説明

電解セル

本発明は、塩素アルカリの電解工場のために設計された単一要素型の電解セルに関し、アノード区画とカソード区画を含み、2つの区画の各々は、各々の区画の後方壁に平行バーによって接続された電極を含んでいる。電極は、このようにして幾つかの区画にさらに分割されている。本発明によると、2つの電極の少なくとも一方がそれぞれの区画で曲線形状を有しており、この曲線状の区画が反対側の電極に向かって突出し、膜の領域を反対側の電極に対して押し付けている。好ましい実施の形態によると、様々な電極領域の曲線形状は、ばねにより得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩素アルカリ電解槽のために作られた単一要素型の電解セルに関し、この電解セルは基本的にアノード区画とカソード区画とを含み、2つの区画の各々は対応する電極を備えており、各電極は平行バーにより個別の区画後壁に接続されている。このようにして、電極は、このようなバーによりさらにいくつかの区画に分割されている。
【背景技術】
【0002】
単一要素型に作られた塩素アルカリ電解槽は従来技術でよく知られており、様々な工業的応用に広く用いられている。この種の電解槽は、例えば、DE19816334A1、DE4414146A1又はEP0095039A1で開示されている。
【0003】
DE102005003527A1又はDE102005006555A1に記載されているように、ますます狭い許容差を有した平行平面構成で2つの電極を可能な限り近接して配置するといった試みが成されている。電極シートに求められる厚さが減少してしまうことにより、平行平面配置するには限界があることが明白となった。電極が平行に反してずれて配置された場合には、局所的なピーク電圧を避けることはできず、装置の効率を悪化させてしまう。多数の小さなずれの和がいかにして経済的に好ましくない状態に最終的に導くのかは明らかである。
【0004】
とても狭い電極間距離は、DE102005006555A1に詳細に記載されているように、アノードの周囲に蓄積したガスによる新たな問題を引き起こしてしまう。ガスの発生は、電極と膜との間の空間の目詰まりを引き起こすので、電解液の液替えを悪化させてしまう。このような特別な事例では、適切な微小構造を備えた高性能電極の外形が開発及び供給されているにも関わらず、巨視的観点から要求されるとても精密な製作公差の問題を解決しようとしていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来技術の制限を克服することが本発明の目的の一つであり、特に、構成的な公差から生じる電圧による不利益を最小限にするのに適した経済的優位性を有する電解槽を供給することである。この目的及びその他の目的は、発明を限定するものと意図されてはならない後述の記載によって明らかにされ、その範囲はもっぱら添付の特許請求の範囲で画定される。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の目的は、請求項1で主張した電解槽により達成される。本発明による電解槽は、アノード区画とカソード区画とを含み、各区画は、周囲縁及び周囲フランジを備えた後壁によって区切られて電極が内部に配置されている、すなわち、アノードはアノード区画に配置され、カソードはカソード区画に配置されている。両方の電極は、多数の開口を備え、区画の個別の後壁を有する平行バーによって連結されており、それによって電極及びそれらの個別の後部空間をいくつかの区域にさらに分割している。本発明によると、二つの電極の少なくとも一つの区域の各々は、電極の主要面から反対側の電極に向かって突出する湾曲部を有しており、各電極区域は巨視的構造になっている。これにより、二つの電極の間にある膜を広範囲で押し付けることができる。
【0007】
本発明とともに、湾曲部という用語は、例えば、DE102005006555A1に記載されているように、電極形状の変形が巨視的な範囲内で存在する従来技術と比較して、全ての部分の巨視的な形成又は形状として理解されている。主要な電極面がここでは仮想面を意図しているので、後壁に平行でありかつそこから最も近い距離に位置している電極表面の点を含んでいる。
【0008】
