノマーをコンデンサ素子内で酸化重合させることにより形成されている。
【0007】
しかしながら、上記のようなコンデンサ素子内で導電性固体層を形成する方法では、酸化剤を陽極箔上に付着させ、誘電体皮膜上で酸化重合が進行するため、誘電体皮膜が損傷しやすいとともに、導電性固体層が電極箔及びセパレータの表面上で不均一に形成されやすい。このため、実装工程における半田耐熱性に劣り、また長期使用時の特性の劣化が顕著となる。また、上記方法では、酸化重合後、未反応の重合性モノマーや酸化剤を洗浄により除去する工程を必要とするため、工程が煩雑になるという問題もある。
【0008】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、陽極箔と陰極箔とからなる一対の電極箔がセパレータを介して巻回されたコンデンサ素子と、前記コンデンサ素子内に、導電性固体層と、電解液とが充填された電解コンデンサの半田耐熱性及び長寿命特性を改善するとともに、前記電解コンデンサを簡易に製造することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、陽極箔と陰極箔とからなる一対の電極箔がセパレータを介して巻回されたコンデンサ素子を形成し、
前記コンデンサ素子に、導電性固体の粒子またはその凝集体(以下、粒子等という)が溶媒に分散された分散液を含浸させることにより、前記電極箔及びセパレータの表面上に導電性固体の粒子等を有する平面状の導電性固体層を形成し、
前記導電性固体層が形成されたコンデンサ素子に電解液を含浸させる電解コンデンサの製造方法である。
上記製造方法によれば、予め形成された導電性固体の粒子等を分散させた分散液がコンデンサ素子に含浸されるため、コンデンサ素子内での酸化重合により導電性固体層を形成する場合と比べて、電極箔及びセパレータの表面上に導電性固体の粒子等を有する導電性固体層を均一に形成することができ、高い導電性を確保することができる。また、コンデンサ素子内で導電性固体層が形成されないため、誘電体皮膜上での酸化重合による損傷部が生ずることがなく、損傷部が生じても電解液による高い修復作用を確保することができる。すなわち、コンデンサ素子内での酸化重合により導電性固体層を形成する方法では、重合液の含浸初期に酸化剤が誘電体皮膜と接触して誘電体皮膜が損傷するだけでなく、電極箔及びセパレータの表面上に導電性固体層を均一に形成することができないため、繰り返し酸化重合が行なわれると、誘電体皮膜の導電性固体層が形成されていない部分にも酸化剤が接触するため、損傷が大きくなる。このため、電解液による修復作用でも十分に損傷部を修復できなくなる。これに対し、上記製造方法では予め形成された導電性固体の粒子等の固体がコンデンサ素子に含浸されるため、酸化剤により誘電体皮膜が損傷することがなく、また誘電体皮膜全体を均一に導電性固体層が被覆するため、導電性固体層が誘電体皮膜を保護することができ、熱等により誘電体皮膜の損傷が生じても損傷の程度を抑えることができる。このため、電解液による高い修復作用を確保することができる。そして、コンデンサ素子内で導電性固体層が形成されないため酸化重合後の洗浄、乾燥工程も不要となる。
【0010】
また、本発明は、陽極箔と陰極箔とからなる一対の電極箔がセパレータを介して巻回されたコンデンサ素子と、前記コンデンサ素子内に、導電性固体の粒子等を有する導電性固体層と、電解液とが充填された電解コンデンサあって、
前記導電性固体層は、前記コンデンサ素子に導電性固体の粒子等が溶媒に分散された分散液を含浸させることにより、前記電極箔及びセパレータの表面上に平面状に形成されている電解コンデンサである。
【0011】
