電解採取用カソード
【課題】カソード吊手に突出部が発生し難く、金属粒の発生を抑制し、操業の継続が可能な、電解採取用カソードを提供する。
【解決手段】カソード板11と、カソード板11を吊り下げるカソードビーム12と、カソード板11をカソードビーム12に連結するカソード吊手13とからなり、カソード吊手13は、カソード板11に固定される端部の角部が除去された形状をしている。カソード吊手13に突出部が発生し難く、極間距離を均一に保つことができる。そのため、金属粒の発生を抑制でき、操業の継続が可能となる。
【解決手段】カソード板11と、カソード板11を吊り下げるカソードビーム12と、カソード板11をカソードビーム12に連結するカソード吊手13とからなり、カソード吊手13は、カソード板11に固定される端部の角部が除去された形状をしている。カソード吊手13に突出部が発生し難く、極間距離を均一に保つことができる。そのため、金属粒の発生を抑制でき、操業の継続が可能となる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解採取用カソードに関する。さらに詳しくは、電解採取設備の電解槽に挿入される電解採取用カソードに関する。
【背景技術】
【0002】
非鉄金属における湿式精錬法では、乾式製錬から産出されたニッケルマット及び低品位ラテライト鉱石から硫酸浸出によって産出されたニッケル、コバルト等の混合物であるニッケル硫化物を原料として、原料中に含有されるニッケル、コバルト、銅等の金属の大部分を塩素浸出する。そして、塩素浸出して得られた溶液から金属不純物等を除去した後に、電解採取によって電気ニッケル、電気コバルトを製造する。
【0003】
電解採取は、鉱石から目的金属を適当な溶媒を用いて浸出し、その浸出液から浄液工程で不純物除去と目的金属イオンの濃縮を行って得られる電解液から、電解により目的金属をカソード上に析出させる工程である。
電解採取のアノードは、伝導体としてだけ働くもので、たとえば塩素ガスが発生する発生極となる。
カソードは電解精製の場合と同じで、目的金属と同じ純金属を種板として用いる場合と、異なる金属を用い、電析後これをはぎ取る場合とがある。
カソードは純金属性のカソード板に、同種金属リボンで作成した吊手を取り付けて、操業に供される。電解浴は、目的金属の可溶性塩の水溶液を電解液とする。
【0004】
電解採取で使用されるアノード反応は、システムに電流を一巡させるためのもので、不溶性アノード上での塩素ガス等の発生反応が利用される。たとえば、塩化亜鉛の水溶液からの亜鉛の電解採取ではアノードで塩素ガスが発生し、カソードには亜鉛が析出する。この電解を連続的に進行させるため、ある一定の大きさ以上の電圧をかけて操業される。
【0005】
電解採取設備は、通常、電解槽50槽程度で操業されており、電解槽1槽につき、50組程度のアノードとカソードが交互に電解槽に挿入されている。電解槽の構成は図6に示すように、電解槽10の内部に電解液が貯えられており、アノード2とカソード1の組が交互に配置されて電解液中に浸漬されている。そして、アノード2はアノードビーム22に吊り下げられ、アノードビーム22は電解槽の縁にボルト等で固定されている。また、カソード1はカソードビーム12にカソード吊手13を介して吊り下げられており、カソードビーム12は電解槽の縁に引っ掛けられている。
【0006】
上記の電解採取においては、アノード2側から塩素ガス等が発生するため、不溶性アノードはアノードボックス24と称する隔壁内に収められ、発生した塩素ガス等は別途回収される。
カソード1は、電解採取工程の前工程で製造され、この段階で、四角形で広い面積を有するカソード板11にピンセット状の二又に加工したカソード吊手13をスポット溶接で取り付け、このカソード吊手13の空間にカソードビーム12を通しており、カソードビーム12によってカソード板11を吊り下げるようになっている。
【0007】
ところで、図7(A)に示すように、カソード吊手13は、その角部がカソード板11から浮き、突出部113が発生することがある。その原因は、カソード1を製造するにあたり、カソード吊手13の材料である吊手用短冊13をスポット溶接機にセットする際に、吊手用短冊13の角部が、吊手用短冊13の位置を決めるガイド部に衝突して折れ曲がる場合があるためである。このような突出部113の解消には、製造後のカソード1を検査し、発生した突出部113を修正すれば良いが、そうすれば長時間を要することとなって、操業上好ましくない。