一つの好ましい実施形態では、曲げられた電極部は、介在する膜を湾曲部の頂上線における二つの側に位置する大きな領域を横断して反対側の電極に対して押し付けるように配置され、押される表面領域の幅は、対応する区域の幅の少なくとも20%を形成している。驚くべきことに、もし、膜に与える損傷が防止されるように接触面の圧力が制限されていれば、電極どうしの間隔を開けておくことは、最早必要ないことがわかった。電極どうしの間にある膜の接触圧力を、バーを介して平行な個別セルを渡って加わった圧縮応力から外すことにより、周知の平行平面電極の構造を完全に放棄することが可能である。
【0009】
本発明による電解セルの一つの好ましい実施形態では、少なくとも一つの電極は、互いに平行で同じ方向に突出する多数の湾曲部を備えており、その数は、区域の数に対応する。この文脈で参照される湾曲部は、電極高さの全域の少なくとも90%を占めていなければならず、より好ましくは、電極高さの全部である。
【0010】
一つの実施形態では、電極の湾曲部は、組み立てられていない状態で、主要の電極面から約0.4乃至1.0mm突出する頂上線を画定する。
本発明による一つの実施形態によると、湾曲部の形状は、電極の後ろ側に力を加えるように配置された少なくとも一つのばねにより得られる。後ろ側は、ここでは、膜に対向しているものとは反対の電極側を意図している。
【0011】
一つの実施形態では、二つのアームを有する多数のばねであって、選択によりU字形状又はV字形状から成るばねがバーの領域に配置されている。ばねは、二つのアームが一つのバーの反対側どうしになるように位置されており、個別の電極に作用するため、後者のそれぞれの区域は反対側の電極の方向に曲げられている。これにより、電極自体は板ばねに類似したばねのような性質を示す。このような構成は、電極が固定された個別のばねのアームが、接触圧力が縦の電極の端が外側に向かって移動したときにいつでも、横方向の変位に耐えられるというさらなる利点をもたらす。
【0012】
別の実施形態では、一つ又はいくつかのばねは、電極の後ろ側の中心に圧力を加えることにより、各区域を反対側の電極の方向に曲げる。この場合に適切な構造は、例えば、二つのバーの間又は外郭構造の縁とバーとの間に固定された板ばね又はL字形状ばねである。
【0013】
別の実施形態では、少なくとも一つの荷重分配要素が、曲げられるべき個別の電極の後ろ側で個別の区域に配置され、荷重分配要素は、棒又はレールの形状を有し、個別の区域の中心にあるバーと平行に配置され、そこに一つ又はいくつかのばねが圧力を生じている。この構成は、そのような分配要素が、大幅な改良を行うことなく、ほとんどの従来技術による電解槽に組み込み可能であるという利点を有している。好ましくは、荷重分配要素の少なくとも一部分は、少なくとも部分的に非導電性樹脂材料で作られている。ばねは、電解槽の鉛直循環に可能な限り影響を与えないように、開いた外形を有することが好ましい。
【0014】
別の実施形態では、電極は一つの部品で構成されず、多数の個別電極区分にさらに分割され、バーを介すことなくばねによって固定されている。この場合の後者は、単に平行に配列された電解セルをわたって圧縮荷重を伝達させるために用いられているに過ぎない。
【0015】
以下、添付図面を参照して、本発明に係る電解セルの好ましい実施形態を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明による電解セルの第1の実施形態を示す図である。
【図2】図1と異なるセルを示す図である。
【図3】図1のセルの試験結果を説明するグラフを示す図である。
【図4】本発明による電解セルのさらなる実施形態を示す図である。
【図5】図4と異なるセルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は、本発明に係る第1の実施形態を示す。電解セル1の断面図には、カソード3を固定するためのバー6を備えたカソード区画後壁2が示されている。アノード区画は同様の構造を有しており、対応する後壁5に固定された多数のバー7がアノード4を固定するために用いられている。膜10は、二つの電極、カソード3及びアノード4の間に配置されている。バー6及び7はまた、一度そのような電解セルのいくつかが平行に組み立てられ、図示せぬ骨組みに取り付けられて互いに電気的に接触すると、圧縮力の適切な伝達を確実に行う。
【0018】
図1は、バー6及び7が個別の区画及び個別の電極をさらに区域8及び9にどのように分割しているのかを示している。上述のように、本発明による電解セルの本実施形態は、本件ではアノード4である電極の一つを示しており、既に製造工程において曲がった形状に予め形成されている。図に示す組立構造では、アノード4が膜10をカソード3に対して押し付けており、押された領域の幅11は中括弧で示されている。電極は、平行な区域9の各々で同じように押し付けられている。