コンデンサ素子内での酸化重合により導電性固体層を形成する方法では、電極箔及びセパレータの表面上で部分的に導電性高分子が凝集した海綿状態の導電性固体層が形成されるため、電極箔及びセパレータの表面全体に広がった導電性固体層を均一に形成することができず、導電性が低下しやすい。これに対し、予め形成された導電性固体の粒子等が溶媒に分散された分散液をコンデンサ素子に含浸させる方法によれば、導電性固体の粒子等を有する導電性固体層が薄層の平面状で電極箔及びセパレータの表面上に均一に形成される。このため高い導電性と電解液による優れた修復作用を確保することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、陽極箔と陰極箔とからなる一対の電極箔がセパレータを介して巻回されたコンデンサ素子と、コンデンサ素子内に、導電性固体と、電解液とが充填された電解コンデンサにおいて、半田耐熱性に優れた長寿命の電解コンデンサを製造することができる。また、本発明によれば、従来必要であった酸化重合後の洗浄、乾燥工程が不要となり、簡易に上記電解コンデンサを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1は、本発明の実施の形態に係るコンデンサ素子の概略構成図である。巻回型のコンデンサ素子7は、アルミニウム、タンタル、ニオブ、チタン等の弁作用金属からなる箔に粗面化のためのエッチング処理及び誘電体皮膜形成のための化成処理を施した陽極箔1と、対向陰極箔2とからなる一対の電極箔をセパレータ3を介して巻き取ることにより形成される。これらは、巻き取られた後、巻き止めテープ4により固定される。前記陽極箔1および対向陰極箔2にはそれぞれ、リードタブ61、62を介してリード線51、52が取り付けられている。
【0014】
本実施の形態の電解コンデンサの製造にあたっては、上記の巻回型のコンデンサ素子に導電性固体の粒子等が分散された分散液を含浸させることにより、電極箔等上に導電性固体の粒子等を有する薄層の導電性固体層を平面状に形成し、該導電性固体層が形成されたコンデンサ素子に電解液が含浸される。
【0015】
既述したように、導電性高分子等からなる導電性固体層は電解液に比べて導電性に優れるが、重合性モノマー、酸化剤、及びドーパント剤を含有する重合液をコンデンサ素子内に含浸させ、コンデンサ素子内で導電性固体層が形成される従来の電解コンデンサでは、酸化剤及び重合反応により誘電体皮膜に損傷部が発生しやすくなるとともに、電極箔等の表面上で形成される導電性固体層が不均一となりやすい。図4は、従来法によるコンデンサ素子内で酸化重合を1回行うことにより導電性固体層が形成された陽極箔表面を走査型電子顕微鏡により観察した写真である。図に示すように、導電性固体層は、導電性高分子が陽極箔上で海綿状の不均一な膜として形成されていることが分かる。ESRの低減には陽極箔の表面の導電性固体層を多くする必要がある。このため、実際の製造工程においては、酸化重合を繰り返す必要があり、さらに損傷部が増加し、導電性固体層の厚膜化が進行する。このような酸化重合による損傷部の発生と、厚い導電性固体層の不均一な被覆とにより、電解液による修復作用でも完全に損傷部を修復できず、実装時や長期使用時の特性が低下するものと考えられる。
【0016】
これに対して、本実施の形態の製造方法により形成される導電性固体層は、予め形成された導電性固体の粒子等が分散された分散液がコンデンサ素子に含浸されるため、酸化剤及び重合反応によって誘電体皮膜に損傷部が発生せず、形成される導電性固体層は均一な平面状に形成される。図3は、本実施の形態の製造方法を用いて導電性固体層を形成した陽極箔の表面を走査型電子顕微鏡により観察した写真である。図に示すように、形成された導電性固体層は、陽極箔の表面全体に均一に形成されているとともに、平面状の膜であることが分かる。従って、導電性固体層の導電性が十分に確保されているだけでなく、誘電体皮膜を保護する機能も有している。このため、ESRが低く、漏れ電流の小さい電解コンデンサを得ることができる。また、該導電性固体層の被覆により、実装時の熱等により誘電体皮膜が損傷しても、損傷の程度が小さく、電解液による該損傷を十分修復できるため、特性の劣化の少ない電解コンデンサを得ることができる。そして、コンデンサ素子内で導電性固体層が形成されないため、酸化重合後の洗浄、乾燥工程も不要となり、簡易な方法により電解コンデンサを製造することができる。