かといって、無理して使うと、突出部113付近は局部的に極間距離が短くなっているので、電気抵抗が小さくなっており、図7(B)に示すように、優先的に金属が析出して金属粒mpが生成する。この金属粒mpが成長して、同図(C)に示すように、アノードボックス24と接触し、更にアノードボックス24を貫いてアノード板に接触すると電気的短絡(ショート)が発生するという電力コスト上の問題が発生する。
また、ショートが発生する前段階で、成長した金属粒mpはアノードボックス24を構成する濾布を貫通するため、ショートするに至らない場合でも、カソード引き上げ時にアノードボックス24を裂開してアノードボックス24の交換頻度が上昇するという設備コスト上の問題が発生する。
【0008】
特許文献1には、カソードスペーサーを使用して電流を適切に遮蔽することにより、カソード周縁部における金属粒mpの発生を防止する方法が公開されている。しかし、この特許文献1の従来技術ではカソード周辺部の電流遮蔽には効果があるがカソード吊手の金具部分における金属粒mpの成長を防止することはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平06−287787号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記事情に鑑み、カソード吊手に突出部が発生し難く、金属粒の発生を抑制し、操業の継続が可能な、電解採取用カソードを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
第1発明の電解採取用カソードは、カソード板と、該カソード板を吊り下げるカソードビームと、前記カソード板を前記カソードビームに連結するカソード吊手とからなり、前記カソード吊手は、前記カソード板に固定される端部の角部が除去された形状をしていることを特徴とする。
第2発明の電解採取用カソードは、第1発明において、前記カソード吊手は、四隅の角部が除去された吊手用短冊を二又に折り曲げ、該吊手用短冊の端部を前記カソード板に固定し、湾曲部に前記カソードビームが通されたものであることを特徴とする。
第3発明の電解採取用カソードは、第1または第2発明において、前記カソード吊手は、前記カソード板にスポット溶接で固定されており、前記角部は、前記スポット溶接の溶接部以外の領域であって、かつ、カソード板から浮く可能性のある領域が除去されていることを特徴とする。
第4発明の電解採取用カソードは、第1、第2または第3発明において、前記角部は、直線状に切断され除去されていることを特徴とする。
第5発明の電解採取用カソードは、第1、第2または第3発明において、前記角部は、円弧状に切断され除去されていることを特徴とする。
第6発明の電解採取設備は、第1、第2、第3、第4または第5発明の電解採取用カソードが、電解槽に挿入されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
第1発明によれば、カソード吊手はカソード板に固定される端部の角部が除去された形状をしているので、カソード吊手に突出部が発生し難く、極間距離を均一に保つことができる。そのため、金属粒の発生を抑制でき、操業の継続が可能となる。
第2発明によれば、カソード吊手は四隅の角部が除去された吊手用短冊から形成されているので、カソード吊手に突出部が発生し難く、極間距離を均一に保つことができる。そのため、金属粒の発生を抑制でき、操業の継続が可能となる。
第3発明によれば、角部はスポット溶接の溶接部以外の領域が除去されているので、溶接部が確保でき、カソード吊手をカソード板に問題なく固定できる。また、角部はカソード板から浮く可能性のある領域が除去されているので、カソード吊手に突出部が発生し難く、極間距離を均一に保つことができる。
第4発明によれば、角部は直線状に切断されるため、加工が容易である。
第5発明によれば、角部は円弧状に切断されるため、角がなくなり、カソード吊手に突出部が発生し難い。
第6発明によれば、カソード吊手はカソード板に固定される端部の角部が除去された形状をしているので、カソード吊手に突出部が発生し難く、極間距離を均一に保つことができる。そのため、金属粒の発生を抑制でき、操業の継続が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】(A)は本発明の一実施形態に係る電解採取用カソードの正面図、(B)は同側面図である。