【0019】
また、組み立てる際にアノード4が変形する範囲を制限するため、周知の技術のように、スペーサ12が互いに反対にあるバー6及び7との間の領域に配置されていることが示されている。
【0020】
図2は、組み込まれたときに、膜10がカソード3に対して機械的に押し付けられることを防げる程度にアノード4が曲げられた、典型的な電解セル1の断面図を示す。図面による計画の段階における頂上線の位置及びそこに垂直なものは、一点鎖線で示されている。図面の理解をより容易にするため、図1に描かれたものと実質的に同等であるカソード区画の反対側の区域は、ここでは示されていない。
【0021】
図1に示すような電解セルは、一連の試験及び特性解析にさらされ、従来技術によるセルと比較された。二つのセルは、カソード側が全く同じであり、カソードは基本的にエキスパンドメタル(平べったく引き伸ばされた金属)板で構成されている。本発明による電解セルのアノードと従来技術による比較対照とは、一般に層状構造から成っている。本発明のセルは、図1に示すようなアノード組立体を備えており、大きな膜の領域がアノードとカソードとの間で圧力がかけられるように、アノードはカソードに向かって曲げられている。5kA/mの電流密度が両方のセルに供給される。図3は、45日間実施したときの試験結果を示すグラフである。本発明による電解セルは、比較対照のセルに対して、全ての試験期間において槽電圧が約0.05V低いことを示している。
【0022】
図4は、本発明による電解セルのさらなる実施形態を示している。具体的に、図4は、後壁22、周囲縁又は側部壁23及び近傍の周囲フランジ24を含む電解セル20のカソード区画21の水平断面図を示している。個別のセルにわたって圧縮荷重を伝達するバー25が、作用時に平行に配置されており、区画を垂直な区域26にさらに分割する。図示せぬアノード区画は、実質的に同等な構成を備えていてもよい。カソード区分29は、U字形状ばね27及びZ字形状ばね28に固定されている。Z字形状ばね28は、単に側部壁23に沿って配置されているだけであるのに対し、カソード区分29は、カソード区画内にある二つの個別のU字形状ばね27に固定されている。カソード区画は、組立前の状態で示されており、カソード区分29が最も曲げられた様子を明瞭に説明している。破線30は、曲がっていないときの零点位置を示している、一方、破線31は、零点位置30からの距離32を有する頂上線の高さを指し示している。
【0023】
図5は、本発明による電解セル20の別の実施形態の断面図を示す。カソード区画は、図4に示す実施形態と類似しているが、カソード区分29は、二つの隣接するバー25に固定されており、区域26の中心に配置されたばね33によって曲げられている。ばね33は、ここでは渦巻きばねとして描かれているが、当業者にとって明白であるならば、その他の均等な解決法を備えていてもよい。渦巻きばね33は、力の均一な伝達を確かなものにするために、下部パッド34と上部パッド35との間に固定されている。
【0024】
上記説明は、発明を限定するものとして意図されてはならず、その範囲から逸脱することなく、異なる実施形態によって実施されてもよく、その広さはもっぱら添付の特許請求の範囲で確定される。
【0025】
本願の説明及び特許請求の範囲を通じ、「含む(comprise)」という用語及び「含んでいる(comprising)」及び「含んだ(comprises)」等のその変化形は、他の要素や付加物の存在を排除すると意図されるものではない。
【0026】
資料の論述、作用、材料、装置及び記事等は、単に本発明の状況を提供する目的でのみ本明細書に含まれている。これらの事物のいずれかまたは全てが、本出願に係る各請求項の優先日の前に、従来の技術の基礎の一部を形成したか、または本発明に関連する分野に共通の一般知識であったとは示唆せず、または指摘しない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩素アルカリ電解槽のために作られた単一要素型の電解セルにおいて、アノード区画とカソード区画とであって、それぞれ後壁で区切られた、アノード区画とカソード区画とを含み、前記二つの区画の各々は、対応する電極が内部に配置されて、前記アノード区画に配置されたアノードと前記カソード区画に配置されたカソードとから成り、前記電極の各々は、平行バーによって個別の区画の前記後壁と接続され、前記バーは、前記対応する電極を多数の区域にさらに分割し、前記二つの電極の少なくとも一つの前記区域は、前記反対側の電極の方向に突出する湾曲部を有する、電解セル。