【0017】
本実施の形態において、コンデンサ素子内に充填する導電性固体の粒子等の充填量としては、導電性固体層を電極箔の表面全体に均一に形成するためにも、コンデンサ素子内の空隙量に対して、5〜55体積%が好ましい。充填量を5体積%以上とすることにより、電極箔等の表面全体に導電性固体層を緻密に形成することができ、十分な導電性を確保することができる。また、充填量を55体積%以下とすることにより、導電性固体層の厚みを抑えることができるとともに、電解液を充填するためのコンデンサ素子内の空隙量を十分確保することができるため、漏れ電流をさらに改善することができる。
【0018】
本実施の形態において、導電性固体層の厚さは、10μm以下が好ましく、2〜10μmがより好ましい。導電性固体層の厚さを10μm以下とすることにより、導電性固体層のひび割れを抑えることができ、実装時及び長期使用時の漏れ電流をさらに向上することができる。なお、導電性固体の粒子等の充填量及び導電性固体層の厚みは、分散液の濃度と含浸回数により調整することができる。
【0019】
本実施の形態において、導電性固体としては、具体的には、例えば、二酸化マンガン、7,7,8,8−テトラシアノキノジメタン(TCNQ)、導電性高分子等が挙げられる。これらの中でも、導電性に優れる導電性高分子が好ましい。このような導電性高分子としては、その電気伝導度の高さから、ポリピロール、ポリチオフェン及びこれらの誘導体が好ましく、ポリチオフェン及びこれらの誘導体がより好ましい。これらは単独または複数混合して用いてもよい。特に、ポリエチレンジオキシチオフェンは、非常に高い電気伝導度を有するため好ましい。導電性高分子からなる導電性固体の粒子等を形成する方法としては、特に限定されず、従来公知の気相重合法、電解酸化重合法、化学酸化重合法等を用いることができる。導電性固体は、粒子であってもよいし、粒子が凝集した凝集体であってもよい。特に、導電性高分子の粒子は、製造時や分散液の調製時に、一部の粒子が凝集した状態となる場合がある。
【0020】
導電性固体の粒子等を分散させる溶媒は、導電性固体の粒子等の溶解度が低いか、または導電性固体の粒子等を溶解しない溶媒が好ましい。これにより導電性固体の粒子等の大部分、好ましくは全てが溶解していない分散液を調製することができる。ポリピロール、ポリチオフェン等の導電性高分子からなる導電性固体はほとんどの溶媒に不溶であるため、有機溶媒、無機溶媒の制限なく使用することができるが、取り扱い性や導電性固体の粒子等の分散性を考慮すると、水または水を主溶媒として含有する混合溶媒が好ましい。
【0021】
分散液中の導電性固体の粒子等の濃度は、特に限定されるものではないが、1〜30質量%が好ましい。濃度が1質量%以上であれば、少ない含浸回数で十分な量の導電性固体層を形成することができ、生産性を向上することができる。濃度が30質量%以下であれば、導電性固体層が均一に電極箔等の表面を被覆することができる。より均一な導電性固体層を形成するためには、濃度は3〜20質量%がより好ましい。導電性固体が導電性高分子からなる場合の分散液は、導電性高分子の粒子等を溶媒に分散させてもよいし、溶媒中で重合性モノマーを重合させることにより導電性高分子の粒子等を調製してもよい。後者の場合、重合反応後に、未反応の重合性モノマーや不純物、不要物を除去することが好ましい。
【0022】