【図2】同電解採取用カソードに用いられる吊手用短冊の正面図であって、(A)は角部を直線状に切断した場合、(B)は角部を円弧状に切断した場合を示す。
【図3】電解採取用アノードの正面図である。
【図4】(A)は図3のIVa線矢視で示すアノードの側面図、(B)は同図IVb線矢視で示すアノードの断面図である。
【図5】電解採取用カソードの部分拡大正面図である。
【図6】電解採取設備の部分断面図である。
【図7】従来の電解採取設備で生じた問題点の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
図1に示すように、本発明の一実施形態に係る電解採取用カソード1(以下単にカソードという。)は、カソード板11と、それを吊り下げるカソードビーム12と、カソード板11をカソードビーム12に連結するカソード吊手13とからなる。
【0015】
このカソード1は、以下の手順で製造される。
まず、カソード板11として用いられる種板が製造される。種板は、予め種板製造用電解槽において、ステンレススチール板やチタン板、鉛板などの母板と称される陰極を用いて、電解採取の目的金属と同じ金属または異なる金属を電解した後、母板上に薄く電着した金属を剥ぎ取ることにより製造される。
この種板を所定の寸法の四角形に切断することでカソード板11が製造される。また、種板の一部は短冊状に切断され、カソード吊手13として用いられる吊手用短冊となる。
【0016】
図2に示すように、吊手用短冊13は、その四隅の角部が切断され除去されている。その切断の形状は特に限定されないが、直線状に切断すれば、加工が容易である(図2(A)参照)。このとき、吊手用短冊13の辺とのなす角が45°となるように切断してもよいし、それより鈍角あるいは鋭角になるように切断してもよい。
また、円弧状に切断すれば、後述のごとくカソード吊手に突出部が発生し難い(図2(B)参照)。
【0017】
カソード吊手13は、吊手用短冊13をピンセットに似た二又状に折り曲げたものである。このカソード吊手13を2本用い、それぞれの端部をカソード板11の上端縁にスポット溶接で固定し、カソードビーム12をカソード吊手13の上端湾曲部に通すことでカソード1が製造される。
ここで、カソード1のカソード吊手13は四隅の角部が除去された吊手用短冊13から形成されているので、吊手用短冊13をスポット溶接機にセットする際に、吊手用短冊13の角部が、吊手用短冊13の位置を決めるガイド部に衝突して折れ曲がることがないため、カソード吊手13に突出部が発生し難い。
【0018】
つぎに、図3および図4に基づき、電解採取用アノード2(以下単にアノードという)を説明する。
アノード2は、アノード板21と、それを吊り下げるアノードビーム22と、アノード板21をアノードビーム22に連結するアノード吊手23とを有する。
アノード板21は電解槽内で伝導体として働く金属板であり、チタン板や銅合金板、コバルト合金板などが用いられる。
【0019】
アノード吊手23はアノード板21と同種金属の平板であり、2本用いられている。アノードビーム22は、銅製の棒材にニッケルメッキなどを施したものであり、ボルト等でアノード吊手23に固定されている。
【0020】
アノード板21は塩素ガス等の発生極となるので、発生したガスを集め外部へ逃がすためのアノードボックス24で囲まれている。
このアノードボックス24の構成は、塩化ビニール等の合成樹脂製の枠体25に濾布26を貼付し、濾布26の上端縁をゴム製のOリング27等で止めたものである。つまり、アノード板21は濾布26で正面、背面、両側面を囲まれた構成となっている。
なお、枠体25の上端適所には吸引パイプ28が取付けられ、発生したガスはこの吸引パイプ28から外部に向けて排出されるようになっている。
【0021】
電解採取設備においては、電解液が貯えられた電解槽の内部に、上記カソード1とアノード2の組みが交互に配置され電解液中に浸漬されている。そして、カソード1はカソードビーム12にカソード吊手13を介して吊り下げられており、カソードビーム12は電解槽の縁に引っ掛けられている。また、アノード2はアノードビーム22に吊り下げられ、アノードビーム22は電解槽の縁にボルト等で固定されている。
【0022】
上記のごとく、カソード1のカソード吊手13には突出部が発生し難い。そのため、極間距離を均一に保つことができ、金属粒の発生を抑制でき、操業の継続が可能となる。
【0023】