【請求項2】
請求項1に記載の電解セルにおいて、前記少なくとも一つの電極の前記湾曲部の外形が頂上線を画定し、前記湾曲部は、前記頂上線の二つの側に配置された前記膜の領域を、前記反対側の電極に対して押し付けるように配置された、電解セル。
【請求項3】
請求項2に記載の電解セルにおいて、前記押し付けられた領域の幅は、前記区域の幅の少なくとも20%である、電解セル。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の電解セルに組み込まれる電極において、多数の湾曲部であって、互いに平行であり、同じ方向に突出する、湾曲部を含む、電極。
【請求項5】
請求項4に記載の電極において、前記湾曲部の数は、対応するセル区画の区域全部の数と一致する、電極。
【請求項6】
請求項4または5に記載の電極において、前記湾曲部は、電極全体の高さの少なくとも90%に及ぶ、電極。
【請求項7】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の電極において、前記湾曲部の頂上線は、組み立てられていない状態で、主電極面から約0.4から1.0mm突出している、電極。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか一項に記載の電解セルにおいて、前記湾曲部の曲線形状は、前記電極の後ろ側に作用する少なくとも一つのばねによって得られる、電解セル。
【請求項9】
請求項8に記載の電解セルにおいて、前記少なくとも一つのばねは、二つのアームを備え、前記二つのアームは、前記平行バーの一つの反対側どうしに配置された、電解セル。
【請求項10】
請求項9に記載の電解セルにおいて、前記ばねは、U字形状またはV字形状を有する、電解セル。
【請求項11】
請求項8に記載の電解セルにおいて、前記少なくとも一つのばねは、前記電極区域の少なくとも一つの中心に圧力をかける、電解セル。
【請求項12】
請求項11に記載の電解セルにおいて、前記ばねは、板ばね又はL字形状のばねであって、二つの前記平行バーの間、又は、周囲縁と前記平行バーの一方との間に固定された、ばねである、電解セル。
【請求項13】
請求項8乃至12のいずれか一項に記載の電解セルにおいて、少なくとも一つの荷重分配要素が、前記電極区域の各々に配置され、前記要素は、棒又はレールのように形成され、対応する電極領域の中心にある前記バーと平行に配置され、そこに少なくとも一つのばねが圧力をかける、電解セル。
【請求項14】
請求項13に記載の電解セルにおいて、前記少なくとも一つの荷重分配要素は、少なくとも一部が非導電性材料で作られた、電解セル。
【請求項15】
請求項8乃至14のいずれか一項に記載の電解セルにおいて、前記ばねは、垂直電解液流動に対して露出した、電解セル。
【請求項16】
請求項8乃至15のいずれか一項に記載の電解セルにおいて、前記少なくとも一つの電極は、多数の個別区分から成り、前記個別区分は、ばねによって固定され、前記平行バーに固定されない、電解セル。
【請求項17】
請求項16に記載の電解セルにおいて、前記電極区分の一つは、前記電極区域の各々に配置された、電解セル。
【請求項18】
図面を参照して以上により実質的に記載した電解セル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2010−505040(P2010−505040A)
【公表日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−529705(P2009−529705)
【出願日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際出願番号】PCT/EP2007/060268
【国際公開番号】WO2008/037770
【国際公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【出願人】(502043101)ウデノラ・ソチエタ・ペル・アツィオーニ (14)
【Fターム(参考)】