コンデンサ素子に導電性固体の粒子等を分散させた分散液を含浸させる方法としては、特に限定されるものではないが、含浸の操作が比較的容易であることから、コンデンサ素子を分散液に浸漬させる方法が好ましい。浸漬時間は、コンデンサ素子のサイズにもよるが、数秒〜数時間が好ましく、1〜30分がより好ましい。また、浸漬温度は、0〜80℃が好ましく、10〜40℃がより好ましい。なお、含浸を促進するため、含浸は30〜100kPaの高減圧下で行うことが好ましく、80〜100kPaの減圧下で行うことがより好ましい。さらに、含浸を促進させるため及び分散液中の導電性固体の粒子等の分散状態を均一に保つため、超音波処理を行いながら分散液をコンデンサ素子に含浸させることが好ましい。
【0023】
上記のようにして導電性固体の粒子等をコンデンサ素子に充填させたコンデンサ素子は、コンデンサ素子内部の溶媒を除去するため、乾燥することが好ましい。乾燥は、従来公知の乾燥炉を用いて行うことができる。乾燥温度は、80〜300℃が好ましく、水系の溶媒が用いられる場合には、100〜200℃がより好ましい。
【0024】
上記の分散液の含浸及び乾燥は、厚さの均一な導電性固体層を形成するために複数回繰り返されてもよい。分散液の含浸及び乾燥を複数回行うことにより、導電性固体の粒子等を有する導電性固体層が電極箔等の表面をさらに緻密に被覆し、さらに半田耐熱性に優れ長寿命の電解コンデンサを得ることができる。
【0025】
次に、導電性固体層が形成されたコンデンサ素子に電解液を含浸させる。これにより、コンデンサ素子内に充填された導電性固体の粒子等を有する導電性固体層の間に電解液が充填される。本実施の形態によれば、導電性固体層が均一に電極箔等の表面上に形成されているため、誘電体皮膜が薄い導電性固体層によって保護され、また含浸された電解液は均一に電極箔と接触することができる。このため、誘電体皮膜の損傷部が発生しても、電解液による損傷部の修復性が高く、これにより漏れ電流を低下させることができる。すなわち、導電性固体層の誘電体皮膜の損傷部における被覆量が少ないため、電解液が誘電体皮膜の表面を覆うことに加えて、該損傷部に電解液が入り込むことができる。
【0026】
電解液は、従来公知の電解コンデンサ用の電解液を使用することができる。これらの中でも、非水系溶媒と有機塩とを含有する電解液が好ましい。高信頼性と低比抵抗を兼ね備えた好適な非水系溶媒としては、具体的には、例えば、γ−ブチロラクトン、スルホランまたはこれらの混合物が挙げられる。また、有機塩としては、具体的には、例えば、有機アミンと有機酸または無機酸との塩である有機アミン塩が挙げられ、有機アミンと有機酸からなる有機アミン塩がより好ましい。このような有機アミン塩としては、具体的には、例えば、ボロジサリチル酸トリメチルアミン、フタル酸ジメチルアミン、フタル酸モノ1,2,3,4−テトラメチルイミダゾリニウム、フタル酸モノ1,3−ジメチル−2−エチルイミダゾリニウム、またはこれらの混合物が挙げられる。電解液中の有機塩の濃度は、特に限定されるものではないが、5〜50質量%が好ましい。
【0027】
電解液を導電性固体層が形成されたコンデンサ素子に含浸させる方法としては、特に限定されるものではないが、含浸の操作が比較的容易であることから、導電性固体層が形成されたコンデンサ素子を電解液に浸漬させる方法が好ましい。浸漬時間は、コンデンサ素子のサイズにもよるが、1秒〜数時間が好ましく、1〜5分がより好ましい。また、浸漬温度は、0〜80℃が好ましく、10〜40℃がより好ましい。なお、含浸を促進するため、含浸は30〜100kPaの高減圧下で行うことが好ましく、80〜100kPaの減圧下で行うことが好ましい。
【0028】
以上のようにしてコンデンサ素子に導電性固体の粒子等を有する導電性固体層と電解液とを充填した後、図2に示すように、コンデンサ素子7を有底筒状のアルミニウム製ケース8に収納する。そして、アルミニウム製ケース8の開口部にゴムパッキング9を装着するとともに、アルミニウム製ケース8に絞り加工及びカーリング加工を施した後、定格電圧を印加しながら、例えば約125℃で約1時間のエージング処理を行うことにより、電解コンデンサを製造することができる。