なお、図5に示すように、吊手用短冊13の角部は、スポット溶接の溶接部13w以外の領域であって、かつ、カソード板11から浮く可能性のある領域が除去されることが好ましい。
スポット溶接の溶接部13w以外の領域を除去することで、溶接部13wが確保でき、カソード吊手13をカソード板11に問題なく固定できるからである。また、カソード板から浮く可能性のある領域が除去されているので、カソード吊手に突出部が発生し難く、極間距離を均一に保つことができるからである。
ここで、特許請求の範囲に記載の「カソード板から浮く可能性のある領域」とは、金属粒が発生する程度にカソード板から浮く可能性のある領域をいい、カソード板から多少離間したとしても金属粒が発生しない程度の領域を含まない概念である。
【実施例】
【0024】
つぎに、実施例により、その効果を説明する。
(実施例と比較例の共通の条件)
480mm×70mmの吊手用短冊を用いて製造されたカソード52枚と、アノード53枚を電解槽に交互に挿入し、通電電流22.5kA、陰極電流密度273A/m2という条件下で7日間電解採取を行い、その間のショート発生率を確認した。
【0025】
(実施例1)
吊手用短冊の四隅の角部を、頂点から長辺および短辺に沿って5mmの位置から直線状に切断し除去し、その吊手用短冊を用いて製造したカソードを使用して電解採取を行った。
その結果、ショート発生率は3.8%であった。
【0026】
(実施例2)
吊手用短冊の四隅の角部を、頂点から長辺および短辺に沿って3.5mmの位置から直線状に切断し除去し、その吊手用短冊を用いて製造したカソードを使用して電解採取を行った。
その結果、ショート発生率は4.2%であった。
【0027】
(実施例3)
吊手用短冊の四隅の角部を、頂点から長辺および短辺に沿って7mmの位置から直線状に切断し除去し、その吊手用短冊を用いて製造したカソードを使用して電解採取を行った。
その結果、ショート発生率は4.1%であった。
【0028】
(実施例4)
吊手用短冊の四隅の角部を、半径5mmの円弧状に切断し除去し、その吊手用短冊を用いて製造したカソードを使用して電解採取を行った。
その結果、ショート発生率は3.5%であった。
【0029】
(比較例1)
四隅の角部を除去していない吊手用短冊を用いて製造したカソードを使用して電解採取を行った。
その結果、ショート発生率は15.4%であった。
【0030】
以上の結果より、本発明に係るカソードを用いた方が、従来のカソードを用いた場合よりもショート発生率を大幅に抑えられることが分かった。
また、角部を直線状に切断する場合、吊手用短冊の短辺の長さの5〜10%を切断することが好ましいことが分かった。なお、5%より短いと十分な効果が得られず、逆に10%より長いとスポット溶接の溶接部を除去してしまう。
さらに、角部を円弧状に切断した場合の方が、直線状に切断した場合よりも、ショート発生率を低く抑えることができることが分かった。
【符号の説明】
【0031】
1 電解採取用カソード
11 カソード板
12 カソードビーム
13 カソード吊手
13w 溶接部
113 突出部
2 電解採取用アノード
21 アノード板
22 アノードビーム
23 アノード吊手
24 アノードボックス
25 枠体
26 濾布
27 Oリング
28 吸引パイプ
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解採取用カソードに関する。さらに詳しくは、電解採取設備の電解槽に挿入される電解採取用カソードに関する。
【背景技術】
【0002】
非鉄金属における湿式精錬法では、乾式製錬から産出されたニッケルマット及び低品位ラテライト鉱石から硫酸浸出によって産出されたニッケル、コバルト等の混合物であるニッケル硫化物を原料として、原料中に含有されるニッケル、コバルト、銅等の金属の大部分を塩素浸出する。そして、塩素浸出して得られた溶液から金属不純物等を除去した後に、電解採取によって電気ニッケル、電気コバルトを製造する。
【0003】
電解採取は、鉱石から目的金属を適当な溶媒を用いて浸出し、その浸出液から浄液工程で不純物除去と目的金属イオンの濃縮を行って得られる電解液から、電解により目的金属をカソード上に析出させる工程である。
電解採取のアノードは、伝導体としてだけ働くもので、たとえば塩素ガスが発生する発生極となる。
カソードは電解精製の場合と同じで、目的金属と同じ純金属を種板として用いる場合と、異なる金属を用い、電析後これをはぎ取る場合とがある。
カソードは純金属性のカソード板に、同種金属リボンで作成した吊手を取り付けて、操業に供される。電解浴は、目的金属の可溶性塩の水溶液を電解液とする。
【0004】
電解採取で使用されるアノード反応は、システムに電流を一巡させるためのもので、不溶性アノード上での塩素ガス等の発生反応が利用される。たとえば、塩化亜鉛の水溶液からの亜鉛の電解採取ではアノードで塩素ガスが発生し、カソードには亜鉛が析出する。この電解を連続的に進行させるため、ある一定の大きさ以上の電圧をかけて操業される。
【0005】
電解採取設備は、通常、電解槽50槽程度で操業されており、電解槽1槽につき、50組程度のアノードとカソードが交互に電解槽に挿入されている。電解槽の構成は図6に示すように、電解槽10の内部に電解液が貯えられており、アノード2とカソード1の組が交互に配置されて電解液中に浸漬されている。そして、アノード2はアノードビーム22に吊り下げられ、アノードビーム22は電解槽の縁にボルト等で固定されている。また、カソード1はカソードビーム12にカソード吊手13を介して吊り下げられており、カソードビーム12は電解槽の縁に引っ掛けられている。
【0006】
上記の電解採取においては、アノード2側から塩素ガス等が発生するため、不溶性アノードはアノードボックス24と称する隔壁内に収められ、発生した塩素ガス等は別途回収される。
カソード1は、電解採取工程の前工程で製造され、この段階で、四角形で広い面積を有するカソード板11にピンセット状の二又に加工したカソード吊手13をスポット溶接で取り付け、このカソード吊手13の空間にカソードビーム12を通しており、カソードビーム12によってカソード板11を吊り下げるようになっている。
【0007】
ところで、図7(A)に示すように、カソード吊手13は、その角部がカソード板11から浮き、突出部113が発生することがある。その原因は、カソード1を製造するにあたり、カソード吊手13の材料である吊手用短冊13をスポット溶接機にセットする際に、吊手用短冊13の角部が、吊手用短冊13の位置を決めるガイド部に衝突して折れ曲がる場合があるためである。このような突出部113の解消には、製造後のカソード1を検査し、発生した突出部113を修正すれば良いが、そうすれば長時間を要することとなって、操業上好ましくない。
かといって、無理して使うと、突出部113付近は局部的に極間距離が短くなっているので、電気抵抗が小さくなっており、図7(B)に示すように、優先的に金属が析出して金属粒mpが生成する。この金属粒mpが成長して、同図(C)に示すように、アノードボックス24と接触し、更にアノードボックス24を貫いてアノード板に接触すると電気的短絡(ショート)が発生するという電力コスト上の問題が発生する。
また、ショートが発生する前段階で、成長した金属粒mpはアノードボックス24を構成する濾布を貫通するため、ショートするに至らない場合でも、カソード引き上げ時にアノードボックス24を裂開してアノードボックス24の交換頻度が上昇するという設備コスト上の問題が発生する。
【0008】
特許文献1には、カソードスペーサーを使用して電流を適切に遮蔽することにより、カソード周縁部における金属粒mpの発生を防止する方法が公開されている。しかし、この特許文献1の従来技術ではカソード周辺部の電流遮蔽には効果があるがカソード吊手の金具部分における金属粒mpの成長を防止することはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平06−287787号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記事情に鑑み、カソード吊手に突出部が発生し難く、金属粒の発生を抑制し、操業の継続が可能な、電解採取用カソードを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
第1発明の電解採取用カソードは、カソード板と、該カソード板を吊り下げるカソードビームと、前記カソード板を前記カソードビームに連結するカソード吊手とからなり、前記カソード吊手は、前記カソード板に固定される端部の角部が除去された形状をしていることを特徴とする。
第2発明の電解採取用カソードは、第1発明において、前記カソード吊手は、四隅の角部が除去された吊手用短冊を二又に折り曲げ、該吊手用短冊の端部を前記カソード板に固定し、湾曲部に前記カソードビームが通されたものであることを特徴とする。