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0029】
(実施例1)
誘電体皮膜を有する陽極箔と、陰極箔とからなる一対の電極箔をセパレータを介して巻回して、完成寸法(アルミニウム製ケースに収納した状態での電解コンデンサの外形寸法)がφ10mm×H10.5mmとなる、定格10V−680μFのコンデンサ素子を作製した。このコンデンサ素子に減圧下で、水を含浸させて空隙量を測定したところ、空隙量は0.21mlであった。上記のようにして作製したコンデンサ素子を、ドーパント剤を含有するポリエチレンジオキシチオフェン粒子を水に分散させた分散液(濃度:10質量%)に、25℃で1分間、89kPaの減圧下で浸漬し、分散液をコンデンサ素子に含浸させた。含浸後、コンデンサ素子を分散液から取り出し、125℃の乾燥炉に入れ、コンデンサ素子を乾燥させた。次に、導電性固体層を形成したコンデンサ素子を、ボロジサリチル酸トリメチルアミンを含有するγ−ブチロラクトン電解液(濃度:18質量%)に、25℃で10秒間浸漬し、電解液をコンデンサ素子に含浸させた。
ついで、導電性固体層及び電解液を充填したコンデンサ素子をアルミニウム製ケースに収納した。そして、アルミニウム製ケースの開口部にゴムパッキングを装着し、アルミニウム製ケースに絞り加工及びカーリング加工を施した後、定格電圧の1.15倍の電圧を印加しながら、約125℃で約1時間エージングすることにより、電解コンデンサを作製した。
【0030】
(実施例2)
コンデンサ素子の分散液への含浸、乾燥を3回繰り返した以外は、実施例1と同様にして、電解コンデンサを作製した。
【0031】
(実施例3)
コンデンサ素子の分散液への含浸、乾燥を5回繰り返した以外は、実施例1と同様にして、電解コンデンサを作製した。
【0032】
(比較例1)
実施例1と同様の定格10V−680μFのコンデンサ素子を、エチレンジオキシチオフェンを20質量%含有するエタノール溶液に25℃で10秒間浸漬した。溶液からコンデンサ素子を取り出し、50℃で30分間放置して乾燥させた。乾燥後、コンデンサ素子を、ドーパント剤兼酸化剤であるパラトルエンスルホン酸鉄を50質量%含有するエタノール溶液に25℃で3分間浸漬した。溶液からコンデンサ素子を取り出し、50℃で60分間放置して、ポリエチレンジオキシチオフェンからなる導電性固体層を形成した。ついで、コンデンサ素子を2時間水洗し、不純物及び酸化剤を除去した後、コンデンサ素子を100℃で60分間乾燥した。
上記のようにして作製したポリエチレンジオキシチオフェンからなる導電性固体層を充填したコンデンサ素子を用いた以外は、実施例1と同様にして、該コンデンサ素子に電解液を含浸した後、アルミニウム製ケースに収納し、電解コンデンサを作製した。
【0033】
(比較例2)
コンデンサ素子の分散液への含浸、乾燥を2回繰り返した以外は、比較例1と同様にして、電解コンデンサを作製した。
上記のようにして作製した実施例及び比較例の各電解コンデンサについて、静電容量(測定周波数:120Hz)、ESR(測定周波数:100kHz)、tanδ(損失角の正接)、及び漏れ電流を測定した。また、実施例及び比較例の各電解コンデンサを用いて半田耐熱性試験(ピーク温度265℃、200℃以上に曝される時間70秒の条件)を行い、試験後の静電容量、ESR、tanδ、及び漏れ電流を上記と同様の条件で測定した。さらに、実施例及び比較例の各電解コンデンサに125℃で500時間定格電圧を印加した後の静電容量、ESR、tanδ、及び漏れ電流を上記と同様の条件で測定した。