第3発明の電解採取用カソードは、第1または第2発明において、前記カソード吊手は、前記カソード板にスポット溶接で固定されており、前記角部は、前記スポット溶接の溶接部以外の領域であって、かつ、カソード板から浮く可能性のある領域が除去されていることを特徴とする。
第4発明の電解採取用カソードは、第1、第2または第3発明において、前記角部は、直線状に切断され除去されていることを特徴とする。
第5発明の電解採取用カソードは、第1、第2または第3発明において、前記角部は、円弧状に切断され除去されていることを特徴とする。
第6発明の電解採取設備は、第1、第2、第3、第4または第5発明の電解採取用カソードが、電解槽に挿入されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
第1発明によれば、カソード吊手はカソード板に固定される端部の角部が除去された形状をしているので、カソード吊手に突出部が発生し難く、極間距離を均一に保つことができる。そのため、金属粒の発生を抑制でき、操業の継続が可能となる。
第2発明によれば、カソード吊手は四隅の角部が除去された吊手用短冊から形成されているので、カソード吊手に突出部が発生し難く、極間距離を均一に保つことができる。そのため、金属粒の発生を抑制でき、操業の継続が可能となる。
第3発明によれば、角部はスポット溶接の溶接部以外の領域が除去されているので、溶接部が確保でき、カソード吊手をカソード板に問題なく固定できる。また、角部はカソード板から浮く可能性のある領域が除去されているので、カソード吊手に突出部が発生し難く、極間距離を均一に保つことができる。
第4発明によれば、角部は直線状に切断されるため、加工が容易である。
第5発明によれば、角部は円弧状に切断されるため、角がなくなり、カソード吊手に突出部が発生し難い。
第6発明によれば、カソード吊手はカソード板に固定される端部の角部が除去された形状をしているので、カソード吊手に突出部が発生し難く、極間距離を均一に保つことができる。そのため、金属粒の発生を抑制でき、操業の継続が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】(A)は本発明の一実施形態に係る電解採取用カソードの正面図、(B)は同側面図である。
【図2】同電解採取用カソードに用いられる吊手用短冊の正面図であって、(A)は角部を直線状に切断した場合、(B)は角部を円弧状に切断した場合を示す。
【図3】電解採取用アノードの正面図である。
【図4】(A)は図3のIVa線矢視で示すアノードの側面図、(B)は同図IVb線矢視で示すアノードの断面図である。
【図5】電解採取用カソードの部分拡大正面図である。
【図6】電解採取設備の部分断面図である。
【図7】従来の電解採取設備で生じた問題点の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
図1に示すように、本発明の一実施形態に係る電解採取用カソード1(以下単にカソードという。)は、カソード板11と、それを吊り下げるカソードビーム12と、カソード板11をカソードビーム12に連結するカソード吊手13とからなる。
【0015】
このカソード1は、以下の手順で製造される。
まず、カソード板11として用いられる種板が製造される。種板は、予め種板製造用電解槽において、ステンレススチール板やチタン板、鉛板などの母板と称される陰極を用いて、電解採取の目的金属と同じ金属または異なる金属を電解した後、母板上に薄く電着した金属を剥ぎ取ることにより製造される。
この種板を所定の寸法の四角形に切断することでカソード板11が製造される。また、種板の一部は短冊状に切断され、カソード吊手13として用いられる吊手用短冊となる。
【0016】
図2に示すように、吊手用短冊13は、その四隅の角部が切断され除去されている。その切断の形状は特に限定されないが、直線状に切断すれば、加工が容易である(図2(A)参照)。このとき、吊手用短冊13の辺とのなす角が45°となるように切断してもよいし、それより鈍角あるいは鋭角になるように切断してもよい。
また、円弧状に切断すれば、後述のごとくカソード吊手に突出部が発生し難い(図2(B)参照)。
【0017】
カソード吊手13は、吊手用短冊13をピンセットに似た二又状に折り曲げたものである。このカソード吊手13を2本用い、それぞれの端部をカソード板11の上端縁にスポット溶接で固定し、カソードビーム12をカソード吊手13の上端湾曲部に通すことでカソード1が製造される。
ここで、カソード1のカソード吊手13は四隅の角部が除去された吊手用短冊13から形成されているので、吊手用短冊13をスポット溶接機にセットする際に、吊手用短冊13の角部が、吊手用短冊13の位置を決めるガイド部に衝突して折れ曲がることがないため、カソード吊手13に突出部が発生し難い。
【0018】
つぎに、図3および図4に基づき、電解採取用アノード2(以下単にアノードという)を説明する。
アノード2は、アノード板21と、それを吊り下げるアノードビーム22と、アノード板21をアノードビーム22に連結するアノード吊手23とを有する。
アノード板21は電解槽内で伝導体として働く金属板であり、チタン板や銅合金板、コバルト合金板などが用いられる。
【0019】
アノード吊手23はアノード板21と同種金属の平板であり、2本用いられている。アノードビーム22は、銅製の棒材にニッケルメッキなどを施したものであり、ボルト等でアノード吊手23に固定されている。
【0020】
アノード板21は塩素ガス等の発生極となるので、発生したガスを集め外部へ逃がすためのアノードボックス24で囲まれている。
このアノードボックス24の構成は、塩化ビニール等の合成樹脂製の枠体25に濾布26を貼付し、濾布26の上端縁をゴム製のOリング27等で止めたものである。つまり、アノード板21は濾布26で正面、背面、両側面を囲まれた構成となっている。
なお、枠体25の上端適所には吸引パイプ28が取付けられ、発生したガスはこの吸引パイプ28から外部に向けて排出されるようになっている。
【0021】
電解採取設備においては、電解液が貯えられた電解槽の内部に、上記カソード1とアノード2の組みが交互に配置され電解液中に浸漬されている。そして、カソード1はカソードビーム12にカソード吊手13を介して吊り下げられており、カソードビーム12は電解槽の縁に引っ掛けられている。また、アノード2はアノードビーム22に吊り下げられ、アノードビーム22は電解槽の縁にボルト等で固定されている。
【0022】
上記のごとく、カソード1のカソード吊手13には突出部が発生し難い。そのため、極間距離を均一に保つことができ、金属粒の発生を抑制でき、操業の継続が可能となる。
【0023】
なお、図5に示すように、吊手用短冊13の角部は、スポット溶接の溶接部13w以外の領域であって、かつ、カソード板11から浮く可能性のある領域が除去されることが好ましい。
スポット溶接の溶接部13w以外の領域を除去することで、溶接部13wが確保でき、カソード吊手13をカソード板11に問題なく固定できるからである。また、カソード板から浮く可能性のある領域が除去されているので、カソード吊手に突出部が発生し難く、極間距離を均一に保つことができるからである。
ここで、特許請求の範囲に記載の「カソード板から浮く可能性のある領域」とは、金属粒が発生する程度にカソード板から浮く可能性のある領域をいい、カソード板から多少離間したとしても金属粒が発生しない程度の領域を含まない概念である。
【実施例】
【0024】
つぎに、実施例により、その効果を説明する。
(実施例と比較例の共通の条件)
480mm×70mmの吊手用短冊を用いて製造されたカソード52枚と、アノード53枚を電解槽に交互に挿入し、通電電流22.5kA、陰極電流密度273A/m2という条件下で7日間電解採取を行い、その間のショート発生率を確認した。
【0025】
(実施例1)
吊手用短冊の四隅の角部を、頂点から長辺および短辺に沿って5mmの位置から直線状に切断し除去し、その吊手用短冊を用いて製造したカソードを使用して電解採取を行った。
その結果、ショート発生率は3.8%であった。
【0026】
(実施例2)
吊手用短冊の四隅の角部を、頂点から長辺および短辺に沿って3.5mmの位置から直線状に切断し除去し、その吊手用短冊を用いて製造したカソードを使用して電解採取を行った。
その結果、ショート発生率は4.2%であった。
【0027】
(実施例3)
吊手用短冊の四隅の角部を、頂点から長辺および短辺に沿って7mmの位置から直線状に切断し除去し、その吊手用短冊を用いて製造したカソードを使用して電解採取を行った。
その結果、ショート発生率は4.1%であった。
【0028】
(実施例4)
吊手用短冊の四隅の角部を、半径5mmの円弧状に切断し除去し、その吊手用短冊を用いて製造したカソードを使用して電解採取を行った。
その結果、ショート発生率は3.5%であった。
【0029】
(比較例1)
四隅の角部を除去していない吊手用短冊を用いて製造したカソードを使用して電解採取を行った。