なお、導電性固体層が形成されたコンデンサ素子の陽極箔を走査型電子顕微鏡により観察し、導電性固体層の被覆状態を観察した。また、導電性固体層の厚さを(株)キーエンス製マイクロスコープ:型番VHX−100、高倍率ズームレンズ:VH−Z450により測定した。上記導電性固体層の表面状態及び厚さは、陽極箔とセパレータが接触している部分に形成されている導電性固体層は剥離しやすいことから、セパレータとの接触が少ない陽極箔の自由表面(セパレータと直接接触していない部分の表面)を測定した。さらに、コンデンサ素子内の導電性固体の粒子等の充填量を測定するため、導電性固体層を形成したコンデンサ素子に減圧下で水を含浸させ、該水の含浸量と上記空隙量との差から、充填された導電性固体層の体積を求めて、上記空隙量に対する導電性固体の粒子等の体積割合を算出した。表1はこれらの結果を示す。
【0034】
【表1】

【0035】
上記表1に示すように、コンデンサ素子に導電性固体の粒子等を溶媒に分散させた分散液を含浸することにより形成された導電性固体層を有する実施例の電解コンデンサは、比較例の電解コンデンサに比べて、半田耐熱性試験及び高温負荷試験後における静電容量、tanδ、ESR、及び漏れ電流のいずれの特性も優れていることが分かる。すなわち、導電性固体の粒子であるポリエチレンジオキシチオフェン粒子を有する薄層の導電性固体層が平面状に電極箔等の表面上に形成された実施例の電解コンデンサでは、高い静電容量と低ESRを有することが分かる。これは、本実施例の導電性固体層は、従来のコンデンサ素子内で酸化重合により形成された導電性固体層よりも、導電性に優れた被覆状態で電極箔等の表面上に形成されているためと考えられる。また、実施例の電解コンデンサの半田耐熱性試験及び高温負荷試験後の漏れ電流は、比較例のそれよりも非常に小さい。漏れ電流が小さくなるのは、導電性固体層の形成時に酸化剤が使用されていないため、誘電体皮膜の損傷部の発生がなく、また誘電体皮膜の表面が均一に導電性固体層で被覆されているため、誘電体皮膜に損傷部が発生しても、損傷部での電解液による修復作用が高いことに起因するためと考えられる。
【0036】
これに対して、従来法によるコンデンサ素子内で酸化重合を行うことにより導電性固体層を形成した比較例の電解コンデンサでは、半田耐熱性試験及び高温負荷試験後の特性の劣化が大きい。これは、酸化剤による誘電体皮膜の損傷が大きく、また導電性固体層が不均一な海綿状態で電極箔等を被覆しているため、電解液による修復が不十分なためと考えられる。また、従来法で含浸回数を増加した場合、初期のESRは低下するが、半田耐熱性試験及び高温負荷試験後の特性の劣化が極めて大きい。これは、酸化重合を繰り返すことにより、誘電体皮膜の損傷部が増加し、電解液による修復作用がさらに低下するためと考えられる。
【0037】
(実施例4−1〜4―6)
実施例1と同様にして、定格35V−150μFのコンデンサ素子を作製し、該コンデンサ素子を用いて分散液の含浸、乾燥回数をそれぞれ調整して、表2に示すように導電性固体の粒子等の充填量及び導電性固体層の厚さの異なる電解コンデンサを作製した。
【0038】
上記のようにして作製した各電解コンデンサについて、静電容量(測定周波数:120Hz)、ESR(測定周波数:100kHz)、tanδ(損失角の正接)、及び漏れ電流を測定した。また、各電解コンデンサを用いて半田耐熱性試験(ピーク温度265℃、200℃以上に曝される時間70秒の条件)を行い、試験後の静電容量、ESR、tanδ、及び漏れ電流を上記と同様の条件で測定した。表2はこの結果を示す。
【0039】
【表2】

【0040】
上記表2に示すように、導電性固体の粒子等の充填量が5〜55体積%、特に5〜45体積%で、導電性固体層の厚さが12.6μm以下、特に10mm以下の電解コンデンサは、半田耐熱試験後においていずれの特性の変化量も小さいことが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の実施の形態に係るコンデンサ素子の概略構成図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る電解コンデンサの一例を示す断面図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る導電性固体層を形成した陽極箔の表面状態を示す図である。
【図4】従来法により導電性固体層を形成した陽極箔の表面状態を示す図である。
【符号の説明】
【0042】
1 陽極箔
2 陰極箔
3 セパレータ
4 巻き止めテープ
7 コンデンサ素子
8 アルミニウム製ケース
9 ゴムパッキング
51、52 リード線
61、62 リードタブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極箔と陰極箔とからなる一対の電極箔がセパレータを介して巻回されたコンデンサ素子を形成し、
前記コンデンサ素子に、導電性固体の粒子またはその凝集体が溶媒に分散された分散液を含浸させることにより、前記電極箔及びセパレータの表面上に導電性固体の粒子またはその凝集体を有する平面状の導電性固体層を形成し、
前記導電性固体層が形成されたコンデンサ素子に電解液を含浸させる電解コンデンサの製造方法。
【請求項2】
前記導電性固体の粒子または凝集体の充填量が、前記コンデンサ素子の空隙量に対して5〜55体積%である請求項1に記載の電解コンデンサの製造方法。
【請求項3】
前記導電性固体層は、10μm以下の厚さを有する請求項1または2に記載の電解コンデンサの製造方法。
【請求項4】
前記導電性固体は、ポリチオフェン及びその誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する請求項1〜3のいずれか1項に記載の電解コンデンサの製造方法。
【請求項5】
前記電解液は、非水系溶媒として、γ−ブチロラクトン及びスルホランからなる群から選ばれる少なくとも1種と、溶質として、有機アミン塩とを含有する請求項1〜4のいずれか1項に記載の電解コンデンサの製造方法。
【請求項6】
減圧下、超音波処理を行いながら、前記コンデンサ素子に前記導電性固体の粒子またはその凝集体が溶媒に分散された分散液を含浸させる請求項1〜5のいずれか1項に記載の電解コンデンサの製造方法。
【請求項7】
陽極箔と陰極箔とからなる一対の電極箔がセパレータを介して巻回されたコンデンサ素子と、前記コンデンサ素子内に、導電性固体の粒子またはその凝集体を有する導電性固体層と、電解液とが充填された電解コンデンサあって、
前記導電性固体層は、前記コンデンサ素子に導電性固体の粒子またはその凝集体が溶媒に分散された分散液を含浸させることにより、前記電極箔及びセパレータの表面上に平面状に形成されている電解コンデンサ。
【請求項8】
前記導電性固体の粒子または凝集体の充填量が、前記コンデンサ素子の空隙量に対して5〜55体積%である請求項7に記載の電解コンデンサ。
【請求項9】
前記導電性固体層は、10μm以下の厚さを有する請求項7または8に記載の電解コンデンサ。
【請求項10】
前記導電性固体は、ポリチオフェン及びその誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する請求項7〜9のいずれか1項に記載の電解コンデンサ。
【請求項11】
前記電解液は、非水系溶媒として、γ−ブチロラクトン及びスルホランからなる群から選ばれる少なくとも1種と、溶質として、有機アミン塩とを含有する請求項7〜10のいずれか1項に記載の電解コンデンサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−16770(P2009−16770A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−180383(P2007−180383)
【出願日】平成19年7月9日(2007.7.9)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【出願人】(595122132)サン電子工業株式会社 (17)