その結果、ショート発生率は15.4%であった。
【0030】
以上の結果より、本発明に係るカソードを用いた方が、従来のカソードを用いた場合よりもショート発生率を大幅に抑えられることが分かった。
また、角部を直線状に切断する場合、吊手用短冊の短辺の長さの5〜10%を切断することが好ましいことが分かった。なお、5%より短いと十分な効果が得られず、逆に10%より長いとスポット溶接の溶接部を除去してしまう。
さらに、角部を円弧状に切断した場合の方が、直線状に切断した場合よりも、ショート発生率を低く抑えることができることが分かった。
【符号の説明】
【0031】
1 電解採取用カソード
11 カソード板
12 カソードビーム
13 カソード吊手
13w 溶接部
113 突出部
2 電解採取用アノード
21 アノード板
22 アノードビーム
23 アノード吊手
24 アノードボックス
25 枠体
26 濾布
27 Oリング
28 吸引パイプ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カソード板と、
該カソード板を吊り下げるカソードビームと、
前記カソード板を前記カソードビームに連結するカソード吊手とからなり、
前記カソード吊手は、前記カソード板に固定される端部の角部が除去された形状をしている
ことを特徴とする電解採取用カソード。
【請求項2】
前記カソード吊手は、四隅の角部が除去された吊手用短冊を二又に折り曲げ、該吊手用短冊の端部を前記カソード板に固定し、湾曲部に前記カソードビームが通されたものである
ことを特徴とする請求項1記載の電解採取用カソード。
【請求項3】
前記カソード吊手は、前記カソード板にスポット溶接で固定されており、
前記角部は、前記スポット溶接の溶接部以外の領域であって、かつ、カソード板から浮く可能性のある領域が除去されている
ことを特徴とする請求項1または2記載の電解採取用カソード。
【請求項4】
前記角部は、直線状に切断され除去されている
ことを特徴とする請求項1、2または3記載の電解採取用カソード。
【請求項5】
前記角部は、円弧状に切断され除去されている
ことを特徴とする請求項1、2または3記載の電解採取用カソード。
【請求項6】
請求項1、2、3、4または5記載の電解採取用カソードが、電解槽に挿入された
ことを特徴とする電解採取設備。
【請求項1】
カソード板と、
該カソード板を吊り下げるカソードビームと、
前記カソード板を前記カソードビームに連結するカソード吊手とからなり、
前記カソード吊手は、前記カソード板に固定される端部の角部が除去された形状をしている
ことを特徴とする電解採取用カソード。
【請求項2】
前記カソード吊手は、四隅の角部が除去された吊手用短冊を二又に折り曲げ、該吊手用短冊の端部を前記カソード板に固定し、湾曲部に前記カソードビームが通されたものである
ことを特徴とする請求項1記載の電解採取用カソード。
【請求項3】
前記カソード吊手は、前記カソード板にスポット溶接で固定されており、
前記角部は、前記スポット溶接の溶接部以外の領域であって、かつ、カソード板から浮く可能性のある領域が除去されている
ことを特徴とする請求項1または2記載の電解採取用カソード。
【請求項4】
前記角部は、直線状に切断され除去されている
ことを特徴とする請求項1、2または3記載の電解採取用カソード。
【請求項5】
前記角部は、円弧状に切断され除去されている
ことを特徴とする請求項1、2または3記載の電解採取用カソード。
【請求項6】
請求項1、2、3、4または5記載の電解採取用カソードが、電解槽に挿入された
ことを特徴とする電解採取設備。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【公開番号】特開2013−1914(P2013−1914A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−131072(P2011−131072)
【出願日】平成23年6月13日(2011.6.13)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年6月13日(2011.6.13)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】
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